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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの挽回』

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  1. 1 : : 2015/03/22(日) 13:54:22
    密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』     
    (http://www.ssnote.net/archives/2247)     

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』     
    (http://www.ssnote.net/archives/4960)     

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』     
    (http://www.ssnote.net/archives/6022)     

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』    
    http://www.ssnote.net/archives/7972)    

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』   
    (http://www.ssnote.net/archives/10210)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』   
    (http://www.ssnote.net/archives/11948)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』  
    http://www.ssnote.net/archives/14678)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』     
    http://www.ssnote.net/archives/16657)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』     
    http://www.ssnote.net/archives/18334)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』  
    http://www.ssnote.net/archives/19889)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』  
    http://www.ssnote.net/archives/21842)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』  
    http://www.ssnote.net/archives/23673)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』  
    http://www.ssnote.net/archives/25857)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』  
    http://www.ssnote.net/archives/27154)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの謀反』  
    http://www.ssnote.net/archives/29066) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの杞憂』 
    http://www.ssnote.net/archives/30692) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの勇敢』
    http://www.ssnote.net/archives/31646

    ★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと     
    最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった     
    隠密のイブキとの新たなる関係の続編。     
    『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足した     
    オリジナルストーリー(短編)です。   

    オリジナル・キャラクター  

    *イブキ  
    かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。  
    生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。  
    ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。  

    ※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。  
    お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまで  
    お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
  2. 2 : : 2015/03/22(日) 13:56:24
     かつては王政の陰の存在で隠密から調査兵に生まれ変ったイブキはエレン・イェーガーが少し前まで彼の身体が鎖で繋がれていた突き出す岩の頂へ向かい、突っ走っていく背中を見送っていた。
     頂付近にエレンが辿り着いた瞬間、突如彼の体から爆音が轟かせ、眩い光を伴に放ったと思えば、その身体が巨人化し地面に降り立ち、レイス家領地の地下には大きな地響きが駆け巡った。 
     エレンの身体は巨人化したのはいいが、彼の様子にリヴァイ班の面々は違和感を覚える。
     それは巨人化したエレンの肌色が地下を覆う石柱と同じ乳白色で、両手を広げた彼の腕が硬質な
    石柱の一部に吸い取られていったからだ。いつもと違うその異質な巨人に皆が唖然と眺めていると、巨人化したエレンの身体から新たに硬質の石柱が勢いよく何本も飛び出して、崩落するはずだった天井の働きを阻止していた。その結果、初めて晒す巨大な石像のように変貌を遂げたエレンが皆の命を救っていた――。

    「これは…何? エレンはどうなってるの…?」

     イブキが小首を傾げながら彼女の声を聞いた調査兵団兵士長のリヴァイはその状況に怯むことなく、エレンを睨みつけた。

    「こいつ…こんなときに硬質化を成功させやがって…」

     素っ気無い口調でリヴァイも独り言のように返す。
     敵味方を問わず多くの犠牲を払ってようやく行き着いたウォール・マリアの穴を塞げる可能性をリヴァイは苦々しく見上げていた。 
     
     地下全体の硬質化の動きが止まり、崩落を防いだエレンを眺めていたミカサ・アッカーマンはジャン・キルシュタインと伴い硬質化した巨人のうなじへ向うため、立体機動を操作させた。
     ミカサとジャンは立体機動装置のグリップに短いブレード嵌め、うなじを一心に砕く。
     巨人化したエレンは高熱を発するだけでなく、岩のような硬さも共存する。

    「エレン!!」

     うなじから飛び出したエレンの顔を見た途端、ミカサは彼の名前を叫んだ。その声に気づき、エレンはようやくまぶたをゆっくりと開く。
     巨人と一体化寸前のエレンの救出は成功していた。それはまるで発掘作業のようにも見えた。
     イブキはエレンが作り出した真新しい、いくつもの石柱を見上げ、この地下にいたはずのケニーと名乗る育ての親だった隠密の頭(かしら)や、以前の仲間たちを思い出す。

    「頭たちは…どうなった?」

    「この瓦礫の山じゃ…無理かもしれねーな…。だが、ケニーのことだ。あいつの渋とさはおまえも知っているだろう…?」

    「そうね…こんな中でも…生きているかもしれない――」

     ミカサとジャンがエレンを連れ、降りてくる様子を伺いながら、イブキとリヴァイはケニーを思い返しても、目先の崩れ落ちることのない『主』を失った硬質の巨人を引き続け眺め、渋面を作っていた。
  3. 3 : : 2015/03/22(日) 13:57:29
     ヒストリア・レイスは父であるロッド・レイスの燃えて半分になった鞄を両手に持つ。巨人化する『ヒント』である容器を失い、鞄の面影を失った物体にエレンは唖然としても、リヴァイはまだ可能性はあると、相変わらず冷めた眼差しであるが、彼なりに熱く語りかけていた。
     
    「兵長大変です!! 早く来てください」

    「そうだな…まずはここを出てからだ――」

     出口を確保したコニー・スプリンガーの声が天井から響いて、皆は声の元を見上げ、リヴァイは改めて崩落しかけた地下からの脱出に努めるよう自分の班に命じる。

    「ヒストリア…行こう」

    「うん…」

     まだ不安な陰をその眼差しに宿すヒストリアに気遣い、イブキは彼女の肩を抱いて、移動を始める。  
     イブキから伝わる温もりを通し、姉であるフリーダ・レイスの面影を少しだけ思い返したヒストリアはようやく安堵のため息をついていた。
     
    「エレン、よかった…! 二人とも無事なんだね」

     天井から地上へ繋がる出口に待っていたアルミン・アルレルトはエレンの顔を見て、胸を撫で下ろし、彼に手を伸ばした。ぎゅっと握られた強い手の平の感触にアルミンはエレンが無事であると実感していた。

    「あっ! それから、ハンジ分隊長も無事だから!!」

     快活あるアルミンの声音に皆はさらに安心させられた。だが、それもつかの間、陥没した地面から遠くに離れていった巨大な背中を見やる。
     巨人化したロッドが木々に近づくと発火する影響か、まるで遠くで火事が起きているようだった。
     真夜中の漆黒の闇は橙色に染まり、周辺には薄っすらと白い蒸気が立ち上っている。

    「超大型より巨大で、何より僕らに興味を示さない…。ねぇ、何があったの?」

     短時間でその巨人の働きを観察し、自分の意見を述べるいつも調子のアルミンに皆はすぐに言葉を発せられなかった。それは地下での出来事が脳裏に渦巻いていたからで、リヴァイだけはやはり、冷静に指示をし続けた。

    「あの巨人を追うぞ、周囲には中央憲兵が潜んでいるかもしれん、警戒しろ…。イブキ、ここはおまえの専門分野だ。馬車の周囲を見張れ」

    「了解…!」

     暗がりでも、隠密の働きから感覚が優れるイブキにリヴァイは命じた。
     馬車の荷台で横たわる傷を負った調査兵団分隊長のハンジ・ゾエの疲れた笑みを見つけ、彼女が無事だと目の当たりにしてもイブキは改めて気持ちを引き締め、神経を尖らせながら馬で駈けていた。

     四つんばいで身体を引きずるように前進する巨人化したロッドに近づくにつれ、リヴァイ班の周囲は炎の影響で少しずつ明るくなっていく。皆は騎乗する馬がなるべく音を立てないように操り、ロッドを追いかけていた。
     また、ただ追いかけるだけでなく、ハンジはエレンの中にある巨人の力を『始祖の巨人』と呼び、彼女がこれまで研究し尽くした巨人の知識を織り交ぜ、皆は互いの心中に溢れる意見を投げかけていた。
  4. 4 : : 2015/03/22(日) 13:58:52
     調査兵団団長であるエルヴィン・スミスは得たいの知れない燃え滾る巨人が四つんばいで、なおかつゆっくりと前進する姿を目の当たりにし、戸惑いの色を隠せない。

    「付近住民の避難勧告を急げ!!」

     エルヴィンは声を張り上げ、率いてきた部下に命ずる。その場所に辿り着くまで、何度か経験した巨人化の際に生じる地響きを感じていたが、この巨人が来た方角がレイス家領地であると確信し、目を大きく見開いた。

    「この進路…まさか…!」

     左手で手綱を引いて、エルヴィンはその方角を改めて睨む。

    「イブキ…」

     今では手放せない存在となったイブキの名前が口をついたとき、ハンジの副官であり、部下のモブリット・バーナーがエルヴィンの下へ駈けてきた。
     
    「エルヴィン団長! リヴァイ班です! エレンとヒストリアの奪還に成功したもようです!」

     上官へいち早く伝えようとするモブリットの声はいつもより高く早口になっていた。焦りだけでなく、自分の直属の上司、ハンジのそばへ向いたい気持ちが逸らせ、無意識に自分を急かしている。
     モブリットの視線の先をエルヴィンが眺めたとき、ロッドが放つ炎が作り出した灯りの淵に馬車が入り込んだ。
     ようやく見えてきたリヴァイ班の元へ移動するため、エルヴィンは両脚で愛馬の腹部に力を入れ、その場所へ向うよう扶助を送った。

    「――リヴァイ」

    「エルヴィンか?」

     最初に視界に招いたリヴァイの名を呼んでもエルヴィンは目を凝らし、暗がりの中でイブキを探した。
     自分の下へ近づいてくるエルヴィンの視線は宙を彷徨い、誰を捕らえたいのかリヴァイはすぐさま気づき、冷徹に見返す。

    「皆は?」

    「ハンジのみ負傷だ…おまえの女もこの通り無事だ――」

     部下を心配して語調の強いエルヴィンに対しリヴァイはやや強い口ぶりで返して、イブキがいる方をあごを使って示す。
     皆が無事だと安堵しながら、荷馬車を隔てた向こうにイブキが馬で駈ける姿をついに捕らえ、
    エルヴィンの彼女への想いは温かみを帯び、心に広がる感覚がしていた。

    「まさか…」

     ハンジに寄り添うように併走するイブキがエルヴィンの視線を感じ、再会したことで、心がときめくような躍る感覚で鼓動が大きく一つ跳ねた。
     初めて目の当たりにした巨人の脅威を経た上でエルヴィンが現れたことにより、イブキの心は少しだけ冷静さを失い乱れるようだった。目を凝らしてエルヴィンを見つめる視線は熱っぽく妖しい。
     エルヴィンはその眼差しを感じていると、手綱を握る左手の力は自然に強くなっていった。
     巨人化したロッドが放つ炎の下、うっすらと見えるエルヴィンの目元は中央憲兵から受けた拷問の痕を残し、少しばかり腫れていて、今度はその顔にイブキは目を見張った。

    「エルヴィン…! その顔は――」

    「大したことはない。皆はよくよやった」

     声を張り上げたイブキに返すエルヴィンの視線も熱く、
    その狭間を駈けるリヴァイはしらけた視線で再び二人を交互に見やった。

    「エルヴィン、報告事はごまんとあるが、まず――」

    「あの巨人は?」

    「ロッド・レイスだ。おまえの意見を聞かねぇとなぁ…団長」

     冷めた眼差しを送られ、また話そうとするリヴァイをエルヴィンは遮った。エルヴィンはイブキへの気持ちをリヴァイに覚られぬよう皆に指示を改めて与え、かつてない超大型の巨人が向うであろうオルブド区へ誘導した。
  5. 5 : : 2015/03/22(日) 13:59:39
     オルブド区では巨人に対する異変に気づいた駐屯兵団が素早く警戒していて、エルヴィンが率いる調査兵団を迎え入れる体制が整っていた。それぞれの愛馬から降り、指定されたきゅう舎へ向おうとしたとき、同じ場所へ辿りついたイブキはエルヴィンのそばへ咄嗟に駆け出した。

    「エルヴィン…! あなたは本当に大丈夫なの?」

     まだ傷が残る頬を見つけて、イブキは思わず手を伸ばそうとするが、エルヴィンは左手で静止し握り返した。

    「こうして…また馬に跨りこの距離を移動できた。 本当に問題はない」

     イブキを見つめながらその目じりが緩みそうになってもエルヴィンはどうにか平静さを装う。また口付けを交わしたい衝動に駆られても、ゴクリと唾を飲み込みそれも阻止していた。
     イブキの手の平をぎゅっと握って優しくゆっくりと下ろすと、エルヴィンはイブキの腰元の見慣れた装置に視線を移した。

    「君も…立体機動を…?」

    「えぇっ…うん、リヴァイに教えてもらって――」

     身体の正面を合わせるように寄り添う二人を睨みつけるリヴァイは聞かせるように舌打ちを響かせた。

    「おい、おまえら…これからまたとんでもねーことが起きそうってときに…堂々と逢引なんかしてんじゃねぇ」
  6. 6 : : 2015/03/22(日) 14:01:24
     エルヴィンがオルブド区で任務を遂行する駐屯兵団に壁外で巨人を仕留めると説明をしているとき、その地区の責任者から声を荒げられ、それが繰り返される。
     ハンジの巨人に対する細かな補足とまたエルヴィンの責任感で溢れる強い眼差しで、『調査兵団最大の兵力を駆使する』という力強い口調が駐屯兵団を沈黙させる。傍らで同じ説明を聞いている調査兵たちもその覚悟で焦りを隠せないでいた。

     駐屯兵団の浮かない顔を見渡し、エルヴィンは住人の避難誘導を含めた細かな補足説明を再び始める。
     
    「ねぇ、イブキさん…私、着替えたいけど、どうしよう…」

    「そう…わかった。 ちょっと待ってね…」

     ヒストリアは傍らに立つイブキにか細い声で伝え、皆の物資を乗せていた荷馬車に視線を送り、二人は密やかにエルヴィンの説明を聞く輪から抜け出していた。
     物資から適当な服をヒストリアが見つけ、今度は二人して着替えられる場所をオルブド区の住宅街で探すことにした。
     儀式のために仕立てられた白いワンピースは真夜中の暗闇には不似合いで浮いているようだ。
     それを纏うヒストリアの眼差しは鋭く、一人の調査兵として覚悟を取り戻した、とイブキは感じる。 
     これまでの幼くて、守りたくなるような女の子、という雰囲気は自ら脱ぎ去っていたようだ。

    「イブキさん、ここはどう…? えっ!?」

     ヒストリアがとある家が連なる合間の隙間を指差して、その場所で着替えるとイブキに伝えようとしたときだった。イブキは突如、身を挺してヒストリアを庇う。イブキの背後に立ち、何事かとヒストリアが感じていると、自分が指差したその暗がりから手先が伸びてきた。
     
    「まったく、もう…」

     イブキはその見覚えのある手のひらを見ながら、緊張感が抜けたため息をつき、その姿にヒストリアは戸惑うばかりだ。その手のひらは男の左手で、二人の前に姿を見せると、咄嗟にイブキは抱き寄せられた。 
     もちろん、その左手の主はエルヴィンである。
     エルヴィンは駐屯兵団に説明をし終えた後、イブキの姿を求め、人知れず追いかけてきていた。

    「やっと…本当に抱きしめられる、イブキ…」

     左腕でイブキの身体を自分の胸元に抱き寄せ、彼女の耳元でそっと囁く。その声は少し前まで力強く駐屯兵団に説明していた口調に比べ弱々しく、少しだけ甘さも含む。
     イブキは声を通して、エルヴィンの本音を感じ、呼応しながら顔を上げ彼を見つめる。

    「エルヴィン…やっと会えた…」

     恍惚で潤んだ眼差しをエルヴィンに注ぎ、彼の傷ついた頬にイブキが触れようと手を伸ばそうとした直後、
    その眼差しに堪えきれず、咄嗟にエルヴィンは唇をイブキに重ね、熱い口付けを落していた。
     二人は互いの唇から少しの間、離れられない。久しぶりに交ざり合う熱い吐息と唇の感触を味わい、気持ちを確かめ合っていた。

    「イブキさんも、団長も…大胆!」

     ヒストリアは頬を赤らめ、両手で目元を押さえても、指の隙間から二人の姿を眺めていた。
     初めて目の当たりにする唇が濡れる大人のキスにヒストリアの鼓動は激しくなるようだった。

    「また後でな…引き続き、ヒストリアを頼む」

    「うん…わかった」
     
     紅潮させた頬のままイブキはゆっくりと頷いた。エルヴィンは名残惜しそうにイブキの手をぎゅっと柔らかく握って、ヒストリアのそばへ再び送った。
     エルヴィンがイブキの背中に熱いまなざしを送り振り返ったとき、棘のある声が正面から響いてくる。

    「エルヴィン…おまえ、どこに行ってやがった? 
    久方ぶりの団長らしい仕事を真面目にしやがれ…! 女のせいで本分を忘れてやがる――」

     その声の主はもちろんリヴァイであり、イブキにのぼせてもエルヴィンは平然と何事もないように改めて作戦の指示をする。その姿にリヴァイをさらに苛立たせ、傍らで歩きながら舌打ちを響かせた。
     信頼に足る腹心のリヴァイを伴い正面を見据える先には壁が悠然と辺りを囲む。父親の名誉を挽回するつもりでその壁の中の地を蹴る足元に力が入る。頑なに守られた秘密に近づこうとしてエルヴィンの父親が死に追いやられた。
     秘密は少しずつ正体を現し、本体に近づいている。そう確信するエルヴィンの左手には力強い握り拳が出来ていた。
     もちろん、イブキへの気持ちを抱えながら――。
  7. 7 : : 2015/03/22(日) 14:02:28
     イブキとヒストリアは棘のあるリヴァイの声を背中に感じつつ振り返らずに、着替えられる場所を再び探し始める。

    「イブキさんに先を越されちゃった――」

     ヒストリアは茶目っ気のある顔をイブキに向け、少しじゃれあうように身体をぶつけていう。

    「何を?」

    「だって…! イブキのさんが会いたい人、団長にもう会っちゃったでしょ?」

    「うん…」

     イブキは頬を再び赤らめ、視線を泳がせる。エルヴィンの感触が残る唇を指先で触れ、ヒストリアに視線を送ると、照れながら少女らしい笑みを浮かべていたはずが、少しずつ彼女の眼差しは険しくなっていく。

    「私が会いたい人に…会う前に、その前にお父さんを――」

     新たな覚悟をヒストリアはその胸に宿す。彼女の眼差しを通し、イブキの脳裏に様々な思いが逆巻いていく。
     エルヴィンが自分の父親が壁の中の謎を解いた形見のような仮説を熱く語っていたこと、またエレンの父親も人類を救うため、自らが立役者になったかもしれない。さらに目の前のヒストリアは父親に扇動されるように人生を歩んできたことを。

    (…ロッド・レイスは自分の血統を増やすため、正妻以外の女性に接触して、ヒストリアが生まれた…。それじゃ、彼女が生まれてきた理由って――)

     改めてヒストリアの人生を思い返すと、咄嗟に彼女の肩を抱き寄せていた。

    「あなたたちは…父親に翻弄されているのかな…」

    「えっ!?」

    「ううん、何でも…! ヒストリア、ここだったら、隠れられるし、私が見張っているから」

     二人は着替えにふさわしい場所にようやく見つけ、ヒストリアは物資から持参してきた服が入っている袋の中身をイブキに見せた。

    「ヒストリア、これは…!」

    「いいの、私はこれに着替える…イブキさん、見張りよろしくね」

    「了解!」

     ヒストリアに背中を向け、彼女の着替えを誰も見せないようにイブキは見守る。肩越しに彼女を時々眺め、ヒストリアが想いを断ち切るなら、その姿に戻るべきとイブキも感じていた。 
  8. 8 : : 2015/03/22(日) 14:03:38
     壁上に立つリヴァイ班の背後を囲む壁の向こうから朝日が登り始める。その日差しを眠そうに眺め、続いてオルブド区の住民たちが駐屯団から避難訓練の説明を受ける光景を見下ろしていた。
     壁の内側に突き出した壁上固定砲のレールに不備がないか整備をした後、リヴァイ班の面々はそこに座り込んで朝食として配られたミールバーを手に持っていた。
     すでに食べ終えたミカサはサシャ・ブラウスのそばに立ち、食いしん坊の彼女が口に含んでいないミールバーを胸元で抱える仕草にすぐさま疑問に感じ、思わず声を掛ける。

    「サシャ…? まだ何も食べてないみたいだけど…」

    「えぇ…食欲がなくて」

    「本当か!? 大丈夫かよ、おまえ…」

     隣に座るエレンは力なく俯いて返事をするサシャにただ驚いていた。食に対する欲求が誰よりも強いことは同期にとって当たり前の常識だからだ。
     皆は初めて人を殺め、食欲が落ちることは当然だろうと口々にする。終わらない1日に不満をぶつける口調に覇気はない。
     ミカサの背中を見ながら、コニーが本音を口にする。

    「イブキさんは…元は暗殺者だし、こういう気持ちは――」

    「イブキおばさんはもう、調査兵だよ!」

     コニーの声にミカサは振り返り、鋭く睨む。ミカサは自分の声に怯んだコニーだけでなく、俯き加減の皆の姿を見渡し、自分自身は食欲が落ちた、という感覚がなかったと改めて気づく。
     ロッドに対する不満を耳にしながら、少し離れた位置に立つ、普段通りのリヴァイの様子にミカサは息を吞み、のど元を上下に動かした。

    (兵士長も…いつもと変らない…まさか、殺しに慣れて――)

    「おまえ、その格好!」

     ミカサの脳裏に浮かんだ疑いはジャンの驚き冷めない口調に遮られた。立体機動のベルトを装着したヒストリアはイブキに伴われ、壁上に登ってきていた。ミカサは叔母であるイブキもやってきたとはいえ安心することは許さない。
     そこにいつもと変らない鋭い眼差しのリヴァイが近づいてきたからだ。
     
    「おまえは…この戦闘に参加できない。安全な場所での待機と命令されたはずだ…。イブキ、
    おまえもエルヴィンに命じられ、ヒストリアの警護のはずだろう? 何のつもりだ…?」

    「リヴァイ…まず、ヒストリアの気持ちを聞いて!」

     イブキはヒストリアを上官であるリヴァイの前に送り、ヒストリアは緊張感で頬を引きつらせる。
     それを取り立てて気にせず、自分の決意をリヴァイにぶつけるヒストリアの気持ちは強い。
  9. 9 : : 2015/03/22(日) 14:05:01
    「自分の運命に決着をつけにきました」

    「…あ?」

    「逃げるか戦うか…選べと言ったのは…リヴァイ兵士長、あなたです!」

     彼には劣るが凄みのあるヒストリアの眼差しがぶつける言葉にリヴァイは目を細め冷めた視線を返す。
     リヴァイは自分がヒストリアに言ったその瞬間を思い返し、さらに過去に自分がしてきた選択が瞬時に逆巻いて、珍しくリヴァイは口を閉ざしてしまった。
     気弱なはずのヒストリアが懸命にリヴァイを睨む姿をリヴァイ班の面々は無言で眺めていた。
     中でもコニーは、リヴァイがヒストリアに決断を迫りながら首を絞めたとき、その身体が宙に浮く印象深い瞬間を思い返し、エレンの背中に隠れながら二人を伺っていた。

    「あぁ…クソ…時間がねぇ…来るぞ」

     リヴァイの視界に壁下の巨人化したロッドが入り込むと、再びヒストリアを睨んだ。
     時間が押し迫る最中、ヒストリアの強い決意を感じたと同時にリヴァイは不本意ながらヒストリアも戦闘に迎え入れることした。


     リヴァイ班の皆は壁上の各々配置につく。イブキはその日、初めて50メートルの壁上に登っていた。 
     これまで暗殺者のイヴとして壁を行き来することはあっても、移動する馬車に密かに乗り込んでいて、わざわざ高い壁を乗り越えることはなかった。 
     壁上で強風にあおられたポニーテールの黒髪を揺らし、少し高く上った朝の光を手のひらで遮り、遠くの巨人化したロッドを眺めていた。次第に温かくなる感覚の背中が、それは太陽の光で帯びた温かみではなく、ミケ・ザカリアスの温もりだとイブキは感じる。

    (…この過酷な戦いに終わりは来るの…?)

     いつものミケはイブキの心に静かに語りかけるはずだが、イブキの背中はさらに熱くなる感覚がする。
     ミケの力強い抱擁を思い出し、また絶え間なく見守ってくれてると感じ、イブキは涙が溢れそうになっても、何度か深呼吸をして気持ちを引き締めた。

    (ミケって…私とエルヴィンの仲を妬くことあるのかな…?)

     イブキがわざとらしく冗談で返したとき、耳元でミケが鼻を鳴らす感覚がして、続いて彼の感触が頬をかすめる。イブキはミケが頬にキスをしたと感じていた。

    (もう…ミケったら…!)

     妖しく美しい笑みを浮かべながら正面を眺め、イブキはミケの感触がした頬に手のひらを添えた。
     残酷さが続く過程にいながら、エルヴィンとの新たな関係を受け入れてもミケを心で慕い、慈しむ。

    (ねぇ…ミケ、私だけじゃなくて…エルヴィンも見守ってよね…!)

    (あぁ…)

     やっと聞えたミケの声は焼もちにも似た感情でいつもに比べて力はないようだった。その声にイブキは噴出すように笑う。調査兵として生まれ変って以来、二人の存在がイブキにとって、いつからか生きる糧となっていた。 
  10. 10 : : 2015/03/22(日) 14:06:17
     イブキが唇に笑みを浮かべる横顔に最初に気づいたのは壁上固定砲の整備をしていたコニーで、その手の動きを思わず止めていた。

    「イブキさん…笑っている…! イブキさんの場合、殺しとかしたら…笑っちゃうのかな?」

    「いや、イブキさんはもしかして、心の中でミケ分隊長と何か話しているのかも」

     コニーが自然にこぼした独り言に冷静に呼応するのはアルミンで、同じ固定砲の強化作業をする彼も同時に手を止めてイブキを眺めていた。
     またすぐそばで立体機動装置のガスの準備するヒストリアにも二人の声は届いていて、首を軽く横に振って二人の話にすんなりと加わった。

    「それも違うかも…」

    「どうして、ヒストリア?」

     アルミンはヒストリアとイブキを交互に見ながら小首を傾げる。

    「だって、イブキさんと団長、キスしてたし――」

    「ええーっ!! いつ、いつ!? どこで!?」

    「あっ!」

     104期の面々は一斉に声をあげ驚く。思わずポロッと口についたことで、ヒストリアは両手で唇を押さえても、それは遅かった。茶目っ気が溢れて緩む目尻に、ヒストリアではなく、クリスタ・レンズの素直な顔が久方ぶりに現したのかと同期の皆は感じていた。
     アルミンはそれでも予想外のヒストリアの答えに戸惑いを覚え、自分の唇に人差し指を立て、皆に静かにするよう促す。  
     特にジャンは好奇心旺盛に反応して、無意識にミカサを眺め、頬を赤らめていた。
     オルブド区壁下には人類が初めて目の当たりにする巨人に変貌を遂げたロッドが近づいてくる途中、ヒストリアの一言で、和やかな雰囲気が104期を包んだのは一瞬だけであった。

     訓練兵時代に戻ったようなひと時もつかの間、ロッドの身体から吹き上げる蒸気が視界に入ると、調査兵として覚悟から、頬を引き締め皆は各々の戦闘配置につく。 
     皆はただ、ささやかでも平和で和やかな雰囲気をいつまでも味わっていたい、それだけを願っていた。
     もちろん、何人かの同期は足りない。寂しさをあえて気にせず、皆が挑む決意に揺ぎは無かった。
  11. 11 : : 2015/03/22(日) 14:06:40
    ★あとがき★

    皆様、いつもありがとうございます。
    今回は大好きなエルヴィンが久しぶりの登場の影響で…いつもより長くなりました。
    やはり、イブキの再会でなるべく二人が一緒にいさせたい、私の強い思いを乗せたこともあり、
    また原作を何度も読み返しながら、このシーンにはイブキとエルヴィンがいそう!って思いつつ
    原作に沿って創作しているといつもの2倍近くの長さになっていました…。
    何度も読みながら、感じたのがやはり、主要人物たちの父親や家族に翻弄されることが
    皆のバックグラウンドにあるのではないか、ということ感じます。
    エレン、エルヴィン、ヒストリアも父親に、また他の104期も何らかの家族の影響がありますね…。
    だけどアルミンだけはご両親が会話では出てきても、人物は出てこない。
    もしかして、伏線なのでしょうか。こうした謎解きも進撃の面白さのひとつかもしれません。
    また私が書いた最後のシーンは原作の最後の2ページの巨人化したロッドが壁に近づいてくる
    脅威に反して、104期なら和やかなことをしていそう、と思い浮かべていました。
    原作はクライマックスに突入なのでしょうか?あと数年は続く、とも言われてますが、ますます
    目が離せませんね。それで私の妄想劇も続きますが…。
    また来月もよろしくお願いいたします!

    お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!  
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    ★Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*

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lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

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密めき隠れる恋の翼たち~ シリーズ

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