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December story

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  1. 1 : : 2014/11/13(木) 20:23:18
    「December story」を日本語訳にすると「12月の物語」となりますね。英語で洒落こんでみたのです。

    このシリーズ二作目となります、短編集です。
    前作を読んでいない方はこちらを読んでいただけると、嬉しいです。続き物の物語ではないので、この作品からでも気軽に読めます。

    http://www.ssnote.net/archives/25034

    さて、この短編集の説明をしたいと思います。
    >>3には、目次があります。

    タイトルはその日の誕生花となっています。12月は31日あるので、31話あります。おまけで誕生日のお話なども書きたいと思います。

    1日1話ずつ更新したいと思います。ちょっとした時に読んでいただけると、嬉しいです。

    皆様に楽しく読んでいただけるように励みたいと思います。


    感想と組み合わせのリクエストはこちらに↓
    http://www.ssnote.net/groups/257/archives/17
  2. 3 : : 2014/11/13(木) 20:26:52
    《目次》

    >>4 12.1 「幸福を告げる」カランコエ

    >>16 12.2「風変わりな人」ヘリコニア

    >>23 12.3「答えをください」ラベンダー

    >>31 12.4「友情」アイビー

    >>38 12.5「内気」シクラメン

    >>45 12.6「私を見て」サンタンカ

    >>54 12.7「明朗」ウメモドキ

    >>61 12.8「先見」ヒイラギ

    >>68 12.9「華美」グロリオーサ

    >>75 12.10「美しい眺め」シャコバサボテン

    >>83 12.11「恋の伊達者」ストレリチア

    >>89 12.12「知恵の泉」ムラサキハナナ

    >>98 12.13「貴方を支える」シルバーレース

    >>110 12.14「素朴」シンビジューム

    >>118 12.15「特別」オドントグロッサム

    >>125 12.16「貴女を守りたい」エンゼルランプ

    >>133 12.17「人生の出発」サクララン

    >>139 12.18「常に快活」シネラリア

    >>150 12.19「魅力」クロガネモチ

    >>156 12.20「完全無欠」パイナップル

    >>163 12.21「美徳」オレガノ

    >>169 12.22「不在の友を思う」ヒャクニチソウ

    >>178 12.23「平和」オリーブ

    >>183 12.24「慰め」クリスマス・ローズ

    >>187 12.25「清廉」ヒイラギモチ

    >>195 12.26「夢」ブバルディア

    >>203 12.27「物思い」パンジー

    >>213 12.28「抱擁」クマザサ

    >>218 12.29「偽り」ホオズキ

    >>226 12.30「自己主義」ニホンスイセン

    >>232 12.31「不滅」ヒノキ

    >>242 おまけ1「彼の誕生日」リヴァイ生誕1225

    >>251 おまけ2「訓練兵のクリスマス」

    >>263 おまけ3「ちっとも楽しくない」
    ベルトルト生誕1230
  3. 4 : : 2014/11/13(木) 20:27:16


    「幸福を告げる」



    僕が幼い頃、父さんは僕に不思議な話をしてくれた。僕が好きだった本は「幸福を呼ぶ青い鳥」の話。

    青い鳥を見たら、幸福になる。幸福を告げると言ってもいいかもしれない。

    僕は「見てみたい」などと夢みたいなことを思っていた。確かに、今でも見てみたいという気持ちは変わらないのだけれど。

    「本当に青い鳥はいるのだろうか」
    そう思って、僕は僕の町、ジエナ町に唯一ある図書館に通いつめ、『青い鳥』について書かれている本を探した。

    その頃はまだ字を読むのが大変だった。父さんに訊いたりしてどんどん読めるようになった。
  4. 5 : : 2014/11/13(木) 20:27:40

    『青い鳥』について書かれている本はいくつかあった。その半数以上が『壁の外』に共通する話だった。

    そして『青い鳥』について調べる為に自然と『壁の外』の本を探すようになった。

    しかし、『壁の外』について書かれている本はほとんど禁書の棚にある。その為、借りることができない。

    『壁の外』について書かれている本の内容や字は難しいものだった。禁書の棚にはさらに異国の言葉もあった。それは、東洋の言葉だ。

    しかし、なぜ『壁の外』について書かれている本が持ち出し厳禁なのか、その当時の僕にはわからないことだった。

  5. 6 : : 2014/11/13(木) 20:28:22


    「今日も来たのだな?マルコ君」

    図書館の扉を開けるとすぐに貸し出しようのカウンターがある。そこに大抵はいる眼鏡のおじさんが話かけてきた。

    初めて図書館に来た時、僕は驚いた。本というものは目にできることが少ない。しかし、ここにはこんなにもの本があるということに、驚いたのだ。

    マルコ「はい、調べたいものがあるんで」

    そう言うと、おじさんは感心したようにとこちらをみる。

    「君も熱心だな…、まだ『青い鳥』について調べているとは。そういえば、外の世界に関係することを調べているんだったな、それなら、〝調査兵団〟の兵士が来ているが」

    マルコ「調査…兵団…?」
  6. 7 : : 2014/11/13(木) 20:28:57

    調査兵団とは一体何なのだろう。僕は不思議そうにおじさんを見ると、おじさんは少し笑う。

    「君が知りたいことを知っているかもしれない。話しかけてみたらどうだ?」

    おじさんにそう言われたので、僕は調査兵団の兵士の人に訊いてみることにした。

    調査兵団の人は、『壁の外』の本の棚の隣のよく読めないタイトルの本を読んでいた。

    僕の気配に気付いたようで、こちらを見た。そして、口を開いた。

    「禁書の棚だが、君はそんな難しい本が読めるのかな…?」

    僕は頷くことしかできなかった。いきなり話しかけられ、驚いたからだ。調査兵団の人は、こちらに微笑む。
  7. 8 : : 2014/11/13(木) 20:29:27

    「ふむ…私の名はエルヴィン・スミス、調査兵団の兵士だ、君の名前は?」

    エルヴィンと名乗った男は僕に握手を求めてきた。僕が手を出すと、ガッシリと握る。

    マルコ「マルコ・ボットです、あの。調査兵団って何なんですか…?」

    そう訊くと、エルヴィンは向かい側に僕を座らせ、説明をし始めた。

    エルヴィン「まず、君は〝巨人〟を知っているかな?」

    巨人。それは何なのだろう。前、父さんと母さんが話ていたのを聞いたことがあった。

    僕が首を横に振ると、エルヴィンはまた口を開いた。
    「巨人というのは、壁の外にいる、我々人間よりも倍以上大きな生物のことだ。彼らは地上に存在するあらゆる生物とは全く異なる特徴を持つ」
  8. 9 : : 2014/11/13(木) 20:29:54

    『壁の外』に存在する巨人。人間の倍以上大きな生物。僕は心の中でエルヴィンの言ったことを復唱する。ひとつひとつの言葉を忘れぬように。

    エルヴィン「彼らは、我々人間と姿形はさほど変わりはない、ただ大きいというだけ。しかし、彼らは我々人間を食べるのだ、いわば、私たちの天敵と言ってもいいだろう」

    僕たち人間を食べる。それは本当なのだろうか。僕たちと姿形は変わらないのに。

    しかし、僕たち人間は色々な生物を殺して食べている、それは巨人と変わらないと僕は思う。

    エルヴィン「人間の祖先は、滅びる寸前ま巨人に食い尽くされた。祖先は巨人が自分たちのところまで及ばぬように五十メートルもの壁を築いた」
  9. 10 : : 2014/11/13(木) 20:30:23

    僕の昔から気になっていた謎が解けた。「なぜ壁があるのか」と。壁がなければ外の世界に行けるのに、と。

    マルコ「それと、調査兵団は何の関係が…?」

    僕がそう訊くと、エルヴィンは「慌てるな」とでも言うような顔でこちらを見た。

    エルヴィン「巨人に対抗すべく、我々兵士は兵団を作ったのだ。変革を求め、巨人の領域、壁の外を調査するのが調査兵団だ。調査兵団以外にもふたつの兵団がある」

    壁の外を調査するのが調査兵団の役目。
    「民を統制し、壁の中央の秩序を守るのが憲兵団。内地の安定を図り、人々に秩序と統制を与える役目だ」

    僕は難しいことだと思った。しかし、エルヴィンの話に夢中になった。
  10. 11 : : 2014/11/13(木) 20:31:04

    エルヴィン「『壁』の補強と防衛を任務するのが駐屯兵団の役目だ。そして、それらの兵団に入る前に訓練兵の育成を担うのが訓練兵団だ」

    僕の知らないことばかりだった。本ではわからなかった世界。

    マルコ「壁の外はどうなっているのですか…?」

    そう訊くと、エルヴィンは目を輝かせた。
    「外には勿論巨人がいる。しかし、大地は開け、森があり、視界が開ける解放感がある」

    森、それは木がたくさん集まった場所のこと。視界が開ける。

    エルヴィン「君は何故、外について知りたいんだ?」
  11. 12 : : 2014/11/13(木) 20:31:28

    マルコ「『青い鳥』を探すためです」

    そう言うと、エルヴィンは興味深そうにを呟いた。
    「幸福を呼ぶ『青い鳥』か」

    マルコ「何か知っていますか?」

    僕はそう訊く。もしかしたら、『青い鳥』について、エルヴィンが何かを知っているのかもしれない。自分の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。

    エルヴィン「それを私は一度見たことがある」

    僕は目を見開く。『青い鳥』は本当にいる。
    「どこでですか?」

    そう訊くと、エルヴィンは少し躊躇いつつも言った。
    「王に謁見を頼まれた時に、見た。王の部屋に、青い鳥がいた」
  12. 13 : : 2014/11/13(木) 20:31:55

    マルコ「どうしたら、王様の部屋に入れますか??」

    僕がそう訊くと、エルヴィンはため息をつく。そして、「君にあまり勧めたくはないのだが…」と言って口を開いた。

    エルヴィン「憲兵団に入れば、王に仕えることになる。それで、王の部屋に入ることが叶うかもしれない」

    憲兵団に入れば、青い鳥をみることができるかもしれない。ただ闇雲に探すよりは、効率が良いことは確かだ。

    マルコ「ありがとうございます!色々な話をしてくださって!」

    僕はそうエルヴィンに言って、図書館から勢いよく出た。青い鳥の手がかりを見つけることができてあまりにも嬉しかったのだ。

  13. 14 : : 2014/11/13(木) 20:32:28


    マルコが図書館を勢いよく飛び出したあと、エルヴィンは呟く。

    エルヴィン「もしかしたら、あの子が憲兵団を変えてくれるかもしれないな…」

    そう言って、微笑む。巨人についての本を棚に戻し、エルヴィンはカウンターを通る。

    「あの子の質問に答えてやったみたいだね…」

    眼鏡のおじさんがそう言うと、エルヴィンは
    「はい、あの子と話したら何かを私自身も見つけました。キース団長が、あなたに教官として働かないかと言っていましたよ?」

    おじさんは眼鏡を外し、エルヴィンを鋭い目で見た。

    「私みたいな老獪にそんな職に就かせようとはキースも酷い奴だな。私などに若い訓練兵の育成など無理に決まっているよ」

    そう言うと、エルヴィンが
    「貴方を座学教官として訓練兵を育成して欲しいらしいですが」

    そう言うと、眼鏡のおじさんは眼鏡をかけ直し、腕を組む。そして、ニヤリと笑った。

    「あの子もきっと訓練兵団に入るんだろうな。あの子みたいな兵士を育成していけるなら、それもいいかもしれない」






  14. 16 : : 2014/11/15(土) 13:16:58


    「風変わりな人」




    私が調査兵団に入った理由は、ふたつある。ひとつは、調査兵団の団長の演説を聴き、心が惹かれたから。

    もうひとつは、ある友人の望む夢に心が惹かれたからである。

    友人とは訓練兵団の時からの同期だった。彼女は、座学では誰もが思い付かない考えをし、立体機動の訓練では、誰よりも楽しそうにやっていた。

    明るくて、彼女は愛嬌があり、誰からも好かれた。彼女の周りには必然と人が集まった。私も集まった人のひとりだった。

    彼女は気兼ねなく、誰とも平等に接していた。無垢な顔を見て、誰もが顔をほころばせた。まるで、彼女が太陽かのように。
  15. 17 : : 2014/11/15(土) 13:17:35

    しかし、ある日、彼女が「調査兵団に入る」と言い出した。成績トップクラスの彼女なら、憲兵団に入ると思っていた。

    しかし、彼女は調査兵団に入ることを決心したのだ。周りの人間は、彼女から離れて行った。

    しかし、一部の人間は彼女と今までと同じように接していた。私もそうだった。

    彼女が、調査兵団に入ろうが入らまいが、私には関係のないことだった。ただ、彼女の隣にいれるだけで嬉しかった。

    彼女との関係はただの友人から、親友となった。まあ、たまたま同じ部屋だったからかもしれないが。

    それからは、彼女と同じ兵団になった。憲兵団に行ける成績だった、けれども同じ兵団に入団した。

    彼女に「なぜ、調査兵団に入ったのか?」と訊かれたことがあった。私は「なんとなく…」そう言った。彼女は微笑し、「ナナバらしいや」と言った。

    本当の理由は、彼女の隣にいたかったから。ただ、それだけだった。彼女の隣にいるだけで、見るもの全てが違った。

    彼女の隣は、温かかった。

  16. 18 : : 2014/11/15(土) 13:18:08


    この季節になると、少し憂鬱な気持ちになる。十一月と違って、晴れ晴れとする冬の寒さなのだが、やはり憂鬱になる。

    お昼時を過ぎた二時。書類やら何やらが中々終わらなくて、気付いたらそんな時間。私は食堂へと向かった。

    訓練兵団時代は、二週間に一回の割合でしか、肉がなかった。しかし、調査兵団では二日に一回は食べることができた。

    二時という遅さから、食堂にはあまり人がいなかった。私は誰か知っている人がいないか、周りをキョロキョロと見る。

    すると、窓側のテーブルにリヴァイが座っていた。私は食堂のおばちゃんから、ごはんを貰い、リヴァイのテーブルへ行く。

    リヴァイはこちらを見る。私はリヴァイに微笑みを投げかけると、リヴァイは跳ね返すような仏頂面でこちらを見た。
  17. 19 : : 2014/11/15(土) 13:18:36

    我ながら容姿には自信があった。女だが、男のような顔。たまに、男に間違われることもあったが、それはそれで別に気にならなかった。

    ナナバ「やあ、リヴァイ」

    私がそう挨拶すると、リヴァイは無愛想に「ああ…」と言って、パンをちぎる。

    ナナバ「相変わらずの仏頂面だね、何なの?」

    少し喧嘩を売るような言い種になってしまったが、別に気にしない。リヴァイはこちらを見て、ギロリと睨む。

    リヴァイ「喧嘩を売るならもっと別のものにしろ、お前に容姿をとやかく言われても諦めがつくからな」

    そのわりには、睨まれたんだけど。
  18. 20 : : 2014/11/15(土) 13:19:06
    私はパンをちぎり口にいれる。訓練兵団時代は、パンがすごく固かったのを思い出す。

    リヴァイ「…今さらだが、何でここで食べているんだ?」

    リヴァイはものすごいけんまくでこちらを見る。
    「ひとりで食べるよりは、ふたりで食べたほうがいいじゃない?」

    そう言うと、リヴァイは「好きにしろ…」そう言った。リヴァイは彼女と似て、リヴァイの周りには人が集まる。

    しかし、愛嬌があるわけでもないし、太陽のように明るいわけではない。

    きっと、リヴァイの決定的な強さと、どこか悲しく冷たい表情で人を寄せ付けるのだろう。リヴァイの柔らかな部分を知り、リヴァイのことを好きになるのだろう。
  19. 21 : : 2014/11/15(土) 13:19:36

    ハンジをタンポポとするならば、リヴァイは百合。ハンジが夏ならば、リヴァイは冬。ハンジが太陽なら、リヴァイは雪。ハンジが南なら、リヴァイは北。

    リヴァイ「…ナナバ、暇か?」

    ナナバ「え?あ、まあね。仕事も片付いたからね」

    いきなり訊かれたので、少し返事が曖昧になる。
    「クソ眼鏡のところに、この書類を渡しに行ってくれないか?」

    リヴァイの言う、クソ眼鏡はハンジのことだろう。なぜ、クソ眼鏡なのか。それは、リヴァイにとってハンジは障害なのだろう。

    ナナバ「いいけど」

    そう言うと、リヴァイは「悪いな」と言った。リヴァイから書類を受け取り、ハンジの部屋へと向かった。
  20. 22 : : 2014/11/15(土) 13:20:12

    ハンジの部屋は別棟にある為、少し歩く。廊下ですれ違うと、新米兵士たちが「こんにちは」と挨拶をしてくる。

    私はニッコリと微笑みを投げかけながら、「やあ」と言う。

    ハンジの部屋に辿りつき、ノックをするが反応がない。失礼だけど、気になったので、入ってみることにした。

    ハンジの部屋には山のように積み上げられた書類があり、壁には大きな本棚があり、そこにはびっしりと本がつまっている。

    肝心のハンジはというと、見当たらない。机らしきところへとよってみると、書類に隠れて、頭を机につっぷし寝ている。

    ナナバ「どうしよう…この書類」

    そう呟き、私はとりあえず、この書類をわかりやすい場所へ置き、ハンジに毛布をかける。

    ハンジの寝顔は子供が寝ているかのような寝顔で、思わず笑みがこぼれた。

    そして、私はハンジを起こさぬように、ソーッと部屋を出たのだった。







  21. 23 : : 2014/11/16(日) 18:02:15


    「答えをください」



    その日はいつも以上に冷えた日だった。一日中ずっと気温は下がる一方。そして、風がよく吹いている。

    夜空を見上げれば、満点の星が広がっている。月は醜い僕を嘲笑うかのように美しい。

    最近、よく眠れないでいる。いや、眠ることはできるのだが、悪夢を見てそれに起こされてしまう。

    どんな悪夢か。それは、僕が最も恐れていることだった。調査兵団なんかに、どうして僕は入団してしまったか。

    ライナーひとりでも、エレンを捕獲することはできる。僕は憲兵団に入れば良かったんだ。
  22. 24 : : 2014/11/16(日) 18:02:45

    後悔している僕を月は嘲笑う。風に吹かれ草が揺れ、カサカサ、クスクスと音を立てる。

    まるで、草までが僕を嘲笑しているかのように聞こえる。

    なぜ、僕たちはこんな使命を背負わなくてはならなかったのだろう。故郷にはいつ帰れるのだろう。

    ライナーにそうたずねたら、
    「俺たちは戦士だ、弱音を吐いたら駄目だ」

    ベルトルト「戦士…?笑わせんなよ…はは」

    弱音を吐いたら駄目?そんだったら、ライナーこそ弱音を吐いているようなもんじゃないか。
  23. 25 : : 2014/11/16(日) 18:03:22

    兵士に逃げて、同期と仲良くしている。駄目じゃないか、僕たちの罪は拭いきれないものなのに。

    冷たい風が僕の頬をかすめれば、僕の体は芯から冷えていった。巨人の体はとても高温なのだけれども。

    「…何思い詰めた顔してんだよ、ベルトルさん」

    後ろから声がした。この声はよく聞いたことがある。「…ユミル」そう僕が呟いた。

    ユミルは僕の隣にドカッと座った。そういえば、彼女も調査兵団に入ったんだったな。

    ベルトルト「どうして、君は調査兵団に入ったの?」

    そう訊くと、彼女は複雑な顔になった。
    「クリスタが調査兵団に入ったからだよ」
  24. 26 : : 2014/11/16(日) 18:04:40

    ベルトルト「君はクリスタに執着しすぎじゃないか?」

    ユミル「ベルトルさんこそ、ライナーの腰巾着じゃねぇか?」

    質問を質問で返さないでほしい。先にたずねたのは僕なのだから。

    ベルトルト「何で訓練とか手を抜いていたの?」

    ユミル「ベルトルさんこそ、訓練手を抜いていただろ?」

    ベルトルト「君はクリスタが好きなのかい?」

    ユミル「ベルトルさんこそ、ライナーが好きなのか?」

    こんなやり取りが何度か続いた。ユミルは真顔だった。
  25. 27 : : 2014/11/16(日) 18:05:38

    ベルトルト「どうして、君は僕の質問に答えてくれないんだ?」

    ユミル「そんなの決まってんだろ?ベルトルさんが答えたくない質問を浴びせてくるんじゃねぇか」

    答えたくない質問。あの質問のどれもがユミルの答えたくないものだったのか。

    ベルトルト「ごめん…じゃあ、何でここに来たの?」

    そう言うと、ユミルはケラケラと乾いた声で笑った。なぜ、笑ったのかは僕にはわからなかった。
    「え?何で笑うんだよ?」

    ユミル「じゃあって、ベルトルさん、質問するの好きだなぁ…。理由ねぇ…特にないかな」

    そう言って、ユミルは寝ころんだ。
    「ベルトルさんこそ、何でここにいるんだ?」
  26. 28 : : 2014/11/16(日) 18:06:19

    そう言うと、ユミルはケラケラと乾いた声で笑った。なぜ、笑ったのかは僕にはわからなかった。
    「え?何で笑うんだよ?」

    ユミル「じゃあって、ベルトルさん、質問するの好きだなぁ…。理由ねぇ…特にないかな」

    そう言って、ユミルは寝ころんだ。
    「ベルトルさんこそ、何でここにいるんだ?」

    ベルトルト「…悪夢を見たんだ、それで嫌になって…」

    そう言うと、ユミルは「ふーん…、どんな夢?」つまらなそうなのに、興味はあると言った感じ。
  27. 29 : : 2014/11/16(日) 18:06:53

    どちらなのか、僕にはよくわからない。
    「自分の手には血まみれのブレード、そして自分の手は真っ赤で、返り血を浴びたような模様が服についていた、僕は仲間を殺していたんだ」

    ベルトルト「仲間とは仲良くしないようにと、触れないようにしているのに、その温もりに触れてしまう。それが辛くて、しょうがない」

    ユミルが起き上がり、手を僕の頬にのばした。ユミルの手は驚くほど冷たい。

    僕はその手を取ろうと、ユミルの手を掴む。
    「吐いちまえよ、お前の辛かったことや、苦しかったこと。お前の黒い闇の部分をよ」

    ユミルの目は普段と違い、鋭さがなくなり、優しい目付きになっている。
  28. 30 : : 2014/11/16(日) 18:07:24

    僕は気づかないうちに、涙を流していた。
    「僕は兵士になってはいけないんだ、戦士にもなれない」

    自分の口から、今までの苦しいことが次から次へと出る。ユミルはずっと僕の目を見ていた。

    ベルトルト「誰か…答えを教えて……」

    ユミル「答えを教えてやることはできねぇ、だけどな、ベルトルさん」

    ユミルは優しい声で言った。今まで聞いたことのない優しい声。

    ユミル「一緒に見つけてやることはできる…」

    そう言うと、ユミルは両手で僕の頬をつつんだ。僕の目からは涙が止まらなかった。





    いつか君を裏切ることがあるかもしれない。それでも君が、僕と一緒に答えを見つけてくれるなら…








  29. 31 : : 2014/11/17(月) 21:59:44


    「友情」



    ジャン「どこぞの誰かさんみたいにガスの吹かし過ぎで初っぱなからガス切れにならないようにな」

    立体機動術の訓練中、ジャンの嫌味な声が聞こえた。
    「おいジャン、それは俺のことか?」

    そう言うと、ジャンはへらっと笑った。何とも嫌味な顔だ。

    ジャン「あ"?別に誰も死に急ぎ野郎のことだなんて言ってねぇよ」

    ジャンはそう言って、立体機動のアンカーをさし飛んだ。立体機動の場合は飛んだという表現が正しいだろう。
  30. 32 : : 2014/11/17(月) 22:00:17

    それに次いで、サシャやコニー、アニがアンカーをさし飛んだ。俺もそろそろやらないと模型の数が減ってしまう。

    急いでアンカーをさして飛ぶ。ジャンの姿は目を細めてもわからないぐらい遠くにいる。

    嫌味なことに、アイツは俺よりも立体機動術の成績は上だ。ミカサと同等の立体機動の腕前を持つほど。

    先頭はジャン、ミカサやベルトルト、アニが独占し、次々と模型のうなじを削いでいく。

    これではひとつもうなじを削げなくなってしまう。俺はガスを吹かし、スピードをあげる。

    やっとのことで、ジャンに追い付くと、ジャンは余裕そうに笑って、
    「やっと追い付いてきたか、死に急ぎ野郎」
  31. 33 : : 2014/11/17(月) 22:00:38

    何とも苛つく言い方だ。
    「お前なんか、すぐに抜かしてやる!」

    俺はムキになって言うと、ジャンは前にいなかった。ジャンは俺よりも下にいたのだ。

    下で巨人の模型のうなじを削いでいる。俺は「クソッ!」と怒鳴ると、ジャンはへらっと笑った。

    ジャン「余所見してっからだよ!死に急ぎ野郎」

    俺は苛立って、ガスをもっと吹かす。すると後ろから声が聞こえる。

    サシャ「エレン!そんなにガスを吹かして大丈夫なんですか?!ガス切れしてしまいますよ!」
  32. 34 : : 2014/11/17(月) 22:01:01

    俺はそんなサシャの忠告を無視してガスを吹かし続ける。ミカサやジャンを追い抜いて、俺が今先頭だ。

    すると、巨人の模型が30m先に見える。俺はブレードをしっかり持ち、削ぐ心構えをする。

    「俺ならできる」そう心に暗示をかけ、俺は削ぐ体勢にはいった。

    すると、ガスがプスプス、プシューと鳴る。マズイ、ガス切れだ。このままでは木にぶつかってしまう。

    慌てて受け身をとるが、大怪我は免れないだろう。俺は「クソッ…」と呟いた。

    そしてぶつかる、そうなった時、誰かが俺を掴み、押した。誰かはわからない。俺はそのまま落ちていった。


  33. 35 : : 2014/11/17(月) 22:01:26





    ズキリと頭が痛んで目が覚めた。真っ白な部屋。
    「エレン、やっと起きたんだね…」

    アルミンがこちらを覗きこんでいるのがわかった。
    「ここはどこだ…」

    そう言って起きあがろうとすると、背中の部分がズキリとし、吐き気がする。
    「エレン!まだ動いちゃ駄目だよ!」

    アルミンが慌てて言う。俺はなぜこんなに怪我しているのだろうか。それを訪ねた。

    アルミン「エレンが無理をして、ジャンがエレンを木にぶつからぬように押して、そのままエレンが落下したんだ…、ジャンはさほど目立った外傷はなかったけど」

    ジャンが俺を助けた?それが不思議だった、アイツが俺を助けたなんて。

    とりあえず、全治二週間。俺は自分で自分の首をしめたのだった。

  34. 36 : : 2014/11/17(月) 22:01:56






    ミカサ「ジャン…」

    そう呼ばれて、俺は振り返った。俺の名前を呼んだのは、ミカサだった。

    ジャン「悪かったな、いい庇い方が出来なくてよ…」

    俺がそう言うと、ミカサは首を横にふった。
    「あの判断が一番良かった。私はエレンのことを注意深く見ていなかった」

    ミカサ「本当にごめんなさい、そしてありがとう」

    ミカサはそう言って笑った。ミカサの笑った顔は、いつもの冷静で大人びた顔つきより、幼くなり可愛らしい顔だった。
  35. 37 : : 2014/11/17(月) 22:02:17

    ジャン「…気にするなよ、お前が悪いわけじゃあない。自分の身を自分で守れないアイツが悪い…」

    ミカサ「それより、ジャン。あなた怪我をしているでしょう?背中に打撲をしているんじゃない?」

    気づかれるとは思わなかった。
    「大した怪我じゃねぇよ…」

    俺がそう言うと、ミカサは「医務室に行かないといけないわね…」そう言った。そして続けて、
    「あなたは何でエレンを助けたのだろう?」

    ジャン「さあな、気まぐれだよ…」

    俺はそう言って濁した。ミカサはなぜか笑顔だった。







  36. 38 : : 2014/11/18(火) 20:24:00


    「内気」




    馬術が今日の最後の訓練だった。兵士達は、「臭い」「ケツいてぇ~」などと愚痴をこぼしながら、馬小屋からゾロゾロと去っていった。

    アニ「ミーナ、戻らないのかい…?」

    アニにそう訊かれた。
    「馬小屋の掃除当番だから、残らないと。アニは先に行ってて」

    そう言うと、アニは頷いて、馬小屋を去っていった。馬小屋の掃除当番は、私と、誰だろうか。

    馬小屋の中に入ってみると、背の高い人物がいた。その人物は一目で訓練兵士なら誰でもわかるだろう。
  37. 39 : : 2014/11/18(火) 20:24:25

    ミーナ「ベ…ルトルト?ベルトルトもここの掃除なの?」

    そう訊くと、ベルトルトは頷いた。あともうひとり、誰なのだろうか。

    ミーナ「もうひとりが誰だかわかる?」

    ベルトルトは少し間をあけた。きっと考えているのだろう。
    「確か、ジャンだったかな…」

    ジャンはいつもエレンという子と喧嘩をしている人。立体機動では、ミカサと同等。

    私はジャンが苦手だ。あの鋭い目付きが怖くて、思ったことが言えない。

    ジャン「遅れてすまねぇ…、おっ、今回はベルトルトとミーナか…」
  38. 40 : : 2014/11/18(火) 20:24:48

    ジャンが馬小屋に入ってきた。それよりも、私の名前を覚えていたことが意外だった。

    ベルトルトは、私とジャンの方を向いて、「よろしくね」と言った。

    私は頷き、ジャンも「よろしくな…」と言った。そして、私たちは馬小屋の掃除を始めたのだった。

    それから、何分か経った。ジャンが掃除しているところのワラが少なかったので、ジャンに話しかけようとした。

    しかし、私は中々話しかけられない。すると、ベルトルトが気づいて、私にコソリと「どうしたの?」と訊いてきた。

    私はジャンが掃除しているところのワラが少ない、そう言うと、ベルトルトはジャンのとこへ行った。
  39. 41 : : 2014/11/18(火) 20:25:34

    ベルトルト「ジャン、ワラが少なくないかい?」

    ベルトルトがそう訊くと、ジャンは
    「確かにそうだな…、ありがとよ、ベルトルト。教えてくれて」

    ジャンがそう言うと、ベルトルトはジャンに耳打ちした。すると、ジャンがこちらを見た。

    私はギョッとなる。ジャンはベルトルトの方を向き、何やら話すのだが、聞こえない。

    ベルトルトがこちらに戻ってきた。私はベルトルトがジャンに耳打ちした内容が気になった。

    ミーナ「ジャンに何を耳打ちしたの…?」

    そう訊くと、ベルトルトは「秘密」と楽しそうに言った。

    しかし、ジャンは耳打ち後、なぜこちらを見たのだろうか。

    私がジャンを苦手になったのは、訓練兵となって二ヶ月目のことだった。

  40. 42 : : 2014/11/18(火) 20:26:00




    その日はたまたま、座学があった。私は最後のほうに教室を出たので、誰かがノートを忘れていることに気づいた。

    そのノートの持ち主は、ジャンだった。私はジャンに届けに行ったのだ。

    ミーナ「あの、ジャン…」

    そう言うと、ジャンはこちらをギロリと睨んだ。私は少し驚く。

    ジャン「あ?何の用だ?」

    凄みのきいた声で私は震えてしまった。私はジャンにノートを押しつけて逃げていったのだった。

    ジャンが私に何か言っていたのだが、それを聞くほどの余裕がなかった。




  41. 43 : : 2014/11/18(火) 20:26:26

    ということがあってから、私はジャンが苦手になった。

    掃除が終わった。外はもう真っ暗だった。私は馬小屋を出ようとすると、後ろから「おい…」と声がする。

    私が振り返ると、私を呼んだのはジャンだった。
    私は少し内心怯えながら、「な、なに?」そう訊くと、ジャンは頭をポリポリとかいた。

    ジャン「ワラが少ないって気づいたのお前だろ?ありがとな…」

    ジャンはそう素っ気なくいった。私はホッとする。「なんだ…良かった…」そう呟くと、ジャンに聞こえていたらしい。
  42. 44 : : 2014/11/18(火) 20:26:51

    ジャン「良かったってどういうことだ?」

    そう訊かれた。私は
    「ジャンっていつも怖い顔してるから…その、何か怒られたりするんじゃないかって…」

    そう言うと、ジャンは大笑いした。私は驚いて
    「何でそんなに笑うの?!」

    ジャン「悪いな、なんとなく、お前から避けられている気はしたんだよな」

    そう言ってまた、笑った。私もつられて笑ってしまった。








  43. 45 : : 2014/11/20(木) 21:28:03


    「私を見てください」



    鐘がゴーンゴーンと鳴る。その音は起床を告げる音である。私は目が覚めた。

    自分の体温で温かくなった布団から抜けるのは少しツラいものだったが、私は起き上がった。

    同室のサシャは涎をたらして寝ている。サシャの寝言はすごい。

    「豚さん、そのお肉を私に食べさせてください」
    「その肉とパンと野菜をサンドしたら…フフフ」
    「あぁぁぁぁ!そのパァンは私のですよ!!!」

    以下略。基本食べ物関連のことしか、寝言で言わない。
  44. 46 : : 2014/11/20(木) 21:28:30

    ユミルはだるそうに起き上がり、クリスタの頬をペチペチと叩いている。クリスタは眠そうな目をし、起き上がった。

    私もサシャを起こさなくては、と思いサシャの布団をバサリと剥ぎ取る。

    サシャは目をパチリとあけ、「さ、寒い…!」と言った。私は「サシャ、起きて」そう言った。

    そして、身支度を済ませたら、食堂へと向かった。

    食堂には訓練兵がゾロゾロといた。私は自分のパンとスープをおぼんにのせて、エレンとアルミンのいるテーブルを探した。

    エレンとアルミンは窓側のテーブルに座っていた。私はそこへと向かった。
  45. 47 : : 2014/11/20(木) 21:29:00

    私に気づいたアルミンは「おはよう、ミカサ」と挨拶をしてくれた。私も「おはよう、アルミン、エレン」と二人に挨拶をする。

    すると、エレンは私を無視しスープをすすった。きっと機嫌があまり良くないのだろう、そう思い、エレンの真向かいの席に座る。

    エレンはこちらを見ず、横を見ている。なぜこちらを見ないのだろうか。

    ミカサ「エレン、アルミン。昨日はよく眠れた?」

    そう訊くと、アルミンはこちらを見て「まあまあかな…」と言った。エレンは素っ気なく「ああ…」とだけ言った。

    エレンはこちらを見てはくれなかった。アルミンがエレンに「ベルトルトの寝相はすごいよね…」そう言うと、エレンはアルミンの方を向き、明るく「そうだよな!」と言って笑った。
  46. 48 : : 2014/11/20(木) 21:29:25

    少し胸が痛い。何故だろう。もう一度、もう一度エレンに話しかけてみようと、私は試みた。

    ミカサ「エレン、今日の訓練はなんだったっけ?」

    そう訊くと、エレンは少し嫌そうな顔をし、
    「そんなの、アルミンに訊けよ…」

    アルミン「今日の訓練は、対人格闘だよ」

    アルミンが答えてくれた。エレンは何故かこちらを向いてはくれない。

    ミカサ「そ、そうなの。なら、エレン。久しぶりに対人格闘を組まない?」

    そう言うと、エレンは嫌そうな顔をし、
    「アルミンと組むから」
    そう素っ気なく言って食器を片付けって去っていった。
  47. 49 : : 2014/11/20(木) 21:30:12






    エレンは一体どうしたのだろうか。私は何かしたのだろうか。ねぇ…。

    今日一日中、エレンがどうしたのか、私が何かしてしまったのか、そればかり考えていた。

    クリスタに喋りかけられ、明るく話すエレン。
    サシャに食べ物に奪われそうになり、慌てながらも楽しそうなエレン。
    ライナーと組手でライナーを倒し、笑うエレン。
    コニーと楽しそうに作業をするエレン。

    みんなと楽しそうにやっている。みんなと普通に接している。






    それなのに…
    どうして?
  48. 50 : : 2014/11/20(木) 21:30:38

    私がエレンに避けられて、一週間が経った。何故あなたに避けられているのか、理由がわからないまま。

    夕方は湯浴びの時間。私はタオルと着替えを持って行った。

    「ねぇ、ミカサ」

    そう話しかけられた。パッと後ろを振り返るとそこにいたのはアニ。

    アニ「あんた等二人は一体どうしたのさ?」

    ミカサ「…別にどうしてもいないけれど」

    アニは探るような目付きでこちらを見た。
    「まあ、私にはどうでもいいのだけどね…」
  49. 51 : : 2014/11/20(木) 21:31:17

    そう言って、目をいつものだるそうな目にする。
    「だけどね、あんた等のせいで周りも気を遣う羽目になるんだよね…」

    ミカサ「…それはすまないことをした…」

    私がそう言うと、アニははぁと溜め息をつく。まるで呆れたように。

    アニ「あんた、本当に何にもわかっていないね」

    わかっていない?何にも?「どういうこと…?」そう訊くと、また溜め息をつかれる。

    アニ「何で今の状況になっているのか、訊けばいいじゃないか?何で避けるの?私は何かした?しつこいぐらい訊けばいいじゃないか。いつも強引なのは誰?こういうときだけ臆病になってんじゃないよ」

    アニはそう言って去っていった。アニの言いたいことはわかった気がした。

    私はエレンのもとへと向かった。
  50. 52 : : 2014/11/20(木) 21:31:57




    「エレン、ちょっといい?」そういうと、エレンは「今から湯浴びすんだけど…」そう言った。

    私は強引にエレンの腕を掴み、外へと行った。外はひんやりとするほど冷たい。

    エレン「なんだよ?ミカサ…」

    エレンは不機嫌そうに訊く。
    「何で最近避けるの?」

    エレン「別に避けてねぇよ?」

    ミカサ「何で無視するの?」

    エレン「別に無視してねぇよ」

    ミカサ「私貴方に何かした?」

    エレン「何もしてねぇよ」

    エレンはこちらを向かなかった。ずっとそっぽを向いている。
  51. 53 : : 2014/11/20(木) 21:32:24

    私の目からは涙がでた。

    ミカサ「ねぇ、エレン。私を見て…!」

    そういうと、やっとエレンはこちらを向いてくれた。「私、何かしたかしら…?」

    エレン「お前は何にも悪くない…お前が俺についてきてしまったら、お前までも死んでしまう。だから、今のうちに仲が悪くなれば…」

    ミカサ「…何だ私が何かしたわけじゃないのね…」

    私は肩の重荷がドッととれた気がした。
    「無視して、避けて…悪かったな。本当にごめん」

    ミカサ「ううん、いいの……」

    私とエレンは二人で顔を見合わせて笑ったのだった。








    寒い冬の夜に赤いマフラーがなびいていた。







  52. 54 : : 2014/11/22(土) 11:27:23


    「明朗」



    夜の八時を過ぎた頃、僕は本を部屋で読んでいた。室内では、同期等が大笑いしたり、賭け事をしていた。

    寮は二段ベッドになっていて、二人ずつ寝れる簡素な作りのものである。

    僕はコニーと寝ている。同室なのは、エレンとライナーとベルトルトなどの同期たち。

    僕は同期等が騒いでいるのを耳で感じながら、僕は本を読んでいたのだった。

    その本は、図書室にある本である。図書室には東洋文学、壁の外の世界、巨人について、お伽噺、童話、歴史などの様々なテーマの本がある。
  53. 55 : : 2014/11/22(土) 11:27:54

    僕はいつも、壁の外の世界についての話を読んでいた。おじいちゃんから譲り受けた本は、図書室のどれよりも外の世界について描かれていた。

    しかし、細部を詳しくは描かれていない。図書室の本は、おじいちゃんから譲り受けた本より詳しいことが描かれていたのだ。

    訓練兵になる前までは、壁の外に興味を持つと異端者などとよくからかわれ、いじめられたものだ。

    しかし、訓練兵団では僕が壁の外に興味を持つことを、同期たちは嫌がりもせず、責め立てるようなことはしなかった。

    コニー「アルミン、その本は壁の外についての本か?」

    コニーがベッドについている梯子を登りながら聞いてきた。
  54. 56 : : 2014/11/22(土) 11:28:25
    僕がコクリと頷くと、コニーは「へぇ」という声をもらした。

    コニー「あのよ、アルミン」

    アルミン「何?コニー」

    そう訊くと、コニーは困ったような顔をした。
    「座学教えてくれぇぇぇぇぇ!」

    そう言って、僕に抱きついてくる。僕はコニーを押し、離れさせた。
    「何でそんなに必死なの…?」

    コニー「次試験あるだろ?あれで三十点以下とったら、一ヶ月間馬小屋の掃除当番なんだよ」

    コニーは体をビクビクと震わせた。そして、手を合わせて「頼むよ…」と言った。
  55. 57 : : 2014/11/22(土) 11:28:50

    アルミン「いいけど、三十点以下取らせないようにする自信はないけど…」

    そう言うと、コニーは「それでもいいから、頼む!」と言って両手を合わせた。

    アルミン「わかった、教えてあげる。どこがわからないの?教科書はある?」

    そう言うと、コニーは目を輝かせた。
    「ありがとよ!アルミン、この借りはいつか返すぜ!」

    そう言って僕の手を握り、ブンブンと振る。僕は「返さなくてもいいんだけど…」というが、コニーには聞こえなかったみたいだ。

    コニーは教科書を持って、僕のところにきた。
    「どこがわからないの…?」
  56. 58 : : 2014/11/22(土) 11:29:20

    そう訊くと、コニーは笑顔で「全部わからねぇ…」と答えた。

    アルミン「今、何て言った?」

    僕は聞き間違いだと思い、聞き返す。コニーは自慢気に「だから、アルミン。全部だよ」

    アルミン「…全部……かぁ…………」

    僕はガックリと肩を落とす。そこまでコニーがわからないとは思っていなかった。

    これは覚悟しないといけない。
    「じゃあ、とりあえず、問題を出していくよ?いいね?」

    コニー「おう、わかった!」

    コニーは元気よく答えたのだった。
  57. 59 : : 2014/11/22(土) 11:29:59

    アルミン「まずは、巨人についてだ。討伐方法はどこを損傷させればいいのかな?」

    そう訊くと、コニーは胸をはって答えた。
    「アルミン、俺を舐めすぎだぜ?腰を損傷させればいいんだろう?」

    アルミン「最初から違うよ、こんな初歩的問題もわかないのかな…うなじって習ったじゃないか」

    そう言うと、「ああ、うなじか!」と今思い出したかのようにコニーは言った。

    アルミン「じゃあ、シガンシナ区などは他の区より飛び出して作られているけど、何のため?」

    コニー「その方がカッコいいからだろ?!」
  58. 60 : : 2014/11/22(土) 11:30:36

    コニーはまた、自慢気に鼻をふくらまし答えた。僕はさらに肩をガックリと落とした。

    アルミン「違うよ、目的を集中させるためだよ…」

    はぁと溜め息をつく。コニーは「そうかぁ」と納得したような声をだした。

    コニー「しかし、アルミンはすげぇな!」

    コニーは感心したように言った。
    「コニーは何で訓練兵団に入ったの?」

    僕がそう訊くと、コニーは
    「憲兵団に入って故郷の母ちゃんやみんなに自慢するためだ」

    そう言った。そして、コニーは照れくさそうに笑う。「だから、こんなとこじゃつまづけねぇ」

    コニーは明るくいつも無邪気な性格で、いつも僕らを楽しませてくれる。

    コニーの夢の為にも、僕が力添えできるのなら。
    「そうだね、一緒に頑張ろう!」

    そう言うと、コニーは「おう!」と元気よく言ったのだった。







  59. 61 : : 2014/11/22(土) 18:49:32


    「先見」



    調査兵団というのは、巨人の領域への探索というのが主に職務といっていいだろう。四年間で九割の団員が死んだ。

    私が団長になってから、何人、何十人と数えきれないほどの団員が死んだだろう。

    私が団長になることは、予想していた。なんとなくだが、確信があったのだ。

    団長というものは荷が重いが、私の叶えたい夢を叶えられるチャンスというのなら、容易いことかもしれない。

    コンコンとノックがし、私は「誰だ?」と訪ねた。ノックをした者は「俺だ、リヴァイだ」と言った。
  60. 62 : : 2014/11/22(土) 18:50:10

    エルヴィン「入っていいぞ」

    そう言うと、リヴァイは「失礼する…」と言ってドアノブをガチャリとひねる。

    エルヴィン「来るとは思っていたが、何の用だ?リヴァイ」

    そう言うと、リヴァイは少し不機嫌なようだ。きっとエレンの件についてだろう。

    リヴァイ「エレンの件だが、お前企んでいたのか?あれは懸けと言っていた筈だが?俺があの場でエレンを蹴ることもわかっていたのか?」

    エルヴィン「何も最初からわかっていたわけではない、ただの予測にしか過ぎない…」
  61. 63 : : 2014/11/22(土) 18:50:34

    そう言うと、リヴァイは腹ただしげに舌打ちをした。
    「そんなに腹を立てるな、リヴァイ」

    そう言うと、リヴァイの眉間にはさらにぐっとシワがよる。これはあまり言ってはいけなかったみたいだ。

    リヴァイ「本当にお前は、秘密の多い気色悪い野郎だな。お前の手のひらで踊っていたようで余計にはらわたが煮えくくりそうだ…」

    リヴァイはそう言って、また舌打ちをした。
    「随分な言いようだな、リヴァイ。しかし、結果的に良い結果となったんだからいいだろう?」

    そう言うと、リヴァイは「そうだが…」と言ってブツブツと何か呟く。
  62. 64 : : 2014/11/22(土) 18:50:56

    エルヴィン「まあ、頑張ってやってくれ。そうだ、ちょうどいい、この書類をナナバに渡してくれ、頼んだぞ」

    そう言って、リヴァイに書類を差し出すと、リヴァイはおよそ五十秒ほどそれを受け取らなかった。

    しかし、雑に受けとって「……ちっ…わかった」舌打ちして了承した。

    リヴァイ「じゃあな」

    リヴァイはそう言って、私の部屋を去って行った。

    昔から、予測することに長けていた。博打が得意だった。何故かはわからない。
  63. 65 : : 2014/11/22(土) 18:51:27

    しかし、賭け事をすればその代償はつきものだ。王に背き、自由を得ようとすれば、きっと反逆者となり、壁の外に放り出されるだろう。

    そして、今回王に背くのに必要な切り札があるとすれば、それはエレンの存在。

    エレンは巨人化ができる。巨人を殺すために、巨人を使う。最大の矛盾点であり、最大の秘訣でもある。

    裁判では、憲兵団側が随分と有利なものであった。

    ウォール教のニック司祭は壁の秘密を知っているのであろうが、それについては頑なに口を開こうとはしない。

    しかし、自分の言い分だけを主張し、壁に手出しをするとなれば、手段を選ばず抗ってくる。
  64. 66 : : 2014/11/22(土) 18:52:10

    内地に暮らす貴族は自分の地位だけを気にし、他のものなど、ただの道具や動植物に過ぎないと言わんばかりの威張りっぷり。

    憲兵団の班長類いの者たちは、人類の存亡ではなく、自分たちの命だけを気にし、エレンを何度でも殺そうとする。

    そんなものたちが、「人類の存亡」「人類のために命を捧げている」などを語るべきではない。

    調査兵団のことを民衆や憲兵団はコケにするが、それは果たして何を理由でコケにしているのか。

    巨人に敗北しているからか。
    巨人の生態をわかっていないからか。
  65. 67 : : 2014/11/22(土) 18:52:33

    どちらも違うだろう。しかし、無理矢理正当化しようとしているのにはなんら変わりない。

    憲兵団は、税金の徴収を誤魔化し、自分たちの私益にしている。

    貴族は民衆の生活など露知らずで、豚のように肥える勢いで栄養を摂取している。

    果たして、それで人類は巨人に勝てるのか。否、勝てるはずなどないのだ。

    私は未来へと賭け事をしようではないか。

    エレンを巨人に対する反撃の一歩とし、巨人を駆逐することを。







  66. 68 : : 2014/11/24(月) 20:00:49


    「華美」



    訓練兵になった初め頃、私は彼女のことを何て壊れやすく、繊細でガラスのようなのだろうと思った。

    そんな人一倍弱い彼女には〝優しさ〟があった。彼女は多くの人から好かれた。

    お腹が空いて困っている芋女が倒れそうになっていれば、自分のパンを持ち出し、自分は食べずに芋女にあげる。

    ひょろい男子が重いものを持っていれば、人一倍脆い彼女が、男子からそれを半分以上とり、持つ。

    馬鹿みたいにデカイ男が怪我すれば、女ものの可愛らしいハンカチを傷に巻いてやる。
  67. 69 : : 2014/11/24(月) 20:01:10

    彼女の行動一つ一つすら、美しく、なんて可憐なのだろうと思ってしまう。

    それほど、彼女は優しく美しかった。人一倍脆く、繊細でガラスのような彼女は何故、あそこまで人に優しくできるのだろう。

    彼女に損得勘定はないのだろうか。何故あそこまで親切なのか、それが気になってしまう。

    今日は休みだった。同じ部屋の彼女は、部屋で窓の外を見たり、他の同期と喋ったりしている。

    私はそんな彼女を見ていた。彼女は私の視線が気になったのだろう。こちらをチラチラと見てくる。

    しまいにはお連れさまがお出ましだ。
    「おい、アニ。私のクリスタに何の用だ?」
  68. 70 : : 2014/11/24(月) 20:01:31

    眉間にシワを寄せ、こちらをギロリと睨む。まるで番犬のようだ。

    アニ「別に用はないよ、ただ見ていただけ。何か文句ある?」

    そう訊くと、ユミルは
    「ああ、ありありだよ。クリスタが気になって私との会話を全くきいちゃくれねぇんだよ」

    アニ「ふーん、そんだけじゃないか。特に被害もないのだから、別にいいだろ?」

    そう言うと、ユミルは根気負けしたようにため息と大きな舌打ちをついてクリスタとの会話に戻った。
  69. 71 : : 2014/11/24(月) 20:01:57

    それから、私はクリスタをずっと見ていた。別に特に理由はない。ただ、花を眺めている、そんな感じだ。

    ガチャリと音がして、誰かがドアを開け入ってきた。入ってきたのはミーナ。

    ミーナ「アニ、怖いからそんなに目を見開かないでよ」

    ミーナは冗談まじりに笑って言った。それから、ユミルのもとへ行って、
    「ユミル、当番の仕事行くよー」

    そう言って、ユミルの腕を引っ張る。ユミルは舌打ちをして、
    「もうそんな時間かよ」

    そう言ってヨロヨロと立ち上がる。
    「じゃあ、クリスタまたあとでな」

    ユミルがそう言うと、クリスタはコクリと頷く。ユミルとミーナは部屋から出て行った。
  70. 72 : : 2014/11/24(月) 20:02:22
    部屋には私とクリスタ、二人だけになる。私のいる場所は2段ベッドの上。クリスタは斜めにあるベッドの2段の上に座っていた。

    クリスタは気まずさからか、ベッドについている梯子をおり、こちらのベッドの梯子をのぼる。

    クリスタ「あ、アニは何で私を見ていたの?」

    クリスタは少しオドオドと訊いてきた。そんなに私が怖いのだろうか。別にクリスタのことを食べてしまうわけでもないのに。

    アニ「そんなにオドオドしないでよ、あんたを食べてしまうわけでもないのにさ」
  71. 73 : : 2014/11/24(月) 20:02:43

    そう言うと、クリスタはごめんと謝まった。
    「別に、なんとなく見ていただけ」

    そう言うと、疑り深そうに私をジーっと見た。少し、私も目のやり場に困る。

    クリスタの顔は長い睫毛に、私と違い明るい青の瞳。綺麗な金髪でサラサラしている。

    ふと髪に触ろうとすると、クリスタはビクッとした。「髪、触ってもいいかい?」

    そう訪ねると、クリスタはうんと言った。私はクリスタの髪に触れた。

    サラサラしてフワリとクリスタの柔らかな匂いがした。

    アニ「…サラサラ」
  72. 74 : : 2014/11/24(月) 20:03:03

    そう言うとクリスタは照れくさそうに笑って、
    「アニもサラサラでしょ?いつも髪結わいているから、よくわからないんだけどね」

    そう言った。私がゴムをパサリと取ると、クリスタは驚いたような顔をする。

    クリスタ「アニが髪下ろしたの、初めてみた」

    クリスタは目を輝かせ言った。
    「触ってもいい?」

    そう訊かれたので、私はコクリと頷く。すると、触ってきた。

    クリスタ「アニ、サラサラー。髪いじってもいい?いい?いいよね?」

    クリスタの目はキラキラで、断れなかった。私が「い、いいよ」とクリスタはいじりはじめた。







  73. 75 : : 2014/11/25(火) 21:31:39


    「美しい眺め」



    私にはおおらかで心の広い妻がいた。そして、妻に似て、心優しい娘がいた。酒におぼれた私を愛してくれた。

    その頃は巨人などは壁の中には入ってくるという事態は起きなかった。人々は呑気に暮らしていた。

    私も、私の妻と娘もひっそりと暮らしていた。私は仕事になんとかありつけ、ひっそりと暮らしていたのだ。

    それなりに幸せだった。しかし、そんな幸せな時を奪われたのだった。

    妻と娘は、私が留守中に殺された。窃盗だ。妻のおおらかな顔は苦痛で歪み、娘の顔は恐怖で歪んでいた。
  74. 76 : : 2014/11/25(火) 21:32:00

    その日は、娘の誕生日だったのに。私は真冬で凍えた手を、娘の頬に当て、嘆いた。

    なぜお前が死なねばならぬと。そして、妻を見て叫んだ。なぜ私を置いて死んでいくのだと。

    憲兵団に来てもらうと、窃盗と殺人。犯人は捕まり、壁外へと放りこまれた。

    妻と娘が死に、私は心がポッカリと穴があいたような、そんな状態になった。生きているのに、死んでいる。


    生きた屍のように。


    そんな私を救ったのが、ウォール教だった。神より授かりしローゼの壁。
  75. 77 : : 2014/11/25(火) 21:32:29

    それにすがるのがどんなに楽だろうか。

    五年前の出来事が起き、ウォール教の司祭が死んだ。私のところにウォール教の司祭の役目が回ってきた。





    〝神聖なる壁を疑ってはいけません〟

    〝神の手より生まれし三つの壁は我々の信仰心を捧げることでより強固になるのです〟

    〝祈りましょう〟

    〝マリア、ローゼ、シーナ〟

    〝三つの女神の健在を〟

    〝我々の安泰を〟






  76. 78 : : 2014/11/25(火) 21:32:56

    などと神にすがる。壁を疑ってはいけません、一番疑っているのは私ではないのだろうか。

    司祭という役目のある私が、この中で一番壁や神を疑っているのではなかろうか。

    必死に祈る信者たちはもういない。巨人に殺されたのだ。壁の中の巨人も。


    ハンジ「そろそろ、話してもらいましょうか…」

    ハンジは真っ直ぐな声で言った。
    「……何をだ?」

    私はすっとぼけたように言った。ハンジの顔を見れずにいる。
    「この巨人は何ですか?なぜ壁の中に巨人がいるんですか?そしてなぜあなた方は……黙っていたんですか?」
  77. 79 : : 2014/11/25(火) 21:33:21

    ハンジは私に質問をたくさん浴びせてくる。私は答えずにいた。
    「答えていただきます」

    私は立ち上がって、服についた埃をパンパンとはらう。ここで、壁の秘密を教えるわけにはいかない。あしらわなくてはいけない。

    ニック「私は忙しい。教会も信者もめちゃくちゃにされた。貴様らのせいだ。後で被害額を請求する。さぁ……私を下に降ろせ」

    私がそう言うと、ハンジの顔は無表情になる。冷酷で冷めた目付き。

    そして、ハンジは私の胸元をつかみ、
    「いいですよ、ここからでいいですか?」
  78. 80 : : 2014/11/25(火) 21:33:48

    ニック「ふざけるな…何のマネだ!?」

    ハンジ「ふざけるな」

    私の言葉はその一言で一蹴された。
    「これは重罪だ。人類の生存権に関わる重大な罪だ。お前ら教壇が壁の強化や地下道の建設を散々拒んだ理由はこれか……?壁に口出しする権限をお前らに与えたのは王政だったな…」

    ハンジは私をギロリと睨んだ。
    「つまり…この秘密を知っているのがお前だけなんてことはありえない……何人いるか知らないが」

    ハンジ「我々調査兵団が何のために血を流しているのかを知っていたか?巨人に奪われた自由を取り戻すためだ…そのためなら…命だって惜しくはなかった」

    ハンジ「それがたとえ僅かな前進だったとしても…
    人類はいつか、この恐怖から解放される日が来るのならと命を捧げ続けてきた………」
  79. 81 : : 2014/11/25(火) 21:34:11

    ハンジ「しかし…こんな重大な情報は今まで得られなかった…それでもまだ…とぼけられるのか?どれだけの仲間が巨人に食い捨てられていたか…事実はお前らは黙っていた。お前らは、黙っていられた」

    ハンジは私の胸ぐらをつかむ手の力を強めた。
    「いいか?お願いはしていない、命令した。話せと、そしてお前が無理なら次だ。次のヤツに自分の命たどっちが大事か聞いてみる。何にせよ、お前一人の命じゃ足りないと思っている。それともお布施の方がいいか?いくらほしいんだ?」

    「…手を…放せ」
    私は微かな呻き声しかでなかった。恐怖で目を開けることすらできなかった。

    ハンジ「今、放していいか?」

    ニック「今……!!この手を放せ!!」
  80. 82 : : 2014/11/25(火) 21:34:45

    ニック「お前らの怒りはもっともだ。だが…我々も悪意があって黙っていたわけではない!自分の命がかわいいわけでもない!それを証明してみせる!」

    ニック「ろくでなしにすぎない…神にすがることでしか生きられない男だ…そんなろくでなしに口一つ割れんようでは、私以上の教徒にどんな苦痛を与えようと到底聞き出せい!!」

    ニック「私を殺して学ぶが良い!!我々は使命を全うする!!」

    そう言って私は叫んだ。
    「わかった、死んでもらおう」

    この時、私は死ぬと思った。走馬灯のようなものが見え、家族を思い出す。後悔と悔しさが混ざりあう。


    私は放りだされた。地に。恐怖で体がブルブルと震えた。

    やがて震えがおさまり、顔を上げ、辺りをみる。
    壁からの景色は誠に美しいものだった。






  81. 83 : : 2014/11/26(水) 21:39:54

    「恋の伊達者」


    目というのは、口ほどにものを言う。相手がどんな思いをしているか、相手の目を見ればだいたいわかる。

    俺の隊はマスクをしているものが多かった。何故なら、実験などを日常的にやるからである。

    巨人のことで不思議に思いたったら、即実験というのが決まりのようなものであった。

    だから、常にマスクをつける必要性があるのだ。しかし、俺はあまり実験する機会がなかった。

    何故か。それは、分隊長のお守りをしたり、見張っていたり、分隊長が実験している間、俺ができるような書類を片付けたりする。
  82. 84 : : 2014/11/26(水) 21:40:17

    分隊長はハッキリ言ってデスクワークが得意な方ではない。

    だから、書類を片付けたりするのも、ハッキリ言って俺がやった方が早いのではないかと思うぐらいの遅さであった。

    今も分隊長が実験をやっている。その間に俺は分隊長の仕事の書類を出来る限り片付けている。

    例えば、実験を行う為の費用などは基本的分隊長の仕事なのだが、俺でも出来るものである。

    机の上にコトンとマグカップが置かれた。そこからは、珈琲の香りがふんわりとした。

    誰が置いたのだろうと、即座に思い、振り返ると、珈琲をいれ、マグカップを出してくれたのは、ニファだということがわかる。
  83. 85 : : 2014/11/26(水) 21:40:32

    ニファはマスクを顎におろしている。
    「ニファは実験に参加しなくていいのか?」

    そう訊くと、あまりよろしくないという表情になった。俺はハハッと笑った。

    ニファ「解剖とかって、苦手なんですよ。今は何故か蛙の解剖していますし、分隊長は」

    そう言って、苦虫でも踏み潰したような顔をした。確かに解剖をするというのはあまり楽しいものではない。

    本気で楽しんでいる者なのなど、分隊長以外に一体誰がいるだろうか。
  84. 86 : : 2014/11/26(水) 21:41:03

    モブリット「まあ、仕方のないことだよ。ニファも自分の意思でこの隊に入ったわけではないんだろうし」

    そう言って、ニファの顔を見ると、ニファの目と合う。しかし、ニファは瞬時に目をそらした。

    ニファ「ここは精神的に大変ですけど、楽しいところ、ですよね……?」

    モブリット「確かに、楽しいところではあるな。なんだって分隊長があんなような人だから」

    そう言ってニファの目をチラリと見た。ニファはこちらを見ているが、目の黒い瞳はこちらを見ていない。
  85. 87 : : 2014/11/26(水) 21:41:35

    見ているようで見ていない。見ているが、見透かされている。まるでここに私がいないかのように。

    俺がニファの目をジーッと見ると、
    「あの、視線はずしていただけません?何か、嫌なんで…」

    ニファは濁して言った。それもまあ、仕方のないことなのだろう。

    モブリット「悪いね。ニファの顔にみとられていたんだ」

    そう冗談めかして言うと、ニファは怒ったような顔をし、
    「そういうのやめてください!!」
  86. 88 : : 2014/11/26(水) 21:41:56

    そう言って、部屋から飛び出して言った。その時、僅かだが俺の目を見た。気のせいでなければいいが。

    ニファが飛び出したあと、分隊長が入ってきた。
    「モブリットぉ、ニファに何したのかなぁ~?」

    そう言われ、驚きの声が漏れた。すると、分隊長はニヤニヤとしている。

    ハンジ「痴話喧嘩でもしたのかーい?モブリット君、君もすみにおけない男だねぇ」

    分隊長は相変わらずニヤニヤをやめない。何故痴話喧嘩が出てくるのか。俺の頭にはハテナしか思い浮かばなかった。







  87. 89 : : 2014/11/27(木) 21:56:12


    「知恵の泉」



    冬の寒さはかなり堪えるものがある。木の葉という葉は枯れ落ち、木枯らしがふく。

    ジャンは上着のポケットに手をいれ、寒さで縮こまっている。そして、鼻も少し赤くなっている。

    僕はマフラーに顎を埋めた。マフラーの柔らかさで少し温かくなる。

    アルミン「こんな寒い中、散歩なんかに付き合わせちゃって、ごめん」

    そう言うと、ジャンは笑って
    「気にするな、一日中、室内にいても、つまらないしな」
  88. 90 : : 2014/11/27(木) 21:56:29

    僕とジャンは適当に散歩をしている。あと一年で卒団。ということは、訓練兵になり、二年目ということでもある。

    二年目といえど、訓練兵団の敷地内はまだ完璧に把握できてはいない。

    ついこの間も、意外なところに川があったし、その前の春には菜の花の花畑を見つけた。

    土地があまり開拓されず、困っているこの世界なのに、訓練兵団の敷地はどうしてこうも広いのだろうか。

    そんなことを思ったりもした。
    「アルミン、どこに向かっているんだ?」
  89. 91 : : 2014/11/27(木) 21:56:45

    アルミン「行く宛は…ないんだけど….」

    そう言うと、ジャンは「ふーん」と頷いただけだった。別に不満も不平も漏らさなかった。

    アルミン「だけど、トーマスから聞いたんだ。ここには泉があるって」

    そう言うと、ジャンは驚いたような顔をした。
    「泉なんてあるのか?こんなところによ」

    アルミン「だけど、トーマスが言っていたのだから、あるんだろう…けど」

    そう言うと、ジャンはそれ以上言わなかった。まあ、あるという信憑性があるわけではない。
  90. 92 : : 2014/11/27(木) 21:57:17
    トーマスの言っていた泉は、馬小屋の変な小道を抜け、木々を抜けたところにある、らしい。

    馬小屋につき、小道を探す。小道を探している僕をジャンは不思議そうに見た。

    「あれか…」すごくわかりにくいところに、小道があった。

    僕とジャンは一列になり、その小道を通った。小道にはたくさんの枯れ葉が落ちていた。

    木々の間を通り、抜けるとそこには広がる泉があった。僕とジャンは歓声をあげた。

    アルミン「トーマスの言っていたことは本当だったんだよ」

    ジャン「そうみたいだな、しかし何故こんなところに泉があるんだ?」
  91. 93 : : 2014/11/27(木) 21:57:44

    僕らがそんな風に話していると、後ろから声が聞こえた。

    「ここは、〝知恵の泉〟だよ」

    僕とジャンは振り返った。するとそこにいたのは、ユミルだった。

    ジャン「なんだ、ユミルかよ…」

    ユミル「悪いな、私だ。何だと思ったんだ?」

    アルミン「この泉の…精霊……とか?」

    そう言うと、ユミルは馬鹿にしたように笑った。
    「泉の精霊か…、アルミンにしては面白い冗談じゃねぇか」
  92. 94 : : 2014/11/27(木) 21:58:06

    冗談ではなく、少し本気だったのは黙っておこうと僕は思った。何故なら、余計笑われてしまうから。

    アルミン「ところで、何でここが知恵の泉ということを知っているの?」

    そう訊くと、ユミルはめんどくさそうにして、
    「図書室での自習の時に適当にとった本が、知恵の泉という本でね」

    ジャン「どんな話だ?」

    ジャンがそう訊くと、ユミルはめんどくさそうにした。
    「あんまり覚えていねぇんだが、曖昧でいいか?」

    そう訊かれ、僕とジャンはコクリと頷いた。ユミルは知恵の泉について話始めた。
  93. 95 : : 2014/11/27(木) 21:58:39







    人間が壁を築きあげる前に、訓練兵団というものはなかった。巨人はいた。

    駐屯兵団などの三つの兵団もあった。しかし、名前は違い、役目も違った。

    この訓練兵団の敷地はもとは、調査兵団の本部であった。

    調査兵団の役目は巨人に対抗すること、それのみだった。

    この地は最も巨人が現れない場所だった。何故なら、巨人にとっては微妙な高さの木々に囲まれた場所だったからだ。

    ある日、調査兵団の団員は、泉を見つけた。泉を見たのは初めてだった団員は石を泉に投げた。
  94. 96 : : 2014/11/27(木) 21:59:06

    別に特に何も起こらなかった。しかし、花がたくさん咲いていて、気持ちの良い場所だったため、団員はほぼ毎日、泉へと行った。

    とある日のことだった。その前の日は巨人討伐に明け暮れていた。仲間も多くが死んでいき、親友も死んでいった。

    団員の涙は枯れてしまい、もうでない。しかし、親友のことを思い出すと、堪えきれないくらいに、やりきれない気持ちになる。

    ふと、泉の水面を見るとそこには、まだ夜ではないというのに、月がうつっている。

    強い風がビューッと吹くと、辺りに咲いていた花びらがとれ、風に舞った。

    何が起きたのかわからなかった団員は、ただ座りこみ、唖然としていた。

    団員は本部に戻り、いつも通りに訓練をこなしたりしていた。

    団員は非凡な発送をし、ぶどう弾や、立体機動装置の設計を考え、その名は語り継がれた。







  95. 97 : : 2014/11/27(木) 21:59:31

    ジャン「それ、実際の歴史にある話じゃねぇか?」

    ユミル「まあ、そうっちゃ、そうだな」

    二人は話始めた。他愛もない会話を始めた。僕は気がかりに思うことがあった。

    死んでいった親友のことなどを思い浮かべれば、月が見えた。そして、知恵というものを身につけた。

    もしかしたら、もしかしたらだが。試してみる価値はある。

    僕は死んだおじいちゃんの顔を思いだし、胸がキュウと傷んだ。泉を見ると、月は見えなかった。

    ジャンが戻ろうと言い出したので、僕らは戻ることにした。僕は最後に泉を見た。やはり月はうつっていなかった。

    アルミンとジャンが去ったあと、ユミルは泉の水面をボーッとみていた。





    そこには月がうつっていた。










  96. 98 : : 2014/11/29(土) 21:51:18


    「貴方を支える」



    調査兵団元本部の室内には良い匂いが漂う。この匂いがどこからなのか、調査兵団元本部にいるリヴァイの班、通称リヴァイ班の班員は自分の鼻を頼りにし、探し当てる。

    すると、その良い匂いを漂わせている、匂いのもとは厨房であることがわかった。

    厨房では、ペトラが夕食の支度をしていた。リヴァイ班といえど、特別食事がこれといって優遇されるわけがなかった。

    ペトラが食事の当番であり、実をいうと彼女以外料理が出来るものは、リヴァイしかいなかった。

    班員達は、腹を空かせ、テーブルでまったりと夕食が出来るのを待っているのだった。
  97. 99 : : 2014/11/29(土) 21:51:37

    ペトラ「エルド、夕食運ぶの手伝って」

    私がそう言うと、エルドは「わかった」と言って厨房に来た。エルドはスープの入った皿を二人分持っていった。

    私もエルドについて行くようにし、二人分の皿を持ち、持っていった。

    この流れを何度か繰り返すと、リヴァイ班、計六名の夕食が四角いテーブルに並ぶ。

    運び終えると、私はエルドにお礼を言った。そして、空いている席に座る。私が座るとエルドが空いているオルオの隣に座った。

    オルオ「おい、ペトラ。いくら俺の隣に座るのが相応しくないからって遠慮するんじゃねぇ。お前は俺の女になるには…
  98. 100 : : 2014/11/29(土) 21:52:05

    ペトラ「うるさい、オルオ。死んだら?」

    そう素っ気なく言うと、オルオはまだ話の続きを始めた。班員も飽き飽きしてきているのが、表情からでもわかる。

    オルオ「俺の女になるには…プギャァァ…」

    オルオの口から血が流れ出た。そして、妙に高い悲鳴。舌を噛んだのだ。

    この元本部に来てから一ヶ月近く経つ。オルオは何回舌を噛んだのだろう。

    ペトラ「舌噛みきって死ねばいいのに…」

    私がそうボソッと言うと、エレンが驚いたように目を見開いた。エレンがいきなり、目を見開いたので私も驚く。
  99. 101 : : 2014/11/29(土) 21:56:44

    ペトラ「えっ何?」

    そう言うと、エレンは怯えたように「な、何でも!ありません…!」

    リヴァイ「もういいか食べて…」

    リヴァイがしばらく閉じていた口を開いた。一気にシーンと静まりかえった。

    班員達は、「す、すみません!」「そ、そうですよね!」などと狼狽える。

    リヴァイはパンをちぎり、口にいれた。そして、班員達は他愛もない会話を始める…。

    エレン「ペトラさん、今日は何だか豪華ですね」

    ペトラ「……えっ?あ、うん。ええ、明日は壁外遠征だから、頑張らなくちゃ、と思ってね」
  100. 102 : : 2014/11/29(土) 21:57:04

    私の顔は今雲っているのかもしれない。太陽のようなエレンを見ると、尚更そう思えてくる。

    エルド「グンタは遺書書いたか?」

    グンタ「書いたぜ?だけど、俺にはお前みたいな彼女がいねぇからな」

    エルド「今度式あげるから、来てくれよな」

    遺書、私も書いた。調査兵団の兵士等は毎回、壁外遠征がある度に遺書を書き改めなくてはならない。

    遺書は愛する家族や想い人、婚約者や親しい友人などに宛てて書くものだ。

    他愛もない会話をしているうちに、夕食を食べ終える。そして、席をたち、自分の部屋へとも戻り寝床につく。
  101. 103 : : 2014/11/29(土) 21:57:23

    私は厨房でお皿を洗っていた。そして、班員が今まで使ってきたカップを。

    洗い終えると、私は珈琲を飲もうと、自分のカップを手にとる。そして、珈琲の準備をしたら、テーブルへと向かった。

    今、ここには私しかいない。

    私は明日死ぬのだろうか。壁外遠征では、死と隣り合わせと言ってもいいほど、危険なもの。

    ペトラ「…死ぬって何だろう…?」

    私はそう呟いた。それに返事されるとは思ってもいなかった。
    「さあな…、諦めることじゃねぇか?」

    いきなり声がして、私は背中をビクッとさせる。そして、私は立ち上がり、リヴァイ兵長の方を向いた。
  102. 104 : : 2014/11/29(土) 21:57:44

    ペトラ「り、リヴァイ兵長。どうされたんですか?」

    そう訊くと、リヴァイは
    「珈琲でも飲もうかと思ってな…」

    ペトラ「なら、私が用意してきますね」

    私はそう言って、厨房へと向かった。リヴァイが驚いたような顔をしていたのも知らずに。

    ペトラ「聞かれちゃったなあ…」

    私はそう呟いて、珈琲をカップにそそぐ。珈琲の香りがフンワリとする。

    『諦めることじゃねぇか?』その言葉が心に響く。諦めること、それが死を意味する、そういうことなのだろうか。

    リヴァイのカップをもち、テーブルへと向かった。
  103. 105 : : 2014/11/29(土) 21:58:05

    リヴァイ「すまねえな…」

    私はカップをテーブルに置き、椅子に座る。リヴァイは珈琲を口に運ぶ。

    ペトラ「私、エレンに嘘をついてしまったんです…」

    私がそう言うと、リヴァイはゆっくりと口を開き
    「今日の夕飯は豪華なのは、明日が壁外遠征でがんばる為なんかじゃねぇんだろ?死ぬかもしれないから、最後ぐらいの食事は…」

    ペトラ「そうなんです…」

    リヴァイ「すごいはりつめたような顔をしていたぞ?」

    ペトラ「最後くらいは…」
  104. 106 : : 2014/11/29(土) 21:58:31

    私はそう言ってうつむいた。あの太陽みたいなエレンに嘘をついた罪悪感。

    最後くらいは、食事だけでも豪華に、そうオモッのだ。頑張るためなんかじゃない…。

    ペトラ「リヴァイ兵長は、怖くないんですか…?」

    つい、そう聞いてしまった。怖いのだったら、何故そんなにも強くあれるのか、それが気になった。

    リヴァイ「…怖くはない。調査兵団に入るまでは、怖いもんなんてなかった。あの頃の俺は…」

    リヴァイ「俺に怖いものがあるとするのならば、それは仲間の死だ……。だから、お前や…」

    リヴァイはそこまでで口をつぐんだ。いや、喋れなかったのだ。
  105. 107 : : 2014/11/29(土) 21:59:08

    リヴァイ「…何故、泣いている?」

    リヴァイはそう言って、私の頬に伝う涙を指でぬぐった。私はハッとする。

    ペトラ「え?私…」

    私はそう言って、涙をぬぐった。すぐに涙はとまった。何故、涙がでたのかはわからない。




    調査兵団に入った当初、リヴァイの評判は、私みたいな新米の兵士にも耳が届いていた。

    冷徹で冷酷で、仲間の死なんぞどうとも思わない、人類最強だが、人間としては欠陥だ。

    そう聞くほど、評判は良いものではなかった。
  106. 108 : : 2014/11/29(土) 21:59:35

    しかし、私はリヴァイ兵長の優しさと、その優しさの上で成り立っている強さを知った。

    仲間がもう助からない、そんな時、潔癖であるはずのリヴァイ兵長は、血まみれの仲間の手を強く握った。

    そして、熱く語りかけ、誰よりも辛い表情をしていたのを、私は見た。




    リヴァイ「俺が死んでもなんとも思わねえのだろうな、ただ人類最強が死んだ、人類に道はない。それだけだ」

    リヴァイは特に悲しい顔もせず、呆れたようにそう呟いた。

    そんなわけない。あなたが死んだら…。
  107. 109 : : 2014/11/29(土) 22:00:06

    ペトラ「あなたが死んだら、たくさんの人が悲しみます。私も、リヴァイ班の皆も。調査兵団の団員も!」

    ペトラ「リヴァイ兵長は本当は優しいのに…。私が、あなたを支えます!だから…、だから…、だから……!」

    ペトラ「そんな悲しいこと言わないでください」

    私はこの時、心に決めたのだ。あなたは私が支えると。私があなたの支えになるかはわからない。

    だけれど、少しでも、あなたの重荷がとれるのならば、私は土台でも支えでも何でもいい。





    私は死なない、これ以上あなたに重荷を背負わせたくないから…







  108. 110 : : 2014/12/01(月) 21:01:58


    「素朴」



    私が訓練兵団に入り、もう二週間が経った。訓練兵団に入った当初、させられたことは通過儀礼だった。

    あの時点から、私は道を誤ってしまったのだろう。

    もともとは、私が食堂にあった芋を盗んできてしまったのが大きな誤ちだったのだ。

    盗まなければ、通過儀礼中に芋を食べるなどという行為には決してやらなかったというのに。

    通過儀礼が終わり、私はずっと走っていた。死ぬまで走れといわれ、死ぬまで走った。
  109. 111 : : 2014/12/01(月) 21:02:19

    私はバサリと倒れてしまった。もう、ここで死ぬんだと、諦めていた私にパンのお恵みをくださった女神様は慈悲深い。

    しかし、それと同時に悪魔のような…、いや悪魔にも私は助けられてしまったのだ。

    悪魔は私に命と労働力を等価交換でいいより、今では私は悪魔の手下…。慈悲深き女神様は、私を手伝ってくださる。





    通過儀礼を終えたと思うと、まずは掃除をさせられた。掃除は基本とかなんたらと言われ、私たち訓練兵は三日もかけて、掃除をした。

    掃除を終えたと思ったら、ぶっ続けに座学という、挫けそうな訓練。
  110. 112 : : 2014/12/01(月) 21:02:57


    そして、今は講義中。

    ベルトルト「サシャ、消しゴムを転がして遊んでいるとそのうち床に落ちるよ…」

    サシャ「す、すいません」

    私は消しゴムを転がすのをやめる。そして、はぁとため息をつく。





    その日の夕方、ユミルに無理矢理手伝わされ、バケツに水を汲まなくてはならなかった。

    クリスタ「本当にごめんね…」

    クリスタは苦笑いをして謝った。
  111. 113 : : 2014/12/01(月) 21:03:23
    何故クリスタが謝るのだろうかと思ったが、それはクリスタだからなのだろうと思った。

    サシャ「別に気にしないでください」

    私がそう言うと、クリスタはまだ悪そうに、こちらに気を遣っていた。

    ユミル「そろそろうぜぇんだが…」

    いきなり、ユミルの不服そうな声が聞こえ、思わず「はい?」という声がもれた。

    ユミル「お前のその馬鹿丁寧なしゃべり方だ」

    痛いところをつかれ、私は何もいえずにいる。ユミルは不機嫌そうにこちらを見た。
  112. 114 : : 2014/12/01(月) 21:03:45

    ユミル「何で同期にまで敬語なんだよ?」

    「えーと…これはですね、えーと」
    と、私は誤魔化すように言う。

    すると、ユミルは何か閃いたように、顔をニヤリと豹変させた。

    ユミル「待て…当ててやろう。お前…故郷の言葉が恥ずかしいんだろ?」

    また、痛いところをつかれ、私は何もいえずにいる。本当は「違う!」そう言い返したかった。

    ユミル「意外と気にするんだな、お前…。馬鹿なくせに。狩猟以外なこと何にも知らなくて、世間や人が怖いんだな?」
  113. 115 : : 2014/12/01(月) 21:04:11

    ユミル「兵士を目指したのだって、大した理由じゃないはずだ。大方、親にでも…」

    ユミルがその先を言うのを防ごうとしたが、ユミルはクリスタに頭突きをする。

    ユミル「サシャ…お前ずっと人の目を気にして生きてくつもりかよ?」

    ユミル「そんなのはくだらないね!いいじゃねえか!お前はお前で!!お前の言葉で話せよ!」

    これはユミルの本音なのだろうか。いつもの嫌味な態度ではなく、違うユミル。

    ありのままを、出せと言ってくれている。私は…
  114. 116 : : 2014/12/01(月) 21:04:44

    サシャ「ありがとう……。ございます」

    やはり、敬語になってしまう。サシャは「あ?」と凄みを利かせる。

    クリスタ「やめなよ!人に言われて話し方を変えることないよ!」

    クリスタがユミルに頭突きをする。クリスタが声をあらげたので、驚く。

    クリスタ「サシャなはサシャの世界があるんだから、今だってありのままの言葉でしょ?私はそれが好きだよ!」

    ユミル「物はいいようだな…」

    ユミルは鼻で笑った。

    ユミルとサシャの言葉は胸に響いた。ありのまま、それが一番なのだと。笑いが止まらなくなった。

    ユミル「オイ、何笑ってんだ?」


    サシャ「すみません…」






  115. 118 : : 2014/12/03(水) 21:29:11


    「特別」



    俺とペトラは幼き頃からの仲だった。アイツが泣いたら俺が慰め、俺が泣いたらアイツが怒る、そんな仲だった。

    その時から、お前には特別な感情を抱いていたのだと思う。

    俺は元々訓練兵団に入るつもりであった。憲兵団に入ることが夢だった俺に比べ、ペトラは何の夢もなしに訓練兵団に入ると言い出した。

    ペトラの父親は反対をした。勿論、俺もペトラが訓練兵団に入ることを反対した。
  116. 119 : : 2014/12/03(水) 21:29:33

    しかし、訓練兵団に入るとの一点張り。ペトラの父親が折れ、ペトラが訓練兵団に入ることを許した。

    元々、ペトラの母親は調査兵団の兵士だった。病気で亡くなって以来、男手一つでペトラを育てたのがペトラの父親。

    そして、念願の訓練兵団に入れたペトラは俺が驚くほどの成長を遂げた。

    もともと努力家なアイツは、最初はあまり良い成績とは言えなかったが、みるみるうちに上位に食い込むようにとなっていった。

    そして、三年もの月日が経ち、卒団となった。ペトラは四番、俺が六番という成績になった。
  117. 120 : : 2014/12/03(水) 21:29:55

    俺は念願の憲兵団に入ることが叶ったと喜んだ。きっとペトラも、憲兵団に入るのだろう。

    俺はそう思っていた。しかし、前日にペトラに訪ねると、答えはちがかった。ペトラは調査兵団に入ると言い出したのだ。

    三年前と変わらず、唐突に物事を決めるところは変わっていなかった。父親とは喧嘩したと言っていた。

    それは、ペトラの父親の思いにも心配にも同情する。自分の愛しい娘がわざわざ死ににいくような場所に自ら飛び込んでいくのだ。

    行かせたくない、そう思うだろう。ペトラは一体何を思って調査兵団に入ることを決断したのだろうか。
  118. 121 : : 2014/12/03(水) 21:30:16

    ペトラが調査兵団に入るときき、そのまま流されてしまった俺は、ペトラに嫌味を言われた。

    男ならもっと自分の道を進めとか、人に左右されるなとか。

    ごもっともなことを言いやがるコイツは見ているほうが大変に思えるほど、真面目でまっすぐなのだ。

    だが、いつかは挫けることがあるだろう。

    例えば友人の死。愛しい人の死。仲間の死。それはアイツの頭を悩ませるものだろう。

    そんな時、隣にいて支えてやりたい、俺はそう強く思ったのだ。
  119. 122 : : 2014/12/03(水) 21:30:40





    ペトラ「何ボーッと外なんか見てカッコつけているのよ?ちっともかっこよくもないからね?頭大丈夫?」

    ペトラはそう言ってため息をついた。俺はなんなんだよと思いながら心の中でため息をつく。

    オルオ「ペトラ、嫉妬なんてするな…、まだお前は俺の域には達しちゃあいねぇが、嫁にとってやっても…

    俺は舌を噛んだ。最近、舌を噛む回数が増えてきている気がする。どうにかならないものなのだろうか。

    毎回毎回白いハンカチを血に染め、洗うのも嫌になってくる。しかも、今は十二月と凍えるように寒い。
  120. 123 : : 2014/12/03(水) 21:31:10

    ペトラ「はぁ、あんた本当に舌を噛むよね?何なの?もっとゆっくり喋ったら?」

    オルオ「げっふ…はぁ。……まあ、そうかもしれないな…」

    舌がピリピリと痛む。ペトラは呆れたような目線をこちらに向けている。

    昔はあんなにも無邪気で、こんな目付きなんぞしなかったのに、何故こんな目付きになってしまったのだろうか。

    オルオ「お前は何故、調査兵団に入ったんだ?俺は、まあ、お前の知っている通りの理由で入ったんだがな…」

    そう訊くと、ペトラは呆れたような目線をやめ、いつもの目付きに戻す。
  121. 124 : : 2014/12/03(水) 21:31:30

    ペトラ「そんなの決まっているじゃない…。私たちで途絶えてしまえば、人類の勝利に近づけるとでも思うわけ?」

    ペトラ「だから、私たちが人類の勝利の一歩、または架け橋となれるならば、私は喜んでこの命を差し出すわ」

    そう言ったときのペトラの目はまっすぐ、未来を見据えていて、その表情には何かを感じさせるものがあった。

    俺はきっとコイツのこういうところに惹かれたのだろう。

    コイツの支えとなりたいと思ったのだろう。



    ペトラ「何ジロジロ見てるのよ?気持ち悪いんだけど…」









  122. 125 : : 2014/12/04(木) 20:28:43


    「貴女を守りたい」



    自分と、ハンジ分隊長との馴れ初めとは一体どんなものだったのだろうか。

    正確にはあまり覚えていないが、エルヴィン団長に、「確か君は、座学が優れている、と聞いたのだが…」

    エルヴィン団長に団長室まで呼ばれ、お茶を振る舞われ、そう訊かれた。

    「優れている、というほどでもないですけど、得意ではありました…」と、曖昧に答える。

    エルヴィン団長は少し嬉しそうな顔をした。その理由はその時はわからなかった。
  123. 126 : : 2014/12/04(木) 20:29:03

    「それなら、ハンジの隊に入ってくれ」そう命じられた。その時から自分の危険な人生が、より危険な人生になったのだ。

    その頃は、ハンジ分隊長が変わっている、という噂は聞いたことがあったが、あそこまでの奇行種っぷりは予想していなかった。

    エルヴィン団長に命じられ、翌日にハンジ分隊長の部屋へと赴いた。

    ハンジ分隊長の部屋はお世辞にも綺麗と言えぬほど汚かった。どうしたら、ここまで汚くなるのかと訊きたいぐらいだ。

    机には大量の書類や分厚い本が置かれていた。ハンジ分隊長はこちらに気づくなり、「巨人の良さって何だと思う?」
  124. 127 : : 2014/12/04(木) 20:29:29

    そう訊いてきた。それからというもの、丸半日巨人について細かく話される。

    ハンジ分隊長の好きな巨人の顔は、目がでかくて金髪な巨人が好みということも、ハンジ分隊長の好きな巨人の体型は、少しお腹がでているくらいだといういらない情報も俺の知識となった。

    丸半日かかり、ハンジ分隊長は今さら、かなりの長時間話していたことに気がついた。外は真っ暗になっている。

    お腹の音が鳴ってしまい、俺は慌てて「すみません!」と謝った。

    ハンジ分隊長はあまり気にしていないようで、「ごめんごめん、長い間話し過ぎたね。食堂ももうしまっているだろうし…、近くの居酒屋にでも行こうか。私の奢りだよ」

    俺は断るが、ハンジ分隊長は耳をかたむけず、俺を居酒屋へと連れていった。
  125. 128 : : 2014/12/04(木) 20:30:08





    居酒屋は調査兵団の兵士が数名ほどいた。俺の顔見知りのナナバとゲルガー、リーネが飲んでいる。

    ハンジ分隊長は奥のテーブルへと俺を連れていった。そこにいたのは、なんとリヴァイ兵長とエルヴィン団長だった。

    俺は慌てて敬礼をすると、エルヴィン団長は爽やかに俺に微笑みかけた。

    エルヴィン「敬礼なんてしなくていい、それよりも座りたまえ、モブリット副隊長」

    モブリット「すみません、ありがとうございます…」
  126. 129 : : 2014/12/04(木) 20:30:33

    俺はそう言って座った。そして、エルヴィン団長が言った言葉に疑問をもつ。

    モブリット「エ、エルヴィン団長!副隊長ってどういうことですか?」

    エルヴィン「君がハンジの補佐役なのだよ」

    モブリット「可笑しくありませんか?今日入ったばかりの俺に務まるわけありません!」

    リヴァイ「ピーピーうるせえな、できないからやらないんじゃねえ。できなくてもやるんだ、やってみせろ」

    リヴァイ兵長はそう言ってグラスに注いである酒を口に含んだ。そして、俺をギロリと睨んだ。
  127. 130 : : 2014/12/04(木) 20:31:10

    モブリット「す、すみません。しかし…」

    ハンジ「君は嫌かい?私の隊で副隊長の役目を負うのを」

    リヴァイ「まあ、俺だったらクソ眼鏡の補佐役なんて御免だがな…」

    なんなんだよあんたたち!そう言いたかったが、そこをぐっとこらえる。

    エルヴィン「まあ、のみたまえ。私達の奢りだよ」

    エルヴィン団長は俺のグラスに酒を注いだ。俺はお礼を言うと、酒を少し飲む。

    あまり酒には強いほうではない。だから、いつも度数の低いやつを飲むか、少量しか飲まないようにしている。
  128. 131 : : 2014/12/04(木) 20:31:55

    酔ったときの醜態ほど見苦しいものはない。

    それから、飲んだりしたりしてエルヴィン団長もハンジ分隊長もかなり酔い始めた。

    リヴァイ兵長は酔ってはいないようで、
    「このクソ眼鏡を連れてかえる。エルヴィンの野郎を頼んだ」

    そう言ってそそくさとリヴァイ兵長は去っていった。エルヴィン団長は、最後のしめとしてワインを飲むと言い出した。

    俺は丸投げ状態であった。
    「ハンジが何故あそこまで熱心なのぉ、か知っているか?」

    エルヴィン団長は少し呂律のまわらない口調で俺に問う。俺は首を横にふった。
  129. 132 : : 2014/12/04(木) 20:32:30

    エルヴィン「アイツの親友がな、ずっと前死んでな。それ以来、必死に巨人の謎をぉ、解明しようとしているんだ。敵討ちと言ったところ、だろうなぁ」

    ハンジ分隊長が何故、あそこまで巨人に対して熱心なのかがわかった。

    エルヴィン「あんな奴に見えるが、結構小心者で傷つきやすいんだ。君が守ってくれ」

    エルヴィン団長はそう言って、真面目な眼差しをこちらに向けた。

    俺はわかりました、と静かに言った。




    傷つきやすい彼女を守ると同時に彼女と共に歩んで行く。それが俺の危険な運命の役目。


    ああ、受けてたとうじゃないか。


    この先どんな辛い運命だとしても。







  130. 133 : : 2014/12/05(金) 21:30:06


    「人生の出発」



    人生の出発とは何だろうか。

    何かを決断したときか。または、何かを失ったときか。それは誰にもわからない。

    人それぞれ。

    しかし、人は自分の出発が来たことを必ずしも知る。何故かはわからない。けれどいつの間にか決心するのだ。

    それが人というもの。それは、良し悪しわからない。けれど、適当にそう思うしかないのだろう。
  131. 134 : : 2014/12/05(金) 21:30:26






    ジャン・キルシュタイン、15歳。俺は幼い時に自分の進む道を見つけた。

    それは、危険ではなく安全な道。訓練兵団にはいってそこから、憲兵団を目指すこと。

    憲兵団に入れば、内地で暮らすことができる。そして、他二つの兵団よりも給料は良い。

    訓練兵団に入っても、俺は自分の道からそれずにいた。他人の意見に惑わされずに、自分の意思を通してきた。

    俺が通し続けてこれた理由は、若さゆえの自信と、希望というものと、アイツがいたからだと俺は思う。
  132. 135 : : 2014/12/05(金) 21:30:50

    アイツは常に俺につっかかってきた。いや、違う。俺が常にアイツの言うことを否定してきたのだ。




    そんなのはただのいきがりだ。


    死に急ぎ野郎。


    脳内がお花畑のよう。






    そう言ってアイツにつっかかっていった。初めて交わした言葉も、最近交わした言葉も全て否定的なもの。
  133. 136 : : 2014/12/05(金) 21:31:16

    正論で、絵に描いたような兵士といってもいい、兵士の鏡といってもいいほどまっすぐだったアイツ。

    現実的で屁理屈で、兵士像とはかけ離れ、人間の欲をうつしたような俺。

    綺麗なアイツに憧れるものもいるはずだ。しかし、この中でもひとりは俺みたいなことを思っているはずだ。


    いや、ほぼ半数が思っている。


    それを隠しているのだ。恥じるべきこととして。しかし、恥じるべきことではないのだ。
  134. 137 : : 2014/12/05(金) 21:31:49

    自分が決めた道を堂々と歩くのが何が悪いんだ。文句をいうやつが間違っているのだ。

    自分で決めた道には、誰も口出ししてはならない。口出しなんぞするなど、野暮すぎる。

    だから、真っ直ぐなアイツを俺は否定し続ける。


    野暮だが、否定し続ける。


    周りの奴がアイツを肯定しても、誰かひとりは憎まれるべき存在に、そして否定し続けなくてはならないのだ。

    アイツはきっと折れてしまうのだろうから。
  135. 138 : : 2014/12/05(金) 21:32:32

    アルミンはアイツの支えといってもいいだろう。アイツにないものをカバーしている。

    ミカサは心の支えとなるだろう。安心感と味方意識、それがアイツを強くさせる。

    しかし、二人はアイツを否定するという行為はないのだ。

    だから、俺は否定し続ける。




    俺の人生の出発は、アイツと否定から始まる出会いをしてから。



    そのときから、出発しているのだ。









  136. 139 : : 2014/12/06(土) 20:09:16


    「常に快活」



    俺が兵長という役目が与えられ、しばらく日が経った。昨日に壁外調査があり、その度も、かなりの被害をうけた。

    自分の班も、半分が巨人に殺された。こうなることはわかっていた、どこかで。

    腕の良く、経験があるアイツ等を自分の班にひきいれた理由はたったひとつ。


    死ぬ確率が少ないからだ。


    しかし、俺の班にひきいれた奴等はどんどんと死んでいった。それまでの数年間は死ななかったというのに。
  137. 140 : : 2014/12/06(土) 20:09:37

    何故かはわからない。俺が疫病神なのだろうかと、疑ったこともあった。

    ただ真っ直ぐでぶれなかったアイツも
    マイペースでお人好しなアイツも
    自分勝手で人一倍臆病なアイツも
    優しすぎて損ばかりするアイツも
    強気でいてポーカーフェイス気取りのアイツも
    勇気があって信頼の厚かったアイツも

    死んでいったのだ。死なないでくれと、壁外調査前日は願うばかり、それなのに俺の班からは毎回死者がでる。

    何故だというのだ。仲間の死で憂鬱になる日々。当に慣れきっている筈、それなのにただただ虚しさばかりが漂う。
  138. 141 : : 2014/12/06(土) 20:09:59

    何故だというのだ。仲間の死で憂鬱になる日々。当に慣れきっている筈、それなのにただただ虚しさばかりが漂う。

    俺はいつも通り仕事をしていた。いつも通りといっても気が抜けているのは確かである。

    掃除をいくらしても落ち着かない。好物の珈琲や紅茶を飲んでも落ち着かない。

    酒に逃げようかと思った。そう思っていたら、ナナバが俺の部屋へとはいってきた。

    ナナバ「随分、体調が優れなさそうだけれど、大丈夫?」
  139. 142 : : 2014/12/06(土) 20:10:20

    ナナバは心配したようにこちらを見る。ナナバはいたって普通。

    確か、ナナバの隊からも死者が多数出ているとミケから聞いた。

    しかし、ナナバは憂鬱そうではない。むしろ、快活だ。いつも通りの快活さ。

    リヴァイ「…まあな」

    ナナバ「リヴァイの班は半分が壊滅したと聞いたよ。残念だったね…」

    ナナバは悔やむようにこちらを見た。俺は、「…ああ」と頷く。

    ナナバ「もう、夜が遅いのだし、お酒でも飲まないかい?」
  140. 143 : : 2014/12/06(土) 20:10:37

    ナナバは俺に元気を出させようとしているのか、それともただ飲みたいのかわからないが、俺を飲みに誘ってきた。

    ナナバが来る前、酒が飲みたいと思っていたところだった俺は頷いた。

    ナナバから仕事の書類を受け取り、俺とナナバは飲みに行くことにした。

    駐屯兵団よりは給料は良いが憲兵団よりは遥かに低い。まあ、憲兵団は世間でいういわば、エリートなのだ。

    夜の街は飲み屋が点々とある。俺とナナバは行きつけの飲み屋へと入る。

    すると、憲兵団もわざわざ内地から来たようで、ヘラヘラと飲んでいる。
  141. 144 : : 2014/12/06(土) 20:11:07

    憲兵団の兵士等はこちらに気づいたようで、睨みつけてきた。俺はフッと嘲笑する。

    「調査兵団のリヴァイ様のご登場ですかい。良いご身分で」

    兵士はこちらに絡んできた。ナナバと俺は顔を見合わせた。

    「あんたらの為にこちとら、給料が削られたりする時もあるんだよ、こっちは人が死のうがどうでもいいのによ」

    兵士がそうブツブツと文句を言ってきた。めんどくさく、何とも鬱陶しい奴等だ。
  142. 145 : : 2014/12/06(土) 20:11:33

    俺は無視を決め、店の奧へと行こうとした。しかし、ナナバは歩きださない。

    ナナバが一体どうしたものかと思い、見ると、ナナバは兵士の胸ぐらを掴んだ。

    ナナバ「ん?人の死ってどうでもいいのかな?じゃあ、あんた等の死もどうでもいいんだよね?うん?」

    ナナバは嘲笑しながら、饒舌な口をペラペラと言った。兵士は怯えている。

    ナナバ「今、ここでこの酒瓶で殺してあげるよ、ね?」

    「ひ、ひぃぃぃぃ…や、やめてくれぇ…ぇ」
  143. 146 : : 2014/12/06(土) 20:11:55

    兵士は既に泣いている。俺はめんどくさいと思いながら見ている。

    ナナバが兵士に酒瓶を降り下ろ…

    したと思った。しかし、兵士の頭には酒が浴びせさせられていた。

    ナナバ「殺すわけないでしょ?さあ、行こうか。リヴァイ」

    ナナバは踵を返し、店の奥へと行く。俺ははあとため息をつき、ナナバの跡について行く。

    椅子にドカッと座り、酒を頼み何杯か飲む。度数の強めなものを飲んだので、だいぶ酔いがまわってきた。
  144. 147 : : 2014/12/06(土) 20:12:24

    ナナバもさすがに酔ってきたのだろう。頬が少し赤く染まっている。

    ナナバ「…私の同期が死んじゃったんだ……」

    ナナバはふいにそう呟いた。ナナバは無表情で、そう呟いた。

    ナナバ「酒で忘れようと思ったけど、どうにも忘れられないんだ…。いつもなら、寝れば傷は浅くなるというのに、今回はどうも…その」

    リヴァイ「仲間が死に過ぎた…」

    ナナバ「そう…死に過ぎたんだ。同期とか仲の良かった先輩とか…後輩とか」
  145. 148 : : 2014/12/06(土) 20:12:43

    ナナバは感傷にでも浸るかのようにグラスを持ち、眺めた。中々、絵になる。

    絵になるような美青年顔の女、ナナバに憧れ、調査兵団に入った者も大勢いるだろう。

    言い寄られたりすることも、しばしばあるようだ。しかし、ナナバはそれには応えない。

    そして、その者達を酷く哀しそうに見る。以前、何故かと聞いたことがある。

    ナナバは哀しそうに笑って、
    「あの子達の未来を狂わしてしまった、と考えると、ね。あの子達は私がいなければ、きっと駐屯兵団なり憲兵団に入っていたんだと思うよ」
  146. 149 : : 2014/12/06(土) 20:13:12

    今いるナナバの表情は、まさにそう言ったときの表情と同じだ。

    常に快活なナナバは仲間が死んだ次の日でも、快活にしている。

    何故かはわからない。感傷に浸る主義ではないのだろうと俺は自己解釈していた。

    ナナバ「…たくさん、仲間が死んだのに、何故か涙が出ないんだよ、私って冷たいよね…」

    ナナバはそう言って、グラスに入った酒を一気に飲む。

    リヴァイ「お前は、冷たくなんかないだろう。死んだ仲間も別にお前に泣いてほしくて死んだわけじゃないだろ?お前はいつもの笑顔で周りを勇気づけりゃあいいんだよ」

    俺がそう言うと、ナナバは「それもそうだね」とフフッと笑い、そしてにこやかに微笑んだ。

    そして、ナナバはしばらくすると寝てしまった。寝顔はまさに美青年。

    その瞼からは、一粒の雫が伝っていた。







  147. 150 : : 2014/12/07(日) 11:34:02


    「魅力」



    ハンジ「ニファ、この実験とこの実験はね、巨人の視力に関することを立証するために行ったんだよ」

    ニファ「そうなんですか?だけど、巨人は目を破損させても一分もあれば簡単に再生させることができてしまいますよね?」

    今、ハンジ分隊長ととある実験のことについて話している私は心が踊るような幸福に包まれている。

    ハンジ分隊長は幼い子供が新な発見をした時のように目をキラキラと輝かせて話している。

    そこがハンジ分隊長の良いところであり、そしてハンジ分隊長の可愛さだと私は思う。
  148. 151 : : 2014/12/07(日) 11:34:27

    周りの同期や先輩方はハンジ分隊長のことを、「奇行種」「調査兵団創設以来の変人」などと呼ぶが私はそうとは思わない。

    謎を解き明かそうとしている、好奇心が旺盛な人だと思う。

    同期や先輩方はあまり近づかない。しかし、ハンジ分隊長の周りにはいつも人がいる。

    ナナバさんや、モブリット副隊長、リーネさんにゲルガーさん、それからミケ分隊長にリヴァイ兵士長。

    みんなすごい人達ばかりだ。ハンジ分隊長の明るくて元気で、陽気なその魅力に惹かれて人が集まるのだろう。
  149. 152 : : 2014/12/07(日) 11:34:54
    私もそんなハンジ分隊長の魅力に惹かれて私もハンジ分隊長の側にいたいと思うのかもしれない。

    ハンジ「それでね、巨人には可哀想だけど片方の目を焼いたんだ。するとやっぱりすぐ再生してしまうんだ」

    ニファ「やっぱりそうなんですか」

    ハンジ分隊長は楽しそうに喋る。やはり知識欲が強い人なのだと私は思った。

    ハンジ分隊長の隊に入った時も、ハンジ分隊長は巨人について私に説明してくれた。

    しかし、その時は夜だっ為、夜通しでこの説明を聞くことになってしまったので大変辛いものだったのを今でも覚えている。
  150. 153 : : 2014/12/07(日) 11:35:23

    ハンジ分隊長は親切だし、側にいるだけで楽しいと思える。

    しかし、仲間が死んだ時のハンジ分隊長は少し苦しそうに思える。

    ハンジ分隊長が基本、作戦を考えている。なぜならば、彼女のその頭脳が正解に導く一番の近道といえるからだ。

    しかし、近道といってもそれは長いもの。これから、何年、何十年、何百年かかるかわからない。

    だけれど人類の勝利に私たち兵士は心臓を捧げた。だから、人類が前進する為にも私たちは死んでも構わない。
  151. 154 : : 2014/12/07(日) 11:35:42

    ハンジ「それでね…って聞いてる?」

    ニファ「…えっ?あ、はい。聞いてますよ!再生について、でしたよね?」

    考えごとに集中していて、ハンジ分隊長の話を全然聞いていなかった。

    ハンジ「聞いてなかったんでしょ?」

    ハンジ分隊長はそう言って私を見た。口角はあがり、ニコニコしている。

    ニファ「バレちゃいましたか…」

    私は誤魔化すように笑った。ハンジ分隊長にはバレバレというわけか。
  152. 155 : : 2014/12/07(日) 11:36:07

    ハンジ「何を考えていたの?教えてもらえない?」

    ニファ「…人類はいつ巨人に勝利できるのかなって思ったんです」

    ハンジ「人類の勝利、か」

    ハンジ分隊長は何かを思いだすように呟いた。何を思い出したのかはわからないけれど。

    ハンジ「そんなのは、私でもわからないね。何年、何十年、何百年、何千年とかかるかもしれない。けどね、私たち兵士が人類に命を捧げることは変わりはないよね?」

    ニファ「そうですね。ハンジ分隊長らしい考え方だと思います」

    そう言って私はフッと笑う。もしかしたら───




    ハンジ分隊長が人類を勝利へと導くかもしれない







  153. 156 : : 2014/12/08(月) 19:28:24


    「完全無欠」



    完全無欠と言われるが、私は本当に完全無欠なのだろうか。

    ちょっと人よりも、立体機動が使いこなせて、ちょっと人よりも対人格闘が強いだけ。

    別にアルミンみたいに頭が回るわけでも、ジャンみたいに指揮するのに向いているわけでもない。

    私が完全無欠などと言われて良いのだろうか。私みたいなのが数十年ぶりの逸材と言われていいのだろうか。

    私は完全無欠なんかではない。それは、他人よりも自分が一番知っている。
  154. 157 : : 2014/12/08(月) 19:29:01
    私は強い、それは過信ではなく事実。けれどもただ強いだけが、本当の強さなのかはわからない。


    ねぇ、お母さん、お父さん。

    強さって、なんだろう…?







    ライナー「俺なんかと組んで平気なのか、ミカサ」

    そう言って、ライナーは木でできた、人間には特に害のナイフを構えた。

    私もそれに対抗するようにして、構える。風がピューッと吹いて、私の髪を撒き散らす。
  155. 158 : : 2014/12/08(月) 19:29:29
    ミカサ「ええ、平気だけど、何故?」

    私がそう言うと、ライナーは「いくぜ」と言ってこちらに向かってきた。私は顎をひく。

    ライナー「何故ってそりゃ、アニとエレンが組むことをお前は嫌うだろう?」

    ライナーは私にナイフを向けながらも喋る。
    「そうだったかしら…?嫌っているつもりはない」

    私はライナーのナイフを取り、ポイッと捨てた。ライナーはそれでも向かってくる。

    ライナー「ああ、何とも思わないのか?アイツ等が組むことによ」
  156. 159 : : 2014/12/08(月) 19:29:49

    そう言ってライナーは強い蹴りをくりだそうとする。それを間一髪かわす。

    ミカサ「別に組もうが組まないが私には関係はない。エレンが危険な目にあわなければそれでいい」

    私はライナーの拳を止め、腕をガシリと掴みライナーの重い体を投げる。

    ライナーはうめき声をあげる。私は手をパンパンと叩き土埃をはらった。

    ライナーが立ち上がろうとする。私はライナーに手をさしだす。するとライナーは笑った。

    ライナー「女に手を借りるほど、俺はヤワじゃねえよ」
  157. 160 : : 2014/12/08(月) 19:30:11

    男の強がりというやつだろう。別にどうでもよかったため、私はさしだした手をひっこめた。

    ライナー「お前は何を悩んでいるんだ?」

    ミカサ「えっ…?」

    ライナー「俺に組めといってきたということは、何か困っていることがあるんだろ?」

    困っているというよりは悩んでいる、そう表したほうが正しい。

    ミカサ「…私なんかが完全無欠なんかと言われていいのだろうか…?」

    そう言うと、ライナーは驚いたように笑った。
  158. 161 : : 2014/12/08(月) 19:30:51
    ライナー「そりゃ、お前みたいな奴が完全無欠と言われるのはしょうがないだろう、それに──」

    ライナー「その悩みって随分贅沢なものだ。お前みたいにだいたいのものをかなりの高度にやりこなすことなんてそうそうできやしないことなんだ」

    贅沢な悩み。確かにそうかもしれない。「すごい」の意味合いをこめ、「羨ましい」と何度が言われたことがあった。

    ライナー「他人の言葉なんかに同様するな、お前はミカサだ。自分自身で思ったように行動しろ」

    ライナーはそう言ってニカッと笑った。私は
    「ありがとう、ライナー。悩みが解決しているわけではないけど、晴れ晴れとした気持ちになったわ、本当にありがとう」

    そう言って微笑んだ。

    ライナーは信頼も厚く、だいたいなものをこなすことができる。私は彼こそが完全無欠なのではないかと思う。

    彼こそがその言葉に相応しいのではないかと、そう思った。
  159. 162 : : 2014/12/08(月) 19:31:32







    蒸気が熱くまわりに出る中、私はライナーと対面する。ライナーと私の額には汗がつたう。

    ミカサ「ライナー、残念だわ…」

    ライナー「こうなるだろうとは思っていたよ。だが、俺はお前に殺されなんかしない…」

    あなたは完全無欠の人類にこの身を捧げたひとりの兵士ではなかったのだろうか。

    あなたのその厚い信頼とその笑顔に何人もの人が救われた。

    しかし、その人々もあなたは殺すのだろうか。あなたは殺せるのだろうか。

    きっと殺せやしない。殺したくはないはずだ。あなたは手を汚すものではあってはならない。あなたは皆の道しるべとならなくてはならない。

    ミカサ「私が、止める…」

    私はそう言って、ブレードをかまえた。








  160. 163 : : 2014/12/09(火) 21:11:37


    「美徳」



    僕らの今までやってきた行為は世の中の理論に、論理に反するものである。

    道を外れた者は、世の中からも排除されるというのと同じように、僕らも何らかの形で排除されるのだろう。

    それだけのことを、してきたのだから、しょうがないことではある。

    例え自分の為だとしても、その先にはどんな正義があったとしてもやったという行為事態が罪なのだ。

    だから、いくら弁解しようともやったのだからしょうがないと開き直るしかないのだ。
  161. 164 : : 2014/12/09(火) 21:12:06

    その罪を背負い生きるしか、ないのだ。僕らには…、少なくとも僕には彼女のような美しい美徳な行為はできない。

    僕には到底…無理なこと。







    ある日、彼女が座学室から慌てて駆けて行くのを見た。いつも安全に気を遣い、廊下はゆっくりと歩いている彼女が珍しく走っていたのだ。

    僕は少し気になった。それほど彼女の気持ちを惹くなにかがあったのだろうか。

    僕が座学室を出ると、呆れた顔をした、彼女の付き添いのユミルがいた。
  162. 165 : : 2014/12/09(火) 21:12:40

    ベルトルト「何で珍しく、廊下を彼女は走っているの?」

    僕がそう訊くと、ユミルは大きく溜め息をついた。それにはどういう意味があるのかはわからないけれど少なくとも、呆れているということはわかる。

    ユミル「お前のコイビトのゴリラがノートを忘れたんで届けに行ったんだよ」

    ベルトルト「僕にコイビトなんかいないし、ゴリラをお友達なんかにした覚えはないんだけど」

    そう言うと、ユミルは乾いた声で笑った。ゴリラとはきっとライナーのことだろう。
  163. 166 : : 2014/12/09(火) 21:13:12

    ライナーは珍しくアルミンの隣で座学を受けた。理由はわからないけれども。

    ユミル「ライナーのことだよ。アイツ、お人好しな行為にも程があるだろ。なあ───」





    「そう思うだろ?ベルトルさん」






    ユミルのそう言った言葉が頭に響いた。ユミルの凄みのある声は響く。

    ベルトルト「僕はそう思わないけど。その、まあ、美徳ではあるかな」
  164. 167 : : 2014/12/09(火) 21:13:30

    ユミル「良い言い方すればまあそうだが、お人好しには程があ。この前だって…」

    そう言って、ユミルは彼女の美徳な行為を二つか三つほど話した。

    それからして、彼女が戻ってきた。無事にノートを渡すことはできたのだろう。

    彼女は花のようにふんわりと笑った。ユミルの目も先ほどより優しくなる。

    ユミル「お前はお人好しすぎるんだよ。渡せたか?行くぞ、じゃあなベルトルさん」

    そう言って、ユミルは俺に背を向けた。彼女は僕にじゃあね、と言って微笑んで、ユミルのあとをついて行った。
  165. 168 : : 2014/12/09(火) 21:14:14






    僕らは彼女みたいにはなれない。

    柔らかな笑顔も花のような笑顔もすることができない。

    そして、手が汚れている。血という絵の具で嫌というほど。




    これが僕の罪。





    罪を背負って生きていかねばならない。


    故郷へと戻るためなのだから。





  166. 169 : : 2014/12/10(水) 20:14:47


    「不在の友を思う」



    エレンとクリスタが中央憲兵に拐われて、しかもその上、中央憲兵と一戦を交えた。

    中央憲兵は市民など構わず、銃を撃ってきた。一か八か、こちらが撃たなければ、こちらが殺られてしまう。

    仲間の命、調査兵団の存続がかかっているといってもいいほど、この争いに負けるということはできないものだ。

    ジャンに中央憲兵の兵士が銃口を向けていた。
  167. 170 : : 2014/12/10(水) 20:15:45

    相手の命と仲間の命、どちが大切か。それは、仲間の命だ。

    僕は躊躇なんかせず、躊躇いも動揺もせず引き金を引けた。

    何故かというと、相手が────

    きっと相手にも大切な奴のひとりや二人はいるだろう。

    僕は自分の手を、仲間の命の為だと思い、捨てたのだ。綺麗な手を汚した。

    僕の手はもう……




    綺麗なんかじゃない。
  168. 171 : : 2014/12/10(水) 20:16:16






    リヴァイ「どうした?アルミン。こんな汚ぇ馬小屋じゃ飯なんぞは食えねぇか?」

    リヴァイ兵長が僕に問う。僕は悲観したように「…いえ」と言った。

    僕はジャンの名を呼んだ。ジャンは「…何だ?」とたずねた。僕はきっと失望したような表情で喋っているのだろうか。

    アルミン「一つ…わからないことがあって、その…。僕が銃を出そうとした時……、正直間に合わないと思ったんだ。…ごめん、でも。相手の方は既にジャンに銃口を向けていたから……なのに──」


    アルミン「何で先に撃ったのは…僕なんだろうって……」
  169. 172 : : 2014/12/10(水) 20:16:46


    僕は何でこんなことをジャンにきいたのだろう。まるでジャンを責めているかのように。

    確かにあの場合は僕なんかではなく、ジャンが撃つべきだったのかもしれない。

    しかし、ジャンは銃口を相手に向けなかった。何故か?きっとそれは、ジャンの優しさなのだろう。

    ジャン「……それは」

    ジャンは躊躇う。僕は心配の意味合いを込め、「ジャン?」と呼ぶ。
  170. 173 : : 2014/12/10(水) 20:17:04

    ジャンがその先を諦めたかのように言おうとした。が、それはリヴァイ兵長の声によってかきけされた。

    リヴァイ「相手が一瞬撃つのを躊躇した。そうだろ?」

    僕は失意したかのように「え……」と呟く。ジャンが苦しそうに僕の名前を呼んだ。

    ジャン「すまねぇ。俺が撃たなきゃいけなかったのに……」

    そんなジャンの言葉を僕は無視し、
    「そうだったんだ」

    なんて言って、勝手に自己完結をしてしまった。
  171. 174 : : 2014/12/10(水) 20:17:28

    アルミン「僕が殺した人はきっと優しい人だったんだろうな……僕なんかやりずっと人間らしい人だった……」

    僕の口からは、心の中で思っている僕の失意がこぼれていく。

    アルミン「僕はすぐに引き金を引けたのに、僕は……」

    その続きを言おうとし、リヴァイ兵長に名前を呼ばれ制された。

    リヴァイ「お前の手はもう汚れちまったんだ、以前のお前には戻れねぇよ」

    リヴァイ兵長の言う通り、僕の手は汚れたんだ。僕の行いにより。
  172. 175 : : 2014/12/10(水) 20:17:52

    ミカサ「なぜそんなことを……」

    リヴァイ「新しい自分を受け入れろ。もし今もお前の手が綺麗なまんまだったらな───」


    リヴァイ「今ここにジャンはいないだろ」


    リヴァイ「お前が引き金をすぐに引けたのは、仲間が殺されそうになったからだ。お前は恥い。あの状況じゃ半端なことはできないとよくわかっていた」

    リヴァイ「あそこで物質や馬、仲間を失えば……その先に希望は無いのだと理解していた。アルミン、お前が手を汚してくれたおかげで俺達は助かった──」

  173. 176 : : 2014/12/10(水) 20:18:56


    リヴァイ「ありがとう」


    リヴァイ兵長のその言葉一つひとつに重みがあった。自暴自棄になりかけていた僕を戻してくれた。

    雑な言葉ではあったけれど、そのひとつひとつに僕の中に響くものがあった。

    リヴァイ兵長のたった一言、ありがとうという言葉だけで空いているものが埋まった気がする。

    どうしようもない吐き気も。

    リヴァイ兵長はゆっくりとため息をついた。
  174. 177 : : 2014/12/10(水) 20:20:03



    エレンは大丈夫なのだろうか。怪我をしていないのだろうか。

    昔から幼なじみで、異端児と言われていた僕を助けてくれた君が今、危険に陥っている。


    次は僕が君を助ける番だ。


    君を助け、巨人を駆逐する。


    王政なんかには頼ってはいられないというのがエルヴィン団長の考え。

    僕もそう思う。




    君を救うことが僕の役目なのだから。





    待っていてくれ。










  175. 178 : : 2014/12/11(木) 20:04:29


    「平和」



    日の当たる部屋に、俺とミタビとリコ座っている。冬だというのに、室内はやや温かい。

    リコは俺の目の前に座っていて、温かい茶をすすっている。

    銀縁の眼鏡はこちらを睨んでいるかのようにギラリと光った。

    隣にはミタビが座っている。この中でミタビが一番老けて見える。

    別にミタビとはあまり年の差はないのだが、老け顔なのだろう。

  176. 179 : : 2014/12/11(木) 20:04:45

    リコ「何故、私達はこの部屋で茶をすすっているのだろうか?」

    リコは銀縁の眼鏡をクイッとあげる。リコはギロリと俺とミタビを睨んだ。

    イアン「何で俺が睨まれなくちゃいけないんだ……」

    ミタビ「そう不機嫌な猫みたいに睨むなって」

    ミタビのその言葉がリコの神経を逆撫でしたようで、リコにはより一層目付きが鋭くなる。

    俺は頭をおさえる。リコとは長い付き合いで同期でもある。
  177. 180 : : 2014/12/11(木) 20:05:02

    それ故にリコの機嫌は治りにくいことを知っている。その為、なるべくリコの機嫌を損ねてはならない。

    というのにミタビは先ほどリコの機嫌を損ねることばかりを言っている。

    リコ「それよりも、ミタビ。最近、お前の班の奴等のミスが多いんだが、どういうことだ?」

    リコはミタビをギロリと睨む。リコをからかっている口はピタリと止まった。

    ミタビの顔は真っ青になっていく。

    ミタビ「そ、それは……」
  178. 181 : : 2014/12/11(木) 20:05:20

    ミタビは焦り始める。それと同時進行にリコの睨みがドンドンと鋭くなる。

    リコ「……どういうことだ?ミタビ。まさかだが、部下に飲酒を許していることなんて、あり得ないよな……?」

    ミタビ「そ、そんなわけないじゃないか!」

    リコ「ふうん、どうだか。まあ、いいが」

    リコはそう言って、茶をすすった。リコの機嫌は先ほど良くはなったのだろう。

    リコ「暇だ……」

    リコはそう呟いた。確かに暇ではある。だから、俺たちはこの部屋で呑気に会話をしているといっても良いほどだ。
  179. 182 : : 2014/12/11(木) 20:05:48

    ふと思い返してみる。何故、俺とリコは駐屯兵団に入ったのか。

    リコと俺は訓練兵時代、成績は悪いほうではなかった。どちらかと言えば、良いほうであった。

    上位十番にはいるほどの成績だった。のにも関わらず駐屯兵団に入ったのだ。

    理由は憲兵団はごみ溜めのようなところで、調査兵団は変人の巣窟。

    それならば、残るは駐屯兵団しかない。たったそれだけの理由で、俺とリコは駐屯兵団に入ったのだ。

    後悔も喜びもない。

    駐屯兵団というのは市民を守る為に存在するものなのだから。

    俺達が暇だというのは、それは


    イアン「俺達駐屯兵団が暇ということは、良いことだ。平和ということだからな」


    俺がそう言うと、リコは「そうだな……」と呟き、また茶をすすった。









  180. 183 : : 2014/12/12(金) 22:06:55


    「慰め」



    エレン「リヴァイ兵長…すみません……」

    エレンはそう言って俯いた。俺は言葉を返さずにいる。

    返す言葉がない、いやあるのだが、それを言うのは流石にエレンでも堪えるものがあるだろう。

    二日前の壁外調査でリヴァイ班は俺とエレン以外は全滅した。

    それは、女型の巨人によるものであり、俺の部下達は悲惨な死を遂げた。
  181. 184 : : 2014/12/12(金) 22:07:15

    誰よりも強く、そして勇気のある、俺の部下達はもうここにはいないのだ。どこかがぽっかりと空いたようなそんな気がした。

    今まではこんなに落ち込んだことはなかった。今回はあまりにも辛すぎた。

    アイツ等といた時間が短すぎたのだ。

    リヴァイ「気にするな、というのは嘘になる。気に病めというのも、嘘になるが。そこまで思い悩むことはない」

    リヴァイ「お前には…落ち度がなかったのだからな」

    俺がそう言うと、エレンはすかさず反論しようとした。しかし、口をつぐんだ。

    エレン「…俺の判断は間違っていたのでしょうか?」
  182. 185 : : 2014/12/12(金) 22:07:43

    エレンはこちらを真っ直ぐな表情で見つめてくる。俺は首を横にふった。

    リヴァイ「お前の判断が正しいのか正しくないのかはわからねえ。例えお前があそこで巨人になっていたとしても、アイツ等は助からなかったのかもしれねえからな」

    そう言うと、エレンは俯いた。エレンには厳しすぎるかもしれない。

    エレンが巨人化なんてできない、ただの兵士だったら良かったのかもしれない。

    それならば選択の余地などないからだ。




    何かを選ぶことも


    何かを捨てることも




    選ばずに済むのだから。
  183. 186 : : 2014/12/12(金) 22:08:27

    だからはっきり言って、エレンには同情もするし、情けもかけることはできる。

    しかし、エレンはきっとそれを望んではいないのだろう。

    リヴァイ「お前は今生きることを考えろ」

    俺はそう言って片方の手で、エレンの肩を軽く叩いた。エレンは顔をあげる。

    リヴァイ「今生きる大切な者達の為に命をかけろ。お前が挫折した時は慰めてやる……」

    そう言うと、エレンの目からは涙がこぼれた。よほど堪えたのだろう。

    大切な仲間が、目の前で死んだのだから。自分は助けることができなかったのだから。







    だが、お前が転んだ時は俺が起こしてやる。



    だから、お前は突っ走れ。






  184. 187 : : 2014/12/13(土) 22:18:55


    「清廉」



    僕は倉庫へと用事があってそれを済まし、兵舎へと向かっていた。

    吐く息は白く、それだけで相当気温が低いということがわかった。

    アルミン「僕もミカサみたいなマフラー、欲しいなあ」

    僕はそう呟いた。

    正直、ミカサのマフラーは羨ましい。厚手の毛糸で作られていてとても温かそうだ。

    流石に夏にマフラーはしたくないけれど。
  185. 188 : : 2014/12/13(土) 22:19:22

    倉庫は丁度兵舎裏を通り、本部の脇を通ったところにある。

    そこには何故か大きな木があり、夏の暑い日にら は木陰で休むことも多々あった。

    僕はその木の脇を通り、戻ろうとしていた。

    するとそこには見慣れた背丈で見慣れた髪型の同期が木のてっぺんを見上げていた。

    僕はどうしたものかと、同期のもとへと歩いていくと、同期は気づいたようで振り返った。

    アニ「…なんだ、アルミンか」
  186. 189 : : 2014/12/13(土) 22:19:41

    アニは少し残念そうに言う。誰かを待っているのだろうか。

    アルミン「なんだとは酷いなあ。それより、どうしたの?こんな所で」

    アニ「鳥がね…」

    アルミン「鳥…?」

    アニ「色々とね…」

    アルミン「色々?」

    アニはあまり要領の得ない喋り方をした。いつもよりも適当にぶっきらぼうに。

    アルミン「ちゃんと説明して、くれないかな…?」
  187. 190 : : 2014/12/13(土) 22:20:07

    僕がそう言うと、アニははあと深いため息をつき、前髪を横にわけた。

    アニ「雛鳥がね、巣から落ちちまったんだよ。それで、巣に戻そうとしていたわけ」

    アルミン「最初っから、そう言おうよ」

    アニ「ベルトルトがそこら辺にいたら便利だったのだけれど」

    アニが僕を見るなり残念そうな顔をした理由が今、わかった。

    ベルトルトではなかったことと、ベルトルト並みの身長ではないからだ。

    アルミン「僕でも、知恵を出すことはできるよ?」
  188. 191 : : 2014/12/13(土) 22:20:24

    アニ「ああ、あんた頭がよく回るんだったね」

    アニは思い出したかのように呟いた。

    自分で言うのはなんだが、僕は頭の回る方ではある。座学だって、トップの座をまだ誰にも渡してはいないのだ。

    雛鳥をどうやってあの木にある巣へとやるか。僕は考える。考えるに考える。

    そしてある答えに辿り着く。

    アルミン「僕がアニを肩車すればいいんだ」

    アニ「は?何で?」
  189. 192 : : 2014/12/13(土) 22:20:40

    アルミン「僕とアニの身長を足すと約三メートル。肩車をして上半身だけだとしても約七十センチは僕の身長にプラスになるということはベルトルトと同じ身長またはそれ以上になるんだよ」

    僕がそう言うと、アニはため息をついた。
    「確かにあんたの言う通りだ。しかし、乙女が肩車をされるというのは気がひけるよ…」

    アニにそう言われ、僕は予想外であった。確かに女子が男子に肩車をされるというのは気がひける。

    そうしたら、この状況ではもう打破することは不可能である。

    巣まで地上からは約180センチぐらいはあるだろう。どうしたらいいのだろうか。
  190. 193 : : 2014/12/13(土) 22:21:01

    アルミン「僕とアニの身長を足すと約三メートル。肩車をして上半身だけだとしても約七十センチは僕の身長にプラスになるということはベルトルトと同じ身長またはそれ以上になるんだよ」

    僕がそう言うと、アニはため息をついた。
    「確かにあんたの言う通りだ。しかし、乙女が肩車をされるというのは気がひけるよ…」

    アニにそう言われ、僕は予想外であった。確かに女子が男子に肩車をされるというのは気がひける。

    そうしたら、この状況ではもう打破することは不可能である。

    巣まで地上からは約180センチぐらいはあるだろう。どうしたらいいのだろうか。
  191. 194 : : 2014/12/13(土) 22:21:21

    コニー「そうだぜ!俺は木登り名人とも言われていたんだ」

    アルミン「なら、木に登って雛鳥を巣に戻すことも可能なはずだ」

    コニー「確かに!さすがアルミン」

    コニーはそう言って雛鳥をアニからもらい、木に猿のようにヒョコヒョコと登り、巣に置く。

    そしてスルスルと降りてきた。

    アニ「…一安心だね…」

    アニはそう言って微笑んだ。








  192. 195 : : 2014/12/15(月) 22:22:21


    「夢」



    休日であったため、私は部屋で寝ていた。毛布もかけずに寝ていたせいか、誰かが毛布をかけた。

    毛布をかけられ、目が覚めた。うずくまっていたため、顔をあげる。

    するとそこには黒髪の同期が。そう、ミカサである。

    アニ「あんたかい?私に毛布をかけたのは…」

    私がそう聞くとミカサはコクリと頷いた。黒髪が自然と揺れた。

    アニ「すまないね」
  193. 196 : : 2014/12/15(月) 22:22:37

    ミカサ「毛布をかけないと風邪を引く。これからはきちんとかけて」

    アニ「わかったよ」

    私は少しぶっきらぼうに言った。

    毛布をかけてくれたのはとても有難い。しかし、丁度眠れそうだった時に起こされたから少し機嫌が悪くなる。

    ミカサ「じゃあ…」

    ミカサはそう言って部屋から出て行った。部屋には私だけ。

    同期等もどこかへ行っている。やっと心地良い状況になった。

    私は深い眠りにつく…。
  194. 197 : : 2014/12/15(月) 22:23:05






    私はひとりで立っていた。いや、同期の女子に囲まれていた。

    ユミル『クリスタ、結婚してくれ!』

    クリスタ『もうやめてよ!ユミル』

    ミーナ『アニ、今日はどうするの?』

    何でだよ、何であんたらが私の周りにいるんだよ?あんたらは私の近くに寄りたがらないだろ?

    何でいるんだよ?

    アニ『ちょっと、あっち行ってくる…』

    私は逃げた。嫌になって、嫌になってしょうがなかった。
  195. 198 : : 2014/12/15(月) 22:23:27



    やっとひとりで寛げる場所へと来た、そう思ったはずだった。

    エレン『アニ、教えてくれよーあの技』

    エレン『いつかはお前を超すからな?』

    何であんたが来るんだよ?あんたの保護者はどこへ行っちまったんだい?

    私はあんたと関わりたくなんかないんだよ。来ないでくれ、頼むから。

    アニ『ちょっと、あっち行ってくる…』

    私はまた逃げた。死に急ぎ野郎から。逃げなくてはならなかった。

    あまりにも吐き気がして、不快感でいっぱいだったのだ。
  196. 199 : : 2014/12/15(月) 22:24:09



    次こそはひとりだ。ひとりなはず。それなのに、何であんたらがいるんだい?

    ジャン『俺は内地で暮らす為に憲兵団に入るんだよ。内地が一番安全だからな、そうだろ?アニ』

    マルコ『恥を知れよ、違うよな、アニ』

    何で私に話しかけるんだ。私に寄らないで、お願いだからさ。

    アニ『…さあね、私はあっちへ行ってくるよ…』

    逃げた。誰もいないところまで、走って、走って…。
  197. 200 : : 2014/12/15(月) 22:24:42



    息を切らしてたどり着いた、誰もいない場所。それなのに、何で…?

    アルミン『アニって実は優しいよね?』

    アニ『何で…あんたが……?』

    アルミン『何でって、どうしたの?』

    何なんだ、何で…?

    もう頼むから…

    アルミン『それでね…』

    だから…





    アニ『寄るな!』








  198. 201 : : 2014/12/15(月) 22:25:23




    『アニ』

    私は塞いでいた耳をあける。そして、自分の名前を呼ぶ声がした。

    顔をあげると、ベルトルトがいた。

    アニ『…ベルトルト』

    ベルトルト『アニ、すごい汗…』

    アニ『え…あ、本当だ』

    ベルトルト『アニ、僕たちは君を置いてくことにしたよ…君は足手まといだ』

    アニ『は…?何いってんだい…』

    ベルトルト『そのまんまの意味さ』

    アニ『何で…何で?私は今まで我慢してきた、あんたらが…あんたが!!!』

    ベルトルト『…アニ、君はすごく





    目障りだ






    それじゃあね』

    アニ『待って、行かないで…』

  199. 202 : : 2014/12/15(月) 22:25:45






    「アニ、アニ」

    アニ「は…?」

    私は目を覚ました。名前を呼ばれた気がして、顔をあげる。

    すると心配そうな顔をしたミカサがいた。

    ミカサ「アニ、すごい汗。大丈夫?」

    アニ「…ああ」

    あの夢はなんだったんだ、最悪だ。

    最悪でそして夢だ。









  200. 203 : : 2014/12/17(水) 22:06:26


    「物思い」



    ミカサ「エレン…?」

    ミカサがそうエレンの背に声をかけると、エレンはしばらく考えてから振り返った。

    ミカサはいつもより苛立っているエレンが気になり声をかけた。

    振り返ったエレンの顔はいつもの輝いている顔でも、楽しそうな顔でもない。

    いつも輝いている瞳に光はなく、いつも笑っている口は固く口を閉じていた。
  201. 204 : : 2014/12/17(水) 22:06:44

    エレン「…お前さ鬱陶しいんだよ…」

    あまりの言葉にミカサは絶句した。

    いつもなら、何だかんだと言ってミカサには優しくしてくれるエレンが、ミカサにそう言ったのだ。

    エレン「いくら家族だからといって、ベタベタくっつくもんじゃねえだろ?」

    ミカサは押し黙った。

    確かにそうかもしれない、ミカサはそう思い、何も言えなかった。

    エレンはそれ以上ミカサには何も言わず、その場を立ち去った。

    背を向けて遠退いていくエレンの背を、ミカサは見ることができなかった。

    できなかったわけではない、見たくはなかったのだ。
  202. 205 : : 2014/12/17(水) 22:07:14






    その翌日、食堂でミカサとエレンの雰囲気が可笑しいことに僕は気付いた。

    エレンはいつも以上にカリカリと苛々していて、不機嫌であった。

    ミカサは哀愁漂わせていて、俯いてエレンと一度も目を合わせなかった。

    エレン「俺、もう行くわ…」

    エレンはそう言って空になっていない食器を持ち、行ってしまった。

    ミカサはそのエレンの背に何かを言おうとして、手を伸ばした。が、声をかけるのも虚しく諦めた。

    僕はただその背を見ることしかできなかった。

    そして、何があったのかを、二人に聞くことさえもできなかった。

    次の日も、その次の日も、この雰囲気のまま過ごしていった。
  203. 206 : : 2014/12/17(水) 22:08:42









    一日の訓練が終わり、僕とミカサはたまたま同じ水汲み当番だった。

    最近の訓練では、ミカサは本来の実力ではなかった。どこか、気の抜けたような、そんな感じである。

    そして、ミカサの今の表情は悲しそうに見えた。とても見ていることができない。

    ミカサにここまでの顔をさせたのはエレンだ。何故かはわからない。

    だけど、このままでは二人の仲が悪くなる一方。僕は勇気を出してミカサに尋ねた。

    アルミン「ミカサ、エレンと何かあったの?」
  204. 207 : : 2014/12/17(水) 22:09:00

    そう聞くとミカサは肩をビクリと震わせた。そして、こちらを振り返える。

    その顔には涙がつたっていた。黒い瞳からは涙がこぼれていた。

    ミカサ「…私、エレンに鬱陶しいと言われた。家族だからといって、ベタベタくっつくなと」

    ミカサは涙をこぼしながらそう言った。

    僕はミカサを抱き締めてやる。僕のこの身長ではミカサを抱き締めるという行為は難しいのだが。

    ミカサは僕の肩に自身の顔を埋めた。そして、泣き叫んだ。
  205. 208 : : 2014/12/17(水) 22:09:35


    しばらくしてミカサが落ち着くと、ミカサはボソリと言った。

    ミカサ「私は一体どうしたらいいのだろうか…」

    アルミン「ミカサは、どうしたいの…?」

    ミカサ「……わ、私はエレンと一緒にいたい、も、もちろん、アルミンとも」

    アルミン「そうか……」

    ミカサ「家族と言われたことは嬉しいはずなのに、どこか胸にぽっかりと穴が空いたよう」

    俯きながらそう言うミカサはどこか寂しそうであった。
  206. 209 : : 2014/12/17(水) 22:09:53

    ミカサ「私、可笑しくなってしまったんじゃないかな…、きっと壊れてしまっ…」

    アルミン「そんなことはない、ミカサは壊れてなんかいない、ミカサはミカサだ、大丈夫」

    僕がそう言うと、泣き腫らした目をミカサは大きく見開いた。

    そして、悲しそうな顔で僕に微笑んだ。

    ミカサ「ありがとう、やっぱりアルミンは優しい…」

    その時のミカサは今にでも壊れそうだった。
  207. 210 : : 2014/12/17(水) 22:10:30



    僕はミカサより一足早く食堂へと向かった。

    ミカサをあんな顔にさせてはならない。ミカサは何よりもエレンに尽くしているのにこれじゃあ

    アルミン「……あんまりじゃないか」

    そして食堂に着くなり、僕はエレンを探す。エレンはベルトルトとライナーと夕食を共にしている。

    エレンは笑顔でとても楽しそうだった。それに僕は無性に腹が立った。

    僕が近付いてくると、エレンは気付いたようで明るく僕の名前を呼んだ。
  208. 211 : : 2014/12/17(水) 22:10:48

    しかし、僕はそれに答えずエレンの顔を殴った。

    周りの皆と、エレンは呆気に取られている。そしてすぐに反応したエレンは文句を言う。

    エレン「何するんだよ!アルミン」

    僕はエレンをまた殴った。そして、頭を叩いた。エレンは限界のようで、
    「いきなり何するんだよ!」

    そう言って僕を殴った。

    僕はエレンの胸ぐらを掴み、怒鳴る。

    アルミン「家族だからって何でも言っていいわけないだろう!なあ!」

  209. 212 : : 2014/12/17(水) 22:11:14





    次の日、ミカサが僕らを見るなり、一言言った。

    ミカサ「どうしたの……その怪我…」

    アルミン「何でもないよ、それよりもエレン、何か言うことあるよね?」

    僕がニッコリと微笑むと、エレンは躊躇いがちにも言う。

    エレン「……悪かったな、言葉が足りなくて。ベタベタくっつきすぎるのをやめてくれって言いたかったんだよ」

    エレンがそう言うと、ミカサは笑顔になった。まるで花が満開に咲いたように。

    通りすがりにアニが僕にボソリと言った。

    アニ「あんたにしちゃ、度胸あるじゃないか。見直したよ…」

    そう言って、フッと笑った。僕は振り返ると、アニはいつの間にかミーナと喋っていた。








  210. 213 : : 2014/12/20(土) 20:39:52


    「抱擁」




    私にマフラーをくれたのは貴方。




    私に生きる道を示してくれたのは貴方。



    私に生きる希望を与えてくれたのは貴方。



    私を諭してくれたのは貴方。




    私を幸せにしてくれたのは貴方。







    私に温かさを教えてくれたのはカルラおばさん。
  211. 214 : : 2014/12/20(土) 20:40:22





    エレン「おい、ミカサ…」

    エレンが私を呼んでいる、私は返事をしようとするが身体が動かない。

    口を動かそうとしても動かない。

    身体が、身体が望んでいないからだ。

    エレン「…なんなんだよ…」

    エレンは呆れた素振りを見せ、どこかへと行ってしまった。

    私はひとりぼっちとなった。

    名前を呼ばれて反応するが、思ったように口が動かないことがある。それも毎度。

    必要最低限しか話すことも動くこともできない。
  212. 215 : : 2014/12/20(土) 20:40:54
    身体が拒絶するのだ、動くことも。

    いや、私が心の奥底で拒絶をしているのかもしれない。何故かはわからない。

    しかし、拒絶するのだから致し方ない。

    名前を呼ばれ申し訳ない気持ちにはなるが、どうすることもできないのだ。

    暖かい笑みを私に向けてくれたお母さんも、

    私の頭を優しく撫でてくれたお父さんも、

    もうこの残酷で美しい世界にはいないのだから。

    エレンはマフラーをくれた。その時に私は涙を浮かべたが、心の穴は埋まりやしない。

    私はどうしたら良いのだろうか。

    一生、この生きた屍でいる気なのだろうか。
  213. 216 : : 2014/12/20(土) 20:41:25




    カルラ「ミカサ」

    エレンのお母さんに名前を呼ばれてそちらを向く。温かみのある声である。

    「何ですか?」と聞こうとしたのだが、聞くことができない。

    口が開かない。

    すると、強く抱き締められた。強く、強く。苦しいぐらいに。

    カルラ「…ミカサ、あんたは本当に辛い思いをしたわね、それを埋めることは私達には、できない。だけどね──」

    そう話すカルラおばさんの頬には涙がつたっていて、驚いた。
  214. 217 : : 2014/12/20(土) 20:42:27

    カルラ「包むことはできるわ、吐き出してしまいなさい、あなたの思いを…」

    そう言って抱き締めら、頭をなでられた。

    私は声をあげて泣いた。こんなにも泣いたのは久しぶりだ。

    赤子の時以来、ここまで泣いたことはなかった。





    カルラおばさんはもういない。




    私達は失ってしまった。





    カルラおばさんは私に温かさをくれた。





    私の全てを包んでくれた。





    お礼はまだ言えていない。







    ありがとう









  215. 218 : : 2014/12/22(月) 22:23:46


    「偽り」



    作戦を実行に移す訓練が調査兵団本部で行われた。それはリヴァイ班だけのものだったが、どれもが本格的で壁外調査を思わせるものだった。

    当番、というよりは年下の役目みたいなもので、馬小屋に馬を戻すのを頼まれ、やっとの思いで終わったところだった。



    「エレン…?」

    そう呼ばれ俺は振り返った。

    その声は妙に低い声で聞き覚えのある声であることには違いない
  216. 219 : : 2014/12/22(月) 22:24:18

    振り返った先には背が高くて背のわりには細身の調査兵団のジャケットを着た兵士が立っていた。


    それもよく見たことのある人物。


    こんなに背の高い奴はそうそういない。調査兵団でもエルヴィン団長とミケ分隊長ぐらいのものであろう。

    エレン「…ベルトルトじゃねえか?どうしたんだ、こんなところで!」

    俺は仲間に会えたことに嬉しくなり、心が踊るような気分になる。
  217. 220 : : 2014/12/22(月) 22:24:37

    ベルトルトとはそこまで仲良くはなかったが、それでも仲間である。

    トロスト区防衛戦を共にした仲間、それは変わらない。

    ベルトルト「寮がこの先にあって向かう途中なんだ」

    エレン「ふうん、そうなのか。しかし、久しぶりに会えて嬉しいぜ」

    ベルトルト「僕もだよ…、しかし、エレンはすごいね」

    エレン「何がだ?」

    ベルトルト「あの頃と決意は変わっていないのだろう?」

    エレン「ああ…」
  218. 221 : : 2014/12/22(月) 22:25:12

    ベルトルトの言う決意とは、巨人を一匹残らず駆逐すること、また壁外を探検すること。



    訓練兵に成り立ての頃に、俺はベルトルトに聞かれた。



    〝君はどうして兵士を目指すの…?〟




    と。確かにそうかもしれない。俺の出身地はシガンシナで五年前のこともあったのにそれでいて尚、壁の外に、巨人の恐怖をめのあたりにしに行こうと考えているのだから。
  219. 222 : : 2014/12/22(月) 22:25:33

    ベルトルト「…君はさ、例えミカサやアルミン、ジャンが死んでしまっても君は巨人を駆逐するべきだと思うのかな?リヴァイ兵長やハンジ分隊長、エルヴィン団長が死んだとしても、君は壁の外に行きたいの?」

    エレン「…!?」

    アルミンやミカサ、ジャンが死んだとしたら、俺は尚更巨人を駆逐したいと思うだろう。

    しかし、人類にとっての唯一の強みとなる人が死んでしまっては成り立たないものである。

    それでいて、俺は巨人を駆逐したいと思うのだろうか。
  220. 223 : : 2014/12/22(月) 22:25:59

    ベルトルト「エレンを責めるようで悪いんだけど、十番以内にはいった彼らが調査兵団に入るように仕向けたのは君なんだよ?」

    ベルトルト「きっと彼らは君の出す雰囲気それら全てにやられてしまったんだ。君のせいで死の危機に立たされているのだよ?」

    ベルトルト「…それでも、彼らが死んで死んで死んで死んでいっても君は巨人を駆逐したいと思うだろう。それは復讐の意味をもってね。だけどそれは無駄なことだよ、全ては君のせい、君が招いた災いなのだから」

    そう言い続けたベルトルトの表情はずっと無表情のまま。

    声が低くて淡々と言われ、その言葉言葉が頭に響いていく。まるで復唱するかのように。

    俺が招いた災い、そうなのだろうか。
  221. 224 : : 2014/12/22(月) 22:26:18

    ベルトルト「あ、ごめん。壁外調査でピリピリしていたんだ、君を責めてもこれは自分で決断したことなんだ」

    エレン「…ああ、気にするなよ」

    ベルトルト「僕、そろそろ戻らなくちゃ。じゃあね、エレン」

    ベルトルトはそう言って俺に背を向けてあるきだした。

    エレン「ああ…。ベルトルト!」

    俺はベルトルトの名前を呼んだ。ベルトルトは立ち止まる。

    エレン「お前が、人を殺したとしたら、その時は何を思っていると思う?」

    ベルトルトは顔だけこちらに向けて言った。

    ベルトルト「…恐怖じゃあないのかな」

    エレン「そうか、ありがとよ」

    ベルトルトはまた歩き出した。俺は黙ってその背を見ていた。
  222. 225 : : 2014/12/22(月) 22:26:37





    エレンはベルトルトとライナーに拐われて、一緒に拐われたはずのユミルはいつの間にかベルトルト側についていた。

    エレン「なあベルトルト、前にさお前が人を殺した時の心境を聞いただろ?あれ、お前にもう一度きく」

    エレン「例えばお前が人を殺した時、お前は何て思う?いや、お前が人を殺した時、お前は何て思った?」

    ベルトルト「…悪気もあったし諦めの気持ちもあった。だけどね人を殺すなんて行為は嫌だよ。人を殺した時の気持ちか。それは────」



    ベルトルト「無関心だったよ」









  223. 226 : : 2014/12/23(火) 22:13:31


    「自己主義」



    何者かに殺害された実験用巨人。104期生の訓練兵の中で犯人捜しが行われた。

    俺は誰が犯人だろうが、ハッキリ言ってしまえばどうでも良かった。

    俺の頭の中にはどの兵団へと行こうか、その考えしかなかった。


    同期の訓練兵等が話しているのが聞こえた。

    「巨人を殺して罰せられることもあるんだな」

    「確かに…変な話だけど、貴重な被験体だからな…」
  224. 227 : : 2014/12/23(火) 22:14:02
    「それで俺ら訓練兵の中で犯人捜しか…いるわけねぇよ」

    「あぁ…皆、今日まで続いた戦場の処理で憔悴しきっているのに」

    その会話を聞いて無意識にふと俺は呟いた。

    コニー「巨人が憎くてしょうがなかったんだろうな」

    俺の呟きを聞いていたのか、隣に立っているアルミンが「…うん」と返してくれる。

    アルミン「でもこれじゃあ巨人に手を貸したようなもんだよ…その人の復讐心は満たされるかもしれないけど、人類にとっては打撃だ」
  225. 228 : : 2014/12/23(火) 22:14:30

    アルミンは俯きがちに静かに言った。

    アルミンの言うことにひとつひとつの言葉が非常に大切なことだとひしひしと伝わってくる。

    コニー「俺はバカだからな、わかる気がする」

    そう言うと、アルミンは驚いたような顔をしてこちらを見た。

    俺がそういうことを言うのが意外なのだろうか?

    コニー「もう何も考えられなくなっちまうよ、オレ…巨人を見る前は本気で調査兵団になるつもりだったんだぜ…」
  226. 229 : : 2014/12/23(火) 22:14:53

    これは本当のことだ、エレンのあの言葉を聞いて俺は決心したのだ。

    コニー「けど…今はもう二度と巨人なんか見たくねぇと思ってる。今日、兵団を決めなきゃいけねぇのに…」

    巨人は正直怖い、怖くて仕方がない。思い出すだけで、震えが止まらなくなる。

    コニー「チキショー…あのジャンが調査兵団になるって言ってんのにな…」

    アルミン「え!?ジャンが?」

    アルミンは驚いたような顔をして横目でこちらを見た。

    確かに驚くことではある。
  227. 230 : : 2014/12/23(火) 22:15:12

    あんなにも公に憲兵団に入ると言っていたジャンが、調査兵団に入ると決心したのだ。

    俺自身だって物凄く驚いている。

    コニー「なぁ…アニ、お前はどう思った?あいつがやるって言ってんだぜ?」

    俺はそう言って、隣の隣のアニの顔を横から覗きこむ。

    アニは憲兵団志願者である。

    アニ「…別にどうも思わないけど?私の意志は変わらないから」

    いつもの何の感情も読み取れぬ声、変わらぬ表情。正直、アニは苦手である。

    ガス補給する為の作戦でも、助けてもらった恩はあるが、どうも馴れ合えない。
  228. 231 : : 2014/12/23(火) 22:15:48
    コニー「…そうか、お前憲兵団にするんだよな…」

    自分に言い聞かせるように俺は言った。

    コニー「なぁ…アニ、オレも憲兵団にした方がいいかな?」

    俺がそう言うと、アニは馬鹿にしたように言った。呆れ気味で、鬱陶しそうに。

    アニ「…あんたさぁ、人に死ねって言われたら、死ぬの?」

    コニー「…何だそりゃ、死なねぇよ」

    アニ「なら、自分に従ったらいいんじゃないの?アルミン、あんたはどうなの?」

    自分に従うか。

    自己に従う、自己主義。

    俺にはとてもアニみたいに頑な決意もない。

    だけど、従うべきなのかもしれない。己の意志に、何でかって?そりゃ…


    後悔したくないからな。








  229. 232 : : 2014/12/24(水) 17:54:10


    「不滅」



    お日柄の良い日、ペトラは花壇に咲いている花にでも水をあげていた。

    旧調査兵団本部には、花壇〝らしきもの〟はあったが、荒れていて花が咲いている影すら残っていなかった。

    花が好き、というよりは母の影響で花が好きになったペトラは、わずか1ヶ月というのに、花壇に花を植えて育てた。

    ペトラの好きな花のハマナスは濃いピンク色で、とても綺麗なものである。

    母親は花にも詳しかったが、花言葉にも詳しかった。
  230. 233 : : 2014/12/24(水) 17:56:48

    ハマナスの花言葉は、初めて母親に聞いた花言葉である。

    優しくておおらかな母親は、今はもうこの世にはいない。

    それは巨人のせいでもなく、人のせいでもない。
    重い病気にかかり、ペトラが物心がついた頃に亡くなった。

    幼い子供にはかなりの衝撃的なものであろう。

    母親が亡くなった時、ペトラはガラス玉のような大粒の涙をポロポロと流し、声を押し殺して泣いていたそうだ。

    そして無理矢理笑顔を作り、亡くなった母親の顔を見ていたりしたそうだ
  231. 234 : : 2014/12/24(水) 17:58:04

    それから、男手一つで育てられたペトラはより我慢強くなった。

    訓練兵になることを父親は渋々了承してくれた。

    しかし、調査兵団に入ることを中々了承してくれなかった。

    父親のことは嫌いではない、けれど自分の意志を通したかった。

    我慢強いペトラが初めて反抗したのがそれであった。


    ペトラ「いつ見てもハマナスは綺麗ね…」

    ペトラはうっとりとハマナスを見た。与えられた水が太陽の光に反射し、宝石のようにキラキラと光った。
  232. 235 : : 2014/12/24(水) 17:58:32

    じょうろの水もなくなり、ある程度の花に水やりを終えると、じょうろをもどしに行く為に倉庫へと向かった。

    倉庫は綺麗好きのリヴァイのお陰で綺麗に掃除されていて、整頓までされている。

    じょうろを定位置に置くと、ペトラはまた花壇へと向かった。

    花壇には綺麗なハマナスと、とある人物がいる。とある人物の手には石碑がある。

    ペトラ「り、リヴァイ兵長、どうされたんです?」

    ペトラが声をかけるとリヴァイは振り返った。

    リヴァイの表情は怒っているわけでもなく、笑っているわけでもない。

    無表情ではあったが、どこか哀愁が漂っていた。
  233. 236 : : 2014/12/24(水) 17:58:51

    リヴァイ「花が綺麗だと思ったからな。しかし、この花は来た当初にはなかったが、ペトラが植えたのか?」

    ペトラ「ええ、私が植えました」

    リヴァイ「…そうか」

    ペトラ「兵長、その石碑はどうされたんですか?」

    ペトラは気になったことをリヴァイに聞く。リヴァイは少し驚いたような顔をしてから、石碑を見て言った。

    リヴァイ「これはな、今まで亡くなった部下の名前が彫ってあるんだ」

    ペトラ「…兵長が彫られたのですか?」

    リヴァイ「ああ…」
  234. 237 : : 2014/12/24(水) 18:01:03

    場の雰囲気が和やかな雰囲気から、一気に哀愁が漂う雰囲気になる。

    ペトラも何と反応したら良いのか、戸惑っていた。すると、リヴァイが重い口を開いた。

    リヴァイ「石碑に彫れば仲間の名前も忘れねえ、そして石碑は永久に残るものだ、だから俺が部下の名前を彫るのには意味がある」

    ペトラは意外であった。

    リヴァイがこんなにも温かくて優しいとは思ってはいなかった。

    厳格で、いつも眉間にシワを寄せていて、極度の潔癖症で、そして何よりも冷たいリヴァイ。

    それなのに、それなのに──────とペトラは戸惑う気持ちもある。
  235. 238 : : 2014/12/24(水) 18:01:41

    ペトラ「…じゃ、じゃあ…」

    そう言葉を発するペトラの声は震えている。

    恐怖の震えでもない、感動の震えでもない、そんな言葉では表しきれない震え。


    ペトラ「私が死んだ時、その石碑に私の名前を彫っていただけないですか?」


    そう言うと、リヴァイは驚いたように、「あ?」と凄みのきいた声でペトラを見た。

    ペトラ「私、明日の壁外調査で死ぬ気がするんです。だから、死んだら彫ってくださいね?」

    リヴァイ「…お前は死なねえ……、死なせねえ。俺が…

    ペトラ「そう背負い込まないでください、兵長。人は死ぬ時、わかるものなんですよ。私死ぬなって。それは神様から与えられた時間が短かったということですよ、そう大したことじゃありません」
  236. 239 : : 2014/12/24(水) 18:03:27
    ペトラは「それに…」と言って話を続ける。

    ペトラ「私は人類の役に立ち死ぬなら本望です、そして貴方の役にも立つのなら…」

    リヴァイは何も言わなかった。何も言えなかった。

    ペトラの哀しげ笑いを見て、口を開こうとしたが開けなかった。

    平気じゃないのに、無理して笑うペトラに無理に笑うなと言ってやりたい、そう思った。


    ペトラ「大丈夫です、私は死にません、貴方の支えとならなくてはいけませんからね」

    リヴァイ「約束だ、お前は絶対に死なないと、な」

    ペトラ「ええ、約束ですよ。だけど、もし、ですよ?」

    リヴァイ「何だ?」

    ペトラ「私が死んだら石碑に私の名前を彫ってください。そして、この花を壁の外へと捨ててください」

    リヴァイ「…わかった」
  237. 240 : : 2014/12/24(水) 18:04:02








    平気と言ったのに、私は死ぬ時怖かった。

    こんな時に思い出すのは楽しかったリヴァイ班での日々。

    あんな強がりを言ったのに、結局、頭の中には恐怖という感情しかなかった。

    兵長、あんな強がりを言ってすみません、約束を守れなくてすみません。

    許しを乞うつもりはありません。私を一生憎んで、そして忘れないでください。

    だけど、お元気で。

    しばらくあちらに行っています。父にもしばらくは来るなと言っといてください。

    母と待っています。

    兵長、巨人を全滅させるまで来てはいけませんよ?
  238. 241 : : 2014/12/24(水) 18:05:48





    リヴァイ「ペトラ、約束破ったな…」

    リヴァイは壁の上で呟いた。

    その顔には疲労と悲哀を浮かばせ、目の下には隈ができている。

    リヴァイ「受けとれ、お前の好きな花だ。しばらく待っていろ…」



    「巨人をぶっ殺したあと、お前やお前等のもとへと行くからな…」









    ペトラ「兵長、知っていましたか?」

    リヴァイ「なんだ?」

    ペトラ「この花、ハマナスっていうんですよ」

    リヴァイ「…随分気の抜けた名前だな…」

    ペトラ「この花の花言葉を知っていますか?」

    リヴァイ「いや…」

    ペトラ「この花の花言葉は…」








    ペトラとの会話を思い出しながらリヴァイは呟いた。





    リヴァイ「【明日への希望】だよな…」















  239. 242 : : 2014/12/24(水) 21:50:36


    「彼の誕生日」




    今日は彼の誕生日だ。顔に似合わず、クリスマスが誕生日という何とも面白いものだ。

    随分おめでたい日に生まれたものだと思い、顔からは笑みが消えないでいる。

    私は〝ある物〟をクリスマスに相応しい赤と緑のリボンで包んでいる。

    可愛らしくキュッとリボン結びをすると、彼には合わないと思ってしまう。

    まあ、彼がこれを持って歩いている姿を想像したら、笑いが止まらなくなるだろう。

    彼の誕生日が丁度休日なのも、エルヴィンの粋な計らいからだろう。彼は随分と恵まれたものだ。

    私は花を買いに街へと出かけた。
  240. 243 : : 2014/12/24(水) 21:51:03




    街はクリスマスの為、随分と賑わっていた。大広場に出ると、大きなクリスマスツリーがある。

    一番上にある星の形の飾りがキラキラと輝いていて、とても綺麗だ。

    ナナバ「おっと…大丈夫かい?」

    ぶつかってきたのは、幼い子供だった。赤毛の髪をお下げのみつあみに緩く結わいた女の子。

    顔は愛らしいそばかすがあり、何とも可愛らしい。女の子の顔には歓喜が出ていた。

    「ご、ごめんなさい」

    女の子はそう言って、私に謝った。私は女の子の頭を撫でてやると、顔を上げた。
  241. 244 : : 2014/12/24(水) 21:51:33

    ナナバ「大丈夫だよ、さあ行っておいで」

    女の子が向かう方向には女の子の母親がいた。母親は私にお辞儀して、女の子の頭を撫でた。

    自然と笑みがこぼれた。

    少し寒いのが厳しくなり、私は首に巻いていたマフラーに顎を埋める。


    花屋へと、上着のポケットに手をいれて、歩いていく。すると、前方からは、ハンジとニファとモブリットが歩いてくるのが見えた。

    ハンジは私に気付くいなや、私に向かって駆け出してきた。そして抱きついてくるのを間一髪で避けた。
  242. 245 : : 2014/12/24(水) 21:51:57

    ナナバ「おっと、元気そうだねハンジ」

    私が避けた為、ハンジは止まれず、はしたない格好で転んだ。慌ててニファが駆け寄る。

    モブリットはゆっくりとこちらに歩いてきて、
    「こんにちは、ナナバさん。お買い物で?」

    ナナバ「ああ、まあそんなものだよ」

    ハンジはいたた…と腰をさすった。ニファが心配そうな顔をしている。

    ハンジ「酷いじゃないか、避けるなんて」

    ナナバ「いや、あのスピードで来られた私まで転んでしまう。二次災害は避けないといけないんだよ?知ってた?」
  243. 246 : : 2014/12/24(水) 21:52:25

    ハンジ「いや、その為に私を犠牲にしないでよ」

    ナナバ「大勢が助かる為なら多少の犠牲は必要だってよく言うよね?」

    ハンジ「いや、ナナバが助かるだけでしょ?そこまで巻き込んでないからね」

    ハンジをからかうのは少し面白い。ハンジは愛嬌のある顔をして、まるで犬みたいだと、私は思う。

    ニファは慌てて私に挨拶をし、ハンジの脇に立った。ニファも犬に似ているなあ。

    ナナバ「ハンジ達、どうしたの?買い物?」

    ハンジ「ケーキ買いに来たんだよ」

    ナナバ「そりゃまた太っ腹なことで」
  244. 247 : : 2014/12/24(水) 21:53:05

    ケーキは高い。なので滅多に食べることはできないのだ。人々はクリスマスに奮発しケーキを買う。

    ハンジ等と他愛もない会話をし、別れた。


    花屋に行くと、クリスマスに相応しい花が置いてある。白いクリスマスローズに真っ赤なポインセチア。

    私は店員さんにポインセチアを頼む。店員はニッコリと笑って、

    「彼女さんにでもお渡しするんですか?」

    そうきいてきた。私の性別はよく不詳などと言われるが、私はれっきとした女性である。

    まあ、別にいいのだけれども。

    ナナバ「ええ、まあ」

    私がそう言うと店員は「すぐ、お包みしますね」と言って花束を作ってくれた。

    私はお金を払い、「ありがとう」とお礼を言って店を出た。

    そして調査兵団本部へと戻る。
  245. 248 : : 2014/12/24(水) 21:53:37

    調査兵団本部には人があまりいなかった。きっと、出かけているのだろう。

    クリスマスなのだから。

    私は彼の部屋へとプレゼントと花を持って向かった。そしてコンコンとリズミカルにノックすると、彼は入れと言った。

    私は「失礼するよ」と言って、ドアノブを捻り、部屋へと入った。

    リヴァイ「はあ、俺は女じゃねぇから花なんてもんはいらねえ」

    彼はそうぶっきらぼうに言った。

    ナナバ「いいじゃないか。ポインセチアはクリスマスの花だよ?」

    リヴァイ「そのぐらい、俺でも知っている」

    ナナバ「リヴァイの誕生日じゃないか。お祝いしないと駄目でしょ?」

    などと会話をする。

    よく周りは男女の友情なんぞ存在しないと言うが、私はありだと思うし現に存在している。

    彼との友情は随分前から続いている。
  246. 249 : : 2014/12/24(水) 21:54:13




    とある壁外調査。私とリヴァイは大勢の巨人に囲まれた。馬はいるが、私とリヴァイ以外には仲間がいなかった。

    私とリヴァイの額には汗が伝う。緊張感と緊迫感が私とリヴァイを奮いたたせた。

    リヴァイ「どうする、お前」

    ナナバ「やるしかないでしょう?とりあえず、突っ込んで巨人を殺そうか」

    リヴァイ「お前、気に入った」

    ナナバ「そりゃ、どうも」

    そう言って私たちは巨人を殺して殺して殺しまくった。数えてなんかいられなかった。

    巨人の返り血を浴び、それが調査兵団の深い緑色のマントにこびりつく。

    それが蒸発し、白い湯気が私とリヴァイから出る。呼吸が荒いのが自分でもわかる。

    リヴァイと私はお互いを見合せ、笑った。大笑いし、声が枯れるまで叫びに近い笑い声をあげつづけた。

    その日から、私達の間に愛情ではないもの、友情が芽生えた。




  247. 250 : : 2014/12/24(水) 21:57:07

    ナナバ「今思い返すと、リヴァイも私も変わった人格ではあったのね…」

    私がそう呟くと、リヴァイは何言ってるんだ?コイツとでも言うかのようにこちらを見た。

    ナナバ「リヴァイと出会った時を思い出したからね」

    リヴァイ「フン…あんな状況でまともな人格でいられる奴のほうが気が狂ってる」

    リヴァイの物言いに私はフッと笑った。


    ナナバ「リヴァイ、誕生日おめでとう。これからも、よろしく」

    リヴァイ「ああ」







  248. 251 : : 2014/12/25(木) 16:10:29


    「訓練兵のクリスマス」



    ドン!とテーブルを叩く音とガタン!と椅子が後ろに倒れる音が食堂内に響いた。

    周りの訓練兵達はそのテーブルを一斉に見る。


    コニー「サンタクロースはいるんだよ!今日の夜トナカイを引き連れてやってくるんだ!」

    コニーが怒鳴る。

    どうやら、怒っているようだ。

    僕はうるさいなと思いながら、出来るだけ関わらないようにと下を向いてパンを食べることに集中する。

    すると、それに対抗したかのように前から椅子がガタン!と倒れる音がする。
  249. 252 : : 2014/12/25(木) 16:11:28
    僕が顔を上げると、どうやら椅子を倒したのはジャンのようだ。

    ジャン「サンタクロースなんていねえよ、この馬鹿」

    ジャンはそう言いはなった。

    コニーはむきになって言い返そうとするがとある人物の声でそれは遮られた。


    「フフフ…馬鹿ですね、二人とも」

    馬鹿にしたような口調。

    僕は声がした方に顔を向けると、そう言った人物は食べることが大好きな、サシャ・ブラウスであった。

    サシャはどうやら自分の言うことに自信があるような表情をしている。

    コニー「何がいるってんだよ?サシャ」

    ジャン「だから何もいねえって言ってんだろ?」
  250. 253 : : 2014/12/25(木) 16:12:00
    尚口論を続ける、ジャンとコニー。

    その二人を馬鹿にしたような顔をするサシャに、僕を含めた訓練兵はドキドキとする。

    それは期待の心臓の高鳴りだ。

    サシャ「勿論、サンタクロースなんて者はいませんよ」

    コニー「だから、何がいるんだよ?」


    サシャ「カーネル・ザックレーです」


    その瞬間、サシャへの期待は粉々に砕け散り、周りの訓練兵は呆れたような顔をする。

    すぐさまサシャに反論したのはジャンであった。

    この三人の中で唯一まともな意見の人物、というか正論なのだが。
  251. 254 : : 2014/12/25(木) 16:12:27
    ジャン「カーネル・ザッレーなんていねえよ!」

    サシャ「カーネル・ザッレーじゃありません、カーネル・ザックレーです」

    ジャン「ザッレーでもザックレーでもザックでもどうでもいい!」

    まあ、どうでもいいよね。

    コニー「クリスマスに来るのはサンタクロースだ!なあ?アルミン」

    不意に突然そう振られた僕はビクリとする。

    関わりたくなかったから、何の反応もしないように心がけていたのに。

    僕は何て言えば良いのか悩んだ。
  252. 255 : : 2014/12/25(木) 16:12:55

    サンタクロースがいないと言ったらコニーが可哀想だ。

    しかし、嘘を言うなんて罪悪感でとてもそんなことは言えない。

    そもそも、サンタクロースがいるかいないか以前の問題で、カーネル・ザックレーて何者なんだよ?ダリス・ザックレー総統のこと?

    僕は助けを求めるようにエレンを見た。

    するとエレンは親指を突き立てて、自信ありげな顔をした。

    僕はこの時、最高の友を持ったと思った。

    エレン「サンタクロースもカーネル・ザックレーも両方いる。だが、クリスマスに相応しい人物がひとり足りないぞ…」

    僕を含めた訓練兵が目を点にした。

    そしてエレンが口を開くと、ゴクリとつばを飲んだ。


    エレン「イエス・リヴァイだ」


  253. 256 : : 2014/12/25(木) 16:13:32

    イエス・リヴァイって誰だよ?リヴァイ兵長のことなの?

    僕は叫びたい一心だったが、心を落ち着かせた。

    そして、先ほどエレンのことを最高の友だとおもったことを後悔した。

    そういえば、エレンは随分幼稚だったのを思い出す。


    「子供はどうやって出来るの?」とミカサが一度聞いたことがあるらしい。

    エレンは自信ありげにこう答えたそうだ。

    「母親が寝ている間に大きな鳥が子をのせて飛んできて、母親のお腹に置いとくんだよ」

    と。僕はその時、唖然としてしまった。


    今も唖然としている。

    こんなにもエレンは幼稚なのかと。
  254. 257 : : 2014/12/25(木) 16:14:12

    エレン「イエス・リヴァイはクリスマスの夜に部屋中を綺麗にしてくれるんだ」

    だ、誰か…ッ、エレンの暴走を止めてくれ…。

    サシャとコニーはつぶらな目をキラキラと輝かせている。

    僕は味方がいないかとクルリと周りを見ると、同期達は関わりたくないようで黙々と下を向いて食べている。

    ジャンを見ると、めんどくさいようで、同期達と同じように黙々とパンを口に運んでいる。

    僕は最終の味方であろうという人物を見た。それは、ミカサ。

    ミカサはそもそも話に興味がないようで黙々と食べていた。

    僕に…味方はいないのか……。
  255. 258 : : 2014/12/25(木) 16:14:49

    サシャ「サンタクロース、カーネル・ザックレー、イエス・リヴァイで三大クリスマススペシャリストなんですね!」

    何だよスペシャリストって、そう突っ込みたい気持ちを抑えた。

    エレン「そうだ!」

    エレンは自信に満ちた顔でこちらを見る。

    まるで、「俺がまとめてやったぞ」とでも言っているかのように…。

    鎮まりかえっている食堂内。そんな中クスリと誰かが笑った。

    三人は笑い声がした方に目を向けた。

    笑った人物、それはアニであった。普段笑わぬアニが笑ったのだ。

    目線を当てられていることに気付いたアニはエレン達のことを見た。
  256. 259 : : 2014/12/25(木) 16:15:53

    アニ「何さ?」

    エレン「何で笑ったんだ?アニ」

    エレンは真剣な眼差しでアニに問う。サシャとコニーはアニを睨み付ける。

    アニ「そりゃ、サンタクロースや何だっけ…あ、カーネル・ザックレーやイエス・リヴァイなんているわけないでしょ?」

    そう言うと、エレンは怒ったような顔をして、アニを睨み付ける。

    エレン「イエス・リヴァイはいる!三大クリスマススペシャリストはいるんだ…」

    アニ「だから、いるわけないでしょ?あんたら、馬鹿?」

    アニはそう言って笑う。それに便乗してか同じテーブルのユミル、ライナーも笑う。

    エレン「笑うな!笑うんじゃねえ!三大クリスマススペシャリストはいるんだ!」
  257. 260 : : 2014/12/25(木) 16:16:21

    サシャ「そうですよ!ね?コニー」

    サシャはコニーに問う。コニーは拳を握りしめる。

    コニー「…俺はどこかで気付いていたんだ…、それをうやむやにしようと…。三大クリスマススペシャリストなんてのは……いねえんだ!」

    コニーは悔しそうに言った。

    サシャ「嘘でしょう、コニー。三大クリスマススペシャリストは存在するんですよ?……ねぇ……コニーィィィィ…」

    サシャのつぶらな瞳からは大粒の涙がポロポロとこぼれた。

    エレン「……ベルトルトはどう思うんだよ?」

    ベルトルト「えっ?僕?!」

    いきなり会話を振られたベルトルトは驚いたような顔をした。
  258. 261 : : 2014/12/25(木) 16:16:57

    無理もない。

    エレンは悔しそうにしている。

    ベルトルト「そんなのいるわけないだろう?」

    ベルトルトはそう言って嘲笑した。その笑みが何とも黒々しい。

    流石に可哀想だと思った僕は何か言おうとした。

    しかし、斜めに座っているマルコが首を横に振った。

    「何も言うな、言ってあげるな…」そう言うかのようだった。

    訓練兵のクリスマスはシーンとしたものになったのだった。



    てか、悲しい話になっているけれど、たかがサンタクロースのいるかいないかの話、なんだよね……?
  259. 262 : : 2014/12/25(木) 16:17:20








    「ハッハハ、今年もこの時期がやってきたな…」

    老人はそう言って笑った。

    目付きの悪い男はその声を聞いてフッと笑う。

    「酒の飲み過ぎじゃねえか、老いぼれ爺さん」

    老人は眉をひそめて、訝しげに男を見て、また笑った。

    「そうかもしれんな……おや、来たようだな」

    老人がクルリと振り返ると、男もツラれて振り返った。

    「待たしてしまったかな…リヴァイ、ダリス」

    赤い帽子をかぶっている男が老人と男を見て、ニヤリと笑った。

    リヴァイ「ああ、待ちくたびれた」

    ダリス「老人には時が短いのだぞ?」

    男は眼鏡をかけていた。そして不敵な笑みを浮かべていた。

    「座学ではクリスマスのことを教えてやれないからな…」





    翌日、訓練兵達の部屋はとても綺麗になっており、朝食には肉が出て、そして雪が降ったとか。








  260. 263 : : 2014/12/26(金) 22:25:54


    「ちっとも嬉しくない」



    12月30日は、僕の誕生日だ。


    誕生日なのに、僕は全く楽しくも嬉しくもなかった。ただ、歳をとっただけ。

    夕食の時、食堂でライナーやサシャ、コニーが大々的にお祝いしてくれた。


    それなのに、僕は全く嬉しくなかった。


    むしろ、迷惑だと感じた。


    ライナーは任務の役柄をわかっていないのだろうか。きっと、兵士になりすぎてしまったのだろう。
  261. 264 : : 2014/12/26(金) 22:26:17


    ライナーは任務の役柄をわかっていないのだろうか。きっと、兵士になりすぎてしまったのだろう。


    本当に失望せざる終えない。


    僕はその場から逃げ出したくなった。

    だから、逃げ出した。

    誰もいないであろう、兵舎のベンチにひとり座り、外の風景を眺めていた。


    そっちの方が楽しかった。





    「何やってるの?ベルトルト」

    女声であるということはわかったが、誰かは特定できなかった。
  262. 265 : : 2014/12/26(金) 22:26:58
    そっちを向くと、僕が会いたい人物ではなかった。金髪の彼女ではなく、黒髪のお下げの彼女。


    ベルトルト「ミーナ、か」

    ミーナ「何だかすごくガッカリそうね、ベルトルト」

    ベルトルト「いや、別に…」

    ミーナ「誤魔化したって駄目よ、アニじゃなくて残念とか思ったんでしょ?」

    ミーナはそう言って笑った。僕をからかうのが面白いのだろう。

    そして、僕の隣にゆっくりと腰をかけた。

    ベルトルト「そ!そんなんじゃ…ないよ」

    ミーナ「フフフ…、図星ね。まあ、みんな多分知ってるだろうし…」

    嘘だ、きっとミーナは嘘を言っているのだろう。僕にボロを出させるようにしているのかもしれない。
  263. 266 : : 2014/12/26(金) 22:27:32
    ベルトルト「ミーナは何でここに来たの?」

    ミーナ「疲れたから、部屋で早めに休もうかと思ってね。ほら、私成績上位者でもないから、みんなみたいに体力ないし」

    ベルトルト「…そうなんだ。ミーナはあーやって騒ぐの好きそうなのに」

    ミーナ「まあ、好きだけど疲れちゃうからね。ベルトルトはどうして?あなたの誕生日のお祝いじゃないの?」

    ミーナの言う通り、今日の主役・主人公は僕のようなものだった。

    主人公や主役のいない物語は物語ではない。たばの余興に過ぎない。

    ベルトルト「僕はあーやって騒ぐの好きじゃないからね。誕生日だから、ひっそりと過ごしたかったからね…」


    ミーナ「まあ、ベルトルトらしいわね」


  264. 267 : : 2014/12/26(金) 22:27:52

    ミーナはそう言ってのびをした。ミーナのおさげの髪がフワッと揺れた。

    ミーナは先ほど、みんなみたいに体力のある方ではないと言っていた。

    訓練兵になる者達は大抵、世間体を気にする者や安全な内地に行く為、そういう明確な目的がある。

    しかし、ミーナには僕の思いあたる目的というものがいまいちわからない。

    人の好奇心はどうやっても止めることができない

    そう昔、本の一文であった。その時の僕は心も身体も幼かったから、よくわからなかった。

    しかし、今ならわかる。

    たった一つのことを聞くだけだけれども、僕にとっては、どこかに地雷が埋まっているかもしれない地面に足を踏み込むようなものであった。
  265. 268 : : 2014/12/26(金) 22:28:19

    ベルトルト「ミーナはさ、何で兵士になろうと思ったんだ?」

    ミーナ「…私にはもう両親はいないの。意外でしょ?」

    ミーナはそう言って笑った。

    確かに意外とは思ったが、口には出さなかった。出すべきではないと思ったからだ。

    ミーナ「両親は死んじゃったんだ、馬車にひかれて。私はただそれを見ていることしかできなかった」

    ミーナ「馬車を運転したのは、酔っぱらいだったわ、憲兵につてがあるせいか、それを揉み消されたの…」

    ミーナ「憎いんだ、その憲兵が。だから、運が良ければ私も憲兵になれるかもしれないと思ってね、そいつに復讐するために兵士になったんだ」

    僕はきっと驚いた顔をしているのだろう。
  266. 269 : : 2014/12/26(金) 22:28:42
    いつも明るく快活で周りに親切な彼女が〝復讐〟という言葉を言った時、寒気がした。

    彼女の復讐という言葉は、そこら辺で落ちている復讐なんかではなく、本当の復讐。

    重みが違った。

    ベルトルト「…悪いこと聞いてしまったね、ごめん…」

    ミーナ「ううん、別にいいんだ。それよりさ、ベルトルトにまだ言ってなかったね」

    ベルトルト「うん?」




    ミーナ「お誕生日、おめでとう」

    ミーナは僕が今までで見てきた中で一番最高の笑顔をした。

    誕生日は楽しくないし嬉しくない。

    しかし、誕生日という日に彼女の笑顔を見ることができるのなら、誕生日も良いかもしれない。


    ベルトルト「ありがとう」










  267. 270 : : 2014/12/26(金) 22:34:25
    ここまで読んでくださり、ありがとうございます。お気に入り登録やコメント、すごく嬉しかったです。
    12月はイベントがたくさんありましたね。リヴァイ生誕では、ナナバとリヴァイという絡みはどうでしたか?
    ベルトルト生誕では、ミーナとベルトルトという絡みでした。
    意外な組み合わせが好きな私ですが、これからもこのシリーズをお願いします。

    ありがとうございました!

    2014.12.16
  268. 271 : : 2020/10/06(火) 15:18:06
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986

    http://www.ssnote.net/categories/%E9%80%B2%E6%92%83%E3%81%AE%E5%B7%A8%E4%BA%BA/populars?p=51
  269. 272 : : 2020/10/27(火) 10:11:33
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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chihiro

蘭々

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