このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
#3 刻む 【セレナ続き3】
-
- 1 : 2014/02/01(土) 22:36:55 :
- #O 生まれる、#1 集う、#2 いとしむ、につづき、オリキャラシリーズ4作目の作品になります。
予めお断りしておきますが、今回の作品は、私自身の設定した事柄が多く存在します。本編との矛盾は出来るだけ避けているつもりではありますが、もしかしたら違う部分が出てくるかもしれません。ご了承ください。
では、はじめさせていただきます。
-
- 2 : 2014/02/01(土) 22:39:14 :
- 843年、訓練兵団に入団したペトラ、オルオ、セレナの3人は、
845年、ウォール.マリア陥落を経て、
846年、解散式を迎えるのだった…
-
- 3 : 2014/02/01(土) 23:00:49 :
- 解散式を終えた訓練兵たちは、数日後再び集結した。
まず、調査兵団々長による演説があった。例年、調査兵団の入団希望者は少なく、団員も不足しているため、3兵団の中で特別に配慮されたものだった。
団長が壇上に上がる。13代団長、エルヴィン.スミスである。
「…私が、先代キース.シャーディスに代わり第13代調査兵団々長に就任
した、エルヴィン.スミスだ。」 エルヴィンは続ける。
「諸君も周知のとおり、1年前、超大型巨人の手によってシガンシナ区に
巨人が侵入し、鎧の巨人によってウォール.マリアも破壊された。」
「…。」 一同は神妙な面持ちでエルヴィンの話に聞き入る。
「我々の目的は、まず、ウォール.マリアの奪還だ。そのために今、トロ
スト区を起点にしたマリア奪還のためのルートを作っている。…もちろん
多くの犠牲を払っての事だ。」
エルヴィンは一同を見回して、
「1年前のウォール.マリア陥落の際、君たちはこの訓練所にいて、巨人の
恐ろしさを知るものはいないだろう。…はっきり言うが巨人はそんなに甘
くはない。壁外に出れば必ず犠牲者が出る。来月も壁外遠征を予定してい
るが、今期卒業の新兵にも参加してもらう。…つまり、君たちの中にも死
ぬ者と生き残る者が出てくる、ということだ。もう一度言う。調査兵団に
入るためにこの場に残る者は、近々殆ど死ぬだろう…自分に聞いてみてく
れ…人類の為に心臓を捧げることができるのかを…以上だ。他の兵団の希
望者は解散したまえ。」
-
- 4 : 2014/02/01(土) 23:11:48 :
- エルヴィンの演説が終わった…。
セレナは次々にその場を離れていく同期生を見送ることなく、まっすぐに壇上を見ていた。そう、エルヴィンを。
オルオは、ぶるぶると震えながら下を向いていたが、ふと、自分の隣にいるペトラを見た。自分以上に怯えているように見える。
「おいっ、ペトラ、行けっ。」
オルオは、鋭く言い放つ。ペトラは動こうとしない。
「…お願い、ペトラ、行って…」
まっすぐ前を見続けていたセレナも、ペトラの方を見て、言った。動こうとしないペトラに苛立ち、とうとうペトラの前に立ち、両肩をつかむ。
「ペトラ!?あなた10番でしょ?憲兵団に行って!…お願いだから…」
ペトラは、思い出していた。昨夜の出来事を。もしかしたら、3人で過ご
す最後の夜になったかもしれない、あの時を…
-
- 5 : 2014/02/01(土) 23:20:21 :
- 「セレナ、あなたは調査兵団なんだよね?」
ペトラの問いに、セレナは迷うことなく、
「そうよ。私は調査兵団に入る。」
「…前から気になってたんだけどよぉ…お前なんでそこまで調査兵団に入
りたいんだ?」
オルオの問いに、セレナは少し上を見上げて、
「…約束だから…」 「はぁ?」
ペトラとオルオは顔を見合わせる。問い返されるのを拒むかのように、セレナはペトラに問う。
「…ペトラは10番でしょ?憲兵団に行くの?」
ペトラはうつむいたまま、答えなかった。続いてセレナはオルオに、
「…オルオは9番でしょ?憲兵団に…」 「オレはっ!!」
オルオは続ける。
「オレは…調査兵団に入る…」
-
- 6 : 2014/02/01(土) 23:34:34 :
- 「!?」 突然の告白に、ペトラ、セレナは驚いた。
「…入団者には…報奨金が出るって言ってたけど…それと関係があるの…
?」
セレナの問いに、オルオは辛そうに顔を歪め、
「…故郷の父親が倒れたって手紙が…すぐに治療しねぇと…助からない
らしい…まとまった金が必要なんだ…憲兵になったとしても、すぐに大金
が手に入る訳じゃねぇし…」
「…オルオ。」 セレナは、オルオと向き合い、手を握る。
「私が入団したときのお金を使えばいいよ…そんなつまらない理由で命を
粗末にしちゃダメ…」
セレナの手を、オルオは振り払った。
「はぁぁ!?バカ言ってじゃねぇよ!そんなこと出来るわけねぇだろ!ってい
うか、何でオレが死ぬ前提で話してんだよ!オレは死なねぇ!絶対にだ!巨人
共なんてクソくらえだ!」
オルオの叫びに、セレナは最初は驚いていたが、すぐに微笑した。オルオの意志を受け入れたのだ。
セレナは、ペトラの方を向き、
「…ペトラ、どうするの?」 と問うた…。
-
- 8 : 2014/02/04(火) 21:49:54 :
- 「ーおい、ガキ…」
ペトラの回想を、男の声が遮った。セレナが驚いて振り向いているのが見える。ペトラは壇上に視線を移す。
…1人の男が、こちらを見ている。エルヴィン団長ではない。もっと小柄な、冷たい目をした男だった。男は続ける。
「ここに残るか、他へ行くかは、自分の意思で決めることだ。仲良しごっ
こをしているヒマがあるんなら、てめぇが他へ行け。…目障りだ。」
セレナのことを言っているようだ。セレナは目を閉じ、もう一度壇上を見ると、
「…申し訳ありません。…ここに居させてください。」
「…フン…勝手にしろ…」
男は、それ以上何も言わなかった。
-
- 9 : 2014/02/04(火) 21:57:09 :
- 「…セレナ…」
ペトラは周りに聞こえないよう、小声でささやく。
「大丈夫だよ。私…決めたから…」
「…そう…」
ペトラは動かなかった。セレナは安心した。本当は、ペトラに、あの怖い生き物の横顔を、背負ってほしくはなかったのだ。もちろん、ペトラの幸せを願うのなら、調査兵団は最善ではないかもしれないが…。
「では今!ここにいる者を新たな調査兵団として迎え入れる!これが本物の
敬礼だ!心臓を捧げよ!」
「ハッ!!」
彼らの戦いが、今、始まる…
-
- 10 : 2014/02/04(火) 22:13:47 :
- 調査兵団の新兵たちは、自分たちの荷物を本部まで運ぶため、解散した。皆、なぜか清々しい表情になっていた。
「…今年の新兵を見てどう思う、リヴァイ?」
エルヴィンに話しかけられ、リヴァイは眉間のしわを深くした。
「…思ったより数が少ないな…まぁ頭数が多けりゃいい、という訳でも
ないがな…」
「…褒賞金を出してもこの程度か…先が思いやられるな。」
「金につられて来る奴にろくなのはいない。どうせ1年ももたんだろうな
…」
「相変わらず手厳しいな、お前は。」
「本当のことを言っているまでだ…行くぞ。」
リヴァイは身を翻し、帰路につく。エルヴィンも後に続く…その時…
「待ってよ~セレナ~!」
…セレナ?エルヴィンは振り向いた。茶髪の少女が、自分と同じくらいの背丈の少女を追いかけている。
「セレナ!歩くの速いよ!」
茶髪の少女が追い付いた。セレナと呼ばれた少女は振り向き、
「ペトラ、早く荷物をまとめないと。忘れ物しても取りに行けないからね
。」
ペトラと呼ばれた少女は、むくれた様子で、
「子供扱いしないでよ~。」
その言葉に、セレナと呼ばれた少女は…微笑していた。
まさか…あの時の子…なのか…?
エルヴィンは目を疑った。あの、暗く濁った湖水の様な瞳はもうない。その瞳には光があった。そして少女は、見違えるほど美しく成長を遂げていた。
-
- 11 : 2014/02/04(火) 22:16:40 :
- 「おい、エルヴィン、どうした?」
リヴァイの苛立った声が聞こえる。
「ああ、すまない…行こう。」
エルヴィンは慌てて歩き始めた。
-
- 12 : 2014/02/04(火) 22:21:19 :
- 褒賞金を受け取ると、オルオはさっそく外出届けを出し、実家へお金を届けに出掛けた。リヴァイの冷ややかな目が見送っていることに、オルオは気づいていなかった。
「オルオのお父さん、早く良くなるといいね。」
セレナの言葉に、ペトラは
「うん…そうだね…」
と、意外にもその口調は暗かった。
「…どうかしたの?」
セレナは問うてみた。
-
- 14 : 2014/02/05(水) 11:17:52 :
- ペトラは話始める。
「私、訓練兵に入るとき、兵士になり、巨人から領土を奪還し、母の病気
を治したいって、言ってたよね…」
「うん、そうだったね。」
「…お母さん、死んじゃったんだ…」 「え…」
「その報せを聞いたとき、いっそ自分も死んでしまおうと思った。でも、
私にはまだ、お父さんがいる…。私が成績上位に入ったって手紙を書いた
ら、お父さん、何度も何度も憲兵になれって手紙をくれたの。お前を失っ
たら、父さんはおしまいだ。頼むから、頼むからって。」
ペトラは空を見上げた。
「でも…これはお父さんには内緒だけど、私本当は調査兵団に…というか
…壁の外の世界を見てみたかったんだ。憲兵になったら、ずっと壁の中だ
もんね…。調査兵団に入ったからって、私は死なないよ。強くなる。そし
て巨人を絶滅させて、お父さんと一緒に暮らす…お母さんの分まで、私は
生きる。」
-
- 15 : 2014/02/05(水) 11:23:03 :
- 「…。」
セレナは思い出した。3年前、立体起動装置の訓練のとき、セレナはペト
ラの瞳に、自分が幼い頃に見た翼が映った時のことを…。あれは、幻ではなかった…。
ペトラは死なない。自由を勝ち取る日を彼女は必ず迎える。セレナは、人を信じることを覚えた。
-
- 16 : 2014/02/05(水) 11:45:47 :
- 二人は、調査兵団本部の通路で話し込んでいた。…すると、何かがこちらに向かって来る!!
「やぁ~待ってたんだよ君たちぃ~!」
いきなり何者かに抱きつかれ、セレナは悲鳴を上げ、ペトラは絶句した。
「んもぅ私は君を離さないよ~~~」
頬をすりすりされる。セレナは訳がわからなかったが、とりあえず無害だ、と判断し、されるがままになり、ペトラはあっけにとられて、抱きついてきた女性兵士をまじまじと見た。
長身の体に、長い髪を後ろにまとめている。顔はメガネをかけ、満面の笑みでセレナに頬擦りしている。
(…何なんだろう、この人…)
ペトラは不審に思ったが、おそらく先輩兵士。下手なことは言えない。
「…おい、クソメガネ…」
背後から不機嫌そうな声がして、ペトラは振り向いた。
…あの男だ。調査兵団に決めたとき、セレナに 「目障りだ。」 と言い放ったあの男。男は続ける。
「てめぇが新兵から奇行種扱いされるのは勝手だが、新兵が逃げ出すよう
なことがあったら…どう責任を取るつもりだ?」
そんな男のすごみに対し、女性兵士はセレナから離れ、ヘラヘラと笑い、
「ただのスキンシップだよ。もう私は新兵が来るたびにこれをやんなきゃ
気がすまないんだよ、リヴァイ…」
リヴァイ…その言葉に、 「ええっ!?」 とペトラは声を上げる。
リヴァイ兵士長。ペトラも当然耳にしていた。一人で一個旅団並みの戦力があるという、人類最強の兵士…
(まさか…この人が…)
そんなペトラの反応を尻目に、リヴァイは口を開く。
「…フン。まあいい。とにかく俺はそっちに行きたいからそこをどけ。」
ここで初めて、セレナとペトラは、自分達が通路をふさいでいることに気付いた。
-
- 17 : 2014/02/05(水) 12:03:05 :
- 「しっ…失礼しました!」
ペトラは急いで道を空ける。セレナはリヴァイを見ている…。
リヴァイは、何事もなかったかのように、歩き始める。セレナとすれ違い様、彼女の視線に気づいたリヴァイは、チラリとセレナを見る。が、すぐに前を見て歩き出した…。
「君にもやらなきゃね!もう離さないよ~~~!」
女性兵士は、ペトラにも抱きついてくる。ペトラが悲鳴を上げる。そんな騒ぎを尻目に、セレナはリヴァイの姿が見えなくなっても、その先を、じっと見つめていた…。
「あっ、あの、私、ペトラ.ラルです!…あなたは?」
「私?私はハンジ.ゾエ!分隊長だよ!」
「えっぶ、分隊長!?」 「そうだよ~。」
(分隊長が、みんなこんな人達だったらどうしよう…)
ペトラは、少し不安になった…。
-
- 18 : 2014/02/05(水) 12:18:58 :
- その翌日の入団式にて、新兵たちは改めてリヴァイ兵士長を紹介された。人類最強の兵士、リヴァイ…ペトラの中で彼は、屈強な体で、強い意志をたたえた瞳をもち、優しさを兼ね備えたヒーローだった。…しかし実際は…。
エルヴィン団長から紹介されたのにもかかわらず、リヴァイは敬礼もせず、腕組みしたまま一言、
「…リヴァイだ…」
と言ったきり、冷たい目で前を向いている。ペトラの印象は欠片も感じない…。ペトラは思った。もしかしたら、調査兵団に所属する人類最強の兵士、というのは、人類に巨人侵略からの希望を抱かせようとしている、ただのでまかせだったのではないかと思った。
…一個旅団並みの戦力がある、なんて、考えてみればあり得ない話だ…。
ペトラは、自分が崖縁に立たされている様な感覚に襲われた。
(…ダメだ…自分は死ぬ殺される自分は死ぬ殺され…)
「…!」 誰かが、自分の右肘にそっと手をやる…セレナだ。ペトラが気づくと、セレナは励ます様にうなずいた。
…ペトラは無理に笑ってみせた。そうだ、自分は一人じゃない。
-
- 19 : 2014/02/05(水) 12:44:24 :
- 入団式を終え、ペトラはオルオに声をかけた。
「オルオ、お父さんの様子、どうだった?」
「ああ、親父のやつ、オレの話を聞くなり、金は弟たちのために使え、な
んて言い出しやがってよぉ。オレ、バカ野郎って思わず怒鳴っちまった。
親父がいなくなっちまったら、お袋や弟たちはどうなるんだって。お袋は
お袋で、オレが調査兵団に入ったって聞いたら、泣き出しちまうし…大変
だったぜ。」
「オルオも巨人の討伐数を増やして、ご両親を安心させなきゃね。」
ペトラが言う。セレナが、ふと通路の先を見やる。
…リヴァイ兵士長がこちらを見ている…。セレナの視線に気づき、こちらに向かってきた。
「…オルオ、とかいったな…」
リヴァイ兵士長に声をかけられ、オルオは驚いて振り向く。リヴァイは続ける。
「お前みたいに金につられた奴に巨人は倒せない。今のうちに所属兵団を
変更するんだな。」
「な…そんなの…分かんないじゃないスか…オレは別に…」
オルオは、怒りに任せて食って掛かるのを何とか抑え、応じる。
「…エルヴィンも相当なお人好しだな。金でつられた人間がどういう結末
を迎えるか…」 リヴァイはオルオを睨み付け、
「分かりきっているのにな。」
「…っ…兵…長…も、同じなんじゃ…」
リヴァイは目を伏せ、
「俺は金なんざ受け取っちゃいない。そこにいるお前の連れもそうだ…」
オルオは驚き、ペトラとセレナの方を見た。
「お前ら…そう…なのか…」
ペトラとセレナは、目をそらす。肯定しているのと同じだった。オルオは、絶望した様子で下を向いた。
「…オルオだけじゃないよ。他にもお金を受け取ってる人はいるから。」
慰める様に、セレナが言う。次に口を開いたのはリヴァイだった。
「受け取った奴はいるが、そいつらが一年後ここに残る確率は一割といっ
たところか…死ぬ奴もいるが、金だけ受け取ってとんずらする奴もい…」
オルオはリヴァイの胸ぐらを掴んでいた。オルオは我慢の限界だった。胸ぐらを掴まれても、リヴァイは平然としたままだ。
-
- 20 : 2014/02/05(水) 13:03:15 :
- 「オレは…オレは…」
「オルオ、やめて。」
セレナが素早くオルオをなだめる。これ以上はまずい。相手は上官だ。オルオは手を離した。リヴァイは襟元を整える。セレナはオルオをなだめ続ける。
「…撤回してください。」
静かな声が響く。ペトラだ。
「オルオは、そんな人間ではありません。リヴァイ兵士長、発言を撤回し
てください。」
リヴァイは黙ったままペトラを見、口を開きかけた時、
「リヴァイ兵士長、大変失礼いたしました。私たちも入団したばかりで落
ち着かなくて…どうか、お許しくださいっ。」
まくし立てる様に、セレナは言い、勢いよく頭を下げる。リヴァイは息をつき、
「別に気にしちゃいない。」
と言い、その場を立ち去っていった。リヴァイの姿が見えなくなると、セレナはオルオに自分の目を合わせ、
「あなた分かってるの!?相手は上官よ!こんなことが上層部に知れた
ら…」
オルオは、力なくうつむき、
「…ああ。すまねぇ。お前らまで巻き込んで…」
「気にしないで。オルオも、お家のこととか色々あって疲れてるのよ。
今日はもう何もないし、早く休んで。」
セレナは次に、ペトラの方を向き、
「ペトラも、もう休もう。」
ペトラは、堅い表情で前を見ていた。リヴァイの立ち去っていった方だ。
オルオ、そしてペトラとセレナは、それぞれの寝室へと向かっていった。
-
- 21 : 2014/02/05(水) 13:09:59 :
- 「…ペトラ、私思うんだけど、リヴァイ兵士長は多分、オルオに、どんな
に蔑まれても、自分はここで戦うんだって強い意志を持ってほしいんだと
思うよ。…そうでなければ立ち去る…巨人は…壁外は本当に甘いものじゃ
ないんだよ。あの人は、それを誰よりも分かってる…」
「…本当にあの人は、強いのかな…」
ペトラは、ポツリとつぶやく。
「さぁ…分かんないなぁ…」
セレナは答えた。
-
- 23 : 2014/02/05(水) 14:35:07 :
- そして、第100期生にとっての初陣、第24回壁外遠征の日がやってきた…。
「開門、30秒前!」
エルヴィンの号令が響く。ネス班長を筆頭に、ペトラ、オルオ、セレナは同じ班になることができた。先輩兵士のエルド.ジン、グンタ.シュルツと合わせた6人だった。
ペトラは、隣にいるセレナを見た。セレナはまっすぐ前を向いている…
「これより、第24回壁外遠征を開始する!前進せよ!!」
いよいよだ。ペトラは夢中で馬を走らせる。
「前方より巨人接近!10メートル級です!」
巨…人…。ペトラはその時初めて見た…。大きい。見た目はヒトと似たようなものだが、顔は醜く、口が異常に大きい。ゆっくりとこちらに向かって来る。ペトラの心臓が早鐘の様に打つ。
「ペトラ、怯むな、走れ!」
エルドの声に、ペトラは我に帰る。
「うわあぁっ離せ、はなせぇぇぇ!!」
絶叫がこだまする。何?何が起きているの?
「右側より8メートル級接近!左側より7メートル級!」
ネスは舌打ちした。挟み撃ちかよ…。
「エルド!お前は右側を支援しろ!グンタは前方!俺は左側をやる!」
ネスはペトラたちの方を見、
「新兵はこのまま進め!」
「はい!」 答えたのは、セレナのみだった。
時折聞こえる絶叫、何かが砕ける音、立体起動で舞う兵士たち、そして汗と、血の匂い…これが…これが壁外…。
-
- 24 : 2014/02/05(水) 14:56:18 :
- オルオは、情けない顔をした。さっき、見てしまった。巨人が人を…人を喰べる…オルオは吐き気を催した。
セレナは前を見続けていた。怖くなかった訳ではない。でもそんなとき、セレナは斜め前を走るエルヴィンの背中を見た。
なぜか、心が安らいだ。
「右側、さらに8メートル級接近!…2体です!」
周りの先輩兵士が、飛び立ってゆく…。
「おいっ新兵!」
グンタの声だ。巨人を討伐して戻ってきた様だ。
「お前たちも右側の支援に向かえ!巨人がどんどん増えて、このままでは
右翼側は全滅する!オレとエルドもすぐに向かう!」
「はいっ!」 セレナは迷うことなく向かう。
「セ、セレナ!」 ペトラも慌ててついてゆく。オルオも舌打ちし、続く。
…ペトラは、目の前の光景に、戦慄した。
おびただしい血の海。地面には、首のない死体や、胴から下のない死体、体の右半分がえぐれた死体…生臭い匂い…。
…これは…現実なのか…ほおを伝う涙をぬぐおうともせず、ペトラは馬から降り、呆然と立ち尽くした。目の前では、まるで人形遊びでもするかの様に、巨人にもてあそばれながら喰われていく兵士がいる。
…彼の絶叫は、いまだにペトラの耳から離れない。
「ペトラ!!」 セレナが叫ぶ。
目の前に、巨人の大きな手が迫る。
助けて…おかあさん。ペトラは、自分の下半身が、生温かいもので濡れていくのを感じた…。
…が、目の前まで迫った巨人の手が、ぐらりと倒れていく…。そして目の前に現れたのは、リヴァイ兵士長だった。
-
- 25 : 2014/02/05(水) 15:10:54 :
- 「ペトラ!大丈夫!?」 「ぼやっとしてたら死んじまうぞ、ああ!?」
セレナとオルオの叱責にも反応せず、ペトラは呆然と立ち尽くした。
「おいっ、お前たちだけでも逃げろ!」
「そいつは戦意喪失だ、諦めろ!」
エルドとグンタは叫び、他の巨人討伐に向かう。しかし、セレナとオルオは、ペトラを置いていくことなどできなかった。
「ペトラ!ペトラ、しっかりして!!」
セレナが必死に声をかける…反応はない。
するとリヴァイが駆け寄ってきた。ペトラの手を握り、力強く引く。ペトラは体をガクンと傾けるが、歩き出す気配はない。
「こいつは俺が必ず連れて帰る。お前たちは行け。」
「はい。」 セレナは素早く応じ、ワンテンポ遅れるオルオの手を引き、その場を離れた。
「おい、…おいっ…」
リヴァイはペトラの肩を揺するが、ダメだ。リヴァイは舌打ちした。左側から巨人が迫る。リヴァイは飛び立った。
(あれ…私…生きてるの…あれは巨人…何かが飛んでる…鳥…?いや、あれ
は…)
リヴァイは巨人を討伐した。次にまた1体現れたが、彼は確実にうなじを削いだ。
(人類最強の…兵士…)
-
- 26 : 2014/02/05(水) 15:19:47 :
- リヴァイは再びペトラの元へ戻ってきた。ペトラの目が晴れる。
「…撤退命令だ。早く行くぞ。」
リヴァイはそう告げると、飛び立っていった。ペトラは我に帰ると、急いで馬を走らせた。だんだんと思考が戻っていく…。
ズボンが濡れている。下着まで…まさか…私…。
仲間たちの元へたどり着き、班員たちの顔を見るなり、ペトラは泣き出した。セレナは優しく慰めてくれたが、オルオもその横で泣き出していた。よく見ると、オルオのズボンも濡れているようだった。
しかし周りは皆、気づかないふりをしてくれた。
第24回壁外遠征は、計20名の死者を出し、幕を閉じた。
-
- 27 : 2014/02/05(水) 15:45:28 :
- 本部へ戻ると、ペトラはまずシャワーを浴び、服を着替えた。
そして…吐いた。あの惨状がよみがえり、たまらずもよおしたのだ。
惨状…そうだ。なぜ私は生き残ったのだろう。
リヴァイ兵士長の姿が頭に浮かんだ。そうだ。私はあの人に助けられたのだ。うっすらと覚えてる。巨人にたった一人で立ち向かい、確実に仕留めていった彼の姿を。私を守るために。
人類最強の…兵士…。
謝らなくちゃ。自分の今までしてきた非礼を。
ペトラは、ドアノブに手をかけようとして、ふと手を見返した。
兵長に、手を掴まれた気がする…手の皮が厚く、ゴツゴツしてて、男の人の手って感じがした。グリップのあたる部分に、とくに厚みがあった気がした。
まるで、立体起動装置を使うためにできた様な、あの手…。
ペトラは、リヴァイのもとへ向かった。リヴァイはすぐに見つかった。なぜか窓をじっと見つめている…。
「あ…あの…」 「何だ。」
リヴァイは、窓から目を離さずに応じる。
「えっと…この前から…色々と…申し訳ありませんでした。」
「何の話だ。」
「オルオに対する発言を…撤回しろだとか…今日の壁外遠征でも…ご迷惑
をかけてしまって…」
リヴァイは少し見る角度を変えたものの、相変わらず窓を見ている。
「…気にするな。俺は気にしちゃいない。」
リヴァイの窓を見つめる真剣な眼差しが気になり、ペトラはたまらず、
「…あの、何を見ているんですか?」
リヴァイは窓を指示し、
「…ここだ。」 ペトラは窓の外を見た。本部の庭が見える。とくに変わった様子はない。
「…あの…何か…」
「外じゃない。…このガラスの手あかだ。」
「手あか…ですか…」
確かに、窓ガラスには無数の手あかが付いていた。
「これが何か?」
「昨日のここの清掃担当は、オルオだったな。」
「…ええ、確か…」
「すぐに呼んでやり直させろ。全然なってない、とな。」
そう言い残すと、リヴァイは去っていった…。
(何なんだろう…あの人は…)
あっけにとられつつも、今後ペトラの中に、リヴァイ兵士長という存在は、確実に刻み込まれたのだった。
-
- 28 : 2014/02/05(水) 15:51:35 :
- 以上で、#3 刻む を終了させていただきます。
では少し次回の予告を…
次回は3年後、849年が舞台となります。18歳になったペトラたちは、兵士として大きく成長を遂げていました。
そして一人の人間としても、葛藤し、成長していくことになるのです。
読んでいただき、ありがとうございました。
- 著者情報
- 「進撃の巨人」カテゴリの人気記事
- 「進撃の巨人」カテゴリの最新記事
- 「進撃の巨人」SSの交流広場
- 進撃の巨人 交流広場