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黄昏の夕焼け

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  1. 1 : : 2014/02/01(土) 03:19:10
    修正し、付け加えました。
    まだ続きますが、一旦ここでお開き。
    拙い文章で申し訳ないです。
  2. 2 : : 2014/02/01(土) 03:27:12
    巨大樹の森…体長20~30㍍は越すであろう大木の集まった森である。

    この森で、女型の巨人に奪われたエレンを取り戻す為に、リヴァイとミカサは女型と戦い続けていた。

    一般兵が操る立体機動術とリヴァイのそれは、全く別物であった。ブレードの逆手持ち、身体に回転を加えながらの斬撃、挙げればキリがない。
    通常教わる立体機動術と逆の操作を行う為、この技術を実践に導入できる者は調査兵団でも極々わずかだ。

    先のリヴァイ班オルオの決死のうなじへの一撃、そしてミカサの一撃も女型の硬化能力でブレードが逆に折られてしまっていた。

    だが、リヴァイはこの立体機動術により、女型の硬化能力が追いつかない速さで全身を削ぎに削ぎまくる。

    女型の注意を引く役目を受けていたミカサは、その常軌を逸している立体機動術に驚きを隠せなかった。

    訓練兵を首席で卒業し、トロスト区防衛で人類の勝利に多く貢献したミカサを、遥かに上回っていた。

    やがて、弱点であるうなじを守っていた女型の両腕は、筋肉を削がれ支えられなくなり、重力に従い力なくぶらさがった。
    弱点のうなじが露わになり、ミカサはそれを確認した瞬間、瞬く間に自身の心が女型への憎しみで溢れかえるのを感じた。

    今なら女型を殺れる…、その感情に支配された。

    ミカサが立体機動に移ろうとした次の瞬間、エレンを含んでいるであろう女型の依然閉じられていた口から、人間が勢いよく飛び出した。

    その人間は、ピクリとも動かないエレンを右手に抱え、左手でブレードと立体機動を操った。

    エレンを取り戻すという本来の目的を果たす為には、含んでいると思われる女型の口を裂かなければならない。

    奪い返す為に口を削ごうと接近していたリヴァイは、女型の口の真正面に来ていた。

    狙い澄ましたかのようなタイミングで、女型の口から人間が飛び出してきたのだった。

    そこからは一瞬の出来事であった。

    左手に持つブレードでリヴァイに斬りにかかった女型の中身に、リヴァイは咄嗟にガスを急噴射させ直線機動をわずかに右に修正した。
    大量のガス噴射で目の前の視界を塞がれ、同じく機動方向を変えようとして一瞬停止した刹那、リヴァイは女型の中身の左腕を自身の刃で削ぎ取った。

    女型の中身はそのまま墜落するかと思いきや、結構な高度があったにも関わらずエレンを抱えたまま両足で着地した。
  3. 3 : : 2014/02/01(土) 03:28:31
    人が人に腕を削ぎ落とされる光景に、ミカサはかすかに恐怖を感じた。

    訓練兵団で教わるのは巨人殺しの術故に、この立体機動術で人が人を斬る光景は異様でしかなかった。

    体勢を取り戻したリヴァイを捉えると、その視線をそのまま女型の中身に移した。

    普通の人間ならばこの高度から落下して、まして腕が切断されている状態で無事なわけがない、と、その考えはすぐにかき消された。

    女型の中身の、まだ残っている左腕の付け根から、ポコポコと泡を吹き出しながらゆっくりと、腕が生えてきているのであった。

    大量に出ていた左腕からの出血は止まっていた。

    トロスト区の防衛時に、エレンが自身がなっていた巨人のうなじから疲労困憊の状態で出現した際、巨人に食い千切られた片足が再生していた、という話をミカサはアルミンから聞いていた。

    つまり、巨人化の力を持つ者は再生能力がある、という事を知ってはいた。

    しかし、言葉を聞いて想像するのと、実際に再生する場を目撃しているのでは、全く話が違う。軽く吐き気を催した。

    すると、女型の中身がミカサの方向を向いた。ミカサは初めて、女型の中身の顔を見た。

    その中身と視線が数秒合うと、ミカサの思考は一瞬停止した。

    あまりの衝撃に声も出なかった。

    リヴァイはミカサの動揺を感じ取っていたが、視線は女型の中身を捉えたまま動かなかった。

    場は一瞬完全に膠着したが、リヴァイは装備していた信煙弾を天に向かって発射した。

    その行動にミカサが一瞬リヴァイの方を向く。

    二人の視線が自身から離れたのを見計らって、既に再生が完了していた親指と人差し指の二本で腰の装備を取り出した。

    同じく、天に向かって撃ちあげる。

    リヴァイがそれに気付くと、その意図を瞬時に悟った。

    「目を閉じろ!!」
  4. 4 : : 2014/02/01(土) 03:29:09
    リヴァイが叫ぶと同時に爆音が唸り、強烈な閃光が辺り一帯を覆い包んだ。

    女型の中身は巨大樹の森の出口の方向へ走り出し、左腕の小指以外が再生し終えるのを確認して、エレンを抱えたまま立体機動に移った。

    リヴァイの叫びによってギリギリの間で目を閉じ、閃光弾への意識が出来た二人は、大きな衝撃が与えられることはなかった。

    ミカサとリヴァイも女型の中身に続き、立体機動で追った。

    女型の中身とはかろうじて目視で確認出来るか否か程の距離が開いていた。

    二人は立体機動のガスの出力を最大限に上げ、木々を突きぬけていったが、まだ距離は開いている。

    事前に調査兵団の作戦会議で巨大樹の森の範囲の広さを把握していたリヴァイは、森を突破される距離を逆算し、最悪のケースを頭に浮かべると、思わず眉間の皺が更に強くなった。

    「おい、お前…!名前はなんだ!?」

    口調は平生と同じく静かであったが力強く、焦りすらも感じられた。

    立体機動のガスを最大限に噴かした状態で口を開くことは、
    熟練した技術を持つ兵士といえども相当苦しい。

    ミカサは立体機動による風圧を普段よりも直に身体に感じ、苦しげな表情を浮かべていた。

    「…ミカサ・アッカーマンです」

    「そうか…ミカサ、お前があの女型に何を感じたかは知らんが、余計な感情は捨てろ」

    「!そんなモノは…ありません…」

    「…とにかくだ、俺達と奴との距離は、今の状況では絶望的だ」

    「このままいけばガスが切れる前に追いつけます…!」

    「ガスの問題じゃない…俺達がこの森に入ってきた場所を入口とすれば、この森の出口までの距離はあとわずかだ」

    「…ッ!」


    ミカサは自分達の状況を把握し、徐々に距離が縮みつつある女型の中身の後ろ姿を凝視した。思わず、握っているブレードを握り絞めた。

    「間に合わない…!」

    しばしの沈黙の後、リヴァイが再び口を開いた。

    「奴に信煙弾を撃つぞ」

    「…?信煙弾…ですか?」

    「当てなくてもいい、奴の意識を背後に向けさせろ。立体機動は視覚を潰せば使えなくなる、外から軽く圧力を掛けるだけでも安定しなくなる…そこを狙うぞ」

    その異様な作戦に、ミカサは困惑した。

    確かに理論で言えば筋は通っているが、信煙弾を攻撃の要に用いるという発想は容易に出るモノではない。

    そもそも立体機動とは巨人殺しの為に生み出された物であり、人間に対して使う物ではない。

    ミカサはこの男の過去をわずかに垣間見たような気がした。

    「分かりました…!」

    「信煙弾を撃った後、最大出力でガスを噴出させるぞ。ここ
    で決める」

    巨大樹の森の出口まで間近に差し迫った。

    この速度を保てば、後30秒程度で突破されるであろうことを、リヴァイは把握していた。

    女型の中身は右手にエレンを抱えているため通常よりも立体機動の速度は劣るが、それでも十分な速さを保っている。

    リヴァイ達は最大出力でガスを噴出させてきた為、ガスの残り残量はわずかであった。

    補給ができないこの森では、ガスが無くなれば即ち死を意味する。

    森を突破される距離に於いても、ガスの残り残量に於いても、この作戦が奪還の最後の望みである。
  5. 5 : : 2014/02/01(土) 03:29:36

    二人は信煙弾を撃つ為の手を確保する為に、ガスの噴出を爆発的に上げ、そこから一瞬止めて残った推進力だけで身体を落下させず維持させる。

    手をブレードから信煙弾に持ち替え、女型の中身に向けて撃ちこんだ。

    二人の撃った信煙弾の内の一つが、女型の中身の頬をかすめた。

    女型の中身はそれに気を取られ、瞬背後を振り向いた。そのせいで、立体機動のスピードが格段に落ちてしまった。

    信煙弾を撃ち込んだ装置を地に投げ捨て、再度ブレードに持ち換えたリヴァイとミカサは、残り少ないガスを惜しみなく最大出力で噴射させ、アンカーを駆使して女型の中身に詰め寄った。

    もはや前方には森の向こうに広がる大草原が見えている。

    わずかにリヴァイの方が早く、女型の中身に斬りかかった。

    右方からエレンを抱える右手を削ぎ落す為にブレードを振り抜いたが、女型の中身の右腕は斬り落とされなかった。

    女型の中身はエレンを抱える右腕を狙われると警戒して、体力の消耗が激しい中で硬化の能力を、うなじの首周りと右腕に集中させていたのであった。

    体勢を立て直そうと近くの大樹にアンカーを刺すも、リヴァイのガスはそこで尽きてしまった。

    削ぎにかかった3秒ほど後に、ミカサも左方より斬りにかかった。

    その時、ミカサの目の視線と女型の中身の視線がぶつかった。

    そして、女型の中身の胴体に斬りかかるブレードの振り抜きが、普段の彼女よりも甘く入った。

    そのわずかな差であったのだろうか、空中でのやり取りで、女型の中身の胴体は真っ二つには切断されず繋がったままであった。

    ミカサのガスはまだわずかに残っていたが、距離に於いてのリミットであった。

    女型の中身は勢いよくアンカーの巻き取りとガスの噴射で加速させた後、右手の皮膚を噛み切った。

    空気を震わせる豪音と金色に輝く閃光を発しながら、女型の巨人に生った。

    先の戦闘の傷と体力の消耗が激しい女型の中身にとって、巨人化はこの一回が限界であった。

    二人にはもはや、その女型の後ろ姿を眺める事しか出来なかった。

    既に空は夕焼けが始まり、朱と金に染まっていた。
  6. 6 : : 2014/02/01(土) 03:29:43
    終わり。

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