このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
両腕の対価 エレヒス
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- 1 : 2020/07/14(火) 23:18:42 :
- 他作品が投稿遅れてるんですが、どうしても書きたくなってしまったので、投稿させていただきます。すいません。
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- 2 : 2020/07/15(水) 00:33:58 :
- 病室のベットで窓から覗き込む燦然とした太陽の光に目を細めながら天井を見つめながらあの日の事を思い出す。
あの日俺は、エレン・イェーガーは両腕を失くした。
その頃の俺は中学三年生で、所謂高校受験生と言う奴で、夏休みに入り勉強に没頭していた。
俺の父親は大手企業の社長であり、母親はその企業の経理を長年続けるキャリアウーマンと言う奴である。要するに、俺の家は金持ちというやつであった。
両親はいつも多忙で、この長期休暇の間顔を合わせたり、食卓を囲んだのも指で数え切れる程である。
愛されていないと言われると、そうでもなかった。両親共に日曜日は必ず休みをとり、家族で過ごす時間を確保してくれていた。
夏休みと繁忙期が重なり、休みが取れる日は少し減ったが、あの日特別に休みを取ってくれたそうだ。
勉強で息が詰まった俺の事を想って息抜きを目的に自然に囲まれた場所へ行こうと提案してくれた。
そうして都会から2時間ほど車を走らせると、そこは都会の面影が全く感じられないほどの場所であった。現代文で偶にでてくる「澄んだ空気」と言うものを初めて実感できた気がする。
日が暮れかけ、そろそろ帰ろうかと車へ戻る。
勉強で息が詰まっていた俺にとって家族でこうやって旅行に来たり、談笑することは息抜きにしては十分過ぎるほどだった。
幸せというものを改めて感じさせられ、その感情に浸っていた刹那、車が何かとぶつかり、浮遊感に包まれた。
そこからの記憶は曖昧だが、今でも覚えているのは、俺の右腕は運転席の父親を貫いた木の先端が貫かれ、左腕は外れた助手席に挟まれていた事だ。
目が覚めたのは数ヶ月後だと聞かされた。
右腕の神経損傷、左腕の血液の循環不足による壊死。俺の両腕が使い物にならないのと、両親が助からない事は明白だ。義手についてを聞かされた時は放心状態に陥った。
そこからの記憶はほとんどない。ショックにより気を失ったらしい。今ではこう正気を保っているが。受け入れるのにはかなりの時間を要した。
エレン「そして今に至る。って訳か。」
カシャカシャと機械的な音を上げるこの鋼鉄は俺に嫌味を覚えさせる。
担当医は「その義手を使えるようになるまで、1ヶ月はリハビリを続けましょう」と俺に言った。
エレン「もう、どうだって良くなってきた…」
心の喪失感、身体的な倦怠感、これからどうなるかなんて心配は闇に包まれて、何かを考えるのが嫌になる。
エレン「…ん、これは…。」
棚にあったのは家族写真だ。去年の俺の誕生日に撮った写真で、俺と母親と父親が並んでいる写真だ。この頃から既に俺は母親の身長を越し、父親とほとんど変わらないくらいだった。
エレン「…」
その写真を眺めていると、ふと思う。
エレン「俺はまだ、受け入れられてないのか。」
涙が流れない。両親の死別、両腕の損失。それだけの事が起こったと言うのにこのエレン・イェーガーは涙をながさないというのだ。
エレン「義手を付けるのも、並大抵の人が簡単に施せるものでもないってのに…」
皮肉にも、裕福な家庭が故に、まるで嫌でも生き延びろと言われているような気がした。
エレン「母さんと父さんは俺に希望を与えてくれたって事…なのか…。」
そう思う事にした。そうでもしなきゃ今すぐにでもそこの窓から飛び降りてしまいそうな気がするから。
その日は何事もなく夜を迎え、眠りについた。
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- 3 : 2020/07/17(金) 01:49:19 :
- それから数日が経った。今日からリハビリが始まるらしい。今朝それを担当医に伝えられた。
俺が目を覚ましてからの数日、食事は担当医の補助もあって、少しは箸を使えるようになったが、それでも俺がこの腕に着けている禍々しい異物を使いこなせる様には思えなかった。
「イェーガーさん、リハビリの時間です。」
ノックの音とさながらヒールの音を響かせた後、担当医は俺にそう告げた。
エレン「はい。」
少しばかりぎこちない動作でベットの手すりを掴み、まるで鉛を背負ったかの様に重い体を足から順にベットの外へと投げ出す。
エレン「…っと」
数ヶ月も寝込んだままだ、筋肉が衰退し、気だるさが身体を襲う。そのまま車椅子に乗って、部屋をあとにする。
リハビリルームに到着した俺は、まずは足腰の筋肉を鍛える為に並行に並べられた10m程の手すりに手をかける。
「最初は辛いと思いますが、頑張ってください。」
その他人事だということを突き付けるような一言を後に、担当医は部屋を出ていった。
「こんにちはイェーガーさん、フリーダ・レイスです。リハビリの時は私が担当します。よろしくお願いしますね。」
エレン「はい、お願いします。」
そう言って挨拶を交わすと彼女は手に持っていたファイルを閉じてすっと立ち上がる。
フリーダ「さて、それじゃあ始めましょうか、リハビリ。」
エレン「あ、はい。」
フリーダ「まずは立ち上がってあそこの手すりの所まで移動しましょうか。」
エレン「はい……ふっ…。」
足に全力で力を入れて立ち上がる。よろめきはするもののなんとか手すりに捕まることが出来た。
フリーダ「それじゃあまずは、歩いてみましょう。」
エレン「はい。」
1歩ずつ足に力を入れて進む。
エレン「くっ…ふっ…」
1歩ずつ、1歩ずつ…俺の足が覚えるこの疲労は、この10mを歩き切る事が果てしない事と錯覚させるようだった。
フリーダ「話は聞きました…義手の手術…受けたんですね。」
エレン「…はい。」
フリーダ「でも良かったですね。手術の前には、病院で精密検査を何回か受けるんです。この検査では血液、胸部のレントゲン、循環器系の機能などを調べるんですが、幸いにもどこも異常はなかったみたいです。」
エレン「そうですか…それは…良かったです。」
幸いにも。本当に幸いにもどこも異常がなく、無事手術を受けれた。だが、それが俺にとって幸せか不幸せかなんて、幾度となく患者の心身の異常を相手にしてきた彼女に分かるだろうか。
フリーダ「ですが、まだ慣れてない義手に衰えた身体。目を覚ましたばかりなのに大変でしょう。」
エレン「いえ、まだ若いのでこの位は…。」
フリーダ「無理はダメですよ。もっと身体を労わってくださいね。」
エレン「はい、ありがとうございます。」
相変わらず足を持ち上げるのが辛いが、それでも俺は足を止めない。
フリーダ「私、身体的なリハビリだけでなく、セラピーとしても担ってるんです。ですから、何か辛いことがあったら私に相談してくださいね。」ニコ
エレン「わかりました。」
あぁ、きっとこの人は、その笑顔で幾人もの人を救ってきたのだろう。だが、その笑顔は俺にとって苦でしかなかった。
フリーダ「今日はここまでにしましょうか。」
そう言って彼女は、まだファイルをパタンと閉じて車椅子を俺の前へ運んできた。
フリーダ「次は隣の部屋で少しお話をしましょうか。」
エレン「はい。」
崩れ落ちそうな足にどうにか力を入れ、車椅子に座ると、フリーダさんはカラカラと車椅子を移動させる。
フリーダ「さて、それじゃあ少し質問させてもらいますね。」
そう言い、ファイルを開くとペラペラとページをいくつかめくる。
フリーダ「どうです?ご飯。食べれてます?」
エレン「あぁ、はい。まぁ、食欲はそんなに無いわけでは無いので。出された分を。」
フリーダ「ふむふむ…。」
カリカリと書類にボールペンを走らせる。
フリーダ「身体の調子はどうです?義手はどの程度までなら動かせますか?」
エレン「調子は…はい。特に痛いところもないです。義手も、何かを掴んだりする程度なら。まぁ、箸とか細かいのはまだぎこちないですけど。」
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- 4 : 2020/07/17(金) 01:53:09 :
- 今更なんですがCPの方をタイトルに追加させて頂きます。
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- 5 : 2020/07/19(日) 13:15:30 :
- フリーダ「なーるほどね。うーんと、じゃあ、ちょっと暗い質問になります、いいですか。」
エレン「大丈夫です。」
フリーダ「うん、よし。それじゃあ…エレン君は、あの日のことをどれだけ覚えてる?」
彼女は俺の事を"イェーガーさん”ではなく"エレン君”と呼んだ。そこにはまるで、俺の事を一患者ではなく、一青年として見ているような。
エレン「あの日…ですか。あれは…家族旅行で…俺だけ助かって…父の頭に木が…母さんは喉にフロントガラスが…俺だけ…俺だけ生き残った…。」
フリーダ「…。」
断片的ではあるが覚えているのは主に事故の直後。自分だけが生き残ったという自責の念。それなのに彼は、涙1つ流さなかった。
エレン「あんまり…覚えてませんでした。」
フリーダ「い、いいえ、大丈夫なのよ?ごめんね、辛いこと言わせちゃって。」
エレン「いえ…。こちらこそ。」
フリーダ「それじゃあ最後の質問。エレン君は、また学校に通いたいと思う?」
エレン「……。」
それを聞いた瞬間、頭に思い浮かぶのは親友であるアルミンとミカサ。そしてヒストリアだ。
俺は小さい頃から社長の息子。すなわち御曹司である。というレッテルによって周りからは贔屓されてきた。しかし、そんな中周りとは違い、普通に接してくれたのはこの3人である。
エレン「学校…ですか…。」
アイツらは今何してるのか、今のこの俺を見ても今まで通り接してくれるのか。この2つ、特に後者が俺の懸念である。
フリーダ「そう。私としては、エレン君には学校に行って、進学か就職。端的に言えば、社会復帰をしてもらいたいの。」
エレン「そうですね。どちらにせよ、俺にはそれしか残ってないと思いますし。」
本心では無いが、俺は半ば強引に、虚ろな目でそう答えた。
フリーダ「そっか。分かりました。これで質問は終わりです。部屋に戻って、今日はもう休みましょう。」
エレン「はい。」
その後、何事もなく部屋に戻って、またいつものように天井を眺める。窓から入り込む夕日がやけに鬱陶しい。
そして俺はいつの間にか、暗闇に誘われる。
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- 6 : 2020/07/19(日) 13:29:03 :
- 目が覚めると、ベットの傍に担当医が座っていた。
「目が覚めましたか。おはようございます。イェーガーさん。」
エレン「あ、はい。おはようございます。」
どれだけ眠っていたかは分からない。ただ、汗をかいていたのだろう。汗で服が肌と密着しているその感覚が、何よりも気持ち悪かった。
「ひどく汗をかいていましたよ。ここに飲み物置いておきますから。汗を拭く準備をしている間に、飲んでおいてくださいね。」
そういうと、担当医は部屋を出ていった。
エレン「(なんだ、あの夢は…。)」
その夢は、いつものよりも残酷で、悪質だった。
暗闇の中、俺は彷徨っていた。するとどこからがあの2人の声がした。
エレン…こっちよ。と。
声が近づくにつれて、俺はその正体の居場所が分かった。下だ。
そこには、頭部に穴を開けた父親が。身体中にガラスが突き刺さった母親がいた。
そして2人は暗闇の底へと堕ちていく。
お前はまだ来るな。と告げ、夢はそこで終わる。
こんな突拍子もない夢は俺のこのがらんどうの心をより一層、深く病ませる。
エレン「あぁ、そうか。俺は、まだ…死んじゃ…いけない…。」
まだ死ねない。死にたくないのではなく死ねない。これから先どうなるのか、俺がまともに社会に出られるのか。そんなことはどうでもよかった。ただ、俺が幸せになれるビジョンが、全く思い浮かばなかった。
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- 7 : 2020/07/23(木) 01:35:54 :
- 一先ず先程担当医が置いていった清涼飲料水を口にする。
心は荒みきり、俺という人格は死に絶えていたのかもしれないが、ひどく乾ききった身体に、この飲み物は浸透するようだった。
エレン「涼しい……」
夏も過ぎ、もう冬を迎えようとしていた季節だったが、部屋は不思議と暑く感じたため、この涼しさが、いかに俺に生の実感を与えたかは言うまでもない。
すると、ドアが開かれる。
担当医「待たせましたね。それじゃあ、一旦上着だけ脱ぎましょうか。」
エレン「はい。」
上着を俺の後ろに脱ぎ捨て、怠そうにすると、先程までは暖かっただろうタオルは少し冷たい空気に晒され、温くなっていた。
担当医「すごい汗ですね。着替え持ってきたので、こちらは回収しますね。」
エレン「ありがとうございます。」
ふと、自分の腕や腹部を見てみると、まるであの頃の俺の体ではないように痩せていた。
その様子を見て何を思ったか、担当医は俺にこう告げる。
担当医「このまま行けば、体格も以前のように戻りますよ。その為にも今まで通りちゃんと食事を取って、リハビリも続けましょうね。」
エレン「分かりました。」
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身体的な事や精神的な事。頑張ってや大丈夫やごめんなさい。きっとこれからの人生で体験することは無いであろうほど気を遣われた。
励ませばいい。労えばいい。誰も彼も、結局はそれだけだった。それから何ヶ月もこの生活を続けて、現状復帰…失ったものはいくつかあったが、強いていえば元の生活。とやらに戻る事ができそうならしい。
そして退院当日、俺は病院の入口まで見送られることになった。
担当医「お疲れ様です。これで晴れて退院ですね。」
エレン「はい、忙しいのに、ありがとうございました。」
担当医「それじゃあ、後のことはフリーダ先生に任せてあるから。また何かあったら来てくださいね。」
エレン「はい。」
そう言って忙しそうに見送りを終え、病院へ戻ってく彼女を後に、フリーダさんが話し始める。
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- 8 : 2020/08/16(日) 23:15:56 :
- 楽しみにしてます!
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- 9 : 2020/09/13(日) 22:51:54 :
- 期待なの!
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- 10 : 2020/10/01(木) 13:56:15 :
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