この作品は執筆を終了しています。
サシャ「今のままで」
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- 1 : 2014/01/21(火) 03:53:31 :
- 初投稿です。
エレサシャになりますが、割と長めの話になるかと・・・。
お付き合いいただけたら幸いです。
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- 2 : 2014/01/21(火) 03:57:13 :
- 芋女。
影でそう呼ばれているのを幾度となく聞いたことがある。
ただ、私は別にそう呼ばれていてもあまり気にはならなかった。
「他人は他人、自分は自分やし」
そういう考えが根っこにあるから、むしろ誰かとかぶっていないだけ気分がよかったりして。
まぁ、そう呼ばれる原因が入団時の私の言動のせい、というのもあるけども。
でも私、結構うまくやっている方だと思う。
クリスタをはじめとして104期の皆さんとは楽しくやっていけているし、成績だって悪くない。
幼い頃から狩猟で鍛えた身体能力と勘が訓練の成績を支えている。
身体能力と立体機動の成績については私より上手な人もいるが、勘の良さについては自信がある。
私とはれるのはコニーくらいだろうか。
座学は・・・。ちょっと苦手だけれども、お得意の一夜漬けでギリギリしのいでいる。
でも訓練に座学も頑張るとなると、育ち盛りの女の子には栄養が必要。
だから時々長官の部屋から貴重なタンパク源を”頂戴”してくることくらいどうってことない、と思っている。
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- 3 : 2014/01/21(火) 04:50:45 :
- さて、こんな、「万能」というほどではないが、そこそこ上手く立ち回っている私でも、あそこまでひどくはないな、って人がいる。
私の陰口が「芋女」であるなら、彼の場合は「死に急ぎ野郎」であろう。
エレン・イェーガー
彼は何かと目立っていた。
誤解の無いように言っておくと、決しておどけたり素っ頓狂なことを言って目立っているわけではない。
ただ、言うなれば、彼はいつでもまっすぐだ、ってこと。
「全ての巨人を駆逐して、外の世界を探検する」
これはみんなの前で彼が語った夢だ。
あの日。
ウォール・マリアが陥落し、人類の活動領域は約100年ぶりに後退した。
ウォール・マリアを奪還すべく人類は旗をあげているけども、ここにいるほとんどの人がこう思っている。
「人類は巨人に勝てない」
そんな中で、なんて眩しい夢を持っているのか。
その夢は、全人類の夢でもあり、また理想でもあり、そしてどこまでも「夢物語」であった。
現実味がないのだ。
勝算がない。
将来に希望が持てないまま、今を生き抜かなければならないとなると、人はどうしても卑屈になりがちだ。
そして屈折した感情は、光り輝くものにぶつけられる。
それがエレンだった。
狩猟生活の中で常に現実を見ていなければならなかった私は、彼の夢想家ぶりに辟易した。
でも「エレンはエレン、私は私」であるから、彼の考えは否定せず、距離は取り続けた。
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- 4 : 2014/01/21(火) 05:25:48 :
- シュウさんの書く文章、とても上手ですごく惹きつけられました!
無意識のうちに読みふけってしまっていました、笑
続き待ってます!
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- 5 : 2014/01/21(火) 07:16:02 :
- ゆき@アレアに求む!さん、ありがとうございます!
頑張ります!
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- 6 : 2014/01/21(火) 07:17:44 :
- 「距離をとる」
他者を認めつつ自分も大事にするためには最も効果的な手段であると私は思う。
それに一役買っているのが私の「敬語」だ。
相手に一定の敬意を示しつつ、馴れ馴れしくもならずにすむ。便利な道具だ。
もう一つ便利な使い道として、敬語を使っていると自然とそれが標準語に聞こえること。
私の故郷の言葉は少し訛りがある。年頃の女の子には正直言ってこれを話すのは恥ずかしい。
敬語を使うことは私にとって一石二鳥なのだ。
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- 7 : 2014/01/21(火) 07:23:16 :
- 完璧な布陣といっていい。
でもこんな私に真っ向から切り込んだ人が一人。
ソバカス女
ユミル。
クリスタとなぜかいつも一緒にいるこの人は、井戸汲みの際に私の敬語に鋭く追及してきた。
「なんでお前そんなしゃべり方なんだ」
予想していない質問。
思わず言葉に詰まってしまう。
「えっと・・・」
説明すると長くなる。
どう説明したら・・・。
「分かった。当ててやろう。お前の故郷のしゃべり方が恥ずかしいんだろ?」
・・・違う。
それもあるけどもう一つ理由がある。でもその理由を自分の口から言うのは少し恥ずかしい。
分かってくれないかもしれないし。
ユミルは続ける。
「狩猟以外のこと何も知らなくて世間や人が怖いんだな。兵士を目指したのだって・・・」
・・・今
何と言われたのか。
言われた言葉が気になってその先は聞こえない。
・・・・・・怖い?
私は怖がっているのだろうか?
その辺の開拓民とは違う。狩猟民族として常に危険と向き合って生きてきた。人よりも胆力はある。
なのに「怖い」という言葉に反応してしまう。
もしかしたらこれが私の本質なのか。
嫌だ。
認めたくない。
もう終わって欲しい。
そんな時だった。
「ちょっと、ユミル。」
「どんなしゃべり方でもいいじゃない。サシャはサシャなんだから。」
・・・・・・・・・あぁ・・・。
救われた。
私の言いたかったことを言ってくれた。
話もここで遮ることができた。
クリスタ、あなたはやはり女神様。
ユミルはやれやれと頭を振り、
「ものは言いようだな」
そしてポツリと、
「エレンと大差ねえな。不器用なのは。」
と吐き捨てた。
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- 8 : 2014/01/21(火) 07:32:06 :
- うまい…!そして期待です!
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- 9 : 2014/01/21(火) 07:33:08 :
- 衝撃。
私が?
エレンと同じ?
不器用?
いや、そんなことはない。
私は器用な人間だ。
ましてや、あのエレンと比べられるなど有り得ない。
しかし。
ポツリと呟く。
「・・・本当かな」
何を言っているのだ、私は。
思っていることと言っていることが一致していない。
おかしくなってしまったのだろうか。
一回大きく深呼吸する。
・・・いや。
おかしくはなってはいない。
「おかしい」というよりも「誤解」していたのかもしれない。
ほかでもない。
エレンのことを。
私は今までエレンと距離をとっていた。
だからエレンのことを、実を言うとよく知らない。
よく知らない人のことを頭から決めつけているから、おかしいことになっているのかもしれない。
もやもやするのは嫌いだ。
はっきりさせよう。
そう決意した。
その日から
私はエレンのことを
よく知ろうと思った。
そしてそれは、後から思い返せば、他人に関心を持った初めてのきっかけだった。
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- 10 : 2014/01/21(火) 07:37:17 :
- 朝、投稿できる分は、とりあえずここまでです。
夕方に続きを投稿できますので、気長にお待ちいただけたらと思います。
ちなみに結末はすでに考えています( ̄∀ ̄)
エレアニ求むさん、駆逐王さん、その他大勢の読者の皆様、応援お願いいたします!
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- 11 : 2014/01/21(火) 07:41:06 :
- 期待してるよ!
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- 12 : 2014/01/21(火) 10:23:29 :
- めちゃくちゃ上手いですね…引き込まれちゃいました。
続き楽しみにしています☻
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- 13 : 2014/01/21(火) 10:54:41 :
- 素晴らしいハイクオリティだ!!
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- 14 : 2014/01/21(火) 18:31:23 :
- ただいま帰りました。
続きを投稿いたします。
30分に1回のペースで投稿する予定です。
よろしくお願いします。
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- 15 : 2014/01/21(火) 18:38:57 :
エレンを観察してて思うこと。
それはやはり、彼はまっすぐな人間だってことだ。
まっすぐに自分の夢に向かって進んでいる。
他人の評価など気にもしていないようだ。
ただ、残念なのは、本人の想いと実力に差があること。
彼もそこには悩んでいるようだ。
拍車をかけるのは彼の幼馴染の存在。
ミカサ・アッカーマン
器用な人というのは彼女のことを言うのだろう。
およそ全ての訓練において高い成績を修めている。座学はもちろんのことだ。
彼女がそう見せてないだけかもしれないが、1聞けば10悟るような飲み込みの速さで、しかも特別な努力をしているようには見受けられない。
ちょっと口数は少ないが、同期の女の子たちと不和があったりなどもない。
男女差別という訳ではないが、やはり幼馴染の女の子が男である自分より出来るのはエレンにとっても心苦しいのではないかと思う。
理想と現実の乖離が焦りをうむ。
それが少し空回りして”不器用”と思われているのだろう。
この点において、私はエレンのような不器用な人間ではない。
一安心だ。
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- 16 : 2014/01/21(火) 19:03:46 :
- だいぶ更新されてる!
引き続き更新頑張ってください^^
仕事の合間に楽しませて頂きますね、笑
P.S.@以下は長いので、名前はゆきとでもお呼びください。笑
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- 17 : 2014/01/21(火) 19:15:12 :
- ゆきとさん、ありがとうございます!
コメントがあるとやはり嬉しいですね(*´∀`*)
続き行きます!
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- 18 : 2014/01/21(火) 19:15:55 :
- ↑ごめんなさい、「ゆき」さんでしたm(._.)m
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- 19 : 2014/01/21(火) 19:19:52 :
でも、エレンを観察していて勘違いしていたことが分かった。
エレンは決して「夢想家」ではなかった。
巨人のことをきちんと学び、巨人に抵抗できる手段と技術を学び、日々能力を高めていた。
狩猟民族は現実主義。
実力もないくせに口だけは大きい人間をことのほか嫌う。
しかし、この人は違った。
実力はまだこれからだけど、口だけの人間じゃない。
訓練兵を卒業する頃にはもしかしたら同期を代表する逸材になるかもしれない。
周りの評価など気にせず、不器用と言われても自分の夢に向かって、一歩一歩現実と向き合って努力していく。
素敵な”不器用”さん
そう思い直したときから
ほんの少し
ほんの少しだけ
エレンがかっこよく見えるようになった。
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- 20 : 2014/01/21(火) 20:03:33 :
エレンを観察し始めてからしばらく経ったある日のこと。
今は訓練後の夕食の席。
至福のひと時。
おもむろに話しかけられる。
「サシャってさ・・・」
おさげ髪で、活発な性格のお友達。ミーナだ。
「何ですか?」
食事を口にしながら答える。
ご飯は美味しいうちに食べなければいけない。
冷めては大変だから、友人との会話はいつも同時に行う。
「最近、エレンのことばっかり見てるよね」
ゴホッ!ゴホッ!
思わずむせた。
「そ、そんなことないですよ!」
そんなことない。
エレンと目が合ってはいけないから、盗み見るように観察していただけだ。
これ、狩りの基本。
「ほんとかなぁ?」
ミーナはニタニタしている。
「ほ、本当です!それに、ほら!なんでエレンのことを見る必要があるんですか!私はマジメな訓練生です!ご飯と訓練以外目に入りませんよ!」
「・・・。」
「ふーーーーん・・・。」
意味深な間。
・・・あ、なんか企んでる目ですね・・・。
そう思っていると、
ミーナがゆっくり口を開いてこう言った。
「私ってさぁ、最近エレンのこと、ちょっと、いいなって思うのね」
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- 21 : 2014/01/21(火) 20:53:47 :
- ・・・。
・・・。
・・・え?
・・・それは・・・何?
・・・言葉が出ない。
顔がひきつっていく。
「そ、それは・・・」
「そう思わない?」
何を期待しているのか。
ミーナは私の言葉にかぶせるように聞いてくる。
・・・顔が近づいてくる。
「わ、私は・・・」
「よく、分からないです・・・。」
俯いて、私は自分の正直な気持ちを吐露した。
途端に、潮が引いていくのを感じた。
口には出さないが、ミーナはこう”言っている”。
なんだ
つまんないの
・・・そんな目で見ないで欲しい。
私は俯いたまま、食事の続きを始めた。
ミーナは尚も、じとっとした目で私を見つめている。
それでも、食事を再開した私の様子に呆れてか、食堂を何の気もなしにぐるっと見回した。
ふと。
ミーナの視点が定まる。
食堂の奥だ。
一瞬だが、ミーナの口元がニヤリと笑う。
そして、
「エレン!ミカサ!アルミン!ここ、空いてるよ!」
と大声でエレンを呼んだ。
「!?」
食事を口に含んでいたせいで声が出せない。
余計なことをしないで欲しい。
観察対象が近くに来ては、観察できるものもできなくなる。
弱った・・・。
「おう、ミーナじゃねえか。ありがとな。・・・ん?」
気づかれた。
「サシャも一緒なのか。よろしくな。」
「ど、どうもです。・・・あれ?」
そう言えば。
なんだかんだ言って、エレンと話したのは今回が初めてだ。
自己紹介もしていない。
どこで知ったんだろう。
・・・私の知らないところで、エレンは私のことを知っている。
・・・とくん
何故だろう。
胸のあたりがあたたかい。
「エレンって、私の名前知ってたんですね!」
自分でもわからない。
でも”何か”を期待して私はそう言った。
エレンが口をひらく。
「あぁ、そりゃあな。」
「お前、訓練初日に教官の前で芋食ってた時に、名前言ってたじゃねえか。」
「あれだけインパクトがあれば誰だって覚えてるって。」
そしてあっさりと
その期待は裏切られた。
私が望んだようなものではなかった。
うまく説明できないけど、それだけは分かる。
もっと
まともな名前の覚え方をして欲しかった。
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- 22 : 2014/01/21(火) 21:24:26 :
- ちょっと休憩します。
今夜は1時くらいまで投稿する予定です。
読みづらいとか直した方がいいところがあれば是非ともコメントください。
ビクビクしながら投稿してます(・ω・;|||
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- 23 : 2014/01/21(火) 22:10:28 :
- こんな上手なssに指摘なんて・・・
すごく読みやすいので大丈夫だと思いますよ!
ゆっくり自分のペースで頑張ってくださいね!
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- 24 : 2014/01/21(火) 22:23:57 :
- 面白いし、組み立ても上手いし、引き込む文章力もあるし…とても初投稿に思えないです。
続きをわくわく待ってますね(´◡͐`)
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- 25 : 2014/01/21(火) 22:32:41 :
- 休憩終了です。再開します。
ゆきさん、submarineさん、ありがとうございます!
お褒めいただいて嬉しいです。゚(゚´Д`゚)゚。
本当に励まされます(´;ω;`)
頑張ります!
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- 26 : 2014/01/21(火) 22:37:18 :
「そ・・・」
「ん?」
「そうですよね!あんな登場の仕方をすれば誰だって覚えますよね!」
「私みたいなのは中々いませんから!」
「ははは・・・」
あんな
誰だって
私みたいな
自分がみすぼらしく感じた。
「エレン」
エレンの左隣、ミカサだ。
「夕食の時間がなくなってしまう。はやく食べよう。」
「そ、そうね。食べましょ?ね、サシャ?」
向かいのミーナが応える。
「はい・・・」
楽しい夕食のはずなのに気分が沈んでいた。
その後は他愛のない話が弾んだ。
訓練のこと。
エレン、ミカサ、アルミンが昔からよく一緒に遊んでいたこと。
座学のこと。
食事のこと。
私とミカサはあまりしゃべらない。
ミーナが話を上手に進めてくれて、それにエレンやアルミンが答える感じだった。
私はと言うと、食事を優先し相槌を時々打つ程度。
どう考えても、一緒にいて楽しい女の子ではない。
それもそうだ。
今まで距離をとって観察していた人が、急に近くにきたら誰だってこうなる。
心の準備ってものが必要だ。
私・・・
やっぱり不器用なんやろうか・・・
「サシャ?」
「はい!?」
おもむろに名前を呼ばれて我に帰る。
「どうした?さっきから全然しゃべってないぞ。」
「具合でも悪いのか?」
私の左隣、エレンからだ。
「い、いえ、別に!なんともないですよ!」
「ご飯が美味しかったので、つい・・・」
・・・なんて色気のない返答。
私が男だったら、もうこれっきりだなと思うほどの。
そんな時だった。
「そうか」
「でも、サシャは元気なのが似合ってるからな」
「次食べるときは楽しく話そうぜ」
・・・・・・・・・・・・・・・え?あ、
「はい!」
カラーン カラーン
夕食時間の終わりを告げる鐘。
「お、これでお開きだな。じゃあまたな、サシャ、ミーナ。」
そう言って仲良し3人組は席を立った。
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- 27 : 2014/01/21(火) 22:52:29 :
3人を見送りながら思うこと。
それは、
『また、話していいんやな・・・』
ってこと。
何だか嬉しかった。
寮に戻った後、申し訳なさそうにミーナが私に話しかけてきた。
「ごめん、サシャ。悪のりが過ぎたよ・・・。」
「ええのよ。気にせんとき。」
「え?」
「あっ!き、気にしないでください!ミーナは気を回してくれたんですよね?お陰で助かりました。」
「そ、そう?なら良かった・・・。」
・・・。
何だろう。
この嫌な沈黙は。
「じゃあ私そろそろ寝ま・・・」
「サシャ」
「はい?」
「・・・。」
「私が食堂で言ったこと、覚えてる?」
「・・・はい・・・?」
「あれ、本気だから。」
ニコッと笑う。
「お休み、サシャ。」
・・・。
・・・何も言えなかった。
ただ一言、
「お休みなさい」
それだけしか言えなかった。
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- 28 : 2014/01/21(火) 23:11:57 :
皆が寝静まった頃。
同期たちの微かな寝息が聞こえる。
今日は色々ありすぎた。
ベッドで横になり、枕をかかえながら思い返す。
『あれ、本気だから』
・・・ミーナはエレンのこと好きなのか・・・。
悶々とした私はおもむろに枕に頭をなすりつける。
なんやのそれ。
そんなの私に関係あらへんし。
ミーナも年頃の女の子だ。恋愛感情の一つや二つはあるだろう。
私が気に病むまでもない。
「でも・・・」
独り言を言ってみる。
何で私に言ったんだろ・・・。
ぐるぐると頭の中で答えをだそうと無い知恵をしぼる。
からかわれたんだ。きっと、そう。
ミーナがエレンたちを呼んだ時も、私が慌てるのを見たくて呼んだんだ。
そうだ。
それだ。
そう思えば気持ちが楽になる。
というより、そう思いたかった。
「明日はいつもと変わらん。エレンもああ言ってくれたことやし、今日はもう寝よ。」
そう言って瞼を閉じる。
でも。
何故だかドキドキしていた。
期待と、そして不安が私の中を駆け巡っていた。
-
- 29 : 2014/01/21(火) 23:37:13 :
朝。
小鳥が外で鳴いている。
清々しい朝だ。
「んっ・・・ん、んんっ!」
背伸びをする。
いつもより少しだけ寝足りない。
それもその筈。
夜更ししたのだから。
周りを見渡すと、寝坊したわけではないはずなのに、部屋には私しかいない。
「・・・。」
遅刻でも何でもないのに、何故だか焦ってしまう。
髪を整えるのもそこそこに、慌てて着替えて部屋を後にした。
食堂につくと、いつもどおり賑やかな光景が繰り広げられていた。
やっぱり遅刻じゃなかったんだ。
ほっと一息つく。
空いてる席を探そうと食堂を眺めれば、今日のご飯が自然と目に入る。
「!」
我が目を疑う。
皆の皿の上には”ベーコン”が載っているのだ。
肉など昨今、まず手に入らない。
ましてや訓練兵に支給されるものなど、ほとんど無いと言っていいはずなのに・・・。
そこで気がつく。
しまった。
今日は行軍訓練の日だ。
過酷な訓練なため、その日だけは食事が少しだけ豪華になる。
とはいえ、訓練兵全員分の肉が支給されるわけではない。
早い者勝ち。
だからみんな今日に限って早起きだったのか。
不覚。
この私がなんたる失態。
先ほどの安堵はどこへやら。
今はため息しかでない。
予想通り、ベーコンはすっかり売り切れていて、残っているのはいつもの味の薄い食事だけ。
「仕方ないですよね・・・」
トボトボと食事を取りに行く。
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- 30 : 2014/01/22(水) 00:04:14 :
はぁ・・・・・・・。
ベーコン。
食べたかったなぁ・・・。
恨めしげに皆々のお皿に載っているベーコンを見つめる。
「厄日やわぁ・・・」
そう言った時だった。
とんとん
肩を叩かれた。
・・・誰やの?
憮然としたまま振り返る。
ちょこん
人差し指がほっぺに刺さる。
「わぁ!引っかかった!」
クリスタだ。
屈託のない笑顔。
男の子でなくったって、この笑顔はとってもかわいいと思う。
・・・気分が少し晴れた。
「もう!こんな日に寝坊なんてサシャらしくないよ。一緒に行こうと思ったのに全然起きないんだもん。起こそうとしたらユミルが無理やり連れて行くし・・・。どうかしたの?」
どうかしたの、と聞くあたり、クリスタは鋭い。
でも私は何事もなかったかのように答える。
「まったくですよ。私としたことが・・・。やっぱりクリスタはもう食事は終わったんですか?」
「うん。早く行かないと取り分なくなっちゃうからって。・・・ごめんね。」
シュンとして、本当に申し訳なさそうにしている。
自分のせいなのだから気になどしなくていいのに。
あまりの人の良さにこちらが心配してしまうほど。
「クリスタが謝ることないですよ!私が寝坊しただけなんですから。次こそは1番乗りで食べてやりますよ!。」
「ふふっ、そうね。サシャは元気が一番だわ。今日の行軍訓練、頑張ろうね!」
うん。天使の笑顔、いただきました。
「それはそうと・・・」
クリスタが振り返って食堂の奥を見る。
「あの二人、なんか怪しいね。」
クリスタの視線の先を見る。
「あ・・・。」
エレンとミーナ。
肩を寄せ合って食事をしている。
いつも一緒に食べている、ミカサやアルミンもなんだか楽しそう・・・。
まるで、
『歓迎』しているような・・・。
・・・!
ミーナが自分のベーコンをエレンに分けている。
『いいよ、いいよ。せっかくの肉なんだからミーナが食えよ。』
『いいの。いつも頑張っているエレンへのご褒美よ。』
・・・こんな会話をしているだろうというのが容易に伺える。
そんな光景。
「あの二人、付き合っているのかな?」
思わずクリスタの方を見る。
当のクリスタは興味があるのかないのか分からない、いかにも第三者的な視線でエレンたちを見ている。
私ももう一度エレンとミーナを見る。
そして、視線を手元に戻した私は、
「お似合いですね。」
そう言った。
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- 31 : 2014/01/22(水) 00:11:52 :
実際、お似合いのカップルだと思う。
不器用だけど一生懸命なエレンを、母性溢れるミーナが支える。
容姿だって、二人ともよく見れば美男美女だ。
それに、幼馴染のミカサとアルミンが嫌な目をしていない。
完璧ではないか。
付け入る隙など・・・。
付け入る?
何で「付け入る」なんて言葉がでてくるのか。
あの二人と私は同期の訓練兵という以外何の関係性もない。
なのに何故・・・。
あぁ、もう!
昨日からむちゃくちゃだ。
今日は行軍訓練。
早く切り替えないとやられてしまう。
それほどキツイ訓練なのだから。
さっさと食事を胃に詰め込んだ私は、なるべく今クリスタが見ている方向を見ないようにしながら食器を片付けた。
「クリスタ、行きましょう!今日は天気がいいからまだマシですが、天気がいい分、何背負わされるか分かりませんからね。」
そう言って、私たちは食堂を後にした。
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- 32 : 2014/01/22(水) 00:17:52 :
- 今日の分はここまでになります。
明日の朝、できれば投稿したいと思っております。
もっと、こう・・・キュンキュンするような展開に早くもっていきたいですが・・・。
今しばらくお待ちください。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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- 33 : 2014/01/22(水) 00:19:38 :
- この後、R-18展開になる可能性ってありますか?
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- 34 : 2014/01/22(水) 00:31:52 :
- 残念ですが、いわゆる「肉の匂い」がする展開にはしないつもりです(^_^;)
まだ15・6歳の少年少女ですので・・・(マジメか!)。
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- 35 : 2014/01/22(水) 00:41:52 :
- 明日も楽しみにしています!
十分すぎるほどドキドキな展開で目が離せませんよ!笑
応援しております!(∩´∀`)
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- 36 : 2014/01/22(水) 07:25:14 :
- おはようございます。
少し寝坊しましたが、ちょっとだけ投稿してみます。
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- 37 : 2014/01/22(水) 08:00:56 :
行軍訓練は雪中訓練と並んで最も訓練生から忌避される訓練だ。
辛い理由としては以下のものが挙げられる。
子供一人分くらいの重さの荷物を背負っての行軍。
目的地は訓練兵には知らされない。馬に乗っている教官のみがそれを知っている。
水、食料は最小限度。
訓練の目的はこうだ。
壁外で負傷者を発見したが、自分たちは馬を失っている。壁内に負傷者とともに生きて戻るために必要な肉体と精神力を身につけるため、というもの。
荷物は身長や体重、性別に応じて多少の調整はあるものの基本的に楽に背負えるものなんかではない。
しかし、この訓練を最も過酷にしているのは、「どこで終わるかわからない」という精神的な負荷だ。
ペース配分を守っていれば・・・、などと浅ましい考えは通用しない。
毎回、卒倒する訓練兵が出る。
そんな訓練だ。
「過酷」「辛い」などと言ってはみたものの、私はこの訓練、実は密かに得意だったりする。
狩りはその日の獲物をとるまではどんな事情であろうと家まで帰れない。
それこそ何時に狩りが終わる、などと目測の立つものでもないから、時には丸一日、二日
帰れないこともしばしばだ。
そんな目測がなくて当たり前の環境にいたため、皆が嫌がる「どこで終わるかわからない不安」というのは私にはあまり通用しない。
それに、この訓練は集団行動というよりも、ペースを保って行軍し続ければいいだけなので、とかく他人と行動を合わせなくてはいけない他の訓練に比べると、とても気が楽なのだ。
行軍開始場所に参集した私たちは、各々割り当てられた荷物を背負ったり、準備運動をしたりしていた。
そんな中、こんな声が聞こえてきた。
「なんでこんな訓練しなきゃいけないんだ。」
これ見よがしに声をあげている。
ジャン・キルシュタイン。それとその取り巻きだった。
このジャンという男は、よくも悪くも現実と向き合っている。
端から「人間は巨人に勝てない」と考えているため、中央の憲兵団に配属されて余生を過ごすために、とても現実的な選択と行動をしている。
たしかに中央で生活するにあたり、この訓練はさして必要なスキルではない。
・・・しかし、それを始まる直前に言うだろうか。
「だいたい、外に出るのに馬がないのがおかしいだろうがよ。」
「ていうか目的地が教官以外わからねえってのも変だ。壁外に行くなら目的地と拠点の距離ぐらい全員把握してるっつの。」
「無意味だぜ、こんな訓練。」
空気が冷めていくのを感じる。
当然だ。
皆、頭ではこの無意味さを理解している。
でも兵士だから、その感情を押し殺して訓練に臨んでいる
あらかさまに本当のことを言われてしまっては、皆憂鬱になってしまう。
ここから離れよう。
そうした時だ。
「おい。」
怒気をはらんだ声でこちらに近づく人物が一人。
エレンだった。
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- 38 : 2014/01/22(水) 08:02:23 :
続きは夜10時くらいになるかと思います。
訓練について自分なりに解釈をいれているので、「それ違うんじゃない?」と思うところがあると思いますが、ご容赦を。
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- 39 : 2014/01/23(木) 00:05:13 :
「何の用だ、エレン・イェーガーさんよ。」
人を喰ったような顔をしてジャンが応える。
「てめぇ、これから訓練が始まるってときに、何でそう士気が下がるようなことを言うんだよ。」
「あ?士気を下げるようなこと言っちまったか?そりゃ悪かったな。俺は正直ものなんでね。でもな、これは皆考えていることだぜ。・・・いや、違うな。正確にはある一人を除いて、だな。」
「・・・どういうことだよ。」
「皆がみんなバカじゃねぇってこった。」
してやったりと言わんばかりの顔。
「・・・誰のこと言ってるかわかんねえが、一生懸命訓練をやってる奴をバカにするのは止めろ。そんな気持ちで訓練するくらいなら開拓地に戻りやがれ。」
「・・・何でてめぇにそこまで説教されなきゃいけねんだ・・・。自惚れてんじゃねぇぞ、この能無しが。」
ジャンがエレンの胸ぐらを掴む。
空気が凍る。
『やめぇや!』
心の中の私がそう叫ぶ。
これが故郷にいる時だったら、迷いなくそう叫んだだろう。
しかし
ここは故郷ではない。
訛りを話すことへの気恥ずかしさが私の行動を拘束している。
でも
止めなければ!
「け、けんかはダメです!」
二人の間に割って入り、両手を目一杯広げて両者を突き放す。
「教官に見つかったらどうするんですか!二人とも頭を冷やしてください!」
無我夢中だった。
怖くて目を開けられない。
・・・。
反応がない。
恐る恐る目を開く。
すると、そこにはさっきまでいなかった人影が二つ。
ジャンを右手で制するライナーと、同じく右手でエレンを制するミカサの影だった。
「二人とも命拾いしたな。教官に見つかれば"キツイ"じゃすまないぞ。」
ライナーがそう言い、二人を見据える。
ミカサも、ものは言わないが同じように訴えていることは目を見れば分かる。
「…チッ。」
舌打ちをして、ジャンは群衆に消えた。
途端に力が抜け、膝に手を付ける。
私・・・
やっぱり怖がりなんかな・・・。
そう思ったとき、
ぽん
誰かが肩に手を置いた。
「ありがとう、サシャ。・・・すまなかった。」
エレン
「い、いえ、あれくらい何てこと…」
「お前ってすごいんだな!正直、見直した!
こっからが大変だけど、今日一日頑張ろうぜ!」
手をさしのばすエレン。
私はそれに応える。
自然に・・・。
エレンの手は大きく、そしてあたたかった。
ピィーーーーッ
整列の笛が鳴る。
もう始まる。
そんな時に
私はさっき握手した手を見つめ直す。
そして、ゆっくりと握りしめ、顔を上げた。
何があっても、今日は乗り切れる。
そんな気がした。
-
- 40 : 2014/01/23(木) 07:16:44 :
- 期待。
-
- 41 : 2014/01/23(木) 18:54:32 :
やっとゆっくり書く時間が作れました!
書けないとこんなにフラストレーションが溜まるなんて思わなかったです・・・。
今日は時間の許す限り投稿します。
よろしくお願いします!
-
- 42 : 2014/01/23(木) 19:05:13 :
- ゆっくりでもいいので頑張って下さい!
-
- 43 : 2014/01/23(木) 19:53:08 :
- 期待してまってます!^^
頑張ってくださいね!
-
- 44 : 2014/01/23(木) 20:05:32 :
- 凄い!!文章力尊敬!期待!
-
- 45 : 2014/01/23(木) 20:07:28 :
行軍開始からしばらく経った頃。
体も重荷に慣れ、息も整ってきた。
思い返すのはエレンの言動。
あの程度の悪態など、日々訓練に追われ、疲れている人間からはいくらでも出てくる。
それなのに一つ一つ反応してしまう。
損だと思う。
癇には障るけども、無視すればいいだけのこと。
私をはじめ、多くの人が当たらず触らず、のらりくらり人の波を泳ぐことを身につけ器用に生きていく。
それをできないエレンは、やはり不器用だと思う。
でも。
だからといって、人と距離を取り続ければいい、というものでもない。
”敬語”を使って、他人とほどよく距離をとろうなど愚の骨頂。
時にはあんな風に中に割って入ることも必要・・・。
・・・いつの間にか。
私の意識が変わっていたようだ。
入団当初の”器用”を気取っていた私は微かに形を残す程度。
そうでなければ、「敬語」を使う私があんな行動をとるはずない。
『私、変わったな・・・』
また手のひらを見つめる。
『誰のおかげ?』
私の手がそう訊いている。
・・ふふっ。
それが答えですよ。
-
- 46 : 2014/01/23(木) 20:28:01 :
そしてもう一つわかったこと。
エレンと私の共通点。
それは、どちらも「人付き合いが下手」ってこと。
こんなことに、今になるまで気づかないなんて笑ってしまう。
『エレンと大差ねぇな。不器用なのは。』
あの時ユミルがいった言葉が蘇る。
・・・まったくです。
また笑った。
エレンが気づかせてくれた。
だから今度は
私に気づいて欲しい。
変わった私を見て欲しい。
そしてこう言いたい。
『あなたのおかげで変われたよ』
と。
-
- 47 : 2014/01/23(木) 22:01:54 :
行軍はまだ続く。
・・・気がつけば。
行軍開始からもうだいぶ時間が経っている。
陽は南中を越え、夕方の兆しを見せる。
もっとも、今はだれも空を見上げる気力のある人などいないため、腹時計がもっぱら時の経過を示している。
飲まず食わずで半日。
そろそろ危ない人がでる。
私の勘だ。
嫌な勘ほどよく当たる。
『いいか、サシャ。良い勘などこの世にない。あるのはいつも嫌な勘だけだ。』
お父さんの言葉。
加えて言えば、良い勘っていうのは単なる「願望」で、真の意味での勘は悪いことが起きる時にしか働かない。
ふと前の列を見る。
・・・。
何も意識していなければ見逃しそうな”違和感”。
ふらっ・・・ふらっ・・・
ある訓練兵の肩が不自然に揺れている。
悟られないように抑えているが、体が言うことをきいてくれない。そんな感じの。
何が起きてもいいようにその人のそばによる。
真横に並んだ、まさにその時。
その訓練兵が膝から崩れた。
倒れさせまいと脇に手を回す。
その時顔を覗き込む。
「!」
ミーナだ。
行軍中は皆フードをかぶるので後ろからでは分からない。
珍しいこともある。
ミーナは体調管理に優れていて、行軍訓練の時もたいてい介抱する側にまわる。
そんなミーナがどうして・・・。
・・・隈?
目の下に隈がある。
それに気づいたと同時に、ミーナが私を認識する。
ドン
左手でミーナは私を突き飛ばした。
あ な た の 助 け な ん て い ら な い
そんな目だ。
周りの同期たちも驚いている。
呆気に取られながらも、私たちは行軍を続けねばならない。
何事もなかったかのように、隊は行軍を続けた。
-
- 48 : 2014/01/23(木) 22:04:52 :
一旦ここで休憩します。
正直ここのパートが一番だるいですが、我慢してください><。
期待に沿えるよう頑張ります(´;ω;`)。
-
- 49 : 2014/01/23(木) 22:48:32 :
- 書き方に引き込まれますっ!
うまいですね!
期待してます♪
-
- 50 : 2014/01/24(金) 01:30:35 :
「ここで止まれ。」
馬上から教官が命令する。
もう夕方にさしかかろうという時間。
やっと休憩になった。
皆崩れ落ちるようにその場に腰を下ろす。
私もゆっくりと腰を下ろし、支給された食料と水を口にする。
意外だった。
ミーナがあんなことするなんて。
とっても女の子らしくて、かわいくて、おかあさんみたいな人が・・・。
突然のことで怒りすらも湧いてこない。
大丈夫かな・・・。
あまりにもいつもと違う様子に逆にこちらが心配してしまう。
それに、あの隈・・・。
寝不足が原因というのは誰でもわかる。
問題は何故寝不足になったのか。それである。
『お休み、サシャ。』
昨夜、床に就く前のミーナの言葉を思い出す。
あの後眠れなかったのは、私だけではなかったのだ。
しかし・・・
私はともかくミーナが寝不足に陥る理由などない。
・・・今朝、あんなにエレンと仲良くしていたくせに・・・。
肩寄せ合う二人の様子。
それを思い出すと胸が痛くなる。
・・・何であれ、ミーナが私にあんな目線を送ったってことは、私にも多少の原因があるということ。
何か身の振る舞いに非があったのかもしれない。
あとでクリスタにでも聞いてみよう。
また笛が鳴る。
行軍の再開だ。
皆溜息とともに立ち上がる。
少しだけ早く立ち上がった私はミーナを探す。
しかし見つける前に全員立ち上がってしまい、私の視界を塞いでしまう。
無事でいて、ミーナ。
私には祈るしかできない。
幸い、夜が近い。
行軍訓練は夜間にまでは及ばない。
灯りをもっていないことと、巨人は夜に行動しない習性を利用し、明け方までは体を休めるようにとの方針だからだ。
夜まで耐えればなんとかなる。
しかし・・・。
悪い予感は当たる。
行軍を再開して半時も経たないうちに、その人はついに倒れた。
慌てて駆け寄り、声をかけるも反応しない。
ザッ・・・ザッ・・・
嫌な足音が近づいてくる。
そして
「列に戻れ、サシャ・ブラウス。」
そう命令した。
「・・・。」
「ミーナ、ミーナ!」
聞こえないふりをしてミーナを揺する。
ズシャッ
襟を掴まれ、私は叩きつけられた。
キッと教官を睨みつける。
教官も私を見据える。
「捨てていけ。」
「・・・嫌です。」
「二度は言わん。」
「・・・。」
教官補佐がミーナに近づく。
ミーナを脱落させるわけにはいかない。
「教官!カロライナは単に寝不足なだけです!起こせば訓練を続行できます!」
「どうか続行を認めてください!」
心臓を捧げながら、ありのままに訴えた。
「・・・自己管理のできない者は仲間をも殺す。そのような者をかばおうとする者も同様だ。」
「もう一度だけ言う。列に戻れ。」
ぐうの音もでない。
でも悔しい。
口を開けようとしたとき、誰かが袖を引っ張った。
・・・クリスタ。
唇を噛み、教官を見据えながら私は列に戻った。
-
- 51 : 2014/01/25(土) 14:16:27 :
- やっと休日です。
今日と明日で完結できるように頑張ります。
よろしくお願いします。
-
- 52 : 2014/01/25(土) 14:20:03 :
訓練が終わった。
皆、疲れ果て泥のように眠っている。
あの後は粛々と行軍が進められ、夜を越し、もと来た道を辿って帰った。
野営とは言え、睡眠をとったことと、目測がついて気持ちに余裕ができたこともあり、帰りに脱落する者はいなかった。
皆、夕方に兵舎に戻ってこれたが、夜を待たずして全員寝息を立て始めた。
かくいう私も疲れには勝てず、皆と枕を並べて眠ってしまった。
夜半。
ぱちりと目が覚める。
体を起こして眺めても、あるのは静寂と吐息だけ。
夜、自分だけが起きていると、自然とどこかへ行きたくなる。
自分だけの時間。
部屋にいるのはもったいない。
私は床をぬけだし、そろりそろり、皆を起こさないようにドアまで歩き、夜の廊下へと出た。
月の青い光が廊下を照らす。
虫の音がきいきいと鳴いている。
なかなか叙情的な光景。
どこに行くわけでもなく、後ろに手を組んで私は寮内を闊歩した。
♪~♪~
適当な鼻歌を歌いながら、いつもと表情が違う兵舎を歩く。
楽しい。
普通の女の子なら怖がってしまうところかもしれないが、夜に一人で狩りをしたこともある私にとってはこんなもの全然平気。
そんな時。
コツ・・・
足音が聞こえる。
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
近づいてくる。
・・・女
何故だかそう感じた。
歩を止めてその人を待つ。
そこの角の先にいる。
・・・
・・・来た。
向こうも、そこに私がいたことが分かっていたようだ。
お互い驚きもしない。
歩を止めて向き合う。
俯いていて表情がよく見えないが、目をそらしているのはわかる。
ミーナ
色々な思い出が駆け巡る。
楽しく話していた時のこと。
食堂でのこと。
昨日のこと。
万感の思いが巡り言葉がでない。
私も俯いてしまう。
何気なく右手を握り締めたとき、ミーナが口を開いた。
「昨日のことは・・・」
「ごめんなさい。」
「・・・」
私が何かを言うべきだ。
しかし、次に私が口を開くとしても、かける言葉は決まっている。
そしてそれは、おそらくミーナが一番聞いて欲しくないもの。
『どうして?』
こんなこと、ミーナに聞けない。
「・・・」
「私ね・・・」
ミーナが続ける。
「エレンが好きなの。」
かける言葉が見つからない。
「・・・」
「そう・・・ですか・・・。」
「いいじゃないですか!エレンとミーナ、お似合いですし、周りもきっと応援してくれますよ!」
「うん・・・。」
何か言いたげな様子。
「うん。私、頑張る!ごめんね、サシャ、こんな話して。」
「気にしないでください。それより教官に見つかる前に寮に戻ったほうがいいですよ。私はもうちょっとお散歩してきますから。」
「うん、分かった。またね、サシャ。」
そういって二人は手を振って別れた。
-
- 53 : 2014/01/25(土) 17:53:14 :
うすうす分かっていたけど・・・。あんなにはっきり言うなんて。
一人廊下を歩きながらそう思った。
すごいと思う。
私なんかと比べ物にならないくらいの勇気。
・・・私はエレンのことをどう思っているのだろう。
あの時握手され、私はエレンに「気付いて欲しい」と思った。
でもあれは単に、自分を変えてくれたエレンに対する「感謝」の気持ち。他意はない。
いわゆる「好き」という感情ではない。
そこに至るには、まだ何か・・・何か足りない。
しかし・・・。
考えてもしようがない。
散歩の気分でもなくなってしまった。
帰ろう。
そう思い私は寮に戻った。
「大丈夫、ミーナ?」
「もう訓練にもどって平気なの?」
「顔色まだ悪いよ?」
夜が明け、今は朝の食堂。
行軍訓練でのミーナを心配した同期の女の子達が、ミーナを取り巻いている。
「うん、大丈夫。昨日一日医務室で休んでいたから。心配かけてごめんね・・・。はやく皆のところに戻りたくて夜抜け出してきちゃった。」
昨夜、私と話したのはその道中でのことだったようだ。
「そっかぁ、よかった。でも無理しちゃだめだよ。」
「うん、わかってる!皆ありがと。さ、冷めちゃうといけないし、ご飯食べよ。ね?」
女三人寄ればかしまし。
元々ミーナは華のある女の子だけど、その周りに話し好きの女の子達が集まればいやでも賑やかにでもなる。
平穏な朝の風景。
そんな風景を見ながら、私はガツガツと食事に勤しむ。
私の前には両手で頬杖をついたクリスタが、ジトっとした目で私を見つめている。
「どうしたんですか、クリスタ?食べないなら私が食べますよ?」
「・・・ねぇ、サシャ・・・。」
「ミーナと何かあったの?」
「・・・。」
「何もありませんよ!訓練で倒れそうになった仲間を助けるのは普通じゃないですか。」
「私が言っているのはその前。」
「・・・。」
「ねぇ、サシャ。悩んでいることがあったら相談してよ。・・・それとも私じゃ不満?」
「そんなことないです!クリスタはいい人です!不満なんかあるわけないですよ。」
「それじゃあ・・・」
「やめとけ。」
会話に割って入りながら、ガチャンと乱暴に食器を置き、クリスタの隣に座る。
ユミルだ。
「こんな芋女の相談なんかに乗ったってロクなことにならねえぞ。お人好しも大概にするんだな。」
「どうして頭からロクな話じゃないって決め付けるのよ。サシャが真剣に悩んでるじゃない!」
はぁ・・・、とユミルがため息をする。
「クリスタ・・・、お前はとんだお子様だな。こんなの単なるい・・・」
「おう、お前らなに話してんだ。」
ぴくっ、と体が反応する。
食器を手に持ったエレンと、ミカサだ。
ユミルがあからさまに呆れた顔をする。
そして、チラッチラッと私とミーナを見たあとに、悪そうな笑みを浮かべ、エレンを見ながら、
「ちょうどお前の話をしてたんだよ。なぁ?」
と私に話を振った。
「俺の話?なんのことだ?」
と言いながらエレンは私の隣に座ろうと近づく。
すると、ミカサがストンと私の隣に座った。
「サシャの隣は私。エレンはこっち。」
「お、おお、そうか。」
少し動揺しつつも席につくエレン。
私はミーナの方を見る。
ミーナは楽しげに女の子達と話しているが、やはりエレンが気になるようで目線を時々こちらに向ける。
ミカサの機転に感謝しつつも、少し残念な気がした。
-
- 54 : 2014/01/25(土) 21:32:55 :
「それで、俺の話って何だ?」
エレンはミカサをよけながら私に話しかける。
「あ、えーっとですね・・・。あ、ほら、エレン一昨日の行軍訓練のときにジャンに絡まれていましたよね!あの後大丈夫だったかなって話してたんですよ。ね?クリスタ!」
「う、うん!」
クリスタが話を合わせてくれる。
当のユミルはヘラヘラ笑っているだけだ。
・・・腹ただしい。
「ん?あぁ、あんなのしょっちゅうだからな。いちいち気にしてらんねぇよ。全然平気だぜ。」
「それはそうと、あんときは本当にありがとうな!サシャが止めてくれなかったら、ジャンと殴り合いになってたと思うし。下手すれば営倉行きだからな。」
「本当にそう。エレンは私が目を離すとすぐこれだから。」
「またそれかよ・・・。」
何度も見たことのある夫婦漫才。
不思議と安心して見ていられる。
「それにしても、サシャって勇気があるんだな!てっきり食物にしか興味のない奴かと思っていたけど見直したぜ!」
「いや、それほどでも・・・。」
表立って言われると恥ずかしい。
頭のうしろをさすりながら照れ笑いをした。
「おまたせ、エレン、ミカサ。・・・あれ?クリスタたちも一緒なんだ。珍しいね。」
食器を持ったアルミンがやってきた。
やはりこの3人が揃っていないと落ち着かない。
アルミンが席に着いたのを燧に私たちはおしゃべりを始めた。
あっという間に時が過ぎた。
この前と違って、エレンとの会話もスムーズだ。
何よりもエレンに認めてもらっていることが大きい。
いつもの私で話ができる。
とても楽しい。
ふと、エレンのお皿をみると、ニンジンが避けてある。
もしかして・・・
「エレン。エレンってもしかしてニンジンさんが苦手なんですか?」
むふふ、と笑いながら問いかける。
「そうなんだよ、昔からなんだ・・・。あ、サシャ!もしよかったら食べてくれるか?」
「はい!よろこんで!」
何か、かわいい。
目つきが険しく、あまり人と馴れ馴れしくしないエレンの苦手なものが、ニンジンさん。
まるで子どものようだ。
・・・ちょっとからかってやりましょうか。
「じゃあ、エレン、あーん。」
ふふふ・・・どうですか。さすがのエレンも恥ずかしいでしょう?
「おう。ほらよ。」
ぱくっ
何の恥ずかしげもなくエレンは私にニンジンを食べさせてくれた。
「・・・!」
顔が紅潮していく。
よくよく考えればめちゃくちゃ恥ずかしい。
でも始めたのは私だし・・・。
「あ、ありがとうございます・・・。」
「なんだもういいのか?まだあるぞ、ほら。」
「い、いや、その・・・。」
両手を前に突き出し、必死に手を振ってお断りする。
やっぱ、はずかしいやん・・・
「・・・エレン。」
俯いて食事をしていたミカサからだ。
「好き嫌いをしてはダメ。ちゃんと食べれる時に食べておかないと・・・。そんな調子だと、この先ずっとサシャに甘えることになる。」
「俺は別にいいんだけどな、な?サシャ。」
ぶふっ
さすがに堪えきれなくなったのか、ユミルが吹き出す。
ミカサは何となく怒った顔をしていて、アルミンは乾いた笑いをしている。
クリスタはじーっとした目で私たちを眺めてる。
「え?あ、あのぉ・・・。はい!よろしくお願いします・・・。」
自分でも何を言っているのかわからない。
とにかく、恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
でも・・・。
訓練生になって、一番楽しい朝食の時間を過ごすことができた。
今度は何を話そう・・・。
そう思いながら、私たちは食器を片付け、訓練場へと向かった。
-
- 55 : 2014/01/25(土) 22:46:39 :
その日以来、エレンとは友達になった。
以前よりも二人で話す機会も増えた。
食事の時。
訓練の合間。
廊下で会った時。
座学の時。
寝る前のわずかな自由時間の時。
エレンと話すと、いつも新鮮な気持ちになる。
二人っきりで話すことはあまりないけども、それでも楽しいことには変わりはない。
相変わらずジャンとエレンはお互いにいがみ合っているけども、あの日、喧嘩を仲裁して以来、私がいる前では取っ組み合いの喧嘩はしなくなった。
あんなにもストレートに絡んでこれるジャンに、「エレンへの遠まわしの愛情表現ですよ」なんて皮肉を言ってみたりしたこともあった・・・。
でもエレンとはただのお友達。
エレンのことが好きなミーナにはやっぱり遠慮してしまう。
ミーナのいる前や、ミーナがエレンと話している時はクリスタや他の方たちと話すようにし、なるべく気にかけないようにしていた。
エレンと話している時のミーナは、女の子の私が見ても輝いていた。
眩しい笑顔。
温かい雰囲気。
恋をするとあんなにも魅力的になれるんだ・・・。
どんどん先に行ってしまう。
私なんかが関わることができない世界に。
そう思うとなんだか胸が苦しくなった。
-
- 56 : 2014/01/25(土) 23:24:37 :
今日はここまでにします。
長すぎるかな・・・(´Д`;)
でも飛ばし気味になってしまうのは嫌なので、このペースで行きます。
申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
-
- 57 : 2014/01/26(日) 00:56:16 :
- お疲れ様です!
たくさん更新されていて見応えがありました、笑
続きも楽しみにしております、頑張ってくださいね!
-
- 58 : 2014/01/26(日) 13:30:56 :
- やっぱ長すぎますかね・・・
でもゆきさんの応援ありがたいです!
頑張ります。
-
- 59 : 2014/01/26(日) 20:16:51 :
そんなある日のこと。
卒団を間近に控えた、立体機動の訓練日。
壁外での行動に備え、基本的にチームで活動する。
とは言え、この訓練はもう慣れっこだ。
この段階まで来ると、ある程度実力がわかってきて、無理をする人もいない。
いわば弛緩した雰囲気。
チームメンバーの様子から見てもそれが伝わってくる。
しかし、また勘が告げる。
『こういう時が危ない』
と。
いつもの手順。
いつもの行路。
いつもの仮想敵。
胸騒ぎ・・・。
メンバーの動向に気を配る。
ある一人がアンカーを射出する。
・・・このタイミングで?距離が遠い。
やはり、というべきか。刺さりが浅く、その人のバランスが崩れる。
10m級の巨人を想定した訓練。
高さはそれ以上だ。
落下すれば助からない。
間に合え!
弧を描きながら、私はその同期を回収する。
コン
?
何かが当たった気がするが、気にしてはいられない。
「すまねえ、油断してた。気をつけるよ。」
そう言ってその人は装置を点検し、訓練に戻った。
「大丈夫か!」
頭上から聞き覚えのある声。
エレン。
今日はエレンと同じ班だった。
両手を頭上で合わせて、大きな輪をつくる。
楽しかった日々もあともう少しで終わる。
兵団をどこにするか。
私はまだ決めてはいない。
願わくば・・・友達のエレンと一緒の兵団がいい。
しかし、それは間違いなく「調査兵団」。
入団した人のほとんどが死ぬと言われている兵団。
私にその覚悟はあるのだろうか・・・。
いや、今はそんなこと考えている場合ではない。訓練に戻らねば。
そう思ってアンカーを射出し、木の上に戻ろうとしたときだった。
ガスを吹き出した途端、バランスが崩れ、私は地べたに叩きつけられた。
「・・・うぅ。」
頭を打たなかっただけマシだが、背中から叩きつけられたらしく、息が苦しい。
なんてざまだ。
あれほど注意していたのに、自分がこの体たらく。
情けない。
あお向けになりながら木漏れ日を眺める。
自分このままでええんかな・・・
そんなことを考えてしまう。
この数ヶ月間で確かに私は色々成長できた。
でも、自分の気持ちに踏ん切りがついていないことがある。
それから逃げて卒団するのは、嫌だった。
「でも・・・」
そう呟いてよろよろと立ち上がる。
私にはどうすることもできないことだ。
その時。
ザッザッと木から降りてくる影が見えた。
エレン・・・。
とても怒った顔をしている。
目を合わせられない。
段々と近づいてくる。
・・・怖い・・・!
「はは・・・。あの・・・。ごめんなさい。」
そう言って俯く。
あぁ・・・怒られる・・・!
ぎゅっと私は目をつぶってしまう。
そっと
私の両肩に手がまわる。
優しく・・・。
包み込むように。
やわらかくて
あたたかい。
あなたのぬくもり・・・
胸が・・・
どうして・・・
あたたかくて・・・切ないよ・・・
そんなことされたら私・・・
あなたを好きになってしまう・・・
私・・・
あなたが好き・・・。
耳元で声。
「心配したぞ。」
「・・・ごめんなさい。」
「大丈夫か。」
「・・・平気。」
「もう・・・無理するなよ。」
「・・・うん。」
・・・私。女の子でよかった。
そう思えることができた。
-
- 60 : 2014/01/27(月) 03:11:21 :
寮に戻って、今日のことを思い出す。
やっぱりだめ・・・。
胸がどきどきする。
枕に顔を埋めて、誰にも悟られないようにする。
そうしないと、きっと顔が真っ赤だから。
夕食の席ではさすがに一緒に食べることはできなかったけど、エレンと目があったときお互いに恥ずかしくて目をそらしてしまった。
その後も、目が合う度に、お互い目を逸らしていた。
何度も、何度も。
だから食事中はずっと胸がドキドキしっぱなしだった。
でも、とても満たされた感じ。
クリスタと一緒に話していても、心の中ではエレンのことばかり考えていた。
瞼を閉じれば、浮かぶのは笑顔。
笑顔。
枕をぎゅっと抱きしめる。
恥ずかしくて死んでしまいたい。
私がこんな風になるなんて思ってもみなかった。
ユミルに「不器用」と言われて以来、エレンを見続けていたけど、まさか私が恋をするなんて・・・。
でも・・・。
満たされた心の風船をチクリと刺す、一本の針。
私はいまだに行軍訓練の前の食堂での光景を忘れてはいない。
・・・私は友達を裏切れない。
ミーナがあんなに輝いているのを、私なんかが邪魔しちゃいけない。
・・・でも、このままでいいの?
・・・わからない。
これが私の正直な気持ち。
ミーナの、あの眩しい笑顔を消したくない・・・。
とす
不意に私のベッドが沈む。
ベッドの端に腰掛けて、私を心配そうに見つめている女の子。
私の天使・・・
「サシャ・・・。」
そっと私の肩に手を置く。
「そろそろ話してくれる?もう・・・見てるこっちが辛いわ・・・。」
クリスタは優しい。
目頭が何故だか熱くなる・・・。
やっぱり辛い・・・。
だから・・・ここで話します。
「クリスタ・・・。」
「私・・・。エレンが好きになってしまいました・・・。」
声が震える。
「ずっと、エレンを見てきました・・・。そして、やっと分かったんです。」
「でも・・・」
その後を言おうとしたら、急に涙が溢れてくる。
「・・・でも・・・!」
言葉にならない。
嗚咽・・・
両手で目を抑えても、手首を伝って涙が零れていく。
零れていく。
クリスタが両手を肩に置く。
「・・・ミーナね。」
頷く。
「サシャ。あなたはどうしたいの?」
「・・・ミーナがエレンと付き合っていいの?」
「・・・ミーナは・・・、私に”エレンが好き”だと言いました。」
「私はミーナの笑顔が好きです。あの温かい表情が大好きです。だから・・・」
「だから?」
「ミーナには幸せになってもらいたいです・・・。」
私の・・・本心。
悲しいけれど、それは本当。
涙。
涙。
涙に身を任せ、子どものように私は泣いた。
-
- 61 : 2014/01/27(月) 03:45:18 :
- うわあああ!すごい!頑張ってください!
-
- 62 : 2014/01/27(月) 08:24:33 :
- 舞曲さん、ありがとうございます!
今夜〆になるかと思います。
応援よろしくお願いいたします(>_<)
-
- 63 : 2014/01/28(火) 21:36:17 :
- 一頻り泣いた。
落ち着いた頃、扉がゆっくり開き、同期の女の子達が恐る恐る入口から顔をだす。
・・・聞こえていたか・・・。
目が腫れている私の様子を見て、皆何て反応していいか困っている。
「・・・っ、わ、私がサシャに色々相談していたの!ほら、卒業試験も近いし・・・。それでつい泣いちゃったら、サシャがもらい泣きしちゃって・・・。逆になぐさめる形になったの。ね、サシャ?」
クリスタが懸命にフォローしてくれる。
でも、私の今の様子から、そう素直に納得する人はいなかった。
・・・クリスタにこれ以上甘えてはいけない。
「そ、そうなんですよ。クリスタがあまりにも思い詰めるものですから、つい・・・。心配かけてすみません、皆さん!もうこの通り、大丈夫ですよ!」
しゃきっと立って、手を上に広げる。
笑顔も忘れずに…。
「そ、そうなんだ。心配しちゃったよ、サシャったら紛らわしいんだから!」
そう言って、ぞろぞろ入ってきて、銘々話し出す。
いつもの光景。
こんなにもありがたいものとは思わなかった。
「・・・クリスタ、ありがとうございます。私・・・吹っ切ることが出来ましたよ!ミーナを応援します。」
「・・・。」
釈然としない顔をしているクリスタ。
その顔はこう言っている。
『本当にいいの?』
・・・いいんです。
こんな・・・訛りがあって・・・色気がなくて・・・不器用で・・・弱虫な女・・・エレンには似合わない。
そう・・・。
だから・・・
エレンと私は今のまま。
今のままでいいんです・・・。
翌朝。
顔を洗い、水で濡れた自分の顔を鏡で眺める。
・・・目は、腫れていない。
これで人前に出ても何も思われない。
たとえ、エレンの前でも・・・。
目を瞑って頭を横に振る。
何を考えているのか。
女々しい・・・。
昨日、吹っ切れたと言ったばかりではないか。
タオルで顔を拭き、今一度鏡に映った自分を見据える。
そう・・・獲物に向き合うこの目つき。
私には、この目が似つかわしい。
気合を入れて、食堂に臨む。
今日は卒業試験の日。
これまでの成果が試される。
別に内地に興味はないが、成績優良者は憲兵団に入る権利が与えられる。
やる価値はある。
幸いにして、私の成績は最後まで上位をキープし続けた。
ここで大怪我でもしない限り、卒団は約束されている。
いつもの食堂も今日ばかりは少しばかり緊張した雰囲気だ。
皆々冗談を言ったり、おどけたりしているも、表情がぎこちない。
ここで食べる食事もおそらくこれが最後。
そう思っていると、向かいの席に誰かが座った。
ゆっくり顔をあげる。
クリスタだった。
「今日が、最後ね。」
ぽつりと言う。
「はい・・・。」
入団当初から、クリスタにはお世話になりっぱなしだ。
死ぬ寸前まで走らされた時に介抱してくれたり、なかなか馴染めない私と一緒にご飯を食べてくれたり、ユミルから庇ってくれたり、相談に乗ってくれたり・・・。
・・・今、ここできちんとお礼を言いたい。
「クリスタ・・・。」
「なぁに?」
「・・・いままで、本当にありがとうございました。」
「クリスタには・・・ほんと、何から何までお世話になりっぱなしで・・・。」
「こんな私でも友達みたいに接してくれて・・・。」
「あんな相談にまで乗ってくれて・・・。」
「ありがとうございました。」
ぺこりと頭を下げる。
「サシャ・・・」
クリスタが私の手をとる。
「私は、あなたの友達よ。とても・・・とても大切な。サシャがいてくれたから、私、よく笑えたの。それはこれからも一緒。」
「こちらこそ・・・ありがとうございました。」
クリスタは、私の手を握りながら、目を閉じてそう言った。
修道女のように美しい表情。
なんだかとても、救われた気がした。
-
- 64 : 2014/01/28(火) 22:19:38 :
卒業試験は、つつがなく終えることができた。
いつもどおりの実力を出し、危うげなく成果を出した。
十人単位で試験を受けていくため、最初の方に終わった人たちは暇だ。
嬉々として試験の結果を語り合っている。
あの辛く苦しい訓練を終えた私たちは、後日兵団を選択し、人類のために文字通り心臓を捧げることになる。
私は・・・まだ決めていない。
進みたい道はあるのだけれど、そこに私はいけない。
・・・顔を合わせるのが辛いから・・・。
だから、今回の試験の結果がよければ、私は憲兵団に行こうと思う。
そうすれば、間違ってもエレンと会うことはないから。
交わることがないから。
辛くならなくてすむ。
中途半端は、もうごめんだから・・・。
西日が差すベッドの上で、私は一人、膝をかかえている。
上位10名の発表と解散式は夜にある。
起きていると余計なことを考えてしまう。
うとうとと睡魔がしのびよる。
いつの間にか私は眠りに落ちた・・・。
-
- 65 : 2014/01/29(水) 01:07:44 :
夢を見ていた
誰かがそっと
髪をなでる
やさしく
絹でもさわるように
そして囁く
顔は見えないけど誰だかわかる
「エレン・・・」
「・・・サシャ?」
我に帰る。
あたりはすっかり日が暮れている。
すっかり寝てしまっていたようだ。
心配そうな顔をしている。
ミーナ・・・
「成績発表の時間だよ。さ、行こ?」
手を差し伸べる。
その姿は、行軍訓練の時のエレンと重なった。
・・・私はその手を交わすことなく、立ち上がり、ミーナを残して部屋をあとにした。
成績発表は、大方の予想通り。
私は9位。
ミカサはやっぱり1番で、クリスタは10番。
憲兵団に一歩近づいた。
でも心は踊らない。
さっきの夢が効いている。
・・・あの夢は・・・醒めて欲しくなかった。
その日の夜は宴だった。
相変わらず食事は質素だけど、お酒がでる。
普段の私なら、大いに食べ、大いに飲むはずだった。
でも・・・今日は気分じゃない。
ふと、奥をみるとミーナが同期の女の子たちと盛り上がっている。
幸せそうな笑み。
祝福。
歓迎。
きっと思いを遂げるのだろう。
私は、その場にいられなくなって、外に出た。
夜風が気持ちいい。
いっそ、このままでありたい。
すぅ、と大きく息をする。
・・・後ろにだれかいる。
いや、もう誰かはわかる。
いつかの青い月影の中での会話を思い出す。
こうやって二人で話すのは、あの日以来。
「いい夜ね。」
「そうですね・・・。」
「9位、おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「・・・私のこと、恨んでる?」
「恨んでなんかいませんよ。」
「・・・。私ね・・・。あなたに負けたくなかったの。だから、あの時あんなこと・・・。」
「私・・・」
「エレンに告白するわ。」
「・・・。」
「いい・・・じゃありませんか。」
「ありがとう・・・。でも・・・ひとつ聞かせて。」
「あなたはエレンのこと、好きなの?」
「・・・っ」
瞳を閉じる。
宙を仰いで、背を向ける。
「私は・・・」
「エレンのこと・・・」
好き
好き・・・
「友達ですよ。」
・・・好き。
「・・・。」
「・・・ありがとう、サシャ。」
そう言い残し去っていく。
どんどん遠くへ、遠くへ。
私は宙を仰ぎ続ける。
・・・頬につたってくる。
ひだり・・・
みぎ・・・
もう泣かないと思ったのに・・・
涙が頬をつたっていく。
・・・これでいい。
・・・これで。
今のままで・・・
-
- 66 : 2014/01/29(水) 13:12:44 :
あきらめよう。
そう思った時だった。
「何・・・泣いているんだ。」
私を呼び止める声。
あきらめるんだ。
「泣いてなんかないですよ。」
「どうして泣いてるんだ。」
「泣いてないって言ってるじゃないですか!」
こう言わないと、断ち切れない。
「どうしてエレンがここにいるんですか!」
「ミーナと話をしていたんじゃなかったんですか。」
「私のところなんか来なくて、そっちに行っていればいいじゃないですか!」
「・・・どうしてここに来たりしたんですか・・・。」
「サシャ・・・。」
エレンが一歩踏み出す。
私は目をそらす。
「ごめん・・・。」
「でも、俺・・・」
「お前が好きだから。」
嘘・・・
「うそ・・・、嘘やん!」
「全然そんな気なかったやないの!」
「ずっと見てた。」
「ずっと言おうと思ってた。」
「でも、言えなかった。」
「俺には、夢があったから。」
エレンが私の腕をやさしくつかむ。
見つめ合う。
そして自然と
唇が重なった。
「・・・俺には夢がある。」
「だからサシャ・・・、その日までは、このままでいてほしい。」
「今のままで、待っててくれないか・・・。」
・・・ずるい。
そんなこと言われたら、こういうしかないじゃないですか・・・。
「・・・はい。待っています。いつまでも、今のままで。」
「今の気持ちのままで、待ってますから。
明日は道を選ぶとき。
その日を前に、私たちは思いを確かめ合うことができた。
今のままで
待っていますから・・・
-
- 67 : 2014/01/29(水) 13:14:18 :
やっと終わることができました。
初投稿のくせに長すぎ・・・。
反省しております。
ご意見・ご要望があえればコメントください!
今まで、見てくださって、ありがとうございました!!!
-
- 68 : 2014/01/29(水) 13:15:31 :
- 面白かった!そして感動です!!お疲れさまです!
-
- 69 : 2014/01/29(水) 14:20:34 :
- おつかれさまでした☻
続きが楽しみで、更新されるたびにわくわくしながら読んでいました。
これが初めての作品だなんて、ほんと驚きです(°_°)
少し気が早いですが、次の作品も楽しみにしておりますね(´◡͐`)♥︎
-
- 70 : 2014/01/29(水) 15:56:34 :
- もっとエレサシャ書いてください
(土下座)お願いします
-
- 71 : 2014/01/29(水) 15:57:04 :
- EreAniさん、submarineさん、ありがとうございます(>_<)
最後駆け足になってしまい、ここまで延びてしまったのに、期待を裏切るような印象を与えてしまったのではないかと自省しています。
リクエストなどありましたら申しつけください。
ちなみ次回はホラーに挑戦しようかとおもいます。
-
- 72 : 2014/01/29(水) 16:33:28 :
- 最高でした!次回作も期待です!
-
- 73 : 2014/01/29(水) 16:41:39 :
- 面白かった!
次回作も期待してます!
-
- 74 : 2014/01/29(水) 18:59:56 :
- お疲れ様でした!
早く続きを読みたいと思わせるほどに素晴らしい表現力に、終始惹きつけられました、!
とても面白かったです♪
今後書かれる作品も非常に楽しみにしております^^
-
- 75 : 2014/01/29(水) 19:02:08 :
- 名無しさん、駆逐王エレンさん、天使さん、ありがとうございます(≧∇≦)
投稿し始めた頃から応援いただいて本当に励みになりました(>_<)
個人的にサシャはとても好きなキャラクターなので、エレサシャ含め、今後も活躍させていきたいと思ってます!
よろしくお願いいたします。
-
- 76 : 2014/01/29(水) 19:05:11 :
- ゆきさん、ありがとうございます!
一番最初に応援のコメントを書いていただいたのがゆきさんでした。
ゆきさんの応援があの時無ければ、最後まで書けなかったと思います。
本当にありがとうございました!
皆さんの書いているSSにも出張し、楽しみながら勉強させていただきます。
-
- 77 : 2014/01/29(水) 19:06:15 :
- 私はとてもとてもとてもとてもとてもサシャが好きなのでめちゃくちゃ面白いと思いました!!
サシャが輝いていたり、サシャが主役の時は凄く喜んでいます!
-
- 78 : 2014/01/29(水) 19:39:58 :
- モモサシャさん、ありがとうございます!
今回は繊細なサシャを書かせていただきましたが、そのように喜んでもらえると、私も嬉しいです。・゜・(ノД`)・゜・。
私もサシャが大好きなので、サシャが主役の作品がもっと増えることを願ってます。
…原作で死なないで欲しいなぁ(´Д` )
-
- 79 : 2014/01/29(水) 22:54:24 :
- すごくよかったですっ!
サシャの女の子らしさが存分にあふれでてました!
次作も、期待してますね♪
-
- 80 : 2014/01/30(木) 00:28:09 :
- Aniっちさん、ありがとうございます!
ひょうきんなキャラで書かれていますけど、私はサシャは進撃のなかでもかなりの乙女だと思っています。
女の子らしさが伝わって、嬉しいです。
今後とも応援よろしくお願いしますm(_ _)m
-
- 81 : 2014/01/30(木) 08:16:22 :
- 。・゚・(ノД`)・゚・。イイハナシダー
本当に初めてかいな!?上手すぎる!
-
- 82 : 2014/01/30(木) 12:28:46 :
- ざっくれいさん、ありがとうございます!
朝早くにお褒めのコメントいただいて感謝です!(>_<)
書くのは初めてですけど、皆様のSSはずっと読んでいたので、いいとこ取りです
( ̄+ー ̄)
感動していただけたなら感無量ですよ!
今後とも応援よろしくお願いします
m(_ _)m
-
- 83 : 2015/01/02(金) 01:25:52 :
- つづきーーーーーーーーーーーー
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