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一匹の犬

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  1. 1 : : 2019/11/29(金) 19:08:19
    このスレのコメントは制限しませんが、荒らし等は辞めていただきたいです。


    地文は少なめにしたい…………と思います(希望)
  2. 2 : : 2019/11/29(金) 23:10:50
    地文が増えた…序盤だけだと思いますので勘弁を



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    シガンシナ区。


    そこはウォール・マリアの三重の壁の最も外側であり、南側の突出した区域である。つまり巨人が襲来した際にはシガンシナ区が最前線ということになり、ここは最重要防衛区域となる。


    その区域にある家々が建ち並ぶ大通りの路地裏…そこに『彼』はいた。
    一生懸命捨てられた生ゴミを漁ってはいるが、一向に袋を噛みちぎれず悪戦苦闘している真っ白な生き物。


    そう、犬である。


    この時代にいる動物というのは殆どが馬、貴重なものなら牛や豚などが管理されている。
    この動物達は移動手段や食料等に最適である。正に人類にとっては無くてはならない物だ。


    だが、犬や猫といったそこら辺をウロウロしているだけの動物は論外である。まず人類にとって役に立たない。それなりに訓練すれば偵察やらは出来るだろうが、それだけだ。まず訓練に対する勤労所得がないのも問題である。


    それに犬猫用のエサ等も無い。というか巨人がいるのでほぼ人類の為に使われているから、当然なのだが。


    それらの理由があり、犬や猫といった動物は餓死によって大半が死んでいる。その中で懸命に生きる術を探し、時には人間の食料を食べ、生き長らえてきたこの犬は、犬界(?)の中でも随一の生命力を誇るだろう。一応オスである。


    そんな訳で彼はこんな路地裏で生ゴミを漁っている。まともな食料が無いと判断した彼は、咄嗟に駆け出した。


    ここは一種のスラム街。いや、地下街と呼んだ方が良いのか。ここに来るものは人も、犬でさえも殺しにかかる、残虐非道な者たちが集まる街だ。


    彼はそれを理解した上で、思いっ切り漁りに行ったのである。もし彼が兵士なら、有り余る胆力で巨人を殲滅していただろう。


    彼が走った後は、白いキラキラとした毛が抜け落ちていた。まともな食料は無いのだが、比較的安全な食べ残しを取捨選択により判別し食べてきた彼は、感染症等の病気は一切なく、元気にスラム街から大通りの手前の路地まで走り、近くの物陰に身を隠した。



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    「うーし、帰るか!アルミン!」


    「うん…あ、ごめん!本忘れてきちゃった!取ってくるから先帰ってて!」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



    忘れた本を取りに帰る為、大通りに入る。


    あの本は大事な本だ。なんせ外の世界の事が書かれてあるのだから。


    道行く人を避け、早歩きで進むも、手前の少し窪んだ地面に足が嵌り、転倒してしまう。


    「うっ!…我ながらダメダメだなぁ…ん?」


    起き上がり、土を払おうとして前を見た瞬間、あらゆる感情が吹き飛んだ。


    僕はまた土が付くのも構わず、思いっ切り抱きついた。


































    「うわぁぁぁぁーーーーーっ!!!可愛いいいいいいい!!!!」
  3. 3 : : 2019/11/30(土) 20:02:54
    「こんな所に犬なんて居るんだな…」


    「…かわいい。」


    エレンは驚きながらも僕が抱いているわんちゃんを撫で回している。ミカサはいつもの無表情だが、頭を撫でている手は止まらない。撫ですぎて禿げそうだ。


    腕の中で嫌そうに暴れていた犬はもう諦めたのか、舌を出してされるがままになっている。


    「にしても、病気になってない犬なんているんだね。爺ちゃんから聞いたけど、今の時代犬のエサなんかなかったらしいよ。」


    「……食られたものはほとんどゴミ。珍しい。」


    そういう事を考慮した上でこのわんちゃんを見ると、余程賢いのか運がいいのか…


    「わふ…」


    ……うん、多分運だな。
  4. 4 : : 2019/12/08(日) 12:05:01
    地文が達筆ですき
  5. 5 : : 2019/12/09(月) 00:45:11
    「へえ、珍しいわね」


    エレンの母親であるカルラはエレンに首を締めるように抱き抱えられている白い犬を見てそう言った。
    子供ということもあり、まだお粗末な抱き方をしているが、この時代に犬の知識等必要ないので割合している。


    「だろ!?母さん!この犬、家族にしていい?」


    エレンはキラキラと輝くような目でカルラを見つめるが、カルラは首を横に振る。


    「残念だけど、ダメよ。そもそも、全員の食べ物のお金だって精一杯だし、この子専用のご飯なんてどこに行っても無いわ。」


    普通はそうだが、この犬は実は人間の食べ物も食べられたりする。


    「うぐ……でも、コイツ、このままだと飢え死ぬよ!」


    エレンが先程の輝いた目から一転し、泣きそうな目でカルラを見つめるが、隣で黙々と食べていたミカサがいきなりエレンの顔をミカサの方に向かせた。


    「エレン。この子は確かに可哀想だけど、ダメ。もし母さんから了承が出たとしても、犬の寿命は短い。いつかきっと私達より先に死ぬ。」


    「な、なんだよミカサまで…」


    ミカサは目を伏せ、マフラーを鼻の上まで上げる。


    「家族を失うのは…もう嫌」


    訴えかける様に言い放つと、エレンの顔から手が離れ、力無くするりと下まで落ちていく。


    「……ごめん。俺が馬鹿だったな」



    「ううん、良い。」


    エレンはミカサから目を背けてまた食事に戻る。カルラはエレン達に背を向け、作業をしている。
    重苦しい雰囲気が支配する中で、未だエレンの膝の上で我関せずとリラックスしている犬が居たのであった。
  6. 6 : : 2019/12/09(月) 22:04:11
    期待ぜよ
  7. 7 : : 2019/12/10(火) 20:33:32
    明くる日の朝。街の門の少し手前。



    サンサンと照らす太陽の日差しを背に受け、汗をかきながら苦しい顔をし、大量の薪も背に担いでいる少年。


    その横で少年の数と二倍近く違う薪を担ぎながら無表情で何ともなしに歩を進めている顔立ちが整っている少女。


    そしてその横で舌を出し、熱を放出させながらも太陽光により毛がキラキラと光り、神々しさを醸し出している犬。


    少年…基エレンは汗が垂れている顔を服の袖で拭い、歩きながらミカサに言った。


    「言うなよ…誰にも…俺が泣いてたとか」


    「…言わない」


    「わん」


    ミカサと同様に意を汲み取ったのか、犬も頷き鳴く。


    本当は腹が減っているので食べ物をくれ、という意思の元だが。


    「でも…理由もなく涙が出るなんて、一度おじさんに診てもらったら?」


    「馬鹿言え!親父に言えるかこんなこと」


    エレンは未だ目元が腫れたままだ。犬はさっきと違い意に介さず、ただ苦い顔をしていた。


    「何泣いてんだエレン?」


    そう、目の前のこの男と後ろで酒を飲みながら駄弁っている男達のせいである。
    犬は人間の50倍以上の嗅覚を持っている。幸い空腹のせいで幾らか臭いは紛らわせたが、それでもこの臭さだ。


    「!!ハ…ハンネスさん」


    「ミカサに何か怒られたのか?」


    「は!?なんで俺が泣くんだよ…って酒臭ッ!」


    これは流石のエレンも堪えたようで、鼻をつまみながら後ろに下がった。犬はミカサの薪の上に飛び乗り、顔を背けている。


    「え…また、飲んでる…」


    エレンは驚き、苦笑いしながら奥で酒盛りをしている駐屯兵団達に目を向ける。


    「お前らも一緒にどうだ?」


    ハンネスはからかう様な口調でにやけながら言う。


    「いや、あの…仕事は?」


    エレンが聞くと、「おう!今日は門兵だ!」と意気揚々と返って来る。


    「一日中ここにいる訳だから、やがて腹も減り喉も渇く。飲み物の中に偶酒が混じっていた事は些細な問題に過ぎねえ。」


    ハンネスはフラフラしながら言い聞かせるように話す。そしてミカサの薪から飛び降りた犬に気付いたのか、犬に近付き、しゃがみ込んだ。


    「お?コイツは…犬か?」


    バシッ。


    ハンネスは驚いた様な顔をして、その白い毛並みに手を伸ばすが、犬は思いっ切りその手を弾いた。


    「いってぇ!中々に力あるな、コイツ……何処で見つけたんだ?」


    「この子は、アルミンが見つけたの。路地裏に居たらしくて…でも、近い内にどこかへ逃がすつもり。」


    ミカサは少ししょんぼりした目になり、犬の頭を撫でる。


    「そうか。俺は弾く癖に、ミカサのは受け入れるんだな。全く酔狂な奴だぜ」


    「ハンネスさんの手を受け入れるとしたら、それこそ酔狂。この子は普通。」


    「おいおい、こりゃ一本取られたぜ」


    ハンネスの後ろで下品な笑い声が聞こえる。


    それを聞いて腹が立ったのか、エレンがハンネスに近付いた。
  8. 8 : : 2019/12/10(火) 21:45:15
    「そんなんでイザッて時に戦えんの!?」


    「…イザッて時ってなんだ?」


    エレンの悲痛な言葉は駐屯兵団に届かないばかりか、言葉の意味を理解していないようだった。その態度にエレンは益々声を荒らげる。


    「………!!何言ってんだよ!決まってんだろ!」


    「ヤツらが壁を壊して!!街に入ってきた時だよ!!」


    その叫びはハンネス達の耳を攻撃するのには十分な声量だった様で、全員耳を手で塞いでいる。
    未だに撫でられている犬の目は何かを思案するように細くなった。


    …実際の所、撫でられてリラックスしているだけである。


    「おい!エレン!急に大声出すんじゃねぇよ!」


    「ハハハ…元気がいいな、医者のせがれ」


    駐屯兵団の男が酒を飲みながらエレンに向かって話す。


    「しかしな…そんな事100年間で一度も無いんだぜ」


    「で、でも…そーやって安心してる時が一番危ないって父さんが言ってたんだ!」


    辛うじてエレンはその言葉に肉薄する。


    「まあ…確かにそうかもな…街の恩人イェーガー先生に頭が上がらねぇんだけど…」


    男が「でもな」と口を挟む。


    「兵士になれば壁の補強作業とかで壁の外を彷徨くヤツらを見かけることがあるんだが…」


    「ヤツらにこの50mの壁をどうにか出来るとは思えねえんだ」


    「じゃあそもそもヤツらと戦う覚悟なんかねぇんだな!?」


    反論したエレンに駐屯兵団の男は「ねぇな!」と答える。


    「なっ、なんだよ!もう駐屯兵団名乗るのやめて壁工事団にしろよ!」


    「それも悪くねぇ!」


    全く悪びれずに言う男。そうやってエレンと駐屯兵団が話している横で、ミカサがしゃがみ誰でもない犬に語りかける。


    「…ねぇ……本当に、あると思う?そんな事」


    ミカサは、まだ年齢は子供だが、知能は子供のような甘っちょろいものでは無い。エレンの主張と駐屯兵団の主張を理解した上で、問いかけている。


    と言っても、ミカサが話しかけているのは犬だ。人間ならまだしも、別の生き物に話しかけても意味は無いだろう。


    「クゥ」


    犬は一声鳴くと、ミカサの背負っている薪に捕まり、乗った。ミカサは何も言わずに立ち上がり、前を向く。


    エレン達の話も丁度一段落したようで、エレンはハンネス達を睨みつけ、言い放った。


    「一生壁の中から出られなくても…メシ食って寝てりゃ生きていけるよ…でも…それじゃ…」


    「まるで……家畜じゃないか…」


    エレンは初めて犬を見た時、色々な思いが想起された。


    「珍しいな」という思いや、「かわいい」という思いも少しは出てきた。


    だが、一番最初に思い浮かんだ思いは「可哀想だ」であった。


    汚れては居ないものの、痩せ細った体から見るに、さまよっていた間はそう短くはないだろう。その間ずーっと一人で、自分しか居ない状況でこの犬は命からがらの状態で生きたのだ。


    人間の食料もまともにないこの時代。その下の更に下の世界でこの犬は只管走った。


    もしそれが自分であったなら、この男達であったなら、死を選んでいるだろう。周りに食料もない。仲間もいない。そんな状態で生き長らえるのは不可能に近い。


    それに比べると駐屯兵団なんか、これっぽっちの職業に見えてくる。それこそ家畜だ。


    エレンは男達に踵を返し、ミカサもそれに続いていく。ミカサの後ろで揺られている犬は駐屯兵団の男達にただ一言、「わん」と鳴き、それ以上何も言わず、ミカサの頭に顎を乗せ、やがてその姿は見えなくなった。


    因みに犬がエレン達に付いて行っているのは懐いた訳ではなく、最初にパンの欠片をくれたので拠り所として確立したからである。
  9. 9 : : 2019/12/10(火) 23:39:41
    期待
    でもパン食えるってこと知ってるんだ
  10. 10 : : 2019/12/11(水) 15:55:06
    >>9

    そこら辺は色々と無駄な展開が多いと思ってしまったので割合しました
    カルラさんが少しの間なら…って了承してくれた感じです
  11. 11 : : 2019/12/11(水) 20:23:32
    >>10

    ありがとう 基本的には原作に沿っていく感じ?
  12. 12 : : 2019/12/11(水) 22:07:54
    >>11

    そうですね
    そこに一匹犬が加わるだけで展開はそんなに原作と大差ないと思います
  13. 13 : : 2019/12/13(金) 23:07:38
    「…エレン、調査兵団はやめた方がいい」


    ミカサは下を向きながら呟いた。


    「なんだよ…!お前も調査兵団を馬鹿にすんのか!?」


    ミカサの薪の上に乗っている犬も呆れたようにミカサの背にもたれかかっている。


    「馬鹿にするとか…そういう問題じゃ――」


    カンカンカンカン、と甲高い鐘の音が鳴る。壁の外で調査をしていた調査兵団が帰って来たという証拠だ。


    「英雄の凱旋だ…!行くぞミカサ!」


    突然エレンに手を引っ張られミカサは思わず転びそうになる。その反動で犬が地面に激突し、どこかへ転がって行った。


    「ちょっとまって!エレン!わんちゃんが!」


    エレンは浅ましく興奮しているらしく、ミカサの言葉に耳を傾けず、手を強く引っ張りながら人混みの中を進んで行った。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    犬は考えた。


    さて、衝撃に伴って舗装された路面に落ちたは良いものの、これでは食事が満足に取れなくなってしまう。今から走って追いつこうにも、人混みによって道が遮られているし、エレンとミカサが紛れて何処に行ったのかすら検討もつかない。


    彼はそもそもエレンとミカサをただの「食事の拠り所」として見ているだけなので、別段懐いてはいない。人間に例えて言うなら、「結構美味い飲食店があったが、そこが何処か忘れてしまった。まぁ近くにあるだろうしいつかまた巡り会えるだろう」みたいな思考だ。


    態々追ってもみくちゃにされて迷ってしまうより、まだ通ってきた道がわかるここら辺が一番良いと彼は判断した。これまでこの知能によって生き延びる術を模索してきた。


    だが、幾ら知能が高いといっても、所詮生き物、三大欲求には逆らえない。目の前より少し右、食べ物を売っている店。幸い店主と思わしきものは他の客と商売交渉している。均衡価格がどうとか話しているが、犬には関係ない。


    彼はすぐ様走り出し、思い切り飛んだ。その勢いで丁度台に裸で置いてあった自分の顔より少し大きめのパンを咥える事に成功。


    路面に足が着くとすぐ様持ち前の持久力とスピードを生かし、人混みとは反対の方向に走った。


    「ーーーー!」


    後ろから怒鳴り声が聞こえるが、気にしない。彼は犬。人間のルールや秩序等クソ喰らえという感じで駐屯兵団が居ると思わしき場所に走っていった。


    丁度その頃、エレンはミカサに思いっ切り吹き飛ばされ、「なんであの子の事、気にかけなかったの?」と暗い目で睨みつけられた。
  14. 14 : : 2019/12/14(土) 20:35:54
    アンタ文才あるよ
    頑張ってくれ
  15. 15 : : 2019/12/14(土) 22:09:13
    >>14
    ありがとう。気長に待ってて下さい
  16. 16 : : 2019/12/14(土) 23:29:55
    丁度正午を過ぎた頃。


    駐屯兵団、基ハンネス達は未だ門付近で警備と称し飲んでいた。先程の奇妙な犬と少年を酒の肴にしながら。


    「にしても、あの犬、何なんだろうな?拾って来たっつっても、もうこの辺じゃ絶滅してるって話だ」


    「まぁー俺らにゃ全く必要のねぇ動物だしなぁ…見るからに頭悪そうだったし」


    「まあ、その内その辺に捨てられて野垂れ死ぬだろ。俺達が気にする事じゃねぇ。」


    そう吐き捨てた男達は、暗い顔をしているハンネスに目を向ける。


    「おいおいハンネス、どうした?飲めよ、ホラ」


    男は満タンに注ぎ込んだ酒をハンネスの前に置く。が、ハンネスは取っ手をとらず、真剣な目で男達を見た。


    「エレンは…あいつはどうすると思う?」


    ハンネスは、エレンが子供の頃から一緒に世話してきた、いわば自分の子供のような存在だ。その様な人物が、調査兵団に憧れている。止めるべきなのか、否か。


    「……所詮子供だ。どうせビビって駐屯兵団にでも入って俺達みたいになるだろうよ」


    「それなら、俺達が先輩として酒の飲み方ってのを教えてやらねぇとな!」


    「馬鹿、俺達はイザッて時に戦わなきゃ行けねぇだろ!」


    「二日酔いと?」


    その言葉に男達は笑うが、ハンネスだけは笑えなかった。エレンはああ見えて度胸と強い信念がある。子供だからと甘く見れば痛い目を見るかもしれない。


    ハンネスはコイツらに聞いたのが馬鹿だったな、と一口酒を飲み、赤くなった頬に手をやるのだった。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



    「どうした異端者…苦しかったら殴り返してみろよ!」


    路地裏で3人の少年の1人が1人の金髪の少年の胸ぐらを掴んでいる。金髪の少年の右頬には殴り跡があるが、必死に少年を睨み付けている。


    「そ、そんな事するか!それじゃお前らと同レベルだ!」


    「何だと!?」


    「僕が言ったことを正しいと認めているから…言い返せなくて殴る事しか出来ないんだろ!?」


    この状況でこの言葉を吐けるのは、流石アルミンと言ったところか。伊達にエレン達とつるんでいない。


    「それは…僕に降参したってことじゃないのか!?」


    「うるせぇぞ屁理屈野郎!!」


    少年はみるみる顔が赤くなり、もう一発殴ってやろうと腕を上げる。


    が、その瞬間、何かに吹き飛ばされた。


    「ガッ!?」


    少年は脇腹を抑え、アルミンより2mほど離れた位置で呻いている。


    「なッ…!?わんちゃん!?なんでここに!?」


    少年の傍で何事も無かったかのようにパンを食べているのは、あの時アルミンが拾った白い犬であった。確かエレンとミカサが連れて行ったはずだが、いつの間にはぐれてしまったのか。


    「ぐぅ……っ!なんだこいつ…!」


    「ギャン!!」


    少年は辛うじて立ち上がり、思い切り犬の腹を蹴った。想像以上に鈍い音がして、食べていたパンの欠片を撒き散らしながら犬はアルミンの方に飛び、地面に突っ伏した。


    「何やってんだお前らぁーーーっ!」


    丁度その頃反対の方向からエレンが走ってくる。それを好機と見たようで少年達は構えるが、後ろで猛烈な速さで追ってくるミカサを見て逃げてしまった。


    「あいつら、俺を見て逃げやがった…」


    「ミカサの方を見て逃げたんだと思うよ…イテテ…それより、この子を」


    アルミンが言いかけ、足下を見ると何も居なかった。代わりに、ミカサが持っているパンを取ろうとピョンピョン跳ねている犬が居た。


    「…?アルミン、どうしたの?」


    ミカサは首を傾げ、犬にパンを食べさせる。アルミンは何故か一人で立っていた。


    「一人で立て……おぉ、大丈夫か」


    「いや、な、なんでもないよ。」


    一応伝えておこうと思ったが、この子が元気なら問題ないし、万が一にミカサが少年達を殺しかねないので、辞めておくことにした。


    ミカサは余りにもアルミンが執拗に見てくるので、


    「…ごめんなさい。」



    「えっ」
  17. 17 : : 2019/12/16(月) 16:06:42
    アルミンww
    良作の予感!期待ですー
  18. 18 : : 2019/12/16(月) 22:37:30
    文構成がちょっと下町ロケットっぽいのは気のせい?でも面白いことに変わりないから期待
  19. 19 : : 2019/12/17(火) 16:15:21
    >>17

    ありがとうございます。


    >>18

    恐らく影響は受けてます
  20. 20 : : 2019/12/18(水) 17:02:41
    すみません。諸事情で更新遅れそうです。
  21. 21 : : 2019/12/18(水) 19:50:34
    期待
  22. 22 : : 2019/12/22(日) 13:44:17
    「それで…人類はいずれ外の世界へ行くべきだって言ったら…殴られた。異端だって」


    アルミンはまだ少し腫れている目を擦りながら言った。


    「くっそー…外に出たいってだけでなんで白い目で見られるんだ」


    エレンは石ころを川に投げようとするが、犬が物欲しそうな目をしていたので川とは反対側の方向へ投げた。犬は石ころを追って反対側に行った。


    「そりゃ…壁の中にいるだけで100年間ずっと平和だったからだ」


    「下手に外に出ようとして、ヤツらを壁の中に招くようなことが起きないように」


    「王政府の方針として、外の世界へ興味を持つこと時代をタブーにしたんだ。」


    「つまり王様ビビりすぎっつーだけの話だ!」


    「そうなんだよ…でも本当にそれだけの理由なんだろうか?」


    「自分の命をかけるんだ…俺らの勝手だろ!」


    「絶対、駄目」


    エレンがふんぞり返って言うが、間髪入れずにミカサが否定する。犬は石ころを持って帰ってきた。


    「駄目」と言いながらミカサは石ころをまた向こう側に投げ、犬が走っていった。


    「そーいやお前、よくも親にばらしたな!!」


    「協力した覚えは、ない」


    「で、どうだった」


    「そりゃあ……喜ばれはしない」


    「…そりゃそうだよ」


    「な、なんだよ!お前もやめろって言うのか!?」


    「だって危険だし…気持ちはわかるけど」


    「確かにこの壁の中は未来永劫安全だと信じ切ってる人はどうかと思うよ」




    「100年壁が壊されなかったと言って…今日壊されない保証なんかどこにも無いのに」




    ━━━!!!




    瞬間。エレン達の体を仰け反らせ、震わすような轟音が響き渡る。




    「は……?何だ、地震ってやつか?」



    慌てて街を見ると、人々がしきりに壁の方向を見ている。


    まさかーー


    「…行ってみよう」


    アルミンがそう告げると同時に、走り出す。


    誰かの家の上にある鳥型モービルがカランカランと音を立て、回っている。鳥風の様な風の音が鳴る。


    街の中心に出たアルミンは、目を見開き、そのまま動かなくなる。「アルミン、一体何が…」とエレンも中心に出、ミカサもそれに続く。


    「オ、オイ!何が見えるってんだよ!」






    その光景を見た瞬間、エレンもミカサも呆然とし、立ち尽くすしか無かった。何かの煙が壁の外でモクモクと立ち上がっている。


    そして、壁の一番上に何かが乗っかる。紅く、それでいて筋肉のような塊。


    「そんな…あの壁は…5…50mだぞ…!?」


    その何かの後ろに、さらに大きなものが這い出てくる。エレンはそれを見た瞬間、直感的に理解した。手と、顔だ。


    「ヤツだ…」





    「巨人だ」
  23. 23 : : 2019/12/22(日) 13:45:50
    何気に見てみたら文章力えげつないな
  24. 24 : : 2019/12/30(月) 13:16:10
    「ありえない!巨人は最大でも15mの筈だ!50mの壁から頭を出すなんて……」


    「ーー!動くぞ!」





    ━━━━!!!





    耳を劈くような轟音。その音の正体は、煙が上がっている方向を見て初めて悟った。


    岩が飛んでくる。数々の岩が家々に衝突し、軈て家がその形を保てなくなり、崩れ落ちた。


    「か……壁に…穴を開けられた……!?」


    互いに互いが同じ表情に塗り替えられ、先程まであった『幸福』が一滴垂らされた『絶望』によってどんどん薄められて行く。


    「う…うわぁぁぁあぁぁぁぁああ!!!」


    一の声がやがて十となり、百となり、周りに伝染した。人々は逃げ惑い、反対側の方向へ。
    アルミンとミカサもそれに続こうとした。


    「逃げるぞ二人とも!!早くしないと次々と巨人が入ってくる!」


    「エレン!?」


    だがエレンだけは違った。風を切るように人々とは反対側の方向へ走り出す。


    「壁の破片が飛んでった先に家が!!母さんが!!」


    切羽詰まった声で叫びながら尚も走り続けるエレンに、ミカサは続いて走り出した。


    「ミカサっ!」






    「う…!く……!」







    「ハァ……ハァ……」


    手が震える。もう一方の手で握るが、やがてその震えは全身に伝染し、次第に呼吸もままならなくなる。足も動かくなってしまった。


    「もう…駄目なんだ…この街はもう…」





    「無数の巨人に占領される!!」
  25. 25 : : 2019/12/31(火) 00:07:27
    走る。走る。走る。


    脳内では様々な考えが回っているものの、エレンの足は留まることを知らない。反対方向に逃げ惑う民衆を尻目に後ろから付いてくるミカサと走りづつける。


    (家に当たってるわけがない…)


    先程飛んできた岩に上半身を潰され、地面にめり込んでいる父親らしき男の傍で母親らしき女性が座り込み咽び泣き、子供は今にも泣きそうな顔をしている。そんな状況を見て今起こりうる最悪の事態を思い起こしてしまう。


    (とっくに逃げたに決まってる…!)


    息が上がる。


    (あの角を曲がれば…いつもの家が…!!)


    角を曲がり、目にした光景に驚愕する。が、足は止めない。止めたらもう動けないと分かっているから。


    「ハッ………!クソッ!!」



    「母さんッ!!」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    山崩れになった瓦礫を押し退け、木の板を持ち上げると、うつ伏せになり、家を保つ大きな柱に今にも押し潰されそうなカルラが居た。


    「母さん…?」


    「…エレンかい?」


    エレンの言葉に反応したカルラに、まだ生存を確認したエレンは咄嗟にミカサに指示を出す。


    「ミカサ!そっちを持て!この柱をどかすぞ!!」


    「いくぞ…!せーのッ…!」




    ウオォォオオオオォォ!!!




    「うッ…!」


    鳴き声。人のような顔に髪。だがそれに似つかない大きな巨体が見えた。まずい。もうヤツらが入って来ている。一旦手が止まるが、思い出したように力を入れる。


    「ミカサ!!急げ!!」


    「わかってる!」


    「急ぐんだ!!」


    持ち上げようとするが、所詮は子供の力。それに焦りも加わり、柱はうんともすんとも言わない。それでも持ち上げようとエレンとミカサは奮起するが…


    「きょ…巨人が…入って来たんだろ?」


    「エレン!!ミカサを連れて逃げなさい!!」


    カルラは必死に叫ぶ。母親という立場上、最も大切な子供を。宝を守れなくてどうする。それでもエレンは反対する。


    「逃げたいよ俺も!!早く出てくれよ!」


    「早く!!一緒に逃げよう!!」


    「母さんの足は瓦礫に潰されて…ここから出られたとしても走れない…分かるだろ?」


    「…!!俺が担いで走るよ!!」


    心音が聞こえる。


    「どうしていつも母さんの言うこと聞かないの!!最期くらい言う事聞いてよ!!」


    足音が聞こえる。


    「ミカサ!!」


    「ヤダ…イヤダ」


    カルラは目を伏せるが、後ろから聞こえてくる大きな音にハッとし、後ろに目を向けるが、瓦礫しかない。だが、確信していた。エレンとミカサの目が一点に向けられる。カルラの後ろだ。


    一定のリズムで近付いてくるそれは、まるで朝ピクニックに行く様に悠々としている。


    やがてピクリともしなかった柱が徐々に二人の手によって上げられていく。火事場の馬鹿力という物だろうか。軋む音が耳に響くと同時に、段々と近付いてくる音が大きくなって行く。


    「2人とも逃げて!!」


    「急げミカサ!」


    「うん!」


    カルラの忠告を無視するエレン達だが、カルラの頭の中は絶望に塗られている。


    (このままじゃ…三人が……!!)
  26. 26 : : 2020/01/13(月) 17:28:28
    面白いっすねぇ
    筆舌が流暢で凄い 気長に期待しながら待ってます

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