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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

アルミン「2回目」(アルミンチート・ハーレム)

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  1. 1 : : 2019/07/31(水) 22:21:09


    小さめの雨粒が、窓を叩いている。
    埃っぽい室内に、乱雑に積まれた本の数々。
    それは紛れもなく、僕の過ごした部屋
    だった。

    「僕は……」

    時間にすれば、体感で数十秒前の出来事だ。
    僕は調査兵団の団長で、仲間を引き連れて
    壁外に出て────

    「……うっ」

    思い出した。血塗れの街。絶望に染まる
    陣形。各地から上がる黒い煙弾。死んだ仲間。欠損した己の四肢。

    そう。僕は死んだのだ。嬲るように仲間を殺され、憎しみと後悔のうちに巨人に噛み砕き殺されたはずなのだ。

    それなのに僕はこんなところにいた。
  2. 2 : : 2019/07/31(水) 22:41:35

    「なんて都合の良い夢なんだよ」

    僕は、ふと壁にかかっている鏡に目を向けた。そこには、幼き日のアルミン・アルレルト本人が立っていた。

    まだ超大型巨人が現れていなかった頃。
    壁内に、ちっぽけながら平和があった頃。僕には、その頃がひどく懐かしく
    思えて涙が出そうになる。

    「あの頃は……幸せだったんだな」

    何も知らないが故の幸せ。純粋で、無邪気で。あの頃は、ただ新しい事を学ぶ事だけに集中できた。

    最も────死んでしまった今、過去を振り返っても仕方がないだけなのだが。

    『おい、誰が死んだって?』

    「っ!?」

    突然響き渡った声に、僕はうろたえて
    室内を見回した。けれども誰もいない。

    慌てていると、目の前に霞が集まるようにして人の姿が突然現れた。

    「君は……!?」

    『おいおい、それはお前がよく分かってんだろうが。俺はお前だ。俺はアルミン・アルレルト本人なんだよ』

    「そうも言ったって、信じられない。僕とは似ても似つかないし、そんな口の利き方はしないよ」

    そう指摘すると、黒髪の僕は呆れたように肩をすくめた。『はっ、言うだけ勝手だ。だが、その事実は変わらないぜ。
    俺はお前だ』

    「君は見知らぬ人物がいきなり部屋に現れて、自分とお前は同一だと言われて
    信じるのか?」

    『おいおい、そりゃ愚問だぜ。そんな事は問題じゃねえ。 とりあえず、言いたい事だけ言わしてもらうぜ』

    「……何だよ」

    『お前は死んじゃいねえ。正真正銘、
    生前のアルミン・アルレルトだ。
    お前は壁が崩壊する前の子供の頃に
    戻ったんだよ』

    「な、何だって!?」

  3. 3 : : 2019/08/01(木) 14:19:47
    期待!!(^ω^=^ω^)
  4. 4 : : 2019/08/02(金) 08:39:09

    >>3 あざます!



    そんな事を唐突に言われても、どう信じろと言うんだ。そんな僕の心情を見透かしたのか、黒い僕は溜息をついた。

    『信じるも信じぬもお前次第だ。
    ともかく、お前はこの後に起こる
    出来事は知っているな?』

    「……ああ。ここが本当に、崩壊前のシガンシナ区なら」

    『なら、やるべき事は分かってるな?
    ………なぁ、おい。お前は、これまでに
    多くの選択をして、その選択の分だけ
    後悔してきたんだ。
    今、お前には、その後悔の分を取り戻せる権利がある』

    「………………」

    『その権利を生かすも殺すも、全て
    お前次第だ。覚えておけよ』

    そこまで言ったところで、黒い僕の
    身体が霧散を始めた。どうやら帰るつもりのようだ。
    帰らせるわけにはいかない。
    どうしても聞きたいことが、一つあった。

    「ちょっと待ってくれ」

    『……んだよ』

    「お前は誰だ……?」

    『何度も言わせるな。俺はお前だ』

    「違う。そうじゃない。お前は
    何者なんだ!」


  5. 5 : : 2019/08/02(金) 08:50:39

    『何者……ねぇ。一言で言えば───』






    『俺は、お前の悪意そのものだ』

    小さく薄気味悪い笑みを浮かべて、
    “僕の闇”はどこかへ消えていった。

    「僕の…………悪意?」

    訳も分からず、ベッドに座り込んだ。
    見てはいけないモノを見た気がした。

    僕の悪意────つまり、僕が心の
    最深部に秘めている、残虐性とか、
    酷薄さとか、残忍さとかいった
    マイナスな部分全てを、ごった煮に
    して人の形にしたのが、僕の闇である
    彼なのだろう。

    人の持っている、おぞましい要素を
    形にしたもの────それを、僕は
    見てしまった。

    「うっ………おええっ」

    僕は床に、胃の中身をぶちまけた。
  6. 6 : : 2019/08/02(金) 10:28:37






    僕の闇が現れてから数日。段々と、
    僕の置かれている状況が分かってきた。

    まず、僕の闇が言っていたことは、
    全て事実だった。確かにここは崩壊前のシガンシナで、僕の祖父も存命だった。

    エレンもいた。彼も変わりなく、壁内の生活を謳歌していた。

    つまりは、僕がかつてシガンシナに
    いた頃と、何一つ変わっていない、ということだ。

    (でも、ミカサはいないんだよなぁ)

    ということは、シガンシナに巨人が
    侵攻してくるだいぶ前ということになる。





  7. 7 : : 2019/08/02(金) 10:36:16

    「…………そうか」

    僕は、これからやるべき事を思いついたかもしれない。

    僕が死んだのは、僕が仲間を守れなかったのは、それら全て弱かったことが
    僕自身が弱者だったことが原因だ。

    ならば、この平穏なうちに強くなって、これから起こる惨劇を回避するのが
    僕のやるべきことではないか……。

    一番最初の目的は、ミカサの両親を
    生存させる事だ。彼らが死んだせいで、
    ミカサはエレンに依存し、調査兵団に
    入る道を選んでしまった。

    結末を知っている今、ミカサを調査兵団に入れる訳にはいかない。

    記憶を思い起こす。件の出来事は、
    恐らく2ヶ月程度後に起こるだろう。

    「やるか」

    最初は地道に、身体に重すぎる負担を
    かけないように。その日から僕は、トレーニングを人知れず始めた。
  8. 8 : : 2019/08/02(金) 10:47:54














    トレーニングを始めて一ヶ月。

    最初の内は近所を走って帰ってくるのさえあまりにも辛かったが、今はそれどころか、朝から日が暮れるまで走っても
    多少息が切れる程度にまでなった。

    腕立て伏せも同様。以前の僕からは
    考えられないくらいに、僕は肉体的な
    成長を遂げていた。

    「アルミン、お前、背ぇ伸びたか?」

    とは、エレンの言葉だ。
    彼は少しの間に変わった僕を見て、驚いていた。

    流石におかしいと思った。こんな短期間で、肉体がこうも劇的な成長をするのは、どう考えても異常だろう。

    僕の闇に言わせれば、『2回目の人生を
    送るにあたって、多少のボーナスが付く』ということらしい。

  9. 9 : : 2019/08/04(日) 13:02:03

    もちろん、知識を取り入れることも
    怠ってはいなかった。

    僕は家にある本を片っ端から読み込み、
    その全てを記憶した。ジャンルなど
    関係ない。戦術、学問、小説など
    問わず、その全てを脳に入れた。

    全ては、二人────いや、みんなを
    守るため。そのためならば、どんな
    鍛錬もできた。


    トレーニングの日々。

    第一関門が、確実に近づいてきていた。
  10. 10 : : 2019/08/04(日) 18:28:19
    期待の状態方程式
  11. 11 : : 2019/08/04(日) 21:16:15
    >>10 サンクス
    頑張って書き終えるぜ





    とうとう、この日がやってきた。

    僕達がミカサと出会う日であり、
    彼女にとっては────人生最大のトラウマが出来る日でもある。

    「それを回避するために、ここまで
    頑張ってきたんだ」

    二人を守るという僕の使命、それを
    果たす時はまさに今日だ。
    策は考えてある。“一度目”のエレンの情報から、ミカサの家を襲ったのは二人組の男だと聞いている。
    襲撃が始まる前にミカサ一家を
    助けなければならない。

    ミカサの家の近くにエレンを誘導したところで、僕の作戦は始まる。

    「あ……。エレン、ごめん!」

    「どうしたんだ、アルミン?」

    「あの外の世界の本、家に忘れてきちゃった……。すぐ戻るから、エレンはここで待っててくれないか?」

    「おぉ、アルミンにしては珍しい
    うっかりだな。分かったぜ、すぐ来てくれよな!」

    「エレン、本当にごめんねっ!」タタタ

    快諾してくれるエレンに少し申し訳なさを覚えつつも、我慢して見えないところまで走る。

    (時間がない……!)

    男たちが、いつミカサの家を襲ったのかは分からない。この後すぐかもしれないし、一時間後かもしれない。

    もし策が外れて、何も変わらなかったなんてのは、絶対に避けたい。

    エレンを待たせている大広場を迂回するようにして、ミカサの家の裏に走る。

    窓から中を覗いたが、ミカサ親子は
    何事もなく生活しているようだ。

    (良かった……。でも、これからすることを考えると、少し可哀想に思えるなぁ)

    でも、背に腹は変えられないという
    やつだ。僕は手提げ鞄に入れてきた、
    小さな木箱と水筒を取り出した。

    (箱に水を入れてっと)

    箱の上蓋を開けて、中に水筒の氷水を入れる。満タンまで入ったところで、
    きつく蓋を閉めて、箱をミカサの家のそばに置いた。


  12. 12 : : 2019/08/06(火) 08:22:01

    「エレーン!ごめんね、待たせて」

    「おう!にしても、だいぶ早かったな」

    「全力で走ればこんなもんだよ」

    「アルミン、お前……。それはともかく、あの本持ってきたか!?」

    「うん。それを取りに行ったんだからね」

    鞄から大きめの本を取りだす。もちろん
    家に忘れたというのは嘘だ。最初から、
    鞄の中に本はあったのだ。

    「はい、どうぞ。大事に読んでね」

    「おうよ!えーと、この前はどこまで
    読んだっけな」

    「『雪の章』までだよ」

    「そうだそうだ、そうだったな!」

    (……こうやって熱心に読書してる姿
    からは、『死に急ぎ野郎』なんて思えないな)


  13. 13 : : 2019/08/06(火) 08:27:55


    ・・・・・・

    「………ルミン、アルミン」

    「……んえ?」

    目の前いっぱいに広がるエレンの顔。
    様子を見るに、どうやら僕は寝ていたようだ。

    (ミカサの家は……まだだな)

    「ごめん、寝てた」

    「ずっと一緒に読んでるもんと思ってたぞ。……聞きたいんだけどさ、アルミンって、この本でどこがいいと思う?」

    「はは、いっぱいあって困るなぁ。
    エレンは?」

    「うーん、そうだな……」

    エレンは腕を組み、考え、しばらくして
    快活に言った。

    「俺は、『海』が一番好きだな!」

  14. 14 : : 2019/08/06(火) 08:46:53


    ────海。それは、僕らの夢であり、
    目指す目標でもあった。

    主に塩水からなる地形で、塩も水も
    壁内で暮らす僕らにとってそれらは
    高級品とも言える代物だ。

    『巨人を駆逐して、いつか外の世界を
    探検する』────エレンと交わした
    その約束は、片時も忘れたことはない。

    でも……約束は、果たされなかった。
    エレンは、海を見られなかった。

    僕以外に海を見た人物は、104期生には
    いなかったんだ。

    皆の最期を、皆が最後に僕へ託した願いを、僕は全て鮮明に覚えている。

    さよならを言えなかった人も、調査兵団のワッペンすら────『生きた証』すら見つからなかった人もいる。

    後悔のうちに、僕も死んだ。ライナー達はどうなったか分からない。だが、
    彼らを除けば、僕は104期生で一番
    最後に死んだことになる。

    僕にとって海とは、希望と、死と、後悔の象徴だ。

    「……僕も海が一番かな」


    海が一番好きで、海が一番嫌いだ。

  15. 15 : : 2019/08/06(火) 09:01:12

    「エレン」

    「なんだ、アルミン?」

    「僕と一緒に、外の世界を探検しよう。
    いつか、絶対に……」

    「……おう!その時まで、俺達は一緒だぞっ!」

    その笑顔は、汚れてしまった僕にはとても眩しくて、とんでもなく懐かしく思えた。

    その時だった。

    「っ!?おいアルミン!何か燃えてないか!」

    広場には白い煙が薄っすらと漂っていた。辺りを見渡す。ミカサの家の方角で、炎が上がっていた。

    「あっちの方、家が燃えてるよ!」

    そう言って、僕はミカサの家を指差す。
    さすがエレンと言うべきか、彼は血相を変えて家に猛ダッシュする。

    徐々に集まる野次馬を掻き分けて、
    エレンが家に入っていくのが見えた。

    (あとは、エレンがミカサ一家を助け出してくれれば)

    仮に救助が長引いたとしても、火はまだ小さい。そうでなくても、ミカサの両親は歩けるし、エレンが助けることに
    なるのはミカサだけだろう。





  16. 16 : : 2019/08/11(日) 23:29:37


    もちろん、火事の原因は僕だ。

    さっき家の裏に置いてきた箱────あの中にはエレンのお父さんからもらった
    ナトリウムの塊が入っている。

    ナトリウムは水に触れると反応して、
    爆発と言っていいほどの激しい燃焼を
    する。

    氷水を入れて丁度5分後に反応するようにするために、この装置を昨日の晩徹夜して作ったのだった。


    もちろん、ミカサの家を燃やさずに
    彼女らを流させる選択肢はあったかもしれない。だが、家に押しかけて「今から
    強盗が来るから逃げろ」と言われて、
    従うのかという話だ。

    そんな問答をするぐらいなら、こうして
    無理矢理にでも自然にミカサ達を逃すしかない。
  17. 17 : : 2019/08/12(月) 21:56:46
    なぜチートになるのかがハッキリしていてすきやで
  18. 18 : : 2019/08/13(火) 17:59:41
    >>17 ありがとう
    そういうコメントが一番励みになる




    「おい、なんだ」

    「火事だとよ」

    「ねーねー!なにか臭くないー?」

    「おい!あそこの家だぞ!」

    「火事ねえ……火の扱いを間違えたのかしら」

    「おい!あそこの家が燃えてるらしいぞ、ちょっと見に行こうぜ!」

    段々と野次馬も集まってきて、広場は
    一気に騒がしくなった。ミカサの家に
    人がたかる中、僕は広場から出ていく
    怪しい影を見逃さなかった。

    「…………」

    目立たないように、僕も尾行を始める。
  19. 19 : : 2019/08/13(火) 18:18:45

    (男二人組……体格や服装は、エレンの
    証言と一致してるな)

    男たちからある程度の距離を保って、
    僕は尾行を続けた。しばらく歩くと、
    男たちが会話を始める様子を見せた。
    どうやら僕の聴覚も鋭敏になっているらしく、20メートル先ならひそひそ話でも聞こえる。
    僕は耳を澄まして、男達の会話を
    聞くことにした。

    「……どうする、おい。前から目ぇ付けてたあの東洋人の家、火事だとよ」

    「んなこたぁ言われなくても分かってるっての!……クソ、あそこなら、万一
    金目のもんが無くても、東洋人の女を
    奴隷市場に流せば金が稼げただろうに」

    「……いや、今からでも遅くはないだろ。狙いをあの女だけに絞れば」


    そこで、僕は会話の続きを聞くつもりが
    無くなった。コイツらは下衆だ。救いようのない下衆だ。
    同じ人間とは信じたくないほどの、
    悪魔じみた思考をしている。

    僕は、この日、人生で初めて人を
    殺したいと思った。




  20. 20 : : 2019/08/13(火) 22:18:25

    (いや……殺すのはダメだ。子供である今、法に触れるわけにはいかない)

    湧き上がってくるどす黒い感情を、
    理性によって必死に押さえつける。

    『やっちまえよ』

    「お前は……」

    『よう。いつぞやぶりだな。見違えたな。まるで別人みたいだぜ』

    肩をすくめて、ふざけるように僕の闇は
    言う。『結果にコミットしたか?』

    「何しにきた」

    『決まってるだろ。天使と悪魔が心の中で戦うやつ。アレをやりにきたんだよ』

    「はぁ?」

    『お前はさっき、奴らを殺したいと思ったな?だが同時に、殺してはならないとも考えたな』

    「……だから何だよ。お前の出る幕はない」

    『奴らをどうするつもりだ?』

    「…………今日のところは、ミカサ達に近づけないように妨害する。明日からは、コイツらを監視して、危害を加えるようなら実力行使────」

    『本当にそれで良いのか?』

    「っ…………」

    『今の会話を聞く限り、奴らはミカサを
    絶対に襲うだろう。それが分かっている中、お前は“危害を加えるようなら〜”とか言って手をこまねいているつもりか?』

    「……………」

    『お前のその態度は、いつか誰かを殺すだろう。危険な芽は早めに摘んでおけ。
    それができなければ、お前は前と同じ
    過ちを繰り返す』

    「!!」

    『それに────』

    僕の闇が、ニタリと嗤う。

    『奴らは悪魔だ。悪魔を殺しちゃいけないなんて法は、壁ン中にゃねぇだろ?』

    そう言い残して、僕の闇は霧のように消えていった。
  21. 21 : : 2019/08/13(火) 22:49:27

    「悪魔……か」

    悪魔殺しは罪に問われるか────否。

    ではその悪魔をむざむざとのさばらせておくのは────大罪である。

    悪魔を狩るのは人間の義務だ。神という絶対的な存在を僕は信じない。悪魔を裁く天使などいないのだ。

    僕は側溝に散らばる大小の石を掴み、
    左手に忍ばせる。音を立てないように、
    男達の背後に忍び寄る。

    「……よし、じゃあそういうことで、
    あの火事の騒ぎが収まったらあの広場に
    行くぞ。ひょっとしたら、あの女が
    まだいるかもしれん」

    「そうだな、とっととパクって、服ひん剥いて犯してやるか」

    「もしもし」

    「んだよガキ、俺たちゃ大事な話をしてんだ────」

    振り向いた男の顔に、左手の石を投げつける。ぎゃっと悲鳴を上げて怯んだ。

    「何だテメェ……っ!?」

    台詞を遮って、顔に蹴りを入れる。
    体が傾く。その一瞬を見逃さず、男の眼孔に指を入れ、そのまま壁に投げ飛ばす。

    首が折れたのか、男はもう動かなくなった。残った男の方を向く。

    「クソが……!テメー、何したか分かってるんだろうな!?」

    「ええ」

    「今なら許してやる。有り金全部よこして、地面に頭擦り付けて誠心誠意謝れば、許してやる。大人にケンカは売るもんじゃない」

    「ええ」

    「こいつ、気絶しやがって……。おい、起きろ。ガキなんかに投げられたからって……!?」

    「気絶?まさか、死んでますよ」

    「おい、テメェ……」

    「震えてますよ?女の子を奴隷にするんじゃないんですか?」

    「!!!」

    「仲間が死んだ程度の事で動揺するならば、奴隷商人に向いてないのでは?
    そういう仕事の方は、やはり人を躊躇なく殺せて、一方で殺される覚悟のある人でないといけない、というのが僕の持論です」

    「だ、黙れ!黙れ黙れ黙れ!!いいか、
    何故テメエがその事を知ってるのかは
    聞かん。帰れ!こっちにはナイフがある……帰らねえなら、殺すぞ!!」

    「ああ、そうでしたね。あなたは
    人でも何でもありませんでした」

    「何を────」

    「あなたは狩られるべき悪魔でしたね」

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