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季節が死んだ世界
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- 1 : 2019/07/03(水) 00:53:08 :
- *原作のネタバレを含みます
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- 2 : 2019/07/03(水) 00:54:10 :
- 世界はどうやら大変なことになってしまった
春も、夏も、秋も
冬以外の季節は二度とやって来ない
何日、何ヶ月、何年、何十年経とうとも、永遠に冬が続く
けれど誰も気にしていないみたいだ
聞くところによれば、世界には一年中雪が積もる地域もあるという
それでも人類はちゃんと生きている
世界は広い
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- 3 : 2019/07/03(水) 06:59:47 :
- 毎日が凍てつくような寒さで、私は外に出るのも億劫だと思う
けれど寒いのはみんな同じ
私だけが篭っているわけにはいかない
今日は開拓地の視察の日
作物を育てるのに必要な環境を見直し、壁外調査で資材を調達するための仕事
畑を耕す農民を、私はただ眺めていた
春なんてもう来ないのに、それでも人は希望を抱かずにいられないのだろう
無心で鍬を振る農民と、あの日の幼い私たちが重なった
寒い…
マフラーに顔を埋めた
それでも震えは止まらないまま
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- 4 : 2019/07/03(水) 19:20:39 :
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- 5 : 2019/07/03(水) 19:20:48 :
- 季節が死んでから随分と時間が経った
寒さは和らぐ気配すらない
私は部屋に篭もりがちになっていた
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- 6 : 2019/07/03(水) 19:23:41 :
- ある日、アルミンに連れられて外に出た
正直、放っておいてほしかった
寒いのは嫌だ
それでもせっかくアルミンが誘ってくれたから、マフラーを首に巻いて、引きずられるようについて行った
馬車に揺られてしばらく経った
促されて馬車を降りる
ここは以前視察に来た開拓地
大きく周囲を見渡したアルミンに倣って、私も少し顔を上げてみる
種だった作物は、そのほとんどが茎や葉になっていた
どうして…?
こんなにも寒いのに
もう春なんて来ないのに
鮮やかな緑が
小さくても力強いその姿が
私には酷く不気味で恐ろしいものに思えた
その時の私はどんな顔をしていたんだろうか
アルミンに心配されてしまった
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- 7 : 2019/07/04(木) 07:10:51 :
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- 8 : 2019/07/04(木) 07:11:21 :
- それからまた時は経ち、私はいよいよ引き篭っている
寒くて寒くてたまらない
そんな私に、みんなはよく声をかけてくれた
外へ行こうと言ってくれた
でも私は、ただ「寒い」とだけ答えた
みんなを見たくなかったから
みんなを理解できないから
こんなに寒いのに、どうしてみんな上着も着ていないの?
それどころか袖を捲って、胸元のボタンも開けて
これじゃあまるで、夏みたい
それが気持ち悪かった
どんなに夏を装っても、二度と夏は来ないのに
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- 9 : 2019/07/04(木) 07:11:42 :
- みんながおかしくなってしまった
いいえ、みんなだけじゃない
世界そのものが狂ってしまった
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- 10 : 2019/07/04(木) 18:41:10 :
- 寒さに凍え、マフラーに顔を埋めて震える日々
「寒い…。でも、これでいい。春なんて来なくていい。夏も秋もいらない。このまま冬が続けば……」
おかしい
頭がぼうっとして視界がチカチカと点滅する
窓もドアも締め切った部屋の中で、次第に意識が薄れていった
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- 11 : 2019/07/04(木) 18:43:06 :
- 目が覚めると、思い詰めたような顔をしたアルミンがそばにいた
「ミカサ、気がついたかい?」
私と目が合うと、ほっと息を吐いた
けれどまたすぐに深刻な顔をする
「こんなに暑い日に窓も開けないでいたら倒れるに決まってるよ」
「暑い…?アルミン、何を言っているの?」
今も寒くてたまらない
そうだ、早くマフラーを…
机の上に手を伸ばす
あと少しで届きそうな温もりは、アルミンによって引き離された
「ミカサ!君は暑さにやられて倒れたんだ!マフラーなんて巻いていたら悪化してしまう!」
「やめてアルミン!マフラーを返して…!暑くなんかない!もう春も夏も秋も来ない!世界は永遠に冬のまま!そうでしょ!?」
「ミカサ…」
そうだ
世界は冬だ
ずっとずっと、冬でなければならない
「だって…春が来てしまったらエレンは…」
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- 12 : 2019/07/04(木) 21:37:06 :
- 「本当は分かっているんだよね…。もうどこにもエレンはいないこと…」
「そんなはずない…!だって、こんなにも寒いのに…。エレンは…エレンは…」
突きつけられた現実は何よりも分かりやすく、明確で残酷な真実
アルミンの言う通りだ
私は知っていた
理解していた
エレンは13の冬を越えて、遠いところへ行ってしまった
エレンを次の継承者に食わせたあの日
私は受け入れられなかった
春さえ来なければエレンは生きられると、現実から目を背けた
季節が消えたのは私の中だけ
私の時だけが、エレンが生きていたあの日の冬で止まっていた
みんなの中で進んでいく時を知るのが怖かった
どうしても抗えない次の季節が怖かった
ただそれだけだった
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- 13 : 2019/07/04(木) 21:38:52 :
- 「ごめん、ミカサ。僕がもっと早く…」
「謝るのは私の方。アルミン、ごめんなさい…。ずっと心配してくれていたのに、私は卑怯で弱かった…」
辛いのは私だけじゃないのに
エレンを失った喪失感で何もかもが見えなくなっていた
「ねえ、ミカサ。外へ行こう。エレンが見られなかった世界を沢山見よう」
手を差し伸べてくれた
私はその手をしっかりと握り返す
マフラーは置いて、上着も脱ぎ捨てて歩き出した
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- 14 : 2019/07/04(木) 21:40:23 :
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- 15 : 2019/07/04(木) 21:41:19 :
- 穏やかな風が小高い丘を吹き抜ける
新緑は目に優しく、咲き乱れる小さな花々は美しい
どこかあどけなかった少女の面影は、大人びた微笑みの奥にひっそりと眠る
大きなアルバムを何冊も抱えて石碑の前に立つ
エレン、アルミン、今年も春が来たよ
〜END〜
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