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感情が芽生えて
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- 1 : 2019/05/12(日) 17:57:47 :
- リヴァイ「あ?水晶の中からレオンハートが出てきた?どう言うことだ一体?」
ハンジ「わからない・・・。彼女も戸惑ってるみたいで、今は兵舎の中を見て回ってるよ。あれから7年も経つんだ。無理はないよ。」
リヴァイ「・・・そうか。あいつらは知ってるのか」
ハンジ「あいつら?あぁ、エレン達ね。エレン達はまだ知らないよ。」
リヴァイ「了解した。ただでさえ訳のわからねえ事態だ。この事は"できるだけ"内密にな。もっとも、俺たちの話を陰に隠れて盗み聞きされてるようじゃ、内密にはできてねえだろうがな。」
ハンジ「アルミン?そこにいるんだろー?いいから出てきなよ。」
アルミン「アニが・・・。アニが、水晶から解放されたって、本当ですか・・・。ハンジさん、本当なんですか・・・!」
ハンジ「本当だよ。ただ、「解放」という表現が正しいかはわからない。なにしろ彼女は数多の凶行に及んで、多くの人命を奪った。水晶にいた方がずっとマシだって思うほど辛い日々が待ってることを覚悟しなきゃならない。彼女も、アルミンも、ね。」
アルミン「・・・。」
───────
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兵舎の壁の溝を指でなぞりながら廊下を歩く。
あれから何年経ったのか。あれから皆はどんな暮らしをし、どんな想いを抱き、生きてきたのか。
答えを探る為に鏡を見ても、「あの頃」と変わらない私が映るのみで、答えには少しもたどり着けない。
廊下の方を振り返った私の目に懐かしい人影が見えた。
私の髪とよく似た髪色。一歩間違えれば女性と見まごうような中性的な顔立ち。背は、最後に見たときよりも大きくなっている。
アニ「アルミン。久しぶり、だね。」
彼は久しぶりの顔合わせに戸惑っているようで、笑顔なのか泣き顔なのかわからないような表情をしていた。
アルミン「アニ、久しぶり。変わって、ないね?やっぱり。」
アルミンから歩み寄ってはこない。恐らく上層部から無闇な接触は禁じられているのだろう。
アニ「そういうあんたも。背が伸びたくらいで、他はちっとも変わってないじゃないか。」
アルミン「ハンジさんが話をしたいって。そこまで送っていくよ!!!それから、ハンジさんの所に行くまでちょっと遠いでしょ?だ、だからさ、」
アニ「「話ながら行こうよ」、でしょ?いいよ。私も久しぶりにあんたと話がしたいし。聞きたいことも沢山ある。」
アルミンは「よかった。いこう。」と呟いたあと、すこし距離を開けて、私の隣を、私と同じ速度で、ゆっくりと歩き始めた。
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- 2 : 2019/05/12(日) 18:00:03 :
- 久しぶりの良作の予感
期待
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- 3 : 2019/05/12(日) 18:16:52 :
- アルミン「アニ、何か聞きたいことはない?僕の事でもいいし、兵団のことでもいい。」
アニ「私はどうなるの?」
アルミン「えっ?」
一番気になっていたのは、「今後の私について」だ。調査兵団に身柄が確保されたとして、私はそこで何をすればいいのか。
アニ「やっぱり、処刑?」
アルミン「・・・・。それは・・・わからない・・・。」
アニ「私は、死罪になっても仕方がないような行いをしてきてる。あんたもみたろ?私が、あの時、どうやって人を殺めたのか。」
アルミン「アニ・・・。」
そうだ。祖国にいた時は、ただ「名誉ある国民」になりたくて、お父さんを見返したくて、誰よりも一番良い成績で、巨人を継承する事しか考えてなかった。島にいるのは「悪魔」であって、「人間」ではない。「悪魔」に奪われたものを取り返しにいくだけだ、そんな安直な思考でしかなかった。
しばしの無言が辛くなって、私は無理矢理に話を変えた。
アニ「わかった。この話はやめだ。他にも聞きたい事があるんだけど、いい?」
アルミン「もちろん」
アニ「あれから、私が水晶になってから、どれだけ時が流れたの?」
アルミン「7年、だね。正確には7年と8ヶ月。」
アニ「7年、か。」
アルミン「短かったよ、7年って。まぁ、いろいろ激動があって、時間の感覚がおかしくなってたからって言うのもあるけど、短かった。僕ね、アニを恨んだ事もあるんだ。」
アニ「・・・・。」
アルミン「自分は多くの謎を抱えたまま、水晶になって、僕らの声を遮って。このまま君が、何十年、何百年、何千年とあの水晶に籠ってるようなら、文字通り粉々にしてやりたいとさえ思った。」
アニ「まぁ、その前にあんたが寿命で死んでるだろうけどね。」
アルミン「そこは言葉のあやだよ!!でも、本当に、当時はそう思ってた。でも、」
今まで真っ直ぐ見据えて歩を進めていたアルミンがふと足をとめ、私を見つめた。
アルミン「君は逃げなかった。水晶から出てきて、こうして僕らの前に現れた。怖くて逃げて、アニのせいにしたかったのは、きっと・・・・僕だ。」
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- 4 : 2019/05/12(日) 18:31:12 :
- アニ「私は、自分の意思で水晶から出てきたわけじゃない」
アルミンは私の言葉を聞ききる前に、話に割って入る。
アルミン「でも、逃げてないじゃないか、今だって。後ろを見てごらんよ。逃げようと思えば逃げられる。でも、アニはそうはしてない。」
私の脳裏に、7年前の光景がよみがえる。
アルミンに「僕にとって、悪い人になるね」、そう言われた途端に、背筋が冷たくなったのを覚えてる。ばれた。私が女型だと、アルミンは知ってしまった。
見え見えの罠だった。そのままなにも言わず、その場を立ち去ればよかった。だけど私は、「情」に負けた。
嫌われたくなかった。あと一歩のところで私の中の殺人鬼はなりを潜めて、人間としての私が顔を出した。「もし」、「アルミンが女型の巨人(私)に気づいていないとしたら」。
負けるとわかっている「賭け」に、私はのった。そして、案の定、負けた。
アルミンに?ミカサに?エレンに?いや、違う。自分に負けたんだ。
だから私はもう、負け試合はしないと決めていた。今逃げないのも、そういう事なんだろう。
アニ「あんたほど人を崖っぷちに追い込むのがうまい人間はいないね、まったく。」
アルミン「アニ・・・?」
アニ「そう言えば、私が逃げられなくなるって解って言ってるんだろ?あんたの作戦通りさ。私はもう逃げられない。」
しばし足を止めていた。やがてどちらからともなく再び歩き出せば、探りあうかのように質問を投げ掛けあう。
そして私は、アルミンの質問でまた、足を止めたのだ。
アルミン「アニ。君って、本当のアニ?」
アニ「は?いきなり何を言い出すのさ。私が偽物だとでもいいたいの?」
アルミン「そうじゃなくって、本当に・・・・女型の巨人・・・・だったの?」
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- 5 : 2019/05/12(日) 18:45:17 :
- アニ「・・・・・なに、いってんだい?」
言葉の意味がわからなかった。アルミンは見たはずだ。目の前で目映い閃光と共に、私が女型になったのを。
アルミン「今のアニは、なんだか、前のアニとは違う気がして。うまく言えないけど、アニって元々今のアニなんじゃないの?」
アニ「つまり、前の私が、女型に操られてたっていいたいの?」
アルミン「そういうことに、なるね。」
あながち間違えてはいない。
女型の巨人に操られたわけではないだろうけど、女型を継承した時から、私は使命に操られていた。
使命を全うしたければ、敵を悪魔と思え。
使命を全うしたければ、自分を捨てろ。
使命を全うしたければ、情を捨てろ。
使命を全うしたければ、敵を、殺せ。
アルミンは、私の奥底にいた私を探しだして見せた。
アニ「あんたさ。本当に賢いよね。」
アルミン「そ、そうかな・・・。」
アニ「そうさ。あんたのそういうところ、尊敬するよ。」
私が、使命に操られていない私が、久しぶりに笑った。
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- 6 : 2019/05/12(日) 18:53:04 :
- 他の作品は、投稿しますか?
アニやっぱり殺されちゃうのかな?
ハッピーエンドがいいけど
バッドエンドでも期待!
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- 7 : 2019/05/12(日) 18:55:11 :
- それからも、互いの質問は尽きなかった。
兵団の前に差し掛かると、見覚えのある顔が見えた。
リヴァイ「レオンハート。生身のお前と会ったのは初めてだな?」
アニ「はい。」
ハンジ「積もる話はあるだろうけど、今はそんな事は言ってられない。中、入って。」
アルミン「尋問、ですか?」
ハンジ「そう、尋問。アルミン。君も中に入って。」
アルミン「僕も、ですか・・・?」
部屋に入ると、真ん中に置かれた1脚の椅子と、1つの机。その隣にはアルミンとリヴァイ兵士長が座るためのものだろうか。2脚、椅子が於いてある。
ハンジ「アニ。座って。」
促されて椅子に座る。
ハンジ「いきなりで申し訳ないんだけど、すこし、質問に答えてほしいんだ。君も本調子じゃないだろうから、疲れたらいつでも申告してもらって構わない。そこで質問は終わりにするから、ね?」
アニ「わかりました」
ハンジ「じゃあ、始めるね。」
私は全てを話すつもりだ。
なぜ女型になり、殺戮の限りをつくし、人類の敵になったのか。
全てを話すつもりだ。
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- 8 : 2019/05/12(日) 18:56:20 :
- >>6
更新が滞っている作品もあるので、時間があれば、そちらも更新していこうかなと考えています!
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- 9 : 2019/05/12(日) 19:29:37 :
- ハンジ「まずは、氏名を聞こうかな。」
アニ「アニ・レオンハートです。」
ハンジ「出身は?」
アニ「マーレ国です。」
ハンジ「壁外の国だね?」
アニ「はい」
尋問は淡々としたものだった。
私の身辺を探るが、核心には迫らない。
リヴァイ「お前は、」
ハンジ「リヴァイ。お前じゃなくてあなた。正確に報告書を書かなきゃならないんだ。彼女を威圧しないで。」
リヴァイ「ッチ。あなたは、7年前、俺の部下を無惨に殺したな。死亡した兵士の氏名は、ペトラ・ラル、オルオ・ボザド、エルド・ジン、グンタ・シュルツだ。覚えは?」
覚えてる。巨大樹の森だ。
7年前だというのに、私は、昨日のことのように鮮明に覚えている。
アニ「名前までは知りませんでしたが、殺したのは私です。」
リヴァイ「では、事実だな?」
アニ「はい」
ハンジ「胸が痛んだりはしなかった?」
アニ「それは、「今」の心境のことでしょうか?それとも、「当時」の心境のことでしょうか?」
ハンジ「どちらもだ。」
アニ「当時は───っ、」
言葉に詰まる。泣きたいのは、この人たちなのに。
ハンジ「大丈夫。ゆっくりでいい。アルミン、涙を拭くもの、渡してあげて。」
アルミン「は、はい。」
アルミンから手渡されたハンカチで涙を拭う。
依然涙は止まらないが、構いはしなかった。
苦しかった。辛かった。もう、すべて洗いざらい吐き出したかった。
アニ「あの頃は───、何も考えて───っ、何も考えていなかったです。祖国から「敵は悪魔だ」と教えられて、無知な私はそれを鵜呑みにして───、「悪魔の命なんて虫けら同然」だと───、思っていましたっ・・・。」
ハンジ「・・・・。そう。今は、どうかな?心境に変化はあった?」
アニ「今だけじゃなく、「虫けら」だと思っていた悪魔が、私と、私達と同じ人間だと分かった時っ────。分かった、時からっ───。奪ったものがっ、「悪魔の命」ではなく「尊い人の命」だと理解した時から、私は、とんでもないことをしたと、後悔しています───。」
アルミン「アニ・・・。」
ハンジ「いい?アニ。あなたは悪くない。」
耳を疑った。私が殺した。私がやったと認めたのに、優しい言葉をかけてくれるとは思わなかった。
ハンジ「幼かった君が、半ば洗脳に近い教育を受け、「悪魔を殺す使命」を課された時、もう君は、逃げられなかったはずだ。子供だった君に、どう抗えっていうんだ。」
アニ「私はッ───。物の分別もつかない赤子じゃなかった!!!!頭で理解し、何をするかに戦々恐々ともしなかったあの頃の私はッ───言い訳もできないクズでッ───どんな大義があったからって、許されない事をしたッ、殺人鬼ですッ───。今の私と、あの頃の私は同じなんです!!!今さら人の皮をかぶったところで、私はッ───」
ハンジ「アニ。辛かったろう?」
アニ「ッ───」
私は、許されないと思っていた。
死ぬべきだ、死ななきゃならない人間だと思っていた。
本当の悪魔は私だと、そう思っていた。
ハンジ「自分の手を血で汚さざるを得なかった君の気持ちを想うと、胸が張り裂けそうだ。」
許されてもいいのかもしれないという、淡い希望を、光輝かせてくれる人達がいた。
私を、私自身を見てくれる人達がいた。
私は、許されてもいいの?
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- 10 : 2019/05/12(日) 19:57:02 :
- ハンジ「君は自分が、自分こそが悪魔だと思って思い悩んだだろう。」
私は、頷くしかなかった。
声はもう出せなかった。
ハンジ「だけど君は、「悪魔」と接するうち、彼らは「悪魔などではない」と知り、ごく普通の感情が芽生えてしまったんだ。「人を殺めたくない」という感情がね。そうだろう?」
アニ「っ────は、いっ────。」
感情が芽生えて。
感情が芽生えてから、私は、変わろうとした。
だけど、やった事は消えなくて、むしろその重圧は日増しに私を責めてきて。
感情が芽生えて。
こんな感情は必要なかったのにと思った。
最後の最後まで、冷徹なまでの悪魔でいられたら。そう思いもした。
アニ「感情がっ────芽生えてっ」
ハンジ「うん」
アニ「悪いことだけじゃ、ありませんでしたっ・・・。」
ハンジ「うん」
アニ「死に急ぎ野郎とジャンの喧嘩をバカらしいと思いながらもっ、心地いいと思ってる自分に気がついたから・・・。ただの汚い殺人鬼で終わらずに、本当の私に気付けた気がしたからっ────」
リヴァイ「「気がした」んじゃねえ。それが本当のお前だったんだよ。」
アニ「・・・・!」
リヴァイ「お前も、犠牲者だったんだよな。バカみてぇにふんぞりがえってああだこうだと理由を付けて、何もしらねえガキに、平気で殺しをさせるような奴らの犠牲者だったんだ。」
ハンジ「この報告書は上には通さない。」
アルミン「えっ・・・?」
報告書を上には通さない・・・?
何をいってるのだろう。それじゃ私に、罪を問えない。
リヴァイ「レオンハート、お前はまだ水晶の中だ。ここに居たことも、来たこともない。」
アニ「それじゃ・・・・私は・・・?」
ハンジ「君は、調査兵団が秘密裏に匿う。君はこれから8年たとうと9年たとうと、水晶の中にいる「ことにする」。」
アニ「・・・・・!」
リヴァイ「悪いのはお前じゃねぇ。お前にそうさせた奴らだ。いいな?」
私は、希望の光を見た。
絶望の暗黒に堕ちそうになっていたところを救ってくれたのは、かつて「悪魔」だと思っていた、人間だった。
────────
────
─
アルミン「アニ・・・・?何してるの、そんなところで?」
アニ「風にあたりたくて。」
アルミン「そっか。アニ?」
アニ「なんだい?」
アルミン「アニ、帰って来てくれてありがとう。」
アニ「どういたしまして」
───END────
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- 11 : 2019/05/12(日) 20:00:57 :
- めっちゃ書いたつもりが、めっちゃ短編になってしまいました・・・w
進撃の巨人が、国対国の物語になってから、たしかにアニは取り返しの付かないことをしたけど、悪いのはアニだけじゃない。と思って、書きました。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
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- 12 : 2019/05/12(日) 20:07:39 :
- 乙乙
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- 13 : 2019/05/12(日) 21:08:48 :
- やっぱり良作だった
面白かったです
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- 14 : 2020/02/25(火) 21:23:48 :
- アニ、おかえり。
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