このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
〜Invisible Seen 〜
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- 1 : 2018/01/27(土) 22:52:50 :
- はいどうも。
みーしゃ主催の冬花杯の作品です。
http://www.ssnote.net/groups/835
期限ギリギリではありますが、投稿させていただきます!
追記:次回作をお楽しみに
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- 2 : 2018/01/27(土) 22:55:15 :
- 荒木直人は、光がほとんど差し込まない部屋の中心でジッと息を潜め、隠れていた。
ここは、彼の部屋ではない。
それどころかここは、追われている彼が逃げている途中、身を隠すために入り込んだ廃墟の一室である。
窓は釘と木材の破片により打ち付けられいて、窓の下には釘が打ち付けられた時に割れたのだろうか、ガラスの破片が散乱している。
彼はとても慎重な男で、もちろんその事にも気づいている。
さらに、彼はいくら靴を履いているからとはいっても踏んだりしないよう注意をしなければいけないという事。
そして、もしも自分がガラス片を踏んだりすれば、こんな静かな部屋では音がして気づかれてしまい、隠れている意味がなくなってしまうだろうと考えていた。
薄暗い部屋に一人。
いま話題に出した中でも引っかかる点がいくつもあることだろう。
その疑問のすべてを解き明かすにはまず、彼の精神状態について語る必要がある。
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- 3 : 2018/01/27(土) 22:59:50 :
- 一般的に、ガラス片の事やほんの少しの事にも意識を尖らせている
現在 の彼の姿は、一見してとても冷静なように見えることだろう。
しかしそれは、____そうであってそうではない。
光も差さぬ暗闇の中で人は、どんなに冷静を装ったとしてもある程度の動揺や不安など、負の感情の振れ幅が敏感になることは明白なことである。
さらに、彼は追われていて逃げている途中であり、追われている理由についても彼の冷静さをかくには十分すぎる要因だと言える。
それを裏付けるものとして、彼の冷えた身体は、まるで天敵を目の前にして立ち竦んでしまう哺乳動物のように固くなっていた。
しかし彼には、その逆の感情もまたあった。
この部屋の暗闇に紛れている間、自分の姿を誰にも自分の姿を見つける事が出来ないという絶対的な自信があった。
彼にとっての希望はもうすぐ日が暮れるという事。
日が暮れさえすれば、外の世界はこの部屋のように暗闇に包まれる。
そうなれば、誰も彼の敵ではなかった。
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- 4 : 2018/01/27(土) 23:00:31 :
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彼が追われる原因となったのは、ほんの数時間前のことになる。
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- 5 : 2018/02/05(月) 22:01:16 :
- 休みの日である今日はいつもように家でネットをしたり、テレビを見たりなど、昼頃まで一人でダラダラとしてから僕は気づいた。
「あ、やべ……これ、今日返却じゃね?」
テレビの横にある棚の上にDVD店の袋を見つけた。
このDVDは学校帰りに近くのレンタルDVD店に寄った時に借りたものだ。借りたその日に見て以来この一週間、返そう返そうと思っていたのにすっかり持っていくのを忘れてついに返却期限である今日までズルズルと借りっぱなしでいた。
「わざわざ、行くのは面倒だな……」
と、この一週間の事をひとしきり思い出してからただの独り言を吐き捨て、諦めた。
ぬくぬくとコタツで暖まっている身体が、行きたくないと全力で外に出る事を拒絶していたのだが、たかだか数百円で借りたDVDの延滞金でさらに数百円払うのは馬鹿らしいと思ったのが理由だ。それなら、また新しいDVDを借りた方が有意義だろう。
とはいえ、僕はあまりDVDをあまり見る方ではない。このDVDを借りた理由もクラスの男子が話しているのを聞いたからで、話題作りの為でしかなかった。
もちろん、僕の自己満足にしか過ぎない。
クラスメートと話すことでさえ僕には難しいことなのだ。
思い立ってからすぐにジーパンに着替え、コーチジャケットに携帯と財布をポケットにしまい鞄の中にDVD店の袋をしまうと家を出た。
携帯を見て時間を確認すると、画面の真ん中に表示されたデジタル時計は1:15を表示していた。
学校までは徒歩で数分の距離だ。
行くこと自体はあまり苦にはならない距離だと思う。
しかし、今日のように気温が16℃という肌寒い日だと少しの距離でも行きたくはなくなる。
さらには、さっき見たテレビで聞いた連続変死事件がこの地域で多発しているらしいという事だった。多分、大丈夫だとは思うが早く帰る事を心がけたい。
そんな事を考えながら寒い通学路を歩いて行くと、複数人のガラの悪い人たちが自販機の前で暖かい缶コーヒーを片手にタバコをふかしているのが目に入った。
明らかに、未成年に見える。中学生……?いや、高二くらいか……?
しかしまあ、どこで仕入れてくるんだろう。
「なに見てんだよてめえぶっ殺すぞ」
その中の一人が僕を睨みつけながらまだ声変わりの途中だという声で云った。
声には不思議と感情が篭ってないように感じた。いわゆる棒読みのようなものだろうか。
しかし、そんな声にも僕は思わず
「あ、いや……その、なんでもないです」
などと、情けない声で返してしまった。
それを聞くと満足そうな顔をした後、薄笑いで急に
「まぁいいや。とりあえず、金出せよ! 見物料!」
と、はっきりとした声で叫んだ。
その叫びを聞いたと同時に、彼の周りにいた仲間と思われる男達が僕の方へ近づいて来るのがわかる。
まあ、お約束か。
僕はすぐにその場からすぐに逃げようと静止を振り払って一目散に逃げた。
____こう見えても僕は思いのほか足が速い。
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- 6 : 2018/02/05(月) 22:03:15 :
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☆
不良達は僕の背中をしばらくの間ずっと追いかけた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。家近くからここまではわりと距離がある。
今日履いてきた靴は通学用のローファーではなくランニングシューズだったのが幸いだった。
僕は僕の唯一自慢できることである足の速さを生かして不良達の死角である裏路地へと走って行き、そして能力 を使った。
能力を使ったすぐ後に不良達が僕を追いかけて、裏路地に来るのがわかった。
そして、僕の方をチラりと見たがすぐに通り過ぎて行った。
彼らの目に僕は映らない。
僕には数年前に急に発現した一つの力がある。
それはどうやら『自分自身を透明化する』というものらしい。
初めてその力を使ったのは僕が中学三年生の時だ。
両親が死んだ年。もうすぐ二年になる。
僕の両親は仕事の関係上、海外と日本を行き来することが多く、日本に帰ってくる飛行機の事故で亡くなった。
原因は燃料漏れで緊急不時着の失敗だという。
僕自身あまり両親の死に対しては実感がなかった。
正直なことを言えば、今までもひょっこりと帰ってくるんじゃないかとさえ思う。それでも、僕には幾許かのショックがあった。
大切なものが一つ無くなって僕は、消えてしまいたいと思った。
その日、僕の身体に変化が起きた。
鏡に映った自分の身体が透けていたのだ。
いや、透けていたというよりは真夏によく見る陽炎のように身体の輪郭が揺らいでいて、その姿は小説とか、漫画アニメに出てくる透明人間そのものだった。
それは、太陽の光に当たった時のみ輪郭が揺らぐということ。そしてそれ以外の光には身体が完全に透明になるということだ。例をあげるなら蛍光灯の光やロウソクの光など、影すらも映し出されることはなかった。
それが理由で、不良達は日陰であるこの裏路地を見ても僕の姿を見ることはできなかったというわけだ。
不便な点もあるがこの能力はわりと使える。
もちろん、今でもこの不思議な能力が何故発現したかということは謎のままで僕自身あまり進んで使おうとは思わない。
さらに言うならば、僕は最初に能力が発現した時よりも今の僕はこの力の正体を探ろうとは思っていないのだ。
今のように面倒事に対して露払い程度に使えればいい方で実際にこの能力を悪用しようとは思わないし、したところで得られるものよりも自分の心が空虚な感覚になる方が何よりも嫌だと思ったから。
不良達はそれ以上、追いかけて来ることはなかった。
単純に見失った以上追いかけても無駄だと思ったのだろうか?
僕は念入りに周りを見てから裏路地を出るとできれば二度と関わりたくないと思った。
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- 7 : 2018/02/05(月) 22:03:59 :
- ☆
バンと扉が嫌な音を立てながら開いた。
……噂の殺人鬼だろう。
「あァ? テメエがこの建物ん中に隠れてんのはわかってんだよ! さっさと姿を見せねえか!」
部屋に入ってきた大柄の男は手に持った懐中電灯を部屋中に照らしながら、建物中に響き渡るくらい大きな声で叫んだ。
コイツは僕のことを殺すために此処へと来た。
暗がりにチラホラと見えるこの男の表情はとても険しく、やはり、様子を見る限り冷静ではないことは確かだろう。
「さっさと出て来てくんねーかな? 俺にはお前の能力も割れてンだ。いま出てくるってんなら出来るだけ楽に殺してやるぜ?」
そう云いながら懐中電灯を右手から左手に持ち替えると上着のポケットからバターナイフを取り出し右手で、持った。
どうやら、コイツは能力を使って僕を殺す気は無いらしい。
コイツの能力ならば、僕の姿を見つけた瞬間すぐにでも致命傷を与えることが出来るだろう。それなのに、わざわざナイフを持ってきたということはその能力を使わない裏付けとも言える。
「はあ、やっぱり出てきちゃ来んねーよなァ! どうせ、今もお前はこの俺のことを見てんだろ?」
男はそういうと、扉を固く閉めて、ナイフを振り回しながらしらみつぶしに辺りを行ったり来たりを繰り返しながら僕の場所を確かめるように、そしてだんだんと部屋の中心へと距離を詰めて来ているようだ。
いくら暗闇だからとはいえ、閉鎖的空間の中を振り回したナイフを避けるような反射神経を僕は持ち合わせてはいない。
つまり、この男に近づいた瞬間に終わりだ。
僕の位置を確認したと同時に手に持ったナイフで僕は殺されるだろう。
さらに厄介なのはあの懐中電灯だ。
懐中電灯の光では僕の姿を捉えることは、できない。
ただ、僕の目を一時的にでも使えなくすることはできる。
それを証拠に、さっきから懐中電灯が僕の方へと向けられるたびに眩しくて男の方を向くことができない。
かなり、まずい状況だ。
「どうだ? もう観念して出てこいよ! さァ、早く!」
どうすればいい。
近づくこともできなければ、距離を取ることもできない。
向こうはナイフと懐中電灯。対するこっちは中身が空っぽの肩掛けカバンが一つにポケットの中に携帯電話と財布があるだけ。
接近戦になれば確実に殺されてしまうだろう。
さらに、それどころか僕は懐中電灯の光で目をずっと開けていることさえできやしない。
____僕はここで死ぬのか?
僕の今までは一体なんだったんだろう。
僕は、今朝の不良やコイツのように世の中にとってはノイズでもちゃんと存在出来てるのか?
こんなことになるなら、僕だってなにか出来たんじゃないのか?
はは、本当に皮肉なものだよな。
僕の取り柄は人並みに足が早いことと不完全に透明になる能力だけ。陽の当たる場所じゃ輝くことが……できないんだ。
大柄の男が着々と距離を縮めようと近づいてくる中、一通りのネガティブを頭の中で消化した僕は、ある疑問に気づいた。
まず、分かっている情報から先に整理をしていこう。
・コイツは確実に僕の能力を知っている。
・それに対応するためにナイフを持って僕の元へ来た。
・コイツには人を殺すことができる能力がある。
やはり、なにかがおかしい。
コイツには人を一人、簡単に殺せるくらいに強い能力を持っているはずなのに僕を誘い出そうと何度も大声を上げて威嚇をしてくるのか。
僕がコイツの立場ならすぐにでも始末したい相手であり姿の見えない相手となれば、建物中に響き渡るくらいに大きな声などを上げて、近くの人を寄せ付けてしまうようなことはしないと思う。
しかし、実際はそうじゃない。
人を寄せ付けてしまうような危険よりも重要な事が存在するのだ。
例えば、そう。
『連続して能力を使うことができない』とかな。
あくまで、想像だし、実際にそうだとは限らない。
しかし、他に打つ手もないだろう。
殺されるくらいなら最後まで足掻いてみよう。
-
- 8 : 2018/02/05(月) 22:06:34 :
-
________
______
____
___
僕はまず、携帯電話の電源を入れて時間を確認する。
午後18時57分。
いまの季節なら、外は完全に日が暮れている時間だ。
日が暮れた。
それは、僕の能力が完全に作用する時間帯になったということで、部屋を出ることさえできれば僕の完全な透明化の能力によってこの男からの追尾を逃れることができるということを指していた。
☆
フラフラと全身疲労感に包まれた身体を引きずりながら家の前に着くと、そこにはつい先程まで自分が逃げていた相手の彼女かと思われる女性が立っていた。
ボロボロの身体にムチを打って振り向くと一直線に逃げようとした。が、当然のように距離を詰められ、後ろから肩を掴まれた。
「まあ、待ってよ。話くらい聞いてくれてもいいんじゃない? 先に言うけど、私は貴方に危害を加えるつもりはないんだから。それに、君に拒否権はないんだよ」
その言葉は、どこか準備してきたように思える。
拒否権がないという言葉を聞き少し考えた。
突然のことに頭が回らなかったがすぐに気づいた。後から悪魔の声が聞こえる。もう逃げられないぞ、と。
家までバレてしまっている以上、逃げようがない。
僕は諦めて後ろを振り返った。
「よかった。じゃあ、家に入れてもらえるかな? 家に誰もいないんでしょ?」
「あ、ああ。わかったよ」
僕はしぶしぶ彼女を家にあげることにした。
そう、僕には拒否権なんてものはないのだから。
-
- 9 : 2018/02/05(月) 22:08:11 :
- _____
___
__
「いいお家ね」
「……どうも。それで、話ってなんだ? 聞けば本当に危害を加えないでくれるんだよな?」
「ええ、約束するわ。少なくとも私からは危害を加えないでおくことにするよ」
「それじゃあ、話をしてくれ。できれば、手短にお願いしたい」
僕がさっき出した冷蔵庫のお茶を飲み、ふぅ……と一息ついてから
「それじゃ、単刀直入に言わせてもらうと……君には私の計画に参加してもらいたい。参加してくれさえすれば、君の安全を私は保証するよ」
と、彼女は云った。
「計画……? それは、あの男がやったように、人を殺したり……とか?」
「いやいやいや。私も、人を殺すのはさ、正直なところ……嫌なんだよ。だから、終わらせたい」
彼女の表情には一切の偽りを孕んでいないような感じがした。
だが、やはり信用するには至らない。
なにか、決め手になるような……なにかが、欲しい。
実際に主導権を握っているのは相変わらず向こうだ。疑わしくとも、危険であろうと今は話を聞くしかない。
「でね、具体的に言うと君には私に力を貸して欲しいんだ。君の能力が欲しい」
「僕の能力……? その様子だと、あなたは僕の力をなにか勘違いをしてるんじゃ?」
僕の力はそこまで大きなものじゃない。
彼女が今日連れていた男のように人を壊せるほど、大きな力なんかじゃない。
少なくとも、僕の力は自分自身を守るためにしか使えないくらい小さくて弱い力なんだ。
「いいえ、そんなことはないわ。私はあなたの力の可能性を知っているんだもの」
彼女はそんな僕の考えを真っ向から否定した。
「可能性? 今日あったばかりの貴女に僕の何がわかるっていうんだ? 僕は、僕の力が今日みたいに自分を守ることにくらいしか使えないくらい弱いことを知っているつもりでずっと生きてきたんだ。そう簡単に否定して欲しくないよ」
精一杯の睨みを効かせながら目の前にいる女性の目を見て云った。
少しばかりの牽制のつもりだった。
彼女は動かない。
それは怯えでもなければ困惑でもない。ただ一切の動揺もない。
「……君は本当に自分の能力のことをちゃんと解<わか>っているの? 私には、ちゃんと君の能力のことは解るわ」
「もちろん私の能力でね」
声に感情はなくただ機械的な冷たい音が耳に入っては抜けていくような感じだった。
一体、どんな能力だろう。
能力を晒すということは、相手が能力者であった時に不利だということは痛いくらい身をもって知った。
もちろん、例外はある。
知られても対処が効かないような絶望的に強い能力、そう、まるで……あの殺人鬼のように。
「じゃあ、貴女は僕の『力の可能性を知っている』と仮定しようか」
「うん」
「でも、僕は貴女の能力を知らない。僕に協力して欲しいというなら、筋道を立てて自分の能力のこと、そして僕の可能性について説明してくれるんだよな?」
彼女はそこでようやく困ったような、戸惑いの表情を浮かべた。
もちろん、僕には拒否権などない。彼女がやれといえば僕はどんなことでもしなきゃならない。
生命が危ないのだ。
「ええ、そうね。降参だわ……じゃあ、説明させてもらうわね」
「ああ、頼む」
「まず、私の能力のことから話そう。私の能力は『自分の近くにいる能力者の能力情報を知る』ことのできる能力よ」
「具体的に言うと範囲は、そうね。15メートル弱くらいかしら。道路を挟んで反対の歩道にいる能力者のことくらいなら手に取るように解るわ」
「それと、読み取れる情報には限りがあって、その能力者の能力の発動条件、発動時の効果時間やメリットデメリットなどがわかるの。能力に関しては本質そのものが見えると言っても過言ではないわ」
「まあ、見えるって言っても頭に浮かぶんだけどね?」
なるほど。それなら辻褄が合わないこともないな。
だから、あの時透明化した僕を彼女は見つけることができたのか。
「その能力が本物だって証明はできないのか?」
「残念だけど、できないわね。その代わり一つ……昔話をしてもいいかしら?」
「ええ、どうぞ?」
-
- 10 : 2018/02/05(月) 22:08:38 :
- ___________
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______
___
昔話をする前に僕は彼女の名前すらも知らないことに気づき尋ねると目の前の女性は「小林春香です」と名乗った。
小林さんが語ったのは、小林さん自身と、殺人鬼の男、原山隼人の事だった。
小林さんと原山隼人との出会いは彼女の能力によるもので、お互いに能力を自覚せずに惹かれあったという。
その頃の男はまだ能力を自覚していないために殺人を犯したこともなく穏やかで優しい性格であったと彼女は涙ながらに語り、変わってしまったのは男が彼女の父親に逆上をし、能力を使ってしまったことが原因だという。
男は自分のしてしまったことをその後、しばらくずっと悔いていて自分と距離を置いていたということを彼女は云った。
それが、半年前までの出来事らしい。
それからしばらくして男が自分の元へと帰ってきてくれた。
「でね、私は彼を恐ろしく思った反面、本当に好きだったし。ちゃんと解ってあげたいと思ってから自分の能力に気づいたの」
「それからというもの……私は、色々なことを調べたわ。これまでにいた能力者の事や、いまいる能力者のこと」
「そして、一つの結論に出たの。私たちの能力は、意識一つで覚醒する」
「なるほど、ね。話の内容はよくわかったよ。つまりは、俺にも自覚していないだけでこの能力<透明化>にはまだ気づいてない力があるって事だよな?」
小林さんは申し訳なさそうに、黙って頷く。
「そして、それを貴女は解るというわけだ」
「……そういうこと。君には、本当に悪いことをしたと思ってる。ごめんなさい」
「と、……いうと? 確かに、巻き込まれたとは思うけど僕が現場に居合わせてしまっただけだと思っているんだけど? 違うのか?」
彼女の表情は苦しそうだ。
「ええ、……そう言ってくれると助かるわ」
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- 11 : 2018/02/05(月) 22:09:08 :
- ☆
もしも、この二人に変な力がなかったらどうだっただろうか。
彼は『力』に狂わされることはなかったのだろうか。
そんなもしも話を考えていても小林さんが彼を殺したことは変わらないし、『力』がなければ出会うことがなかった二人でもあった。
僕は数日という時間を今まで過ごしてきたどんな時間よりも濃いものだと感じている。僕の人生の中で彼らの存在はとても大きなものになっていたんだ。
この不器用な彼らの愛は透明だったんだ。
彼らに必要だったのは、『力』なんかじゃない。
彼らに必要だったもの。
それは、素直になることだったんだ。
僕は彼らの愛の観測者。ノイズでしかなかった僕が許されるたった一つのこと。
僕の力で見えなくなった小林さんのことを、彼らの最後を、僕は、見届ける義務があるのかもしれない。
僕は彼女の方に向かっていき、これからのことを話しかけ____
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- 12 : 2018/02/05(月) 22:10:14 :
-
☆
「ぐっ……!」
目の前で『原山隼人』の記憶に潜っていた中野美穂子が低いうめき声をあげ、頭を抑えながら地面に向かって倒れこんだ。
「中野! 一体、なにがあったんだ?」
俺が彼女に向かって駆け寄りながら訊くと中野はこちらを向いた。
こちらを向いた彼女の表情は、いつもよりも険しいもので、過呼吸をしているように呼吸は荒かった。
そして、彼女は俺に対して、なにかを伝えたいように見えた。
しかし、彼女の口からは言葉にならないような嗚咽と目には涙の粒が浮かんでいた。
彼女の近くにまで近づくと、数分なのか数十分なのか。しばらくの間、俺はただ黙ってずっと彼女の手を握っていた。
そして、彼女はおもむろに俺の手をほどきながら
「どうやら、私たちが相手にしようとしてる相手はやはり……化け物よ。私たちだけじゃ、絶対に勝てない相手じゃなかったわ」
と、云った。
彼女の眼には、明らかな困惑と不安の火が灯っている。
できることならば、二度と潜りたくないという気持ちが俺の眼には映った。
「そうか……一応確認として聞いておくが、それは神だとか怪異とかではなく人間なんだよな……?」
「……ええ、相手は人間よ。それもたった一人の人間。彼が連続失踪事件の犯人よ。そして、残念なことだけど、もう……彼女らは皆、死んでいると推測できるわ」
中野は恐怖からか、自分の着ている厚手のロングコートの裾を握りしめていた。
俺自身、中野とは違い、実際にその現場を見てきたわけではない。
そんな俺には、中野が話した『彼』という男に対して感じている恐怖を全て理解することはかなわないことだ。
だとしても、中野の放ったその一言は、実際に見ていない俺自身にも、その男に対する恐怖心を植え付けるには十分すぎる言葉だった。
「……嘘だろ? 30人以上だぞ……それをたった一人で?」
「……そうね。自分でも、実際に見てこなきゃ信じられないような事だったよ」
と、彼女が云うと。
さっきからずっと彼女が握りしめていた裾から力が抜けていくのが分かった。
-
- 13 : 2018/02/05(月) 22:11:08 :
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☆
「ぐっ……!」
目の前で『原山隼人』の記憶に潜っていた中野美穂子が低いうめき声をあげ、頭を抑えながら地面に向かって倒れこんだ。
「中野! 一体、なにがあったんだ?」
俺が彼女に向かって駆け寄りながら訊くと中野はこちらを向いた。
こちらを向いた彼女の表情は、いつもよりも険しいもので、過呼吸をしているように呼吸は荒かった。
そして、彼女は俺に対して、なにかを伝えたいように見えた。
しかし、彼女の口からは言葉にならないような嗚咽と目には涙の粒が浮かんでいた。
彼女の近くにまで近づくと、数分なのか数十分なのか。しばらくの間、俺はただ黙ってずっと彼女の手を握っていた。
そして、彼女はおもむろに俺の手をほどきながら
「どうやら、私たちが相手にしようとしてる相手はやはり……化け物よ。私たちだけじゃ、絶対に勝てない相手じゃなかったわ」
と、云った。
彼女の眼には、明らかな困惑と不安の火が灯っている。
できることならば、二度と潜りたくないという気持ちが俺の眼には映った。
「そうか……一応確認として聞いておくが、それは神だとか怪異とかではなく人間なんだよな……?」
「……ええ、相手は人間よ。それもたった一人の人間。彼が連続失踪事件の犯人よ。そして、残念なことだけど、もう……彼女らは皆、死んでいると推測できるわ」
中野は恐怖からか、自分の着ている厚手のロングコートの裾を握りしめていた。
俺自身、中野とは違い、実際にその現場を見てきたわけではない。
そんな俺には、中野が話した『彼』という男に対して感じている恐怖を全て理解することはかなわないことだ。
だとしても、中野の放ったその一言は、実際に見ていない俺自身にも、その男に対する恐怖心を植え付けるには十分すぎる言葉だった。
「……嘘だろ? 30人以上だぞ……それをたった一人で?」
「……そうね。自分でも、実際に見てこなきゃ信じられないような事だったよ」
と、彼女が云うと。
さっきからずっと彼女が握りしめていた裾から力が抜けていくのが分かった。
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- 14 : 2018/02/05(月) 22:13:48 :
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「だから、変死事件と呼ばれる死体が見つかったんだろう」
中野が物悲しそうな表情で云う。
原山隼人の記憶に入ったということは、彼の感情に触れたということなのだから。
「そして、彼を殺したのは、小林春香。彼の恋人よ」
「……恋人? 彼には恋人がいたのか。いや、でも、どうしてその小林春香って人が原山隼人を殺す必要があったんだ? だって、そこにはその30人以上を殺した奴がいたんだろ?」
「そうね、確かにそこに『いたわ』」
「でも、それは『荒木直人』であって、そうじゃないモノよ」
「それって……どういう?」
「彼は二重人格で、殺しをするのはもう一つの人格の方だったのよ。小林春香の話によって、彼のもう一人が自由になってしまった。だから、私たちには何もできない。逃げることだけが私たちにできることだと思う」
「もう、許してよ……私にはあなたは救えないわ」
中野はそれだけ俺に向かって告げてからもうなにも話すことはなかった。
そして、俺と中野は小林春香の遺した、出会ったことのある能力者をまとめたデータを持ってこの街から逃げた。
この逃げは、ただの逃げじゃない。
この街にいる能力者を持ってしても、もう誰も彼を止めることはできないだろう
____少なくともこの街には。
to be continued
-
- 15 : 2018/02/05(月) 22:21:18 :
- あとがき
主人公、荒木直人が二重人格で殺人鬼の原山隼人の変死事件を隠れ蓑に行方不明事件を起こしているという話でした。
ヒロインの小林春香と原山隼人の関係性など。わざと視点を変えた書き方など。
今回の企画は自分にとってさらなる成長を与えてくれました。ありがとうございました!
期限ギリギリになってしまって申し訳ないです。
-
- 16 : 2020/10/25(日) 21:18:17 :
- http://www.ssnote.net/users/homo
↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️
http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️
⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
今回は誠にすみませんでした。
13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
>>12
みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました
私自身の謝罪を忘れていました。すいません
改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
本当に今回はすみませんでした。
⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️
http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi
⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ごめんなさい。
58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ずっとここ見てました。
怖くて怖くてたまらないんです。
61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
お願いです、やめてください。
65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
元はといえば私の責任なんです。
お願いです、許してください
67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
アカウントは消します。サブ垢もです。
もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
どうかお許しください…
68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
これは嘘じゃないです。
本当にお願いします…
72 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:59:38 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
お願いです
本当に辞めてください
79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ホントにやめてください…お願いします…
85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
それに関しては本当に申し訳ありません。
若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
お願いですから今回だけはお慈悲をください
89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
もう二度としませんから…
お願いです、許してください…
5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
本当に申し訳ございませんでした。
元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。
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