この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
宵月【夏花杯】
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- 1 : 2017/08/11(金) 19:06:05 :
- どうも始めまして、鈴胡です。
この度は百花繚乱(http://www.ssnote.net/groups/835) 夏花杯に参加させていただきます!
宵月とは、旧暦の8月2日~7日を指す秋の季語ですが、舞台は新暦の8月です。言葉の意味と季節が合わねぇよ!っていうのは広い心で許してください 笑
前回は書き上げれず逃亡してしまいました。今回は絶対に書き上げますので最後までよろしくお願いします。
※期待コメは有難く思っております、めっちゃ。
最後のレスでまとめてお礼を言いたいと思うので、無視されたとか思わないでください……ほんと嬉しいんよ………
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- 2 : 2017/08/11(金) 22:41:10 :
- 期待です!頑張ってください、
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- 3 : 2017/08/14(月) 13:18:11 :
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冬が終わり、白銀の世界が彩られてきた頃、充造の目が覚めた。
カーテンの隙間から外を眺める。寝る前は蕾だったはずの桜が開花している。
「もう、春か…」
むくりと起き上がり、カーテンを開ける。一気に春の日差しが差し込んできた。そのままの勢いで窓も開けた。日光をたっぷりと浴びた花の香りが甘く漂っている。
充造は、その場で1回だけ深呼吸をし、サッと布団を片付けた。
作業着に着替えた充造は、背の低い戸棚からグラスを取り出し、ペットボトルのブラックコーヒーを注ぐ。
本当はアイスコーヒーを飲みたかったが、生憎氷が切れていたため常温で飲むことにした。
ついでに製氷機に水を入れておいた。
外が良く見えるダイニングテーブルの一席につき、バターを塗ったトーストを、コーヒーで流し込む。聞こえるのは充造の食事の音と、テレビから流れるニュースだけ。
「今年の……地方の桜の見頃は4月………日まで………例年より桜の開花が早く……。これにより今年の夏は………とされています。」
無駄に明るい声が印象的な天気予報士が言うには、今年の夏は猛暑になるらしい。
「……猛暑か。雨が降るよりは断然良いぞ。お前らだって雨が降り続くよりはマシだろう。」
テレビに話しかけたあと、空になったグラスと皿を持ち、よっこいしょ…と立ち上がった。
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- 4 : 2017/08/14(月) 15:12:55 :
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家の外へ出ると、温かな風が吹いていて、冬の面影がすっかり無くなっていた。
そして何故か、いつもこの時間に見かけるより多くの人が、大荷物を持って出掛けていた。
「なるほど、桜の見頃…今日からだったんだな、どうりで朝早くから人が出歩いてるわけだ。」
聞き流していたニュースの内容を思い出し納得する。
充造の家の前を通った家族連れと挨拶を交わしてから、人差し指で車のキーをクルクルと回しながら駐車場へと向かった。充造が仕事用として使っている真っ白な車の助手席には、大きめの工具箱が万年乗っている。
愛車の助手席が愛する人の特等席なように、その車の助手席もまた、工具箱の特等席みたいなものであった。
その工具箱の上へ貴重品が入った小さなカバンを乗せ、車を発進させる。
充造の仕事場は、全国的にも有名な桜の名所を通り、大通りに出たらすぐに脇道に抜け、山を15分ほど登った辺鄙なところにあった。
昨日までは確かに蕾だった桜の木は、みな一斉に色付き、道路は華やかなピンク色で染まっていた。
25分かけ、ようやく仕事場の木造の小屋に着き、車から鞄と工具箱を取り出していると、背後から人の良さそうな声で話しかけられた。
「おはよう充造くん、今日から桜が見頃だそうだよ。」
「御簾野か、おはよう。確かに桜が綺麗だったぞ。あとで見に行くと良い。」
「それじゃあお言葉に甘えて、今日の会議が一段落したら見に行くことにするよ。」
充造に声を掛けたのは、御簾野 浩二。彼の方が4つ年下だが、遅咲きで、更に人の少ない町工場に弟子入りした充造の、唯一の同僚だった。
「ところで、花火はまだか。」
「花火?今日から構成を練るんじゃ無かったのかい?それとも充造くん、桜の美しさに朝っぱらからやられてしまったとか。」
「違う、三好 だ、三好花火。あいつ新入りのくせに一番遅い出勤とはどういうことだ。」
「あぁ…花火さんか。ややこしい名前の娘が花火師になっちまって……。」
「あいつはまだ花火師じゃない、俺とお前の弟子だ。」
「………充造くんは厳しいな。3人しかいない町工場だから、花火さんも花火師として認めてあげても良いと思うがね。」
充造は、浩二のその言葉を無視し、工具箱を小屋の中へ運び込んだ。
玄関を入ってすぐ横にあるロッカーに鞄を引っ掛け、再び外へ出て、独り言のように浩二に言った。
「花火には、若者目線で、どんな花火を打ち上げたらウケが良いかを考えてこいと言った。出勤が遅いのは、考えがまとまらないからだろう。仕方の無いヤツだ。」
「充造くんもは何10年も一緒に仕事をしているが、未だに厳しいのか優しいのか分からないよ。」
浩二は、お手上げだという風に両手を上げ、そのまま小屋へ入っていった。
1人外に取り残された充造は、
「そんなに俺は分かりにくい人間なのか…」
と納得のいかない顔で、数分前に車で登ってきた山道を見つめた。
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- 5 : 2017/08/15(火) 23:52:46 :
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「あのぅ……おはようございます…」
充造たちが出勤してから約2時間経った頃、ゆっくり玄関の引き戸を開け、少女が顔を出した。
「遅い。」
「ひっ……宿題…考えてたら遅くなっちゃいました…」
「今日からが今年の仕事の本当の始まりであるのに、遅刻するとはどういうことだ。仕事を何だと思っている。」
「充造くん、花火さんもわけがあって…」
ドスの効いた声で遅刻をした少女を叱る充造を、慌てて宥めようとしたが、充造は、その浩二の声を遮って続けた。
「お前は去年、ここに弟子入りする時、俺たちになんて言ったか覚えてるか。『私の師匠はあんた達じゃない、三好一だ。中卒で馬鹿だけど、立派な花火師になる。』だ。忘れてないよな?」
「……はい。」
「大事な会議の日から遅刻してくるようじゃ1人前にはなれねぇ。俺はお前を中卒のガキ扱いはしない、立派な社会人として扱う。また遅刻するようだったら、今年も、去年と同じく雑用係にするぞ。」
「分かりました…。」
「分かったならさっさと仕事の準備をしろ。」
出勤直後に怒られた少女、もとい花火は、しょんぼりと肩を落として玄関脇のロッカーを漁った。
「……それと、お前は俺たちの弟子だ。」
「……違う…」
「一師匠の弟子である俺たちの弟子だ。」
充造は、頑なに充造たちの弟子だと認めようとしない花火を強引に黙らせ、「さあ、会議だ会議」と机の上を片付け始めた。
「充造くん、老人のツンデレなんか気持ちが悪いだけだ…と春香が昨日言っておったよ。ツンデレが何か分からない僕も、もう歳だね。」
浩二は、春休みで実家に帰省している娘から昨晩聞いた言葉を、意味も分からずそのまま放った。
充造は、心から尊敬している亡き師匠、三好一の孫娘が弟子になるのを喜んでいる。しかしそれを口に出しては言わないため、花火には、ただのうるさいじいさんだと思われ弟子になることを拒否されている。
浩二は、充造のその、素直になれない性格を心底哀れに思った。
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- 6 : 2017/08/16(水) 23:18:43 :
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「さて、花火さんの準備も整ったようだし、大事な会議を始めよう。司会進行は僕がやるよ。」
机にバンッと手を置いた浩二が、張り切って場を仕切る。
「えー、まずはこの付近で予定されている花火大会7つのうち、この工場 に依頼されてるものが3つ!今年は例年より多いよ!張り切っていこう!!」
53にもなる良い大人が、目を爛々と輝かせて声を張り上げる。
「おう、頑張ろうな。」
充造も、先程まで弟子に低く鋭い声で喝を入れていた人間だと思えないほど明るい声音で、相槌を打った。
和やかな雰囲気で会議が終わると、そのまま各々の仕事に取り掛かった。
花火は、花火師見習い初めての年に、例年以上の依頼が来たことが嬉しく、緩みそうになる頬を、キュッと引き締めた。
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- 7 : 2017/08/18(金) 10:18:57 :
- 期待です( ´థ౪థ)
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- 9 : 2017/08/22(火) 20:10:29 :
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そして、綺麗な桜で彩られた春が終わり、花火の天敵である梅雨も抜け、暑い夏が来た。
最初の花火大会が、1週間後にまで迫っていたある日。
「充造さん、1週間後の花火大会、うちの依頼の取り止めの連絡が来てます。」
「充造くん、9日後の花火大会の件で電話が…」
3つの花火大会の依頼のうち、直前まで迫っていた2つにキャンセルされてしまった。諸事情で言えないけれど…と、依頼取り止めの理由はどちらも教えてくれなかった。
理由は分からないが、ほとんどが大きい工場へ流れて行ってしまったのだろう、と充造は推測する。浩二はガクッと肩を落とし、尻餅を着くように床に座り込んだ。
「やはり、うちと他所じゃ人数が違うからな。流れてしまうのは仕方の無いことかも知れん。俺の息子だって、家業を継がず他所の工場へ行ってしまった。」
「例え依頼が一つでも!」
「あとは、冬に作った花火玉、全部そこで消費出来ると良いけどねぇ…。」
花火は、重くなってしまった空気を取り繕おうと、精一杯明るく声を掛けようとしたが、そんな声も、充造と浩二の重い空気に飲み込まれてしまった。
「…まだ手はある……まだ…手はあります!」
「そんなもの、あるわけ無いだろう。」
充造の、低く厳しい声が花火に突き刺さる。
「あるんです……私がなんとかします…。
だからもう今日は皆さん帰りましょう。こんな空気では、浮かぶ案だって浮かばない。では、失礼します。」
花火は、雰囲気の悪い会議を勝手に終わらせ、師匠を置いてさっさと玄関から出ていってしまった。
「あの様子じゃ、花火さんにはまだ何か考えがあるみたいだね。」
「あいつの考えてることなんか知るか。浩二、こっちはこっちでなんとかするぞ。」
「なんとかするったって、充造くんだって何も案が無いんだろう?今日はもう帰ってゆっくり考えよう。冷静さを欠くと、失敗ばかりだ。」
浩二もまた、充造を置いてテキパキと帰宅準備を始めた。
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- 10 : 2017/08/22(火) 20:12:22 :
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2人の師匠が花火から数十分遅れで帰宅準備を始めた頃には、市役所で貰った市内の地図を片手に、地域活性化を目指す団体の事務所に駆け込んでいた。
「…すみません!玉木花火工場の三好と言います……!!あの、ここは地域を活性化させるイベントなどを企画運営している会社だと聞きました……それで、お願いがあるのですが…」
息を切らして窓口に必死で要件を伝える花火に、30代か40代…年齢不詳な女性が対応した。しかし、花火が中卒で、今年17になったばかりだっため、思わぬところで足止めを食らった。
「えっと…三好さん……でしたよね?あなた…学生さん?10代よね…学校は?もしかして、サボりだったり……ダメよ?ちゃんと学校行かなきゃ。」
「中卒です。今は玉木花火工場で見習い花火師として弟子入りしました。それで、お願いがあるんですがよろしいでしょうか。」
失礼な女性職員に聞こえない程度に舌打ちをし、引き攣った笑顔で丁寧にお願いをする。
「ごめんなさい、今社長は出掛けてて…午後からなら大丈夫だと思うけれど……もう1度来てもらえるかな。」
「わかりました。午後からは予定があり来られないので、社長さんには伝えておかなくて結構です。では、失礼します。」
自分が社会人であることを伝えたが、それでも正しい敬語を使わない女性職員に花火は呆れ、これ以上話していてもこちらが不快になるだけだと判断し、会話を辞めた。
会社の自動ドアがなかなか花火に反応せず開かなかったことも、花火の苛立ちを助長させた。
「あーもう…なんなのあの人。人を子供扱いして!私は社会人よ!!あの人敬語の使い方習った方が良いって!」
歩道で、大声で文句を言いながら地団駄を踏む。夏の昼前にしては心地よい風が吹き、頭上にある木から、ハラハラと葉が落ちる。
ハッとして強く地面に押し付けていた足を上げると、潰れて、濃い緑色になった葉があった。花火はあまり植物に詳しくないため、それが何の葉なのかは分からなかったが、潰れてしまった葉に、心が痛くなった。
「あ………ほんと最悪。」
花火を余らせないし廃棄しなくても良い案が浮かんだのだが、それには沢山の地域の協力が必要だった。そこで、地域を活性化させることに特化している会社に協力を仰ごうとしたのだが、あの女性職員のせいで台無しになってしまった。
「仕方無いなぁ……自力で頼み込むか…」
そう呟いて、大股で公民館に向かった。
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- 11 : 2017/08/22(火) 20:12:44 :
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充造は、帰宅して早々埃を被った電話帳を取り出してきて、他の花火工場へ花火の依頼をしていた会社の電話番号を白紙に書き出した。
9つの会社名と電話番号を書いたのだが、既に8つにバツ印が入っていた。
「最後だ……ここが頼みの綱……期待を裏切ってくれるなよ」
独り言を言いながらポチポチと携帯電話のボタンを叩く。周りが、スマホがあって普通という生活になってからも、10数年使い続けているガラパゴス携帯は、ボタンの文字は消え、折り曲げる部分も所々欠けていた。
何度目かのコール音のあとに、ガチャリ、という音がした。
「こんにちは、玉木花火工場 の玉木と申します。いきなりですが、お願いを聞いて頂いてもよろしいでしょうか……」
「………はぁ。」
何回か会話をしたあと、受話器の向こう側からメリーさんの羊が流れてきた。
『大変お待たせ致しました、あの…花火大会のゲスト出演の件ですが……大変申し訳ありません、私 共の判断のみで決定することが難しいため、お断りさせて頂きます。失礼します。』
ガチャン…………ツー…ツー…
「やっぱり駄目だったか……そりゃそうだ。突然花火大会に飛び入り参加で打ち上げさせろって…我が儘にも程があるな。」
充造が、帰宅途中の車内で考えた案はこうだ。
花火工場に依頼した大会運営に直接お願いをし、当日に、サプライズで打ち上げ時間を延長してもらい、余ってしまった充造達の花火を打ち上げる。
しかし、ほとんどの業者に、終電の時間も考えてあるから、それを今更変える訳にはいかないと断られてしまったのが現状だった。
「花火は突然急に帰れと言い出すし、一生懸命一つ一つ手作りした花火は余るし、赤字どころか、大赤字だよ…」
今朝、弟子に喝を入れた人物とは別人に思えるほど弱々しい声で呟いた。半日だけでドンと降り積もった悲しみと疲労に、正午のチャイムが鳴っても昼食の準備に取り掛かれずにいた。
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- 12 : 2017/08/22(火) 20:43:33 :
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次の日充造が出勤すると、昨日会議をした机の上に、花火の字で置き手紙がしてあった。
『充造さん、浩二さん
しばらく休みます。余っていた花火は欲しいという知り合いの団体にあげました。
昨日のまだ手があるとはこういうことでした。独断専行でごめんなさい。
花火大会の準備は引き続きお願いします。
下っ端が命令してるけど、大目に見て下さい。 花火 』
ガタンッ
「充造くん!」
読み終えた充造は、手紙を机に叩きつけて倉庫へ向かった。
浩二が充造に追いついた頃、充造は、勢いよく開けすぎて、レールから外れてしまったドアを支えながら広い倉庫の中を見つめていた。昨日まで所狭しと並んでいたはずの花火が無かった。
小さな町工場 ではあるが、倉庫はいくつもあるし、簡単に少女1人で運び出せる数じゃない。
花火を欲しがった団体の力を借りても、灯りの一つも見当たらない山の中。一晩で運び出すことは不可能だ。
「浩二、花火に電話しろ。」
浩二が受話器に耳を当ててから20秒近く経ってから、小声で花火が応答した。
『はい、もしもし…花火ですけど。』
「花火さん、今どこにいるの?」
『えっ…浩二さん……あの…私勝手なことしてごめんなさい。でもこうするしか花火を無駄にしない方法は無くて、それで……』
「分かった、分かってるから。今どこにいるの、なんで会社を休むの?花火さんに何かあったの?」
『それは違います…!』
「何かあったわけじゃないんだね。それなら良かった。それで
……答えにくいことだったりするのかい?」
浩二は、花火に気を使って少し場所を移動した。背後から、充造の鋭い視線を感じていたせいでもあるのだが。花火も、その気遣いを感じたのか、正直に答えた。
「…はい。誰にも言えないです、ごめんなさい。」
「そっか、分かったよ。気を付けてね。充造くんにはてきとうに言っておくよ。」
「ありがとうございます、よろしくお願いします。では、忙しいので失礼します。」
浩二には、何が忙しいのかさっぱり分からなかったが、ブツリと切られてしまったので引き止めるわけにもいかず、通話終了の文字が浮かぶ画面を見つめた。
「充造くん、花火さんは何か別の用事があって忙しくて来られないみたいだったよ。家庭のことかも知れないからあまり探らない方が良いかと思う。」
「わかった。」
上手くはぐらかせたかは微妙だが、充造はこれ以上探る気も無いようで、天気予報を見始めた。
「浩二、2週間後は晴れの予報だ。これで花火は綺麗に見える。今年は俺達が受け持つ花火大会は1つだが、その分力を入れるぞ。」
自分のペースを取り戻すのが早いことが、充造の長所だった。
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- 13 : 2017/08/22(火) 21:28:57 :
それから花火大会までの2週間、花火は2、3回工場 に顔を出すだけで、1日中充造や浩二の元にいることはなかった。
充造は、2日に1回「あいつは何をやってるんだ…」と文句を言っていたが、それでも花火に直接仕事に来いと言わなかったのは、充造なりに、忙しそうにする花火に気を遣った結果だろう。
「おはようございます!!!」
空が白む気配を感じさせる頃、静まった山の中に勢いよくドアを開ける音と、元気いっぱいな花火の大声が響いた。
昨晩は帰宅せずに、工場 で仮眠をとっていた充造と浩二は、眠そうな目で時計を見て、それからお互いの顔を見合わせ、玄関に立つ花火を華麗に無視し、再び横になった。
「無視しないでください!」
思わず耳を塞ぎたくなるような、鋭い声が飛んでくる。
「おい花火、なんでお前こんな朝早くから出勤してるんだ?花火大会当日だからって、いくらなんでもテンション高すぎだと思うんだが…」
「そりゃそうですよ!だってサプラ…イ……そんなことは置いといて、当日なんですよ!私の花火師見習い初の打ち上げです!テンション上がらないわけないじゃないですか!」
「あんまり出勤はしてなかったけどね。」
目を細めて言う浩二に、痛いところを突かれたらしい花火が「うっ…」と呻く。
「でも、昨日のスタッフさんとの挨拶にはちゃんと出てますし…大事な時はいましたよ。」
「それは当たり前でしょう…」
「それはそうですけど……」
「よっこいしょ…」
「あれ?充造さん寝ないんですか?」
「誰かさんのせいで目が冴えてしまったからな。」
タイミングよく起き上がった充造のせいで、花火にうまく逃げられてしまった浩二は、気持ちの悪い笑顔のまま花火に言った。
「花火さん、今日はスタッフも含め、全員一丸になって頑張ろう。」
「はい!」
それから、浩二が用意した朝食を食べ、3人で天気予報をしっかりと確認して、充造の運転で工場 を出発した。
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- 14 : 2017/08/23(水) 00:10:07 :
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会場は、工場 から少し離れていて、夜が明けて少ししてから出発したはずなのだが、既に歩道には、部活や補習などに向かう生徒が数人歩いていた。
「充造さーん、あとどのくらいで着くんですかー?」
後部座席を倒しリクライニングにして、スマートフォンを操作している、上司の前では普通は有り得ない格好の花火が充造に聞いた。
「教えてやっても良いが、態度が悪いな。まずはそれを直してからだ。」
「だって長時間車に乗ってると酔うんですよ。」
「それを操作してるからだろう。」
花火の隣に座る浩二が、"それ"、と花火の左手の中にあるスマートフォンを指さす。
「浩二、取り上げろ。」
「了解」
「えっ、ちょっと…浩二さん、待って…今大事な連絡中で……取らないで…あっ……!」
花火の左手から抜け落ちたスマートフォンは、スポリと座席と座席の間の隙間に落ちてしまった。
「あーあ、浩二さんどうしてくれるんですか、これ。」
「ごめんなさい…………充造くん…」
「俺に助けを求めるな、ほら、着いた。」
この公園は、広場よりも駐車場が少し高い地形のため、駐車場に停めた車から綺麗に光が反射する湖が見える。
「わぁ……でっかい池!昨日暗くてよく見えなかったから、明るい時に来られて嬉しいです!」
「良かったな、降りるぞ。それと湖だ。」
「はーい。浩二さんも行きましょ!」
振り向いた花火の目に写ったのは、先程座席の間に落としたはずのスマートフォンを右手に持つ、浩二の姿だった。
充造がブレーキを踏んで停車したことにより、隙間に落ちていたスマートフォンがズズズ…と足元に滑り出てきたらしい。
「出てきてたならそう言ってくださいよ、もう。」
それから、発射台まで行ってからは、時間が過ぎるのが本当にあっという間だった。
最後の打ち合わせをして、細かいことを確認をして、立ち位置を確認してから、誰からともなく円陣を組み始めた。
「充造くん!」
「充造さん!」
花火と浩二が、充造に掛け声をかけろと呼びかける。困った顔でしばらく悩んだ末、
「あんまり大きい声を出すんじゃないぞ、もうかなり客が来てるから聞こえるぞ。
えー、では。玉木花火工場 、及びそのスタッフ、全員でこの花火大会、成功させるぞっ!」
1人1人は小声でも、人数が多かったためか思ったより大きいオー!という掛け声になってしまった。充造が慌てて「静かにしろと言っただろう」と注意したが、幸い客席とは少し距離があるため、聞こえていないようだった。
花火は時計を確認し、1歩後ろに下がった。
「皆さん、今から私が打ち上げ開始のアナウンスをします。」
戸惑うスタッフや充造達から文句の声があがるが、お構い無しで続ける。
「アナウンスは、1度しか出来ません。今日手伝って頂くスタッフさん達も勿論ですが、充造さんと浩二さん、2人に聞いてほしいんです。
私が仕事を休んでまで何をしていたのか、私の花火にかける思いを、知って欲しいんです。耳の穴をかっぽじって聞いてください。」
そこまで言うと、無線のマイクの電源を入れた。
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- 15 : 2017/08/23(水) 22:21:06 :
「ご来場の皆様に、お知らせします。
打ち上げ前に、少しだけお時間を頂き、皆様にお伝えしたいことがあります。口調も崩れてしまい大変申し訳ございません。拙い者でお聞き苦しい点も多々あると思いますが、どうか最後まで聞いてください。」
打ち上げ予定時刻の二分前に突如始まったアナウンスにより、会場はアナウンス前のざわつきとは別のざわつきが起こる。
「皆さんはここの、この花火大会の花火を制作し、打ち上げている会社を知っていますか? この町で唯一の花火工場だから、知っている人も多いかも知れません。
玉木花火工場 と言います。暗いので見えませんが、向こうの山の中にある、小さな小さな会社です。」
花火は、スッと工場 のある方向を指さした。その顔は客席からは見えなかったが、充造達発射台にいるスタッフには見えた。キッと眉を吊り上げ、唇を強く噛み締めていた。
浩二には、その花火の顔が、何か大きな決断をした時の表情のように思えた。
「私は今、玉木花火工場 の花火師見習いです。その花火工場 が作る花火に、幼い頃から既に、魅了されていました。
しかし私が弟子入りした時には既に従業員は2人。更に、赤字の工場 に
追い打ちをかけるように、今年は唯一の稼ぎである花火大会の依頼が1件しか来ませんでした。」
客席から、お前の人生語りなんて聞きたくねぇんだよ、早く打ち上げろという怒声が飛んできた。発射台と客席にはかなり距離があったはずだが……はて、と首を傾げる浩二。
「そ、それで…あ………」
その怒声に怯み、花火は次の言葉を発せなくなっていた。
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- 16 : 2017/08/23(水) 22:21:13 :
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「花火、怯むな。」
すかさず充造が声を掛けると、ゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと話し出した。
「打ち上げられる時間は短いのに、制作期間はすごく長い花火、何故日本人はそんな儚いものに美を見出し、毎年のように眺めるのでしょう。
………そんなの、簡単です。花火が持つ儚さが美しいから。日本人は移り変わっていく物が好きなんです。桜とか、紅葉とか、銀景色とか…。四季を感じられる儚いもの好き。儚いことが美しい。だから、花火を見るんです!
だけど、その美しい物も、年々失われつつあります。皆さんは、日本から…ううん、この町から…花火が無くなっても良いんですか。代々受け継がれて来た、美しい日本の景色、二度と見れなくなっても良いんですか!?」
熱がこもり、発射台の地面をダンッと力強く踏みしめたら、スタッフ皆が揃って肩を跳ね上げた。申し訳なさそうな顔をしつつ、花火は続ける。
「私は、この町から花火を無くしたくありません。町の人と、スタッフと、花火師と、皆で力を合わせて作り上げてきた伝統を消したくないんです…」
「花火なんていつでも見れるだろ!」
「どこの花火も規模が違うだけで同じようなもんだろ!」
「お前の話は良いから打ち上げろよ!」
花火の声が小さくなった時がチャンスだと言わんばかりに、客席から溢れてくる大声の文句。花火は充造と浩二を盗み見た。悔しそうに俯く2人の姿に、ギリッと奥歯を噛み締める。
「花火なんかどれも一緒?……違う!!!!」
キーン…とマイクから嫌な音が出る。
そんなことお構い無しに、花火はマイクが無くても客席に届くんじゃないかと思うほどの大声で叫んだ。
「隣町には、大きい花火工場 がありますね。あそこなら、簡単にポンポン花火を作ることが出来るでしょう!
しかし、今日の花火は、玉木花火工場 で作りました。
工場 の花火師2人と見習いの私で、1つ1つ手作業で、丁寧に作った…!
この町のために…この町に住む人の、笑顔のために…花火を見に来てくれる人のために…!」
会場が静まり返る。いつもなら、湖にいる魚が跳ねる音なんか聞こえないのだが、それすら聞こえてくるくらいの静寂だった。
暫くして、再び花火の声が聞こえた。
会場に静寂をもたらした叫びとは真逆の、小さな、囁くような声で、
「……一生懸命作ったの……だから…どれも同じだなんて言わないで…。私達の仕事を否定しないで……。」
花火の、
弱小工場 の従業員の、
悲痛な叫びだった。
空気を変えるかのように咳払いを1つして、言った。
「…取り乱してしまい申し訳ありませんでした。明日 、8月〇〇日の午後20:00から、南山公園で、本当に突然ですが花火を打ち上げたいと思います。
ちなみに、言わなくて良いかもしれませんが、言わせて頂くと、自費です。玉木花火工場 の。」
「おい」
花火の背後から、充造の鋭い突っ込みが入る。
「この、良き日本の伝統を失いたくないと思うのなら……この町から、玉木花火工場 を消したくないと思ってくれるのならば………また来年も、玉木の花火を見たいと思うならば…明日の花火大会に来てください、お願いします。……玉木の花火を…よろしくお願いします。」
「花火…」
全ての言葉を聞き終えた充造は、花火の、この小さな町工場 にかける思いに感極まって、柄にも無く目に涙を浮かべていた。
チラッと隣にいる浩二を見たら、浩二は唇を噛み締め、涙を流していた。
客席から、ポツポツと拍手をする人が出てきた。それを見た花火は、「ふぅ…」と息をつき、充造や浩二の方へクルリと振り向いた。
打ち上げのGOサインを出す、月明かりに照らされた花火の顔は、目と鼻が真っ赤で、明らかに泣き腫らした後だった。
1時間にも渡る花火大会は、初めのアナウンスこそ大荒れだったものの、無事に終了した。早々に片付けを終えた3人は、スタッフに挨拶をし、そのまま工場 へ戻った。
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- 17 : 2017/08/23(水) 22:21:31 :
- 夕方、昨夜花火が指定した南山海岸に、続々と人が集まってくる。
特に受け付けなどは無いが、何故か『花火大会受付』と書かれたボードの前で、花火は来てくれた人達に深々と頭を下げる。
頭を下げたまま、名前も分からない砂浜に生えているチリチリの草を見つめていたら、どう見ても砂浜に履いてくる靴じゃないだろ…という、ヒールの高い靴が視界に入ってきた。
どんな場違いな奴だろう…そんな好奇心から顔を上げると、高そうな衣服を身にまとった婦人が立っていた。常識がありそうなこの人があの靴を…?と疑問に思ったので視線をゆっくり下に移すと、やはり場違いな靴だった。
「ねえ、あなたもしかして昨日のアナウンスの子?」
舐め回すように見ていたのがマズかったのか、婦人が突然話しかけてきた。
「ええ…まあ。」
「あなた思い切ったことしたわね、なかなか面白かったわ。
それで、今日の花火大会、自費だから損しかないんでしょう?これは、昨日と今日の見物代だと思って…少ないかも知れないけれど、受け取って。」
花火の手を取り、何かを掌に収めた。
「私は玉木花火工場 の花火、好きよ。私が幼い頃から見ていたもの。
頑張ってね、見習い花火師さん。」
婦人が履いていたのは、砂浜では歩きにくいヒールの高い靴のはずだったが、そんな様子は一切見せず、颯爽と人の波へ消えていった。
握られた掌を開くと、綺麗に畳まれた1万円札が収まっていた。
その一部始終を見ていた別の客達が、婦人に感化されたのか、次々と花火にお金を渡そうとする。
「ちょ…えっ……あの…」
両手に沢山のお金を抱えて困っていたら、人溜まりの中から、手提げ部分に『使って下さい』とメモが括りつけられたハンドバッグが出てきた。
「あ…ありがとうございます!」
誰が渡してくれたかは分からなかったが、その優しさが嬉しくなって大声でお礼を言った。
打ち上げ開始30分前になっても花火は人の輪から抜けられず、いつまで経っても発射台に現れない花火を心配して、探しに来た浩二の手により救出された
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- 18 : 2017/08/23(水) 22:21:42 :
- 「30万円!?」
次の日の朝、充造と浩二は花火の謎の悲鳴で睡眠を妨害され、強制的に起こされた。
「おい………30万がどうしたんだ…二日酔いで頭痛がするんだ…頼むから大声を出さないでくれ。」
「花火さん……」
2人の大人の弱々しい頼み声を無視し、勢いよく布団を剥がした。
「はい、お水です!さっさと起きて下さい!昨日来てくれたお客さんが、ちょっとずっとお金をくれたんです!それが全部で30万円!しかも1万円札が殆どなんです!皆気前良いですね。」
「ありがとう。そうだな。」
充造は、ニコニコと嬉しそうにお金の束を持ち上げ話す花火に、水を持ってきてくれたことには感謝をしたが、お金についてはてきとうに返事をして再び布団を掛けた。
「今日から待ちに待った、花火師の夏休みじゃないですか…なんで初日からぐうたらするんですか、まだ日本には花火大会終わっていない場所があるはずです、行きましょう!」
「1人で行け。」
「花火さん、勉強熱心なのは良いことだけど、流石に昨日の今日だ、休もうよ。」
情けない2人の師匠に、心底嫌な顔をする。
昨日はあんなに格好良かったのに…
花火は、昨日の打ち上げで、ここへ就職してから初めて2人の弟子になりたいと思った。
しかし、昨日のあの格好良さは何処へ行ったのか、やっぱりあの2人の弟子になる日は来ないか、当分先だな…そう思う花火だった。
二日酔いでへたばる2人の情けない師匠のために、花火は喉越しの良いうどんを作る準備を始めた。
来年はきっと、玉木花火工場 には、小さな工場 では抱えきれないほどの依頼が届くだろう。
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- 19 : 2017/08/23(水) 22:34:13 :
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これで、百花繚乱 (夏花杯)の参加ssは終わりとなります。
無駄に回りくどい文章でしたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました!
気に入ったら、お星様…ポチッとしてくれても良いんですよ…?ボタンをポチッと押したら、もれなく誰かの股が開きます!(身内ネタ)
そして、自分後書き好きなんで、無駄に長文なんですけど許してください!なんでもしますから!(なんでもするとは言ってない)
……無駄口叩く力があるならもっと良いss書けって感じなんで、ろくな後書きじゃないですが、そろそろ終わりますね(笑)
最後まで見てくださった全ての方に…;;
ありがとうございました!!!!(థิഋథิ)
PS. 明後日、私誕生日なんで皆祝ってください←図々しい
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