このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
二重裁判
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- 1 : 2017/07/22(土) 01:52:04 :
- チームコトダ祭第2回
『奴隷と愉快な仲間たち』大将 シャガルT督と申します。
ジャンルは「自由」
キーワードは「飛兎竜文」で書いていきたいと思います。このレスから本編始まります!
今回の祭典に参加して頂いている他の方々です!
合わせてご紹介いたします。
『奴隷と愉快な仲間たち』
Deさん (チームリーダー)
あげぴよさん
カラミティさん
シャガルT督
影さん
『皆殺し』
タオさん (チームリーダー)
ノエルさん
ししゃもんさん
ライネルさん
スカイさん
『真山田組〜追放される空〜』
ベータさん (チームリーダー)
風邪は不治の病さん
Ut4m4r0さん
たけのこまんじゅうさん
フレンさん
一人につき1つしかないものは何があるか?
口?
命?
挙げようと思えばいくらでも上げられるかもしれない。
1人に1つしかないものは意外と多い。
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- 2 : 2017/07/22(土) 02:06:48 :
- シャトルランするペンを一旦止め、原稿用紙を見下ろすと思わず笑みが溢れる。
腐川「ふ……ふふ…」
まさに完全なる璧というわけだ。
気がつけば時計の針は頂点よりさらにずれ込んでいた。
腐川「……そういえば夕飯ができたとか言ってたかしら…」
階段を下りるとすでに灯りは消えていた。
インクで真っ黒になった手の横を洗い、卓に付く。
シチューにラップがかけて置いてある。
食事の呼び掛けも無視して部屋に籠っている者としては捨てられないだけ有り難い話だが…
腐川(あぁ…… やっぱ「後から来た方」の味だわ……)
この家には母親が二人いる。
どうしても何もない。
そうなったから、そうなった。
家に友人など呼べた試しはない。
呼ぶ友人もいないが。
腐川(やっぱどうしても好きになれないわ…)
無論、1人目だろうと「好き」というわけでもない。
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- 3 : 2017/07/22(土) 02:19:07 :
- 他の家族もそうだ。
同じ屋根の下でも別居同然。
鬱々とした高校生活を送っていた。
今日も終わりを告げていく。
―翌日―
「いってらっしゃい!」
などとは家からは聞こえてこない。
楽しげな声、下らぬ与太話に盛り上がる声。
自分と同じ年代の人間たちの声を尻目にただ
教室へと歩を進める。
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- 4 : 2017/07/22(土) 02:28:59 :
彼女のような人種にとって見れば学校など週5
1日8時間の拷問に等しい。
授業にはついていけるが休み時間には1人飯。
しかし、そんな彼女にも何か1つ持てるものがあるとすれば………
家に帰ったのち、再びペンを走らせる。
自分の理想のシチュエーション
耳が蕩けるような甘い台詞がニューロンを駆け巡る。
筆は釈迦力で走り出す!
これが彼女の日常である。
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- 5 : 2017/07/22(土) 02:36:05 :
- 筆を走らせている間だけは心が解き放たれる。
そこに自らを束縛するものは何も存在しないからだ。
このひと時こそ彼女の心のオアシス。
腐川「で………きたぁ……っ!!」
恍惚に表情の弛みが止まらない。
手洗いもそこそこに彼女はそのまま床へ就いた。
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- 6 : 2017/07/22(土) 02:41:18 :
―さらに翌日―
腐川(今日は確か編集部に原稿を持っていく日だったかしら……)
もそもそとベッドから這い出て支度を済ませる。
今日もまた喧騒な声を尻目に足をただ前へ進める。
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- 7 : 2017/07/22(土) 02:55:14 :
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「お前追試どうだったんだよ!」
「お前が追試合格しなきゃ誰が投げんだよ!!」
「ギリギリセーフ!!」
腐川「………………」
スクールカーストの頂点に君臨する者たちは
我が物顔で教室で騒ぐ。
腐川(まったく……!うんざりだわホントに……)
腐川(さっさと終わりにして編集に渡して来ないと……)
しかし、焦ろうともあと1時間は帰る事はできない。
腐川(いっそサボってやろうかしら……!)
男子生徒1「………なんか… クサくね?」
男子生徒2「本当だ………」
男子生徒3「…………んだよ この腐った雑巾みてぇなニオイはよぉ!」
鼻の先と視線は1ヶ所へと集められた。
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- 8 : 2017/07/22(土) 03:22:14 :
男子生徒2「おめぇくせぇぞ!! なに考えてんだよ!!!」
腐川「な……何よ……!あんたたち……!!」
腐川「そんな汚ならしいモノを見るような目で…………ッ!!」
男子生徒3「汚ならしいも何もお前臭いんだよ!!」
男子生徒1「おめぇ一体何日風呂入ってねぇんだよ尋常じゃねぇぞ」
男子生徒3「とにかくどうにかしろよお前鼻が曲がるわ!」
腐川「どうにかって……! あたしにどうしろってのよ!!」
男子生徒2「さぁ? 今から荷物まとめて帰ればぁ?」
このグループ、ただの運動部ではない。
表向きは大人しくして見えるがその実素行は
最悪そのものであり、彼らの被害者はこの学校にも少なくない。
男子生徒1「それができねぇってんなら俺らに迷惑料払えよ」
腐川「ふざけんじゃないわよ……!! なんでアンタみたいなクズみたいな奴らに渡すお金なんて……ッ!!」
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- 9 : 2017/07/22(土) 03:37:34 :
- 男子生徒1「……は?」
「ちょっと腐川何言ってんだよ!!」
「謝れよ!!」
間の悪いことに女子の取り巻きまで集まってきてしまった。
腐川「フン……… 猿山のボスが子分と雌猿侍らせて人間様に『金よこせ』?」
腐川「これを笑わずにどうしろっていうのよ……!」
男子生徒3「テメェ!! 女だと思って黙って聞いてりゃ………!」
「コラ!! 何やってんだお前たち!!!」
男子生徒1「チッ…………」
男子生徒2「覚えとけや……!」
賢い選択かと言えば否であろう。
スクールカーストがまさに「猿山」であるなら
猿山のボスは彼らであり
群に害為す者は淘汰されるのが自然の摂理だ。
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- 10 : 2017/07/22(土) 15:16:09 :
土日を挟んでの明くる日。
「おい!! テメェなんでここきてんだよ!!」
「風呂入れやァ!!!」
腐川「……………」
腐川「なんでアンタ達にそんな事…… 風呂は嫌いなのよ……! シャワーも……」
男子生徒1「何わけわかんねー事を…!!」
その時
何か重いものが背中をはたいた。
否、それは水であった。
普段、人前で表情を動かさない彼女もこれには面を食らう。
「なにボサッとしてんだよ!!」
「アンタが風呂入る気がないってからアタシらがわざわざ洗ってやったんじゃん!」
件の運動部の取り巻きだ。
手には空のバケツが握られている。
腐川「なに………すんのよ…ッ!!!」
三つ編みから水が滴る事など気にも止めず
その女子生徒の勝ち誇った横っ面をひっぱたいた。
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- 11 : 2017/07/22(土) 22:40:03 :
- 「てめぇ何すんだよ!!!」
今度は女子生徒の方が掴みかかる。
水溜まりが張った教室とは対照的に双方の怒りは烈火の如く。
その大してかわいくもない面にもう一発くらい見舞ってやろうとした矢先……
横合いから蹴りが飛んできた。
男子生徒1「調子乗んなよブスが」
男子生徒1「こっちが忠告して聞かねぇなら仕方ねぇや」
男子生徒1「二度とこの場に顔出そうなんて考えられねぇようにしてやる」
それは「ボス」からの敵対宣告であり
これにより彼女の地位はもはや不動のものとなった。
「淘汰」はより過激なものとなっていく。
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- 12 : 2017/07/23(日) 03:06:17 :
「なんで……アタシがこんな目に合うのよ……ッ!!」
思えばアレが頭角を現し始めたのもこの頃であった。
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- 13 : 2017/07/23(日) 03:43:37 :
数日の後
何やらクラスの様子がおかしかった。
腐川(何よ… いつにも増して騒がしいわね…)
彼女が教室に顔を出すや否や教室じゅうがしんと静まり返る。
腐川「……??」
それは一種の拒絶であったが
いつものそれとは何かが違う。
「アンタが聞きなさいよ……」
「なんでよ…」
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- 14 : 2017/07/23(日) 22:23:11 :
女子生徒「アンタ……今朝のニュース見てないの?」
腐川「見てないけど…… それが何なのよ…」
女子生徒「本当に知らないわけ……!?」
腐川「だから何なのよ…! そのニュースがどうしたのよ!」
女子生徒「このクラスから死人が出たって……」
女子生徒「しかも… 殺されてたって………!!」
腐川「………は?」
とぼけようとして出た言葉ではない。
ただ、余りにも突拍子も無さすぎて自然に出たものだった。
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- 15 : 2017/07/24(月) 11:33:23 :
- そういえば、席が1つだけ空いている。
件の運動部員のリーダー格であり、このクラスカーストのトップに君臨していた男の席だ。
腐川「まさか………」
女子生徒「………そうだよ…」
女子生徒「アンタが殺ったんでしょ………?」
腐川「ちょっと……!一体どうしてそうなるのよ!!」
女子生徒「とぼけないでよ!!!アイツを殺すなんてアンタ以外あり得ないでしょ!!!」
腐川「あ……あの男に突っ掛かられたヤツなんて他にも山ほどいるでしょ!!!」
女子生徒「んなわけねぇだろ!! タイミング的にさァ!!!」
女子生徒「アンタが殺した以外何があるってのよ!!!」
もはや収集がつかなくなってきたところ、やっと教師が止めに入った。
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- 16 : 2017/07/24(月) 12:02:13 :
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某所
「なんだこの有り様は………」
普段、事件の気配も感じさせない閑静な住宅地
その片隅に奇妙な死体が出現した。
全身に切り傷、凶器は刃物。
これだけ聞けば特段「奇妙」というわけでもない。
刑事ドラマなんかでもよくあるパターンだ。
ただし、その死体が奇妙たらしめているのは…
「おい、仏さんいつまでこの状態で晒しとくんだよ」
「一応… 現場の保存のためですから…」
「それにしても何だよ… この…」
「『チミドロ フィーバー』ってのはよ……」
胸部に深々と突きたっていたのはハサミであった。
それだけではなく、まるで十字架刑に処されたが如く
磔にされていた。
釘の代わりに手足にハサミを打ち込んで。
極めつけは赤錆た色で書かれた
『チミドロフィーバー』なるメッセージ。
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- 17 : 2017/07/24(月) 12:08:48 :
- 「コイツぁどう見てもダイイングメッセージって感じじゃねぇよなぁ……」
「えぇ… 手足はコンクリの壁に打ち付けられていますし…… そもそもこんなメッセージを書かせておいてから殺して磔にするなんて意味が分かりませんよ……」
「…………『意味が分かる』相手ならいいけどな…」
「え?」
「まぁ、いい。とにかくこれは犯人が残したモノで間違いはねぇだろうからな」
「残忍な手口のわりに… なんかミスマッチじゃありませんか?」
「あ?何がだよ」
「なんか… 『天誅』とか『これは罰だ』みたいなこと書きそうですけどね…僕だったら…」
「『恨み』っていう節か。」
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- 18 : 2017/07/24(月) 12:12:54 :
- 「じゃあもしかするとそうじゃねぇのかも知れねぇぜ」
「え?」
「それよりもだ。凶器の入手ルートは割れそうなのかよ?」
「いえ… それが…」
「特異な形状なので特定は容易いかと思ったのですが… どうやら一般の市場には出回っていないようで……」
「ほう?」
「特注品か… あるいは……」
(一般の市場に出回っていないとなるならこんなハサミを持っている人物なんてそうはいないはず……)
(だったらこのハサミを持っている人物こそ犯人である可能性は高いと思うんだけど……)
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- 19 : 2017/07/24(月) 17:51:46 :
- (それが簡単に見つかれば苦労しないよなぁ…)
「とにかく今は鑑識待ちだな。」
死体はようやく磔から解放された。
「お前さんもお疲れ」
「はい、こちらこそ…」
少年はブルーシートの外へ出た。
「悪かったな。お前んところの倅借りちまって」
「まったくだ…… 高校生にこんな殺人現場を見せようとするヤツがあるか!」
「だが…… なかなかの観察眼と洞察力だと思うぜお前の倅は…」
「そういう問題じゃないよ。それに彼は私の倅ではない…」
「アレ?そうだったか?」
「適性検査だか捜査のためだか知らないがこんなことは止めにしてほしいね。
しかも被害者は彼と同じぐらいの年頃じゃないか…」
「俺はあの学長サンの言うことは納得できるがなァ」
「本人の意向も頭に入れてほしいものだね」
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- 20 : 2017/07/24(月) 20:36:18 :
夕方
腐川「はぁ…………」
今日は色々なことがありすぎて疲れてしまった。
クラスから死人が出た事
それがどうやら変死体であるという事
警察官が聞き込みに来るかも知れない事や
どこから聞き付けたのかマスコミに対する対処など……
授業が1つ2つほど潰れたのは言うまでもない。
腐川「………私なはずあるわけないじゃない…」
腐川「バカバカしい…… それより原稿の手直ししなきゃ……」
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- 21 : 2017/07/25(火) 00:03:38 :
- 原稿の手直しにかかろうとしたその時。
微かな違和感を覚えた。
腐川(なんか…… 物の位置が変わったような気が…… しないでもないわね……)
腐川「って…… んなこと気にしてる場合じゃなかったわ……」
校正された部分の他、自分なりに他の文章や言い回しにも気を使い、書き直していく。
今度の作品も出来はよくなりそうだ。
腐川(……… タイトルも少し変えてみようかしら………)
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- 22 : 2017/07/25(火) 15:02:36 :
- 事件のこともあって学校生活はますます騒がしくなっていく。
というより、この近所で恐ろしい殺人事件が起こった事に誰しも皆ピリピリしていた。
腐川(もうじき新作が出来上がるのになんだかイヤな気分ね……)
腐川(どうせクラスの連中じゃどっちにしろ変わんないでしょうけど……)
一人、通学路を帰ると小学生が集団下校していた。
そして家族とろくに顔も合わせずに自室に戻り、また筆を走らせる。
腐川(そろそろ休もうかしら…)
夜も更けて来た頃、布団をめくると…
腐川「………石鹸のにおい………??」
腐川(出掛けてる間にシーツでも洗ったのかしら………)
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- 23 : 2017/07/25(火) 18:28:33 :
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また別の某所
「またこの殺しかよ………」
「しかもこいつぁ……」
またも人目につかぬ高速道路の高架下
同じ凶器
同じように磔にされ
同じように血文字が印されていた。
「被害者は36歳の男性。サラリーマンでこの近辺の出身ではなく単身赴任でここに滞在していたようです…」
「単身赴任!? この辺の人間でもねぇって事かよ!」
「あ!コラ! 何してるんだ君は!!」
「あぁいいんだよ彼女は……」
藤色の長髪を揺らして少女がつかつかと死体に歩み寄る。
「何でも例のあの学園がらみだってからさ…」
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- 24 : 2017/07/25(火) 18:41:41 :
- 「『またこの殺し』という事は前回にも似たような事件があったという事ですか?」
「まぁ、そうなるな…」
「前回の事件の資料をお見せいただけますか?」
「まったく近ごろの子供ってのは……」
刑事の呼び掛けに対し、前回の事件の資料を少女に手渡した。
(いいのですか…? マスコミにも漏れてない情報ですよ?)
(俺が断れる立場にあるとでも?)
身じろぎもせず眉毛の角度すら変えずにじっくりと死体の周囲を観察する様はかなり歳不相応に見えた。
「このハサミはやはり一般市場には無いものなんですね?」
「あぁ…そのようだ。 過去に製造された記録も製造される予定も無い物だ」
「それと……」
「この事件の手口や状況はどの程度公開されていますか?」
「ただの刺殺体ってことでマスコミには通してるよ。」
「血文字や磔の件は?」
「一切オフレコ。」
「そうですか…」
(血文字の筆跡もよく似てる…
となるとやっぱり同一人物かしら?)
(そうすると問題になるのは………)
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- 25 : 2017/07/25(火) 18:55:14 :
- 「確か前回は地元の学生が被害者でしたね?」
「そうだ。この辺じゃ有名な不良でな」
「その恨みを買った人間の犯行って線で動いてたんだが……」
「今度は仕事でここに車ではここに縁もゆかりもねぇサラリーマンが被害者ときやがった…」
「参っちまうよ実際……」
(犯人は同一人物か同じグループである可能性が高いのに被害者の特徴はバラバラ……)
(強いて共通点を上げるとしたら男性ということ……)
(あとは夜間の犯行であることくらい……)
(けど… その程度の事に意味があるのかしら……?)
(一体どういう事なのかしら………)
少女は軽く顎を引いて考え込む。
(ホント…… 最近のガキってのは目敏いねぇ……)
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- 26 : 2017/07/25(火) 18:57:47 :
-
明くる日
腐川「ん……ぅううう……」
何やらやけに体が重い。
腐川「おかしいわね…… 昨日はそんなに遅くまで夜更かしてはいないけど……」
腐川「いたっ!」
太股の内側にピリッと痛みが走った。
腐川「な… 何よ……これ………」
肌の上に赤い線。
刃物で傷をつけたような後になっていた。
腐川「こんなのいつの間に……」
腐川(アタシが寝てる間に何されたのよ……!!)
腐川「なんか…… 本格的に具合悪いわ……」
眠ったのに眠ってはいないような感覚。
見覚えのない傷。
腐川「ぅううううううっ!!
気味が悪いわッ!!!!」
妙な違和感、地に足が付かない不気味さが彼女を襲う。
腐川(昨日は親は帰ってないはずだし……)
とっさに家の隅々を見回した。
腐川(忍び込んだ形跡もないわね………)
腐川「ダメだわ…… き… 今日は休みに……」
学校に連絡を入れると自室へと戻っていく
言い知れぬ不安感もそうだが何より体が痛くて重いのだ。
まるで枷でもつけられてぶら下げられた後のように。
腐川「一体どうしちゃったのかしら………」
この日より、彼女は学校を休みがちになる。
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- 27 : 2017/07/25(火) 19:34:52 :
生まれて初めて学校をサボった。
とても学校どころでないのは事実であったが……
腐川「とりあえず…… 横になろうかしら……」
昼過ぎに起きたあとは小説の執筆に取り掛かる。
今も昔もこの時が一番心が踊る。
言い知れぬ不安感も少しは和らぐというものだ
腐川「我ながら……… 今回はかなりいい出来なんじゃないかしら………!」
よく言えば空想、悪く言えば自分の理想の妄想がそこにはあった。文字に起こされていた。
小説はもうすぐ完結というところまで来ていた。
しかし、名前はまだない。
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- 28 : 2017/07/25(火) 19:36:32 :
-
数日後
三度起こった例の血文字の事件。
マスコミもこぞってこの奇怪な殺人事件を取り上げていた。
しかし、今回彼女たちが集まったのは血生臭い殺人現場ではなかった。
「すいません! 待ちましたか?」
「いえ、別に… それより早く入りましょう。立ち話もなんでしょうし」
「う… うん…」
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- 29 : 2017/07/25(火) 19:51:49 :
「あの……」
「なに?」
「その……君も例の事件を調べてるんだよね?」
「そうだけど… 先に自己紹介くらいしておかない? 名前も知らないんじゃこの先不便でしょ……」
「あ…… そうだね… ごめん…」
霧切「わたしの名前は霧切響子…… あなたと同じように例の血文字事件を調べてる者よ」
最原「えっと…… 僕の名前は最原終一……
その……趣味は………」
霧切「そんなこといいから早く本題に入りましょう」
最原「そ… そうだね……」
霧切「3件目の事件はもう見てきたの?」
最原「うん…… もう調べてきたよ…」
最原「今回も同じ血文字…同じ磔…同じ凶器だったよ……」
霧切「被害者は14歳の中学生……これも男性ね」
最原「僕たちより… 年下だったんだよね……」
霧切「………そうね。」
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- 30 : 2017/07/25(火) 20:30:04 :
- 霧切「あなたはこの事件で何か気づいた事は?」
最原「うん……血文字や磔の事を除いては共通点は被害者が男性であることと犯行時刻が深夜であることくらい……」
霧切「そうね…被害者同士に面識もその友人同士もさっぱり脈絡がないそうよ…」
最原「あとはやっぱり…この事件は同一人物…最低でも1つのグループであることは間違いないと思う。」
最原「しかも… あのハサミはハンドメイドらしいんだよ…」
最原「こんなの… やっぱり同じ人間の犯行って考えるのが自然だと思う…」
霧切「それに血文字の筆跡もよく似ているしその可能性が高いわね。」
霧切「となると問題はやっぱり動機ね……被害者同士は本当に他人なわけだし…」
最原「……あの… ちょっと…いいかな?」
霧切「いいけど。話して」
最原「1件目の事件の時に刑事さんから聞いたんだけど…」
最原「もしかしたら… 動機が分からないって事は…… 文字通り分からない事なんだと……」
霧切「え……?」
最原「えっと……その、つまり… 動機が分からないなら… もしかしたら僕たちの想像もつかない動機なのかも知れないって…」
霧切「なるほど…… そういう事だったのね…」
最原「ごめん……分かりにくくて…」
霧切「いえ、参考になったわ」
霧切「けど、そうなると逆に困るわね。」
霧切「動機が分からないとなると… 次にどんな人物を狙うかも分からないわ」
最原「これで終わりじゃないってこと!?」
霧切「もしもの用心よ……」
霧切「わたしたちの想像もつかない動機……」
最原「例のハサミを持ってる人間さえ見つけられれば1発なのに……」
姿はだんだんと輪郭を持ち、視界に写るようになってきた。
姿は捉えているのに掴めない、捕らえられない
それは雲を掴むような話であった。
最原「せめて目撃情報があればもう少しやりようがあるのに…」
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- 31 : 2017/07/25(火) 20:43:01 :
夕方
霧切「今日は参考になったわ。どうもありがとう…」
最原「うん……こちらこそ…」
霧切「一応気を付けてね。これまでの傾向だと狙われてるのは男性みたいだから…」
最原「え…縁起でもない……」
最原「まぁ、でも用心に超したことはないな…」
自らと同じ「探偵」と別れると帰路に着いた。
最原(なるべく人の多いところ通っていこう……)
路地や人気のないところを避けて人のいる方へ歩いていく。
最原(………ここばっかりは避けて通れないんだよな…)
人目のない道が目の前にある。
一応、遠回りするルートはあるにはあるがそこを通れば1時間も遠回りしてしまう。
最原(ここでいいか… もうすぐ家だし……)
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- 32 : 2017/07/25(火) 21:03:01 :
「こぉーんばーんはぁ」
直感した。
これはヤバい。
死ぬ。
しかし、金縛りに会ったかのように首から下が言うことを聞かない。
その隙を突いて口を抑えられた。
「あんな女と喫茶店から出て来るとは~~
彼女かぁ~~?ん~?」
最原「ーーーッ!! っっ!!」
首を振って否定する。
すると口に抑えられていた手が首にかかった。
「発言を許可しよ~」
そして、その手に光るモノを彼はしかと見た。
最原(例のハサミ………!!)
最原「なんだお前は………! 僕を…… 殺しに来たのか!!」
「ご明さぁーーーっつ!!」
「今日のアタシはなんだか…… 陰キャの気分……! なんて……」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!」
最原「ふ……ふざけるな……っ!!」
最原「お前は一体……」
「アタシか?」
ジェノサイダー翔「誰が呼んだか…… 人呼んで……
『ジェノサイダー翔』!! 普段は腐川冬子とか言うダセー腐女子だけどね!!!」
最原「なぜだ………」
翔「え?」
最原「なぜこれまで3人もの人を殺してきたんだ!!」
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- 33 : 2017/07/25(火) 21:16:02 :
- 翔「なぜ? なぜかって……??」
翔「それは……… 萌え……ッ!!!」
最原「………は?」
翔「アタシが殺すのは今日の気分で萌える
男子ッ!! 」
翔「殺したいほど萌えてるから…… アタシも敬意を持って殺すんだよ………」
最原「そ…… そんなことの為に……!!」
翔「ぁあ~ 生意気な口だなぁ……」
翔「ふさいでやろうか? アタシのハサミで……」
翔「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!」
最原「僕がお前の事を調査しているから… 僕を消しに来たんだろう!!」
最原「だけど…… ムダだ!! きっと警察だってすぐに気づいて……お前を捕まえる!!」
最原「お前はもうすぐ……お仕舞いだ!!!」
翔「ハァ?」
翔「テメー… 人の話聞いてなかったのかよ……」
最原「うるさい……!!お前の話なんか…!」
翔「アタシは殺しにこだわりを持ってんだよ……」
翔「こだわりのねぇ殺しなんぞクソ以下の価値もねぇ……」
翔「自分の犯行がバレそうだから消すなんて……
そんなチンケな理由で殺ししてねぇっつの……」
最原「嘘をつくな!! お前は………」
翔「…………ハァ」
翔「ヤメだヤメだ……シラケちまった………」
そいつはひどくガッカリしたような顔をすると…
屋根の上を飛んで消えていった。
最原「ジェノサイダー翔……!」
最原(お前の顔は覚えたぞ………!)
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- 34 : 2017/07/25(火) 21:24:27 :
さらに数日後
腐川「出来た……! 出来たわ……!とうとう…」
ついに、自分の汗と努力の結晶といえる作品が完成した。
腐川「あとは……タイトル………」
書き始めてより決めかねていたタイトル。
腐川「…………『磯の香りの消えぬ間に』……」
腐川「フフフフフフ……」
まさに画竜点睛。
文章で言うところの目がついに書き入れられたのだ。
するとその時。
呼び鈴が鳴った。この日は休日。
腐川「チッ…… 何よ……こんなときに……」
居留守を使おうとも思ったが………
腐川「誰よあれ……」
あまりのしつこさに耐えかねて扉を開けることにした。
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- 35 : 2017/07/25(火) 21:32:48 :
最原「見つけたぞ!! ジェノサイダー翔!!」
腐川「…………」
最原「…………」
霧切「…………」
腐川「は?」
霧切「本当に間違いないわけ……?」
最原「間違いない……!コイツがあの事件を…
僕を襲ったんだ!!」
腐川「ちょっと……何の話……?」
最原「間違いない! 同じ制服で……同じ顔をしたこいつに……僕は……!!」
腐川「ちょっと……!! あんまり変な言いがかりつけると警察呼ぶわよ!!」
最原「呼ぶなら呼べばいいじゃないか!!」
腐川「ち……ちょっとあんた!!」
喧騒をよそに霧切は上がり込んでいた。
霧切「ここで騒いでててもキリがないわ…… すぐに済むから」
腐川「ちょっと!! そういう問題じゃないでしょ! 待ちなさいって!!」
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- 36 : 2017/07/25(火) 21:41:16 :
霧切「お邪魔するわよ」
腐川「あんたたちいい加減に……!!」
最原「もう観念しろ!!」
言い争いをやめない二人をよそに手際よく部屋を調べ始める。
霧切「腐川冬子………あの?」
腐川「何よ……… わたしが腐川冬子だったら悪いって言うの……!?」
霧切「いいえ、驚いただけよ。これも新作?」
腐川「そうよ…… これから編集持ってくのよ……」
霧切「………楽しみにしてるわ」
しかし、彼女はこの後
さらに驚くことになる。
腐川「………って! なんであんたあたしの部屋を……!!」
霧切「これは……」
奇抜なデザインの銀色に輝くハサミ。
もちろん、一般市場の取り扱いはなく、製造された過去も製造される予定もないハサミだ。
-
- 37 : 2017/07/25(火) 21:51:55 :
- 腐川「ちょっと……何よそのハサミ…どこから…」
霧切「貴女……」
最原「決定的だな………!」
最原「さぁ… もう諦めるんだ……」
腐川「ちょっと!!一体何言ってんのよ!!」
それからはあっという間だった。
自分が警察の世話になるなどと思ってもみなかった。
「あのねぇ、君ずっとその調子で知らぬ存ぜぬを通すつもり!?」
腐川「だから…… 本当に知らないって……!!」
「知らないって言ったってねぇ…… このハサミからは君の指紋も血液反応も見つかってるんだよ!!?」
腐川「それが何だって……」
「このハサミは一般市場には出回っていないものでね。それでいてそれぞれ微妙に形が違って研磨された跡が見られる。」
「つまり、犯行に使われた世界に2つとない凶器を君が所持していたということなんだよ……」
腐川「そんなこと……言われたって………!」
「じゃあ知らないだけじゃなくて何か証言してよ! 我々はそのためにもいるんだからさぁ!」
-
- 38 : 2017/07/25(火) 21:59:26 :
- 取調室の外では
最原「あいつこの期に及んで…!」
霧切「……………」
霧切「最原君。」
最原「え?なに霧切さん……」
霧切「あなたはこの事件が本当にこれで終わったと思う?」
霧切「なぜ彼女は何も知らないのかしら?」
最原「そんなの…… あいつがとぼけてるに決まってるんだ!!」
霧切「あの時……」
霧切「わたしがあのハサミを見つけた時……彼女は本当に見たこともないという表情だったわ……」
霧切「そして取り返したり…わたしたちに何もしようとしなかったのはなぜかしら?」
最原「それは………」
霧切「ねぇ、あなたが襲撃された時の事をもっと詳しく教えてくれない?」
最原「わ……分かったよ………」
-
- 39 : 2017/07/25(火) 22:05:55 :
- 最原は事のいきさつを事細かに話した。
霧切「まるで人が変わったみたいね……」
最原「たぶん、殺す時だけはそういうテンションになるんだよ……」
霧切「そのハサミについては?」
最原「なんだか随分こだわってたよ…」
霧切「……… わざわざハンドメイドのこだわりの道具を他人に触られてあれだけ無反応でいられるのかしら?」
霧切「前もってわたしたちが来るのを予見していたならともかく……わたしはあなたに連れられて突然訪ねたのよ?」
霧切「………わたしはもう少し調べてみるから」
最原「ちょっ…… 霧切さん!」
霧切「………貴方が殺されかけたことを軽く言うつもりはないのだけど…」
霧切「探偵なら…… 最後まで真実を追い求めるべきだと思うわ。」
-
- 40 : 2017/07/25(火) 22:09:06 :
巷を騒がせた連続殺人
通称「血文字殺人事件」。
その容疑者の逮捕は世間を根っこからひっくり返したような大騒ぎ。
その喧騒と混乱のなか、彼女の初公判が執り行われる事となった。
-
- 41 : 2017/07/25(火) 22:20:56 :
- 「いよいよ始まるか……」
「あーあ… 気が重いよまったく……」
「今年の飛兎竜文 も粒ぞろいじゃないか。流石の選定眼だよ………黄桜。」
黄桜「警察に扮して改めて選定してこいなんてムチャクチャ言うよぉ…」
仁「全然似合ってなかったもんな」
仁「さて、君達は超高校級足り得るかな?」
仁「今年の飛兎竜文 諸君……」
黄桜(……何もそこまで焦る必要があるかねぇ…)
黄桜(実情は分かってるつもりだけどよ…)
-
- 42 : 2017/07/25(火) 22:28:56 :
裁判所
裁判長「では公判を開始いたします。この裁判では検察側、弁護側双方に裁判の進行の妨げにならない範囲で発言が許可されています。」
裁判長「では、被告人への質問を開始します。」
今回の裁判の様子が普通でないことは明らかだ。
2日前
最原「僕たちが裁判で発言を……!?」
霧切「…………」
黒服「そうです。今回の事件に関して重要な証言が残っているとの事なので……」
黒服「それに… 最原終一様は現に被害者であられるわけですし……」
霧切「…………あの人が考えそうな事だわ…」
黒服「申し訳ありません……」
霧切「いいわ。出るわ。その裁判」
最原「え?」
霧切「……逃げてるみたいで癪だし。」
-
- 43 : 2017/07/25(火) 22:45:30 :
- そして現在。
検察官「腐川さん。貴女は犯行時刻の間何をしていましたか?」
腐川「わ…分かりません……」
検察官「本当に何も分からないのですか?」
腐川「分からないです…… その時の記憶だけすっぽりなくて……」
検察官「記憶がない?」
傍聴席はさっそくざわめいた。
検察官「どうして犯行時刻の記憶だけちょうど記憶がないんですか! とぼけてるんですか?」
弁護士「異議あり! 検察側の質問は脅しになっています。」
裁判長「弁護側、何か質問することは」
弁護士「はい、被告人の身体検査を行ったところ… 脚部に傷が見られました。」
弁護士「形状からいって… 凶器のハサミで付けられた可能性が高いとのことですが…これについては……」
腐川「分からないです……! けど… いつの間にか1本ずつ増えてて…」
弁護士「1本ずつ増えた…?ですか」
検察官「時間のムダだ……」
検察官がぼそっとボヤいたのが最原には聞こえた。
最原(口に出して言うほどじゃないけど…
やっぱり意味があるとは思えない……)
最原(彼女が犯人なのは間違いないわけだし……)
最原(なんで君はそこに座っているんだ!)
最原と向かいになる席に霧切は座っていた。
最原(真実を追い求めるってそんな事なのか……!?)
最原「検察側から質問!」
裁判長「発言を許可します」
「なんだあれは……」
「証人?」
「なんで高校生が……」
最原「私はここで『検察側』として証言させていただいていますが… 腐川さん。私についても記憶はないのですか?」
腐川「ないわ…… ないです……」
裁判長「貴方が襲われたというのは間違いないのですね?」
検察官「えぇ、騒ぎを聞き付けた人間が被告人の特徴とよく合う人物を見かけています。時刻も彼の証言と一致します。」
-
- 44 : 2017/07/25(火) 22:53:53 :
- 霧切「弁護側から質問」
裁判長「発言を許可します」
霧切「あなたは…これまで自分の記憶と周りとの会話が合わなかった事がありませんか?」
検察官「異議あり!この事件とは関係がない!」
裁判長「弁護側の発言を許可します」
腐川「あ……」
腐川「ありました…… クラスの人間に急にテンションが高くなったとか……臭くねぇぞとか…」
霧切「そうですか…」
腐川「あとは物の位置が変わってたり……」
元々奇妙な裁判が何か妙な流れであるとギャラリーも感じ始める。
-
- 45 : 2017/07/25(火) 23:10:45 :
- 最原(何かおかしいな…… まさかこれだけ分からないっていう発言が多いのは……)
最原「検察側から質問!」
裁判長「発言を許可します」
最原「被告人。あなたが言うその記憶が合わないというのは最近始まった事ですか?」
腐川「はい…… 昔はこんな事ありませんでした」
腐川「ここ最近になって急に記憶の整合性が取れなくて……」
「なんだそりゃ……」
「とぼけてるだけだろ……」
裁判長「静粛に!」
最原(記憶の整合性が取れない……僕のことや自分が使ったハサミに関しても覚えていない……)
最原(となるとまさか……)
最原(記憶喪失………?)
最原(いやいや… そんな都合のいい記憶喪失があるわけがない……)
弁護士「被告人に質問!」
裁判長「発言を許可します」
弁護士「腐川さん貴女はもしかして……」
弁護士「記憶喪失を患っているのではありませんか!?」
ギャラリーは一気に動揺する。
裁判長「静粛に!! 被告人。どうなんですか?」
腐川「いえ… そんな事聞いたことないですし…
そもそも診断も何もしてないので……」
最原「異議あり! そんな事は判決には関係ない!!」
最原「記憶喪失中に出来た事だとしても彼女の犯行に間違いはないはずだ!!」
最原(凶器から指紋も見つかってる上に何より僕という生き残りを出した事こそあいつの誤算!!)
最原(やっぱりこんな裁判無意味だ!!)
裁判長「責任能力問題は後ほど審議いたします」
裁判長「被告人の精神鑑定の結果はどうだったのですか?」
弁護士「それが……結果が出るのに思ったより時間がかかっているようでして……」
裁判長「え……?」
検察官「バカバカしい………」
-
- 46 : 2017/07/25(火) 23:22:22 :
- 霧切「………異議あり。」
裁判長「弁護側。発言をどうぞ」
霧切「弁護側としては今回の精神鑑定はこの裁判において重大な事項であると認識します。」
最原「霧切さん……なぜ君はそんなにそこにこだわるんだ………」
霧切「記憶喪失となれば責任能力はかなりグレーなところになりますが……」
霧切「彼女が解離性人格障害であるとしたらどうでしょう?」
最原「え…?」
検察官「何!?」
裁判長「解離性人格障害…… 二重人格…あるいは多重人格者であると…?」
霧切「はい。もしそうであるならば… 殺人事件を起こしたのは腐川冬子という人格ではなく……」
霧切「被告人の体に宿る全く別の人格が犯人……!!」
「バカな!」
「なんだよこりゃ……」
もはや裁判長の言葉も全く効かないほど傍聴席のみならず会場全てが沸き立った。
裁判長「静粛に! 静粛に!!」
霧切「裁判長。さらに発言を続けても?」
裁判長「許可します。」
霧切「最原さん。彼女に襲われたというときの事を詳しく……もう一度この場で説明していただけますか?」
最原「は…はい……」
-
- 47 : 2017/07/25(火) 23:36:04 :
- 最原「私は家に帰る途中… 人通りの少ない道で彼女に襲われました…」
最原「後ろから『こんばんは』とか暢気な挨拶が聞こえてきて…口を塞がれて首にハサミを突きつけられました… 例のハサミです……」
最原「これまでと思った僕は… 彼女になぜ一連の犯行を行ったのか聞いたのです…そしたら……」
最原「『萌える』から…… その…つまり… 異性として好みであるからこれまで被害者を襲ったのだと………」
腐川「はぁ!? なんであたしがあんたなんかに萌えなきゃなんないのよ!!!」
裁判長「被告人は勝手に発言しないように!」
最原「それで… さらに僕は……お前は僕が事件を調べるから僕を殺そうとするのだろうと聞いたのです…」
最原「そしたら……『自分は殺しに対してこだわりを持っている』『こだわりのない殺しはクソだ』みたいな事を言って……」
最原「白けてしまったのか……自分を置いて去っていったのです……」
霧切「どうでしょう? 彼女の人格からは遠くかけ離れていると思いませんか?」
最原(確かにそうだけど……!)
腐川「だいたい男が萌えるから殺すってなによ……! あんたなんか道に吐き捨てられたガム以下よ!」
検察官「異議あり………!被告人は裁判が自分に有利になったので便乗しているだけだ………!!」
「裁判中申し訳ありません!!」
男が息を切らしながら裁判所に飛び込んできた。
「たった今………! 精神鑑定の結果が……!」
書類が裁判長に手渡された。
裁判長「えぇ… 結果を申し上げたいと思います……」
裁判長「厳密な精神鑑定の結果…… 被告 腐川冬子は解離性人格障害……つまり…二重人格である事が判明いたしました………!!」
どよめきはもはや収まる気配を見せなかった。
-
- 48 : 2017/07/25(火) 23:55:02 :
- 最原「い……異議あり! 二重人格が判明したからといって……『もうひとつの方』がやったとは……!」
「ならば本人に聞いてみましょう。」
「なんだ?」
「今度はなんだ?」
霧切「……………何のご用ですか?」
仁「ひとつ、提案と裁判の手助けに参りました」
仁「二重人格であり他の人格が犯人である可能性があるならもう1つの人格を呼び出せばいいのです。」
希望ヶ峰学園学園長のその男は腐川の目の前に歩み寄ると…
仁「こんな風に」
胡椒の蓋をあけ腐川の顔に振るった。
腐川「な、何を……!ぉ……」
腐川「グシュッ!!」
それっきり腐川はばったり倒れたかと思うと……
起き上がった。
「彼女」が起き上がった。
翔「呼ばれて飛び出て邪邪邪邪ーーん!!
笑顔が素敵な殺人鬼 人呼んで……
ジェノサイダー翔!!!」
「おい………」
「今……ジェノサイダー翔って……」
最原「お前は……!」
翔「あん?なんでお前がこんな所にいんのよ?
つーかここどこよ?」
翔「あん?裁判所???」
翔「なるほどねー なるほどなるほどー……
あたしとうとう捕まっちったってかー」
翔「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!」
弁護士「ほ……本当に気味が殺したのか?」
翔「そだよ」
検察官「彼を襲撃したのも……」
翔「あたしだっつの ま、途中でシラケたからやめたんだけどね」
霧切「じゃあ……彼女の身体についていた傷は……」
翔「それもあたしだっつの ほら、キルマークってヤツ?」
最原「記憶の整合性が取れなかったのは……」
翔「あぁ、ちょっとした気紛れでこの腐川冬子の通う学校に行ってみたのよ」
翔「したらコイツとんだネクラであたしが浮き巻くっちまったっつの………」
唖然。
周囲に残ったのはそれだけであった。
決着がついてしまった。
-
- 49 : 2017/07/26(水) 00:07:46 :
- 皆が唖然とする中、霧切仁が再び腐川の顔に胡椒を振るった。
仁「人格が切り替わるスイッチを見つけたのは偶然でした…… まさかくしゃみとはね……」
仁「あぁ、あとは血を見たり気絶することもスイッチのようですよ」
霧切「今回の裁判で現場写真が出なかったのも……」
仁「えぇ、そのためです……」
腐川「あれ?何がどうなったの……?」
仁「さて、私からもう1つ提案なのですが……」
仁「かのジェノサイダー翔は3人もの人間を殺し、1人を襲ったいわば快楽殺人鬼なわけですが……」
仁「もし…… ジェノサイダー翔の人格のみを完全に消去できるとしたら……?」
仁「人はそれぞれ『個人』という人格を1つずつ有しています。」
仁「ですが…… 今回の彼女の肉体には人格が二つあった……」
仁「人は肉体が死ねばその人間の人格も消えて無くなります。」
腐川「それって言うのはもしかして……」
仁「そう。彼女の肉体からジェノサイダー翔の人格のみを消し去る事ができれば……
『ジェノサイダー翔』の死刑が成立するのではありませんか!!?」
腐川「そんな事が出来るの……!? 私の身体で勝手に人を殺してた人格を消せるの……?」
仁「可能だとしたら…… どうしますか?」
仁「もっとも…… それを決めるのはここにいる方々……私は提案する立場に過ぎませんので……」
-
- 50 : 2017/07/26(水) 00:14:42 :
数ヵ月後
腐川「この手術を受ければあんたの人格は跡形もなく消えるわ……」
腐川「あんたもいよいよ…… おしまいね……」
腐川「私から言うことは特に何もないわ……」
腐川「さっさと……消えてしまえばいいわ………!」
この一連の裁判は世界で大きな反響を呼んだ。
世界初、人格の完全消去による死刑執行。
この方法が今後広く活用されれば
二重人格の片方が起こした犯行なら、もう片方の「人間」の自由や生命を奪う事なく刑を執行でき……
人格が1つしかないなら人格を無くした人間は生きているだけの人間となる。
要は電源も入るしモニターも動くファンも動くがHDDとメモリを抜かれたパソコンのような状態となる。
肉体自体は健康そのものであるので医学への転用が期待されているのだ。
-
- 51 : 2017/07/26(水) 00:24:50 :
霧切「腐川さん……いえ、ジェノサイダー翔の『人格死刑』が執行されたみたいね……」
最原「うん……」
最原「これで彼女も……平和に暮らせるといいよね……」
最原「あ、それ……」
霧切の手には1冊の本があった。
最原「腐川さんが書いてた新作だよね……?」
霧切「えぇ、そうよ。編集に出す間際で逮捕だったから…… 危うく世に出回らないところだったようだけどね……」
最原「僕も読んでみようかな……」
霧切「終わったらかしましょうか?」
最原「……いや、自分で買って読むよ………」
最原「はぁ………霧切さんには探偵として完敗だったし… やっぱり僕なんて………」
霧切「今回の事件はあなたが解決したことにしていいわ。」
最原「そんな! そんなの余計恥ずかしいじゃないか!」
霧切「違う。わたしがそうして欲しいの」
霧切「わたし、余り目立つわけにはいかないから……」
最原「ちょっと……」
霧切「嫌だって言っても押し付けておくから」
最原「わ…分かったよ…… そこまで言うなら……」
霧切「………また会う機会があったら本の感想でも交換しましょう。」
霧切「最原くん。」
最原「うん……」
-
- 52 : 2017/07/26(水) 00:33:21 :
- 学園長室
『大手柄高校生!! 連続殺人事件解決に貢献!!』
今日の新聞の見出しだ。
仁「………なるほど。やっぱりそうするか…推理ならうちの娘が1枚上手だったのだがな」
黄桜「親バカ………」
仁「まぁいいさ、どのみち3人ともいつかは我が学園に迎え入れるつもりだったしね。」
黄桜「はぁ…… 焦んのも分かるけどよ……物事の途中でこけてちゃ世話ねぇぜ……?」
仁「分かってるさ。」
仁「けど急がなきゃならないんだ……… この国…世界の希望を… 絶望から守るためにね……」
黄桜「なぁ、ところでよぉ…」
仁「なんだ?」
黄桜「あのジェノサイダー翔ってのは本当に消えちまったのか?」
仁「いや、修復可能な程度には残してあるよ。」
黄桜「はぁ?」
仁「あの『才能』も役に立つ時が来るかも知れないからね」
黄桜「はぁ……… ほんと何がしたかったの
お前……」
-
- 53 : 2017/07/26(水) 00:34:40 :
腐川「クシュンッッ!!」
End
-
- 54 : 2017/07/26(水) 00:36:05 :
- 35分遅刻……
本当に申し訳ありませんでした……
-
- 55 : 2017/07/27(木) 10:25:44 :
- お疲れ様です。腐川さんとジェノのキャラを十二分に活かした素敵な作品でした。彼女が逮捕されたあたりからどうなるのかと思っていましたが事なきを得たようで安心しました
- 著者情報
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