このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
Cross The Rubicon
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- 1 : 2017/07/16(日) 00:10:00 :
- ルビコン。
この度、『チームコトダ祭り』に参加させて頂いております。
・チームとメンバー
『奴隷と愉快な仲間たち』
Deさん (チームリーダー)
私
カラミティさん
シャガルT督さん
影さん
『皆殺し』
タオさん (チームリーダー)
ノエルさん
ししゃもんさん
ライネルさん
スカイさん (豚)
『真山田組〜追放される空〜』
ベータさん (チームリーダー)
風邪は不治の病さん
Ut4m4r0さん
たけのこまんじゅうさん
フレンさん
ジャンルは「日常」、
キーワードは「疑心暗鬼」です。
おそらく強敵揃いでしょうが、私のやれることを精一杯やります。
あと、思いっきりネタバレ入ってますので注意してください。
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- 2 : 2017/07/16(日) 00:11:13 :
オレが───、
どいつも──────。
『ダンガンロンパ』───の───に───。
百田──────。
「しゅう……いち?」
目を開けた途端、太陽の光が視界を白く染めた。
雲ひとつない、突き抜けるような青空。
キラキラと光り輝く砂浜。
アクアマリンとサファイアを無作為に敷き詰めたような海。
肌を刺すような熱い日射。
「な…………!?」
超高校級の宇宙飛行士・百田解斗は飛び上がった。
ここは、どこだ。
この穏やかで平和な世界は、どこなんだ。
だってオレは。
才囚学園でコロシアイを強いられて。
天海が赤松が星が東条がアンジーが茶柱が真宮寺が入間がゴン太がいなくなって。
オレは──────。
「おや、目を醒ましたネ」
耳の内側にへばり付くような、ねっとりした声音。
オレはこの声を知っている。
だが、その声はもう二度と聞くことのできないもののはず。
…………なのに。
露出の少ない長袖のシャツに黒いマスク。髪を結った真宮寺是清は確かにそこに在 た。
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- 3 : 2017/07/16(日) 00:11:45 :
「お前……な、何で」
「『何で』……?如何云う意味かナ」
「だってお前は……」
「百田君、目が覚めたのね?」
つい身を委ねたくなる、温もりのある声。
だがその声の主は、もういないはず。
それなのに、黒いビキニを着た東条斬美はそこにいた。
真宮寺とは対称的に、こんなにも肌を露出した彼女を見るのは初めてだ。
こうしてみると、かなり美しいプロポーションである。
「な、何でだ!?何でお前が……」
「私がどうかした?」
「いや、どうもなにも……!!」
「お前も真宮寺も、死んだはずだろ!?」
オレは、少しだけ回答を待った。
しかしそれは望んでいた結果にはならなかった。
「何を言っているの?私はこうして生きているわ」
「僕もだヨ。物騒なことを言うんだネ」
オレは俯いて首を横に振る。
ええい、くそ。
お前らと話していても、ラチがあかない。
誰か、いないか。
終一、ハルマキ、王馬。誰か。
「あ!百田くん!もう大丈夫なの?」
現れたのは、赤松楓だ。
死んだはずの赤松が、終一と夢野と共に駆け寄ってくる。
「びっくりしたよ……あんなにはしゃいでたのに突然熱中症だなんて」
「終一!!どういうことなんだ!?」
「え、何が?」
「んあ……?お主、下の名前で呼ばれたのは初めてではないか?」
「???」
頭がさらに混乱する。
「あれー?百田ちゃん起きちゃったの?馬鹿っ面に思いっきり落書きしてやろうと思ったのにさー!」
市松模様の海パン姿で砂浜から馬鹿っぽいスキップで現れた王馬。
普段ならば腹を抱えてその姿を笑うところだが、そんな気にはなれなかったしそんなことをしている場合ではなかった。
「王馬!!どういうことだよ!?なんで赤松や真宮寺が生きてる!?」
「つうかここは何処なんだ!?オレたちは才囚学園でコロシアイを強要されて!!」
「学級裁判で……その……しょ、処刑されて……!!」
「なあ終一!!お前も」「百田くん……」
「なんだか、すごい夢を見てたみたいだね………」
自分自身の表情ってのは、鏡がなければ見られない。
だが、何故だか今の自分がどんな顔をしているのか分かってしまった。
まるで、そう。自分の家が火事で燃え上がるのを、目の前で見ているような。
大切なものが灰と化して失くなるのを、何もできずに見ているような。
まるで、そう。唯一無二の親友に裏切られたときのような。
信じていた絆が手で掬うこともかなわずに剥がれ落ちていくような。
喪失感、無力感、絶望感。
そんなものに満ちた顔だ。
「随分……すごい夢だね?私たちが殺し合いなんて……」
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- 4 : 2017/07/16(日) 00:13:14 :
百田の容態を心配していた最原の目は、捨てられた子猫を見るような憐れむ目に変わっていた。
それでも、百田は諦められなかった。
終一は、見たはずだ。
目の前で想い人が何度も首を締めつけられ、終いには串刺しにされるその様を。
あのときの心の痛みを、悲しみを、忘れたとは言わせない。
忘れてはいけないんだ。
どんな目をされようが、何を言われようが。
「違え!!夢なワケあるか!!オレたちは……」
「じゃあさ、どっちがいいの?」
「……何?」
「百田ちゃんはそのナントカ学園でオレらとコロシアイしてたんでしょ?」
「赤松ちゃんも星ちゃんも入間ちゃんも死んで他にも合わせて半分くらいいなくなっちゃったんだよね?」
「でもココには……コロシアイもなけりゃ茶柱ちゃんも生きてるし、東条ちゃんも真宮寺ちゃんもこのとおりだよ」
「ピンピンしてるヨ」
「ほら、本人も言ってるし。ココじゃ全てが平和で、全てが生きてるんだよ」
「そのナントカ学園の世界と現在 のこの世界。百田ちゃんはどっちがいいの?」
どっちが、だって?
あの学園で俺たちは大切なものを見つけたんだ。
悲しみ、絶望、苦痛を乗り越えて。
その先の希望を、未来を。
「………………どっち、が」
赤松はオレたちを信じた。
けど、赤松が信じた未来にはならなかった。
東条は、オレたちを犠牲にしてでも自らの使命のために醜くとも薄汚くとも生き延びようとした。
けど、彼女の帰りを、彼女の命 を待つ者はもうどこにも存在していなかった。
真宮寺は、己が唯一信じる愛 のために動いた。
けど、その行動にはなんの意味もなかった。
ゴン太は、オレたちを『救済』しようとして…………。
天海は、どんな気持ちだった?
星は、どれほどの無力感を感じていたのだろう。
アンジーは、オレたちをどうしたかった?
茶柱は、何を思って逝ったんだ?
入間の行動や思考は、人として正しかったのか?間違ってたのか?
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- 5 : 2017/07/16(日) 00:16:05 :
片や、この世界は?
赤松はみんなと友達になってる。
東条は相変わらずみんなから好かれてる。
アンジーが何もしなくてもみんな笑い合って手を取り合ってる。
王馬の言う通り、コロシアイなんてない、平和な世界。
オレたちが喉から手が出るほど欲しがってた、平和な世界。
「おいおい!聞き捨てならねーな!」
いつの間にかみんな集まっていた。
大胆な水着で男性を刺激する入間がオレに指をさす。
「おめーはこのオレ様に死んでほしかったってのか?」
「そ、それは」
「まぁオレ様は天才だからな〜!いくらおめーが世界初の高校生宇宙飛行士だった男でもこのオレの前では霞んじまうしなぁ〜」
「違っ」
「あ〜まさか!!そのナントカ学園ではおめーがオレ様を殺し───」
「なわけねぇだろうが!!!いい加減にしやがれ!!!!」
腹の底から叫んだ。
入間は「ひっ」と悲鳴をあげる。
しまった、と思った。
「な、なんだよぉ……冗談に決まってんだろぉ…………そんな怒らないでぇ…………」
「わ、悪ぃ、言いすぎた」
「で?クソビッチちゃんのことはどォーでもいいからオレの質問に答えてくれる?」
「この世界とコロシアイの世界、百田ちゃんにとって真実はどっちなのかな?」
「真実は……」
──────砲丸。
──────誰も知らない首謀者との戦い。
──────ロープウェイ。
──────その背に負った使命。
──────『かごのこ』。
──────最愛の人への贈り『者』。
──────異世界での殺害計画。
──────人知れず起きた悲劇。
──────そして。
「そりゃあ…………もちろん、こっちだよ……。そうだ、コロシアイなんて……あまりにもリアルな夢だったからちょっと混乱してたんだ」
そうだ。
そう、そう。そうなんだよ。
あれは悪い夢だったんだ。
こっちがオレたちの世界、オレたちの日々だ。
オレとしたことが、夢の中の出来事に何をムキになっていたんだか。
「まったく……びっくりさせないでよね」
ハルマキが安心したように呟いた。
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- 6 : 2017/07/16(日) 00:17:42 :
「ドッキリにも程があるよね〜!あ、百田ちゃん、ココがどこだか分かる??」
「そ、そんくれぇ分かるっつーの!つーか、もう目ェ覚めたって!なァ!」
みんながオレと王馬のやりとりを笑う。
そう、ここはジャバウォック島。
オレたちが希望ヶ峰学園在学中、修学旅行で行った観光地だ。
希望ヶ峰学園を卒業後、最も忙しかったオレと東条の休暇の被りに合わせて大学組がこの旅行を企画してくれたんだ。
久しぶりに会ったみんなは、変わっている者もいれば全く変わらない者もいる。
大学組の終一・天海・赤松・ハルマキはほとんど変わらない。
天海はこの暑さのせいか、オレの記憶の中のコイツより少し肌が焼けている。
「春川ちゃん、夢野ちゃんレベルにぺったんこだったのにデカくなったんじゃない?何がとは言わないけどね!」
「……殺されたいの?」
「さりげなくウチをディスるな王馬〜!」
東条も相変わらずといった感じだ。
依頼とあらば地球の裏側だろうと飛んでいるのだろう。
アンジーと夢野もそう。
世界中で講演やら美術展やらと引っ張りだこだ。
オレは今、宇宙飛行士として正式に訓練している。
あの頃からあまり変わりない気がするな。
打って変わって、王馬なんてあんなに小生意気だったのに今や終一と同じくらいまで背が伸びてやがる。
口が達者なところが変わらないのは、ある意味そっちの方が安心かもしれない。
「にしても王馬くん、背伸びたよね」
「そうでしょ?最原ちゃん越しちゃうよ〜?」
「うっ……君にだけは越されたくないな」
ゴン太はボサボサだった髪をバッサリ切ってキッチリ整えて、本当の紳士のようだ。
茶柱は夢野に少し似たショートヘアになっている。
本人をリスペクトしてか、はたまた邪魔だから切ったのか。『男死』である俺の口からは到底聞けそうにない。
こいつ確か泳げなかったはずだが、今はどうなんだろう?
入間は見た目はどこか小綺麗になったが……。
「ケッ、何が悪い夢だ。キーボでもそんな縁起でもねぇこと……あ!オメーはロボットだから夢は見ねえか!」
「一年の時を経て入間さんもロボット差別を!?」
まぁやっぱり入間は入間だ。
真宮寺は…………こいつは…………今何をやってるんだろう……??
ちなみに星とキーボはテレビで大活躍してる。
オレたちが中学時代に憧れた、あの頃の星だ。
キーボは軽量化を計ったのか、在学中よりボディがスマートになっている。
やはり『超高校級』というステッカーを持っていた集団だ。
一癖も二癖もあったその土台は各自今も変わらずに在り続けている。
それがここに集まったそれぞれを安心させているのも事実。
必ずしも成功して結果を出せているわけではないが、大方元気そうだ。
この島に行くというよりも、また誰一人欠けることなく15人で集まれたことが何より嬉しかっ………15人?
「なぁ、しゅう……最原」
「ん?どうしたの?」
「オレたちって……15人だったっけ?来れないやつとかいなかったか?」
「何言ってるの。元々15人じゃないか」
「あ、ああ……やっぱ、そうだよな」
なんだろう、なんか、なんか違和感がある。
誰か、もう一人いたような───。
『ダンガン───。
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- 7 : 2017/07/16(日) 00:21:08 :
皆が楽しそうに海辺ではしゃぐ。
オレはまだ安静にしてた方がいいという理由でパラソルの下を余儀なくされた。
「オメーは行かなくていいのか?」
「俺はいい。はしゃぐような歳でもねぇしな」
見た目に反した声と態度。
星は変わったようで変わらない。
けど、変わらないようで変わった。
「なあお前、何で復帰しようって考えたんだ?」
「ん」
星は全てを失って、テニスを手放した。
テニスボーイ達の憧れだった男は、一度い失 くなった。
オレもヘタレになっちまった星を見て落胆したものだ。
在学中だってテニスをしているところなんてほとんど見たことがなかった……はず。
その星が、卒業して現役に復帰した。
一度全てを失ってた男が、立ち上がった。
「まぁ……大したもんじゃないさ」
「もしかしたら俺を待ってる何かがあるかもしれない、と」
「……そう思っただけだ」
「……そうか」
「百田君、ちょっといい?」
太陽光に反射する刃のように、白い肌をきらつかせながら東条がこちらへ向かってくる。
「BBQの準備をしておきたいのだけど、よかったら手伝ってもらえないかしら」
「おう、任せろ!」
「俺も手伝うか?」
「いいえ、星君はゆっくりしていて」
星はフッと静かに微笑んだ。
薄いレースのワンピースに着替えた東条はダンボールを取り出していく。
「なぁ、東条」
「なに?」
「オレたちって、希望ヶ峰学園を卒業したんだよな」
「そうよ。貴方号泣してたじゃない」
「あ、まぁ、そうだったな確か。俺たちって15人だったよな?キーボも入れて」
「ええ、そうよ。またさっきの夢の話?」
「いや、なんかさ、1人足りないような気がしてるんだ……気のせいだよな?」
「他に誰がいるって言うのよ。先生は忙しいでしょうし」
違うんだって。
夢だって。
さっき、みんなの前でそう喋ったろ。
そうだよ、今言われて思い出した。
卒業式の日、めちゃくちゃ泣いたんだ。
じいちゃんもおばあちゃんも来てくれて、みんなの両親も来て。
みんなでまた会おうって誓っただろ。確か。
1つ目のバーベキューグリルをサッと組み立てて砂浜のひらけた場所に運んだ。
「ま、こんなもんか」
キャンプチェアとパラソルも用意して、材料を運ぶ。
準備はバッチリだ。
「お、いい感じっすね」
濡れた前髪をかき上げながら天海が現れた。
「もう少ししたら、皆を呼んでくるっす」
「ええ、お願いするわ」
「なぁ、天海」
何か、言おうとしたはず。
だが、彼が振り返ったときそれは忘却の彼方へ飛んだ。
「……いや、やっぱりいい」
「そうっすか?」
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- 8 : 2017/07/16(日) 00:22:34 :
「お、肉だ肉だー!」
アンジーが駆け寄ってくる。
皆もつられて肉の焼ける匂いに集まってくる。
「んあ〜!美味そうじゃのう……」
「夢野さん、野菜も食べなきゃ駄目よ?」
「わかっとるわ〜!いつまでウチを子供扱いするんじゃ!!」
「夢野ちゃんは身長もブスさも変わんないから仕方ないね!!」
「たまたま身長伸びただけの奴が調子に乗るでない〜〜!!」
「夢野さんはブスではありません!!小さくても心は人一倍です!!」
「フォローになっとらんぞ転子ォ〜!!」
4人のやり取りに皆が笑う。
「へぇ……天海君、焼くの上手いネ」
「ゴン太もそう思う!東条さんのと同じくらい美味しいよ!」
「まあ、昔結構やってたんで。よければ空いたグリルで魚も焼くっすよ」
オレはグリルからは少し離れたところにいた。
ここなら、皆が見える。
笑う者、笑われる者、フォローする者、焼く者、食う者、褒める者、そして、楽しむ者。
『夢』じゃない。
みんなが楽しそうだ。
『本当』の笑顔なんだ。
───嗚呼。
トパーズ色の夕焼けをバックに、皆のシルエットが無邪気に動いている。
───楽しいなぁ。
こんな日が、ずっと続けばいいのにな。
「さて!もう夜だねー!」
BBQの片付けを一切手伝わなかった王馬が星空を見上げて言う。
「そろそろコテージ戻ろっか」
ハルマキが立ち上がる。
他の何人かも賛同して動き出した。
俺も皆について歩く。
コテージ。
一人ひとり用意されてたはず。
「じゃ今日はもう自由行動だネ」
言うと真宮寺は自身のコテージにそそくさと入っていった。
「……あら?」
「東条さん?どうしたの」
「着火器具 がないわ……グリルと一緒にしまっちゃったのかしら」
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- 9 : 2017/07/16(日) 00:23:32 :
「ここがオレのコテージか」
広くも狭くもない自分の箱に入ると、オレはベッドに身を投げ出した。
今日はなんだか、疲れた。
楽しけりゃその分疲れる。体育祭みてーなもんだな。
「体育祭……」
希望ヶ峰学園に体育祭ってあんのかな。
いやいや、「あんのかな」じゃなくて。
元生徒だろ、オレ。
忘れたのかよ。一年間の中でも思い出に残るイベントだろう。
種目は?何に出た?
わからない。
思い出せない。
何故か?それは。
体育祭なんてやってないから。
何故か?それは。
希望ヶ峰学園なんて存在しないから。
『ダンガンロ──────。
「ああ!!もう!!」
オレは自分の両頬をパチンと挟み込むように叩く。
「あれはオレが見た夢だっつってんだろ!!」
テーブルに置いてあった人形を咄嗟に壁に投げつけた。
瞬間、我に返る。
壁は無事か。人形は無事か。
人形?
つい先ほど自分が投げた人形を手に取る。
熊。 クマ。 bear。
半分は黒、半分は白。
メモリで変身するライダーのようなデザインだ。
こいつ、どっかで見たような……?
「百田くん、なんかした?」
おっと、オレは鍵を閉め忘れたようだ。
隣のコテージの赤松が突然入ってきた。
「なんかすごい音したけど……」
「いや、何でもねぇ、寝ぼけてたわ」
そんなにデカい音がしたのか。一瞬のことだから気が付かなかった。
「あれ、その人形……?」
「ん?」
「それ、どっかで見たことあるような……まぁいいか」
何ともないならいいや、と言わんばかりにヒラヒラと手を振ってスマイルで立ち去った。
意識していなかったが、ああやって見るとなかなかイイ女である。
「さて、寝るか……」
鍵をしっかりかけて電気を消す。
『ダン──────。
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- 10 : 2017/07/16(日) 00:24:32 :
「んー……」
寝覚めの悪い朝。
何か悪い夢を見ていた気がする。
とりあえず、起きるか。
オレはぐっと背伸びして、『朝』を浴びる。
「『今日も一日がんばるぞい』……ってか?」
ドアを開けた瞬間。
「おっはよーーーーーーーー!!!!!!!!!朝だよーーーーーーーー!!!!!!!!起きてーーーーーーーー!!!!!!!!あ!!もう起きてるかーーーーーーー!!!!!!!」
朝の静寂も相まって余計にクソうるさい声。
「王馬……朝っぱらから何の用だよ」
「えーひどいなぁ!遅いから迎えに来てあげたんじゃん!!」
「遅……?あっもうこんな時間だったのかよ」
「早くしないと東条ちゃんの料理冷めちゃうよー?」
「そいつは大変だな、んじゃ早く行くか」
歩き始めると、王馬がオレのコテージの前から動いてないことに気が付いた。
「おい王馬?行くんじゃねえのか?」
「……いーや、予定変更。百田ちゃん、ちょっとオレと散歩しようよ」
「飯が冷めるぞ」
「東条ちゃんのメシは冷めても美味いって!オレについてきてよ、いいモン見せてやるからさ」
変な方向に歩き始める王馬に渋々ついていく。
途中王馬の携帯が何度か鳴ったが、こいつはそれすら気にも留めず歩き続けた。
……こいつ、昨日より背縮んだか?
「ここは……」
「にししし。懐かしいね!」
辿り着いた場所は、2年前にも皆と見上げた大きな『遺跡』だった。
「懐かしいな……相変わらずデケェし」
「相変わらず風格あるよね!」
それで、だ。
まさかこいつは、オレにこの遺跡を見せにきたわけではあるまいな。
「で、いいモンはどこにあんだよ」
「ここ」
王馬が指差したのは遺跡の入口。
何か……書いてあるな?
それは、どこにでもあるようであんまり見かけない感じの、ただの文字列。
「……『11037』?」
見覚えのあるような、ないような……。
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- 11 : 2017/07/16(日) 00:25:24 :
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「これの何が面白いか、わかる?」
オレはその5桁の数字から目を離さずに考える。
「これ……新しいな。最近傷付けられたような痕だ」
「正解!2年前なこんなもの無かったしね。オレらが来る前に誰かが刻んでいったってことだよ」
アッサリと言うが、不思議なものだ。
誰が何のために、こんなものを?
もしかして、オレに何かを気づかせるために──────。
当選──────。
どいつも──────殺し──────。
最凶──────最狂──────。
「ねえ、百田ちゃん」
「オレらがここに来たことと、この文字」
「君は偶然だと思──────」
その声は、おうい、とこちらを呼ぶキーボによってかき消された。
「二人とも、こんなところにいたんですか!みんなが心配してますよー!」
「わりぃ!今行く」
王馬が何か話そうとしてるのは分かった。
後で聞かなくちゃな……。
「ロボットは1年経っても空気読めないねー」
オレの後ろで小声で呟く。
「懐かしいですね、あの遺跡」
並んで歩くキーボが話し始める。
「みんなであれを背景 に写真撮りましたね」
「そうだったな」
そうだった……よな?
殺──────。
『ダン──────。
この後オレと王馬は滅茶苦茶怒られた。
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- 12 : 2017/07/16(日) 00:28:36 :
その日は、遊園地へ行った。
オレはいろいろ思うところがあったが、純粋に楽しむことにした。
みんなでジェットコースターに乗ったり、
機関車に乗って謎解き部屋に行ったり、
コーヒーカップに酔ったり。
「百田くん、大丈夫?」
「大丈夫だ……宇宙に轟くんだからこれくらい……」
「なんか百田くん、体調悪いね」
さっきとは違う声音。
その場の具合より、持病とかを心配するような。
アイスを持ってきた終一とベンチに座る。
目の先ではキーボが王馬と入間に捕まって2回目のジェットコースターに連行されようとしている。
「みんなあんまり変わってなくて、なんだか安心したね」
「ああ。なんつーか、いつもの皆って感じだよな」
いつも知ってる横顔なのに、なぜか少し懐かしい。
当然か。1年も会ってないとこんなもんだろう。
「しゅ……最原はどうだ?大学とかよ」
「大変だよ……授業もそうだし、テストやらレポートやら……人間関係もそうだし」
「へっ、だろうな。大学でラクできると思ってると痛い目みるぜ」
確か終一は文系だったか。
余計に大変だろうな。
「それに……その中で『依頼』もこなさないといけない」
「お!お前もついに一人前の探偵か〜!さすがオレの助手だ!」
「……助手?」
まただ。
今朝の夢は忘れたくせに、あの夢のことはまだ鮮明に覚えている。
語れるくらいに記憶の底にへばりついてる。
「わりぃ、忘れてくれ」
「百田くん、まだ夢見てるんじゃない?」
「そんなわけ───」
そんなわけ、ないのか?
本当にあっちが夢?
本当はこっちが夢?
コロシアイ?
ダマシアイ?
学園?
南国?
嘘?
真実?
攻め?
受け?
『ダンガン──────。
「───ないだろ。だってお前がいて、皆がいて、この島があるんだから」
『ダ──────。
夕方になると皆遊び疲れて、エントランスに集まっていた。
「また、皆で写真を撮りませんか?」
帰る前にキーボが提案する。
「うん、いいと思う」
「そだねー、撮っちゃおっかー!」
「いいっすね。また思い出を形にしましょう」
「では皆さん並んでください。より高画質に進化したボクの写真機能で撮影します!」
在学中、入間に付けてもらったキーボの撮影機能。
イベントの度に世話になったっけ。
進化したと称するくらいだから、卒業してからも最先端の技術で改良されてきたのだろう。
「すっげー!夢野ちゃんのブスっ顔 がハッキリ見えんじゃん!」
「やかましい!ウチは写真映りが良くないだけじゃー!」
「すごいわ。ピントを合わせてない背景のほうまでくっきりよ」
「ホテルに戻ってから全員分コピーして渡しますね」
「……ケッ、オレ様が機能を付けたからこそ改良って選択ができたんだろ」
入間がオレの後ろでボソッと愚痴 いた。
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- 13 : 2017/07/16(日) 00:30:28 :
遊び疲れて眠った次の日の夜。
オレは遺跡に向けて足を動かしていた。
「……ん?」
蔦や枯れ木が絡み合う遺跡の入口に、人影が見える。
「……おや、珍しいネ」
「真宮寺」
真宮寺はオレが王馬と見た11037という数字の列を見ていた。
「気になるか?それ」
「非常にネ。一体誰が何の目的でこのメッセージを残したのか」
「そもそも、何に対してのメッセージなんだ?」
「さぁね……ただ」
「ただ?」
「是 を刻んだ人は、恐らく一秒でも早くこのメッセージの意味に気付いてほしいンだと思う」
「……多分ネ」
オレは、少しだけ考えてから口を開いた。
「なぁ、真宮寺」
「この世界は……現実か?」
オレが当選──────。
どいつもこいつも──────。
『ダンガン──────。
自意識過剰かもしれないが。
もし、その何に使うかわからない数字がオレに宛てられたものならば。
「……百田君」
反応ができなかった。真宮寺 がヒョロヒョロの男だったから油断していたのかもしれない。
鞭の如きリーチを誇る真宮寺の右腕で思いっきり顎を殴られたオレは、オレふたり分くらい後ろに吹っ飛んだ。
「痛っつ……何しやがる!!」
「君は今超能力で痛みを感じた訳じゃない。況してや、魔法で吹っ飛んだわけでもない」
「僕の右拳という物理攻撃に拠 って、物理法則の儘 に吹っ飛んだんだよ」
「これが、非現実的かい?」
「……いや、けど」
「まぁ今のは最近君が余りにも莫迦みたいなこと云いだすから少し苛立ったっていうのもあるンだけど」
「百田君、キミ如何 かしてるヨ。此処は皆で楽しく平和に過ごす場所なんだ……其れに対して水を差すつもりかい?」
「君の心配をしてくれる最原君や星君はまだ善いとして、下らない妄言に僕等まで巻き込まないでくれるかナ」
「……悪ィ」
「それとも君は、君が見た悪夢のような世界の方が良いって思うの?」
「そんなわけあるか……ただちょっとリアルな夢で疑心暗鬼になってたんだ」
オ──────。
どいつ──────。
『──────。
「何してるんですか?百田クン」
「……と、真宮寺クン」
スリット部分を光らせて少し眩しいキーボ。
何のためにここに。
「キーボ君?何の用だい?」
「この遺跡の『文字』を見に来たんです」
「君もか……其処にあるよ」
オレが立ち上がると同時に真宮寺がそこを指差す。
「これですか……なるほど確かに最近刻まれたようですね……傷が新しい」
「クク……不思議だよネ。一体誰が何の為に記したのやら……」
それだけ言うと真宮寺はゆっくり立ち去っていった。
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- 14 : 2017/07/16(日) 00:33:22 :
キーボはまじまじと刻まれた文字を見つめ、額を抑えて何か考えている。
「ダメですね……ボクのメモリーの中にも一致するものや関連性のあるものが何もありません」
「お前、この文字のこと誰から聞いたんだ?」
「王馬クンです」
あいつか。
大方、お前にとって大事なものがあるだとか、キーボをからかう意味で余計なこと吹き込んだんだろうな。
「ゴン太クンにも教えてましたし、王馬クンはこの文字に何かを見つけたのかもしれません」
そういえばあいつ、この前なにか言いかけていた。
何か……気づいたのかもしれない。
明日にでも、もう一度話を聞きに行くか?
「う〜ん……もっと過去のメモリーを探ってみましょうか」
「そのメモリーってよ、2年前の修学旅行のもあんのか?」
「勿論!皆さんとの大事な思い出が詰まってます!」
「その時の写真あったら、ちょっと貰えねぇかな」
任せてください、というとキーボは口からシャッと一枚の写真を吐き出した。
「…………」
その写真を手に取ったとき、オレの身体に衝撃が走る。
いは うま
「なぁキーボ」
「何ですか?」
こ かいは うま
「俺たちは、最初から15人だったか?」
こ せかいは うま もの
「そうですよ。全員でまたこの島に来れたじゃありませんか」
このせかいは うま いもの
「そうか」
「はい。どうしたんですか?百田クン。最近変ですよ」
「なんでもない。んじゃ、また明日な」
「ええ、おやすみなさい!」
すく でもな
「明日があればな」
このせかいはすくうまでもないもの
『この世界は救うまでもないもの』
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- 15 : 2017/07/16(日) 01:25:08 :
翌日の夕方。まだ水色の空が残っている。
明日には帰る、というときだ。
普通なら、「いや〜楽しかったね!」「うん!またみんなで集まりたいな」なんて会話を周りが交わしている頃だろう。
オレらを取り巻く雰囲気は、最悪だった。
それは、誰のせいだ?
それは、オレのせいだ。
「話したいことって、何なの?百田くん……」
赤松が怪訝な表情で物語を進める。
オレは赤松の目をしっかりと見ながら頷いた。
中央公園、像をバックに、14人に向けて語りかける。
「言おうかどうか、正直迷ってた。明日にはそれぞれの生活に帰るんだからな」
「けど、その後じゃもう取り返しのつかないような気がしたんだ」
「だから……楽しかった日々の、この最後の日で本当に悪いと思ってるけど、でもここで言わなきゃいけねぇって思った」
「そんな前置きどーでもいーよ」
王馬が茶々入れる。
「みんなをここに集めた要件をさっさと話せって、赤松ちゃんはそう言ってるんだよ」
「いや、そこまでキツくは言ってないけど……けど話したいことがあるならやっぱり一人で抱えてちゃダメでしょ?」
「……続けるぞ、王馬」
二人の会話を遮断するようにオレはまた話し始めた。
「みんな知ってると思うが、オレは2日目の昼間、熱中症か何かでぶっ倒れて、そのときに夢を見た」
「みんなが殺しあう夢……だったよね」
「ああ」
終一の問いに頷く。
「あの夢の記憶が、今も鮮明に脳に残っている。なかなか落ちない油汚れみたいにな。だからオレは、あの夢が本当に夢なのか未だに疑ってるんだ」
「夢に決まっておろう。ウチはここに来てから幻属性の魔法は使っておらんぞ」
「夢野、ちょっと黙ってろ。真剣な話だ」
「んああ……」
少し落ち込む夢野を気にも留めずに続けた。
「だからまぁ、何て言うか」
「確かめたいんだよ、この世界が本当に現実なのか」
「立証したいんだ、あの世界は本当にただの夢だったのか」
もし向こうの世界が夢だったとするならば、疑問が生まれる。
オレが抱いている疑問を、すべてこいつらにぶつける。
それを全部解決することができれば、自分が間違っていたことになる。
そうでなかったら……やはり、この世界が間違っていたことになる。
「はじめるぞ」
覚悟は決めた。
オレは、ルビコン川を渡る 。
オレ───、
殺し──────。
『ダン─────────。
-
- 16 : 2017/07/16(日) 01:25:55 :
「てか、何がそんなに疑問なのよ」
ハルマキが溜め息まじりに問う。
何がって、何がって。
逆に何故、疑問に思わない。
「ハルマ……春川、ここはジャバウォック島なんだよな」
「じゃなきゃ何処なのさ」
「2年前からずっと観光地だよな」
「そうだよ」
「なら『何で』『人が誰もいない』んだ」
「えっ?」
そら見ろ、意表を突かれたような顔したぞ。
「おかしいよな?今は夏で、ここは観光地だ。観光客の一人や二人、いや、10人いてもいいくらいだ」
「それなのに旅行者ときたらオレら15人しかいない」
「それどころか!ホテルにだって遊園地にだって!」
「スタッフの一人もいなかったじゃねぇか!!!!」
そう、これが第一の疑問点。
客が誰もいない。
売店に店員はいなかった。
ホテルにも支配人はいない。
シェフもいないから料理は東条が作ってた。
遊園地にスタッフはいない。
電気街にも工場にも、誰一人。
誰一人として、いなかった。
ならば、この島はどう観光地として成り立っている?
大学組はどうやってこの旅行を企画した?
ホテルの予約なんかはどうした?
誰に、何処に電話したんだ?
「どうした、何で誰も答えない」
「しゅ……最原、春川、赤松、天海。企画したのお前らだろ」
「ホテルをとるには、電話かメールかで申し込んだんだろ?ならそれは何処の誰にしたんだ?」
「それ……は……」
4人が互いに顔を合わせあう。
「忘れたの?もぉ〜無責任だな〜」
王馬が再び茶々を入れた。
「でも、実際電話したからゴン太たちはここにいるんじゃないの……?」
メガネの位置を調整したゴン太が精一杯のフォローをする。
人がいない。
それはもう一つの疑問へと結びつく。
道端で偶然小さなゴミを見つけたらその先にもゴミがあって、またその先にもゴミを見つけるように、疑問から次の疑問が見えてくる。
そう、それは───。
「なら、ゴン太」
「オレたちは『どうやって』この『島に来た』んだ?」
「それは……空港に駐まってる飛行機でしょ?」
「誰が運転したんだよ」
「パイロットの人が……あっ」
そんなやつ、いねぇじゃねぇか。
どうやってオレたちはこの島に来たんだ。
さっきもそうだが、何もハルマキやゴン太だけに聞いてるわけじゃない。
なのに、何故誰も答えられない?
オレが───、
どいつ────殺し──────。
『ダンガン──────。
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- 17 : 2017/07/16(日) 01:26:59 :
「きっとこの中の誰かが運転したんですよ!」
茶柱が言う。
ゴン太の方がまだ理解力があるという事実に気づいてしまって少し悲しい。
「じゃあ誰が運転したんだよ。オレか?東条か?天海か?」
「えーと……そ、それはわかりませんが!」
「馬鹿か!!大体、飛行機に搭乗したときに全員客席にいたとか誰か一人離れたとか分かんだろ!!」
「まさか寝ながら搭乗したわけじゃあるめぇし、離陸するまで全員席にいたんならオレたちは誰も運転できねぇじゃねぇか!!」
「ちなみに私は旅客機の運転は無理ね。ヘリならばできるけれど」
「俺はクルーザーはイケるけど空はどれも無理っすね」
東条、天海が一緒に突っ込む。
「春川ちゃんとか?変な免許ばっか持ってそうじゃん」
「私を何だと思ってんのアンタ……殺されたいの?」
「!」
そうか。
この島のことより先に確認しなくてはいけない疑問があったな。
「春川、お前希望ヶ峰を卒業したんだよな。超高校級の『保育士』として」
「そうだけど……何よ急に」
「お前が本当に超高校級の『保育士』として入学して卒業までしたのであれば」
「その口癖 が『お前』の口から出てくるのはおかしいんだ」
「は?ちょっと何よ?黙って聞いてりゃイミワカンナイんだけど」
まずいな、言いすぎたか。
ハルマキがブチ切れてしまった。
「大体アンタ、何がしたいのさ。旅行ブチ壊すためにわざわざアンタが偶然見たどうでもいい夢の話をしにきたの?」
「あんなにはしゃいでたクセに、あんなに騒いでたクセに、今は何?私たちが集団でアンタに嘘ついてると?」
「アンタが信じてるものって、何なのさ?」
「私たちじゃなければ、何なの?」
信じてるもの。
信じるもの。
信じたいもの。
「オレは……本当はお前らを信じたい」
「それぞれの帰路に岐れるその瞬間まで一緒にいたい、共に笑いたい、幸せでありたいし幸せでいてほしい。そしていつもの日々に戻り、たまに連絡とったと思ったらくだらない話で笑いあって、また休みがとれたらこうして会いにいって。このまま何事もなくそんな日常に帰りたい」
「けど、そうなるためには超えなくてはならない壁があり、それを超えるための段取りがある。お前らを信じて、オレ自身も日常に戻るために、確かめなければならない」
「お前らを信じているからこそなんだ!!だからこそ、俺の夢はなんかの間違いだって、この世界が紛れもない真実だって!!オレが証明したいし、オレに証明してほしいんだよ!!」
「この平和な世界が、帰ってくるべき日常が、本当だって信じられるまで!!あの最悪な夢の世界がオレの中から消えるまで!!何度でも何度でも議論して真実を暴きたいんだ!!」
オレが当選───、
どいつも───殺しま──────。
『ダンガンロンパ───────。
-
- 18 : 2017/07/16(日) 01:27:54 :
「真実を、暴く……?」
オレの言葉を反復する終一に対し、深く頷いた。
「終一」
「しゅ……な、何?」
「オレたちは、最初から15人か?誰か一人、来れない奴とかいなかったか?」
「それ、前も言ったじゃん……僕らは最初から15人って───」
「キーボ、昨日と同じ質問で悪い。オレたちは最初から15人か?」
「は、はい……最原クンの言う通り───」
「じゃあみんな、この写真を見てくれ」
オレが懐から取り出したのは、昨日の写真。
昨日といっても昨日撮影した、というわけではなく、昨日キーボから貰ったものだ。
昨日キーボから貰ったもの。
それは……
①遊園地のエントランスで撮った写真
②遺跡に刻まれた文字の写真
③2年前の修学旅行の写真
まぁ分かるよな、これくらい。
正解は───?そう、当たり。③だ。
「是 は……2年前に撮った写真だネ。これが如何かしたの?」
「オレたちは15人。終一もキーボも確かにそう言ったな」
「なら!!こいつは誰なんだよ!?」
指差した先は、写真の端。
両手をあげて笑顔で写るアンジーの左肘に隠れて顔は見えないが、彼女のすぐ後ろには確かにこの場にはいない16人目が写っていた。
青みがかったロングの黒髪、女子の制服。
分かる特徴はそれだけ。
「え、誰これ……」
小さく、だけど確かに、真っ先にそう呟いたのはハルマキ。
「終一、お前の隣に写ってるな」
「う、うん……そ、そうだね」
「入間やアンジーと同じ制服を着たこいつは『誰だ』?」
「え、えぇと……その……」
終一だけが戸惑ってるわけじゃない。
普段は冷静な東条や星も目をカッと開いて写真を凝視している。
終一が何か言って くれるのを皆が待っているのだ。
「キーボじゃねーの?女装でもしたんだろ」
「キーボが撮影したのに、どうやってこの写真に写るんだよ?それにこの女、背丈が隣に並ぶ終一より少し高い。いくらなんでも5.3フィートのキーボが変装するのは不可能だ」
そして、もう一つ。
「終一、お前このときまだ帽子被ってんだな」
「え?う、うん……」
「たしか過去に解決した事件が原因だったよな、それ」
その犯人は、家族を殺されただか何だかで復讐のために事件を起こした。
それを15前後のガキのなんちゃって推理で阻止された犯人は、終一を強く怨み強く憎んだそうだ。
そのときの眼が終一のトラウマになって、他人と目を合わせるのが怖くて帽子をするようになったんだとか。
「高校生になってもそんなリアルなトラウマを抱えてたお前が、今は帽子を取ってすんなり俺と目を合わせてる」
「その理由ってか原因って、何よ?」
終一は答えない。
突然無茶振りされたような顔でオレを見ている。
そう。
それほどのトラウマ、ただの慰めや励ましの言葉だけじゃ克服できないはず。
それ以上の何か。
例えば、自分に希望を与えてくれたピアニストが最期に言葉を遺して目の前で死んだりとか。
それくらいのものがなければ克服できないだろう。
同時にそれくらいの出来事があれば、絶対に忘れない。
突然問われても明確に話せるはずだ。
何故すぐ答えないのか。
それは、そんな出来事が『この世界では』無かったからではないか?
他にも疑問はある。
オレのコテージのクマの人形に見覚えがあった赤松。
アレを『何処で』見たんだ?
オレは散々見たけどな、あの夢の世界の中で。けど、この世界に存在する赤松があの人形に見覚えがあるのはおかしいんだ。
「先生じゃないのー?」
-
- 19 : 2017/07/16(日) 01:29:38 :
アンジーの能天気な声。
「先生って、何が?」
終一がアンジーに問う。
お、お前、オレの問いは無視かよ……。
「だからさー。この女、先生なんじゃないの?だって修学旅行の写真なら先生のひとりふたり入るよねー?」
「先生って、俺らの担任のことか?いい歳こいて生徒のコスプレして写真に入ったと?」
「いい歳こきたい時期だったんだよー!先生だって人間だしね」
「じゃあその先生の名前は?」
「えっ」
アンジーが真顔になる。
こいつも素で驚くなんてこと、あるんだな。
「東条、『先生』の名前は?お前、倉庫で『先生』の話したよな」
「え、えぇと……」
戸惑う。戸惑う。どいつもこいつも戸惑う。
「理由なんていくらでも作れるだろう」
今まで黙ってた星がオレに指差して指摘する。
「飛行機だって俺らを降ろしたあと一旦向こうの空港に帰ったとかなら辻褄があう。この写真の女だって、夜長の言うように先生かもしれないし、名前も知らねえ引率だったかもしれない。100%ありえねぇ話じゃあねぇだろう。
春川だって口の悪いときくらいあるだろうし、最原だって言いたくねえことの一つや二つあるだろうよ」
なるほど。
理由なんていくらでも繕える、と。
終一の克服はオレらには特に関係ないことだったからあまり言いたくなかったのかも。
ハルマキの口癖も本人の性格か。
なら、確実にオレら全員に関係することだ。
誰も言い逃れできないコトダマをぶつけてやろうじゃねぇか。
「……お前ら全員に聞く」
「天海の『才能』は、超高校級の『何』だ?」
誰も、解答返答せず。
天海自身でさえ、だ。
おかしくないか?
お前も他のやつも、卒業まで一緒に過ごしたんだろ?
この世界で入学して、この世界で卒業した仲間だろ?
そんな仲間の才能を、普通忘れるか?
「どうした、何で誰も答えねぇ。おい天海、お前の才能は『何』だ?」
「えぇーとそれは……ア……アレ?あれあれあれぇ???」
震える手で頭を抑える天海。
そんなことしたってオレはお前を見逃さないからな。
「ラチあかないねー。百田ちゃん、その写真ちょっとオレにも見して」
珍しく黙ってた王馬がオレに手を差し伸べる。
オレはその手に昨日の写真を握らせた。
瞬間。
王馬はいつの間にか手に持ってた着火器具 で写真に火をつけた!
「お前、何を!?」
「この写真がおかしいんでしょ?ならこんなモン燃やして失くして、無かったことにしちゃえばいいじゃん」
王馬の足元に、かつて写真だった灰の塊がふわふわと落ちる。
「今更何言って───」「なら、どっちがいいの?」
「この平和な世界と、その夢の世界。百田ちゃんはどっちがいいの?」
またその質問かよ。
オレはもう知った。この世界は嘘だらけだ。
この世界にいたら、いずれオレの全てが崩壊してしまう。
ならば、オレが取るべきは──────。
突然、バタンという音が聞こえて我にかえる。
「天海くん!?」
一番後ろにいた天海が突然倒れたのだ。
オレも周りも、あまりに突然すぎて対応ができない。
響く赤松の悲鳴。
天海は後頭部から大量の血を流していた。
真宮寺が脈をとる。
「し、死んでる……死んでいるヨ!」
悲鳴、騒音、混乱、阿鼻叫喚。
「待って」
場を鎮めたのは、終一。
瞬間、放たれる予想外の一言。
「百田くんが変なこと言い出すからこうなったんじゃないの?」
……え?
-
- 20 : 2017/07/16(日) 07:49:02 :
待て、待て待て待て。
天海は一番後ろにいた。
後頭部から出血していることから誰にも天海を撲殺することはできなかった。
夢野と茶柱がすぐ隣にいたけど、その二人は何も手を出していない。
そうだ。
つまり天海は『普通じゃない方法』で殺されたんだ。
そう。そうだ。
普通じゃないことがこの世界では起きる。
つまり、そう!
やっぱこの世界が間違いだったんだ!
正しいのは──────オレだ!!
オレが当選──────。
どいつもこいつも──────。
『ダンガンロンパ』史上、最凶……いや──────。
「終一、わかっただろ!オレが正───」
「気安く呼ぶな」
終一が出せる中でこれ以上ないくらい低い声。
「お前のせいで天海くんは死んだんだ」
「は?おい、それ真面目に───」
「お前が余計なこと言うからだろ?」
「ま、待て、終一、話を──────」
「お前は僕らを殺すために、この旅行に来たんだな」
「違う!この世界は間違──────」
「百田君、やってくれたネ」
真宮寺とアンジーが並んで近づいてくる。
「僕が昨日云ったことが見事に的中したよね。やはり君は災いを起こしに来たんだ」
「ま、待て、真宮寺!アンジー何か言─────」
「罪人の声は聞こえないよ?」
「「罪人には」」
「「裁き が」」
「「必要だよネ ?」」
「東条さん、依頼」
「何かしら?」
終一はオレをまっすぐ指差して言った。
「あいつを殺して」
「承ったわ」
「ゴン太も手伝う!つ、捕まえるくらいなら…だけど!」
「許し難し……百田さん、覚悟してください」
「ウチの魔法で苦痛を与えてやろう」
「……殺す」
「ま、待てよ、待てよお前ら!この世界は……なぁ、赤松!何か言えよ!」
「……何を?」
「分かっただろ!?この世界は間違いなんだ!!天海が突然死んだのもそうだし、オレの質問にどいつもこいつも答えられなかっただろ!?」
「知らないよ、そんなの」
「私たちにとってはこの世界がすべてなの。この世界こそが私たちの日常なんだよ。それを壊すなら、殺すなら──────」
「そうされる前に処刑しなきゃね?」
赤松に続き、キーボも入間も近づいてくる。
狂気、狂気だ。もはや殺気じゃない。
多分こいつらはオレが死んでも殺し続けるし、殺されても死なせ続けるだろう。
どんな不可能も、やり遂げちまえば。
「ぐっ!!」
「なっ!逃がすな!!」
──────やり遂げられるかァァ!!!!
オレは全力で走った。
全力で逃げた。
何処に行くとか、もうそういう頭はなかった。
ただ、ただ逃げる。
どうせ島だからいつかは隠れる場所もなくなって捕らえられる。
捕らえられたら、どうなる?
ゴン太に全身の骨を折られ、
ハルマキに切り刻まれ、
真宮寺に内臓を抜かれ、
夢野に焼かれ、
東条に肉を削がれ、
アンジーによって剥製にされる。
嫌だ、嫌だ嫌だ。
んなもん嫌に決まってる。
ここから出ないと。
いや、どうやってだよ!?
「百田ちゃーん!」
走るその先には、どう見ても2日目より背が縮んでる王馬と、枯れた遺跡。
まだ誰にも追いつかれてない。
急いで橋を渡りきる。
「ご苦労さんっと」
中央公園までの橋を王馬が東条から拝借したチャッカマンで燃やす。
橋はたちまち炎に包まれ、皆は進入を躊躇う。
「さて、百田ちゃん。もう逃げる場所はこの遺跡の中しかないよ」
いつの間にか最新鋭くさい機械のようになっているその遺跡の入口を見る。
「あそこに入るにはパスワード打ち込まなきゃないんだってさー。百田ちゃん、心当たりある?」
「……あるよ」
遺跡の入口は冷たい。
木や石ではなく鉄だからか?
電卓のようなパネルに『11037』を入力し、映画によくあるでかい金庫のような扉を開く。
「さっすが百田ちゃん!まぁオレが刻んだ文字にもうちょい早く気づいてほしかったね!」
「やっぱ刻んだのてめぇかよ……とにかく、入るぞ!」
遺跡の中は、これまた機械的な長い廊下になっていた。
廊下を抜けた先は──────。
「──────『才囚学園』!!」
-
- 21 : 2017/07/16(日) 07:50:12 :
「にししし!帰って 来ちゃったね!」
帰って───。
そうか。
こいつは、こいつだけは俺が知ってる王馬小吉なんだ。
それもそうか、こいつ確かオレがみんなに話す前から星や入間や赤松が死んだのを知っていたな。
なんであの時気づかなかったんだ。
そうだ。こいつは身長170センチもない。
そう、いつもの、この目線だ。
「さて百田ちゃん!最後のクエスチョン!デデーン!!」
「この世界とコロシアイの世界、百田ちゃんにとって真実はどっちなのかな?」
「んなもん、決まってんだろ」
「偽りの平和にまみれたこの世界は真実なんかじゃあねぇ!!」
「辛く悲しく、それでも前に進んだコロシアイの世界が本当の世界なんだ!!」
「ピンポォ〜ン!正解!まったく百田ちゃんったらさぁ〜!気づくのが遅いの!オレがあんなに確認 してあげたのにさぁ〜」
「へっ悪ぃな……どうも男からのラブコールにゃ気づけねぇみてぇでさ」
「それで!どうすりゃいいんだ!?」
あの世界を閉じて、元のコロシアイの世界に帰る。
そのために、何をすれば良いのか。
「殺すのさ、全員」
「は?」
「オレらも含めて、この世界の命を全部散らすんだ」
「きっと、ツラいよ。オレはツラいね。ゴン太やキー坊をオレの手で殺すなんてさ。あ、あと入間ちゃんも」
「百田ちゃんにとっては最原ちゃんや春川ちゃんを殺すのは心が痛むかもね」
「それでも真実に……本当の世界に帰る?」
「それでも百田ちゃんは、ルビコン川を渡る?」
「当たり前だ!!」
「いいねぇ。じゃあハイ、これ」
渡されたのは、拳銃。
8発入りのハンドガン。
「あいつらが来たら、友情や仲間の絆なんかには目もくれずに撃ち殺すよ」
「……おう」
「あ、あと1発は残しといてよね」
「オレらが死ねないからか?」
「そういうこと」
オレは、構えた。
何故か既に血塗れでボロボロだった赤松を、東条を、真宮寺を、ゴン太を、星を、アンジーを、茶柱を、入間を、二人で撃ち殺す。
叫びながら、何かを涙ながらに訴えてきた者もいたが、もう惑わされない。
夢野を、キーボを、ハルマキを。
「百田……く……ん」
終一を。
「すまねぇ、終一。もうニセモノ には興味ねぇんだ」
「……安らかに眠れ」
終一の頭に、赤い華が咲いた。
殺戮は、終わりを迎える。
「さて、最期はオレらの番だね」
「どーする?互いに銃向ける?それとも自害 する?」
「銃を向けあおう。その方が安心する」
広い島で二人きりで、どうやって死ぬかを相談し合っている。
なんという光景だろうか。
「百田ちゃんさあ」
「おう」
「最原ちゃんと仲直りできてないでしょ」
「最後まで最原ちゃんに嫌われたまま殺しちゃったなんてねえ」
「いや、仲直りはしたさ。お前は気づかなかったと思うが、あのトイレの横の小窓。あそこから終一が話しかけてきたんだよ」
「へぇ?それは気づかなんだ」
「だろ?だから……もう大丈夫なんだ。それに、今殺したのは、終一じゃない。ニセモノBさ」
「あは、オレが殺した入間ちゃんもそうだしねー!まぁそれはおいといて!」
真正面の王馬が、銃を向ける。
オレも真正面の王馬に銃を向けた。
「「本当の世界でまた会おう」」
二人同時にトリガーを引いた。
-
- 22 : 2017/07/16(日) 07:51:20 :
「っっっは!!!」
目を覚ましたのは、芝生の上。
視界に映るのは、見慣れた……はずの才囚学園の星空。
身体を起こしてたった数秒で、いろんな思考が脳をドライブする。
本当の世界。
夢の世界。
希望ヶ峰学園。
旅行。
才囚学園。
王馬。
そう、王馬だ!
「王馬!!王馬!!」
いない。
見回しても立ち上がっても、彼の姿は見当たらない。
王馬もいなけりゃ死体もなけりゃ……いや。
「血痕……?」
裁判場に向けて、血痕が伸びている。
新しいものから、乾いたもの、細いもの、濃いもの、様々ある。
血で滑らないように気をつけながら、それでいて急ぎ足で裁判場へ向かう。
エレベーターにも血溜まりができていた。
そして、そこで初めて百田解斗は自分の『姿』に気づく。
「オレの制服じゃ……ない」
宇宙に轟くギャラクティカジャケットも歌舞伎模様のTシャツも着ていない。
百田が着用しているのは、どこにでもある学ランと真っ赤なTシャツだった。
そして、学ランが妙に鉄くさい。
「まさか……な?」
ゴウン、と振動して最下層に着いたエレベーターが開く。
その先の景色は、
その先には、
地獄があった。
血塗れの裁判場は、円を描いて14人の生徒が磔にされていた。
後頭部から血を流す天海。
首に絞められたような痕がある赤松。
外傷こそないものの、両眼が異常に飛び出ている星。
身体中を切り刻まれた東条。
刀が首を貫通するアンジー。
同じように鎌が首に深く突き刺さった茶柱。
硫酸でもかけられたかのように顔が焼け爛れた真宮寺。
真っ赤な目と真っ青な絞殺痕を宿した入間。
腹が開かれ、内臓まで溢れたゴン太。
全身串刺しにされた春川。
首が異常な方向へ曲がった最原。
胴体から真っ二つのキーボ。
首から上がない夢野。
そして。
「王馬!!」
王馬の死体は、まるでプレス機にでもかけられたかのように全身ボロボロだった。
釘を刺して磔にするのがやっとなくらい。
-
- 23 : 2017/07/16(日) 07:51:46 :
「お目覚めかな?」
裁判場、百田から真正面。
裁判長席から女が語りかけてくる。
そうだ、あいつだ。
あいつがあの写真に写ってた16人目なんだ!
その名は──────。
「白銀…………つむぎ…………」
「ご名答。そうですわたしです」
そうだ。白銀つむぎ。
この女が黒幕だったのだ。
何故だ?何故あの世界でこの女を思い出せなかったのか?
地味な女だったとはいえ、まさか存在さえ忘れてしまうなんて。
それよりも。
それよりもだ。
「お前……なんなんだよ、これ」
「お前が殺ったのか!?」
「終一もハルマキも夢野も、こいつらみんなお前が殺したのか!!」
「………?」
白銀は少し困った顔で百田を見ている。
「殺したのはあなたでしょ?」
「え?」
「殺したのはあなたでしょ?」
「ちょ、ちょっと待」
「殺したのは君なんだよ、百田解斗くん」
「ま、待て!!オレが!?」
「あらあら〜?覚えてないのぉ〜?」
王馬に良く似た揶揄い方。
生気のない、張り付いたような笑顔でクスクスと嗤う。
その嗤い声が耳を通り越して脳にまで到達し、いじらしく頭の中にへばり付く。
「いやね、わたしもビックリだよ」
「確かに今回、『一度に殺すのは二人まで』というルールは無かった」
「だけども、だからってたったの一日で二人になるまで殺戮を繰り返すなんてさ!」
「ジェバンニもびっくりだよ!」
は……?オレが……?
「君、自分の姿良く見てごらん」
どこからともなく音を立てて出てきた鏡の前に立つ。
「なっ………!?」
顔、首、手、ワイシャツ、靴。
傷ひとつない身体は、全身血だらけだった。
さっきから感じてた鉄くささ。
アレは、制服についた血が乾いた痕だったのか!
「じゃあ……あの夢は……?つうかオレ、現実で王馬に捕らえられて……」
「人って単純だよね」
「幻覚の中で見た夢 も、幻覚の中で見つけた矛盾点も、自分で見つけたものには価値や意味があると思い込んで、外部から思考を操られているとは考えたがらない」
「あの世界は夢?君が行きたかった世界は現実?」
「どっちも夢でした 、どっちも幻覚でした ってだけの簡単な話じゃん」
どっちも……夢?幻覚?
「オレが信じた世界は……?え?」
「百田くんが信じた世界は……」
「どっっっっこにも!!!!!!あァーーーりませぇーーーーーん!!!!!!!!!
お分かりいただけたでしょうか!!ご覧ください!!これが現実です!!!恐怖する友達を、嫌がる仲間を、涙を流す仲間たちを、鬼のような笑顔で殺して殺して殺しまくったのが君!!百田解斗という人間なんでぇーーーーす!!!!!!!!!」
百田くん──────やめ──────。
「う、うわ……」
も、百田君──────な、何故───やめ──────。
百田ちゃ──────ダメだ──────。
やめ─────────。
嫌───離し──────。
この─────────この人殺し!!!!!
「う、うわああああぁぁああぁああ!!!!!!!!!!」
-
- 24 : 2017/07/16(日) 07:56:17 :
前も見ずに何かから逃げる。
何から?現実か?
壁に当たったり、血で足を滑らせたり、それでも止まらない。
「出口は……どこだ、出口は……」
「どうなってる……出口は……」
「オレは……帰らなくちゃ……いけないんだ」
「オレの……いるべき世界に…………」
「オレを………帰して………くれ…………」
「あらあらー……それは違う作品からの引用だよね?時間ないからって適当な真似はダメだよ」
「いい加減、現実見たら?」
「君、自分がオーディションで何言ったか忘れたの?」
「オーディン……?」
白銀はふふっと嗤う。
「ではご覧ください!!これがオーディションでの君の名言でございます!!」
莫大なスクリーンに映し出されたのは、紛れもない百田解斗。
狂気に満ちた笑顔で淡々と語る。
───「オレが当選したら」
───「どいつもこいつも殺しまくって」
─────「『ダンガンロンパ』史上、最凶最……いや、最狂最悪のクロになってやる!!!!」
百田解斗は、頭の中で全てが繋がった。
『夢の世界』で何度も蚊の羽音のように聞こえてきたあの声は、他でもない百田自身のものだった……。
「にしてもまさかその願いがこんな簡単に叶っちゃうなんてね!!」
「一人ひとり殺し方があんまり被らないようにしたのかな?」
「しかもそれを一晩でやり遂げるなんて、さすがは『宇宙飛行士』の頭脳だね!」
「どんな不可能もやり遂げちまえば可能に変わるって、まさにこのことだよねぇーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
「今頃リアルの世界では、前代未聞の最狂最悪のサイコクレイジーな殺人鬼 の話で持ちきりだろうね!!!!あはははははははははは!!!!!!」
「や、やめろ…………やめろぉぉぉぉ!!!!!!」
「やめたって現実は変わらないよ。君が無慈悲に仲間を殺した事実もね」
「オレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは知らないオレは」
「いい加減現実見なよ〜」
「生き残り特典の話もしなきゃいけないんだしさ」
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- 25 : 2017/07/16(日) 07:58:06 :
「生き残……?」
「そう!最後の生き残りであるわたしたち二人は、次回作に出演しなきゃいけないの」
「この特典が使われたことなんて今まで一度もなかったのだけど、今回は追加ルールと君のおかげでつまんなくはならずに済んだよ」
「才能も人柄も新たにリフレッシュして、新学期のような気持ちでゲームに臨めるんだよ!」
「次回作の中では、君が狂気の大量殺人したことも君自身を含めて誰も知らないよ〜?」
「リアルを除いて、ね」
白銀はメガネの位置を直して高らかに百田に歩み寄る。
「さあ行こう よ、立ち止まることなく」
「新しいコロシアイ学園生活はもう目の前だよ!」
「次はどんなコンセプトかな〜?どんな才能の人たちがいるのかなァ〜?」
「楽しみすぎて一晩で法隆寺建てたあと本能寺燃やせるよぉ〜!!」
「や、やめ、く、来るな!!!来るなあぁああぁあ!!!!」
「やめないよ。君が泣くまで……じゃなくって、君が新しい『ダンガンロンパ』への覚悟を決めるまで」
「……重大決断 、だよ」
忘れてはいけない。
これが、『日常』だ。
『ダンガンロンパ』とは───
殺し合い、
いがみ合い、
狂い合う。
大量殺人だって?
猟奇的殺人だって?
『ダンガンロンパ』には、持ってこいですよ。
そう。
これが──────
「い、いやだ、やめろ来るな」
百田は怯えながら震えて立てない足を引きずって白銀から遠ざかろうとする。
まるで『仮面ライダー』において、怪人を目の前にしてわざとらしい演技で怯える一般人だ。
「い、嫌だ、オレは嫌──────」
「あれ、百田くんまさか忘れたわけじゃないよね」
白銀は震え怯える百田にバッと高速で密着し、耳元を奪う。
「────君がわたしを強姦 したこと」
─────────。
百田は、それ以上何も言えなかった。
彼の目からは、すでに生気が消え。
彼の脳はもう恐怖さえ感じなくなり。
死にたくても、死ぬ気力さえなくなり。
「──────抵抗しようとしてもできないわたしに、狂ったように何度も中出 してくれたね?」
そのうち解斗は──────考えるのをやめた。
逃げられない、逃れられないと悟ったとき、どうやら人は思考停止してしまうようだ。
「ほら、お腹触って?」
「百田くんとの子供、ここにいるんだよ?」
吐息交じりに耳元で優しく囁く。
勿論、いない。
そんな早く受精卵が形を成すものか。
「ね?いるでしょう?」
「うん」
百田解斗はどこも見ていなかった。
何も感じていなかった。
赤ん坊のように首が安定せず、手足はダランとして動かせず、魂が抜けたような、イエスとノーの信号しかないような、そんな人間になってしまった。
「ちゃんと産んで、ちゃんと育てようね」
「うん」
「ちゃんとおっぱいも愛情も知識もいっぱい与えて……わたしたちの宝だもんね」
「うん」
「じゃあ、さ」
「──────わたしと一緒に、次回作に出てくれるよね?」
「うん」
「おれ、やる」
「ルビコン川、わたる」
「良かった!じゃあわたし、表で待ってるね!」
これが、『日常』だ。
『ダンガンロンパ』とは───
殺し合い、
いがみ合い、
狂い合う。
さあ、殺し合いましょう。
さあ、いがみ合いましょう。
さあ、狂い合いましょう。
これが、わたしたちの日常 なのだから。
END
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- 26 : 2017/07/16(日) 08:22:55 :
終わりです。
今回は少しミステリーっぽさも混ぜてみました。
『日常』という言葉の意味は平和とか平穏ってだけじゃなくて、人によって二転三転変わりますね。
引き続き他の参加者様方の『チームコトダ祭り』をお楽しみください。
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- 27 : 2017/07/16(日) 09:50:34 :
- 投稿お疲れさまでした!
自分が楽しいと思ってた日常も、人によったら非日常になってしまうのですね^^;
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- 28 : 2017/07/16(日) 09:51:28 :
- 途中で送ってしまった(;゚д゚)!
とても楽しい作品でした!お疲れさまでした(っ´ω`c)
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- 29 : 2017/07/16(日) 09:59:26 :
- まさかの百白か…。
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- 30 : 2017/07/16(日) 10:40:21 :
- この世界は美味いものでちょっとワロタ
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- 31 : 2017/07/16(日) 11:13:50 :
- 無限ループに近い感じですかね? お疲れ様でした!
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- 32 : 2017/07/16(日) 22:00:53 :
- 日常の使い方が滅茶苦茶上手くてビビりました! ダンガンロンパの意義を考えさせられるという点でV3のラストが脳裏を過ぎります。お疲れ様でした!
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- 33 : 2017/07/17(月) 00:43:28 :
- お疲れ様です。本編の暗号を再構築する技量が素敵だと感じました。幻覚に次ぐ幻覚という衝撃的なオチはまさにV3のSSとして相応しいものだと思う他ありません
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