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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

夢野「超高校級の魔法使いじゃ!」

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  1. 1 : : 2017/07/13(木) 23:31:51
    大変お久しぶりです。今回お誘い頂いたので楽しく執筆させて頂きました。


    『奴隷と愉快な仲間たち』

    Deさん (チームリーダー)
    あげぴよさん
    カラミティさん
    シャガルT督さん
    影さん

    『皆殺し』

    タオさん (チームリーダー)
    ノエルさん
    ししゃもん
    ライネルさん
    スカイさん

    『真山田組〜追放される空〜』

    ベータさん(チームリーダー)
    風邪は不治の病さん
    Ut4m4r0さん
    たけのこまんじゅうさん
    フレンさん


    チームコトダ祭りグループURL
    http://www.ssnote.net/groups/2086


    【役職】中堅
    【ジャンル】ファンタジー
    【キーワード】一意奮闘

    以下注意

    大体てんひみ、ノリノリで書きすぎて説明不足しがち、一人称小説形式、ダンガンロンパV3ネタバレ含

    よろしかったらどうぞ。
  2. 2 : : 2017/07/13(木) 23:34:37




    ──────私立希望ヶ峰学園、有りとあらゆる才能が結集される学園……のハズじゃった。


     ウチ、夢野秘密子は『超高校級の魔法使い』もとい、表向きでは『超高校級のマジシャン』としてスカウトされたはずなのじゃが。




    「ん……あ?」


     ふっ、と眩暈がして、景色が歪む。思わずいつも持ち歩いている魔法に使う道具の一式が入ったキャリーバックに寄り掛かってしまった。
      疲れているのだろうか? 入学式なんてめんどいし、早く帰って寝たい。


     気だるげに、ウチは希望ヶ峰学園の校門を潜った。




    ◆◆◆




    「えっと、僕は最原終一……得意な魔術は『追走(トラッキング)』と『高速開紋(ファストキャスト)』です。よろしくお願いします」


    「……んあ?」


     入学式の後、クラスの教室での自己紹介の時、最原終一と名乗ったキャップ帽の男子がそんな事を言った。


     得意な魔術は『とらっきんぐ』と『ふぁすときゃすと』? 何を言っているのか、ひょっとしてこやつなりのジョークなのだろうか。


    「赤松楓です! 得意な魔術は『調律(チューニング)』と『連続開紋(ダブルキャスト)』! みんなよろしくねっ」


    「オレは百田解斗! 宇宙に轟く百田解斗だ! 得意な魔術は『飛翔(スカイワード)』と『付与(エンチャント)』だ、いつか単独で宇宙までぶっ飛ぶのが夢だ! よろしくな!」


    「……んあぁ??」


     みんなして何を言ってるのか解らなかった。魔法は、ある。あるにはあるのだが、そんな訳のわからない言葉とかじゃなくて、もっとこう、カードだとかコインだとか。


    「東条斬美と申します、得意な魔術は『生活魔術(ハウスワーカー)』全般と『並列設紋(オクタプルシンクス)』です。皆様、どうぞ良しなに」


     皆がおかしいのか、それともウチがおかしいのか。


     訳がわからない、とにかく、ひょっとしたらウチは寝てるのかもしれん、夢を見てるのかもしれない。
     ただ、クラスメイトの訳のわからない自己紹介に眠気を覚えながら、なんとか意識を保つ。はやく、帰りたい。


  3. 3 : : 2017/07/13(木) 23:36:42


    ◆◆◆




    「春川魔姫……」


     ロングツインテールの赤いセーラー服の女子の1人が無愛想にそう自己紹介していた。よし、ウチもそれでいこう。正直、なんて答えたらいいかわからない。得意な魔法はいっぱいあるのだが、こやつらのものとは何か違うようだ。


     さて、ウチの番だ。ウチが立つと、他の15人と教師が一斉に視線を向けてくる。


     うう、恥ずかしい。大舞台で魔法を見せるのには慣れてるが、それとこれはまったく別だ。


    「夢野……秘密子……じゃ」


     しどろもどろに名乗って、ウチは直ぐに座る。そしてそのまま、お気に入りのとんがり帽子を深く被って俯いた。とにかく、自己紹介はクリア──────




    「夢野さん」


     くいっくいっ、と袖を引っ張られる。隣の席に座っている人物。春川と名乗った女子の、前の前に自己紹介した黄緑色のバンダナと、春川とは違う少し違うウェーブ掛かったロングツインテールで、口元のほくろが特徴的な、猫の印象を受ける女子。


    「……なんじゃ? えっと」


    「転子は茶柱転子です、夢野さんはどんな魔術が得意なんですか?」


     うっ、自己紹介をクリアしたと思ったのに、まさかの難敵が現れた。


    「う、ウチは……べ、別にいいじゃろ?」


    「気になりますよ、夢野さん、転子はとっても気になります」


     困った、めんどい、おうちに帰りたい。


    「……何でも」


    「えっ?」


     面倒になったウチはつい「何でも」と答えてしまった。コインにテーブル、カードにロープ、果ては舞台イリュージョン、なんだって出来る、だけど、ウチの魔法はこやつらの言う『魔術』とは何か違う、と思う。


    「何でも得意、と?」


    「……そうじゃ」


    「すごい! まるで『大魔導』じゃないですか!」


     大声で茶柱がそう叫び、立ち上がった。と同時に物凄い速さで教卓の方からチョークが投げられ……いや、チョークが『撃たれて』きて、茶柱の眼前を通りすぎ、後ろの方の黒板へと突き刺さる。


     ウチと茶柱は青ざめながら教卓へと振り向くと、投げフォームを維持したエプロンドレスの、淡い赤毛のアップにした大きなポニーテールを揺らす女の教師がにこにこ微笑んでいた。


     顔は微笑んではいるが、あれは心が笑っていない。


    「んあ……」


    「はぁ~い、まだみんなの自己紹介終わってないわよ~? 茶柱さん? 席について、ね?」


     教師、雪染ちさから投擲されたチョークは、まるで弾痕の様に後ろの黒板を穿ち、蜘蛛の巣の様にヒビを走らせ、ブスブスと摩擦による煙を上げている。物理法則など完全に無視して。


     え、こわい、おうちに帰りたい。


    「ひゃ、ひゃい」


     茶柱も腰が抜けた様に、席へと腰をストンと落とした。ウチも正直、血の気が引いて、開いた口が塞がらなかった。もし、あれが頭を撃ち抜いたと想像すると、考えただけでちびりそうだ。

  4. 4 : : 2017/07/13(木) 23:39:10


    ◆◆◆


     一通りのクラスの自己紹介が終わった。


     さっきから茶柱の視線がチラチラとうっとおしい。まったくもって、めんどい。


    「は~い、じゃあ今日は顔合わせだけだからホームルームはここでおしまいっ! みんな、明日からよろしくねっ!」


     手を振って去っていく雪染を尻目に、ウチらも帰宅の準備をする。


    「夢野さんっ、一緒に帰りませんか?」


    「んあ? 別に構わんが……」


     キャリーバックを手に帰ろうとしていた所、茶柱がそう言ってきた。帰るといっても、ウチらは既に入学前から寮に引っ越しており、本校舎から歩いて3分も掛からん。


    「お主、何でウチに構うんじゃ?」


    「なんでって、それはもう夢野さんを見た瞬間、ビビッと来たからです! それに何でも魔術使えるって凄いじゃないですか! これはもう友達になるしかないって!」


    「……なんじゃそれは」


     鬱陶しい、めんどくてうるさい奴じゃ。しかし、友達になりたいといってくるこやつを無下には出来ない。


    「正直言うと夢野さんが可愛かったからです」


    「んあっ!?」


     少しゾッとした。というのも女子同士で可愛い可愛いなんて挨拶みたいなものだと思っておったが、茶柱から発せられる「可愛い」という言葉に何故か寒気を感じる。


     というか、ヨダレ垂らしてるし、なんか手つきが怪しいし。ひょっとして茶柱は、つまりはそういうアレなのじゃろうか?


     いや……まあ、そういう女子も居るにはいる、一種のコミュニケーション方法みたいなもんじゃろう。


    「……ぽっ」


    「モジモジするでない、頬を染めるでない」


     やっぱりアレじゃないのか、こわい。
  5. 5 : : 2017/07/13(木) 23:43:03



    ◆◆◆




     と、アホなやり取りをしてる内に女子寮前に着いた。


    「それじゃ、夢野さんっ」


    「うむ」


     さて、自室の前だ。ウチは扉を開けて玄関で靴を脱ぐ。ワンルームの洋室で、引っ越してから寝てばかりなので全然片付いておらず、段ボールだらけである。キャリーバックを玄関脇に置き、ウチはいそいそと、唯一広げていたお布団に身を沈めた。


     ああ、なんとも素晴らしき陽気、日も高い内に眠るのは甘美……じゃない。


     流石に片付けなければならんじゃろう。なんか学校も学校でおかしいので、少し街の様子も確かめたい。


     魔術、あやつらはそう言って自己紹介しておった。ウチも魔法使いじゃが、それにしたっておかしいというのはわかる。


     そう、そもそも希望ヶ峰学園は『超高校級の才能ある現役高校生達がスカウトによって集められ、その才能を以て未来を担う生徒達の育成を目的とした公的機関』のはず。


     全員が全員、まさか『魔法使い』なんて事はないだろう。それに、同期生の中で『同じ才能』を持つ者は居ない、何故ならば『超高校級の~』とはつまりは現役高校生の中で1番でなければならん。2番から下は居ないのが希望ヶ峰学園の常のはずだ。


     魔術とやらを見てはいないが……いや、見た、のか? ウチらの担任の雪染が茶柱を注意するさいに投げたあのチョーク、果たして人間技か? 雪染がものすごい強肩だとしても、チョークが黒板を貫くものか?


     もしかして、あれが魔術とやらではないのか?


    「……」


     わからんし、めんどい。今は取り敢えず片付けをしよう。


     そうして、おもむろにウチは1つの段ボールを開ける。


    「んぁ?」


     書籍やノートの類いだ、確かにテーブルマジックやコインマジックといったもののやり方を教わった時にノートに書き留めたりしていたが、そこにあるのはウチの『魔法のやり方を書き留めたノート』なんかじゃなくて、古ぼけた羊皮紙の厚手の本ばかりだった。


     一冊を手に取る、ずっしりと重く、まるで年季そのものを内包しているかの様だ。


    「……『並列世界の存在の有無』じゃと?」


     開いたページの最初に書かれていた一文、まるで意味が解らなかった。


     それでも、ウチはページをめくるのをやめられなかった。


    ──────並列世界(パラレルワールド)、あらゆる可能性を持つ世界の、存在の証明──────


    ──────可能性の世界には、独自性があり、何がどう発展し、衰退したか、各々によって異なり──────


    ──────並列化された世界を量子可逆により移動する方法を開発──────


    「……」


     パラレルワールド、そのくらいならウチにも分かる。ここではない何処かでありながら『そこ』に存在する世界。世迷い言だと切り捨てるのは容易いじゃろう。しかし、この古い羊皮紙に書かれた筆跡は、間違いなくウチの筆跡だった。


    ──────霊石による多重の刻盤を用いて原初魔術(オリジン)放浪転移(ドリフト)』の運用、同列の魂殻(アストラル)を同調させ、本体を並行世界の自身と入れ替える事が出来る。しかし、莫大なエネルギーを消費する為、別の並行世界からエネルギーを持ってくる必要がある。


    ──────『量子可逆(クォンタム・リバーシ)』の併用、時間概念を跳躍し、過去に遡りつつ世界そのものの改変起点に到達し、枝分かれした世界の分岐軸へと到達する必要がある。




    ──────エネルギーを消費した並行世界はエントロピーの増加により、混沌の海へと帰り、潰えるが、出発座標と到達座標が無事であれば問題はない。


    ──────この仮説を証明し、師匠を超える。希望ヶ峰学園等、知った事ではない。欲しいのは、名誉でも金でも無い、魔術師が持つ最も原始的欲求、真理のみだ。


    ──────夢野秘密子が欲しいのは、全ての真理だけだ。


    ──────明日、実践する。成功すれば違った景色を見れる事になるだろう。






    「何じゃ……これ」


     思わず、本を放った。
  6. 6 : : 2017/07/13(木) 23:44:26

     言葉の意味はほとんど解らない。
     でも、何故か血の気が引いていく。心臓が鷲掴みにされたかのように、胸が痛くなる。


     並行世界(パラレルワールド)


     アニメや漫画程度の知識しかないが、云わば、地に足を付けてる世界とは違う歴史をなぞる『IF』の世界。


     このノートを書いた『夢野秘密子』はウチに何をした?
     ウチと、ノートを書いた『夢野秘密子』の存在する世界を入れ替えた?


     否定、そんな事はあり得ない。
     肯定、では学園ぐるみでウチを騙しているのか?
     否定、そんな事して何になる。
     肯定、意味がない。ましてや誰かがウチの荷物にこんな小細工までするなんて万に1つもあり得ない。


    「……」


     頭を抱え、ウチは放った本から後退りし、そのままお布団に倒れ込んだ。




     ウチは、なんじゃ?


     正直、現状に頭が追い付かない。信じられる訳がない。


    「……」


     いや、そもそも希望ヶ峰学園だけがそんな風なだけかもしれない。この羊皮紙の本だって、万に1つも有り得ないものだとしても、億に1つの手の込んだ質の悪いイタズラである可能性だってある。


     そう、街の方に行ってみよう。


     ウチは私服に着替えて出掛ける用意をした。




    ◆◆◆




    「んあ……」


     開いた口が塞がらなかった。


     まず、街に着くや否や、見たものは、空を飛ぶ車じゃった。ジェットエンジンみたいな火を吹いて、その、推進力で飛ぶようなものでなく。ウチの知ってるものと大差ないのに
    、ふわりふわりと、滑空したり浮き上がったりする、摩訶不思議な車、それがいくつもある。


     歩く人も居れば、低空を滑るように飛ぶ人もいる。極めつけはビル群の上空に佇む球状の物体、一見、巨大なミラーボールの様にも見える。いくつかあるようじゃが、中から車が飛び出したりしている辺り、あれはつまり建造物であるということ。


     ウチの知る平行に存在する街とは違う、立体的で縦横無尽、空の見える捻れた迷宮の様な街。


    「なんじゃ、これは……」


     実感した。ここはウチのいた世界ではないのだと。

  7. 7 : : 2017/07/13(木) 23:45:55
    ◆◆◆




     直に日が沈む。


     ウチはよくわからない道を歩く。


     別に、元居た世界でも歩き慣れた訳ではない。そんな道。
     高いビルと、さらに高くに浮かぶ球状の建造物、空を飛ぶ車に、低空を飛ぶ人。


     わからない、何もわからない。


     ぼんやりとしながら、ウチはただ、歩いた。


     理解し難い、いや、理解したくない。これは夢だ。そう、きっと白昼夢。


     非現実の光景避けるように路地裏へと入る。とんがり帽子を深く被って、足下だけを見て歩く。前を見たくない。帰って寝よう。そうすれば、この夢も覚める。


     もしかしたら楽しい夢なのかもしれないが、ウチはあの羊皮紙の書を見てからずっと不安で仕方がない。


    「あァ?」


     前を見ずに歩けば、当然、誰かとぶつかってしまう。そして運が悪いことに、それがガラの悪い男だった。


    「おい、ガキ、人にぶつかったらちゃんと謝れ」


    「……んあぅ」


     怖くて声が出なかった。


    「何とか言え、おい……」


     そう言って男がウチの肩を掴む……事はなかった。


    「きえええええっ!!」


    「はァ!? 何だオマ」


     男の言葉を最後まで待たずに、気合の掛け声と共に、突如乱入してきた彼女は男の袖を掴み、そのまま流転するように綺麗に投げ飛ばしてしまったのだ。


    「……大丈夫ですか!? 夢野さん!」


    「……茶柱?」


     彼女、茶柱転子はそういってウチへと駆け寄ってくる。


    「まったく! やはり男死は油断も隙もありません! 夢野さんに手を出そうとは……」


     ガラの悪い男は投げられた拍子に背中から地面に落ちて伸びている。しばらくは目を覚まさんだろう。


    「……茶柱、お主、何故?」


     といっても、答えは決まっておるが。


    「はい、夢野さんが出ていくのを目撃してずっとつけてました!」


    「……」


     正直、そこで伸びてるガラの悪い男より茶柱の方が怖い。


    「……ウチはもう帰るぞ」


    「はい! お供しますよ!」


     もう何も言わん。茶柱がどうしてウチにここまで構うのかは謎だが、茶柱を見てたら何かどうでもよくなってきた。


     さっきまでの鬱蒼とした気分が、茶柱のうるさい声でどっかにいってしまったようだ。


     本当にめんどい奴だが、存外に悪くない。


    「茶柱よ……」


    「はい?」


    「……なんでもない」


    「そうですか、さあ、帰りましょう!」


     ありがとう。とは今はまだ、恥ずかしくて言えない。


     ウチは希望ヶ峰の寮へと帰る。ただひたすらにやかましい茶柱転子と共に。




  8. 8 : : 2017/07/13(木) 23:47:05


    ◆◆◆




     茶柱と別れ、寮の自室へと戻り、ウチは改めて、あの羊皮紙の書と向き合う。先ずは、現状この世界がウチのいた世界とは異なる事を受け入れなければならない。


     あのウチが開いたものとは別の羊皮紙の書を開く。


    ──────魔術行使には『外因子(マナ)』と『内因子(オド)』が存在する事から理解を──────


    ──────外因子(マナ)内因子(オド)と結び付ける為、魂殻(アストラル)刻盤(ボード)を築き、接続の安定を──────


    ─────発現に至るには明確な生成のイメージを持ち、外因子と自己の内因子の認識を体感し、素粒子に触れる感触を──────




    「さっぱりじゃ」


     ダメじゃ。この本には何が書いてるのかすら解らん。1文とて理解出来ん、日本語なのかどうかすら怪しい。
     やはりウチに出来るのは魔法だけじゃ。こんなちんぷんかんぷんな魔術など、出来る筈がない。


    「……」


     ただ、1つ懸念があるとすれば、もしウチが魔術が使えないという事が周囲に知られた場合、どうなるのじゃろうか。
     聞くならばやはり、茶柱だろうか。残念ながらウチの師匠は行方知れずだし、両親に聴くにも、この世界に一緒に持ってきたスマートフォンは圏外を示すばかりだ。
     うむ、やはり現状で最も気さくに話し掛けられるのが茶柱しか居らぬ。それはそれでウチの人間関係の乏しさに悲しみを覚えるが。


    「よし、明日……訊いてみるのじゃ」


     拳を握り締め決意を固める。それはそれとして取り敢えず晩御飯を食べて風呂に入ってごろごろしてウチは寝た。


  9. 9 : : 2017/07/13(木) 23:48:34


    ◆◆◆




     翌朝、眠い。
     きっかり9時に寝たのに、相変わらず朝は眠い。




     そしてやはり、この現状は夢なんかではなかった。部屋に無造作に置かれた私物の段ボール、それに羊皮紙の書物、内容を確認しても、昨日見た意味不明な言葉の羅列が並ぶばかり。
     パラレルワールド。
     にわかには信じられんが、やはり、そうなのだろう。今はとにかく、現状を知ること、そして、どうすべきかの模索だ。


     今日やる事はとにかく、茶柱にさりげなく「魔術を使えないとどうなるか」という事を訊くのじゃ。


     ウチは希望ヶ峰学園の指定制服に袖を通し、息を巻いて自室を出る。




    「おはようございます夢野さんっ!」


    「んあう!?」


     いた。


    「? どうしました? 夢野さん」


     どうしたもこうしたもない。まさか茶柱はウチが出て来るのを待っていたのか?
     いや、ほんと、そろそろ洒落にならんぞ。


    「な、なんで茶柱がウチの部屋の前におるんじゃ」


    「なんで? そんなの夢野さんを迎えに決まってるじゃないですか」


    「んお、お、おう」


     希望ヶ峰学園指定の制服に袖を通した茶柱は、まるで当たり前だと言わんばかりにそう答えた。
     茶柱の笑顔に僅かばかり背筋に寒気を覚えるが、まあよい、手間が省けた。
     道中でさらっと訊いてしまおう。


     2人並んで、女子寮から校舎までの、僅かな登校時間。朝に鳴く雀の声も、雑談をする他の登校する生徒も、当たり前の光景に見えるが、ウチにはそれが気持ち悪かった。


     この、当たり前でない世界に、ウチはずっと不安に震えるばかりだ。


    「夢野さん、どうしたんですか? キョロキョロして、その仕草も可愛いんですけど」


    「やめい……いや、な」


     訊こう、いや、訊かなければならない。


    「なあ、茶柱よ……」


    「はい、なんでしょうか、夢野さん?」


    「魔法……じゃなくて、魔術を使えない者とか、いるのか?」


    「え?」


    「いや、何となくじゃ、ちょっと気になっただけ……じゃ」


     訊いた、訊いてやったぞ。すると茶柱は変わらない笑顔のまま。




    「そんなの、居るわけがないじゃないですか」


     そう、告げた。


    「……え?」


    「魔術を使えないって人は聴いたことが有りません。義務教育過程で必ず習いますし、どんなに苦手な人でも『生活魔術(ハウスワーカー)』の1つ2つは絶対に使えるはずです。発展途上の国ならまだしも、日本でそのような人、聴いたことがありませんね」


     転子は魔術を『義務教育』と言った。
     子供の時から習う、極々当たり前の必修科目。


    「変なこと訊きますね、夢野さん」


    「少し、寝惚けてる、だけじゃ」


     嘘だ、今の転子の言葉で、より目が覚めた。


    「寝惚けてる夢野さんも可愛いです」


     茶柱の冗談めいた言葉に突っ込む気力もない。


    「夢野さん?」


    「何でもない!……のじゃ」


     ウチは、どうすればいいのだろうか。


  10. 10 : : 2017/07/13(木) 23:49:39
    ◆◆◆




    「はぁーい、みんなおっはよー」


     担任の雪染が名簿を片手に笑顔で挨拶をする。


     元いた世界の希望ヶ峰学園では決まったカリキュラムは無く、生徒個人の研究室にて自身の才能を伸ばすといった内容だった筈だ。
     もしもここでもそうならば、幾分か猶予が出来るだろう。


     ウチは魔法使い、魔術だろうがなんだろうが、やってやれんことは無いのだ。




    「今日はみんなの魔術をすこーし見せて貰おっかな?」


    「……!?」


     いきなりの山場だった。




    「……希望ヶ峰では魔術実技は無かったんじゃないの?」


     昨日の無愛想なロングツインテールの女子、春川魔姫じゃったか、表情を強張らせて、雪染を睨んでいる。よっぽど自身の魔術を見せたくないのだろう、自己紹介でも得意な魔術を言わなかった。


    「まあまあ、個別に見るだけだし、秘密にしたいのなら私に『口呪(タブー)』を施しても構わないわよ。どう?」


    「そこまでするなら、別に……」


     春川はそこで黙った。もしかしたら中止になるかもと期待したが、やはり駄目であったか。


     困った。どうするべきか、と、ふとウチのキャリーバッグが目につく。
     仕方あるまい。一か八か、ショボくてもこの場をなんとか凌いでみせる。


    「じゃあ、赤松さんから」


    「はいっ」






    ──────




    「んふふ~」


    「な、なんじゃ茶柱……」


     雪染の個別呼び出しから茶柱が帰ってきてずっとウチを見つめてくる。


    「可愛いなって」


    「やめい」


     こんなのに一々反応しても仕方がない。昨日から大体こやつの人格は把握している。


     それより、先程、隣の教室に向かった赤みがかったトンガリの髪型をした、髭の男子、百田だったか。あやつが呼ばれてから体感で3分程経ったころ、教室の戸が開かれ、そやつが戻ってきた。そしてウチの方へと声を掛ける。


    「おう、えーっと、夢野だっけか? 次はオメーだってよ」


    「んあ……わかった」


    「夢野さんっ! 頑張って下さい!」


     本来ならば、頑張る様な事では無いのだろう。何せ、この世界で魔術というのは当たり前で、その中で一番得意なモノを見せれば良いだけの話なのだから。


     教室を出て、隣の教室への足取りが重い。胸が不安で押し潰されそうになる。しかし、ウチはとにかく『仕込んだ』のだ。これで欺けるかどうか。
     魔術が使えないという珍獣扱いを受けて目立ちたくは無い。
     希望ヶ峰に居れなくなるというのは別に構わんが、使えない事によってどの様な扱いを受けるのかが怖い。ならばせめて、何でも良い、使える様になるまで猶予が欲しい。


     春川も言っておったが『希望ヶ峰に本来は魔術実技はない』のだ。これは行幸だろう。つまりはこれさえ乗り越えれば、猶予が生まれる筈だ。




     そうして、隣の教室へと辿り着く。
  11. 11 : : 2017/07/13(木) 23:50:52




     ノックをすると「どうぞ」と雪染の声が返ってくる。ウチは戸を開け、対面に座る雪染に対して軽く会釈をした。


    「えっと、じゃあ夢野さん、自己紹介の時は得意な魔術を教えてくれなかったけど、あなたはどんな魔術を使うの?」


     さて、早速返答に困る。こんなことになるのならば、あの羊皮紙の本に書いてあった適当な魔術の名でも覚えてくれば良かった。


    「……んあ」


    「答えにくいなら答えなくても大丈夫よ」


     その言葉に僅かばかり救われたが、さて。


    「では、やるぞ……」


    「ええ、どうぞ」

     ウチは『仕込んだモノ』の制服の長袖から対面の雪染に見えない様に取り出す。


     フラッシュコットンという、綿だ。


     ライターの先端にある火打石の装置を人差し指の付け根にバンドで固定し、それによって、フラッシュコットンに火を着ける。
     このフラッシュコットンは、非常に可燃しやすく、ほぼ灰すらも残さずに一瞬で燃え尽きる代物じゃ。


     前面から見れば、ウチが炎を出した様に見えるじゃろう。


     発火マジックにおいて、初歩の初歩である。ウチの居た世界では、前座というか、魔法使い(マジシャン)にとって観客に対する挨拶のようなモノであるが。


     ウチは魔術は使えん、ならば、持ち前の『魔法(てじな)』で欺く。


     雪染のキョトンとした顔に不安を覚える。しかし、雪染は笑顔になり、


    「『燃焼付与(エンチャント・コンバッション)』……まったく魔術の発動を感じられなかったけど、どういう原理なのかしら……」


     どことなく驚いてる風であるが。


    「ひ、秘密じゃ」


     と、目を反らした。


    「……うんっ! いいわ。ありがとう夢野さん。魔術の発動を感じさせないなんて、すごいわね。さて……じゃあ次の夜長さん呼んでくれる?」


    「う、うむ」


     ウチは心臓をバクバクさせつつ、教室を出て、自分の教室へと戻る途中、思いっきり安堵の溜息を吐いた。


     なんとか、なった。


     確信は無かったが、もしかしたらとは思っていた。


     この世界に魔術はあっても『魔法(てじな)』はないのだろう、と。


     そう、この世界には魔術がある。しかし、その分で『化学』や『科学』といった一般常識が乏しいのではないかと睨んでいた。


     ウチの『魔法(てじな)』は、まあ、内緒であるが、化学や錯覚に寄るモノが多い。先程のフラッシュコットンにしても、ニトロセルロースという激しく燃焼する科学物質だ。


     スマートフォンの電波が入らないのは規格の違いと思っていたが、そう言ったモノを他の生徒が持っているのを見ていない。昨日見た車にしても、外装はともかく、車体の裏側の方に機械らしきものが見当たらなかった。


     生白、魔術というものが発展し過ぎてるせいで、表面上、元の世界の現代と変わりはないものの、中身が大きく違う。


     似通ってこそはいるが、この世界は間違いなく機械ではなく、魔術の文明だ。
     とにかく、なんとかなった。猶予が出来た。


     ウチはこれからどうするべきかを考えなければならない。




     さて、安堵と共にあれこれ考えている内に教室に着いた。次は夜長だったか、確か、あの褐色肌の銀髪ロングの娘だったか。


    「夜長じゃったか、次はお主じゃ」


    「ん~? アンジーの番? わかったよ~。それと、アンジーの事はアンジーでいーよっ!」


     にゃはは~、と奇妙な笑い声と共にアンジーは教室を出ていく。


     それを目線で見送ったウチはどっかりと自分の席に座り、突っ伏した。


    「どうでした?」


     隣の茶柱がそう言うが、これは『どう』ということじゃない。


    「普通じゃ」


     そう、全ては当たり前の事なのだから。普通だ。



  12. 12 : : 2017/07/13(木) 23:51:42


    ◆◆◆




     教室でのホームルームを終え、ウチ達は自分の研究室へと案内を受けた。共用ではなく、完全な個室だ。市松模様の床に各種の紙製の書物等が収まった棚は解るが、妙な紋様の刻まれた円盤やら水晶やら良くわからん。まあそれはそれとして、幾ばくかの猶予を手に入れた。ウチはこれからどうすべきか、それを考えねばならない。


     いや、決まっている。


     目的は元の世界に帰ることじゃ。今日は何とか欺けたが、そんな綱渡りの様な事が毎度上手く行くわけがない。


     今はまだ大丈夫でも、絶対に『ボロ』が出る筈だ。
     そうなる前に、ウチは元居た場所に帰るべきじゃろう。


     まずすべきことは魔術に対する理解だ。今ウチの居た世界にいる『夢野秘密子』は魔術によってウチとをこちらの世界へと入れ替えたのだから、その逆も魔術によって出来んことはない筈だ。


     理解、これが一番厄介そうだ。


     だが、茶柱は魔術は『義務教育』と言っておった。
     ならば、小学生レベルから始めなければならないじゃろう。


     元居た世界ならば、インターネットでチョイチョイ検索するのだが、残念ながらこの世界にはどうにもそういった端末の類いが無い。
     インターネットに似通ったモノがあったとしても、ウチには扱えないじゃろう。
     となると、書物だけが頼りだ。しかし、ここにある書物はどうにも小難しいモノばかりだ。
     足し算引き算すら出来ないのに、いきなり因数分解とか出されても解るわけがない。


    「……本屋」


     そうだ、まずは本屋を覗いてみる。流石に本屋くらいはあるじゃろう。


  13. 13 : : 2017/07/13(木) 23:55:19


    ◆◆◆




     希望ヶ峰では基本的に自己の研究が終わったら勝手に帰っても問題はない、だったと思う。ウチはまず女子寮に帰り、私服に着替えてから昨日と同じ様に街へ繰り出した。


     タイヤこそ無いが、ウチの居た世界とそう変わりない車が空を飛び交い、上空に球状の建造物が蔓延っている。


     もしあの球状の建物に本屋があるのだとしたら、いきなり詰んでしまう。そうでないことを祈るばかりだ。


     フラフラと周囲の建物を見渡すが、それらしい建物は見当たらない。カフェテラスやブティック等はあるのだが、本屋らしい店が見当たらない。


    「ん? 夢野さん?」


    「あ、夢野さん」


     と、街中でばったりと出会したのは確か同じクラスの。


    「最原と、赤松……じゃったか?」


     入学式の時にかっちりとした黒い制服に黒の帽子、そして中性的な顔立ちの男子が最原で、ピンクのセーターと金髪ロングに音符のヘアピンとアホ毛が特徴的な女子が赤松だったはず。
     今はウチと同じく、私服であるが。


    「キョロキョロして何か探してる様だったけど」


     最原がそう言ってきたが、まあその通りである。


    「本屋を探してるんじゃが」


    「本屋? 研究室に有るのだけじゃ足りなかったの?」


    「んあ、ああ、そうじゃ」


     足りなかった訳じゃなくて、ちんぷんかんぷんなだけで、もっとレベルの低い本を探しに行くとは言えん。


    「それならここから先の突き当たりを右、だね」


     と、最原はそう指を差した。


    「お、流石最原くん、早いね」


    「?」


    早い、とはなんのことだろうか。しかし、助かった。


    「すまぬな、最原よ」


    「うん、いいよ、これくらい」


     ウチは頭を下げて、最原に礼を述べた。最原は元々からこの街に住んでいるのだろうか。


    「それではな」


    「うん、じゃあ夢野さん、また明日」


    「またね、夢野さん」


     そう言って振り向き、最原の指を差した方向へと向かう。


     僅かに歩いた所で、赤松と最原の会話が少し聴こえた。


    「『高速開紋(ファストキャスト)』から『検索(リファレンス)』の流れ、凄くスムーズだったよ」


    「赤松さんも『探知(ソナー)』してたでしょ? 凄く静かな開紋だったよ」




     成る程、つまり『早い』とは魔術の行使がという事か。ヘタな事を聴かなくて良かった。


     にしても会って昨日今日であの2人、妙に仲が良いな。


     さて、それより最原の言うとおり、突き当たりを右に行くと、本屋が見えてきた。何てことはない、ウチの居た世界と同じの、何処にでもある本のチェーン店だ。


     本屋の戸を開けると、何の変哲もない本屋の景色、カウンターと開けたテナントに商品棚が点在し、雑誌や漫画もある。


     羊皮紙の本は見当たらない、アレはやはり特別なモノなのだろうか。ウチは漫画に気を取られつつも、児童学習書のコーナーへと足を運んだ。


    「……あった」


     目についたのは『はじめてのまじゅつ小学1年生』である。可愛らしい動物のイラストが入った表紙で、高校生になるウチが手に取るのは、少しはばかれるものだ。


     僅かに怖じ気づく手に力を込めて、平積みされたソレを、ウチはサッと取って裏に向けて脇に挟む。


     別にやましい事じゃない。しかし、男子高校生が青少年保護育成条例に違反してえっちな本を買うようなやましさがある。


     違う、そう、これは、可愛かったから買うだけだ、そうだ。


     いそいそとカウンターへと向かい、無言で本を差し出し、下げたポシェットからガマ口財布を取り出して、紙幣を2枚、釣り銭トレーに置いた。


    「毎度ありがとうございます」


     特に変な目で見られる事は無かった、というか、むしろ応対してくれた女性店員にえらく微笑ましいモノを見るような目で見られた。何故じゃ。


    「買った……買ってしまったぞ」




     はじめてのまじゅつ小学1年生という児童学習書であるが。紙幣もウチの元居た世界のものじゃが、問題なく使えて良かった。




    「見た……見てしまいましたよ」




    「んああぁ!?」




     そう、背後から、たった2日ですっかりお馴染みの声が聴こえた。


    「な、なな、ななな茶柱……!?」


    「はい、茶柱です、転子です。それより夢野さん、その手に持っている『はじめてのまじゅつ小学1年生』……」




     どこまで見ておるんじゃこやつ!





  14. 14 : : 2017/07/13(木) 23:56:56
    「こ、これは、その……か」


     ウチが言い訳を口に出そうとして、


    「可愛かったからですよね!?」


    「可愛かったから!!……へ?」


     茶柱と声が重なった。


    「あ~素晴らしいです夢野さんっ! 可愛いモノを買ってる可愛い夢野さんかわいいっ! かわいいっ!」


    「んあ~!! やかましい!!」


     なんじゃこやつは。




    ◆◆◆




    「じゃあ、夢野さんは『燃焼付与(エンチャント・コンバッション)』を雪染先生に見せたんですね」


    「そ、そうじゃ。茶柱は何をしたんじゃ?」


    「転子は流転(ペルトランシアート)です。外因子を操って物体を動かす……ってこんな事、夢野さんは当然ご存知ですよね」


    「ん、んむ」


     カフェテラスの片隅、茶柱が奢るからと誘われ、無下に出来ずに立ち寄り、ケーキを突ついて今に至る。


    「さて、そろそろ出ましょうか、夢野さん」


    「そうじゃの」


     話の中、ボロは出なかったと思う。だが、茶柱ならばと時折思う。


     いっそ秘密を打ち明けても、と。


     だが、まだ、駄目だ。茶柱の事をウチはまだ知らない。


     外面でなく、内面を知らない。


     でもそれはいつか、きっと、とは思う。




    「さあ、寮に帰りましょう、夢野さん」


    「なに当たり前の様に手を繋ごうとしておるんじゃ……きしょいぞ」


    「そんなぁ」


  15. 15 : : 2017/07/13(木) 23:58:18




    ◆◆◆




     寮に着き、ウチはいつもの様に自室のお布団に身を沈めた。


     買ってきた本の『はじめてのまじゅつ小学1年生』の最初のページを開いて目を通す。




    ──────はじめよう、魔術(まじゅつ)! まずはおおきく(いき)をすおう。


    「スゥー」


    ──────そしてぴったりと(いき)をとめよう。


    「ん」


    ──────そして(おお)きくはきだそう。


    「ぶふぅ~」




    ──────どうだい? マナ(まな)をかんじるだろう?




    「感じんわっ!」


     思わず本をぶん投げた。いや、まて、短気を起こすのは良くない。もっとちゃんと良く見よう。




    ──────マナ(まな)とは、くうき(ちゅう)にふくまれる要素(ようそ)のことさ。すって、はいてをくりかえしていくと、自分(じぶん)のなかのくうきが、自分(じぶん)のそとのくうきとつながってるようにかんじてくるだろう?


    ──────それが『接続(コネクト)』なのさ。


    「ふむ……」
     
     それに関しては分かる気がする。ウチはとりあえず、その呼吸を続けた。




    ◆◆◆




    ──────なかのくうき、つまりそれが『オド(おど)』で、これによって『世界(せかい)とつながる』ことが魔術(まじゅつ)のきほんなんだ。


    「なるほどのう」




     それなりに読み進めて行くと、魔術の基礎というモノが見えてくる。


     外因子(マナ)と呼ばれるモノが、内因子(オド)と繋がる事で、魔術は生成される。漠然としたイメージだけでは生活魔術(ハウスワーカー)に収まるが、より精密なイメージを練り上げれば『本魔術(マギ)』へと昇華し、あらゆる工程式を組み上げて初めて最原なんかが使ってくれた『検索(リファレンス)』なんかの『開紋(キャスト)』に至る、といった所か。


    「ふむふむ……」


     こうしてウチは魔術へと触れていく。




     まだ理解が及ばないが、ウチはこれから本格的に魔術へと傾倒していく。


     そしていつかは『夢野秘密子』へと追いつく。


     
  16. 16 : : 2017/07/14(金) 00:01:20




    ◆◆◆




     翌日以降からも、ウチはのめり込む。学校に行って、ホームルームを済ませてから自身の研究室で魔術に触れていく。


    「ゆーめのさんっ、お昼食べに行きましょう!」


    「んあ!? ノックぐらいせい!」


     まあ大体ほぼ毎日、こんな具合で茶柱から妨害を受けるが、それも、なんだか当たり前の光景になってきて、別に気にする様な事でもなくなっていった。




    ──────




    「……ええ『生活魔術(ハウスワーカー)』の数は数百以上、私はそれを『並列設紋(オクタプルシンクス)』によって同時に行うのだけど……そうね、『並列設紋(オクタプルシンクス)』を半分に落とせば『本魔術(マギ)』まで組めるわね」


    「ふむ……なるほどのう。すまぬな東条」


    「気にしなくてもいいわ。同じクラスメイトですもの」


     ややくすんだ金髪のミディアムショートの髪型で、片目に髪が掛かっており、蜘蛛の巣の様な刺繍が特徴的な、本格的なメイド服姿の東条斬美は、最初は高い身長と切れ長の目に怖じ気づ居ていたが、話してみればとても穏やかで、今ではそれなりに気軽に話し掛けれる間柄になった。その東条に頼み、生活魔術全般に疎い、という名目で、いくつか見せてもらったり話を聴かせて貰ったりする。東条だけでなく、最原や赤松、取り敢えず話しやすそうなクラスメイトに声を掛けては、教えを受けている。


     取り敢えず『疎い』と言っておけば、彼等は特に疑う様な素振りも見せずに、快く教えてくれる。


     まだまだ小学生レベルではあるが、魔術に対しての理解は深まっていく。

  17. 17 : : 2017/07/14(金) 00:03:13


    ◆◆◆




    「最近、色々な方と仲良くされてますね?」


    「んあ?」


     ある日の事、朝の登校中に茶柱からそんな事を言われた。


    「ええ、夢野さんが交友を広めるのはとても良い事です。ですけど、友達は選んでくださいね? 特に男死! 絶対ダメです」


    「お主はウチのお母さんか!?」


     まあいつもの茶柱の狂言であるが。


    「夢野さん~もっと転子に構って下さいよぉ~!」


    「ええい! 十分構っとるじゃろうが!」


     本当に四六時中いっぱいに構ってくる。1人で街に出れば、何故か絶対に出会すし。1人で外食してれば何故か対面に座ってるし。


     最早事案だ。


     そんなこんなで、日々は過ぎていく。




    ◆◆◆






     入学式からはや、ふた月が過ぎる。6月の中頃。


     ウチは魔術に対する理解こそ深まったが、如何せん絶対的に足りないものが有る為、魔術の行使には到れていない。


     それは『魂殻(アストラル)』に『刻盤(ボード)』を刻む事だ。
     外因子と内因子は、結局の所、外からの燃料と内からの燃料に過ぎず、例えるなら魔術という車を動かすには燃料だけでは駄目だということだ。


     刻盤はつまりエンジン、燃料を爆発させ、推進力に変えるための装置だ。


     刻盤の彫刻は刺青とは違い、魂殻、つまりはウチの内因子と外因子の境目、肉体と大気の境目にあるという、つまりはウチを形作る霊みたいなモノ、オーラとでもいうのか、そういったモノに刻むらしい。


     こればかりは即興で出来るものではなく、少しずつ刻んでいく。つまりは、何度も魔術を使うイメージを繰り返し、早ければ半年、遅くとも1年程で刻まれていくそうだ。


    「夢野さん、つまりですね。ボク達ゴーレムは魂殻を持たない代わりに、炉心の霊石に刻盤を刻み、そこから『開紋(キャスト)』するんです」


     と、学ラン風のボディパーツで白髪のボサボサ頭に妙なアンテナを持つ男型のロボット、もとい、ゴーレムであるクラスメイトのキーボに刻盤について教えてもらっていた。


    「なるほどのう、つまりは霊石があれば」


    「ええ、刻盤をまだ持たない小さな子でも魔術行使が出来ますね。しかし、変な事を聴きますね、夢野さん」


    「好奇心旺盛なんじゃ」


    「そうですか。まあ、そういった道具に詳しいのは『付与技士(エンチャンター)』でしょう。入間さんが発明家を自称する位ですから詳しいでしょうね。ボクも何度体を弄ばれたことか……」


     何気にキーボも大変そうだ。しかし、入間美兎か。あやつとはあまり接点がない、というのも喋れば下ネタと毒舌のオンパレードで、正直マトモに話せる気がしないのだが。


    「入間か、ウチは少し苦手じゃ」


    「はは……まあ、大丈夫ですよ、口はものすごく悪いんですけど、上手くコミュニケーションを取るコツを教えます」


     と、キーボから入間と上手くコミュニケーションを取る術を教えてもらったが、果たして大丈夫なのだろうか。


  18. 18 : : 2017/07/14(金) 00:06:14


    ◆◆◆




    「んだぁ!? おいこらチビ野、用もねーのに何オレ様に話しかけてんだオラ! 処女喪失してーのか、あぁん!?」


    「やかましい!! 用があるから話しかけたんじゃ!!」


    「な、なんだよぅ、大声出すなよぅ……悪く言ったの謝るし、用があったんならそう言ってくれよぅ……」


     なるほどチョロい。キーボの助言通り『彼女の言葉に畏縮せずに、大声で脅迫するような感じで話し掛ければ、取り敢えず話は聞いてもらえる』か。


     入間美兎、毛先が妙に跳ねた金髪ロングで、入学式の時はショッキングピンクのセーラー服にパンキーなアクセサリーと、ゴーグルが印象的であったが、今は希望ヶ峰指定の制服であるが、それを着崩し、やっぱりパンキーなアクセサリーを満遍なく着けている。


     入間の研究室は非情に雑多で、色々と機械の様なモノが溢れてはいるが、それらはただ紋様を刻まれたハリボテの様にも見える。


    「……んで、用ってのはなんだよ」


    「うむ、霊石に関してなんだが」


    「んだぁ? テメーも『並列設紋(マルチ・シンクス)』の真似事してーのか? まあメイド野郎(東条斬美)は『並列設紋(オクタプル・シンクス)』なんてバケモンの領域だがよ。バカ松(赤松楓)の『連続開紋(ダブル・キャスト)』とかモブ原(最原終一)の『高速開紋(ファスト・キャスト)』とか良いよなァ。アッチもコッチも攻められるしな」


     下品な笑い声で言うが『連続開紋(ダブル・キャスト)』は人並みにしては優秀で、2つの本魔術を同時に工程し、2つの開紋を同時に行うのだが、これは言ってみれば、2つの複雑な計算式を右手と左手で同時に解いていくという感じだ。


     最原の『最速開紋(ファスト・キャスト)』は計算式をすっ飛ばして答えを出すのも凄いのだが、東条の『並列設紋(オクタプル・シンクス)』は離れ業も良いところだ。本魔術になれば半分の『並列設紋(クアドラプル・シンクス)』に落ちると言っていたが、それでもかなりの離れ業だろう。


    「まあ、それで、オレ様に霊石について訊いてくるって事は、テメーも何かの玩具が欲しいんだろ? 構わねーぜ。どーせガラクタだ。好きなモン持ってけよ」


     と、入間が作業台に、床に置いてあった段ボールを持ち上げて、中身を見せてくれた。


     どっちゃりと入ったガラクタの中には、刻盤が刻まれたあらゆる形をする何か。


    「霊石ハメハメする媒体だけどよー。カード型ってのはまあ隠し持つのに便利だよなぁ、んでコッチが今をトキメくめちゃくちゃデコったマジカルステッキ型、これは古くせえタクト型、あーこれは剃り勃つ逞しいチン」


    「んあああ、それは出さんでいい」


    「そうか?」


     作るモノまで下ネタを突っ込まんでいい、しかし、なるほど、これは迷う。


     カード型が望ましいが、目につくのはやはりマジカルステッキ……ではなく、タクト型だ。


     某眼鏡の少年の魔法使いの映画の様に、タクトを振るって魔法を出す、というのは憧れる。


     なんというか、しっくり来る。


    「んだよ、そのタクト型がお気に入りかぁ? 古くせえぞ。中世時代の糞ヴィッチみてーだ」


    「ウィッチとビッチを掛けるでない……うむ、これがいいな」


     ウチはタクト型の媒体を手に取ってそれを振るう。何の変哲もない、黒檀の指揮棒。入間は古臭いというが、ウチの魔法使いのイメージはやはりこれだ。


    「ま、オレ様に死ぬ程土下座して感謝するんだな!! そして二度とオレ様の研究室に入ってくんじゃねぇ! 処女喪失させっからな!! コラ!!」


    「……」


    「な、なんだよぅ……何か言えよぅ……さっきの来るなってのは嘘だから、今度来たときは茶くらいなら出すからよぉ……」


    「入間よ、ありがとな」


    「へっ! やっとオレ様の偉大さが解ったか、いいか……」




     入間の言葉を最後まで聞くことなく、ウチは入間の研究室を出た。
     コロコロと表情を変えて案外と御しやすい。取っ付きにくいのは変わりないが、まあ、悪い人間ではないようだ。



  19. 19 : : 2017/07/14(金) 00:09:18


    ◆◆◆






     さて、ウチは入間の研究室から自分の研究室へと戻って来た。
     外付けではあるが刻盤を手にいれた。
     まずは、


    「うむ……燃焼付与(エンチャント・コンバッション)じゃ」


     雪染を欺いた初歩の発火マジックを、雪染はそう言った。大丈夫、燃焼付与に関しては明確にイメージが得られる。


     燃焼において必要な3要素は可燃物、酸素、熱源だ。これはウチの居た世界でもそう言えるだろう。
     だから何もない中空では燃焼という現象は本来起きないのだが、この世界特有の『外因子』は『内因子』と結び付く事によって『性質を変える』特性がある。
     こればっかりはウチの居た世界では理解できないモノだ。


     では、その外因子全てを可燃物へと性質変化させれば辺り一帯を焼け野原に出来るかと言われたら、それはない。


     外因子と内因子の『接続(コネクト)』は、極々微細なもので、どの様に優れた魔術師でも、魔術が苦手な者でも、接続に関しての限界は一律だ。
     優れた魔術師は、その燃焼範囲を工夫によって拡げる。


     話がそれだが、故に燃焼付与(エンチャント・コンバッション)だ。


     ただの燃焼は可燃物が必要で、ただの付与には意味がない。


    「さて……」


     息を吸い、イメージを練り上げる。酸素がどう動き、外因子がどう動いて、熱源をどう作るか。


     息を吐く、自己の内因子と肺に入ってくる外因子で満ちる。


     接続(コネクト)はなった。


     外因子にニトロセルロースのイメージを植え付け、それをタクトの刻盤に意識を向けて、その先端に放出するイメージ。


     着火する為の点火の役割も酸素で行う。酸素の素粒子が一点一点と回転するイメージを、湿度を無視し、生じるモノを一切に逃がさず、それは起きる。


     熱源のイメージは静電気、それがニトロセルロースと化した外因子へと着火。


     そして、一気に燃える。


     ボワッ! と、それはあの発火マジックと同じく、一瞬にして中空で小さい爆発の様に燃え上がり、そして尽きた。




    「……んあ」


     やった。出来た。ウチのイメージは魔術に見事結び付いた。


    「んぁあ~!!」


     喜びのあまり、思わず万歳してしまった、ウチはこの世界で、ようやく一歩踏み込めた気がする。




  20. 20 : : 2017/07/14(金) 00:13:36




    ◆◆◆




     ウチが初めての魔術を使ってから、日にちは過ぎていく。


     希望ヶ峰で行われる研究の成果を発表する中期発表会でも、ウチは持ち前の『魔法(てじな)』と初歩の魔術の併せ技でなんとか切り抜ける事が出来た。


     梅雨が明け、夏が来る。


     夏期休講、つまりは夏休み。




    「夏ですよ夢野さん!」




    「んあ~暑いっ!」




     夏前に片付けた部屋は、すっかりと生活感のある部屋になった。カジュアルコタツに茶柱と2人で突っ伏して、麦茶をすすりながら、団扇をあおぐ。残念ながら、クーラーに良く似た魔術品を家具屋で注文したが、取り付け工事の都合上、あと1週間は辛抱しなければならない。


     とうとうウチの自室にもちょいちょい来るようになった茶柱だが、何だかんだで良い付き合いをしている。差し入れ持ってきてくれたり、まあ、ウチも飲み物出したりと、本当に、何処にでもいる友人関係だろう。
     やや狂言が目立つが。


    『さて、次のニュースです……』


     こちらの世界でテレビは無いと思っていた、しかし、言ってはなんだが、キーボと同じ原理で動くテレビに近しいモノの存在を春先で見つけて購入し、今では数少ない娯楽の1つになっている。


     取り敢えず付けっぱなしにするのがウチのスタイルではあるが、ニュースが流れてきた。


    『……S市で立て籠り事件が発生し、テロ組織グループの関与が……』


    「物騒じゃの」


    「そうですねー……ここ最近多いみたいですよ」


     ウチの世界でも、似たような事があった。もう結構前になるが『絶望の残党』による世界的なテロだったか。
     今はもう、昔。当時は酷かったが、復興も大分進み、落ち着きを取り戻している。


    「なんでも、変な被り物してるみたいで、どういった理由で動いてるのかわからない見たいですね」


    「怖いのう」


     理由の無い暴力は怖い。それは誰しもが抱く至って普通の感想。ウチには遠い出来事の様にしか感じる事が出来なかった。


    「大丈夫です! その時はこの転子が体を張って夢野さんをお守りしますから!」


    「んあ」


     茹だる暑さに、窓から僅かにそよぐ風に習うように、適当に手をヒラヒラとさせといた。




    「しかし、暑いですね~どっか涼みに行きませんか?」


    「そうじゃの」


     自室に籠っていても仕方がない。ウチと茶柱は街へと繰り出した。

  21. 21 : : 2017/07/14(金) 00:14:51




    ◆◆◆




     魔術を僅かながら使える様になりはしたが、この世界に居た『夢野秘密子』の魔術の到達点は『量子可逆(クォンタム・リバーシ)』という、云わば世界の在り方の流れそのものを変えるという、とんでもないものであった。


     あの羊皮紙の書物にはその書記が幾つにも渡って書かれている。


     羊皮紙の書物は古くから著者以外の閲覧を禁ずる『禁書』としての役割を持つ。というのも、羊の皮、つまりは命の在ったものの体はやはり、外因子との結び付きが強く、そういった魔術的な鍵を掛けやすいのだ。


     もし本人以外が開けば、本が燃え尽きるか、呪いを受けるか、大体そんな感じらしい。


     今は良く来る来客に見つからないように、クローゼットに仕舞っている。


     それはさておき、街の中もとても暑い。コンクリートジャングルとはよくいったものだ。もうほぼ亜熱帯である。


    「前にいったカフェテラスにかき氷売ってるみたいですよ。行きましょう!」


    「かき氷か、そうじゃの」


     機械文明ではないこの世界ではあるが、魔術文明の発展した結果、製法こそは異なるが、なんら現代と変わりない品が溢れている。


     かき氷にしてもそうだ、冷蔵庫に良く似た魔術品があるので、元に居た世界と何ら変わりのないものが食べられる。


     歴史書を見たとき、一般的に薬品や機械の知識に関しては、この世界では中世以前に途絶えている。故に一般的ではないし、機械に関してはもう無いのだろう。


     しかし、それらすべては魔術によって補われている。インフラにしても水道局や発電所に良く似た施設、外因子変換施設といったものが揃い、生活は元居た世界に依然としている。


     魔術というもの以外、ほぼ、変わらないのではないかと思い始めてきた。


     ウチは、ここに、いても、いいのではないだろうか。


    「どうしました? 夢野さん」


    「いや、なんでもないぞ」


    「そうですか?」


     カフェテラスのパラソル付きのテーブルでかき氷をチビチビと食べながら、何処かで鳴る風鈴の音で涼み、ウチは、茶柱との談笑の中で迷う。


     ウチはこのまま、ここに居ても──────


  22. 22 : : 2017/07/14(金) 00:16:26


    ◆◆◆




     夏のひとときを終え、夏休みもすぐに終わる。木枯らしの風が秋を巡り、ウチが『夢野秘密子』へと足掛かりをつけ始めた頃。


     春には桜が咲き乱れ、夏に新緑の色合いを見せ、秋に紅葉の絨毯を作った、女子寮から本校舎へのとても短い通学路、さっぱりと葉を無くして寂しくなった桜の木も、すっかりと冬支度なのだろう。


    「んあ~……」


     眠い。冬は眠い。こたつに帰りたい。


     秋の運動会だとか、文化祭だとか、これらも世界を跨いでも差異がない。


     何も変わりない、ありふれた内容の、至って普通のものだった。


     クラスで馴染みの余りなかった者とも、それなりに良好な関係を築けた。


     王馬に「ひょっとして夢野ちゃんってそのタクトがないと魔術使えないの?」と案外鋭い指摘をされて焦ったり、白銀のコスプレ趣味に巻き込まれそうになったり、ゴン太の虫談義でみんなでゲッソリしたり、天海の妹の数に驚いたり、真宮寺の古代に使われた刻盤を実験起動して大変な事になったり、星の特技には驚かされたり。



     ああ、ウチは、何の努力をしたのか。


     努力したのは、元居た世界に帰る為だ。ウチは『夢野秘密子』の『禁書』を解き明かし『夢野秘密子』の『真理』へと到達しつつある。


     ほぼ0から、1年にも満たない時間の中で、ウチが辿り着けたのは、間違いなく、皆の力を借りたおかげだ。自分の秘密を隠しながら、皆の人の良さを利用して師事を受け、少しずつ、少しずつ『夢野秘密子』の『秘密』を暴いていった。


     何故、そこまで努力してしまったのか。


     もう、あと少しで終わる。


     いつの日かぼやいた、白昼夢の様なこの現実は、現実の様な白昼夢になる。


  23. 23 : : 2017/07/14(金) 00:18:17




    ◆◆◆




    ──────量子可逆におけるイメージの生成は膨大で、それに原初魔術(オリジン)放浪転移(ドリフト)』を──────


    ──────並行する世界に自身の座標、対象の座標を固定する為に、自身の血液を外部刻盤へと流し、関連性を付け──────


    ──────費やす世界の設定、なるべくなら何も生物が生まれなかった並行世界のエネルギーを─────




     工程は膨大にして複雑怪奇、しかし、ウチはこの『夢野秘密子』の跡をなぞれば良い。


     ウチは『量子可逆(クォンタム・リバーシ)』の術理の刻盤を封じた霊石を使い、このウチの研究室いっぱいに使った術式陣で外因子を流しこむだけだ。


    「……」


     完成した。これでウチは帰ることが出来る。


     しかし、ウチが帰るにはあまりにも未練が残りすぎた。




     努力を積み重ねたのは『魔法(てじな)』に初めて触れたとき以来だ。最初は失敗を繰り返し、出来るようになって、嬉しくて、何でも出来る様になって、楽しくて。
     これもきっと同じだ。
     途中からのめり込むように楽しくなっていった。




    ──────帰りたくない。




     完成した陣を前に、ウチはただ、呆然と立ち尽くすだけだった。




    ◆◆◆




    「夢野さーん」


     こやつはいつだって元気だな。こんなに寒いのに。いつもの女子寮前には、いつもの様に、声を掛けてくる。


    「さあ、今日も元気に登校しましょう!」


     この当たり前の登校風景も、最初の頃は気持ちが悪かった。ウチ以外が違う生き物に見えて、ウチだけが、独りの気がして。


    「なあ、転子よ」


     いつの日か、茶柱を名字でなく、下の名前で呼ぶ様になった。そう呼べと言われた訳でもなく、ただ毎日顔を合わせていたら、自然とそうなっていった。


    「何ですか? 夢野さん?」


    「今日のウチが、明日のウチと違ったら、お主はどう思う?」


     我ながら何を言ってるんだろう。何故、こんな事を聴いた、馬鹿かウチは。


    「ん~それは、まったく同じ夢野さんでも、何かが違うってことですか?」


    「そうじゃ」


    「……そうですね。夢野さんには変わりないけど、夢野さんじゃない、ですか。難しい……ですけど、それは寂しいですね」


    「寂しい?」


    「ええ、よくはわかりませんが、きっと寂しいです。それでも、転子は違う夢野さんとも仲良くなります。昨日の夢野さんとも、今日の夢野さんとも、明日の夢野さんとも仲良くなります……その、なんて言ったらわからないですけど」


    「そう、か……」


     本当に、何を訊いているのか、ウチは。意味不明もいいところだ。転子を困らせてしまった。




     本当に、何を言っているのか。 

  24. 24 : : 2017/07/14(金) 00:20:10


    ◆◆◆




    「みんなおっはよ! さ、今日も皆揃ったわね」


     いつも通りの担任の雪染に、いつも通りの朝のホームルーム、そしていつも通りの研究室、ウチは何をする気にもなれなかったが。


     時刻は直に夕方ごろ、ウチの研究室に少し乱暴なノックの音が聞こえた。


     転子ならノックもせずに勝手に入ってくる事が多々あるが、ノックは丁寧だ。では別の誰かか。


    「入るよ」

    「意外じゃの、春川、お主が訪ねて来るなんて」


     春川だ。こやつも取っ付きにくいタイプの人間であった。関係は、付かず離れずといった感じではあるが、結局、こやつからは特に何も教わらなかったな。というか、魔術を使うのを極端に避けていた素振りがある。


     ウチと違う点は『使えなかった』事と『使わなかった』事にある。春川は本魔術と開紋を使わないが、生活魔術くらいなら使っていた。


     まあ、深く追及はしまい。誰にだって理由はある。


    「百田のバカが忘年会やろうって騒いでんの。夢野、あんたはどうする?」


    「んあ? ああ、そうじゃの……」


     ああ、そうか、もう冬休みの手前か。


     そんな時期、おおよそ8ヶ月が過ぎて、そろそろ今年が終わろうとしている。


    「うむ、ウチもいくぞ」


    「そう、じゃあ6時に校舎前、確かに伝えたから」


    「わかったのじゃハルマキ」


    「は?」


    「あ、いや、うん、6時に校舎前、はい、なのじゃ……」






     春川に凄まれるとホント背筋が凍る様だ。まったく、百田が春川をハルマキなどというあだ名をつけてから、ウチも春川をハルマキとちょいちょい呼んでは凄まれてしまう。何気にハルマキという響き、ツボにきている。しかし、そんなあだ名を百田から呼ばれる様になってからか、春川はなんとなくツンケンとしていた表情から、険が取れたような気がする。


    「まったく……じゃあ、また」


    「んあ、またの」


     春川はウチの研究室から出ていった。さて、女子寮に戻って準備をしよう。


     ウチは準備した陣を横目に、こうしてまた未練がましくも、皆の元へと向かう。



  25. 25 : : 2017/07/14(金) 00:22:12


    ◆◆◆




     時刻は6時、私服に着替えて校舎前へとやって来た。


    「あ、夢野さん」


     転子は勿論、皆も既に集まっていた。


    「おっーし! これで全員だな。んじゃ、行くか!」


     と、ジュースやお菓子なんかの入ったコンビニの袋を両手で掲げた、最原と春川、赤松も同じように持っている辺り、4人で買い出しに行ったのだろう。


    「なんじゃ、ウチはてっきりどっかの店でやるものかと思っておったが」


     普通はこう、校舎前から街に繰り出して、予約した店に行くものじゃないだろうか。百田は踝を返して、校舎の中へと入っていく。


    「百田ちゃんバカだからさぁ~、どこも年末の忘年会で予約いっぱいって普通分かるモンでしょ~? 今日思いついて今日予約取れるワケないじゃーん?」


     と、悪戯に笑うのは小柄な体で、毛先が跳ねた様な髪型の、ブロックチェックのストールが印象的な王馬だ。


    「うっせぇ! 何とかなったろ!」


    「雪染先生のおかげでね……百田くん、今度からは事前に計画建てよう?」


    「んだよ助手! オメーまでオレを責めるのか!?」


    「いや、最原が正しいでしょ」


    「そうだね、最原くんが正しいね」


     王馬に弄られる百田と、正論を説く最原に、それに同意する春川と赤松。


     見慣れた光景に、見慣れたクラスメイト。


     教室に入れば見慣れた机と見慣れた黒板。


    「おっしゃ、おーう、みんなジュース回せジュース! ハルマキ! ほら回せ回せ!」


    「ちょっと百田! 溢れるからやめて!」




     1年にも満たないこの時間は、とても濃密なもので、とても楽しかった。


    「どうしました? 夢野さん?」


    「ん? あ、いや、楽しいなって」




    ◆◆◆




    「なぁ~? なんで是清はマスクしたまま、お茶飲めるの? なんで?」


    「ん? まぁ、それは秘密だヨ」


     褐色肌で銀髪のアンジーは、艶やかな長髪に、口元まで覆う黒いマスクとミリタリー風な制服の男子、真宮寺是清へ割りと皆が気になってる事を訊いていたり。




    「そう! つまりね、ゴン太くんのその筋肉に見合うキャラクターの衣装作ったの! 着てくれるよね? 紳士なら着てくれるよね?」


    「えっと……うん、ゴン太に似合うかな……」


     あっちのロングヘアの眼鏡の女子、白銀つむぎが、大柄で筋肉質の体に紳士服を着込む、取って付けた様な眼鏡のボサボサ頭の獄原ゴン太にコスプレを強要してたり。


    「どう、星君? インスタントのコーヒーだけど」


    「ん? ああ、すまねぇな東条……」


     東条にインスタントのコーヒーを入れて貰っている、ウチよりも小柄な体の割にすごく大人びた声のパンクな服をした星竜馬に。


    「どうっすか、最原君、飲んでるっすか?」


    「いや、天海くん、それお茶だよね? 僕ら未成年だし、まさかお酒とか飲んでないよね?」


     くせっ毛にやや垂れた目をした痩身の優男の天海蘭太郎が、最原に妙な絡み方をしていたり。


     百田の突発的に発案した行き当たりばったりな忘年会であったが、存外に楽しいものであった。


     そうして夜は更けていく。


  26. 26 : : 2017/07/14(金) 00:23:31




    ◆◆◆




    「……何の音?」


     夜の9時を回った頃、春川がそんな事を呟いた。


    「? 何も聴こえんかったが?」


    「どうしたんですか?」


     転子もウチと同じく、聴こえてはない様だ。


    「気のせいではないのか?」


    「……違う、1階、窓の割れる音」


     春川が最近見せていた柔和な表情を崩し、真剣な顔付きで教室の窓を覗く。


    「あ? どーしたハルマキ」


    「百田、皆をまとめてここに居て」


     春川は教室の外へと駆け出して行ってしまった。


    「んだ、あいつ……急に」


    「まって、百田くん……もしかしたら」


     最原が自身の刻盤を浮き上がらせ、いつの日か見せてくれた『検索(リファレンス)』の工程を組み上げ、顕現させる。


    「……! 反応が見られる、全部合わせて9人……春川さんと雪染先生と……誰だ?」


     下に居るのはもう、宿直で残った担任の雪染くらいだ。そして下に向かって行った春川
    、では残りの7人は誰だ。


    「もしかしたらさぁ、今流行りの『テロリスト』って奴じゃない?」


     王馬の一言に、皆が静まり返る。夏休み前の立て籠り事件以降も、色々と各地で事件が起きている。


     アレは『残党』に他ならない。この世界においても、過去に『史上最大最悪の絶望的事件』というものがあった。


     そう、結局はこの世界においてもアレは転換期なのだ。僅かな差異はあるものの、変えようのない事象、変えることの出来ないものなのだろう。


    「ハルマキ……!」


    「まって! 百田くん! どこ行くの!?」


     百田が最原の制止の声を無視して飛び出して行く。


    「夢野さん……」


    「だ、大丈夫じゃ、転子。きっとウチらと同じように学校で忘年会をやってる他の学年の……」




     と、その時、鼓膜を打ち破る様な轟音が、教室まで響いた。


  27. 27 : : 2017/07/14(金) 00:25:27


    「な、何じゃ……!」


     耳がキンキンとする。轟音が何かの爆発音だと分かるが、下の階で何が起きている?


     良くない事が、起きている。




    ◆◆◆




    「夢野さん! どこに行くんですか! 駄目です!」


     転子の制止を振り切り、ウチは下の階へと向かう。


    「うっ……これは」


     爆発による煙が昇降口から上ってくる。先程の音はやはり、何かが爆発したのだろう。しかし、これほどの爆発を一体。


    「魔術……ではないですね。変な臭いがします」


     そう、これは外因子を燃焼させ、爆発させたモノではない。
     花火なんかを使った時にも臭う。硫黄の様な臭い。


     これは恐らく、火薬だろう。


    「おい! オメー達なんで……!」


     昇降口を降りた先に百田が居た。まだ春川は見つかっていない様だ。


    「何で、と言ってる場合では無いようじゃ……!」


     百田の背後、暗がりの廊下から駆け足の音が聴こえる。春川でも、雪染でもない。


     アレはモノクマヘッド、ウチの居た世界ではあのクマの被り物をした不特定多数の『誰か』は、破壊行為を繰り返す『絶望の残党』の一端。


     手に持っているのはこの世界では有り得ないと思っていた黒いL字型の塊。


    「『銃』……!」


    「あ? 『じゅう』? 夢野、何を言って……」


    「百田、退くのじゃ!」


     ウチは咄嗟に、着ているローブの内側のソケットから、タクトを取り出して伸ばす。


    外因子と内因子の接続は素早く、刻盤に通しイメージを練り上げる。


     縛る素は鉄、向く外因子は左へ。


     これは転子に教えてもらった『流転(ペルトランシアート)』の魔術。


     外因子と対象を結びつけ、その方向へと引っ張るという魔術。余談だが、ウチがこの世界に来て、街中でガラの悪い男に絡まれていた時に、転子は一番得意なこの魔術に体術を絡めて使ったらしい。初見では本当に力任せに投げた様にしか見えなかったが。


     この魔術によってモノクマヘッドの持つ『銃』を左へと投げ飛ばす。


    「こいつらがテロリストか」


     銃を飛ばされ、あたふたとしているモノクマヘッドに、百田が右拳を振り抜き、殴り飛ばす。


    「なんだこりゃ」


    「うかつに触るでない、それは……」


     百田が完全にのびたモノクマヘッドを尻目に銃を拾い上げ、銃身を握り、発射口を覗きこんだりと、かなり危ない事をしている。


    「……それは『銃』……百田、大人しくそれを渡して」


    「ハルマキ! オメー何処に……」


     スッと、一体何処から出てきたのか、春川が気付いたらそこに居た。
     本当に気づかなかった。今まで何処にいたのか。
  28. 28 : : 2017/07/14(金) 00:27:35


    「なんで私の言うことを無視したの?」


     百田が春川に銃を渡した後、少し怒気のこもった声で、ウチらは凄まれる。


    「バカ野郎、オメーもしかしたらヤベーってホントは気付いてたんじゃねえのか? なんで言わなかったんだよ」


    「私は大丈夫だから、雪染先生を皆の所に避難させた。あの教室の皆にも誰が来ても絶対開けるなと言ってきた……そして、今度はあんた達」


     なるほど、と言うことは入れ違いになったのか、この学校は東側と西側に昇降口があり、ウチ達が東側を降りている時に、春川と雪染が西側を昇っていたのだろう。


    「知ってるでしょ? そいつらはモノクマヘッド……『いつ何処かで誰かがなるテロリスト』、何年も前に起きた史上最大最悪の絶望的事件の爪痕の1つ、その集団がこの学校で立て籠りをしようとしている。あいつらは目的の為にテロをするんじゃない。テロそのものが目的の『イカレ』よ」


    「ちっ、王馬の言うこと本当だったじゃねえか。いつも嘘しか言わねーくせに」


    「とにかく、警察にはもう通報した、あんた達も早く教室へ……」


     ダメじゃ。1階にはウチの研究室がある。アレを、あの陣を壊されたら──────!


    「あ、おい、夢野!」


    「ちょ、夢野さん! 何処に行くんですか!」


    「何を考えてるの……!」




     気付くと走り出していた。


     あの陣自体は作り直せる。しかし、それには『夢野秘密子』の『禁書』があっての事だ。陣を作るために研究室に持ち出しているのをそのまま置いている。せめて『禁書』だけでも回収しなければならない。


  29. 29 : : 2017/07/14(金) 00:29:07


    「はぁ、はぁ……!」


    「何処に行こうとしてるの」


     廊下を抜け、角を曲がった所に、何故かもう既に春川がいた。


    「……やっぱり、お主は『影渡(カゲワタリ)』を」


    「……あまり皆に知られたくなかったけど、そう、私の得意な開紋はほぼ全部が良くない生まれのモノばかり。まともな魔術は得意じゃない」


     春川の魔術『影渡(カゲワタリ)』はそのまま、自身の体を影と化し、影から影へ渡るという魔術。
     これは『放浪転移(ドリフト)』と違い、魔力の痕跡を極力残さない上に、人の背後に直接現れる事が出来る、裏社会で生まれた間接的に人を殺すのに特化した魔術の1つ。


     人を攻撃する魔術は多岐に渡る。直接にしろ、間接にしろ、それらの習得は法によって管理されており、無許可で習得するのは違法行為だ。


    「私はそういう環境で育ったから、きっとそういうものにしかなれない」


    「お主……」


    「無駄話は終わり、さあ、あんたも教室に」


    「まて、待ってくれ……ウチの研究室に大事なものが」


     その時、来た方向の廊下奥でマズルフラッシュと共に銃撃の音が響いた。


    「……!」


    「キィエエエエエエエエエ!!」


     転子は、裂帛(れっぱく)の気迫と共に、体術に流転の魔術を乗せ、モノクマヘッドを投げ飛ばす。


    「あいつ、百田と教室に帰れって行ったのに……!」


    「夢野さん!」


    「バカ! はやくこっちに!!」

     転子の背後よりモノクマヘッドが2人、銃を持って迫ってくる。
     走り出す転子を援護する為に、ウチは杖を向け、開紋する。


     イメージは高密度の外因子、気体から液体へ、液体から固体へ。
     その小さな塊を作り上げ、それを外因子の回転に乗せて射出する。


     これは『礫撃(グレブル)』という攻撃を目的とした魔術であるが、入学式の時に雪染が使っていたものだ。魂殻に触れると破裂し、衝撃波でぶっ飛ばす事が出来る。あの時は本当、人を容易く殺せる魔術だと思っていたが、実は驚くほどに殺傷性が低く、法に触れない魔術だ。


    「がぁ!?」


    「ぐぇ!?」


     礫撃はモノクマヘッドの頭部に命中、ぶっ飛ばし昏倒させることが出来た。


    「転子!」


    「夢野さん! よかった……」




    「良くないわ、お主、なんで来た……!」


     声を抑えつつも、ウチは怒気を露にして転子を睨む。しかし、春川が遮ると、ウチの研究室の方へと指をさし、静かに呟く。


    「揉めるのは後にして、今はとにかく、移動。夢野、あんたの研究室はそっちよね、そこに立て籠るよ」


  30. 30 : : 2017/07/14(金) 00:30:53


    ◆◆◆




    「転子……どうして」


    「……」


     あのやかましい転子が困った様に黙り混む。


    「とにかく、あんた達はしばらくここに居て、扉は絶対に開けないで」


    「何処に行くんじゃ、春川」


    「百田のバカがまた飛び出さないように見に行ってくる。またここに来るから……もし見つかったら、やつらの持っている『銃』には気をつけて」


     しかし、春川はなぜ銃を知っているのか。


    「なぜ春川は『銃』に詳しいのじゃ?」


    「昔にちょっと、あまり話したくはないけど。魔術の発展が乏しい国の裏社会で、秘密裏に発展を遂げてきた、魔術を用いない武器よ。魔術の痕跡が残らない、誰かを遠方から殺すための道具、あいつらが何で持ってるのかは解らないけれど」


     この世界において『銃』は存在していても認知されていないものなのだろう。この世界での殺人はまず、魔術から疑われる。銃創も弾痕も、そういう道具があるという知識がなければ、何を用いて殺されたかなんて解らないだろう。 


    「とにかく、もし向けられたら、遠くてもその『銃』の真正面に立ってはダメ、あれは真っ直ぐに、見えない速度で飛んでくる」


    「わ、わかりました」


     転子が頷くと、春川は再び『影渡(カゲワタリ)』にて、影の中へと消えていく。
     あやつの過去、詮索するつもりはないが、きっとそういった裏社会に関連したものなのだろう。


    「夢野さん……怒ってます?」


    「当たり前じゃ……」


    「すみません……」


    「でもな、ウチは……その、ほんの少しだけじゃぞ、その……お主が隣にいてくれて、安心しておる」


    「夢野さん……!」




     外にはテロリストというこの状況、もしかしたらウチはこの自分の研究室に1人で立て籠る羽目になったかもしれん。


    「ドアに取り敢えず鍵を……」


     足音が幾つかする。この研究室の扉は外面は木彫であるが、霊石と刻盤によって強度を上げている。多少の事では開かないだろう。


    「春川は無事に着けただろうか」


    「きっと大丈夫ですよ、なんだか春川さん、こういう荒事に慣れてる感じで頼もしかったですし」


     確かに、春川の素性はわからないが、荒事に対してとても冷静に対処し、あの魔術以外でも、身を守る魔術を備えているだろう。 


    「……」


    「……」


     刻々と、沈黙の中で時間が刻まれていく。いや、春川が教室に向かってからそう大した時間は経っていない。
     焦燥と恐怖、そのせいで1分ですらとても長い時間だと感じてしまう。
     研究室の中央の陣の横の机の脇で、暖房も何もなく、寒い床にただ2人で並んで膝を抱え、春川か、もしくは警察の到着を待った。


    「……夢野さん」


    「なんじゃ?」


     沈黙を破り、転子が口を開く。しかし、それは何だか力の無い、転子らしからぬ声で、ウチも思わず呟く様にして応える。

    「転子がずっと、1つだけ『嘘』をついてたとしても、友達でいてくれますか?」


    「何を藪から棒に……」






     言っているのだと言葉を続けようとしたその時、ドアノブがガチャガチャと乱暴に回される音が聴こえた。
  31. 31 : : 2017/07/14(金) 00:32:51


    「……話は後じゃ」


     ウチが小声でそう伝えると、無言で転子を頷く。


     春川ではない。春川ならば『影渡』で入ってこれるし、恐らくは警察でも無いだろう。


     ドアノブを回すのを止めると、次は蹴りを入れて来た。ドンッ、ドンッ、と強化を施した扉でなければ蹴破られていただろう。


     数回の後、どうやら蹴るのを止め、外が静かになった。


    「……諦めたのでしょうか?」


     恐る恐る転子が扉へと近寄って行く。


     しかし、ウチの耳に『金属製の何かが転がる音』が聴こえた。




    「駄目じゃ転子! 離れろ!!」


     ウチの叫びと共に、爆発の閃光が扉を吹っ飛ばし。吹っ飛んだ扉に転子は衝突し、部屋の壁まで飛ばされ、倒れる。


     バカかウチは、春川の言った通りモノクマヘッドは『イカレ』だ。行動基準も何もない、ただ、暴れて籠り、周り全部を破壊した後は自死する正真正銘の『狂人』なのだ。


     そして、最初の爆発で、爆発物を持っているなんて解っていたはずだ。


     銃ときて『手榴弾』と、この世界において秘匿されて進化を続けてきた、ウチの居た世界と何ら変わりの無いレベルの技術だ。


     魔術に淘汰されながらも、裏で進化し続けた魔術外の武器が存在するのは、人類史において必然なのかもしれない。


    「うっ……く……」


     幸い、強化した扉が盾の役割を果たし、爆発による手榴弾の破片を防ぎ、爆炎からも守られたが、衝撃によって壁に叩きつけられ、全身に打撲を受けている様だ。


    「転子!」


     爆煙で周囲が見えない。杖を取り出して構え、周囲の煙を魔術を使って飛ばそうと集中した。


     故に、気づく事が出来なかった。


    「あくっ……!」


     煙の中からモノクマヘッドの足が伸び、ウチは蹴り飛ばされた。
  32. 32 : : 2017/07/14(金) 00:34:07


    「うっ……」


    「ゆ、めのさん?」


     ウチの蹴り飛ばされた方向に転子が倒れている。


    「転、子……! 大丈夫、か?」


     息を吸うと腹が痛む、蹴られた腹にきっと大きな青アザでも出来たのだろう。


     やがてと爆煙が晴れ、モノクマヘッドが露になった。


     左右非対称の、半分白く半分黒いクマの被り物をした『誰か』。


     ゆらりと、拳銃をウチへと構え。


    「ダメェ!!」


     転子がウチに被さり、


     乾いた様な破裂音と。


     薬莢の落ちる音と。


     力なく項垂れかかる、転子と。 


     ウチの思考は、止まった。


     
    ──────ビキリ。


    「あ、あ、あ……あああああああ!!!」




     ウチ自身(・ ・ ・ ・)の刻盤には外因子が流れる。内因子と繋がり、世界に接続する。


     魂殻に急激に刻盤を刻み込む事で伴う神経に走る激痛を無視し、開く。


    ──────形成するは巨人の掌。


    ──────『潰れ死ね(フランギット・マニブス)

     モノクマヘッドを外因子で練り上げた不可視の手によって掴む、万力の様な力によってモノクマヘッドの体は軋みを上げた。




    ──────びきり、びきり。




     潰れろ、虫の様に潰れて死──────




    「そこまで」


     春川の声が、ウチを冷ました。




    「あんたは人殺しなんかになる必要はない……それ以上はそいつが死ぬ」 


     魔術で練り上げた手は溶けて、握り締めていた痙攣するモノクマヘッドを落とす。


    「ウ、チは……」


     転子が撃たれ、頭の中が真っ白になった瞬間、癇癪の様に『禁書』にあった『荒奮手(フランギット・マニブス)』の術理を練り上げ、ウチは、そいつを、


    「熱病みたいなもの、来るのが遅くなってごめん。その代わり他のモノクマヘッドはもう捕縛した。それよりも茶柱の出血が酷い。私は救急車を呼んでくる。あんたは……茶柱の側にいて」


     そういって、春川は研究室の外へ飛び出していく。


    「転子……! 転子!!」


     ウチを庇って受けた背中の銃創から止めどなく血が溢れてくる。尋常ではない出血は、恐らく心臓に近い血管をやられた。


    「ゆめ、のさん?」


     転子が気付く。しかし、その顔は酷く蒼白で、もう、長くは、ない。


    「ゆめ、のさん、転子は……本当、は、夢野さん、が……ごほっ!」


     吐血する。もう、転子は、




    「喋るな……すぐに助けが来るはずじゃ」


     治癒を促す魔術では、転子の致命傷を止める事が出来ない。例え傷を塞いだとしても、あまりにも血を流しすぎている。


    「本当、は、夢野さんが……『この世界の夢野さん』で、無い事を、知ってるん、です」


    「え……?」


     ウチが隠し通してきた事を、転子は、ずっと、知っていた。




    「ホントは……この、学園、に来る前から……夢野さんとは友達で、した……」


    「な、なんで……今そんな事を」




    ──────『夢野秘密子』は、希望ヶ峰学園に来る以前から、茶柱転子と友人であった。
     そして『夢野秘密子』が並行世界へ行く事を唯一知っているのも転子だけだ。


     そして、こちらに来たウチを任され、ずっと、右も左もわからなかったウチを、見ていてくれた。


    「……てん、こ」


    「ゆめ、の、さん……てん、こは、ゆめのさ、んを、ちゃんと、守れて……」




    ──────ちゃんと守れていたでしょうか。




    「やめろ、転子……冗談はよすのじゃ、目を閉じるな……目を」




     ただ、静かに、茶柱転子は息を引き取る。
  33. 33 : : 2017/07/14(金) 00:35:51











    ──────まだじゃ。







     そんな結末があってたまるか。そんな事があってたまるか。こんな事で死なせてたまるか。


     ウチが手にしたのは『量子可逆』の術理を刻盤に込めた霊石。


     これを使えばウチは『元いた世界』へと強制的に帰る事になる。部屋はメチャクチャになってしまったが、幸いにして陣が生きている。


     この『量子可逆』の術理は工程を変え、新しく組み換える事によって『事象改竄(アルターフェノメノン)』へと変質する。

     術理自体は変わらない。ウチは一旦膨大な過去を遡り、転換期から枝分かれした別の可能性の世界へと向かうだけ。

     これが出来るの一度だけ、エントロピーの増加に伴って、二度もやればこの世界そのものが失せる可能性が高い。


     これは『夢野秘密子』が出来なかったもう1つの真理。
    『量子可逆』は過去に遡るだけだが、『事象改竄』はその名前の通り『量子可逆』だけでは出来ない過去を変えてしまう魔術。


     史実の改竄。


     これはもう、神の権能だろう。


     使えばウチは、その権能を振るう事が出来る。


     しかし、帰還するための術理を陣に組み、霊石にも関連付けさせている為、発動すれば最後、この世界に留まることは出来ない。


     何を迷う、何を以て迷うものか。やかましくて、うっとおしい、この掛け替えのない親友を亡くしてなるものか。




    「──────起動」

  34. 34 : : 2017/07/14(金) 00:37:38




    ◆◆◆




    「──────」


     暗く、冷たい湖底の様な、思考は鈍く、感覚はない。


     自身である、茶柱転子は死んだ。体が冷え、目が霞んで白くぼやけていく中、最期を看取ってくれた夢野さんの顔が良く見えなかったが、あの(・ ・)夢野さんは泣いてくれているのだろうか。


     たった8ヶ月の間だったが、転子は夢野さんの友達でいられただろうか。




    ──────ああ、一番の友達じゃ。


     湖底に伸びる小さな手は、いつか握ってくれなかったあの手は、今ここで、握ってくれた。




    ──────ありがとう、転子。今日までのウチと仲良くしてくれて、明日のウチにも、宜しくのう。


     それは、いつか言ってくれなかったお礼の言葉。

     小さな手が、声が、転子を水面まで引き上げて──────



     


    「夢野さんっ!!」




     起き上がるとそこは病室だった。転子は死んだ筈だ、ではここは天国? それとも地獄?


    「なんじゃ?」


     夢野さんだ。しかし。


    「……お主を助けた『夢野秘密子』なら、元いた『並行世界』に帰った……大した奴じゃったな。あやつはどういった術理を加えて『事象改竄』なんてやったんじゃろうな」


    「えっと……じゃあ、今いる夢野さんは」


    「8ヶ月ぶりかの、転子よ」


     そう、元々、この世界にいた夢野さんだった。あの死の底から救い上げてくれた夢野さんは、もう。


    「そう、ですね。お久しぶりです、夢野さん」


    「……『事象改竄』によって、お主の『銃で撃たれて死んだ』という事実はかき消された。あやつの……『夢野秘密子』は僅か8ヶ月で大魔導に並ぶ偉業を成し遂げた……あやつに成り代わって生活していたが、あやつには何もない、ただの一般人であるにも関わらず、それだけ努力したのだな」


    「はい……ずっと見てきましたから、あの夢野さんが頑張って、使えないはずの魔術を習得して……」


     初めて会った時に、夢野さんの『何でも』という言葉に対して、冗談半分で『大魔導』みたいだと茶化してみたが、本当に、あの夢野さんは『大魔導』に至り、万能ともいえる『事象改竄』なんて何でもアリな魔術を練り上げてみせた。


     転子や、他のクラスメイトと交流しながらも、彼女は孤独に一意奮闘し続けた。



    「あの夢野さんは、無事に帰れたのでしょうか」


    「……わからぬ。しかし『事象改竄』は『量子可逆』と並ぶ程に刻盤を酷似する。本来は十数もの霊石に代理させてやるものだが。身体は無事だったとしても、刻盤に繋がる脳がやられとるかもしれん……」


     そう、あの時、あの夢野さんには僅かに魂殻に刻盤が刻まれるのを見た。その僅かな刻盤だけで、あの魔術を使った。



     脳をやられ、もしかしたら記憶が失われるかもしれない。




    「夢野さん……」




     あなたが明日に出会う、今日とは違う転子とも友達でいてくれますか?




  35. 35 : : 2017/07/14(金) 00:39:33


    ◆◆◆






     それは長い様で、泡沫(うたかた)の様に弾けて消えた夢。
     膨大な情報量が脳を廻り、ウチの刻盤(ナニカ)が焼き切れて、記憶(ナニカ)が落ちた。


     ウチは、たしか、希望ヶ峰学園にスカウトされて……




    「おわわわっ……んあっ!」


     何故か、掃除用具入れの中から転げ落ちた。


    「あいたたた……」


     すごく、長い夢を見ていた気がする。楽しかったり、悲しかったり、頑張ったりする夢だ。でも何も思い出せない。


    「大丈夫ですかっ?」


     周りは何だかハイテクめいた教室に、目の前には何処か見覚えが有るような……大きいリボンにセーラー服、口元の黒子が特徴的で、猫の印象を受ける女子。


    「だ、大丈夫じゃ」


     スカートをはたき、何でも無いように振る舞う。


    「転子は茶柱転子です! 超高校級の合気道家です」


     声のデカい奴だ……ああ、でも、何故だろうか、とても身近に、ずっと居たような、そんな気がする。


    「あなたは?」


    茶柱がウチへと眼差しを向け、そう訊ねてくる。ならば言わねばなるまい。


    「ふっふっふ、ウチか? ウチは夢野秘密子……」












    「超高校級の魔法使いじゃ!」








     END









  36. 36 : : 2017/07/14(金) 00:45:34
    終わりです。ちょっと色々考えたシーンカットしたりでアレだったり、なんか拗らせてるようなアレですし、省みずに投稿しちゃって見逃し誤字とか文繋がってなかったりするんじゃないかと心配ですが、とにかく楽しく書けました。

    それではばいならー
  37. 37 : : 2017/07/14(金) 01:00:08
    なんだこの力作!?
  38. 38 : : 2017/07/14(金) 13:33:11
    お疲れ様です。読んでいる間わくわくしっぱなしでした。幻想的で素敵な作品だったと思います
  39. 39 : : 2017/07/14(金) 13:55:29
    お疲れさまでした!非常にスバらしい展開で終始、引き込まれました!

    SSで泣いたのは久々です(ToT)
  40. 40 : : 2017/07/15(土) 09:09:04
    お疲れ様です。壮大だけど端から端まで綺麗に丸く収めた素晴らしい構成と、そして文章とルビのセンスです。脱帽するしかありませんでした。
  41. 41 : : 2017/07/17(月) 21:02:00
    ♦がんばれー
  42. 42 : : 2017/07/26(水) 09:51:18
    これはもうあの、アニメ化した方がいいと思います(小並感)
  43. 43 : : 2019/03/26(火) 13:25:40
    そうだな(本心)
  44. 44 : : 2019/03/26(火) 13:27:22
    次回作に御期待しまくってます!!
  45. 45 : : 2020/10/26(月) 14:26:47
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。
  46. 46 : : 2021/06/23(水) 03:51:48
    もしかして、本当の世界でも、夢野は、まだ、魔法使えたりするのかな

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