黒の預言書と碧眼の悪魔
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- 1 : 2013/12/21(土) 08:52:14 :
- こんにちは、サシャッカーマンです。今書いているものが少し行き詰まったので、その間にほかのを書こうかにと。
気づいた方もいらっしゃるかもしれませんがこれはSound Horizonの黒の預言書と聖戦のイベリアを参考にしたお話です。しかし、
「そんなもん知らねーよ!」
という方も読めるようにするのでご安心ください。
ぼちぼちの更新ですがよろしければよろしくお願いします。
設定としては人類が巨人に勝利して5年後のお話です。アニはまだ結晶の中。壁も一応残ってます。
原作の方だとアニはまだ出てきそうですが、あくまで二次創作なので...(笑)
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- 2 : 2013/12/21(土) 09:57:10 :
- きたい
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- 3 : 2013/12/21(土) 10:44:40 :
- 1 黒の預言書
人類が巨人に勝利して1年後、人々は再び平和と自由を取り戻し穏やかな日々を過ごしていた。
兵団はそれぞれまだ健在だが壁の外で巨人と戦っていた調査兵団の役目は少し変わった。
活動領域を広げ、また他に人類がいないのかなどを探索している。また単なる興味で外へ行く者も多い。
ここは所謂内地、王都の城の1室。そこでアルミン アルレルトはペンを走らせる。エルヴィンから人類の戦果を正確にまとめるよう指示されてここ数日は王都の巨大な図書室に篭もりっきりだ。
集中が切れたのかアルミンは一息ついて伸びをした。肩周りの筋肉がじわりと解される。
「また何か見つかったかなぁ」
彼はポツりと呟いた。現在リヴァイやエレ、ミカサ、その他調査兵団の何名かは壁の外を探索している。先日は砂の雪原、砂漠を見つけたという報告があった。
嬉しいと思う反面、アルミンは海や氷の大地などそういったものはエレンとミカサと一緒に見たいと思っているのだ。
書物にある記述が本当か確かめたい、彼の飽くなき好奇心と知識欲が込み上げてくる。
「さ...それも仕事を片付けてからだね」
そう言ってまたペンを握り人類のこれまでの出来事を書いていく。
スラスラと流れるような筆先が人類の歴史を紡ぎ出す。書いていくだけでは後世にその恐怖、悲壮感など言葉にならぬような感情、激しい戦いがどのようなものだったか伝わるかわからないがそれでも書く。最善を尽くす。
そんな中ふとアルミンの手が止まった。書くべき歴史は第57回壁外調査以降の歴史。あの惨劇を巻き起こした張本人、アニ レオンハートはまだ所謂ウォール シーナの地下深くで結晶の中だ。眠っているのか、死んでいるのか、生きているのか-全く現在の状況もわからぬまま今でも彼女は監視下に一応置かれている。
人類を滅ぼす力を持つ彼女がまだ地下にいると書くと人類にまた変な恐怖や混乱を招きかねない。それがアルミンの手が止める。それと-アルミンの個人的感情もあるが。
ドアをノックする音が聞こえ、ドアが開かれた。そこに立っていたのはエルヴィン スミス
調査兵団の13代団長だ。片腕を失ってなお、その魂は消え失せることなく人類を勝利に導いた。
「やぁアルミン。すまないな、こんな大変な仕事を任せて」
「いえ、大丈夫です。壁の外から何か連絡はありましたか?」
「いいや、まだ何もない。ただ先日森を抜けたらしいから近いうちに何か見つかるかもしれない」
エルヴィンが微笑むとアルミンもつられて笑った。
「それは良かったです」
「それはそうと、ここの記述が少し誤っているから修正を頼みたい」
そう言ってエルヴィンはアルミンに紙を差し出してきた。アルミンは受け取って苦笑いする。
「すいません」
「構わないよ、時間をかけてくれていいから...急ぐ必要はない」
「そういえばハンジさんは..」
「彼女は相変わらずさ。ずっと本部の研究室で資料をまとめている」
「尊敬します」
「何をあ、君も負けていない。では、私はまた会議だからここで失礼する」
「はい、頑張って下さい」
アルミンがそう言うとエルヴィンはまた微笑み、図書室を後にした。
アルミンは一旦椅子に腰掛け修正点をチェックした。
「ここか...ここら辺は資料が少ないんだよね。どこだったかな」
アルミンはまた立ち上がりほんだなを
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- 4 : 2013/12/21(土) 11:18:36 :
- 最後間違えたので続きから
アルミンはまた立ち上がり本棚を見て回る。 膨大な書物量の中から適切な資料を見つけ出すのは至難の業でもある。図書室の隅々まで見てみるが中々見つからない。終いには最上階まで来てしまった。
「ん?」
ふと本棚と本棚の間に微妙な隙間を見つけた。本棚が痛んでいるから、などではなく不自然に隙間が作られている。
アルミンはその隙間に何となく目を近づけてみた。真っ暗だが窓からの僅かな光で何かが反射している。
アルミンはその隙間に両手を突っ込み、開けようとした。すると意外にも本棚は滑らかに横へ移動しそこには黒く塗られた金属の箱だけが置かれていた。アルミンは興味と少しの不安を抱きながらその箱に手を伸ばし蓋を開けた。
箱の中には真っ黒な表紙の本がきちっと収められていた。保存状態があまり良くないのか、それとも製作されたのかかなり昔なのか埃をかぶり、ページは少し茶色っぽくなっていた。
表紙を見てみると[黒の預言書 第一巻]とだけ書かれており著者名などは記されていない。
アルミンはとりあえず本を開けてみた。
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- 5 : 2013/12/21(土) 11:20:20 :
- >>2 ありがとうございます!
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- 6 : 2013/12/21(土) 14:47:34 :
- 面白いね!
こーゆーの好き!
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- 7 : 2013/12/21(土) 20:43:16 :
- 「これは...凄い」
アルミンは思わず感嘆の溜息を吐いた。
整然と並べられた文字が語るのは有史以来の歴史。今アルミンが書いているものよりもかなり正確で調べこまれている。アルミンはその綿密な文章に心を奪われた。自分の仕事も忘れ夢中で読み進めていく。
アルミンは今まで何冊もの本を読んできたがこれ程引込まれるのは外について書かれた本を読んだ以来だ。その記述はまるで何年も前の歴史を肌で感じられるかのよう。書かれた情景が頭に浮かぶ。
とりあえず1冊読み終えアルミンは時計を見た。もうかなり時間が経過しており日も暮れていた。
「いけない、会議に遅れる」
アルミンはすぐに本をしまい、本棚を元にあったような形に戻した。
そして階段を駆け下りて行くがその心はこれから始まる会議には向かっておらず、先ほどの[黒の預言書]にまだ向いていた。
あれと比べたら僕の記録なんて比較対象にさえならないな。
そんなことを考えながら図書室を出て廊下を走る。
にしてもなぜあんなに素晴らしいものが秘蔵されていたのか。何か王都に都合の悪い歴史でも記述されているのか。それとも高価だからか。確かにあの完成度はかなりの時間と労力が割かれているに違いないから、値段もそれ相応するだろう。
どちらにせよすぐに壁の中にいるエルヴィン団長やハンジさん、政府の者たちには告げるべきではないだろう。とりあえず全て読んでからだ。
会議が行われる部屋に到着し、ノックして部屋に入った。部屋に入ると久々に見る顔があった。ポニーテールを揺らし食べることが大好きな女の子だ。
「サシャじゃないか!どうしたの?」
「アルミン!お久しぶりです!」
エルヴィンと話していたサシャはアルミンを見るなり彼に駆け寄った。相変わらず笑顔が眩しい。
「君はリヴァイ兵長達と行動してるはずだろ?」
「はい、しかし今回は大事な伝達を任されているのです」
「兵長が君に任せたの?髄分な出世だね?」
「な、何ていうことをいうんですか!失礼な!乗馬に関しては自信ありますよ!」
アルミンに反撃するサシャを見てアルミンはあははと笑った。相変わらずサシャは少し論点を違えてるようだ。
「それで大事な伝達って?」
アルミンが問うとサシャはニヤリと笑って自慢げな顔を彼に向けた。
「えっへん、驚かないでくださいよ?実は...『海が見つかりました!』」
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- 8 : 2013/12/21(土) 20:43:56 :
- >>6
ありがとうございます!頑張って書きます!
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- 9 : 2013/12/21(土) 23:31:58 :
- 忘れてましたがこの話の設定では所謂「壁」はもうありません。そのへんの設定はあまり話に出しませんが。(だって原作でもわからないから(笑))
シガンシナやウォールマリアより内側地域を一国として
一応日本でいう四国や本州みたいな枠組みでそれぞれ、ウォール〜、と呼ばれる地域があります。
また聖戦のイベリアをモチーフにしたといいましたが特にその中の
石畳の緋き悪魔という楽曲をモチーフというか参考にしてます。
他の楽曲は宗教戦争(?)についての側面が多いので。(LIVE限定の海を渡った征服者達も含めて)
もし興味のある方はそのへんの動画サイトでも見れます。
104期では誰が生き残ってるの?
と思う方がおられるかもしれませんがあえて明言しません、というかここではあまり大きな問題ではないので。
もしかしたらこの話の中で生き返るなり死ぬなりするかもしれません...
それではまた明日更新すると思います。
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- 10 : 2013/12/22(日) 17:01:27 :
- 2 歴史の改竄
サシャの話によると壁の外を探索していた調査兵団の一行は海を見つけ、しばらくそこに拠点を作り海について調べたりしようとしているらしい。
またできるなら丈夫な船を作り海の向こう側に陸があるかなども確認しようと計画を立てているようだ。
サシャは一晩こちらに泊まり、翌日到着した調査兵団の何名かと拠点を作るためのテントや食料を持ってまた海へ向かった。
アルミンもついていきたいと思っていたが残念ながら現在進行系の年代記作りは重要任務であり途中で投げ出すわけには行かないのだ。また昨日見つけてしまったあの[黒の預言書]も気になる。アルミンが外へ行けるのはまだ先になりそうだった。
アルミンは自分でそのことがわかっていたので嘆きはしなかったが、やはり少し残念そうだった。とは言っても、やはり今は海の存在と同じくらい気になる書物があるのだが。
「さて、今日も読もうかな」
図書室の最上階の片隅、アルミンは[黒の預言書]の第二巻を広げた。とりあえず当分は年代記作成よりもこちらを読見すすめることに集中することを決めた。何の問題もなければこの本を上の人間に見せた方が手っ取り早い。
「昨日はかなり古い時代のことだったけど...今回はどうかな?」
高揚と期待感を抱き彼は1ページ目を開く-この分厚い書物こそ大海のようだ。蒼い景色の遥か彼方まで広がる地平線、それを成す水を手で少し掬うような。全巻で24冊、1冊1冊の分厚さも含め一日やそこらでは読み切ることのできなさそうな量だ。
だが本が好きなアルミンにとっては何の苦痛も伴わない作業だ。いやむしろ癒しとさえ言えよう。
黒く分厚い書物この年代記の中には様々なことが書かれていた。またアルミンが書いているようなただの事実の羅列ではなく、物語や小話のような形で書かれていてこれがまた彼の読書好きに火をつけた。
一応エルヴィン達に作業の出来具合をチェックされるため自分の方も書いているが、どうも自分のものはただの文字の羅列で味気なく、書いていてもつまらない。
かつて世界で流行したペストという病気にまつわる話や古代の戦争について一人の人物にスポットを当てながらまとめてある。また、海に関して、かつては海賊という者がいたという記述もあった。
物語と歴史に耽り、幻想的な日々を過ごすうちに早くも一ヶ月が経過した。
「アルミン、仕事のはかどりはどうかな?」
エルヴィンに問われアルミンは視線を落とした。
「すいません、中々資料がないものも多く...」
まさか他のことにのめり込み作業をそっちのけにしているなど言えない。
アルミンの様子を見てエルヴィンは気にしなくていいと柔らかい物腰で言った。
「君も海を見たいだろうに任せているのはこちらなんだ。文句なんて言わないよ」
「そこに甘んじるわけにはいきません。そういえば海について何か情報はありましたか?」
アルミンはこれ以上作業について話していると墓穴を掘ってしまいそうな気がしたので話題を変えた。
「何もないようだよ。ただ近くに新たな人類の生活拠点を見つけたらしい」
「壁の外に人類が!?」
「ああ、
そのようだよ。聞くところによると生活の様子などはこちらとそれほど変わらないしい」
「なんだかワクワクしますね」
アルミンは目を輝かせた。ぜひ新たな人類をこの目で見たいものだ。
通交など出来ればいいのだけれど。そういえばあの年代記には壁という言葉さえ見てないな。もっと読み進めよう...新たに見つけた人類の歴史について書かれているかもしれない。
ようやく後半に突入し第十八巻、記述はようやく100年前に到達した。
1冊1000ページ以上あるのにまだ十八巻か...それ程この100年には謎が多いのか...
もしかすると僕たちが知った以上に何か王政府には秘密があるのかもしれない。
読み進めよう-
彼の予想が外れることはない-即ち、彼のその予感は当たる-彼は隠された事実を知る。
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- 11 : 2013/12/23(月) 00:38:44 :
- やはり進めていくと百年前に壁ができたのにも裏がありそれについていてはアルミンも知っていたので軽く流し読み程度にした。
100年前から90年前迄には特に変わった記述はなかった。強いていえば巨人を崇める集団が現れたことであろうか。
がその流れるように進んでいた彼の読書も止まる-
「これは?」
アルミンは思わず立ち上がった。
そこに記されていたのはシガンシナ区が80年前にも巨人の侵攻を許したというものだった。
結局は何とかして外に追いやったとあるが、こんな事実はどの書物にも書かれていなかった。
これは-団長に知らせるべきなのか?いや-まだよそう。この本がもしかしたら偽りであるかもしれない。変な混乱を招くのも-やっと安定してきた世間だ。変な騒ぎは-
とりあえずアルミンはそのページに栞をした。僅かな緊張のようなものを感じながらアルミンは読みすすめる。やがて立体機動装置の誕生なども含まれてきた。
だいぶ最近に近づいたな。
アルミンは栞をして十八巻を閉じた。本日は海から一旦食料などを補給しに来る者達の手伝いをしたりしなくてはならない。そして貴重な外の話を聞こう。
丁寧に本を仕舞い、図書館を出ようとした。
-貴方はそれでいいのかしら-
ドアノブを握ったとき図書館の中から声が聞こえた。高く透き通った美しい少女のような声。だがどこか儚さを孕んでいる。
アルミンは立ち止まり振り返る。こんな時間に図書館にいる物好きは彼くらいだ。本来なら閉められていてもいい時間。それにこんな所に少女などいるはずもない。
疲れているからかな?空耳だよね。
アルミンは少し自分の耳を疑いながらもそのまま扉をあけて図書館の外へ出た。
彼が出ていった暗い図書館に窓から宵闇を照らす月光が差し込む。
そしてうっすらと長い髪をした少女のような人間の影が綺麗に磨かれた床に伸びた。
「どれだけ目を背けようと歴史は必ずあなたに問いかける。歴史は決して改竄を許さないのだから。そして未来も-もう影はそこまで迫っている」
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- 12 : 2013/12/23(月) 00:45:09 :
- 最後に出てきた少女...気づいた方もいるかもですがSound Horizonのキャラクターの一人です。
容姿をはっきりだそうか迷っています...がとりあえず台詞は出てきます。要するに軽いクロスオーバーってやつです。苦手な人が居たらゴメンなさい。
作者ここの文上手くない?
とか思われた箇所は確実にSound Horizonの歌詞を参考にしたところで
作者ここの文、厨二くさくない?
って所ももしかしたら上と同じかもしれません。(笑)
後、長くなりそうです。ご了承ください。それではまた明日。
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- 13 : 2013/12/23(月) 19:29:03 :
- 3 《歴史を辿る少女》
会議はそれ程長時間には及ばず、1時間ほどで終わった。ずっと座りっぱなしだったため筋肉を解そうと伸びをしたアルミンにハンジが駆け寄ってくる。今日はどこかさっぱりしている。きっと昨夜風呂に入ったのだろう。
「アルミン、今夜は見張り、いける?」
見張り、とはこの建物の地下に未だ眠るアニの監視だ。万が一の時のために調査兵団の者たちが日替わりで見張りについているのだ。
「はい、夕飯食べたら行きます」
歯切れよく返事したものの、アルミンはこの見張りがあまり好きではない。ピクリともしない彼女を見つめるのは複雑な感情にかられた。眠くなるからやりたくないとかではなく、胸が締め付けられるような感じがするのだ。
眠ったお姫様に王子様が接吻をするとお姫様は眠りから放たれ-なんていう童話もあるが残念ながら現実世界では起こりえない非科学的な現象で、ましてやあらゆる手段を持ってしても傷一つつかぬあの結晶はもしかしたらアニでさえ溶かし方を知らないのではないかとさえ思う。
結果的に彼女は多くの人を傷つけ殺したが、彼女なりにも背負うものがあった故のことだ。すべてが終わった今、彼女が再び出てきたとしてまたあのような殺戮を繰り返すとは思えないし、寧ろ出てきて欲しいというのがアルミンの本音であった。
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- 14 : 2013/12/23(月) 20:10:18 :
- 真っ暗な闇、通路に光は灯されているもののその闇は地下へ行く程深くなる。やがて最下部につき、アルミンは石畳の上を歩きワイヤーで固定された水晶の前についた。水晶の中の彼女はやはり全く動かず、そして透き通るような白い肌も荒んでおらず相変わらず背筋が凍るような美しさを保持していた。
「今夜は何を話そうか?」
アルミンは水晶に手を当てて話しかけた。勿論アニが反応することはない。彼は続ける。
「今日も沢山話そう」
ここに来る度アルミンはアニに何かしら話しかけていた。もしかしたら反応を示すのではないか、非科学的ということはわかっているが何故かしてしまうのだった。
「そうだ...海が見つかったらしいよ。かなり遠いらしいけど凄く蒼くて広くて...エレンたちに先を越されちゃったよ。約束してたのになー。
アニ、君ともいつか見てみたいよ。きっと君の瞳みたいに蒼いんだろうね」
アルミンは口を閉じる。やはり反応はない。自分で話しておきながら自分で悲しくなってきた。
「そうだね、じゃあ今日は僕が読んだ童話の話をしてあげよう...大丈夫、内容は全て頭に入ってるから-」
真っ暗な闇、照らす者は何もなく漆黒の闇がどこまでも続いている。
体が重い。頭もぼーっとする。それでも動く。久々の感覚だ。
「お目覚めかしら?」
不意に女の声がした。アニ レオンハートは振り向いた。ランタンを持ち真っ黒な服を着た少女が立っている。
「ここは?」
「あなたの脳内、意識の中とでも言っておきましょう」
少女の声は透き通って綺麗だが無機質だ。そして頭によく響く。
「私はクロニカ。つい最近、長年の眠りから放たれた年代記、黒の預言書の意思の総体、原典。書によって祝福と断罪を約束されし者」
「ごめん、初っ端から頭がついていかないよ」
「いいわ、そんなことは。まぁ貴方のお知り合いさん-アルミン アルレルトが黒の預言書を久々に表舞台に出してくれたおかげでこうして貴女に話しかけていられる」
「アイツ、生きてたんだ」
「当然。何故なら彼の生き延びるという運命はもう定められていたのだから」
年の割に胡散臭い少女だとアニは半ば呆れた。
「で、何の用?」
「嬉しいお知らせよ。貴女が近いうちに眠りから目覚めるという運命を告げに」
クロニカは淡々と告げる。淡々とした口調で告げられたものの内容はアニにとっては大きいものなので少し動揺した。
「本当?」
「そして近いうちに死ぬ」
一瞬心の片隅に咲いた喜びの花は一瞬にして引きちぎられてしまった。アニは黙る。
「...いきなり重かったかしら?そうね、それならば少し昔話をしましょう」
クロニカはそう言うと何処にあったのか彼女の陰に隠れていた椅子に腰掛けた。
-昔ある所に一人の男がいました。
その男は破滅の運命に囚われていましたが苦難の末...その運命から逃れる道を見つけ出しました...
しかし...彼がその運命から逃れることは別の運命によって定められていました
その別の運命から逃れたとしても...更にまた別の運命に囚われてしまいます。
結局はその枠をどこまで広げようと簡単に絡め取られてしまうのです。
書の真理をご理解いただけるかしら?黒の歴史は改竄を許さないのです。
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- 15 : 2013/12/27(金) 01:04:16 :
- 結局彼も運命からは逃れられませんでした。されど憐れむ必要はありません。
私も貴方も運命からは逃れられないのですから。
めでたしめでたし-
そこまでいうとクロニカはふっと息をつき小さな笑みを浮かべた。
「どうかしら?少しわかりやすかったとは思うけれど」
「ああ、多少わかったよ。けれどそれは単に貴方の妄想じゃないの?」
アニは変わらず冷たく言い放つ。クロニカの表情から笑は消え、閉じていた目を開いた。アニとは真反対の緋い目。少女から放たれるその異様な威圧感にアニは一瞬萎縮してしまった。
その心を見透かしてかクロニカはクスクスと笑った。
「残念ながら私は哀れな生物-つまり人間ではないので嘘や冗談は言いません。まぁいい、貴方もすぐに知ります。どうして人間というのは争いを続けるのかしら?」
クロニカはそう言って立ち上がりアニに背を向けた。
「そろそろお暇するわ。今はわからなくても、いずれ全て理解する時が来るから、ご心配なさらずに。さぁ、貴方の唇に言葉を灯すのは誰でしょう...」
その黒い影はどんどんと遠くなり、やがて完全に闇に溶け込んだ。
アニは黙ってクロニカを見送っていたが彼女が居なくなるとすぐに疲れと眠気が押し寄せてきて目を閉じた。まるで夢のように不思議な時間であったが意外とその時間は長かったようだ。
久々に誰かと話した。疲れた。次気づいたらもう結晶の外なのかな。
ぼんやりとそんなことを考えながらまたアニの意識はそこで途切れた。
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- 16 : 2013/12/27(金) 01:06:55 :
- こんばんは、久々に投稿しました。
なんか謎めいて分かりにくくてごめんなさい。実は自分も頭の中ふわふわした感じで書いてます(苦笑)
先日は兵長さんの誕生日でしたね。すごい盛り上がりだったようで(笑)
30日はベルトルさん、1/15はクリスタですね!
最近バイトが忙しいのでまた執筆はゆっくりになります。すいません。(._.)
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- 17 : 2013/12/27(金) 01:10:51 :
- クロニカについて
Sound Horizonをご存知ならば当然この方もご存知でしょう。
もし
自分のイメージしてるニカ様じゃない!
と思われる方がいたりしたら本当にすいません。
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- 18 : 2013/12/30(月) 11:35:23 :
- 4 海を渡った征服者達
相変わらず図書室に入り浸りのアルミンは黒の預言書にあった、80年前のシガンシナ区崩落の記述が本当か確かめようと図書室中の資料を漁ってみたが、残念ながら巨人に壁を破られたのは100年振りということになっており80年前の記録はなかった。
ここは王政府直属の図書館でそこにない本はほかのところにもないと言われるところだ。
アルミンの黒の預言書に対する不信感が少し増した。
そもそも最初の方の巻にあった話も胡散臭く感じられ、歴史を記す物語も本当か怪しい。
それでもアルミンの心はこの本に囚われてしまっている、ということは変わりなく相変わらず仕事をそっちのけで読み進めていた。
記された歴史を辿り、ついに史実年号は845という人類の歴史が変わった数字に到達した。
「え..?」
アルミンは自分の目を疑った。そこに書かれる歴史を語る物語、今回その物語の主人公は紛れもないエレン、ミカサ、そしてアルミン自身だった。
だれが
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- 19 : 2013/12/30(月) 11:49:37 :
- ごめんなさい、誤爆...続きからいきます
誰が自分達のことを書き記したのか、彼には想像できなかった。
誰にもここまで詳細に自分たちの過去を話したことはない。あるとすれば互のことを良く知るエレンかミカサだが、失礼ながら彼と彼女にはここまでの文章力はない。
ここまでの文章力を持つもの、アルミンが知る限りではハンジくらいだが彼女にもこの本を書く時間など無かった。
ここまで詳細に自分たちのことを書かれると恐ろしささえ感じられた。これ程自分たちを詳しく見ていたのは誰なのか。
そこから読みすすめると850年のトロスト区での戦いのことから第57回壁外調査、ストヘス区でのアニ拘束作戦、ライナーとベルトルトの戦い...もちろんそれ以降のことも漏れなく記されていた。
背中に冷や汗が伝う。誰がこんなことを出来るというのだ、いやこれは不可能だ。ここまで同時に複数の人物に焦点を当てられるハズもなく、また客観的過ぎる。また、戦場のことも書かれているとなるとこの作者はそこにいたということになるが、アルミンはそんな人物は知らない。
そして人類の勝利までの経過が書かれたページを捲ると遂に今度は戦後の史実に至る-
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- 20 : 2013/12/31(火) 02:07:37 :
- ページをめくるとここ一年の話が書かれており、その内容にも寸分の狂いは無かった。
しかし、アルミンの目はまたある文章を目にして見開かれた。
-アルミン・アルレルト、長年隠されていた黒の預言書を見つけ出し真の過去、そして未来を知る-
どういうことだ...
背中に悪寒が走る。まさか自分の行動すべてが監視されていたのかと考えると何とも悍ましい。
また、よく考えるとこの本を見つけた時以前にアルミンが黒の預言書を見つけ出すということが書かれていた、いや、預言されていたということになる。
一体誰がこんな正確な預言を出来るというのだろうか。よくよく考えればこの本は確かに年季が入っているし、ページも色褪せている。つまり過去の人間が未来を全て見通す、というまさに夢のようなことをやってのけたということになる。
巨人と対峙するのとは違う恐怖が彼を襲った。そのページに記された未来を知る、という一節。黒の預言書は全24巻。今現在の事が書かれたこの巻数は18。つまりここから先は未来の史実となる。
ここまでくればこの本が真実を預言しているということに疑いはない。しかし、未来を知るということは期待感と共に不安感も伴うもの。
万が一巨人が復活、等という文が書かれていたら-そう考えただけでもおかしくなりそうだ。
ページをめくる指先が震える。これから知るのは明るい未来か、絶望のそれか。
パラりと乾いた音がする。アルミンはゆっくりと書かれた文章を読み進めていく。
彼にとって本を読むということは楽しいことであり、癒しに近いものでさえあったのだが今は違う。ただ文章を読む、唯それだけのことに冷や汗がこめかみを伝い喉は乾く。
読み進めていくうちにアルミンは思わず声をあげた。
「なっ...」
彼は目を疑った。
-856年、海の向こうから別の人類が現れ、やがて嘗ては壁の中に暮らしていた人類や彼らと交易を行う者達と争いを始めるだろう。大陸側の人類は劣勢を強いられ世界は破滅へと向かい始める。しかし、ある少年が眠れる碧眼の悪魔を目覚めさせたならば争いは終結するだろう-
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- 21 : 2013/12/31(火) 02:10:42 :
- ゆっくりでごめんなさい。
読んでくださってる方(いるかわからないけど)には申し訳ありません。
今年も今日で終わりですね。皆さんは紅白を見て∠(゚Д゚)/イェェェェガァァァー!!!!
と叫ばれるのでしょうか?(笑)
今年は後悔の残る年だったので来年はしっかり生きたいと思います。
今日は更新できないので...
皆さん、よいお年を!
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- 22 : 2013/12/31(火) 03:16:48 :
- よいお年を!!
俺はがきづかをみる
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- 23 : 2013/12/31(火) 09:47:30 :
- >>22
ガキ使も楽しみですね!
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- 24 : 2013/12/31(火) 19:16:24 :
- 蝶野がバスきた!!!
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- 25 : 2014/01/04(土) 21:51:10 :
- 遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
さて、巷で話題になった紅白歌合戦のLinked Horizon、良かったなぁーと個人的にはすごく感じております。皆さんはイェーガー!tweetされたのでしょうか?(笑)
声もネットで叩かれている程小さくありませんでしたしむしろ聴こえました。
あの短時間だったので見るべきところが多くて困りましたが、何よりRevoさんが楽しそうで良かったです!
今年も地道に書いていきますのでよろしくお願いします。
それこそ大衆受けしそうな小説ではありませんが、読んでくださる方がいらっしゃる限りは少しずつでも書いていきたいと思ってるので、またよろしくお願いします!
ではまた今夜あたりどっかで投稿したいと思います。
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- 26 : 2014/01/05(日) 00:07:50 :
- アルミンが未来の記述を目の当たりにした頃
ここは海の近くで調査兵団が見つけた小さな集落。彼らは各地を転々としていたらしいが巨人が姿を消してからはこの地に腰を落ち着かせたらしい。最も、これまで巨人と遭遇しなかった事が疑問でしかないのだが。
今リヴァイはその集落の長と話をしている。璧外のことや海のこと色々な話を聞いたり通交の交渉をしている。
「成程、海の向こうにも人間が居るという訳か。俺達が壁に逃げたのと同じく海を越えた」
「左様。無論今も生きているかはわかりませんが我等母国を失った流浪の民故、この大海を超える造船技術など持ち合わせておらん」
「ふ..まだやることが多そうだな」
「海の向こうの者達の顔が見てえな」
リヴァイの後ろに控えていたエレンが隣のミカサに小さく囁いた。
「うん、もしかしたら私と同じように東洋の流れを汲む人もいるかも」
その時大砲が発砲したような大きな音が響き、地が揺れた。
「なんだ?!」
エレンとミカサが建物から外へ出た。
「エレン危険。外に出ては..」
馬を走らせて調査兵がエレン達の前に現れた。ジャンだ。
「おい!兵長はドコだ?」
額には冷や汗だろうか、汗が光る。顔も深刻な様子で声もいつもよりでかく早口だ。深刻な事態が発生したと容易に考えられる。リヴァイが建物の中から姿を現した。後ろに流浪の民の長が頼りない足取りで続く。
「さっきのなんだ?ブラウス辺りが大砲を誤発したと思いたいんだが」
「大砲は大砲ですが海の向こうから..拠点を警備していた一部の兵が死亡、負傷。まだ犠牲者はそんなに..」
「おい、長。少し建物を傷つけるぞ」
リヴァイはそう言うとアンカーを建物に突き刺して高い屋根の上に登った。いつもは美しい海、しかし今視界には何隻かの大型船が見える。リヴァイは舟を確認するとすぐに下に降りた。
「キルシュタイン、お前はすぐに拠点に戻り他の街の人間にまず、敵らしき者たちが現れたことを教えろ。アッカーマン、お前は負傷兵を他の奴らと手当だ。エレンは俺と拠点に戻りすぐに戦闘の準備だ」
リヴァイの指示を聞きジャンはすぐに拠点に馬を走らせた。他の3人も近くに留めていた馬に跨った。
「あんたらもすぐにまた移動した方がいい」
「お気遣い感謝する。安全を祈っておりますぞ」
「それはありがてぇな..ではとりあえず生きて会おう」
856年海の向こうの人類が砲撃したという知らせが逆に混乱を招き近くの集落、街同士でも争いが勃発し状況は深刻化。調査兵団を襲撃する者達も現れる。調査兵団も損害を被り海の向こうからの人類による反撃に備える者、街の戦いを治めるための者とに分かれた。しかし巨人を殺すことに力を注いできた調査兵団。中々混乱を収めることはできなかった。遠征していた調査兵団は孤立。流浪の民の長によると、彼らは元々この地に住んでいたと主張し再征服者と称しこの地を征服しに掛かるつもりのようだ。
「..ふざけやがって」
しかし、征服者達はたまに発砲するだけで何も戦いを仕掛けてこなかった。調査兵団もそれに対応し拠点を変えたため一時事態は鎮静していた。
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- 27 : 2014/01/05(日) 00:10:58 :
「団長!」
アルミンが深夜エルヴィンの部屋を訪れた。その手には黒の預言書が抱かれている。
「どうしたんだこんな時間に」
エルヴィンは少し不思議そうに少し緊張した面持ちのアルミンを見た。アルミンは入室しエルヴィンが用意した椅子に腰掛けた。
「何かあったのかい?」
「こんなこと信じてもらえないのかもしれませんが...」
アルミンは黙って黒の預言書を開けた。
「これは?」
「図書館に隠それていた黒の預言書というものです...」
アルミンが本を持ちパラパラと頁を捲った。
「この本には有史以来の歴史がかなり詳しく書かれています..僕の今つくっている年代記とは比較にならないようなものです...」
「ほう..それは素晴らしいね」
「....しかしこの本にはこんな一節があります。856年、アルミン アルレルト、この本を図書室で発見する」
エルヴィンの顔つきが変わった。
「そしてこの巻の最後のページには海の向こうからの人類により世界は破滅へと向かうと..」
アルミンの本を読む声が少し震えた。
「こんなもの信じるのはおかしいと思うのですが80年前にもシガンシナが陥落した隠されていた事実、私達の戦いをまるでその場に居合わせていたかのような詳細な記述..」
「その巻の続きは..」
「残念ながら..何故か読めませんでした。あらゆる本を参考にしましたが見たこともない字体に変わってて..」
そう話すアルミンの声は情けなく消えそうだ。
「しかし君の話を元とするならばそれを無視するわけにはいかない..」
廊下に大きな足音が響き渡る。誰か走って来たようだ。エルヴィンの部屋の扉が乱暴に開けられた。
「サシャ!?どうした..」
「..エルヴィン団長、突如海の向こうからの人類により調査兵団が一部の打撃を受けました」
息を切らし伝言を告げに来たサシャを見つめて後2人は黙って顔を見合わせた。
黒の歴史が動き始めた。これは誰にも止めることが出来ない―例え書の意志の総体であっても。
知らせは直ぐに市民に漏らさないものとして全兵団に行き渡り、やがて今後の対応をどうするかとの議論が行われた。勿論、最大の論点はこの世界が近いうちに終わりを迎えるという記述について。
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- 28 : 2014/01/14(火) 08:15:30 :
- お久しぶりです。
すいません、忙しくてなかなか更新できません。
待ってくださってる方には本当に申し訳ないです...
時間見つけてできるだけ早く更新しますので...
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- 29 : 2014/01/15(水) 00:04:29 :
- 〜ウォール国中心部審議書〜
朝早くから続々と全兵団の幹部クラスの者たちが姿を現す。エルヴィン・スミス、ハンジ・ゾエ、ドット・ピクシス、ナイル・ドークは勿論、黒の預言書の発見者、アルミンもその中に含まれる。付近の住民たちはまた何かあったのかと不安を抱きながら思い思いに囁いていた。
各兵団で話し合った後、正午からダリス・ザックレーも交え議論が開始された。
当然のことながらアルミンはいつ批判されないかと議論開始前から気が気でなかった。巨人が絡んだ件とは訳が違う。殆ど何の根拠もない、ただの誰かが書いた物語かもしれないのだ。頭脳明晰と謳われた彼がそんなものを信じて、疑わない者がいるだろうか。
「それでは審議を開始する」
低く威厳のあるダリスの声が部屋に響き渡り、少しざわついていた空気が一瞬にして締まった。
「今回の議題は突如現れた海の向こうからの者達とそれに関わるかもしれない...年代記の記述だ」
「お言葉ですが」
いきなり憲兵団のナイルが手を挙げた。
「何だね?」
「この場で言うのもなんですが...そんな書の記述..話し合う意味さえ無いと存じます。時間の無駄かと」
「ナイル、口を慎め。80年前の隠されていた真実についても書かれていたのだ」
「しかしー」
ナイルは少し声を荒らげたがザックレーの厳しい視線を感じ取り一先ずここは口を閉じた。
ザックレーが調査兵団の集団に目を向けた。
「アルレルトよ」
「はっ!」
名を呼ばれたアルミンはすぐに心臓を捧げた。ザックレーは構わんとアルミンの敬礼を解かせた。
「その書の信憑性は如何ほどか...答えられるか?」
ザックレーはアルミンが抱える夜の闇のように漆黒の表紙の本を指さした。
「はっ!この書は誰によっていつ頃書かれたのかは全く持って不明です。しかし、その描写の繊細さ詳細さ、またジブンタチの自分達の戦いについても詳しく書かれている点から信憑性はあるかと存じます。しかし、海の向こうから侵略者が来る、という記述以降は何故か解読することが出来ません」
アルミンが言い終わるとザックレーはふむ、と一息ついた。続けてエルヴィンを見た。
「エルヴィンよ...お前はどう見る?」
「はい。確かに不確定な要素も多く含んでおりますが明らかに信用できない、というものではないでしょう」
「黙れ!」
ナイルが身を乗り出して言う。
「英雄気取りか知らんがそんな悠長にしている場合か!?向こうは征服者、などと自称しているならばこの時間さえも無駄だ!さっさと-それこそ殺人集団のお前らが殺して追っ払えばいいではないか!」
「落ち着け..ナイルよ...」
ピクシスがゆっくりとした口調で宥める。巨人が姿を消してからもまだ駐屯兵団の長として指揮を執る。
「...アルレルトよ...確かにナイルの言うことも分からなくもない..1つその書を読んでくれないかのぅ?」
ピクシスは少し笑みを浮かべながらいう。
アルミンは少し戸惑いながらも本を開いた。
「では...最も最近の記述から抜粋して...
856年、巨人が世界から姿を消し世界に平和が訪れる。壁は消えまだ外で生きていた人類との交流を持ち始める。しかしやがて海の向こうからの征服者達によって元々壁の中に住んでいた人類は劣勢を...強いられる...」
文章が終わりに近づくに連れてアルミンの声がか細くなり、そして震えた。
「どうした?」
エルヴィンがアルミンの顔をのぞき込んだ。
「記述が変わっている...いや増えた....。
そして...姿を現してからやがて征服者達は大陸への侵略を開始する...」
そこまでいうと審議所内は再びざわめき始めた。ザックレーが鎮めようとするが中々収まりきらない。そこに手荒く扉を開ける音が響いた。
「トーマ!?」
ハンジがフラフラになりながら駆け込んできた調査兵団きっての馬術巧者、トーマ駆け寄った。
「どうしたの!?」
「ハァハァ...つ...遂に...奴等の攻撃が始まった...」
ざわめきは一瞬で止み、その代わり刹那の沈黙の後誰かの悲鳴が審議所を包んだ。
-
- 30 : 2014/01/15(水) 23:46:14 :
- 〜前日〜
「めんどくせぇなぁ」
コニーが欠伸をしながら腕を上へ伸ばした。つられてサシャも欠伸をした。二人の任務は海上に浮かぶ船団がこちらを襲撃してこないかを監視しているのだが、かれこれもう数日はこの状態のままだ。
「なんのためにあそこいるんだ?あいつら馬鹿なのか?」
「コニーに馬鹿と言われれば終わりですねー」
「人の事言えた頭かよ、この芋女」
「失礼ですねー」
そんなのんびりとしたやり取りをする二人の頭にコツンと拳が。ジャン〜前日〜
「めんどくせぇなぁ」
コニーが欠伸をしながら腕を上へ伸ばした。つられてサシャも欠伸をした。二人の任務は海上に浮かぶ船団がこちらを襲撃してこないかを監視しているのだが、かれこれもう数日はこの状態のままだ。
「なんのためにあそこいるんだ?あいつら馬鹿なのか?」
「コニーに馬鹿と言われれば終わりですねー」
「人の事言えた頭かよ、この芋女」
「失礼ですねー」
そんなのんびりとしたやり取りをする二人の頭にコツンと拳が。ジャンだ。
「お前ら...目を離すとこれだ」
「なんですか?上司気取りですか!?」
「お前も正直面倒だろ、ジャン」
コニーの問掛けに少し詰まりつつもジャンはまあな、と短く呟いた。
「ん?」
サシャが少し首を傾げた。海の方をじっと見つめている。
「おいなんだよ芋女。なんか魚でもいたか?」
コニーが茶化すがサシャは無視して海上の船から目を逸らさない。
「船、動いてませんか?こちらに」
「はぁ?」
ジャンも船団をじっと見つめた。大型船なため解りにくいが少しずつ、しかし確実に陸地の方へ進んでいる。
「サシャ、とりあえず兵長に知らせて来い!」
「了解です!」
「コニーは俺と他の兵に伝達だ」
「お...」
その時、コニーの返事は凄まじい爆音にかき消された。あまりの音の大きさに二人は耳をふさいだ。
「おい...ジャンあれ」
「マジかよ...砲撃かましやがった...」
幸い、兵団の拠点からコースはそれたが海岸にあった岩が砲撃で破壊された-
「なんだ今の..!?」
拠点にあるテントの中にいたエレンは耳を塞ぎながらいう。
「ついに奴らか...」
「兵長!」
サシャが走ってテントの中に入ってきた。
「ブラウス...今のもオメーの放屁だと思いたいんだが」
「冗談言ってる場合じゃありませんよ!遂に船が進行してきました!」
サシャが慌てふためく。舌が上手く回っていない。
「まだ少し距離がありますから上陸には時間がかかりそうですが...」
「一旦退散だ」
サシャを遮りリヴァイはそう言うと立ち上がった。
「ブラウス、伝達だ。全兵に回せ。長距離敵索陣形で逃げる。が、先頭はキルシュタインに任す。最後尾は俺だ。まだ円弾が残ってるだろ。それを使って何とか壁まで...少なくとも俺らが有利なとこまで逃げる。ここは浜辺だ。立体機動装置は使えねぇ。ブラウス、トーマだけは先に行かせろ。国の奴らへの伝達だ」
「はいっ!」
「いま逃げなくても俺が巨人化して...戦えば」
エレンは手を噛むような仕草をしたがリヴァイはエレンの足を蹴った。
「いっつ...」
「俺らは人殺し、じゃねぇ。巨人殺しの集団だ。お前、その力を殺戮に使うか?まだ本当に敵か味方か分からない奴等に...」
リヴァイに睨まれエレンは自分の手に視線を落とした。
「おい、グズグズするな、作戦開始だ」
-
- 31 : 2014/01/17(金) 17:21:00 :
「-なあ」
「何かしら?」
真っ暗な暗闇の中椅子に座りながら、小さな灯で真っ黒い表紙の本を読むクロニカにアニは声をかけた。
「まだ出られないの?」
「そうね...」
「あんたが出られるって教えてくれてからもう結構経つけど?」
「それは気のせいよ。前にも言ったでしょう、人は運命から逃れられない。来るべき運命に従うしかないのよ」
クロニカは淡々と語る。そこには何の感情もない、ただ無機質な言葉。無機質な分、アニの耳にはすんなり届きそして言葉は脳内にまで辿り着く。
「それじゃあ外は今どうなっているのさ?それは言えるだろ?」
アニがそう言うとクロニカは高い声でクスクスと笑った。彼女の紅い瞳がアニの碧い瞳を捉えた。
「まるでいつかの壁の中の少年ね。あなたと対峙した。可笑しいわね、自分の身の安全を第一に考え内側へと逃げた少女が今度は外のことを知りたがる」
アニは思わず舌打ちをした。
どうやらこの少女(人なのかは疑問だが)は相当な切れ者のようだ。
「あんたさ、私のことどこまで知って...」
「全て」
クロニカはサラリと言ってのける。
「貴方だけじゃない。有史以来のこの世界の歴史、勿論貴方の知り合いの少年少女の戦い様も全て知っている。私は全てが書かれた黒の預言書の意思の総体、言ってしまえば私は黒の預言書そのもの。
つまり貴方の生も死も全ては私の掌の上。あなたの意識の中だからこんな風にきちんと存在を保ててるだけに過ぎないけれど」
クロニカは再び手元の本に目を落とす。
「この書は楽しくもあるけれどつまらなくもあるわ。ある人物の栄枯盛衰は実に滑稽。感動的なお話もある。けれど気に入った人間が呆気なく死んでいくのは切ないわ。
私はただの総体だから書を改竄することなんて不可能。そう、私でさえも運命からも逃れられない」
アニは半分は理解したがもう半分はどこかぼんやりとして理解できていない。半ば混乱しているところにまた無機質な声が響く。
「そうそう、前にも言ったけれど、あなたは次期に死ぬ。けれど助かる方法は一つだけある-」
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- 32 : 2014/01/17(金) 17:39:10 :
- 〜審議所〜
騒然とした室内が漸く静寂を取り戻した。
トーマの話によるとリヴァイ率いる壁外調査組はとりあえず自分たちの有利な地を目指し撤退しているようだ。向こうも馬を持っているため中々引き離せないとのことだ。
「見てみろ、グズグズしている間に侵略が開始されたではないか!」
憲兵の誰かが声を荒らげる。また審議所内がざわつく。
「さっさと山にでも誘き寄せて立体機動装置使って殺せ!」
「我々は巨人殺しのために立体機動を使うのだ。人を殺すためでない!」
エルヴィンは対抗する。
「相手は人間だ。巨人とは違いまだ和解出来る可能性もあるではないか!」
「侵略者と称す者達がそう易々と和解するものか!ある程度戦ってこちら側優位にならねば和解など結ばぬわ!」
正論だ、とアルミンは思った。向こうの武力が如何程かは分からぬがそう易々とわ諦めないだろう。でなければわざわざ海を越えてきた意味がなくなる。
「どの道戦わなければならんのだ!分かるかこの理想主義者どもめ!!」
今回ばかりは憲兵団の言う通りだ。しかし不安要素が幾つもある。それは壁の中にいた兵士は人との戦いに慣れていない、ことだ。対人格闘術もここでは役に立たない。立体機動を使うにしても躊躇なく人を斬れるか-
「総統!」
「...うむ...ここはやむを得んが戦わねばならぬな」
アルミンは顔の血が引くのを感じた。ザックレーのいうことは絶対なのだ。誰も逆らえない。
「ひとまずリヴァイ達の状況がわかり次第調査兵団と駐屯兵団から兵を向ける。憲兵団も場合によっては出向いてもらうぞ。
...折角手にした平和が侵されてはならん。勝つのではない、最短時間で和平へ持ち込むように指揮を取れ-」
-
- 33 : 2014/01/18(土) 14:51:26 :
- 5 開戦
あれ、サブタイトル久々、とか思った方。正解です。忘れてました(笑)やたら第4話長いやんって自分でも感じます(笑)
ということで第5話です。
今んところどうなんですかね、皆さんに話の筋理解してもらえてるのか不安です。(苦笑)
「ちぃ....向こうは飛び道具にも長けてるのか...やりズレぇ...」
「立体機動の効力は半減か?」
コニーとジャンは頭を抱えた。
ここは海とウォール国のちょうど真ん中付近の山奥。調査兵団の半分は応戦、半分は他の人類のいる国や集落への呼びかけ防衛に当たっていた。が、この人数でどこまでしのげるか。
そろそろ限界ではないか、そんな思いが兵士たちの頭の片隅に出てきてもおかしくない。
「そんなことはない...奴等が目で追えないようなスピードで動けば問題ない..」
ミカサが何処かを見据え剣を抜く。ジャンはため息をつく。
「それが出来るのは残念ながらお前と兵長だけだ」
「相手は立体機動の動きに慣れていない。また、遠距離の攻撃は出来ても巨人のように広範囲への攻撃手段も恐らくないだろう。
ならば出来るだけガスを節約しつつ回り込んだりすれば此方のもの。エレンに傷はつけさせない」
「結局はそこかよ」
ジャンは再びため息をついた。ミカサのとなりにいたエレンは相変わらず、そんな必要がないと言い張る。
「――!」
サシャがしーっと周りを静かにさせた。
「来ました――中々の数みたいです」
「ようやくか」
「兵長!」
「お前ら個々の力はもうかなりのもんだ。だからさっき言った通り今回、お前らは各班の班長だ。
いいか、トーマがもらってきた伝言通り勝つことが目的じゃねえ。こちらの有利に持ち込んで和平することが最優先だ。
さ、馬に乗れ。配置につけ。最後に一つ、とりあえず死ぬな。被害は最小限にな」
やがて征服者たちの乗る馬の地を駆ける音が近づいてきた。
「ラミネス将軍に続けー!!!」
「おおっー!!!!」
雄叫びをあげる征服者たちは遂に山に調査兵団の待ち構える進撃した。
-
- 34 : 2014/02/07(金) 14:46:30 :
- お久しぶりです...ずーっと忙しく中々書けませんでした。ごめんなさいm(_ _)m
今日は久々に書きますね、待っている方がいはるかは分かりませんが...
-
- 35 : 2014/02/07(金) 15:08:49 :
- 戦い開始から数週間、調査兵団、並びに援護に回った駐屯兵団と一部の憲兵団は犠牲ばかりを増やしどんどんと国へ後退していった。慌てふためく兵団の者たちを、見て市民たちも徐々に何かしら不安を抱える者が増えてきた。
また、ウォール国以外の人類たちは助けに来るは来るが結局は役立たないウォール国の兵士達に不満を覚え、征服者達に加担する者も現れた。
縮小する我が軍に対し拡大する征服者達。それが更に焦り、そしてウォール国の兵士達に亀裂をもたらすこととなる。
あくまでも和解を求める者達となりふり構わず殺せという者達、それは兵団の枠をも超えどの兵団にでも存在した。つまり各兵団内でも分裂が起こりかけていた。
そんな中、ある事件が起こる―
国内の安全を保つため憲兵団は国へ残り、調査兵団と駐屯兵団の全兵士が和解を求め、戦いへ赴くこととなった。
勿論エルヴィンやピクシスも指揮を執るようにとの指令を受けた。
「アルミン」
出撃前夜、アルミンはエルヴィンに呼び止められた。
「黒の預言書は持っていけ。何か手掛かりになるかもしれない。しかし、失うことのないように注意するように」
「はい」
その後二人は別れ、アルミンは自分の寝室へと戻った。窓から空を見ると星達の輝きは見えず、漆黒の分厚い雲が空を覆っていた。
アルミンはパラりと黒の預言書の頁を捲った。ここ最近は何も大きな情報は得られなかった。唯分かるのは自分達が圧倒的に劣勢ということだ。
1番新しい記述がなされた頁を開けた。そして彼の目に飛び込んできたのは昨日までは解らなかったある情報―
ダリス・ザックレー、憲兵団によって暗殺される。そして軍の主導権は憲兵団へ渡り、戦いは更なる混乱を極める―
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