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陽はまだ登っていく
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- 1 : 2017/06/04(日) 12:27:04 :
- こんにちは。
当作品を御閲覧頂きありがとうございます。
お読みいただく際に数点ご注意ください。
・アニメ ダンガンロンパ3 絶望編の78期生が入学してから2ヶ月後辺りを時系列としていますが、コロシアイも絶望もこの世界ではございません。
・序盤から終盤までシリアス多目です。
・葉隠くんと十神くんが綺麗すぎるかもしれません。いえ、綺麗すぎます。美化も大概にしろってレベルです。
以上をご了承下さいましたら本編開始します。
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- 2 : 2017/06/04(日) 12:29:54 :
半透明な空気に現れた君は細かな粒子で身を包んでいた。
約180°の視界全体は賑わっていて、それらに目を光らせなければいけないのに、僕はほんの10°程度に収まる級友の振る舞いに息を飲んだ。
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- 3 : 2017/06/04(日) 12:31:30 :
「お前な、もう少し落ち着いたらどうだ。列を乱すんじゃない」
「んだよ。折角自由なんだからよ、ハッチャケたっていいだろ」
舞園くんが遊園地のチケットを貰ってきてくれたその翌週、全員の日程が合う平日に僕らは初めてクラス全員で遊びに出掛けることになった。
聞くところによると、同じくクジでチケットを手に入れたらしい狛枝先輩と舞園くんの意思を汲んで、学園は授業を午前中だけに変更してくれたとのこと。
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- 4 : 2017/06/04(日) 12:33:13 :
僕らは目立つ。目立つが故に中々こうして出歩くことが出来ない。だから、いつもより気持ちを引き締めていたというのに。
「その逆に石丸、お前は気を張りすぎだ」
普段取り締まろうとしない、協調性を重んじない彼からの指摘に目が白黒する。
「良い機会だ。桑田、自由というものには責任が付いて回る。お前が普段懇願するそれを今日は誰が取ろうとする。そこにいる大和田や石丸だろう」
「対して、石丸。お前は今日誘ってくれた舞園の気持ちを汲んでもっと肩の力を抜くんだ。相手の気持ちを応えてこその誠意ではないのか?」
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- 5 : 2017/06/04(日) 12:34:34 :
彼が珍しく語る持論や思いやりに驚く。
隣を見れば兄弟もまた、驚きながらも感心するように、共感したかのように腕を組みがら目を閉じて頷く。
「隣にいる大和田がお前ら2人には良い例だ」
尚、驚きが続く。「誰だ貴様!」と口には出せないが、人を褒める彼には開いた口が塞がらない。
この場に居る彼を知る僕を含めた3人は同じ表情を露にする。
「お、おう?いや、俺だってまだまだ自覚しなきゃいけねえ責任を知らないだろうから人にどうこう言えないんだがな」
「だからお前には人が着いてくるんだろう。それに嘆くことはないだろう。それをお前は石丸から学べるだろうしな」
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- 6 : 2017/06/04(日) 12:35:51 :
徐々に慣れてくるとストンと言葉一つ一つが落ち着いてくる。
「あぁ、ワリィ。俺、気が緩みすぎてたわ。舞園ちゃんが誘ってくれたのにもしかしたら台無しにしてたかもしれなかった」
彼もまた、十神という同期の珍しい姿や本心を目撃したことで胸の内にしっかりと受け止められたのだろう。チャラけたような謝罪は日常とは違う本気が孕まれているのが僕にも解った。
「僕も義務や肩書きで舞園くんの意思を蔑ろにしてしまった。すまない」
謝るべき相手では無いのは解っているが、彼には頭が上がりそうにない。
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- 7 : 2017/06/04(日) 12:36:58 :
「理解したのなら、実践あるのみだろう。2人ともそれを踏まえた上で今日は楽しめ」
その言葉を最後に、彼は長いこと並んだ列から外れ去っていく。僕は思わず呼び止める。
「喋りすぎたのと待ち時間で喉が乾いた。俺はベンチで休むことにする」
目の前に順番が来た僕達はジェットコースターから遠ざかる級友を感謝の気持ちも込めて見送った。
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- 8 : 2017/06/04(日) 12:39:56 :
「あぽぉ」
「桑田、やべーぞオメエの顔。引き吊って硬直してやがる」
「だらしないぞ桑田くん!」
ジェットコースター乗る前まで各々口を開く事は無かったが、安全ベルトが下ろされたときにはもう笑顔でやりとりをするくらいになった。
「なんで、お前らは大丈夫なんだ」
「「根性だ」」
兄弟との同調で調子はここに来て戻ってくる。
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- 9 : 2017/06/04(日) 12:42:05 :
「お、彼処に居るのは不二咲と…戦刃か?」
「お、あっちにはセレスちゃんと朝日奈ちゃんと葉隠じゃん!」
あまり見かけないペアだった。
しかし、彼女らはそれも楽しめているようで僕は舞園くんの意思を皆汲み取り、尚且つ楽しんでいるのだろうと思うと、クラスの団結を感じれた嬉しさと心の隅から僅かな羨ましさを感じ取った。
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- 10 : 2017/06/04(日) 12:44:34 :
2つのペアと合流すると、いろんな人と遊ぼうと言う意見が多数を占めていた。
しかし、あまり固まりすぎるとはぐれるきっかけになるからと言うことで、3組みで動くことにした僕達はジャンケンで共に動く次の仲間を決めた。
「どうしてこうなったべ」
「僕は君と遊ぶのは初めてだから楽しみだぞ!」
事実、他の人の考える責任感や自由の在り方に興味があった。その中でも最年長でありながら責任感を持っているとは思えない言動をする彼には特に。
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- 11 : 2017/06/04(日) 12:46:40 :
鼻から息を抜きながら口角を上げる彼は僕の隣に合わせて歩調を上げた。
「石丸っちはどこを行ってきたんだべ?」
「僕はジェットコースターを3つ乗って来たぞ!」
「うへぇ、好きなんか?んじゃ、そろそろ疲れてこないか?」
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- 12 : 2017/06/04(日) 12:49:19 :
彼の提案は間食を含めた休憩だった。
先程まで、パシりにされていたようで店に着くと身体中の筋肉を解していた。
「僕が注文をしてこよう。何がいい?」
「あー、誘ったのは俺だからいいべ。席をとっていてくれねえか?」
彼はだらしない所が目立つが、細かいところで年長者らしい振る舞いも度々目にすることがあった。
ここは甘えようと思い、メニューに目を通し彼に頼む。
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- 13 : 2017/06/04(日) 12:51:22 :
「石丸っち、何か悩んでいるのか?」
トレイからコースターとドリンクを互いの前に置きながらいつもの間の抜けた口調を投げ掛けてきた。
お洒落な白いテーブルは外から見えた時の主張を一転させ、コーヒーと抹茶ラテ、互いの世界観を指したかのような色を映えさせる。
僕は葉隠くんの気遣いから十神くんの言葉を思い出し、またそこから思い出したことがあった。
「僕は、全力で楽しむということが怖くて出来ないんだ」
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- 14 : 2017/06/04(日) 12:53:21 :
僕の言葉を待つ彼には超高校級の占い師である由縁が1つであるのか、心の内を明かし始める口を含めた表情を静かに見守っているように見えた。
「僕は空気を読めないらしい。そのせいで周りが楽しんでいるところを水指してしまうことがあった。
僕はその時に静まり返った空気が怖くて、全力で楽しめなくなってしまったんだ。
今日は舞園くんが皆に楽しんで欲しいって思って誘ってくれたのに、まだ楽しめてないんじゃないかって不安になった」
続けた告白の後、僕がコーヒーを一口飲み置くのと同時に彼は口を開く。
「俺の目から見て、確かに今は心の底からって感じはしないべ。
けど、石丸っちはいつもしっかり自分を持って心の底から楽しそうにしてるように見える。
空気ってのは正しく言えば雰囲気と流れだべ?オメーは流れを読むことができてると断言できる。これはオメーが悩んだって言う経験による賜物だって誇って良いべ」
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- 15 : 2017/06/04(日) 12:56:56 :
思いもよらない悩んでいた日々の肯定に無意識の内に唾を飲む。連なってくる彼の言葉に反論してしまいそうになる。
「一応言っとくが、俺は別にオメーを傷付けた奴等を知らねえからそいつらを肯定する気も否定する気もないからな?」
先手を打ち数秒、ミルクと抹茶を混ぜないままにカップに口を付け置くと再び目線を僕に向ける。
「話を戻すべ。
…もしも空気ってのを読んでかつ楽しみたいってんなら後は雰囲気を掴むしかないべ。
雰囲気を掴むには今、石丸っちがぶち当たってる相手の意思を汲むことだべ。
一対一なら相手の表情や、語調や口調、仕草を観察すること。
集団なら、中心にいる人物とその周辺の共有している話題とそれに対する関心の持ち方を観察すること。
そうし続ければ気付かぬ内に掴んでるってもんだべ」
彼は優しい。他人にも、自分にも気持ちを優先させる論理的でないと思えた人間だったがその印象は僕の中で変わりつつあった。
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- 16 : 2017/06/04(日) 13:00:04 :
「失礼承知で悪いが、正直言って君がそこまで考えて動いてるとは思わなかった」
顔を仰け反らせながら短く声を上げて笑い、彼は間髪いれずに「容赦ない」と流す。
「まあ、仕方ないべ。俺は年齢ばかり取っちまって精神年齢は幼いって言われるからな。妙な経験はあっても常識が欠如している所が多々あっからさ、その時は石丸っちが正してくれ」
僕は葉隠康比呂という人間を侮っていた。
小心者でありながら大きな器を持ち、彼自信もまた目標とする姿に向けて変わろうとしていることが僕にとって兄弟とは違うシンパシーを感じざるを得ない出来事となった。
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- 17 : 2017/06/04(日) 13:03:49 :
心が晴れた僕と葉隠くんが談笑してお茶を飲み終え立ち上がるとガラス越しに霧切くんと大神くんが噴水の近くに腰を下ろしているのを見かけた。
葉隠くんの占いによると、2人の所に行くと良いことがあるらしいので近寄ってみると互いに意外な人といるもんだと笑いあった。
4人で夕空が遠くからやってくるのを見ていると、「また明日」と幼い頃に交わしていた気持ちを思いだし、つい「昔は…」と切り出す。
「何言ってんだべ。オメエらも俺もまだ若いべ」
「いえ、貴方はもう成人しているのだから相応の思考を持つべきよ」
噴水の音に溶けてしまいそうに笑う彼女に、僕は彼が思った以上に大人だったと言葉少な目に語った。
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- 18 : 2017/06/04(日) 13:47:43 :
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アンテナのある髪型と程よく鍛えられたガタイを持つ少年と太ましくも凛々しい顔と眼鏡をした少年、そして太ましい少年に似た凛々しい眼鏡を身に付けた少年の3人が遊園地の片隅に建てられた一際静かなカフェに集まっていた。
「豚神、どうだった?」
「まさかあそこまで普段効果的な発言をしていないとは思っても見なかったよ」
「やっぱり日頃の行いだとでもいうのか…?」
項垂れる眼鏡、否十神白夜。明るい髪色をライトの真下に曝すように机に伏す。
「あー、性格もそうだけど人身掌握術を身に付けなきゃね」
「それは俺が一番苦手としてた科目だ!やりたくない!」
「駄々こねんなよ。クラスに未だ馴染めない現状脱却の為だろ?みんなと仲良くしたいんだろ?」
自称超高校級の完璧は所詮自称であることを、御曹司というただの親の七光りでしかなかったことを自覚せざるを得なかった。
「仲良くなりたい!」
「幸い信用と信頼はあるようだから。…一部は別にして」
「やるっきゃない」
「はい…」
Fin.
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- 19 : 2017/06/04(日) 14:00:41 :
- お疲れ様でした。これにてこの話は終わりますが、如何でしたか?
今回は17ページ(?)で締めようと書き溜めて投稿しようと思ったのですが、どうしても何故十神がここまで美化されているのかを知ってほしくて18ページ目を書いてしまいました 笑
この悩める十神を使っていつか安価スレを立てようかな?と迷っております。
よろしければまたお越しください。
それでは、お目汚し失礼いたしました
(´・ω・`)/~~
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- 20 : 2017/06/19(月) 23:56:16 :
- お疲れさまでした(っ´ω`c)
十神と葉隠のいいところが見れて心が打たれました(っ´ω`c)
次回作期待です(っ´ω`c)
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