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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

俺流:ダンガンロンパ葉隠

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  1. 1 : : 2017/04/24(月) 21:57:17
    とりあえず書けそうな時に書く。
    書きため、とくにないっす。

    ダンガンロンパ葉隠
  2. 2 : : 2017/04/24(月) 22:26:32
    【プロローグ】


    どうして、どうして。
    困りながら、苦しみながら、それでもあたし達は前に進むしかなかった。
    どうあったって、あたしはもう過去には戻れない、何も戻ってこない。

    なにもかも。
    あの日々も。
    レオンお兄ちゃんも。

    日々を呪って、過去を呪って、そうしてあたしはずっと憎みながら生きていた。
    それがどうして、今やあたしはにっくに敵だったはずのやつらの懐に飛び込んでいる。

    しかも、やっかいなことに。
    あたしの憎むべき対象に、まさか心を許してしまって、しかもそいつとタッグを組まされることになって。

    それはあたしにとって、果たしてどんないいことなのだろうか。
    少なくとも、まだ心の底からは、未来機関は許せていない。

    これは、あたしとそいつの話。
    今までの話と、これからの話。
  3. 3 : : 2017/04/24(月) 22:32:35
    ダベミ!? お前こっちに来たんか!?
  4. 4 : : 2017/04/24(月) 22:50:47
    【chapter1】
    俺とあたしの生きる道
  5. 5 : : 2017/04/24(月) 23:02:27
    誰?
  6. 6 : : 2017/04/24(月) 23:11:36
    >>5
    noteの基盤を築いた雑草魂と同格、もしくはそれ以上の人。コアなダンロンファンならほとんど知ってる
  7. 7 : : 2017/04/24(月) 23:14:47
    初めて見る方ですね。期待です
  8. 8 : : 2017/04/24(月) 23:28:23
    世界は、ある日突然崩壊した。
    【人類至上最大最悪の絶望的事件】によって。

    それがなんだったのか、誰も分からない。
    誰もそれを言葉でうまく表現はできない。
    事象なのか、あるいはウイルスのようなものだったのか、結局誰もが分からないままだった。

    だって、誰でも疑うっしょ?
    ある日突然、世界がおかしくなっちゃった。なんて。
    今までふつうだった人達が、ある日を境に世の中に絶望したのだ。
    なぜなのかはまだよく分からない。
    そう言うように洗脳されたとかかも知れない。
    じゃなきゃ、残酷な行為を突発的に行える人間が爆発的に増えるか?
    昨日まで隣に座ってたクラスメイトが、翌日には足首だけになって自宅に郵送された、なんて話がある。
    確か苗木こまる、って子も言ってた。クラスメイトの指だけが送られてきたことがあるって……そんなことがざらに起きるような時代が来てしまった。

    そしてその首謀者は。
    世界を絶望に伝染させた、超高校級の絶望は。

    自らの作り出したゲームに敗北し、そして死んだ。
  9. 9 : : 2017/04/24(月) 23:28:40
    >>6
    雑草と同格なら雑魚もいいとこじゃん
    っていうかお前雑草だろ
  10. 10 : : 2017/04/24(月) 23:45:10
    >>6
    雑草はただ古参ってだけなんだよなぁ…

    >>9
    てか、他人のスレでこういった会話は荒らしと同じだから…やめようね?
  11. 11 : : 2017/04/25(火) 00:02:13
    【江ノ島 盾子】。
    世界に絶望を振りまいた最低最悪の存在。
    ただの高校生のふりをしていた悪魔。

    そして、世間的には───そう、なんか周りの雰囲気的には、江ノ島を倒した6人の高校生は英雄だった。
    ゲームに参加させられていたとは言え、同じフィールドで諸悪の根元を潰したんだから、まあ言いたいことは分からないでもない。

    けど。
    こいつらだって、外に蔓延っている絶望とやらと似たようなもんだった。


    6人の高校生は、レオンお兄ちゃんを、殺した。


    レオンお兄ちゃんだけじゃない。
    耳障りのいいこと言いながら、自分達の仲間を犠牲にして、人を見殺しにして、そうして生き残っただけの人達。
    勿論分かってるつもりなんだ。
    アレは仕方がなかった、って誰かが言うのも、分かってあげられる。
    でも、「分かってあげられる」のと「許してあげられる」のは全く別問題。

    あたしはまだ許してない。
    江ノ島も、6人の高校生も、未来機関も。


    ……なのに、あの日、あたしとあいつは出会ってしまった。
  12. 12 : : 2017/04/25(火) 00:18:53



    外の世界はどんなもんなんだろうなって思ってた。

    あの学園の中に閉じ込められてる時、最初に浮かんだのは暖かな母ちゃんの笑顔。
    それが一体どうして、何をしているのか?
    不安で不安で仕方がなかった。
    もしも、母ちゃんに何かあったら?
    俺は……こんなとこで油売ってる場合じゃねえ、って。

    けれど、遂にとうとう、一線を越えられずに俺は学園を出てしまった。

    閉じ込められた希望ヶ峰学園。
    首謀者、江ノ島 盾子はとてつもないえげつなさのゲームを主催した。
    学園に高校生を閉じ込めて───正確には閉じ込められた訳じゃなかったけど、そいつらに永久に学園生活を強要した。

    脱出の方法はただひとつ。
    誰かを殺すこと。
    クラスメイトを、誰かを……自分が殺したとバレないように、殺すこと。

    そんなバカな、って言いながら、いくつもの殺人が起きた。
    その度に誰の犯罪かを全員で推理して、犯人を見つけた。
    全員で決めて、モノクマ……江ノ島が答え合わせして、その犯人を処刑して……いくつもの殺人がまた起きた。

    そうだ。俺は、殺したんだ。
    覚えていなかったとは言え、仕方がなかったとは言え、それでも。

    大切なクラスメイトを、殺人事件の犯人を……俺達の手で殺したんだ。


  13. 13 : : 2017/04/25(火) 00:26:01
    勿論、それを非難することは、きっと誰にも出来ないんだろう。
    だって、あの状況に巻き込まれたことなんて、誰にもないんだから。
    けど、けれど。
    あたしはあの高校生達を許さない。
    人の命を犠牲にして、耳障りのいい言葉を使って、そうして生きているのはあいつらだって同じじゃない。

    返してよ。
    レオンお兄ちゃんを。
    あたしの希望を。
    この世界を。

    だからこそ、出会ってはいけなかった。

    けれど、同時にチャンスでもあった。
    面白くはない、けれど、とても鮮やかで、そしてとても小さくて大きな復讐をするには、コレはちょうどいい機会だったんだ。

    ───話を整理していこうか。

    黒幕、江ノ島 盾子が、自分のクラスメイト15名をコロシアイ学園生活に挑ませる前後。あたしは、突然知らない男達に連れ去られた。
    次に記憶があるのは、知らない天井。
    そう……そこから一年以上、あたしはよく分からないまま、何もない部屋に閉じ込められてしまったのだ。

    コレが一体何なのか。
    それを知るのは、部屋を出た後だ。
  14. 14 : : 2017/04/25(火) 09:50:34
    結論から言うと、これは江ノ島の企んだもうひとつのコロシアイの参加者だったらしい。
    未遂に終わったけれど、あたし達をコロシアイに参加させ、その映像でレオンお兄ちゃん達を絶望させるつもりだったって聞いた。
    ……あたし達、と言うのは、監禁生活を送っていたのがあたしだけではなかったからだ。
    コロシアイ学園生活に参加した、15名の高校生の『もっとも大切な人』───えっと、未来機関風に言えば、【要救助民】だっけ?それが、みんなどこかに監禁されてたみたい。
    そして、それが自分だってことと、レオンお兄ちゃんがあたしを大切に思っていたと言うことは、やっぱり外に出てから知ったことだった。

    あの日、あたしはいつも通りに朝を迎えた。
    どうせ出られない建物の扉を一瞥して、それから───

    「え?」

    開かなかったはずの扉が、乱暴に開かれた。
    もうあたし達の命を大切に取っておく必要が無くなったのだ。

    そこからはまるでジェットコースターみたいだった。
    必死に走って逃げて、外の惨状を理解した。
    や、やーはー……ウソでしょ?クマみたいなロボットが、人を襲ってる!!
    すぐ近くにはスーツの男が血塗れで事切れていた。理解するのには時間がかかったけど、あたしもこうなりたくないと思って、必死であれこれ行動した。

    そして知った事実。
    【人類至上最大最悪の絶望的事件】の顛末。
    首謀者江ノ島 盾子と、その姉戦刃むくろの死。
    自分がいるのは、【塔和シティー】と言う名の巨大都市で、さっきの事情で監禁されていたこと。
    今街で暴れているのは、モノクマと呼ばれているロボットってこと。

    桑田怜恩は、死んだ。
    殺人を犯し、暴かれ、殺されたと言うこと。

    その事実だけで、心臓が一気に縮こまって、体中がぶるぶるとふるえ出すのが分かった。
    ウソだ、ウソだと何度も脳内で叫ぶ。
    けれどもどうしたって、それがウソなわけがなかった。
  15. 15 : : 2017/04/25(火) 09:57:43
    網膜に焼き付く。
    誰だ、一体どんなやつなんだ。
    レオンお兄ちゃんを、自分の仲間を、その命を、かけがえない存在を踏み台にして、のうのうと生きているやつらは。
    スーツの男からぶんどったノートをぱらぱらめくり続ける。
    そうして、たどり着いた。
    写真と名前と、才能……希望ヶ峰学園に入った時の才能が書かれていた。

    苗木 誠  超高校級の幸運
    霧切 響子 超高校級の探偵
    朝日奈 葵 超高校級のスイマー
    腐川 冬子 超高校級の文学少女
    十神 白夜 超高校級の御曹司

    そして、まあ……タイトルでも言っちゃってるから分かってると思うけど、今回の主人公になってしまった、葉隠 康比呂。超高校級の占い師と言う肩書きとともに、そこに載っていた。

    今や随分穏やかな気持ちでそう考えられるけれど、あの時のあたしは違った。
    怒りで全身が燃え上がるみたいで、もうそれ以外は何も考えられなくなっていた。

    忘れない。忘れやしないぞ。
    あたしはいつか必ず、絶対に、あんた達を皆殺しにしてやる。
  16. 16 : : 2017/04/25(火) 10:05:07
    ダベミ!?どうしてダベミがここに・・・逃げたのか?自力で脱出を?ダベミ!!

    ・・・え?本物?
  17. 17 : : 2017/04/25(火) 10:06:56
    本物とかよく分かりませんが、SS速報さんから出張しにきました。
    グループコミュニティを作ったので、そちらで色々教えてください。お願いします
  18. 18 : : 2017/04/25(火) 21:10:06



    その日、そんなつもりはみじんも無かった。
    そうただちょっと、ただほんの少し……あー、魔が差したんだ。
    そこら辺にある機械をお借りして、そんで俺の借金をこう……ね?減らしたいなあと……ね?
    そう思っただけなんだよ!
    別にチームワークを乱したつもりもねーんだ!

    ……まあ、結果的にその大胆不敵な行動が、俺の命を救うことになるんだが。

    なんせ、俺は未来機関でも下っ端扱い。
    苗木っちや霧切っちがかっこよく活躍する主役クラスなら、俺なんてのは精々アニメ3話で主人公と話すモブB(それも養成学校出たての声優が初めてせりふをもらった役)とかそんなもんだ。
    もろちん、じゃなくて、勿論、この不当な扱いに俺が納得しているわけがなかった。
    けれども……俺の場合は素行が問題で、評価できなかったんだ。

    借金あるし。
    ヤクザの娘さん脅したことあるし。
    うさんくせーし……言ってて自分でちょっと泣けてきた。目の前が滲むよ。

    まあとにかく、その時の俺と言ったら、かっこよく要救助民を助けに行った十神っちの部隊の後詰めだった。
    当然武器はなし。
    仲間も数人居たけれど、あの時の混乱でみんな死んだ。
    まただ。ああ、また俺は人が死ぬとこを黙って見ていた。

    けど。
    けれど。
    俺にとってもっと最悪だったのは、生き延びた先でモノクマに見つかったこと。
    さらに輪をかけて最悪だったのは、そのモノクマを退治して救ってくれたのが───仲島 花音だったってことだ。


  19. 19 : : 2017/04/26(水) 17:33:02
    あたしは出会ってしまった。

    (俺は出会ってしまった。)

    「運命の人」に。


    そう、比喩なんかじゃなく、運命を動かす人に、出会ってしまったんだ。
    いいことか悪いことか、まだ結論にはぜんぜん早すぎる。


    けれど、あたしは数日、この葉隠と塔和シティーを回って───
    心のどこかで、葉隠を許してしまった。
    二律背反。
    殺したい気持ちと、許したい気持ちが、あたしの胸の中で渦巻いていた。

    だってあいつは、へっぽこで、臆病で詐欺師で、それなのに……あたしの殺意も知っていたのに、それなのに、あたしを見捨てなかった。
    レオンお兄ちゃんと同じことを言って、あたしに笑った。


    「か、ッ……は……」

    時々、フラッシュバックしてくる、憤り。

    「……かの、っ……」

    どうしても、目を閉じたって、忘れられなくって、消えてはくれなくって。
    それでも何とかしたくって、けれども殺したくもなくって、

    「……が……ァ……」

    そんな日の夜は、思わず無意識に……あるいは故意で、葉隠の首を絞めている。

    「……」

    骨ばった男らしい喉から手を離す。
    浅黒い肌はさらに赤が差してきれいなコントラストを描いている。
    信じられない、と言った目があたしを射抜いた。
    きっとこんな目なんだ。
    あの時、レオンお兄ちゃんを射抜いた目は。


    「……落ち着いたか?」

    「うん……何とか」


    そしてそんな夜でさえ、自分よりもあたしを気遣うようになったこいつに、もどかしい感情が芽生える。
    本当に、殺してもいいのか?って。
  20. 20 : : 2017/04/27(木) 19:35:32



    許されるなんて、思ったことはなかった。

    踏ん切りが付かなかっただけで、俺だってもしかしたらそっち側に行ってしまっていたかもしれないんだ。
    事実、俺は人を殺す気で一度殴っていた。
    その時でさえ最後まで覚悟を決められなくて、けど逃げられないからもうジタバタするのを止めただけだ。

    自分がやってきたことが、誉められるなんて思ったことはない。
    きっと、苗木っちは誉められてしかるべしだと思う。
    あいつは、強かった。最後まで強かったから。
    だけど、俺は違うだろ?

    ずっと逃げてた。
    ずっと怯えてた。
    ずっと目を逸らし続けていた。

    人の死から。

    だからあの時、首を絞められたあの時だって、ああここが年貢の納め時だって、諦められたのだ。
    確かに俺達は桑田っちを殺したのだから。
    ……それなら、もう言い訳も出来ないだろ。
    俺達は彼女の希望を奪ったのだから。

    けど、それも結局そうはならなくて、俺はなんて幸運なのか、なぜか死にはせずにそこにいた。
    そして、花音っちと、同じ道を歩こうって決意したんだ。

    もう同じような思いはしたくなかった。
    それにさ。

    オメーの生き抜いた証だろ、この子の存在は。


  21. 21 : : 2017/04/27(木) 19:46:57
    あたし達は塔和シティーで出会い、
    そこで小学生に襲われた。
    足首も怪我したけど、それでも何とか逃げ仰せた。

    「……戻ろう」

    怪我した足を引っ張りながら言う。
    本当はこの街から脱出するつもりだったけど、小学生達の妨害でそれも叶わなくなった。

    それに、もしかしたら。
    もしかしたら、未来機関の援軍が来るかも知れない。

    「そしたら塔和シティーともおさらば出来るべ?」

    「でもそしたらあたし、みんな殴っちゃうかもよ?」

    葉隠は……あたしのことを、自分の身を投げ売って助けてくれた。
    今でもあれがどうしてこいつに出来たのか分からない。
    それでも、ほんのわずかに、信じてみてやってもいいかな、と思えた。
    だけど葉隠と未来機関の話はやっぱり別。
    見つけたら殴るかも知れないし、殺すかもしれない。

    それでも葉隠は、笑って「そん時ゃそん時だべ」と言い放った。
  22. 22 : : 2017/04/28(金) 17:51:19
    それで、今からちょっと前の話か。

    小学生達と大人達のぶつかり合いはだんだん激しくなった。
    モノクマも大量に投入されていたみたい。あちこちにあたしの武器のコトダマも落ちていた。
    もしかしたら、未来機関の増援が落としたのかもしれない。
    道すがらの子供が、武器のメガホンを改造しないかと問いかけてきたこともあった。
    ああ、あくまでこれはゲームなんだ。
    実感が湧いて、どうしようもなかった。

    大人はどんどん殺されていく。
    葉隠と歩く道に死体がなかったことは一度もなかった。
    あたしも葉隠も、慣れたくはない慣れに身体が順応してしまいそうで、その度に地面をしっかり踏み締める。
    自分はこんな世界で生きている、フィクションでも何でもないと改めて理解しようとしていた。


    「ぃ、が……ッ」

    その度、その夜は生と死の概念があやふやになって、あたしはその喉を絞める。
    苦しそうにもがくけど、どうあっても反撃だけはしてこなかった。

    もしもここで死ぬなら、それを常に受け入れるつもりだったのだろう。

    けれどあたしは葉隠を殺せなかった。
    道ばたの死体の一つに、葉隠を加えてやることは出来なかった。
    何でだろう。
    周りの死におののいたのかもしれないし、あたしが葉隠に心を開きすぎたのかもしれない。

    けれども、それでも、結局あたしは葉隠を殺せなかった。

    殺そうだなんて、出来なかった。
  23. 23 : : 2017/05/01(月) 16:56:19
    ゲームだから。

    子供ならではの残酷さがあたし達を刻んでいく。
    これが日常だと、リアルな世界だと、子供達は思っちゃ無いのだ。
    だから、だからこんなことが出来る。

    道ばたの蟻を踏みつけるみたいに。
    捕まえたトンボの羽をむしるように。

    命をゴミみたいに扱って、子供が大人を殺していく。
    いずれ、自分達だって大人になるのに。

    「……前にもまして、死体が増えてる」

    葉隠が、事実を確認する為にそれを口にしていた。
    顔は真っ青だ。

    「そうだね」

    あたしはと言えば、そんな当たり障りのない返事しか出来なくて、どうしようもなくて、打ちひしがれていた。
    どうしてこんなことに。
    考えたって仕方がないのに、どうしてつて頭の中でずっと考えてたんだ。
    理由を知るのも、この死の痛みから解放されるのも、ずっと後だけど。

    「母ちゃん、無事だべか」

    小さな声があたしの鼓膜を揺らした。
    そしてそれは、間違いなくあたしの隣から聞こえた声だった。
  24. 24 : : 2017/05/07(日) 22:54:41
    死と生が常に隣り合わせにある世界の夜。

    「ぐ、っ……が、は……」

    あたしもまた、羽虫みたいに、ゴミみたいに、目の前の男の命を握っている。

    「は、……あ、……かは……」

    このまま力を込め続ければ。
    ……続ければきっと。
    元々の目的は簡単に達成できる。
    怜恩お兄ちゃんの仇を討てる。

    「……の……っ……、かの……」

    だけれど、けれど。

    ぱっ、と手を離してしまう。
    ゲームだから?
    愛憎だから?
    情が移ったから?

    理由はどれだってよかった。
    ただ、今のこの世界で、葉隠を守れるのはあたしだけだった。

    そうだ。
    そうしよう。
    そして、守って守って、守りきって、こいつのお母さんと合流したら、その目の前で、

    必ず、殺してやろう。


    「……花音っち」


    夜のベッドは相変わらずしみったれていて、あたしの隣からはやや息苦しそうな葉隠の声。
    何か言いたげだったけれど、無視した。

    優しさを、思いやりを、夜の帳にごまかして無視した。


    そして───物語は、あの日となる。
    苗木こまるが決断したあの日に。
  25. 25 : : 2017/05/07(日) 23:02:21
    あの日もきっといつもと同じで、あたしは葉隠と一緒にがれきの上を歩いていたのだろう。

    けど、足を止めて、そして人だかりを見つけた。
    今まで会えもしなかった大人達が、ある一点に集まっていたのだ。

    あたしも葉隠も、ようやく助かったのではと、一縷の望みをかけて走り出した。

    けれど。
    それは余りに唐突に始まったラストシーン。
    残りわずかだった大人達の魂の咆哮。

    子供に殺された大人達が、反抗の機会を得て子供を殺せとコールしていたことに、あとから遅れて気付く。

    街には大きなモニターが設置されていた。
    そこに映っていたのが、苗木こまる。
    世界を救ったとか言う、苗木誠の妹。
    平々凡々な、何の才能もない高校生。

    その、高校生が。
    苗木こまるが。
    手にリモコンを握らされていた。

    そして、それが子供達───変なクマの被り物をした子供達を文字通り殺すためのボタンであると、衆人みなが知っている。
    知っていて、なお、その罪を苗木こまるにかぶせようとしていた。


    「なんだ、これ」

    たどり着いて、やっとたどり着いて、その時に葉隠が力なく呟いた。
    これじゃ、大人も子供も関係ない。
    あの時───と言っても直に見てたわけじゃないけど、あの時、怜恩お兄ちゃんがかけられた裁判と、今と。何の違いがあるのだろう?
  26. 26 : : 2017/05/08(月) 23:08:36
    人を殺すことを、渇望して熱狂している。

    「こんなの」

    間違っている。
    けれど、自分の大切な者を殺された人達の恨み辛みはあまりにも大きすぎる。
    だから、あたしはこいつらの気持ちが、分かってしまう。
    だけど間違っている。
    二律背反があたしの脳を壊しかけた。
    こいつらが間違っていたら、自分も間違っていてしまうから。

    「……やめろよ、止めろ!人が死んでいいわけねぇだろ!」

    はっとして顔を上げる。
    ……葉隠だった。

    「それも子供だろ!?オメーら正気か!?」


    でもね、葉隠。
    あんたの言葉は、届かないんだよ。
    あんたの周りは誰も死んでないから。
    あんた自身が死んでないから。
    怜恩お兄ちゃんを───あるいは、様々な人の生命を、食い殺してそこに立っているから。

    だからね。

    あんたは恵まれすぎていた。


    「そんなの……桑田っちも舞園っちも、あいつらも!望むわけねぇだろ!」


    ……分かってるよ。怜恩お兄ちゃんは人を殺したんでしょ?
    殺された相手にも仲間がいて、家族がいて、その人達だってあたしとおんなじことを考えるんでしょ?
    分かってるよ。
    それでも。やっぱり、生きてて欲しかったんだ。どんな形でも。
    もう一回会って話したかったんだ。

    それを奪ったのは、やっぱりあんた達なんだよ。

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