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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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  1. 1 : : 2017/03/08(水) 23:47:28
    コトダ祭春参加となりました!シャガルT督です。
    よろしくお願いします!

    今回は私の他に

    ・風邪は不治の病さん
    ・あげぴよさん
    ・Deさん
    ・スカイさん
    ・ゼロさん
    ・herthさん
    ・カラミティさん
    ・ふぃんさん

    が参加されています!
    今回、自分が選択したキーワードは

    Chapter1 交錯

    にしました。

    ※ダンガンロンパV3本編のネタバレを含みます!
    本編未プレイの方は閲覧非推奨です!



    今回もお楽しみ頂けますよう頑張っていきたいと思います。
  2. 2 : : 2017/03/08(水) 23:54:30
    砂煙と廃墟の先。


    虚ろいの青空のむこうから眩しい日が僕らを見下ろす。




    Prologue「才囚学園崩壊の日」





    その日差しは僕らへの祝福なのか。

    それとも……





    最原「眩しい…」

    春川「終わったんだよね……?」

    春川「本当の本当にこれで……」

    最原「はは……流石にもう終わりだと思うよ…」

    夢野「この上まだフィクションじゃなんじゃと言われるのはいい加減めんどいわい……」

    夢野「けど、本当にめんどいのはここからかも知れんな…」

    最原「……うん。」



    春川「顔が割れてるってこんなに大変なんだね…」

    春川「今までは極力表は避けてきたからさ…」

    最原「それは…誰でもこんなに顔が広まるなんて事はないよ…」

    最原「けど、やっぱり…ここが終わりじゃないよね」


    外に出た後の事なんて分からない。

    いや、とてつもない困難にぶち当たるのは目に見えていけど、こんなところで燻っているわけにもいかない。

    最原「行こう!!外の世界へ…」

    硝煙の舞い上がるコンクリートの森を僕らは歩き出す。


    虚の空と鳥籠はただ、僕らの背中を見送るだけ。
  3. 3 : : 2017/03/09(木) 00:01:18

    夢野「キーボのやつ…まさか自分の身を挺して壁を壊すとはのぅ…」

    春川「私達はどこまで「視聴者」を変えられたんだろうね…?」

    春川「キーボがあたし達を生かしたって事は…これって視聴者があたし達を生かしたって事でしょ?」

    最原「いや、そうとも限らないんじゃないかな…?」

    春川「どうして?」

    最原「今となっては確かめようがないけど…キーボ君が僕らを生かしたのは彼自身の意志だったんじゃないかなって…」

    最原「まぁ、僕がそう信じたいだけかも知れないけど……」

    最原「僕は… それを信じたいと思ったからさ…」

    夢野「まるで… 百田みたいな事を言うんじゃな」

    春川「……いいんじゃない?
    それがアンタが自分なりに考えて出した解答なんでしょ?」
  4. 4 : : 2017/03/09(木) 00:06:48
    最原「うん…!」

    最原「それじゃあ始めようか。このフィクションを終わらせて…」

    そう。僕達は還る。

    テストだとかお小言だとかケンカだとか何とか。

    そんなありふれた日常へ。



    散っていったみんながあれほど望んだ外の世界。


    さようなら。みんな…


    おさらばだ、才囚学園。


  5. 5 : : 2017/03/09(木) 00:40:17
    1幕「平々凡々な日常」




    こうして僕達はそれぞれの日常へと無事に帰還を果たした。


    何事もなかったかのように。


    さも、当然のように。


    数日後。


    最原「叔父さん!ただいま!」

    叔父「おぉ、お帰り。終一」



    探偵事務所での生活は多忙と充実を極めた。



    叔父「今日はもう終わりにして休もう。終一」

    最原「そうですね。夕飯にしますか?」


    探偵の叔父の手伝いをしながら、本格的に探偵として身を立てるために探偵のいろは、裏事情等。

    いよいよ僕も探偵として独り立ちに向けて準備を進めている所だ。

    叔父「終一、お前は本当にいいのか?」

    最原「え?」

    叔父「実際ロクなもんじゃないさ、探偵なんて」

    叔父「警察のように身分に保証があるわけでもなし。」

    叔父「浮気やら何やら人間の汚い部分をこれでもかと見せつけられてさ…報奨金も大した事ないし」

    叔父「たまに大きな事件を任せられたかと思えば血生臭いやら権力絡みやらで…」

    叔父「それに……言いにくい事だが………」


    叔父「逆怨みって事もあるし……」

    叔父「そういえばお前……帽子は?」

    最原「あぁ…あれはもういらなくなったんです……」

    最原「それに、僕には約束があるんです。探偵として頑張るって…」


    叔父「そうか…… 決意は硬いみたいだな…」

    叔父「応援してるからな、終一。」

  6. 6 : : 2017/03/09(木) 02:20:01
    ~某孤児院~



    春川「む~す~んで ひ~らいて」

    オルガンの音と元気な歌声が春の空に流れる。



    園児「て~を うって むすんで」

    春川「ま~た ひらいて て~をうって」


    昼下がりの孤児院はまさに平和そのものである。


    園児「ありがと~! まきねぇちゃん!」

    先生「わるいわね~ 小さい子の相手頼んじゃって…」

    春川「いえ、この孤児院のルールですし…」

    先生「ほんと… 戻ってきてくれて助かったわ。みんな『まきねぇちゃんが来ない』って大騒ぎで…」

    先生「それで今日はお遊戯したいってはしゃいじゃってね~本当にありがとうね」

    春川「ど…どういたしまして…」

  7. 7 : : 2017/03/10(金) 02:34:57
    園児「まきねぇちゃん! これよんで!」

    春川「わかったわかった… 順番にね。」

    春川(よかった……のかな? 戻って来ちゃって……)

    春川(結局、「事務所」を訪ねて見ても空きオフィスになってたし……)

    春川(電話も繋がらないし連絡すら来ないし…)


    春川(死んだって思われたのかな……)

    春川(案外あっけなく終わるもんなんだね…
    ゴキブリみたいにしぶとい組織だと思ってたけど……)


    不安と思索は園児の声に掻き消された。

    春川「こら! ケンカしてると読まないよ!」
  8. 8 : : 2017/03/10(金) 02:58:20
    ~都内 某ホール~

    照らすスポットライトはステージ上の小柄な人影にフォーカスを当てる。

    夢野「みな様… 本日はわたしのショーにお越しくださり誠にありがとうございます…」

    ステージの上で披露される小さな奇跡、大きな奇跡。

    そして舞台の大詰めである奇術が披露されようとしていた。

    夢野「これより、わたしのショーの大詰めであります、空間魔法をお見せしたいと思います!」


    ステージのど真ん中に巨大な箱が出現する。

    夢野「ご覧のとおり、出入り口は1つのこの箱から…テレポートしたいと思います!」


    夢野「それではみな様… ショーの最後に再びお会いしましょう!」

    小さな人影は箱の中に消えていく。

    めかし込んだスタッフが鈍く光る鎖を箱に巻き付け…

    最後に仰々しい大きさの南京錠を箱にかけた。


    ステージの脇には電光掲示板。

    観客の焦燥を掻き立てるような赤いデジタル数字は刻々とカウントダウンを刻む。


    箱は時折、ガタガタと揺れる。


    電光掲示板は30秒前を指す。



    心なしか、スタッフが少々騒がしい。

    「おい!どうなってんだ!!」

    ステージの裏から怒号が飛んだ。
  9. 9 : : 2017/03/10(金) 03:03:36
    「中止だ!中止!! 爆弾を止めろ!!!」

    観客にも不安とざわめきが生まれる。


    「誰か箱を開けろ!!」

    「バカ!やめろ! 危ないぞ!!」

    スタッフが斧を持ってステージに飛び出したその時。



    電光掲示板は確かに「5」の数字を刻んでいた。





    凄まじい爆音が響き渡り、箱は木っ端微塵となった!
  10. 10 : : 2017/03/10(金) 03:10:45
    「嘘だろ………?」

    「おい…… 秘密子ちゃんは……??」


    「やべぇよおい!!」

    スタッフと観客が取り乱し、パニック寸前に陥る中……



    「み…みな様……」


    観客にどよめきが走る。


    スポットライトは声の主を指した。


    夢野「大変… ご心配をおかけしました……」

    息が上がった夢野が観客席後方に現れた。

    夢野「ですが…… みな様の声… 確かに聞こえていました………」



    夢野「みな様のおかげで…空間魔法「テレポートレーション」無事に成功です!!」





    観客からは大波のような歓声と拍手が沸いた。

    総勢、文句無しのスタンディングオベーションである。
  11. 11 : : 2017/03/13(月) 14:29:03

    控え室



    夢野「久々に…疲れたのぉ…」

    スタッフ「お疲れ様です! 夢野さん!! ブランクがあるとは思えない舞台でしたよ!」

    スタッフ「ステージの上での夢野さん何だかハキハキと…堂々としてて…」

    スタッフ「何だか人が変わっちゃったみたいに…」

    夢野「ウチは魔法使いじゃからな。あやつらにもいつかウチのさらに進化した魔法を披露してやらねばのぅ…」

    夢野「それに……師匠にも早く会いたいしの……」


    スタッフ「夢野さん…」

    夢野は虚空を見上げた。



    スタッフ「あ…ほら! 夢野さん! 見てくださいよ!今日もファンレターたくさん届いてますよ!」

    スタッフ「夢野さんもどうですか? ほんとは私のような人間がチェックするんですが…」


    夢野「………そうじゃな。たまには目を通すかの」

    積み上げられたファンレターに夢野は手を伸ばす。

    スタッフ「夢野さん…『めんどい』って言わなくなりましたね。」

    夢野「……ウチは全力で生きると決めたんじゃ」

    スタッフ「………よい心がけですね…」

    夢野「それにしても『つつうらうら』エアメールまで混ざってるようじゃの。」


    夢野「え……」


    何となしに手にしたエアメールの封を見て、夢野は固まった。
  12. 12 : : 2017/03/13(月) 14:51:25



    都内 某スーパー


    春川「あとは洗剤が無くなってたから買って… 明日の分のおやつ買って……」

    春川(………ほんと、拍子抜けしちゃうくらい平和だな…)

    春川(まぁ、それに越したことは無いんだけどね…)

    春川(結局、あれ以来何の連絡も無いなぁ…)


    春川(もう… 忘れていいのかな……?)

    すっかり重くなった買い物カゴをレジに通し、袋に詰める。

    春川「ふぅ……」

    ふと、スーパーの掲示物が目に入った。


    『夢野秘密子 スペクタクルショー! 4/21』


    春川(あいつも頑張ってんだね。)

    春川(さて…私も帰ろうかな。)


    両手に一杯の買い物袋。

    正直言って一人で持つには重い。

    しかし、帰りを待つ者が多くなるだけ重くなる事を実感させられる。


    春川(今日はちょっと急いで帰ろっかな…)
  13. 13 : : 2017/03/13(月) 14:59:16
    はじめまして、黒バラと申します。突然すみません、このss面白くて期待です。少しシャガルT督さんと話したいのですがよろしいですか?
  14. 14 : : 2017/03/13(月) 15:09:06


    夕方陽が沈みかけ、昼間白んでいた月が色づき始める頃。

    春川(この辺は変わんないな…夕方ぐらいにはもう暗いし街灯も少ないし…)

    少女「あ! まきねぇちゃん!」

    春川「ちょっと…! どうしたのよ!」

    少女「えへへ~ おねえちゃんの帰りが待ち遠しくって…」

    春川「まったくもう… ほら、暗くなるから帰るよ!」

    少女「はーい!」


    孤児院の少女が走りよってくるその背後から…


    ぬらり と嫌な気配を春川は感じ取った。



    春川「危ない!!!」
  15. 15 : : 2017/03/13(月) 15:31:47
    少女「へ…?」

    春の陽気盛んなこの季節に黒い厚手のコートに手袋、更にはフルフェイスのヘルメット。


    ここが路地ではなく、街中であったら相当目立ったであろう。


    少女を背中に庇い、その不審な人物に相対する。


    ヘルメットの男「なんだテメェ!! 邪魔すんな!!」

    春川「アンタこそ一体何のつもり!?」


    少女「おねえちゃ…」

    ヘルメットの男「どけよォ…ババァ!! テメェに用はねェ!!!」

    ヘルメットの男「どかねぇなら…… 殺す…」


    ヘルメットの男は懐からナイフを取り出す。


    そのナイフ、どこから見ても「使い込まれた」形跡があり、所々に錆びすら見える。



    無機質な青白い街灯の光に刀身が ぬめりと赤錆た輝きを放つ。

    ヘルメットの男「ガァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
  16. 16 : : 2017/03/13(月) 16:04:21
    一気に距離(レンジ)を詰め、男はナイフを振り上げた!!


    しかし、幾多の死線を乗り越えた彼女の魂を刈り取るには到底足りる筈もない。

    男の腕部を受け止め、ナイフを頭上で強制停止させると…


    ボディーブローが男の腸をひっくり返す。


    ヘルメットの男「ぐへェ……ッ!!」

    すかさず、春川は素早く上体をひねり…

    ヘルメットの男のヘルメットにハイキックをブチかます!!


    ヘルメットのバイザーが砕け散った。

    まともに喰らった男は風前のゴミ屑のように後方に吹っ飛び…

    後頭部からまともに墜落した。

    「おい! 何の騒ぎだ!」

    近隣の住人も騒ぎに気が付き始めた。

    ヘルメットの男「クッソが……覚えてやがれ……」

    ヘルメットの男はフラフラと逃げ出した。


    春川「…………………………………………」

    少女「おねぇぢゃああああん!!」


    少女は安堵し、春川にすがり付く。


    住人「君!どこか怪我は…?」

    住人「君!」



    夜陰も手伝ってか、春川の表情は血の気を失くし蒼白く、身体は震えていた。


    安堵や達成感等は微塵も感じられない。


    春川(アイツ……アイツはまさか…)



    春川(いや、それ以前に………)




    春川(アイツ………ヘルメットが無ければ死んでた……)

    春川(あたし……この子の前で…… 人を………!!)
  17. 17 : : 2017/03/13(月) 17:22:03
    翌日


    探偵事務所

    最原「叔父さん…やっぱりこの人……」

    叔父「うむ…浮気だろうな。間違いない。」

    最原「なら…!早速依頼人に連絡を…!」

    叔父「待つんだ終一。連絡を取ってどうするんだ?」

    最原「何って……真実を伝えなきゃ!」


    叔父「……なるほど。真実か。」

    叔父「終一、どうしてそんなに『真実』にこだわるんだ?」

    最原「どうしてって……」

    叔父「前のお前は……何というか真実を見極める事に遠慮がちというか……恐れている気配があった。」

    叔父「それが急にどうしてこんな事になったのかと思ってね。」

    最原「僕は……」

    最原「僕はもう、真実から逃げないって決めましたから…」

    最原「例え、その真実がどんなに残酷であろうと… 正面から向き合うって…」

    最原「それが… 探偵として僕に与えられた使命だと思うから…」


    叔父「なるほど…」

    叔父(行方知れずになってる間に一体どのような修羅場を潜り抜けたのだろうな…)


    叔父「終一。お前の探偵として覚悟……私にはよく伝わった。」

    叔父「だが終一。」


    叔父「『依頼人』が何時でもその覚悟を背負えると思うかね?」

    最原「えっ…?」



    叔父「行方知れずになって戻って来てからお前はずいぶんと大きくなったよ…」

    叔父「何だか頼りがいが出てきたね」


    叔父「きっと…… 死線すら乗り越える時もあったのだろうね…」

    最原「叔父さん…」


    叔父「だが、終一。忘れていないか? 私たち
    探偵は依頼人ありきの仕事だ。」

    叔父「依頼人からの依頼に答え、真実を探る。時に打ち明ける。 言わば『探偵業』というのも客商売なんだよ。」

    叔父「私はね、終一。臆病者と罵られるかも知れないが… 『真実』を教えて絶望させるような事はしたくないんだ。」


    最原「…………ッ!」


    叔父「私の考えを押し付けるつもりはない。
    だけど… 依頼人がいつだって残酷な真実を受け入れられるかは分からない。」

    叔父「我々探偵というのはね… 『真実の伝え方』についても多く学ばなけらばならない。」


    叔父「さぁ、今日のところは撤収しよう。」

    最原「うん…」
  18. 18 : : 2017/03/13(月) 18:43:54
    その夜


    最原(依頼人との向き合い方か……)


    最原(僕は…… 本当にちゃんとした探偵になれるのかな……??)

    最原(「ちゃんと」って何なんだよ………)



    空を仰いでも答は書いてはいない。

    天には星が瞬く。あの学園とは違う正真正銘、天の宝石達。



    最原「百田クン…… 僕は君の助手として相応しい探偵になれてるかな…?」

    最原「春川さん…… ごめん… まだ… 約束は果たせそうにないよ…… 」

    最原「夢野さん… お師匠さんを見つける手伝いなら…… 僕はいつでも協力するよ…」


    最原「赤松……さん…………」



    最原はその場でうずくまった。




    最原(泣くな………っ! 泣いて…何になるんだ…………ッッ!!)



    星空は静寂で答える。





    最原「………!?」



    最原は何かにはっとし、顔を見上げた。


    目の下を腫らして情けないのもあった。


    しかし、そうではない。


    最原(視線……?)


    視線の元をたどり、目を向けると………


    走り去る影を見た。



    最原「な………ッッ!?」



    最原「あか………まつさ……」



    最原(バカな……ッッ!! あり得ない!!
    絶対に………ッッ!!!!)



    最原(気をしっかり持て……! 動揺するな僕……!!)




    再び顔を上げた頃には人影は消え失せていた。
  19. 19 : : 2017/03/13(月) 19:10:56



    2幕 さいはら式パーフェクトたんてい教室



    叔父「おはよう。終一。」

    最原「おはよう。叔父さん……」


    叔父(……やはり高校生には厳しすぎる問題だったか…… 私はあれだけ偉そうに講釈を垂れておきながら………)

    叔父「終一、もうすぐ…入校手続きも済むから…そうなれば…高校にも通えるようになるからな。」

    最原「ありがとう…叔父さん。」

    叔父「その…まぁ、せっかくの休みだし… 外で遊んできてもいいんだぞ。」
  20. 20 : : 2017/03/14(火) 01:58:44
    最原「分かったよ。叔父さん。」

    最原(…………ちょっと連絡取ってみようかな…)



    昼前、外出する前に春川、夢野に連絡を取ることにした。


    幸い、解散する前に連絡先は交換していた。



    「はい、○○孤児院でございます。」

    ―――――――――――――
    ――――――――
    ―――


    最原「………………」


    孤児院と連絡を取ると春川は孤児院に戻って来たあと、ある一件以来様子がおかしいという。

    最原(夢野さんはどうしたんだろう……)


    スタッフ『はい、もしもし。××事務所でございます』

    最原「あの、自分夢野さんのクラスメイトの最原と言うのですが…」

    スタッフ『あ! そうなんですか! お話は夢野さんから伺ってます!』

    スタッフ『けど…夢野さんとは今私も連絡が取れなくて……』

    スタッフ『なんでも… お師匠さんから手紙が届いたとの事で… 目の色を変えて出かけて行ってしまったんですよね…』

    最原「え?」

    スタッフ『夢野さんはお師匠さんをとても尊敬してましたから… 目の色が変わるのも分かるのですが…』

    スタッフ『こちらから連絡がつかないって変ですよね…』

    最原「そうなんですか… 分かりました。」
  21. 21 : : 2017/03/14(火) 02:51:44


    最原「二人とも連絡が取れないなんて……」

    最原(それにしても夢野さんと連絡が取れないのは少し気になるな……)

    最原(春川さんの様子がおかしいのも引っ掛かるし……)



    最原「…………よし。」

    急いで探偵事務所まで舞い戻ると、事務所に警察が立ち寄っていた。

    最原「あ、こんにちは…」

    刑事「ん?あぁ… お邪魔してるよ。」


    叔父「終一、少し外してくれるかな」

    刑事「いや、構わない。 彼にも聞いてもらおう。 なかなかの洞察力なのだろう?」

    刑事「それに……」



    最原「あの… 僕が何か……」

    刑事「ふむ。なら、話そう。」
  22. 22 : : 2017/03/14(火) 03:13:04

    刑事「テレビを見てればある程度知ってると思うが…」

    刑事「『女児連続誘拐殺人事件』。」

    最原「…………」

    刑事「陰惨な事件だ。」

    刑事「小学生以下の女児が各地で誘拐され、数日後には惨殺されて発見されている…」

    最原「犯人… まだ捕まっていないんでしたね。」

    刑事「そうだ。 これだけの事をしておきながら犯人に繋がる確たる証拠を押さえられない。」


    刑事「………事件資料を開示しても…?」

    最原「それは… 構わないですけど…」

    最原「けど、なぜそんな大事な情報を僕なんかに…?」

    刑事「君の噂は耳に挟んでいる。それに…」

    刑事「君も当事者になり得る可能性があるからだ。」

    最原「当事者……? 僕が…?」
  23. 23 : : 2017/03/14(火) 03:46:19
    刑事「本来、捜査内容は口外無用の物なのだが……」

    刑事「コトがコトなんでな……」


    鞄からファイルを取り出すと机の上に並べた。


    凄惨な光景を写し取った写真、事件現場や捜査内容を書き記した物が並べられる。


    最原「…………ッ!」


    あの学園での経験を思い出すが、その光景ともまた違う。



    生きるために足掻いた結果ではなく。




    ただ純粋に爛れた欲望をぶつけられた陰惨極まる光景が広がっている。


    刑事「胸クソが悪くなるよな…」


    最原(………………)

    最原(なんだ……? この違和感……)

    刑事「…………何かに勘づいたようだね」

    最原「現場には証拠となる物が1つも無いのでしたっけ…?」

    刑事「……そうだ。1つも残されていないのだ。」

    刑事「2件目の事件からねェ…」

    刑事「最初の事件はちらほらとではあるが確かに目撃証言や不審人物の情報も寄せられていた。」

    刑事「だが、2件目の事件をきっかけに目撃証言も物的証拠は愚か… 遺体を除く事件の痕跡すらろくに掴めん……!」

    最原「確かに… それもそうなんですが…」

    叔父「終一… 」

    最原「捜査資料によれば…一連の事件は犯人は己の欲求を満たすために衝動的な犯行が殆どでしたよね…?」


    叔父「しかし、2件目の事件以降犯人は現場から遺体以外の一切の痕跡を残していない…」

    最原「これって… おかしくないですか?」


    最原「一連の犯行は衝動的なものであるはずなのになぜ証拠も目撃証言もある時からパッタリ消えているのか…」

    最原(証拠隠滅を他に担当している共犯がいる……? けど、何故か違和感が残る…)

    最原(2件目からは慎重に犯行するようになった……?考えられなくはないけど…)


    刑事「そして、つい最近新たな犯行が行われた疑いがある。」
  24. 24 : : 2017/03/14(火) 23:42:55
    刑事「その事件を簡潔にまとめた物がある。」

    最原「………犯行現場はさほど遠くない…」

    被害に遭遇した人物は○○孤児院に住む10歳の少女と同じ孤児院に住む16歳の女子高生。

    いずれも外傷は無く、命に別状はない。

    犯行時刻は18:30頃。
    容疑者はヘルメットにコートを来た178cmほどの人物。
    声は男の物であったという。

    その人物は路地の影から飛び出すと10歳の少女を連れ去ろうと背後から忍び寄った。

    しかし、近くにいた先述の女子高生により犯行は失敗。その場から逃走。


    現場から約1kmほど離れた場所に破損したヘルメットが放置されており……


    ※とある刑事の捜査資料より引用。


    最原(待てよ……この孤児院って…………)

    最原(春川さんの………………!)
  25. 25 : : 2017/03/15(水) 21:31:37
    春川さんかわいい
    期待です!
  26. 26 : : 2017/03/16(木) 17:14:35
    刑事「…………話が見えてきたみたいだな…」

    刑事「数年前から続く『高校生連続誘拐事件』彼女もこの事件の被害者だ…」

    最原「それって……!」

    最原(けど、待てよ…数年前……?)


    刑事「驚くのはこれからだ。」

    刑事「つい、最近この娘に捜索願が出ている…」


    懐から写真を取り出した。


    最原「ゆ……夢野……さん…?」


    刑事「………やはり見覚えがあるんだな…」


    叔父「ちょっと待ってください…! 私もその両方の事件については色々と調べていますが…」

    最原「叔父さん…… やっぱり…」

    叔父「まぁ… 事情が事情なので甥には言いませんでしたが…」


    最原「確かに…… さっきの『女児連続誘拐殺人事件』と『高校生連続誘拐事件』との関連は…」

    刑事「………最後に確認されている時間が非常に近いんですよ…… 夢野さんと… ヘルメットの男と思わしき人物がね………」

    刑事「あの放置されていたヘルメットですがねェ、バイザーの部分が大破していたんですよ…」


    刑事「…………フツーそんなところ大破していたら顔は大ケガ…」


    刑事「顔にキズを負った不審人物が夢野さんを最後に確認出来ている地点の近くで目撃されてるんだ…………ッッ!!」


    最原「それってまさか…………」



    刑事「非常に申し訳にく事だが……」


    刑事「夢野さんはそのヘルメットの男の被害に遭っている可能性がある…………!」

  27. 27 : : 2017/03/16(木) 17:38:21
    最原「そんな……それじゃあ急がないと……!」


    刑事「………………………………!」


    最原「警察は一体何してるんですか!? こんな所で話している暇があったら……!」

    叔父「待つんだ。終一!」


    最原「待ってなんかいられないよ!! こうしている間にも夢野さんが……!!」


    叔父「待つんだ!!」


    叔父「大事な人が被害に遭っている可能性があって…… 焦る気持ちは私にも分かる。」

    叔父「だが… 解決を焦る余り真実を見極める眼が曇っていないか…?」

    最原「……っ!!」

    叔父「もう一度、落ち着いて情報を整理するんだ。」

    刑事「いや、怒るのはもっともだ……」


    叔父「まずは女児連続誘拐事件の方だが… これは本当に複数犯や別の犯人の可能性はあるか?」

    最原「いえ… 容疑者の特徴が最初の事件と春川さんの事件と共通してますし…」

    最原「何より、『遺体から確認されている刺し傷は同じ凶器によるもの』と捜査資料にありましたから…」

    叔父「では、次に… そもそもお前と一連の事件の関連性は何だったかな?」

    最原「僕と春川さんと夢野さんが同じ事件の被害者で… その夢野さんが被害に遭った可能性があるから…」


    叔父「では……」

    叔父「その高校生連続誘拐事件でお前は何を見た?」


    最原「え…?」

    刑事「…………っ!!」

    叔父「それともう一つ。これだけの事件だと言うのに… 終一に何も聞き込みも無いというのは…… どういう事ですか? 刑事さん……」

    刑事「そ…… それは…」

    叔父「どうしたんです?何か言えない理由でも…?」


    刑事「………………………」


    刑事「分かった…… 話そう………」
  28. 28 : : 2017/03/16(木) 18:06:47
    刑事「実は今回ここに持ってきた話は署でも1度出した話なんだ……」

    刑事「だが… 本部は『関連性があると決めつけるのは早い』とまともに取り合わなかった…」


    刑事「それでも俺は食い下がった……そしたら…」

    刑事「俺は捜査本部から外された………」


    刑事「他の刑事も上を恐れて取りつく島もない……」

    刑事「……まぁ、当然だ。 あいつらにはあいつらの家庭があり…帰る場所があるんだからな…」


    刑事「それこそ憶測に過ぎないが…この事件には何か大きな力が働いているように見える…」

    刑事「女児誘拐犯が政府や警察絡みなのか……
    それとも……」


    刑事「俺は……俺は…………ッ!」

    刑事「妻と娘の墓前に誓ったんだ………!
    必ず娘を殺した犯人を逮捕して見せると………!!」

    叔父「まさか… あなた……」


    刑事「そうだ。 娘は妻に先立たれた俺が
    男手一つで育て上げ…」

    刑事「奪われた…………」


    刑事「唐突に! 無意味に!! 理不尽に!!
    無惨に!!」


    刑事「だから俺は……せめて奴を逮捕して仇を獲らなきゃならない…………ッッ!!」

    叔父「もしかして…… それで警察外部の協力を得るために私達を………」


    刑事は静かに頷いた。


    刑事「頼む……! あの悪魔を捕らえるために……
    協力して欲しい……!!」



    刑事「どんな些細な事でもいい……! あの事件で何か気付いたことは………!」


    叔父「ちょっと…! 刑事さん!」

    最原「いえ…」

    最原「気を使ってくれてありがとう。
    叔父さん。」

    最原「だけど… 僕は逃げたりしない……!」

    最原「話します。 どのくらい役に立つかは分からないけど…僕があの事件で何を見たのか……」


    最原「これは刑事さんや… 今まで被害に遭った人達……」

    最原「それに… 僕自身の事件でもあるから……」



    最原はゆっくりとした口調で、しかしハキハキと

    才囚学園での事の顛末を話した。
  29. 29 : : 2017/03/16(木) 18:41:36


    ~数日前~

    言い残した事は多いが、ここで一先ず時間を巻き戻す。



    某所


    夢野「ハァ…… ハァ………!」


    夢野は息を弾ませていた。


    事の顛末はここより更に数日前のあの手紙。


    夢野『し……師匠……?』

    スタッフ『へ……?』

    スタッフ『師匠ってもしかして……!』

    夢野『ま…間違いない…… 師匠の名前…… 師匠の字じゃ………』

    夢野『ししょお………』


    夢野『す…すまぬがほっぺをつねってくれぬか?』

    スタッフ『え? はい……』

    夢野『いたいいたいいたい!』

    夢野『もう良い!分かった!』

    夢野『師匠…… やっと師匠の元に戻れるんじゃ…』

    スタッフ『よかった… よかったですね…夢野さん……!』

    夢野『きっと今日のウチの魔法を見てくれたんじゃな!』


    夢野『はぁ……師匠…』

    スタッフ(今どき手紙をしたためるなんて
    ロマンチックな事するんですね…)

    スタッフ(夢野さんとお師匠さんの時間を邪魔するわけにはいきませんね…)
  30. 30 : : 2017/03/16(木) 19:08:41


    待ち合わせ場所に向けて夢野はひた走る。


    待ち合わせ場所はそこまで人通りのない公園。


    夢野「師匠……?」

    夢野「師匠…? この前のショーは見てくれた……かの…?」

    夢野「ウチは…… もう一度… 師匠と一緒に魔法を……!」



    公園は静まり返ったままだ。



    夢野(師匠の事じゃから… きっと魔法を
    使って姿を現すんじゃな……)



    すると…

    夢野の背後から人影が現れ…



    夢野ごと消えていった。
  31. 31 : : 2017/03/16(木) 20:03:45

    ○○孤児院



    春川「………………………」

    春川(アイツは一体……何だったんだろう…)

    春川(やっぱ…ただの不審者……?)


    春川(そういえば…ニュースで小学生ばかり狙う誘拐事件が起きてるってやってたっけ……)

    春川(アイツが狙ってたのは私じゃなくてあの子だったし……)

    春川(組織とは無関係なのかな………??)


    春川(いや……事件の素性も知らないのに無関係だって決めつけるのは………!)


    春川(やっぱり組織の回し者なんだ………)

    春川(組織が私と…私と関わった全ての人間を消すために………!)


    春川(私……やっぱり此処に戻って来ちゃいけなかったんだ…………!)





    春川(最原……)


    春川(百田ぁ………)



    少女「……………まきねぇちゃん?」

    春川「……………ッ!?」


    少女「泣いてるの…? まきねぇちゃん……」

    春川「……っ! うぅん! 大丈夫…… どうしたの? 眠れなくなっちゃったの…?」

    少女「うぅん… 部屋のあかりがついてて…… まきねぇちゃんがいたから……」

    春川「そう…… 起こしちゃってごめんね…でももう遅いから寝よっか…」

    少女「うん!」


    少女の手を引いて寝室に向かう。

    春川「ねぇ…… 怖くなかったの?」

    少女「なにが?」

    春川「だって… あんな目に遭って……」

    少女「……………」

    春川「…ごめん! 思い出したくなかったよね…」

    少女「わたし……ぜんぜんこわくないよ!」

    春川「へ…?」

    少女「だって… まきねぇちゃん強いもん!」



    標的を消すため

    自分の命を守るため

    身に付けた武器。


    少女を護る為とはいえ、その武器を目の前で振るった。


    しかし、少女はまるでスーパーヒーローでも見るような眼差しで見つめてくる。


    春川「あたしは………」


    少女「あのね、『力ってもろはのつるぎ』なんだって!」

    少女「何のことかよくわかんないけど…」

    少女「でも… 力があればカッコいい人になれるのかなって」

    少女「あっ! わたしが日ようびの朝にテレビ見てるのはないしょだからね!」

    春川「みんな知ってると思うけど……」

    少女「えぇーーー!!」

    春川(諸刃の剣……)
  32. 32 : : 2017/03/16(木) 21:01:04


    寝室で少女を寝かしつけた。

    すぐ側ですやすやと寝息を立てている。



    春川「この子も色んな事を覚えていくんだね…」

    春川(力は諸刃の剣……)


    春川(確かに… 倒す力を持ってるなら… 誰かを護る力になる……)

    春川(使い道次第って事なのかな………)


    春川(暗殺者か…………)





    今夜は月が丸い。






    春川(陰………)


    春川(才能にも陽の当たる場所と当たらない所があるのかな……)

    春川(表裏って言っていいか分からないけど…)


    春川(きっと才能にも陽と陰が付きまとうんだろうね…)


    春川(それはたぶん… 百田や… 最原……いや、あの学園みんなにも言える事なのかな……)





    春川(私の才能は………)



    超高校級の暗殺者 春川 魔姫



    春川「なら… 今度はこの力を……
    降り下ろす先を間違えない………!」


    春川(私は……私の力で… アイツらをブッ潰してみせる…………!!)



    春川(………そういえば最原と約束してたっけ…)



    春川(いや…… 最原だって… あの組織ぐるみの犯罪にかまけてるわけにはいかないだろうし……)



    春川(何よりこれは… あたしの戦いだ……!)


    月は西の方へ傾き始めた。


    子供達はまだすやすやと寝息を立てるだけ。



    春川「ごめんね…… またちょっとだけ…… 留守にするから…」

  33. 33 : : 2017/03/17(金) 03:26:03
    都内 工業地帯



    ヘルメットの男「言われた通りにしましたぜ。」

    ??「うん。ご苦労様。」

    ヘルメットの男「さ、約束のモンを早く渡してくださいや……」

    ??「はい。」

    ヘルメットの男「へへ… どれどれ……」


    粗末な旅行カバンには諭吉が1000人。



    ヘルメットの男「へへ… 確かに。」

    ヘルメットの男「これからもダンナとは仲良くやっていきたいもんですな! ヒャヒャヒャ!」



    ヘルメットの男(たった1回高校生のババアを拐っただけでこの収入… ボロい商売だぜェ……)

    ヘルメットの男(証拠隠滅まで向こうがやってくれるしィ……)

    ヘルメット(ま、アイツ見た目は割とイケてたけどやっぱ高校生のババアじゃ…)




    男の視界と意識はそこでパッタリと切れた。




    鉛弾が脳髄と血を撒き散らした。



    ??「終わったよ。 こっちは片付いた。」

    ??「あぁ、お疲れさん。 助っ人を回しておいたからボートまで来てくれ。」

    ??「うん。分かったよ。」



    ??「さて… 早いとこ準備に取りかからないとね。」
  34. 34 : : 2017/03/18(土) 16:48:45





    3幕 僕とマジシャンと保育士と



    夢野と春川の件から数日が経ち、視点は最原へ戻る。



    最原「フゥ………」

    ソファに深く腰かけ、出された水を口の中に放り込む。

    最原(これだけ探し回って手がかり0なんて…)


    捜査は足だなんて言うけど今日はほとほと思い知らされる。


    最原(あとでコーヒーでも頼もうかな…)

    交換した連絡先に記されていた住所、事務所など様々な場所を転々として聞き込みを行ったが居場所を特定するめぼしい情報は手に入れられなかった。
  35. 35 : : 2017/03/18(土) 18:07:31
    最原(夢野さんの行方が分からない以上… やっぱり春川さんとコンタクトを取るしかない…)

    最原「すいません。コーヒーひとつ。」


    最原(だけど春川さんとどうやって連絡を取れば……)





    数時間前

    最原『え?春川さんはここにはいない…?』

    先生『えぇ… つい先日から……』

    先生『あなたは春川さんのクラスメートでしたっけ?』

    最原『はい…』

    先生『なら…』



    ○○孤児院のみんなへ。

    突然また目の前を去る無礼と非礼を許してください。けれど、どうしてもこれだけは私自身が解決しなければならない事だから。

    私の事を今まで育ててくれた先生方。孤児院のみんなには感謝の尽きぬ思いです。

    それでも、どうか行かせてください。
    やはり、自分で始めた問題は自分で解決しなければならないと思うのです。

    もし、この孤児院に再び戻って来れる日が来たなら、もう一度孤児院の家族として迎えてくれたらこれ以上ない喜びです。


    重ねて、勝手な事をする親不孝をお詫びすると共に、私はもう一度叱られに戻って来るとお約束します。

    春川 魔姫



    ※春川魔姫の書き置きより引用。


  36. 36 : : 2017/03/19(日) 01:53:23

    最原『これは………』

    先生『迂闊だったわ…… あの子…つい最近戻って来てくれたのに… あんな事に巻き込まれて……』

    先生『もっと…… ちゃんと見ているべきだった………!』

    先生『けど… どういう事なの? 『自分がしなければならない事』って……』

    先生『あの子……… 一体何をするつもりなの?』

    最原『………それは……』


    今までも口をつぐんできた。

    だが…

    最原『春川さんは………』


    あの学園を通じて聞いた事、学園での出来事
    春川さんの背負っていた物。

    最原は全て打ち明けた。


  37. 37 : : 2017/03/19(日) 17:27:55


    最原「やっぱり春川さんが元いた組織を当たるしかないか……」

    最原(……だけどそこに夢野さんに繋がる手がかりがあるだろうか…?)

    最原「………考えてても… 仕方ない!」



    最原(確かあの組織の表向きの名前は……)





    店を出て、僅かな手がかりを求めて最原は再び歩き出す。



    事務所前

    最原「確かこのビルの……」

    最原「……あれ? 空きオフィス?」


    案内板を見てもオフィスがあるはずのフロアは空欄であった。



    管理人「え…? 神明救済会?」

    最原「お心当たりは……?」

    管理人「う~ん… 2ヶ月くらい前までウチの階の1つを貸してたんだけど…」

    管理人「ある時から何の前触れもなくオフィス丸ごともぬけの殻になっちまって……」

    最原「そうですか……」

    管理人「お兄ちゃん…… なんかワケアリみたいだけど… アレにはあんま深く係わんない方がいいと思うよ? ヤバいウワサも聞くし………」

    最原「そうですね… ありがとうございました。」
  38. 38 : : 2017/03/19(日) 18:05:41
    ビルを出ると日は傾き始めていた。

    最原「…もう少し調べたいところなんだけど……」


    ちょうど授業が終わり、学生は家路に着こうかという時間帯である。


    最原(僕も早いところ学校に復帰できるといいんだけど……)



    ふと、見覚えがある制服を見かけた気がした。

    最原「…………え?」


    目をこすり、もう一度目を凝らす。


    最原(見間違い……? いや… あれは………!)
  39. 39 : : 2017/03/19(日) 18:15:38


    最原「赤松さん!!!」


    考えるよりも先に、反射的に声が出ていた。



    声に気がついた人影はハッとして踵を返した。


    最原「待って……! 待ってよ!」


    人影は路地裏にまで逃げ込んだ。


    最原「はぁ…… はぁ…… 赤松さん………」



    最原(………赤松さん?)


    最原(僕は……一体何を…………??)


    最原「赤松さんは…! 赤松さんは……………!!」



    最原「死…………………」







    後頭部に衝撃が走り、目の前で星が散った。

  40. 40 : : 2017/03/19(日) 18:44:05

    最原「ぐぁ…………ッッ!!」


    ??「チッ………!!」


    最原「き…… み…は……」


    激しい痛みと脳を直接揺さぶられるような感覚。


    ??「うるさい!! お前は……!」



    心の底から怨めしいと睨む




    禍々しい彼女の瞳。



    目の前に立つ「それ」が「それ」である筈など有りようが無い。



    しかし、今まさに最原に対し憎悪に燃える瞳を向ける「それ」は紛れもなく彼が見知った「それ」なのだ。




    最原「あ……かまつ……さん……………!」



    赤松?「許さない…… 貴方だけは絶対…………!」



    赤松?「殺してやる!!」



    割れた瓶を彼女は再び振り上げた。

  41. 41 : : 2017/03/19(日) 19:06:10
    ??「ちょっと…! 落ち着いてよ赤松さん!」

    赤松?「…………ッ!」

    ??「もう…… 困るよ赤松さん… 勝手な事しちゃ……」


    赤松?「………ふん…」


    ??「さて、ご同行願おうかな? 」


    ??「最原終一クン?」



    視界がぼやけて顔がよく見えない。


    しかし、どこか聞き覚えのある声でもあった。


    最原「お… お前は……なぜ…」


    ??「なぜ? いいじゃない。そんな事どうでも…」

    ??「さて、いつまでもこんな所にも居るわけいかないし… 早いとこ退散しようか。」
  42. 42 : : 2017/03/19(日) 19:59:11

    ??「赤松さん。脚持ってて」



    赤松?「…………誰か来るよ。」




    ふらふらとこちらへ歩み寄る人影。


    「ぼ… ボス……!」


    ??「……………」


    顔面がひしゃげたスーツの男がバッタリと倒れた。




    春川「…………ソイツを一体何処へ連れていくつもり……?」


    ??「あぁ…… 君は確か…」

    春川「アンタらが何者なのかも…… そこにいるその女が『何』なのかは知らないけど……」

    春川「ソイツは置いて行ってもらうよ!!」


    ??「やれやれ、厄介な事になったね。」


    ??「いや、むしろ好都合かな?」


    最原「春川さん…… ダメだ…」

    「ボス」と呼ばれたその青年が懐に手を入れるや否や………



    春川は弾丸の如く距離を詰めた!!
  43. 43 : : 2017/03/19(日) 20:08:56

    春川「最原を離せ!!」

    成年の目前まで迫った所で………



    春川「グッ……!」

    上から現れた別の成年が春川のナイフを受け止めた。

    ??「助かったよ……」


    ??「あぁ… この場は任せろ!」

    話をしている最中の成年のこめかみをコークスクリューが貫こうとした時。


    ??「話中に顔面パンチは感心しないよなぁ」

    春川(受け止めた…!?)


    見ていなければかわせない筈の拳を成年は目の前で止めた。

    ??「早く車まで!!」

    春川「させるか!」


    組んだ腕を振りほどいて最原の元へ向かう

    ??「お前の相手はこの俺だ!」


    ??「お前も連行してやるよ……!」


    ??「『未来機関』としてな!!」
  44. 44 : : 2017/03/19(日) 21:12:00

    春川「未来機関……?」

    春川(それって確か…)

    ??「今度は全員まとめて送ってやるよ!!」


    路地の壁から三角飛び。


    視界外からの足刀横蹴り!

    春川「………ッ!」

    春川(重い……!)


    受け止めた腕部に鈍い痛みが走る。


    ??「大人しくしょっぴかれて貰うぞ。」


    ??「咎を背負い過ぎたな……!!」

    春川「はァあああッ!」


    攻めの手を緩めず春川はインファイトに持ち込む。

    春川(受けに回ったら潰される……!)


    春川(コイツ…… 強い………!!)
  45. 45 : : 2017/03/19(日) 22:29:07

    ??「俺もその咎を背負った人間だけどさ…」

    ??「この咎はお前らを潰すために使うぞ。」


    春川「私は…… 負けないッ!!」


    春川の拳を潜り抜け瞬時にボディに拳が入る。

    春川「グッ……!」


    顔に目掛けて飛んでくる拳を春川は何とか止める。


    受けに回らず膝蹴りを突き出す。

    互いの膝が激しく激突した。



    春川(脚が……!)

    その時、遠くから車が動き出す音が響いた。
  46. 46 : : 2017/03/19(日) 22:46:23
    春川(これ以上足止めされるわけには……)


    春川は敢えて路地から表通りまで抜ける素振りを見せる。


    ??「…ッ!」


    一瞬、目を合わせたその隙にスタングレネードを手から放った。


    ??「フラッシュバン……!」


    耳をつんざく高音と激しい閃光が弾け飛ぶ。


    ??「チッ……… 逃がすか…!」


    黒のワゴン車が成年の目の前で止まる。

    ??「二人とも乗って!」

    ??「おい! 追わなくていいのかよ!」


    ??「ボクに考えがある!」

    車は二人を乗せるとその場から立ち去った。
  47. 47 : : 2017/03/19(日) 22:57:18



    春川「…………………」



    春川「………ふぅ」


    スタングレネードの閃光が尽きるまでの僅かな間に配管を伝って成年の視界の上へ逃れていた。




    春川(これでひとまず位置は見失わない……)

    スマホを開き、専用アプリを立ち上げる。

    春川(発信機がバレないといいけど……)


    春川「絶対………逃がさないから……!」







    車内


    ??「………発信器か。」

    ??「どうする?壊すか…」

    ??「いいんじゃない? そのままにしておこうよ。」



    ??「一網打尽にするチャンスでしょ?」
  48. 48 : : 2017/03/20(月) 02:51:21


    春川はそのまま配管からビルの屋上に降り立つ。

    春川「一体どこまで行くの…?」

    春川「………街中なら… 追える!」


    春川はくるりと街を見回すと……

    隣のビルへ飛び出した!


    春川(あいつらと組織一体何の関係が…?)


    春川(いや… 最原が拐われた以上放っておくわけにはいかないし)

    春川(それにあの二人…… あの裁判で見た…)




    春川(それから………)




    春川(『アレ』は間違いなく赤松だった………)


    春川(一体………何が起こってるの…?)




    春川(発信機はまだ生きてる………)


    春川(罠………って事かな…)
  49. 49 : : 2017/03/20(月) 15:44:29

    街を走り抜けるワゴン車。

    それを追いビルからビルへと跳び移る人の影。




    車内

    最原「お前達は何だ……? 神明救済会の人間か…?」

    最原「それともあの女児誘拐事件はお前達の仕業なのか……?」




    ??「う~ん、結論から言うと……」




    苗木「それは違うよ。」




    日向「それに賛成だ。」

    日向「俺達はそんな異常者共とは違う。」



    日向「俺達はこの世界から絶望を消すんだよ。」


    この男達は何を言っているのか。

    突拍子の無さも手伝って最原には理解が出来なかった。
  50. 50 : : 2017/03/20(月) 16:45:46
    しかも、それだけではない。


    目の前に居るそれは最原にとって違和感の塊であった。



    最原「赤松………さん?」


    赤松?「気安くその名前で呼ばないでよ……!!」


    最原「………ッ!」


    赤松?「私は貴方を許す訳にはいかないんだから………!」


    赤松?「例え… どんな理由があろうと………!」

    苗木「そこにいるのは正真正銘『赤松さん』だよ?」


    最原「違う!そんな筈は無い!!」


    最原「赤松さんは死んだんだ……!! 僕達の目の前で!!」

    赤松?「そうだね。」


    赤松?「貴方達に殺されたんだったね。」

    最原「それは………っ」



    最原「それに……! お前達の方は何なんだ!!」


    最原「お前達は………! あの『ダンガンロンパ』の登場人物………!」


    最原「『フィクション』だった筈だ!!!」



    苗木「うん。フィクションね。」

    苗木「君の言うフィクションってどこからどこまでの事を言ってるのかな?」

    最原「は………?」

    苗木「ねぇ?日向クン」


    日向「『例え僕達がフィクションだろうと……
    この胸の痛みは本物だ!!』」


    日向は声真似して見せた。

    苗木「ブフ……ッ! 流石日向クンだね!」


    最原「黙れぇぇエエエエエエエエッッ!!!」
  51. 51 : : 2017/03/20(月) 17:05:15


    苗木「キミが『何なんだ』って聞くから喋ったのに……」

    苗木「キミ達だって絶望を呼び込むに決まってるのにさ……」



    最原「何の…… 話だ…!」


    苗木「まぁ、その続きは上がってからにしようよ。」


    苗木「キミの友達も待ってるからさ……」


    最原「お前……! やはり………!」


    苗木「独りで逝くのは寂しいからね。」

    苗木「遺された人は尚更ね。」


    日向「同感だな……」



    日はすっかり姿を隠し、夜の帳が舞い降りる。


    車はいつの間にか山奥まで来ていた。
  52. 52 : : 2017/03/20(月) 17:14:40



    山道



    春川「ハァー……ハァー……ッ」


    春川「もう……少し…!」



    道なりに進まねばならない自動車とは違い、忍者の如く建物から建物へ跳び移り、街中を追跡してきた春川。


    春川「山道が……… 一本道だったのは…… ラッキーだったな……………」


    春川(けど…… これからなのに…… 息が……)


    春川「泣き言…… 言ってる場合じゃない…!」


    春川「最原……… 待ってて………!」

  53. 53 : : 2017/03/20(月) 17:35:42

    4幕 陰と陽が愛した才能









    山奥の施設


    苗木「さぁ、降りて。」


    最原「……………」


    両腕を拘束された状態では従わざるをえない。



    苗木「歓迎するよ。 ようこそ『未来機関』へ。」

    連れられるまま最原は施設の奥へ連れて行かれる。



    苗木「しばらくこの部屋で待っててよ。」

    苗木「日向クン。少し手伝ってくれるかな?」

    日向「あぁ。任せとけ」


    苗木「赤松さん。今日はもう休んでいいから…」

    赤松「………………………。」
  54. 54 : : 2017/03/21(火) 05:56:18

    牢屋のような部屋に押し込められると…


    奥に人の気配を感じた。


    最原「夢野さん!!」

    夢野「さ……最原!?」


    夢野「お主も捕まってしまったのか……?」

    最原「うん……」

    最原「まさか… 夢野さんも………」


    夢野「う……うむ…」


    夢野「師匠と待ち合わせをしていると思ったら……… 急に…… 後から…」

    夢野「許せん!! 師匠の名を騙ってウチを拐うなど………」

    最原「夢野さん………」


    最原(僕は春川さんと事件の手掛かりを探してあのビルまで来ていた……)


    最原(そしたら…… あの… 赤松さん?を見かけて………)




    最原(何者なんだ……… 僕達を拐って監禁するなんて……!)

    夢野「のぅ……最原…?」

    最原「え……?」

    夢野「ウチら…… まとめてこんな所に拐われて来るという事は………」

    夢野「やっぱりあの学園の者なのかの……?」


    夢野「それでウチらの口を封じて………」

    最原(『ダンガンロンパ』関係者が証拠隠滅のために僕達を誘拐した……)

    最原(本当にそうなのか……?)

    最原「いや、ただ証拠隠滅がしたいだけなら…
    僕達をこんな所に集めたりはしないと思う……」

    最原「何か思惑があるはずだ………」

    夢野「これ以上……… ウチらは何を失うんじゃ…」
  55. 55 : : 2017/03/21(火) 06:02:53


    最原「ねぇ……赤松さん。」

    赤松?「……………」

    何故かこの部屋を離れようとしない。

    最原「君は…… どうして…」


    赤松?「そう…… 分からないんだ。」


    赤松?「なら教えてあげるよ……」


    赤松?「ちょうど半年くらい前の事だよ………」

    赤松?「いつもみたいに学校から帰って来たと思って…家に帰ったら…… 何て言われたと思う?」


    赤松?「拐われたんだよ……… 妹が……」

    最原「え………?」


    『赤松楓には双子の妹がいる。』

    最原「それって…… まさか…!」

    赤松「そう。私は……………」


    赤松「赤松 楓だよ…………… 」
  56. 56 : : 2017/03/21(火) 07:43:59


    最原「あ………赤松さん!?」


    赤松「……………ッ!!」


    露骨に嫌そうな顔をされた…


    赤松「そうだね。確かに私は赤松楓だよ。」


    赤松「超高校級狩りって知ってる?」


    最原「うん……知ってるよ… 確か僕達もそいつらに拐われてあの学園に……」

    赤松「まぁ… 元は希望ヶ峰学園に入学する学園の生徒に対する称号みたいなモノなんだけど…」


    赤松「その学園自体は何十年も前に閉校されたし…… 確か70年くらいは歴史のある学園だって聞いてたけど………」

    最原「閉校から何十年……!?」

    夢野「んあ!? それはおかしいじゃろ!!」

    赤松「な…何が……?」

    最原「だって…! いや………」

    夢野「どうしたんじゃ? 最原……」

    夢野「あの学園で見た『あやつら』はどうみてもウチらと同じくらいじゃったろ!」


    最原(確かに変だ……)

    最原(いや、分からない…… あくまで『アレ』は白銀さんのコスプレだったわけだし……)


    最原(だけど何なんだ……! このどうしようもない違和感は……!!)
  57. 57 : : 2017/03/21(火) 08:19:10

    赤松「知らないよ! 私はあの学園にいたわけじゃないんだから!!」


    最原「それなら……」

    赤松「分かった。いいよ。 教えてあげるよ……」

    赤松「あの学園の学級裁判で殺された赤松楓は……」


    赤松「私の妹なんだよ………!!」


    最原「それじゃあ……!」


    赤松「そう………」

    赤松「妹はピアノしか弾けなかった私の身代わりに……」

    赤松「超高校級狩りに間違えて捕まって………」


    最原「赤松さんの妹は…… ピアノは………」

    赤松「ピアノを弾けなくたっていい所はたくさんあったよ……!」


    赤松「あの学園で殺された時に妹は私に仕立て上げられてたんだから!!」


    赤松「『超高校級のピアニスト』………『赤松 楓』としてね!!」




    最原「………!!」


    赤松「どうせ仲間を全滅させるわけにはいかなかったからとか言うんだろうけど…!」


    赤松「それでも私にとってはたった一人の妹だったんだよ!!」




    赤松「どうして真実を暴いたりしたの!!!」



    最原「……………!!」


    夢野「な… 何を言うんじゃ! それならウチや…転子やアンジーは死んでも良かったと言うんか!?」


    最原(僕は…… 僕は………!)


    最原(また同じ事の繰り返しだって言うのか……!?)

    最原(隠しておいた方がいい真相を掘り返して……)
  58. 58 : : 2017/03/22(水) 20:13:14

    最原「………赤松さん」


    赤松「何よ!! 今さら言い訳するっていうの!?」


    最原「違う……!!」


    最原「赤松さんの妹は…… 」





    最原(真実………)

    最原(その伝え方って………!)


    最原「赤松さんの妹は…… あの学園でも…最後まで諦めてなかったよ……」

    最原「あんな状況の中でもみんなをまとめ上げて……」


    最原「最後まで首謀者に抗い続けていた……」



    最原「僕に……… 真実から逃げないでと言っていた……!!」

  59. 59 : : 2017/03/22(水) 20:27:49
    夢野「さ……最原!?」


    赤松「っ……!! 今さらそんな嘘ついて何になるの!?」



    最原「嘘じゃない!!!」



    最原「そうだよね? 夢野さん………」


    夢野「そ…… そうじゃったの…」

    夢野「あの裁判で…… 確かにそう言っておったの…」


    夢野(まさか人格ごと姉に塗り替えられたなんて…… 言わない方がよさそうじゃの…)


    赤松「…………………」



    赤松「…………ごめん…」


    赤松「その…… 私も言い過ぎたから………」

    最原「赤松さん…………」


    赤松「勘違いしないで……!
    私はまだあなた達を完全に許したわけじゃないんだから!」


    最原「分かってるよ…… 僕達が怨めしくても…仕方ないと思ってる。」

    最原「だけど… 僕は約束したんだ……」


    最原「もう、真実から逃げないって………」
  60. 60 : : 2017/03/22(水) 21:20:39



    その時。


    2まとめて押し込まれていた部屋に苗木が顔を見せた。


    苗木「あれ? 赤松さん。こんな所にいたんだ?」


    赤松「別に… いいでしょ……」

    苗木「ふーん… まぁ、いいや。 二人とも来てくれるかな?」


    苗木「待ってる人がいるからさ………」


    最原「待ってる人……?」


    最原(まさか………)



    赤松「…………………」


    なす術なく連行される二人を赤松は見送っていた。



    赤松(真実から……… 目をそらすな…………か…)
  61. 61 : : 2017/03/22(水) 21:50:55



    夢野「最原よ……」


    夢野「ウチらもいよいよ終わりなのかの……?」

    最原「まだ…… 分からないよ…」


    夢野「ウチは……… せめてもう一度… 師匠に魔術を………」



    最原「夢野さん………」


    苗木「さぁ、二人はこっちだよ。」

    目の前には鉄の籠のような簡素なエレベーター


    最原「クッ…………」



    最原(何か……何か手段は無いのか……!?)


    エレベーターは二人を乗せて降りていく。
  62. 62 : : 2017/03/22(水) 22:30:36



    エレベーターがガクンと止まると、目の前は無機質で冷たい壁に囲まれた地面。

    その上には1周ぐるりと観客席。


    そして、上には……

    最原(コロシアムってことか……?)


    最原「なぜこんな所に来させるんだ!!」


    苗木「まぁ、いいじゃない。」

    苗木「二人を処刑する前に自分の『死』に対して納得してもらおうと思ってさ……」


    最原「なんだって………ッ!!」


    苗木「まずはボクの聞いてよ。」

    苗木「最原クンも知りたがってる事だと思うからさ。」
  63. 63 : : 2017/03/22(水) 22:56:15

    苗木「まずは… オーソドックスに自己紹介から始めようかな。」

    苗木「ボクの名前は苗木誠。元希望ヶ峰学園の生徒で『未来機関』の人間だよ。」

    苗木「未来機関がどんなところかは最原君は知ってるかな?」


    最原「確か…… 『人類史上最大最悪の絶望的事件』の事態収束を目指して造られた機関……
    だったはずだ……」

    苗木「そう。 主に希望ヶ峰学園のOBで構成された機関。」


    苗木「じゃあ次に…希望ヶ峰学園って何だったかな?」

    最原「優れた才能を持つ高校生を世界中から集めた特権的な学園……のはずだ。」


    苗木「大正解。やっぱり記憶力はいいんだね!」


    へらへらと苗木は応える。


    最原「さっきからこの問答に一体何の意味があるんだ!」

    苗木「落ち着いてよ最原クン!」
  64. 64 : : 2017/03/22(水) 23:24:39

    最原「お前達の目的は何なんだ……!?」

    最原「あのゲームの続きでもしようとでも言うのか……!?」


    苗木「その話をする前に……」


    苗木「隠れてないで出ておいでよ!居るのは分かってるんだからさ!」


    苗木「そうでしょ!? 春川さん!!」

  65. 65 : : 2017/03/23(木) 01:18:40
    春川「………………」

    苗木の居るの位置より更に上、天井の梁に当たる鉄骨に人影があった。

    最原「春川さん!!」

    苗木「さて、3人揃ったところで話の続きをしようか……」


    苗木「フィクションと現実がごっちゃになってるキミ達のために説明すると………」


    苗木「あれらはすべて()った事だよ。」

    苗木「『人類史上最大最悪の絶望的事件』、『未来機関』、『希望ヶ峰学園』………」


    苗木「これらは全部確かに現実で起きたモノだよ……」



    苗木「実際キミ達は解放されたあと、ごく自然にそれぞれの生活に戻っていったよね?」

    最原「確かに……それは僕達がフィクションであったらあり得ない話だ……」

    苗木「そうでしょ? 要はキミ達は最初からそれぞれ才能を持つ高校生として確かに存在していたんだよ。」



    苗木「(つみ)を背負った人間としてね。」
  66. 66 : : 2017/03/23(木) 20:48:57

    最原「つ……罪だって?」


    最原「僕達が何の罪を犯したって言うんだ……!」



    苗木「あぁ……罪って言うよりは業とか咎って言った方が近いかな?」


    苗木「世界の希望の為にキミ達には…… 死んでもらうからさ…」


    日向「悪く思わないでくれよな……」


    春川「……!」



    春川の立つ天井の足場にそれは影のようにゆらりと現れた。

    恒星の如く輝く紅い瞳を携えて。



    春川(コイツ……… ただ者じゃない……!)


    苗木「さぁ……… 三人とも」


    苗木「希望の生け贄になってもらうよ!!」




    苗木はスコープと銃口をこちらへ向けた。


    最原「待て!! 僕はまだ………!!」


    春川「最原!!」




    春川「使って!!」


    足場の上から3つ何かを投げた。
  67. 67 : : 2017/03/24(金) 14:24:31


    しかし、その春川の一挙動を「彼」が見逃す筈がない。


    春川「ぐぁ…………っっ!」

    辛うじて受け止めた右腕の感覚がほぼ無い。


    勢い余って後方に飛ばされる。


    体勢を整え受け身を取ろうとしたその時……



    目の前を人影が覆う。



    春川「な……ッ!」


    人影は拳を握り締めると…………



    重く鈍い衝撃音を走らせた。
  68. 68 : : 2017/03/24(金) 14:45:30


    苗木「ッ!!」


    苗木(またか………ッ!!)



    空中で閃光手榴弾が炸裂し、苗木の視界を一時的に奪う。


    すかさず、春川に託された物を最原は拾い上げた!


    最原「ピストルとテーザー銃……」

    最原「ぐっ……!」


    銃口を手錠に押し付け、引き金を引く。


    炸裂音と共に鎖が弾け飛んだ!

    最原「よし!」


    長い拘束から最原は解放された。

    最原「夢野さん! ちょっと手錠を…!」

    夢野「最原! 後ろ!!」


    夢野の手錠を撃ち砕こうとしたその時……



    閃光手榴弾の閃光が尽き……


    銃声がコロシアムに響いた!



    苗木「チッ……!」


    苗木はコッキングレバーに手を延ばす。


    最原「助かったよ……夢野さん!」


    間一髪、銃弾は地面へと吸い込まれていった。


    最原(夢野さんの手錠も……!)


    銃口を夢野の手錠に押し当てる。


    夢野「何をしておるんじゃ!」



    ライフルから空の薬莢が煙を吐きながら宙を舞う。


    夢野「早く逃げ……!」


    一瞬遅れて銃声と共に夢野の手錠が弾け飛ぶ!!




    レバーを押し込み、ライフルに次弾が装填され……






    十字線と最原が重なった!!



    再び闘技場には銃声が鳴り渡る!
  69. 69 : : 2017/03/24(金) 14:54:39



    最原「ぐ……はッ!!」


    夢野「最原!!」


    緋色が制服を染めていく。


    夢野「最原! 大丈夫か……?最原!」

    苗木「………急所は外れたみたいだね…」


    最原「………待て!」


    最原「僕達は…… まだ納得していないぞ……!」


    苗木「何が?」

    苗木「まぁ、自分がいきなり殺されるなんてなっても納得はできないよね」


    最原「違う……!!」


    弾丸が抉った脇腹を押さえつつ、フラフラと立ち上がった。


    苗木「それなら…どうする? その拳銃でボクと闘う?」



    最原「まだ…… 全ての真実が明らかになったわけじゃない!!」

  70. 70 : : 2017/03/24(金) 15:09:15




    春川の顔のすぐ横に拳は墜落した。


    日向はすぐさま体勢を整え……


    脚を払い、足下に横蹴り




    春川「クッ!」


    後ろに飛び上がり、距離を取る。

    日向の脚を辛くもかわした。



    春川の後ろ髪が何本か舞い落ちた。


    空を切った先にあった手すりがひしゃげていた。



    日向「やっぱりやるな……! それが『超高校級の暗殺者』の才能か……!!」


    日向「自前の才能は使い心地いいだろうな!」



    春川(素手と脚で足場と手すりをひしゃげた…)



    春川(コイツ…… 本当に人間…!?)


    春川はダガーナイフを抜き払う。




    日向「………武器か。いいぜ。」


    日向「この力…… 無駄にはしない!!」



    春川(前に…… 前に出ろ……! 私の身体………!)


    春川「ハァァアアアアアア!!!」
  71. 71 : : 2017/03/24(金) 15:25:01


    苗木「明らかにしてない真実ってどういう事?」


    最原「だってそうだ……」


    最原「お前は確かに言った筈だ…… あの学園で知ったことは全て……確かに()った事だって!!」


    苗木「そうだね。 確かにそう言ったね。」


    最原「あの絶望的事件の後…… お前達『未来機関』が世界の復興に全力を尽くしていた事は知っている……!」


    最原「だけど…… 街にはその記録はあっても痕跡は無い!」


    最原「不自然だ…! あれだけ世界中メチャクチャになったのに……街は整然としていた!」

    苗木「キミ達が才囚学園に入る前の記憶は曖昧なんでしょ?」


    苗木「才囚学園に入った時点で相当の時間が経過してたんじゃない?」

    最原「いや、それだけじゃない………」


    最原「あの『ダンガンロンパ』は僕達で53作目……」

    夢野「た… 確かに…… 相当長いシリーズじゃな…」

    最原「あれほどのシリーズ物が1日や2日程度で次作品になるとは思えない…………」


    最原「確かに相当の時間が経過している筈だ……」






    苗木「何が言いたいの?」








    最原「お前………………」










    最原「どうして歳を取らないんだ?」




  72. 72 : : 2017/03/24(金) 15:37:02


    苗木「え? 何を言ってるの最原クン」



    苗木「何か真相に近付いたと思ったのに…ガッカリだなぁ……」


    苗木「もう、処刑しちゃおうか。」




    最原「まだ……気付かないのか?」



    最原「お前………………どうして僕達がいた学園が
    才囚学園だと知っていた?」



    最原「そして………苗木誠と未来機関はこの世界を救った英雄の筈……」



    最原「伝承にもお前の事を語る物も多かった……」


    最原「人より少し前向きな所が取り柄で…どんな絶望にも屈しなかった『超高校級の希望』
    苗木 誠……」

    最原「一度は絶望に堕ちたものの…… その後、贖罪として世界の復興に尽力し続けた日向 創…」




    最原「それが…… それがどうしてこんな事になっているんだ!!」



    最原「僕達が死に納得できるようにと言ったんだ!! お前は説明する義務がある筈だ!!」
  73. 73 : : 2017/03/24(金) 16:05:47





    春川「ハァッ!!」



    首筋を払う刃を日向は最小限の動きでいなす。


    復路の斬撃、視界外からのフック、回し蹴り。


    その全てを日向はかわす。



    春川「チッ……!」


    後ろに飛び退き、日向は構える。


    日向「今度はこっちから行くぞ!!」






    春川「え……ッ!」



    今まで15m程の距離を一度の踏み切りで詰めた人間など見たことは無かった。


    正拳が顔の横を掠めた!



    踏み切りの勢いを殺さず膝蹴りを繰り出した!


    春川「グ…ぁあ……ッ!!」


    怯んだ春川にそのまま蹴りが飛んできた。



    春川「がァアあああああッ!!」


    日向「どうした? そんなもんか?」




    直接戦闘が専門ではない「暗殺者」とはいえ……


    こんな蹴りは喰らった事はない。



    それ以前に…………





    春川「ゲホッ!! ゴホッ!!」




    臓腑を直接掴んで引っ掻き回されるような重い痛み。


    訓練や任務ですら味わった事は無い苦痛。


    悶絶、転げ回る…… 人生で初めて…!


    春川(人間のパワーじゃない…………!)




    今、日向の居る場所は彼が一足で詰めてきた距離より長い。


  74. 74 : : 2017/03/24(金) 16:32:03



    春川はゆっくりと起き上がる。

    既に飛び上がる程の体力もない。



    春川「あんた……… 本当に人間?」


    日向「あれ? 知らないのか? 俺は……」



    春川「知ってるよそれくらい…… 元予備学科で
    人工的に才能を植え付けられた『超高校級の希望 カムクラ イズル』…………」



    春川「けど…… そうじゃない…」


    春川「あんたは………… もはや人間じゃない…」


    日向「おいおい…! いきなり何を言って………」


    ナイフを構えたまま春川は飛び出した!


    足場から梁を蹴り、更に天井から足を踏み切る!


    日向「…………!」




    『グシャッ!!』





    春川のダガーナイフは日向の左腕を貫いた。


    金属が軋む音を立てながら。



    春川「ガ……ッ!!」

    日向「クソッ!」



    ナイフが突き立った左腕を無理やり曲げ、ナイフをへし折った!


    そのままスローモーションで下りてくる春川を殴り飛ばした!




    日向「クソッ!! 迂闊だ……!」



    ナイフの刃を引き抜いた左腕からは火花が飛び散る。



    春川はむくりと起き上がる。



    春川「やっぱり…………」



    春川「人間やめてたんだ…… あんた…」
  75. 75 : : 2017/03/24(金) 16:47:08


    春川「最原!! 気を付けて!! コイツらもう人間じゃない!!」


    春川「コイツらは……!!」

    日向「クソッ!! させるか!」



    足場の上では依然、激しい闘いが続いている。


    最原「人間じゃない……?」


    最原「いや、そうなれば…… お前が歳を取らない理由は………」


    苗木「あーあ。バレちゃったか。」


    苗木「ボク達はもう純粋に人間とは言えないかな。」


    最原「だけど…… こんな事が……!」


    最原「動機は……!」


    苗木「それはキミがボクに勝ったら教えてあげるよ。」


    最原「クソッ!!」



    夢野「最原よ。」


    夢野が小声で話しかける。


    最原「大丈夫……… 僕達はこんな所で……!」

    夢野「違うわい! 話を聞いてくれ」


    夢野「……そのピストルで撃ってほしいモノがあるんじゃ……」


    最原「どうするの…?」



    夢野「見せてやるんじゃ……」


    夢野「ウチと最原で……魔法をな…」

  76. 76 : : 2017/03/24(金) 17:14:19



    夢野「おーい!!」


    夢野はトランプの束を上へ放った。


    苗木「………何してるの?」


    一瞬の気を引いたその隙に最原は拳銃を高々と構える!



    銃声は5発! 闘技場を照らす照明のコードを撃ち抜いた!!




    苗木「へぇ… スゴいや!」

    苗木(ムダな事……非常灯が灯れば二人とも照らし出される………)



    苗木(だけど、何かされても面倒だし始末しちゃおうか。)




    苗木はスコープを暗視モードに切り替える。



    非常灯が照らし出されるまではおよそ30秒。

  77. 77 : : 2017/03/24(金) 17:36:47


    苗木「えっ!? 居ない……!」



    地面に散らばるトランプの他、闘技場には何も残されていない。


    苗木「くそっ!!」


    しかし、視界の隅に変色した布を見つけた。


    苗木「なるほど……」


    非常灯が灯るまで20秒。




    苗木(あの状況で闘技場の仕掛けに気づくとはね…)


    苗木(トランプと照明への銃撃…… そして闘技場の仕掛けをとっさに利用する判断力……)


    苗木(やはり超高校級の才能の持ち主………!)

    苗木(いい線だよ……!!)


    苗木(だけど、肝心の最原クンを隠すトリックはお粗末だったね……)

    苗木(暗闇で誤魔化せると思ったんだろうけど……)

    非常灯が灯るまで10秒。


    苗木(さて、頭はこの辺かな……??)


    苗木「惜しかったね!! 最原クンに夢野さん!!」



    弾丸は布を貫いた!


    苗木「80点ってところかな!!」
  78. 78 : : 2017/03/24(金) 17:52:29


    非常灯が灯るまで5秒!

    最原「…………ッ!!」

    最原(あそこか……!!)



    最原は拳銃を構えたまま飛び出した!


    苗木「なッ!!」


    視界の中央には確かに自分が撃ち抜いた筈の人影があった!



    最原「これで終わりだ!!」


    変色した夢野のマントはフェイク!

    あえて目につく場所にマントを置き、最原自身は高台から目に付きにくい高台の足元に逃れていただけだったのだ!!




    十字線の中央に鉛弾を見た。




    苗木「ぐぁああああああああああッ!!!」


    最原「やった!!」


    最原は追撃の手を緩めない!




    そして、視界は途端に明るくなった。

    苗木「ぐぅうう…………ッ!!」

    銃創だらけの苗木が片膝をついた。


    夢野「やった! 成功じゃ! 見事じゃ最原!!」


    闘技場の隠し扉、元は獣等を闘技場に上げたであろう扉から夢野が姿を現した。


    最原「まだだ!! 夢野さん!!」


    苗木「クソッ!! 畜生……! 」




    苗木は尚もライフルを構える。


    夢野「や…やっぱり 人間をやめたヤツには…効かんかったかの…………?」

    苗木「まだだ!! お前達を放っておいては…………
    また……」




    苗木「希望は…… 前に進むんだ…………!!」



    最原(弾は撃ち尽くしてしまった……!)


    最原(クソッ! もっと上手く当てられていれば……!)


    最原(どうする…………!!)



    最原に銃口を向け、引き金に指をかけたその時


    苗木「……ッ!?」

    視界がぐらりと急降下した。



    苗木「お前は…………!!」
  79. 79 : : 2017/03/24(金) 18:44:32





    日向「苗木!! どうしたんだよ!!」

    照明が落ちてからというもの苗木の様子がおかしい。


    苗木に気をとられた一瞬の隙を突いて顔面にストレートを入れる。

    日向「クッ!」


    首をかたむけ辛うじていなす。

    春川「負けるか……ッ!!」


    攻防は逆転し、日向が防戦する番となった。


    日向「ムダな事を……!」

    日向(なぜだ…… 『才能』を使っても見切れなくなってきた……!)

    春川「せりゃあッ!!」


    日向「ギ…ッ!」

    クリーンヒットは避けたものの顎を持っていかれそうな拳が入る。


    日向「ナメる……なァッ!!」


    身を捻り、春川の後頭部に一撃!


    春川「うぐ………!」

    フラつく背中に蹴りを入れ吹っ飛ばす!


    日向「ハァ… ハァ……」


    春川「ゼェ…… ゼェ……」


    日向「何故だ…………!」


    日向「何故立ち上がれる!!」



    春川(もう…… ヤバいかも… 気持ち悪いし…… 全身痛いし…………)


    春川(だけど…………!)

    春川「ねぇ………… あんたはどうして闘うわけ?」


    春川「どうしてアイツに従うの?」


    日向「ただ従っているわけじゃない…!」

    日向「この世をもう二度と絶望に汚させはしない……!!」


    春川「あんたにも……… 大切な人とかいないの?」


    日向「…………そうだ。 俺はこの世界を護らなきゃならない。」


    日向「七海や…… アイツらの為にも……!!」


    日向「ナメるな!! 予備学科にだって護りたいものぐらいはある!!」


    日向「自分の都合で才能を振るうヤツよりよっぽどな!!」


    春川「そう…… 」


    春川「あんたこそ……ナメないで………!!」



    春川「私にだって……… 帰りを待ってくれる人がいる…………」


    春川「帰らなきゃならない場所がある!!!」




    日向「それがどうしたって言うんだ!!」










    春川「私が勝つ!!!!」





    日向「ほざけ!!!!」
  80. 80 : : 2017/03/24(金) 19:12:31

    春川の顔目掛けて右ストレートを放つ。


    春川はその右ストレートに対し……


    巻き付くように左拳を突き出す!!



    『ガゴッ!!』



    日向(クロスカウンター……!!)



    『Caution!』

    『Error1200000400……』

    日向(なんてパンチだ……!! どっかの回路が死んだ……!!)


    耳の奥でけたたましく警告音が鳴り響く。

    日向「が……っ!」


    ボディの内板が歪む音がする。


    日向「ァアあああああッ!!」

    動かない左腕で無理やり春川に殴りかかる。


    既に上体を整えた春川は……


    そのまま鳩尾に蹴りを突き刺した!!




    『Error 2100032000……』
    『Critical Error!』
    『Sirius Da*$&!!』

    日向「ぐぉァア……ッ!!」



    後方へ日向は吹っ飛ばされた。
  81. 81 : : 2017/03/24(金) 19:39:20
    日向「畜生……ッ!! クソッ!!!」


    やかましいエラー音を切ると日向はようやく立ち上がる。


    日向(なぜだ……! 何でだよ!!)


    日向(俺は護りたいものも護れずに死ぬのかよ……!?)



    日向(やっぱり俺は『予備学科』だってのかよ……ッ!!)


    それこそ死ぬほどのダメージを与えた筈のその女は目の前で整然と立っている。


    熱き闘志と如何なる隙も見逃さない冷静な判断力とが混在した静かな瞳をして立っている。



    日向(負けるか……ッ!!)



    その空間だけは二人の戦士が在るだけであり



    静寂に包まれていた。













    先に動いたのは春川であった。



    対して日向は動かず、静かに正対する。



    春川が何かを蹴り飛ばした!


    日向(ナイフの刃先か……!!)


    先程引き抜いたナイフの刃先を春川は蹴り上げた!


    ナイフの刃先はそのまま日向の顔面を目掛けて直進する!


    日向(バカが!! 避けるとでも思ったのか!!)


    高い金属音が鳴り響く

    ナイフの刃先を日向はそのまま頭で弾いた!


    日向(そんな隙はつくらねぇよ!!!)



    そのまま右拳を春川の顔面に叩き込む!



    その時! 春川の頭部が消えた!

    否! 姿勢を下げそのまま膝を折り畳んでいた!




    日向(なに……ッ!?)



    お留守になった足元を春川の脚が払った!!



    日向「うわッ!!」


    前のめりにバランスを崩した無防備な上体に……


    再び蹴りが刺さる!!


    日向「がァァアアアアアアアアアッ!!!」



    日向(しまっ……!)


    下に目をやると遠くに地面があった。




    必死で手すりにしがみつく。




    金属が軋む嫌な音がする。


    日向「クソッ……!!」




    最初に自分が壊した手すりだ。


    外れかけた手すりは重力に負けて徐々に下がっていく。


    春川「…………これでおしまい。」



    日向「クソッタレェエええええええ!!!」


    春川は思いきり手すりを蹴り飛ばした。





    日向「ァァアアああああああああああッ!!」






    手すりを掴んだまま日向は落ちていった。












    春川「いっった……!」

  82. 82 : : 2017/03/24(金) 20:35:00



    苗木(お前は……ッ!!)


    苗木「赤松さ…………!!!」





    高台から苗木は地へと落ちた。


    赤松「ハァー…… ハァー…!」


    最原「赤松さん!?」

    夢野「んあ!? なぜ赤松が……」


    赤松「………………知らない。」


    赤松「だけど…… このまま放っておくわけにもいかないと思ったから……!」



    赤松「まだ…… 真相だって聞いてないし……」



    苗木「グ…………ッ!! クソッ! こんな所で…………
    クソッッ!!」


    本来、この高さから落ちてもさしたるダメージはない。

    しかし、受け身もとれず銃弾を喰らった後となれば話は別。



    日向「ああああああああああッ!!!」


    苗木「ひ……日向クン……!?」







    『グァシャッ!!』






    明らかに人と人とがぶつかる音ではない。





    苗木「ぐぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!」



    手すりを外された日向はそのまま苗木の上に墜落した。



    最原「春川さん!!」


    最原が呼び掛けると……



    身を乗り出して親指を上げてみせる春川の姿があった。








    最原「春川さん…… よかった…………」

    夢野「ハルマキ~! 無事かー?」

    春川「今からそっちへ行くから!」


    靴と金属が鳴る音が徐々に近づく。






    最原「さぁ…… これで僕達の勝ちだ……!」




    最原「聞かせてもらうぞ!! 真相を……!」

  83. 83 : : 2017/03/24(金) 20:56:51





    日向「ぁ…………ガッ…… くそぉ…………!」


    春川「…………どうりで人間離れしてるはずだよ。」


    金属の骨組み、内板、配線が折れた箇所から露出する。


    最原「どうして…… こんなになってまで………」


    赤松「…………………………。」


    日向「クソッ! まだだ……! 俺は……
    俺は…………!!」




    配線やら骨組みをずるずると引き摺りながら日向は這いずる。



    苗木「………………」

    苗木は黙って日向を制止した。



    日向「おい……!」


    苗木「分かった…… 話すよ………」



  84. 84 : : 2017/03/24(金) 21:08:43



    息も絶え絶えに苗木は語りだした。


    苗木「…………あれは世界が復興の軌道に乗って
    しばらくの事だよ…………」

    苗木「ボク達未来機関は77期生の協力で世界中の復興に忙しかった………」


    苗木「ようやく日本政府が再出発した頃……
    希望ヶ峰学園の再出発が決まった……」


    日向「俺達は喜んださ…… 俺は予備学科だったけど… みんなが喜んでくれたしな……」



    苗木「ボクや77期生のみんなは早速、手続きやら作業に奔走したよ……」

    日向「あれだけ世界が滅茶苦茶に荒らされても世界の『希望』となる『才能』はこれだけ眠っているんだなって…… 俺達は喜んだよ…」







    日向「だけど『新生 希望ヶ峰学園』はその年で廃校になった……!!」




  85. 85 : : 2017/03/24(金) 21:29:29


    苗木「その全国から集めてきた才能の殆どは……」


    日向「俺達の動きを予期していたのか…
    若しくはただ、そういう人材を育成していたのか……」



    苗木「ほぼ全員まっクロだったよ…………」


    日向「世界から集めた人材の多くは
    『絶望の残党』に育てられた才能ある人間だったんだ…………!!」


    苗木「僕達に笑顔を向ける生徒が最初から絶望の残党に育てられた工作員だったなんて……」



    苗木「それこそ絶望したよ……!」



    苗木「コロシアイゲームを生き延びた仲間も……」


    日向「やっと洗脳から目覚めたみんなも……」





    苗木「みんな絶望の残党と絶望の工作員との戦いで死んでいったよ……」



    日向「この…言うなら…… 『旧・新生希望ヶ峰学園』はみんなの墓標でもあり……」



    苗木「二度と世界を破滅させないという誓いの証でもあるんだよ……」

  86. 86 : : 2017/03/24(金) 21:41:36


    赤松「さっきから話が見えないんだけど…!
    それが妹と何か関係あるの!」


    春川「……とどめ刺そうか。」


    最原「二人とも落ちついて……!」


    苗木「赤松さんの妹に関してはすぐに分かるよ……!」



    苗木「生き残ったボクと日向クンは考えあぐねたよ……」

    日向「どうすれば『人類史上最大最悪の絶望的事件』の再来を防ぐにはどうしたらいいんだってね……」



    苗木「たどり着いた結論は簡単だったよ…………」



    苗木「この世に『才能』なんて物が在るからいけない……」


    日向「突出し過ぎた才能を持つヤツには消えてもらおうってね……」
  87. 87 : : 2017/03/24(金) 21:59:03


    赤松「ちょっと待ってよ……! じゃあ妹が『超高校級狩り』に捕まったのって……!!」


    苗木「そうだよ…… ボク達がけしかけたんだよ……!」


    日向「世界で突出した才能を持った人間を消すためにな……」

    苗木「まさか実行グループが間違えて双子の妹を連れて来るとは思わなかったけどね」


    日向「あれ以来、実行も俺らが担当することになったんだよな。」




    赤松「ふざけないでよ!! 『ピアニスト』と
    世界を滅亡させる事になんの関係があるの!!」



    苗木「一度世界を絶望に叩き落とした『江ノ島盾子』表では『超高校級のギャル』で雑誌やマスコミの引っ張りだこだったよ……」


    日向「絶望的事件のあと世界中を洗脳しようとした『超高校級のアニメーター』なんてのもいたぞ」


    苗木「ピアニストだっていつどんな風に悪用されるか……」


    赤松「黙れ! 私を悪く言っても音楽の悪口だけは許さないから!!」
  88. 88 : : 2017/03/24(金) 22:44:21

    苗木「そうかな? ボクはそんなにおかしな事を言ったとは思わないけど」


    日向「例えそれがどんな才能であろうと……」


    日向「強い(ひかり)にはより暗い(かげ)が差す。」


    苗木「その才能が強ければ強いほど… 才能が間違った方向に使われただけで脅威は計り知れないし……」


    苗木「例え正しい方向に使われたとしても結局そこには妬みや恨みがついて回るんだ!」

    日向「まぁ、これに関しては俺もいい例だけどな……」
  89. 89 : : 2017/03/24(金) 23:00:17

    最原「そうなると… 僕らが拐われたのも……
    お前達の仕業だったわけか……」

    最原「それなら…… 白銀さんはどうなるんだ!」


    苗木「白銀さんはボク達未来機関の企画部だったんだよ」


    日向「効率よく、世界から『才能』を消していくにはどうしたらいいのかってな。」

    苗木「彼女のお陰でスポンサーがついたようなものだしね。」



    日向「正直、俺達でもう一度コロシアイをするのは嫌だったさ……」

    日向「けどただかき集めて殺すよりは合理的だろ?」


    苗木「ボク達が直接手を下すわけじゃない……
    世界中の裏の人間、Vip達から見物料を巻き上げられるからね」


    赤松「最低………ッ!! どこまで腐ってるの!?」

    夢野「もはや同情の余地はないの…………」


    苗木「同情なんて求めてないよ……」

    苗木「元々、汚い仕事に手を染めずに達成出来るほど甘い目標じゃないしね。」



    最原「…………あくまで自分が間違っていたとは
    考えないんだな……」
  90. 90 : : 2017/03/24(金) 23:08:36

    苗木「まだ、結局そのVip達も最原クンのお陰でシラけて『ダンガンロンパ』から離れていったわけだけど……」

    日向「それでも俺達は諦めるわけにはいかなかった。」


    春川「…………どうして自分を改造してまで……」




    日向「俺達が語り継いで後生に継ぐだけじゃ不充分なんだよ…………!!」


    日向「あの戦いを知り…… アイツらと約束した俺達でなければ…………」



    日向「俺達にこそこの世界を変える義務があった!!」


    日向「俺達が世界を監視し、管理する義務があった。」



    日向「世界が完全に変わって…………それを維持するためにはな……」






    春川「だから人間をやめてまで『ダンガンロンパ』を続けた…………」


    日向「正直、飯田橋教授のサイボーグ化技術には驚かされたよ。 人間の姿を保ったまま人間をやめれるんだからな。」


    日向「寿命って概念も捨ててな……」


    春川「…………そう。」
  91. 91 : : 2017/03/24(金) 23:20:07

    春川「ついでに聞いておくけど…… あの変質者もそっちの人間だったわけ?」


    苗木「まぁ…そう言えるかな。ボク達が金で雇って夢野さんを拐わせたんだからね。」


    日向「証拠隠滅を手伝うっていう条件付きでな……」

    苗木「経歴のわりに優秀なコマだったんだけどなぁ」



    苗木「あ、ちなみに最原クンを誘き出す為に赤松さんを唆したのもボクだし……」


    苗木「どちらにせよ赤松さんはそのうち始末するつもりだったけどね。」



    日向「あの場で敢えて発信機を外さずにお前をこっちまで誘き寄せたのも苗木のアイディアだったな」


    苗木「春川さんに至ってはスポンサーの力を借りて宗教組織ひとつ潰して計画を練ったのに……」






    苗木「誘き寄せた結果はボク達が返り討ち。」


    日向「今となっちゃこんな体たらくか……」




    春川「そう……」

    春川「やっぱりあんたらって最低だね」

    日向「暗殺者が偉そうに」



    日向「そういう才能こそ絶望を生み出す要因なんじゃないのか?」


    春川「それは違うよ」


    春川「才能や力に陽の当たる所と陰の部分……
    諸刃の剣であることなんて当たり前だよ」




    春川「結局は力の持ち主がどんな風に使うかに委ねられるんだよ……」


    春川「この才能があったからこそ…… あの子も護れたし……」



    春川「あんたを倒せた。」








    日向「やっぱり俺達は相容れないみてーだな」



    春川「お互い様だね。」
  92. 92 : : 2017/03/24(金) 23:42:18


    苗木「さぁ…… これであらかた話し尽くしたんじゃないかな?」

    日向「俺達は…… みんなとの約束を果たす筈だったのにな…………」



    『みんなで護り抜いた未来を二度と壊させない。』





    最原「それが真相か…………」



    最原「どうして分からないんだ……」



    苗木「何が?」


    最原「お前達だって…… 自分の才能に助けられたり…… 誰かを助けた事だってあるんじゃないか!?」


    最原「違うなら戦って死んだ仲間はみんな世界を破壊するだけの存在だったのか!?」


    苗木「違う!! 全員、最期まで絶望と戦って死んだ!! 世界の希望だった!!」


    苗木「もうボク達がやるしかないんだよ!!」

    苗木「才能の恐ろしさと陰を知っているボク達が!!」

    苗木「ボク達はこの世界に残る最後の『才能』になる!! そうすれば世界を巻き込む程の絶望だって産まれずに済むんだ!!」


    最原「それが仲間達が望んだ世界か!!」


    日向「もう一度世界がブッ壊れるならその方がマシだ!!」


    苗木「世界を絶望に落とさないためには……」


    苗木「強い才能も強い絶望もない世界に変えるしかない!!」



    苗木「『絶望』が世界から消えない以上、それしかないんだよ!!!」







    最原「それは違うぞ!!!」

  93. 93 : : 2017/03/25(土) 00:06:07

    最原「確かに…… 絶望なんて世界から無くなる事はない……」


    最原「それは人間の感情でもあるからだ!」



    最原「だけど…… だからこそ…………」

    最原「絶望に立ち向かう事…… 陰に飲み込まれない事……」


    最原「そして、共に苦難を乗り越える事……」



    最原「それがあるからこそ才能や…… 希望だって輝くんじゃないか!!」


    日向「世界に絶望が必要だって言うのか!!」


    最原「絶望も陰も人の一部であるからこそ……それを乗り越える『才能』だってこの世界には必要な筈だ!!」


    苗木「戯れ言だ!! 才能という陽があるからこそ絶望という陰が産まれる!!」


    最原「違う!! 才能は陰を照らす光だ!!」


    最原「みんなそれぞれ、違った才能があるからこそ…… 支え合っていける筈なんだ」

    最原「確かに二面性を孕んでいるところもあるよ…………」



    最原「だけど………… 才能っていう陽が消えたら…… 『絶望』っていう陰は消えるの?」



    最原「使い方を間違えれば絶望を産むのも才能だけど……」



    最原「正しく使えば陰だって照らせると僕は思う。」


    最原「みんなが正しく才能を使えるように……
    目指すしか無いんだよ……!」



    日向「それを人間に求めるのか?」


    日向「そんなに都合良くいくか! 強い才能を消せば大きな絶望だって無くなる筈だ」


    最原「絶望は無くならないよ…… もはや人の一部でもあるんだから。」



    最原「それに…… それなら尚更… 大きな絶望に立ち向かえるのも強い才能なんじゃないのか?」


    最原「お前はそうして…… 仲間を導いて来たんじゃなかったのか……?」
  94. 94 : : 2017/03/25(土) 00:17:03

    最原「お前の強い才能があったから………江ノ島盾子っていう絶望も振り払えたんじゃないか……?」



    苗木「そっか…………」


    苗木「やっぱりボク達分かり合えないね。」

















    苗木「ところでさ……最原クン」



    苗木「ずいぶん話し込んじゃったけどさ…… こんな事してる場合なの?」


    最原「何……?」
  95. 95 : : 2017/03/25(土) 00:37:53



    『機密保護のため、施設爆破シークエンスに移行しました。』


    最原「は…………!?」


    『職員はただちに避難を開始してください。繰り返し……』




    赤松「こいつ…………! 施設の自爆スイッチを……!」



    日向「…………これまでか。」


    苗木「…………そうだね。」



    『施設の爆破まで 残り5分 職員は速やかに……』



    夢野「どうするんじゃ…!」


    春川「それなら…… 私が案内するよ…… 道覚えてるから…………」


    最原「春川さん! 無茶だ! そんな身体で………」



    赤松「なら、私について来て!」

    赤松「この施設の道には私が一番詳しいから……!」


    最原「分かった! 頼んだよ!赤松さん!」



    赤松「……………うん…」


    最原「春川さん。僕が肩を貸すから……」


    最原「必ず脱出しよう……!」


    春川「うん…! 当然でしょ……!」


    夢野「最原よ! 辛かったらウチに代わってもいいんじゃぞ!」



    赤松「さぁ。こっちに…………」

  96. 96 : : 2017/03/25(土) 00:55:53


    苗木「最原クン!!」


    最原「……………っ!」


    苗木「君は言ったよね!? 絶望も陰も人間の一部だって!!」


    苗木「それならキミはどうするの!?」




    赤松「ちょっと…! 何してるの!」

    最原「…………………」



    最原「僕は…… 僕の持てる力で…… この世界を少しでもいい方向に変えて見せる!!」


    最原「才能の陰と絶望は無くならないからこそ!!
    それに対抗するのも才能の()と希望の力だって証明して見せる!!」



    苗木「そう!!」




    苗木「ボクは……… ボクはここから見てるからね!!」



    苗木「キミがどんな風に世界を変えていくのか…………」




    苗木「どんな風に絶望に立ち向かうのか…………!」








    苗木「ずっとずっと見てるからね!!!」











    その声は、ある種この世界を託すという意味にも聞こえた。



    赤松「早く行くよ!!!」


  97. 97 : : 2017/03/25(土) 01:10:37



    苗木「ここまでか………」


    日向「あぁ……」


    日向「俺……やっぱり悔しいよ………」

    日向「アイツらが紡いだ世界を最後まで護れないなんてさ…………」


    苗木「…………さぁ? そこはもう…… 彼らを信じるしかないね……」


    日向「いいのかよ? なんでわざわざ爆破を知らせたりしたんだ?」

    苗木「…………………ボクも賭けたくなったのかも知れないな…… 最原クンの『希望』に」


    日向「なるほど…… お前はそっちにベットするのか…………」




    日向「なぁ…… アイツら……… 怒るかな?」


    苗木「………………やっぱり… 怒られちゃうかな……」




    苗木「霧切さん………… ボクだって…… 寂しかったよ……………」


    日向「俺だって…………」


    日向「あの世で…… 七海に怒られちゃうかな。」




    苗木「いや…… きっと江ノ島さんあたりがヘラヘラしながら待ってるよ………」



    日向「………だろうな。」











    日向(…………七海? みんな?)




    苗木(みんな……… どうして謝るの?)



    苗木(あぁ……)


    苗木(ボク…… どこから間違っちゃったんだろう……?)



    日向(みんな……… 俺……やっぱ…… 間違ってたのかな?)

  98. 98 : : 2017/03/25(土) 01:18:20












    エピローグ「さいのうクエスト」





    山道


    全員、すでにガタガタになった身体を引きずって山道に出ると…



    まぶしい朝日が4人を出迎えた。


    最原「もう少し離れよう……! 爆破の威力がどの程度か…!!」




    山道を必死に駆けていると……







    凄まじい爆音が鳴り響いた。




    赤松「うわッ!!!」



    施設はみるみるうちに瓦礫と灰と化していく。


  99. 99 : : 2017/03/25(土) 01:39:29





    4人はしばらく、白んでいく空と燃え上がる施設を眺めていた。



    赤松「………ねぇ」


    赤松「これからどうする?」


    夢野「ウチはとりあえず家に帰って寝たいわい……」

    最原「僕はとりあえず春川さんを送ろうかな……」


    春川「……っ! いいよもう! 自分で歩けるから………」

    春川「最原の方こそ…… 銃弾の傷は大丈夫なの?」


    最原「うん。弾が掠めて血が出たときは焦ったけど…… 思ったより深い傷じゃないみたいだ……」


    赤松「もう! そういう事じゃなくて!」


    春川「アイツらが言ってた事気にしてんの?
    私らはまた自分の日常に戻るだけだよ!」

    夢野「ウチは今度こそ師匠に会いに行くんじゃ!」


    夢野「お主らならいつでもウチのショーを見に来てよいぞ!」


    赤松「………最原…くんは?」


    最原「僕か……」


    最原「僕も…… みんなと同じように僕の日常に戻るだけだよ…」

    最原「だけど…… 僕は探偵のはしくれとして……
    世の中に少しでも役に立つことが出来たらなって。」


    最原「才能を正しい事に使う事こそ… 希望につながると思うからさ……」

    夢野「やはり…… 気にしておるのか…?」


    最原「まぁ、そうなのかも知れないね。」


    最原「けど… 彼らだって世界をより良くしようと……人間をやめてまで世界を『絶望』から救う為に奮闘していた事は事実だし……」


    最原「ちょっと…… 見せてやりたいというか…」



    春川「はぁ~…… あんなヤツらの言うことなんて気にする必要ないのに……」


    春川「だけど…… 探偵業で世の中を良くしようとするのは……いい心がけじゃない?」


    最原「春川さんは……やっぱり保育士になるの?」


    春川「そうよ………… 悪い?」


    夢野「あやつらの片割れを倒すなんて警察や軍人もアリじゃのう」

    春川「……殺されたいの?」


    夢野「い… 今のはちょっとだけ冗談に聞こえんかったぞ…!」

    春川「冗談だってば……」


    最原「赤松さんは………?」

    赤松「その事…… なんだけどさ……」


    赤松「その………」


    赤松「ごめんなさい! 私… 何も知らずに……」


    最原「いや、もう気にしてないよ。」

    春川「元はと言えばアイツらに唆されてやってた事だったからね。」

    夢野「魔法使いの心は広いのじゃ」



    赤松「ありがとう……」



    赤松「………………」



    春川「もう……… 言いたい事があるならハッキリ言ったら?」


    赤松「え!? うん。その……」
  100. 100 : : 2017/03/25(土) 02:12:50



    赤松「あのね…… 私たち………………」




    赤松「その…… 友達に…… なれるかな……って…」







    春川「………そんな事だったの?」

    赤松「えぇ!? そんな事って……」


    最原「もちろん! 僕は大歓迎だよ」


    赤松「だって… 最原くんの事殴っちゃったし…… みんなの事だって…」


    夢野「ウチらを助けてくれたではないか。」


    最原「うん。 僕も全然平気だし…… むしろ僕の方からお願いしたいよ。」







    最原「よろしくね。 赤松さん。」



    赤松「うん………」


    赤松「ありがとう…… 私は赤松楓。 これからよろしくね。」


    最原「うん!」






















    堅い握手と共に、生まれたばかりの絆を確かめあった。




    最原「さて、そろそろ戻ろうか。」


    赤松「え~と… この辺携帯の電波入らないから警察とか呼べないんだよね……」


    春川「別にいいよ。私は行きと同じだし……」

    夢野「んあ!? ハルマキはこの山道を登って追ってきたのか!?」


    最原「春川さん。ありがとう…… 僕を…助けに来てくれて……」


    春川「…… 言うの遅すぎ… 殺されたいの?」


    最原「えっ……」


    春川「冗談だよ…」
























    険しい山道はまるで僕らの前途を表しているかのようだった。


    朝日が僕らの背中を見送っている。



    今は晴れていても曇る日、雨の日もあるだろう。

    山の天気は変わりやすい。





    だけど、僕らが持っている才能(ちから)、判断する力。




    この場で育んだ友情。






    それさえあれば、この山道でさえ難なく越えて行ける。








    僕はそう信じている。








    Fin
  101. 101 : : 2017/03/25(土) 02:20:52
    さすがに面白すぎました。本当にお疲れ様です。洗練されたであろうレスの一つ一つが、胸に刻まれています。2度目ですが本当にお疲れ様です。

    名乗るのが恥ずかしくて名無しで投稿する登録ユーザーでした。
  102. 102 : : 2017/03/26(日) 01:00:43
    長かったですね…!遅刻してしまったとはいえ、企画で長編を書くのは難しかったのではないでしょうか。とりあえず、無事完結ということで安心しました。
    あげぴよさんも絶賛していた導入から陰と陽の使い方までレベルが高かったと思います。
    お疲れ様でした!
  103. 103 : : 2017/03/26(日) 02:46:26
    楽しかったです!ありがとうございました!
  104. 104 : : 2017/03/27(月) 00:11:58

    ありがとうございます!


    自分は今回陰と陽の二面性に着目してみました。 陰(影)って陽(光)のあるところにしか出来ないじゃないですか。それで何が書けるんだろうって事で思い至った結果がこの作品でした。
    あとは「苗木と日向が黒幕」って絵面を書きたくて書き進めていた次第です!

    想像以上に長くなって遅刻したのが心残りです…!お待たせしてすいません!


    今回のコトダ祭も楽しかったです!ありがとうございました!

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シャガルT督

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