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会者定離

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  1. 1 : : 2017/02/20(月) 21:10:50
    更新遅いです。寛大な心を以て見ていただけるとありがたいです
  2. 2 : : 2017/02/20(月) 21:14:11
    ふいに、君のあの言葉が頭を過ぎる。
    あの時、僕に残した呪詛である。



    「この世界は、思っている以上におぞましいものだよ。」



    にっこり笑ったその顔は死んでいた。

    いつ思い出しても泣けてくる。...目の奥が痛い。



    _ _ _


    君はあの時に死に、僕はあれから生き続けた。君の死は、もう忘れられのかと思ってしまうほど皆が喋らず、口に出すことはタブーだった。

    それでも、僕はふと君を思い出しては、君に植えられた多くの呪いに苦しめられた。


  3. 3 : : 2017/02/20(月) 21:33:42
    僕はもう、十七。新しいクラスにも慣れ、皆が群れ始めた頃も基本的に景色を眺めていた。



    何人か試しに声を掛けてくるが、適当にあしらっておしまいにしていた。人付き合いはそこまで重要ではない。

    教室の後ろで、馬鹿みたいにデカイ声で喋っている輩みたいに薄い関係も、部活に燃えるようなチームも、僕には必要ではない。


  4. 4 : : 2017/03/01(水) 23:32:30
    十月に入り、クラスがいくつかのグループ化している様子をなんとなく感じながら、僕は孤立している。


    座っている席は後ろから数えて二列目、窓際なので気に入っている。後ろに誰もいなかったら最高なのに。

    学校に来てもやることも無く、携帯の電池なんかもすぐ消える。だから、いつも携帯をいじってる女子生徒、机に突っ伏している男子生徒。彼等の様子を見てこれまでも時間を潰してきた。


    移動教室から戻り、誰とも行動することのない僕は早くに教室に戻ってきた。人の様子を見ていようと思ったが、あまりに少ないので、外を見ることにした。


    「ねぇ、男くん」


     声を掛けられそちらに顔を向けると、そこには女性が立っていた。教室にはほとんどの生徒がいない、孤立している人間が三,四人だ。タイミングを見計らって来たのだろう。
     彼女は僕の目をまっすぐと見ていたが、僕は目を見続けることが出来ないので、視線がどうしても下がってしまうが、変な誤解を受けたくないので、下がらないように意識しなくてはいけない。
     

    「今日のお昼、一緒に食べない?」
     
     
    あまりに突飛な話だった。こういった案件は非常に面倒くさい。断ろうとした時に、彼女は続けて言った。


    「前から思ってたんだ。君はクロユリ」
     

    それは、僕にしか聴こえないように小声で囁いたのだ。彼女はにっこり笑って、離れて行った。
     
    クロユリ。僕はしばらく呆然とした後に、三階の誰もいないトイレに駆け込む。鏡に映った顔を見ると、僕は泣いていた。
  5. 5 : : 2017/03/01(水) 23:33:05
    昼休み。いつもなら誰も通らない特別棟の三階を上がって、施錠されている屋上の前の踊り場に座って一人で黙々と食事をしている頃だろう。

    しかし、今日は隣に人がいる。女という名前だ。
     

    「男くんって、いつもここでご飯食べてるの?」

    「悪いね、大勢の中で食べるのは苦手なんだ」

    「そうなんだ...何か君らしいね」

     
    そう言って、彼女は弁当箱を開けた。小ぶりの可愛らしいもので、中には様々な具材が入っていてとても美味しそうだ。

    僕もレジ袋からサンドイッチを取り出して食べ始める。口に広がるマヨネーズの風味が嫌いだが、一番食べやすいのがタマゴサンドなのだから文句は言えない。


    「男くんは、サンドイッチ好きなの?」

    「いや嫌いだね。食べることじたい好きじゃない」


    変わってるねって言って笑った。僕は水を口に含んでタマゴサンドと一緒に流し込んだ。
     



    「ねぇ、なんであんな事言ったの?」
     
     
    「...クロユリ?」


    「僕にとっては忌々しい言葉なんだ。何故か分からないけど、あの花は拒絶してしまう。」


    「__私は、今のクラスになってから君を見ていたの。行動とか、色々。」



    女は小さい声で言った。人を観察するのは僕も一緒だが、僕を選ぶとは悪趣味だな。



    「ねぇ、男くん。」



    女の大きな瞳の揺れ動きに、僕は何度も胸が締めつけられた。何故だか分からないが、君のあの言葉がより鮮明に思い浮かべる程に。



    『この世界は、思っている以上におぞましいものだよ。』






    「君は今日死ぬ」


  6. 6 : : 2017/03/01(水) 23:33:35

    彼女はまっすぐ僕を見て言った。何の冗談かと笑ったが、目尻に光るものが見えて真剣だと悟った。



    「まずいくつか訊きたい。何で僕が今日死ぬの?」


    「...」


    「だんまりね...まぁいいや。二つ目、何者?」


    「.....」



    彼女はずっと目線を逸らし、押し黙ったままだ。仕方なく僕はガシガシと頭を掻く。




    「ま、いいか。今日死ぬんだし。」


    「...慌てないの?」


    「慌てるも何も、僕は今まで惰性で生きていたんだよ。何を今更執着する必要が?」


    彼女は俯いて手元の弁当箱を袋に入れた。だけど、手元が震えていることだけは見逃さなかった。



    「それで、僕は何で死ぬか知ってるの?」



    ゆっくり頷いた。光の入ってこない踊り場は暗くヒンヤリした空気が心地いい。しかし、彼女の押し黙った感じが埃っぽい空気と相まって非常に息苦しい。



    「君は、人を愛したことってある...?」



    やっと口を開いたかと思えば、何か陰気なことを言った。ありますよ、あります。

    いつだったか死んだ《君》が大事だった。呪詛だけ残して、とっとと自殺した《君》が。僕は《君》のことを愛していたし、《君》もまた僕を愛していただろう。
     

     
    「あるけど?」


    「だったら!」



    大きな声が響く。彼女の出した大声は校舎全体にこだまする勢いである。大きな声出すなよと言って、頭をガシガシ掻く。

     
     
    「私は...」


    「....」
     


    「...私は、君を死なせたくない...」



    「それは何で?」



    「死んでもね...苦しいんだ」



    「は?」



    「『この世界は、思っている以上におぞましいものだよ。』。君の予想よりも更に」








    どうして、その言葉を?

    あの時の君の言葉じゃないか。



    「私は君の前で死んだ」

     
    「私は君を愛していたから」

     
    「私はあの時に私が死ぬ他にないと思った。」

     
    「だから、死んだ」
     

    「君を愛していたから、君が可愛かったから、大切だったから...死ななくちゃいけなかった」


    「私達は、あの時に食べた林檎の実の呪いを永遠に背負い続けるの。」


    「互いが、互いを殺さなきゃいけない。」 



    さっきから何を言っているんだ。

    君なのか?目の前で声を震わせながらわけの分からないことを喋ってる女は。
     



    「会者定離。出会っても必ず別れてしまう。」
     

    「それが、私達に課せられた呪い。」


    「男君...。ごめんね」




    開かないハズの屋上の扉が開いた。女は駆け出して、フェンスもない屋上から飛び降りるつもりなのだろう。たまらず僕も駆け出す。

    それに、ちゃんと訊けてないじゃないか。



    「女!君なのか?あの時の!」


    「...それは、後で分かるよ」



    女はもうギリギリまで行って飛び降りる寸前。
    やめろよそんな顔で見つめるなよ。
    あの時の、君が死ぬ前に言った時の、苦しそうな顔で。



    「もう、私は終わらせたいの。だから、君に死んで欲しい。私と一緒に死んで」



    泣きながら、言うんじゃないよ。

    震えた手を伸ばして来る。僕はもちろん掴み取る。確かに、顔貌は変わっても、君は君だ。



    「何が何なのか分からない...けど」



    掴んだ手を引っ張って僕の近くまで彼女を引き摺る。今思う気持ちはただ一つだ。



    「君には生きて欲しい」



    僕は屋上から飛び降りる。確実に死ぬ為に、頭から。


    そして僕は見る。手足に生えたクロユリの花弁を。そうだ、僕はクロユリを無意識に避けていたのは、「愛」故の「呪い」。
     

    鼻を突くような悪臭。落ちてる最中にもクロユリがいよいよ命を宿した。彼女が惜しくて伸ばした右手は五輪の花が咲いていた。




    今までに体験したことのない衝撃と激痛を感じ、僕は意識を手放す。

  7. 7 : : 2017/03/01(水) 23:34:14
    _ _ _

    目が覚めた時、僕はハエの集りそうなほどの悪臭に気がついた。動物の糞尿のようなにおい。
     
    あまりの臭さに飛び起きると、目の前に入ってきた光景は血のように赤い彼岸花の海だった。僕の左胸には小さなクロユリの花が場違いのように咲いていた。

    臭いの元は胸のこれか。



    「君と死にたかった。」



    声が聴こえた。分かる、君に違いない。
    僕はぐるぐると見回し君の姿を探す。
     


    「私の...夕顔は...いつも君を殺してしまう」



    だけど、声だけしか聴こえず姿が現れない。
     
    やめ、やめて、やめてよ...。君の声で、そんな言葉を言わないで。僕は君を愛しているんだ。愛しているのに。
     

    記憶のフラッシュバック。
     創造の記憶。呪いの記憶。悲しみの記憶。



    「そうだ...」



    断片的な記憶が全て繋がり思い出し始めた。
    パズルが組み上がっていくように。

    無垢だった僕達はあの日、君と一緒に禁断の果実を食べた。その時に善悪を知ると同時に、意識は乖離し、神は二つの意識を追放した。

    神になりきれなかった僕達は、互いを殺す呪いを掛けられて、聖書にも記載されない、誰にも知られることのない呪いを背負わされた。




    「僕達は...(アダム)(イブ)。」




    そして同じ果実を食べた僕等の記憶も繋がった。君が、僕を殺さないように何度も知らずに涙を流していたことを。そして、何十年も何世紀前からも、僕達はこうして殺し合っていたことを。


    この「罪」から逃れられない。
    足に絡まった夕顔のツタを掴みながら痛感した。


  8. 8 : : 2017/03/01(水) 23:35:36
    以上です、マスべ小説でした。
    ありがとうございました
  9. 9 : : 2017/03/03(金) 10:53:34
    あとがき

    花言葉を解説で残します。


    クロユリ→「恋」、「呪い」

    夕顔→「罪」、「儚い恋」

    彼岸花→「再会」、「転生」、「情熱」


    そして、男・女SSで創世記絡める人いないかなって思って書きました。

    拙い文で分かりづらかったと思いますが、ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。

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