もしユージオがキリトの幼馴染なら
- ソードアート・オンライン
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- 1 : 2017/01/22(日) 19:51:03 :
- 書き溜め以外は、大体1週間に1話程度投下します。
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- 2 : 2017/01/22(日) 19:52:24 :
- キャラ紹介
桐ケ谷 和人
2008年10月7日生まれ
仮想世界でのキリト
「二刀流」のユニークスキルを取得する前から、二刀を携えて戦っている。ユージオとはベータテストでコンビを組んでいた。頭はかなり切れるが、ユージオには劣る。ただし、人間関係についてはとても鈍感である。また、仮想世界では他のプレイヤーの追従を許さない強さを持つ。服装は、基本黒で、「黒の剣士」「ビーター」「規格外」「黒ずくめ」「ブラッキー」「最強バカ」などの二つ名を持つ。また、ユージオとコンビで「蒼黒の剣士」の異名を持つ。
現実世界での和人
湯木 次和助とアリスとは幼馴染。生まれて間もなく交通事故に会い、桐ケ谷家に引き取られた。また、交通事故で額と腹のあたりにかなり醜い傷がついている。この傷が陰口のネタにされ、本人はかなり嫌っている。さらに、顔は、女の子に見え、コンプレックスを持っている。コンピューターにかなり強く、わずか13歳で茅場晶彦に次ぐレベルの実力を持っている。9歳のころまでは祖父に剣道を教わっていた。10歳のとき、独学で二刀流の修行を始め、さらにユージオの親戚に軍隊式格闘術と銃撃を習っていて、ユージオより強い。さらに、特筆すべき点として、本気で集中すると、周りの世界が100倍から10倍スローになって、銃弾すら切ることが可能である(本人はアクセルワールドと読んでいる)。※アクセルワールドは、本の題名ではなく、ただ単にそう呼ぶだけです
湯木 次和助(ゆき じおすけ)
2008年12月10日生まれ
仮想世界でのユージオ
盾持ち片手剣でキリトとコンビを組んでいる。頭が驚異的に切れ、その実力は警察の解決できなかった事件のニュースを見ただけで、犯人の割り出しに成功するほどである。ただし、戦闘能力ではキリトに多少劣るが、十分強い。キリトと同じく人間関係に驚異的に鈍感。服装は、基本青で、「蒼の剣士」「ビーター」「規格外」の二つ名を持つ。また、キリトとコンビで「蒼黒の剣士」の異名を持つ。
現実世界での次和助
桐ケ谷 和人とアリスとは幼馴染。古風な家に生まれ、名前にコンプレックスを持っている。顔は、普通。あだ名はユージオで友達にもそう呼ばせている。親戚のおじさんに軍隊式格闘術と銃撃を習っていて、自衛官に匹敵する実力を持つ。アクセルワールドは使えないが、銃の口の先から銃弾の進路をある程度予測することができる。
結城 明日奈
2007年9月30日生まれ
仮想世界でのアスナ
レイピアを携えて戦っている。アインクラッド二大美女の1人。剣の速さと正確さはキリトとユージオに匹敵する。「閃光」「攻略の鬼」「狂戦姫」「バーサクヒーラー」の二つ名を持つ。血盟騎士団副団長で攻略のリーダーを任されることが多々ある。料理スキルをコンプリートして、とてもおいしいご飯を作る。
現実世界での明日奈
大企業レクトの社長、結城彰三の娘で、エリート街道を歩いていたが、兄の買ったナーブギアをかぶり、SAOにとらわれた。母親の京子のいうとおりに生きていて、日常生活の楽しみがほとんどない。実家にレイピアがおいてあり、SAOの主武器をレイピアにしたのもその影響がある。
アリス・ツーベルク
2009年4月11日生まれ
仮想世界でのアリス
盾なし片手剣で戦っている。アインクラッド二大美女の1人。普段はおしとやかだが、彼女の怒りに触れた者は容赦なく徹底的に痛めつける。戦場の指揮と相手の攻撃を受け流すことに長け、「無敗の女王」「攻略の鬼」の二つ名を持つ。アスナと同じく血盟騎士団副団長で攻略の指揮を任されることが多々ある。
現実世界でのアリス
日本国籍を持つアメリカ人で次和助と和人とは幼馴染。和人と次和助がSAOをすることを知り、キリトとユージオに黙ってログインする。ユージオのことが好きで、和人に相談したこともある。
茅場晶彦
1996年2月29日生まれ
仮想世界でのヒースクリフ
盾持ち片手剣で、その防御力は圧倒的。敵の攻撃の先読みに長け、HPを黄色くさせたことがなく、「生ける伝説」の異名を持つ。仮想世界で調味料の醬油や米、味噌がないことについて不満を持っている。血盟騎士団団長だが、攻略の指揮は副団長に任せている。
現実世界での茅場晶彦
コンピューターにかけては、世界一の実力を持つ。仮想世界の生みの親で天才。仮想世界の行く末に深く興味を抱いている。また、システムを超える人の力を見たいと願っている。
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- 3 : 2017/01/22(日) 19:53:54 :
- 「戻ってきた。この世界に」
「おう、キリト遅いよ」
声をかけてきたのは、ユージオ。俺の幼馴染であり、最高の男友達であり、自慢ではないがβテストで最強と名高い黒白の剣士(こくびゃくのけんし)と呼ばれたコンビの片割れである。
「へいへい。じゃあ、早速今日中にレベル7目指そうぜ」
「キリトはせっかちだね。いいよ。まずは、アニールブレード取りに行こうよ」
「モチのロン。競争な」
そういうが早いか2人で子供のようにかけっこをはじめた。実際二人は天才と呼ばれてはいるが、子供なのだから仕方ないだろう。武器屋を通り過ぎたあたりで、男の声が聞こえた。
「おーい。そこの兄ちゃんたち待ってくれ」
「俺たちか?」
「どうかしたの?」
「その迷いのない動きっぷり、あんたたちβテスターだろ」
「そうだけど?」
「俺、今日VRMMO始めたばかりで、勝手がよくわからないんだ。ちょいっとレクチャーしてくれよ」
「どうする?」
「キリトがいいなら」
「よし、いいよ」
「ありがと。俺、クラインっていうんだ。よろしく」
「おう。俺はキリト。よろしく」
「僕はユージオ。よろしくクライン」
「じゃあ、早速雑魚MOB狩りに行くか」
俺たち3人は始まりの町・西フィールドでクラインにソードスキルのレクチャーをしていた。
「うーん。うまくコツがつかめないぞ」
「なんというのかな。モーションを構えると、力がたまっていくのを感じることができるから、そこで、繰り出すんだ」
「力がたまるってよぅ。こうか?」
クラインの構えが様になってきたので、イノシシに似たフレンジーボアをユージオと協力して、クラインのほうに誘導する。
「やってみろ」
「うぉりゃゃ~」
と声を上げつつ、ソードスキルを放つ。
「初撃破おめでとう」
「おめでとう。ちなみに技名はリーパーだよ」
「ありがと」
復習のつもりなのか、同じ動作を何度も繰り返すクライン。その間に近くにPOPしたMOBを狩る俺たち。しばらくすると、赤い夕陽が見え、かなり美しい景色がみられる。疲れたのか(そんなことはSAOではないが)クランンが寝っ転がり、SAOの感想を言う。
「しかしよぉ。VRMMOで魔法なしって大胆な設定だよな」
「たしかに。代わりにソードスキルはあるけどね」
「でも、ソードスキルはスピードを速くするだけで、攻撃力UPするわけではないから、極論ソードスキルと同じ速さで手を振れば、ソードスキルと同じ火力が出るぞ」
「そんなの。無理に決まってらぁ」
ごもっともと思いつつ、ユージオと視線を交わして苦笑する。でも、俺たちは実はそれを目指してる。ソードスキルが終わると、技後硬直で動けなくなる時間がある。その時間は現実世界で武術を学んでいる俺達には邪魔なものでしかない。しかし、通常攻撃だけだと、火力が圧倒的にない。だから、ステータスを上げて、ソードスキルとほぼ同じスピードで剣を振ればいいだけだと気づき、製品版では試そうと思っている。
「ところでクライン。まだMOB狩るか?」
「あったりめぇよ。と言いたいとこなんだが、俺5時半にピザ予約しているんよ。だからもう落ちるわ」
「おう、了解した」
「ついでに、フレンド登録しておかないかい?このゲームの中では、俺たちがだれよりも詳しいから」
「ありがとよ」
クラインがじゃあなと声をかけてログアウトしようとしたので、俺たちもじゃあなと返す。クラインがログアウトするまで見送ろうとしたが、クラインがある異変に気付く。
「ログアウトボタンが・・・ねぇ」
「そんなことないって?なあユージオ?」
「キリトの言うとおりだ。ちゃんと見てたら、あるはず」
俺たちもログアウトボタンを探すと、なかった。
「あれ、ない」
「ほんとだ」
「やっぱりないだろ?」
「何かのバグかな?」
「今頃運営は半泣きだろうな」
「いや、おかしいと思わないか?ユージオ」
「うん。おかしい」
「大体、ログアウトボタンがなかったら、サーバーを強制停止して、全員を強制ログアウトさせればいいだけだ。運営がそんなことも思いつかないとは思わないし・・・」
「んな馬鹿な。ぜってー何かあるはずだ。コマンド!ログアウト!脱出!」
「いや、マニュアルにも強制ログアウトの方法は書いていなかった」
嫌な予感を感じていると、なぜか始まりの町に強制テレポートさせられた。
「どういうことだ?何か聞いている・・・わけないよな」
「うん。僕は何も聞いていない。ほかのプレイヤーも聞いていないとおもう」
そんな会話をしていると、空の一点が赤く光った。すぐにその赤い光は空全体に広がり、そこから漏れ出てきた液体のようなものが赤いフード姿のGMを作った。あたりがざわめくところに、フードの奥のなにもないところから、声が聞こえた。
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- 4 : 2017/01/22(日) 19:54:57 :
- 「私は、茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。賢明なプレイヤーの諸君は既にログアウトボタンがないことに気づいているだろう。これはバグではない。繰り返す、ログアウトボタンが消えているのは、バグではなく、ソードアートオンライン本来の仕様である。これから、プレイヤーの諸君にはゲームクリアを目指してもらう。私は100層のラスボスとして、待っている。また、正式版の重要な変更点がある。この世界でHPがゼロになったプレイヤーはこの世界から、強制ログアウトされさらに、ナーブギアが諸君の脳を焼き切り、現実世界からも永久に退場する。また、、外部からの強制ログアウトが試みられた場合も、ナーブギアが脳を焼き切り、そのプレイヤーは現実世界と、この世界から永久に退場する。科学的知識のない方に説明するが、ナーブギアには内部充電器があり、さらに信号を入出力することのできる信号素子がある。それを使って高密度の信号を発すると電子レンジと同じ原理で脳が超高熱状態となる。また、外部からログアウトを試みられたプレーヤーがすでに213名おり、既に彼らは現実世界とこの世界から永久退場している。この事件はメディアなどで大きく放送されているので、諸君らが外部からのログアウトを試みられて死ぬ可能性は極めて低くなった。よって諸君らは安心してこのデスゲーム攻略に励んでほしい。今、諸君らは、なぜ?と思っているだろう。なぜ茅場晶彦はこのようなことをしているのか。その目的はすでに達成されている。この世界を作り観賞することである。最後に私からプレゼントとして、現実世界の顔と体格に極めて近い、アバターを進呈しよう。以上でソードアートオンライン正式チュートリアルを終了する。このゲームを楽しんでくれ」
「キリト。あいつがラスボスなら、今なら・・・」
「おう。俺が行く。土台よろしく」
「わかった」
そう言い、2人は猛烈なスピードで茅場晶彦のアバターの下付近まで行き、ユージオ俺を肩に乗せたまま空中にソニックリープを放ち、さらにその上で俺がスラントを放つ。しかし、彼のアバターに届いたもののダメージを負わせることはできず、そのまま落下した。ふとユージオと周りを見ると、相当注目されていた。
「なぁ、ユージオどうする?」
「どうしようか、キリト」
めちゃくちゃ気まずい。なにしろ、いきなりGMのアバターにソードスキルで攻撃を仕掛けたのだ。驚かないわけがない。おまけに、ものすごく微妙な空気になっている。
「その~あなた方は、なぜ茅場晶彦のアバターに切りかかったのでしょうか?」
「えーと、あいつがボスなら、今倒せばゲームはクリアされるんじゃないかなと思ったから」
「ついでに言うと、ボスがあのアバターで出てくるなら、さっきので、ダメージが入るし、別のアバターなら、ダメージは入らないんじゃないかと推測した」
「そうなんですか」
「じゃあ、僕たちはこれで」
「早くクラインに連絡とらないと」
「わかってるって、急くなよキリト。フレンドメールは頼んだよ」
「任せろ。ユージオ」
「俺たちはこの後すぐに次の町に向かう。このあたりは、あっという間に狩りつくされてしまうから、今のうちに次の町に行ったほうがお得だ。クラインも一緒に来ないか?」
「すまねぇ。俺は友達の奴と徹夜で並んでこのソフトを買ったんんだ。今もあいつら、始まりの町の広場にいるはずなんだ。奴らを置いていくことはできねぇ。先に行ってくれ」
「わかった。クライン本当にすまない」
「おうよ。これでもほかのゲームでは頭張ってたんんだ。おめえらに教わったテクで何とかするよ」
「わかった」
「おめえら、本当はかわいい顔してやがるな」
「おめえもその野武士面のほうが100倍似合ってるぞ」
「じゃあな、クライン」
「じゃあね、クライン。メール飛ばしてくれよな」
「おう、じゃあな。ユージオ、キリト」
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- 5 : 2017/01/22(日) 19:55:10 :
- 俺とユージオは、ホルンカの町へと続く道を突っ走っていた。MOBは俺のソードスキル1撃で倒せるので、基本俺が倒していた。
「なぁユージオ、俺たちコンビ組むんだよな?」
「そうだよ」
「ならさ、もしよかったらでいいんだけど、その日にドロップしたもので、重要なものはお互いに教えあわない?だって、お前は盾持ち片手剣だから、俺のほうがLAとる確率が高いし、ダメージも俺のほうがたくさん入れるような気がするし、何かあったときに、何を持っているかがわかれば、対処しやすい」
「ナイスアイディアだね」
「で、早速なんだけど、変なバトルスキルがついていないか?」
「ほんどだ。2人パーティーを組んだ場合、アイテムドロップ率が3倍になる。キリト、厄介なスキルだね」
「うん。ばれたらかなり面倒だな」
「いつから?」
「たぶん広場のときだ」
「もしかしたら、奴に切りかかったご褒美かもね」
「ありえなくはない。茅場も悪趣味だな。そろそろ着くぞ」
「そうだな。アニールブレードからするか?そのあと、盾でいいか?」
「大丈夫。キリトは二刀流はするの?」
実は、俺はβテストの時から片手剣を2つ使って二刀流をしていた。ソードスキルを打てないデメリットがあるが、その代わりに防御がしやすい。ちなみに、ダメージは 攻撃力×スピード×切りかかった長さ×定数÷敵の防御力 という比較的簡単な計算式で産出される。ソードスキルは、スピードを上げるだけなので、俺の場合、連続攻撃がしやすい二刀流にしている。
「する。だから、2人の合計は、予備も含めて、アニールブレード6枚かな?」
「たしか、あの場所は、大体100体に一体だから、600体か」
「1体30秒とすると、5時間だ」
「早めにとっとかないと、面倒だから夜までする?」
「ユージオはいいのか?」
「僕は大丈夫だよ」
「ありがとう。ユージオ」
こんなわけで、俺たちは5時間の苦行に向かった。
あるNPCの家に向かう。そこには病気の小さな女の子がいて、お母さんに薬草を取ってきてもらうように頼まれるので、わかりましたと言いリトルネペントを狩りに行く。リトルネペントには、3種類あって、実付き、花付き、普通のものである。実付きを狩ることができれば、薬草が手に入り、花付きを攻撃してしまうと、周りにいるモンスターが引き寄せられるので絶対に攻撃してはいけない。普通のものは、倒しても倒さなくてもいい。俺たちは経験値稼ぎのため、花付き以外は狩ることにした。
「覚悟はしてたけど、面倒だね。キリト」
「いまやっと、アニールブレード3本分」
「あと2本か。休憩する?」
「いや、大丈夫」
「俺は、片手直剣、索敵をとったけど、ユージオは何をとったんだ?」
「盾装備、片手直剣だよ」
スキルは、無数にあり、最初にとれるスキルは2つで、Lv10毎に1つスキルをとることができる。今のレベルは、キリトもユージオも5なので、2個とることができる。
「次はユージオは何をとるんだ?」
「僕は、索敵か、隠蔽。キリトは?」
「僕は隠蔽だ」
「お!花付きだ」
「そっちは任せた。こっちにも花付きが1体いる」
「おっしゃ!これで終わりだ」
2人とも狩り終わると、先ほどの家にもどり、薬草を渡す。そうすると、アニールブレード5振りがもらえた。
「もう11時だから、寝ないかいキリト?」
「早寝早起きで行こう。明日は6時でいいかい?」
「了解だ。同じ部屋でいいよね?」
「大丈夫。一晩だから、安いところでいいよ」
「あそこにあった。じゃあ、寝るか。お休み」
「お休み。ユージオ」
俺たちは眠りについた
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- 6 : 2017/01/22(日) 19:56:54 :
- 俺とユージオは迷宮区の奥から、町に帰ってくる途中だった。
あるフードを被ったレイピアを使っているプレイヤーがルインゴボルド・トルーパーと戦っていた。それだけなら、素通りするが鬼気迫る戦い方をしていたので、遠くから見守ることにした。彼のリニア―はとてつもなく速く、明らかに腕の振り、踏み込みで、ソードスキルの速度をブーストしている。最初はβテスターかと思ったが、最小限のステップ防御で攻撃を防いでいる。しかし、最小限のステップ防御だと、攻撃を受けた時のリスクは最大で、下手すると、カウンターダメージを適用されて、一時行動不能状態(スタン)になりかねない。ソロでのスタンは致命的だ。剣技の冴えと、戦術の危うさのアンバランスが大きな違和感となっていた。
「どうする?ユージオ」
「話しかけてみない?」
「そうだな」
「ねえ、さっきのはオーバーキルすぎるよ」
そう言うと、相手は小さく首を右に傾げた。何を言ってるのかわからないのだろう。
「オーバーキルっていうのは、相手に与えるダメージが過剰ってこと。最後、ルインゴボルド・トルーパーのHPは残り数ドットだったから、通常技だけで仕留めることができる」
「過剰で何が悪いの?」
「えーと、効率が悪いから。ソードスキルは、集中力がいるから、使わなくていいときは使わないほうがいい。帰り道の分も集中力を残しておかないと、大変だ」
「そうですか。でも、私は街に帰ることはほとんどないので大丈夫です」
「あれ、私ってことは・・・女の子?!」
「おいおい、ユージオ、女性のプレイヤーなんてこんなとこいないって」
「あなたたち2人とも、最低ですね。私はもう行きます」
「ほんとに女の子だった・・・」
「うそぉ・・・。そうだ、街に帰らないってどういうこと?どれくらいの間、迷宮区にこもっているの?」
「これで4日。今度こそもう行きます」
「そんな戦い方してたら、死ぬよ」
「どうせ、このゲームはクリア不可能で、みんな死ぬのよ。遅いか早いかの違い」
「そうだ。あんたも死ぬために敵を倒しているわけじゃないでしょ?なら、会議には参加したら?」
「会議?」
「明日12時から、トールバーナーで第1層攻略会議が開かれる」
「わかったわ。じゃあね」
「おう」
「それにしても、まさか女の子だとは思ってなかった」
「僕もだよ。あの人は将来強くなれるね。だって、彼女の技の冴えは僕たちに匹敵する」
「会議と言えば、βテスターどうする?ユージオ」
いま、βテスターと新規参加者の間で亀裂が生まれていた。これを何とかしないと、最悪、攻略組が2分されるかもしれない。これだけは何としても止めないといけない。
「βテスターと新規参加者の共通の敵が必要だ。それもフロアボス以上の。フロアボスを攻略することですら、一緒にできないからね」
「共通の敵か。いい案だと思うけど、肝心の敵がいないよ」
「敵となりうるものは味方から、でしょ」
「死ぬかもしれないぞ。いいのか?ユージオ」
「僕は大丈夫。でも、1層を攻略する前に、俺たちが共通の敵になるのは何としても防がないと」
「攻略が終わった後、βテスター非難の雰囲気になったら、俺たちはほかのβテスターとは全く違う強さを持っているみたいなことを言えばいいかも」
「そうしたら、βテスター非難の雰囲気が出るのを待つしかないね」
「でも、βテスター非難の雰囲気ではなければ、俺たちが敵になる必要はないね」
「それがいいね」
俺たちは、βテスターと新規参加者の溝を埋めるために、2者の共通の敵になって、一致団結させようと決めた。
「こんなにたくさんの人」
攻略会議の場に到着すると、昨日の女性レイピア使いがつぶやいた。
「何でそう思うんだい?」
とユージオが聞く。
「だって、全滅する可能性もあるのに・・・」
「どっちかというと、自己犠牲精神で着た人より遅れるのが怖いっていうプレーヤーが多いと思うよ。俺は後者だし」
「遅れるのが怖い?」
「そう。僕もそう思う。つまり、死ぬのは嫌だけど、ボスが自分の知らないところで倒されるのは嫌だ。みたいな」
ゲーマーの心理を初心者の彼女にはわからないだろうと予想したが、
「それって、偏差値70キープしたいとか、学年TOP10から落ちたくないみたいな?」
「そう」
少々驚きながら答える。
「はーい。5分遅れだけどそろそろ始めます」
「ユージオ。なにもするなよ」
「わかってるよ。キリト」
「これから、第1回第1層ボス攻略会議を開きたいと思います。一応自己紹介しておくよ。俺はディアベル。メイン武器は片手剣。職業は気持ち的に≪ナイト≫やってます」
「いよぉ~ナイト様~」
「100層のお姫様を助けに行けよ~」
などと、煽りを誘う。
「今日。俺たちのパーティーがボス部屋を発見して、ボスの顔を見に行ってきた」
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- 7 : 2017/01/22(日) 19:57:46 :
- 「情報屋の資料によると、ボスの名前はイルファング・ザ・コボルド・ロードでルインゴボルド・センチネルという取り巻きがいる。ボスは4段のHPがあって、1段目になると、武器を斧とバックラーから、タルワールに変更になる。さらに、ルインゴボルド・センチネルはボスのHPが1段減るごとに4体新たに出現するらしい。以上はβテスト時のボスである。詳しい、情報はこの冊子を見てくれ」
「ちょぉ待ってんか」
という声とともに、サボテン頭の男が乱入してきた。
「ワイはキバオウちゅうもんや。ボス攻略始める前に、これだけは言わせてもらわなあかん」
「こん中に、死んでいった2000人に詫びいれなアカン奴がおるはずや!」
「キバオウさん。あなたの言っているのは、βテスターのことかな?」
「そうや!奴らは、こんデスゲームが始まったその日にビギナーたちを見捨てて、うまい狩場の情報を独占して、独り占めしとる。そいつらに今までため込んだコルと、アイテムを吐き出させないと、命は預けられないし、預かれん。そういっとるんや」
その声に始まったと心のなかで思いながら、みんなが黙る。気まずい雰囲気になったときに、大柄な男性プレイヤーが立ち上がる。
「発言いいか?」
「どうぞ」
「俺は、エギル。メイン武器は両手斧。キバオウさん。あなたが言いたいことは、βテスターが情報の独占をしたから、そのせいでビギナーが死んだから、βテスターは彼らに謝罪、賠償しないといけない。ということだな?」
「そ、そうや」
「キバオウさんはそういうが、俺は少なくとも情報はあったと思うぞ。これはみんなが知っている通り、武器屋で配布している、攻略情報が載っている本だ。これを発行しているのは、βテスターたちだ。さらに言うと、俺はアルゴに頼んで一つの調査を依頼した。それは今現在生きているβテスターは何人いるかだ。アルゴが返してきた数字は約300人。βテスターは1000人いたのに、300人もの人が死んだ。いいか、情報は誰もが得ることができた。それなのに、βテスター含めて2000人が死んだ。だから、ここで話されるのは、どうやってボスを攻略するのかだと俺は思ったんだがな」
と言い、エギルが着席する。
「βテスターはかなり強い。だからこそ、今は、βテスターの力がボス攻略に必要だと思う。ほかに異論はあるか?」
と、ディアベルが爽やかにまとめ、βテスター関連の話を打ち切る。
「じゃあ、これからパーティーを組んでくれ」
たしか、この場所には45人いる。だから、7人×6とあまり3人になってしまう。ユージオとともに、だれか組める人を探すと、レイピア使いがいた。
「あんたもあぶれたのか?」
「周りがお仲間同士だったから遠慮しただけ」
それをあぶれているというんだよと心の中で突っ込みを入れる。おそらくユージオも同じことを思っているのだろう。苦笑している。
「じゃあ、俺たちとパーティーを組まないか?」
「いいわよ。申請お願いするわ」
と言われたので、俺たちはパーティー申請をする。相手が承認すると、左上に新たなHPバーが現れる。そこにはASUNAと書いてあった。その後、ディアベルが最小限の人数を移動させるだけで、攻略に適したパーティーに組み替えた。タンクのA・B隊、アタッカーのC・D隊、槍などのデバフをかけE隊、ルインゴボルト・センチネルを倒すF・G隊。俺たち3人はG隊だ。最後に、ディアベルが出発時間は明日の朝10時に今ここにいる場所に集合と伝えてから、解散する。
「レクチャーしといたほうがいいかな?キリト」
「そうだな。完全に忘れてたよ」
「キリト。頼んでいいかな?僕はちょっと用事があるんだ」
「わかった」
「あのー。一応基礎知識確認していい?」
「お好きなように」
「スイッチってわかる?」
と聞くと、軽く首をかしげる。こりゃ大変だとため息をつく。
「じゃあ、早速だけど練習してみようか。俺が敵の武器を跳ね上げるから、そのあと、すぐに相手の内に入って、ソードスキルで攻撃してくれ」
雑魚MOB相手に練習すると、やはり、アスナは相当なセンスがある。その後、アスナは1コルのパンを食べていた。
「結構うまいよなそれ」
「本気でおいしいと思ってるの?」
「もちろん。1日1回は食べている。少し工夫はするけど」
そう言いながら、ストレージから、クリームを出す。
「そのパンに使えよ」
恐る恐るといった感じで、パンを1口食べたが、あっという間に食べ終わってしまった。そのギャップにちょっと驚きながら、このクリームを手に入れる場所を教える。
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- 8 : 2017/01/22(日) 19:58:25 :
- 「いいわ」
「なんで?」
「私はおいしいものを食べるために戦っているわけではない」
「じゃあなんで?」
「この世界に負けないために。死ぬときまでね」
「少なくともパーティーメンバーには死なれてほしくないな」
「じゃあ、私は適当なところで寝るわ」
「何で宿で寝ないの?」
「ここの宿はベットが固いもの。それに30コルかけるなんて惜しすぎる」
「ははぁ。INNって書いてあるところしか見ていないな」
「それ以外にもあるの?」
「俺とユージオが使ってるとこは、NPCの農家の2階だけど、おいしい牛乳が無料で手に入り、さらには50コルで、ベットもふかふか、お風呂もごう・」
「何ですって?!」
ととても食いついてきた。
「えーと、おいしいぎゅ・・・」
「そのあと」
「50コ・・・」
「そのあと」
「ベットもふ・・・」
「そのあと」
「お風呂も豪華」
「ほかにお風呂のある所は?」
「えーとたぶん全部埋まってる」
「なら、あなたのところのお風呂貸して」
「ちょ、ユージオに聞かないと」
ユージオにフレンドメールで聞いてみると、大丈夫だと帰ってきたので、そう伝えると、アスナはとても脱力して、「お風呂・・・」とつぶやいて、座った。
「そんなにお風呂がいいのか?」
「お風呂は毎日2回入りたいぐらいだわ」
「わかった。じゃあ、案内するよ」
農家に到着し、お風呂に案内する。その後、ユージオがアルゴとともに帰ってきた。
「アルゴが来るなんて珍しいな」
「ちょっと、部屋貸してくれ。夜用の装備に着替えたイ」
「そこどうぞ」
と言い、ユージオと話そうとすると、不意にユージオが言った。
「アスナさんは、お風呂入っているんじゃないの?」
「あ、大変だ」
警告する前に、悲鳴が2人分聞こた。
「うひョ」
「きゃあああぁぁぁぁぁぁ」
装備を付けていない2人が出てきたあたりで、俺とユージオの記憶は途切れている(ことになっている)。
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- 9 : 2017/01/22(日) 19:59:16 :
- 「俺から言うことは一つ。みんな、勝とうぜ」
「戦闘開始!」
俺たちは、ボス部屋の中に突入した。ボスのイルファング・ザ・ゴボルド・ロードとルイン・ゴボルド・センチネルがPOPした。
「A・C・E隊、突撃!B・D隊、待機、E・F隊、ルイン・ゴボルド・センチネルを叩け」
ディアベルは、的確に指示を出してた。俺も素直に賞賛したいぐらい見事な指揮だった。俺たち3人は、ルイン・ゴボルド・センチネルを倒すために、突撃した。
私は、昨日オーバーキルで何が悪いのか聞いたが、大間違いだったことが分かった。あの男性プレイヤー2人は、動きが最適化されていた。得に黒髪のプライヤーは、1人でルイン・ゴボルド・センチネルを相手に陣取って、さらに、奇妙なことに、二刀で相手していた。二刀装備状態だと、ソードスキルを放つことができないが、その不利を上回る手数と、攻撃力でさらに圧倒的に相手を追い詰めていた。
「アスナ!スイッチ!」
とユージオが叫んだので、
「了解!」
と返して、リニアーを発動させる。すると、ルイン・ゴボルド・センチネルのHPが残り数ドットになったため、通常技を1発入れて倒した。
「GJ」
といわれ、意味が分からなかったが、とりあえず、そっちもと返しておく。その後順調に戦闘は進んだ。4段あるボスのHPバーが残り1段になり、武器を変更した。
「下がれ。俺が出る」
となぜかディアベルが叫び、前にでる。
「あれは・・・タルワールじゃなくて、野太刀!」
と黒髪のプレイヤーが言うが早いか、茶髪と黒髪のプレイヤーが走り始める。
「ディアベル。全力で後ろにとべ!奴の武器はタルワールじゃなくて野太刀だ!」
ディアベルは聞こえていないのか、そのまま突撃する。ボスがソードスキルをディアベルに叩き込む。吹っ飛ばされたディアベルは、空中に浮きHPが残り1割になる。
「ディアベルはん!」
悲痛なキバオウの叫び声が聞こえる。ソードスキルを発動させたボスは技後硬直をしたと思いきや、恐ろしいことに、ボスは、空中を飛び、柱と柱を恐ろしい脚力で飛び回る。そして、ディアベルにソードスキルを叩き込もうとした瞬間、茶髪の剣士が、間に入る。茶髪の剣士は吹っ飛ばされてしまったが、代わりにディアベルは死なずに済んだ。
「下がれ!」
と1声叫ぶが早いが、黒髪の剣士がボスのソードスキルを受け流す。
「下がれ。俺が出る」
とディアベルが叫ぶ。なぜ?と考えてしまう。ここはパーティー全員で包囲するのがセオリーのはず。ボスに目をやると、武器を変更するところだった。しかし、次の瞬間驚愕する。
「あれは・・・タルワールじゃなくて、野太刀!」
と俺が言った瞬間、俺とユージオは走り始めて、ディアベルに叫ぶ。
「ディアベル。全力で後ろにとべ!奴の武器はタルワールじゃなくて野太刀だ!」
しかし、ディアベルは止まらずに突撃する。心の中で悪態をつきながら、俺は走る。まずいあのボスの構えは、浮船だ。浮船を食らうと、浮かされた状態になり、さらに、次のソードスキルにつないでくる恐ろしい技だ。下手すると、浮船だけでHP全損もあり得る。幸いディアベルのHPは1割残る。そして、次のボスのソードスキルを、ユージオが盾で受け止める。ユージオが吹っ飛ぶが、ディアベルは助かった。しかし、運悪くディアベルは着地に失敗し、転倒状態になった。転倒状態になると、10秒間立ち上がることができなくなる。またソードスキルを繰り出してくるボスを受け流し、「下がれ」とディアベルに指示し、反撃を始める。自慢ではないが、俺は現実世界で二刀を扱うのがかなりうまく、この世界でも二刀で戦っている。二刀装備状態だと、ソードスキルを繰り出すことができないが、盾なし片手剣の強みであるスピードとパワーを両立つつ、片方の剣で敵の攻撃を防ぐことができる。幸い、ユージオが戻ってきたので、いつものパターンで敵を攻撃する。すなわち、俺とユージオがワールドコネクト状態になり、敵のターゲットをとっているほうが、攻撃を受け流すか、ブロックして、もう片方が攻撃を加える。単純でいてかなりの高難易度な技である。なぜなら、敵のターゲットがどちらに向かっているかを的確に判断して、さらに、その判断が間違っていた場合、即座に相方のフォローをすることが出来き、お互いが信頼していないと成立しない技である。2人で猛攻を加えると、ボスのHPが残り数%になった。
「キリト。LAは頼んだぞ」
「それじゃあ、遠慮なく」
と返して、バーチカル・アークを発動させ、ボスの横っ腹にヒットさせる。そして、ボスがポリゴンとなって拡散する。しかし、ここにいた全員がボスを倒したことを認識していなかった。俺自身もこれからベータとの「ちょっとした違い」が起こるのではと思い、硬直していた。
。
-
- 10 : 2017/01/22(日) 19:59:27 :
- 「終わったわよ。お疲れさま。あと、剣はおろしたほうがいいわよ」
とアスナから声をかけられ、初めて腕を振り上げたままだということに気づいた。それとほぼ同時に、『congratulations』の文字が浮かぶ。そして、プレイヤーの歓喜の声が続く。
「congratulations。この勝利はあんたたちのものだ」
とエギルから、声をかけられ、「いや・・・それほどでも」と答える。プレイヤーのみんなも俺とユージオをほめたたえる。
「なんでや!」
という叫び声が聞こえる。
「なんで、ボスの使うスキルを知っていたのに、みんなのその情報を伝えなかったんや。そのせいでディアベルはんが死にかけたやないか。それとも、自分ら最初から仕組んでたのか?」
とキバオウがさらにいう。は?と思いながら、これは好機でもあるとユージオに目配せする。ユージオも理解したらしく、目で伝えてくる。
「オレ、オレ知ってる。そいつベータテスターだ。他にもいるんだろ!薄汚いベータテスターども」
「た、確かに。ベータテスターじゃなければ、ボスの攻撃を受けきれたわけがない」
疑心暗鬼の目でお互いを見回すプレイヤーたち。俺はユージオに目配せし、行動に出る。
「あははははははは」
とユージオが笑う。
「ベータテスターだって?俺たちをあんな連中と一緒にしないでくれ。いいか、ベータテストは100倍近くの倍率があって、その中にどれだけのVRMMOのベテランがいたのとおもっているんだ?ベータテスターのほとんどはレベリングのやり方も知らないニューピーだったよ。でも、俺はそんな奴らとは違う。俺とユージオはほかの誰も登れなかった層まで登った。ほかのプレイヤーは5層かそこらで脱落したが、俺たちは10層まで登った。俺たちがボスの使う刀スキルを知っていたのは、10層の迷宮区で刀スキルを使う敵と散々戦ってきたからだ。ほかにも、いろいろ知ってるぜ。情報屋なんて問題にならないくらいな!」
「そ、そんなん、ベータテスターどころじゃない。チーターだ」
「そうだそうだ。ベータテスターにチーター。だからビーターだ」
「いいね。その呼び方。僕たちはビーターだ。これからは、ベータテスターごときと一緒にしないでくれ」
「フッ」
と侮蔑の表情で、絶句しているプレイヤーを笑い、さらに続ける。
「2層のアクティベートは俺たちがやっておく。ついてくるつもりなら、初見のMOBに殺される覚悟しとけよ」
と言い、2層に通じる階段を上る。しばらくすると、アスナが追い付いてきた。
「ねえ、あなたたち戦闘中に私の名前呼んだでしょ。どうやって分かったの?」
「この辺に、自分のHPバーのほかに、HPバーが2つないか?」
アスナは、顔を動かしてしまったので、「顔は動かしちゃダメ」と言い、アスナの顔を手で押さえる。
「キ・リ・ト?ユ・ー・ジ・オ?これがあなたたちの名前?」
「そうだ」
と返す。俺の手は、まだアスナの顔に添えていたままだった。これでは何かの予備動作のようではないか。慌てて手を放す。
「キリト。大胆だな」
とニヤニヤしながら、ユージオに言われる。睨み返してから、さらに言葉を続ける。
「君は強くなれる。もし誰か信頼できる人にギルドに誘われたら、断るなよ。ソロプレイには絶対的な限界があるから」
続けて、「じゃあね」と言い、2層への扉を開けた。
-
- 11 : 2017/01/22(日) 20:00:09 :
- 「ついたな。2層」
「ああ。この層は、森が主体になってる」
1層のテーマは何でもありだった。2層のテーマは「森」だ。見渡す限りの森である。
「大型キャンペーンに行かない?キリト」
「ああ。僕がアクティベートしとくから、先に受けておいてくれ」
「いいや、僕も武器屋行きたいから、一緒に行くよ」
2層には、初の大型キャンペーンがある。このクエストは完結するのは9層だ。俺とユージオはアクティベートのために転移門に手を触れた。手を触れると、色がオーロラのようになって、約10秒後に開門する。本来なら、ボスを倒したギルドらが整列して、下から来た人たちが拍手をするのだが、今回、俺たちは、先ほど「ビーター」宣言をしたばかりなので、最悪帰れコールが来る可能性がある。それに耐えられるほど俺たちは精神力は強くないので、事前に見繕った教会の中に隠れる。人々が叫びながら入ってきた。「イェーーイ」とVサインをする人、「2層キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」と叫ぶ人、「店を構えるのかマップを必死にみている人、目的のクエストに急ぐもの、様々だ。俺とユージオはその一人に注目した。
「あれ・・・」
「うん。アルゴだ」
「しかも、男2人に追いかけられてる」
「追いかけるよ。キリト」
「うん」
そういい、家の上を走る。どうやら圏外へ向かうようだ。
「だから、その情報を売るのはお断りだって言ってるんだヨ」
「情報は持っている、しかし売る気はない、なら値段のつり上げを狙っているでござるか?」
「相棒の言う通りでござる。まさか、情報の独占をするでござるか?」
「情報を売って恨まれるのはいやでござる、じゃなくて、いやだヨ」
この「ござる」言葉はベータテストの記憶の隅をつつく。
「なあ、ユージオ。あいつら確か・・・」
「ああ、風魔忍軍の奴らだね」
風魔忍軍とは、アルゴと同じようにAGI全振りで、スピードのある戦いをしている忍者の紛争をした集団である。
「とりあえず、後ろにモンスターが来てること教えようぜ?」
「そうだね。おーい、後ろにモンスターがいるよー」
「「何奴?!」」
「きみょうにハモるな」
「それより、後ろにモンスターがいるよ。逃げたほうがいいと思う」
「その手には引っかからないでござる」
「ほんとだって」
「ひぇええーーー退散するでござる」
「ふぅ。逃げて行ってくれたな。よかった」
「そうだね。キリト」
「2人ともありがとうナ」
俺たち2人はぱっくりと口を開けた。あのアルゴが素直に礼を言うなんて・・・。
「お礼に何でも好きな情報を1人1つ聞いていいゾ」
「俺は、今度にパス」
「キリトずるいよ。じゃあ、僕は、さっきの人たちが欲しがってた情報」
「あー。絶対に恨むなヨ」
「情報を売り買いしてたら、恨まれるんじゃないの?」
もっともな疑問だと俺も思った。実際、オレもいくつか心当たりがあるからだ。”アルゴと5分雑談すると100コル分のネタが盗まれている”とはよく言われたものだ。しかし、本人曰く、真偽の怪しい情報は一度も売ったことがないらしい。かなり怪しいが、実際、情報屋が1つ間違えた情報を売ると、その信用は地に落ちる。そういう意味では、毎日フィールドに出て稼いでいる俺たちよりも、命がけの仕事である。
「情報を売った買ったの恨みは、3日寝れば忘れるサ。でもこれは下手すると一生ものだヨ・・・」
「わかった。何が起こっても絶対恨まない。命にかかわるものでなければ」
「僕も、絶対に恨まない」
「じゃあ、こっちに来いヨ」
と言い、アルゴはマップを持っていてもわかりにくい道を行く。しばらく歩くと、山小屋があり、NPCのおじいさんがいる。
「ここで、体術のエクストラルスキルをGETできるゾ」
「そうなのか。だからあいつら体術を」
不思議そうな顔をするアルゴにユージオが教える。
「ゲームの中では、忍者といえば、素手で首をチョキンってするのが最高のイメージなんだよ」
「おじいさん。俺たち2人体術を獲得したいんだけど」
「おぬしらは苦難を乗り越える覚悟があるか?」
「「あります」」
「では、こちらへ来るがよい」
と言い、2つの岩の前に行く。
「これを素手で破壊するのだ」
「ちょ、ちょっとタンマ」
岩をこんこんとたたく。ある程度やっていると、これだけでどれくらい固いかがわかるようになってくる。これは破壊不能オブジェクトの一歩手前である。
「む、無理。あきらめるぞ。ユージオ」
というと、おじいさんが、筆を取り出して、俺とユージオの顔に何かを書いた。この瞬間、アルゴの髭の理由を余さず悟った。
「にゃはははははははははは」
当の本人が笑い転げている。ユージオの顔は、左と右の頬それぞれに、変態と書いてあった。自分の顔を見ようかと思ったが、やっぱり、やめておく。
-
- 12 : 2017/01/22(日) 20:00:17 :
- 「頑張るしかないよ。キリト」
「ああ」
「ははははハハハハハハハハハハ」
「いいかげん。笑いをこらえろ」
「ぶふぅげほげほぷは」
ものすごい殺意が芽生える。仕方なく、取り掛かることにした。2泊3日かかって、やっとクリアした。アルゴを恨むことにならなくて、幸いだった。
「はー。3日間も無駄にしちゃったよ」
「そうだね。でも仕方ないよ。キリト」
「武器を使ったら、一からやり直しっていうのがきつかったよ。茅場晶彦は鬼畜仕様大好きだな」
「そうだね。フィールドボスはまだクリアしていないだけましだよ」
「ん?アルゴからメールが来た」
「なんて書いてある?」
「フィールドボスがクリアされたらしい。1時間前に」
「ハハ。笑えないね」
「情報屋仕事しろよ。まったく」
「急に決まったからじゃないの?」
「なあ、ユージオ」
「なんだい?キリト」
「これから、3,4か月Lv上げに専念しないか?」
「ちょっとまって。大型キャンペーンがあるよ」
「あれも含めてってこと。Lv上げしないと、ちょっとまずいかも」
「ああ。攻略組にいることが出来ないってこと?」
「そう。俺たち、ビーターだし、ちょっと怪しいやつがいるんだよ」
「ああ、あの黒ポンチョね」
俺とユージオは、1層でMPKをしているやつを何人か見つけた。その中の1人、黒ポンチョの格好をした奴は、MPKをしていたが、PKそのものをしようとしているように感じられた。さらに、黒ポンチョの男は、仲間を率いて積極的にMPKしていた。もし、あいつが、レッドギルドのようなものを作るのを俺たちは1番恐れている。これは、あくまで憶測だが、ベータテスター非難の雰囲気を攻略組で作ったのも、奴の仕業の可能性がある。なぜなら、ベータテスターはそれなりに、ビギナーのプレイヤーを助けているのに、一向に収まる様子がない。
「だから、最悪の場合、俺たちがオレンジにならないといけないかもしれない」
「そうだね。でも、最悪の場合だからね。僕はできれば人殺しはしたくない」
「わかってるよ。よほどのことじゃない限り、牢獄行きにするよ」
「あと、このゲームをクリアしたあとなんだけど、オレンジプレイヤーの名前と顔はできるだけ覚えたほうがいいかも」
「たしかに。現実世界に戻った後、人殺しをする可能性があるからな。それにしても、考えることだけは絶対にユージオに勝てないな」
「アハハ。でも戦闘能力は圧倒的にキリトのほうが上だよ」
「”智のユージオに武のキリト”か」
「そんな代名詞はつかないほうがいいよ。キリトだってそうだろ?」
「確かにな」
「100コル分のネタもらったヨ」
「「アルゴ?!」」
「い、いつからそこにいた?」
「キ、キリト。索敵は?」
「大方、ハイディング(隠蔽)してたんだろ。あと、スキーニング(忍び足)も」
「うしし。”智のユージオに武のキリト”ね。そのあたりからいたヨ。ただでさえ、いろんな代名詞があるのに、また増やしたナ。なんだっけ、蒼黒の剣士、ビーター、蒼黒コンビ、最強コンビだっケ?」
「は、恥ずかしい・・・」
「よく思うけど、ユージオって女らしいな」
「同意すル」
「ふ、二人ともひどい・・・」
「ところで、なんでこんなところに来たんだ?」
「迷宮区に早くいかないと、乗り遅れるよと言いたくてサ」
「でも、俺たち、これからレベリングするから、いけない。あと、黒ポンチョの男には絶対に近づくないよ。命にかかわる」
「さらっと、すごいこと言ったナ」
「忠告ぐらいに思ってくれ。じゃあ、ボス攻略会議の前に、連絡頂戴」
「わかったヨ」
-
- 13 : 2017/01/22(日) 20:01:11 :
- 顔の落書きから3日間。俺たちは、寝る間も惜しんでLv上げに専念してLv16になっていた。
「なぁ、ユージオ。ボス部屋ってもうすぐじゃない?」
「そうだね。20階まであるうちの19階だもの」
「まさか、俺たちが一番乗りか」
「ねえ、キリト。あそこに一人プレイヤーがいない?」
「ほんとだ。すごい技のスピードだ。ただのホリゾンタルだけど、威力が半端ないし、受けが上手い」
「しかも、最小限のステップ防御してる」
「ユージオ。ひとつ言いたいことが」
「奇遇だね。僕も言いたいことが一つある」
「「既視感を感じる」」
「さて、意見の一致を見たところで、あの人倒れたから、町に連れて行ってあげないと」
「そうだな。アスナと同じようにケープ被っているけど、まさか、女性プレイヤーってことはないよな」
「そうだとしても、眠っている間に顔を覗くのは俺たちの自主ハラスメントに抵触する恐れがあるぞ」
「さて、どうやって連れていく?。なにか考えはある?キリト」
「お前が思いつかないものは俺も思いつくわけないだろ」
「じゃあ、寝袋で引きずっていく?」
「怒るだろうけど仕方ないか。提案者はユージオなんだから、責任はとれよ」
「人聞きが悪いこと言わないでよ」
「へいへい」
いつも通りの軽口を叩きあっていると、ここがデスゲームの中だということも忘れてしまうぐらい楽しい。やっぱり、信用出来て、
気の合う同性の仲間というのはいたほうが絶対にいい。異性とコンビを組むと、ここまで軽口を叩くことはできない。迷宮区を突破して、安全地帯のところへ運ぶ。
小1時間ほど待っていると、プレイヤーが起きた。
「むぅ?」
まずい、これは女性プレイヤーだ。同じ考えに至ったらしいユージオと目を合わせて、苦笑する。
「はぁ。なんで1週間に2度も技が異常に鋭い女性プレイヤーに迷宮区で出会うんだろう」
「同感。キリトの出会い熟練度が高いのかな」
「いや、ユージオのナンパ熟練度が高いだけだろ」
「ユージオ!和人!」
大声をあげて、女性プレイヤーが僕たち2人を抱きしめた。
「おいおい。本気でユージオのナンパ熟練度高すぎだろ」
「ちょ、ちょっとタンマ。僕あなたと知り合い?」
「知り合いでも抱き着いてこないだろ。ユージオの愛人か?」
「失礼だね。僕はこれでも14歳だよ」
「私はアリスよ」
「「アリス?!」」
アリスは俺とユージオの幼馴染である。彼女は両親がアメリカ人で、金髪の美少女である。彼女は俺とユージオが1歳の時に生まれて、
それ以来ずっと一緒に遊んでいる。俺たちが有名人になっても変わらず接してくれる数少ない友人である。これは余談だが、アリスはユージオのことが好きである。
なぜ断定するのかというと、俺がアリスの相談役になり、ユージオとアリスをくっつける作戦を考えていたからだ。生半可な作戦だと、
ユージオに見破られてしまうので必死に頭を絞って考えている間にSAOに巻き込まれたというわけだ。今、このままの雰囲気だと、
ユージオがアリスになぜSAOをやったのかを聞くだろう。彼女はゲームにあまり関心を持たなく、疑問を抱くのは普通だが、
アリスは怒ると苛烈なので巻き込まれるのを防ぐべく必死に考えた。その結果が、
「だから、ケープしてたんだ!」
「はぁ。キリト。驚くところ間違ってる。それとアリスもなんであそこまで無理をしたの?あと、なんで僕たちに連絡しなかったの?」
はぁ。俺の話をずらそうとする思惑を一刀両断してくれた。俺がアクセルワールドを使ってまで必死に考えた労力を返せと言いたくなる。
「たとえ死んでも茅場晶彦に負けたくはないから。連絡しなかったのは・・・ ((^┰^))ゞ テヘヘ」
「「((^┰^))ゞ テヘヘじゃ(ないよ/ねえよ)」」
「既視感が・・・」
「僕も既視感を覚えるよ。この場合は既聴感だけどね」
「勝手に造語作るな」
「そうだ、アリス。同じような人を知ってるから、その人とパーティ組んだら?」
「なんで、あなたたちとは駄目なの?」
「えーと、その何と言いますか、『今アインクラッドで一番嫌われてる人は誰でしょう』っていう新聞記事が出たら、間違いなく俺たち2人だから」
「なにがあったの?」
「えーと、アリスはビーターっていう言葉に聞き覚えはない?」
「あるわ。ボス攻略で死人を出しかけた原因であり、さらにLAも取って、実力を隠していた、下劣な2人組でしょ。今度ぶっ潰そうって決めてるんだ♪」
まずいまずいまずいまずい。アリスはビーター2人組に間違いなく怒ってる。こりゃ下手したら見下されるぞ。
アクセルワールドを使って時間を稼ぎ、必死に考える。幸い、ユージオもアクセルワールドを使ったようであり、
目で合図を送る。どうやら、本当のことを言うしかなさそうだ。
-
- 14 : 2017/01/22(日) 20:01:26 :
- 「えーと、アリス。怒らないで聞いてほしいんだけど、俺たち2人組がそのビーターなんだ」
「え?!失望したわ。あなたたちがそんな人だったなんて」
と言い泣き始める。ユージオはクエスチョンマークが頭の上にのっかっていたが、俺は大体の理由がわかった。
アリスは自分の好きな人が非道なことをしたことを許せないのだ。しかし、本当のことを言うと、俺たちについてくるといい始めるので、
この誤解を解くわけにはいかない。おそらくユージオはそこまで考えていないようだから、目で話を合わせるように指示をする。これを言うのは俺にとっても苦痛だが、
アリスの安全のためだから仕方ない。
「そうだ。この世界ではリソースをとったもの勝ちだ」
「だから、必要とあらば僕たちはボスのLAをとり続ける」
「だから、アリスがいると邪魔だ。適当な人を紹介するから、その人と一緒にいたほうがいい」
これだけ言うと、アリスはさらに泣きじゃくりながら、俺たちを罵倒する。
「この、人でなし!人が死にかけたのよ?それでも何も感じないの?あんたたちと幼馴染だったことが恥ずかしいわ!あなたたちは悪魔だわ」
それだけ言うと、さらに泣き始める。
「そうだ。適当な人をここに向かわせるから、それまでここで待っていたほうがいい」
「あばよ」
ユージオにしては荒い言葉を言い、そのあと、聞こえないぐらいの声で「ごめん」とつぶやく。その間に俺はアスナに連絡を取り、
ここに来てもらえるようにメッセージを送る。とてつもなく怒っていたが、下手すると人の命にかかわることなんだ、と書くと、
しぶしぶ了承してくれた。そして、俺たちはその場所を去る。胸が非常に痛いが、アリスが死ぬよりもましだ。ユージオを見ると、とても切なそうにしている。
それを見て俺がすまなそうにしているのを感じ取ったのだろう。
「僕はする必要があるとわかってたから、キリトを恨んではいないよ」
「本当にすまない。たぶん俺たちは悪意をひきつける役目なんだろうな。それがどんなにつらかろうと」
自分が好きだった人が人でなしだったなんて、自分の人の見る目のなさに失望する。ひとしきり泣いたころに、ある女性細剣使いがやってきた。驚いたことに、
ものすごい美人だ。なぜ、こんなにきれいな人がゲームなんてやっているのだろうと思うくらい本当に綺麗な人だった。
「あなたが、アリスさん?」
「そうよ」
「私はアスナ。キリトとユージオに呼ばれてきたのだけど、2人は?」
「私はアリス。あんなビーターのことなんて知らないわ」
「あの人たちはそんなひどい人たちじゃないわよ」
「人でなしよ!」
「なんでアリスさんはそう思うの?」
今までのことを説明すると、アスナさんは一言こういった。
「それは、本当は嘘よ」
「それこそ嘘よ。なんでそう言い切れるの」
「じゃあ、彼らのボス戦でのことを説明するわね」
と言ったことが驚愕の内容だった。キリトとユージオはベータテスターとビギナーの対立を自分たちが情報を独占するビーターだと宣言することによって防いだ?!しかも、情報を伝えなかったせいで人が死にかけたというのは、ただ単に、ベータテスト時とボスの得物が違っていて、それを予想できなかっただけだなんて?!
「じゃ、じゃあなんであの2人は私にわざと誤解させたの?」
「それは、アリスさんがあの2人についていくって言いだすのを防ぐためじゃない?」
「う・・・そ」
「じゃあ、あの人たちは、周りのために悪役を買って出たってこと?」
「そうよ」
そんなことも見抜けなかった自分がとても恥ずかしい。あの2人に散々罵倒して傷つけてしまった。たぶん彼らは自分たちがアリスに憎まれるとわかったうえでそうしたのだろう。
「あの2人を追いかけないと・・・」
「それはやめたほうがいいわ」
「なんで?!幼馴染と一緒にいるのが何で悪いの?」
「あの二人がそう願っているからなのよ。自分たちはベータテスターだから人を率いることはできない。だから、その役目をアリスさんにしてほしいんだと思うわよ」
「そんな・・・」
「それに、あの二人に追いつくのは至難の業よ。AGI極振りしているアルゴさんも捕まえたためしがないらしいし。なにより、逃げるのが得意だものあの二人は」
「わかりました。もしアスナさんがよかったら、コンビ組みませんか?」
「いいわよ」
アスナとコンビを組むことになり、このコンビは後に「狂戦姫」と呼ばれるようになる。
-
- 15 : 2017/01/22(日) 20:02:46 :
- 僕とユージオは素材集めのために最前線の20層から11層まで降りていた。
「おい、あの人たち・・・」
「そうだね。キリト。助けないと」
「ねえ、君たち手伝ったほうがいいかな?」
「頼む」
棍使いのプレイヤーが答える。PTを見たところ、槍使いが二人、棍使いが一人、メイス使いが一人、ソード使いが一人だ。ずいぶんとバランスの悪いパーティーで、個人個人のPSも心もとない。例えば、このPTで紅一点の槍使いは敵に攻撃するときに、目をつぶってしまい、リーダー兼司令塔である棍使いも指揮官として臨機対応に指示を出すことはできていない。ならば、前衛に立って敵を倒したほうがいいかもしれない。キリトとアイコンタクトをしてから、3秒で6体の敵を葬る。攻略組のLVならこの層の敵は通常攻撃一撃で葬ることが出来る。ましてや、僕とキリトは戦闘狂なので、敵の攻撃を許すまもなく倒した。後ろを見ると、5人は鬼を見たかのような顔をしていた。
「あ、あの助けてくださってありがとうございます」
と5人から言わる。
「いや、偶然素材を集めに下の層に降りてきていただけだから、偶然。それより、安全圏に戻ることはできる?」
「ユージオの言うとおりだ。ここは圏外なんだから、油断は禁物だ」
「あ、その・・・申し訳ないんですが、護衛をしてくださると助かります」
「わかった。圏内に戻る間までよろしく」
私たち月夜の黒猫団を助けてくれて、PTの護衛をしてくれている、超強い二人組。この層の敵を一撃で葬るということは相当な高LVであるのだろう。黒髪の剣士は、片手剣を両手に装備していた。確か、私の記憶では、片手剣を両手に装備していても、ソードスキルは出せないはず。もう片方の茶髪の剣士は重装盾持ち片手剣に見えるが、かなり俊敏な動きをしていた。圏内に戻るまで残り30分といったところで、突然二人が止まり、茶髪の剣士のユージオさんが声を上げた。
「君たち、僕と一緒に3mほど下がって。これは絶対命令」
「え?なんで?」
当然驚きの声を出す、リーダーのケイタ。今までも出てきたMOBは一瞬であの二人が倒してしまっている。あの二人は本当に最強で、そんな人たちが下がれというような相手がいるとは思えなかったからだ。
「死にたくなかったら、ユージオの言うとおりにしろ。あと、逃げろと言ったら、この転移結晶で安全圏のどこかへ行け。かくれんぼをしている3人出てこい」
続いて、黒髪の剣士が凄まじいまでの殺気を出す。いままで穏やかな人だと思っていたので、とても驚いた。素直にユージオさんと後ろに3m下がり、逆に黒髪の剣士が前に出る。
「おいおい。俺たちはとんだ貧乏くじを引いたみたいだな。まさか冷徹な断罪者のお二人と出会うなんて」
その言葉に私たち二人は驚きを隠すことが出来なかった。冷徹な断罪者というのは、いわゆる、レッドキラーである。あるとき、アインクラッド中の情報屋に、冷徹な断罪者という名義で、レッドギルドやレッドプレイヤーを捕縛して黒鉄宮に送るか、抵抗をやめない場合は殺すという宣言をした。しかも、ギルドではなく、タッグでするようだ。実際、レッドギルドのいくつかを捕縛ないし殺している。また、宣言の時に、殺すのは殺人を楽しんでいる人のみで、正当防衛でカーソルがオレンジになった人には手を出さない。さらには、カーソルがグリーンであっても、レッドプレイヤーなら迷いもなく黒鉄宮送りか殺す。その際、自分たちのカーソルがオレンジになることは気にしないとまで書いてあった。この宣言はアインクラッド中で話題になり、攻略組は、冷徹な断罪者に対して捕縛は認めるが、殺しを楽しんでいるように見られたら、レッドプレイヤーとして扱うという声明を出している。まさか、あんなに柔和な二人が冷徹な断罪者だとは全く予想もつかなかった。
-
- 16 : 2017/01/22(日) 20:02:59 :
- 「Pohとザザとジョニー・ブラックか・・・お前ら三人は現実世界に帰還させると、絶対に不味い。抵抗をする場合は迷いなく殺す。一応、投降の勧告をしておく。全員武器を床に置いて、手を頭の後ろで組め。十中八九戦うと思うが、三対一だと思ってなめるなよ。俺は自他共に認める戦闘狂だ。人数が多くても、絶望するのではなくおもろい戦いだと思うくらいだ」
この言葉にまた私たちは大きな衝撃を受けた。Pohとザザとジョニー・ブラックは最凶のレッドギルド、ラフィンコフィンの幹部三人である。しかも、一人で攻略組2人の攻撃をしのげるレベルの強さだと聞いてる。それなのに、その三人に一人で立ち向かうのは正気の沙汰とは思えない。そして、黒髪の剣士がもの凄い殺気を放ったかと思えば、神速の速さで三人に迫る。そして、右の剣でジョニー・ブラックの心臓があるところを刺す。驚いたことにこれだけでジョニー・ブラックのHPが半分ほど減る。左側からザザがリニアーを発してくるが、それをぎりぎりで避け、即座にカウンターでザザのHPを三割ほど減らす。これを見た三人は本気の顔になって、猛攻撃をかけてくる。正直、ここまでのレベルになると、私たちでは全くよくわからないが、もの凄い殺気で私たちの体はマヒしていた。黒髪の剣士は二刀で三人の攻撃をすべて凌いで、さらに優勢になっている。ザザのリニアーをステップ回避して、ジョニー・ブラックの毒ナイフをしゃがむことで回避する。そこから、Pohに下から攻撃を加える。だが、伊達にレッドギルドのリーダーをしていないようで、余裕でかわし、カウンターを決めようとする。普通のプレイヤーなら即座にやられていたが、黒髪の剣士はそれさえも避ける。正直本当に圧倒的だった。だが、あと三人のHPが残り半分になったあたりで、オレンジプレイヤーが20人ほど来た。
「お前たちがそこまで連絡を取り合っていたとはな。今度会ったときは、三人とも殺す」
「やら、れる、のは、おまえ。絶対、俺が、殺す」
「じゃあ、また会おうぜ冷徹な断罪者さん」
そういい、全員転移結晶で逃げてしまった。三人が逃げたとたん、黒髪の剣士は力を抜き、私たちのほうに振り返る。
「あ・・えっと・・・。とりあえず、安全圏に戻ってから話そう?」
その声がとてもかわいらしく、先ほどの彼とのギャップに私たちは全員萌えてしまったのは、一生の秘密。
俺とユージオは邪魔が入ったが、無事護衛を成功させることが出来た。
「えーと。まず自己紹介からします。俺はキリト、冷徹な断罪者の一人。ちなみに、さっきラフコフのメンバーが現れたのは僕のせいじゃない。君たちはラフコフに目をつけられていたようだ。嘘だと思っていると思うけど、これはほんとう」
「僕はユージオ。キリトと同じく冷徹な断罪者の一人。敬語はなしにしてくれるとありがたい。あと、冷酷な断罪者のキャラネームを暴露しないでくれるとありがたい。この層に来ていたのは、素材を集めるため」
-
- 17 : 2017/01/22(日) 20:04:31 :
- 「えー。僕は、月夜の黒猫団団長のケイタ。そして、こちらは、サチとダッカーとテツオとサママル。あのー大変失礼かと思いますが、レベルはいくつくらいなのでしょうか」
基本レベルはその階層プラス10ほどとっているのが普通だ。現在最前線が20そうなので、攻略組の平均レベルは30ほど。トッププレイヤーでも40は超えないといわれている。レッドギルドを相手にしている冷徹な断罪者なので、だいたい30レベルぐらいだと予想していた。
「えーと、僕は45でキリトが50。これは、あんまりばらさないでくれるとうれしい」
「「「「「え~?!」」」」」
「スゲー。なんでそんなにたまるんですか?」
「最前線のプレイヤーよりレベルが20も上ってどうやってるんですか?」
「俺とユージオのスケジュールは異常だぞ。どこの特殊部隊メニューだといわれたこともあるし」
「具体的には、朝五時起床、五時半に町を出て、6時から迷宮区orレベリング、12時半にお昼休憩をして、13時からは迷宮区攻略、20時に迷宮区を出て、21時には武器のメンテを済ませている。それから、僕とキリトで模擬戦闘をしたり、鍛錬をする。23時には情報屋と接触して、アイテム整理をする。1時には寝ている。大体こんな感じ」
「すげー。俺たちとは全然違う」
「えーと、一つお願いがあります」
「出来る範囲なら、僕とキリトが協力するよ」
「僕たちにレクチャーしてください!君たちはめちゃくちゃ強いし、もし迷惑でなかったらなんだけど・・・」
「えーと、俺とユージオは冷徹な断罪者で、ビーターだから、ここにいると、君たちの悪い噂が立つから、あんまりおすすめはしない」
「それでもいいので、お願いします」
「うーん。攻略組を目指しているのかい?」
「はい。だいぶ遅れちゃったけど、最終目標はそうです」
「一応、ギルドメンバーの攻略組に参加したいかという意思、もっと言えば戦闘自体怖がっている人がいるから、その人をなんとかしないと、教えることはできない」
「キリトは、いっつもぶっきらぼうだけど、実際、戦闘中目をつむっている人がいるから、その人は絶対ね」
「じゃあ、一晩時間をくれないかな?」
「「もちろん。僕/俺たちはレベリングに行ってくるね」」
「よし。じゃあ、一応しばらくの間中層ギルドを育成するため休むって伝えとかないとな」
「誰がいいと思う?」
「はぁ、ユージオ。わかって聞いているだろ。俺たちがフレンド登録してるのは、血盟騎士団副団長のアスナとアリスしかいないだろ。この場合、多分アスナのほうがいい。僕が送っておくよ」
「叱られ役は頼んだよ、キリト」
「ユージオは可愛い顔して、ずる賢いな」
「それを言うなら、キリトのほうが女性らしく見えるよ。ぼくは、男性とわかるからいいけど、キリトの場合は、逆ナンパされるレベルだからね。そういえば、思い出すな~キリトが女s「思い出さなくていい」はいはい」
「あれ、結構トラウマなんだぞ。お、返事きた」
「なんて?」
「今すぐ15層に来て説明しろだって。あの層雰囲気が嫌いなのに、血盟騎士団員とも顔を合わせないといけないからいやだな~」
「「はぁ」」」
「凄いな。あれが黒と白の剣士か。ちなみに、黒と白の剣士は最前線にタッグで行って、無傷で帰ってくることで有名なタッグだ」
「そうだったの?それにしても、なんで冷徹な断罪者が俺たちの階層にいたのかな?」
「さあ?素材集めにでも着ていたんじゃない?」
「えーと、まず、意思確認をしておきたい攻略組になりたくない人はいるかい?」
「えっと、みんなごめんなさい。私正直に言えば、戦うのが怖い」
「それは、メンバーの気持ちに気づくことのできなかった僕が悪い」
本当にサチには申し訳ないことをした。彼女が臆病であることはよく知っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。ユージオさんが言うには、戦闘中に目をつぶっていたそうだ。そのことについて聞くと間違っていなかったらしい。その後メンバー全員で話し合った結果、サチは生産職に回ることになったが、一応戦闘が出来るレベルまでには引き上げるようだ。
「それで?」
「なんであそこで逃げたの?」
今現在、俺たちはアスナとアリスに猛烈な勢いで怒られていた。一層でアリスにうそををついたことで相当に起こっています。はい。下手すると、火山が噴火しそうだ。
「えっと…キリト頼んだ」
「ユージオずるいぞ。その・・・何と言いますか、俺たちとかかわってもいいことないよ。みたいな?」
「なんで疑問形なのよ。まったくキリトは昔からぼけてるというか、頭は切れるのにどこか抜けているよね」
「え?キリト君とアリスさんはリアルでも知り合いなの?」
「そうよ。ついでに、あのバカユージオとも」
「バカと言ってる割には、顔が赤いぞ」
-
- 18 : 2017/01/22(日) 20:04:40 :
- その言葉を言ったとたん、アリスの顔が真っ赤になり、俺はそれから丸3分間アリスの攻撃をよけ続けなければいけなかった。
「おいおい、キリトに当たるわけがないんだから、無駄な抵抗はしないほうが得策だと思うよ」
火に油を注ぐとはまさにこのことだ。このせいで、ユージオもアリスの攻撃をよけないといけなくなってしまった。ほんとに、あいつはいつまでたっても空気を読むということはできない・・・それは置いといて、アスナとアリスに用事があるんだったとここに来た本当の用事を思い出す。
「そうだ、アスナ、アリス。俺とユージオは中層のギルドを育成することになったから、2週間ぐらい攻略組を抜けるよ。25層までには戻ってくるつもり。じゃあね~帰るぞユージオ」
「了解キリト」
「アスナとアリス。そういうことで」
「「こら!待ちなさい」
気にしない気にしない。一休み一休み。どこかのお坊さんのセリフを脳内で再生しながら、逃走した。
「じゃあ、一応全員鍛えるけど、サチは生産職に回ると」
「そういうこと」
「じゃあ、LVはともかく、PSは一週間で攻略組に届くようにするよ」
「「「「「えー」」」」」
後に月夜の黒猫団は語る。地獄へ行ったほうが楽だった、と。
「「「「「お疲れさまでした」」」」」
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- 19 : 2017/01/22(日) 20:04:46 :
- 番外編
月夜の黒猫団の日誌
1日目
ぼくたちはソードスキルの反復練習を8時間で2400回した。あと、どんな体制からでもソードスキルを放てるように練習をした。これがかなりきつくて、何度も失敗したが最後はキリトさんが弱めに切り付けて、それをよけてからソードスキルをあてるようにできるようにした。中でもサチはすさまじく、両手用槍の才能があるとキリトさんに褒められていて、最後はサチに僕たちは勝てなくなっていた。しばらくの間ずっと圏内ですることになり、僕が圏外で練習しないのかと聞いてみたが、この層のモンスターを二体まとめて相手できるようになってからだといわれた。
2日目
今日もソードスキルの練習を五時間した。午後の5時間は殺気に怯えない練習だった。キリトさんの殺気を受けて、立っていれば合格らしい。結論から言うと、気を保つことができた人はいなかった。それも当然かもしれない。なぜなら、上下二層まで届く殺気だったからだ。おかげで、観衆が集まり、とても恥ずかしかったがこれも修練の一つだといわれ、耐えるしかなかった。夜に第二層に移動して、二泊二日コースにチャレンジすることになった。全員の顔の落書きが面白かったらしく、キリトとユージオは爆笑していた。
3日目
岩を叩いていてわかったが、これは破壊不能オブジェクトの一歩手前だ。キリトさんたちが2層で初めて受けたときに、二泊三日コースになったのも頷ける。しかも、横を見ると、当然落書きされた顔のある仲間がいるので、笑ってばっかりだった。
4日目
今日何とか岩を割り、体術スキルをマスターすることができた。顔のペイントを雑巾で拭かれて、サチは怒っていたが、僕たちは達成感で大の字で寝ていた。今日一日、休暇を出してくれることになった。本当に疲れた。キリトが一コルの丸パンにクリームをつけてくれたものが田舎クリームパンになってめちゃくちゃおいしかった。
5日目
今日はソードスキルの反復練習と殺気の訓練をした。腕が訛っていなくてよかった。
6日目
今日は司令塔の訓練といわれたことを即座に実行する練習だった。具体的に言うと、圏内で戦闘隊形になり、キリトをモンスターとして司令塔の訓練と、即座にスイッチできるようにした。かなり大変だったが、戦闘に関しては合格をもらった。
7日目
訓練で初めて圏外に出て戦闘をした。苦戦していたモンスターがとても遅く見えて楽勝だった。プレイヤースキルが攻略組クラスになった。この日キリトさんとユージオさんと打ち上げをして、どんちゃん騒ぎをした。あと、大ニュースだが、サチがユージオに告白した。僕はサチのことが好きだったのに・・・。おっと、これは、月夜の黒猫団の日誌に書くべきじゃないな。まあ、見ることのできる人はリーダーの僕だけだから、いいか。ちなみに、結果はというと、ユージオさんにはすでに好きな人がいたらしい。その時、キリトさんがユージオさんに何かを言ったら、ユージオさんがとても赤くなって「違うよ」と言っていた。キリトさんが何を言ったのか大分気になる。
-
- 20 : 2017/01/22(日) 20:05:23 :
- 硬い。それも異常に。1時間ほど全力で攻撃を続けているが、4本あるうちのようやく1本が削れるところである。このままでは、じきに死者が出る。ボスはドラゴン型で、攻撃パターンは爪のひっかき、デバフ付きブレス、着地麻痺攻撃、尾の一振り、飛行状態で掴みかかる、飛行状態で羽ばたきだ。その上、ステータスが異常だ。特に、尾の一振りと、飛行状態で掴みかかる攻撃はアタッカーは即死だ。デフェンダーですらHPが5割減る。
「HP残り3段!」
痺れを切らしたのか、うぉぉぉぉーと叫び声をあげてまだHPを回復させきっていない軍が制止を無視して突っ走る。本当なら、あと4,5分後に聖竜連合とスイッチする予定なので、聖竜連合はスイッチせずにとどまり、前衛に2ギルドが集まる形になった。それを待っていたかのようにボスが尾の攻撃の予備動作にはいる。
「まずい!下がれ!」
聖竜連合は即座に下がろうとしたが、軍は予備動作が見えていないのか、退却しない。そこに、尾の攻撃が来る。このままだと、聖竜連合と軍は尾の一振り攻撃でやられてしまうだろう。反射的に、尾にウォーバルストライクを放つ。一人だけなら跳ね飛ばされていたが、ユージオも同じタイミングでウォーバルストライクを放つ。まったく同じタイミングで敵に大ダメージを与えると、敵は軽いノックバックが発生することがある。ダメージが大きいほど、ノックバック発生率が上がり、今回はかなり大きなダメージを与えて、普通のモンスターならほぼ100%でノックバックが発生するが、今の相手はボスで残念ながら発生しなかった。
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉー」」
こうなったら、ソードスキルで敵の攻撃を受け止めるしかない。受けることができれば、軍と聖竜連合は死なないが、受けきることができなければ、俺とユージオもろとも死んでしまう。結果から言うと、半分成功した。ボスの凄まじい尾の攻撃は軍を薙ぎ払ったところで止まったのだ。吹き飛ばされたプレイヤーは地面に落ちることなくポリゴンが四散する。その数なんと18人。これを見たプレイヤーたちは一瞬止まってしまう。なぜなら、今までのボス戦では死者が出ることがほとんどなかったからだ。
前衛の半分が死亡して、聖竜連合もHPが半分程度。このままだと簡単にPOTローテが崩れてしまう。こうなったら、俺とユージオのコンビネーションで攻撃するしかない。ワールドコネクトでユージオに合図を送る。
「いくぞ。ついて来いよ、ユージオ」
「だれに向かって物を言っているんだい?キリト」
そして、地上にいるボスにウォーバルストライクを放つ。俺は技後硬直に、ボスはノックバックが発生する。技後硬直は約2秒ほどであるのにたいして、ノックバックは片手剣最上位技のウォーバルストライクをクリーンヒットさせても、0.5秒程度しかない。なので、俺はボスに一方的に攻撃されて、俺は簡単に死亡する。ユージオがいなければ。その0.5秒の間に、ユージオが敵の攻撃を防ぎ、技後硬直から回復した俺がユージオの隣をすり抜けて攻撃する。こうすれば、敵はこちらに攻撃することはできない。この連携はタイミングが非常にシビアでお互いが相当な手練れであり、さらに信頼していないとできない。そして、どちらかがミスをすると、即座にフォローに入る。速く。もっと速く。アドレナリンが分泌され、戦闘狂の自分に切り替わってくる。タイミングがシビア?信頼がないと失敗する?上等だ。今は本能に従って攻撃をしている。俺とユージオは声なしでそれぞれが敵の攻撃を反射的にバリィして即座にボスの懐に入る。時には連続で交互にソードスキルを放ち、時にはお互いボスの反対側に回り込み二人同時に攻撃を続ける。そして、ボスは空中に飛んだ。ここで、あるアイデアが思いつき、実行する。
凄い。圧倒的だ。今まで私たちが苦労したのが馬鹿みたいに思える。それくらい黒白の剣士は強かった。なんの声掛けもなしに途轍もなく高度な連携で攻める。時にはフェイントをかけ、時には、隙をさらし敵の攻撃を誘う。もう、ここまで来ると、芸術的とさえいえる。黒と白が入り乱れる光景に思わず、美しい・・・と呟く。もともとボスは48人で相手するものなのにそれをただ二人だけで圧倒している。
「行くぞ。ユージオ」
「失敗するなよ、キリト」
「どの口が言っているのかな?ユージオ。あと、軽装備のアタッカーを2人ほどボスの下に並べてくれ」
-
- 21 : 2017/01/22(日) 20:05:31 :
- あほらしいキリト君とユージオさんの軽口にボス戦の空気が一瞬だけなごむ。そして、キリト君とユージオさんはなぜか肩を組む。ボスの前で肩を組むと、連携が取れないというデメリットがあるのに、メリットは何もないはずである。キリト君とユージオさんなら、デメリットはなくなるかもしれないが、肝心のメリットが全く思いつかない。何をするかと思えば、ユージオさんが盾を捨て、左手でソニックリープを放つ。ソニックリープは上空にも向けることができるが、ボスのいるところまではソニックリープの射程4個分だ。届くわけがない。見守っていると、ユージオさんのソニックリープが終わると同時にキリト君がソニックリープを放つ。
「は?!」
普段まったく感情を表に出さないヒースクリフ団長がつぶやくが、もっともだ。前、検証したことがあるが、タイミングがシビアすぎて一度として成功したことがないのだ。そんなことを軽々と実行した2人は人間の範疇を超えている。一回するするだけでも非常に難しいが、あの2人はそれを5回して、ドラゴンの背中にたどり着く。驚いたことに、再び盾を装備したユージオさんがキリト君を放り投げる。まさかユージオさんがキリト君を裏切った?!
「あっあっあー」
とキリト君が叫びながら落ちるかと思えば、弧の軌道を描く。よく見ると、ユージオさんの伸ばした紐をキリト君が持っているのだ。だから背景がジャングルになったつもりで奇声を上げていたのだと納得する。そして、キリト君はボスの真下にいた2人を慣性の法則でそのままドラゴンの上に引き上げ、もう一度、下に飛ぶ。そして、今度はドラゴンの真下からソニックリープを打ち出す。ウィークポイントだったようで、かなりのダメージが入る。
「おいおい、嘘だろ・・・」
ほかの攻略組の人も絶句する。当たり前だ。ソニックリープの連携をした上、スカイダイビングを実行し、さらには腹にウィークポイントがあると仮定して、そこを攻撃したのだ。
そして、3時間の猛攻の後、18人のプレイヤーを死亡に至らせたボスは爆音とともに消えた。
このニュースはアインクラッド中に広まり、プレイヤーの士気は大幅に下がった。
また、軍を壊滅させたボスを僅か2人で引き受けた、「黒白の剣士」は名実ともに最強と呼ばれるようになった。
-
- 22 : 2017/01/22(日) 20:06:29 :
- 「次のクォーターは50層か・・・」
「そうだね。クォーターボスはほんとに強すぎるよ」
「ん?アルゴからメールが来ているよ。嘘・・・」
「どうした?!ユージオ」
ユージオが恐怖の表情とともに立ち止まったのを見て、驚いた。俺もユージオもたいていのことがあっても、無表情なので、相当大きなアクシデントがあるということになる。
「月夜の黒猫団のみんなが・・・ラフコフに捕まったって」
「嘘だろ?!すぐ向かうぞ」
俺たちは指定された場所に急行したが、既にサチとケイタとサママルしかいなくなっていた。まさか、もう殺したのか?!そうだとしたら、絶対にラフコフの連中を許さない。
「残りのメンバーはどこへ行った?」
「やっと冷徹な断罪者のおでましか。もちろん殺しちゃったよ。お前たちが来るのが遅かったせいだな。( ̄∇ ̄;)ハッハッハ。おっと動くなよ。動いたら残りの三人も殺しちゃうよ」
「貴様・・・」
「僕たちが何をすれば人質を解放してくれる?」
「そこで無様に仲間が殺されるのを見ているがいい。ああ、そこの女の子は生かしておくから」
「「「キリト。僕(私)達のことは気にせずに、こいつらを黒鉄宮送りにして」」」
「動いたら、三人とも殺すぞ。戦うとしても、こちらは20人そちらは2人だと分が悪すぎないか?」
そして、サチの装備をゆっくりいたぶるように外し始めた。サママルとケイタが止めようとしたが、動けない。
「へっへっへ。どうだ冷徹な断罪者。仲間が殺されていくのを見る気持ちは?」
「ユージオ」
「わかってるよ」
「俺達は君たちが三人を解放しなかったら、君たちをを許さない!」
「かかってこいよ」
「「この野郎!」」
そして、俺とユージオはウォーバルストライクとレイジスパイクで突進する。敵の攻撃をよけて、スラントなどのソードスキルで反撃すして、敵を8人ほど無力化したら、ケイタとサママルが殺された。最後に叫んだ内容は「「あとは頼む・・・」」だった。それを聞いた俺たちはさらに敵をなぎ倒していくが、結局サチも助けることができなかった。サチの最後の言葉は聞き取ることができなかった。
「恨むのなら黒白の剣士と関りを持ったことを恨め」
はっ。やっぱり俺たちはビーターだから人とかかわる権利なんてなかったんだ。彼らのアットホームな感じが心地よくて関りを持ったから、彼らは殺された。
この時、二人のプレイヤーのメンタルが崩壊した。
そのあとのことは俺たちにも覚えていない。気が付けばまだ攻略していないはずの26層に到着した時だった。その日から、俺たちは死に場所を迷宮区に探すようになった。
「それは本当か?」
「ああ、クリスマスにとあるモミの木の下に蘇生アイテムがドロップするらしい。これはアルゴから仕入れた情報だよ。キリト。行くよね?」
ここで少し俺は迷う。もし、蘇生できるとして、果たして黒猫団のメンバーはそれを望むのだろうか。少し考えた後に決断する。
「ああ。もちろんだ」
「キー坊とユー坊が無茶なレベリングをしていル。クライン、止めることはできないカ?」
「あのバカ野郎ども。だから、25層過ぎたあたりで、最前線から退いていたのか。もう40層まで攻略されているっていうのによう。アスナちゃんが心配しているのに馬鹿野郎。場所は?」
「27層のアリ沸き場ダ」
「おいおい。嘘だろ。あそこは2,3パーティーいないとほぼ確実に死ぬぞ。なんせ、POP速度が数秒だから、少しでも気を抜いたらあっという間にお陀仏だ」
「だから、一刻も早くいってくレ」
「あったりめえよ」
「おい、キリト、ユージオ。無茶なレベリングしてるらしいじゃないか?」
「ああ」
「そうだよ」
「まだ、あのギルドのことが気になるのか?」
「当たり前だ。ぼくたちがかかわらなかったら、あんなことにはならなかった」
「おいおい、それは自虐的だろ。おめえはおめえなりにあのギルドを助けたんだろ?それに、おめえらが手伝わなかったらどっちにしろ死んでた」
「違うんだ。僕たちが人とかかわると、レッドギルドの連中が・・・。だから、助けた後、適当なコーチを紹介すればいいだけだったんだ」
「それは、結果論だぜ?そんなこと予想でいるほうがおかしいんだ」
「クラインはそういうけど、レッドギルドの連中が俺を狙っているんだ。だから、俺たちは人と関わらないほうがいいんだ」
「でもよぅ」
「この話はもう終わりだ。俺たちはもう行く。ユージオ」
「そうだね。さようならクラインさん」
-
- 23 : 2017/01/22(日) 20:06:33 :
- 今日は12月24日。とあるモミの木の下にサンタクロースが出現して、そのドロップ品に蘇生アイテムがあるらしい。情報屋の情報をあさる限り、本当の場所を見つけている人はいないようだ。37層の迷いの森。ここの中央に大きなモミの木がある。迷いの森は、地形が3分おきにランダムに変更するので、中層プレイヤーも寄り付かない場所となっている。勇気のあるプレイヤーは、レベリングに活用しているそうだ。そこを目指して、俺とユージオは歩いていた。すると、後ろから、転移する音が聞こえる。
「追跡していたのか。クライン」
「キリト。ユージオ。俺たちと、PTを組め。そして、蘇生アイテムはドロップした人のものでいいだろうが。いいか、このデスゲームはマジなんだよ。あるかどうかもわからないようなアイテムに命かけてるんじゃねえよ」
「それじゃダメなんだ・・・。僕たち2人で倒さないと」
クラインはまるで分っていない。黒猫団のみんなを死なせたのは俺たちのせいだ。だから、俺たちの手で取り戻さないといけない。いっそ、クラインの奴らを動けなくさせてから、行くか。オレンジになるが、この場合は仕方ないだろう。そう思い、剣の柄に手をかける。クラインとの間に緊張感が走るが、さらに、クラインたちの後ろから転移音が聞こえる。聖竜連合だ。聖竜連合はレアアイテムのためなら手段を選ばない、という悪評がついて回っている。実際、一時的にオレンジになるのも気にしないようだ。
「お前たちも追跡されていたな」
そして、俺とユージオと風林火山のメンバーと、聖竜連合とが互いに臨戦態勢になる。
「おい、キリト、ユージオ。行け。ここは俺たちが食い止める」
「ありがとうクライン」
そして、即座に転移ポイントへ移動する。そして、
もみの木のしたに到着した。0時ジャストまで残り1分。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、
0
背教者ニコラスが、空を飛んでいる橇の上から飛び降りてきた。そして、ひたすらユージオとスイッチを繰り返す。この辺りは、記憶が飛んでいる。記憶が戻ったのは、LA表示が出てからだ。それにしても、このボスは強すぎる。俺とユージオのHPは残り数ドットまで削られていた。そして、目的のアイテムを探す。
「あった。還魂の聖晶石だ。やったぞ、ユージオ」
「そうだね。キリト。説明書きは・・・嘘だ」
「どうした?ユージオ。説明文に異常でも・・・嘘だろ」
「結局、蘇生できるのは10秒以内だったね」
「わかってはいたけどな・・・」
そして、俺たちは、クラインにメールを送った後、宿屋に帰った。
-
- 24 : 2017/01/22(日) 20:06:51 :
- これで、書き溜めは終わりです。感想待ってます。
-
- 25 : 2017/01/28(土) 14:03:10 :
- 続きがめっちゃ気になる!
-
- 26 : 2017/01/31(火) 19:29:33 :
- アリ(´・ω・)(´_ _)ガト♪
1週間に1回ほど更新してます。続き楽しみにしてください
-
- 27 : 2017/05/01(月) 09:17:33 :
- 信じられないかもしれませんが、
ログインできなくなったんで、pixivで投稿します
よろしく
-
- 28 : 2017/05/01(月) 09:18:03 :
- https://pixiv.me/brighton731411
です。
-
- 29 : 2017/05/27(土) 14:28:03 :
- 最後のは悲しかった感じだったけど、凄く面白かったです!
-
- 30 : 2017/10/21(土) 13:06:54 :
- よかったよ〜今回も
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