このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
餓鬼
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- 1 : 2016/12/10(土) 23:44:54 :
- おっはー!俺だよーん!(誰だよ)
今作は冬のコトダ祭の作品となります。
参加者:
・あげぴよさん
・風邪は不治の病@下ネタガチアンチ さん
・縁縄 さん
・たけのこまんじゅう さん
・パムーンにも花は咲く さん
・シャガルマガラ さん
・ベータ さん
・ノエル さん
・祭壇の地縛霊 さん
・きゃんでろろ さん
・俺だよーん
・紅クラゲがコーラン燃やしながら猫食べた←飛び入り参加
テーマ:罪と罰
登場人物:
苗木、大和田、山田、セレス、江ノ島、
狛枝、九頭龍、小泉、罪木、七海
の中から1名以上
よろしくお願いしまーす!!!
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- 2 : 2016/12/10(土) 23:49:28 :
青色の艶やかな髪を揺らし、彼女はその人物に背を向ける。無防備な背中に、一歩ずつ、だが確実に、その人物は近づいていった。
朧げな視界。
これが夢かも現かもわからない。
ただ、血を垂れ流し横たわる彼女の屍体を何処からか眺めていた僕は、これが夢であることを祈った。
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- 3 : 2016/12/11(日) 00:16:44 :
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『苗木』①
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苗木「……」
苗木「ああ、やっぱり、夢か」
むくりと身体を起こし、間の抜けた大きな口を開け、欠伸をする。
僕はパジャマを脱ぎ捨て、パーカーを着、制服を羽織った。部屋を飛び出し、急いで階段を降り、スニーカーを履く。準備万端。
扉を開けると、また新しい1日が始まる。
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- 4 : 2016/12/11(日) 00:17:09 :
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『舞園』 ②
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教室に入り、席に着くと、隣の席の苗木クンが笑顔で話しかけてきた。
鬱陶しい。
何故か、初めて会った時から拭えきれない不快感を彼は持っていた。
心の中のその黒い感情が、渦を巻き、激しい嫌悪感となって沸騰している。黒い泡が、彼に気づかれなければいいけど。
彼は利用できる。
私の直感が、そう告げていた。
舞園(だからそれまでは、私はあなたのアイドルでいてあげる)
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- 5 : 2016/12/11(日) 22:21:32 :
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『山田』 ③
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今日もいい天気、ですぞ。
鳥は囀り、穏やかな陽射しが窓から差し込み、級友と過ごす時間がゆっくりと流れていく。
ああ、本当に、稀に無性に愛くるしくなるこの世界が……永遠に続けばいいのに。
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- 6 : 2016/12/11(日) 22:22:18 :
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『苗木』 ④
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退屈な地理の授業に、気怠くなる。
世界の海流や、山脈、気候。学んで何になるというのだ。僕は、今の僕の世界を捨てる勇気も、薄情さも、持ち合わせていないのだから。
頬杖をつき、窓の外を眺める。流れていく白い雲に憧れながら、ため息をついた。
雲が、消える。
苗木「……え?」
窓に鉄板が出現し、雲を隠す。
世界が崩れていく……いや、生まれ変わっているのだろうか。床や壁が所々、不恰好に繋ぎ合わされてるように、まばらな模様をつけている。
タイルや木、その他いろいろ。大理石なんかもちらほら見える。
咄嗟に出たのは、好きな人の名前だった。
苗木「舞園さんッ!?」
彼女の方を振り向き手を伸ばす。が、歪む空間に腕を飲み込まれ、思わず仰け反った。彼女の姿は未だ確認できない。
漆黒の闇の粒が、辺りに撒き散らされていく。
苗木「ま……舞園さ〜〜〜んッ!!」
黒に埋もれながら、僕は意識を失った。
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- 7 : 2016/12/11(日) 22:23:21 :
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『真宮寺』⑤
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私は真宮寺。いわゆる、超高校級の民族学者。
長い髪を撫でながら、私は自分の置かれている状況を整理しようとした。
真宮寺「うーん……これは……」
蜘蛛の巣を避け、当てもなく歩き出す。くねくねした廊下を舐め回すように視姦し、ある結論を出した。
真宮寺「混ざってるネ……それも、一桁じゃない」
厄介なことに巻き込まれたが、生憎、私は超高校級の民族学者。命よりも優先すべきことが、山ほどある。
私はほくそ笑み、この現象の元凶を突き止めようと足を進めた。
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- 8 : 2016/12/11(日) 22:24:06 :
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『桑田』⑤
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肌に突き刺さるような床の冷たさに、起こされた。目をゆっくりと覚ますと、玄関ホールが視界に映る。
先程まで教室にいたはずなのに、一体何が起こっているのだろうか。クラスメイトの顔を思い出し、無力な拳を握りしめる。
桑田「待ってろよ……みんな助けてやっからな……!!」
勇気を出し、立ち上がった。
が、妙な物音に心臓が鼓動を打ち鳴らす。俺は急いでしゃがみこみ、側のケースが積み重なった場所に身を隠した。
桑田(な、何だ……!? 足音が重なって聞こえる……!?)
口を両手で覆い、息を殺し、身体を丸めてその身を縮める。何故か消えている照明のおかげで、暗がりの中にその身を置けた。
奇妙な足音だけが、響き渡る。
しばらくの間それは続き、長い膠着状態に俺はとうとう痺れを切らた。薄暗さを盾に顔をケースから少し出し、敵と思しき姿を捉えようとする。
桑田「ハァ……ハァ……」
暗闇を這うその姿、まるで蜘蛛の如し。
俺の身体の大きさくらいある蜘蛛の、尻を唖然として眺めていたが、首を振り、正気を取り戻した。
桑田(とりあえず良かった……奴はこっちの方は見ていない)
俺は顔を引っ込め、恐怖に打ちひしがれた。全身の震えがどうしても止まらない。
額に溜まる汗を拭うと、俺は緊迫した苦しさに喘いだ。
桑田(どうする……とりあえずは、あの蜘蛛が行くまでやり過ごすとして……)
桑田「……やっぱり、駄目だ」
桑田「見捨てれねえ……見捨てちゃいけねえ……!」
想起される、仲間との日常。ガラじゃないのはわかっている。だがしかし、堪えられない熱い想いが、心の底から湧き立つのがわかった。
桑田(なるべく足音を立てず、それでいて急げば、きっと蜘蛛に見つからずに脱出できる)
桑田(それによくよく考えたら、ここでジッとしてれば助かるなんて確証はない。さっきまでの俺はどうかしていたぜ)
蜘蛛の位置を確認しようと首を捻ると、生気の抜けた顔とバッチリ目が合った。
山田「……」
その顔は山田であり、そして顔だけでこちらをずっと見つめている。
桑田「……!?」
桑田「や、山田……?」
山田「……う」
山田の表情は強張り、目の焦点はあっていない。歯をくいしばってギシギシ軋まし、咆哮をあげた。
山田「あああああ! あうあうあああああ!! あああうあああ!!」
桑田「な、なんだよ畜生! 他の奴なら殺していいけど俺だけは殺してくれるな! 頼むからさぁ!!」
山田はようやく俺を見つめ、顎が外れるくらい大きく口を開いた。奴の口から涎が噴き出してる。
桑田「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!!?」
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- 9 : 2016/12/11(日) 22:24:52 :
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『苗木』 ⑥
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何処かから聞こえてくる悲鳴に耳を塞いだ。
強く、両手で抑えつける。
苗木「まただ……ああ」
教室で目を覚ました僕は、この異様な光景に立ち往生していた。
聞こえてくる仲間の断末魔を見捨て、僕は自分が生きることを選択したのだ。
苗木「けど、いずれここも危ないだろう。早いとこ行動を起こさないと……」
苗木「あ、」
教室のドアが、するすると開いていく。僕はそれを呆然として眺めていた。
仲間が逃げ込んできた時のためにと思いバリケードは作らなかったが、今になって後悔した。
どうせ僕は仲間を見捨てたんだ。1人や2人の差は、たいして変わらないだろう。
中に入ってきたのは長髪の男で、口元は隠されているため表情が読み取れない。
真宮寺「……」
苗木「ど、どちら様ですか?」
やっと出た声を喉から絞り、どうにか相手に聞こえるようにした。
真宮寺「私がどちら様か? それはこっちのセリフでもあるんだがネ」
真宮寺「まあいいや。私は真宮寺。ちなみに超高校級の民族学者ヨ」
苗木「超高校級!? ってことは、希望ヶ峰学園の生徒ですか!?」
真宮寺「はて……希望ヶ峰学園? うーむ、やっぱりそうなのか……」
俯き、腕を組みながら真宮寺は黙り込む。
そして、しばらくして口を開いた。
真宮寺「うん、君のおかげで確信が持てた。ありがとう」
苗木「確信?」
真宮寺「この空間が、様々な次元が混ざることで生まれた産物だって仮説の、ネ」
苗木「えーっと、言ってる意味が……」
真宮寺「そのままの意味よ。私の世界には希望ヶ峰学園なんてものはない。超高校級って言葉はあるみたいだけど」
苗木「つまり……?」
真宮寺「別々の世界が合体してる」
真宮寺「それに、混ざってる世界は少なくとも2桁はあるネ。並大抵じゃない何らかの力が働いてるわ」
彼の言葉はまるで漫画に出てきてもおかしくないぶっ飛んでいたけれど、この現状が、何より信憑性を物語っていた。
苗木「せ、世界が混ざってるって……な、何で!?」
真宮寺「何で? 何でって、世界が何で混ざっているのかってこと?」
苗木「は、はい……」
真宮寺「そんなこと私に聞かれても困るネ。これをやった奴に聞いてみれば?」
苗木「これをやった奴……? こんなことを出来る人がいるんですか!?」
真宮寺「それは……」
真宮寺「こんなことが出来る奴なんて、『神』ぐらいしかいないだろうネ」
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- 10 : 2016/12/11(日) 22:25:24 :
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『入間』⑥
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アタシは入間美兎。で、超高校級の発明家。って、そんなことはどうでもいいんだけども。
そう、こんな怪異に巻き込まれてしまった以上、日常は切り捨てなくてはいけない。
古い友との別れを惜しみ、新たな戦友と前を行く。
入間「あー!黒幕どこにいんのこれ!?」
大神「……」
狛枝「さぁ……江ノ島さんが言うには? 体育館みたいだけど……本当かなぁ?」
江ノ島「私様を信用しなさい。お姉ちゃんを走り回らせて既にデータは集めている。それを完璧に分析したのだ!」
戦刃「はぁ……はぁ……30秒以内に五階まで登って降りてくるなんて、疲れるよ……」
江ノ島「お前はだぁーってろ! いいかい狛枝先輩!!」
江ノ島「あっちに体育館がある!! そしてあっちの廊下をよく見てね!!」
狛枝「なるほど……体育館に向かうにつれて、だんだん『交わり』が増えていっている」
狛枝「つまり、『交わり』を引き起こした力は、体育館に最も大きく働いてるってことね」
江ノ島「その通り! お姉ちゃん曰く、上の階に行くほど『交わり』の数は減っていた!」
江ノ島「以上のことから、世界をかき混ぜた力を持つ黒幕は、体育館にいるのです!!」
大神「さて、ではそろそろ行くか。この狂った世界を終わらせに……」
入間「あー! それ、アタシの友達も言ってたんだけど!! パクんなよ筋肉ダルマ!!」
大神「ぬう……」
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- 11 : 2016/12/11(日) 22:25:49 :
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『???』⑦
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???「あぁ……うぅ……」
たりない。
なにかがたりない。たりないから、
ころして、
でも、
ころしてでも、
たらせなきゃ。
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- 12 : 2016/12/11(日) 22:26:13 :
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『霧切』⑤
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湿気の多い個室で、私は幾度となく目を閉じ、心の中で祈った。
「この世界が嘘でありますように」
だが、目を開く度に否定された。
これは現実。
歪な模様はまばらに散り、その光景が、視界に侵入してくる。頭を抱え、深呼吸を繰り返し気をなんとか保つ。
洋式の便器に腰掛け、また目を閉じた。
「大丈夫。苗木クンがきっと助けてくれる」
遠い昔、私をここから救ってくれた彼なら、きっと来てくれる。そう信じ、私はただ祈った。
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- 13 : 2016/12/11(日) 22:27:02 :
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『苗木』 ⑧
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真宮寺さんの衝撃の言葉に、戦慄が走った。
この馬鹿げた出来事が『神』による仕業なら、そりゃ納得はいく。だが、そんな不定形で幻想的なものの存在を認めるのは、今までの自分の価値観をひっくり返してしまいそうで怖かった。
苗木「『神』って……『神』って何なんですか……」
真宮寺さんは口元に人差し指を当て、ゆっくりと空間に浸透していくように音を吐く。
真宮寺「……合図をしたら、向こうの扉から全力で逃げよう」
目線で指示を出す真宮寺さんに困惑する。
苗木「逃げるって何から……?」
真宮寺「君は本当に質問するのが好きだネ。仲間から逃げる必要はないヨ。逃げるのは敵からだけだ」
苗木「そ、その敵はどこにいるっていうんですか?」
辺りを見渡し、敵の位置を確認しようとすると、目を動かす寸前で真宮寺さんに止められた。
真宮寺「止めろ愚図。相手が襲ってこないのは僕らがまだそいつの存在に気づいてないと思っているからだ。油断してるからだ。自殺がしたいなら勝手にしてろ」
苗木「だったら教えてくださいよ……!? 敵はどこにいるんです……!?」
真宮寺「……わかった。じゃあ“それ”が合図だ。いいな」
真宮寺さんが深く呼吸をする。
緊張で張り詰めた脚が合図を待っているその時、火蓋は切って落とされた。
真宮寺「真上だッ!!」
真宮寺さんの言葉の直後、何故だか僕は脚が出るより先に、目線を上に向けていた。
赤い髪、とんがった髪。
その髪の下には僕の級友らの顔がある。だが、さらにその下に胴体はなく、代わりに巨大な蜘蛛の身体がひっついていた。
桑田?「あぁ……お前は、ずるいぞチクショウ……小賢し小賢し小賢し小賢し……」
ひどく居た堪れなくなり(顔に出てしまっていただろうか)、僕は彼ら?に背を向ける。
僕は悪くない。
しかし過るのは、見捨てた自分。
ああ、僕が悪かった。
しかし、せざるを得なかったという言い訳を胸に、決意を秘めた足で、僕は前に踏み出した。
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- 14 : 2016/12/11(日) 22:27:54 :
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『大神』⑨
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武器を握りしめ、我らは体育館の前に対峙する。ただし我の武器はこの拳であるが。
狛枝「何故か更衣室にマシンガンがあったり、体育館に槍があって助かったよ。やっぱり僕って超高校級の幸運なのかなぁ」
入間「悦に浸るなモジャモジャ陰毛頭! それを言うなら武器を改造できた私がいたこともだろうが!!」
江ノ島「お姉ちゃんは入間お手製武器、使わなくていいの?」
戦刃「うん、私は手に馴染むのがあるし」
そう言って戦刃は、自身の持つサバイバルナイフに目を向ける。凶器を見つめているにはあまりに純粋な目で、まるで愛用の玩具を抱く子供のようだった。
大神「……何か、来る」
背後から迫ってくる不穏な気配を感じ、そう呟く。
入間「どこ……? ここ……?」
大神「彼方からだ。そろそろ見えるだろう」
苗木「ハッ……ハッ……!」
真宮寺「クソッ……マスクつけてるから呼吸し辛すぎッ……!」
苗木とよく分からぬ男が、こちらに向かって、息を漏らし、先を競うように廊下を駆け抜けている。何をそんなに慌てているのか。いや、理由は直ぐにわかった。
彼らの背後に蠢くナニカ。明らかに話し合いが通じる風貌ではないし、苗木達に危害を加えようとしているのは明白である。
大神(しかし攻撃してもいいものか……もう少し様子を見るべきか?)
頭を悩ませていると、巨大な蜘蛛が今にもその前足を苗木へ目掛けて振り下ろそうとしていた。
大神「チッ」
大神「気の早い奴らだ」
蜘蛛の図太い脚が綺麗に切断されると、それを行なった者は屈託の無い笑顔を見せた。
戦刃「大丈夫? 苗木クン」
苗木「あぁっ……はぁはぁ……戦刃さん……!?」
戦刃「うん、戦刃骸だよ。怪我はない?」
苗木「うん……背後の蜘蛛よりはマシかな」
いつの間にか斬り刻まれ、部位を吹き飛ばされ、血の海に溺れている蜘蛛は苗木にとって驚きの対象であろう。
江ノ島「アタシが足をへし折って殺った!」
入間「アタシが胴体吹き飛ばしたんだけど!?」
狛枝「僕の幸運のおかげで全部命中したんだけどなぁ」
大神(相当速かったな。仲間がどれだけ出来るのか……様子を見ておいて正解だった)
大神「さて、そろそろ大物を取りに行こうか」
狛枝「そうだね。早く帰りたいし」
真宮寺「待つネ……お前ら、その蜘蛛が何かとか聞かなくていいのか?」
江ノ島「聞くって誰に? アンタ? 悪いけど、考えても無駄なものって考えるだけ無駄じゃない?」
戦刃「そうそう、どんなのでも向かってくるなら殺さなきゃ」
苗木「!?……もしかして、クラスメイトってわかってて斬ったの……!?」
戦刃「え? うん、そうだよ。だって明らかに自我を保てて無かったし、生かしとくだけ可哀想だったから……ダメだった?」
苗木「ううん、いいや……ただ、言えなかったボクが馬鹿だったってだけだから」
戦刃「そっか……よくわかんないけど、苗木クンって、優しいんだね!」
苦々しい顔をして、黙って唇を噛む苗木をよそに、我らは前を見つめる。
狛枝「さぁ、どんな未来が待ってるのかな?」
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- 15 : 2016/12/11(日) 22:29:15 :
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『苗木』 ❶
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江ノ島さんらの背後に立ち、扉から光が射し込んでくるのを黙って見守る。
江ノ島「ちょっと眩しすぎない?」
真宮寺「……」
隣にいる真宮寺さんをチラリと、横目で見ると、随分と青ざめていた。
苗木「だ、大丈夫ですか?」
真宮寺「さぁ……ネ。少なくとも、これからは大丈夫じゃないだろうさ」
扉が開ききると、まずは挨拶と言わんばかりに江ノ島さんがロケットランチャーを打ち込む。
鼓膜が震えるのを感じ、思わず耳を塞ぐ。
突然死ぬのだけはやはり嫌であったため、目だけは見開き、体育館を覗き込んでいた。
爆発による煙が徐々に晴れていく。
【僕の視界に映ったのは、一言で表すと『歪』】
ミイラ、そういうとわかりやすいだろうか。
ミイラとはいっても包帯を巻いているわけではなく、所謂、餓死の成れの果てのような。乾燥しきり、残った搾りカスのような。
それが、二体。だが、胴体は一つ。
頭と頭がくっつき、お互いが真逆の方向を向いている。
そいつが、体育館の中心に佇んでいた。
苗木「う、うあああああああああああ!!?」
心底、震え上がった。江ノ島さんのロケットランチャーによる攻撃が無傷なのも、その馬鹿げた姿も、何もかもに畏怖を抱いた。
耳を塞ぐのをやめ、僕は逃げ出そうと決める。
こいつはきっと他の人がなんとかしてくれる。そう、他の人がーーーーー。
しかし、前にいる人間は、ことごとく、形を変えていた。
その場に寝転び、ただ床を這っている。頭も腕も足もある。ただ、胴体は芋虫であった。節をくねらせ、前に進む。自我はあるのかないのか、なかったら救いだと思った。
僕はただ歯を打ち付け、ガタガタと震える。
真宮寺「苗木クン! 逃げるヨ!」
その言葉で我に返り、無我夢中で頷いた。腰が抜けていたため、手を引いてくれたことに感謝をし、腰が抜けた理由を思い出し絶望した。
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- 16 : 2016/12/11(日) 22:29:52 :
しばらく真っ直ぐ走ると、そこら辺に座り込んだ。真宮寺さんは壁に寄りかかっている。
苗木「みんな……みんな、変わっちゃった。変なのに、変わっちゃった!!?」
真宮寺「……落ち着け。幸い動きは遅そうだった。殺さなくても良さそうだぞ。まあ、その前に我々は死ぬんだろうけどネ」
苗木「そうですよね……!? 僕らも、あんな変な姿になって……!?」
真宮寺「いや、少なくとも、今は大丈夫だと思うヨ。あいつらが変わったのは、『声』のせいだろう」
苗木「え?」
真宮寺「あの時、『神』は口を開けていた。そして君と私もロケットランチャーが打ち込まれた瞬間、耳を塞いだ。だから『神』の『声』を聴かずに済んだ」
苗木「だから、僕らが生き残って……!」
真宮寺「そういうこと。奴らの常人なら耳を塞ぐ場面でも耐える精神力と強靭な肉体のせいであんなんになっちゃったとは、皮肉だネ。まあ、だから私も勝てるかなって幻想を抱いたんだけども、瞬殺じゃ話にならない」
苗木「……僕の、まだ会ってないクラスメイトは大丈夫でしょうか?」
真宮寺「……この状況下で他人の心配か。かなり優しいんだネ」
苗木「……」
真宮寺「……さぁ。ここじゃない他の次元に行ったりしてるんじゃないかな。まぁ、どこであれ今の僕らよりはよっぽどマシだろうさ」
苗木「どうすれば……」
真宮寺「どうしようもないでしょ。あいつはタチが悪い方の神だネ」
苗木「知ってるんですか!?」
真宮寺「まぁ、伊達に超高校級の民俗学者はやってないからネ。形を見ればだいたいわかる。あいつは『渇きの神【アエン】』」
真宮寺「その名の通り、人間に飢えをもたらすのさ。さらに、飢えた人間を『飢えの獣』に変えたりする」
苗木「飢えの獣……?」
真宮寺「たとえば、腕が千切れたりしたら、人は腕を望む。腕に飢える。アエンはその渇きを利用して、人を変える。人を飢えの獣にさせる。初めて知ったけど声でもいけるらしいね」
苗木「そんな神がなんでこんなことを……」
真宮寺「暇つぶしじゃないかな」
真宮寺「まぁ、とりあえずはっきりしていることは、絶対に勝てないってことかな。こっちの攻撃が干渉しないんだからネ」
苗木「なんで干渉しないんですかね……?」
真宮寺「そりゃ奴が神だからさ。見たろ? あいつロケットランチャー喰らった後でも無傷だった」
苗木「じゃあもう逃げるしかないわけですね……」
真宮寺「ハッ! 逃げるってどうやって! 窓には分厚い鉄板!廊下には『飢えの獣』が徘徊してる!」
苗木「今、ここから逃げましょう」
僕はポケットを探り、それを握りしめ、提示する。
苗木「戦刃さんがいつの間にか持たせてくれていた、この『強化手榴弾』で」
真宮寺「入間特製武器……!」
真宮寺「って、使い方はわかるのかネ?」
苗木「映画で何回か観ました」
真宮寺「なら大丈夫だネ」
真宮寺「映画で観てる時は成功すると相場が決まってる」
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- 17 : 2016/12/11(日) 22:30:24 :
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『苗木』 ❷
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煙が薄く広がっていくのと同時に、かん高い耳鳴りも治まってきた。
真宮寺「さあ、さっさと行こう」
この音を聞いて何かがやってくるかもしれない。もたついてはいられなかった。
慎重に身を外に投じると、澄んだ空気が肺に染み入るように感じる。都会特有のスモッグが混じった不味い空気ではなく、(慣れていたせいで今まで気づかなかったが)美味しい空気だった。
理由を探っていると、辺りの建物がやけにみすぼらしい木造建築だらけであることに気づく。なるほど、ここはどこかの田舎だろうか。
ふと空を見上げると、赤く染まった雲が重鎮していた。明らかに普通じゃない。
真宮寺「……さて」
苗木「逃げましょうか」
人がたとえば“ふと”行動するとして、それは偶然だろうか。僕は、人間の生存本能による警告だと思う。いつだって、考えるより先に自分の身を護ろうとしているのだ。
反射の一個手前。第一の防衛ライン。
視界に映った、背中から羽の生えたおびただしい数の化け物の姿を一旦忘れさり、徐々に近づいてくる羽音を振り切るため、僕らは駆け出す。
真宮寺「はっあっはっぁ……! どうだろう? まだついてきてるかな?」
苗木「とりあえず、あの建物に隠れません!」
僕が指したのは、お世辞にも立派とは言い難いが、並んでいる建物の中では1番まともな風貌をしている家だった。
真宮寺さんが無言で頷くと、僕らはそのままその建物に突っ込んだ。特に仕切りなど無かったため、転がるように床を移動した。
真宮寺「もっと奥へ!」
四つん這いになりながらも、先を急ぐ。こんなところで死ぬのはごめんだ。
タンスらしき物陰に隠れ、僕らは息をひそめる。
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- 18 : 2016/12/11(日) 22:32:05 :
どれくらい経っただろうか。少なくとも、あれだけかいていた汗が乾くくらいには時間が過ぎたようだ。
苗木「……はぁ〜〜」
真宮寺「やれやれ、第一声がため息かね」
苗木「そりゃそうですよ。なんとかやり過ごしたみたいですけど、これからどうすれば……」
俯き、無力な自分の手を見つめていたが、無駄な行動であると思い直し、目線を上げる。
すると、真宮寺さんが不気味な笑顔を浮かべていた。
苗木「うわっ!?」
真宮寺「煩いネ……今、いいところなんだから黙ってなよ」
苗木「な、何がです?」
真宮寺「グフ……グフフ……聞いて驚くなよ」
真宮寺「この建物は、なんと、千年前に作られている」
苗木「? 千年前の建物がなんで今あるんです?」
真宮寺「凄いヨ! これが神の力! 空間だけじゃなく、時代も持ってこれるのか!!」
苗木「ああ、なんとなくわかりました」
真宮寺「いや〜、凄い凄い。外に竪穴式住居がちらほら見えてたから、まさかとは思ったけど……なんという幸運!」
苗木「はぁ……」
真宮寺「ここに住もうかな」
苗木「マジすか!?」
真宮寺「マジっす。マジっす。どうせ死ぬなら自分の死に場所くらい選ばせてくれヨ」
苗木「うーん、こんな薄汚い場所で死ぬなんて、僕ならごめんですね……」
真宮寺「じゃあ、ここでサヨナラだ。バイバイ。なるべく遠い場所で死んでくれ」
苗木「……」
超高校級の生徒は空間を超えてもその才能ゆえに協調性を失うらしい。
畳に寝転ぶ真宮寺さんを尻目に、僕はおもむろに立ち上がり、タンスを漁ろうとする。
真宮寺「何をしている?」
苗木「せめて武器でもないかと」
真宮寺「戦刃って奴からあの手榴弾一個しか貰ってないのか?」
苗木「いいえ、あと似たようなのが一個あるんですけど、こっちは敵に効くかわからなくて……」
真宮寺「まあ、あったらくれてやるヨ。餞別だ」
苗木「やった!」
真宮寺「ま、どうせないだろうけどネ」
真宮寺さんの言葉にムッとしながらも、怒りを堪えてタンスを漁る。
苗木「なんで言い切れるんですか?」
真宮寺「見た感じ、ここは庶民の家だ。そんなところに刀とかたいそうなものはないヨ」
苗木「くっ……ん?」
半ば諦めつつ、最後の段を開くと、長い箱と数枚の和紙を見つける。
苗木「なんだこれ?」
ゆっくり、慎重に取り出し、箱を床に置く。
真宮寺「なんだそれ?」
苗木「今から開けるんですよ」
真宮寺「どうせ衣類とかいうオチだろ」
苗木「いや……衣類だとしたら、なんか重いんですよ……」
箱の蓋をずらし、中身をさらけ出す。
中には、立派な刀剣が、その美しい刃を光らせ、ただただ存在していた。
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- 19 : 2016/12/11(日) 22:32:45 :
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『苗木』 ❸
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苗木「うおおおおおお!!?」
苗木「日本刀だ!!? かっこいい!!?」
思わず声をあげ、真宮寺さんの注意を引きつけてしまう。
真宮寺「!? 見せてくれ!!」
苗木「いいですけど、絶対に貰っていきますからね!」
真宮寺さんは刀を握ると、無言で刀身を見つめ、恍惚とした吐息を漏らす。
真宮寺「これは名刀、『吽冥』ーーーーーー。」
苗木「そういう名前なんですか?」
真宮寺「いいや、種類の話だよ。そういう種類の刀なんだ」
真宮寺「特殊な内部構造をしており、受けた振動を増幅させる。用途としては、相手の太刀を受けた瞬間、その衝撃を増幅させ、相手に返すのさ」
苗木「へ〜、なんか凄いですね……」
真宮寺「ああ! ところで、そっちの紙は!?」
苗木「なんでしょうか? 文字が書いてますけど」
僕から奪い取るように紙を掴むと、しばらく眺めた後、真宮寺さんは言葉を並べていった。
真宮寺「『これを受け取ったのが、私たちの子孫でありますようにーーー』」
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- 20 : 2016/12/11(日) 22:33:21 :
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『???』⓪
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あるところに男がいた。
とりわけ肉体が強いわけでも頭がきれるわけでもなかったが、優しい心の持ち主だった。
ある日、立派な身なりをした女が、男のいる村へとやってきた。
話を聞くと、女は貴族の決められた結婚にうんざりしたようだった。
村人はその女を快く受け入れ、女は男の家に住まうことになった。
意気投合した2人は子供を作り、出産までもう少しというところで悲劇は起きた。
渇きの神が嫉妬したのだ。
そもそも渇きの神とは、人間の渇きの集合体である。自分に足りないものを怨み、それを奪おうとする。
今回は、自由に恋をした貴族の女と、身分違いの恋をした男に嫉妬したようだった。
あえんは村に飢餓をもたらした。
村人は女のせいで災いが起きたと信じ、女を殺そうとした。
そこであえんを討とうと男が立ち上がり、女が貴族の家から持ち出した刀を握って、あえんのすみかへと向かった。
男は戻らなかったが、変わりに血のついた刀が村の外で見つかり、女は男があえんと刺し違えたと思った。
しかし、子宮から声が聞こえてきた。
【我ハ、アエン】
【コノ罪、豈ニ罰ニセザランヤ】
【罰ヲ受ケヨ】
【罰ヲ受ケヨ】
女は自分の胎児にあえんが取り憑いたと悟り、殺そうとした。
だが、男とつくった子供を殺すことはできず、いずれあえんがこの世に解き放たれた時、対抗手段として、起こった出来事とあえんを討った刀を未来に託すことに決めた。
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- 21 : 2016/12/11(日) 22:35:11 :
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『苗木』 ❹
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真宮寺「『----ということらしいヨ』」
苗木「つまり……僕らがこんな目に合ってるのは、大昔からの逆恨みってことですか?」
苗木「ははは……ふざけるなよっ!!!」
思いっきり叫んだ。ここにいることが化け物にバレようが、構わなかった。もう、限界寸前まできていた。
苗木「何が罪だ! 罰だ!! 悪いのはっ……悪いのはっ……!!」
理不尽な涙を溜め、僕は激昂する。
真宮寺「まぁまぁ、やっと帰れそうじゃないか。この家を選んだのは何らかの力が働いているような気がするネ!」
真宮寺「書いてたろ?『刺し違えた』って。つまり、この剣なら奴を討てるんだヨ!!」
剣を掲げ、真宮寺さんは家から飛び出した。
苗木「ま、待ってくださいよ……! ぼ、僕も……!」
急いで表に出ると、真宮寺さんは棒立ちしていた。いや、正確に言うと、何かを見上げて立ち止まっている。
アエンだ。
僕らの目線の先に、あの不気味な神がいる。
「……」
苗木「ここまでやってきたのか……!?」
僕は咄嗟に、道に散っていた小石を両耳に詰める。奴の声を対策するためだ。
苗木「真宮寺さんも早く!!」
僕の声に反応したのか、真宮寺さんはゆっくりと振り向くと。
真宮寺「切ったんだ……けどぉおおおおおおおお……こぽっ……当たらず……」
目の焦点をぐるぐると回しながら、泡を吹いて倒れた。仰向けになった腹から血が噴き出している。
苗木「いつの間に……!?」
彼の死を惜しむ前に、僕は小石をもっと耳の奥に詰め、対抗手段として彼の手に握られていた刀を受け取る。
柄の部分を不恰好に掴み、神と対峙した。
苗木「うあああああああああああ!!」
脚に力を込め、思いっきり跳び上がる。
苗木(いける!! 届くぞ!!)
刀を振り回すが、まるで蜃気楼を触るかのように、アエンをすり抜け、刀身は空を切る。
苗木「え……?」
片側の頭が唾を吐くと、その衝撃で左手が吹き飛んだ。頭が取れるような痛みに満ち、そこから噴き出す血をぐちゃぐちゃになりながら見守った。
地面に倒れ、ただただ呻く。
もう一度、情け無い目でアエンを睨みつけると、奴は嗤っているようだった。しばらくすると、僕に背を向けた。
苗木「……ま」
苗木「舞園さん……?」
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- 22 : 2016/12/11(日) 22:36:31 :
アエンの背中に、朧げだが、舞園さんらしき姿を見つけたのだ。
苗木(そうか……昔話の子孫は舞園さんだったのか……!)
舞園『感謝してくださいよ。アエンを邪魔して急所は避けてあげたんですから』
苗木(余計だよ……いっそ楽に死なせてくれれば良かった……)
舞園『……助けてくださいよ。私、こんな姿嫌です……』
苗木(いずれ慣れるよ……)
舞園『慣れるわけないじゃないですか!! 何のために私があなたに今まで、アイドルでいてあげたと思ってるんですか!? こういう時のためですよ!!?』
苗木(……)
苗木「……ははは」
苗木「知ってたよ……君が、僕のこと嫌いだって……」
苗木「そういや、僕も君のこと嫌いだったや……誰にでも愛想のいい八方美人で、いっつも作った笑顔ばっかり浮かべて……」
舞園「……」
苗木「けど、好きなんだ……! 矛盾してるように思えるけど、好きってのは何故か好きなんだ!!」
僕が叫んでも、アエンはまだ、こちらを見向きもしない。そりゃそうだ。僕の未来は2つに絞られているのだから。
1つはこのまま飢えの獣になる。いや、ひょっとしたらそれより先に出血で死ぬかもしれない。どっちにしろ僕が消える。
2つ目はーーーー
僕は剣を残った右手で握りしめる。
苗木「お前をぶっ倒して、元の世界に帰る……だ」
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- 23 : 2016/12/11(日) 22:37:34 :
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『苗木』 ❺
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苗木(まず考えろ……男はどうやってアエンを倒した?)
苗木(あの時あって、今ないものを思い出せ……!)
『そこであえんを討とうと男が立ち上がり、女が貴族の家から持ち出した刀を握って、あえんのすみかへと向かった。』
『江ノ島さんらの背後に立ち、扉から光が射し込んでくるのを黙って見守る。
江ノ島「ちょっと眩しすぎない?」』
苗木(そうか……『アエンの住処』……!)
苗木(奴は、『光』には干渉するんだ……!)
苗木(そりゃそうだ……物を見るってのは、物に当たった光の反射を見ているのだから……あいつが光に当たってなきゃ、姿を見れるはずがない……!)
苗木(逆に『光』にしか触れられないのなら、住処に『光』を敷き詰めているのに納得はいく……!)
苗木(飢えているからだ……! 触れることに……!)
この時、苗木誠がこのことを知っていたかどうか確かめる術はないが、1つはっきりしていることは『光は波である』。
光はその性質を変えながら、存在している。
粒になったりならなかったり、このオンオフがパラレルワールドに繋がっているのではと主張する学者もいる。
とにかく、もし次元の違う敵に攻撃を当てる方法があるのなら、それは光の性質であるに違いない。
苗木(もし光が波なら……! この『吽冥』で……! その波の振動を……!)
苗木(増幅させて……!!)
僕はポケットから戦刃さんから貰った閃光弾を取り出すと、それを空中に放った。
徐々に光の幕がはれていき、アエンの姿が見える。未だ、奴はこちらを見ていない。
それもそうだ。奴は1000年間も攻撃を喰らっていないのだから。
苗木「----ただ、学習しないな。僕らは」
苗木「人の負の感情が悲劇を生むことを、永遠に止められない」
苗木「それが僕らの罪でーーーーー、悲劇が罰だ」
僕はアエンの無防備な背中に少しずつ、だが確実に一歩を踏み出す。
右手には、何重の層となった光を纏う太刀。
苗木「贖罪の太刀、『吽冥』」
苗木「さようなら、舞園さん……」
血塗れで横たわるアエンの姿を見ながら、僕は涙を零し、これが夢であることを祈った。
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- 24 : 2016/12/11(日) 22:37:59 :
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『苗木』 ❻
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元の時代、元の場所に戻ると、世間はちょっとした騒ぎになっていた。
なぜなら、僕以外の希望ヶ峰学園の生徒が全員消えていたからだ。
新聞は集団失踪事件と銘打ち、有る事無い事書き込んだ。
僕はといえば元気だけど、最近、気になることがある。
僕の陰茎から、声が聞こえる気がするのだ。
【・・・。】
僕にまた愛する人ができたら、1000年前と同じ過ちを繰り返すのだろうか。
そうすれば人は僕を非難するだろう。
でも、悪いけど、僕は餓鬼なんだ。
ごめんね。1000年後の僕。
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- 25 : 2016/12/11(日) 22:40:47 :
- 完結!! 最後まで見てくださいました? だったらありがとうございます! 少しでも楽しんでいただければ幸いです! 霧切さんはちなみにあの後も死ぬまでずっとトイレに篭ってます。
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- 26 : 2016/12/11(日) 23:52:32 :
- V3キャラとその特徴を織り交ぜた個性的な構成が見事でした。参加ありがとうございました!
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- 27 : 2016/12/14(水) 22:21:05 :
- なんかこう、独特なストーリーですごかったです。
トイレの響子さん…ww
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- 28 : 2016/12/15(木) 13:44:40 :
- 他の方々の作品を見た中で一番好きです。
サ〇レンっぽいなと思ったのは自分だけでいい。
霧切さんを救う展開があるかと思ったらそんなことなかったぜ!
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- 31 : 2016/12/16(金) 01:01:17 :
- >>30
口調が是清に……是清血清飲ませなきゃ(使命感)
読んでいただきありがとうございます!
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- 32 : 2016/12/19(月) 16:40:04 :
- Deは荒らし
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- 33 : 2016/12/19(月) 21:35:36 :
- >>32
誰がどう見ても君の方が荒らしなんだよなぁ
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- 34 : 2016/12/20(火) 09:30:06 :
- 途中、『戦刃むくろ』が『戦刃骸』になってますよ
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- 35 : 2016/12/27(火) 02:00:06 :
- >>34
そうした方が作品の雰囲気に合うかなと思ったのでそうしました!(言い訳)
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- 36 : 2016/12/27(火) 03:25:27 :
- 早ければいいってもんじゃなかろうに
真宮寺のキャラ違うだろ
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- 37 : 2016/12/27(火) 10:40:09 :
- 体験版やってから見ると、確かに微妙にキャラズレてるんだよなぁ…
ストーリーも暗示しすぎて逆に創造し辛いし、最後までイマイチはっきりしないし、正直そんなに面白くなかった 次に期待します
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- 39 : 2016/12/30(金) 22:50:53 :
- 指摘ぐらい真摯に受け止めろよ
そんな餓鬼みたいな精神だからいつまでも二流止まりなんだよ
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- 40 : 2016/12/31(土) 01:32:50 :
- >>39
俺は三流だぜ! 悪いな!
受け止める批判と受け止めない批判は俺が決めます!!
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- 41 : 2016/12/31(土) 11:31:47 :
- >>39
いつから二流三流決められる立場になったんだ?
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- 42 : 2017/01/04(水) 01:35:56 :
- 原作を一切大事にしない時点でダンガンロンパに対する愛も無いんだろうな。 流で呼ぶのもバカバカしい。
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- 43 : 2017/01/04(水) 01:46:42 :
- メアリースーが多すぎるんだよなぁ…
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- 44 : 2017/01/04(水) 01:58:17 :
- >>39
タイトルの餓鬼とかけた餓鬼なんだねお前最高
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- 45 : 2017/01/04(水) 11:46:10 :
- >>43
メアリースーの意味もう一度調べてこい
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- 46 : 2017/01/05(木) 06:38:34 :
- どうせ素人なんだし二流でも三流でもいいがその二流三流の作者がgood貰ってランキング入ってるのは事実
ここの他の奴より面白い証拠だろ
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- 47 : 2017/01/09(月) 00:11:52 :
- あの、取り敢えず作品に対するコメント欄で作品に関係のない批判するのやめません?
貴方たちは面白くて済むのでしょうが、純粋に作品のみを楽しみにやってきているものからすれば大分迷惑なんです。。
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