このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
さよなら、憐れな俺
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- 1 : 2016/09/25(日) 00:13:00 :
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希望の朝だった。
なんてことない秋の平日だが、俺にとっては超絶スーパースペシャルプレミアム朝って感じなんだ。
何故かって?そんなの、この地味めの制服と輝く校章バッジで一目瞭然だろう。
そう、俺は今日から希望ヶ峰学園の一員となるのだ。
入学時点で勝ち組同然だからな、卒業しようものなら勝ち勝ち勝ち組、くらいになるだろう。ウィンウィンウィーン 、くらいだろう。
昨日は緊張と喜びで寝付けなかったが、今日はそうはいかないぜ。
……まぁ、まだスタートラインに立っただけなんだけどな。
これからは、否 、これからも容赦なく試練は降りかかってくるだろう。努力も想像を絶するほど必要だろう。
それでも構わない、俺は希望を掴み取るんだ。
かの『超高校級の英雄』をも超える希望となり、必ずや高額納税者ランキングに名を刻む……ってのは冗談だけどな。
路地に入る。ここを抜けるとフワッとした風が俺を包んでくれるんだぜ。
あと3m、ほら、もう風を感じるぜ。
あと2m、路地の先は光り輝く。
あと1m、待った後ろに誰かいる。
俺は後頭部に衝撃を受けて倒れた。
───────────────
朝、その姿を見つけた。
その制服はまさしく希望ヶ峰学園のものだ。
天然の薄い茶色がかかった短髪も……。
俺はパーカーのフードを深く被り直して後を追う。
肩がいつもより上がっている。
こいつかなりテンション高いな、と感じた。
信号待ってる間も独りでブツブツなんか呟いてたし。
男は高揚したステップで路地に入る。
しめた、と思い俺はズボンからレンチを取り出した。
残り4m、男は俺に気づかない。
残り3m、距離を詰める。
残り2m、男が振り向く前に俺はレンチを振り下ろした。
一仕事終えたようにふうっと肩の力を抜く。
男が気を失っていることを確認すると男が肩にかけていたスクールバッグを漁る。
目的のものが見当たらなかったので今度は制服のポケットを探った。
やっと見つけた紙切れを、資格の合否の葉書を開くような気持ちで広げる。
「クソッ!!」
先程までは宝の地図と同等だった紙切れをゴミ同然に破り捨てる。
「ここでも俺は予備学科かよ ッ!!」
腰から拳銃を取り出して男の後頭部に突きつける。
「─────さよなら、憐れな〝俺〟」
引き金を引くと、ポシュっと情けない音を立てて男の頭に血花が咲いた。
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- 2 : 2016/09/25(日) 00:17:19 :
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「おーう、お帰り日向」
幾つかのモニターの光だけが部屋を照らす中、蛍光色の作業着が視界で明るみを持っている。
「どうだった?」
「ダメだった……クソッ!」
タイムマシンだなんて非現実的な装置から出てきた俺は端のソファにドッと座り込む。
「どこなんだよ……俺が本科に入学する世界線 は……」
「諦めた方がいいんじゃねーの?んなもん在んの?」
「あるだろ、一つくらい」
「日向君、どうだったかね」
キイっと扉を開けて鉄板の階段を降りてきた学園長は日向の顔色見るなり口元に手を当てて答えを躊躇った。
「そうか、駄目だったか」
「今回はダメでした。けど、あるハズなんです」
就職してから青春時代を「もっと楽しめばよかった」「もっと勉強しておけばよかった」なんて後悔するのは、成人した人間達にはよくあることだろう。
それを取り戻そうとするのもまた然り。
仕事の合間に習い事、なんて疲れそうなことする人間もいると思う。
俺もそれに近いことをしようとしている。
……勿論、愚かなのは分かってるさ。
けど、未来や運命は進路と同じで、選んだところへ必ず行けるわけではない。
まぁ何もかも思い通りの人生だった奴もいるんだろうけど、だからこそ理不尽だと思わないか?
それが生まれながらの運命ならば尚更だ。
そしてそこにワープ装置やタイムマシンなんてものがあれば、その理不尽を捻じ伏せようと考えるのも無理はないだろう。
そんなところさ。
俺は始まりから失敗した自分の青春を取り戻したいだけだ。
予備学科なんかじゃない、本科に入学した世界線で『希望ヶ峰学園の生徒』として人生を歩む。
ただそれだけだよ。それだけなんだ。
それだけなのに─────。
「なあ日向、やめとけって。お前が虚しくなるだけだって」
「五月蝿い」
「その世界線に行けたとして、そこが自分の世界じゃないって一番感じるのはお前だぞ…?」
「五月蝿い」
「まあ左右田君、これは彼の物語さ。彼の意志を尊重しようじゃないか」
「…………」
「ま、まぁ頑張れや。ほら、次の世界線見つけたぜ」
「……おう」
出てきた装置にまた入っていく日向。
パッと光って一瞬でいなくなった。
「……学園長、何であいつに時間移動 の許可を?」
「ん、まぁ……私に似ていたからかな」
「私も出来るなら……人生をやり直してみたいものだよ」
───────────────
「ここは……校舎?」
辿りついた先は希望ヶ峰学園の中だった。
おそらく既に入学した後の世界線である。
(この近くに〝俺〟が……)
音を立てぬように廊下を歩き、人の気配を探る。
すぐ近くに聞いたことのある声がした。
姿勢を低くして歩く。
「お前さあ、予備学科だぜ?夢見たって何もできねぇーって。希望ヶ峰 に来ただけでも十分だろ」
「……五月蝿い。俺は絶対に……」
「やめとけやめとけ。虚しくなるだけだぜ」
(……ここでもか)
同じく予備学科の村松と二人で話していた。
確か俺は、放課後のこのくらいの時間にあいつとそんな話をした記憶が─────。
俺は拳銃を取り出す。
「ま、まぁ……頑張れや」
「……」
〝俺〟は返事をしないまま、下校する村松の背中を見つめている。
一人ぼっちの教室に入り、〝俺〟の頭を撃ち抜くのは容易かった。
何も言うことはない。
何を返すこともない。
俺は左右田の元へと戻っていった。
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- 3 : 2016/09/25(日) 00:21:55 :
「俺が設計したやつだし、お前に持たせたのも俺だけどよ」
左右田は作業しながら話しかける。
「その銃、使ってるのか?」
「使ってるよ」
「何に?」
「〝俺〟を殺すのに」
「お前今まで出会った別世界の自分一人ひとり殺してんの!?」
「当たり前だ」
日向は弾を込めながら応える。
「そうじゃないと……またその世界で予備学科の俺が生まれるかもしれない」
「んなざっくりした理由で人殺すなよ!大体何理論だソレ!」
はぁっと溜息つく左右田を他所に、準備完了とばかりに日向はマガジンを装填し立ち上がった。
「次だ、行ってくるよ」
「……おう」
光と共に消えていく日向を見送り、蛍光色の襟で首の汗を拭き取る。
「無茶だけはすんなよ……マジで」
───────────────
「……ん」
目を覚ましたのは、夜の公園だった。
(今までにないケースだな……〝俺〟どころか人の影すら見当たらない)
と思ったのも束の間。
すぐに中年男性の叫び声とともに2つの影が俺の目の前を横切った。
「待て、待てええ!!」
「ハッハァ!そんな鈍足で俺が捕まえられるかよ!鬼ごっこにしちゃEASY過ぎるぜ!」
(ア……アァァ─────!!!)
中年男性の警官が追いかける黒い影。
月明かりに照らされる白い運動靴が、公園の街頭を横切ったその一瞬。俺は目に、いや、脳に焼き付けた。
服も無ければ下着も無い、ネクタイ一丁だけを身に纏い風の如く駆け抜ける男。
警官が必死に追いかけるその変態 は間違いなく俺だった。
(こんな未来俺は知らねぇ!!)
結果的に〝俺〟は転倒し、警官3人に囲まれて現行犯逮捕。
俺は出る幕もなくこの世界を後にしたが、社会的に死んだからもう充分だろう……。
──────────
「………」
先程の情景が頭から離れず、また変な〝俺〟に遭遇するんじゃないかと警戒してしまう。
ちなみに左右田に話したら大笑いされた。
ここは、校庭か。
小さくて分かりにくいが、聞いたことのある声がする。
誘われるように声の方へ歩みよると、俺はその主に、その光景に驚愕した。
慣れたような手つきで罪木の身体を弄るその男はどこからどう見ても俺だった。
何を言ってるかまでは分からない。
けど罪木は別段嫌がっている様子ではなかった。
突然にチャイムが鳴ると〝俺〟は指を丁寧に拭いて制服を正して立ち上がる。
二人はせっかちにキスを交わした。お楽しみは放課後までお預け、という奴だろう。
「…………もう……本科に………」
怒り。
驚愕からの一転した憤怒だった。
小声で遠くて、何を言っているか聞き取れない会話の中で、一番聞きたくなかった部分だけが妙にハッキリ聞こえてしまった。
─────きっと俺も、もうすぐ本科に行けるんだ。
俺は予備学科で人間の錆びれたような生活を送っている中でこんなことができたか。
本科の生徒と対等に話したことがあったか。
増してや本科の生徒と、こんなこと─────。
コイツハ、オレジャナイ。
自分勝手な怒りは銃を握りしめる手に必要以上の力を与える。
ただの嫉妬だ。醜い妬みなのは分かってる。
だが今の俺は〝俺〟を、いや、奴を殺さずにはいられなかった。
目的を見失った銃は鏡写しの眉間に弾丸を撃ち込んだ。
誰か分からなくなるほど顔が崩壊した自分の死体をよそに、急いでこの世界から立ち去った。
「……ダメだ」
左右田はいなかった。
いや、今は誰もいない方がいいか。
本科の生徒ではない。
けれども幸せな俺はいた。
だが、認められなかった。
自分と同じ予備学科 でありながら勝ち組にいるのが、許せなかった。
例え俺があの世界に住んだとしても「何かが違う」と一番感じるのは自分自身……。
なんだろう、何か腹立つ。
なんで予備学科のくせにあんな幸せそうにしてんだ。
俺は本科に入学してこそ本当の幸せを、本当の未来を得られるんだ。
……そうに決まってる。
そうでなければ、何の意味もない。
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- 4 : 2016/09/25(日) 00:28:24 :
それに、俺はただ本科に入りたいわけではない。
俺が予備学科にいる限り、どの世界線でも〝あの計画〟が待っている。
あれだけは阻止しなければならない。
上の人間を全員殺してでも……。
「お、帰ってきたか」
カン、カンと音を立てて左右田が鉄板の階段を降りてきた。
他の場所のメンテナンスでもしていたのだろうか。
「その顔じゃ……ダメだったみてーだな」
「…………おう」
「まぁ……ほら、次行ってこいよ」
立ち上がったそのとき、ソファの端に薬品が置いてあるのを見た。
「左右田、これは?」
「あぁそれか?麻酔よ麻酔」
「麻酔」
「おう。オメー危なっかしいからその銃麻酔弾に変更しようかと思ってよ」
「…………」
「これ借りてく」
「それ自体を??」
「ああ。ついでに布もくれないか」
「布」
───────────────
「ここは…」
ネオンがキラキラ輝く夕闇の並木道。
左側の広場では大きな噴水が白く光って夜の始まりを告げる。
「寒ッ……!!」
周りの人間は皆コートなりジャケットなり身を包んでおり、吐く息は白い。
ショーウィンドウのマネキンもエレガントなコートに包まっている。
どうやら季節は冬のようだ。
俺は着ていたパーカーの袖を思いっきり伸ばして〝俺〟の訪れを待った。
フードを深く被って冷えた頬を守る。
「……ん?」
噴水の近く、携帯を見ながらしきりに周りをキョロキョロする女性に見覚えがあった。
サラサラなびく黒い髪に、この距離でもわかる吸い込まれそうなぱっちりした瞳。
そして清純派な外見でありながら溢れ出す、不思議なオーラ。暖かい気迫とかじゃないぞ。
思い出した。彼女は、あの超人気アイドルグループのセンターマイク、舞園さやかではないか。
変装もせずにあんな目立つ場所にいていいのか?と思ったが、なんとすれ違う者が誰一人として彼女に反応を示さないのだ。
あまりに不思議な光景に、俺は幽霊を見ているのだろうかと自分の目を疑った。
そして気付いた。
この世界の彼女は、アイドルではないのだ。
だから誰も彼女の存在に気付かない。
その正体が一般人なら誰も彼女を気に留めるはずがないのだ。
何だかもどかしい気持ちになりながら彼女から目をそらす。
するとどうだ、次の波がやってきた。
〝俺〟だ。
洒落たコートを着こなして早足で俺の視界を駆けて行く。
そいつの行き着く先は……先程まで注目していた、舞園さやかだった。
馬鹿な、舞園とデート?
一般市民であるこの俺が?
いや、向こうも多分一般人だけども。
広場から消えていく二つの影を俺は音を殺して尾行した。
不穏な気配の行き着く先は………
先は………。
「…………ラブホ………」
腕を組みながら中へ消えていく2人。
おいまさか………………援交???
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- 5 : 2016/09/25(日) 02:25:28 :
- 期待っす!
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- 6 : 2016/09/25(日) 20:31:37 :
麻酔を付着させた布でフロントの男性を眠らせて距離を置きながら2人の後をつける。
(部屋に入った……さすがに突撃するわけにもいかないな)
しばらく廊下で待っていよう、と角を曲がったそのとき、部屋から〝俺〟が出てきた。
一瞬驚いたが、チャンス。別の階段を使って俺も降りていく。
どうやら飲み物を買いに降りてきたようだ。
周りには誰もいない。
「動くなよ」
銃が見えるように顎に突きつける。
「な……何だ……?」
「お前、年齢 は?」
俺が俺に銃口を向けている姿が自動販売機にしっかり映っている。
まるでSF映画のワンシーンのようだ。
「聞いて……ど、どうする」
「安心しろ、何にも悪用わねぇし誰にも喋らねぇよ」
自分の声が結構高い方だとこの時初めて感じた。
俺は声をなるべく低くして〝俺〟に尋問を続ける。
「ただちょっと確認したいだけだ。死ぬのと答えんのどっちを選ぶんだ?」
「……21だ」
「出身校は?」
「希望ヶ峰学園だ……本科ではないが」
「今は仕事 やってるのか?」
「い、いや。株で稼いでるだけだ……」
「……あの女は?」
「出会い系で、見つけたんだ……ひとつ歳下で……援交ってヤツだよ」
「詳しく話せ」
「さやかって子だ……。アイドルを目指してたらしい…プロフに書いてた。けど叶わなくて……生活費をこうやって 稼いでるんだろう多分」
「……そうかい」
「な、何なんだアンタ、何の用なんだよ」
「別に」
そう言って俺はもう片方の手に握っていた麻酔布 で口を塞いだ。
深夜で誰も通らない裏口に寝かせておくとまた廊下と階段と足を運んでいく。
「予備学科な上に無職に株だと?ふざけるなよ」
鍵は……大丈夫だよな、中に人いるんだし。
俺は何も無かったかのように普通に部屋のドアを開ける。
ベッドには準備 していたのであろう舞園がいる。
「おかえりなさい……あれ、飲み物買ってこなかったんですか?」
育ちの良さを感じさせる物腰丁寧な口調は変わらない。
変わったのは……夢が叶ったか、そうでないか。
それだけの違いが、この選択と結果を生み出してしまった。
「あんまりいいのが無くてな」
上着だけだが、服装も変えてきた。
同じ顔に同じ声の人間が入れ替わっていても普通ならまず気付かない。
特に怪しまれてもいないようだ。
「そ、それで……今日はどうします か?」
「……………」
人間は、恐ろしい生物だ。
金のためとはいえ、何も知らない他人に簡単に自分の身体を売る。
一抹の不安もあるだろう、しかし彼女には自分の身体の未来よりも目の前の金が大事なのだ。
「これで」
俺は札束を取り出した。
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- 7 : 2016/09/26(月) 21:32:04 :
「どうした、日向」
珍しく九頭龍が左右田の研究室に来ていた。
「どうしたって……逆に普段の俺とどこか違うのか?」
「首の無数のキスマーク」
「アッ」
「それとなんか全体的にイカ臭がする」
「アッ」
「ナニしてきたんだお前……」
「べ、別に何も無えよ。お前こそ何しに来たんだ」
「お前と左右田が面白そうなことしてるみてぇだから見に来たんだよ」
「……家柄だけで、何もしてねぇのに学園から招待来てたような俺には分からねぇ世界だからよ。興味あんだ」
こいつはこいつなりに俺のこと気遣ってくれてるんだな、と感じた。
「おう日向、帰ったかよ」
左右田の声。
俺は合図のように立ち上がる。
「次の世界線見つけてるぜ……ってどうした日向、やけに恍惚な表情してっけど」
「な、何でもない」
───────────────
〝俺〟はいじめられていた。
加害者と〝俺〟を容赦なく射殺。
───────────────
上とほぼ同じ。
ただそれだけ。
───────────────
俺は生徒会長だった。
普通の、なんてことない高校。
迷った。
ここの〝俺〟は殺すべきか残すべきか。
その後生徒会の真っ黒い裏を見てしまったことで俺は躊躇いなく引き金を引いた。
そんな感じを、繰り返していた。
何度も何度も、自分の顔を見た。
何度も何度も、自分の死を見た。
まるでドラマの中にいるような感覚だ。
だが、何度〝俺〟を殺しても本科に入学する世界線に辿り着けないのだ。
「……………」
貧乏揺すりがガタガタと音を立てるのも気に留めず頭を抱える。
何故だ。
何故、思い通りにならない。
誰だって様々な未来が、無数の世界線がある中で。
その中で何故俺の望む世界に辿り着けないのだ。
「日向……次で最後だ」
「!」
「これ以上の分岐が見つからねえ。次で見つけられなければもう諦めろ」
次が……最後。
絡みつく鎖を断ち切れるか。
「……行ってくる」
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- 8 : 2016/09/27(火) 07:04:00 :
- 日向頑張れ
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- 10 : 2016/10/07(金) 19:15:53 :
- 「…………?」
なんだ、この世界は。
地を覆い尽くす木の枝、ゴミ、瓦礫。
濃霧と厚い黒雲で視界が効かない、どこまでも荒廃した世界。
(人跡未踏……ではないよな?)
ザクザクと音を立てながら手探り同然に歩く。
この世界が、俺にとって良いものとは到底思えない。
増してや本科の俺がここにいるなんてとてもじゃないが……。
「………ん?」
ふと足元に星型のような何かが落ちているのを発見した。
潰れたガラクタが覆う地面のなかで形あるそれは一際目立っていたのだ。
「これは……手!?」
切り離された白い手。
持ち上げでもしたらボロボロになりそうなくらい腐食しているようだ。
少なくとも人がいる。
それが分かると俺はまた歩き出した。
───────────────
もうどれくらい歩いた?
未だにゴミだらけの道を歩いているが人も建物も見当たらないではないか。
建物が崩壊したような跡は何度か見たのだが……。
酸素が薄いのか、体力の消耗が激しい。
進めど進めどゴミ、ガラクタ、瓦礫、建物跡、山。
山?
山……
「山……だ、山がある」
ゴミの積み重ねだろうか。
ガラクタが重なったか。
工事中の土砂なわけはあるまい……だけど一軒家ほどの大きさのあるそれは明らかに人工的に集められて出来たものだ。
霧のせいで影しか見えぬその山へ近づいていく。
ついにそれを目の前にして、俺はドッと汗が噴き出た。
見覚えのあるネクタイ。
見覚えのあるワイシャツ。
見覚えのある靴。
そして、見覚えのある銃創。
ゴミでもガラクタでも瓦礫でもない。
その山は正真正銘、〝俺〟の屍体の積み重ねで造られていた。
「何だよ……コレ、何だ!?」
「待ってたよ、お前」
薄くなっていく霧の中の声は、山の上で俺を見下ろしていた。
「お前………お前、何で、何故………」
「簡単だよ。生き残りが俺とお前だけだからだ」
霧は晴れて、夕陽が声の主の姿を型取る。
その丸裸にネクタイ一丁の人物には見覚えがあった。
夜の公園で警官に捕らえられた、変態の〝俺〟だ。
「何で……お前が……?」
「お前を消すためだ」
消す……?俺を???
「見えるか、俺の足元、つまりはお前の目の前の山が」
「これらは全て、お前が殺した自分自身だ」
「こ、これが!?」
「お前、本当は救われたかった んじゃないのか?」
「お前が殺した〝お前〟も、予備学科だった。同じように世の理不尽さを嘆いていた」
「だが、それをねじ伏せて蓋をしようなんて考えたのはお前だけだ。他の〝お前〟は皆真っ直ぐに努力していただろう。そうでなくても目に見えて非現実的で汚い方法は考えなかった」
「自分自身を受け入れることさえしなかった、一番汚れてるのはお前なんだよ。なぁ?」
「─────いちばん消えるべきなのは、だれだ?」
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- 11 : 2016/10/07(金) 19:16:50 :
- 「俺……俺は……」
何人いるんだ?100人?200人?
白目を剥く〝俺〟。
充血した目で虚空を見る〝俺〟。
これを、俺が……。
「誰のせいで出来た山だ!?誰が真っ当な人間を皆殺しにしたからこうなったんだ!?」
「ち、違う、俺は……」
「最後の世界線で自殺した〝俺〟の遺書を読んだ!!アイツは将来希望ヶ峰に行く以上の人間になり得る有望な〝俺〟だった!!それをお前が無差別に殺したせいで……」
「どうしてくれやがる!!この俺の未来さえ真っ暗だ!!」
「ここが何処だかわかるか?ここは正真正銘、希望ヶ峰学園 なんだよ!!」
……は?
「この世界はかつてお前が〝俺〟を殺しにやってきたあの夜の公園、あの世界だ!!」
「お前が全ての未来に、全ての世界に影響を及ぼした所為で、俺のいるこの世界は屍体が送られてくるだけの荒地と化した!!」
「お前は自分が探していた人間の未来を、自らの手で奪ったんだ!!」
「〝超高校級の陸上部〟の─────この俺の未来を」
──────────は?
思考が断絶。
次に耳を疑った。
コイツが、本科の生徒。本科の俺。
ここはコイツの世界。
俺は、俺の求めていたものを自ら破壊した?
コイツが……この世界が、俺の希望だったというのか。
そして希望 をたった今失くしたことも知った。
「ハッ………はは、はははは」
もう新しい世界はない。
〝俺〟の死は数え切れない屍を生んだ。
俺という存在はもう此処にしかいない。
俺が、最後の、予備学科。
最後の、消えるべき、存在。
「─────さよなら、憐れな俺」
───────放たれた銃弾は山の頂点の眉間を貫いた。
「冗談じゃねぇ!そんな上手い言葉で俺が死ぬかよ!」
「予備学科だろうが何だろうが、もういい!!」
「俺は俺だ!!もう俺しかいないのなら、俺を認めて生きていくさ!!」
「─────ハハッ」
〝俺〟は最期に嗤った。
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- 12 : 2016/10/07(金) 19:17:31 :
───────────────
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- 13 : 2016/10/07(金) 19:17:53 :
- 「お、日向……どうだった」
左右田と九頭龍が待っていた。
俺の顔を見てきょとんとしている。
「見つけたよ。正しい俺の形をな」
「……へ?」
「予備学科でも普通の学校でもはたまた学校に行ってすらいなくても、幸せそうな俺はいた」
「だから俺もそうするんだ。今の俺を受け入れて、そのうえで俺の幸せを見つけるよ」
「は、はぁ……まぁ、一応学園長に伝えとくよ」
「………頑張れや」
驚いたままの背中で去っていく左右田と、俺を見て微笑む九頭龍。
過去なんて案外どうでもいいもんだな。
大事なのは未来 だ。
ここから俺は─────俺の理想を掴む。受け入れて今を生きる !
完
-
- 14 : 2016/10/07(金) 19:22:28 :
- どうも、あげぴよです。
この作品はたけのこまんじゅうさん主催の、秋のコトダ祭りのために書き溜めしていたものでした。
しかし、テーマである『人間関係』に途中から合わなくなってきたので急遽ボツにしたものを、普通の作品として編集して投稿いたしました。当初はそれ意外は満たしていたんですがね。
最後も日向が自殺して終わりというものでしたが急遽変更してこのようになっております。
秋のコトダ祭りは終了いたしましたが、これからもこういった企画などでnoteが活気ついてきたらいいなぁなんて思っていたり。
-
- 15 : 2016/10/07(金) 22:08:09 :
- 凄く面白かったです。自業自得、ということなのですかね…。
お疲れ様でした!
- このスレッドは書き込みが制限されています。
- スレッド作成者が書き込みを許可していないため、書き込むことができません。
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