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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

春を捨てた青少年達

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  1. 1 : : 2016/09/11(日) 07:32:58
    おはようございます。
    今回秋のコトダ祭りに参加させて頂きます。

    ジャンル『青春』
    テーマは『人間関係』
    キーワード『殺人』

    他の参加者様は以下の通りです。
    ・たけのこまんじゅうさん
    ・風邪は不治の病さん
    ・シャガルT督さん
    ・あげぴよさん
    ・スカイさん
    ・ゆーたまろさん

    豪華なメンバーの中に自分がいて不安ですがワクワクもんです。
    気持ちいっぱい込めまして書きました!
    次から本編です!最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
  2. 2 : : 2016/09/11(日) 07:35:51

    桜舞う校庭の一角。希望ヶ峰学園はその規模に違わず庭園を備えていた。

    学園の中心の広場では、美しい景色を見るわけでも、談話するわけでもない男女が1組、四角い画面を見つめていた。

    ベンチに並んで座り、レトロゲームに打ち込む2人。そのうち彼がゲームオーバーになって、沈黙は破かれた。

    「あっ」

    彼、日向創は悔しそうに頭を掻いた。尚も画面を注視する彼女、七海千秋を見下ろした。

    やはり彼女は才能の持ち主だ。日向はそう感じた。超高校級のゲーマーとして学園にスカウトされた七海は、予備学科である自分を見下すでもなく、こうして一緒にゲームをしてくれる。

    才能を持つ人間は、威張っているものだと思っていたから。日向は七海に好印象を抱いていた。

    しばらくして彼女のゲーム機からゲームオーバーの音楽が流れた。

    「むぅ」

    七海はあからさまに不機嫌がった。記録が更新できなかったからなのか、それは日向にはわからない。

    「なあ、七海。俺といて楽しいか?」

    日向は思っていたことをそのまま口に出した。やはり天才ゲーマー。凡人といて楽しいのか疑問に思っていたから。

    「当たり前だよ。だって、楽しくなかったら一緒にゲームやってない」

    「そうか。お前は俺が予備学科だからって言わないんだな」

    「そんなの関係ないよ。予備学科だと駄目なの?」

    「いや、別に駄目とかじゃないけどさ……やっぱり自信が無いんだよ。俺」

    七海の隣に、自分がいていいのか。自分が超高校級の隣に相応しくない身分なのではないか。日向はそんな不安を抱えていた。

    「自信が無い、かあ。私も、自信が無いこと1つあるよ」

    「以外だな。なんだ?」

    「えっとね、恋愛ゲーム」

    予想外だったような予想通りだったような返答に日向は困った。

    「どういう選択をしたら、相手が喜んでくれるかとか、わからないんだよね。だから、友達も少なくて」

    「……」

    「だからね、私、日向君と友達になれて嬉しい……と思うよ」

    その後はすぐ、何の他愛も無い会話に戻ってしまった。七海はまたねと別れを告げて本科の方に戻っていった。

    残された日向は、何かが疼くような感じがした。もちろんその正体に気づかないほど彼は子供ではない。

    「友達か……」

    友達。疼きの正体に気づいてしまった日向に、友達という関係はとても複雑な感情を抱かせた。

    どうしたら友達以上に、そう考えてしまった。

    日向はどうしても、才能が必要という結論しか出てこなかった。

    その原因は日向が才能に固執していたこともある。それからもう1つ。彼の前にぶら下がったプロジェクトが脳裏をちらついていたからでもあった。
  3. 3 : : 2016/09/11(日) 07:38:10

    所変わって本科の校舎。ある教室。

    77期生生徒たちは昼休みにそれぞれ談話していた。

    「こ、こ、こ、転んでしまいましたぁ〜!!」

    ガシャガシャと大きな物音。音の発生源には罪木蜜柑があられもない姿で目に涙を貯めていた。

    「罪木さん、大丈夫?」

    たまたま近くでゲームをしていた七海が手を差し伸べる。

    罪木はぐすぐすと涙ぐみながら立ち上がった。

    「落としてしまった薬瓶を拾いに行ったら躓いてしまって。鈍臭いゲロブタでごめんなさいぃ……」

    「謝ること無いよ。怪我、ない?」

    「はい、大丈夫です……。お礼になんでも言う事聞きますから許してください!」

    七海は困った。こういう時、どうすれば。罪木の人柄もまだよくわかっていない。ただそれは罪木も同じはず。

    「じゃあさ、一緒にゲーム、やろうよ」

    こういうことは得意分野で。いつか日向が教えてくれたことを思い出した。

    「ふぇ?脱がなくていいんですか?」

    「なんで脱がなきゃいけないの?」

    つい質問に質問で返してしまう。お互いの常識がズレた時、話は噛み合いにくくなる。

    「だって、私が脱いだり落書きさせると喜ばれる方が多かったですから」

    「苦労、したんだね」

    「苦労じゃないですよ。私、皆さんに嫌われるのは嫌ですから。当たり前です」

    その言葉に七海は耳を疑ったが、罪木は笑っていた。

    七海は、彼女が歪んでいると思った。以前から変わっているとは思っていたが触れてみてわかる。変わっているのではなく、歪んでいるのだと。

    罪木にとってはそれが当たり前でも、よくないことだと思った。

    お節介かもしれない。だが、同じ級友である以上、放っておくことなどできない。

    「罪木さん、おいで。何か知ってるゲームとかある?」

    「ふええ?えと、ツイスターゲームくらいしか……」

    「うーん、まあいっか。これ、やろうよ!」

    七海はゲーム機を1個取り出した。慣れた手つきで起動し、罪木に手渡す。
    慣れない罪木はおどおどしながら、七海と交代でゲームを楽しんだ。
  4. 4 : : 2016/09/11(日) 07:42:37

    「本当に、構わないのかね?」

    希望ヶ峰学園の研究機関。厳しい顔の評議員。それから真剣な顔の学園長、霧切仁は少年に問うた。

    「もちろんです。希望ヶ峰学園の栄光ある希望になれるのならば、俺はこのプロジェクトに参加します」

    日向は迷いなく言った。

    「そうか……。では、改めて確認するよ」

    「はい」

    仁は席を離れ日向の元に立つ。分厚い資料を捲り指で文章をなぞりながら読み上げた。

    「手術に成功すれば、日向君は超高校級の希望として本科に編入することになる。いいね」

    日向は頷いた。仁は続けた。

    「ただし、この手術には前頭葉をいじる必要がある。いわゆるロボトミー手術と言われるものだ」

    「はい。承知です」

    「この手術によって、日向創としての人格はなくなる。もちろん、人間関係はリセットだ。本当にそれでもいいのかね?」

    「はい。俺には、俺が胸を張るには、才能が必要ですから」

    日向は答える。仁は悲しげな顔をした。
    だが、学園長に日向を止める権利も義務も無い。

    「そうか。わかった。じゃあ紹介する。彼らはこれからの手術を行う研究者たちだ」

    「やあ。よろしく」

    紹介された男たちは、さわやかさの欠片など微塵もない粘着質な笑顔を貼り付けてやってきた。

    「今は別件で不在だが、術後のケアは神経学者の松田夜助に任せることになっている。私から伝えることは以上だ。質問はあるかい?」

    「ないです。大丈夫です」

    仁は本当に、本当に悲しそうな顔をした。

    「さあ、来たまえ」

    研究者たちは日向を促して部屋を出ていった。評議員たちも席を立って帰っていく。仁だけが1人残った。
    静かになった会議室で、仁は1人、書類を見つめていた。

    本当にこのプロジェクトが世界の希望に成りうるのか?
    自らも才能に関心があった。好奇心を煽られる計画だった。だから賛同した。

    今更後悔したって、もう遅い。

    仁は、スーツのポケットから一枚の写真を取り出した。

    「響子……」

    探偵を捨てて学園長になったが、娘だけが気がかりだった。娘は自分を嫌っているか、もしかしたら忘れているかもしれなかった。
    彼にとっては霧切家などとうに捨てたものであったが、娘だけは捨てきれなかった。
    今更な話である。仁はそう思って、写真をしまった。席を立って、学園長室へと戻った。

    カムクライズルが出来上がった後、学園は希望を隠した。
    それからしばらくして、最悪の事件は起きたのであった。
  5. 5 : : 2016/09/11(日) 07:46:13

    人類史上最大最悪の絶望的事件。

    この事件の前から希望ヶ峰学園で多数の死亡者が出ていた事を七海が知ったのは、事件直後、荒れきった学園の廊下に、生徒会殺しの事件について纏められていたファイルを見つけたためである。

    それが意図的だったか偶然だったかはわからない。だが、七海は気分が悪かった。

    そんな時、彼女にでくわした。

    「罪木さん」

    罪木はフラフラと覚束無い足取りだった。だが憔悴しているという感じではない。まるで何かを求めて彷徨う亡霊の様な__そんな印象だった。

    「七海さんは素敵ですよねぇ……こんな時でも希望を信じて疑わないんですから」

    罪木は穏やかに笑いながらも目は生きていなかった。希望ヶ峰学園の生徒だったとはとても思えないほど、希望とは程遠い表情をしていた。

    「ああ、貴女も一緒に墜ちていればこんなに苦しむことは無かったのに!」

    罪木はそう言って七海に近づく。七海は直感的に身の危険を感じた。

    「私、最初に殺すのは貴女って決めてたんですよ。まだ生きていて本当によかった」

    「罪木さん……どうして?」

    七海の至極まっとうな疑問。罪木は悲しそうな顔をして、だが何故か嬉しそうな声音であった。

    「私、貴女のことが好きでした。ゲームに誘ってくれて、私を虐めないでくれました。貴女は私の希望でした」

    告白に、七海は驚きを隠せないでいた。しかし七海は、どこか冷静な自分がいることにさらに驚いていた。

    「ですが、七海さん……七海さんには好きな人がいましたよね……?」

    続けられた罪木の言葉。そうだ、それは否定できない。
    七海は肯定の意を込めて黙っていた。

    「日向創。確か予備学科の生徒でしたよね」

    「日向君がどうしたの?もしかして……」

    死んでいるのではないか。そう思うと酷く胸が苦しく、涙がこぼれそうだった。

    「それは秘密です。私がここにいるのは、貴女にお別れを言うためですから」

    「お別れ?」

    「そうですそうです。七海さんにお別れですよ。だって、私には、私にとっての絶望が見つかってしまいましたから」

    罪木はそう言うと、メスを取り出した。七海は命の危険を感じて逃げ出した。

    罪木を撒かねば。生きなければならない。出鱈目に走っていると、瓦礫の山にぶつかってしまった。

    「ひどいですね、逃げるなんて。でもそれが絶望的ですぅ!」

    七海は腰が抜けてしまったのか、その場にヘタリと座り込んだ。罪木もしゃがみこんで七海に視線を合わせた。

    「さようなら。最愛だった七海さん」

    メスは首に滑らかに滑り込んだ。
  6. 6 : : 2016/09/11(日) 07:54:08

    絶望たちによる破壊活動は、希望ヶ峰学園を中心に急速に広まった。

    希望ヶ峰学園は一部校舎で生徒を篭城させ、希望の保護に走った。

    最も、カムクライズルには関心の無い話であるが。

    カムクラは校舎を散歩していた。予備学科の校舎を意味もなく歩き回ったり、本科の窓を叩き割りながら徘徊したり。本当に無感情で歩いていた。

    ある廊下の奥から、湿った音が聞こえた。びちゃびちゃとした音と、女が啜り泣くようで笑っているようにも聞こえる声。

    「貴女でしたか」

    「ふ、ふふ、カムクラさんですか。盾子様が何処にいるか知ってます?」

    罪木蜜柑は目から涙を流しながら笑っていた。カムクラは彼女に嫌悪感を顕にした顔をしたが、本人はカムクラを見ずに、何か作業を続けていた。

    「78期生と一緒に仲良く篭城しているのではないですか」

    「ああ、そうでしたそうでした。……でカムクラさん見てくださいよ彼女を」

    背を向けていた罪木は、カムクラにソレが見えるように移動した。

    「見えます?私が初めて殺したんです」

    「七海千秋ですか」

    その死体は、首が横に置かれて、胴体部分は丁寧にバラバラにされていた。

    「あれあれあれあれぇ?何も思わないんですか?それとも何も思えないんですか?」

    「僕に感情は不要ですし、彼女に特別な感情を抱く必要もあるんですか。……ああ、もしかしてヒナタハジメのことですか」

    カムクラは表面で愚かしいと思った。彼女が愚かであるかどうかも、カムクラにとっては非常にどうでもいいことなのだが。

    「ヒナタが七海千秋に対してどういった感情を持っていたのかなんて、僕が知る必要あります?ないですね。ましてやもういない人間ですし」

    「本当にツマラナイ人ですね。そうです!お腹が空きません?元超高校級の希望の腕前、見たいです」

    罪木はいいことを思いついたと言わんばかりの笑顔を浮かべた。

    「僕の才能は安くないんですが」

    「……貴方だけにはマトモな施術をしてあげますよ」

    カムクラは合点がいった。ありえないことだが、自分に外科医的手術が必要になった時、罪木は自分に何かをするつもりだと。

    「わかりました、食材を持って来てくれますか」

    「もちろんです」

    絶望の生徒は2人、壊れた校舎という異常なロケーションで彼らにとっての日常を送り出した。
  7. 7 : : 2016/09/11(日) 07:55:50

    死体が転がる食堂で食事をする音を響かせる二人組がいた。

    「振り返ってみると、私達に爽やかな青い春ってあったのでしょうか」

    女は呟いた。男は興味無いと言った風で吐き捨てた。

    「青春ぐらいはあったんじゃないですか。お互い、好きだった人はいたみたいですし」

    男の『いた』という発言は自分のことは含んでいないような感じであった。

    「そうですね。まあ、その人を食している時点で爽やかでないのががっかりです」

    女は肉を口に頬張りながら言った。肉の味を堪能して呑み込んだ後、さらに続けた。

    「美味しいですね。さすが、超高校級の絶望料理人は違いますね。今度ご教授願いたいです」

    「勝手に才能を変えないで貰えますか」

    「ふふふ、冗談です」

    女は笑うが、男は無表情だった。女の冗談が笑えるものではないのも事実だが、男に感情といったものが無かったからなのもある。

    皿を片付けた2人は学園を後にした。

    「それにしても、自分が頑張って築き上げた関係を自分で壊すって絶望的ですねぇ!」

    女は今愛する人を追いかけて。

    「アナタも江ノ島盾子みたいな事を言いますね」

    男は意味も無く、希望も絶望もない流浪を続けて。

    いつかの青い春など過去に捨てた。

    「あの人と同じ……えへへ、嬉しいです。次は家族のところに行こうと思います。その次は私を虐めた人たちのところ……生きていてくれるといいんですが……聞いてます?」

    「聞いていません。勝手にしたらどうです。僕に貴女を束縛する権利はありません」

    彼らは、級友も先生も家族も、関係というものを全て壊し尽くすことに絶望を見出すために生きていくのだろう。
  8. 8 : : 2016/09/11(日) 08:03:46

    終わりです。

    いかがでしたでしょうか?

    内容の全体は豚骨拉麺だけど、終わりはさっぱりとした醤油拉麺を目指しました。

    ジャンル、テーマ、キーワードを使えていたかどうかが心配です。

    主催者様には秋のコトダ祭りを企画してくださったことと、自分を参加させてくださったことに最大限の感謝です。

    最後まで読んでくださった読者様にも感謝です。

    口直しに他の参加者様の作品を読むことをお勧めします。

    ありがとうございました!

  9. 9 : : 2017/02/24(金) 00:27:32
    乙、米失礼。

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著者情報
imozuki

作者咲紗

@imozuki

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