このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
すれ違いと醜さとコールド・ウォー
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- 1 : 2016/09/11(日) 01:10:04 :
- この度たけのこまんじゅうさん主催の『秋のコトダ祭り』に参加させていただいております。
参加者は
・たけのこまんじゅうさん
・風邪は不治の病 さん
・私
・ゆーたまろさん
・スカイさん
・作者咲紗さん
・シャガルマガラさん
ジャンル : 青春
テーマ : 人間関係
キーワード : 殺人
登場人物 : 登場人物欄参照
では本編の方を始めさせていただきます。
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- 2 : 2016/09/11(日) 01:10:35 :
パワーハラスメント。
通称『パワハラ』。
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為がこれに当たる。
それは、いとも簡単に行われるえげつない行為─────。
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吐き気がするほど失望に溢れていた。
肌を刺すほどの殺気に溢れていた。
最高峰・希望ヶ峰学園。
希望の生徒とは言うが、俺たち〝予備学科〟はそれとは少し違っていた。
希望ヶ峰学園というのは本来「君の才能を見込んで、将来を約束するからウチに来てくれないかなぁ」というシステム。
だが俺たち予備学科は「大金払えばまぁ入れてやってもいいよ。ただし才能ないから本科じゃないけどね」といった感じだ。
上記でもう理解したとは思うが、要するに俺たちはゴミ扱いなのだ。
金ヅルという奴さ。
こんな掃き溜めでも努力して何か一つ極めれば本科には入れるのだが、2000人に1人いるかいないかの確率と言われている。
意味がないな。
それでも、腐っても希望ヶ峰学園。
そう思って入学した。
だが俺が知っていたのは所詮表の面に過ぎなかった。
腐っても希望ヶ峰学園、というようなものではない。
最早希望が見えねぇ学園だった。
まるで教える気のない教師の投げやり且つ下手くそな授業。
そのクセに反発すれば暴力は当たり前。
本科の人間によるストレス解消の暴力は毎日の所業だ。
「すまない、日向君」
学園長が俺と取り合ってくれた。しかし。
「もうすぐなんだ、ちゃんと、釣り合いの取れた態勢にできる。それまで……」
分かりきった学園長からの返事。
「……なんとか堪えてくれないか」
奴らは希望などではない。
〝人を人とも思わぬ何か〟だ。
それでも止められないのは、逆らえないのは、中身のない権力。上辺だけの重さしかない圧力。
希望ヶ峰学園に在籍させてやってるんだからありがたく思え、と言うのが上の言い分なのだろう。
「……って感じなんだ。今の俺たち」
「大変……だね。『弾圧される民』みたい」
「何て?」
「ううん、何でもないよ」
七海千秋。
俺が唯一仲良くしている本科の生徒だ。
いや、予備学科の俺を受け入れてくれる唯一の生徒と言うべきか。
今日も誰にも見られない校庭の隅のベンチでこうして愚痴っている。
七海は自分からは話さない。
話すのが下手と自称していたが、いつも俺から何か話すのを待ってくれている気がする。
常にゲームをしながら俺の話を聞いているが、聞いていないわけではない。寧ろ真剣に聞いてくれているのだ。
何でも聞いてくれる。そのうえで俺にアドバイスをしてくれる。時には否定もして、あくまで主観でなく客観的に俺を正してくれる。
そんな七海に俺は強く惹かれていった。
2人でこうしている時間は幸せだった。
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- 3 : 2016/09/11(日) 01:13:59 :
だが、同時に後ろめたさもあった。
もし誰かに見られたら……という心配だ。
本科の生徒に見られたら七海が仲間外れにされたり、虐められるかもしれない。それこそ、予備学科 のように……。
また、俺にもそうだ。
本科を忌み嫌い、憎しみを抱く予備学科の連中にとって俺と本科が仲良くしているのは黙って見過ごすはずがないだろう。
裏切り者と称されて磔にされたらたまったもんじゃないな。
何より、教師陣や上の人間が予備学科と本科を結びつけないようにしている。
要するに「薄汚い予備学科が穢れた手で希望の生徒に触れるんじゃあない」というワケだ。
いつかこのすれ違いが互いを離れ離れにしてしまうかもしれない。
俺が七海を憎むか、七海が俺を遠ざけるか。
兎に角今の態勢 が続く限り、俺は七海とずっと一緒にいることはできないのだ。
毎日のように会っているのに、心は会えていない。
本科と予備学科の亀裂は、まるで東西を二分したベルリンの壁のようだ。
言いたいことを直接本人に言わない不仲同士のような、互いに戦火を交えない小さな憎しみ合いが続いている。
そしてそれは吐き出すことなく内側に溜まるストレスのように膨れ上がり─────。
───────────────
ある日突然の遭遇だった。
第三者が見ていたら速攻で指導室に呼ばれて俺が怒られるような奇妙な出会い。
曲がり角で普通に歩いていた俺に焦って駆けていた女子生徒が思いっきりぶつかってきた。
女子生徒の荷物は衝撃でばら撒かれ、お互い尻餅をついた。
「痛て……大丈夫か?」
「はわわわ!!ご、ごめんなさぁい!」
普通なら何処見て走っているんだ、と言うところだが相手が本科の生徒と分かったので間違っても言わないようにした。
(うお……パンツが……じゃなかった)
女子生徒は至るところに包帯を巻いていて、荷物も医療道具がほとんどだった。
しかも異様に自虐的で諸々ヤバかったのでとりあえず場所を移すことにした。
(つったも……保健室とはな)
「ゆ、ゆっくりしていってくださぁい……」
女子生徒は看護師のようにエプロンを付けて医療道具を整理し始めた。
罪木蜜柑。
超高校級の〝保健委員〟。
彼女もまた、七海とは違う形ではあるが予備学科である俺を受け入れてくれている。
「予備学科ですか……た、大変なんですねぇ……」
「まぁ、な。あんたも何だか大変そうだな」
そんな会話を弾ませた放課後、オレンジ色のトーンは徐々に色を増し、保健室にも降り注ぐ。
「そろそろ帰るか……罪木も、早く帰んないと暗くなるぞ」
「はぁい……あの」
「ん?」
「また……会ってくれますか?」
俺は少し考えたあと、静かに頷いて保健室を後にした。
それから、なんだろうな。教室で本科への愚痴を聞くたびに心が苦しくなった。
俺は元々、本科が嫌いなわけではなかった。自分たちの扱いを受け入れ、その上で勝ち上がろうとしていたから本科が憎いというのはそれほど感じなかったのだ。
他の奴らは違う。何もできない自分にではなく、怒りは全て本科に向けられる。
本科にもいい奴はいるんだ、なんて微塵も考えていない。ソレそのものが憎悪の対象であり敵。
あの七海や罪木だってこんな風に思われてる。
彼女らは、お前たちに何にもしちゃあいないのに……。
それから数日後、また罪木と会って話をしていた時だった。
血塗れの生徒が保健室に運ばれてきた。
生徒はなんとか意識を取り戻したのだが、すこし後遺症が残るとのこと。
そしてそいつは……予備学科の生徒だった。
「何があったんだよ?」
包帯を巻くのを手伝いながら問う。
「……いつもと、同じだ」
その回答だけで何があったのかは理解できた。
「予備学科っつうだけで……何でこんな……」
「誰にやられたんだ」
「………」
「いいから言え。罪木は他言するような人じゃないから」
「……桑田ってやつだよ。暴走族のやつも一緒だった」
「……パワハラだ、なんて報告した日には報復してくるだろうな」
「何なんだよ……アイツら」
本科に対して、怒りを抱くようになったのはこの日からだった。
アレだけ俺は違うと思ってたのに、俺もすっかり予備学科の掃き溜めの中だ。
七海に愚痴る時間も長くなった気がする。
というか俺が一方的に話して終わってるかもしれない。
罪木と話す時間も……。
罪木。
そうだ、罪木だ。
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- 4 : 2016/09/11(日) 01:14:26 :
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俺は罪木と話すとき、本科の情報を聞き出すような形で会話するようになった。
この女は褒めればとりあえず協力してくれる。
保健委員という立場上、予備学科 の気持ちも分かっている。
彼女の力を借りない手はない。
七海と会っても、そんな感じだった。
とにかく本科の情報を。なんでもいい、些細なことでもいいから。
そんな話を聞く七海の顔はなんだか悲しそうに見えたが、今の俺にはそれを気にしていられなかった。
俺がこんなに焦るのは、また本科の生徒の暴力による被害者が出てからだった。
予備学科中に溜まっていた殺意が爆発し、ついに本科に殴り込もうという話になったのだ。
俺も参加する。自分からそう言ったんだ。
確かあの日は七海のことは忘れていたな。
そのために情報が必要なんだ。
俺が、それを集める係。
七海との関係がバレたかとヒヤッとしたが、クラスの奴ら曰く「日向 が一番そういうの得意そうだから」とのこと。何だそれは。
俺はそのために今日も昼休みは七海と、放課後は罪木と会って話をしてる。
そして─────時は流れ、〝実行〟の日が迫る。
これほどまで張り詰めたことがあっただろうか。
皆は手に鈍器を持ち、殺意のこもった紅い眼を光らせて無言で進軍する。
クーデター?下剋上?
いやいや、革命だよ。
自分のため、社会のため、青春のため。
調子づいた本科の生徒に知らしめてやるのだ。
俺たちの怒りを─────。
俺たちの憎しみを─────!
壁越しの冷えた2つの炎は、厚い壁さえ焼き尽くして一気に燃え盛り交じり合う。
止まらない。
止められない。
予備学科も、本科も。
皆が、自分のために手振るい血を振るう。
倒れる人々、突き進む人々、防ぐ人々。
死ぬだろうか。誰か死んだだろうか。
雨が降り注いでも、雷鳴が轟いても争いは終わらない。
炎は鎮まる気配を見せなかった。
教師はもう何人死んだだろう。
中には叫びながら許しを乞う人間もいた。意味はなかったが。
俺も、そうだ。
ただ『敵』にかかっていく。血を流して争いあう。
同い年、幼馴染、いるかもしれない。
それさえ今は関係がなかった。
世話になった教師、いるかもしれない。
多分もう死んでいるだろう。
黒煙は立ち昇り、これほどの雨に濡れてもまだ校舎は燃えていた。
高級車も粗大ゴミ同然に破壊され、あんなに綺麗だった本科の食堂は瓦礫と死体で見るも無惨だ。
「─────!」
サイレンの音に、俺は1人反応した。
警察が大量に学園に押し寄せてきたのだ。
不協和音のように幾つものサイレンが重なる。
そうして俺は、初めて本科と予備学科で和解すればよかっただけの問題が社会を揺るがす大問題にまで拡大していることを理解した。
血を拭い、武器を捨てて我にかえる。
「……七海!七海ッ!!!!」
姿の見えない名前を叫びながら血と雨に濡れた道を走る。
まだ生きている、と願いながら。声を枯らして名を呼びながら。
途中警官に肩を掴まれたような気がしたが、変わらずずっと走ってるから多分振り払ったのだろう。
サイレンの合唱が勢いを増す中、俺は思い出した。
七海は今日も「待ってる」と言っていたことを。
あの校庭の隅のベンチ。誰の目にもつかない空間。
『いつもの場所』で待ってるかもしれない!
思い出した大切なものを守るために俺はさらに力を入れて走った。
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- 5 : 2016/09/11(日) 01:14:54 :
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「……………」
いつもの場所へ行く道は、瓦礫と死体で普段よりアスレチックになっていた。
この短い時間で遠回りを何度もしたような気がする。
辿りついた校庭にも死体は転がっていた。
その隅のベンチはいつもの状態のままそこで雨を被っている。
そこで座り込んでいるのは……
いる……のは…………。
「罪木……?」
「日向……さぁん」
正面が 血で汚れたエプロンを脱いでこちらに笑いかけた。
「日向さん………あなたにとって私ってなんですか?」
「私は……あなただけが……〝希望〟でした」
「私はあなたを……信じていた、信じていたのに……」
「罪木?何を……」
「どうして?私いつも見てたんですよ」
後ろ、後ろ、彼女の後ろ。
「どうしてなんですか?」
後ろ、後ろ、罪木の後ろ。
「どうしてこの人なんですか?」
腹部から血を流す死体は七海だった。
「どうして、私のこと裏切ったんですか?」
「な、七海……?」
「私はあなたを何よりm」
「七海!!」
罪木の話はもう耳に入っていなかった。
俺はただ、その後ろの七海を見ていた。
「七海!!七海!!」
けどまあ、もう結果はわかっていた。
彼女が冷たいのは、雨に濡れているからではない。
彼女が白いのは、あまり外に出ないからではない。
彼女が何も応えないのは、周りがうるさいからでも元々あまり喋らないからでもない。
〝彼女〟はもう、この世には存在していないのだ。
俺の呼びかけになど、応えられるはずがないのだ。
「…………から私は!!」
後ろにいる罪木の声が今はハッキリと聞こえる。
血の付いたメスを持つ彼女が今はハッキリと視える。
「日向さん、どうして!!私はあなたを運命の人と!!」
「お前が殺したのか」
「そうですよぉ……当たり前ですよ!!この人は私からあなたを奪っ」
振るった拳から伝わる鈍い感覚。
初めてだ。女性に鉄拳を喰らわすなんて。
「ひ、日向さぁん………?」
「何すんだ……」
「なんてことしてくれんだよこのクソ女が!!」
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- 6 : 2016/09/11(日) 01:15:31 :
尻餅ついた彼女に今度は蹴りを入れる。
靴を履いていても鈍い感覚は伝わってきた。
「俺は七海が好きだったんだよ!!いつもここでたわいもない話をしてた!!お前とするような上辺だけの会話じゃない!!なんでも打ち明けたんだよ!!」
「そ、そんな、じゃあ私……」
罪木は俺に何か言ってると思う。が、自分の叫び声と振るう蹴りでよく聞こえない。
「見えるか、彼女の左手が!!俺は七海と愛を誓い合った!!今はただのアクセサリーでも、いつか本当のものをプレゼントするって!!俺は七海と約束したんだよ!!」
「お前が自分勝手な理由で壊していいものじゃないんだよ!!クソ、クソ!!これだから本科の奴らは!!」
蹴る足はもはや自分で動かしてるのではなく全自動暴力機とも言えるほどに止まらない。
「本科の調子こいてるクソ共を皆殺しにして、俺も予備学科のやる気なし共とおさらばして!!七海と二人で幸せに過ごそうって!!どうすんだ!?どうすんだよ!?」
「お前のせいで俺の 将来が台無しだ!!俺の 青春は全てオジャンだ!!」
「どうしてくれんだよ!!!返せよ!!俺の 人生を、七海を返せよ!!!」
「わ、私、日向さんが好」
「うるせえ!!!うるせえ!!!クソが!!!クソ女が!!!死ね!!!」
「死ね!!!!!!」
「ッッッ死ね!!!!!!」
───────────────
雨は強くなる一方で、希望ヶ峰学園の戦争は消える火のように止んだ。
本科・予備学科含めて死者は生徒の7割にも及んだ。
教師に至ってはほとんどが死体で発見されたそうだ。
同時に、『予備学科の闇』はマスコミが空腹の獣のように食いついて離れなかった。
そうなれば当然ながら様々な闇が垣間見えた末に希望ヶ峰学園は復興も含めて一時閉鎖。
本当に、ほんの少し話し合えば、ほんの少し和解できればよかっただけの問題は世界中の学校や一般企業、はたまたそこらへんの一般家庭までも揺るがす大事件となった。
余談だが、日向創は刑務所へ、暴行を加えられた罪木蜜柑は病棟へ送られた。
どれほどの力で蹴られ続けたのやら内臓にまで被害が及んでいて、特に子宮はもう使用できない状態にまでなっていた。
精神的ショックが激しいのか誰とも会話を交わすことなく、それどころか呼吸と食事以外で口を開くことさえなく、2年が経過今でも車椅子で生活をしている。
……ちょっと互いに謝ればよかっただけの喧嘩が殺人事件に繋がるような、本当にそんな問題だった。
人間とは難しい生物である。
END
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- 7 : 2016/09/11(日) 01:17:12 :
以上で終わりです。
短い話でしたが、人間関係って難しいなって思いながら書いてました。難しい。
閲覧者の期待に応えられるよう尽力いたします。
引き続き他参加者様の作品をお楽しみください。
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