朝顔はもう咲かない
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- 1 : 2016/08/18(木) 21:43:46 :
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つまらないものを見た。私の親友と私の彼氏がキスをしているところだ。綺麗な夕焼けが教室の中まで照らしていて、二人の姿はそれはそれはロマンチックなものであった。この2人が付き合うのが正しいことだとでも言うほどに。
バレないように、足音もできるだけ立てずに二階のトイレの個室に入る。涙でも流してしまえば自分が負けたもののように思うから、ただひたすらに状況の整理に努めた。
そもそも、二人は本当にキスをしていただろうか。漫画によくある頭についたゴミを取ろうとしたら角度の所為でキスしているように見えただとか、そんな勘違いではないことははっきりと言える。ならば事故?ただ単に唇と唇とがぶつかっただけの話。
携帯電話の振動音が響いた。
「もしもし、委員会終わった?」
「終わったよ。遅くなってごめんね」
「ううん大丈夫、お疲れ様。昇降口で待ってるね」
「わかった、ありがとう」
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- 2 : 2016/08/18(木) 21:47:59 :
彼の事を先に好きになったのは親友だった。私が見たこともないようなうっとりとした表情で彼のことを語っていた。
「今日もかっこいーよねー!目がいい!デカい!」
多分初恋だったんだと思う。親友とは幼稚園の頃から一緒だけれど、そんな浮ついた話は1度も聞いたことがなかったから。
「今日さ、目が合っちゃった…。明日まで幸せだー!」
見たことがなかった。こんなにも特定の誰かに執着している親友は。
だからこそ、
「彼と付き合うことになったんだ。ごめんね」
そう告げた時の親友の顔は忘れることができなかった。
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- 3 : 2016/08/18(木) 21:49:17 :
「明日からまた部活?」
弄っていた携帯をポケットにしまい、彼は欠伸を噛み殺した。
「そうだよ、最近寝てなかったから今日寝とかないと明日頑張れないな」
「テストお疲れ様」
「そっちこそお疲れ様。どうだった?」
「うーん、自信はないかな」
「俺は自信ある!」
「さっすがー」
「国語は…お前の親友に負けてそうだけど」
「ああ、あの子もすっごい頑張ってたしね。どっちが勝つかなー?」
「俺だって!」
普段は大人びているのに勝負けが出るとこだわるそんなところにかわいいな、なんて思いながら隣で笑った。
「ねぇ」
なに?、と私の方を向いたところを狙い背伸びをして唇に口付けた。
「じゃあね、また明日」
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- 4 : 2016/08/18(木) 21:51:31 :
「怒らないの?」
傷ついてるに決まっているのに笑顔なんかを取り繕って。
「怒るわけないよ!寧ろ…そっちも好きだったのに私の話聞いてもらっちゃって…ほんと、申し訳なかったっていうかさ」
全く目を合わせない様子からもそんなこと微塵も思ってないことが窺える。
「そりゃあ、そっちも好きって言ってくれなかったのには怒ってるけど…。全然、ほんとにさ、応援するから」
嘘言わなくていいよー、私たち親友でしょ?本音で語り合おうよ?
「私たち親友でしょ?信じてよ」
用意していた涙を流して微笑んだ。
「ありがとう、こんなことしといてなんだけど…これからも親友でいて欲しいな」
別に嘘は言っていない。
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- 5 : 2016/08/18(木) 23:30:45 :
いい?これはゲーム。私と親友のどちらがより上の立場にいられるかが決まる私の一方的なゲーム。
今まで私は負けていた。小学校での習い事や、学校のテスト、スポーツに、髪の艶だって私が劣っている。
「大っ嫌いだった」
外からの虫の鳴き声だけが聞こえる部屋に自分の声が虚しく響いた。
「お姉ちゃん、今日の朝、朝顔に水やるの忘れちゃってさー、水やり手伝って!」
「は?そんなの1人でやれよ」
「暗いの怖いの!ついてきてよ!」
妹の後ろについて歩くと、花の綴じた朝顔があった。妹は辺りを飛ぶ虫に怯えながら慎重にジョウロで水をやる。
「朝顔の花言葉ってなんだっけ」
「友達は確か、儚い恋って言ってたよ」
「ふーん、あんたそんなの興味あんの」
「興味あるのは友達だし!」
「あはは、どーだかね」
妹に背を向け伸びをした。空に星は見えないから、きっと曇りなのだろう。
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- 6 : 2016/08/20(土) 16:40:19 :
「ごめんね、昨日あなたの彼氏とキスしちゃった」
出会い頭にそう言われた。
「諦めたつもりだったんだ…。でも、まだちょっと気持ちがあったみたいで」
構えていた場所とは全く逆の場所からの衝撃に頭が上手く回らない。
「それとね、今日から彼も私を選んでくれるって」
いつの間にか現れた彼氏の腕に抱きつきうっとりとした表情で目を瞑った。
「ごめんね、だけどいいよね」
親友が私に視線を向けた途端、胸の中に冷たい物が入り込んでくる。冷たくて、指先すら動かせない。
「だってあなた…」
目覚ましの音が部屋に鳴り響く。汗が布団に染みていた気持ち悪さと、昨日見た光景のイライラが唐突に襲ってきた所為で妹に八つ当たりしてしまったのは家を出てから心の中で謝罪した。
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- 7 : 2016/08/21(日) 19:22:23 :
裏切られた。その思考が頭の中を埋め尽くした。感情の出口を無理矢理抑え込んで、真逆の感情を表に出した。
「これからも親友でいて欲しいな」
自分も喧嘩をしたい訳でも、縁を切りたい訳でも、復讐をしたい訳でもない。彼女には何度も助けられてきたし、友人として彼女が好きだから。好きだから、私も諦めることはできた。
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- 8 : 2016/08/21(日) 19:24:58 :
「なんかさ、不安なんだよね」
夕暮れ色に染まる教室に2人きり。だが、既に彼への想いはほとんどない。
「不安って、どうしたの?」
プライドの高い彼女の事だから、付き合い方にドライな部分があるのかもしれない。
「俺のこと本当に好きなのかなって…考えるんだよ」
「恥ずかしがってるんじゃない?あの子そういうとこあるし」
「それもそうなんだけど…」
「他にもあるの?」
「なんとなくなんだけど…俺に気持ちが向いてない、そう思えて仕方なくて」
「そんなことないよ!だって、告白したのもあの子からなんでしょ?そんなことしたのも、あの子初めてだしあり得ないよ」
「そうだといいんだけどな…」
目を細めて彼は笑った。私が好きになった笑顔を浮かべて。
「ありがとう。また、相談に付き合ってくれないかな」
断るべきだ。これはあの子の為にも断るべきなのだ。
「もちろんだよ」
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- 9 : 2017/05/12(金) 22:02:53 :
- あー、辛い辛い!
主人公の心の痛みとか揺れ具合がまるで自分のように感じる文章力流石です!
期待です!
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