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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

東方双赤星 EP3  ―復讐と狂気と支配欲と―

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  1. 1 : : 2016/08/14(日) 12:03:25
    来年まで休むと言ったな。 あれは嘘だ。



          東方双赤星



    注:このSSには以下の成分が含まれます。

    ・二次創作、独自解釈
    ・キャラ崩壊
    ・オリキャラ、オリスペル
    ・文章gdgd
    ・若干グロテスク
    ・9割方戦闘
    ・ムラのある投稿
  2. 2 : : 2016/08/14(日) 12:11:48



    「紫様、隠し場所のすぐ近くで戦闘が始まりました。」


    「そう、ちょっと危険な状況ね。 橙はどこ?」


    「橙は寺子屋に通っております。 行方が分からなくなることはございません。」


    「ならば行きましょう。 もしもの事があったら困るから手加減はしないでね。」
















    「スキマが開かない・・・!?」
  3. 3 : : 2016/08/14(日) 12:14:06

    Episode 3 復讐と狂気と支配欲と




    「霊符・夢想封印!!」


    霊夢が撃ち放った幾つかの光の球が建物を貫き、智慧の近くへ次々と着弾した。


    霊符・夢想封印。 陰陽玉に高い霊力の負荷をかけ、火球にして飛ばす。


    左右から七色の火球と砕かれた建材が高速で鬼の仮面を被った者に接近して来る。


    「いくら速くてもこの数じゃ当たるわけ・・・はっ!?」


    瓦礫を重力で弾き飛ばし、弾数の少ない夢想封印を軽々と避ける。

    智慧が上を向くと、一つの影、そしてそこから散りばめられるオレンジ色の紙きれが見えた。

    智慧が隠れている建物の周りに、霊夢が射出したお札が雨のように降り注ぐ。

    しかし、ひらひらと降りて来る紙切れを見ても驚きはしなかった。

    智慧の口元がにやけ、腰のホルスターから円柱形の箱を取り出した。


    「火球はフェイクで本命は上空からの絨毯爆撃・・・ この程度のことが予測できないわけがないだろぉぉぉ!!」


    箱を上空に放り投げ重力をかけると蓋が開き、中から大量の鋭利な木の棒が溢れ出た。

    つまようじ。 中身はつまようじで、投げたのは市販のつまようじケースだ。


    「つまようじを重力で加速し強力な弾幕として使用する・・・名付けてッ!」


    つまようじの先端が一斉に上を向き、高速で霊夢へと突き進む。

    光る紙切れが貫かれ、鮮やかな鱗粉のように巻き上がった。


    「ダイナミックつまようじスロッシャーだッ!!!」
  4. 4 : : 2016/08/14(日) 12:15:47
    霊夢はすぐに二重結界を張り身を守るが、張り終える前に何本かのつまようじがすり抜けた。

    脛、膝、肩、脇腹と順に刺さり、傷口から少量の血が滲み出る。


    「うぐっ! 速い・・・ でもッ!!」


    横に逸れるとまた刺さるので霊夢は結界を蹴り、下にいる智慧へと近づける。


    智慧は迫りくる結界を前にして周囲に重力をかけ、大き目の岩をつかみ、真上に持ち上げた。

    岩と結界が接触し、火花を散らしながら黒板を引っかいたような音が響く。

    勢いが止まり、そこから離れるために智慧は隣の部屋へと逃げた。


    辺りは開けており、抜け出せそうな所がある。


    「よし・・・抜け出してもう一発・・・ヘアっ!?」


    視界の中の壁や瓦礫の表面が突然光り出し、斑点のような模様が一面に広がっている。

    よく見るとそれはつまようじで破壊したお札の破片だ。


    そして、すぐにお札の切れ端同士の間に細長い御幣が発生し、智慧はオレンジ色の線に囲まれてしまった。

    少しでも体を動かせば御幣に触れてしまうため動けない。


    「完全に包囲されたか・・・ まずい・・・」


    しかし、彼女の頭にあるアイデアが浮かび、不安が薄れた。


    「これは逆に利用できるな・・・」
  5. 5 : : 2016/08/14(日) 12:17:05
    少しするとそばに霊夢が降り立ち、身動きがとれない智慧に歩み寄った。

    大きなお祓い棒を目線の先に向け、足を止めた。

    既につまようじは抜き取られており、服や体に少量の血が付いている。


    「質問する。 なぜあなた達は私達を、そして”球体”を狙っているの?
     あなたは包囲されている。 話さないという選択肢はないから答えて。」


    智慧の頬が妙に引きつった。 


    「これから死ぬ人間が知って何か得することでも?」


    「負け惜しみを言ってるつもり? そんな無駄なことしないで早く話し・・・えっ!?」


    突然霊夢の体が重くなった。

    建物がギシギシと悲鳴をあげ始め、霊夢は立っていられなくなり、膝を地面についた。




    建物の異常は外からも確認できた。

    重力がかかっている時の独特な異音が静かになった廃墟に再び響く。

    この音はすぐ近くに来ていた遥斗にも聞こえていた。


    「これは・・・ まずい!」


    遥斗が剣を持つ左腕を広げ、一直線に建物の大きな壁へと走り出した。
  6. 6 : : 2016/08/14(日) 12:18:34
    「私達に刃向かったこと、そしてミハイルに傷をつけたことをあの世で後悔しな。」


    次第に重力が強くなり、耐えきれず霊夢は俯けになって地に伏した。

    背中に象が乗っているような重みと痛みが走り、建物の天井にヒビが入る。


    「うおりゃぁぁぁッ!!」


    次の瞬間、壁に穴が空き、黒い刃が後ろから智慧に向かって来る。

    柄を持つ機械の腕、黒い服を着た男が後れて壁を抜けて部屋に飛び入る。


    しかし剣が智慧に触れる事無く、遥斗の体が地面に叩き付けられた。


    「ぐはっ! お、重い・・・」


    角が付いている顔が遥斗の方を向き、にやりと笑った。

    そして目を閉じて真上を向き、声を漏らして笑い声をあげた。


    「ふっふははは・・・ ”読みあいを制する者は勝負を制す”とはよく言ったものだよ。
     誰の名言だったっけな・・・ まあいいや。 でもとりあえず私の勝ちだ。」


    矢印がたくさん付いた左足を瓦礫に乗せ、目を開けた。

    ドンッ、という音の後に少しの静寂があり、再び智慧は話し始めた。


    「そうだ、もう逃げられる心配もないし話してやってもいいかなぁ・・・
     私達の狙いを。」


    智慧は相変わらず上を向いて目を閉じている。

    勝利を確信したときの彼女の癖だ。


    霊夢は遥斗に視線を向け、上を向いてすぐに視線を戻した。

    それに気づいた遥斗も上を向くと、そのことを理解した。

    互いに視線を合わせ、笑みを浮かべた。
  7. 7 : : 2016/08/14(日) 12:20:09
    「私達はエレン・DD・マインダーに仕える者。
     あの方は世界の支配権を手に入れるためにお前らを狙った。
     でも隠し場所が分からないから千條遥斗に聞き出す必要がある。
     あれを使うためには異変を起こす必要があったんだが邪魔されたら困る。
     だから博麗霊夢には死んでもらう必要がある。」


    「随分と身勝手な理由ね。 はっきり言ってすごい迷惑なんだけど。」


    霊夢の物言いにむかついた智慧は一瞬重力を何倍にも上昇っせ、圧迫した。

    激しい重さと痛みで声が出ず、異様な音だけが響いた。

    智慧は右手で顔を覆い、話しを続ける。


    「私たちが狙っているもの、それは”エクリプス”。」


    二人が予想した通りの発言。

    遥斗はこの時視力を失っている。

    目が赤く発光しており、考え事をしていた。


    「確か・・・世界をダイレクトに支配できる能力を持つ生命体が入っっている。
     エレン様の能力は”生命体及び死体を操る程度の能力”。それをあやつ・・・」


    「そんなもの入ってない。」

  8. 8 : : 2016/08/14(日) 12:21:36

    目の光が収まり、遥斗がいつもより少し荒っぽい口調で話し始めた。


    「ったく・・・どこでそんなわけのわからないホラ話に変わったんだよ。
     能力を持つ生命体? そんなの無えよ。
     そんな能力じゃあ操れねえよもっと情報集めてから出直してこい。
     幻想卿を支配するどころか滅ぶんだから本末転倒じゃあねえかよ。」


    智慧のこめかみの血管が浮き出た。

    二人にかかる重力がどんどん強くなってゆく。


    「はあ!? 調子に乗るなよ。 お前はエレン様を侮辱する気かよ。
     私とミハイルを救って下さった方を侮辱するのなら最高の苦痛を味わって死んでもらおうかしら。」


    重力が一気に強くなり、重みで霊夢と遥斗の下の土がへこんだ。

    智慧は狂ったように笑い出し、両手を広げて背中を反らした。


    全身にロードローラーが乗っかっているような痛みが走り、二人の鋼鉄並の硬さの骨も耐えきれそうにない。



    「ねえ、優越感に浸ってるところ悪いんだけど、上。」





    「えっ?」


    目を開けると、蜘蛛の巣のようにヒビが入った天井が映った。
    バキバキバキと激しい音をたてて崩れ、智慧に向かって天井の破片が落ちて来る。

    「読みあいを制したのはこっちのようね。 変なポーズで視界を覆っていたのが・・・いや、その自信が最大の敗因ね。」 
  9. 9 : : 2016/08/14(日) 12:23:53
    二階建ての家が崩れ落ち、ほんの数秒で瓦礫の山と化した。

    土煙があがり、黄土色の砂塵が宙を舞う。



    少しすると瓦礫が弾け飛び、オレンジ色の正方形の物体が顔を出した。

    その結界の色が少しづつ薄れ、完全に消滅した。


    霊夢と遥斗が起き上がり、そばでうずくまる赤髪の鬼に視線を向けた。

    オレンジ色の御幣がぐるぐるに絡まっており、完全に身動きがとれなくなっている。


    「えっ・・・ あ・・・ な、なぜ・・・」

    ”助かった”ことに気付いた智慧が問う。

    今まで二人を殺そうとしていたのに、敵同士なのに、なぜ助けたのかを。


    「いやだってさ、死なせる必要は無いでしょ。
     私、妖怪を退治はするけど殺しはしな・・・」


    ズグオォォォォォォォォン・・・




    遠くから異様な音がした。

    振り向くと、音は”球体”を隠してある所の方角から来ているのがわかる。


    音は数秒で鳴り止み、煙があがった。


    「霊夢、まずいぞ!こっちに気を取られている間に侵入された! 急ぐぞ!」


    「先に行ってて。 私は少し用があるから。」


    遥斗は剣を置いて走りだした。

    通常の人間ではあり得ない速さで、坂道を上ってゆく。



    (くそっ、なぜだ! なぜ場所がばれたんだ! 俺達の場所ならまだしもなぜ隠し場所が!)
  10. 10 : : 2016/08/14(日) 19:54:14
    霊夢は再び智慧の方を向き、話しかけた。

    智慧に絡みついた御幣が光を発しながら消え、体が完全に解放された。


    「ここから離れなさい。 万が一の場合数時間は死を遅らせられるはず。
     それと一つ忠告がある。 最初の犠牲者がそのエレンってやつになるのが嫌だったら絶ッ対に邪魔しないで。」


    そう一言言い残すと足が地面から浮き、遥斗が向かった方向へ一直線に飛び去った。





    智慧はしばらくの間その背中を呆然と見つめるだけだったが、少しすると落ちている仮面を拾って付け直し、立ち上がった。
  11. 11 : : 2016/08/15(月) 16:07:05
    「何なんだよ、これ・・・」


    バーが無くなっており、代わりに大きな穴が深くまで空いていた。

    穴の側面は熱で溶けたような痕があり、変質してガラス質になっている。


    「直接穴を開けるなんて・・・はっ!?」


    穴の奥に気配を感じ、二人は飛びのいた。

    ゆっくりと浮き上がって来たのは見覚えのある青いフードとフクロウのようなマスク。

    クロウだ。 しかも20体以上もいる。


    一斉に口を開け、目を赤く光らせた。


    「通さない気か・・・この数はきついな。」



    ふと霊夢が後ろからの気配に気付き、後ろに振り向こうとした。

    しかし既に首を矢印がたくさん付いた左腕に掴まれていた。


    「ウラァーーーーーーッ!!」


    智慧が右腕を腕を伸ばし、肩の上を通り過ぎた。

    後ろで爆音がし、マスタースパークを撃とうとしていたクロウが一斉に吹き飛んだ。

    足を付いて着地の姿勢のまま飛び上がり、霊夢の方を向いた。


    「エレン様が死ぬのは困る。 だから助けてきてくれ。
     これで貸し借り無しだ。」


    霊夢と智慧が無言で頷き、霊夢と遥斗が穴の中へ、智慧がクロウの群れへと進んでゆく。
  12. 12 : : 2016/08/15(月) 16:08:34
    開けられた穴は20メートル程の深さがあり、下には辛うじて日光が届く。


    霊夢は飛べない遥斗の腕を掴んで降り、ゆっくりと着地した。

    近くの蛍光灯はほとんどが壊れており、遠くにうっすらと明かりが見える。



    「誰だ、そこに居るのは。」


    目の前には背の高い人影があり、不動のままこちらを見つめる。

    奇抜で露出度の高い服、筋肉質で青白い大きな体、厚化粧、赤い鼻と髪が異彩を放つ。


    「ぬふふふ・・・ここまで来ちゃうとは驚いたわよん。
     アタクシはヴァレンタイン・ドラウンジョーカー。
     アタクシはチミ達を通さない。 
    予言しましょう。 チミ達は苦しみの断末魔をあげて死ぬと。」


    言葉と不釣り合いなほどの野太い声。 ヴァレンタインがゆっくりと歩き始めた。


    「あいにくだが、俺達は急いでる。 どうやってここまで来たか知らんが貴様を相手する暇はない。だから」


    「ぐはっ!」


    遥斗が走り出し、右の拳を腹に突き出した。

    走り出してから攻撃まで僅か0.7秒。

    反応が追い付かずにもろに攻撃を食らい、うめき声をあげながらうずくまった。


    しかしその声は徐々に笑い声へと変わり、遥斗の方を向いた。


    「ひひひひひっ・・・うひゃひゃひゃひゃ・・・まずは一人仕留めたわよぉぉんッ!!」


    再びヴァレンタインが立ち上がり、指を鳴らした。

    乾いたパチンという音が薄暗い洞窟に響き、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。


    「う・・・ぐ・・・ぐあぁぁぁぁぁぁッッ・・・」
  13. 13 : : 2016/08/15(月) 20:16:54
    今度は攻撃した遥斗が跪き、頭を抱えて蹲った。

    ヴァレンタインが倒れた遥斗に歩み寄り、蹴り上げた。

    凹凸の少ない洞窟の地面を無抵抗の遥斗が転がり、再び大きな影が迫って来る。


    「ふっふふふ・・・良いのを持ってるじゃないの。 もっと苦しみなさい。 もっと。」


    再び蹴ろうとしたとき、体中の服にオレンジ色の長方形の物体が輝きだした。

    一つ一つから御幣の触手が発生し、遥斗は霊夢のそばまで引き寄せられる。


    智慧との戦闘が始まった時には既に保険用にと知らないうちに貼り付けられていた。


    容体を確認するために霊夢は遥斗に触れようとした。


    「俺に触れるんじゃあない! 触れるとお前もこうなる! 速く奴を倒してくれッ!!」


    霊夢の手は体のすぐそばで止まった。


    「・・・体に何か細工をしたか・・・
     そこでじっとしてて。」


    背中に差していたお祓い棒を取り出し、苦しむ遥斗を通り過ぎてヴァレンタインへと向かう。

    目には怒りをまとった光と気迫が現れ、赤いオーラを発し始めた。


    対するヴァレンタインもゆっくりと歩き、体の輪郭がブレ始めた。


    細く曲がったヴァレンタインの靴が小石に当たり、パチンと音を立てて弾け飛んだ。


    「さっきのは私への宣戦布告として受け取ったわ。
     私の仲間をこんな風にするのならこっちも容赦しないわ。」


    「チミももうすぐあの負け犬のように苦しみながら朽ちて死ぬ。
     味わいなさい。 恐怖とトラウマと絶望感を。」
  14. 14 : : 2016/08/16(火) 21:32:37
    細く曲がったヴァレンタインの靴が小石に当たり、パチンと音を立てて弾け飛んだ。


    霊夢の周りに陰陽玉が8個発生し、一斉に霊力針が発射された。

    そのほとんどが貫通し、向こうの岩に当たって鍾乳石を削る。


    しかし派手な色の大男は何も無かったかのように歩き続ける。

    貫通したはずなのに傷一つ無い。


    再び弾幕を浴びせても全く怯む様子がない。


    細く曲がったヴァレンタインの靴が小石に当たり、パチンと音を立てて弾け飛んだ。


    (おかしい・・・ 何で当たらないんだ・・・ それにこの動作、さっきも・・・ はっ!?)


    とっさに姿勢を低くすると素早い蹴りが背中をかすめ、柔らかいマフラーの生地が裂けた。


    前にも後ろにも敵の姿がある。

    霊夢はしゃがんだ勢いでかかとを後ろに回し、蹴りを食らわせた。

    最初の一瞬は手応えがあり、腿の筋肉が大きく歪んだ。

    しかしすぐに“消えた”かのように足がするりと抜ける。


    それとほぼ同時に、向かって左側から激しい光が発生し、それが高速で近付いてくる。


    「横!?」


    ヴァレンタインが横の少し離れた所にもいて、弾幕が密集して発射される。

    霊夢が能力で飛び上がって回避し、針を撃ち返した。


    彼は派手な色の服を着ているので暗闇でもよく見える。


    針が大きな男に直撃するも、やはりすり抜けてしまい当たらない。

    再び弾幕が放たれるも、同じ軌道で来るのでかわすのは容易だ。


    しかし今度は別の方向からも同時に弾幕が来る。



    避ける度に弾幕とヴァレンタインの姿は増え続け、その大きな影は既に20体にまで増えてしまった。
       
  15. 15 : : 2016/08/16(火) 23:45:25
    (くそッ・・・ 何でこんなに増えるのよ! ずっとあっちのターンだなんて普通はあり得ない!)


    青白い肌の大男の大群の中から野太い声が聞こえてくる。


    「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ・・・ チミはもう死ぬしかない。
     アタクシは最強であり最凶であり最恐であり最狂の奇術師。 
     エレン様の素晴らしい構想の邪魔をする者には相応の苦しみと死を与えるわよん。
     だから動かないで大人しく殺されなさい。」


    霊夢の視界に入っている大男達の不気味なまでに紅い唇は一切動いていない。

    そもそもその青白い体は微動だにしておらず、ただ残像を揺らめかすだけだった。


    奴の狙いは何なのか。


    恐怖で殺すとヴァレンタインは言っていた。

    それなら遥斗と同じように直接体に触れなければ“恐怖で殺す”ことはできない筈だ。

    どういうわけか彼はこの方法で殺すのにこだわっているようだ。


    (相手は全く隙が無い。)


    ではどうすれば実体を出すのか。


    攻撃するのなら向こうも実体を出す必要があるはずだ。


    (隙を作る・・・ 油断させるためにすべき事・・・)
  16. 16 : : 2016/08/17(水) 17:01:08
    (逆に考えるんだ。 ・・・動かなければいいんでしょ・・・)


    霊夢は目を閉じて体の力を抜き、完全に屈服したように見せかけた。

    その瞬間をヴァレンタインは逃さなかった。


    「ひゃひゃッ・・・ 諦めたようね。 じゃあ遠慮なくトドメをォォォッ!!」


    ヴァレンタインの大群の中から残像を出さない一人が霊夢に向かって飛びかかってくる。

    右手の重い拳が霊夢の顔面に突っ込んでいった。


    しかし、あと数センチのところで霊夢の目が開き、パンチはかわされてしまった。

    大きな背中の真後ろに回りこみ、大きなお祓い棒を斧のように振り上げた。


    「油断して姿を現したわね、本体。 こうすれば油断すると思ったわよ。」


    その武器を振り下ろすと、無音とともに鮮やかな血が飛び散った。

    ヴァレンタインはその場に倒れ、ダミーの姿が徐々にぼんやりと薄れていく。


    「ぎゃあああああ!!」



    「これで終わりよ。 あなたはここから先に来てはいけない。」


    そう言い残した霊夢は、遥斗のもとへ走ろうとした。
  17. 17 : : 2016/08/18(木) 09:45:46
    「この・・・ こんのクソガキがァァァッ!!」



    ヴァレンタインの腕が霊夢の足を掴み、強く握りしめた。

    足が動かず、霊夢はその場に転倒してしまった。



    ヴァレンタインの能力は、“記憶を反映させる程度の能力”。

    少し前に見た光景をそのまま再現させ、実体化させる。

    また、直接体に触れることで遠い過去の記憶を重い出させ、その時の苦痛や恐怖を数倍にして体感させることもできる。



    「ひゃひゃひゃひゃ・・・ざまあ見ろ!!
    我が能力、それは“過去の記憶を反映させる”程度の能力ッ!
     苦しんで死にやがれクソガキィィィッ!!」



    その瞬間、頭の中にある“記憶”がよみがえった。
  18. 18 : : 2016/08/19(金) 23:03:03
    幼い黒髪の少女は、それより一つ下くらいの年齢の男の子と背が高い女とともに木陰に隠れていた。



    美しいブロンドの色の髪のその妖怪の腹部には穴が空いており、大量の血が出ていた。



    辺り一面は雪景色で、赤い線が町から伸びていた。



    男の子は何かに非常に怯えており、二人の陰に隠れて震えていた。





    そこに緑色の派手な装束を纏った人が突然現れた。




    人間や妖怪とは違う異様な神々しく、禍々しくもある気配を醸し出している。






    「なんだ、そこに居たんだ。 この二人にも実験台になってもらわないとね。」





    その顔に見覚えがあるのか、男の子が悲鳴をあげて慌てて逃げ出そうとするも、ツタが全身に巻きついて動けなくなってしまう。




    ツタは緑色の服の女の爪から伸びており、全身を強く締め上げる。





    しかし異様な音をたてて一斉に切断され、緑色のツタがエネルギーを失い異常な速度で枯れてしまう。





    「この子達には手を出さないで! この子達は・・・」




    腹部を貫通されているにも関わらずその妖怪が、扇子を持ち“境界”を作ったことに気付き、憤激する。





    「邪魔するんじゃねえよスキマ妖怪! てめえらのせいでこっちは迷惑してんだよ!」





    蹴り上げられ、その”スキマ妖怪”が柔らかい雪に飲まれた。




    幼い二人を恐ろしい表情の女がそれぞれ右手と左手で掴み、地面に押し付けた。





    その時、それは幼い霊夢の目に映った。




    それはどこかから飛んできて、深い雪に落ちた。




    それを見た少女は、涙が止まらなくなった。














    なぜなら、それは彼女の父親の首だったからだ。








    「い・・・ いやぁぁぁぁぁぁ!!」
  19. 19 : : 2016/08/19(金) 23:05:16
    「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」





    白い刃が青白い肌に突き刺さった。


    御幣は背中の傷が無かった場所に突き刺さり、貫通した。



    「ぐはっ・・・ な、なぜ能力を・・・ そんな・・・ クソ・・・が・・・」


    刺さったのはちょうど肺の部分で、あっという間にヴァレンタインは意識を失った。


    ―ヴァレンタイン・ドラウンジョーカー、満身創痍(リタイヤ)。―




    霊夢は地面に座りこみ、お祓い棒を置いた。

    液体を弾く素材なので紙に血は付いていない。



    「何だったの・・・ 今のって・・・ 昔の記憶!?」



    ボロボロの若い八雲紫。 隣にいた男の子。 正体不明の敵。 そして、父親の首。



    霊夢には全てが理解できなかった。



    「あっ、遥斗!」


    霊夢は慌てて遥斗へと駆け寄った。
  20. 20 : : 2016/08/21(日) 00:40:35






    長時間精神攻撃を受けていたため遥斗はぐったりしており、肌が冷たい。

    心臓は動いており呼吸もしているが、非常に弱い。


    「遥斗! しっかりして! こんなので死んじゃ・・・」


    「霊・・・夢・・・?」


    遥斗は目を開けていた。

    体温も徐々に上がり、肌に血の気が戻ってくる。



    「おい霊夢。 ・・・俺を置いて先へ行け。 このペースなら自力で・・・歩けるようになるまであと8分かかる。 その間に封印が解かれたら全てが終わりだ。 だから・・・」



    声は弱々しくも相変わらず落ち着いている。


    「ええ。 来れそうだったら出来るだけ早く来なさいよ。」


    そう言って霊夢は飛び上がり、洞窟の奥へと進んで行った。

    遥斗はただ小さくなってゆく背中を見続けることしかできなかった。





    目の色が赤くなり、見える色が徐々に変わる。

    洞窟の壁が視界から消え、目に緑色や黄色に光る霊夢の像がはっきりと映る。


    その周りも少しずつ黄色に発光し始め、それが“線”であることがわかる。


    (エネルギーの線だと!? この形はレーザー、狙い撃とうとしているのか!)


    起き上がろうとするも体に力が入らず、ようやく立ち上がった時には既に発射間近の状態だった。
  21. 21 : : 2016/08/21(日) 10:19:17


    辺りを見回すように霊夢はゆっくりと洞窟の奥へ進む。



    なぜ霊夢は急を要する時なのに速く飛ばないのか。

    それは、何か危機感を感じるからだ。

    ”球体”の他にもう一つ、よく知っている何かを感るのだ。


    前に洞窟に来た時は気が動転していたからか、それよりも広く感じる。


    神秘的な構造なのは相変わらずで、鍾乳洞や水溜りを蛍光灯の白い光が照らす。






    「えっ!?」



    その時感じた光は、それとは明らかに違うものだった。


    激しい熱とともに虹色の太い線が霊夢を襲う。

    振り返った時にはあと数メートル、回避も結界も間に合わない。

    ただ霊夢はそのレーザーを前に硬直するしかなかった。


    (そんな・・・こんな所で・・・)




    眩しい光に黒い影が突然現れ、赤い光を発して攻撃を止めた。
    遥斗だ。

    右腕から錬成した六角形の大きい板にレーザーがぶつかり、絶えずチリチリと音を立てる。

    そのシールドを両手で支え、両足で地面を抉り衝撃波に耐えている。

    靴のメッシュからは絶えず赤い粒子が漏れ出している。


    「遥斗!?」



    「何をしている! 早く射線から出ろ!」

  22. 22 : : 2016/08/21(日) 21:49:58

    シールドにヒビが入り、ガラスが割れるような音が響いた。


    「見殺しにはしない! 二重結・・・ うわっ!」


    義手が赤い板から離れ、関節が異様な方向に曲がり結界を張ろうとする霊夢の腕を掴む。

    霊夢は投げ出され、数メートル離れた平たい地面に体が叩き付けられた。



    義手の表面が赤く光って溶け始め、力が弱くなってゆく。

    シールド+二重結界では間違いなく防御しきれない。

    ならば確実に一人は助けなければならない。

    でないとこれから始まろうとしている惨劇を止められない。





    シールドがバラバラに砕け、その熱線が再び直進し始める。

    それは一瞬で洞窟の壁にぶつかり、細くなっていった。





    その跡に遥斗の姿は無く、ただ熱い空気だけが残った。
  23. 23 : : 2016/08/22(月) 16:59:09

    「そ、そんなッ!」


    撃ってきた方向を向くと、そこには見慣れた姿があった。




    霧雨魔理沙。




    黒い拘束具が全身に纏わりついており、感情を感じ取れないがその顔と気は確実に彼女であった。


    「魔理・・・沙・・・!? なんでここに・・・!」


    その背後から人影が近づいて来る。


    渦のような白い装束が足元から鼻の部分までを覆っているため表情が全く分からない。

    右手には水晶玉が握られていて、紫色の布で守られている。

    無風の空間の中で長い髪が揺れた。



    「これでやっと一人目ってわけか。」



    その声は冷淡で、まるでガラスのように耳に入る。


    その女は魔理沙の肩に腕を回し、頭を撫でた。


    「初めてだよ。 私の役に立ったのはこの子が初めてだ。 よくやった。 ふふふ」


    魔理沙の体が無気力に揺さぶられる。

    目が虚ろで、まるで意識が無いかのよう。



    「アンタ、何者?」



    霊夢の怒りは心頭に達している。



    「私の名前は”エレン・DD・マインダー”。 新たな幻想卿の支配者になることが決まっている存在だ。
     秩序の守られた世界で生きる権利を奪われたくなかったら、私の支配下に下れ。」
  24. 24 : : 2016/08/23(火) 12:02:49
    「そんな事する訳ないでしょ!」


    即答だった。

    大切な仲間を二人も傷付けられたため、霊夢は頭に来ている。


    「仲間を殺したり洗脳する奴のわけのわからない夢にはいそーですかだなんて言う奴はどこにもいない。
     さっさとここから立ち去りなさい! じゃないとどうなっても知らないわよ。」


    エレンの露出した鼻から上の肌から見える血管が太くなり、目が血走る。

    “支配欲に支配された女”は自分に上から目線で話される事を誰よりも嫌っている。



    「そう。 ならばあなたに生きる権利はない。
     片付けろ。そいつは必要ない。」



    腕が黄色い髪の少女から腕が離され、その少女の右手に握られているミニ八卦炉を霊夢に向けた。

    蛍光灯の光りが黒と白の幾何学模様で反射し、その正八角形の物体が黒光りする。



    「殺す・・・」



    魔理沙の口が動いた。

    霊夢の知っている彼女ならこのような事は全く言わない。


    「そう、ならば力ずくで元の魔理沙に戻す!」

  25. 25 : : 2016/08/24(水) 00:20:14







    「開かない・・・ どういう事・・・!?」


    人里の路地裏にいる紫と藍は困惑していた。


    「スキマが開かないだなんて・・・!」


    スキマが開かない。


    “球体”の隠し場所がバレた事も霊夢と遥斗が窮地に陥っていることもすぐに把握した。


    加勢するためにスキマを使って瞬間移動する筈が、空間に切れ目が入るだけで通れる程にならない。


    「これは一体・・・ はっ!?」


    藍の顎がひんやりとした。
     
    金属でも液体でもドライアイスでもないような不気味な冷たさ。

    次に来たのはナイフで切られたような鋭い痛み。


    「藍! 何よそれ!」


    路地裏に屋根が大きな影を作る。

    その“影”から得たいの知れない黒い物体が伸びている。

    紫の視界に入ったばかりの頃は液体状だったが徐々に姿を変え、甲冑の腕のような形を形成する。

    藍の顎に形成された刃が食い込み、少しずつ血が出始めている。


    「ゆ、紫様・・・」


    抵抗しようにもそれが四肢にもまとわりついており動けない。



    「てやぁッ!!」


    紫が持っていた扇子で空間を切り裂く。



    気がつくと藍は紫の背後にいた。


    藍の周囲の空間の境界を藍を傷付けないように切断し、自身の背後の空間との境界を消して瞬時にテレポートさせていた。

    同時にまとわりついていた影も切り裂かれ、どこからか悲鳴が聞こえる。






    「まずいわね。 こんな時に限って、面倒な敵が来るなんて。」









    _________
    TO BE CONTINUE→
    ―――――――――



  26. 26 : : 2016/08/24(水) 00:22:52




    次回予告



    ついに復活してしまったエクリプス。
    その邪悪な精神を前にして、新たな力が発現する!



    次回、東方双赤星

    「侵食(eclipse)」

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著者情報
pvpvpv0712

通りすがりの御大将

@pvpvpv0712

この作品はシリーズ作品です

東方双赤星  ~A Story Of Eclipse~ シリーズ

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