この作品は執筆を終了しています。
蛍⑤
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- 1 : 2016/06/05(日) 10:31:23 :
- オリジナル設定多数。
キャラ崩壊・・・在ります。
まだ終われない・・・il||li _| ̄|○ il||li
最早SSではないような気がしてきました・・・
すいません(;゚(エ)゚) アセアセ
下手くそですが・・上記をご理解の上、お付き合い頂きます様お願い申し上げます。
過去スレ
蛍
http://www.ssnote.net/archives/44134
蛍②
http://www.ssnote.net/archives/44186
蛍③
http://www.ssnote.net/archives/44614
蛍④
http://www.ssnote.net/archives/45058
何卒よろしくお願い致します┏o〃ペコッ
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- 2 : 2016/06/05(日) 10:33:24 :
大川のF3から放たれたASM-2はレ級に向かって一直線に飛翔してゆく。
レ級から放たれた砲弾は空気の層を突き破り、真空波を自らの後ろに引き連れながら突き進む。
大川のF3を掠めた二発の砲弾は、一発が真空波の刃で操縦席の風防を砕き、主翼の根元、機体背面の外板を紙くずを引き剥がすように捲れさせ、破り捨て全てをむき出しにした。
尾翼を破壊し、そのままはるか後方へと抜けてゆく。
機体の下部を通過した砲弾はエンジンの空気取り入れ口を潰し、機体腹面の外板を剥がしエンジンを破壊した。
操縦席の緊急脱出装置が作動し、射出座席のロケットモーターが点火されると砕け散った風防が吹き飛び、操縦座席が勢い良く上方へと射出された。
ロケットモーターの噴射が終わると座席は操縦者から離れ、操縦者がパラシュートでゆっくりと海面に降下してゆく。
そのまま機体は空中分解を起こし砕けながら海面へと落下、一部はそのままの勢いでレ級へと向かった。
レ級は大川が放ったASM-2を前面で受け、戦艦のシールドの硬さに守られ轟沈を免れたものの、衝撃で後方へと吹き飛ばされた。
更に追い討ちをかけるように勢いのついた大川の機体の破片をもろに受ける。
そのすさまじい衝撃により気を失ったらしく、そのまま海面にうつぶせに倒れた。
長門はこの一瞬の出来事を、まるでスローモーションを見るように、映画のワンシーンを見ているかのように呆けて見ていた。
しかしその目の前の出来事が現実のものだと認識した瞬間、声にならない叫びを上げていた。
血の涙を流さんとばかりに喉の奥から搾り出すように響いたその叫びは、全速で近づいていた第二艦隊の面々、遠方より長門や高雄、矢矧たちの頭越しに弾幕を張り続ける大和や武蔵、金剛たちにまで響き渡った。
追いついた愛宕が長門に肩を貸し、大川の着水地点に向けて曳航する。
一足先に長月や皐月、雷、電、響、暁などの駆逐艦たちが全速で向かう。
赤城や加賀が着水地点に直掩機を飛ばし、金剛、比叡、高雄、矢矧、阿賀野等がレ級に向かってゆく。
飛龍、蒼龍がなけなしの戦闘機隊を飛ばし、上空制圧をしていた。
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- 3 : 2016/06/05(日) 10:34:53 :
- 『KG-1被弾、パイロットは脱出した模様、至急収容願う』
『着水地点は呉艦娘の第二艦隊が確保中、ポイントDL-35に急行されたし』
『こちらKGS01了解、直ちに救助ヘリを・・・』
通信が乱れ飛び、護衛空母かがから救助ヘリが飛び立った事を告げる。
皆、彼は無事脱出できていると信じていた。
そう信じたかった。
着水地点は第二艦隊の面々が取り囲み、敵襲に備えていた。
長門は愛宕に肩を貸され、曳航されながら駆けつけた。
囲みを抜け、中に入る長門。
長門は眼を見張った。
今まで何度も死に際を目撃してきた。
もっと酷いものも見てきたのだろう。
そういったことには慣れっこになっているはずだった。
しかし目の前に横たわるその姿は、言葉に出来ないほどの胸の締め付けとなって呼吸を詰まらせる。
海面は赤に染まり、パイロットスーツの腹の部分は裂け、臓器の一部がはみ出ていた。
ショック状態で体は硬直し、手足は震え、顔は完全に青ざめていた。
唇は真紫に染まり、眼は落ち窪み、呼吸は浅くのど笛がなっている。
雷と響がモルヒネと止血テープで応急処置に入り、愛宕はその様子に絶句していた。
長門はよろよろと大川の傍に両膝を突くと、上体を抱きしめる。
「長門さん!!提督に・・提督に声を掛け続けて!!」
「司令官!大丈夫だ!今ヘリが来る!頑張って!」
雷が、響が声を掛ける。
長月がモルヒネと止血テープの追加を探しに行き、皆は涙を堪えながら周囲を警戒していた。
長門は声が詰まった。
声を掛けたいのだが、悲しみと苦しみと・・・自らの油断が招いたこの事態に掛ける声すらなくしていた。
搾り出さねば・・・
長門は必死に名前を叫ぼうとした。
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- 4 : 2016/06/05(日) 10:36:05 :
- 「・・・少尉・・・中谷・・・少尉・・・」
ポツリと呟いた言葉に響が驚きの顔を長門に向ける。
雷は止血に夢中で聞いては居なかった。
中谷・・?一体誰のことなのだろう?
長門この状況の中、最早正気を保てていないのだと響や他の艦娘は思っていた。
長門はそんな事にお構い無しに名前を呼び続ける。
「少尉!!!中谷少尉!!私だ!!長門だ!!聞こえるか!!やっと・・・やっとまた共に戦えると・・・なのに・・・少尉!!!!」
長門は力の限り叫ぶ。
雷もその違和感にやっと気付いたのだろう。
周囲を警戒する皆も長門が叫ぶ言葉に、戸惑いと悲しみを感じ、ついに堪えきれず泣き出すものも居た。
大川は長門の叫ぶ声に気が付いたのだろう。
見え辛くなって泳いでしまっている眼球を声の方に向ける。
相変わらず呼吸は浅く、ひっきりなしに口から血があふれ出ていた。
長門はあふれ出る血を手の甲で拭うと、大川を見つめる。
大川は震える手で手袋を外そうとする。
血のりで滑るのと、握力が完全に入らず苦労しながらも手袋を外すと、左手に嵌められていた指輪を外した。
同じく震える手で胸のポケットから一回り小さな指輪を取り出すと、長門に渡そうとする。
「な・・・・な・・・」
大川は必死に長門に話しかけようとしているのだろう。
吐き出される血で言葉を発する事も難しい状態の中、きっと長門を呼んでいるのだろう。
眼も霞み、長門を探す事すら、こんなに近くで抱きしめている事すら判らず、声を頼りに長門を探しているのだろう。
長門は握られた指輪を持つ手をそっと握り締める。
「少尉・・・私ならここに居るぞ・・・中谷少尉」
長門は涙声で優しく話し掛ける。
溢れる嗚咽を噛み殺すために、必死に歯を食いしばり、涙を流し続ける。
流した涙が大川の頬に落ちる。
大川はその温もりを感じる事すら出来なかった。
周囲からすすり泣く声が聞こえる。
通信機のレシーバーが地点の到着予定時刻を告げている。
雑音がやたらと大きく聞こえた。
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- 5 : 2016/06/05(日) 10:38:02 :
「ご・・・ごめ・・・ん・・・」
大川が搾り出すように一言告げる。
握られていた手を優しく開くと、長門の手に二つの指輪が転がった。
長門は眉間に皺を寄せ、涙を流しながら首を振る。
「何を謝る?少尉・・・さぁ、一緒に帰ろう・・・」
長門が優しく話し掛ける。
大川は頷くと、そのまま体の力がすべて抜けていった。
瞳孔が開き、今まで震えていた肢体がだらりと海面へと落ちる。
紫に染まっていた唇や血管の浮き出た顔から血の気が引き、土気色へと変わる。
それまで辛うじて感じていた温もりが消え、者から物へと変わってゆく様を感じさせる。
「少尉・・・少尉・・・」
長門が何度も大川に呼びかける。
最早その声に力は無く、すべての終わりを告げていた。
響は帽子のつばを下げ俯き、雷は返り血を浴びている顔を隠そうともせず涙を流ししゃくり上げる。
周囲を警戒している艦娘達が咽び泣く中、長門は大川の体を抱きしめたまま、何度も優しく彼を呼んだ。
彼の血で紅く染まる体を、顔を拭いもせず、何度も何度も彼を呼んだ。
遠くで意識を取りも出したレ級の胸座を掴み、金剛が何度も拳を振り上げる。
比叡がそれを止めに入るも、金剛の気迫がすさまじく止め切れなかった。
高雄と矢矧はそれもやむなしと私刑を黙認し、比叡が高雄や矢矧に金剛を止めるように説得している。
レ級は殴られようが蹴られようがへらへらと哂い、その姿に怒りを覚えた高雄も金剛に混じりだした。
比較的常識人と信じていた高雄や金剛ですら、戦場の狂気の中で何かを失っている。
戦闘も収束し、各戦線から状況終了の報告が重なる中、救助ヘリのホバリングする音が海面を波立たせる。
長門はヘリが作り出す飛沫の中、大川の体を抱きしめ続けた。
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- 6 : 2016/06/05(日) 10:39:10 :
- 「・・・長門?どうした?」
飯島提督が声を掛ける。
長門はハッと我に返った。
もう現在時刻も曖昧でとっくに日付は変わっているのだろう。
対面の江田島の明かりも全く見えなくなり、灯台が光を回転させ、周りの海域を照らす光が印象的だった。
酒盛りは続き、隼鷹も起き出して迎え酒を呷っている。
長門は先ほど聞いた、大川提督の曽祖父が艦だった頃の自分に乗っていた事実を聞かされ、全てを理解していた。
理解というよりも、思い出したのだ。
屈託の無い笑顔、飛び立つ時のあの勇ましい真顔。
涙もろく、すぐに貰い泣きしたり・・・
いつもおどけ、周りを楽しませようとするその明るいまでの笑顔。
そうだ・・・まるで彼そのものだった。
「飯島提督・・・・私は思い出した。彼の曽祖父の事を・・・。大川提督と彼とは・・かかわりの無い人物だと思っていた・・・」
長門は酒の残る湯飲みを見つめながら呟く。
「母方の曽祖父だからな・・・苗字が違うし、普通は気付かないだろう。大川は母方の祖父の家に遊びに行くと、いつも祖父に戦艦長門時代に活躍していた曽祖父の話をせがんだそうだ」
飯島は月を見上げながら語る。
杯を呷ると、手酌で自分の湯飲みに酒を注いだ。
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- 7 : 2016/06/05(日) 10:40:18 :
「そうか、だからなのだな・・・。大川提督を思う時・・・彼の顔が浮かんだ。彼を思い出すとき・・・大川提督の笑顔が心を暖めてくれた。そうだったのだな・・・」
長門が呟く。
赤城や加賀、隼鷹や金剛、比叡、陸奥は円陣を組み、なにやら楽しそうに話に華を咲かせていた。
榛名と霧島は偲ぶように月を見上げ、静かに杯を飲み干す。
皆それぞれに何かを忘れようと、何かを思いださないようにと笑顔を作っていた。
「彼は・・・良い操縦士だった・・・」
長門はフッと口元に笑みを浮かべると、そのまま月を見上げた。
「私は戦艦だ。操縦の良し悪しはわからんが・・それでもそんな私から見ても上手いと思えるほどの腕だ。あの後戦闘機に乗ったと聞いたが・・さぞ活躍していたのだろう」
長門は月を見上げたまま溜め息を吐く。
皆は長門の話に耳を傾けていた。
「零観に乗ってカタパルトから射出される時・・彼は必ず笑っていたよ。飛ぶ事が大好きだったのだろう。そんな彼が・・・私のところから居なくなって・・・暫くした頃か。ひょっこりと私に乗り込んできてな・・・甲板の手すりに掴まって、海を見つめながら泣いていたよ。」
長門は自らの杯に目を落とす。
その瞳に悲しみを湛え、柔らかい海風が長い髪を揺らした。
「風の噂で、神風特攻隊の隊員を育てるための教導員をしていると聞いていた。あんなに優しくて、明るい彼の事だ。きっと耐え切れなかったのだろう。死ぬための隊員を育てる事が。しかも年端も行かぬ子供みたいな連中・・・。彼の悲しみが伝わってきてな・・・切なかったのを覚えている」
長門はしみじみと語ると、酒を呷る。
飯島は胡坐を書きながら長門の話に聞き入った。
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- 8 : 2016/06/05(日) 10:41:18 :
「ho・・・私も大川提督から聞いた事があったョ。提督のGreat-grandfatherは・・・カミカゼの隊員を育てるためのInstructorをやっていたって話」
皆が長門の話に聞き入る中、金剛はそう一言発するとすっと立ち上がった。
円陣から歩み出た金剛が長門の隣に座ると、長門の肩を抱いた。
「提督のGreat-grandfatherはね・・・長門で零観に乗っていた時代が一番好きだったと言っていたそうョ。長門という艦が一番好きだったって。長門・・貴女は大川提督、そして提督のGreat-grandfatherの二人から・・・愛されていたのネ・・・うらやましいワ」
長門は金剛の言葉を聴き、胸元のネックレスに付けられて居る指輪を引っ張り出すと、自らの左の手に嵌められている指輪も外し、そのネックレスに通した。
元々はこのチェーンに二つとも嵌められていた指輪だったが、一つは常に左手の薬指に嵌めていた。
あの時、渡された血まみれの指輪・・・
「私は今の今まで、あの彼が大川提督の曽祖父だとは知らなかった・・・だからさっき飯島提督からその話を聞いた時、初めてあの時叫んだ事の意味がわかった・・・」
掌の上にある、二つの指輪が通されたネックレスを見つめる長門。
長門はそれを握り締めると陸奥を呼んだ。
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- 9 : 2016/06/11(土) 20:29:41 :
「陸奥・・・こっちに来てくれ」
長門は陸奥を呼び寄せると、指輪の通ったネックスを目の前に差し出す。
陸奥が戸惑いの表情を見せると、陸奥の手を取り、その掌にネックレスをそっと置いた。
長門が寂しそうな微笑を見せる。
陸奥は手に置かれたネックレスがずしりと重く感じた。
それは物理的な重さではなく、二人の心が積み重なっているような命の重さだった。
互いの胸の中に互いを抱きしめ、しかしそれを伝えられなかった。
だがそれは確かに存在し、優しく闇夜に灯る蛍の光のような仄かな想い。
その重なった想いが今陸奥の掌の上に存在し、刻まれた傷の一つ一つがその強さを物語っているようだった。
「陸奥・・・貴様にこれを預ける。私の生きた証だ」
そこに居る皆は長門の言葉に驚き、そして静まり返った。
今まで忘れようとしていた現実を突きつけられ、長門が居なくなってしまう事実に皆が押し黙った。
「長門・・・」
「捨ててしまってくれてもかまわない。ただ私がそこに在った証は残したい」
長門の言葉に飯島は俯き、皆も名残惜しそうな顔で長門を見つめた。
「長門・・・今からでも遅くは無い。もう一度考え直せ」
飯島は長門に詰め寄る。
今此処に居る皆の気持ちを代表して彼は長門を説得しようとした。
長門は飯島の言葉に静かに首を横に振ると、対岸の江田島を見つめる。
張り詰める空気の中、小波が突堤に砕ける音だけが響いていた。
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- 10 : 2016/06/11(土) 20:31:12 :
- 「『人間は病原菌で、我々はそれを駆除する言わば免疫だ』・・・ミッドウェーで被弾し、対峙したレ級が私に言った言葉だ。なるほど・・今ならその意味もわかる」
長門は波の音に身を任せるように瞳を閉じると、独り言のように呟いた。
皆は押し黙ったまま長門を見つめている。
「過去に・・・現職の米国大統領が被爆地であるヒロシマの平和記念公園に訪問したことがあったな・・・あれは歴史的瞬間だったと評する人が殆どだ。『世界一貧しい大統領』といわれたウルグアイ第40代大統領・・・女性の権利を説いたノーベル平和賞の少女・・・」
長門は表情を変えず淡々と語る。
かつての偉人達が残した功績を思い出すかのように語ると、溜め息を吐いた。
「そうかと思えば、勝てる見込みの無い戦に民を巻き込み、一億総特攻を叫んだ奴も居たな。世界制服を夢見て『第三帝国』なんて妄想を掲げた奴も。米国内で起きた同時多発テロをきっかけにした武力侵攻・・・大量破壊兵器を持っていると嘘を言って攻め込み、独裁国家の民主化を進めた。結局未だに続く中東での混乱・・・。主義主張、人種、宗教、居住地域。どんなに世が進んでも、差別はなくならないし、虐殺の歴史に暇が無い」
長門が視線を海に落としながら語る。
静まり返る夜の空気の中、月明かりが冴え渡っている。
どこかで猫の鳴き声がする。
車が時折通る音が、闇に響いた。
「私は信じていた。確かに過去の過ちも多い。でもそれは一部の人間のしている事・・・。そう思っていたよ。でも現実はどうだ。艦娘の取り扱いについて幕僚会議の席で恥をかかされた。自らの無知を棚に上げ、前幕僚長を退任に追い込み、前幕僚長の特例人事で昇進した大川提督の失職を狙った」
長門は眉間に皺を寄せる。
飯島もその噂は聞いていた。
現幕僚長と前幕僚長の間で確執があったことは以前から言われていた。
艦娘を国防海軍に編入させる際にやはり様々な折衝が存在していた事も事実だった。
しかしその事が今回の大川の死に間接的に関与しているとは口が裂けても言えない公然の秘密でもあった。
現幕僚長が人事異動という名の下に前幕僚長の派閥だった人物や、前幕僚長と関わりが深かった人物を疎ましく思い、要職から遠ざけたり、閑職へと追いやったりといわゆる『粛清』を行っていた事は軍上層部に居る者なら皆知っている事だった。
ミッドウェー作戦の際に大川が航空支援のための出撃に対し、なんら反対の意見が出なかったのはそのためである。
呉の艦娘達はその事を知らない。
大川が余計な心配はさせまいと可能な限りその手の情報が入らないよう、目の前の作戦行動に支障をきたさないよう苦心していたのは言うまでも無い。
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- 11 : 2016/06/11(土) 20:32:02 :
- 長門は秘書艦だった事も在り、新宿区の海軍幕僚監部にまで作戦の終了報告に行った事があった。
その際の幕僚長の大川の死に対しての暴言を見過ごす事が出来ず------本人は軽口のつもりだったのだろうが------そのまま幕僚長の胸座を掴み引きずりあげ、あわや暴力事件となってしまう寸前であった。
その際に止めに入ったのが後任人事紹介を兼ねて同席していた今の提督である飯島だった。
「人に対して希望も無ければ絶望もしていない。私は・・もうよいのだ。陸奥、後は頼んだぞ」
長門はそれ以上言葉が紡げず、陸奥の肩に手を置いた。
陸奥はその手を握り締めると、静かに俯き、涙を隠していた。
「さぁ皆も明日の作戦があるのだろう?私もそろそろ一人になりたい。提督、夜が明けたら必ず工廠に出頭します。今夜は此処で夜を明かしてもよろしいでしょうか?」
長門が飯島に許可を願った。
飯島は黙って頷くと、帽子を深く被りなおす。
金剛達はもう掛ける言葉すら見つけられず、隼鷹は泣きじゃくっていた。
赤城と加賀は長門の肩をポンと叩き、そのまま通り過ぎていった。
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- 12 : 2016/06/12(日) 20:22:01 :
また一人になった。
皆は名残惜しそうにに自らの部屋へと帰っていった。
夜の帳の中、儚い月明かりも影を潜め、鎮守府敷地内の海に面した突堤の一番先端部分、コンクリートの岸壁に座っていた。
海方向から吹き抜ける柔らかな南風が長い髪を緩やかに揺らす。
先ほどまで皆が集まって酒盛りになっていた。
別れを惜しんでくれたのだろう。
彼女は、夜が明ければ解体される。
本来なら、解体される艦娘は逃げ出さないように軟禁状態で外に出ることは許されない。
艦娘が解体されるという事は、その存在が世の中から消えるという事だ。
たとえその身が生体の彼女達とはいえ、それは免れるものではなかった。
彼女は今着任している提督にも信頼が厚く、この場所で夜を明かすことを許可してくれていた。
恩赦・・・というよりは末期ぐらい好きにさせてあげたいという提督の配慮なのだろう。
最後に心中を吐露できた事はありがたかった。
陸奥に自分の大事にしていた指輪を渡す事も出来た。
もう思い残す事も無い。
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- 13 : 2016/06/12(日) 20:22:55 :
- 江田島は道路の外灯以外の明かりはほぼ消えており、そろそろ夜明けに近い空は濃紺から少しずつ青みが明るくなりかけていた。
長くしなやかな髪が南風に緩やかに揺れる。
長門はその風に身を任せるように瞳を閉じる。
風が止み、長門がうっすらと瞳を開けると、目の前を何かが通り過ぎた。
優しく淡い光を棚引きながら長門の周りを飛び続ける。
「・・・蛍?」
こんな時間に飛び回るなんて珍しい。
蛍は清流の傍で、湿気の多い夜にパートナーを探すために自らの腹部の後方に光を灯し飛び回る。
しかし此処は海・・・蛍の飛ぶ環境ではない。
しかもこんな夜中に飛ぶという話は聴いたことが無い。
長門は不思議そうに飛び回る蛍に向かって手を差し出した。
差し出された手の中指に止まる蛍。
蛍は腹部の光を強めたり弱めたりしながらじっと中指に止まったままだった。
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- 14 : 2016/06/12(日) 20:24:35 :
『長門・・・』
蛍の光を見つめ続ける長門に誰かが声を掛ける。
長門は振り返り、周りを見渡すが人影は無い。
『長門・・・』
じんわりと発光を繰り替えず光を見つめ続ける。
誰かの声に似ていた。
明減を繰り返す仄かな光の中に、彼の面影が見える気がした。
なんだか胸に込み上げるものがあった。
抱きしめられたあの温もりが蘇り、胸の奥を暖めていた。
息が詰まり、想いは雫となって頬を伝い零れ落ちた。
『長門・・・』
繰り返すその呼び声は、懐かしさを孕みながら長門に優しく語り掛ける。
長門はその声に涙を流し続けた。
もう一度会いたい。
そう願っていた自分の、最後の願いが叶ったような気がした。
「提督・・・」
長門は光に呼びかけて見る。
涙声のまま発した言葉を聴いた蛍は長門の中指を飛び立ち、空へと舞い上がり、そして消えた。
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- 15 : 2016/06/12(日) 20:25:12 :
気が付けば空は白み始め江田島の島影がはっきりと見え出した。
涙を流し続けながら長門は立ち上がった。
「そうか・・・5年前の今日は貴方の命日でしたね・・・」
長門はポツリと呟くと朝焼けに色づいた空を見つめながら言葉に出来ない思いをその瞳から流し続けた。
彼女はそのまま踵を返すと、明石の居る工廠へと歩んでいった。
2083年7月29日
戦艦長門 解体
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- 16 : 2016/06/12(日) 20:26:09 :
~終章~
『国連事務総長、戦闘状態の収束を宣言』
近くの新聞屋の配達員だろう男性が小脇に号外の束を抱えて人々に手渡した。
通行人は皆群がるようにその号外を受け取ると、胸を撫で下ろす様な安堵の表情を浮かべる。
中には感極まって叫びだす人も居るくらいだ。
彼女は、次々に配られる号外を受け取ると、道行く人々と同じく安堵の表情を浮かべていた。
号外の内容は、今朝出かけに見たTVニュースで知っていた。
だが出社を急いでいたためにそこまで詳しくは理解していなかった。
今日は大事なプレゼンの在る日だったので、本当に聞きかじっただけだった。
しかし・・・やっとこれでこの抑圧された生活が終わりそうだ。
この生活が始ってからというもの・・・本当に生き辛かった。
物はなんでも不足気味だったし、仕事にも支障が出るし・・・
それもやっと終わる・・・。
文面を読み、内容に若干の疑問を差し挟みながらも彼女はその号外を折りたたみカバンの中にしまう。
目の前の信号が青に変わった。
スーツをそつなく着こなし、腰まである長い黒髪を翻すと、凛としたその赤い瞳を輝かせながら彼女は颯爽と歩き出した。
春霞の青空の下、スラリとした長身の彼女はヒールの足音をその空へと響かせた。
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- 17 : 2016/06/12(日) 20:27:43 :
- その日、彼女は大事なプレゼンを抱えていた。
彼女は日本国国防海軍向けの軍需産業最大手に勤めている。
今日は呉鎮守府所属艦娘向けに新たな近代化改修案を提出する予定だった。
「長井さん!長井さん!」
スクランブル交差点を渡っていると、後ろから彼女に声を掛ける人がいた。
「おお、加賀谷か」
「長井さん!これ見ました!?」
明るめの色のスーツを綺麗に着こなす若い男性は、先ほど配られていた号外を手に長井に話し掛ける。
その顔は赤らんでおり、慌てて追いかけてきた様子が伺える。
この号外の記事について、相当喜んでいる様子だった。
「ああ、見た見た!」
「長井さんの読みがバッチリでしたね!今日のプレゼンは貰ったようなもんです!」
加賀谷はニコニコしながら号外を握り締めていた。
「まだまだ・・・油断は禁物だ加賀谷!さぁ・・・気を引き締めていくぞ!」
「了解です!課長!!」
二人は颯爽と歩き出すと、同区の防衛省、海軍幕僚監部へと向かって歩き出した。
長井の胸元に揺れるネックレスが春の陽光を浴びて輝いていた。
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- 18 : 2016/06/12(日) 20:30:01 :
- 彼女はこのネックレスを大事にしていた。
なにか大事なプレゼンがあったりした時は必ずこのネックレスを握り締める。
そうすると心が安らぎ、大抵のことは上手く行った。
彼女は数年前まで病院のベットの上で意識不明の状態だった。
過去の記憶が無く、気が付いたときには病院のベットの上だった。
医師からは、家族旅行でフェリーに乗った際にその船が深海棲艦に攻撃され沈没。
殆どの乗客があっという間に船と共に行方不明になっていく中、数少ない生還者の一人として彼女は救助されたそうだ。
しかし重症を負っていて意識不明のまま当病院に入院し、3年ぶりに眼を覚ましたら、過去の記憶をなくしていた・・・との事。
家族は遺体すら揚がらなかったという。
彼女が意識を取り戻してから数日後、彼女の親戚と名乗る女性が面会に来て、この指輪が二つ通ったネックレスを渡された。
とても大事な物らしく、過去に長井本人から預かって欲しいと渡されたものらしいが、そのことは全く覚えていなかった。
親戚と名乗る女性は、もう会うことも無いかもしれないが元気で居てほしいと言い、その場を去っていった。
そこからまた暫くして、会社の上司を名乗る男が現れた。
彼女の職場復帰の手続きを代行してくれるといい、医師からも信頼できる人間といわれたのでそのままその人に任せる事にした。
暫くして彼女の体調も良くなり、退院となった際にはすでに住む所も決まっていて荷物も揃っていた。
彼女の親戚と名乗る女性も手伝ってくれたようで、何から何まで人任せになってしまった事を申し訳なく思っていた。
今の職場へ復帰し、数年で課長という重責を担うまでになったが、最初は本当に何がなにやら・・・全くわからないことだらけ。
今こうして海軍幕僚監部でプレゼンを行おうという自分が時々不思議に思えるくらいだった。
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- 19 : 2016/06/12(日) 20:31:45 :
海軍幕僚監部内の控え室に課の全員が集合した。
資料の準備等、機材の確認が済み、いざ会場へと向かう。
皆が機材を運ぶ中、長井もまた資料を両手に急ぎ足で会場へと向かう。
廊下を歩いていると不思議な感覚を味わった。
この建物に来るのは今回でまだ2回目なのに・・・なぜかそれ以上の懐かしさを覚える。
今までも何度かそういう瞬間があった。
仕事柄、横須賀や呉、佐世保などの鎮守府へ足を運ぶ事があった。
初めて呉の鎮守府に行った時は胸に込み上げる何かがあった。
佐世保や横須賀の鎮守府も、初めて行っても初めての気がしなかった。
まぁ・・・記憶がなくなる前からこの会社で働いていたんだし・・・当然といえば当然か・・
彼女はそうやって納得するようにしていた。
それにしても資料が重い・・・
手提げの紙袋に満載に入った説明資料。
ずっしりとして肩や腰に来る。
皆は機材や資料を片手にスイスイと会場を目指しているのに・・・
「課長~・・置いてきますよ~」
部下の一人である増本が笑いながらスタスタと歩いてゆく。
「増本~!あたしはか弱い乙女なんだから少し手伝え~!」
周りのスタッフが笑いながら歩いてゆく。
長井自身も自然と微笑んだ。
次の曲がり角を抜ければ会場は目の前-----
とその時、その曲がり角から人が飛び出した。
もちろんお互いに最短距離を狙っているためにラインは交差、正面衝突である。
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- 20 : 2016/06/12(日) 20:33:10 :
「わぁ!」
長井は相手の胸に顔を当てると、そのまましりもちをつく。
散らばる説明資料、脱げて転がるヒール。
ストッキングは電線し、膝が赤くなる。
「ああ!ごめんなさい!!」
相手の男性も慌てて飛び散った資料を集めだす。
長井は脱げたヒールを拾うと、資料を集めだした。
「本当にごめんなさい・・・プレゼンのことで頭が一杯で・・・」
長井はそういって拾った資料を差し出す男性を睨み上げた。
ネームプレートは・・・同じ会社の・・・
大川・・・
次の瞬間、長井の脳裏に断片的な記憶の奔流が沸きあがった。
あまりの膨大な映像・・・音声・・様々な場面が湧き上がるようにして映し出される。
窓を開け放ち、レースのカーテンがはためく中、後ろで手を組む白い仕官服の男。
突堤の先で帰りを待ち続ける横顔。
真剣な眼差しで見つめ続け、抱きしめられる温もり。
様々な映像が湧き上がり、その全てが胸を締め付け、目尻に雫となった。
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- 21 : 2016/06/12(日) 20:35:47 :
「ああ!そんなに痛かったですか?!本当にごめんなさい!!」
男は平謝りに謝ると、残っている資料を袋に詰めだした。
「いや・・そうじゃない・・・そうじゃないんだ・・」
長井も一緒になって資料を拾い出した。
前かがみになった瞬間、胸元にお守りのように肌身離さず着けているネックレスが自然と外に垂れた。
それを見た男はハッとなって長井を見つめた。
「し・・・資料これで全部ですね・・・本当にごめんなさい」
「い、いや・・・大丈夫だ・・・貴方は・・同じ会社の・・?」
「はい、今年航空機部門に異動になった大川です。初めまして、長井課長」
大川は鼻の頭を掻きながら挨拶をする。
「私の名を?」
「有名です。やり手の課長ですからね。僕もガンバって追いつきたいと思ってますよ」
大川はじっと胸元のネックレスを見つめる。
「長井さん・・・それって・・」
「あ、ああ・・・これは・・」
「長井課長!!どうしたんすか!?」
加賀谷が長井を心配して戻ってきた。
「あと30分しかないんですから・・・ああ!ストッキング電線してるし!」
「ああ・・予備があるから大丈夫だ・・・今行く」
長井は大川から眼を離すことなく加賀谷に生返事を返した。
「これからプレゼンですね。頑張ってください。僕も貴女の後にプレゼンです!お互いに頑張りましょう!」
ではと一言残して走り去る大川の背中を見送ると、そのままの姿勢でネックレスを握り締める長井。
胸の高鳴りは何時までも止まず、目尻の涙を拭うと、彼女は資料を手に会場に入った。
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- 22 : 2016/06/12(日) 20:36:55 :
その日のプレゼンを終え、防衛省を後にする長井は未だ夢の中に居るようだった。
プレゼンは大いに成功し、おそらく長井率いるチームの改修案が通る事になるだろう。
夢見心地で歩く長井の背中には、もう大川が彼女を呼び止めようと小走りに近づいていた。
その後、この二人が合同プロジェクトとしてタッグを組み、様々な難題をクリアしてゆく名コンビとして有名になってゆく。
結ばれることの無かった二人が時を超えて結ばれるのは、もう少し先の話になる。
~Fin~
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