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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

共犯者たち ※合作

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  1. 1 : : 2016/02/19(金) 01:32:33
    はい、どうもこんにちは。進撃のMGSです。


    今回は念願のheiße:無銘の戯言遣いさんとの合作であります。





    今作は以前私が書いた<エレン「虚しい勝利と死刑台」>の続編と位置付けております。


    http://www.ssnote.net/archives/38451








    heißeさん、どうぞ、よろしくお願い致します<m(__)m>
  2. 2 : : 2016/02/19(金) 18:24:40
    おおおおおおおお!
    神作の予感!
    期待&お気に入り登録!
  3. 3 : : 2016/02/19(金) 18:43:23
    >>2
    書きだす前からお気に入り登録、恐縮であります。


    今作も例によってプロローグを後日公開にいたします。
  4. 4 : : 2016/02/19(金) 18:43:43







    ~プロローグ~










    部屋の中を照らすのは、一本の蝋燭。














    調査兵団第一分隊長の執務室において、エレンは一人の客人をもてなしていた。



    金髪でスタイルの整ったその女性は、かつてはエレンの同期。
    そして、現在は壁外の国において、壁内の国との窓口。

















    アニ・レオンハートは密かに、エレンと密会していた。








  5. 5 : : 2016/02/19(金) 18:43:53









    密会といっても、男女のそれではない。
    団長、アルミン・アルレルトの命によって、エレンはアニを通じ、不正な貿易を行っていた。


    有体に言えば、調査兵団と壁外の国との癒着。
    これを知るのは兵団の中でも団長であるアルミン。エレン、サシャなど第一分隊所属の数名のみ。







    調査兵団の暗部。
    アルミンの老獪な政治力のなせる業であった。










    巨人との戦いは結局、壁内の国と壁外の国の争いに過ぎなかった。
    そのことが明らかになっても戦いは続き、ベルトルトやライナーは、その巻き添えになって死んだ。







    3年前、この戦いを終わらせたのは、団長に就任したばかりのアルミンだった。
    命がけの交渉の結果、アルミンは壁外の国の人間をねじ伏せ、休戦協定を結ばせたのだ。






  6. 6 : : 2016/02/19(金) 18:43:59








    表向きには美談だろう。
    憎しみを乗り越えて、休戦協定を結ぶことが出来たのだから。











    だが、実際の交渉はもっとどす黒いものだった。






    アルミンは武力を背景に、半ば強引に和平交渉に持っていった。
    反抗しようにも、座標の力を完全に掌握したエレンに屈せざるを得ず、屈服させられる形での休戦協定だったわけだ。






    勿論、アルミンはこのことを徹底的に隠している。
    今の平和はつまるところ、この偽りによって成り立っているといっても過言ではない。











    「それで、持ってきたモンは俺の家の地下倉庫に運んだんだろうな?」
    「ああ、滞りなく。」


    「いつもすまねぇな、アニ。」


    「白々しい・・・・・・つゆほどもそんなことは思っていないだろう?」
    「はは、こいつは手厳しいな。」










    アルミンの片腕として暗躍するエレンも、今やすっかり老練な政治家だ。




    表向きはまだまだ現役の兵士だが、裏ではこうして秘密裏に壁外の国との交渉に当たっている。
    しかも、この密貿易に関する書類まで管理していると来た。


    なかなかしたたかで、あざとい男になったものだ。






  7. 7 : : 2016/02/19(金) 18:44:08








    「さて、今日はお前にもう一つ話があるんだ、アニ。」
    「・・・・・・アルミンめ。また何か企んでるってわけか。」


    「企むだなんて、また随分なものいいじゃないか? アニ?」









    その声にハッとして振り返ると、丁度アルミンがエレンの執務室に入ってきたところであった。








    「盗み聞きとはいい趣味だね、アルミン。」
    「たまたま聞こえただけさ。それにしても君は随分と綺麗になったよ。」




    長い金髪を後ろに束ねたアルミンのことを、老練な政治家として憎み、また恐れる人間も多いと聞く。
    壁内の貴族も大概だが、今のアルミンからは本当に得体の知れない不気味さを感じる。


    涼しい顔をして平気で人を陥れる、悪党の顔であった。






  8. 8 : : 2016/02/19(金) 18:44:33








    「さて、本題のほうは僕から話させてもらっても構わないかな?」
    「俺は構わねぇぞ。」






    そう言うなりエレンは席を立ち、執務室の真ん中にあるソファに座りなおした。
    先ほどまでエレンが座っていた席にアルミンが座り、ゆっくりとタバコに火を点けた。






    「へぇ、アンタも吸うんだね。」
    「人前ではめったに吸わないんだけど、気を許した相手の前では、ね。」


    「気を許した? つまらない皮肉だ。」



    「これは失礼したね。」






    タバコの煙をふかしながら、アルミンは話を続けた。







    「実はね、アニ。これから僕らは壁内の大掃除を始めようと思うんだ。」
    「随分ともったいぶった言い方だ。もっとはっきり言うといい。」



    「まぁ、はっきりといってしまえば・・・・・・壁内の貴族の残党と、調査兵団内部の粛清だよ。」

    「内部の・・・・・・粛清?」




    「それ以上は・・・・・・・・・・・・聞かないことだよ。」







  9. 9 : : 2016/02/19(金) 18:44:40









    やっぱりアルミンは油断ならない男だ。








    「やっぱりアンタ、悪魔の末裔だ。」
    「何とでもいうんだね・・・・・・僕らは意志を変えるつもりはない。」


    「・・・・・・はぁ。」








    アニはあきれたようにため息をつくと、アルミンを見据えた。






    「・・・・・・ひとつ、聞かせてほしい。」
    「何なりと。」








    「アンタらがここまで権謀術数を尽くし、その手を汚す理由はなんだ?」







  10. 10 : : 2016/02/19(金) 18:44:45








    「・・・・・・俺たちにとって、壁外への進出は、長年の夢だった。」







    代わりに答えたのは、エレンだった。



    「それこそガキの頃からのな。外の世界への憧れは今でも変わらない。」








    その言葉を、アルミンが静かに引き継ぐ。






    「僕らは、ようやく分かってきたんだよ。


    炎の水、砂の雪原、氷の大地・・・・・・最早僕らの夢はタブーでもなんでもない。
    けれど、それを実現させるためには、まだまだ足りないのさ。」


    「足りない?」






    「この残酷な世界においては―――――“力こそが正義”だ。
    僕らが壁外で影響を及ぼすために、足元は安定させなくちゃいけない。」










    エレンもアルミンも、実に老獪で、恐ろしいほどに非情になった。



    この二人の食えない男は、敵対すればたとえ身内でさえも粛清するだろう。
    はっきり言って、無差別に人を食らう巨人よりも陰湿で、残酷だ。






  11. 11 : : 2016/02/19(金) 18:44:53







    「それで、私は何をすればいい?」


    「話が早くて助かるよ、アニ。そうだね・・・・・・エレンと協力して、この不正貿易のうわさを貴族たちに流してくれないかい?」

    「・・・・・・はっ!?」





    突拍子もない提案にアニは面喰ってしまった。
    かつてアルミンから、実は優しいといわれた時と同じくらいの衝撃だった。









    「アンタ・・・・・・何を考えている? 」





    正直言って、バカげていると思った。


    第一、意図が分からない。
    これでは、自ら断頭台に頭を差し出すようなものだ。







  12. 12 : : 2016/02/19(金) 18:45:04








    すると、エレンが再び口を開いた。






    「心配するなよ、アニ。すべての手筈は俺とサシャが整えたからな。」
    「どういうこと?」


    「アルミンは釣りをしようってわけだ。それも、特大の釣りをな。」








    やっぱり、ばかげている。



    「アンタらの不正は本物だ。分かっているのか?」








    アルミンはゆっくりと煙を吐いた。
    その目には虎視眈々と獲物を見つめるような、鋭い光を宿している。


    ・・・・・・いったいいつから、アルミンはそんな目をするようになったのだろう?






  13. 13 : : 2016/02/19(金) 18:45:10








    「だからこそ意味があるんだ。憲兵団の一部や貴族たちは、今だに僕らを恨んでいる。そして、恐れてもいるんだ。
    今でも僕は覚えているよ。休戦協定を結んだあと、エレンを死刑にしようとした時のことを。」







    勿論覚えている。


    団長であるアルミンは様々な陰謀を尽くしてエレンの処刑を阻止した。
    さらに、まだまだ力を持っていた貴族たちの力をそぎ落とすことにも成功したわけだ。









    「まぁそのおかげもあって、俺にも力の本質がわかったのさ。」



    自嘲気味に笑うエレン。
    この男がここまでしたたかになったのには、こういう背景があったのかと、アニは理解した。









    「さて、話を戻そうか・・・・・・僕らは憎まれっ子だからね。不正があるとなれば必ず貴族たちや憲兵団は食らいついてくるはずだ。


    でも、決定的な証拠がなければ僕らを追い詰められないように仕向ける。憲兵団に圧力をかけてね。
    一体誰が僕らに反抗的なのか、時を与えてじっくりと見極めよう。後で十把一絡げに駆逐すれば、手間も省ける!」







    「アルミン・・・・・・アンタ、まさか。」


    「そうだよ、アニ・・・・・・憲兵団や貴族たちを戦いに引きずり出してから一気に叩く。
    そして、調査兵団内部の不要な部分を切り落とすというわけさ。」








    どうやらこの密貿易は二つの目的があったらしい。



    一つ目に、壁外調査のための資金集め。
    そしてもう一つが、敵対する貴族たちをおびき寄せる・・・・・・エサ。








    この密貿易を始めた3年前から、計画は既に始まっていたのだろう。
    つくづく恐ろしい男だ。








    「随分とあこぎな真似をするじゃないか、アルミン。不正を逆手に取って、身内までも食らおうなんてね。
    でも、その場合、アンタらの無実が証明されなければ、意味がない。」


    「流石はアニだね。その通りだよ。」


    「アンタらはこの不正(クロ)を、無実(シロ)に変えることが出来るのか?」







  14. 14 : : 2016/02/19(金) 18:45:19








    その時だった。



    アルミンの顔に、笑顔が浮かんだ。
    表情にこそ出さなかったが、心の奥底で、私はゾッとした。








    「心配は無用だよ、アニ。後のことはすべてエレンに任せておくといい。」









    私は思わずエレンを見た。


    エレンは真剣な面持ちでこちらを見ている。
    どうやら緊張しているらしかった。







    エレンとアルミンでは、やはりというか、アルミンのほうが一枚上手らしい。
    とは言え、エレンも相当な策士になったことも間違いないのだが。







    「さて、話は以上だ、アニ。」
    「俺が送ってやるよ・・・・・・密かに作った地下通路まではな。」








  15. 15 : : 2016/02/19(金) 18:45:24

































  16. 16 : : 2016/02/20(土) 18:57:00




    ◆◆




    861年。
    100年の空腹から解き放たれた巨人の手により、シガンシナが陥落した日から、およそ15年後。そして、調査兵団により数百年続いた王政が倒れた日から、およそ10年後のことだった。

    吐息も冷気に白く溶ける冬のある日。寒空の下、北風が駆け抜けていく広い牧場を一人の男性が訪れていた。


    「久しぶり、アルミン! もうすっかり団長さんだね」


    混じり気のない見事な金髪に、男性ながらも華奢で矮小な体躯。うっすらと生えた髭をさすりながら、アルミン・アルレルトはやんわりと微笑んだ。


    「冷かさないでよ、ヒストリア。朝早くから大変だね」


    鼻腔の奥を突き刺す牛の糞尿の匂いが立ち込めた牛車に、ヒストリアはいた。手際良く牛の乳を搾っていくヒストリアは、どこからどう見ても牛飼いにしか見えなかったが、彼女は現在の女王様なのだという事実を鑑みたアルミンは思わず吹き出した。

    不思議そうに振り向いたヒストリアの手前、アルミンは鼻をかむという明白な誤魔化しを披露しなければならなかった。首を傾げて難しい顔をしたヒストリアにアルミンが笑いかけると、彼女も満面の笑みでそれに応えた。そんなヒストリアを見て、アルミンは改めて彼女は女神様だと実感するのだった。




  17. 17 : : 2016/02/20(土) 18:58:08



    「これから孤児院かい?」

    「そうなの。せっかく来てくれたのにごめんね」


    「いやいや、僕こそ突然来ちゃったし……良ければ手伝うよ」



    一際小高い丘の上に聳える孤児院からは、健やかな喧騒が聞こえてきた。



    「元気いっぱいだね」

    「それは嬉しいんだけど、やんちゃな子が多くて困っちゃう………」



    陽はまだ登っていない。これから午後にかけて広い世界を照らすんだ。この子達が将来、壁内に安寧秩序をもたらすのと同じように。強く、暖かく。

    こうして。中途半端に曖昧で、摑み所のない有象無象は。鉄球の天への落下さながらに不自然な程の空虚な不確実性を伴いながら。あたかも黒幕が分かっている推理小説のように。すらりとさらりと、その幕を上げる。

    穏やかに、胎動が始まった。





  18. 18 : : 2016/02/20(土) 21:08:24
    期待です!
  19. 19 : : 2016/02/20(土) 21:15:31
    >>18
    ご期待ありがとうございます<m(__)m>
  20. 20 : : 2016/02/21(日) 13:13:33
    ドキッ
    ドキッ
    ワクワク
    (^@-@^)
  21. 21 : : 2016/02/21(日) 21:23:58
    >>20
    いつもコメントありがとうございます(*´ω`*)
  22. 22 : : 2016/02/22(月) 00:33:12



    ◆◆



    「ひすとりあおねーちゃん、お腹空いたー」

    「おねーちゃんおねーちゃん、ヘレナがおもちゃ取ったー!」


    「金髪のお兄ちゃん遊ぼうよ!」



    孤児院は簡素な造りだった。各階に小部屋が十ほど用意されていて、階段近くに大部屋が一つ。どうやらプレイルームのようだ。アルミンはヒストリアを手伝うため、彼女と共に一階の給食室と各々の部屋を引っ切り無しに往来して朝ごはんを運んでいた。


    「え………っとぉ……」

    「ほら、いい子だから仲良くしなさい」

    「はぁーい」
    「いただきます」


    ませた子供達の気迫に困惑するアルミンを他所に、ヒストリアは手早く次々と子供達のオファーに応えていった。


    「すごいやヒストリア、見直したよ」

    「ふふ、ありがとう。アルミンもほら、向こうの子スープこぼして泣いちゃってるわよ」


    そう言われたアルミンは急いでその子のテーブルへ駆けつけスープを拭いてあげるも、その子は一向に泣き止まなかった。速攻で耳を塞ぎたくなったが何とか踏み止まり、アルミンは頭を優しく撫でた。


    「よしよし………もう大丈夫だよ。代わりのスープを持ってくるからね」


    子供は泣き止んだ。
    アルミンは既に汗だくだった。


    「あはは、アルミンお疲れ様。次の部屋に行ったら少し休憩しようか?」

    「ありがとう。頼むよ」


    アルミンは息を切らしながらも、誇らしげに額に滲む汗を拭った。机上で頭を絞り、大量の紙面と睨み合うだけの普段の仕事とはまた違った達成感だ。深く息を吸い込み、拳を握りしめてアルミンは再びスープとパンの乗ったプレートを手に立ち上がった。


  23. 23 : : 2016/02/22(月) 20:34:55


    一階と二階を往復すること実に七回。一仕事を終えたアルミンとヒストリアは、二階の職員室で紅茶と菓子に舌鼓を打っていた。


    「そうだよ。エレンとジャンがそれぞれ、第一、第二分隊長。ミカサには第三分隊長兼兵士長もやってもらっているんだ」


    昔の同僚同士、久方ぶりの会話には可憐な花が咲いた。


    「で、僕が団長。大体こんな感じかな」
    「サシャとコニーは?」

    「サシャは第一分隊の副長、コニーは第二分隊の副長さ。皆、立派に職務をこなしているよ」


    窓から差し込む陽の光は、先程よりもずっと強く、夜の間中凍えていた大地を少しずつ溶かしていた。時折吹く木枯らしで、樹木の葉がザワザワと歌う。アルミンはその歌声を聞くたび、妙に胸騒ぎがしてたまらず、終始ヒストリアとの会話に没頭した。
    しかし花咲くはずの積もる話も終わってしまうと、二人の間に君の悪い静寂が訪れた。先に沈黙を破ったのはヒストリアだった。


    「さ、休憩したし、もう一回り行かなくっちゃ」

    「えー………早いよヒストリア。もう行くの?」


    「まだあと三階と四階の子供達がお腹を空かせて待ってるのよ? 男に二言はないって言うし、最後まで手伝ってくれるわよねアルミン?」

    「うぅ………分かったよ」



    心持ち泣きそうになりながらもアルミンは重い腰を上げた、その時だった。


    「おい、アルミ…………、オホン、ここに───じゃなかった、こちらにアルミン・アルレルト団長殿はいらっしゃいますか?」


    鈍いノックオンと共に、聞き慣れた不器用な敬語が扉の向こうから聞こえてきた。普段ならば、ここでアルミンは込み上げる笑いを押し殺さなければならない所だったが、その声音は只ならぬ気配を色濃く漂わせていた。


    「どうぞ」


    アルミンは短く言った。
    勢い良く扉が開いた。果たして、声の主はアルミンの予想通りだった。


    「おい、アルミン!」

  24. 24 : : 2016/02/22(月) 23:12:19




    「やあ、随分な慌てようだけど、僕に何の用かな? キルシュタイン分隊長?」

    「別に慌てちゃいねぇさ。ただお前に火急の用があるだけだ。」





    職員室に入ってきたのは、無精ひげを生やすようになった彼の同期。
    第二分隊を率いるジャン・キルシュタイン分隊長であった。


    口調はやや素っ気なく、斜に構えてはいるものの、その表情を読み取るに、何かよからぬことが起こったことは明白であった。





    「あら、今日はなんだか懐かしい顔を見る日なのね。」


    ヒストリアが目を細めると、ジャンは恭しい態度を取ろうとして、ギクシャクとした礼をした。





    「ふふ、随分と慣れていないのね、お馬のお兄さん?」

    「からかうのはよせよ、ヒストリア。」




    子供たちにつけられた不本意なあだ名に少しむくれるジャンは、次の瞬間には真面目な態度でアルミンを見つめた。
    無精ひげは生やしているが、ヘビースモーカーではあるが、やさぐれた口調ではあるが、仕事では目端の利く男――――それが今のジャン・キルシュタインだ。




  25. 25 : : 2016/02/22(月) 23:13:51






    「そろそろ本題に移ってもいいか? アルミン?」

    「構わないよ。一体何があったというのかな?」





    ヒストリアの目には、アルミンの中のスイッチが音を立てて切り替わったように思えた。
    さっきまでヒーヒー言いながらも、笑顔で子供たちと触れ合っていた、朝の陽ざしのような暖かい優しさは消え、アルミンの顔には、調査兵団の団員たちが口をそろえて恐いという、厳冬の早朝のような凍てつく威厳が現れていた。





    「お前に客人だ、アルレルト団長。この建物の会議室に待たせてある。」

    「客人か・・・・・・それは、僕に吉報をもたらしてくれる女神さまかな?」

    「生憎、凶報をもたらす死神といったところだろう。中身は憲兵さまだ。何でも、お前に会わなきゃならない用事があるそうだ。」

    「結構・・・・・・今から会いに行くよ。」





    アルミンは威厳を持って呟くと、ヒストリアのほうを見て微笑んだ。





    「残念だよ、もっと子供たちと触れ合っていたかったんだけどね。」

    「きっと、また来てくださいね。子供たちも、金髪のお兄ちゃんを待っていますから。」




    柔らかな笑顔でヒストリアは微笑み返すと、立ち上がって職員室を出ていった。





    「さて、僕らも行くとしようかな。」

    「はぁ、面倒なことにならなきゃいいんだけどよ・・・・・・。」






  26. 26 : : 2016/02/22(月) 23:17:14






    孤児院の会議室は、暖炉の火がパチパチと音を立てて燃え、煤けて乾いてはいるものの、暖かな空気が部屋全体を包み込んでいた。






    「それで、憲兵さんがこの私に、何の用でしょうか?」


    アルミンは孤児院に用意された会議室の椅子に座り、憲兵団の使者と向かい合うと、ケロリとした掴みどころのない態度で憲兵団の質問に応じた。





    憲兵団の使者は、頭髪と髭に白いものが混じる、それなりに歳をとっている男性・・・・・・。
    見たところ、中央憲兵の残党か、その流れをくむものだろう。


    幾分か緊張の面持ちで、憲兵団は話を切り出してきた。








    「率直に言いましょう、アルレルト団長殿。貴方には今、汚職の嫌疑がかかっております。」






  27. 27 : : 2016/02/22(月) 23:19:23





    「汚職だと? よくそんなでたらめなことを・・・・・・。」


    額に眉を寄せて、ジャン・キルシュタインは憲兵を睨みつけた。
    第二分隊の分隊長を務めるジャンは、アルミンからの命を受けて、健全な財務管理を行っていた。


    根が生真面目で、細かいところにも目端の利くジャンであったから、調査兵団が汚職の容疑をかけられるなど、全く考えてもいなかったのだ。






    「落ち着いて、ジャン。憲兵さんの言い分をしっかりと聞こうじゃないか。」

    「よく落ち着いていられんな? 財務を管轄してんのはこの俺だぞ? 不正なんかあるわけねぇだろ!」

    「分かっている・・・・・・潔癖症の君が不正なんか働くわけない。無精ひげは生やしているけどね。」

    「お前だってそうだろう、団長さんよ?」





    なおも憲兵団に食ってかかるキルシュタイン分隊長をアルミンは制した。


    「ごめんなさい。続けて、憲兵さん。」






    「お気遣いいただきありがとうございます。我々憲兵団は現在、アルレルト団長と壁外の国との癒着について調査しています。」

    「癒着?」

    「団長が不正に壁外の国から密輸品を受け取っている・・・・・・という疑惑です。」






    「ちっ、一体誰がそんな噂を・・・・・・。」


    思わず舌打ちをするジャン。
    なおもアルミンはジャンを制止し、あごに手を当ててゆっくりと考え込むようなそぶりを見せた。





    憲兵はそんなアルミンの様子を見て、詰め寄るように言った。


    「つきましては、進退を明らかにしていただくべく、憲兵団の本部に出頭していただきたいのです。」





    「な・・・・・・。」


    ジャンが言葉を失っていると、アルミンが口元に笑みを浮かべてしゃべり始めた。






    「・・・・・・・・・・・・断る。」

    「!? い、今何と!?」

    「断る・・・・・・・・・・・・と言ったんですよ、憲兵さん。」






  28. 28 : : 2016/02/22(月) 23:23:47





    出頭命令を即座に拒否するアルミンに驚いたのは、憲兵だけではなかった。





    (こいつ・・・・・・目が笑ってないな。)


    経験上、ジャンは知っていた。
    こういう目をする時のアルミンは、何か策を練っている時だということを。






    「私の耳に、聞き捨てならない噂が届いているんですよ。」

    「噂?」

    「憲兵団がこの私を誘い出して、殺そうとしているという噂です。」






    (な、何を言ってんだ? アルミンは!?)


    暖炉の穏やかな温かさに包まれた会議室の空気が、真冬のように凍り付くのをジャンは感じた。
    よく見るとアルミンの表情はもう笑っておらず、冷たい矢で射ぬくような目線を憲兵に投げかけていた。





    「こ、殺すだなんて、そんな・・・・・・。」

    「君の疑惑は、それくらい不確かなことだと思うんですよ、私はね。」

    「と、とにかく・・・・・・団長には出頭していただきたい。これが憲兵団の方針です。」





    憲兵の声は明らかに動揺していた。
    これを見逃してあげるほど、アルレルト団長は優しくはなかった。





    「言ったはずですよ・・・・・・断るとね。」

    「出頭しなければ、疑いはより深くなりますよ!?」

    「とにかく断る・・・・・・これは、団長としての正式な返答です。」





    穏やかに、しかしはっきりとした口調で答えるアルミンの目は、まるで人を試すかのように深々と冴えわたっている。
    彼特有の青い瞳が、かつてのアニよりももっと冷酷な氷の眼差しとなって、憲兵に突き刺さっていた。


    暖炉のパチパチと燃える音が、部屋の中で大きく響く。
    初老の憲兵の額から、冷や汗が流れる音が聞こえてきそうなほど、部屋は静まりかえっている。





  29. 29 : : 2016/02/22(月) 23:25:34





    「・・・・・・とは言いましても、行かない訳にはいかないでしょうね。」


    ふと表情を緩めるアルミン。




    「では?」

    「憲兵団の本部へ出頭しましょう。しかし、私だってむざむざ死にたくはないですからね。」



    微笑んだ表情のまま、アルミンはこう付け加えた。








    「手勢を連れて行っていいというのなら、私は喜んで出頭しましょう。」

    「て、手勢ですと!?」




    事も無げに言うアルミンの言葉に、憲兵はさぁっと青ざめて口をパクパクさせた。





    (おいおい・・・・・・・・・・・・アルミンの奴、随分と強気に吹っ掛けたな。)


    ジャンもアルミンの意図を理解した。
    つまりアルミンは、言外にこう言っているのだ。








    いざとなれば調査兵団は、憲兵団と事を構えるのも辞さない。
    やれるものならやってみろ・・・・・・・・・・・・と。





  30. 30 : : 2016/02/22(月) 23:26:10







    もし、このまま調査兵団の団長が出頭すれば、壁内で再び争いになる。
    アルミンに出頭を命じようとした憲兵には、その争いの引き金になる勇気はなかった。





    アルミンは憲兵の表情を的確に汲み取り、それからこう付け加えた。


    「憲兵団の皆さんにお伝えいただきたい。正当な理由があるならば、調査兵団団長アルミン・アルレルトは、いつでも出頭に応じますとね。今日のところは、ご苦労様でした。」







    (最近のアルミンは・・・・・・いつもこうだな。)


    アルミンの心臓は、まるで鉄か何かで出来ているのではないかとジャンには思われた。




    重要な局面において、アルミンは恐ろしいほどの交渉力を発揮する。
    そして、いつの間にか相手は底なしの沼に沈められるがごとく、アルミンのペースに飲まれてしまうのだ。








    アルミンはすっと立ち上がると、放心状態の憲兵を残して、ジャンと会議室を後にした。







  31. 31 : : 2016/03/07(月) 15:40:24
    アルミンかっけ〜・・期待っす‼︎
  32. 32 : : 2016/03/07(月) 20:04:26
    >>31
    期待ありがとうございます!
    続きはもうしばらくお待ちくださいね。
  33. 33 : : 2016/03/07(月) 22:03:06
    ハーイ
  34. 34 : : 2016/03/07(月) 22:41:35
    ありがとうございますo(^▽^)o
    後、宣伝ではありますが、進撃×スターウォーズのコラボもオススメです。
    ぜひ、よろしくお願い致しますm(_ _)m
  35. 35 : : 2016/03/15(火) 01:37:37







    時は、全てを奪い去る。




    「………、………………、……」




    調査兵団の分隊長達は、重苦しい沈黙に包まれていた。開始から既に30分が経過しているにも関わらず、議論は一向に進まない───どころか、議論さえ為されていなかった。アルミンが議題を取り上げたのち、聞こえる音は夜風が啜り泣く声だけだった。


    悪戯に時間ばかりが過ぎていく中、銘々に腕を組んで考えるフリをしたり、そうかと思えば手持ち無沙汰に指を鼻に突っ込み、それにも飽きれば芋を咀嚼する者もいた。だれも一言も発しない、堅固なる静寂を破ったのはやはりエレンだった。





    「……………憲兵は不正疑惑を撤回するつもりはねーんだな?」


    「現段階では、その様子は見られない。むしろ今日憲兵が来た時には若干反抗的な態度をとったから、余計に疑惑が増したかもしれないね」



    「憲兵団の師団長は何て名前だっけ?」


    「確か、ヤーン・カンプフフルークツォイクだったかな」






  36. 36 : : 2016/03/21(月) 17:06:52



    「どんなヤツだ?」

    「僕も喋ったことは数えられる程しかないから、よく分からないんだけど………痩せててボサボサの髪の毛で目元が隠れてて」


    「ネクラだな」



    「確かに、割とパンチの効いた外見だったね。性格は…………少なくとも物腰は穏やかじゃなかったな。昔のジャンによく似てるよ」


    「俺が何だって?」

    「何でもねーよ馬」



    軽快なやり取り中、ミカサは終始疑念を抱いていた。アルミンは、今回の事件はさも不測の事態だと言うように取り上げた。しかしミカサにはどうしてもそうは思えなかった。そう思えるだけの判断材料は、一向に見つからなかった。


    「誰が馬だ、コラ!」


    とは言え、会議に出席している他の分隊長・分隊副長はさほど気にする様子もなく談笑していた。考えることに疲れて思考回路を遮断したミカサは、言い合いを終えたエレンとアルミンが刹那に交わした目配せを見逃さなかった。次の瞬間には、エレンの堅固なる拳が机を叩く。




    「サシャ、第一分隊の精鋭を憲兵団本部周辺に潜伏させろ!」

  37. 37 : : 2016/03/24(木) 10:55:58



    「んなっ⁉︎」


    「エレン、ダメだよそれは!そもそも今回は僕に疑いが掛けられているから、もし調査兵団が動けば───」



    「誰が何と言おうと、俺はやる。アルミン、お前に言われてもだ。これ以上壁内の平和を乱すヤツは俺が駆除する」



    空気が震えて、戦慄が走る。エレンの決然とした態度の前に周囲は気圧され、誰も口を開こうとする者はいなかった。唯、一人を除いて。


    「ダメ。絶対にダメ」

    「ミカサ……」


    「数年前、極力武力衝突を避けながらクーデターを起こした時でさえ、民衆は私達兵団をすぐには信用しなかった。ヒストリアが巨人化したロッド・レイスを倒したからこそ、何とか民衆の信頼を勝ち取ることに成功した。アルミンの疑惑を揉み消すために武力を行使するというなら、今度こそ兵団の信頼は地に落ちてしまう」



    エレンは反論できずに言葉に詰まり、所在なさそうに肩を竦めた。



    「それだけはダメ。絶対にダメ」



    その一言が、エレンの闘志に再び火をつけた。先程とは打って変わり、鬼のような形相でエレンは(かしま)しく怒鳴った。




    「お前ら忘れたのか⁉︎ 俺たちが! やってきたことを! やっと掴んだ平和だぞ⁉︎ 他の皆犠牲にしてやっと手に入れた平和だぞ⁉︎ それをぶっ潰しに来るんなら俺は絶対に容赦しねぇ!」




    エレンの怒号が会議室に響き渡り、そして静寂が訪れた。エレンの気持ちが分かるからこそ、ミカサを含めた皆は青菜に塩をかけたようにシュンとしていた。エレンは続けた。




    「巨人を駆逐してきたこともそうだ。中央憲兵を潰した時もそうだ。俺達は紛れもなく命を奪ってきただろ……………」




    無かったことにはできねぇよ。そう言い残し、エレンは黙って扉を押し開け嵐のように部屋を出て行った。皆が思い思いの感想を口にする中、ミカサは一人、エレンの言動を反芻しながら違和感の正体を模索していた。






  38. 38 : : 2016/03/26(土) 22:54:39
    さっすがミカサ!かっこいー
  39. 39 : : 2016/04/09(土) 02:45:10
    >>38
    コメントありがとうございます!
    更新が遅くなって申し訳ないです。
  40. 40 : : 2016/04/09(土) 02:45:32







    会議はそのまま、お開きとなった。



    暫くはそっとしておこうというアルミンの言葉に、エレンを追うものは誰もいなかった。
    アルミンのほうからは厳重注意を出すということで、今回は落ち着いた。





    「しかし、お前も大変だな・・・・・・・・・・・・あんな気短な幼馴染みがいてよぉ?」

    「余計なおせっかいだよ、ジャン・・・・・・・・・・・・これでも僕は、エレンのことを信用しているんだ。」





    少しにやけて皮肉ってくるジャンに対し、アルミンは肩をすぼめて答えた。
    アルミンの机の上には書類が散らばっており、当分席を立つことは出来なさそうだ。






    「君たちは先に行っててくれないかな? 僕は書類を整理しなくちゃいけないからね。」




    さっきの騒ぎがまるで何でもなかったかのように淡々と書類を片付けるアルミン。
    他の分隊長や副長がぞろぞろと会議室を後にする中、ミカサはアルミンを気遣って、そっと側へと近づいた。






    「私に手伝うことはある? アルミン?」

    「いや、今のところは大丈夫かな。でも、“そのうち”ね。」






    そのうち――――――この言葉に妙に力が籠っているように、ミカサの耳には聞こえた。
    思わずミカサがその目を覗き込むと、アルミンはどうやら遠くを見据えているらしかった。






  41. 41 : : 2016/04/09(土) 02:47:41








    「・・・・・・・・・・・・アルミン。あなたは一体、何を見ているの?」



    私がふと尋ねると、しばらく間を置いて、それから少し先のことをね、といって微笑んだ。
    それがなんであるのか、どうやら私には言うつもりがないらしい。





    どんな親しい相手だからといって、本音と建て前は使い分ける必要があるというのはアルミンの弁だ。






    Needs to know(ニーズ・トゥー・ノウ)――――――必要のある相手にしか知らせない。
    団長になってからのアルミンが用いる政治的な常套手段。






    彼が行う不正の数々も、様々な人間に複数の命令を与えて、どれが本命なのかを分からなくする。
    命令は人を通じて行われるため、痕跡すらも残さない。


    全体像を把握しているのは、恐らくアルミンのみ。







    そしてそれは、幼馴染みである私やエレンにさえ徹底しているらしかった。
    アルミンから聞き出すことはできない・・・・・・・・・・・・私はそう判断して、会議室を後にした。







  42. 42 : : 2016/04/09(土) 02:49:41













    日が暮れた会議室の中で、一人残ったアルミンは懐からタバコを取り出して火を点けた。
    夕日の差し込む部屋の中で、アルミンは一人、紫煙を燻らす。


    と、そこへ、さっきは嵐のように去っていった男がそっと、まるで影のように戻ってきた。






    「やあ、さっきの君の演技・・・・・・・・・・・・本当に背筋の凍る思いがしたよ。」


    「それはどういう意味だ? 下手クソだったとでも言いてぇのか?」
    「いやいや、迫真の演技だったってことさ。もっとも、ミカサが何か感づいたみたいだけどね。」






    戻ってきた幼馴染みは、僕にからかわれてあからさまに不機嫌そうだ。






    「俺はそこまで下手を打ったつもりはないが、まあ仕方ねぇな・・・・・・。」

    「気を付けて。僕らはこれから、味方をも巻き込んだ計画を企てて行動しているんだからね。」


    「抜かりはないさ。ほら・・・・・・・・・・・・ジャンがつけてた帳簿を偽の帳簿とすり替えてきたぞ。」






    エレンは僕の机の上へ、ジャンの管理していた帳簿を投げ出す。
    如何にも神経質に書かれているのは紛れもなくジャンの字だ。


    一件粗暴そうに見える今の彼だが、こう言ったところに潔癖さは垣間見える。





    この潔癖さは、いずれ深刻な対立をもたらすだろう。
    悪い芽は早く摘んでおくに限る。






  43. 43 : : 2016/04/09(土) 02:49:49







    「それで、計画の首尾は? 準備は済んだの、エレン?」
    「ああ、本物の帳簿はここにある。ことが終われば正式に俺が帳簿を管理する。」

    「よし。それから?」



    「敵は恐らくコニーに接触をかけてくる。コニーはジャンの部下だし、サシャは今や身重だ。脅しをかけるならコニーだろう。」
    「幸せの絶頂にあるコニーを利用し、第二分隊を陥れるんだね? 君は悪い人だ。」


    「お前ほどじゃない。アニの存在を明かす以上、潔癖なジャンが帳簿を管理する第二分隊は邪魔でしかない。」









    エレンの思い描く計画――――――・・・・・・・・・・・・






    それは、計画を知らないコニーにジャンの帳簿を盗ませ、それをヤーンの元に届けさせること。
    もちろんこれは壮大な釣りだ。


    この帳簿が偽物だと後から暴き、そこから最終的な貴族の粛清へとつなげる。
    そのどさくさに紛れて調査兵団の不正自体をもみ消す。


    そして最後に、ジャンとコニーを陥れ、第二分隊を消す。







    貴族の排除と不正のもみ消し、そして、調査兵団内部の粛清――――――エレンが立案し、アルミンがひそかに採用した、恐るべき計画。








    「準備は整った。もうすぐ計画は動き出すぞ。」

    「・・・・・・・・・・・・分かった。さて、後は暫く僕らは不仲だ。後のことはよろしく頼むよ、イェーガー分隊長。」






  44. 44 : : 2016/04/09(土) 02:51:09











    ウォール・シーナ、オルブド区。
    かつて牛飼いの女王が民衆の支持を勝ち得た事件が起こったこの場所に、その男の拠点があった。







    とある古いマンションの一室。その一室に隠された階段を下ってのみ行くことのできる部屋。
    その中に、その男は椅子に座って佇んでいる。


    と、その男のところへ、現憲兵団師団長、ヤーン・カンプフフルーツクォイクはこっそりと訪れた。
    顔を頭巾で隠し、目元しか見えないその男は、低い打ち震えるような声で話し始めた。







    「随分と久しぶりじゃあないか、ヤーン? 見たところ、元気そうで何よりだ・・・・・・。」

    「俺をからかっているのか、ヴォルフ卿?」







    前髪が鼻の先まで伸び、見るからに陰湿な雰囲気を醸し出す師団長は声を荒げる。
    その表情も目元は分からないが、口元が歪んでいる。







    「思ったところを述べているだけだ、師団長。私のめしいたこの目には、お前の表情が良く見える。」

    「盲目のお前が良く見えるとは、随分と気の利いた冗談だ。」








    皮肉を言われて笑うこの男――――――名前をヒューゴ・ヴォルフ。
    十年前の貴族の粛清で失脚した貴族の末裔。


    そして、極度の貧困のなか、ハンセン病に感染し、醜く崩れた顔を頭巾で覆っていた。






  45. 45 : : 2016/04/09(土) 02:55:17







    「それで、お前がアルレルト団長に送った使者はどうなったのだ、師団長?」

    「却って圧力をかけられて追い返された。」

    「フフフ・・・・・・・・・・・・どうやらアルレルト団長には策があるらしいな。」







    頭巾の中で笑みを浮かべるヴォルフ。





    「三年前、私はライナーを唆してエレンの処刑を行わせ、調査兵団を反逆を機に彼等を叩き潰そうとした。
    だがそれは失敗に終わった・・・・・・。

    あの小賢しいアルレルト団長は私の策を逆手にとってエレンの処刑を阻止したばかりか、
    処刑を推進した貴族たちを密かに葬った。

    今回の件でも、あの男はどんな搦め手から私の足元を掬ってくるか知れたものではない。」






    そう言うヴォルフの口調は、どこか楽しげですらあった。
    訝しがったヤーンがヴォルフを問いただす。





    「随分と楽しそうじゃないか。泥を付けられたというのに。」

    「いやぁ、考えてみるがいい。奴らもやっていることは我らと同じだ。」

    「俺を奴らと一緒にするな!!」

    「フハハハハ、いやいや、変わらんさ。」

    「なにぃ・・・・・・。」






    調査兵団の人間たちと一緒にされて激昂するヤーンに対し、ヴォルフは冷笑を崩さなかった。






    「奴らも我らも、皆力に酔っている。

    力は麻薬だ・・・・・・・・・・・・憑りつかれれば、また欲しいと思う。
    少しの力では足りなくなるのは自然の理――――――それがつまり、弱肉強食に繋がるのだ。

    そしてそれは、権力闘争(パワーゲーム)にしても同様だ。」







    ヤーンは何も言い返せなかった。
    ややあって、ヴォルフは話題を変えた。






    「調査兵団が不正を働いているという情報は、壁外からのリークだ。だが、これ自体が既に罠の可能性も捨てきれない。」

    「ああ、分かってる。」

    「慎重に行け・・・・・・・・・・・・私はまた、影に潜る。」






    そう言うとヴォルフは、フラフラと立ちあがり、別室へと消えていった。







  46. 46 : : 2016/05/01(日) 20:53:44












    「エレン・・・・・・あなたはもう分隊長。いい加減自覚するべき。」

    「自覚なら既にあんだよ。だからこうして行動(・・)してんだろ?」

    「違う。自覚していたらアルミンの首を絞めることはしないでほしい。」





    シガンシナ区にある第一分隊の執務室で、ミカサはエレンに必死になって訴えかけていた。





    結局エレンは、独断で憲兵団にスパイを放った。



    アルミンの命令に逆らったのは、もちろんこれが初めてのことで、ミカサは戸惑っていた。
    しかも、もっとまずいことに、アルミンにこのことがばれてしまった。

    アルミンは未だ誰も見たことがないほど激怒したらしい。





  47. 47 : : 2016/05/01(日) 20:54:28






    『エレン・イェーガー第一分隊長を解任する! 僕の部屋に呼ぶんだ、今すぐにッ!!』






    一緒に仕事をしていた秘書が震えあがってミカサにそう報告してくるほど、怒ったアルミンは恐ろしいらしい。
    それでミカサは、まずはエレンのところに行き、何とか仲裁を図ろうとしていた。

    が、当のエレンは不機嫌な様子で聞き流すだけで、一向にアルミンと協力する気が見られなかった。





    「俺がアルミンの首を絞めるってのはどういうことだ!?」

    「もう分かっているはず、エレン。あなたの独断は、調査兵団全体を危機に陥れている。」

    「だがこのままことが進めば、また憲兵団の野郎どもが平和を乱すに違いねぇ。黙って見てろってのかよ!」





    それでもミカサはしつこく食い下がり、説得に説得を重ねた。
    だが、エレンは貸す耳を持たず、終いには怒鳴りだしてミカサは執務室から追い出されてしまった。






  48. 48 : : 2016/05/01(日) 20:55:33






    「兵長・・・・・・。」
    「大丈夫、大丈夫だから・・・・・・。」



    トロスト区にある第三分隊の執務室に戻り、ミカサはソファーに腰かけてため息をついた。
    部下が気を遣って声をかけてくれたものの、ミカサはそれどころではなく、疲れ切った表情の中に不安げな憂いを浮かべていた。







    その部下からの話によると、アルミンの怒りはまだ解けていないらしく、宥めているジャンでさえアルミンの不興を買ったとのことだ。
    散々怒鳴られた挙句に部屋を追い出され、執務室で物憂げにしている状況は、どうやら私と同じようだった。





    __________このままじゃまずい・・・・・・。


    戦力から言って、エレン率いる第一分隊は調査兵団の主力と言ってもよい。
    それが団長と不仲であるということになれば、実質兵団は二つに割れていうことに他ならない。






    ミカサが頭を痛めていると、ドアがコンコンと音を立てた。

    いったい誰だろう・・・・・・・・・・・・そう思いつつもドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。





  49. 49 : : 2016/05/02(月) 21:51:32







    「こんばんは。少しお時間をよろしいかな? ミカサ分隊長?」


    そこに立っていたのは、憲兵団の師団長であるヤーン・カンプフフルーツクォイク。
    大胆にも彼は、敵である調査兵団の、その懐に飛び込んできたのである。

    師団長は普段の荒々しい言葉遣いを引っ込め、慇懃に挨拶をしてきた。






    「こ、これは、ヤーン師団長。」

    「突然尋ねてしまって申し訳ありません。実は、あなたにお願いがあってここに来たのです。」

    「お願い・・・・・・ですか?」






    突然の訪問に戸惑っているミカサに対し、ヤーンはあくまでも丁寧に、ミカサに依頼を申し込んできた。






    「実は、ナイル総統たっての希望で、調査兵団と憲兵団の友好を演出しようと考えているのです。」






  50. 50 : : 2016/05/02(月) 21:52:47












    「団長。ミカサ分隊長がお見えです。」

    「・・・・・・・・・・・・通してくれ。」





    すっかり日が暮れて、ろうそくの明かりが灯っているアルミンの執務室に、ミカサ分隊長が静かに入ってくる。


    アルミンの執務室はとても質素で、清潔感に溢れていた。
    雑然と書類が積まれているエレンの執務室とは大違い。





    さて、当のアルミンは椅子に座り、いかにも不機嫌といった表情を浮かべていた。
    親友であるだけに、一旦仲違いをしてしまえばよりを戻すのは至難の技。


    それが証拠に、アルミンの周りに漂う空気は、部屋の温度が暖かなのにもかかわらず、かなりピリピリしていて寒気を覚えるほどだった。






    「やあ、ミカサ。火急の用事だと聞いたけど、一体何かな?」

    「実は、私のところに・・・・・・・・・・・・憲兵団の師団長がやってきた。」

    「えっ・・・・・・・・・・・・詳しく話してくれないか?」






  51. 51 : : 2016/05/02(月) 21:54:44







    本当に驚いた、といった表情をして、詳しい状況をアルミンは尋ねてきた。
    戸惑っているアルミンを見るのは、本当に久方ぶりだったので、むしろ私のほうが面喰ってしまった。


    ヤーンは私たちに、ナイル総統主催のパーティに参加するよう要請してきた。
    その事を聞いたアルミンは、しかし、渋い顔をして、やがて絞り出すように言葉をつぶやいた。





    「・・・・・・・・・・・・しまった。」

    「どういうこと? アルミン?」

    「ヤーンは・・・・・・・・・・・・ナイル総統を抱き込んだのか!」





    次第に声が大きくなり、アルミンが焦っていることが浮き彫りになった。
    しかし、何に焦っているのだろう――――――――――ミカサにはそれが分からなかった。





    「アルミン?」

    「ミカサ・・・・・・・・・・・・まずいことになった。」

    「まずいこと?」





    常に数歩先を読むアルミンが焦っている―――――――それだけで既に凶報。






    「・・・・・・・・・・・・もし、エレンがスパイを放ったことが表沙汰になれば、どうなると思う?」

    「!! そんなことが起こったら、調査兵団と憲兵団の対立は避けられない。」

    「うん・・・・・・・・・・・・おまけに、エレンの立場も危うくなってしまう。」

    「これは、まずいなんてもんじゃない。」

    「そうだよ、ミカサ。わざわざこのタイミングで友好を吹っ掛けてきたんだ。敵は既に裏で手を回しているに違いない・・・・・・。」





    アルミンが何に焦っているのか、ようやく理解できた。


    さて、アルミンは有効な手を既に打っているのだろうか?
    久方ぶりにあせる様子を見せる幼馴染みを眺めながら、ミカサは漠然とした不安を感じていた。






  52. 52 : : 2016/06/24(金) 17:44:10







    アルミンとミカサが敵の策略に気づき、気をもんでいる一方で、コニーは幸せの絶頂にあった。





    「キルシュタイン分隊長、俺もう帰ります。」
    「サシャの元へと帰るのか?」

    「そりゃそうだろ。あ、いや、勿論です!」





    敬語を使うのになれていないコニーを見て、ジャンはくすっと笑った。

    ジャンもアルミンに敬語で話すのが苦手だ。
    その気持ちはよく分かる。



    それに、今やコニーは父親になろうとしている。





    生まれるのはまだ数か月先だが、サシャのお腹は日に日に大きくなっていた。
    会議などの負担の少ない業務にはまだ参加していたが、立体機動の訓練など、体に負担のかかる業務は避けるようになっていた。






  53. 53 : : 2016/06/24(金) 17:45:42












    「帰ったぞ、サシャ。」


    「おかえりなさい! 今日は遅かったですね!」
    「残業が長引いちまってよ。俺は書類が苦手だし、大変だったんだぜ?」





    サシャは少しずつ大きくなるお腹をさすって、ソファーの上に座っていた。
    お手製の料理は既にテーブルの上にあり、おいしそうなにおいがなんとも食欲をそそる。


    食べることの好きなサシャだけあって、作るほうも練達した腕前をサシャは持っていた。





    これが十年前だったら考えられなかっただろう。




    十年前はお肉を手に入れることなんて夢のまた夢だったのに、今では食卓の上に普通に並ぶようになった。


    それもこれも、壁外の勢力との戦いが終わって、和平が打ち立てられたから。
    たとえその裏で、どんなに汚い手を使っていたとしても。






    サシャはお腹をさすりながら、血で汚れてしまった自らの手を見つめていた。






  54. 54 : : 2016/06/25(土) 05:15:59







    コンコンッ



    ここで突然、玄関の扉を誰かがたたく音が聞こえてきた。





    「こんな時間に、誰でしょう?」
    「俺が出る。お前は座ってろ。」




    コニーはそういうと、玄関をそっと開けた。
    そこには、調査兵団の服を着た男が立っていた。





    「コニー副長、夜分に申し訳ありません。」
    「な、なんだよ、こんな時間に?」

    「実は、お耳に入れたいことがありまして、少し外で話せませんか?」






    兵士に誘われ、外へと出るコニー。


    とそこには、何やら見慣れぬ男が車いすに座っていた。
    顔を布で覆った、気味の悪い男だった。






  55. 55 : : 2016/06/25(土) 05:16:54







    「お初にお目にかかる、コニー・スプリンガー第二分隊副長。」
    「!? お、お前は!?」

    「なに、名乗るほどのものじゃあない。」






    その男は、体が不自由なのだろう。
    車いすから少しも動く様子を、ヴォルフは見せなかった。


    が、布の間から見えるその青い目は、コニーを威圧するには十分だった。







    (何だこいつ・・・・・・ホントに病人なのかよ?)




    コニーの出方をうかがいながら、ヴォルフはゆっくりと話をつづけた。






    「コニー副長。私はあなたに頼みたいことがあるのだ。」
    「頼みたいことってなんだよ?」






    「・・・・・・・・・・・・ジャン・キルシュタイン分隊長が管理している、調査兵団の収支報告書を持ってきてもらいたいのだ。」






  56. 56 : : 2016/06/25(土) 05:18:31








    言われていることが理解できず、コニーは首を傾げた。





    「はぁ? なんでそんなこと俺がやらなくちゃならねぇんだよ!!」
    「これは・・・・・・・・・・・・君のためなのだ。」


    「俺のため!? お前のためだろ!?」





    語気を荒げるコニーに対し、ヴォルフはあくまでも冷静に、穏やかに語り続けた。






    「君の忠勤ぶりはよく知っている、コニー。そこの、調査兵団の兵士を通じてな。」
    「・・・・・・・・・・・・何が言いたいんだ?」


    「アルミン・アルレルトという男が団長になってから、調査兵団は変わったと思わないか?」
    「な、なに言ってんだ?」




    「アルミンは権力の亡者だ。勝手な振る舞いをしたエレンに大層怒り、しかも、これを諫めたジャンまでもが不興を買った。
    ジャン・キルシュタインは君の直属の上司だ。助けたいとは思わないか?」

    「・・・・・・・・・・・・。」





    コニーは、明らかに迷っていた。



    ここ最近のアルミンの冷徹さは目に余り、団員たちは一様にアルミンのことを恐れていた。
    コニーはこのことを見かねていたが、エレンとアルミンが激しく対立し、ジャンがその巻き添えを食らうに至って、いよいよその思いを強くしていた。






  57. 57 : : 2016/06/25(土) 05:19:12







    「アルミン・アルレルトには、団長を辞めてもらわねばなるまい。」
    「でもなんで帳簿なんだよ?」



    「・・・・・・・・・・・・アルミンは、壁外の国と不正な取引をしている。」
    「!? そりゃどういうことだ!?」



    「アルミンは、アニ・レオンハートを連絡役に、壁外の国と不正貿易を行い、私腹を肥やしているのだ。」
    「な、なんだって!?」






    コニーは驚愕した。



    10年前に結晶化して、それ以降出てこなくなったはずのアニ。
    地下室ごと封印されたはずのアニが、アルミンと繋がってる?





    「アルミンは・・・・・・・・・・・・俺たちを裏切ってやがるのか!?」
    「いかにもそうだ。」


    「他に知ってるやつは!?」


    「恐らくいないだろう・・・・・・・・・・・・君を除いては、な。」







    見ず知らずの男ではあったものの、万が一これが本当だったら・・・・・・。
    コニーはひそかに、封印された地下室、その中に入っていくことに決めた。








    「連絡には、その調査兵を使うがいい。いい返事を、待っている。」



    ヴォルフはそういうと、車いすを動かして、夜の闇へと消えていった。






  58. 58 : : 2016/06/25(土) 08:22:51
    期待です
  59. 59 : : 2016/06/25(土) 08:42:10
    ご期待ありがとうございますm(__)m
  60. 60 : : 2016/06/25(土) 16:59:51














    ナイル総統のとりなしで、調査兵団と憲兵団の仲を演出するための行事が、王都ミットラスのダンスホールにて行われることとなった。
    ダンスホールのある王宮の前では、馬車の中から続々と調査兵団、駐屯兵団の要人たちが下りてくる。






    「お久しぶりです、リコ師団長。」




    ドレスを着たリコ師団長に、燕尾服を身にまとったアルミンは挨拶をした。
    アルミンの傍らには、やはりドレスを着たミカサがそばにいた。


    アルミンやエレンは公式行事があると、ミカサを同伴することが多かった。





    「二人とも、随分と見違えたぞ。」


    「リコさんも随分とお綺麗ですよ。」
    「うれしいことを言ってくれるな、アルレルト団長。」


    「本当のことですよ。」
    「リコ師団長、綺麗。」



    「ありがとう、ミカサ兵士長。あなたもドレスがよく似合ってる。」







    アルミンとミカサはリコとたわいもない話をしながら、ヒストリアの王宮の中へと入っていく。


    ダンスホールは、豪華なシャンデリアがいくつも天井から吊るされ、絢爛豪華といった言葉がしっくりくるものであった。






  61. 61 : : 2016/06/25(土) 17:01:03







    ここに呼ばれたのは現役の団長や師団長だけではない。



    エルヴィン元団長やハンジ元団長。
    リヴァイ元兵士長。

    ピクシス元師団長の姿も見える。





    ややあって、ナイル総統にエスコートされたヒストリアが静かに入ってくると、ダンスホールにいる兵士たちは一斉に心臓をささげた。
    ヒストリアは慣れない様子で壇上に上がると、用意された玉座にちょこんと座った。


    やはりヒストリアは子供たちと一緒にいるのが似つかわしいなと、アルミンはミカサにつぶやいた。







    さて、敬礼を終えた後、アルミンはゆっくりと、憲兵団の現師団長のもとへと歩き始めた。
    調査兵団の現団長が近づいてきたことに気が付き、師団長は親しげに挨拶をした。





    「お久しぶりです、アルレルト団長。」
    「私も会えて光栄ですよ、ヤーン師団長。」






    笑顔で握手を交わす二人。



    もっとも、政治家という生き物は机の上では握手を交わし、机の下では互いの足を蹴りあう人種である。
    アルミンとヤーンは、互いの出方を慎重に探り、敵意を微塵も感じさせないよう腐心していた。






  62. 62 : : 2016/06/25(土) 23:07:38








    やがて、ダンスホールに軽快なワルツが流れ始め、男女がペアを作り、くるくると踊り始めた。





    「うわっとっとっ!?」
    「アルミン、痛い。」


    「あわわ、ゴ、ゴメン・・・・・・。」






    アルミンのダンスはなんともぎこちなく、しかも何度もミカサの足を踏んづけてしまう始末で。
    そんな彼らをしり目に、周囲の人たちは素晴らしいダンスを披露していた。


    特に人類最強の男であったリヴァイのステップは見事なもので、それでいてハンジを置いてけぼりにせずにしっかりとエスコートしていた。






    とここで、ヒストリア女王も立ち上がり、リヴァイのエスコートを得て優雅なダンスを披露し始めた。


    それは、まさに血筋のなせる業といえばいいのだろうか。
    ぎこちなく玉座に座っていたのが嘘のように、自然と気品のあるダンスを踊った。







  63. 63 : : 2016/06/25(土) 23:08:20







    「やっぱりダンスは苦手だよ。うまく踊れる兵長やヒストリアが羨ましいなぁ。トホホ・・・・・・。」




    息を切らせたアルミンは既に椅子に座って汗をかいていた。
    とそこへ、側近がすかさずハンカチを差し出し、アルミンはハンカチを受け取って・・・・・・・・・・・・一瞬ハンカチに目を通した。






    (・・・・・・アルミン?)



    一瞬ミカサはアルミンがハンカチを見つめていることに気が付いたが、何事もなかったかのようにアルミンは汗を拭き始めた。







    「今度ダンスの練習を訓練に組み込もうかな?」


    「アルミン、それ本気?」


    「今度僕と一緒に練習する?」
    「足踏まれるのは嫌。」


    「あはは、手厳しいなぁ・・・・・・。」







    アルミンは弱ったようにつぶやくと、手に持っていたハンカチを懐にしまった。







  64. 64 : : 2016/06/26(日) 00:43:12
    期待です!
  65. 65 : : 2016/06/26(日) 11:43:24
    期待ありがとうございます(∩´∀`)∩
  66. 66 : : 2016/06/26(日) 12:11:03






    ~調査兵団ユトピア支部~






    王宮のダンスホールで舞踏会が開かれている間、第四分隊のあるユトピア支部の護衛は比較的手薄になっていた。







    加えて、最高指揮官であるアルミンと、最高戦力であるミカサは留守。
    最大兵力を持つエレンの分隊は、アルミンの怒りが解けていないことから、本来の機動力を発揮できない状況。



    そのため、普段よりもどうしても警備が甘くなり、結果としてアニの結晶が保管されているはずの地下室への侵入者を阻むことができなかった。







    「結晶が・・・・・・・・・・・・ない・・・・・・。」



    あの怪しい布男の言う通り、アニの結晶があるべき部屋は、空洞となっていた。
    10年前に俺たちを襲った女型の巨人が、世に放たれていた。







    コニーはこの事実に愕然として、次にはこれを隠していたアルミンに対して憤った。



    「あいつ・・・・・・一体何考えてんだ・・・・・・。」







    こんなの、絶対に間違ってる。


    10年前に水晶の中に逃げ込んだアニ。
    あいつを使って不正を行ってるアルミンは、もう俺たちの団長なんかじゃない。







    ___________こうしてコニーはひそかに、アルミンへ反旗を翻すことを決意した。






    不正な貿易の証拠になる調査兵団の帳簿をなんとしても手に入れなければ。
    こっそりとアニが監禁されていた部屋を抜けると、コニーは第二分隊の建物があるストヘス区へと馬を走らせた。






  67. 67 : : 2016/06/26(日) 12:12:02














    ___________陰謀は踊る。






    古来より人は、人を食らうことによって自らの力を伸ばしてきた。
    脅し、すかし、媚び、へつらい、裏切り、騙し・・・・・・。



    巨人は果てしなく人を食らっていく。






    アルミンがダンスに辟易し、コニーが調査兵団の帳簿を盗み出したころ、ダンスホールの外では、ひそかに憲兵団の部隊が集結しつつあった。



    師団長ヤーンの命を受けた憲兵たちは、王宮の出入り口を封鎖し、調査兵団の団長を捕らえる準備を着々と進めていく。
    そのメンバーの大半は、かつて存在した中央憲兵の流れをくむものであったり、貴族の息のかかったものであったりした。






    というのも、10年前の粛清、そして3年前の粛清。
    二つの大きな事件に絡んで、貴族たちは実権を奪われていった。


    圧力をかけてくるアルミンの言葉をはねつけられないほどに、貴族は弱体化した。






    そのため、アルミン憎しの声は未だ憲兵団や貴族たちの中にあり、争いの火種はごろごろと転がっていた。
    それがいよいよ鎌首をもたげ、調査兵団に襲い掛かろうとしていた。






  68. 68 : : 2016/06/26(日) 12:13:33








    最初にその異変に気が付いたのはリヴァイ、
    ほぼ同時にミカサが気が付いた。






    「おい、ミカサ。」
    「はい。感じます・・・・・・・・・・・・ヤーン師団長の姿が見えません。」





    いつの間にか師団長が姿を消し、残っていたのは調査兵団や駐屯兵団の幹部や元幹部たち、そして、ヒストリア女王であった。
    勿論、憲兵団の幹部もまだ残ってはいたが、いなくなった幹部を考えるとこれはどうもおかしいと言わざるを得ない。






    「アルミン・・・・・・何かがおかしい。ヤーンが姿を消した。」
    「どうやらそうみたいだね。」




    少し遅れてアルミンもこのことに気が付いたらしく、ヒストリアやハンジに話しかける。






    「ヒストリア陛下、ハンジさん・・・・・・・・・・・・もしかすると、これは罠だったのかもしれません。」


    「罠ですって?」
    「成程ねぇ。ここは王宮、憲兵団の本部はすぐそこにある。私たちは・・・・・・袋のネズミということかな、アルミン?」


    「ええ、ハンジさんの言う通りだと思います。」







    話を聞きつけたナイル総統とエルヴィンが近寄ってくる。






    「これは一体・・・・・・何の騒ぎだ?」



    事態を呑み込めていないナイルに対し、エルヴィンは冷静に、何でもない風に答えた。









    「罠にはめられたということだ、ナイル。俺たちはこれから、憲兵団に粛清される。」







  69. 69 : : 2016/06/26(日) 12:18:03








    ガシャアァアァンッ!!




    突然、ダンスホールの窓が破られ、たくさんのワイヤーがダンスホールの壁や柱に突き刺さる。
    それから、たくさんの兵士たちが立体機動でホールの中へと殺到した。


    対して、燕尾服やドレスを着ていた調査兵団や駐屯兵団の人間たちは、武器の持ち合わせなど、まるでなかった。






    「ぐっ!!」
    「女王と総統が最優先だッ!!」





    圧倒的に不利な状況の中、ミカサとリヴァイがヒストリアとナイルをかばうように前に立つ。
    それと前後して、ダンスホールの外から銃声や悲鳴が聞こえてきた。






    ハンジは苦々しい顔でぼそりとつぶやく。


    「どうやら、やるしかないね。」






    侵入してきた者たちは、一様に緑色のマントを羽織り、フードを深くかぶっていた。
    と、そのうちの一人が前に出て、刃を抜いた。











    「これで、一つ貸しだな・・・・・・・・・・・・アルミン。」
    「!! 君はまさか!?」





    その男はフードを取ると、少し得意そうな笑みを浮かべた。








    「助けに来たぞ・・・・・・・・・・・・アルミン。」








    エレンは独断で第一分隊を動かし、立体機動で王宮に突入してきた。





    それぞれの兵士に予備の立体機動を持たせ、
    外の部隊が立体機動装置を装着する時間を稼がせる。


    スパイからの情報をもとに、エレンは作戦を立てた。







    直前に情報をつかんだエレンは、急遽兵を率いて王宮へと馳せ参じたのである。







  70. 70 : : 2016/06/26(日) 16:35:25







    「エレン・・・・・・。」
    「話はあとだ。アルミン・・・・・・お前相手に議論してもどうせ勝てないからな。」


    「分かった・・・・・・・・・・・・王宮から脱出しよう。」






    こうして、ナイルが主催した舞踏会は、調査兵団と憲兵団の全面衝突へと発展した。





    燕尾服やドレスの上に立体機動装置を付けた調査兵団や駐屯兵団の幹部たちが次々と王宮からの脱出を図る。
    その途中で、待ち伏せしていたかの如く、憲兵団の一隊が現れた。


    すぐさまエレンとリヴァイが前線に出て刃を抜き、突っ込んでいく。






    「さすがにタダじゃ行かせねぇってか!?」


    「エレン、やるぞ。」
    「あなたと戦うのは久しぶりですね、リヴァイ兵長。」






    白刃を煌かせ、迎え撃つ憲兵団と刃を交えるエレンとリヴァイ。
    第一分隊の兵士たちが戦っているその隙をついて、ミカサがアルミンやナイル、ヒストリアを安全な所へと誘導していく。







  71. 71 : : 2016/06/26(日) 16:36:07












    王宮の外では、ヤーンのもとに報告が上がっていた。







    「報告します! エレン・イェーガーが奇襲を仕掛けてきました! アルミン・アルレルトの暗殺は失敗です!」
    「焦らなくてもいい。ここまでは想定内だ。」





    ヤーンはアルミンを殺し損ねた部下を落ち着かせ、火の手の上がる王宮を見つめた。
    もくもくとした黒い煙が天へと立ち上る。



    この光景を見たヤーンは、満足そうに微笑んだ。






    「しかし・・・・・・師団長。」


    「考えてもみるがいい。調査兵団の人間が王宮に奇襲をかけたんだぞ?」
    「!? まさか・・・・・・。」






    「そうだ・・・・・・・・・・・・調査兵団は不正を糾弾され、その火消しに王宮へ火をかけたということだ。」







  72. 72 : : 2016/06/26(日) 16:36:56












    しばらくして、別の場所にいたヴォルフにも同じ報告がもたらさせた。






    「そうか・・・・・・・・・・・・イェーガーが、あの巨人がついに蜂起したか。」



    報告に接したヴォルフは気を引き締めた。






    思惑通りにエレンは兵をあげ、王宮を襲撃した。
    しかも・・・・・・・・・・・・。






    「ヴォルフ様、調査兵団の帳簿がコニーから届けられました。」
    「ご苦労だった。よくやってくれた。これからも頼むぞ。」

    「はっ。」






    調査兵団の中に放ったスパイを通じ、コニーから不正を裏付ける帳簿も手に入れた。






    ___________これで、調査兵団は反逆者だ。





    とはいえ、ヒストリア女王やナイル総統が彼らのもとについている以上、簡単に事は運ばない。





    それに、あのアルミンのことだ。
    どこか・・・・・・・・・・・・簡単に事が運びすぎている。


    奴の狙いは・・・・・・・・・・・・何だ?







    疑心暗鬼にとらわれつつ、ヴォルフはヤーンに使いを出した。



    「本部を叩くのは最後でいい。帳簿を管理していた第二分隊の執務室があるストヘス支部を襲撃せよ。」







  73. 73 : : 2016/06/27(月) 10:21:24





    ~ストヘス支部~






    「おかしいな、どこに行きやがったんだ?」



    ジャンは自分の執務室にあるはずの帳簿を探していた。






    昨日確かに俺はこの机の中に入れたはずだ。
    それがないということは、盗まれたということだ。


    だが、何のために?






    あの帳簿は、誓って不正などはない。






    ジャンは見た目はやさぐれていたが、不正には一番口うるさいタイプの指揮官であった。


    それゆえにアルミンは、彼に帳簿の管理を任せていたのであるし、
    ジャンの統率する第二分隊は事務方として、調査兵団の予算配分を担当する立場にあった。






    「はぁ、コニーには休日出勤をしてもらわなくちゃな・・・・・・。」





    言うまでもなく、これは非常事態である。


    が、アルミンとミカサは留守であり、エレンは独断先行が過ぎてあてにならない。
    第四分隊のモブリット分隊長と俺しか今のところこの問題に対処できない状況であった。





    ジャンはこの状況にため息をついた。




    アルミンが戻ってきたときに問題に対処できるよう、モブリット分隊長と話し合わなければ。
    コートを着たジャンは、モブリット分隊長のいるユトピア区へと外出しようとした。






  74. 74 : : 2016/06/27(月) 10:22:02







    その時だった。







    ガシャアァアァンッ!!



    突如として銃声が響き、ストヘス支部の窓ガラスが破られた。







    「なっ!?」



    ジャンはとっさに身をかがめ、机に身を隠す。
    執務室のある部屋に向かって、地上からの銃撃。





    動き出したヤーンは早かった。




    アルミンこそ殺し損ねたものの、ヤーンの別動隊はストヘス区にある調査兵団の支部を急襲した。
    しかも、運の悪いことに、事務方の集まる第二分隊の支部であって、兵士たちのほとんどは立体機動装置を身に着けていなかった。


    対して、憲兵団の部隊はよりによって、対人立体機動装置を付けていた。







    あっという間に攻め込まれ、火の手の上がるストヘス支部。






    「うわあぁああぁぁぁッ!!」


    「くそ、ひるむなッ!!」
    「撃てッ!!」






    それでも調査兵団の兵士たちは銃をとり、机を蹴り倒して防壁を作っては激しい銃撃戦を繰り広げた。
    銃撃の轟音は一晩もやむことなく、ストヘス区の住人たちを震え上がらせた。






  75. 75 : : 2016/06/27(月) 10:24:26














    やがて夜が明け、凍てつく朝日が差し込んでくるころ。
    霜の降りる草原を走る隊列は、一目散にストヘス区を目指していた。







    「!! 見ろ、アルミン!!」
    「ああ、まずいことになったね、エレン。ストヘス区から煙が上がってる。」





    ミットラスにある王宮から逃れたアルミンたちは、エレンが用意していた馬に跨って憲兵団からの追撃を振り切っていた。
    そして、直近の支部であるストヘス区へと向かっていたのであるが、遠くから煙の上がるのが視界に入ったのである。





    ジャンは無事なのだろうか・・・・・・。


    逃げ延びてきた兵士たちの頭の中に不安がよぎる。
    と、ここでエレンはあることに気が付いた。







    「アルミン・・・・・・・・・・・・門が、閉じられてる。」
    「!? そ、そんな・・・・・・。」






    ストヘス区の入り口が固く閉ざされ、しかも壁の上に人影が見えたのである。







  76. 76 : : 2016/06/27(月) 10:25:27







    「気に入らねぇ。すでに先手を打ってやがったみてぇだな。」
    「さて、どうしたものかねぇ。」




    リヴァイとハンジが交互に呟く。
    ヒストリアやナイル、ミカサの表情にも緊張が走る。


    この状況では到底お出迎えのための兵とは考えられないだろう。






    「何か策はあるか? アルミン団長?」


    エルヴィンが問いただすと、アルミンは直ちに指示を出した。







    「エレン、君の力を再度借りることになりそうだ・・・・・・・・・・・・済まない。」
    「分かった・・・・・・・・・・・・下がってろよ。」






    エレンはそういうと、一人隊列から突出した。
    ワイヤーを発射して木に突き刺し、立体機動装置で空中に飛び上がると、ピカッと激しい閃光が走り。






    「グオオォオォォッ!!」



    エレンは数年ぶりに巨人体となって咆哮し、凍てつく大地を揺るがした。







  77. 77 : : 2016/06/27(月) 10:26:32







    「!! きょ、巨人だッ!!」
    「う、うわあぁあぁぁぁッ!!」

    「撃てッ!! 撃てぇッ!!」






    突然の巨人の出現に、壁上にいた憲兵団の部隊は浮足立った。
    その隙をついてエレンは猛烈なスピードでストヘス区の門に近づき。






    ドゴオォオォォンッ!!



    硬化した右手の拳で派手に門を突き破った。








    ボシュウウゥウゥゥゥッ!!




    次の瞬間、門の内側へと入ったエレンの巨人体から激しい蒸気が放たれた。
    侵入に備え、門の前で待ち構えていた兵士たちは蒸気に視界を奪われ、エレンを見失った。





    と、その蒸気の中から、アルミン率いる調査兵団の兵士たちがあとからあとから押し寄せて、憲兵団の包囲網を突破していった。












    アルミンとエレンの連係プレイによって、調査兵団はストヘス区への侵入を果たしたものの、市内は憲兵団に完全に制圧されていた。




    流石に市内で再び巨人化してしまっては、憲兵団のいい標的になってしまう。
    それに、市内で再び被害を出せば女型を捕らえた時の様にもいかない。





    アルミンは、ストヘス支部を放棄することを決断した。


    「出口の門を目指して走るんだ!! 急げッ!!」





    出来ることといえば、何とか追撃をかわし、出口となる門を再び巨人で吹き飛ばすことだけであった。
    ストヘス支部には近づくことさえできなかったし、ジャンの安否を確認する余裕などなかった。





    こうして、調査兵団は王宮に続いてストヘス支部さえも落とされてしまい、ウォール・シーナは憲兵団の手に落ちたのである。







  78. 78 : : 2016/06/27(月) 16:13:11














    ストヘス区を抜けた調査兵団の兵士たちは、何とかミカサの執務室のあるトロスト支部へとたどり着いた。
    そこでは、サシャとコニーがアルミンたちの到着を待っていた。






    「生き残ったのは、これだけなんですね・・・・・・。」



    サシャが肩を落としてつぶやく中、コニーは暗い表情をしていた。
    アルミンはそっと二人に近づき、暗い顔をしてつぶやいた。







    「済まない・・・・・・・・・・・・僕の完全な計算違いだ。こうまで早く侵攻してくるとは思わなかった。」






    アルミンとしては、侵攻してくるのはまだ先のはずであった。
    が、予想以上に憲兵団の動きは早く、アルミンは裏をかかれたのである。


    調査兵団の勢力圏は現在のところ、ウォール・ローゼ、ウォール・シーナ。
    加えて、ヒストリア女王やナイル総統、リコ師団長やピクシス元師団長はこちら側の人間。






    勢力でいえばウォール・シーナを落とした憲兵団と拮抗していたものの、中央を失ってしまったことはさすがに痛手であった。







  79. 79 : : 2016/06/27(月) 16:13:52








    トロスト支部に戻ってすぐ、アルミンは分隊長を招集した。
    エルヴィンやハンジ、リヴァイも出席する中、アルミンは静かに口を開いた。






    「今回の戦いは痛手だった。ウォール・シーナにある拠点を落とされ、僕らは今、貴族たちに対する影響力を失ってしまった。


    けれど、これで分かったことがある。
    貴族たちや中央憲兵の流れをくむ者たちを、僕らは断固として処分しなければならない。」






    アルミンのこの言葉には、いささかの感情もこもっていなかった。
    その冷石のような冷たさに驚いたミカサが口をはさんだ。







    「いったい、何を始めるつもり?」
    「ミカサ・・・・・・・・・・・・僕らはこれから、ウォール・シーナへと侵攻をかける。」


    「・・・・・・・・・・・・どういうこと!?」






    驚いたミカサがアルミンに詰め寄る。


    詰め寄ったのはミカサばかりではない。

    会議のほかの出席者も、意図を掴みかねるといった様子でアルミンを見つめていた。







    ただ一人、エレンを除いて。







  80. 80 : : 2016/06/27(月) 16:14:49








    「アルミン団長。今回君はどのような戦略を立てたのか、聞かせてくれるかな?」



    アルミンの意図を推し量るように、先代の団長であるハンジが問いかける。







    するとアルミンは、ここに至って・・・・・・・・・・・・微笑んだ。
    その微笑みは、他の出席者をぞっとさせるような、冷たい微笑みであった。






    「時期こそ早かったのですが、憲兵団が蜂起すること自体は想定内でした。ゆえに、反撃の準備はもう整えてあります。」







    とここで、エレンが声を上げた。



    「もう入ってきていいぞ。」







    不意にエレンが合図を出すと、ギイイと扉が音を立てて開き、一人の女性が入ってきた。











    「き、君は!?」
    「あんたが、なぜここに!?」


    「おいガキ、これは一体・・・・・・・・・・・・どういう状況だ?」






    ハンジやミカサ、リヴァイが思わず口を開いたのも無理はない。
    エルヴィンでさえ、冷静でいるのが精いっぱいであった。


    それもそのはず、彼女は・・・・・・・・・・・・ここにいるはずのない人間であったからだ。








    忘れるはずもない。


    小柄ですっと鼻の通った顔。
    金髪を昔のように結い上げた女性。











    ___________かつての人類の敵、アニ・レオンハートは落ち着き払った様子で会議室の席に着いた。








  81. 81 : : 2016/06/27(月) 16:15:58









    会議室の中に、稲妻のごとき戦慄が走る。
    困惑と敵意とが広がっていくなか、エレンとアルミンだけが平素の通りであった。








    「ごらんのとおりですよ、リヴァイ兵長。彼女は今や俺たちの協力者です。」


    「お前・・・・・・・・・・・・本気で言ってんのか?」
    「私も納得できない。この女が何をしたか・・・・・・・・・・・・忘れたの? エレンも、アルミンも?」







    ミカサの脳裏には、3年前の光景が蘇っていた。



    エレンの処刑騒動にかこつけて、ライナーが復讐の機会をうかがっていることを、アニは私に伝えてきた。
    今になって考えると、実に出来すぎたタイミングだ・・・・・・。






    「勿論覚えているよ。だから、僕はアニと取引をした。」
    「・・・・・・・・・・・・取引?」


    「故郷に帰らせる代わりに、僕らに協力しろとね。実際、和平交渉におけるアニの働きは素晴らしかった。」






    アルミンの言葉に会議の出席者は悉く戦慄した。
    彼の言葉が正しければ、もう何年も前からアニと繋がっていたことになる。







  82. 82 : : 2016/06/27(月) 16:17:14








    「こんなことが許されると思うのかい?」



    声を震わせてアルミンをなじったのは、ハンジであった。







    「アニは・・・・・・・・・・・・調査兵団の人間たちを何人も踏みつぶした。それが、今ものうのうとして、しかも君たちと働いている?

    ははは・・・・・・・・・・・・たちの悪い冗談だ!!」


    「ではいかがいたします?」






    ここにきて、アルミンは詰め寄るような口調で話し始めた。






    「今回の戦いは、調査兵団独力ではことをなすことは難しいでしょう。壁外の協力なしに勝利は得られません。」

    「!! アルミン・・・・・・・・・・・・あんたってやつは・・・・・・。」


    「エレンに命じて、第一分隊には既に戦闘準備を整えさせていました。
    同時に、壁外の国との交渉も行わせ、すでに壁外の軍をシガンシナに集結させています。」







    アルミンの計画は、どこまでも用意周到なものであった。
    時期こそ見誤ったものの、壁外の勢力と組んで貴族勢力を殲滅させることはもう既定路線であったのだ。







    すっかりショックを受けた様子のミカサが、ぼそりとつぶやいた。



    「アルミン・・・・・・3年前のことも、今回のことも、全部・・・・・・。」







  83. 83 : : 2016/06/27(月) 16:18:23









    するとここで、今まで黙って話を聞いていたエルヴィンが、重い口を開いた。








    「アルミン、君は随分と・・・・・・・・・・・・食えない男になったな。」

    「・・・・・・・・・・・・エルヴィン団長。」




    「私以上だよ。君は・・・・・・・・・・・・調査兵団の歴史の中でも、最たる悪党だ。

    この状況ならば、アニのことを承諾せざるを得ない―――――――そう踏んでのことだろう。アニの存在を明かしたのは?」





    「・・・・・・・・・・・・それで、元団長はいかがいたします?」
    「・・・・・・・・・・・・承諾しよう。」







    エルヴィン元団長の一言で、会議は決した。



    明朝、シガンシナにあるエレンの部隊と壁外の戦士たちとがアルミンと合流し、ウォール・シーナへ総攻撃をかけることとなった。







  84. 84 : : 2016/06/27(月) 17:10:37
    期待です!!
  85. 85 : : 2016/06/27(月) 19:31:31
    ご期待ありがとうございますm(__)m
  86. 86 : : 2016/06/28(火) 06:34:25













    ~ウォール・シーナ~




    寒々と晴れた真冬の昼間。
    ちょうど太陽が南中する時間に、ヴォルフとヤーンは合流した。


    体の自由が利かないヴォルフは、側近に車いすを押してもらい、ヤーン師団長の執務室へと入ってきた。






    「ふん、長旅ご苦労なこったな。」
    「随分と辛辣な挨拶だ、師団長・・・・・・まあいい。」





    ヤーンは側近に代わってヴォルフの車いすを押しはじめる。
    一部が焼け落ちた王宮の周りを歩きながら、ヤーンはヴォルフと話を始めた。






    「どうだ? しばらくぶりの王都は?」
    「・・・・・・・・・・・・感慨深い、といえば満足か?」


    「感慨深いか・・・・・・・・・・・・俺はとてもそうは思えない。」


    「ほう?」




    「ヴォルフ卿・・・・・・・・・・・・あんたも俺も、調査兵団の専横で居場所を無くした人間だ。これくらいのことで心の隙間が埋まるとも思えないのだが、どうなんだ?」







  87. 87 : : 2016/06/28(火) 06:37:05








    ヤーンの問いかけに対し、ヴォルフ卿は車いすの上で、静かに笑い始めた。






    「何がおかしい!?」


    「フフフ、お前は・・・・・・・・・・・・随分と甘い男だな、ヤーン?」
    「俺が・・・・・・甘い? 何をもってそう決めつける!?」





    「私が、喪失感を拠り所に動いているとでも思ったかね? 自分たちをこんな境遇に追いやった人間たちに復讐をしようと? いやあ、そうではない。」





    ヤーンは車いすを押すのを止め、ヴォルフ卿の前に立った。
    長い髪の毛の奥に隠れた目でヴォルフをにらみつけ、詰め寄る。



    「復讐という一点において、俺とお前は一致していると思っていたんだがな。じゃあ、お前の目的は一体どこにある?」





    とげとげしい口調のヤーンに対してヴォルフの口調は、あくまで穏やかだった。






    「私は、こうと決めたら、遮二無二、その通りをやり通す男だ。その点ではむしろアルミン団長にシンパシーを感じている。あの男も常に狡猾だからな。」


    「目的は・・・・・・・・・・・・権力そのものってわけか。」
    「お前とてそうだろう。」

    「お前と一緒にするな―――――「ならなぜ!? 私と手を組んだ?」






    今度はヴォルフに詰め寄られ、言葉に窮するヤーン。





    「そのほうが都合がよかったからだろう。権力にまみれた男のほうが、扱いやすいと――――――情をかける必要もないからな。」
    「・・・・・・・・・・・・忘れてもらっては困る。俺とお前は、あくまで提携関係だ。」


    「勿論だとも。非情に徹するがいい。さて、お前に渡すものがある。」






  88. 88 : : 2016/06/28(火) 06:39:35








    そう言うとヴォルフは懐から、調査兵団の帳簿を取り出した――――――これは、コニーがジャンの執務室から盗み出したものだ。







    「それは?」

    「調査兵団の帳簿だ・・・・・・・・・・・・が、お前が捕らえたジャンを尋問したところ、どうやらこの帳簿は偽物らしい。」


    「!? 偽物だと!?」

    「あの小賢しいアルレルトは何か別の意図があって、わざとコニーを泳がせていたようだ。」



    「ということは、つまり・・・・・・。」
    「ああ、我々が蜂起すること自体は既に予測されていたということになる。」






    昨晩の襲撃で、アルミン・アルレルトの裏をかいたつもりでいたヤーンは凍り付いた。
    あの金髪はどこまで俺たちの行動を読んでいたのだろうか?


    ヤーンが疑心暗鬼に囚われる中、ヴォルフは話をつづけた。






    「なかんずく、帳簿が偽物であることにかこつけ、不正自体をもみ消す腹だったのだろう・・・・・・・・・・・・ふっふっふっふっふっ、あの悪名高いエルヴィンでもまだ思いやりがあるな。」


    「・・・・・・・・・・・・どうするつもりだ?」




    「簡単なことだ・・・・・・・・・・・・勝てばいい。」

    「なっ!?」






    「勝てば官軍負ければ賊軍ということだ。ゆえに、明日早朝・・・・・・・・・・・・我々は奇襲をかける。」







  89. 89 : : 2016/06/28(火) 17:36:17













    翌日未明。






    まだ太陽が昇りきらない朝の時間に、アルミン率いる調査兵団の部隊がトロスト区を出発した。
    アルミンはアニを伴い、霜が降りつつある草原の上を馬で移動していく。


    そして、調査兵団の格好をしているが、壁外の国の戦士たちも、その中に混じっていた。







    アルミンの部隊は西へと移動し、先日の戦いで穴をあけたストヘス区を目指していく。
    これは、アルミンの計画の一環で、わざわざ壁を乗り越えずに突破したのは、再びそこから攻撃しやすくするためであった。





    「あんたとこうして馬を進めることになるなんて、思ってもみなかったよ、アルミン。」



    馬上から、アルミンと並んで進むアニが話しかける。
    アルミンは静かに周りを見渡しながら呟いた。





    「この戦いが終われば、君は正式に僕ら調査兵団と壁外の国の調整役になる。」
    「もう日陰でこそこそと動かなくて済む――――――そういうこと?」


    「そういうことだ。けれど、勘違いしてもらっては困るよ。」


    「許してもらおうとは思っていない。私は・・・・・・・・・・・・大勢の人間を殺した。あんたの仲間も含めて。」
    「その通り・・・・・・エレンは心の奥底では君を憎んでいる。用心するんだね――――――必要がなくなれば、僕もエレンも君を蹴落とすかもしれない。」






    アルミンの言葉は、あたかも茨の桂冠を被せられるがごとく。


    調査兵団とアニの関係はあくまでwin-winの関係に過ぎず、必要なしとみなせば容赦なく消す。
    随分前からアニはそのことを知っていたのであるが、アルミンはもはやそれを他の団員の前で隠そうともしない。






    「アルミン・・・・・・・・・・・・私があんたのいい人で良かったね。」



    アニはぼそりと、独り言のようにつぶやいた。







  90. 90 : : 2016/06/28(火) 18:02:30








    ややあって、アルミンの率いる部隊はストヘス区の入り口にたどり着いた。





    「前進せよッ!!」



    アルミンが大声を出し、馬に乗った団員たちが一気にストヘス区の中へとなだれ込んでいく。
    だが、攻め込んでいくうちに団員たちは、奇妙なことに気が付いた。





    「こいつは・・・・・・・・・・・・どういうことだ?」


    「ああ、これはおかしいぞ!!」
    「憲兵団の姿がない!?」




    ストヘス区はもぬけの殻となっており、いるのは恐怖におびえる住人たちばかりであった。







  91. 91 : : 2016/06/28(火) 18:02:54









    「団長! やはりストヘス区には憲兵団の姿は見られません!!」


    「・・・・・・・・・・・・もう少しよく探してくれ。」
    「はっ!!」




    しばらくして、アルミンはストヘス支部に到着し、捜索を開始した。
    が、やはり憲兵団の姿は見られなかった。






    「それと、もう一つ報告が・・・・・・・・・・・・。」
    「何かな?」


    「先ほど、ストヘス支部の内部を捜索していたアニ・レオンハートが・・・・・・・・・・・・ジャン・キルシュタイン分隊長の、いっ・・・・・・遺体を、発見したそうです・・・・・・・・・・・・。」






    それを聞いたアルミンは、一瞬ふらついたように見えた。


    無理もない・・・・・・・・・・・・訓練兵団から一緒だった仲間を失ったのだ。
    どれだけ冷酷に振る舞っても、団長にはまだ心がある・・・・・・・・・・・・団員はそう確信した。







    「ジャン・・・・・・・・・・・・やっぱり、そうなって・・・・・・・・・・・・ぐっ。」




    ようやく絞り出した声は、わなわなと震えていた。
    アルミンはこぶしをぐっと握ると、支部中に響くような大声で吠えた。






    「ヤーン師団長を必ず討ち取れッ!! 絶対にだッ!!」







  92. 92 : : 2016/06/29(水) 08:07:44








    ドゴオォオォォンッ!!






    突然、雷が落ちたような轟音が左右から聞こえてきた。
    それから聞こえてくる悲鳴、そして、建物が崩れるような音。


    慌ててアルミンは外を見た。
    そして、壁の上を見たとき、アルミンはようやく状況を把握した。







    「やってくれるね・・・・・・・・・・・・壁上から砲弾を撃ち込んでくるなんて。」







    ヤーン率いる部隊が壁上から大砲をストヘス区の中に撃ち込み、奇襲をかけてきたのである。



    標的となったのは調査兵団だけではない。
    一般市民も巻き添えにして、ストヘス区ごと調査兵団を消し去ろうとしたのである。







    再び戦場になったストヘス区は炎上し、かつて巨人に占拠されたシガンシナ区のごとくに荒廃していく。
    壁上からはヤーンが、炎に包まれていくストヘス区を見下ろしていた。






  93. 93 : : 2016/06/29(水) 08:08:38







    「これで・・・・・・・・・・・・いい。これで、いいんだ。」



    自らに言い聞かせるように呟くヤーン。






    調査兵団さえ亡き者にすれば、あとはどうとでもなる。
    それに、中央憲兵の流れをくむ者として、仲間やケニー隊長の無念を晴らすことができる。


    隊長の言う世の中をひっくり返すというのは、何だったのか。






    それを実現する前に、隊長は調査兵団によって殺害された。
    中央憲兵の一人として、復讐を誓ったのはその為だった。






    俺が唯一信頼を寄せた男、ケニー・アッカーマン。






    今のこの世をひっくり返すためなら、俺は鬼にだってなろう。



    まずは調査兵団を消し、壁内を支配下に置く。
    それから俺が・・・・・・・・・・・・この世界を、ひっくり返すのだ。












    ヤーンが物思いにふけりながらストヘス区の町を見下ろしていたその時。






    ヒュルルルルルルル・・・・・・・・・・・・ッ!!


    町の中央にある調査兵団のストヘス支部から、赤い煙が撃ち上がった。



    時間にしては数秒に過ぎない刹那の瞬間。
    ヤーンは屋上から信号弾を撃ち上げる、アルミン・アルレルトの姿を認めた。







    彼は・・・・・・・・・・・・笑っていた。







  94. 94 : : 2016/06/29(水) 08:09:56








    その数秒後、天が裂け、大地は大きく揺らいだ。








    ストヘス区の壁内で、壁外で、稲妻が放たれた。
    あまりに多くの稲妻が、大地を焼き尽くさんばかりに放たれた。


    そしてその後には、憲兵団が久しく忘れていた恐怖が姿を現した。







    「きょ、巨人だ・・・・・・・・・・・・巨人だぁッ!!」








    壁の内外に、巨人の大群が出現した。







    「う、撃てッ! 撃てぇッ!!」



    あまりの出来事に動転した憲兵たちが、必死になって大砲を撃った。
    が、出現した巨人たちは大砲の球を悉くつかむと、球を猛烈な勢いで投げ返した。


    また、ある巨人は石造りの家の残骸をつかみ、壁上へと投げつける。






    砲弾や石が壁上に降り注ぎ、壁があっという間に地で穢されていく。
    壁上にいた兵士たちが、いつかの仲間たちのように、岩で押しつぶされていく。






    最後の瞬間、アルミンとヤーンは目を合わせた。
    アルミンの顔は、相変わらず冷酷なままだ。





    ああ、そうか。







    いつの世も、人間の欲望は果てしない。
    だから、ケニーは終わらせたかったのかもしれない。



    決して学ぶことのない人間が果てしなく繰り返す、業というものを・・・・・・・・・・・・。












    ヤーンが最後に見た光景。


    それは、
    ゆっくりと弧を描いて迫りくる、巨大な岩であった。




    その瞬間に彼も、







    笑った。









  95. 95 : : 2016/06/29(水) 11:14:07















    オルブド区の隠れ家において、ヴォルフは静かに椅子の上に座っていた。





    彼はずっと待っていた。
    訪問者が、ここを訪れるのを。








    時の移ろうまま、静かに座っていると、ガチャリと扉が開いた。
    入ってきたのは、金色の目を持つ、黒髪の男であった。


    ヴォルフは、ゆっくりとほほ笑むと、静かに話し始めた。







    「そうか・・・・・・・・・・・・ヤーンは、負けたのか。」
    「さあな。俺にはその情報は伝わってきちゃいない。」


    「ようこそ、エレン・イェーガー。私は、ヒューゴ・ヴォルフだ。
    お前と一回話をしてみたかった。座ってくれ。」






    顔に布を巻いた男の言うままに、エレンは向かい合うように椅子に座った。







  96. 96 : : 2016/06/29(水) 11:14:36








    「ここが、よく・・・・・・・・・・・・分かったな。」

    「コニーを選んだのは失敗だったな。コニーの妻のサシャは、俺の部下だ。」


    「サシャも、そっち側の人間だったということか・・・・・・・・・・・・非情なことだ。」
    「夫婦の情を利用しようとした。お前だってそうだろう。」






    ヴォルフとエレンは笑い合った。
    まるで、親しい友人同士の気の置けない会話のように、話が弾んだ。





    「私はかつて、ライナーを利用してお前を葬ろうとしたことがある。」
    「やっぱりお前が黒幕か。」


    「お前を巨人として葬り去ってやろうという腹だったが・・・・・・。そうだ。この際だから聞いておこう。巨人であるとは、どのような感覚なのだ?」




    「変わりはしないだろう。俺は・・・・・・・・・・・・一人の人間に過ぎない。だが、俺は過ぎた力を持った人間だ。」
    「ほう・・・・・・。」


    「身を守るために、俺は・・・・・・・・・・・・人を食らわなければならない。ああ、そうだ。俺は・・・・・・・・・・・・巨人だ。」






  97. 97 : : 2016/06/29(水) 11:15:08







    ややあってエレンはすっと立ち上がった。
    ヴォルフはエレンを見上げ、話を続けた。





    「やはりそうか。」
    「期待通りだったか?」


    「そうとも・・・・・・・・・・・・人間は誰しもが巨人なのだ。お前は、そのいい証明だ。」


    「そうかよ。」

    「ああ。私はこの通り、もはや体を自由に動かすことすらままならない。私はほかの人間を食らうことで、その命を永らえてきた。
    だが、今度は・・・・・・・・・・・・私自身が糧となる時が来たようだ。」






    ゆっくりと、エレンはブレードを抜く。
    白刃を見つめながら、ヴォルフは呟いた。





    「お前は既に、親の肉体を食らった男だ。祭壇の中の供物に混じった子供の肉を食らった狼だ。
    いや、お前だけじゃあない。お前の友人たるアルミン・アルレルトも同様だ。」

    「・・・・・・・・・・・・。」






    首筋に、白刃が宛がわれる。
    ヴォルフは、笑いながら話をつづける。





    「所詮この世は弱肉強食。化け物め――――――思うさま、人間を食らうがいい。」
    「・・・・・・・・・・・・言われなくとも。」


    「フフフ・・・・・・・・・・・・さらばだ、我が同胞よ。」















    ゴトンッ



    エレンはそのまま、ヴォルフの首を落とした。






    こうして、憲兵団のクーデターに始まる政変は、
    ストヘス区を中心とする甚大な被害と多数の死者を出して、ほとんど終息した。







  98. 98 : : 2016/06/29(水) 11:15:21





























  99. 99 : : 2016/06/29(水) 11:15:43
















    数日後。






    「ああもう、本当に君はすごいよ、ヒストリア・・・・・・。」



    ようやく平穏の戻った壁内で、アルミンはいつものようにヒストリアの孤児院の手伝いに汗を流していた。
    食事を運ぶために階段を行ったり来たり、やれやれといった感じでアルミンは、職員室の椅子に腰を下ろした。






    「ご苦労様でした。」



    ヒストリアはそういうと、コップ一杯の牛乳を差し出した。






    「これは?」


    「今朝一番に取れた牛乳よ。」
    「いただきます!」




    汗びっしょりになっていたアルミンは、牛乳を一気に飲み干した。
    ヒストリアはクスクスと笑いながら、アルミンの様子を眺めていた。






    「何がおかしいんだい?」
    「いえ、調査兵団の中にあってはあれほど恐れられてるあなたが、子供たちの前では随分と愛嬌があって、それがおかしかっただけよ。」


    「ふふ、違いないね。僕は子供が好きだ。
    僕らが外の世界を夢見ているように、これからの子供たちも、自由に夢を見ていいと思うんだ。」






  100. 100 : : 2016/06/29(水) 11:16:09







    すると、ヒストリアは顔色を変えた。


    いや、ヒストリアは無表情になったといったほうが正しいだろうか。
    感情のこもらない声で、ヒストリアはアルミンに話しかけた。








    「その為に、あなたは今回の事件を起こしたとでもいうの?」
    「・・・・・・・・・・・・自由を勝ち取るためさ。」





    対して、アルミンの様子は変わらなかった。


    決して本当の感情を読み取らせない。
    いつも通りの話し方であった。







    「あなたが、貴族や憲兵たちを挙兵にまで追い込んだ。そうでしょう?」




    「その通り。そして、今回のことで壁外の国との同盟関係も強まった。


    今度僕らは壁外へと行く。
    その際に、僕とエレンが長年望んできた海を見せてくれるそうだ。」







    とそこへ、調査兵団の兵士の一人が部屋に入ってきた。
    アルミンは椅子から立ち上がると、ヒストリアに頭を下げた。





    「それでは、私はこれで。」



    女王に一礼をした後、アルミンは部下に案内されるままに職員室を去っていった。







    「・・・・・・・・・・・・化け物。」



    アルミンが去っていく間際に、ヒストリアは一言、呟いた。







  101. 101 : : 2016/06/29(水) 11:16:46
















    孤児院の会議室には、アルミンが呼び寄せた男がすでに座っていた。





    その男は妙にそわそわしていて、落ち着きがない。
    とそこへ、アルミンが部屋の中に入ってきた。


    男は努めて明るく振る舞った。





    「よう、アルミン? 俺に用ってなんだ?」
    「やあコニー。」




    既にアルミンの言葉は、凍てつくばかりの敵意にあふれていた。





    「聞かせてくれないかな?」
    「な、なにをだよ?」


    「君は調査兵団の収支報告書を綴じた帳簿を、憲兵団の勢力に渡しただろう?」






    突きさす刃のように鋭い視線に、コニーは全身から汗を拭きだした。
    追い詰められたコニーは、今までの不満を一気に爆発させた。







  102. 102 : : 2016/06/29(水) 11:17:15







    「お、お前が悪いんだろうがッ!!」
    「ふぅん。」


    「お前が、壁外の人間なんかと不正をやりやがるからこんなことになったんだッ!!」


    「だから君は“偽の帳簿”まで使って僕を陥れようとしたんだね?」
    「はっ!?」





    アルミンは合図を出し、部下から帳簿を受け取った。
    コニーが盗み出したと思っていたはずの帳簿を・・・・・・・・・・・・。





    「君は・・・・・・・・・・・・偽の帳簿で調査兵団全体を陥れ、ジャンは殺害された。」
    「そんな!? 俺はそんなこと――――――「言い逃れようとしても無駄だッ!!」





    アルミンは大声で怒鳴り、コニーはびくっと体を震わせた。





    「さて・・・・・・・・・・・・コニー・スプリンガー。僕は君を第二分隊の副長から解任する。
    いや、君には調査兵団を辞めてもらうよ。」

    「あ、アルミン!? 待ってくれよ!?」




    「最後に一つ・・・・・・・・・・・・君は、誰にそそのかされたのかな?」






    アルミンはコニーを睨み付けた。
    もはや反論することもできず、コニーは、静かに呟いた。






    「頭に、布を巻いた、男だ・・・・・・。」
    「・・・・・・・・・・・・外に馬車を待たせてある。それに乗って僕の前から消えるんだ。」





    アルミンはそれきり、コニーを見ようともしなかった。
    コニーはすっかりおびえた様子で、馬車へと乗っていった。








  103. 103 : : 2016/06/29(水) 11:18:14






















    馬車はコニーの自宅があるラガコ村へとひたすらに走っていく。








    コニーには分からなかった。




    何でアルミンは俺が偽物の帳簿を作ったと思い込んだのか。
    どうしてアルミンは、ああなってしまったのか。


    昔のような、仲間想いなアルミンは、どうしていなくなってしまったのか。







  104. 104 : : 2016/06/29(水) 11:19:59









    すると突然、馬車が動きを止めた。





    「ん? もう着いたのか?」



    随分と早いなと思いつつも、コニーは馬車の扉を開けた。
    が、そこは、コニーの自宅ではなかった。





    着いた場所は、森の中。
    その木立の間には、一人の男が立っていた。






    「よう、コニー。」
    「おいおい、なん、だよ・・・・・・・・・・・・その恰好・・・・・・。」
























    「うわあぁああぁぁぁッ!! あ゛っ!!」











  105. 105 : : 2016/06/29(水) 11:20:13































  106. 106 : : 2016/06/29(水) 11:21:05









    ~エピローグ~








    「話が違う!! 話が違うやないかッ!! なんで殺したんやッ!!」
    「落ち着いて、サシャ! 君の気持ちはわかるよ! でも、コニーは帰る途中で暴漢に襲われて死んだんだ!!」


    「何いっとんねん!! あんたが、あんたが殺したんやろッ!? 悪魔ッ! 鬼ッ! 人でなしッ!!」







    アルミンの執務室は、サシャの怒号と悲鳴で溢れていた。
    ミカサが何とか慰めようと声をかけるも、サシャは一向に泣き止まなかった。






    「落ち着いて、サシャ!」
    「ミカサ・・・・・・・・・・・・あんたの幼馴染みたちは、怪物や!! 人の心を持たない巨人やッ!!」





    取り乱したサシャは、ミカサさえ痛罵した。








    「サシャ・・・・・・。」



    取り乱したサシャを見て、ミカサは呆然と呟いた。
    さんざん泣き喚いた後、サシャは部下に引きずられるようにアルミンの執務室を去っていった。






  107. 107 : : 2016/06/29(水) 11:22:35









    「・・・・・・・・・・・・不憫だよ、ミカサ。サシャは悲しみでものが見えなくなっているんだ。」




    アルミンは、ぼそりと呟いた。
    さも、心を痛めたかのように。


    対して、ミカサは冷静に、アルミンをなじった。





    「心にもないことを。アルミン・・・・・・・・・・・・本当のことを言ってほしい。」
    「ミカサ・・・・・・・・・・・・それ以上口を出さないでくれ。」


    「どういうこと? 私は、あなたの幼馴染み。」



    「それ以上口を出すな。」




    「本当のことを――――――「ミカサッ!!」







    バンッと机を叩き、ミカサを睨み付ける男は、もうかつての心優しき幼馴染みではなくなっていた。







    「・・・・・・・・・・・・仕方ない。今回だけは答えるよ。」
    「あなたは・・・・・・・・・・・・コニーを殺した。違う?」


    「・・・・・・・・・・・・違う。僕には、そんなことはできないよ。」


    「・・・・・・・・・・・・アルミン。」






  108. 108 : : 2016/06/29(水) 11:24:29









    ぼんやりとした不安を抱えたまま、ミカサはアルミンの執務室を去っていく。
    とその時、部屋に入っていく二人の人間とすれ違った。


    はっとしたミカサは、思わず振り返ってその顔を確認した。









    (・・・・・・・・・・・・アニに、エレン?)















    アルミンは、エレンとアニを笑顔で迎え入れた。










    THE END











  109. 109 : : 2016/06/29(水) 11:27:06
    以上で、共犯者たちは終了になります。


    放置してしまった期間があったのですが、何とか完結できました。一緒になってあれこれと設定を考えてくださったハイセさんに改めて感謝したいと思います。ありがとうございました<m(__)m>




    最後に、プロローグを更新します。




    最初の予定よりブラックな話になってしまいましたが、いかがだったでしょうか(;^ω^)

    感想をいただけたら幸いです。



  110. 110 : : 2016/07/03(日) 22:19:53
    ちょいとこわかった…あと僕の脳は単純だから話が難し過ぎた……………です
  111. 111 : : 2016/07/03(日) 22:30:56
    面白かったです。

    [史記]とか[十八史略]思い出した。

    最後は勝者のトップが、部下を粛清するのは、歴史上多数有ったしね‥‥
  112. 112 : : 2016/07/04(月) 14:40:00
    >>110
    >>111

    感想ありがとうございます(∩´∀`)∩


    権力者の恐ろしい側面を書き出したいと思っていましたので、こわいという感想をいただけてうれしかったですw



    とりあえず書くにあたりまして、絶対に現代の価値観でものを考えないように努めました。

    “力こそが正義”という、プロローグにおけるアルミンの価値観は、現代でこそ歪んで見えるかと思いますが、この物語ではそれこそが真理となるように気を付けた次第です。




    残酷な世界では力こそ心理・・・・・・現代とは異なる価値観でものを書くのは楽しかったですし、111さんの言われる通り、勝者のトップが部下を粛正することは、案外普通に行われていたことなんですよねw
    ともすると、今でもそうかもしれません。
  113. 113 : : 2020/10/06(火) 10:42:12
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

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    【キャロル様教団】
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    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
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