この作品は執筆を終了しています。
ミカサ「エレンの幸せのために…」ジャン「………」
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- 1 : 2015/12/21(月) 21:40:02 :
- 14作目にして初の恋愛モノになります
カップリングは
エレアニ・ジャンミカ
です
この作品ではどのキャラも下げているつもりはありません。
私の書き方の問題で、キャラに対し不快さを感じるのであれば教えていただきたいです。
作品へのご意見はこちらのグループにお願いします。
http://www.ssnote.net/groups/1914/archives/1
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- 2 : 2015/12/21(月) 21:41:29 :
- エレン「俺たち付き合うことにした」
アニ「だからって何が変わるわけでもないけど…まあ、そういうことだから」
それは今日の夕食の席で、唐突に告げられた
いつものようにエレンとジャンが喧嘩をしていて、みんながそれを野次っていた
そしていつものように私が仲裁に入る
はずだった
私が席を立つより先に、アニが動いた
喧騒にうんざりして出ていくのかと思った
だけど、真っ直ぐにエレンたちの方へ歩いていく
アニに気づいたエレンは、急に喧嘩をやめた
みんなが呆然としている中、
アニ「そのへんにしな。明日も対人格闘術の訓練するんでしょ」
エレン「ああ、そうだな。…ジャン、今日は俺も悪かった」
驚いた
エレンがあっさりと引き下がって、ジャンに謝るなんて
ジャン「は…?」
ジャンも驚いているようで、口がぽかんと開いている
アニがエレンをつついた
アニ「みんな驚いてる」
エレン「まあ、そうだよな…」
軽く頭をかきながら、困ったような顔をした
ミーナが興奮気味に口にする
ミーナ「ふ、二人って…その…!」
エレン「ああ、俺たち付き合うことにした」
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- 6 : 2015/12/22(火) 05:44:20 :
私は今部屋にいる
他の人たちは今頃エレンとアニを囲んではやし立てているんだろう
私は誰にも気付かれないように、食堂から抜けてきた
ああいう雰囲気は得意じゃない
それに
ミカサ「…………」
何故だろうか
とても苦しい
ミカサ「エレンがアニを…」
アニがエレンに寄せる気持ちを、私はなんとなく理解していた
そして、私がエレンを想う気持ちも
心のどこかで、エレンには恋愛感情は分からないと安心していたのかもしれない
巨人を駆逐することを第一に考える人だから、きっと誰のものにもならないのだと…
だから訓練が終わってから二人で自主練をしていたことも、時折エレンがアニに向けるとても親密な笑顔も、知りながら何もしなかった
その報いがこんな形で返ってくるなんて思わなかった
ミカサ「エレンが選んだのなら仕方のないこと…。エレンが幸せになれるならそれでいい」
そう言い聞かせて涙をこらえることしかできない
今泣いてしまえば、もう少しで戻ってくるみんなに心配をかけてしまう
私の気持ちは隠さなければいけない
エレンが知れば、きっと気を遣うから
エレンの幸せを邪魔してはいけない
それに、私の気持ちのせいでエレンがよそよそしくなるのは嫌だ
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- 7 : 2015/12/22(火) 16:57:26 :
- しばらくして、みんなが戻ってきた
アニを囲むようにして部屋に入ってくる
サシャ「でも本当に意外ですね。アニとエレンの組み合わせなんて」
クリスタ「私てっきりエレンとミカサがくっつくのかと思って…!あ…ごめんね、ミカサ…」
ミカサ「構わない。エレンは家族。エレンに対してそういう感情はない」
それだけを言うので精一杯だった
ミーナ「やっぱりそうだよね!エレンとミカサってお母さんと子供って感じだもんね」
ユミル「確かにな」
アニ「…………」
その後は、朝早く起きるからと私だけ先に寝た
冷めたやつだと思われただろうか
少なくともエレンへの気持ちは隠せている…はず
今は忘れよう
私は兵士。これからもエレンを守るために強くならなければいけない
次の日から、気持ちを追い出すように訓練に打ち込んだ
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- 10 : 2015/12/22(火) 19:03:39 :
- 訓練が終わった
今は食前の自由時間
エレン「…ぃしょっと……」
ミカサ「エレン、それは?」
籠から溢れんばかりの洗濯物を持って歩くエレン
エレン「いや…まあその…罰ゲームだよ」
決まり悪そうに目を背ける
ミカサ「罰ゲーム?」
エレン「トランプで最下位になったやつがみんなの洗濯物を片付けるってな」
なるほど…
エレンは負けてしまったらしい
けれど普段ならアニと対人格闘術の練習をしている時間
仕方がない
ミカサ「貸して」
エレン「は?…っておい!」
エレンから籠ごと奪って水場へと向かう
ミカサ「エレンにはアニとの練習がある。あなたのことだから何の断りも入れていないでしょ?今日は私がやっておく。アニを待たせてはいけない」
エレン「……悪いな。頼んだ」
ミカサ「ええ」
アニとエレンの邪魔をしてはいけない
エレンには幸せになってほしいから
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- 11 : 2015/12/23(水) 08:28:51 :
- ミカサ「だいぶ溜まっている…。こまめに洗わないからこうなる」
水場で一人、何となく呟きながら洗濯をする
ジャン「ミカサ?お前何やってるんだ?」
これから部屋に戻るところなのか、ジャンが通りかかった
ミカサ「見ての通り洗濯」
ジャン「……なぁ、それどう見ても女物じゃないよな?」
訝しむような目で見てくる
変な誤解をされているらしい
ミカサ「ジャン、勘違いしないでほしい。私にそんな趣味はない」
ジャン「い、いや…!それはわかってるが…」
ミカサ「いくら罰ゲームとはいえ一人にこれだけの洗濯物を押し付けるのはよくない」
そう言うと、ジャンははっとした
ジャン「それエレンの罰ゲームのやつか!?」
ミカサ「そう」
ジャン「なんでお前が洗ってんだよ!」
ミカサ「エレンには対人格闘術の練習がある」
ジャン「だからってどうしてミカサが洗うことになったんだ?」
ミカサ「私が引き受けた。エレンはアニに何も言っていなかったから。洗濯をしていてはアニを待たせてしまうでしょ」
ジャン「そういうことか…」
ガシガシと頭をかいている
何故か申し訳なさそうだ
ジャン「はあ…。そっちの貸せ」
私の隣に座り込んで手を出す
ミカサ「?」
ジャン「俺もやるって言ってんだよ」
ミカサ「別に構わない。私一人でもすぐに終わる」
ジャン「あのな…あのバカは何も考えてなかったかもしれんが、下着も入ってるんだぞ?」
言われてみれば確かにそうだ
ミカサ「私は気にしない」
ジャン「こっちが気にするんだよ」
ミカサ「ならその類いのものはお願いしよう」
ジャン「もともと俺たちがやるべきことなんだがな…。悪い」
ミカサ「構わない」
その後は何も話すことなくただ黙々と洗濯をした
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- 12 : 2015/12/23(水) 12:38:20 :
- まだ日が落ちてすぐ
雨が降る兆しもない
きっと明日の朝には乾くだろう
すべて干し終わり、一息ついた
ジャン「なんか…ほんとにすまねぇ」
ミカサ「ジャンが謝ることではない。助かった。ただ、賭け事は適度に」
ジャン「わかったよ。もう寒い、中入ろうぜ」
丁度その時、
エレン「やっぱアニには簡単には勝てねぇな」
アニ「別に焦ることはないでしょ。あんたもそこそこ上達してるよ」
ミカサ「……………」
何故こんなにもタイミングが悪い…
目を逸らしてしまう
ジャン「…………」
エレン「…お、ミカサ!悪かった、全部洗ってくれたんだな」
ミカサ「ええ…」
エレン「…どうした?怒ってるのか?」
ミカサ「違う…!」
あなたがアニといるから、少し苦しいだけ…
でも、そんなこと言えるはずがない
ミカサ「…………」
何も言えずに俯く
ジャン「お前なぁ、下着のことくらい考えとけよ」
エレン「下着?……あ!?」
アニ「あんた、まさかとは思うけど…」
エレン「ミカサ悪い!今まで気にしたことなかったから気づかなかったんだ!」
ミカサ「だ、大丈夫、下着類はジャンが洗ってくれた」
エレン「…!そうか。悪かったな、世話かけて」
ミカサ「それはいつものことなので気にしていない」
エレン「うっ…!」
ジャン「今は何も言い返せねぇだろ」
ジャンがニヤニヤしながらエレンを煽る
エレン「うっせぇな!」
二人は騒ぎながら屋内に入っていった
アニ「…私たちも行く?」
ミカサ「ええ」
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- 15 : 2015/12/23(水) 17:55:09 :
ジャンには助けられた
きっと本人はただいつも通りにしていただけだろうけど
そんな風にして、特に何も変わらず一週間が過ぎた
私はまだエレンへの気持ちを消化できずにいる
情けない
こんなことでは訓練にも支障が出てしまう
ジャン「ミカサ、話がある」
ミカサ「?」
ジャンに呼ばれるなんて珍しい
何の用だろうか
言われるままについていく
ジャン「ここなら大丈夫か…」
ミカサ「倉庫裏……なぜ?」
ジャン「お前、エレンが好きなんだろ」
ミカサ「…エレンは家族」
まさかジャンからそんなことを聞かれるとは思っていなくて、少し逡巡してしまった。
けれど、普段通りに返せたと思う
ジャン「家族が他の女と付き合って…あんな悲しそうな顔をするのか?」
ミカサ「…いつ見ていたの?」
ジャン「お前が食堂を出ていく時だ」
あの時はみんなが興奮していた
私一人が動いたところで目立ちはしないだろうと思っていたのに
ジャン「それにお前、あの二人が一緒にいる時は顔背けてるだろ」
見られてしまったのなら隠せない
サシャやコニーならどうとでもできるだろうけど、ジャンは妙に鋭い
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- 16 : 2015/12/23(水) 21:36:06 :
- ミカサ「エレンが選んだこと。私にはどうすることもできない」
ジャン「……………」
ミカサ「それに、私はエレンが幸せならそれでいいと思っている」
ジャン「…よくねぇよ」
ミカサ「?」
ジャン「〜〜っ!」
ミカサ「っ!?」
壁に押し付けられる
咄嗟のことで防げなかった
振りほどこうと力を込めたけど、何故か全く動けない
私の両腕を押さえつけたまま叫んだ
ジャン「だったらお前の幸せはどうなる!?」
ミカサ「え……?」
一瞬理解出来なかった
私の幸せ…?
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- 17 : 2015/12/24(木) 06:02:23 :
- ジャンは、でかい声出して悪かったと呟いて、それからとても真剣な顔をした
ジャン「俺は…お前が苦しむ姿をこれ以上見たくねぇんだよ」
ミカサ「私の心配はいらない。する必要が無い」
ジャン「好きなヤツのことが必要以上に気になっちまうのは……ミカサ、お前も同じだろうが…」
ミカサ「それはどういう…」
ジャン「今はあいつの代わりでいい」
ミカサ「ジャン…?」
ジャン「俺にお前を守らせてくれ」
ミカサ「それはつまり…」
ジャン「俺はお前が好きだ!」
ミカサ「…………」
私は何も言えない
今まで人からこんな好意を向けられたことがなかったから
黙っていると、ジャンは少し俯いてこう言った
ジャン「お前は強い。俺なんかがいなくても、いや…むしろ俺はお荷物かもしれないが…。でもそうじゃない。俺は、お前の心を守りたいんだ」
ミカサ「私の……心?」
ジャン「お前、あの二人が付き合い始めてから、一層エレンの世話やくようになっただろ」
ミカサ「そんなつもりはない…」
ジャン「いいや、やいてる。それは何故だ」
そんなことを言われても分からない
私は普段通りにしているつもりだ
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- 18 : 2015/12/24(木) 14:00:41 :
- ミカサ「分からない」
ジャン「お前は怖がってる」
ミカサ「何を?」
ジャン「エレンに捨てられることを」
ミカサ「違う!エレンは私を捨てたりしない!」
なぜそんな事を言う?
エレンが私を捨てるなんて、考えたくもない
私はそんなこと思ってない
ジャン「なら、どうしてお前は今、こんなに取り乱してるんだよ」
ミカサ「あなたが不躾なことを言うから…!」
ジャン「わかってんだろ」
ミカサ「違う……」
ジャン「あいつにしがみつこうと必死になってるお前は…見たくない」
ミカサ「…………」
ジャン「俺はあいつみたいに何かを真っ直ぐ見られねぇ。外の世界には興味も無いし、巨人の駆逐なんてまっぴらだ」
ミカサ「知っている…」
ジャン「お前を泣かせないなんてことは言えねぇ。気も短い。言いたいことを言う。喧嘩だってする」
ミカサ「それも、知っている…」
ジャン「けど、これだけは絶対だ」
ミカサ「……………」
ジャン「俺は絶対にお前から離れねぇ」
ミカサ「ジャン…」
痛いほど伝わる
ジャンがどれだけ私を想ってくれているのか
でも…全部、エレンから聞きたかった言葉
ミカサ「ごめんなさい…。私はあなたをそんな風に見ることは出来ない」
ジャン「ああ…知ってたさ。でも忘れんなよ。さっき言ったことは全部、これからもずっとだ」
そう言い残し、去っていった
ミカサ「……………」
残された私はまだ事態をよく飲み込めていない
冷たい風に当たりながら頭を冷やす
ミカサ「ジャンが私を…」
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- 20 : 2015/12/24(木) 18:04:20 :
ジャン「よう、ミカサ。早いな」
ミカサ「おはよう。あなたも珍しく早い」
ジャン「お前が知らないだけで俺も毎日この時間に起きてんだよ。自主トレするんだろ?そこそこにしとけよ」
次の日からジャンは、何も無かったかのように接してくれた
ミカサ「ええ」
私はそれに甘えた
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- 21 : 2015/12/24(木) 20:36:14 :
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- 22 : 2015/12/24(木) 20:38:26 :
- エレン「さすがに早朝は寒いな」
ミカサ「ええ、風邪をひかないように上に何か羽織ってきた方がいい」
今日は水汲みの当番
エレンと一緒
他愛のない話をしながら二人で井戸まで来た
私にとってはこの時間がとても大切
ミカサ「もうすぐ雪が降る季節になる。新しい上着でも買わないと…」
エレン「別に大丈夫だって。そのうち用意する」
ミカサ「そう」
エレン「それより、お前も何か考えとけよ。女なんだから冷えやすいんだろ?」
エレンが気にかけてくれた
それだけで暖かい
それに…
ミカサ「私にはこのマフラーがあるから」
両親を失ったあの日、エレンが私にくれたこのマフラー
エレンは少し視線をやって、
エレン「そういや、そのマフラーずっと着けてるんだな」
ミカサ「ええ。あなたがくれたものだから」
エレン「でもこんなにボロボロじゃねぇか」
ミカサ「そろそろ修繕しよう」
確かにいろんなところの糸がほつれている
私でも直せるけれど、店に持っていった方が丈夫になるだろう
エレン「そこまですることないだろ?」
特に興味はないみたいだ
エレンはそういう人
人のためにしたことだと意識していないから
エレンにとっては全て当然のことだから
だけど、次にエレンの口から出た言葉は
エレン「もう捨てればいいんじゃないか?」
ミカサ「え……」
あまりに深く、私に突き刺さった
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- 27 : 2015/12/24(木) 22:28:17 :
- エレン「…悪い、捨てるってのは行き過ぎたけど……。せめて新しいのに変えた方がいいと思うぞ?」
きまり悪そうに訂正して、
エレン「お前がずっと着けてるのは知ってるし、気に入ってくれたのは嬉しいけどよ。似たようなのはいくらでもあるし、暖かいほうがいいだろ?」
エレンには珍しい、心配した顔でこう言った
“気に入ったから”
エレンがそう思うのは当然のこと
今までにも何度か聞かれていた
エレン「貰い物だからって無理して着けなくてもいいぞ?」
私はその度にこう答えた
“気に入ったから”ずっと着けていると…
本当の想いなんて言えるはずもない
だけど違う…
このマフラーは“あの日”、“あなた”がくれたことに意味がある
ミカサ「…ごめんなさい。先に行く」
エレン「は?…おい!ミカサ?」
そう言ってその場を立ち去ることしかできなかった
水が零れていたけれど、気にせず走った
逃げ込んだのは兵舎裏にある武器庫
鍵がかかっているから中には入れず、その壁にもたれてしゃがみ込んだ
ミカサ「……っ」
涙が溢れてくる
一度流れ出たそれを止めることはできそうにない
マフラーを変えればいいと言われただけ
それでも今の私には、迷惑だと言われたようで…
エレンからすればただの過去の物
私にとっては、あの凄惨な日に温もりを与えてくれるもの
たったこれだけの認識の違いが、これ程辛いものだとは知らなかった
もっと正直になっていれば、エレンの認識も変わっていたのだろうか…
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- 31 : 2015/12/25(金) 08:15:55 :
- 「うおっ!?」
ミカサ「!」
誰かが来たことに気づかなかった
見られてしまった…
「…どうした?」
ぶっきらぼうだけど、心配を隠しきれていない優しいこの声
ミカサ「ジャン…」
ジャン「…その、悪い。お前が戻ってこないから井戸まで行ってみたんだが、エレンの野郎、走ってどっか行ったなんて言うからよ…」
気まずそうに頬をかいている
ジャン「水の跡が続いてて、それを辿ってきたんだが……。泣いてるとは思わなかった…」
ミカサ「ごめんなさい…。何もないから、戻って構わない」
ジャン「…いや、戻らねぇ」
ミカサ「一人にしてほしい」
ジャン「断る」
ミカサ「なぜ」
ジャン「俺がここにいたいからだ」
ミカサ「……………」
分からない
泣いている私といても気を遣うだけ
ちらりと横目で見てみた
ジャン「…………」
なんと言えばいいのだろうか
無表情というわけではないけれど、楽しそうでも悲しそうでもない
怒ってもいないだろう…
頭は混乱した
でも結果的に涙は止まったからよしとしよう
ミカサ「もういい。泣き止んだ」
ジャン「そうか」
ミカサ「………?」
座ったまま動かない
ジャン「なんだよ」
ミカサ「行かないの?」
ジャン「本当は一人にしてほしいわけじゃねぇんだろ」
ミカサ「……」
少しだけ、図星だった
ジャンが行ってしまったらきっと私はまた泣いてしまうから
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- 34 : 2015/12/25(金) 18:18:34 :
- ジャン「…なあ」
ミカサ「?」
おもむろに声をかけられた
少し首をかしげて応える
ジャン「何があったのか、聞いてもいいか?」
ミカサ「…構わない」
落ち着いている今なら話せると思う
むしろ発散したい…かもしれない
ミカサ「このマフラー」
ジャン「ああ、訓練の時以外はいつも着けてるよな」
ミカサ「ええ、これは私が9歳の時にエレンからもらったもの」
ジャン「あいつがか…?」
ミカサ「そう。…あの日、私は家族を失った」
ジャン「!…………」
驚いた顔をしたけど、何も言わず視線で続きを促してくれる
ミカサ「悲しくて怖くて不安で……とても、寒かった」
今でも思い出すと震えてしまうことがある
ミカサ「だけど、エレンがこのマフラーを巻いてくれた。あったかいだろって…」
ジャン「そうか…」
ミカサ「本当に暖かくて…っ。俺たちの家に帰ろうって、言ってく…れ……っ」
嗚咽で喉が詰まって、途切れ途切れにしか話せなくなった
最近は泣いてばかりだ
止めようとしても溢れてくるから仕方がない
ジャンはただ黙って隣にいてくれた
ミカサ「私には……家族の証…だった…。…けれど………っエレンは、他のものに変えればいいと…」
ジャン「………そうか。話してくれてありがとな。辛いこと思い出させて悪かった」
そう言うジャンはとても静かで、不穏な空気を纏っている
ミカサ「ジャン…んっ…」
私の髪の毛をグシャグシャと掻き乱して立ち上がった
ジャン「ミカサ、悪い。用事ができちまった。お前はもう少しここにいろ」
ミカサ「え…?」
そして何も言わずにどこかへ走っていった
今のジャンが何をしようとしているのか想像もつかない
急いで涙を拭いてジャンの後を追った
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- 35 : 2015/12/25(金) 21:11:57 :
- 〜〜〜っ!ガタッ!
食堂から大きな音と声が聞こえる
扉を開けると
ジャン「この死に急ぎ鈍感クズ野郎が!」
ジャンがエレンを殴っていた
殴り合いは日常茶飯事で、普段ならみんなが騒ぎ立てる
でも今日は、みんないつもと違うジャンに驚いて動けずにいる
アニ「……………」
アニだけは相変わらずの無表情で、成り行きを見ている
エレン「いってぇな!急になんだよ!」
エレンがジャンに掴みかかる
ジャン「っせぇ!お前ミカサに何言ってんだ!」
ジャンも襟首を掴み、大声でがなり立てる
今までに見たことのないほど怒気を纏ったジャンに、恐怖さえ感じた
エレン「は!?なんのことだよ!」
ジャン「マフラー変えろってなんだよ!」
エレン「お前には関係ないだろ!」
ジャン「関係ないわけねぇだろ!!」
エレン「…!」
いつもみたいな茶化す感じが全く感じられないことを察し、エレンも動きを止める
ジャン「なあ…お前はここにいる誰よりもミカサの傍にいたよな?だったらミカサがどれだけあのマフラーを大事にしてたかもお前が一番知ってるはずだよな?」
エレン「ミカサが気に入ってることは知ってるよ」
ジャン「…俺はお前らの過去は知らねぇし、ミカサに会ったのもつい一年前だ。けどよ、それでもミカサにとってあれがなくちゃならないものだってのはわかる」
ミカサ「…………」
頬を伝う雫が一筋
いつの間にか、泣いていた
自分でも気付かないほど静かに
ジャン「ただ気に入ってるだけならお前にあんな事言われたってなんとも思わないだろ」
エレン「……………」
ジャン「ミカサは強い。何があっても落ち着いてて冷静だ。けどな!あいつだって普通の女子なんだよ!悲しいとか苦しいっつー感情もちゃんと持ってんだ!お前はそれを知ってたからマフラーを巻いたんだろ!」
今のジャンは、きっと今までに見たどの時よりも真剣で
ジャン「あのマフラーには、言葉にできないような…あの日のミカサとお前の思いが詰まってんじゃねぇのかよ!」
エレン「!」
何故だか分からないけれど、次から次へと涙が流れ出る
ダメだ…
このままここにいたら声を上げて泣いてしまうかもしれない
ミカサ「…………」
私は駆け出した
誰の声も届かない所へ
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- 36 : 2015/12/26(土) 08:04:51 :
- エレン「…ジャン、俺は本当に馬鹿な鈍感野郎だったんだな」
ジャン「んなもんとっくに知ってる。わかったんならとっとと行けよ」
エレン「ああ…ありがとな!ジャン!」
ジャン「けっ…。あんなやつのどこがいいのか理解出来ねぇぜ」
アニ「生憎私にもよくわからないね。まあ、あんたはなかなかの“いい人”だと思うけど?」
ジャン「…うっせ」
ミカサ「っ!……ぅ」
私はいったいどうしたんだろうか
泣いてばかりいる
けれど不思議と、この涙は嫌ではない
エレン「ミカサ」
ミカサ「!エレン…」
二度も他人の接近に気付けないなんて不覚
けれど今はそんなことも考えられない
エレンに謝らなければならない
嫌われたくない
家族でいたい
ミカサ「エレン……っごめ…」
エレン「ごめんな」
ミカサ「…え?」
私に向けられた声は優しくて、その表情はとても悲しそうだった
エレン「このマフラーはお前にとって特別なもんなんだよな。お前の気持ち何も考えずにあんなこといって本当にごめん」
ミカサ「怒っていない…?」
エレン「怒られるのは俺の方だろ」
ミカサ「私を嫌いにならない?」
エレン「なるわけねぇよ。お前は俺の大切な家族だ」
こんな所で寒かったよな、と、乱れたマフラーを巻きなおしてくれた
ミカサ「エレン…」
エレン「マフラー、大事にしてくれてありがとうな」
それだけで私は幸せで、とても満ち足りた気分だ
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- 43 : 2015/12/26(土) 20:05:10 :
- その後はすぐ、二人で食堂に戻った
アニ「もういいの?」
ミカサ「ええ、蟠りはとけた」
アニ「それならよかったよ」
ミカサ「ジャンはどこ?」
クリスタ「ジャンなら先に寝るって言ってたよ」
ミカサ「そう…。もう男子寮に行ってしまっただろうか」
マルコ「まだ間に合うと思うよ」
ミカサ「なぜ?」
ライナー「あいつはあんなふうに見えて色々考え事が絶えないからな」
アルミン「何かあった日は大抵男子寮の裏の丘に寄り道していくよ」
ミカサ「行ってみる」
ベルトルト「あ、待って。外は冷えるから、上着を着ていった方がいいと思うよ」
ミカサ「エレンは?」
ジャンに言いたいことがあるのではないだろうか
エレン「いや、俺は寮でちゃんと話すから、今はいい。これ、ジャンに持って行ってやってくれ」
ミカサ「わかった」
ジャンの外套を受け取り、私も自分のものを羽織って食堂を出る
お礼を言わなければいけない
ジャンがいるかもしれないという丘に走る
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- 44 : 2015/12/26(土) 21:54:45 :
- ジャン「…流石にそろそろここはキツいな」
いた
白い息をはきながら身を縮めている
ミカサ「ジャン」
ジャン「ミカサ!なんでここに…!」
ミカサ「マルコたちが教えてくれた」
ジャン「は!?あいつらここのこと知ってたのかよ…」
ミカサ「これを」
ジャン「あぁ、外套か。…ありがとな」
ミカサ「外套はエレンから。それにお礼を言うのは私の方。本当にありがとう」
ジャン「別に…お前らがあんなんじゃただでさえ不味い飯が更に不味くなっちまうだろ」
そう言うジャンの頬が赤らんでいるのは寒さのせいということにしておこう
ジャン「それより、エレンのとこに行かなくていいのかよ」
ミカサ「なぜ?」
ジャン「せっかく仲直りできたんだろ。少しくらい話してこいよ」
言われてみればそうだ
エレンが来てくれた後も、二人で話せる時間はあった
アニも多分気にしていない
なら何故私はそうしなかったのだろうか…
ミカサ「分からない」
ジャン「…ははっ、お前は自分のことなのに分からないことだらけだな」
呆れたようで、それでもどこか楽しげに笑った
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- 45 : 2015/12/27(日) 08:39:19 :
- ジャン「でも寒いだろ?風邪ひくぞ」
ミカサ「私はそんなに弱くない」
ジャン「今日はたくさん泣いたみたいだったけどな」
ミカサ「……。あなたはやっぱりもう少し大人になった方がいい」
恨みがましい…といってもいつもよりほんの少し目を細めただけだけれど
そんな目で睨んでみた
けれど笑われるだけで効果はないらしい
ので、私も少し意地悪をしてみようと思う
ミカサ「私は離れない。…私がここにいたいから」
ジャン「…!」
最後の部分を強調して言ってみた
目論見は成功した
ジャンが気恥ずかしげにそっぽを向いたから
少し気分がいい
もう少し楽しみたい
ミカサ「どうしたの?私はあなたに言われたことをそのまま返しただけ」
ジャン「お前も性格悪ぃな…」
ミカサ「誰彼構わず喧嘩をふっかける人よりはましだと思う」
ジャン「…仰るとおりで」
拗ねてしまった
ミカサ「意外と可愛いところもある」
ジャン「男に可愛いって言っても喜ばれねぇからな」
ミカサ「知っている」
ジャン「………」
これだから女は…だとか、手を出す相手を間違っただとか呟いている
ミカサ「フフッ…」
ジャン「!」
知らないうちに笑みがこぼれた
笑ったのは随分と久しくて、何故かとても懐かしかった
今までに同じような感情を抱いたことがあったろうか?
ミカサ「……思い出した」
ジャン「何をだ?」
そうだ
この懐かしくて暖かい感情は
ミカサ「エレンと話している時だった」
ジャン「?」
ミカサ「エレンと話している時も、今みたいに楽しかった。それを思い出した」
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- 46 : 2015/12/27(日) 17:59:15 :
- 思えば武器庫裏に来てくれた時も、ぶっきらぼうで優しい人だと思った
今までずっとエレンだけに抱いていた想い
ミカサ「いつの間にか、ジャンにも同じものを感じるようになった」
少しずつ、自分の気持ちが理解できる
ミカサ「もう一つわかったことがある」
ジャン「なんだ?」
ミカサ「私が何故エレンとの時間を使わなかったのか」
ジャン「へぇ…なんでだ?」
ミカサ「あの時私は何よりもまず…あなたと話したいと思った」
ジャン「はっ!?」
ミカサ「今までのお礼を伝えたかったし、こうして何でもないことを話したかった」
ジャン「……そんなこと言うな」
急に苦しそうな顔をする
悪いことを言ってしまったのだろうか
ミカサ「何故…?」
ジャン「何でもないようにしてるが…俺はお前への気持ちを忘れたわけじゃない」
ミカサ「…!」
ジャン「言っただろ、これからもずっとだって。だから…勘違いしちまうだろうが……」
私は何も考えていなかった
ジャンは誰よりも私のために気を遣って、自分の気持ちを隠してくれていた
私にはとてもそんなことできなかったのに
その優しさに甘んじて辛い思いをさせていた
だけど今なら…
-
- 47 : 2015/12/27(日) 20:37:24 :
- ミカサ「それは困る」
ジャン「すま…」
謝ろうとするジャンを遮って続ける
ミカサ「勘違いだと思われるのは、とても困る」
ジャン「…は?」
ミカサ「だってそれは……勘違いではないから」
ジャン「???」
うまく伝えられない
こんなとき、自分の語彙力が恨めしい
総合成績は上位なはずなのに…
ミカサ「ごめんなさい…上手く言えそうにない」
ジャン「ちょちょっ、ちょっと待てよ!」
赤面して舌を縺らせながら私に救いを求めるような目を向ける
ジャン「それはつまり…だから……」
ミカサ「何が言いたいの?」
ジャン「は!?こっちが聞きてぇよ!」
ミカサ「……こういうのはどうも苦手。ので、簡単に言おうと思う」
ジャン「お、おう…」
ミカサ「私は……あなたを好きになってしまった」
-
- 48 : 2015/12/27(日) 23:44:34 :
- ジャン「…………本気か?」
ミカサ「もちろん」
ジャン「友達とか仲間としてじゃなく?」
ミカサ「男性として」
ジャン「〜〜〜〜〜っ!」
ミカサ「ジャン?」
全身を震わせながら屈み込む
寒いのかもしれない
ミカサ「そろそろ中に…」
ジャン「ぃよっっっしゃあ!!!」
ミカサ「!?」
急に大声を出すから驚いた
ジャン「本当に俺でいいんだな!?」
ミカサ「あ、あなたが…いぃ……」
ジャンがあまりにも嬉しそうにするから、急に恥ずかしくなってきた
そうだ
よく考えれば、私は告白をした
ミカサ「………っ」
体温が急上昇していくのがわかる
…余計に恥ずかしい
キース「貴様ら、消灯時間はとっくに過ぎているが?」
二度あることは三度ある
私はまた、背後からの人影に気づけなかった
ジャン・ミカ「教官……」
その後こっぴどく絞られたのは言うまでもない
けれど、説教が終わったあと、二人でイタズラに笑顔を向け合ったのは悪くなかった
次の日、みんなが祝福してくれた
特に男子たちはジャンを囲んで、まるで自分の子供の結婚が決まった父親のようだった
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- 49 : 2015/12/28(月) 09:47:34 :
- ジャン「あいつら手加減なしで胴上げなんかしやがって…。昨日の夜もエレンが真面目くさってありがとうだぜ?こりゃ今夜は台風かもな」
教官の恫喝によって騒ぎは収まった
何とかみんなの目をかいくぐって二人きりだ
ミカサ「ジャンはみんなから愛されている」
ジャン「野郎に好かれてもな…」
ミカサ「心配しなくてもいい。私が誰よりもあなたを愛そう」
ジャン「!…ああ、俺もだ」
けど…と、俯いた
ミカサ「どうしたの?」
ジャン「本当にもういいのか?エレンのことは」
ミカサ「ええ、エレンとは、家族でいられればそれでいい。昨日泣いてしまった後、私は何よりも、エレンと家族でいたいと思った」
エレンに嫌われて、家族という繋がりを絶たれてしまうことが怖かった
ミカサ「エレンが家族だと言ってくれた時、とても安心した。それだけで満ち足りた」
ジャン「…そうか」
ミカサ「最初は確かにエレンのことが好きだった。けれど、家族でいられるだけでいいと思わせてくれたのは、ジャン、あなただから」
ジャン「俺は何もしてねぇよ」
ミカサ「そんなことはない。私を好きでいてくれてありがとう」
ジャン「こっちこそ、俺を好きになってくれてありがとう。…フッ、改めてよろしくな、ミカサ」
少し照れた後、砕けた笑顔で手を差し出した
ミカサ「ええ、こちらこそ」
その手を握り返す
初めて手を繋いだのが握手、なんてムードもへったくれもないけれど、きっと私たちにはこれが一番合っている
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- 50 : 2015/12/28(月) 10:51:26 :
- エレン「お前もっとそっちに寄れよ!」
ジャン「うっせぇな!てめぇの方が広く座ってんだろうが!」
エレン「なんだと!?」
ジャン「やんのか!?死に急ぎ!」
エレン「やってやるよ!この馬面が!」
アニ「あんたのとこも大変だね」
ミカサ「ええ、アニも苦労するだろう」
アニ「お互い…ね」
ミカサ「これが惚れた弱みとかいうものだろう」
きっと後悔はしない
ジャンなら、必ず私を幸せにしてくれるから
私もただ受け取るだけでいるつもりはない
今はまだ、先に待ち受ける過酷な運命も、数々の屍も、知らなくていい
〜END〜
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- 51 : 2015/12/28(月) 10:54:04 :
- 以上で終了になります
閲覧、コメント、お気に入りありがとうございましたm(_ _)m
執筆は終了しましたが、>>1のグループで意見を頂ければ改善していきたいと思いますのでよろしくお願いします
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