ソードアート・オンライン Another story -SAO-
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- 1 : 2015/08/24(月) 11:18:13 :
- -はじめに-
キリト「えー、はじめまして。ソードアート・オンライン主人公のキリトです。
この作品はソードアート・オンライン(SAO)が舞台となっています。
原作を読んでいる方も読んでいない方も楽しめるように物語を進めていきますので、応援よろしくお願いします。
さて、ここからが本題ですが、この作品は様々なアニメとコラボレーションをしていきます。『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の様な、バトルを主とした作品や『バカとテストと召喚獣』の様な面白可笑しい作品、また『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の様な恋愛物まで幅広く取り入れていきますので、どうか理解の方をよろしくお願いします」
アスナ「キリトくーーーん!」
キリト「あ、呼ばれたのでもう行きます。……………あ……、あなたの名前聞いてもいいですか?
へぇ、いい名前ですね。」
アスナ「キリト君ってばーーー!」
キリト「今行くよーー!
それじゃあ、またどこかで……。」
感想や雑談などはこちらで↓
http://www.ssnote.net/groups/1559/archives/3
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- 2 : 2015/08/24(月) 12:26:52 :
- -はじまり-
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- 3 : 2015/08/24(月) 12:26:58 :
- 無限の蒼穹(そうきゅう)に浮かぶ巨大な城。
その城の名は《アインクラッド》。
これがこの仮想世界の全てだ。
1万人限定に発売されたこの仮想世界は、
現実では決して見ることの出来ない"何か"があった。
そして、殆どのゲーマー達がその"何か"に魅入り、何も知らずにゲームを始めた。
《《《《《 Link Start 》》》》》
この仮想世界に閉じ込められる事も知らずに。
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- 4 : 2015/08/24(月) 12:27:25 :
キリト「戻ってきた、この世界に」
俺の名前は桐谷和人。
このSAOの世界ではキリトと言う名前で楽しんでいる。
周りを見渡すとβテストの時と何も変わらない街だった。
キリト「良かった。βテストと変わってない。ってことはあっちに行けば」
今の場所より少し西側に俺の仲間達がよく集まる広場がある。
俺はあの広場行くことにした。
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- 5 : 2015/08/24(月) 13:04:38 :
- ─
───
─────────
──────────────────
-広場-
いつもの広場へ行くと、俺の仲間達がいた。
キリト「おーい、ベル、ヘスティア!」
ベル「あ、キリトさん。お久しぶりです!」
ヘスティア「やぁやぁ、キリト君。君もボクとベル君の邪魔をするのかい?」
キリト「え?いえ、そんなつもりじゃ」
ベル・クラネルと神・ヘスティア。
2人ともβテストの時に一緒に戦った仲間だ。
ベル「それよりもキリトさーん。聞いてくださいよー!」
ヘスティア「それよりも!?ベル君はボクと一緒に居るのが嫌だと言うのかい!?」
ベル「そそそ、そんな事言ってないじゃないですが神様!」
また始まった。
ベルとヘスティアはいつもこんな夫婦漫才をしている。
へそを曲げたヘスティアをなだめるベル。
何故かこの光景は何度見ても飽きないんだよな。
ベル「それで話しなんですけどね?なんとレベルが24から1に戻ってしまったんですよ!またやり直しですよ!?なんでこうなっちゃうのかなぁ」
キリト「ベルのレベルも戻ったのか」
元々、βテストのレベルはβテスト内だけだと俺は知っている。
このゲームを買った時に既に聞いていたから。
けど、この2人は違う。
この2人は突然このゲームに取り込まれたんだ。
だから《Log Out》が出来ず、恐らくこの正式サービスが始まるまで、ずっとこの仮想世界で過ごしていたのだろう。
キリト「そう言えばあいつらは?」
ヘスティア「え?…ああ、あの兄妹はまだ見てないね」
ベル「……あの二人は今頃何をしているのでしょうか」
きっとあの2人はこのゲームを楽しんでいるんだろうな。
なんかウズウズしてきたな。
よし、今からモンスターでも倒してくるか。
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- 6 : 2015/09/23(水) 12:20:39 :
- -バンダナ男とあの兄妹-
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- 7 : 2015/09/23(水) 12:20:45 :
- 疼いた(うずいた)身体が抑えられず、俺はモンスターを狩るために街の外へと走っていた。
そんな時だった。
「おーい!そこの兄ちゃーん!」
キリト「お、俺?」
赤色のツンツンとした髪型とセンスを感じられない赤いバンダナを頭に巻いたプレイヤーに、話しかけられた。
「その迷いのない動きっぷり、あんたβテスト経験者だろ」
キリト「ま、まぁ」
「俺今日が初めてでさ、序盤のコツちょいとレクチャーしてくれよ!」
キリト「っ……」
かなり強引に来るバンダナ男。
遠慮がないっていうか何と言うか…。
確かに早く強くなりたいのなら経験者に聞くのが一番だ。
クライン「なぁ頼むよ俺クラインよろしくな」
キリト「俺はキリトだ」
結局、強引に進められてクラインというバンダナ男にレクチャーする事になった。
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- 8 : 2015/09/23(水) 12:21:22 :
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─────
───────────
──────────────────
-1層のとある草原-
クライン「ぬぉっ……とりゃっ……うひぇぇっ!」
奇妙な声と共に滅茶苦茶に振り回された剣先が、空気を切っている。
その直後、剣を回避してのけた青色のイノシシ《フレンジーボア》が、猛突進する。
クラインはまともに攻撃を受け、草原をころころと転がる。
キリト「ははは……、そうじゃないよ。重要なのは初動のモーションだ、クライン」
言われた本人であるクラインは、ちらりと俺を見ながら立ち上がり、情けない声を投げ返してきた。
クライン「んなこと言ったってよぉ、キリト……アイツ動きやがるしよぉ」
まだ、このバンダナ男のクラインとは会って数時間程度、仮に本名を教えあっていたらとても呼び捨てには出来ない。
しかしここは仮想世界だ。
このゲームのために用意されたキリト、クラインという名前に、「さん」や「くん」をつければむしろ滑稽だ。
キリト「動くのは当たり前だ、訓練用のカカシじゃないんだ。でも、しっかりとモーションを起こしてソードスキルを発動させれば、あとはシステムが技を命中させてくれるよ」
他の場所から来た《フレンジーボア》をソードスキルで鮮やかに切り倒してみせる。
その一部始終を見たクラインは呪文のように「モーション……モーション」と繰り返して呟くと右肩に剣を担ぐ。
規定モーションが検出され、ゆるく弧を描く刃がオレンジ色に輝く────────
「あ、キリト」
その瞬間、後ろから話しかけられた。
その声はβテストの時に何度も聞いた声で、とても愛らしい声だ。
顔を見なくても分かる。こいつは…いやこいつらは、俺の仲間の──────
キリト「久しぶりだな。空白(くうはく)」
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- 9 : 2015/09/23(水) 12:22:05 :
- -強制集合-
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- 10 : 2015/09/23(水) 12:22:10 :
- 「おう、久しぶりだな。二ヶ月ぶりか?キリトよ」
βテストの時からの仲間の2人で、ベル達と話してた"あの兄妹"の正体だ。
初めに俺の名前を呼んだのが白(しろ)。
今、言葉を発したのが空(そら)。
数少ない俺の理解者でもある。
キリト「そうだな。2ヶ月間はゲームの運営が止まっていたからなぁ」
そう、今日まで約2ヶ月間、このソードアート・オンラインは正式サービスに向けて、ゲームにログインが出来なかった。
その期間は俺達のようなゲーマーにとってはとても長いもので、正直昨日は楽しみで寝る事が出来なかった。
白「…キリトは……レベル、もどっ…た?」
キリト「ああ、お前達はこの2ヶ月間何をしてたんだ?」
ベル達には聞き忘れてたけど、正直どうなってたか気になるところだ。
この2人の行動もだけど、《アインクラッド》がどうなってたかも気になる。
空「ああ、それがな。適当にモンスター狩って遊んでたんだが…、急に地盤が揺れたり動いたりしたから、大半は街で過ごしてたな。なぁ?白」
白「にぃ…と、…遊んでた」
なるほどな……。
ベル達とは一緒に行動してなかったんだな。
一緒に行動してたと思ってたんだけどな。
あれ?……なんか1人忘れてるような…。
クライン「…………俺の初勝利を誰も見てくれないし、気にもとめてくれないとは…」
……………苦笑しか出来なかった。うん。
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- 11 : 2015/09/23(水) 12:22:39 :
- ─
───
───────
─────────────────
「せやぁ!」
「りゃぁ!」
「……ふっ」
あれから約2時間、ポップされる《フレンジーボア》を永遠に狩り続けていた。
キリト「さてと…そろそろ終わるか?」
クラインの目元がちらっと右方向に動く。
視界の端に表示される時刻を確認しているんだろう。
クライン「……そうだな、そろそろ一度落ちて、飯食わねぇとな。ピザの宅配、5時半に指定してっしな」
空「お、ピザか…羨ましい」
クライン「お前も頼めばいいだろ?」
白「……現実に…戻れ、ない」
せこいと言いたげな空と俯きながら話す白。
クライン「…戻れないだと?」
空「……ま、色々あんだよ。また今度説明するから取り敢えず現実に帰ったらどうだ?」
俯いている白の頭を撫でながら空は話す。
ああ…お兄ちゃんをしっかりしてるんだな。
……俺はスグに兄らしいことは何もしてないな…。
リンゴーン、リンゴーン
突然、鐘のような……警報音のような大ボリュームのサウンドが鳴り響いた。
「何だ!?」
「……にぃ、なにこれ」
「俺が知るかよ」
同時に叫ぶ俺達、軽いパニックを起こした俺達は目を見開きながら互いの姿を見る。
全員の身体を鮮やかなブルーの光が包み込む。
青い光の向こうで、草原の光景と仲間達の姿が薄れていく。
何があったのかわからない。
色々な事を考えたけど、どれも違う。
そんな事を考えた時、身体を包む光が強くなり、俺の視界を奪った。
青い輝きが無くなると同時に新しい風景が見えた。
広大な石畳。周囲を囲む街路樹と、中世風の町並み。そして正面遠くに、黒光りする巨大な宮殿。
間違いなく、ゲームのスタート地点である《はじまりの街》の中央広場だ。
周りに集まるプレイヤー達の数は、恐らく現在プレイしてる全員と言えた。
─────死のゲームの宣告はもうすぐだ。
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- 12 : 2015/09/26(土) 12:25:39 :
- -各々の道-
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- 13 : 2015/09/26(土) 12:25:44 :
- ざわめきが次第に苛立ちの色合いを増す。
喚き声や怒鳴り声が散発しだした時、それらの声を押しのけ、誰かが叫んだ。
「あっ……上を見ろ!」
この広場にいる全員が反射的に視線を上に向けた。そして、そこに浮かぶ異様なものを見た。
恐らく第2層の底となる場所を、真紅の市松模様が染めあがっいる。
広場のざわめきが少しずつ収まり、皆が耳に神経を送らせる。
その瞬間だった。
空を埋め尽くす真紅の中央から巨大な血液の雫の様なものが垂れ下がった。
そしてその真っ赤な一滴はその形を変えた。
出現したのは真紅のフード付きのローブを纏った(まとった)巨大な"モノ"の姿だった。
ここでのモノと言う言い方は間違えていない。
何故なら、フードの中にあるはずの顔がないからだ。
しかしあのローブには見覚えがある。
確かあれはβテストの時、GMが必ず纏っていた(まとっていた)衣装だ。
本来なら顔はしっかりあった…、しかし何故か今はない。
俺の身体に信号が走る…これは何かがあると。
そしてその予想は的中することになる。
顔のない何者かが口を開く、そしてその直後、低く落ち着いた、そしてよく通る男の声が聞こえた。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
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- 14 : 2015/09/26(土) 12:26:34 :
- "私の世界"?確かにあのローブの中身がゲームマスターならば、この世界の神の如き存在だが、今それを宣言してどうなるって言うんだ。
唖然(あぜん)とする俺達こ耳に続けて声が聞こえる。
『私の名前は茅場晶彦(かやば あきひこ)。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
「な………」
驚愕(きょうがく)のあまり、俺達は喉をつめらせる。
茅場晶彦(かやば あきひこ)。
その存在は俺達の様なゲーマーでは知らない者はいない。その理由は弱小ゲーム開発会社であったアーガスを、最大手と呼ばれるまでに成長させた本人だからだ。
その若き天才ゲームデザイナーから発せられた言葉は、理解し難いものだった。
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いてると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
キリト「クライン!確認してくれ!」
あのロープの正体。茅場晶彦(かやば あきひこ)が言葉を遮るように声を出す。
その声をきっかけに周りの数人も確認する奴がいた。
僅か数秒後、クラインの絶望が伝わる声が聞こえた。
クライン「…………無い……何処にもねぇよ」
俺達の動揺や絶望を気にもせず、滑らかな低音のアナウンスは続く。
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトをすることはできない』
待てよ…。
自発的には無理なら強制的になら出来るんじゃないのか!?
家族にナーヴギアを外して貰ったり、わざと死んだりすれば!!!
しかし、次の言葉により前者の淡い(あわい)願いは一瞬で吹き飛ばされてしまった。
『また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合───』
わずかに間があく。
誰も言葉を発することなく耳を傾ける、そんな重苦しい静寂(せいじゃく)の中、その言葉はゆっくりと発せられる。
『───ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
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- 15 : 2015/09/26(土) 12:27:03 :
- 脳を破壊するだと?
つまり、殺すと言いたいのか!?
そんなふざけた事があってもいいのか!?
クライン「はは……何言ってんだアイツ、頭おかしいんじゃねぇのか?んなこと出来る訳ねぇ。なぁ、そうだよなお前ら!」
乾いた笑いの混ざった声から始まる心の叫び声。その声は次第に枯れ、頼むからそう言ってくれという願いが込められていた。
しかし俺達はその願いに答えることは出来ない。
空「……ナーヴギアとか言うのを見たことも聞いたこともないからな、俺からは何も言えねぇ」
白「……にぃ、の……意見に…同意」
2人の肯定も否定も出来ないと言う言葉を聞き、クラインは俺を見る。その目には希望と言うのだろうか…いや、絶望から逃げ出したいと言う気持ちなのかも知れない。ただ、肯定して欲しいとそう訴えていた。
キリト「………原理的には可能だ」
しかし、嘘を伝えるわけにはいかない。
いくら残酷だろうと、本当の事を知る権利……いや、義務がコイツにはある。
『より具体的には、十分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回路切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み──以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通じて告知されている。ちなみに現時点でプレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果───』
軽めの一呼吸を入れるローブ。
『───残念ながら、既に203名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
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- 16 : 2015/09/26(土) 12:27:31 :
- 膝が笑いだし、体が小刻みに震える。
倒れないように体に力を入れる。
少し、あとほんの少しでも、体に入れる力がなければ倒れてしまいそうだ。
もし、この言葉が本当ならば既に200人以上の人が、このゲームのせいで死んでしまっていることになる。
信じたくない。嘘だと言って欲しい。
クライン「信じねぇ…信じねぇぞ俺は」
恐らく俺やクラインだけじゃない。
この広場にいる全員が同じことを思っているだろう。
クライン「ただの脅しだろ。できるわけねぇんだそんなこと。くだらねぇ事をグダグタ言ってねぇで、とっとと出しやがれってんだ。いつまでもこんなイベントに付き合ってられる程ヒマじゃねぇんだ。そうだ……イベントだろ全部。オープニングの演出なんだろ。そうだろ」
まるで自分に言い聞かせるように情けない声を放つクライン。
かくいう俺も、心の中では全く同じことを喚き続けていた。
しかし、俺達全プレイヤーの望みを薙ぎ払う(なぎはらう)が如く、茅場のアナウンスが再開される。
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要は無い。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることを含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険性は既に低くなってると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま2時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には安心してゲーム攻略に励んで欲しい』
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- 17 : 2015/09/26(土) 12:27:54 :
- キリト「な………」
そこでとうとう、俺の口から鋭い叫び声が迸った(ほとばしった)。
キリト「何を言ってるんだ!ゲームを攻略しろだと!?ログアウト不能の状況で、呑気(のんき)に遊べって言うのか!?」
空「落ち着け。まだ話しは終わってないだろキリトよ」
空が肩に置いた手を払いのけ、必死に訴えかける。
キリト「これが落ち着いていられるか!これをゲームだと言うんだぞ!?あいつは!」
そして巨大なローブを睨みつける。
しかし俺の叫びも届かず、当の本人である茅場は抑揚(よくよう)の薄い声で穏やかに告げる。
『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう1つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントが0になった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』
続く言葉をこの広場にいる全員が予測しただろう。
『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
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- 18 : 2015/09/26(土) 12:28:27 :
- 瞬間、崩れる人や叫ぶ人、泣きわめく人が多発した。
俺もその1人になりそうだったが必死にそれを抑えた。
だが、危険なフィールドにわざわざ出る必要はない。プレイヤー全員が安全な街区圏内に引き込もり続けるに決まってる。
しかし、俺の、あるいは全プレイヤーの思考を読み続けているかのように、次の託宣が降り注いだ。
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった1つ。先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第100層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
クライン「クリア……第100層だとぉ!?」
あまりにも信じ難いところで、あちらこちらから罵倒や叫び声が聞こえる。
クラインもその中の1人だった。
クライン「で、できるわきゃねぇだろうが!!βじゃろくに上れなかったって聞いたぞ!」
確かにその通りだった。選ばれた1000人+αのプレイヤーが参加したβテストでは、2ヶ月の期間でクリア出来たフロアはたった9層だったのだ。
今の正式サービスには約10000人がダイブしているはずだが、いったいこの人数でどれだけの時間がかかるのだろうか。
そんな答えが出せない疑問を、恐らくこの広場にいるプレイヤー全員が考えただろう。
ただ、まだこの状況を理解出来てない人もいるだろう。
この状況が"本物の危機"なのか"オープニングイベントの過剰演出"なのか、きっと後者であって欲しいという願いが、考える脳を鈍らせるのだ。
俺達はベルやヘスティア、空や白の様にログアウトする事が出来ない。
現実世界の自分の生活をする事を可能にする為には、いつか誰かがこの浮遊城のてっぺんにいるラスボスを倒さなければならない。
そして、それまでに1度でもHPが無くなれば───俺は死ぬことになる。
ゲームの死のみならず本物の死が訪れ、俺という人間は永久に消えることになる。
しかしまだ、まだそれらの情報を鵜呑み(うのみ)にする事は出来なかった。
俺は数時間前まで母親の作ったご飯を食べ、妹と短い言葉を交わした。
あの場所に戻れない……それが果たして現実なのだろうか?
ここにいる各プレイヤーも同じ事を考えていると思う。
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- 19 : 2015/09/26(土) 12:29:06 :
- その時、やはりプレイヤーの思考を先回りし続けるローブが、一切の感情を込めず冷淡(れいたん)な声で告げた。
『それでは最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認さてくれ給え(たまえ)』
それを聞き、半自動的に右手の指2本が動き、メインメニューのアイテム欄(らん)を開く。
まだ数の少ないアイテムの所持リストの一番上に"それ"は表示していた。
"それ"のアイテム名は《手鏡》。
またしても自動的に手が伸びる。
そして俺はその名前を確かにタップし、オブジェクト化のボタンを選択。
そして"それ"は目の前に現れる。
おそるおそる手に取ってみるが何も起こらない。鏡を実用化し覗いて見ても、見えるのは自分で造り上げたアバターだけだ。
その時突然、周りのプレイヤーのアバターを白い光が包む。
そしてその直後、俺もその白い光に包まれ、視界が真っ白になった。
ほんの数秒で白い光は消えた。
そこで目の前に現れた風景には、先程までとは違うものがあった。
キリト「お前……だれ?」
クライン「おい……誰だよおめぇ」
空「……誰だこいつら?」
白「……にぃ」
その瞬間、俺はある種の予感に打たれ、同時に茅場のプレゼント、《手鏡》の意味を悟った。
クライン達の反応を受け、自分の顔に異変が起こっていることがわかった俺は、食い入るように鏡を覗きこんだ。
そこに映し出されるはずのゲーム上の顔は無く、大人しいスタイルの、黒い髪。長めの前髪の下の柔弱(にゅうじゃく)そうな両眼。この顔は間違いなく、現実世界の生身の容姿そのものだった。
キリト「うおっ……俺じゃん……」
隣で同じく鏡を覗いていたクラインが仰け反った(のけぞった)。
そして、俺達は顔を見合わせ声を放つ。
クライン「おめぇがキリトか!?」
キリト「お前がクラインか!?」
白「……これが、キリトの……本当の、顔?」
空「そうみたいだな」
改めて周りを見渡すと、そこに存在しているのはファンタジーゲームのキャラクターめいた美男美女の群れではなくなかった。
変わっているのは顔だけではない。声や身長、性別まで変わっているものすらいるのだ。
-
- 20 : 2015/09/26(土) 12:29:38 :
- いったいどうしてこんな事が起きているのか、確かにこの姿も偽物といえば偽物だ。所詮ゲーム内で作られたポリゴンだし、所々に気にならない程度の違和感を感じる。
しかしこの再現度には驚かされる。まるで立体スキャン装置をかけたかのようだ。
クライン「………キャリーブレーション」
ボソッと呟くようにクラインが声を出す。
キリト「……そうか、そういう事か」
俺とクラインは一瞬にして状況を把握した。
つまりはキャリーブレーションという名で、身体中を自分で触ったことにより、自分のリアルの体格や輪郭など、体の全てをデータ化をした。
こういうことなんだろう。
そして、全プレイヤーのアバターを現実の姿そのものにした意図も、明らかになった。
キリト「……現実」
俺はポツリと呟いた。
突然だったからだろう、クライン達の頭には?マークがついている。
キリト「あいつはさっきそう言ったんだ。これは現実だと。」
そこで空は理解出来たんだろう。
俺の言葉に続き発言をしたのだから。
空「………その現実世界の姿を現したのは、つまりこの世界が現実ってことか」
クライン「でも……でもよぉ」
ガリガリと頭を掻き(かき)、バンダナの下の目を光らせ、クラインは叫んだ。
クライン「なんでだ!?そもそも、なんでこんな事を!?」
俺と空はその事には答えない。
その代わりに、白が指先で上を指した。
白「……あれ、が…直ぐに答える……はず」
-
- 21 : 2015/09/26(土) 12:30:06 :
- 茅場はその予想を裏切らなかった。
暫く声を出していなかったローブから、また声が放たれた。
『諸君は今、"なぜ"と思っているだろう。なぜ私は──SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦(かやば あきひこ)はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』
そこで初めて、茅場の声に感情というなの色を帯びた。そして俺はふと、場違いにも《憧憬》(しょうけい)というような言葉を思い浮かべてしまった。そんなはずはないのに。
『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し鑑賞するためにのみ、私はナーヴギアを、そしてSAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
短い間に続けて、無感情を取り戻した茅場の声が響いた。
『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』
最後の一言が僅かな残響(ざんきょう)を引き、消えた。
そしてその瞬間、約10000のプレイヤー達がいっせいに反応を見せる。
それは悲鳴、怒号、絶叫、罵声、懇願、そして咆哮。
そんな絶望だけを共有した集団が混乱してる中、俺はクライン達を呼び広場の外に出た。
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- 22 : 2015/10/04(日) 12:50:56 :
- ─
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───────
─────────────────
-とある路地裏-
キリト「お前ら、聞いてくれ。俺はすぐにこの街を出て次の村に向かおうと思う。……お前らはどうする」
半分呆けて(ほうけて)いるクライン達に、低く押し殺した声で続ける。
キリト「あいつの言葉が全て本当なら、これからこの世界で生き残っていくためには、ひたすら自分を強化しなきゃならない。お前らも重々承知だろうけど、MMORPGってのはプレイヤー同士のリソースの奪い合いだ。システムが供給する限られた金とアイテムと経験値を、より多く獲得した奴だけが強くなれる。………この《はじまりの街》周辺のフィールドは、同じ事を考えるプレイヤーに狩り尽くされて、すぐに枯渇(こかつ)するだろう。モンスターのリポップをひたすら探し回るはめになる。今の内に次の村を拠点にした方がいい」
俺にしては随分長ったらしく話した。
だが、大切な事だから、言わなくてはならない事だと言える。
空「………俺は白と2人で行動する。キリトの言ったとおりだからな、人が多過ぎても強くなれない。今の現状では2人がベストだろうな」
白「……クライン、は……キリトと、行動した方が、いい」
長い間を空け、クラインは顔を歪めながら声をしぼる。
クライン「でも………でもよ。俺には…ダチがいるんだ。このゲームもそいつらと徹夜で並んで買ったんだ。……そいつらもきっとログインして、さっきの広場にいるはずだ。置いて……いけねぇ……」
俺は息を詰め、唇を噛んだ。
クラインは陽気で人好きのする、恐らく面倒見もいいのだろう、だからこんな状況でも友達全員を連れていくことを望んでいる。
だが…俺はどうしても頷くことが出来ない。
クラインだけならレベル1でも、なんとか守りつつ次の村までいける自信がある。
しかしあと1人増えたらどうなるのだろうか…。2人同時に危険な目にあっていたらどうなるのだろうか…。
仮にそれで死者が出て、茅場の宣告どおり脳を焼かれ、現実でも死んだ時に俺は責任を取らなくてはならないだろう。
そんな途轍(とてつ)もない重みを背負うなんて俺には出来ない。
この時間でクラインは俺の考えを読み取ったんだろう。少しこわばった頬に無理やり笑みを浮かばせ、ゆっくりと首を左右に降ってみせた。
クライン「いや……、おめぇにこれ以上世話んなる訳にゃいかねぇよな。俺だって前のゲームじゃギルドの頭はってたんだしよ。大丈夫、今まで教わったテクで何とかしてみせら」
黙り込んで数秒間してからもう一度クラインが口を開いた。
クライン「よしっ、俺はもう行くぜ。仲間達が待ってるからな。死ぬなよ?お前らさんよ」
俺達は頷き、三者三様の言葉をクラインに向ける。
それから数秒後、クラインの姿はそこには無くなった。
空「俺達ももう行く。キリトよ、あいつらにあったらよろしく頼む」
白「……にぃ、が…私以外に優しい…、珍しい」
キリト「気をつけろよ。あと、お前らもあいつらにあったら守ってやってくれ。」
「「「またな(ね)」」」
俺と空達はここで互いに背を向け、次の活動領域へと向かった。
しばらく時間が経ち、後ろに振り向いて見ると、もう2人の姿は無い。
左右に曲がりくねる細い路地を突っ走り、始まりの街の北西ゲートに着いた。
広大な草原と深い森を越えた先にある村に辿り着くため、いや、その先も続く、長い長い旅に向けて、俺は必死に走り出した。
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