このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
苗木「あの花の咲く時」
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- 1 : 2015/08/09(日) 21:58:56 :
- 夏のコトダ祭り
前回の風邪不治さん主催の春のコトダ祭りに続き、Deさん主催の夏のコトダ祭りの企画に参加させていただくことになりました。
よろしくお願いします!
ジャンル:ホラー
テーマ:家族
主要キャラ:江ノ島、苗木誠、響子さん
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- 2 : 2015/08/09(日) 22:00:27 :
- カーテンの閉じられた、暗い部屋。
西に位置する部屋は最も熱が篭りやすいため、窓も締め切っているせいか、サウナのようだった。
か細い声を響かせながら、啜り泣く声が聞こえる。
彼女は、自室の明かりをつけずに、布団に包まって震えていた。
両手で自分の腕を抱き、顔を枕にうずめていた。
汗をダラダラと流しているが、顔は病人の様に真っ青だ。
下着がベタついてるのも気にならないのか、布団に包まり続けている。
携帯に通知が着た。
机の近くに置いて充電器にさしてある。
画面には、未開封の通知が何百件も溜まっていた。
彼女はそれを開くことはしない。
部屋の外から足音が聞こえる。
床を踏み、板が軋む音が近づいてきた。
一歩、また一歩と。
彼女は耳を塞ぎ、イヤイヤと小声で呟く。
肩を大きく上下に動かし呼吸をする。
汗が垂れて、布団に染みを作る。
暗いが、視界がいつもより鮮明に感じた。
扉が、ドンドン、と大きな音を立てて叩かれた。
ドアが壊れるかと思うくらい大きな音で。
とても、長い間音が響いてるように感じた。
ふいに、扉を叩く音が止んだ。
ゆっくり、音を立ててて扉が開かれる。
充血した目が彼女を見た。
暗い部屋で、そいつの青白い肌がよく目立った。
手に持った包丁を隠さずに近づいてくる。
「やめて…来ないで…。」
振り上げられた包丁は、ゆっくりと彼女に降ろされた。
人一人が倒れた大きな音がした。
「アンタが悪いんだ…仕方ないよ。」
重いものを引き摺る音がその場に響く。
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- 3 : 2015/08/09(日) 22:02:03 :
- 屋台が並び、食欲をそそる香りが鼻腔を刺激する。通りは、楽しげな雑踏に賑わう。
神社の鳥居の前で、若い女性が待ち人を探すように首を動かしていた。
紫がかった銀髪を高い位置で纏め、三つ編みでくるりと巻いている。
暗めの藍色の布地に濃い桃色の花が描かれ、金糸の織り込まれた帯の浴衣。
彼女の白い肌によく似合っていた。
何者かが背後から近づき、わっ、と大きな声を彼女にかける。
「っ!…あら、苗木君。」
霧切は、落ち着いた様子で言葉をかける。
苗木は少し不満そうに、だが頬を緩めながら。
「霧切さん、待った?」
「いいえ、待ってないわ。浮かれて早く来過ぎたくらいだから、もっと待つものかと思ったけれど。」
苗木は顔を赤らめながら、言葉を返した。
「楽しみにしてくれてたんだ…。あ、霧切さん、浴衣凄く似合ってるよ。綺麗だね。」
霧切は、手を口元にやり、ありがとう、と一言返した。
苗木は、左手を差し出し微笑む。
「屋台、回ろうか。」
霧切は苗木の左手に右手を重ねた。
「りんご飴、食べてみたいわ。」
霧切は微笑みながらそう返す。
雑踏の中を、手を繋ぎながら二人は歩いた。
「そういえば苗木君、甚平だなんて風流ね。」
苗木は照れたように、頭の後ろに手をやった。
「霧切さんが浴衣で来るって聞いたから、合わせてみたんだけど…。ちょっと、張り切り過ぎちゃったかな。」
あはは、と小さな声を出して笑う。
「張り切ってくれたのなら嬉しいわ。似合ってるわよ、ありがとう。」
苗木は、霧切から目を逸らして屋台を指差す。
「り、りんご飴!あったよ!ほら、あ、買ってくるね。」
苗木はそこの階段で座っているように言い、りんご飴の屋台まで駆けて行った。
霧切は、人混みに消えて行った苗木に名残り惜しげな視線を送る。
繋いでいた手を暫く彷徨わせた後、霧切は階段の方へゆっくりと歩いて行った。
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- 4 : 2015/08/09(日) 22:08:12 :
- 巾着からハンカチを取り出し、噴き出る汗を拭った。
霧切は階段の上に座り、冷たく固い石に触れる。
夏風が、冷たい風を連れてきた。
楽し気に賑わう音が、少し遠くに感じる。
肘を膝の上に乗せ、頬杖をついた。
そうやって色鮮やかな祭りの風景を見ていると、ふと、水色の着物が目に入る。
その着物を着た人物は、若く、化粧をしており、濃い目をしていた。
元々大きな目が更に強調されていて。
その着物を着た女性は、見覚えのある中年男性の腕に抱きつき、人混みへまた沈んでいく。
体が、重い石の様に動かない。
夜鳴きの蝉の鳴き声が、頭に強く響いた。
不意に、首筋に冷たい物があたる。
霧切は咄嗟に立ち上がり後ろを向く。
「そんなに驚かないでよ、霧切さん!」
霧切のあまりの驚き様に、驚かした人物も驚いたのか両手を前に突き出した。
その手にはりんご飴と、缶のジュースが二つあった。
その姿を見ると、なぜだか緊張した心も解れてしまって。
「うふふ、ごめんなさいね。…少し、考えごとをしていたの。」
「こっちこそごめんね…でも、霧切さんのあんなに驚く姿が見られるなんて、少し得した気分だな。」
霧切は苗木から目を逸らし、言葉を返す。
「やめてよ、恥ずかしいわ。さっさと忘れて頂戴。」
苗木は霧切の近くに寄り、目を見て微笑む。
「そろそろ花火が上がるんだ、あっちの方に穴場を見つけたから一緒に行こうよ。」
あの水色の着物を、私は見たことがあった。
確か、それは写真で。
いつか、お祖父様に聞いたことがある。
私のお母様はどんな人だったか、と。
「水色の着物がよく似合う人だった。」
納屋からアルバムを取り出してもらい、母の着物姿を見せてもらった。
笑うことに慣れていなさそうな霧切の母親の、珍しく綺麗にとれた笑顔の一枚らしい。
水色の布地に、桃色がかった白い花が描かれていた可愛らしい浴衣。
彼女の為に作られたものからだろうか。
母の為に父が特注で頼んだ浴衣。
その笑顔に、水色の着物はよく映えていた。
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- 5 : 2015/08/09(日) 22:10:19 :
- 始まりましたか!期待しています!
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- 6 : 2015/08/10(月) 01:02:52 :
- この日をどれだけ待ったか!
期待です!
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- 7 : 2015/08/10(月) 14:36:06 :
- 苗木は手すりに腕をのせた。
夜空に大輪の花を咲かせ、遅れて音がやってくる。
その花火を見ながら苗木は、ふと、思いついたかの様に霧切に問いかけた。
「ねぇ、霧切さん。もし、もしもだよ、僕たちが結婚するとしたら、呼び合う名前も変わったりするのかな。」
少しの沈黙の後に、霧切は言葉を返す。
「例えばどんな風に?」
「響子さん、とか。」
霧切は頬を赤らめ、苗木から目を逸らした。
「苗木君のクセに…生意気ね。」
苗木は霧切の顔を覗き込む様にした。
「霧切さんは、なんて呼んでくれる?」
霧切は苗木のいる場所の反対を向いた。
「ねぇ、霧切さんてば。」
「誠くん、そう呼んであげるわ。」
苗木は顔を緩め、満足そうな顔をして霧切を見る。
「嬉しいな、響子さん。」
「ちょっと、やめてよ恥ずかしい。」
「結婚したら、そう呼んでもいいよね。」
「気が早いわよ。」
苗木は左手の小指を立てて、霧切に向ける。
「約束しよっか。」
「結婚なんて…私はするつもりないわ。」
「…なら、今から呼び合おうよ、響子さん。」
霧切は、ひとつ、息を吐くと、
「…約束、するわよ。」
「本当?嬉しいな。」
霧切はしぶしぶといった様子で右手の小指を差し出した。
花火が終わり、騒がしく盛り上がっていた祭りも落ち着きを見せる。
まばらに落ちているゴミを何度か踏みながら、二人は歩いていた。
「あれ?霧切さん、ネックレス…着けてたよね?」
霧切は左手を首元にあてた。
ある筈の感触がなかったのか、霧切は訝しげに眉を寄せる。
「何処かで落としたのかしら…。」
「探してこようか、階段の辺りかな。」
「一緒に行くわ、付き合って頂戴。」
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- 9 : 2015/08/10(月) 22:23:02 :
階段の近くの草むらに素手で手を入れ首飾りを探す。
バッタが跳んで、顔に当たった所を手で払い、鬱陶しそうにした。
「ごめんなさいね、苗木君。手伝わせちゃって。」
苗木は右腕で額の汗をぬぐい、大丈夫だよ、と返し捜索を続ける。
「もう、大丈夫よ…諦めるわ。時間も遅いし…探してくれてありがとう。」
霧切は顔に近づいた羽虫を手で払う。
苗木は不満気に顔を俯かせる。
「大丈夫よ…どうせ安物だし、また今度苗木君が買ってくれたらいいわ。」
霧切は、そう苗木に笑いかけ立ち上がる。
蝉の鳴き声が止み、静まり返ったその場で耳鳴りがした。
「霧切さん、今何か聞こえなかった?」
苗木は、霧切の身を案じるかのようにそう問いかけた。
霧切は顎を手にあて、考える仕草をする。
女声の耳をつんざく様な悲鳴が、霧切の耳にも届いていた。
まるで何かに怯えるような。
苗木は笑いながら、自分を落ち着かせる様に口を動かした。
「映画でも撮影してるのかな…。」
苗木は頬を掻きながらそう呟く。
「ほら確か…近くの高校に映画制作部ってあったよね。だからそこがホラー映画でも撮影してるのかなって。」
霧切は思案気に顔を俯かせると、
「いいえ、それは違うわ。自主映画でホラーを撮るのは難しいのよ。」
そう答えながら悲鳴の聞こえた方向を向く。
風が強く吹き、その場の空気が冷えた。
「まず、場所を借りるのが難しいわ。自分の敷地でホラーなんて撮られたら、その場所の印象が悪くなるでしょう?」
神社付近なら尚更、地元からの評判が悪くなっては廃れてしまう。
「それに、事故も起きやすいわ。そういった心霊スポットでは危ない場所が多いから。」
辺りの静けさが、妙な胸騒ぎを起こさせる。
「行ってみようか、人がいるかもしれない。」
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- 10 : 2015/08/15(土) 12:16:20 :
派手めな女性が、中年男性の腕に抱きついた。
「やっほー!学園長、本当に来てくれたんだ!」
霧切は呆れた笑みを顔に浮かべながら呟く。
「飽きやすい君の事だから、来ないかと思ったよ。」
江ノ島は悪びれる様子もなく笑顔を見せる。
「やっと取り付けた学園長とのデートだよ?すっぽかす訳ないじゃん!」
上目遣いで霧切を見ながら、
「遅れたのは悪かったって、謝るからさ、さ、行こ!」
霧切は小さく溜め息をついた。
浴衣を着た子ども達のはしゃぐ声が聞こえる。
「似合ってるよ、その浴衣。着てくれたんだね。」
「でしょでしょ?ちょー似合ってるっしょ。学園長意外にイイ趣味してんだね、さっすがー。」
江ノ島はその場で、浴衣を見せびらかす様にくるりと回り、笑顔を見せる。
「超高校級のギャルの君の事だ、他にも浴衣は持っていただろう。私が贈ったものを選んでくれて嬉しいよ。」
「だってカワイイじゃん!水色に花柄、どう?かわいい?学園長。」
普段と違い、低い位置で緩めに束ねた髪を風に吹かれながら首を傾げる。
「可愛いよ、流石超高校級のギャルだ。」
江ノ島は頬を膨らませ、霧切から目を逸らした。
「そうじゃなくってさ…。」
霧切は頭の後ろに片手をやる。どうしようか、と言った風に息を吐くと、
「あと、今は学園長と呼ぶのはやめてくれないかな。」
江ノ島は表情を笑顔に戻し、それなら…と呟きながら思案げに眉を寄せる。
「仁さんて呼んだげるよ。…だったらさ、アタシの事も盾子って呼んでよ!」
霧切は江ノ島と視線を合わせた後、諦めた様に息を吐いた。
「盾子、晩飯は食べたか?今日は奢るよ。」
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- 11 : 2015/08/15(土) 13:49:49 :
- 草むらをかき分けて、苗木と霧切は歩いた。
青々と繁る草は強く、1度踏んだぐらいではすぐに立ち上がってくる。
妙にハエが多く、耳元で鳴る羽音が不快だ。
「苗木君、見つけたわ。」
脂の焼けた嫌な臭いがした。
見ると、そこには小さな祠があった。
ボロく、蜘蛛の巣がはっている。
ただそれだけ、それだけの一見なんの変哲もない祠。
気になることと言えば、その下にハエが集まっているだけ。
「ねぇ、霧切さん…」
霧切は顔をしかめ、口元を手で隠していた。
まだ何かあるのだろうか。
苗木は祠に近づいた。
脂の焼けた臭いはそこから来ていることがわかった。
そこにあったのは、水色の浴衣姿の女の中途半端に焼けた死体だった。
綿あめを食べながら、江ノ島と霧切仁は歩いていた。
はぐれない様にと手を繋ぎ、端から見ればカップルの様に見えたかもしれない。
大きな音が鳴り、空気を揺らした。
「ねぇ、仁さん。花火やってるみたいだよ、見にいこっか。」
「そうだな…。」
江ノ島は人混みを指差し言う。
「あっちの方に人が多いよ、見やすいのかな。」
繋いでいる手に、指と指を絡ませ人混みに二人は向かった。
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- 12 : 2015/08/15(土) 15:58:55 :
- 「うわあああああああああああああああっ!!!」
肉の焼けた不快な臭いが辺りに立ち込めていた。
綺麗だった筈の水色の浴衣は無惨にも焼け焦げ、肌の焼けた部分からは赤黒い汁が出ていた。
「大丈夫?苗木君。」
立ち上がろうとするが、腰が抜けて上手く力が入らない。
手の甲にハエが止まった。
「ねぇ、戻ろうか。こんなの僕たちの手に負えないよ。」
やっとの思いで立ち上がり、霧切の腕を掴む。
「あら、私は大丈夫よ。慣れてるから。」
そう言うと、霧切は焼死体に近づき、しゃがんで浴衣を調べ始めた。
自分と霧切との決定的な違いが見せつけられているようだった。
住む世界、してきた努力、持ち合わせた能力、そして天性の才能。
苗木は拳を強く握った。
「だとしても、許可もなく勝手に触ったら…駄目なんじゃないかな。」
「大丈夫よ、バレはしないわ。」
そう言うと、霧切はどうしても気になることがあるからと死体を調べ始めた。
口もとを手で覆い、祠と霧切に背を向けた。
「ごめんね、気分が悪いから少し階段まで戻ってるよ。」
大輪の花火が夜空に咲き、暗い夜を彩っていた。
人が多いから、霧切に密着して歩く。
歩きにくいのは否めないが。
「花火って憧れるよねー、仁さんもそう思わない?」
「ああ、あんな風にパッと咲いて散りたいものだな。」
「そうそう、周りから存在を認められ、称賛され、華やいだ人生。まるで希望ヶ峰の卒業生達?まあ、そいつらは花火みたいに短い人生じゃないけどね。」
霧切は手に持った缶の緑茶を飲み、一息つく。
「例え短い人生でも、輝くことができればいいんじゃないかな。」
「それならもう、うちの高校の生徒は既に咲いてる気がするけどね。」
江ノ島は袋から綿あめを取り出し、口に含んだ。
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- 13 : 2015/08/15(土) 19:26:02 :
- 霧切は江ノ島をチラリと見ると、また緑茶を飲む。
「戦刃くんとは、上手くやっているのか?」
目だけを霧切に向け、江ノ島は息を短く吐いた。
「仲良くはやってるよー、唯一残った肉親だし。」
綿菓子を口で溶かしながら、霧切の問いを返す。
小学校の頃に離れ離れになった双子の姉。
最近になって、日本に戻ってきた。
それが傭兵をしていたと言うのだから意味がわからない。
名前も変え、タトゥーまで入れた彼女をそのまま受け入れられるかと言ったら、そんなわけがない。
肉親の証明である筈の名字が変わり、姉妹の間には多少の溝は感じ取れた。
「仁さんこそさ、娘さんとどうなの?親子で同じ学校てどんな感じなの?」
「まあ…うちは複雑だからね…。」
「こっちだって複雑だって!アタシに話させといてひどくない?」
「ははっ…すまないね。」
霧切は、飲み終えた緑茶の缶を地面に置いた。
花火も終盤にかかり、人の数も減っていた。
「じゃあ…これで満足してくれたかな。」
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- 14 : 2015/08/16(日) 11:49:05 :
- 時が止まったように感じた。
霧切の姿、言葉、それを確認する器官以外が麻痺している。
「盾子が、今まで私に対して行っていたものは、目を瞑ることができる。だが、もう限界だ。」
霧切は右手で目元を覆い、下を向いた。
白髪の少し混じった髪、小じわが目立つ彼の顔。
疲労し切った彼の姿そこにあった。
「…あ、仕事で疲れてるのね。そんな時に来てくれてありがとう。」
「…そうじゃないことは君もわかってるんじゃないか。」
江ノ島は小首を傾げ、思案気に俯く。
「何度も何度もかけてくる電話、何通ものメール、部屋に侵入した跡…もうたくさんだ。」
霧切が項垂れ、哀愁漂わせる雰囲気に江ノ島の気分を高揚させる。
「でも、許してくれるんだよね?水に流して、なかったことにして…」
「だからといって消えるわけではないよ。君が戦刃くんと仲良くしてるのだって、血の繋がりがあったからだろう。」
「それとこれとは別だよね?それだったらさ、娘とはどうなのさ。」
「できれば、仲良くしたいと思ってるよ。」
左手で右腕を引っ掻く。
「できればって…あっちにはその気ないよ。だからさ」
青い顔をしながら、頼りない立ち姿で霧切に顔を向ける。
「生徒である君に、こんなことを言うのも悪いが…暫く距離を置いてくれないだろうか。」
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- 15 : 2015/08/16(日) 16:32:49 :
- 階段に座り、下を向いて深呼吸をした。
頭の奥から酸っぱいものが出てくるみたいだ。
せり上がってくる嘔吐感に耐え、目を瞑る。
暫くそうしていると、土を踏む音が聞こえて来た。
苗木は薄目で音のする方を向いた。
「苗木じゃん!あれ?1人なの?ぼっちで祭りとか、さっびしー。」
江ノ島は浴衣を揺らしながら、小走りに苗木のもとに駆け寄ってくる。
「1人じゃないよ、さっきまで友達と一緒だったんだ。落し物しちゃったみたいでさ、皆は先に帰ったよ。」
江ノ島は苗木の隣に座ると、髪先を弄り始めた。
「何落としたの?」
「藍色のハンカチ。」
「見つかった?」
「見つからなかった。」
「なにそれ、もう明日また探せば?」
「そうしよっかな…。」
江ノ島は立ち上がり、指を絡ませて伸びをした。
微笑みながら振り返り、彼女は呟いた。
「ねぇ、もう遅いし家泊まってかない?」
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- 16 : 2015/08/16(日) 19:50:24 :
- 女子高生の暮らす部屋とは思えない程の簡素な部屋だった。
白い壁、フローリング、無地のカーテン。
江ノ島は巾着をソファーに投げ置き、テレビを点けた。
「ごめんねー、引っ越したばっかだからさ、まだ家具とか地味なまんまでしょ。」
冷蔵庫から麦茶を取り出し、ガラスのコップに注ぎ渡した。
苗木は感謝の言葉を述べると、一口飲んで椅子に座る。
「それ飲んだらシャワー浴びて来なよ。暑かったしベタベタでしょ。」
「ありがとう、ボクが先でいいの?」
「いーのいーの、アタシ出るまでテレビ観てるからー。」
江ノ島はソファに座り、麦茶を口に含んだ。
「ほら、観てよ。舞園出てるよ。」
「本当だ、こんな日までお仕事なんて大変だよね。江ノ島さんは今日は休みでよかったね。」
「まあねー。てゆーかさ苗木、さん付けだなんて他人行儀な呼び方やめてよ。」
苗木は江ノ島の隣に座り、肩に腕を回す。
「盾子、クーラー着けようよ。」
江ノ島はコップで苗木の額を叩き、また麦茶を口に含んだ。
「馴れ馴れしい、名字で呼べ。あと節約してるからクーラーは点けないの。残念だったね。」
苗木は不満気に口を尖らした。
「テレビは点けてるのに?」
「アタシは芸能人だから必要なの。汗臭い、早く風呂入ってきてよ。」
江ノ島は手の甲を上に、しっしと手を振るとまた麦茶を一口飲んだ。
「じゃあ先入るね、タオル何処にある?」
「洗面台の下にあるよ。」
苗木は立ち上がり、リビングから出ようと数歩歩いた。
「そういえばさ、江ノ島って戦刃さんと一緒に住んでなかった?」
江ノ島は空になったコップを置き、テレビから目を離さずに答えた。
「今日はいないよ。自衛隊と訓練かなんかやるんだって。」
「そうなんだ、なら二人きりだね。」
「早く入ってきてよ、私が入れないでしょ。」
苗木は渋々といった様子でバスルームへ向かった。
江ノ島は巾着から錠剤を取り出し、口に含み、音を立てて噛み麦茶で流し込んだ。
テレビ画面の上の方に、白い文字でテロップがうつされた。
上半身を乗り出してその文を見たが、危惧していた文ではなかったようで、深く息を吐き、麦茶を一気にあおった。
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- 17 : 2015/08/17(月) 09:10:53 :
- 霧切は階段の下に戻り風に当たっていた。
だがそこにいる筈の人物が見当たらない。
心配になり、携帯を開いたら、SNSの通知に先に帰ると連絡が着ていた。
彼には悪いことをしたな、怒ってないだろうか。
霧切は110番をし、焼死体のことを通報した。
伸びをし、帰ろうとした時、
「響子…お前来てたのか。」
霧切仁がくたびれたスーツ姿で、霧切響子を見て目を丸くしていた姿がそこにあった。
霧切仁は服装を整え、響子に向き直る。
「こんな時間に仕事か?」
無理矢理貼り付けた様な笑顔を作り、響子に話しかける。
「祭りにいたわ、仕事じゃない。あと、響子だなんて呼び方はやめて。」
夏風が風鈴の音を連れてきた。
仁は困った様な笑みを浮かべると、
「相談があるんだ、聞いてくれないか。」
響子は髪を払い、靡かせる。
「いいわ、私もあなたに聞きたいことがあったの。さっき見た死体のことで。」
苗木は髪をタオルでわしわしと拭きながら、リビングまで戻った。
素足でフローリングを歩いた為、冷たい床の感覚の後に床に足跡がついた。
「江ノ島ー、お風呂出たよ。」
「りょーかい、じゃそこで漫画でも読んでてよ。テレビは観ないでね。」
「わかった。」
「ねぇ、苗木。」
江ノ島は苗木に後ろから抱きつき、耳元で囁いた。
「まだ霧切と付き合ってんの?」
苗木の表情は、江ノ島からは見えない。
暫しの沈黙の後、
「うん、付き合ってるよ。」
そんな言葉が聞こえた。
「いつ…別れてくれるの。」
「彼女の気持ちが落ち着いたら、話を切り出そうと思ってるよ。今は、誰かがついてないと壊れそうで。」
江ノ島は苗木に肌を寄せる。
「本当に?」
苗木は江ノ島の拘束を外し、江ノ島に向き直った。
肩を両手で掴み、額をくっつけ目と目をずらせない様にする。
「本当だよ。信じて。」
江ノ島は目をずらし、くるりと背を向けた。
「シャワー浴びてくる。」
早歩き気味に向かう彼女の背に向けて、いってらっしゃい、と小さな声で呟いた。
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- 18 : 2015/08/17(月) 11:52:21 :
- 公園のベンチに離れて座り、缶コーヒーを飲みながら二人は沈黙に耐える。
「ねぇ、あの死体のこと、何か知ってるんでしょう?」
仁は空を見た後、知らない、と首を左右に振りながら答えた。
「焼死体があったのか…一体どんなものだった?」
「そう、あなたは知らないのね。」
霧切は顎に手をあて、考え込む様に下を向く。
「今日あなたが一緒にいた人物とほとんど同じ姿をしていたわ。」
花火も終わり、人も疎らになってきた。
仲の良さ気なカップルが、二人の後ろを通り過ぎた。
「ちょっとお手洗い行ってくる。」
江ノ島は頼りない足取りで設置されているトイレに向かった。
霧切は深く息を吐き、瞼を閉じた。
一人きり、邪魔されずにいられるこの場所。
携帯に通知の着た音がする。
開くと、江ノ島からのものだった。
「近くの祠まで来てほしい。」
まだ何かする気だろうか。
少し考える仕草をした後、もう一度息を深く吐いた。
これで最後だ、とことん付き合ってあげよう。
祠までの道を聞きながら、霧切はゆっくりと歩いていた。
祠に近づくにつれ、虫が多くなるのがわかった。
ハエが頬にとまり、払ってから止まった場所を拭う。
辿り着いたとき、見えたものは江ノ島の浴衣だった。
脂の焼けた臭い、吐き気がせり上がってくる。
口で息をしながら、警戒しながらその祠近づいた。
「そこで見つけたんだ。盾子の死体を。」
霧切は小さくため息をつくと、学園長を睨みながら返す。
「あの浴衣は江ノ島さんが着ていたものじゃないわ。似ていたけど、少し違うもの。」
「どうして…」
「祭りの途中であなたと江ノ島さんがはしゃいでいる姿を見たのよ。」
霧切は残り少なくなった缶コーヒーを飲むため、上を向いた。
「どうしてあの浴衣を着せたの。」
学園長は答えずに、霧切から目を逸らす。
「あれはお母様の浴衣でしょう。それを着せるなんて、江ノ島さんのことがよっぽど好きだったのね。」
霧切は立ち上がり、服装を整えた。
「男1人の寂しい人生に人が来てくれて嬉しかったんでしょう。本当最低な人間ね。」
「悪かったとは」
「謝罪の言葉なんて聞きたくない、その事実があるだけ。あなたは何度裏切ったら気が済むのかしら。」
霧切は学園長に振り返ることなく、帰路についた。
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- 19 : 2015/08/17(月) 13:05:19 :
- 最悪だ。
もう何ともないと思っていた、ただの他人として接せられると思っていた。
それなのにこの有様だ。
恨み言を吐いて、これじゃただの反抗期の子どもじゃないか。
早歩きをやめ、立ち止まる。
しゃがみ込み、目頭を押さえた。
今の気持ちがわからない、言葉は出てこないのにいっぱいになって目から涙が溢れてくる。
「苗木君…。」
連絡を取ろうと、携帯を開く。
「…は?」
苗木からの通知、その文字列の意味が霧切にはわからなかった。
「江ノ島さんと付き合うことにしたよ。」
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- 20 : 2015/08/17(月) 15:01:48 :
- 江ノ島は眠った苗木を部屋に閉じ込めた。
両手を上に上げ、伸びをした。
「にしてもさ、パスワードが誕生日とか危機感なさ過ぎじゃない?」
江ノ島は苗木の携帯をテーブルに置き、ソファに座りテレビを着けた。
暫くした後、画面に速報の文字が映る。
先程の祭りの付近で焼死体が見つかったらしい。
江ノ島は麦茶を冷蔵庫に戻し、一息ついた。
鼻歌を歌いながら自室に戻る。
携帯に霧切響子からの通知が着た。
「ねぇ、今何処にいるの?」
「家だよ。」
「苗木君もそこにいるの?」
「うん、いるよ。」
「どうしてそこにいるの?」
「偶然出会ったから連れてきた。」
「あなたは学園長と一緒にいた筈よね。どうして別の人といるの。」
「学園長先に帰るって言うから寂しくて。」
「どうして殺したの。」
「何を?殺してないよ」
「祭りの近くの祠に死体があったの。」
「さっきニュースでやってたよ。怖いね。」
「あなたが着ていた浴衣とそっくりだったわ。小物まで一緒、偶然とは思えない。」
「偶然でしょ?怖いね。」
「偶然じゃないわ、あなたがわざと着せたんでしょう。」
「どうやって、言いがかりはやめてよ。」
「双子の姉を殺したんでしょう。動機まではわからないけれど。」
「殺してないって。何?彼氏取られたからって変な濡れ衣着せないでくんない?」
「濡れ衣じゃないわ、真実よ。」
「濡れ衣だよ、アタシにそんなことできるわけないじゃん。」
「いいえ、できるわ。あなたにしかできないのよ。」
江ノ島は携帯を壁に投げつけ、布団の中に潜り込んだ。
深い深い呼吸をして、無理矢理落ち着かせる。
近くに置いてあった袋から錠剤を取り出し口に含む。
錠剤を噛む音を布団の中に響かせ、今の自分を落ち着かせた。
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- 21 : 2015/08/17(月) 16:43:18 :
- 昼の陽射しが肌を刺す。
汗が垂れ、苛立ちを募らせた。
霧切はマンションの一室の扉の前にいた。
インターホンを押したが、何の反応も来ない。
トートバッグを左肩に掛け、その扉を右手で強く叩く。
小さく舌打ちをすると、バッグから合鍵を取り出し扉を開けた。
簡素な部屋、いやに片付いている。
霧切は靴を抜ぎ、室内へ上がった。
扉を乱暴に開けて行く。
「開けてよ。」
ドアノブをガチャガチャと回し、開かない部屋に入ろうとした。
「開けてって。」
苛立ち、扉を蹴る。
ドンドンと拳で扉を殴った。
舌打ちをし、リビングから椅子を持ってくる。
両手で椅子を持ち上げ、ドアを殴りつけた。
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- 22 : 2015/08/17(月) 18:57:08 :
- 霧切は持っていた椅子を置き、包丁に持ち替える。
布団に包まっている所から、ピンクがかった金髪が見えた。
「こんな所に隠れていたのね。探したわ、江ノ島さん。」
霧切は充電プラグに差された携帯を見ると、残念そうに眉を寄せる。
「あら、見てくれてないの?残念だわ。」
霧切は布団に近づくと、隙間からこちらを伺っているのがわかった。
「やめて…来ないで…。」
霧切は江ノ島の包まっていた布団を剥いだ。
「いつまでこの浴衣着てるのよ。」
霧切は江ノ島の胸ぐらを掴む。
「やめろって!」
霧切は包丁を江ノ島目がけて振り下ろした。
江ノ島はそれを避けると、咄嗟に霧切の腹部を蹴った。
霧切は壁にぶつかり、鈍い音がした。
ぐったりとしたまま、動かない。
半目を開け、ギョロリとした目がこちらに向けられている。
青白い肌がいつにも増して青い。
江ノ島は頭を掻き毟り、どうしようと呟いた。
「アンタが悪いのよ…。」
視線をキョロキョロと動かしていると、大きめの旅行用バッグが目に入った。
荷台に鞄を載せ、人気のない林へと向かう。
サングラスに日除け帽、日除け対策として変ではない筈だ。
垂れる汗も気にせずに、江ノ島は荷台を押し続けた。
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- 23 : 2015/08/17(月) 21:05:04 :
- 苗木はフローリングに横たわっていた。
冷たく、ひんやりとした床。
「なんだよこれ…。」
両手首を後ろでガムテープでぐるぐると拘束されていた。
「いったい何で…。」
蝉の鳴き声がうるさく、頭に響く。
ドンドンと近くで叩く音が聞こえた。
「誰…。」
ドアに近づき、聞き耳を立てる。
江ノ島と霧切の争う声、江ノ島のパニックになった声。
タイヤを転がす音が聞こえた。
苗木はフラつきながらも立ち上がり、ガムテープを切ろうと両手首を引っ張る。
少し伸びただけで、殆ど変化が見えない。
「クソっ…何かないのかよ。」
苗木は部屋中を探し回り、刃物がないか探した。
カーテンを顎で開けると、そこに液体があった。
苗木は口で入れ物を開け、ガムテープにかける。
解けたガムテープを捨て、両手を上に上げ伸びをした。
窓を見ると、白いつばの長い帽子を被った女性が大きな鞄の乗った荷台を押して歩いていた。
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- 24 : 2015/08/17(月) 22:32:49 :
- しょうがなかったんだ。
いつの間にか名前を変えて、まるで自分と一緒に過ごした時間を要らないものだって捨てられたみたいで。
あの子の盲信的な視線に、耐えることができなかったんだ。
過去を美化して、自分をその役に嵌め込まれたような。
苦しかったのだろうか。
この気持ちを誰かに受け止めてもらいたかった。
学園長を見たとき、思ったんだ。
自分の父親の理想像にピッタリだった。
小さい頃に親がいなくなって、孤独が苦しかったとかありきたりなことを言う訳ではないけれど。
だけど、周りが持ってないものを持ってないのは、苦しかった。
耐えられなかった訳じゃない、訳ではないが。
耐える必要も感じられなかった。
涼しい風が吹き、髪を靡かせる。
これならよく燃えるだろう。
目の前に横たわっていた人物が、声を出し、目を開けた。
「起きた?霧切。」
霧切は自分の状況を確認し、問いかける。
「これは一体どういう事かしら、江ノ島さん。」
手首と足首をガムテープで拘束され、身動きの取れないでいる姿。
「似合ってるよー、可愛い可愛い。」
江ノ島は特有の臭いのする液体を撒きながらそう返す。
「私をどうするつもり。」
大きな黒目をギョロリと向け、答えた。
「ステーキだよ。」
江ノ島は歪な笑みをうかべ呟いた。
「アタシね、あんたのその手袋の下知ってるよ。黒焦げなんでしょ?クロイドだっけ?ちょーグッロい。」
江ノ島は一歩、一歩と霧切に近づいた。
「ステーキの焼き加減ってさ、妙にこだわる人いるけど…どれが一番かなんて決まってるよね。」
残った灯油を霧切にぶっかける。
「ウェルダンだよウェルダン!レアとか外道じゃない?もっとお肉に敬意を持ってさ、こんがりジューシーに焼き上げたいの!最っ高じゃない?できたらベリーウェルダンが1番だよね!これぞ至高だわ!」
手の持ったライターを着火させる。
充血した目がじっと霧切を見つめた。
「バイバイ、霧切。」
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- 25 : 2015/08/17(月) 23:31:12 :
- しょうがない、しょうがないんだよ。
だって、お嬢様ヅラしてムカつくし、頭良いし、あの人の娘で。
そんな人なら、色んな奴から恨みや妬みを買ってるに決まってる。
これは正義だよ。
主に自分にとって、ってのは否定できないけれど。
「やめて頂戴!」
「…苗木とはさ、良い夢見れた?」
霧切の目の色が変わった。
「付き合ったっていうのは嘘でしょう?どうせ、あなたが苗木君の携帯を奪ったのよ。」
「言いがかりもそこまで来ると素晴らしいよね。」
江ノ島は着火したライターを霧切の上に落とす。
「霧切さんっ!!!」
苗木は勢いよく江ノ島に体当たりし、ライターの火が霧切に当たるのを防いだ。
「霧切さん、立って。急ごう。」
苗木は霧切に手を差し出し、走るように促した。
ライターの火が木に燃え移り、辺りの温度が高くなる。
火が1人に燃え移った。
「熱い!助けてよ、誰か!誰か!」
悲痛な叫び声が耳に響く。
火だるまになり、見えない筈の目でこちらを強い視線でみられている。
苗木は一秒、それよりも短い時間だけ立ち止まった。
だが、すぐに足を動かし走り始めた。
橙色が視界に多く入る。
「霧切さん!急いで!」
拘束を解かれたばかりで、痺れた足が走りづらい。
転びそうになりながらも、霧切は苗木の手をしっかりと握り走り続けた。
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- 26 : 2015/08/17(月) 23:58:31 :
- あれから何年が経っただろうか。
あの林の火事はニュースで大きく報道された。
その関係者として、テレビや警察からの質問は大変だった。
上手く、その罪から逃げるために。
放火は大罪だ。
あの希望ケ峰の生徒がそんな罪を被ったら、ブランドに傷がつく。
だから、隠蔽したのだ。
あの双子の関わる二つの事件を。
苗木と霧切は海に来ていた。
新車を買い、海に来た二人は、浜辺に座り水平線を見ていた。
霧切が苗木の肩に首を預けた。
肩に乗る頭の重さが心地いい。
「ねぇ、苗木君。あの年、向日葵を植えたの覚えてるかしら。」
霧切は目を瞑り、海風に揺られる。
「こんなに風が強く吹いて、向日葵が倒れてしまうわ。折角あそこまで育ったのに…。」
「大丈夫だよ、霧切さん。そんな簡単に折れやしないさ。」
「そうね、大丈夫よね。…咲くまで、あと二週間くらいかしら…楽しみだわ。」
苗木は目を細め、水平線を見た、
「そうだね。」
いやに眩しい光を反射する。
苗木は霧切の手を強く握った。
真冬の冷たい風が彼女の髪をなびかせた。
隠蔽したとして、その事実は消えない。
苗木はポケットに入れたネックレスに触れると、目を瞑った。
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- 27 : 2015/08/18(火) 00:05:25 :
- これにて完結です!
ギリギリ間に合いました
豪華メンバーの中書かせていただく貴重な体験をさせていただき、感謝の至りです。
ご閲覧ありがとございました!
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- 28 : 2015/11/07(土) 19:22:54 :
- ホントに素敵な作品で感動しました。
僕もあなたに憧れてNOTE始めました。
よろしくお願いします!
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- 29 : 2015/11/17(火) 20:28:18 :
- >>28
コメありがとうございます!
すごく嬉しいです!
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