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アニ「なんでもないような、この日常。」

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  1. 1 : : 2015/08/08(土) 20:58:31




    ご覧いただきありがとうございます、どうもTatsuです。


    物語はアニの目線で進んでいきます。ありきたりかもしれませんが、訓練兵団の頃の話にしてみました。


    少し短いSSですが、楽しんでいただけたらな、と思います。



  2. 2 : : 2015/08/08(土) 20:59:00




    「巨人だ…巨人が入ってくるぞォォォ!」

    「やめろ!!離せ!!うああああああ!」

    「うわぁん……お母さん……お父さん……」


    沢山の人の悲鳴や怒号、悲しみの声が街を覆い尽くしている。

    なんでこんなことしなくちゃ……いけないんだろう。

    なんで私たちだけが「こんな目」に

    いや、なんで私たちのせいでこの人たちは「こんな目」に……












    あわなくちゃいけないんだろう。





















    「…………ニ……アニ…アニ…!」

    「アニ!」

    「…ん……」


    なんだ、ミーナか。


    「…どうしたんだい…?」

    「どーもこーもないよアニ!とっくに起床時間は過ぎてるの!もうみんな朝食食べてるよ!?さぁ起きる起きる!」

    「はいはい……」


    そう言って私はのそっと寝心地の悪いベットから体を起こす。

    やれやれ、相変わらずミーナは口うるさいな。


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  3. 3 : : 2015/08/08(土) 20:59:56



    「てめぇはいい加減にしやがれ!」

    「才能無ぇからってひがむんじゃねぇよ!」


    またやってる。毎日毎日よく飽きないね、エレンとジャンは。

    こんなにうるさいんじゃ美味い料理も不味く感じる。

    ま、ここの料理は元々不味いけど。


    「またやってるねーあの二人……あ、ねーねーアニ!あの二人だったらどっちが良い?」

    「は?」


    思わずスープをすくっていたスプーンが止まる。急になにを言ってるんだ?


    「だからー!あの二人だったらどっちが好き?」

    「ミーナ。あんたはなんで突然そんなこと聞くのさ。あの二人なんてどうでもいいよ。」


    そう、どうでもいいんだ。色恋話に付き合ってる暇はない。

    私は…戦士だから…。


    「えー釣れないなーアニは!少しぐらい教えてよ!」

    「だから…どうでもいいんだって。」

    「ふーん…」


    酷くつまらなそうな顔をしているミーナ。

    そんなミーナをよそに、私は足早に訓練場へ向かう。

    本日最初の訓練科目は、対人格闘だ。


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  4. 4 : : 2015/08/08(土) 21:00:28



    「アニ!」


    聞き慣れた声が聞こえてくる。
    この科目の最中に何度こいつに名前を呼ばれたか、数え切れない。


    「…何?」

    「な、何だよ不機嫌そうな顔して…。」

    「ん?もしかして俺の顔になんか付いてるか!?」



    慌てふためくこの男。こいつの名前はエレン・イェーガー。

    いっつもこの科目になると私と組みたがってくる。それにしても、こいつ……慌て過ぎじゃ……


    「……フフ…」


    笑みが溢れた。久しぶりだな、笑ったのは。

    いや、笑わないようにしてたから当たり前か。

    笑ってると、人が寄って来る可能性がある。それは避けたい。

    他人と干渉したら、後々来る絶対に逃れられない日に自分が苦しくなる。

    ……でも、今笑ってしまったのは仕方ない。

    なんたってこいつの慌てふためく姿がとても滑稽だったから。


    「笑うなよアニ!どこに付いてるんだ!?」

    「誰が顔に何か付いてるなんて言った?なにも付いてないよ。」

    「そうなのか、良かった!あ、そういやアニが笑ってるの見るの久しぶりの様な気がするな。」

    「…悪かったね、笑わなくて。」

    「いやいや、誰が笑わないのが悪いなんて言った?なんにも悪くねぇぜ。」


    こいつ…私が言った言葉を丸々真似て……


    「…そんなに蹴り飛ばされたいの?」

    「じ、冗談だよアニ!ただの冗談!」

    「そう、ならいいけど。でも私のところに来たのは本当に蹴り飛ばされたいからだろう?」

    「蹴り飛ばされたい訳じゃねーよ…。ペア組もうぜって言いに来たんだ!」

    「あ、でもお前とペア組んだらどうせ蹴り飛ばされるよな…。」


    よくお分かりで。


    「そういう事だよ。」

    「ま…いいよ。組もう。」


    なにを言っているんだ私は。いつも『断れ』、と自分の中で言ってるだろう。

    人と関わる事は避ける。そう決めたはずだ。

    でも…この位なら…良いよね…。


    「おう!サンキュー!」

    「どうも…」


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  5. 5 : : 2015/08/08(土) 21:00:48



    「いててて…またやられた…。」

    「全然駄目。全くなってない。」


    口ではそう言ってるものの、内心、こいつの成長に驚いている。対人格闘の才能はあるみたいだ。


    「何だよアニ…どこが駄目なんだ?」

    「全部。」

    「て、おい!ひでぇな!」

    「フフ…」


    ……しまった。笑ってしまった…。


    「あ!今日二回目の笑いだなアニ!」

    「でも、アニが1日にこんなに多く笑うなんて…明日は巨人が降って来るんじゃねぇか?」

    「…乙女が笑う事がそんなに不思議?」


    嘘つけ、内心自分でも不思議だろう。


    「いいや別に不思議じゃねぇけどよ……。」


    エレンがそう言ってから少し経った頃、訓練終了の鐘が鳴った。


    「…対人格闘の訓練は終わりみたいだね。じゃあね。」

    「おう、アニ!ありがとな!」

    「こちらこそ。」


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  6. 6 : : 2015/08/08(土) 21:01:02



    訓練と訓練の間には、10分程の休みがある。

    私はその時間を兵舎裏の芝生が生えていて、少し坂になっている場所で過ごす習慣があった。

    ここなら誰も来ない。一人だけの静寂の時間だ。

    今日もいつもと同じ、その場所に向かい、一人時間を潰していた。普段と変わらない日常だ。

    ん…アレは…


    「……リスか。」


    リスなんてここにいたっけ?そんな事を考えていたら、そのリスは私の所にやってきて、体をすり寄せてきた。


    「…私なんかに近づかないほうがいいよ?私はお前らが住んでいるこの壁の中を…」


    そう言っても、リスは変わらず体を寄せてくる。懐かれてしまったみたいだ。


    「…そっか。お前は言葉、分かんないもんね。さて、そろそろ時間だ。じゃあね。」


    そう言って私はその場所を後にした。


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  7. 7 : : 2015/08/08(土) 21:01:17



    全ての訓練科目が終わり、ほっと一息つきながら不味い夕食を口に運んでいるとまたミーナが隣に座ってきた。

    やれやれ、この子は私の冷たい態度を気にしてないのか。


    「今日も疲れたね!アニ!」

    「あぁ、疲れたね。毎日毎日、めんどくさいよ。」

    「でも私たちは自分の意思で兵士になったんだから、この位でへこたれてちゃ駄目だよね!」


    自分の意思…か。

    私は自分の意思で戦士になり、壁を破壊した。そしてこの訓練兵団に入った。

    最初は極力誰とも関わらないようにしてきた。

    でも、ミーナやエレン、アルミン達が話しかけてくるようになって…

    私は今、自分の意思が分からない。戦士と兵士の間で揺らいでいる。

    全く…情けない…。


    「そう…だね…。」

    「アニ?どうしたの?」

    「いや、なんでもないよ。さっさと夕食食べちまいな。」

    「…うん、分かった…。」

    (アニ…何に悩んでるの…?)


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  8. 8 : : 2015/08/08(土) 21:01:33



    相変わらず寝心地の悪いベットに寝転び、毛布を頭まで被る。そして今日1日を振り返る。今日も色々あったな。



    まず、今日ミーナに怒られながら起こされたっけ。寝起きは機嫌が悪い私だけど、ミーナに起こされるのは不思議と嫌な気分じゃないね。



    その後、またジャンとエレンが喧嘩してたな。本当に懲りないヤツらだよ。あいつらは。
    ま、あいつらのお陰で退屈しないのも確かだね。



    エレンとも今日対人格闘をしたな。まぁあいつとはいつもしてるんだけど。
    あいつは日に日にどんどん成長している。いつか追い抜かれそうだな。



    あ、そうだ。今日、リスに会ったね。あいつは何で私に懐いたんだろうか。こんな私に…。



    そういえば、立体機動の訓練の時、アルミンに狙ってた巨人の模型を取られたね。そしたらあいつ


    『ごめんね、アニ!君も狙ってたんだ!ごめん!』


    なんて言ってたっけ。立体機動しながら私のほう見てたから目の前の岩に激突してたけど。



    まぁあいつらしいと言えばあいつらしいね。




    まぁ幸い大事には至らなかったみたいだけど。
    取り敢えずほっとし………



    何を言っているんだ私は。いずれアルミンも私たちのせいで死ぬかもしれないんだ。



    エレンも、ジャンも、そしてミーナもみんな死ぬかもしれないんだ。



    いずれ来る、その日に。










    でも








    コニーとサシャが馬鹿したり




    ジャンとエレンが喧嘩したり




    私自身がミカサと喧嘩したり




    エレンと一緒に訓練したり




    芝生の上で暇潰ししたり




    不味い夕食をミーナと食べたり……!!




    こんな、なんでもないようなこの日常を……



































    壊したくないよ。











































  9. 12 : : 2015/08/09(日) 21:39:43



    今日は第104期訓練兵団の解散式。各々が仲間たちと色々な話で盛り上がっている。

    その中で泣いている者もいれば、喜んでいる者もいる。

    ……まぁその喜んでいるヤツのほとんどは、10番以内に入り憲兵団への入団を許可された者だ。

    私は成績総合4位で、訓練兵団を卒業した。無論私も『目的』の為に憲兵団に入団するつもりだ。


    明日だ…。明日また私達は壁を壊す。
    とうとうその日が来てしまった。

    何度後悔しただろうか。何度心の中でみんなに謝っただろうか。

    こんな日なんか、来て欲しくなかった。

    けど、世界は残酷なんだ。いくら嫌でも時間は刻々と迫ってくる。

    だから……やるしかない。ライナーとベルトルトの為にも私はやるしかないんだ。

    自分の都合を押し付けている場合じゃない。


    そんな事を考えているとジャンが


    「お前はどうするんだ?憲兵団に入るのか?アニ!」


    と聞いてきた。酷く自尊心に満ち溢れた顔をしている。

    そうか、こいつも10番以内に入っていたな。


    「あぁ、入るよ。でも……あんたと一緒だと思われたくないわ。」


    こいつはただ単に自分が助かりたいから憲兵団に入るつもりだ。

    内地で安全な生活を手に入れる、それだけの為だ。

    だが、私は違う。自分が大切だから憲兵団に入るんじゃない。


    「ハッ!そうかよ。まぁどう思おうが自分の好きだ、勝手にしろ!」

    「俺は憲兵団に入団して内地での快適な生活を手に入れるんだ!なぁマルコ?お前も実際はそうなんだろ?」

    「ち、違うよ!僕は王にこの身を捧げるために……」

    「あーあー御託はもう散々だぜマルコ?言えよ!本心をよ?ハハハ!」


    こいつの言うことはもっともだ。

    マルコは本当に王に身を捧げる為に憲兵団に入団するんだろうけど、ああいうやつはここじゃ『特殊な人』と呼ばれる。

    この場にいる大体のやつは自分の安全を第一に考え、憲兵団を目指すようなクズや悪人だ。

    人類に心臓を捧げるつもりなどさらさらない。

    ジャンの言葉にこの場にいる全員がまんざらでもない反応をしているのがその証拠だ。




    だけど…まぁ…そういう空気に流されない『特殊な人』は、ここにもう一人いるけどね…。


    「なぁ、ジャン…」

    「なんだ?エレン?」

    「内地に行かなくったって、お前の脳内は快適だと思うぞ。」


    あいつだ。エレン・イェーガー。この空気に流されない『特殊な人』。


    「あ…?なんだと…?」

    「だから…言ってんだろ。内地じゃなくったってお前の脳内は快適だってな。」

    「オイオイオイ冗談言うなよ死に急ぎ野郎?俺の脳内が快適だと?笑わせるな!」

    「お前は調査兵団に入って巨人を駆逐するとか言ってたな!本気で巨人に勝てると思ってんのか?」

    「4年前の奪還作戦でもう分かったろ。人類は巨人に勝てない。快適なのはお前の脳内の方だな。」

    「…だからどうした?」

    「…は?」

    「勝てないから諦めるって所までは聞いた。」

    「だが、お前は今までに死んでいった人達の命を無駄にし、戦術の発達を放棄してまで、大人しく巨人の餌になりたいのか?冗談だろ?」

    「確かに4年前の奪還作戦は失敗した!人類が巨人に無知だった為だ!だが、得た情報は必ず次に繋がる!そしてその繋がりを守るのが俺ら兵士の役目だろ!」

    「俺は、巨人を一匹残らず駆逐して、この狭い壁の中から出る!そして、外の世界を探検するんだ!」

    「…そりゃご立派な目標だな!せいぜいその目標目指して、巨人に食われて死んでろ!」

    「なんだとてめぇ!」

    「なんだ!?やるか?いいぜ、最後の夜もてめぇと遊んでる!」

    「上等だクソやろーーー

    「待った。」

    「ミ、ミカサ!?離せ!離せよ!離せったら!」

    「離さない。エレン、一回外に出て頭を冷やして。」

    「…はっ…いいご身分だなエレン様よ!そうやっていつもミカサにおんぶにだっこだ!」


    --------
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    -


  10. 15 : : 2015/08/09(日) 22:38:12



    「くそッ!なんなんだよあの野郎!」


    エレンがミカサに連れて行かれた後、ジャンがエレンの悪態をついている。

    あいつらは仲がいいんだか悪いんだか。

    「ま、まぁジャン。落ち着きなよ…。」

    「…ふん…!」


    続いてジャンもその場から立ち去る。相当腹が立ってるね。あいつ。


    「俺…調査兵団に…入ろうかな。」

    「なっ!本気かトーマス!?」

    「あぁ、本気だ。さっきのエレンの言葉聞いたらなんか…ワクワクしてきてよ。」

    「わ、私もです…!私、調査兵団に入ります!土地を奪還したら、羊も牛も増えますからね!」

    「俺も…俺も入ろう…かな…。」

    「サシャとコニーまで…。」


    …エレン、凄いやつだよ。あいつの演説で自分の考えを改めたやつがたくさん出てきたようだね。


    「ア、アニ。君はどうするの?」


    マルコがなにやら不安そうな顔でこちらを見ながら問いかけてくる。

    マルコ自身も今、調査兵団か憲兵団かで悩んでいるようだね。


    「私は…変わらないよ。憲兵団を志望する。」

    「そ、そっか…。」

    「あぁ。」


    私は、変えるわけにはいかないんだよ。絶対に…!


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  11. 18 : : 2015/08/10(月) 18:49:40



    「ライナー、ベルトルト。」


    解散式の夜、宴がお開きになった頃、私はライナーとベルトルトのいる場所へ向かった。

    ………明日のことについて話すために。


    「おう、アニ。どうした?」

    「……明日のことについてだけど。」

    「明日?あぁ、所属兵科決めのことか?お前は憲兵団を目指すんだろ?」

    「俺は調査兵団に入ろうと思ってんだ!エレンのあの話を聞いたら、なんだかワクワクしちまってよ!」


    …は?


    「ライナー…?君は…戦士だろ…?」

    「戦士?なんだそりゃ、俺達は兵士だろ?」

    「ライナー…あんたなに言ってんだい?」

    「なに言ってるって…別に普通のことだが。で、ベルトルトはどうするんだ?憲兵団か?」

    「どうもこうも…」

    「おいおいなんだよ勿体ぶらずに教えろよ、どうせ明日決めるんーーー

    「ライナー、いい加減にしろ!君は戦士だ!明日壁を壊すんだよ!」

    「!!」




    「あ、あぁ…そうだ、そうだった…すまない…。」

    「…あぁ、平気だよ。」


    何が起きたか分からない。ライナーはどうしたんだ?


    「ベルトルト、これは?」

    「……ライナーはよくこうなるよ。あまりの罪悪感に自分が戦士か兵士か分からなくなるんだ…。」

    「…そうなんだ…。」


    分かるような気がした。

    自分が兵士を演じているうちに、そっちの方が都合がいいから自分が戦士か兵士か、とたまに本気で考える時がある。

    ライナーは昔から仲間思いで誰よりも優しかった。その性格が仇になったんだ。


    「二人共、本当にすまない…。なんで俺はこんな中途半端なクソ野郎に…」

    「ライナー、別に平気さ。それより明日のことについて話したいんだけど。」

    「あ、あぁ。そうだな。」

    「じゃあ作戦通りにまず僕が壁を壊すよ。アニとライナーは5年前と同じようにしてくれたらいい。」

    「分かった…。じゃあ、あんまり長くいると怪しまれるから、私はこの辺でおさらばするよ。」

    「あぁ、分かった。またな。」

    「じゃあね、アニ。」

    「あぁ、またね。」


    --------
    ----
    --
    -
  12. 19 : : 2015/08/10(月) 20:23:55



    「くっそッ!なんで今日なんだよ!?本当だったら今頃内地に行ってた筈なのによォ!」

    「ジ、ジャン!落ち着いて!」

    「落ち着いていられるか!壁がまた壊されたんだぞ!?」

    「どうせまた五年前と同じ結果になる!俺達はウォール・シーナまで後退するしかねぇんだよ!」


    そう、私達は今日、壁を壊すことに成功した。

    私の役目は巨人を集めること。それも成功した。

    あとはライナーがトロスト区の内側の門を破壊するだけだ。


    「おい、ジャン!なに弱気になってんだ!」

    「ウォール・シーナまで後退するしかない?それをさせない為に俺達が戦うんだろうが!!」

    「……ハハハハハ…俺達がなにと戦うって?」

    「…巨人とか!?勝てるわけねぇって何回言ったら分かんだよてめぇは!!」


    エレンとジャンはこんな状況なのにまた喧嘩をしている。

    まぁ…そのこんな状況っていうのは……私達が…作ったんだけど……。


    「違う!!」


    そういうとエレンはジャンを壁に押し付けた。


    「お前は諦めてばっかだな…!戦う前から諦めてどうすんだ!俺達は訓練兵団に入団した!死ぬほどキツイ訓練ばっかだったよなぁ!?」

    「実際に死んだ奴もいる…!逃げ出した奴も!だが俺達は無事卒団し、兵士になり、今ここにいる!そうだろ!」

    「っ…!」

    「だから俺達には力を持つ『兵士』としての責任がある!それを今果たすんだ!」

    「…よ、余計なお世話だ!!ダズ!いつまで泣いてんだ!行くぞ!」


    そういうとジャンは、どこか別の場所へ向かっていった。

    あっちは確か…ガス補給室だ。少しはやる気になったみたいだね。


    「エレン。有難う。ジャンもこれで少しは前向きになったはずだ。……多分。」

    「はは。多分、か。礼はいらねーよマルコ!お前も早く用意しとけよ?」

    「あぁ、じゃあ行ってくる!」


    マルコはそう言うと、ジャンと同じく、ガス補給室へ向かっていった。


    「エレン!」


    エレンを呼ぶ声がする。振り向くと綺麗な黒髪の女性がエレンに向かって走っていく。あれは…


    「ミカサか、どうした?」

    「エレン。戦況が悪化したら迷わず私のところに来て!」

    「は?なに言ってんだお前?」

    「混乱した状況下では筋書き通りにはいかない。だからーー

    「アッカーマン訓練兵!」


    声に反応してエレンとミカサが振り向く。ミカサを呼んだのは、背中に薔薇の紋章を背負った男、駐屯兵団の兵士だ。


    「お前は特別に後衛部隊だ、付いて来い。」

    「わ、私の腕では足手まといになります!」

    「住民の避難が遅れている今、後衛には多くの精鋭が必要だ。」

    「しかし!」

    「おい!」


    エレンはそう言うと、ミカサの頭を小さく小突いた。


    「人類存亡の危機だぞ!なにお前の勝手な都合押し付けてんだ!」

    「!」









    「……ごめんなさい、私は冷静じゃなかった。」

    「…でも一つだけお願いがある。」





















    「死なないで…。」













    そういうと、駐屯兵団の男とミカサはその場を去っていった。


    --------
    ----
    --
    -


  13. 20 : : 2015/08/10(月) 22:58:46



    「はぁ……つまんねぇ人生だった…こんなことならいっそ言っておけば…」

    「わ、私が先陣を切りますから!皆さん戦いましょうよ!」

    「無理だ。あの数の巨人に俺達新兵が突っ込んでも自殺行為にしかならねぇ。」

    「しかも…そんな決死の大作戦の指揮をこの中の誰が取れる…?」

    「そ、それは……」


    兵士としての状況は最悪だった。ガス補給班が私達へのガス補給の任務を放棄、戦意を失い本部に籠城。

    そしてその本部には巨人が群がっていた。

    私達の立体機動装置のガスは残り僅か。壁を立体機動で超えられるほどの量はない。

    だが、戦士としての状況なら……


    「ライナー、どうする?」

    「まだだ、やるなら集まってからだ。」


    集まってから、か。


    「無理だよ。どう考えたってこのまま僕達は何もできないまま全滅だ。」


    マルコが絶望を顔に滲ませながら口を開いた。


    「死を覚悟してなかったわけじゃない。でも…一体何のために死ぬんだ…。」

    「ん…オイ!あれミカサじゃねぇか!」


    その声に思わず反応してしまう。ミカサは確か後衛部隊にいたはず。


    「アニ!」


    そんなことを考えていると、ミカサはなんと私に声をかけてきた。


    「なんとなく状況は分かってる…その上で私情を挟んで申し訳ないけど…エレンの班を見なかった?」

    「私は見てないよ…。でも確か、アルミンがあっちに。」


    そういって私はアルミンを指差した。アルミンは確かエレンと同じ班だったはずだ。

    ミカサがアルミンの方に走っていく。


    「アルミン、怪我はない?大丈夫?」


    アルミンはその言葉を聞き、小さく頷いた。


    「エレンはどこ?」


    私はふとアルミンを見る。その目には大粒の涙が溢れていた。






    まさかーーー。








    「僕たち…訓練兵…34班…!」

    「トーマス・ワグナー、ナック・ティアス、ミリウス・ゼルムスキー、ミーナ・カロライナ……!」














    「エレン・イェーガー…!!」














    「以上5名は…自分の使命を全うし…壮絶な戦死を遂げました…!」


    ミーナが……?エレンが……?










    ……死んだ…?











    ……私のせいで…あの二人が…いや二人だけじゃない。トーマス達もだ…。

    そして、トロスト区の住民も…

    今になって一気に罪悪感が押し寄せてくる。

    心のどこかで、ミーナ達は生き残る、と勝手に決めつけていた。自分が傷つきたくないからだ。

    私はとんだクズ野郎だ…。


    「ごめん…ミカサ…エレンは僕の身代わりに……!僕は何も出来なかった…!すまない…。」

    「アルミン。」


    ミカサがアルミンに声をかける。


    「落ち着いて。今は感傷的になっている場合じゃない。」

    「さぁ立って!」

    「マルコ。本部に群がる巨人を倒せば、私達はガスを補給出来て、壁を登れる。違わない?」

    「あ、あぁ。その通りだ。だが…そんなこと出来るわけーーー

    「出来る!」

    「私は強い!あなた達より、強い!すごく強い!…ので、私はあそこの巨人共を蹴散らすことが出来る…例えば、一人でも。」

    「あなた達は、腕が立たないばかりか、臆病で腰抜けだ。とても残念だ…ここで指をくわえたりしてればいい。くわえて見てろ。」

    「無茶だミカサ!いくらお前でもそんなこと出来るわけがない!」

    「出来なければ…死ぬだけ。でも、勝てば生きる!」

    「戦わなければ勝てない!」


    ミカサはそう言い残し、立体機動で本部に向かっていく。


    「…残念なのはお前の言語力だ…あれで発破かけたつもりでいやがる…。」

    「お前のせいだぞ…!エレン!!」

    「おい!俺達は仲間に、一人で戦わせろと学んだか!!このままじゃ本当に腰抜けになっちまうぞ!」


    ジャンはそう言うと、ミカサに続いて空へ舞っていく。


    「そいつは心外だな…。」

    「や、やーい。弱虫、アホー」

    「あいつら…ちきしょう…!」

    「やってやるよ……!!!」














    「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」














    --------
    ----
    --
    -


  14. 21 : : 2015/08/12(水) 22:50:40



    「ッ……!」


    鈍痛が頭を駆け巡る。

    みんなは?無事か?


    「はぁ…はぁ…」

    「いってぇ…意識飛びそうだぜ。」


    …どうやら無事なようだね。


    「何人…たどり着いた…仲間の死を利用して…俺の合図で何人…死んだ…?」


    ジャンが今にも吐き出しそうなほど、顔を真っ青にして口を開いた。


    私達はミカサやジャンに続き、残り少ないガスで本部に向かって空へ飛んだ。

    途中、仲間が巨人につかまって食われてしまった。

    だが、ジャンの機転で、そのピンチをチャンスに変えられた。


    『巨人が少しでもあそこに集中しているスキに本部に突っ込め!』


    そうして私達は本部のガラスを突き破り、無事ここに入れた。


    「お…お前ら…補給の班だよな…?」


    ジャンが机の下に隠れていたガス補給班に向かって問う。


    「あ、あぁ…。」


    ガス補給班の訓練兵がそう答えた。

    するとーー


    「え?」


    バキッ!!!


    ジャンがそいつの顔を思い切り殴った。


    「ジャン!!よせ!!!」


    すかさずマルコが止めに入る。


    「こいつらだ!!俺達を見捨てやがったのは!!お前達のせいで余計に人が死んでんだぞ!!!」


    それを聞いたもう一人の補給班の女が、涙を流しながら口を開いた。


    「補給所に巨人が入って来たの!!どうしようもなかったの!」

    「それを何とかするのがお前らの仕事だろうが!!」


    …確かに正論だ。


    「みんな避けろ!!」


    誰が叫んだかも分からない声が部屋にこだまする。だが、私達は反射的に伏せていた。

    耳をつんざく様な音と共に、本部の壁に穴が空いた。その穴の外をちらりと見る。

    …!!

    巨人だ…巨人が二体、こちらをじっと見ている…!


    「しまった…!人が集中し過ぎた…!!!」

    「に、逃げろ!!下に逃げるんだ!!」

    「ミカサはどうした!?」

    「ミカサはとっくにガス切らして食われてるよ!」


    みんなが慌ただしく逃げ惑う中、ジャンだけが恐怖を顔に貼り付けじっとしている。

    まずい…あのままじゃ巨人に…!

    そう思った刹那ーーー



    グシャ!!



    巨人が吹っ飛んだ。
    いや、吹っ飛ば『された』。


    「グオアアァァァァァァ!!」


    なんだ…!?あの巨人は…!?




    パリンッ!!!




    私が驚いていると、ガラスを勢いよく割って本部に入ってくる影が三つ。

    あれは…コニーとアルミン。そして…


    「ミカサ!?」

    「お前…生きてるじゃねぇか!!」


    ジャンが驚きと喜びが混ざった様な声を上げる。


    「危ねぇ…もう空だ!」


    コニーが立体機動装置のボンベの部分を軽く叩きながらそう言う。


    「お前ら…よくここまで生きてこれたな…!」

    「あの巨人に助けてもらったんだよ、ジャン!あいつは巨人を襲う奇行種だ!しかも僕達に興味を示さない!!」

    「あの巨人を僕達はここまで誘導して来たんだ!ここで暴れてもらためにね!」


    アルミンが少し興奮気味に声を張り上げる。巨人を襲う巨人…まさか、私達と同じ原理…?

    いやそんな訳はない。ライナー、ベルトルト、私、そして『ヤツ』以外に巨人になれる者など存在する訳がない。

    ……この壁の中ではね。


    「巨人に助けてもらうだと…?そんな夢みたいな話が…」


    ジャンが驚きの声を漏らす。


    「夢じゃない。」


    直後、ミカサがジャンの発言を否定する。


    「今起こってることはすべて現実。この際、巨人でもなんでもいい。今あの巨人に少しでも長くここで暴れて貰うことが、私達が取れる最善策。」


    ミカサは冷静沈着にそう言った。


    --------
    ----
    --
    -

  15. 22 : : 2015/08/13(木) 20:25:29



    …まだか?もうそろそろのはずだ。





    私達はアルミン立案の補給所内に侵入した7体の巨人殲滅作戦を遂行しようとしていた。

    その作戦とは、まず、補給所内にあるリフトに、7名を除く全ての訓練兵が乗る。

    巨人は、より多く人間がいる方に反応する習性がある為、当然その巨人達はリフトへ向かう。

    次に、リフトに乗っていた訓練兵達が一斉に巨人の眼に向かって散弾銃で射撃し、視力を奪う。

    そして、その隙をつき、上に潜んでいる私、ジャン、コニー、サシャ、ミカサ、ライナー、ベルトルトが7体の巨人のうなじを同時に削ぎ落とす、という作戦だ。

    …正直に言うと、不安要素は結構ある。

    まずこの作戦は、7体の巨人が全て『通常種』と仮定してのものだ。

    動きが予想出来ない『奇行種』が一体でもいた場合、作戦は実行出来ない。

    そして一番の不安が、仮にもし全ての巨人が『通常種』だったとしても、7人全員が一撃で巨人を倒せるか、だ。

    もし一人でも巨人を殺し損ねた者がいた場合、死人が出る可能性が極めて高くなるし、全滅する可能性すらでてくる。

    …綱渡りのような作戦だが、これ以上の案も出ないだろう。

    この綱を渡るしかない…!

    幸い、巨人の数は増えていない。あとは『奇行種』がいない事を願うばかりだ。


    …!

    来た。リフトだ…!巨人は…

    …よし、全体『通常種』の様だね…。7体全てがリフトに向かっている。


    「ひっ!!」


    リフトに乗っている兵士の一人が、恐怖で声を上げる。


    「落ち着け!まだ撃つなよ…!ギリギリまで引き寄せるんだ!」


    それを制止するマルコ。


    「待て…待て…待て……」







    「撃て!!!」




    みんなが一斉に射撃を開始する。見事に巨人全体の視力を奪ったみたいだ。

    そして、そのタイミングを見計らって、私達7人は巨人に向かって上から飛ぶ。

    かなり危ないやり方だが、立体機動装置のガスがない今、こうするしかない。


    そしてーーー


    ザクッ!


    取った…!!

    みんなは!?

    みんなの方を振り返ると、ミカサ、ジャン、ライナー、ベルトルトが巨人をほぼ同時に倒しているのが見えた。

    だがーー


    「サシャとコニーだ!!」


    ベルトルトがそう叫ぶ。あの二人が失敗したのだ。


    「急げ、援護を!!」


    ジャンが耳を裂く様な声を出す。

    が、それより前に私の体は反射的に動いていた。コニーが今にも巨人に襲われそうになっている。

    間に合え…!!!


    ザクッ!!


    よし…!!

    サシャの方を振り返ると、すでにミカサが巨人を倒していた。

    全く…こういう時にあいつほど頼りになるヤツはいないね…。


    「すまねぇな…!!」


    コニーが私の顔を見ながら、安堵の顔で礼を言ってきた。


    「どうも…。」


    私は無愛想にそう答える。

    ーーと、同時に、ライナーが私に向かって口を開く。


    「アニ!怪我がなくて良かったぜ…本当に…。」


    …『どっち』で言っているんだ…?
    『戦士』か?『兵士』か?

    もし『兵士』の状態で私に話しかけて来てるのなら、あまり無駄なことは言わない方がいい。

    そう思い、私はライナーの言葉を無視した。


    「作戦成功だ!!みんな、補給作業に移ってくれ!」


    ジャンの喜びに満ちた声が、補給所に響き渡る。

    これでひとまずは一件落着、か。

    …いや。まだだ。

    あの巨人について調べなければならない…必ず…!


    --------
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    -


  16. 23 : : 2015/08/14(金) 21:08:58



    無事にガスを補給出来た。あとはあの巨人のことを…

    そう思い、本部の屋上へ立体機動で向かうとそこには既にアルミンとミカサの姿があった。

    …あいつらもあの巨人のことを見に来たのか。

    そんなことを考えていると私のあとからベルトルト、ライナー、ジャンが屋上に降り立った。


    「…共食い…?」


    ミカサがそう小声で呟いた。

    チラリと例の巨人に目を移すと、確かに他の巨人に身体中を噛みつかれ、今にも力尽きそうだ。

    おかしい…いくら奇行種だからといっても、巨人が巨人を襲うだろうか…?

    やはり私たちと同じ原理なのか?

    …いや、そんな筈はない。絶対に。


    「あの巨人のことを詳しく調べれば…人類が巨人に勝つ希望が見えてくると思ったのに…」


    ミカサが下をうつむきながら口を開く。

    「…巨人は巨人だ。あんなんただの奇行種だろ?」


    ジャンがきっぱりとした口調でそう言う。


    「でも…あれが味方になるとしたらどう?どんな大砲より強力な武器になると思わない?」


    私がそう言うと


    「俺もそう思う。あれをこのまま見殺しにするわけにはいかねぇ。周りの巨人を俺達で倒してなんとか延命させよう。」


    ライナーが私とベルトルトをチラチラと見ながらそう続けた。

    …こいつも興味があるみたいだ。


    「正気かお前ら!やっと壁を登れる様になったんだぞ!?わざわざ危険を冒してでもあの巨人を助けるってのか!?」


    ジャンが声を荒立てる。


    「何もしないよりは…マシだと思うよ。」


    ベルトルトがすこし怯えて声を震わせながらそう言う。


    「あ…アレは…トーマスを食った巨人…!!」


    アルミンが怒りを抑えながら声を発した。

    するとーーー


    「アアアアアァァァァァァ!!!」


    いきなり例の巨人が鼓膜を破る様な咆哮を上げる。

    …まるで怒り狂っている様に。

    そして自分に噛みついていた巨人達を強引に引き剥がし、真っ直ぐにトーマスを食った巨人へ走っていく。


    「なっ!?」


    アルミンが驚きの声を上げる。


    その巨人はトーマスを食った巨人のうなじに思い切り噛みつき、迫ってくる他の巨人に向かって放り投げる。

    そしてその勢いのまま、巨人達のうなじを全て潰し、全滅させた。


    そしてーー


    「グオオオオォォォォォ!!!」


    再びとびきりの咆哮を上げる。


    「おい……何を助けるって…?」


    ジャンが目の前の光景の迫力に圧倒されながらも、そう呟く。

    私達もその光景をただ呆然と眺めているだけだった。


    「…ん?みんな!あの巨人が倒れるよ!」


    アルミンの言う通り、その巨人はその場に崩れ落ち、蒸発し始める。


    「さすがに力尽きたみてぇだな…もういいだろ。壁を登るぞ。」


    ジャンが諦めの言葉を口にする。確かに力尽き…………











    いや、待て…!










    アレは…!!!









    ミカサがいち早く異変に気付き、すぐに立体機動で下に降りる。








    そしてーーー








    抱き締める。

    その目からはとめどなく涙が溢れ出していた。










    エレンだ…うなじからエレンが出てきた……!

    まさか…!そんな筈はない…!!
    なぜエレンが『巨人の力』を…!?

    いままで隠し持っていたのか?

    それともあいつ自身も『力』の存在を知らなかったのか?

    あらゆる思考が頭の中を駆け巡る。私は動揺を隠せなかった。

    ちらりと横を見ると、ライナーとベルトルトも目を大きく見開き、呆然としていた。

    それはそうだ。自分達以外に巨人になれる者が現れたんだから。



    勿論、驚いているのは私達、『巨人の力』を持つ者だけではなかった。


    「エレン……何で…?」


    アルミンが涙を流しながらかすれ声でそう口にする。


    「じゃ……じゃあ………」


    ジャンが唐突に言葉を発する。


    「これをエレンが…………」













    「やったっていうのか……?」













    --------
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    --
    -



  17. 24 : : 2015/08/15(土) 21:53:53



    「じゃ、じゃあ!この場にいない人達は全員…」


    クリスタが声にならない声を口からこぼす。


    「あぁ…そうだ。巨人に食われた。」


    コニーが残酷に現実をクリスタに告げる。クリスタは、「そんな……」と言って、顔を下に俯けた。

    だが突然、何かに気づいたように顔を上げる。


    「ミカサも!?あのミカサも、その……」

    「いや、ミカサは無事なはずだけどよ?なぁお前ら!ミカサはどうしたんだ?」


    コニーがこちらを見ながら問いかけてくる。


    「……俺達には守秘義務が課せられた…言えない。」

    「だが…すぐに人類全体に知れ渡るだろう。」

    「……それまでに人類があればな。」


    ジャンが汗を額に滲ませながらそう答える。

    守秘義務。エレンが巨人のうなじから出てきた事についてだ。


    「は?何だよそれ?」


    コニーが怪訝そうな顔をこちらに向けてくる。










    ーーと同時に爆音があたり一帯に響き渡る。









    「な、何だ!?」

    「壁の上からだ!」

    「なんで砲撃を!?まさか巨人…」

    「いや!それはあり得ない!ここはトロスト区外だぞ!」


    慌てふためく訓練兵達。

    するとマルコが何かを指差しながら口を開いた。


    「あ、あれ…巨人の蒸気じゃないか?」

    「な!?まさか…本当にここまで巨人が入って来ちまったのか!?」


    誰かが恐怖の色を声に乗せながらそう叫ぶ。

    だが、『あの光景』を見た私、ジャン、ライナー、ベルトルトはすでに答えに達していた。










    エレンだ。エレンが何らかの理由で巨人化したんだ。











    ライナーが誰よりも早く立体機動で空を舞う。

    状況を確認しに行くのか。

    ベルトルト、私、ジャンがそれに続く。













    「こりゃあ………」


    そこには、巨人が大砲を受け止めた痕と、それを取り囲む、駐屯兵団の兵士達の姿があった。


    --------
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    --
    -



  18. 25 : : 2016/07/14(木) 00:33:28



    「ごめんなさい…。」


    知らず知らずのうちに、私の口はそう動いていた。

    …かつての仲間の骸の前で。










    『エレン・イェーガーが巨人化、大岩を運び、破壊された門を塞ぐ。』








    こんな突拍子もないような作戦を提案したのはアルミン・アルレルトだった。


    これを、”生来の変人”とも呼ばれる、駐屯兵団司令のドット・ピクシスが可決、前代未聞の作戦が始まった。


    数多くの犠牲を払いながらも、急遽駆けつけた『調査兵団』、そしてその団員の人類最強の兵士、”リヴァイ兵士長”の活躍により、作戦は成功した。








    …そして今は、本作戦で殉職した兵士達の死体を回収をしている…。


    感染症による二次災害を防ぐ為とはいえ、さすがに仲間”だったもの”を片すのは心が針で刺されるように痛かった。























    いや………仲間……?


    何を言っているんだ私は。その”仲間”をこうしたのは私じゃないか。


    そんなクズが、仲間面して『ごめんなさい』? ふざけるな。私が逆の立場だったら、そんな奴はぶん殴っている。


    今更になって、自分自身に殺意が湧いた。みんなにこんな思いをさせて…平気で私はここに立っている。本当に……ふざけるな……!!













    でも


    私は言うしかない。

















    ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい






    -
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  19. 26 : : 2016/07/14(木) 01:09:49



    『俺は………調査兵団になる!!』





    暗い暗いベッドの中で、ジャンのいつかの言葉が頭をよぎる。


    そういう人間もいるんだろう。エレンやマルコ、ジャンのような。


    明日私は、














    調 査 兵 団 を 襲 撃 す る 。














    自分でも、本当に馬鹿だと思う。クズだと思う。悪人だと思う。でも私は、やる。


    憲兵団に入り、その人間達を見た今、私はある思い込みをすることにした。




    『こいつら人類だって、所詮、私達と同じじゃないか。』





    みんな…みんな…自分の都合だけで動いている…。


    ”自分の死”と”友の死”を天秤に乗せたら、”自分の死”の方が重くなる。


    ”自分の死”と”家族の死”を天秤に乗せたら、”自分の死”の方が重くなる。


    ”自分の死”と”世界の死”を天秤に乗せたら…………























    ”自分の死”の方が重くなる。





    だから、同じだ。私達と、同じ。


    自分の欲望の為なら、他を傷つけようと構わない。


    そんな人間の本質を、憲兵団の構造は隠しもなく掘り下げていた。


    …これも私の、独りよがりか?


    いや、『真実』だ。


    だから私も、同じことをする。


    ミーナが死んだ?マルコが死んだ?関係ないね。私には。


    死んだ本人達の、腕も努力も足りなかったんだ。どうせみんな、私達に殺される運命なんだ。


    今死のうが後で死のうが、どうせ何も変わらない。変えられない。だって人間は臆病だから。


    だから、私は、『故郷』に帰る…!!!絶対に…!!
























    そう憶う少女の頬には、月光を弾く、雫が一つ。













    -
    --
    ----
    ---------












  20. 27 : : 2016/07/14(木) 01:14:46



    ここは?


    私は今…どこにいるの?


    寒いな。


    いや、暑いのか?


    軽いな。


    いや、重いのか?


    生きてるのか。


    いや…



















    死んでいるのか…?











    まぁ、どうでもいいか。


    調査兵団への襲撃は失敗。その後の最後の”賭け”も失敗。つまり、私の人生(父との約束)も失敗。


    私…生きてる意味あるのかな…。


    ……あ…私…生きてるのかどうかわからないんだった。疲れてるのかな、頭が回らないや。





    遠くで様々な声が聞こえる。その声は、かき混ざり、おり混ざり、やがてまた分裂する。


    『どうして、マルコの立体機動装置を持ってたの?』


    『だから…!!つまんねぇって言ってるだろうが!!』


    『アニ… 落ちて。』






    …寝心地の悪い子守唄だ、全く。












    ライナー、ベルトルト。そして…お父さん。ごめん。








































    人間を捨てきれないみたいだ。







    なんでだろう…。”約束”が、遠い昔のことのように感じるよ。お父さん。



    あの”約束”だけは…この頭から一生消えない。


    だからこそ虚しい。悲しい。寂しい。


    叶うことはない。


    もう…やるべきことはやり尽くしたから。


    だから…おやすみなさい、みんな。


    もう…






















    目覚めることはないだろう。



































    ーーー水晶の中で、何を想う?












    ー fin ー

  21. 28 : : 2016/07/14(木) 01:18:39




    〜あとがき〜



    どうも、Tatsuです!これにて、このSSは完結です。



    最後の方は完全に僕の妄想です、すみません笑



    ですが、アニの気持ちはこんな感じだっなのだろうか?と読者の皆様が思ってくださったなら幸いです。



    コメントも解除しておきますので、感想、コメント、ぜひお願いします!



    では!








  22. 29 : : 2016/12/29(木) 01:34:56
    Tatsuさん、お疲れ様でした

    自分はミーナが主人公の物語を描いているのですが、その中でもアニの存在はとてもとても大切なものと考えています。

    アニの最後の水晶の中での呟き、水晶の中で、何を想う?というフレーズ、来ました。心に。

    これからも、頑張って下さい
  23. 30 : : 2016/12/30(金) 09:35:43


    >>29

    空山 零句さん

    ご覧頂き、有難うございます!

    やはり、ミーナに取ってアニはとても大事な存在なのかもしれませんね、逆も然りです

    お褒めの言葉、有難うございます!
    そのフレーズやアニの心情は、とても熟考した上で執筆した物なので、そう言ってもらえると、とても嬉しいです

    はい、次回作も頑張ります!


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Tatsu0604

Tatsu

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