ssnote

x

新規登録する

作品にスターを付けるにはユーザー登録が必要です! 今ならすぐに登録可能!

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

ジャン「あいつ…マルコの弟か?」

    • Good
    • 11

loupe をクリックすると、その人の書き込みとそれに関連した書き込みだけが表示されます。

▼一番下へ

表示を元に戻す

  1. 1 : : 2015/08/04(火) 21:55:19



    少しネタバレ注意。


    原作とは多々違う箇所があります。



  2. 2 : : 2015/08/04(火) 21:57:31


    ここに来るのは何年ぶりだろうか。





    今も昔も何も変わっちゃいねぇな。







    無駄に広いグラウンド。




    みんなで飯を食った食堂。





    相部屋でプライベートもクソもなかった宿舎。








    全てが懐かしく感じた。














    「…キルシュタインか?」









    背後からとても懐かしい声が聞こえた。







    ジャン「キース教官…お久しぶりです」







    そこに立っていたのは、俺が訓練兵時代にお世話になったキース教官だった。






    キース「やっぱりそうか…
    立派になったな、キルシュタイン」








    そう言うとキース教官は優しい笑顔を見せた。







    キース「訓練兵の時は憲兵団に入って内地で暮らしたいなんて言っていたのに…
    今となっては調査兵団の分隊長を務めてるんだからな…本当に立派になったな…」







    ジャン「昔の話はよして下さいよ…
    キース教官は今も訓練兵の教官をされているんですか?」






    キース「あぁ。ちょうど今日、入団式がある。
    時間があるなら見学して行くといい」








    そう言うと俺の肩をポンっと叩いてグラウンドの方へと歩いていった。






    入団式か…



    懐かしいな…





    確か…俺がここに入団したのは12歳の時。







    あれからもう12年も経ったのか。





  3. 3 : : 2015/08/04(火) 22:05:40
    ジャン「おっと…早く仕事終わらせねぇとな…」








    俺は今日、書類を届けにここへやって来た。






    部下に行ってもらってもよかったんだが…





    俺はどうしてもここに来たかった。








    あいつとの…唯一の思い出の場所だから…









    ジャン「失礼します。
    調査兵団第2分隊長ジャン・キルシュタインです。
    書類をお持ちしました」









    教官「キルシュタイン分隊長、遠いところからわざわざご苦労様です。
    良かったらお茶でも飲んで行って下さい」








    12年間の間に教官達も入れ替わっているようで、訓練兵時代の時にはいなかった教官が出迎えてくれた。






    ジャン「あ、いえ…
    お言葉ですが、これから少し入団式の様子を見学しに行こうと思いまして…」







    教官「そうですか。
    ゆっくりしていって下さいね…」






    ジャン「はい…ありがとうございます。
    では、失礼します」






    俺は書類を置いて足早にグラウンドへ向かった。







    微かにキース教官の恫喝が聞こえる。











    ジャン「あの恫喝は健在か…」







    ノスタルジックと言うのだろうか…







    あまりの懐かしさに目頭が熱くなる。






    ジャン「…こんな事で泣きそうになるなんて俺ももう歳だな」




  4. 4 : : 2015/08/04(火) 22:11:51
    キース「貴様は何者だ!?
    何しにここへ来た!?」








    ジャン「おー…やってる、やってる」






    キース教官の恫喝に訓練兵は嫌な汗を浮かべている。




    俺もそうだった。




    昔はキース教官はひどく恐ろしい存在だった。





    けれど今はキース教官が優しく思えるのは、やはり俺が年を取ったからだろうか。








    訓令兵「巨人を根絶やしにする為にここへ来ましたっ!」








    ふと聞き覚えのあるセリフが聞こえてきた。






    そう、訓練兵時代エレンが毎日の様に食堂であんな風な事を吠えていた。




    ジャン「どの時代にも死に急ぐ馬鹿はいるもんなんだな…」






    俺は訓練兵達をぼぉっと眺める。






    流石に芋食ってる奴や心臓の位置を間違える奴はいねぇか…





    俺はいつの間にか訓練兵と104期の奴らを重ねていた。







    ジャン「そんな事をしたってあいつはいねぇのにな…」







    キース「貴様は何者だ!?」






    訓令兵「ウォールローゼ南区ジエナ町出身、ウィズ・ボットです!!」








    ジャン「!?」






    ジエナ町出身…?




    ボット…?


















    ジャン「マルコか…?」







    俺はボットと名乗る訓練兵に釘付けになった。




    黒い短髪の髪。




    身長はおれとあまり変わず、すらっとした体格。




    そして頰には少しのソバカス。





    マルコそのものだった。







    ジャン「マルコか…?
    いや、そんな訳ねぇよな…」






    おれは自嘲気味に笑う。





    けど…ボット訓練兵は出身地も見た目もマルコとまるで同じ。





    もしかして…






    ジャン「あいつ…マルコの弟か?」


  5. 5 : : 2015/08/04(火) 22:19:53
    そう言えば昔マルコに弟がいると聞いたような…







    それからは入団式どころではなかった。





    頭の中はウィズ・ボットの事でいっぱいだった。














    入団式が終わったのは日も傾き始めた頃だった。






    俺はキース教官の元へ、ある頼み事をしに向かう。






    ジャン「キース教官…!」





    キース「キルシュタイン…最後まで見ていたんだな。
    それで、血相を変えてどうした?」





    ジャン「実は少し話をしたい訓練兵がいるのですが…」





    キース「ボット訓練兵か?」






    俺はキース教官のその言葉に驚いた。





    そしてキース教官が、俺に入団式を見ていけと言った理由が今分かった。







    キース「ウィズ・ボットはマルコ・ボットの弟だ…
    会ってくるといい」






    最初にマルコの弟がいるという事を言わなかったのは、俺の傷をえぐらない為の考慮だったのか…






    そして俺がマルコの弟に気付き、自らその話を出すまでキース教官は一切口を割る気はなかったのだろう…





    キース教官らしい心配りだ。





    ジャン「ありがとうございます」





    俺はキース教官に一礼し、訓練兵が集まる食堂へ向かった。
  6. 6 : : 2015/08/04(火) 22:21:37
    期待です!
  7. 7 : : 2015/08/04(火) 22:30:26
    食堂の前まで来ると俺は一度深呼吸をする。





    中からは笑い声などが漏れて聞こえてきた。







    ジャン「ふー…」







    何故か少し緊張する。





    けれど、マルコの弟に会えると思うと自然と胸が高鳴った。







    そして俺は食堂へと足を踏み入れる。






    その瞬間、食堂は静寂に包まれた。





    かと思うと今度はあり得ないほどに騒ぎ立てる訓練兵達。






    「調査兵団だ!!」





    「なんで訓練所に!?」





    「本物のキルシュタイン分隊長だ!!」






    所々からそんな声が聞こえる。







    こんな風に言われるのはなんだか照れるもんだ…









    ジャン「すまない、ウィズ・ボット訓練兵はいるか?」








    俺は後ろの方にも聞こえるように、なるべく大きな声で尋ねる。





    再び食堂の中は静寂に包まれる。







    「あ…僕がウィズ・ボットです」






    後ろの方からおずおずと出てきたそいつは、本当にマルコと瓜二つだ。
  8. 8 : : 2015/08/04(火) 22:40:15
    ジャン「すまんが、少しいいか?」






    ウィズ「はい…」








    俺たちは食堂を出て、グラウンドの端に備え付けられているベンチに腰を下ろした。








    ウィズ「会いたかったです、キルシュタイン分隊長…」






    最初に口を開いたのは意外にもウィズだった。







    ジャン「会いたかったって…俺の事知ってるのか?」





    ウィズ「キルシュタイン分隊長の事はみんな知っていますよ。
    若くして分隊長まで成り上がり、討伐数150超えの成績を持つ優秀な兵士だって…」






    俺はそんな風に噂されてるのか…



    直接聞かされると小っ恥ずかしいもんだ…






    ウィズ「でも僕はそれよりずっと前…
    10年以上前からキルシュタイン分隊長の事を知っていました」






    ジャン「!?」





    ウィズ「休暇で兄が帰ってきた時や、手紙なんかでもよく兄からキルシュタイン分隊長の話を聞かされました」








    ジャン「マルコが…俺の事を?」






    またじわりと目頭が熱くなる。






    ウィズ「えぇ、キルシュタイン分隊長の話をする時の兄はすごく楽しそうでしたよ…」








    ウィズの話し方、振る舞い方、表情全てがマルコに重なって見えた。


  9. 9 : : 2015/08/04(火) 23:02:51
    ジャン「なぁ…ウィズ…
    1つ聞いていいか…?」






    ウィズ「僕の答えれる事なら、なんでもどうぞ」






    マルコの弟が訓練兵になっていると分かった時からずっと聞きたかった事があった。





    けれど、それを聞いてしまう事でウィズの心の傷をえぐる事になるかもしれない。






    でも…やっぱり聞かずにはいられなかった。







    ジャン「気を悪くしたらすまねぇ。
    けど、どうしても聞きたかったんだ。
    どうしてお前はマルコが…お前の兄貴があんな最期を迎えたのに兵士になろうと思ったんだ…?」







    ウィズは俺の質問に答えることなく黙りこくっている。





    やっぱりマズイ事を聞いたか…?






    チラリとウィズの方に目をやる。







    すると意外にもウィズの顔は笑顔だった。






    ウィズ「誰だってそう思いますよね…
    実際僕が兵士になると言った時、家族には猛反対されました。
    けど…僕はどうしてもキルシュタイン分隊長と一緒に兵士として働きたかったんです」








    ジャン「!?
    俺とって事は…お前まさか調査兵団になるつもりか!?」





    俺はウィズのその答えにひどく驚いた。





    俺と一緒に働きたいという事にも驚いたが、何より調査兵団を志願している事に驚いた。






    ジャン「なんで調査兵団なんだ?
    お前の兄貴は憲兵団を志願していたハズだ」





    俺がそう言うと、ウィズは不思議そうに首をかしげた。




    ウィズ「キルシュタイン分隊長…
    兄さんから何も聞かされていなかったんですか?」





    ジャン「聞かされてなかったて何がだ…?」





    するとウィズは少し考え込んだ後「まぁいいや」と呟いた。





    ウィズ「それより…今度は僕が質問してもいいですか?」






    ジャン「あ、あぁ…」




    俺はウィズの先程の言葉が気になったがとりあえず、その事は置いておく事にした。





    ウィズ「104期はすごく優秀な人が多いと聞きました!
    その中でも調査兵団にいる104期の人達は特に優秀だと!
    みんな、どんな方なんですか?」







    …104期に優秀な奴が多い?




    …それも調査兵団に行った奴は特に?







    ジャン「ぶふっ…」





    俺は思わず吹き出してしまった。





    ジャン「ウィズ…
    夢を壊すようで悪いが104期…特に調査兵団にいる奴らは変な奴が多いぞ…」







    ウィズ「えぇ!?そうなんですか!?
    でも…そんな事を言われると余計にどんな方なのか気になります…!!」






    ウィズは調査兵団の話を始めた時からずっと目を輝かせている。





    ジャン「よし!特別にお前に教えてやろう!
    まず第3分隊長、コニースプリンガーについてだ!」





    ウィズ「あ、僕知ってます!
    立体起動装置を使った小回りが得意で、討伐補佐数が100弱だとか…」





    …!?





    何故ウィズがそんな事まで知っているんだ?



    俺ですらコニーの討伐補佐数なんて知らねぇのに。
  10. 10 : : 2015/08/05(水) 00:04:10
    ジャン「あぁ…そのコニーだがな…
    まず入団式の時。
    あいつは敬礼の時、心臓の位置を間違えやがった…」





    その話を聞いた瞬間、ウィズが「ふふっ」と笑いを零した。





    そしてその後すぐ、自分の口を両手で覆い隠す素振りをした。





    ウィズ「わ、笑っちゃ失礼ですよね…」





    律儀というかバカ真面目というか…




    誰だって『心臓の位置を間違えた』なんて話を聞かされりゃ笑っちまうだろう。






    でも、そういう所がまたマルコに似ていた。







    ジャン「この話を聞いて笑わなかった奴はいねぇよ…
    あと、あいつは馬鹿だから作戦の誤認なんか毎度の事。
    今もアイツには手を焼いている…」





    ウィズただ黙って話を聞いている。





    けれど今もなお、彼の目は輝き続けている。







    ジャン「そして、第4分隊長サシャ・ブラウス。
    こいつは本当に馬鹿だ」





    ウィズ「あぁ!!
    ブラウス分隊長の事も知っています!
    確か鋭い感の持ち主でそれが良く当たるとか…
    あと弓の腕前がスゴイと聞きました!」






    鋭い感の持ち主か…





    確かにそうだが、あいつの感が当たるのは主に悪い予感の時だけだ…






    ジャン「そいつも入団式の時にやらかしやがった。
    そいつは…サシャは調理場から蒸した芋を盗みやがった。
    そしてあろう事か、入団式の真っ最中にそれを食い始めた」






    ウィズ「え…どうして…?」





    誰だってそう思うだろう。





    そして今日、キース教官の恫喝を受けた奴からしてみると余計にそう思うだろう。





    ジャン「どうしてか…
    それは、冷めてしまっては元も子もないから…らしいぞ」





    ウィズ「あはは。
    確かに蒸した芋は温かい時に食べた方が美味しいですよね!」






    ジャン「いや…そう言う問題じゃねぇだろ…
    あと、サシャは毎日のように誰かのパンを奪い食料庫から食料を盗んでは外を死ぬほど走らされていた」






    ウィズ「確かに調査兵団は個性が強いですね!
    でも、キルシュタイン分隊長の話を聞いて僕は余計に調査兵団に入りたくなりました!」






    さっきはマルコとウィズは瓜二つだと思ったが案外そうでは無いらしい。





    マルコよりウィズの方が少し好奇心が強いみたいだ。





    ウィズ「104期はみんなすごく仲が良いって噂なんです。
    けど、今ようやくその理由がわかりました。
    そんな方達がいれば毎日楽しいだろうな…」






    こちらとしては毎度毎度、作戦を誤認されて食事の度にパンを取られちゃかなわねえがな…

  11. 11 : : 2015/08/05(水) 00:39:06
    期待です!
  12. 12 : : 2015/08/05(水) 08:32:25
    ジャン「けどよぉ、ウィズ。
    お前がどこの兵団を志願しようと俺は口出ししねぇが、マルコが志願していたのは憲兵団だ。
    お前は兄貴が目指していた憲兵団に入りたいと思わねぇのか?
    それに、憲兵団に入れば内地で暮らせるんだぜ?」








    俺も訓練兵の時はずっと憲兵団になるのが夢だった。





    いや、俺だけじゃない。




    あの頃はほとんどの奴が憲兵団を目指していただろう。






    ウィズ「さっきも言ったように、僕はキルシュタイン分隊長と一緒に調査兵団として活躍したいんです。
    それに僕が10番以内に入る事なんて無理です…」









    ジャン「あ…」







    確かマルコも同じような事を言っていた。








    『出来ることなら憲兵団に入りたいけれど…
    僕が10番以内に入るなんて無理だ…
    ジャンみたいに立体起動装置が上手いわけでも、斬撃が得意なわけでも無いし…』








    ウィズ「キルシュタイン分隊長…どうされたんですか?」





    ウィズが心配そうに俺の顔を覗き込む。





    ジャン「あ…いや…なんでもねぇ。
    だがな、ウィズ。
    104期で調査兵団に入った奴のほとんどが10番以内の成績を残した奴らだ」






    俺がそう言うとウィズは目を丸くしながら「えっ!?」とすっとんきょんな声をあげた。







    ジャン「さっきコニーやサシャは馬鹿だと言ったが、あいつらも10番以内に入っている。
    そしてそれなりの実力がある」






    そう…それはコニーやサシャに限った事じゃねぇ…





    ジャン「他にも首席で卒業した奴はとんでもねぇぞ。
    歴代の中でも逸材と言われてるくらいだ。
    立体起動術、馬術、対人格闘術、座学全てをなんなくこなしちまうんだ。」








    ウィズが落胆したような表情を浮かべる。







    ウィズ「噂通り、凄腕の人ばかりなんですね…
    やっぱり僕には調査兵団なんて…」






    そう落ち込むとウィズの頭をガシガシと乱暴に撫でてやる。







    ジャン「心配すんな。
    はじめから強いやつなんてそういない。
    だからここで訓練するんだ」






    するとウィズは再び目を輝かし、俺にこう言う。







    ウィズ「じゃあ…僕も頑張って訓練すれば…
    キルシュタイン分隊長のようになれますか?」






  13. 13 : : 2015/08/05(水) 10:40:00
    俺みたいに…か。






    『僕も頑張ればジャンみたいになれるかな?』









    マルコ…







    お前は十分俺を上回っていたさ。









    けどなマルコ…



    お前は確かこんな事を言っていたよな。








    『うーん…
    技術を高め合うのに競争は必要だと思うけど、どうしても実践の事を考えてしまうんだ』







    『一番動きが遅い僕が注意を引いて、他のみんなに巨人の後ろを取らせるべきだとか…
    今回の殺傷能力を見る試験じゃ意味ないのにね…』







    自分の手柄を誰かに譲るなんて、お人好しもいいとこだぜ…





    お前がそんな馬鹿みてぇにお人好しでなければ、俺なんてあっという間に抜かされてただろうな…










    ジャン「ウィズ…
    俺はろくでもねぇ奴だ…
    俺なんかより、お前の兄貴の方が遥かに立派だった。
    目指すなら兄貴を目指すんだな…」








    俺が兵士になったのも、馬鹿みてぇに必死に訓練したのも全て自分が楽する為だ。





    内地で安全で快適な生活を送る為だけに俺は憲兵団を志願した。






    けどマルコ…お前はそうじゃなかったよな?







    『王にこの身を捧げる為です!』







    『王の近くで仕事が出来るなんて…光栄だ…』









    あの頃はお利口ぶったいけすかねぇやろうだと思っていたが…






    お前はきっと、あの時本気でそんな事を思っていたのだろう。







    俺とお前は根本的に違ったんだ。

















    ウィズ「ジャンは強い人では無いから、弱い人の気持ちが理解できる」






    ジャン「!?」






    ウィズ「僕もそうだし、大半の人間は弱いと言えるけどさ…
    それと同じ目線から放たれた指示ならどんなに困難であっても切実に届くんだ」







    ジャン「おい…なんで…お前が…?」







    ウィズ「それでいて現状を正しく認識する事に長けているから、いま何をすべきか明確にわかっているんだ…
    彼はいつも…」






    俺はウィズのその言葉を聞いた瞬間、その場で泣き崩れてしまった。






    調査兵団の分隊長であろう俺が、訓令兵の前で涙を見せるなんて情けねぇ…








    けれど…もう我慢出来なかった…






    ウィズが言ったあのセリフ…








    解散式の翌日。





    再び壁が壊され、新兵の俺達は戦場に駆り出された。






    その時あいつが俺に向かって言ったセリフだ。
  14. 14 : : 2015/08/05(水) 11:27:47
    『僕はジャンの方が指揮官に向いていると思うな』





    『俺が?冗談だろ?
    なんでそう思うんだ?』





    『怒らずに聞いて欲しいんだけど…
    ジャンは…』








    なぁ…マルコ…






    『ジャンは強い人ではないから弱い人の気持ちがよく理解できる』







    どうしてお前は死んじまったんだ…?






    『まぁ…僕もそうだし、大半の人間は弱いと言えるけどさ…
    それと同じ目線から放たれた指示なら、どんなに困難であっても切実に届くと思うんだ』





    どうしてマルコが死ななきゃいけなかったんだ…?






    『それでいて現状を正しく認識することに長けているから今、何をすべきかが明確にわかるだろ?』






    ウィズ「兄が何度も何度も話してくれるもんだから丸暗記覚しちゃいました…
    そして最後に必ず兄は言うんです。
    『ウィズも彼みたいな人になるんだよ』と」







    俺は返事もせず、ただ泣くばかりだった。









    ウィズ「キルシュタイン分隊長…
    あなたは何故、憲兵団に志願していたハズなのに調査兵団へ…?」







    俺が調査兵団に入った理由…








    憲兵団を蹴ってまで調査兵団を選んだ理由…







    ジャン「さぁな…忘れちまった」






    俺が言葉発したと同時に、訓練所に鐘の音が鳴り響いた。







    ジャン「おっと…長話をしすぎたな…
    すまねぇな、わざわざ呼び出しちまって」






    ウィズ「いえ…お話しできて良かったです」






    ジャン「じゃあな…」






    俺はそう言うとウィズに背を向けた。








    そして、一度も振り返る事なく馬小屋へと急ぐ。
















    ジャン「おら、帰るぞ…」








    馬鹿みてぇだが、今の俺は馬にでも話しかけて気を紛らわせねぇとまた泣いてしまいそうだった。






    ジャン「ここから本拠地まで数十キロもあるが…
    まぁ、ゆっくり帰ろうじゃねーか」






    周りから見たらただの不審者だろう。










    「あの…」






    いきなり背後から声を掛けられて、俺の体は跳ね上がった。






    馬と話してる所を見られたか…?






    最悪だ…





    ったく…誰だよ…







    俺は恥ずかしさから、睨みつけるように後ろを振り返る。










    ジャン「ウィズ…」






    そこにはなんとウィズが立っていた。






    ジャン「ウィズ…早く部屋に戻んねぇと教官にお仕置きされちまうぞ…」





    恥ずかしいやら情けねぇやら複雑な気分だった。
  15. 15 : : 2015/08/05(水) 12:00:35
    ウィズ「…キルシュタイン分隊長にこれを渡したくて」





    そう言って差し出したのは1冊のノートだった。






    ジャン「なんだ…これは…」







    ウィズ「兄さんの…日記です」







    マルコの日記?






    あぁ、マルコの部屋にあった物は全て遺留品として家族に送られたんだったな。





    というかあいつ…日記なんてつけてたのかよ。





    まぁ、らしいと言えばらしいが…







    ジャン「悪りぃがそれは受け取れねーよ」







    ウィズ「どうしてです?」







    きっと俺がマルコの日記なんて見ちまったら…





    『ちょ、ちょっとジャン!?
    僕の日記勝手に見ただろう!!!
    全く…ジャン、親しき中にも礼儀ありだよ』




    なんて怒られちまうだろう…






    ジャン「俺が勝手にその日記を見ちまえばマルコはきっと怒るだろう…
    それに、その日記はマルコの形見だろう?
    俺なんかが貰うわけにはいかねぇ…」




    俺がそう言うとウィズは少し考え込むように俯いた。






    ウィズ「キルシュタイン分隊長…
    じゃあ、これはあなたに預けておきます。
    そして僕が調査兵団になった時に返してください」






    ウィズ「あと…無理強いはしないですが…
    出来れば読んでみてください…」




    ウィズは再び俺に日記を差し出した。










    ウィズが調査兵団になるまでか…






    ジャン「わかった。
    その代わりだ、俺もお前に約束してほしい事がある」






    ウィズ「…なんですか?」







    ジャン「強くなれ。
    それは、調査兵団に入る為でも10番以内になる為でもねぇ。
    …お前自身が死なねぇ為に強くなれ」







    俺がそう言うとウィズはニコリと笑った。





    全く、笑った顔までマルコと似てやがる。







    ウィズ「わかりました…約束します。
    きっと調査兵団に入る頃にはキルシュタイン分隊長より強くなっていますよ」






    ジャン「言うじゃねぇか…」






    ウィズの髪をワシャワシャと撫で回す。






    ジャン「よし、じゃあそろそろ帰るぜ。
    俺は明日も早いんでな。
    お前も早く帰えんねぇと怒られちまうぞ」






    俺はノートを受け取った。






    ウィズ「キルシュタイン分隊長、お気を付けて」






    ウィズがぎこちない様子で敬礼する。






    ジャン「下手くそ…
    まずは、敬礼から練習だな。
    じゃあな」






    俺は馬に跨り、訓練所を後にした。


  16. 16 : : 2015/08/05(水) 12:48:48
    さっきまではゆっくり帰ろうなんて考えていたが、今は最高速度で馬を走らせている。







    ウィズ…


    あいつはマルコにそっくりだった。






    そしてマルコが弟に俺の話をしていたなんてビックリだ…







    俺の気分は先程とは打って変わって清々しかった。


















    アルミン「やぁ、ジャン。おかえり」






    エレン「えらく遅かったなぁ」







    本拠地に戻ると、アルミンとエレンが出迎えてくれた。





    ジャン「あぁ…今日ちょうど入団式をしていてな…
    少し見学してきたんだ」






    俺はどさりとアルミンの隣に腰を下ろす。






    アルミン「入団式かぁ…懐かしいな…
    あ、ジャンも一緒にお茶飲まない?」





    ジャン「あぁ、頂くよ」







    そう言うとアルミンが手際よく俺にお茶を淹れてくれた。





    エレン「ん…あ?
    ジャン、そのノートなんだ?」





    エレンが俺の持っているノートを指差す。






    ジャン「あぁ…マルコの日記だ…」





    俺はそれだけ言って、お茶を一気に飲み干す。





    エレンもアルミンも特に何も言わない。






    何故わざわざ俺が訓練所に出向いたのか。





    そして、俺が目を赤く腫らして帰ってきた事。






    何も聞いてこない。





    エレンも年をとって空気が読めるようになったらしい。








    ジャン「アルミン…ごちそうさん。
    じゃあ、先に失礼するぜ」






    エレン「あぁ、また明日な」





    アルミン「今日はお疲れ様。
    ゆっくり休んでね」









    俺は自室に戻りさっそく日記を開く。







    あんな事言ったが、やっぱり何を書いてるか気にはなっちまう…


  17. 17 : : 2015/08/05(水) 13:25:34
    【847年 4月1日 晴れ】

    今日は待ちに待った入団式だった。


    やっぱり訓練兵のほとんどが憲兵団を志願しているらしかった。


    強そうな人達もたくさんいるけど、僕もみんなに負けないように訓練を頑張ろう。


    友達もたくさん出来るといいな。









    ジャン「おいおい…
    こいつ入団式初日から日記書いてたのかよ…」









    【847年 4月2日 晴れ】



    今日は初めての訓練があった。

    といっても、立体起動装置を使う前の適正判断だそうだ。


    みんな軽々とこなしていて凄いなと思った。



    僕もなんとか体制を保つ事が出来たけれど、みんなみたいに上手くは出来なかった。



    そう言えば…適正判断の時に頭をぶつけていた子がいたけど…

    怪我の具合は大丈夫かな…?








    俺は静かにページをめくっていく。





    マルコは毎日かかさずに、今日の出来事や訓練の内容を書いていた。







    【847年 4月10日 曇り】


    今日、夕食の時に憲兵団に入りたいという話をみんなでしていた。

    みんなそれぞれ憲兵団に入りたい理由があるようだった。


    もちろん、僕にだってある。

    王の元で働くのが僕の昔からの夢だったからだ。




    でも、そう言う僕に対してジャンという奴はお利口ぶるな!なんて言ってきたんだ。


    その後も、本当は内地で安全でかつ快適な生活を送るためだろ?と言ってきた。


    彼が憲兵団に入る理由はそうかもしれないけれど、僕は違う。




    僕は少し彼が苦手に思えた。








    おーおー…


    俺の悪口が書かれていやがる…





    まぁ、昔の俺は今と比べもんにならねぇくらいに性格がひん曲がっていたからな…









    【847年 4月18日】


    なんと、僕に初めて親友と呼べる相手が出来た。

    その相手はなんと…ジャンだ!

    初めの頃は嫌な奴だと思っていたけれど今日、彼にはたくさん助けられた…



    今日の対人格闘術の時に僕は足を痛めて医務室に行ったんだけれど部屋には誰もいなかった。


    仕方ないからベッドで先生が来るのを待っていたんだけど一向に現れない。


    もう昼食の時間なのに足が痛くて食堂には行けないから昼食はお預けか…と落ち込んでいた。


    そんな時に医務室の扉が開いて誰かが入ってきた。


    僕はやっと先生が戻って来たんだと思った。



    けれど、カーテンの隙間から顔を覗かしたのはなんとジャンだった。



    ジャンは少し恥ずかしそうに、腹減ってるだろうと思って…と言いながら昼食を持ってきてくれた。


    僕はこの時、ジャンは本当は優しい人なんだなと思った。


    そしてまだ治療していない僕の足をみて、しょうがねぇな…と言いながら包帯を巻いてくれた。


    ジャンについてもう一つ分かった事がある。



    彼は素直じゃなくて、その上不器用だ。


    ジャン今日はありがとう。





  18. 18 : : 2015/08/05(水) 14:04:30
    そう言えば包帯を巻いてやった後、次の訓練まで2人でいろんな話をしたな。


    憲兵団の事…


    訓練の事…


    エレンの事…



    いや、話したというよりは俺が一方的に喋ってそれをマルコが聞いていただけだったような…







    【847年 5月1日 晴れ】


    訓練兵になって1ヶ月が経った。


    相変わらずエレンとジャンは喧嘩ばかりして大変だ。



    止める僕の身にもなってほしい…



    そして最近になって段々と訓練が厳しいものになってきた。



    けれど辛い訓練の後に、ジャンと一緒に食事をしたり話したりするのはやっぱり楽しいし疲れも忘れてしまう。


    そして僕はジャンについて色々分かってきた。



    ジャンは素直じゃないし、口下手だからいつも悪い方向に転んでしまって喧嘩が起きる。


    けれど本当は友達想いで優しい奴だ。


    あと…ジャンはミカサの事が好きらしい。


    ジャンを見ていればわかる。



    難しい恋だろうけど、頑張ってほしいな。











    …俺はミカサに対してそんなに露骨だったか?





    …いや…十分露骨だったな。




    若気の至りというか…とにかく昔の自分に対してすごく恥ずかしくなった。









    【847年 5月23日 雨】


    今日は訓練兵になって初めての休暇だった。



    あいにくの雨だったけれど、僕は久しぶりにジエナ町にある家に帰省した。



    そして、幾度となく手紙で家族に紹介していたジャンの事を家族みんなに話した。




    彼は僕の大親友である事。


    たまに少し嫌なところがある事。


    けれど本当はすごくいい奴だという事。


    あと、立体起動術なんかがすごく上手だという事。



    とにかくたくさんの事を話した。



    家族は素敵な友達を持ったね、と言ってくれた。


    本当にジャンは僕の自慢の友達だ。









    ジャン「ベタ褒めしすぎだろ…」





    マルコがこんな風に思ってくれていたのは嬉しい事だが…



    正直顔から火が出るほどに恥ずかしい…










    それからマルコの日記は毎日書かれており、1年分の日記を読み終わった頃にはもう日が昇りかけていた。






    ジャン「こりゃまずいな…
    全部読んでたら会議に遅れちまう…」






    俺は日記を静かに閉じた。







    日記を読んでいるうちにいろんな思い出が蘇り、書かれている事全てがまるで昨日のことのように感じた。







    今まではマルコの事を思い出す度に、泣きたくなるような胸がギュウッと締め付けられるようなそんな気持ちになっていた。







    けれど今は…なんというか…



    温かい気持ちというかほっこりするような、そんな感じだった。





  19. 19 : : 2015/08/05(水) 15:34:10
    ふと、ある事を思い出して俺はもう一度日記を開く。








    マルコがこの世を旅立つ前日…




    つまり、再び壁が壊されたあの日もマルコは日記を書いていたのだろうか。






    分厚いノートをペラペラとめくっていく。






    ジャン「この日で日記は終わっているな…」








    【850年 3月15日】



    今日、再び壁が壊された。



    新兵の僕達は否応なしに戦場へと送り込まれる事となった。






    広場に集められた時、全員が絶望しきった顔をして泣き叫ぶ者やその場で吐き出す者もいた。





    僕もそんな中の1人で体の震えが止まず、気を抜けばその場に倒れてしまいそうだった。





    いつも実践の事を考えながら訓練をしていたハズだった。





    けれど、本当に巨人と戦うとなると言い表せない程の恐怖に襲われた。







    新兵の中でもシガンシナ出身のエレンやミカサなんかは巨人を見た事があると言っていたが僕はこの日初めて巨人を見た。




    いや、ほとんどの新兵は初めて見るだろう。






    聞いていたよりも、想像していたよりも巨人は大きく感じた。





    正直こんな奴らに勝てる気がしなかった。







    けれども僕達は前進しなければいけない。






    巨人を目の前にして逃げてしまえば死罪に値するからだ。





    けれど逃げ出してしまいたい程、状況は最悪だった。



  20. 20 : : 2015/08/05(水) 21:02:39
    僕達は中衛部にいたはずだった。




    けれど巨人はどんどん、どんどんこちらへと向かってくる。




    ジャンが、いつも偉そうにしてやがる前衛の上官方は何してるんだ?と悪態をついていた。




    ジャンはパッと見はいつもと同じ様子だったけれど、中身は煮えくり返っていたに違いない。





    そして僕達は前衛へと駆り出されてしまった。





    前衛の上官方は全滅したらしい。





    いよいよ僕達は巨人と戦わなければいけないらしい。



    恐怖で気が狂ってしまいそうだった。




    そんな時、助けてくれたのがやっぱりジャンだった。




    ジャンは僕の心情に気付いたのか、いつものような笑顔でこう言ってくれたんだ。




    マルコ。本当は明日から俺たちは憲兵団になるハズだった。
    けど少し予定が狂っちまったみてぇだな。
    まぁ…どのみち俺達2人そろって憲兵団に入る運命は変わらねぇさ。
    今日1日だけ、頑張ろうぜ。




    そんな風に僕を励ましてくれたんだ。




    こんな時なのに、自分だって怖かったハズなのに。



    やっぱりジャンは強いなと思った。






    それからの事はあまり良く覚えていない。




    ハッキリと覚えているのは、撤退の鐘が鳴ったあたりからだ。




    僕は奇跡的に生き残ることが出来た。


    もちろん、ジャンも無事だった。




    それなのに僕達は壁を登れずにいた。




  21. 21 : : 2015/08/05(水) 21:41:06
    マルコ……期待!
  22. 22 : : 2015/08/05(水) 23:28:13
    僕達のボンベには壁を登れる程ガスが残っていなかった。


    もちろん、そういう事態が想定されていなかった訳じゃない。



    ガスの補給所を守っていたハズの補給班が戦意喪失し、籠城してしまったんだ。




    そんな事している内に補給所にはたちまち巨人が群がってしまい、近付くことが出来なくなってしまった。



    絶望的だった。



    壁に登れなくなってしまった兵士は、僕やジャンの他にも沢山いた。




    だから皆で補給所へ行こうという勇敢な兵士もいた。




    けれど新兵がどれだけ群がってもあの巨人の大群に勝てるとは到底思わなかった。





    正直、僕はここで死ぬんだと思った。




    いや全員街から出れずに全滅すると思った。



    死を覚悟していなかった訳じゃない。




    前衛に駆り出された時から死が頭を何度もよぎり、その度に人類を助ける為に死ねるなら本望と自分に言い聞かせた。



    けれどあの状況では一体何の為に僕たちは死ぬのか…




    住民の避難は完了した。




    僕達は任務を成功させたのに何故、意味もなく巨人に喰われなきゃいけないのか?



    僕達は巨人の空腹を満たす為の餌じゃない。




    こんなまぬけな死に方はあるだろうか?




    頭の中でそんな思いが渦巻いていた。





    そしてさらなる絶望が僕達を襲った。




    後衛にいたハズのミカサが何故かその場にいたんだ。




    いや、きっとエレンの無事を確認しに来たのだろう。





    そして僕はその時、初めてアルミン以外の第34班がいない事に気付いた。





    34班に何があったんだ。




    そう思った時にはアルミンは大声を上げていた。




    そしてその内容に僕は耳を疑った。





  23. 23 : : 2015/08/06(木) 08:34:13
    トーマス・ワグナー
    ナック・ティアス
    ミリウス・ゼルムスキー
    ミーナ・カロライナ
    エレンイェーガー

    以上5名は自分の使命を全うし、壮絶な戦士を遂げました




    アルミンの口からハッキリと聞かされた仲間の死。





    それによって僕達は限界を迎えた。




    肉体よりも先に精神が死んだのだ。




    けれどそこに光の手を差し伸べたのはミカサだった。




    あの口下手なミカサが僕達に発破をかけたんだ。




    全てを放棄しかけた僕達に再び生きる道を作り出してくれた。





    そして壁の外に残された兵士達は覚悟を決め補給所へと向かった。




    その道中、僕はまた地獄を見た。




    補給所へ向かう途中、僕達の目の前で仲間達が巨人に食い殺された。





    僕達は助ける事も動き出すこともできず、ただその光景を黙って見ているばかりだった。




    けれど、そんな僕達にジャンは的確な指示を出してくれたんだ。




    巨人が少しでもあそこに集中しているスキに本部に突っ込め




    彼はそう叫んだ。



    巨人に襲われている仲間を見捨て、そして利用するなんてひどいと思う人もいるだろう。




    でも実際、彼のその一言でみんなは補給所へと辿り着いたんだ。




    あの時、ジャンの指示がなければみんなその場から動けずに巨人の餌食となっていただろう。






    けれど彼は自分を責めていた。




    仲間の死を利用した事。



    自分の合図で仲間が死んでしまった事。





    全ての責任を彼は感じていた。





    でも、僕にはジャンの判断は正しいと思った。





    いや…みんなも正しいと思ったからこそジャンの指示に従ったのだろう。





    僕はジャンは指揮役に向いていると思う。





    ジャンは強い人ではない…




    いや、ジャンだけじゃない。




    僕もそうだし、大半の人間は弱いだろう。





    けれどジャンはそんな中で弱い人の気持ちを誰よりもわかっていた。




    だから、それと同じ目線から放たれた指示ならどんなに困難であっても切実に届くと思う。





    それに彼は現状を正しく認識することに長けていて、何をすべきかをいつも明確にわかっている。







    だから、ジャンには自分を責めないでほしかった。




    むしろみんな感謝しているんじゃないかと思う。




    僕もジャンにはすごく感謝している。






    おっと…話がずれてしまった。






    補給所についた僕達は補給班から話を聞いた。





    補給所に巨人達が攻め込んで来た事。



    そして補給班全員が戦意喪失した事。





    中には自殺した兵士までいるらしかった。







    補給班の話では3〜4メートル級の巨人が7体、補給室に進入したとの事だ。




    僕は、コニーとミカサと共に遅れてやって来たアルミンと作戦を考えた。






    そして僕はいつもアルミンの発想には驚かされる。




    僕じゃ到底思い付かないような作戦をいとも簡単に、それも精密に考え出す。





    この短時間で、これ以上の作戦なんて誰にも思いつかなだろう。




    だから誰一人としてアルミンの作戦に異論はなく早速、作準備に取り掛かった。







    アルミンの作戦はこうだ。



    まず、リフトで大勢の兵士が補給室へと降りる。




    その際、リフトに乗っている兵士達は囮となり十分にリフトの方へ巨人を引きつける。




    そしてある程度の距離まで巨人が来た所で、城内に残されていた散弾銃を使い巨人の視覚を奪う。




    その後は天井付近にスタンバイしている7人の兵士が巨人のうなじを上から狙うというものだった。





    失敗は許されない、一度きりの作戦というわけだ。





  24. 24 : : 2015/08/06(木) 09:49:26
    巨人を仕留めるという最も重要な役割を担ったのは、ミカサ、ジャン、ライナー、ベルトルト、アニ、サシャ、コニーの7名だった。



    そして、僕は作戦の指揮を任された。





    僕を指揮役にしようと言い出したのはジャンだった。




    巨人に向けて発砲するタイミングってかなり重要じゃねぇか?
    タイミングがずれれば視覚を奪えない。
    視覚が奪えないと俺達は巨人共に食い殺されるリスクが上がる。
    だから、俺は指揮役に向いてるマルコに発砲の合図を出して欲しい。




    そう言ってくれたんだ。



    そして周りのみんなも、僕が指揮をする事に賛成してくれた。



    正直すごく嬉しかった。




    僕がみんなに認められたような、そんな気がした。









    そしていよいよ作戦は決行された。




    7体のうち、1体でも奇行種がいれば作戦通りにはいかないだろう。



    そして、補給所にいる巨人の数が増えていても同じ事が言える。





    けれど不幸中の幸いか作戦通り、通常の巨人7体がいるだけだった。





    リフトが降りてきた事に気付くと、巨人達は僕達の方へ向かってきた。




    恐怖と緊張で体がガタガタと震えた。




    発砲のタイミングを早く出し過ぎて、視覚を奪えなければ意味がない。




    けれど、タイミングが遅すぎると今度は僕達が喰われるかもしれない。





    もう僕は全てにおいて限界を達していた。





    待て…待て…待て…





    無意識にそう呟いていた。



    みんなに言い聞かせる為じゃない、自分に言い聞かせる為に僕は口に出していた。






    そして距離が1メートル程に近付いた時、僕は合図を出した。





    散弾銃が次々と巨人に向かって発砲される。





    僕は無我夢中で巨人達に銃弾を打ち込んだ。






    そして、なんとか巨人7体の視覚を奪う事が出来た。





    後は斬撃組が仕留めてくれれば…





    あまりにも人任せかもしれないが、僕は必死に祈った。



    うまくいってくれ…と。






    そして…その願い通り作戦は成功した。





    途中、コニーとサシャが巨人を仕留めきれないというミスが起きたがアニとミカサのフォローでなんとか7体を仕留めることができた。





    これで、ガスを補給できる。



    そして壁の中に戻れるんだ。





    安堵のあまり、僕は倒れてしまいそうになった。





    僕達は生き残った。





    この地獄の中を生き抜いたんだ。





    後は明日の掃討作戦が終われば僕はジャンと一緒に憲兵団として働けるんだ。





    昔から夢みていた憲兵団…



    けれど僕には今日、心の変化があった。





    僕は王の元で働ける喜びよりも、ジャンと一緒に働ける喜びの方が遥かに大きかった。




    もしジャンが今、駐屯兵団に入ると言えば僕もきっと駐屯兵団に入ると思う。



    ジャンが調査兵団に入ると言うのなら僕も調査兵団に入ると思う。



    ジャンには、自分の意思はないのか?と怒られそうだけど…




    憲兵団に入れなくても、王の元で働らけなくても僕はこの先もジャンと一緒に過ごして行きたいと思った。



  25. 25 : : 2015/08/06(木) 15:14:48
    そして何故、僕が今日の出来事を赤裸々に書いたかというと…




    出来ることなら、今日の事はもう一生思い出したくもない出来事だ。




    けれど、書かなきゃいけないと思った。




    僕の生きた証として。




    今日の体験を得て、僕達はいつ死んでもおかしくないという事を思い知らされた。





    毎日が死と隣り合わせ…




    だから僕は死ぬまでこの日記帳に生きた証を記していく。





    そして今ここで僕は、唯一の親友にメッセージを残しておく。





    きっと彼がこれを見ている時には僕は死んでいるのだろう。





    彼は口が悪くムカつく所もあるけれど、本当は友達想いで優しくて、繊細な心の持ち主だから…


    きっと僕が先に旅立ってしまえば、彼はひどく悲しむだろう。



    そして彼の事だから、ずっと僕の死を引きずるだろう。




    自意識過剰だと笑われるかもしれないけれど、僕はこう見えてジャンの事は結構お見通しだ。




    だからジャン。



    もし今、僕がジャンの隣にいなくても悲しまないで。



    そしてもう引きずらないでね。




    ジャン…僕は君がいてくれてよかったよ。



    そして、いつもこんな僕に勇気を与えてくれてありがとう。



    君のお陰で僕は辛い訓練も、地獄も乗り越えてこれたんだ。



    ありがとう。





    本当は直接言うのが一番なんだけど、それは少し恥ずかしいからね…




    最後に。






    こんな残酷な世界だけど、生きる事を諦めるな。




    かっこ悪くてもいい。


    生きる為に足掻き続けろ。




    情けなくてもいい。


    泥にまみれてしまえ。





    挫折して転んだっていい。


    けれど最後には立ち上がれ。





    悲しい事があれば泣けばいい。


    けれど最後には笑うんだ。




    たまには後ろを振り返ってもいい。


    けれどいつもは前を向いておけ。






    ジャン…

    死ぬなよ。














    日記はここで終わっていた。






    ジャン「偉そうに説教しやがって…」





    俺はいつの間にか泣いていた。






    マルコはまるで、自分が死ぬ事を分かっていたかのように思えた。







    ジャン「マルコ…こういう事は直接的言わねぇと伝わらねぇもんだぜ?」





    俺はマルコの日記を机の引き出しにそっとしまった。







    窓の外はもう明るくなり始めていた。





  26. 26 : : 2015/08/06(木) 16:05:11
    俺は部屋を出て、食堂へ向かった。





    まだ朝が早いせいか誰も起きていないようだ。





    静かな廊下に俺の足音だけが響き渡る。












    ジャン「…あ?」





    誰も起きていないと思っていたが1人、既に起きている奴がいたようだ。





    ジャン「こんな朝早くに何してんだよ…」






    エレン「…ジャンこそ何してるんだよ」






    廊下の向かい側から現れたのはエレンだった。





    ジャン「あぁ…朝早く起きすぎたもんだからコーヒーでも飲もうかと思ってな…」







    エレン「そうか…
    …俺も一緒にいいか?」






    ジャン「あぁ、かまわねーよ」








    俺の顔を見れば一睡してないなんて一目瞭然だろう。




    けれどエレンは何も言わない。




    こいつはいつから、こんなに空気が読めるようになったんだ…




    まぁ、ありがてーがな…







    エレン「なぁ、俺にもコーヒー淹れてくれよ」





    ジャン「は?勝手について来といて厚かましい奴だな…」




    エレン「いいじゃねーか」





    ジャン「たっく…」







    俺達は昔みたいに喧嘩することは、ほとんどなくなった。







    まぁお互いもういい年だから、ギャーギャーと喧嘩してたらみっともねぇし…





    それに昔では考えられねぇが、今となっては俺達はお互いよき相談相手となっている。




    この歳になれば、プライドや立場なんかが邪魔をして弱音を吐けなくなったりしてしまう。





    エレンもきっとそうなんだろう。




    ただでさえ意地っ張りで頑固なエレンは幼馴染であるアルミンやミカサにすら愚痴や弱音なんかは言わない。




    その上若くして兵士長という立場にいるコイツにはそれなりのプライドがあるのだろう。





    俺もそうだ。



    もともとプライドが高く、誰にも愚痴や弱音は吐かないタイプだ。




    そして今となっては俺も分隊長の身だ。



    そう簡単に情けねぇ姿は見せられねぇ。






    けれど歳を重ね、位が高くなるに連れてストレスや不安などは積もっていく一方だ。





    だから誰かに吐き出してしまいたい。



    でも誰に?






    そうなった時、お互い昔から毎日のように喧嘩し、けなし合い、殴りあった俺達の間には変なプライドなんてモノはなかった。




    だから俺達は恥も承知で何でも話し合える相手となった。







    ジャン「んで、お前はこんな朝早くから何してたんだよ」





    俺は淹れたてのコーヒーをエレンに差し出す。





    エレン「…ん?俺か?
    ちょっと外の空気を吸いにな…」







    エレンが悩んでいる事、そして何を悩んでいるのか俺には分かっていた。







    きっとエレンも同じで、今俺の考えてる事や思ってる事なんて全てお見通しだろう。







    けれどお互い変な詮索なんてしねぇ。




    わざわざ聞かなくても言いたくなればエレンは話してくるだろう。



  27. 27 : : 2015/08/06(木) 16:55:26
    エレン「俺さぁ…
    今日の会議の事を考えると一睡も出来なかったんだ…」





    俺の思った通りだ。




    きっとエレンはその事で悩んでるんだろうと俺は踏んでいた。





    ジャン「まぁな…お前には荷が重いだろうな…」





    今日の会議は、調査兵団の役柄を総替えするという名目で行われる。



    いわば世代交代だ。



    そして噂によれば次期団長はエレンになるとかならないとか…






    エレン「俺には団長なんか向いてねぇし、そもそも団長の仕事なんかこなせる自信ねぇよ…」





    調査兵団は常に人材不足な上に、壁外調査に出る度に何十人と死人が出てしまう。




    そしてあまりの厳しさに調査兵団を辞める奴や、夜逃げする奴なんかもいた。




    そのせいで俺達は20代にしてかなり上の立場に君臨している。





    そして調査兵団ではキャリア数ではなく、実力を持っているものが次々と上に立つことになる。





    俺達104期は新兵の頃に地獄を味わったせいか実力なんかはかなりのものだった。






    ジャン「無理なら拒否すればいいじゃねえか」





    エレン「簡単にゆうなよ…
    お前はどうすんだよ?
    噂ではお前、副団長になるらしいぞ?」





    そう…


    噂では何故か副団長は俺だと言われていた。







    ジャン「あぁ…知ってるさ。
    まぁ、副団長にでもなれば給料も大幅アップするだろうし良いんじゃねぇか」





    エレン「いいじゃねぇかって…
    自分の事なのに他人事だな…お前…」



    さっきエレンには無理なら拒否すればいいと言ったが実際、俺達には拒否権なんか無いに等しい。









    エレン「…で?
    お前はいつになったらマルコやお前の部下を浮かばしてやるんだ?」





    ジャン「は…?」





    エレン「とぼけんなよ。
    いつまでマルコの死や部下の死を引きずるんだよ」






    そう、俺は親友だけではなく数ヶ月前に部下も亡くしていた。




    調査兵団では部下や上官を亡くすなんて日常茶飯事かもしれない。




    けれど亡くした俺の部下は他の部下と少し思い入れが違った。




    えこひいきとか、そう言うもんじゃねぇ。




    ただ俺はこの悪人ヅラのせいか部下からは怖がられ、避けられる存在だった。





    けれどそいつは他の奴らとは違い、妙に俺に懐いていた。




    なんでも俺に憧れて調査兵団に入ったんだとか。





    そして入団以来、そいつは毎日欠かさず俺の前に現れてはアドバイスや強くなる秘訣なんかを聞きに来た。





    "俺、キルシュタイン分隊長みたいになりたいです!!"



    いつかそんな事を言っていたそいつは俺にとっては可愛くて仕方のない部下だった。





    そして、そいつはどことなくマルコに似ていた。




    糞真面目なところ。




    さりげなく周りをフォローする気配りの良さ。




    そして俺の事を指揮に向いていると言ってくる所。





    俺は失礼かもしれないが、部下とマルコを重ねている部分があった。



  28. 28 : : 2015/08/06(木) 17:25:03
    そんな部下が、数ヶ月前の壁外調査兵で巨人に食われてこの世を旅立った。







    今でもアイツがひょっこり現れては、アドバイスを聞きにくるんじゃないかと思ってしまう。






    マルコと同様、俺は部下の死も受け入れられないままだった。






    エレン「お前の気持ちは分からなくもねぇ…
    けど先に逝った者としては、ジャンがそんなんだとマルコもお前の部下も浮かべねぇぞ…」






    わかってる…



    エレンに言われねぇでもそんな事わかってるんだ。





    エレン「でもさ…お前、昨日訓練所に自分から進んで出向いたじゃねぇか。
    自らマルコとの思い出の場所に行って、なんでか知らねぇがマルコの日記を持って帰ってきた。
    そんでさ、訓練所から帰ってきたお前の顔見て俺ちょっと安心したんだぜ」





    ジャン「安心?」




    エレン「あぁ、なんか心なしか晴れ晴れした顔してた。
    だから少し立ち直ったのかなって。
    けれどお前も今日から、分隊長より更に上の立場に立つことになる。
    いつまでもクヨクヨしてんじゃねぇよ」





    エレンは残りのコーヒーを一気に飲み干した。




    昔の俺とエレンなら今頃、胸倉を掴んで喧嘩していただろう。




    けれどエレンの言っている事は正しい。




    俺だって引きずってちゃいけねぇって思ってるさ。




    ジャン「お前に言われなくてもわかってる。
    それに…いつまでも引きずるなってマルコにも怒られたさ」




    エレン「マルコに…?」




    ジャン「あぁ、だから俺は今日でいつまでも引きずっている自分にケリをつけるつもりだったんだ。
    今日、会議が終わってからマルコと部下の墓に行ってくる…」





    そう。



    俺はマルコや部下が死んでから1度も彼らの墓に行ったことはなかった。




    彼らの墓を見てしまえば、嫌でも死んだことを受け入れなきゃならねぇから…



    俺はそれが怖かった。




    けれどエレンの言う通り。




    俺がいつまでも引きずっていたらマルコや部下は空に浮かぶことが出来ねぇだろう。






    ジャン「だから今日、会議が終わったあと休暇をくれねぇか?」




    エレン「俺に言うなよ。
    エルヴィン団長に言えよ」




    ジャン「…てめぇが今日から団長になるんだろーが」




    エレン「…あぁ、そっか…」







    俺達はその後2人で大笑いした。






  29. 29 : : 2015/08/06(木) 18:51:37
    エレン「よし!
    じゃあお前が墓に手を合わしに行った後、2人で祝福の意味を込めて飲みに行こうぜ!」





    ジャン「はぁ?何を祝福すんだよ…」




    エレン「お前がやっと前に進みだしたお祝いと、俺が団長になるお祝いに決まってるだろーが」





    ジャン「お前、なんだかんだ言って団長になる気満々じゃねぇか…」





    エレン「うるせぇ!
    こうなったら団長権限使って休暇を増やしまくってやる!」





    ジャン「おいおい…
    やっぱお前が団長で大丈夫かよ…?」





    エレン「冗談だって…
    俺は巨人を1匹残らず駆逐するのを夢見ている熱い男だからな!」




    ジャン「はいはい…そうだな…
    俺は会議の前にシャワー浴びてくるぜ…」





    俺はすっかり冷めきったコーヒーを一気に喉に流し込んだ。





    エレン「おぉ、行ってこい。
    また後でな」




    ジャン「あぁ、また後で…」





































    エルヴィン「よって、今日からエレン・イェーガーには団長となってもらう。
    そして、ジャン・キルシュタインには副団長となってもらう。
    2人とも…覚悟はいいか?」






    エレン・ジャン「はっ!!」









    噂通りエレンは団長に、俺は副団長に就任した。







    ジャン「悪りぃな、エレン。
    じゃあ、ちょっと行って来るぜ」






    エレン「あぁ、行ってこい。
    そして今日で全てを終わらせて来い」





    返事の代わりに軽く手を上げて、俺は馬を走らせた。





    墓地に行く前、街の花屋に寄り供えるための花束を2つ買ってまずは部下の墓へ向かった。








    ジャン「よぉ…
    なかなか来てやれなくてすまなかったな」






    俺は部下の墓の前に花束を1つ供え、手を合わした。






    ジャン「俺さ、今日から副団長になるんだぜ」





    少しの間部下の墓に向かっていろんな話しをした。



    最近の出来事や、現在の調査兵団の状況、また数ヶ月後に壁外調査に行く事。




    どれだけ話しても返事が返ってこない事実に、また少し涙ぐみそうになった。





    ジャン「あぁそうだ…
    お前にコレ、やるよ」




    部下の墓にそっと、俺のジャケットを掛けてやる。







    ジャン「俺はようやく前に進む事が出来そうだだ…
    だからお前も安心して、眠ってくれ。
    じゃあな…また来るぜ…」





    俺はそう言い残し、今度は親友の元へと向かった。



  30. 30 : : 2015/08/07(金) 13:09:01
    ジャン「よぉ、数十年振りだな…」




    俺は先程と同様に、墓の前に花束を供える。






    ジャン「お前が旅立ってから十数年もの間、ここへ会いに来なかった事をお前は怒っているか?」






    『あぁ、待ちくたびれたよ』





    マルコならそう答えるだろうな。







    ジャン「俺さ、昨日仕事で訓練所に行ってきたんだ。
    そしたらよぉ…お前の弟と会ったんだ。
    今年から訓練兵になったみてぇだぞ。
    初めてお前の弟…ウィズを見た時、マルコとそっくりすぎて驚いたぜ…」





    俺はマルコの墓の隣に座り混む。





    ジャン「ウィズの奴、調査兵団に入るらしいぞ。
    あ…そう言えば俺…
    憲兵団に入らねぇで調査兵団になったんだ…」






    そうだ…



    マルコは俺が調査兵団になった事すら知らないんだ…





    ジャン「マルコ、聞いて驚くなよ?
    俺、今日から調査兵団の副団長になったんだ。
    あの俺がだぜ?
    ありえねぇだろ…」





    もし、この話をマルコが本当に聞いていたら
    きっと驚いてやがるだろうな。




    いや…


    驚くより、ジャンに副団長は向いていると思うよ!なんて言われそうだな。






    ジャン「そうそう…
    お前に頼みたい事があったんだ。
    俺の可愛い部下が数ヶ月前にそっちに旅立ったんだ。
    お前にどことなく似てる所があるし、なかなか出来た部下だ。
    悪いが俺がそっちに行くまで面倒を見てやって欲しい」





    出来ることなら俺が面倒を見てやりたかった。




    けれどそれも、もう叶わぬ夢。





    だから俺があっちに行くまでの少しの間、親友のマルコに俺の夢を託す。







    ジャン「後な…ウィズからお前の日記を預かった。
    すまねぇが読ましてもらったぜ」




    あぁ、ダメだ…




    前を向くって決めたハズなのに、涙が溢れ出しそうになる。




    ジャン「お前の日記を読んでたらさ、訓練兵時代の事いろいろ思い出しちまった。
    最近は怒涛の忙しさで、過去を振り返る余裕もありゃしねぇ…」




    なんて言ったが、本当は違う。



    思い出さないようにしていたんだ。





    訓練兵時代の事を思い出すと、自然とマルコの事も思い出しちまうから…





    ジャン「お前の日記にもよく登場してたあの馬鹿コンビ…
    コニーとサシャは今や調査兵団の分隊長だぜ?
    相変わらずコニーは作戦を誤認しまくるし、サシャは馬鹿みてぇに良く食う。
    何も変わっちゃいねぇよ…」






    俺は溢れ出しそうな涙をグッと堪えながら話し続ける。





    墓参りに来た人達は、独り言を話す俺をチラチラと見ていく。




    けれど恥ずかしくともなんともなかった。




    馬と話している所をウィズに見られた時はちと恥ずかしかったが、馬とは訳が違うからな…






    ジャン「けどな、変わった事もあるんだぜ。
    訓練兵時代にあれだけ仲の悪かった俺とエレンは今となってはお互い良き理解者だ…
    よく2人で飲みに行ったりもするんだぜ」





    ジャン「あ…そう言えば今日からエレンは調査兵団の団長だ。
    ミカサは兵士長、アルミンは作戦班班長をしている」






    自分で話しておいてあれだが、俺達はみんな立派になったもんだと思った。
  31. 31 : : 2015/08/07(金) 17:02:48
    ジャン「さて、そろそろ行くぜ…」



    俺はそう言って立ち上がり、ケツについた砂を払う。




    ジャン「お前の日記のおかげで俺はようやく、前に進める…
    ありがとうな。また来るぜ…」





    俺はマルコの墓に背を向けて歩き出す。










    サワサワと気持ちのいい風が俺の肌を撫でるように吹きはじめた。






    『ジャン、生きろよ…』





    そして風に乗ってマルコの声が聞こえたような気がした。




    ジャン「あぁ、俺はまだまだ死なねーよ。
    なんたってお前の弟…ウィズから預かっているお前の日記帳を返さなきゃなんねーからな。
    じゃあな。



    …お前もこれからは安心して眠れよ」









    俺はマルコが死んでから"死"を恐れすぎていた。




    自分が死ぬのが怖いんじゃない。





    自分が死ぬより、上官、仲間、部下が死ぬのが怖かった。





    そして部下が死んだ時、俺は本気で調査兵団をやめようと思った。




    兵士でいる限り、今度は誰が死んでしまうのか?そんな事ばかり考えなければいけない。





    もう仲間達が死んで行くのを見るのは嫌だった。





    それをエレンに話した時、アイツはこう言ったんだ。





    『ジャン、仲間達が死んで行くのを見るのが嫌だからって調査兵団を辞めるのはただ逃げているだけじゃねぇか?
    本当に仲間達に死んで欲しくねぇなら、調査兵団を辞めるんじゃなくて仲間達が死なねぇようにお前が守ってやれよ』








    俺はその言葉を聞いてハッとした。




    そして、もう逃げるのは辞めたんだ。







    だから第一歩としてマルコとの思い出の場所、訓練所に出向いた。







    エレンの一言。



    ウィズの存在。



    マルコの日記。






    偶然が重なり合ってようやく、数十年もの間俺を縛り付けていたものから解き放れた気がした。







    ジャン「団長就任の祝いと感謝の気持ちを兼ねて、今日は俺が奢ってやるかなぁ…
    今日はぜってぇ朝までコースだろうな…」






    俺はエレンの待つ本部へと馬を走らせた。






    俺は生きている限り仲間達を、大切な人を守る事が出来る。












    俺の気持ちは今までに無い程晴れやかだった。








    END
  32. 32 : : 2015/08/08(土) 11:53:07
    Nice!
  33. 33 : : 2015/08/08(土) 14:30:56
    素晴らしい
  34. 34 : : 2015/08/08(土) 16:13:30
    神作品
  35. 35 : : 2015/08/08(土) 16:41:05
    いい作品でした!お疲れ様ジャン
  36. 36 : : 2015/08/08(土) 19:59:37
    やばい、涙が出てきた(マジで)
  37. 37 : : 2015/08/08(土) 20:20:46
    とても素晴らしかったです
    感動しました!
  38. 38 : : 2015/08/08(土) 20:57:26
    何これ、なにこれ、ナニコレ、ナニコレ…泣&感動
  39. 39 : : 2015/08/10(月) 15:26:00
    あなたが神か
  40. 40 : : 2015/08/10(月) 18:25:00
    素晴らしい作品でした!
    これからも頑張って下さいね!
  41. 41 : : 2015/08/14(金) 20:28:58
    イイハナシダナー
    なんてこったwww
    eyeからwaterが流れてくるではないか

  42. 42 : : 2015/08/16(日) 15:04:02
    泣きました。最高です!!
    マルジャン大好きです!!!!
  43. 43 : : 2015/09/06(日) 19:55:24
    サイッコー!
  44. 44 : : 2017/10/03(火) 17:05:41
    神作品ですね!
  45. 45 : : 2020/10/06(火) 10:15:05
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986

    http://www.ssnote.net/categories/%E9%80%B2%E6%92%83%E3%81%AE%E5%B7%A8%E4%BA%BA/populars?p=18

▲一番上へ

名前
#

名前は最大20文字までで、記号は([]_+-)が使えます。また、トリップを使用することができます。詳しくはガイドをご確認ください。
トリップを付けておくと、あなたの書き込みのみ表示などのオプションが有効になります。
執筆者の方は、偽防止のためにトリップを付けておくことを強くおすすめします。

本文

2000文字以内で投稿できます。

0

投稿時に確認ウィンドウを表示する

著者情報
ayana0518

進撃のあっち

@ayana0518

「進撃の巨人」カテゴリの最新記事
「進撃の巨人」SSの交流広場
進撃の巨人 交流広場