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GIFT
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- 1 : 2015/07/31(金) 00:54:11 :
- 【注意】
・ルビのオンパレード。
・ルビが生命線。
・ルビ無いと読めないまである。
・安心して、ルビはあるから。
・面白いかどうかは、あなたしだい。
これ注意とちゃうくないすか。
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- 2 : 2015/07/31(金) 00:55:02 :
「ねえちゃん、『まほう』って知ってる?」
「『まほう』?うん、知ってるよ。絵本とかではシンデレラが『まほう』でぶとーかいに行ったんだよ!」
「ふうん……」
「どうかしたの?」
「さっき、大きいお姉ちゃん達が言ってたんだ。『まほう』使えるようになったかもーって」
「へええ!ねえねえ、どんな『まほう』なのかな?」
「ううん……それはわかんないけど……。でも言ってたよ、『まさかさま』に教えてもらったんだって」
「『まさかさま』?」
「うん、さかさまにしても『まさかさま』。いったいどんな人なのかなあ……」
「『真逆様』はね。■■■■だよ」
「……ねえちゃん?」
「貴紀 、■■■に■■■を■■■?」
「ねえちゃん?聞こえないよ、なにいってるの?」
「貴紀、ねえ、貴紀……『まほう』は『魔法』なんだよ?」
「ねえちゃん?どうしたの?おれ、怖いよ」
「貴紀……■■。■■■、■■■■」
「やめて……止めろ……」
「■ ■ ■ ■ ■」
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- 3 : 2015/07/31(金) 00:55:36 :
「うわああああああああ!!!????」
ベットから転げる落ちるように俺は起きた。
最悪の目覚めだ。
心臓の音が馬鹿みたいに五月蝿い。
まるで心臓を直接何かに叩かれてる様に喧しい音を響かせている。
身体中、寝汗でべっとりてしていてすげえ気持ち悪い。
何より今の夢は何だったんだ。
まだ呼吸は荒く、頭もロクに働かない。
「はぁ…はぁ……」
呼吸をして、とにかく自分を落ち着かせる。
……ふぅ、だいぶ落ち着いてきた。
落ち着いてきたからかどうか知らないが、さっきベットから落ちた時に腰を打っていたようで痛む。
……何の夢だったんだ。
覚えてるのは俺と[ruby]紀未(きみ) [/ruby]が小さくて、何処かで何かの話をしてて……何だっけ。何の話かは忘れた。
それから、急に紀未が大きくなって、俺に何かを言って……それがすげえ怖かったんだっけ。
「……はぁ、駄目だ。もうあんまり思い出せねえ。そんなに思い出したくもないけど」
ベットの横にあった時計を見ると、6時前だった。
いつも起きてる時間より1時間も早いが、今更寝る気にもならないし汗を流して、ゆっくりする事にした。
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- 4 : 2015/07/31(金) 00:56:02 :
「やっべ、結構時間ギリギリじゃん」
録画していたドラマを見てたらあっという間に時間は過ぎてった。
その頃にはもう俺の頭から夢の事なんて綺麗さっぱり消えてなくなっていた。
俺はカバンを持って、玄関に向かう。
その途中で紀未が鏡台の前に立っているのが見えた。
ちっ、と思わず舌打ちしてしまう。
俺の家は両親が共働きでその上、家を早く出るので俺らは一緒に飯を食って、一緒に家を出る。
一応、断っておくが紀未は俺の双子の姉だ。
地味な癖に鏡の前でダラダラとしている姿を見ていると無性に腹が立ってくる。
「おい、紀未。早くしろよ」
「あ、ごめん……」
「ったく、地味な癖に鏡の前で何やったって変わらねえよ」
「…………」
紀未はそれ以上何も話さなかった。
地味であんまり喋らないから何を考えてるかも分かったもんじゃない。
2人で家を出て、紀未が鍵を閉める。
俺はそれに見向きもせずに通学路を歩く。
それが俺の日常でいつも通りの朝だ。
……紀未にとってもそうなのかな。
って、なんで俺があいつの事を……。
ぶんぶんと首を振って俺はダッシュで学校へ向かった。
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- 5 : 2015/07/31(金) 00:57:53 :
-
「おーい、神尾 〜」
2時限目の休み時間に小さい頃からの付き合いである柏木 が教室のドアから顔をのぞかせた。
ちなみに神尾は俺の名字だ。
「……?」
「あ、ごめんごめん。貴紀の方」
ちっ……神尾は俺だけの名字じゃないんだった。
このクラスにはたまたま偶然、神尾が2人いるんだった。
紀未が神尾と呼ばれて、ガタンと椅子を揺らしたのだ。
わりと良くあることなので、柏木にはなるべく下の名前で呼べって言ってるのに……。
俺はちょっと不機嫌そうに柏木の所に向かう。
「なんだよ」
「あっ、わりーわりー。名字で呼ぶといつも姉ちゃんの方が先に振り向くよな」
「あぁ……友達もいねえくせにな」
「また………お前は姉ちゃんにきついなぁ。家でも気まずいだろうに」
「別に関わらねえからいいよ。……それに、昔からって訳でもないし」
「へえ、そうなの?」
「まあ、子供だったし一緒に遊ぶくらいは……双子だったから姉弟ってか友達みたいな感じが強かったな」
「今でも十分子供じゃねえかよ」
「うっせー」
と、そんな他愛の話をしていたがそう言えばこいつは何の用で俺を訪ねてきたんだ?
なんか変な方向に話が逸れたし……聞くか。
「なぁ、かしわ──────────」
『真逆様』
「──────────ッ……!?」
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- 6 : 2015/07/31(金) 00:58:30 :
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今の声は誰だ?
柏木?いや違う、さっき聞こえたのはもっと高い……女の声?
いや、それよりも気になることがある。
『まさかさま 』って何だ ?
何でこんなにざわつくんだ?
まるで心の奥をつつかれてるような……記憶の底をひっくり返されてるような……そんな違和感。
不快感は無い、不快感は無いが得体の知れない気持ち悪さは感じていた。
俺は何処かで……『まさかさま』を……『真逆様』……?
「お、おい、貴紀?大丈夫か?顔色悪いぞ」
「あっ、柏木……。い、いや大丈夫だよ。少し眩暈がしただけだから」
「そうか?それなら良いんだが……」
心配そうな目で柏木はそう言った。
……大丈夫、落ち着いた。
それにしても今日は朝から散々だな。
起きた瞬間から気分悪いし、変な幻聴も聞こえるし。
「ああ、心配いらないよ。ところでお前は何の用だったんだ?」
「あ、そうそう。なんか最近さ、女子の間で流行ってるおまじない……女子曰く『魔法』って言うんだけど聞いたことないか?」
「『魔法』?聞いたことないな……流行ってんのか?」
ピリっと一瞬頭に痛みが走る。
おそらくさっきの眩暈の延長線上だろうからあまり気にはしなかった。すぐに消えたし。
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- 7 : 2015/07/31(金) 01:00:28 :
「流行ってるらしいんだよ。何でも質問を書いた紙を手順を踏んで靴箱に入れておくと、それに対する回答が返ってくるんだと。その手順はな、みんながみんな知れる訳じゃねえらしい」
何ともまあ……胡散臭いというか良くある話というかそんな類いの話だなと思った。
何となく曖昧だし。でも流行ってるって事は実際に成功した人がいるって言うのか?
「ふうん、じゃあ誰が知れるんだ?」
「それは分からないらしい。ただふと気づいたらポケットや靴箱の中に手紙がその人に届いているらしい。そこに書いてあるんだとさ」
「へぇ、くだらないなあ。どうせ誰かのイタズラじゃないのか?」
「うーん、俺もそう思ってんだけど……その質問に対する回答がさ、絶対に外れないんだってよ?まあ真偽の程は知らないが……」
「……ま、何にせよ用がそれだけならもう帰ったがいいぜ。あと5秒で予鈴鳴るから」
「は!?言うのおせえよ!じゃーなっ!」
そう言って柏木は予鈴の響く廊下を走り去って……あ、コケた。
ありゃ間に合わねえだろうな。
って、俺も席に座らないと怒られちまう。
そう思って教室に戻ったらたまたま紀未と目が合っちまった。
眼鏡の奥のアイツの瞳は何かを言いたげで、だけどアイツの口は開かない。
「っ……」
俺はすぐにアイツの目から視線を離して席に座る。
言いたいことがあるなら言わないと分からない。
アイツは、だから何もできないし何も変わらないんだ。
俺の中に、何とも言えない重苦しい気持ちがずっしりとのしかかった気がした。
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- 8 : 2015/07/31(金) 01:00:54 :
「ふぅ……疲れたな」
ぐぐーっと伸びをして、一息つく。
特別何かの部活に所属してる訳ではない俺は学校の授業が終わってしまえば後は自由の身である。
今日は誰かと帰る用事も無かったし、とっとと家に帰ってドラマの続きでも見ようか。
そう思い荷物を持って席を立つ。
あ、柏木と帰ろうと思ってたんだっけ……まあいいか。特別何か用事があった訳ではない。
と、そういえば家のカギどこにやったっけな。
いつも鍵を入れてるリュックの中を確認してみるが無かった。
おかしいな……。
そう思いズボンのポケットに手を入れると、右のポケットからガサっと音が聞こえた。
不思議に思って探るとどうやら紙が入ってる様だった。
はて、ポケットに何かを入れた覚えはないのだが……。
それを取り出してみると閉じられていてパッとは見られない様な作りになっていた。
ますます心当たりが無いのだが……俺は恐る恐るその紙に何が書いてあるかを見た。
「…………冗談だろ」
それを見た俺は震える声でそう言った。
紙を持っていた手を思わず離してしまう。
それほどまでに驚くべき事が書いてあったのだ。
『かみおたかのりくんへ
なやめるきみに『まほう』をおしえましょう。じぶんのがくねんくみばんごうを書いててその紙にしつもんを書くのです。
そしてそれを朝のうちにげたはこに入れておくのです。
『まほう』はすべてにこたえます。 【まさかさま より】』
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- 9 : 2015/07/31(金) 01:01:17 :
まるで幼稚園児かそこら辺の子供が書いたような拙い字でそれは書いてあった。
誤字もあるし……ただのイタズラか?
とは言っても今日は体育は無かったし、誰かと接触するような事も無かった。
だからそんなイタズラを出来る人なんて誰も──────
いや。
1人だけいた。
俺が制服を身に付けてないタイミングでこれを入れることが出来る人間が。
紀未が朝のうちにこれを入れていたなら可能性はある。
……なんて言っても俺が1日中ポケットに手を入れなかったかは覚えてないし、もし入れてたらすぐに気づいただろう。
つまり紀未の可能性も0ではないにしろ低い事は間違いないだろう。
「んー……書いてみるか」
考えた結果、これにある通りに書いてみることにした。
言われた通りにして、何も起きなかったら誰かのイタズラ……まあ誰であっても今更怒る気もないけど。
もし何か起きたら……その時はその時だ。
ちょうど鍵がどこに行ったか分からないし質問はこれでいいだろう。
「俺の家のカギはどこにありますかっと……よし」
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- 10 : 2015/07/31(金) 01:03:02 :
しっかり1年5組8番と書き記し、下駄箱に手紙を入れた。
実を言うと少しワクワクしてはいる。
誰かのイタズラかもしれないとはいえ、こういったオカルトじみた物には好奇心が働くものだ。
少し高鳴る胸を落ち着かせながら待つこと5分。
「………そろそろ良いよな」
俺は時間潰しじゃないがトイレから戻ってくると時計を確認した。
よし、来るなら来い。
ガチャンと下駄箱の小さな扉を開く。
そこにはさっき手紙を置いた場所と同じ場所に手紙が置いてあった。
取り出してみるがそれは俺の入れた紙と同じものだった。
ちゃんと2つ折りにもなっているし、結局イタズラだったんだろう。
「はは、俺もこんなのでワクワクして馬鹿みたい……だ…………」
絶句。まさに読んで字のごとく、俺は言葉を失った。
違ったのだ。置いた場所は同じでも書いた紙は同じでも、書いてある内容が違ったのだ。
それも、全部字が逆さまで書いてある 。
俺は額から落ちる汗を拭うことも出来ずに、震える足でトイレに駆け込んだ。
「はぁ……はぁ……クソ、冗談だろ……」
俺は手紙を鏡に写して内容を読んでみる。
『きみのカギはじぶんのへやの机のうえにおきっぱなしだよ。しっかり確認してから家をでないとね。』
そう、書いてあった。
それだけが書いてあった。
うるさいほど鳴り響く鼓動がますますそのスピードを早めていく。
……帰ろう。きっともう紀未は家にいる。
帰れば本当かどうか分かるんだ。
誰かがデタラメを書いただけかもしれない。
だから、はやく。
俺は下駄箱で靴を履き替え、全速力で家まで走り続けた。
「キヒッ」
背後で誰かが笑っていたのなんて、気づけるはずがなかった。
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- 11 : 2015/07/31(金) 01:05:54 :
「はぁ……はぁ……」
家に帰ってただいまも言わずに部屋に直行して、俺は机の前に立っていた。
呆然と立っていた。
そりゃあ呆然となったって仕方ないだろ?机の上に鍵置きっぱなしなんだからさ 。
「……貴紀?貴紀、帰ったのー?」
ドアの向こうから紀未の声がしたが俺は返事をしなかった。
する気になれなかったとも言えるが。
……あれ?
ちょっと待て。俺が机の上に鍵置きっぱなしだった事が分かるのって紀未だけじゃないか?
そりゃそうだろ、同じ家に居るんだからさ。
俺のポケットに手紙を入れられるのも紀未だけ、質問の内容に答えれたのも紀未だけ。
……じゃあそれってもう、紀未が犯人じゃんかよ。
「貴紀、今日母さん遅くなるって────────」
「…………んだよ」
「え?」
「なんなんだよ……わざわざ字まで逆さまに書いてさ……!」
「た、貴紀?どうしたの?……ん?今何か隠した?手紙?」
「見るなよっ!」
「きゃっ」
紀未の小さな頭に俺の腕が当たった。
それに乗じて紀未の軽い体が浮いて、転んでしまった。
やっちまったと、素直に思った。
紀未を殴ったと、顔が青ざめてしまった。
「あっ、あ、ごめ……そ、そんなつもりじゃ」
「良いよ」
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- 12 : 2015/07/31(金) 01:06:25 :
紀未がメガネを拾わずに立って、そう言った。
思わずぽかんとしてしまう。
「……良いよ。私こそごめんね。勝手に部屋入っちゃって」
「あ、いや、別にそんなのは……」
「母さんがご飯チンして食べてだって」
姉の声が。
姉の顔が。
「……今日はカレーみたいだよ」
ドキンとした。心臓が跳ねるような感じがした。
姉が……紀未が俺に向けた顔は笑顔だったから。
その笑顔が、まるで別人のように………綺麗だったから。
俺が、姉のお節介焼きを疎ましく思い始め、露骨に姉の事を避けるようになってからというもののこんな風に面と向かって笑顔を向けてくれた事は無かった。
だけど。
俺はいつかきちんと謝って、昔のように仲良く出来るんじゃないかと身勝手ながら思っていた。
心から謝れば姉に許してもらえるんじゃないかと。
「あ、あのさ。さっきのは怒ってたんじゃなくて……あの下駄箱の変な噂聞いちゃってさ。それで……知ってる?ま、まさかさまーとか……」
バキンと。メガネの壊れる音がした。
姉がその足で、自らの足で、自分から壊した。
「……なあに?」
自分から壊したんだ。
そう、自分から壊した……自分から壊したくせに。
「……なんでも、ないよ」
俺が壊したんだ。自分から姉との関係を。些細な事で。
でも、もし。
もし戻せたならと、俺は思っていた。
身勝手に、そう思っていた。
「『まさかさま』に、聞いてみよう……」
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- 13 : 2015/07/31(金) 01:10:54 :
「神尾さあ、最近雰囲気変わったよね」
「ああ、姉の方?」
「メガネ壊れたからコンタクトにしたらしいよ」
「なんか明るくなったよねー」
と、言う人は多かれど大抵の人は弟である俺に言ってくる。
いや本人に言えよと。
いやまあ確かに今まで話したことのない人と話すのは気が引けるかもしれない。
それが今まで暗いと思ってきて、誰にも相手にされてなかったとなれば尚更だろう。
だからと言って弟に言われてもどうしようもないのである。
『魔法』を知った翌日から早速うんざりだという旨を柏木に伝えたのだった。
「んー?まあ姉ちゃんが人気出てきて弟としては複雑ってか?」
「なっ、そ、そんなんじゃねえよ!ただ俺はいちいち俺に言ってくるなって思っただけでよ……」
「んなもんお前、それこそそんな事俺に言わないでそいつらに言ってこいよ。ブーメラン刺さってるぞ」
「ぐ……ま、まあそうだけどさぁー」
昼飯を2人で食いながらそんな他愛も無い話をしていた。
案外こういう事を話すのはこいつだけかもしれない。
「ところで貴紀。結局あの後、『魔法』についてなんか分かったか?」
柏木のその質問に俺は即答出来なかった。
だって俺は現に体験してしまったのだ。『魔法』を。
……まだ1回だけだが、その1回で『魔法』の事を信じざるを得なかった。
柏木からの質問に俺はなんと答えるか少し迷ったが、俺は結局言わないでおくことにした。
「……いや、さっぱりだよ。紀未にも聞いたけど知らないって」
「ふーん、そうかあ。やっぱデタラメなのかな」
「デタラメに決まってんじゃん。あ、俺行くとこあるから。悪いな」
そう言って、俺は席を立って柏木の元を後にする。
「あっ、おい!……なんだあ?あいつ」
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- 14 : 2015/07/31(金) 01:11:29 :
『姉を突き飛ばしてしまいました。姉は起こっているでしょうか? 1508』
そう書いた手紙をポケットから出すと、俺はそそくさと下駄箱に入れた。
……ちゃんと、答えてくれるだろうか。
今回は前とは違って少し難しい質問だったからちゃんと答えが返ってくるか心配だった。
バタンと、下駄箱を閉じる。
「貴紀?何してるの?」
不意に声をかけられて振り向くと紀未が立っていた。
見られたかと思ったがちょうど階段から降りてきたらしく多分見られてはいない。
「……何だっていいだろ。いちいち聞くなよ」
「授業、始まるよ。行かないと」
「……うるせーな」
またやってしまった。
心にも無い暴言。
後ろめたさと申し訳なさで背中を丸めてそこから立ち去ろうとする。
「ふふっ」
……え?
「貴紀はかわいいなぁ」
姉が。
姉がそんな風に声をかけてくれたのはここ数年で1回も無くて。
いつも姉は申し訳なさそうに立ち去るだけだったから。
「……はは、何だよそれ」
最近やけに機嫌がいいなーとか。
何かいいことでもあったのかなーとか。
そんな呑気なことをぼんやりと考えていたんだ。
「キヒッ」
考え事をしてたからか、後ろで何かが笑っていた事にも気づく事は無かった。
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- 15 : 2015/07/31(金) 01:12:05 :
「貴紀ー、帰ろー」
柏木が教室の外から顔を覗かせた。
「おー、ちょい待ってー」
俺は荷物をまとめて教室を出た。
「あー、夏にどっか行きてえなー」
「だな、プールとか行きたい」
「あ、プールいいじゃん!行こうぜ!他の奴らも誘ってさ!」
「おっけーおっけー。どうせ暇だし何時でも良いな」
「あっ!てかお前夏休み中に彼女つくんなよ!寂しくなるからさあ!」
柏木が一個向こうの下駄箱からそう言ってくるのが聞こえた。
やっぱりこんな風に他愛の無い会話をしている時が一番楽しいなとつくづく思う。
「分かったよ、叫ぶなって」
ガチャンと下駄箱の扉を開ける。
中に入ってる手紙を取ってポケットに入れてる小さな鏡に映す。
『きみちゃんはもうおこってないよ。しんぱいしなくてもだいじょうぶ!』
……良かった。
『魔法』は……『まさかさま』は、嘘をつかないから。
そんな風に俺は小さな悩みができる度に『まさかさま』に頼るようになっていった。
『姉が朝から具合が悪そうにしていました。大丈夫だったのでしょうか?』
『姉がまだコンタクトレンズになれてなくて付けるのが苦手そうです。毎日つけるのは辛くないのでしょうか?』
『姉が自分のせいで暗いと思われていないか、心配です。姉は思われてないでしょうか?』
『まさかさま』は、『真逆様』は、嘘をつかない。
『きみちゃんはだいじょうぶだよ』
『きみちゃんはつらくはないよ』
『きみちゃんはくらいとはあんまり思われていないよ。すくなくともたかのりくんのせいではない!』
その殆どが、今まで自分が苦しめてきた姉の事だった。
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- 16 : 2015/07/31(金) 01:13:14 :
最近、夜に自室で質問を書いてから持っていくようにしている。
朝、こっそりとそれを入れておいて昼休みか帰りの時に返事を取っていく。
そうするのが一番怪しまれずに済むからだ。
今日もいつもと同じように質問を考えていた。
「貴紀ー」
コンコンとノックの音が聞こえてきた。
声の主からして紀未だろう。
ドアを開けると風呂上がりの紀未が立っていた。
「ごめんね。勉強してた?」
「や、別に」
「なら良かった。これさ、廊下に落ちてたから」
そう言って姉が四つ折りにされた手紙を渡してきた。
何を隠そう、返事の紙である。
俺は姉の手からそれを奪い去るようにして取った。
「手紙なの?大丈夫だよ、さっきそこで拾っただけだから」
ホッと胸をなでおろした。
これを見られたらただでは済まないだろうな。
「……まあ、手紙っつーかさ……」
「あー、分かった。女の子でしょー」
「はぁ?ち、違うし……」
昔みたいな会話だなと不意に思った。
姉はニコニコと機嫌良く笑っていたし、俺も少しにやけそうで思わず俯いた。
ふと脳裏に『まさかさま』からの返事が過ぎった。
『きみちゃんはもうおこっていないよ』
『きみちゃんはだいじょうぶだよ』
また、昔みたいに。
昔みたいに……。
「あっ、あのさ!こないだ少し言いかけたあの……『まさかさま』の話、知ってる?」
姉は小首をかしげた。やはり知らないようだ。
「えっと、柏木から聞いたんだけどさ」
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- 17 : 2015/07/31(金) 01:13:41 :
俺は紀未に『まさかさま』のことを話した。
もちろん俺が質問をしてることは伏せて。
俺はただの世間話のつもりだったけど姉はすごく真剣に聞いていた。
俺はそれがちょっぴり嬉しかった。昔みたいに話しているようで。
話が終わると紀未は言った。
「……へー。私も相談してみようかな」
姉は少し俯き気味に言った。
「実は男の子の事で少し悩んでて……勇気が出ないっていうか……」
「へぇ、気になるやつでもいるの?うちのクラス?」
「……貴紀には言えないよー、ひみつー」
姉が恋愛関係で悩みを持っていることは少し意外だった。
確かに相談する友達とかいなさそうだし。
「貴紀は?」
「えっ?」
「貴紀はその『まさかさま』に何を相談してるの?」
「別に……俺も人間関係で」
「女の子?」
「女……まあ女かな?」
姉とまたこんな風に会話できるなんて何日か前までは思ってもいなかった。
姉に気になるやつがいる事は意外ではあったが、何年も姉を一方的に避けてきたのだから知らなくて当然なのだ。
そうやってこれから、少しずつでもいいから失った時間を取り戻せたらいいなと思った。
まだ知れていないことを知っていけたらいいなと思っていた。
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- 18 : 2015/07/31(金) 01:14:07 :
「やっぱ神尾、最近雰囲気変わったよ」
隣で柏木がそう言った。
いやだからさ、俺に言われても。
「いやお前の事じゃねえよ!?」
「知ってるよ!隣りにいるだろ!?」
「ははは、でもまあさ。なんか明るくなったっていうか最近キラキラしてるよなアイツ。前は暗くて話しづらいなーって思ってたけど」
「は!?柏木、もしかしてあんな奴のこと気になってんの!?」
「いやいやお前にとってはあんな奴かも知れんけど俺にとってみれば神尾は同級生だからなあ」
そういえば紀未も男子の事で悩んでるって言ってたからなあ。
紀未がどこで誰と付き合ってるかは知ったことではなかったが、姉が幸せならそれで構わなかった。
こんなひどい弟とも話してくれるし。
念のために『まさかさま』に聞いてみたが、今は誰とも付き合ってはいないらしい。
「やっぱ、神尾可愛くなったなあ……」
「しみじみ言うなよ……なんか気持ち悪いぞ」
「だからお前の事じゃねーって!」
そう言っていたら紀未がこっちを向いて笑っているのが見えた。
俺はどうしようもなく恥ずかしくなって背中を向けた。
……姉が楽しいならそれでいいよな。
何にせよ、姉が何らかの目標を見つけて前向きになっているのであれば俺も嬉しかった。
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- 19 : 2015/07/31(金) 01:14:36 :
「貴紀!放課後ちょっといい?」
掃除当番のその日に姉がそう言ってきた。
姉からこういう風に誘われるのもまた何年ぶりかの出来事だった。
「いや、俺、掃除当番だから遅くなるよ?」
「いいよ。玄関で待ってるから」
「あ、姉弟で帰るのー?」
「仲いいー」
「べっ、別にそんなんじゃねえよ!」
後ろから茶化す声が聞こえて思わず反応してしまう。
だが、子供の時より周りに茶化される事は気にならなくなっていた。
そうだ、自分は子供だったんだ。
子供だったから姉にあんなに酷いことが無神経に出来たんだ。
なんて、もうこんな事はどうでもいいじゃないか。
だってもうこんなに普通に。
「貴紀?」
「ああ、うん。終わったら行くよ」
姉は前の姉からは想像出来ないような笑顔を浮かべた。
弟の俺が思うようなことではないが、やっぱり姉はそこそこ可愛い。可愛くなった。
「じゃ、待ってるね」
そうだ。紀未も俺も少しずつ変わっていけるんだ。
だってこんなに普通に、話せるんだから。
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- 20 : 2015/07/31(金) 01:15:15 :
-
俺は掃除が終わると急いで玄関に向かった。
思いのほか掃除が長引いたのでもしかしたら帰っているかもしれないなとも思ったが、姉は律儀に待っていた。
「紀未」
そう声をかけると姉が振り向く。
「ごめん、遅くなった。先に帰ってても良かったのに」
「ううん。私が待ってるって言ったんだから」
俺は下駄箱に向かいながら柏木からの伝言を思い出した。
「あ、あのさー。柏木達がさ、夏休みにプール行こうって言ってんだけど。それに紀未も呼べって言うんだよ」
下駄箱に手をかける。今日は特に何も手紙は入れてない。
「でもさ紀未。お前、そういうの興味無いだろ?」
ガチャリと。下駄箱を開ける。
中には1通の手紙が入っていた。
「……何で。俺、今日入れてないのに………」
「……すごい……本当に届くんだ……」
「えっ?」
「私もさ。貴紀から話を聞いてから何回か下駄箱に入れてみたんだけど返事来なくて。だから、貴紀の下駄箱に貴紀の番号書いて入れたら返ってくるかなって」
「えっと、じゃあ、これ、紀未宛の?」
意外と行動力があるんだなーと、思った。
紀未にもそうまでして知りたい事があるんだなって事を知れてまた少し嬉しくなった。
「前言ってたその……気になる男子の事?」
紀未はうん、と頷いてパッと顔を上げてこう言った。
「でも 、ああー、緊張するなあ!見るの。ドキドキする。ねえ貴紀 !代わりに見てよ!」
姉は興奮してるのか少し大きな声で息を荒らげてそう言った。
まあ確かにドキドキするんだろうな。
「まあ、良いけど……」
「本当?じゃ、じゃあ屋上行こう。誰にも見られたくないからさ」
そう言って姉はくり返し言った。
「誰にも見られたくないから……さ」
-
- 21 : 2015/07/31(金) 01:16:22 :
-
「夕焼け綺麗だね……」
「うん……」
今日は風が特に強い日だった。
風の音で少し先の音も注意しないと聞こえないくらい。
まあ屋上だから風が強いのもあるんだろう。
「……あの、さ。誰にも見られたくないのは分かるけど屋上に来ることはないんじゃ……廊下とかでもさ」
「ねえ貴紀。手紙見てよ、おねがい」
「えっ?マジで見ていいの?」
こういうのって普通、弟相手だったら絶対に知られたくないようなことではないのだろうか。
「うん、いいよ。私1人で見る勇気なくて。見てから中身教えてよ」
心なしか姉の息が荒い。汗ばんで制服の下の下着が透けて見える。
って、俺は姉をなんだと思ってるんだよ。
恥ずかしさを紛らわすために姉の手紙を見ることにした。
「ったく、変なの。本当に見るからな」
ポケットから鏡を取り出して内容を見る。
『きみはかみおきみちゃんだね。だいじょうぶ、きっとできるよ!』
「はは、凄いなやっぱ。きみちゃん、だいじょうぶ、きっとできるよ!だってさ。何?誰かに告白するの?」
「本当?」
姉はこっちを向いて驚いたような表情を浮かべていた。
「本当にそう書いてある ?」
「本当だよ、ほら。これ、全部逆さまの字で書いてあるんだ。鏡使わないと読めないんだよ」
「え?よく聞こえないよ貴紀。もっとこっち来てよ」
「だから、ほら、これ──────────」
ガシャンとフェンスに打ち付けられる音。
-
- 22 : 2015/07/31(金) 01:20:25 :
- 「がっ、はっ、あぁっ」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
紀未の細い腕が俺の首を掴んでいる。
何だ?何が起きてる?
何で俺はフェンスに追い込まれてる?
姉の息の荒さがピークに達する。
「………はは……………」
「きみっ、やめっ!落ちっ……るっ…」
ふと脳裏に見たことの無い映像が過ぎる。
『私は、上手に弟を殺せますか?』
「落ちそう?じゃあ落とすね!貴紀っ、軽いね。少し押しただけなのにもう……」
何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ。
知らない、俺は見たこともない。聞きたくもない。
『貴紀、■■■ に、■■■ を■■■ ?』
『貴紀……■■ 。■■■ 、■■■■ 』
『■■■■■ 』
「なんでっ……おねえちゃっ……」
ガタンと、体がフェンスを乗り越える音。
ああ、落ちる。落ちていく。
最後に、紀未の顔が見えた。
でも、それは、紀未じゃなかった。
「お前……誰だっ………」
意識はそこで途切れた。
「キヒッ……キヒヒッ……!」
もちろん、紀未の様なモノから出た笑い声なんて聞こえるわけが無かった。
-
- 23 : 2015/07/31(金) 01:25:43 :
その後、彼女は私にもう一度手紙を出したの。
内容は『どうすれば殺人がバレないか』。
私はなんでも答える『真逆様』だから、答えないわけにはいかないよね。
私はそれに答えて、ぐーっと背伸びをした。
彼女が全部の黒幕と思っている人もいるかも知れないけどそれは違う。
彼女に乗り移ってたのは『悪魔』だよ。
かくいう私も悪魔みたいなものだけれど。あれは私の使い魔と言ったところかな。
今回の話で一番悪いのは誰だと思う?
私かな?殺人を犯した彼女かな?
違う、一番悪い人なんていない。
誰もがそれぞれの思惑の為に動き、それぞれが迎える結果を迎えただけの事だ。
彼女に悪魔を乗り移らせた理由は簡単だ。
彼女に少しでも罪悪感が生まれない為に。
人を殺した人間が真っ当な人間に戻らないようにするための保険である。
私がそうまでして彼女を気にかける理由は無いけどね。
全部、気まぐれさ。
私が彼に『魔法』と称して力を貸したのも気まぐれ。
でもまあ『魔法』を……『魔の法』を使ってただで済むわけがないよね。
『悪魔の法』なんだから、何かリスクがあると疑うべきだっただろう。
まあ、今回の話はこれで終わり。
君らも帰っていいよ。
……なんだって?彼女が彼を殺した理由?彼女のその後?
そんなのが知りたいのかい?
はは、良いだろう。私の気まぐれだが──────────
ほら、ポケットを確かめてみな?
中には何が入ってるかな?
End.
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