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クラブ『Flügel der Freiheit』(自由の翼)
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- 1 : 2013/11/27(水) 23:14:31 :
- ★ストーリー★
初の現パロ。
ディスコ・クラブのDJリヴァイが主役、
オーナーのエルヴィンが準主役。
世界観は『日本風の現在のどこかの外国』
二人を取り巻く人たちとの日常のドタバタ劇。
『進撃の巨人』で命を落としてしまったキャラクターたちを
出来るだけ登場させるため、昼ドラのように長編になる予定。
登場するキャラクターの特徴は『ほぼ』そのままに
設定はオリジナルです。
オリジナルのキャラもいます。
クラブ(ディスコ)で紹介する曲は実在するものです。
過去のSS
「若き自由な翼たち」
http://www.ssnote.net/archives/414
「Ribbon in the sky~舞い踊る自由の翼は再生する」
http://www.ssnote.net/archives/1006
「アルタイルと星の翼たち」
http://www.ssnote.net/archives/1404
「密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』」
http://www.ssnote.net/archives/2247
全部長編です。お時間ある方はどうぞ!
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- 2 : 2013/11/27(水) 23:23:04 :
- ①DJリヴァイ
ここは某国の歓楽街。
眠らない街としても有名だ。
早い時間から賑やかだが、
夜になってもあちこちでネオンが輝いている影響か
昼間並みに明るいのが特徴の街並みである。
誰もが自分がドラマの主役だと思い込み
全身をタレント並みに着飾り街に繰り出す。
まるで今からテレビにでも出るのかと思われそうな雰囲気だ。
皆、それぞれ夜の遊び場がある。
その内の1ヶ所、
『自由の翼』という名のクラブ、
『Flügel der Freiheit』(フリューゲル デア フライハイト)だ。
複合テナントビルのワンフロアにあり、特に金曜、土曜日は
このクラブの人気DJのリヴァイが回すとなれば
クラブの平均年齢が下がる。
本来ならクラブオーナー、エリヴィン・スミスが掲げるコンセプト
『大人も遊べるクラブ』というコンセプトの為に平均年齢は30歳以降の
客層だが、リヴァイがDJで人気が出るようになって以来、
平均年齢がより下がってしまった。
このことにより従業員兼ボディガードの活躍も増えていくが、
警察との連携もあり大きな事件なども起きない
『健全なクラブ』としての認知度もあるために大人からは安心して
夜遊びできるクラブとして人気である。
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- 3 : 2013/11/27(水) 23:24:16 :
- 「今夜のクラブはやっぱり…?」
「FDFだよねー!!」
ほろ酔い気分で居酒屋から出てきた20代の女の子たちは
他の通行人の目を気にせず路上で盛り上がっていた。
『FDF』というのはクラブ『Flügel der Freiheit』(自由の翼)の通称で
皆に親しまれている。
『二次会』として選ばれた『FDF』に向う女の子たちは最新の流行に身を包み
まるで恋人に会いに行くような目の輝きをしていた。
その日は金曜日の夜。
人気DJのリヴァイがプレイする日だったのだ。
クラブの入り口まで到着すると、
そこにはすでに多くの女性客が入店を待っていた。
「今日は金曜日なんで、すでにシートには座れないと思いますが、
よろしいでしょうか?」
笑顔で接客するのは従業員兼ボディガードの一人、ユミルであり、
そしてフロアまで案内するのはグンタ・シュルツとエルド・ジンだ。
3人は稼ぎ時の週末の為に張り切って接客しながら
DJリヴァイの人気の影響もあり『リヴァイ様様』と崇めたい気持ちもあった。
グンタとエルドが重たい両開きのドアを開け
女性客たちを案内すると、真っ暗な廊下を過ぎると
クラブのフロアが広がっていた。ドアの正面にはDJブース、
左側にはテーブル席、そして右側には数人が座れるカウターがあった。
しかし、どの席も満席でフロアは『芋洗い』の状態だ。
フロアの中はDJブースがスポットライトが当てられ、そして天井には
カラフルなミラーボールが回っている。
しかし、必要以上な明るさはなく、
それ以外は真っ暗に近いフロアだ。
カウンター側の棚に並べられた多くのボトルが
淡いブルーのライトで照らされまるでオブジェにも見える。
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- 4 : 2013/11/27(水) 23:25:26 :
- 「今日もリヴァイ、クールだねー!」
「とにかく、かっこいい!」
リヴァイがDJとしてまわしているときは、
そのブース周辺には女の子たちが囲って踊っていた。
しかし本人は舌打ちをして
・・・気が散る…
多くの視線が注がれると気になってしょうがない、と感じていた。
リヴァイはこの『FDF』の人気ナンバーワンDJである。
いつもリヴァイは週末の金曜と土曜の担当でその日はほとんど
若い女性客でフロアは埋まってしまう。
リヴァイはオールジャンルを把握していて、また客層を見ながら
その客が若い頃に遊んでた頃に聞いていたであろう曲を
セレクトしていた。またレコードにこだわっており、
ブースの後ろにあるレコードやCDを収納する棚はリヴァイが管理しているが
並べ方までこだわりがある。
アルファベット順にならべそしてそれを本を収納するように入れ12インチが
キレイに並べられると、縦線がたくさん並んでいるようにも見えるのだ。
そして、1曲流した後に付着したであろう、埃を払うために特にレコードの場合、
両端を指先で支え一回転させジャケットに収める。
それは埃を払うためのはずが、客からはパフォーマンスと思われ
その指先が『カッコイイ』と感じらると、それを見る目的にブースに集まる客も多い。
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- 5 : 2013/11/27(水) 23:27:54 :
- ・・・客層が似たようなもんなら、ジャンルを変えられない…
リヴァイは自分の人気があがると、特に若い客から人気だと
最新の曲しかまわせないために不満だった。
曲のリストをチェックしてそして、ヘッドフォンから流れる曲を確認しても
最近同じパターンで不満だったが、『これも仕事』として割り切っていた。
「ねー!リヴァイ、今日何時まで?この後、遊びにいこうよー!」
「何、声掛けてるのよ?私が…」
いつもそんな声がフロアから聞こえるがリヴァイは一切、無視していた。
鋭い眼差しのツーブロックで長めの前髪が眉にかかる
黒髪のヘアスタイル、
そしてクラブでも主役は『音』と決め、
自分は地味なスタイルにこだわっている。
ほぼ白いシャツに黒のスリムジーンズ。
そのコットンの白いシャツはジーンズの外に出すのだが、
キレイにアイロンが掛けられDJブースに入るときは
袖をキレイに折り曲げていた。
・・・そろそろ、ぶっこむか…
リヴァイは客の入りを見てこれ以上は増えないと見込むと、
最新のエレクトロサウンドを繋ぎ合わせ、
ブースに集まってきた女性客をフロアに戻そうとしていた。
そしてしばらくすると
「あー!この曲好きー!」
「いいよねー!」
そういうと女の子たちはブースから一人ひとりと離れていくと
フロアではみながリヴァイのセレクトのナンバーに酔いしれ踊っていた。
そして各々の客の終電の時間にると、まばらに客が減っていった。
『リヴァイ狙い』の女性客もいつのまに他の男性客と帰ることもあり、
だんだんと減り出すと、リヴァイは見習いDJのジャン・キルシュタインと
交代をして、カウンター席に移動することにした。
「ジャン、今から客はファンク系のダンクラ中心にいけ…」
疲れた様子でジャンに指示すると、
やっとブースに入れると今までウエイターの仕事をしていた
ジャンは嬉しそうにブースに立った。
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- 6 : 2013/11/27(水) 23:28:59 :
- 「リヴァイ、今日もお疲れさん、今日もすごい人気だったな」
リヴァイに声を掛けてきたのはこのクラブだけでなく、併設のカフェや
他の飲食店の経営者でもあるエルヴィンだった。
いつも高級スーツに身を包みカラーシャツを第2ボタンまで空け、
普段は金髪のツーブロックの七三だが夜になると、その前髪を下ろし
毛先を遊ばせるようなヘアタイルをしている。
細く長い指は自慢でもあるが、その左手薬指にはグリーンのヒスイが輝いている。
それはカレッジリングであり、亡き妻の形見であるヒスイのペンダントトップを
リフォームして指輪にした、ということだった――
「あぁ…だが、客層が固定すると面白くねーよ…」
「まぁ、そうは言わずに飲め…」
エルヴィンはリヴァイの前にグラスを置き
リヴァイの好きな銘柄のビールを注ぐと
二人は乾杯をしていた。
リヴァイは心地よい疲れもありホッとため息をついた。
「なぁ、リヴァイ。ジャンはどうだ…?」
「まぁ、音は空回りするけど、長い目で見ればいい」
リヴァイはグラスの飲み口当たりを握りながら
ビールを一口飲むと、舌打ちした。
「あいつ…!」
リヴァイがキチンと管理しているレコードを
ジャンは乱雑に扱うために音以外はそれが不満だった。
「まぁ…リヴァイ、これも長い目で見ろよ」
エルヴィンにそういわれると舌打ちしながら、また一口飲んだ。
「それより、オーナー…この時間だと、あいつらのお出ましじゃね…?」
「えっ…!あぁ、そうだな…」
エルヴィンは腕時計で時間を確認すると、
伏し目がちになり目が泳ぎ出し
ため息をついた。
そしてフロアの出入り口を見ると
「エルヴィーン!来たわよーーー!」
そこに集まったのは近所の
ゲイバーのママのイッケイさんが自分の営業を終え
従業員たちと『FDF』に繰り出してきたのだった。
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- 7 : 2013/11/27(水) 23:29:44 :
- 「エルヴィン、今日もステキね!会いたかったわ!」
まるで語尾にハートマークが付いていそうな口調で
着物の着崩れをお構いなしにエルヴィンの左腕に抱きつく
イッケイさんはまるで恋人に会いに来たように
撫でまわすようにエルヴィンを見つめていた。
「もうーママ、ずるいー!エルヴィンは私のモ・ノ・よ!」
少しキレた口調でさらにエルヴィンの右腕に抱きついたのは
その大柄な体型に身をまとったドレスを揺らして
化粧直しをしたばかりで
艶やかにグロスを輝かせた唇で
エルヴィンの恋人宣言をしたのは
チー(小)ママのマッコイさんだった。
「何よ!マッコイ、私に楯突く気?」
「ママこそ…!」
エルヴィンは間に挟まれ戸惑うもその取り合う口調は
気がつけば男に戻ることがあり、クラブ内では
大きな音で曲が流れているのにも関わらず二人の
『ドスの効いた声』の方が響いていた。
「まぁ…まぁ…二人とも!ケンカせずに飲もう…!」
エルヴィンは二人を笑顔でなだめると
「さすが、エルヴィン!優しいわねー!今度お願いしたいわ」
「何言ってるの、ママ!抜け駆けは許さない!」
エルヴィンが何を言っても二人は彼の取り合いは止めず、
無理やり乾杯をして飲み進めるだけだった。
二人がきたことで傍に追いやられその様子を
見ていたリヴァイは舌打ちをして
「『両手に花』…か…オーナーも大変だよな、仕事とはいえ」
リヴァイはカウンターからDJブースにいるジャンに目で合図をして
ある曲を流れでカットインするよう指示した。
ジャンもわかっていてその曲をすぐさま用意した。
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- 8 : 2013/11/27(水) 23:30:33 :
- 「…この曲は…!あなたの曲よ、エルヴィン!」
「そう!また私たちに見・せ・て!」
エルヴィンはほとんど二人で飲まされて
すでにほろ酔い気分になっていた。
「あぁ…そうだな…!この曲はオレの曲だーー!」
エルヴィンがフロアに行くとお客もすでに知っていて
円を作るように彼を囲った。
その曲はアース・ウィンドウ&ファイヤーの『セプテンバー』だ。
エルヴィンはスポットライトで輝きながら
得意げにステップを踏み腰をくねらせたり、ターンしたり、
二人のママを抱き寄せるようなしぐさで踊ると
「もー!エルヴィン、好きにしてー!!」
イッケイさんはエルヴィンの胸元の第3ボタンを片手で
器用に外すと、胸元に手を入れ始めた。
「ママ、するーい!」
マッコイさんが止めに入るも
両手を上げながら踊るエルヴィンは二人にされるがままだった。
その左手薬指には亡き妻の形見のグリーンのヒスイが輝いていた。
「何だかんだと…エルヴィンは奥さんを忘れてないのよね…」
「そう…でも、どうにか落としたいわね…」
遠巻きにその様子を見ていたのは
エルヴィンを目的にやってくる女性客でもあった。
リヴァイ目的の客よりも平均年齢は上がる大人な女性が多いが
その眼差しは『女豹』そのものだった。
「モテモテで何よりだ…オーナーよ…」
リヴァイは週末の閉店間際の『恒例行事』のように
エルヴィンが女性たちに囲まれる姿を
グラスに入っていたビールを飲み干し
冷ややかな眼差しを注いでいた。
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- 9 : 2013/11/28(木) 22:45:08 :
- ②DJリヴァイとハンジ夫妻
深夜過ぎ。
ほとんどの客が帰ると、『FDF』の金曜の夜は終った。
ほぼ土曜の早朝だが、毎週金曜日のいつものことだ。
リヴァイはDJブース内でジャン・キリシュタインに片づけが
なっていないことを叱りつけ、フロアの掃除を命じ
自分自身はレコードを丁寧に埃を払いそして、
いつもの通り棚にキチンと『縦線』が横並びになるように
すべて閉まった。
ちなみにリヴァイが人気が出たのはレコードを扱うときに
真剣な顔が常連客が動画サイトにアップしたのがキッカケだった。
「皆、ご苦労!また早いが昼過ぎには頼む」
オーナーのエルヴィン・スミスに見送られると、
従業員たちは各々のアパートの部屋へ戻った。
リヴァイも徒歩15分圏内に住んでいるが、
いつも帰りにはコンビニに立ち寄り帰る。
それはリヴァイを待ち伏せしている女性客がいると
『巻いて』帰るためだ。変に勘が鋭いために
今まで自宅のアパートを突き止められたことはない。
コンビニでペットボトルの紅茶とじゃがりこを買うと
そのまま帰宅した。
この部屋は2LDKであるが、一部屋はほとんどコレクションの
レコード部屋のようになっていた。
エルヴィンの経営する飲食店に勤める従業員は
古くからの付き合いである不動産王のドット・ピクシスの
好意により安くでアパートが借りられる。
そのためにリヴァイは通勤しやすい圏内で広めの部屋を借りていた。
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- 10 : 2013/11/28(木) 22:45:35 :
- 「今日も疲れた…」
リヴァイは夜明け前にいつも片付いている部屋に到着すると、
いつもの習慣通り帰宅すると真っ先にシャワーに入ると
そのまま就寝する。
昼間は併設されているカフェでのウェイターの仕事もあるからだ。
特に金曜と土曜はハードだが、
メインDJもさせてもらっているので不満はない。
また残念ながら、DJだけで生活が出来ないのも現実だった。
そして数時間後、カフェの営業時間のために起床すると、
最初にPCでチェックするのがツイッターだ。
フォロワー数は数千にいるものの、フォロー数は0だ。
リヴァイにとっては『FDF』の宣伝のためであって、
個人的なツイートは一切しない。
「誰も…オレの音のこと感想でも批判でもないのかよ…」
フォロアーのツイートをみて舌打ちをした。
リヴァイは個人に注目を浴びるよりも自分のDJとしての
評価が欲しかったが、ほとんどがリヴァイ個人に
興味しかないのがほとんどだった。
特定の彼女はいまのところいないが、
理由が『女は面倒だから』ということにしていた。
そしてリヴァイは自炊で野菜中心の朝食を食べると
レコードコレクションの部屋でその日の夜の
セレクトのレコードを選びそのまま『FDF』の下の階にある
カフェのランチタイムに間に合わせて出勤した。
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- 11 : 2013/11/28(木) 22:46:01 :
- 「リヴァイ、おはよー!今日もよろしく!」
そう声を掛けたのは
ハンジ・ゾエと年下の夫のモブリットだった。
「おはよー…」
不機嫌な顔でリヴァイはガラスのドアを開けるとランチの仕込をしている
二人を横目にロッカールームに荷物を置くと、早速掃除にかかった。
カフェの掃除はリヴァイが担当だが、いつもテーブルも床も
ピカピカになっていて女性客からは『清潔感のある店内』と評判で
リヴァイに掃除を任せていたら間違いなかった。
「さすがに…土曜日の朝は不機嫌ですね…ハンジさん」
「そうだね、私たちで何かサポートできることはしてあげないと」
そう話す二人はカフェ『H&M』のオーナー夫婦だがエルヴィンとも
共同経営者である。もともとエルヴィンとハンジ、そしてエルヴィンの
亡き妻との3人で経営して途中でモブリットが加わった、ということだったが
エルヴィンの妻が交通事故死して以来、3人で経営している。
この時から10年以上前。
ハンジがこのカフェの経営をするために調理師免許を取得したがそれでも、
研究のため色んなカフェやレストランへ行き、味や雰囲気などハンジの
好みに合う場所を探していた。
そしてあるカレー屋で運命の出会いを果たした。
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- 12 : 2013/11/28(木) 22:46:28 :
- 「はい、おまちどう!15分で完食できたら無料、ムリなら
10人前の料金頂くよ~!よーい、スタート!!」
ハンジがカレーを食べながら、味や雰囲気などをメモしていると
店員のその声の元へ振り向いた。
そのテーブル席を見ると、氷山のごとく聳え立つご飯の周りに
カレールーが円を描き流し込まれてりる『巨人』のようなデカ盛カレーだった。
またカレールーの中にはトンカツやチーズなどトッピングもされている。
ハンジは目を丸々として
・・・あの子…あんなに痩せているけど、大食いなんだ…すごいなぁ…
関心しながら見ていると、だんだん青ざめてくが、
それでもデカ盛に挑む学生らしき男性は清々しい印象を持った。
そしてどうにかギリギリでデカ盛カレー完食すると、
その名前は記念として飾られた。
・・・モブリットっていうんだ…『巨人』のようなカレーに挑むのはステキだな…
ハンジはカフェ経営の夢の方が優先で
男性との交際はあまり関心はなかったが
この出会いで、年下で果敢に巨人のようなデカ盛に挑む
モブリットに興味を持つようになった。
そしてモブリットがカレー屋から出て行き、
その様子を見ていると口を押えながら歩いていた。
・・・もしかして、ムリしてるのか…?
ハンジは気にはなったが、
全く知らないモブリットには声を掛ける勇気はなかった。
・・・縁があれば…また会えるよね…
ハンジは後ろ髪を引かれる思いもあったが
カレー屋を出るとモブリットとは
逆方向のまた別のカフェに向うことにした。
そして数ヶ月過ぎた後。
ハンジがまた研究のためカフェやレストランめぐりをしていると、
あの『巨人』のようなデカ盛カレーを出すカレー屋の前を通り過ぎた。
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- 13 : 2013/11/28(木) 22:46:57 :
- ・・・モブリットだっけ…さすがに何度も挑戦する訳ないか――
カレー屋の看板を見た後、次のレストランの手元のメモを見た瞬間
視界に入ってきたのは久しぶりに見かけたモブリットだった。
・・・え…また挑戦するの…?
ハンジは久しぶりに会えた嬉しさと同時に驚くと、
気がつけばモブリットを追いかけ同じカレー屋に入っていた。
「モブリットさん!あんたもカレー好きだね!
はい、15分で完食できなければ、10人前の料金頂くよ!
よーい、スタート!」
ハンジは普通サイズのカレーを食べながら、
モブリットが巨人のようなデカ盛のカレーに挑む姿を見ていると
自分の口へ運ぶ手が止まってしまうほど、やはり見とれてしまった。
・・・私は今、夢に挑んでいるけど…彼はなんだか、放っておけない――
ハンジはカレーのスパイスが原因でなく
自分の気持ちで頬を赤らめていることに気づいた。
そして、モブリットはギリギリで完食するとやはり前回と同じように
口を押さえ青ざめた表情で店を出て行く姿がハンジの目の中に飛び込んだ。
・・・やっぱり…次もいつ会えるかわからない――
ハンジは自分の代金を支払うとモブリットを追いかけた。
そして電柱に片手を付いて、吐き気に耐えるモブリットを見つけると
「ねぇ、大丈夫?」
ハンジは気がつけばモブリットの背中をさすっていてハンカチを渡していた。
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- 14 : 2013/11/28(木) 22:47:21 :
- ・・・このメガネ美人のお姉さん…誰だっけ…
モブリットは意識が朦朧としながら、
ハンジからハンカチを受取ると口を押えていた。
「ありがとうございます…すいません」
ハンジはモブリットの肩を抱えると、
近くのオープンテラスのカフェに入り休むことにした。
「あの、初対面で申し訳ないのですが、ベルトを緩めていいですか…?
ちゃんと、シャツで隠しますので…」
モブリットは照れながらベルトを緩めそしてシャツで覆うと
そのままシートに天を仰ぐようにもたれていた。
「あぁ…もう緩めているし…!」
ハンジは物怖じしないモブリットに微笑み
お腹が落ち着く様子を見て話し出した。
「モブリットさん、っていうのよね?どうしてあなたは、
巨人のようなカレーに挑むの?」
モブリットは照れながら
「実は…」
モブリットは大学生で生活費がキツくなると、食費を切り詰めるために
あのデカ盛りカレーに挑むことがあり、
本当は大食いではないということを告白した。
熱心に話を聞くハンジに見つめらえるとさらに照れていた。
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- 15 : 2013/11/28(木) 22:47:42 :
- 「本当は食事って楽しく温かい雰囲気が
より美味しくするはずなんですけどね…」
「へっ…」
ハンジが目指すカフェの『楽しく温かい雰囲気』を口にしたモブリットに
ますます興味を持ち始めた。
「あの…モブリットさん、私ね、カフェをいつか経営したいんだ…」
ハンジは試しでカフェに出すメニューを色々作っているが、
食費を切り詰めたいときにモニターとして食べて欲しい話し出した。
「ねぇ、お願い!いいでしょー?」
「は、はい…!」
モブリットはハンジの熱心さに驚くも『メガネ美人のお姉さん』の
言うことならということですぐに了解した。
数日後の公園にて、
初めてのモニターが行われることになり、
モブリットはランチボックス詰められた
ハンジの手料理を食べることになった。
「ハンジさん、すごく美味しい!ホントにモニターとして頂いていいですか?」
「いいよ!もちろん、『モニター』なんだから
どんどん食べて感想を聞かせてよ」
ハンジは素直に喜ぶモブリットに照れながらも、
味の感想を聞くことを忘れていなかった。
最初の『モニター』でモブリットの胃はハンジにつかまれていた。
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- 16 : 2013/11/28(木) 22:48:06 :
- ・・・こんなキレイなお姉さんの
料理が食べられるって幸せだな…
モブリットはハンジが照れる姿を見ながらも
夢中になって食べていた。
そして『モニター』の回数を重ね、
季節も何度か変っていくと二人は
お互いの部屋を行き来するような関係になっていた。
「ハンジさん、いつもすいません…」
「いいのよ、モブリット!
あとね…そろそろカフェの営業が出来そうなんだ!」
ハンジはモブリットの部屋で料理を出しながら、
カフェの経営が始まることを伝えた。
「これもモブリットがモニターしてくれて、私も自信がついた!
今までありがとう…忙しくなったら、こうして会えなくなるかも…」
ハンジが寂しげに言うとモブリットもうつむいてしまった。
「ハンジさん…実は…僕、大学で栄養学部に編入しようと考えています…」
「どうして…?」
ハンジは突然の告白に驚いた。
「僕は何も目標が見つからないまま大学生活を続けてきましたが、
ハンジさんに出会ってハンジさんのカフェ経営のお手伝いをすることが
僕の目標だとだんだん思えてきたんです…」
「え…?」
ハンジは目を丸くしてモブリットを見つめるだけだった。
「だから…栄養学を学んでハンジさんと
一緒に美味しいものが作れたらどんなに幸せなことかと…」
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- 17 : 2013/11/28(木) 22:48:38 :
- 「モブリット…!」
ハンジは頬を紅潮させながら、
驚きと戸惑いで目を丸くするだけだった。
「それで…大学卒業したら…僕と…け、結婚して頂けませんか?」
「結婚…!?突然何…?それに私と…私でいいの…?」
「はい!ハンジさんの優しさと、
この料理がなきゃ、僕は生きていけません!あっ…」
モブリットはハンジにその熱い想いを告白すると
お互いに照れてうつむくだけだった。
「モブリット…さん、こちらこそ…よろしくお願いします…」
ハンジは照れながらプロポーズの返事をすると、
モブリットの目は輝いていた。
早速、エルヴィンに紹介すると、
歓迎され始めはバイトとして雇われ、
そしてモブリットが大学を卒業して二人が結婚すると
二人の名前の頭文字が入ったカフェ『H&M』に変更していた。
今ではモブリットはエルヴィンが経営する他の飲食店の
栄養を監修するほどのなくてはならない経営者の一人として成長している。
「まったく…この夫婦は料理は一流でも掃除がなってない…!」
リヴァイは舌打ちしながら、カウウターの向こうで
ランチの準備をするハンジとモブリットを睨んでいた。
「まぁ…まぁ…!リヴァイ、その代わり私たちの特製のランチプレート
ご馳走するから…!」
「まかないだろ…まぁ、美味いことにかわりないが」
リヴァイは20席ほどあるカフェと6席ほどの広さのカフェ内を
一人で掃除していた。また掃除の仕方には
こだわりがあるため誰も邪魔はさせなかった。
「バンダナで三角頭巾して大きなマスクして
またエプロンまでして掃除してる姿…
あなたのDJとしてのファンが見ても気がつかないだろうね…」
「ハンジさん聞こえますよ!」
ハンジとモブリットは熱心にテーブルを拭くリヴァイを微笑み
見つめながらランチの用意を引き続きしていた。
リヴァイは元々キレイ好きということもあるが、料理は一流でも掃除が
苦手な夫婦に代わってカフェの掃除を好んでやっていた。
無心でやっていると、その日の夜の曲のセレクトが閃いたりするためでもあった。
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- 20 : 2013/11/29(金) 22:35:05 :
- ③ハンジ夫妻とエルヴィン親子
カフェ『H&M』のランチタイムはビュッフェスタイルのため
ハンジ・ゾエとモブリットが調理をして、
リヴァイとユミルが専用のテーブルに料理やドリンクを並べる、
スタイルのため接客をするには愛想が『不足』している
リヴァイにとっては大助かりだった。
そしてリヴァイがランチタイムを知らせるイーゼルに告知の立て看板を
カフェの前に掲げるとあとは客の入りを待つだけだった。
「今日は土曜日か…
のんびりランチの奥様連中が多いか…オーナー目的の…」
リヴァイが舌打ちしながらつぶやくと、それを聞いていたユミルは
「さすがにあなた目的のお客は昼間は来ないわね」
「そういや、あんたも…一部の女の客に人気があったな」
ユミルは長身でショートヘアで
『男装の麗人』のように女性でありながら、
『美しい男性』のような雰囲気があり
憧れの女性の先輩に会いにくるような目的で
カフェに来る女性客も少なくはなかった。
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- 21 : 2013/11/29(金) 22:35:26 :
- 「まぁ…一部だけどね」
ユミルはイタズラっぽく笑った。
「とにかく、料理は美味いんだから、
料理目的のお客も来て欲しいがな」
「それは言えるね…」
二人がカフェの入り口で立ち話をしていると、
昼間から全身小奇麗にしている
女性たちが続々と入ってきた。
「いらっしゃいませ!お先に会計からお願いします!」
ユミルが接客していると、リヴァイが席の用意をしていた。
・・・オーナー目的か…まぁ、まだ来てないが――
カフェ『H&M』に特に土曜日にやってくる
お客にはエルヴィン・スミスに会いに来る目的で、
自身の息子の同級生の母親が多かった。
・・・今日はスミスさん、いないわね…今からかしら?
・・・先週は来てなかったから、今日はきっと…
まるで、初めてのデートで『心、ここにあらず』のような
女性客たちは席について食事をしながら
世間話に花を咲かせるも、入り口から新たな客が
入ってくるたびにその方向に視線を送っていた。
リヴァイはカウンターを拭きながら舌打ちをして
「…まったく、ダンナに相手してもらえよ」
そしてそばにいたユミルは
「聞こえるって!まぁ…ダンナが相手にしないから
『目の保養』のために来てるんじゃない?」
リヴァイの言うことも理解しつつも
ドリンクの補充をしながら苦笑いで答えていた。
そしてお待ちかねのその瞬間がやってきた。
ガラスのドアが開くと、高級スーツにノーネクタイの
ストライプのカラーシャツを第一ボタンだけ外し、
ポリスのブラウングラデーションのサングラスを掛けた
エルヴィンが入ってきたのだった。
そのヘアスタイルは夜とは違い前髪を上げた
七三でまとめている。
「みなさん、スミスさんが来たわよ!」
エルヴィン目的の女性客たちは一斉にヒソヒソ話を
始めたかと思うとにこやかに視線を送った。
「…今日もお疲れさん」
近くにいたリヴァイに挨拶しながら、
サングラスを外し胸ポケットに入れると
カウンター席に座った。
「オーナー、今日も『奥様連中』がお待ちかねだ」
リヴァイがつぶやくようにエルヴィンに教えた。
「あぁ…入ってくるときから見えた。まぁ…お客さんだし、
無下にはもちろん出来ないが…」
その表情は遠くを見つめるようなため息をついた。
ユミルからアイスコーヒーを出されると
「一口召し上がって、挨拶されたらどうですか?」
「そうだな、ユミル、ありがとう」
エルヴィンは好みでもある
アメリカンのアイスコーヒーを一口飲むと
氷の音を鳴らしながら、カウンターに置いた。
そしてエルヴィンが奥様連中のそばに立つと
「みなさん、今日もありがとうございます」
笑顔で挨拶すると、
「とんでもない!『H&M』のランチは美味しくて
みんなのお気に入りの場所なんで、
利用させて頂いているんですよ!」
一人の奥様が満面の笑みで答えた。
「うそつけ…『オーナー目的です』ってその顔に書いてるぞ」
リヴァイが舌打ちしながら答えると
ユミルが少し笑いを堪えながら、すかさず
「まったく、リヴァイ!聞こえるって…」
「それにここはいつもキレイに掃除が行き届いていて
清潔感があって過ごしやすいんですよ!」
また別の奥様の一言でリヴァイは鼻で笑った。
「…だって…リヴァイ!」
ユミルがイタズラっぽく笑みを浮かべながら言うと
「…存分に見てきやがれ…!オーナーを」
リヴァイがカウンターを拭く力が入っているようだった。
結局、エルヴィンは奥様連中につかまり、
しばらく一緒の席に座り、お互いの子供の将来について
相談を受けたりしていた。
ランチタイムが後半を過ぎていくと、お客の回転が
落ち着きつつあり、リヴァイが空の皿を片付け
カウンターの内側の洗い場にいると、
そこに現れたのはエルヴィンの一人息子のアルミンだった。
-
- 22 : 2013/11/29(金) 22:35:49 :
- 「リヴァイさん、こんにちは…」
エルヴィンとアルミンの住まいはこの近くのマンションだが
土曜日や学校が休みの日は昼食のために『H&M』に来ている。
その様子は不機嫌であり、見抜いたリヴァイは
「なんだ…また親父とケンカか…?」
「そうなんだ…」
アルミンはカウンター席に座ると、
父親であるエルヴィンを横目にため息をついた。
アルミンが来たとわかると、
キッチンにいたハンジ・ゾエが顔を出した。
「アルミン、どうしたの?何があった?」
アルミンが生まれた頃から知っているハンジは
今では母親代わりのようにもなっていて、
エルヴィンとケンカしたと聞くと、気になって
キッチンから出てきたのだった。
「アルミン、お昼はまだよね?今、まかない作っていたから
お先にどうぞ」
アルミンの前にはハンジ特製の本日のスペシャルの
生パスタのカルボナーラの温玉乗せが出された。
「うぁー!ハンジさん、今日もおいしそう!頂きます!」
アルミンは目を輝かせ、パスタをフォークに絡ませた。
ハンジとモブリットには子供がいないため、
アルミンが『H&M』に遊びに来るのは楽しみだった。
ハンジはエルヴィンの背中を見つめながら
・・・今度は何が原因でケンカなの…?
アルミンは高校生になったばかりだが、
進路について父親のエルヴィンと意見が
合わないため時々衝突する。
友達のエレン・イェーガーは医師の息子のため、
後継ぎで医者を目指す予定で、
一緒に医学部を目指して欲しい、または弁護士など
上を目指して欲しいというのがエルヴィンの願いだが、
アルミンとしては父と一緒に飲食店の経営をしたいため
そのための進学はしたいということだった。
しかし、同じ道よりも安定を目指して欲しい
という親心、しかし父を手助けしたいという子の心、
どちらも互いを思いやった『ケンカ』のためにハンジは
見守るしか出来なかった。
-
- 23 : 2013/11/29(金) 22:36:17 :
- 「で…、アルミン、またお父さんとは進路のことでケンカしたの?」
「ハンジさん、ごちそう様…」
アルミンは全部平らげたところで話し出した。
「実は昨晩、父さんが香水の残り香をつけて帰って来たんだ」
・・・それは…イッケイさんたちだ…
リヴァイは傍で聞き耳を立てながら
昨晩のエルヴィンがフロアで踊っていることを思い出していた。
ハンジはアルミンの隣に座り話を聞くことにした。
「『父さん、恋人が出来たら、僕にかまわず再婚してよ!』って言ったら、
『そんな人はいない!』って急に怒り出したんだ…」
「…えっ?」
ハンジはてっきり、エルヴィンとアルミンは
再び進路のことでケンカになったかと
思ったら、また別の火種がが出来て目を丸くしていた。
「父さんね…たまに仕事から早く帰ってきた夜中に、
家のリビングで僕が小さい時の誕生日の
ホームビデオを見て、母さんを思い出して泣いているんだ…」
・・・エルヴィンはまだ忘れないか…誰もが羨む二人だったから…
ハンジは後方で奥様方と談笑する姿をチラッと見ていた。
「それに父さんは僕にいつもベッタリだけど、
やっぱり…自分の幸せも見つけて欲しいよ」
エルヴィンは一人息子のアルミンに対して過干渉なところがあり、
だんだんと将来を考える年齢になると、
アルミンには自立心も芽生えてきていた。
・・・アルミン、だんだん成長してきてるんだね…
ハンジは父を想うアルミンを
目を細め見つめ話を聞くことに徹していた。
「アルミン…残念だが、その香水の相手とは再婚できないな」
そばで聞いていたリヴァイが二人の間に入ってきた。
「リヴァイさん、どういうこと?」
アルミンはリヴァイの目を見ながら淡々と話し出した。
「あの香水な…イッケイさんのだ…この近くのゲイバーのママだ」
「…え…そうなの…?まさか、父さん、そっち方面にも…?」
アルミンの目が泳ぎ出すとそれを遮るように
「バカいえ!イッケイさんたちが
オーナーを追い掛け回しているだけだ。週末の恒例行事だな…」
リヴァイも熱心にエルヴィンが奥様連中と互いの子供たちのことで
話し合っている後姿をチラっと見ていた。
「まぁ…今のエルヴィンの出会いはあの奥様たちか、
ゲイバーのママさんたち…再婚は遠いかもね…」
リヴァイの話を聞いたハンジはため息交じりに答えると、
アルミンはすかさず、
「ハンジさん、父さんにいい出会いないかな?」
「えっ?こればかりは『縁』だからね…」
アルミンもため息をつくしかなかった。
そして、奥様連中がランチタイムのギリギリまで
エルヴィンとおしゃべりをしていたが、
リヴァイがランチタイムの告知の立て看板を下げる頃には
ようやく『後ろ髪を引かれる』ように帰っていった。
-
- 24 : 2013/11/29(金) 22:36:37 :
- 「ふう…ようやく解放されたか…」
エルヴィンがカウンターの元に行き
アルミンに気づくと
「父さん、楽しそうだね…」
アルミンはケンカしたばかりということもあり、
少し嫌味っぽくエルヴィンに言い放つと
「アルミン、父さんはな!おまえのためを思って
お母さん方と教育について意見交換をしているんだ!」
エルヴィンも一人息子であるアルミンを
思うと少し熱くなっていた。
「まぁ、エルヴィン、落ち着いて!アルミンも…!」
二人の間に割って入ったハンジは
いつもケンカの仲裁に入るようなことをしている。
リヴァイとユミルがディナーの準備のために掃除にかかると、
エルヴィンはカウンターに座って話し出した。
・・・この親子、仲がいいんだか、悪いんだか…
まぁ、アルミンの『反抗期』であることには間違いないか
リヴァイは二人を横目にディナーのための
テーブルセッテイングを始めていた。
「あぁ、そうだ!ハンジ、大事なことを忘れていた。
この街でも『街コン』が開催されることになって、
ウチも参加しないかと、事務局から誘われたのだが、どう思う?」
エルヴィンは持参していた『街コン』のパンフレットを広げて
ハンジに見せた。『街コン』とは男女の出会いを求める
街ぐるみでの『合コン』のようなイベントだ。
ハンジはパンフレットを読みながら
「ほうほう…複数の飲食店を飲み食べ歩いて巡って
出会いを求めるか…どう思う、モブリット?」
そばにハンジは共にパンフレットを読んでいたモブリットにも
意見を求めた。
「僕はいいと思いますよ!いい宣伝にもなると思いますし、
この予算なら、ハンジさんの料理の質も落とさず
提供できるとのではないかと…」
-
- 25 : 2013/11/29(金) 22:37:01 :
- 「エルヴィン、私も新規客の獲得に繋がるならいいと思う。
特に反対ないよ」
二人は賛成してくれたものの
エルヴィンはため息をつきながら、
「だけど…今時の男女はこんなことでもしないと、
出会いは見つからないのか…」
それを聞いていたリヴァイは
・・・自分だって出会いがないくせに…
鼻で笑ってエルヴィンを見ていた。
「父さん!『街コン』にぜひ参加してよ!
そしたら、出会いがあるかも」
アルミンはすかさずエルヴィンに言うと
「いや、これはウチが飲食店として参加するものであって…」
「じゃ、両方参加でいいじゃん!いいよね!?」
アルミンは目を輝かせながら、エルヴィンを見つめていた。
「アルミン、父さんはな…まだ、再婚は考えてないよ…」
エルヴィンがたじろぐと、ハンジが拍車を掛け、
「まぁ…出会いってどこに転がっているかわからないからね!
エルヴィンが今回の『街コン』に参加するかは別にして、
飲食店としてまずは参加してみて、様子を見るのもいいじゃない?
リヴァイ、今の話聞いていた?」
ハンジはリヴァイにも意見を求めた。
「あぁ…オレも新規客がクラブに流れて増えるなら、構わないが」
リヴァイはテーブルを拭きながら、答えていた。
ハンジはランチが終了すると皆にまかないを出しながら
『街コン』のパンフレットを改めて広げると
「ウチでいい出会いがあるといいね…」
「ハンジさんの料理を頂きながら、
出会いがあるってなんて素晴らしい!」
モブリットもハンジのことが大好きなだけに
無意識に惚気ることがある。
「父さんも、ハンジさんやモブリットさんみたいな
ラブラブになれるような出会いがあればいいなぁ…」
エルヴィンはアルミンから輝くような目で見つめられると
再びたじろいだ。
「…アルミン、そこまで父さんに…?」
エルヴィンは戸惑いため息をついてた。
・・・アルミン、オレはおまえの母さん、
ミランダをまだ忘れてないんだが――
エルヴィンは亡き妻のヒスイのペンダントトップを
加工して作ったカレッジリングの輝きを見ていた。
・・・オーナーはなんだかんだと『一途』ってことか…
リヴァイはまかないを食しながら
エルヴィンの戸惑う顔を見ると
ニヤけてしまいそうだったが、この『街コン』が
自分にとっても運命の出会いがあるとは
この時は微塵も思ってもいなかった。
-
- 26 : 2013/11/30(土) 22:27:53 :
- ④エルヴィン・スミスの過去(1)
「ただいまー!アルミン、帰ったぞーと言っても
深夜過ぎだから寝てるか…」
エルヴィン・スミスは昼のカフェの営業からそのまま
夜のクラブの営業終了まで残って仕事をしていたが、
その夜はゲイバーのママであるイッケイさんたちの
『襲撃』がなかったために缶ビールを1本飲んだ程度で
ほとんど酔っていなかった。
・・・アルミンは…オレにホントに再婚して欲しいのか…?
エルヴィンは無造作にジャケットをソファーの上に脱ぎ捨てると
そのまま座りテレビのリモコンを手に取り、
『アルミン:4歳の誕生日』というタイトルDVDを見ることにしたが、
かつてビデオテープだった映像は擦り切れる直前にDVDに焼いていた。
一人で部屋の電気もつけず、
再生するとそこには亡き妻のミランダが映っていた。
「ミランダ…」
エルヴィンのその目は真っ直ぐでありながら虚無感があった。
『ハッピーバースデー!お誕生日おめでとう!アルミン!』
『ありがと!ママ、だいすき!』
『アルミン、パパだってママが大好きだよ!』
『もう、パパったら…』
見慣れたその映像には
3人でバースデイケーキを囲みながら
ミランダをアルミンとエルヴィンが
満面の笑みで奪い合うような姿が映っていた。
「ミランダ…どうして、おまえは先に逝った…?」
エルヴィンが左手で口を押えると、
その薬指にはテレビ画面の光で
反射したカレッジリングの
グリーンのヒスイが輝いていた。
-
- 27 : 2013/11/30(土) 22:29:16 :
- 今からさかのぼる事、約○○年前。
若い頃のエルヴィンは仲間十数人で
屋台の飲食店を開いていた。
「いらっしゃい!安いよー!」
「熱いうちにどうぞー!」
「冷えたビールありますよー!」
まだまだ学生だった皆は、
自ら計画した屋台が小さくても
結果になっていくことが楽しかった。
地元の祭やイベントで営業する屋台だったため
集まる学生の仲間同士であったが、
それぞれ就職が決まると離れていくものも多かった。
そんな中、数人残っていた中にいたのがエルヴィン、
ハンジ・ゾエ、ミランダ、
そしてエルヴィンと何かと意見が合わず衝突していた
ナイル・ドークもいた。
当初、エルヴィンとミランダは付き合っていなかったが、
そのキッカケを作ったのはナイルだった。
ある祭の屋台で営業しているときだった。
エルヴィンとナイルが食事の仕込をしていると
「エルヴィン、オレはミランダと一緒に
今回の祭で屋台の営業を辞めることにする」
「ほう…なぜにまたミランダと?オレは聞いてないぞ」
エルヴィンは手を動かしながら、
ナイルの話はあまり聞いてない様子だった。
いつも真剣に聞いてエルヴィン自身が意見を言うと、
ナイルが噛み付いてきては話が平行線に
終わることがあり、淡々と聞くだけが最善だと痛感していた。
「オレは今日、この営業が終ったらミランダに告白する。
きっと彼女はオレにいい返事をくれるはずだ」
「大した自信だこと…」
エルヴィンが淡々と答えると
「オレはいずれ親父の会社を継ぐ。オレといれば安泰だからな…」
ナイルは代々続く会社社長の息子であったが、
その会社に入社する前に『社会勉強』として学生ながら
屋台の営業に関わっていた。
-
- 28 : 2013/11/30(土) 22:30:19 :
- 「まぁ、せいぜい頑張れ…」
・・・ナイルがミランダを…まぁ、こいつの言うとおり、ホントに
一緒になれば安泰だろうよ…
エルヴィンは屋台の営業が面白くて、
いつか自分で店を持ちたいという夢を持つようになり、
その時は彼女もいなく、作る気もなかった。
しかし、ナイルがミランダに告白すると聞いて
少し胸が痛んだ。
「はい、ソフトクリームどうぞ、気をつけて持ってね!」
エルヴィンは横目で笑顔で接客するミランダを見ては
『ミランダがナイルを好きなら、仕方ない』という考えでいた。
ミランダは長身で小麦色の肌で肩までのウェーブヘアで
目鼻立ちがハッキリとした美人でありながら、
甲斐甲斐しく皆のために働いて、
そしてお客からもすぐ顔を覚えられリピーターが出来るほどだった。
ある祭の営業のときだった。
男性客から遊びに行こうと誘われていても、
普段なら笑顔で交わすも、
その夜は熱心に誘って
ミランダが困っていると、
エルヴィンが間に入り冗談で『オレの彼女だから』と言って
払いのけていた。もちろん本気ではない。
「エルヴィン、いつもごめんね、
しつこい場合どうしたらいいかわからなくて」
「あぁ、別に気にするな、『仲間』だろ」
「そうね…『仲間』だよね」
淡々としたエルヴィンに伏目がちにミランダは答えていた。
-
- 29 : 2013/11/30(土) 22:31:36 :
- ・・・エルヴィン、ただの仲間だと思っているのはあなただけよ――
少し離れたところからお客の数や年齢層など
分析しながら、この屋台の方針を考えながら
二人の様子を見ていたのはハンジであり
ミランダにはエルヴィンに対して
仲間以上の気持ちを抱いていることに気づいていた。
しかし、その日のエルヴィンは
『ナイルが告白してうまくいけば
ミランダに会えるのも最後かも』と考えると
落ち着かなかったが、
終始『オレには関係ない』と言い聞かせていた。
そして営業が終了しようとしたとき
エルヴィンが接客していると、
「ねぇ、あなた…いい男ね…この後遊びに行かない?」
エルヴィンより年上であろう
色気のある女性客から声を掛けられていた。
普段は『彼女がいるから』とか『結婚してるから』と
冗談で交わしていたが
「えっと…行き…」
ミランダのことを考えると、
その誘いに乗ろうと思った瞬間
「あー!お客さん、ごめんなさい!私の彼なんです!
もー!キレイなお客さんだからって誘いの乗るなんて…!」
その間に入ったのはミランダだった。
女性客はため息をつき
「彼女がいるなら仕方ないわね…
あなたも彼女の目の前で浮気しようとするなんて、
どうかしてるわね」
少し目を釣り上げ女性客は捨て台詞をエルヴィンに
突きつけるとそのまま去っていった。
「なんで、オレがあんなこと言われなきゃいけないんだ…」
エルヴィンは不機嫌な表情になると
「エルヴィン、まさか
ホントは誘いに乗りたかったとか…?」
「いや別に…すまない」
伏目がちに答えると
「うん、だって『仲間』だから助けるのは当たり前だよ!」
「あぁ…そうだな」
・・・『仲間』か…そうだよな、俺たちは『仲間』だ――
エルヴィンはずっと『仲間』だと思っていたのに
この一件で『ミランダをナイルには取られたくない』と
改めて胸が痛んだが時はすでに遅かった。
営業が終了して売り上げを計算しているエルヴィンが
仲間たちに言い放った。
-
- 30 : 2013/11/30(土) 22:32:28 :
- 「なぁ…みんな、このメンバーもだんだん減ってきた。
もう…この屋台は解散した方がいいんじゃないか…?」
そろそろ潮時だと感じていた仲間たちは
現実を突きつけられると、寂しさもあり
無言になってしまった。
「そうだ!今日の打ち上げは、まだ続けたいって人だけが
参加するってのはどう?なんだか湿っぽいのもイヤだよね…?
永遠の別れじゃないしさ!」
その提案をしたのはハンジだったが、みんなその意見に賛同した。
エルヴィンは売り上げから仲間にその日の給料を渡すと
1時間後に待ち合わせ場所の居酒屋に集まろうと告げると解散した。
片づけをしながら、
エルヴィンはナイルとミランダが二人で帰っていくのを見かけた。
・・・告白が済んだのか、どうかわからないが…お幸せに…
エルヴィンはため息をつくと気持ちを切り替え
その待ち合わせ場所の居酒屋に行くと、
そこに待っていたのはハンジだけだった。
「ハンジ…!俺たち二人だけか!」
「そうだね、仕方ないよね」
二人は残念がりながらも、二人で打ち上げをするこにした。
-
- 33 : 2013/12/01(日) 22:57:54 :
- ⑤エルヴィン・スミスの過去(2)
「お疲れ様でしたー!」
エルヴィン・スミスとハンジ・ゾエは
ビールジョッキで乾杯をすると、
学生仲間でやっていた屋台の営業の
『解散式』を二人で始めていた。
賑やかな居酒屋のカウンターに座った二人は
「まさか、二人だけだとは思わなかったけど、
いい経験になったと思うよ」
エルヴィンはビールのジョッキを傾けながら
ハンジに話しかけると
「うん、そうだね。これをキッカケに私もやりたいことがきまったよ」
ハンジは一口ビールを飲むと話し出した。
「…ハンジ、実はオレもなんだ」
ハンジは元々物事の分析力や観察眼が優れていて
お客の流れを見ながら、タイミングを見て売り出したとき
自分が作った食べ物を美味しそうに食べる姿を見ると
生きがいを感じ始めていた。
エルヴィンは自分が『0』から始めたものが
紆余曲折ありながらもだんだんと成長していく過程が面白くて
将来、自分の店を持てたらと思っていた。
「まぁ…まだまだ今は学生のノリでもあるし、
まだまだデカイ厳しさとか直面したことないけど、
いつか自分で店を経営できたらと思っている」
エルヴィンはビールを乾杯して間もないのに
すでにジョッキを空にしていた。
「エルヴィン、今日はハイペースだね!」
・・・まぁ…ミランダとナイルのことが気になるんだろうけど…
ハンジはエルヴィンがミランダに対する感情に薄々気づいていたが
今日の行動を見ていると確信していた。
エルヴィンは自分たちの仲間のナイル・ドークがミランダに
告白すると聞いて胸が痛むと、気がつけばビールをいつもよりも
ハイペースで飲んでいた。
-
- 34 : 2013/12/01(日) 22:59:07 :
- 「あぁ、そうだ!ハンジ、俺たちでいつか、カフェ開こうよ!
おまえの分析力と料理とオレの経営手腕があれば何とかなるよ!」
時間が経つに連れて
エルヴィンは酒の勢いもあり、
ハンジに『夢』の提案をし始めた。
「いいね!私もエルヴィンとの
共同経営ならやっていけそうな気がするよ!」
ハンジは自制してほろ酔い程度に止めていた。
そしてイタズラっぽく笑みを浮かべ
「エルヴィン、だけどもう一人足りないじゃないの?
笑顔で接客上手なあの子が~?」
「あぁ…ミランダか」
エルヴィンは即答でミランダの名前を出したために
ミランダはビールを噴出しそうになった。
・・・おい、即ミランダの名前を出すのかよ!
「確かにミランダの笑顔は人を惹き付け、
『ろうなくなんの』の客が寄ってきていたよな…」
「エルヴィン、『老若男女』だよ!もう舌も回らないくらい酔っているのか!」
ハンジはいつも冷静なエルヴィンが泥酔に近いくらい酔っているのを
目の当たりにするのは初めてで笑いが止まらなかった
「・・・エルヴィン、あんた、面白いよ!
今から、ナイルからミランダを奪い返してこい!」
ハンジが居酒屋の入り口を指差して外に出るよう指図すると
「おぉ…!金持ちのボンボン野郎に取られてたまるか…!」
・・・本音が出たか!エルヴィン!
「ほら、行ってこい!今頃、ナイルがミランダにちゅーとかしてるかもねー!」
ハンジが自分自身を抱きしめキスしている素振りをすると
「ナイルの野郎…許さん…!行ってくる!でも、この1杯飲んで…」
エルヴィンが立ち上がり、ジョッキに口をつけた瞬間だった。
「…私が誰とちゅーしているって…?」
エルヴィンの手を止めジョッキを取り上げビールを飲み始めたのは
ミランダ本人だった。
「ミ、ミランダ…?どうしてここへ…?」
エルヴィンが驚いて座ると、
ハンジは席を一つ寄せ二人の真ん中に座らせた。
-
- 35 : 2013/12/01(日) 22:59:59 :
- 「あぁ…ナイルに呼ばれて
食事しようってことになったんだけど、
あいつ最低!すいません、生一つ!」
ミランダはナイルに対して
怒りが治まらないままビールを注文していた。
まだまだ冷静なハンジが事情を聞き始めた。
屋台が営業が終るとナイルがミランダに対して
『屋台のことで誰にも話せない大事なことがある』
ということで呼ばれたということだった。
ミランダは何事かと思い付いて行くと、
別のレストランに二人だけ行くことになった。
しかし、ミランダはその大事なことが気になり
酒を飲むこと拒んでいた。でも、ナイルは
その大事な話は話さずに、今までの思い出話しかしなかった。
それで突き詰めると、ミランダに自分の気持ちを
告白したということだった。
ハンジはその話を聞いていると
「…なんだか、嘘で呼び出して告白するって何だかね…」
呆れた顔をミランダに見せると
「それにね、オレは将来安定だからとか、
結婚すれば社長夫人だとか、まだ勤めてもないのに
もう社長気取りで…それに」
ミランダは自ら注文して届いたビールを飲み干すと言い放った。
「あいつさ、この近くのホテルを予約してあるから、
一緒に行こうって誘ってきたんだよ!」
「ええー!ナイルのヤツ…!」
ハンジは呆れ顔から酔いもあり、怒りが沸いているようだった。
すでに『ベロンベロン』の状態のエルヴィンは
「ミ、ミランラ…!おまえ、ナイルに何かされたのか…!」
「エルヴィン、舌が回っていないけど…!何もあるわけないじゃん!
トイレに行く振りして、ここの打ち上げに合流したってことだよ!
ところで、ハンジ…エルヴィンなんでこんなに酔っているの?」
エルヴィンがすでに身体が揺れるくらい酔っている姿に
ミランダは引き気味になっていた。
-
- 36 : 2013/12/01(日) 23:00:22 :
- 「あぁ…ミランダ、私の口から言いづらい…」
ハンジは二人の気持ちに気づいているが、
大事な気持ちはお互いで確かめ合った方がいいと
思っていると、
「えー!どうしてよ?何があったの?ねぇ?」
ミランダが真剣な眼差しで言うと
ハンジはジョッキに残っているビールを一気に飲み干した。
「ミランダもエルヴィンも…あんたたちは同じ気持ちってことだよ!
私の口からはこれ以上言えない!
あとは自分たちで確かめて!あー恥ずかしい!」
ハンジの顔が赤くなったが、
酔いではないことにミランダは気づいた。
・・・まさか、エルヴィンも…私のことを…?
すでに眠そうにボーっとするエルヴィンを横目にすると
ミランダは顔を赤くしていた。
ハンジは今まで酔いに任せて可能性もあるが、
『二人でいつかカフェ経営したい、接客はミランダに任せたい』
という話をしていたことをミランダに伝えると
「いいねー!その話!私も乗った!」
ミランダも屋台を通して仲間でひとつのことを作り出して
自分が接客という役割であることが楽しくも生きがいを見出していた。
そのために解散することは寂しく感じていた。
「だけど…まさか、3人だけだとはね…」
ハンジはため息をつきながら、
「確かに…学生のノリで経営とか出来ないし、
お金も絡むし、簡単じゃないから、
みんな仕事が決まれば離れるよね」
「それも、そうよね…」
ミランダはほろ酔いでビールを一口飲んで、
つまみに手をつけていた。
-
- 37 : 2013/12/01(日) 23:00:48 :
- 「その話を進めたかったけど、
肝心な『言いだしっぺ』がこうじゃ、
日を改めた方がいいだろうね」
エルヴィンはすでに『夢の世界』の住人で
カウンターで腕枕にして眠っていた。
顔を横に向けたエルヴィンは幸せそうな寝顔をしていた。
「…なんだか、ミランダが来て安心したのか…?」
ハンジはミランダにイタズラっぽくいうと
「まさか…!」
エルヴィンの寝顔を見るとミランダは思わず乱れた髪を直していた。
「ミランダ、今日はもうお開きにして、明日の夜とか時間があるなら、
ファミレスとかで話さない?またこうなったら大変だし…!」
「それもそうだね…」
二人はエルヴィンの寝顔を見ながら、
改めて話し合いを持つことに決めていた。
そして眠っているエルヴィンを二人で抱えると、
居酒屋から出ると、
「ミランダ…あなた一人暮らしでしょ?泊めてあげたら?」
「ええ!?」
ミランダは顔を赤くするも、完全に寝ているエルヴィンを見ると
そうするしか選択はなかった。
そして二人でエルヴィンを抱え
ミランダの部屋に運んでベッドに寝かせると
「じゃ、私はこれで退散する!また明日ね!おやすみー!」
ハンジは二人をミランダの部屋に残すと帰宅の途についた。
「まぁ…二人とも、気持ちを確かめあうんだな…いひひ!」
ハンジは意味深な笑みで明かりのついたミランダの部屋を眺めていた。
「エルヴィンが私をね…」
-
- 38 : 2013/12/01(日) 23:01:18 :
- ミランダはエルヴィンの寝顔を見ていると、
今までの屋台での営業のことを思い出していた。
エルヴィンは有言実行な性格だけでなく、
予算や様々な予測を立てながら
出店に挑み、リスクもありながらも突き進む危ういところもあったが
結果を残すためにミランダは関心すると同時に頼もしい存在だった。
ミランダ個人にとってはナンパから救われたことも何度かあって
さらに頼もしいと感じつつも『それは仲間だから』と言われ
心苦しいと感じたとき『エルヴィンを好きなんだ』と気づいた。
ミランダはエルヴィンとは屋台以外では付き合いがなかったために
こうしてエルヴィンが部屋に来たことは驚きであり、嬉しさもあるが
泥酔状態のエルヴィンのためにどうしていいのかわからなかった。
「朝まで見守るしかないか…」
ミランダの部屋はワンルームでベッドが部屋の3分の1を閉めていて
エルヴィンが眠るベッドを背に座ると、
その前のテーブルで腕枕に寝ることにした。
-
- 39 : 2013/12/02(月) 22:27:24 :
- ⑥エルヴィン・スミスの過去(3)
「あれ…?ここはどこだ?」
エルヴィン・スミスが目覚めると、
ハンジ・ゾエと居酒屋で飲んでいた記憶はあったが
途中からプツリと切れ
知らない部屋で寝ていることに驚いていた。
「あー!エルヴィン、おはよう!やっと起きた」
そこには髪をタオルで乾かしながら、
バスルームから出てきたミランダが
現われさらに驚いていた。
「ミランダ…!どうして、オレがここに?何があった?」
エルヴィンは頭を抱えて少しパニックになっているようだった。
「あぁ…エルヴィン、全く覚えてないの…?」
「ごめん、ミランダ…全然覚えがない…ここはおまえの部屋なのか…?」
「そうよ!だけど、そんなに酔っていたとは…!」
ミランダは正直に昨晩の出来事を話すと
エルヴィンはナイル・ドークからの告白を
断ったことを知ると胸を撫で下ろしていた。
しかし、ミランダはホテルに誘われていたことは
エルヴィンへの気持ちもあり話さなかった。
-
- 40 : 2013/12/02(月) 22:27:50 :
- 「そうか…じゃ、ハンジと三人で
またファミレスで今夜話すんだよな?それじゃ、また…」
エルヴィンが立ち上がろうとすると、まだ酔いが残っている様子で
足がおぼつかなかった。
「エルヴィン!危ないよ!このまま帰ったら!
しばらく休んで落ち着いてシャワー入って帰ってもいいじゃない?
私はかまわないから…!」
「そうか…ミランダ、すまない…」
エルヴィンはミランダへの気持ちに気づいていた直後のために
何も言えない状態で座ったまま固まっていた。
いつも屋台で甲斐甲斐しくそして、
客が子供だった場合は目線を落とし接客し
年配者だった場合は身体を気遣うような姿を見ると、
愛情深い人なんだと思っていた。
エルヴィンは元々自分の感情を出すような
性格でもないためにそれ以上は
思っていなかったはずだが、
ミランダがナンパをされ困っている姿を見ると
放っておけなく、自ら進んで阻止することがあった。
それはただ『仲間だから』と思っていたが、
気がついたら何度もその行動をしていた。
涼しい顔をしていつもミランダに接していたが
ナイルがミランダが好きだと
聞かされると、落ち着かなくなりだんだんと
本当の自分の気持ちに気づき始めていた。
-
- 41 : 2013/12/02(月) 22:28:23 :
- 「ミランダ、あの…うっ…!!」
エルヴィンは気持ち悪くなり、口を押えるとミランダは
バスルームまで誘導すると、
トイレの前でしゃがむエルヴィンの背中をさすった。
「エルヴィン、飲みすぎだよー!まったく…!」
エルヴィンがトイレで吐いていると
「情けない…」
エルヴィンが一言つぶやくと、ミランダは
「気にしない!誰でも一度や二度、こんな経験するって!」
背中をさすりながらミランダは答えていた。
「エルヴィン、このままシャワーに入ったらいいよ!
タオルとかここに用意してあるから!
全然気にしないでいいよ!」
ミランダがドアを閉めエルヴィンが一人になると
「好きな女の前で…この醜態をさらすのが情けない…」
エルヴィンは本来なら好きな女性の部屋のシャワーを
使っているなら、心臓の鼓動が止められないかもしれないが
情けなさでそんなドキドキするような気持ちにもなれなかった。
「ミランダ、シャワーありがとう…えっ…?」
エルヴィンがシャワーから出て髪をタオルで乾かしながら
出てくると、朝食が用意されていた。
二日酔いでもあり、ほとんどが『流動食』に近い
ヨーグルトや細かくカットされたフルーツなど簡単なものだったが
エルヴィンは自分の為にここまでしてくれるとは
思わなかったために
ただただ驚いて席に座るだけだった。
-
- 42 : 2013/12/02(月) 22:28:56 :
- 「エルヴィン、あまり用意できなくてごめんね、
今はこれくらいしか食べられないでしょ?」
「いや、おまえが謝らなくてもいいよ、
オレがお邪魔しているんだから…」
「もし、食べられなかったら残してもいいよ!」
「まさか、そんなことが出来るわけがない!」
エルヴィンがすべて平らげると、
さらに出されたのは胃薬だった。
「また気持ち悪くなっても大変でしょ?」
特に押し付けがましい感じではなく
すべて自然に成し遂げていた。
「…あ、ありがとう…」
エルヴィンはミランダの気遣いに
嬉しさもあるが、ミランダへの気持ちが
あふれ出して止まらないことに気づいてた。
「ミランダ…あの…その…今度、今回のお礼を兼ねて
食事でもしないか?」
エルヴィンはそのまま『好きだ』と言ってしまいそうだったが、
気持ちを抑えて食事に誘うことにした。
「もちろん!でも、お酒は控えめにね」
「あぁ…それはそうだ…」
ミランダはエルヴィンから誘われて嬉しい気持ちを抑え
笑顔で答えるしかなかった。
エルヴィンはミランダの部屋から自分の部屋に帰ると
意外と近いところに住んでいたことに驚いた。
全然知らなかったが、近いことに嬉しく感じていた。
そして夜になると、ファミレスで話し合い
エルヴィンは経営手腕を活かすこと、そして
ハンジが調理式免許を取得して
客や食の流行りなど分析などをして活かす。
ミランダは接客を担当して顧客の集客に努める担当になった。
3人はそれぞれの役割分担を朝まで話し合うと
学生生活が終った後、2年でお金を貯めて実現させようと
具体的な目標を立てていた。
-
- 43 : 2013/12/02(月) 22:29:24 :
- 「絶対に…みんなでカフェを実現させようね!」
ハンジはメガネから覗く瞳を二人に向けると
エルヴィンとミランダもうなずいて答えていた。
そして数日後の夜。
エルヴィンとミランダは夜になるとディナーを提供する
カフェで食事をしていた。
「エルヴィン、こういうおしゃれなところ知っているんだ!」
「あぁ…まぁね…」
照れながら答えていたが、誘うまでの数日間、
雑誌などでお店を調べていた。
「こういう温かい感じの内装とかもいいよね!ハンジが言っていた
『楽しく温かい雰囲気』での食事ってホントいいよね!」
「あぁ…そうだな」
エルヴィンはホットコーヒーをすすりながら、
微笑むミランダを見つめていた。
そして食事が終るとミランダが
「ねぇ、エルヴィン、クラブ行かない?なんだかパーッと踊りたい気分!」
「クラブか…」
エルヴィンは仲間に誘われ数回行った事あったが、
普通は気乗りしないがミランダの誘いだからと行くことにした。
そのクラブは落ち着いた雰囲気であり、年齢層が高く
若いエルヴィンとミランダが最年少のようだった。
「ここ好きなんだ!なんだか『大人』って感じでしょ?」
ミラーボールが回るだけで内装もシンプルで
DJブースがスポットライトで輝いていた。
そしてソウルトレインに出てきそうな
レトロな雰囲気でアフロヘアと
大きな襟のシャツにベルボトムのパンツのコスチュームの
二人組みが踊り出すとエルヴィンも誘われ
フロアのスポットライトの下にいた。
その時流れていたのが
アース・ウィンド&ファイヤーの『セプテンバー』だった。
「エルヴィン、何その踊り!」
ミランダは踊りなれないエルヴィンに涙を流して笑うが
そのソウルトレインの二人組み耳打ちして
「彼女にカッコイイ姿見せたかったら、俺たちのマネをしたらいい!」
エルヴィンは見よう見まねで踊っていると
だんだんと様になってきた。
そしてミランダも一緒に踊り出して、
「エルヴィン、なかなかやるじゃない!」
ミランダの手が肩から首に掛けて触れられると、
エルヴィンの鼓動は止められなかった。
「おっと、すまない…!」
ソウルトレインの二人組みがわざとらしくエルヴィンにぶつかると
ミランダはエルヴィンに抱きしめられていた。
まるで二人は時間が止まった感覚に陥るが
どちらも手を離す気にはなれなかった。
-
- 44 : 2013/12/02(月) 22:29:55 :
- 「ミランダ…ごめん」
「いいよ…!」
ミランダはドキドキが止められないまま
エルヴィンに優しく微笑んでいた。
そして二人は踊りつかれると、クラブを後にした。
「エルヴィン、楽しかったね!
いつか、カフェと一緒にクラブも経営したいね!」
「いいね!大人が遊べる場所っていいよ!
いい年齢した人たちが子供みたいに遊んで、
そういう大人が遊べる場所って
年を重ねるごとになくなるから…!」
エルヴィンとミランダは興奮冷め止まず、帰路に付くことにした。
そしてミランダがエルヴィンのアパートの前に到着すると
二人は言葉少なめになっていた。
「エルヴィン、ありがとう…それじゃ、ここで…」
「あぁ…じゃ、また…おやすみ」
・・・告白するには今がチャンスじゃないか?
エルヴィンは拳を握り自分のアパートへ向おうとするが
途中で振り返りミダンダの元へ戻ることにした。
そしてミランダも自分の部屋に向かおうとしていたが
エルヴィンに気がつくと元の場所へ戻ってきた。
-
- 45 : 2013/12/02(月) 22:30:57 :
- 「エルヴィン、どうしたの…?」
ミランダがエルヴィンの前に立つと
「ミランダ…あの、その…」
エルヴィンはミランダの前にすると頭が
真っ白になり何も言えなくなった。
何か言いたげな姿が可愛く感じたミランダは
「おやすみのキスなら…していいのよ…!」
イタズラっぽくミランダが言うと
「おまえ…まだ好きだと気持ちも伝えてないのに、
そんなこと…あっ…!」
エルヴィンは耳まで真っ赤にして立ち尽くすしかなかった。
その姿が愛おしくなり、ミランダは
エルヴィンの胸元に立ち、顔を見上げながら
「私はずっとエルヴィンが好きだったよ…」
ミランダは頬を紅潮させエルヴィンの
瞳をまっすぐ見つめていた。
「ミランダ…!」
エルヴィンはミランダをそっと抱きしめ、
そして頬に手を寄せ、
二人は月明かりに照らされながら
初めてのキスをした。
「おやすみ…またな…」
エルヴィンは『心躍る』気分で自分の部屋へ
戻っていった。
・・・ミランダもオレのことを…
しかし、仲間内では気ついていた。
エルヴィンは無意識の行動のようだったが
その目線の先にはいつもミランダがいた。
しかし、それを気にしないようにしていたのは
当人たちだけだった。
ナイル・ドークがミランダに告白すると
エルヴィンに告げたのは
『ミランダが好きなのは俺の方だ』と
『宣戦布告』のようなものだった。
-
- 46 : 2013/12/03(火) 23:20:02 :
- ⑦エルヴィン・スミスの過去(4)
エルヴィン・スミスが学生生活を終えると
就職はせず様々な飲食店を経験して
2年で自分たちの夢でもあるカフェの営業の
資金を貯めるために毎日のように働いていた。
そして生活費を節約するために
自分の部屋より広めの部屋に住む
ミランダの部屋で同棲をしていた。
ハンジ・ゾエは調理師免許を取得した後、
就職するも休みの日は様々なレストランやカフェに
出向いては味や内装、立地条件の研究に余念がなかった。
ミランダも就職するが、
サービス業に就いて接客について学び、
同棲しながらもエルヴィンとはすれ違いが多くて
同じ屋根の下に住んでいながらあまり顔を合わせなかった。
1年が過ぎた頃、エルヴィンは様々な分野の人脈も
広がっていったが、その内に出会ったのが
一人が不動産王のドット・ピクシスだった。
エルヴィンがひたむきに自分の夢に向う姿が
自分が若い頃との想いを重ね
『カフェを出すときには相談するように』と
声を掛けられていたほどだった。
そして、3人で約束していた2年が経つころだった。
エルヴィンがドット・ピクシスから様々な立地条件の
不動産を紹介されると、ハンジにも確認させていた。
-
- 47 : 2013/12/03(火) 23:20:25 :
- 「この条件の場所がいい。それに学校やオフィス街も近い」
「わかった。さっそくピクシスさんに話してくる」
「その前に…私も紹介したい人がいるんだけど…!」
「ハンジ、誰…?最近、キレイになっていると思っていたらやっぱり…!」
ミランダは自分の夢のカフェを出すことに
夢中になっていると思っていたハンジが
だんだんとキレイになっていく姿を見逃さなかった。
「は、初めまして…モブリットと申します」
「えっ…年下…?」
ハンジが照れながら連れてきた
モブリットはまだ男の子という雰囲気であり、
エルヴィンもミランダも驚いていた。
「そう、まだ大学生なんだ…」
「ハンジ…年下好きだとは…!」
エルヴィンとミランダは驚かされていた。
そしてハンジはモブリットが自分たちの夢に共感して
栄養学を学んでカフェの経営に関わりたいということを
説明していた。
「栄養学か…!ハンジが選んだ人らしいな!
健康志向のカフェってことでもいいかもな。
まぁ…二人で色々出来そうだけど…まだ若いし…」
エルヴィンがモブリットの将来について気にすると
「はい!僕は自分が大学を卒業して落ち着いたら、
ハンジさんと結婚させて頂きたいと想いますが、
エルヴィンさん、ミランダさん、よろしいでしょうか?」
「えーー!」
ミランダは驚くだけだった。
「結婚は自分たちの許可はいらないよ…!
お二人さえよければ、これから、末永くよろしく!」
エルヴィンはモブリットをカフェ経営の一人として歓迎していた。
そしてミランダとエルヴィンが自宅アパートに戻ると
「まさか、ハンジが結婚相手を連れてくるとは…!」
「驚いたな」
二人は興奮冷め止まず話していた。
「だけど…俺たちがハンジに先越されるとは…」
「え…エルヴィン、私たち…?」
「もちろんだ、やっぱり、
カフェが軌道に乗ってからってことだけど、結婚しよう、ミランダ」
「エルヴィン…!」
ミランダは嬉しくてエルヴィンに抱きつくとその胸には
初めての給料で買ったグリーンのヒスイのネックレスが輝いていた。
ミランダにとってグリーンがラッキーカラーで
宝石言葉の『長寿・健康・徳』に惹かれて購入していた。
この3つがあればカフェ経営に貢献できると
願掛けみたいなものでもあった。
そして数年の後、3人は紆余曲折がありながらも、
カフェを軌道に乗せると自分たちのカフェで
エルヴィンとミランダは小さな結婚式をあげいていた。
かつての屋台の仲間もいたが、
ナイル・ドークも仲間として招待されていたが
エルヴィンはあまりミランダに合わせたくない気持ちもあったが
『過去のこと』と深く気にしないようにしていた。
それはナイルもすでに結婚していたからだった。
さらに数年過ぎると、ハンジもモブリットも二人にあやかり
カフェで結婚式をあげていた。
-
- 48 : 2013/12/04(水) 22:54:40 :
- ⑨エルヴィン・スミスの過去(5)
「いらっしゃいませ!空いているお席へどうぞ!」
ミランダが元気よく接客していると、
その日のすでにディナーの時間になって
太陽が西の空に傾き始めていた。
「ミランダ!もう時間だよ!」
「あー!もうこんな時間か!ごめんね、行って来る!」
ハンジ・ゾエに言われるまで気づかず
接客をしていたミランダには
エルヴィン・スミスの間には子供にも恵まれていた。
元気いっぱいのアルミンという男の子だ。
保育園で面倒を看て貰えるギリギリの時間まで
アルミンを預けていたが、いつも迎えに行くときは
愛情たっぷりに抱きしめていた。
「アルミーン!いつもごめんねー!」
「ママー!」
「先生、いつもありがとうございます!」
「いえいえ、アルミンはいつも大人しく待ってますよ!」
アルミンは母であるミランダが迎えに来ると、
抱きつくと離れなかった。
「もう…アルミンがママを抱っこしていたら、
歩けないよ!」
「ママ、だいすき!」
「先生…それじゃ、失礼します…アルミン、先生たちにご挨拶は?」
ミランダはアルミンを改めて抱きかかえると
「せんせーばいばーい!」
笑顔で挨拶すると
「もう!アルミンはさっきまで先生大好きって言っていたのにねー!
またねー!バイチャー!」
アルミンは先生たちに
愛想を振りまくとそのまま目線は
家に向っていた。
そして自宅アパートに到着すると父であるエルヴィンが
ホームビデオをまわして待っていた。
-
- 49 : 2013/12/04(水) 22:55:03 :
- 「アルミン、今日は何の日だ?」
「なんのひ?」
「今日は…アルミンの誕生日なんでーす!」
エルヴィンはアルミンをテーブル席に連れて行くと
ろうそくが4本並んだバースデイケーキの前に座らせた。
そしてビデオカメラを親子が映るように三脚で固定させた。
「ハッピーバースデイ、トゥーユー!」
二人をアルミンを囲み
ろうそくの付いたケーキをバースデイソングを歌っていた。
「ハッピーバースデイ!4歳の誕生日おめでとう!アルミン」
アルミンがろうそくを消すと、
「ありがと!ママ、だいすき!」
「アルミン、パパだってママが大好きだよ!」
「もう、パパったら…」
アルミンとエルヴィンはミランダを奪い合うように
両腕を引っ張り合っていた。
「アルミン、誕生日プレゼントだよ!」
エルヴィンがプレゼントを渡すと、
前から欲しがっていたラジコンカーだった。
「今度の休み、一緒に遊ぼうな!」
「うん、パパだーいすき!」
アルミンはエルヴィンに抱きつくと
「ママだって、パパが大好き!」
3人がそろって人生で一番幸せであろう
瞬間がビデオには納められていた。
「じゃ、仕事に行って来るから、あとよろしく、ミランダ!」
「いってらっしゃい!」
ミランダはアルミンを抱っこしてエルヴィンを見送った。
「アルミン、ケーキはあとで食べようね!
まずは夕ごはんからだよ!」
エルヴィンは一人息子の誕生日も多忙で祝えないのは
忍びないと感じ、せめて誕生日のケーキのろうそくを消す瞬間と
プレゼントを渡すときだけは一緒にいたいと思い
途中で仕事を抜け出してきていた。
そして、
その数日後の悲劇は誰も予想もしていなかった――
-
- 50 : 2013/12/04(水) 22:55:29 :
- 「ただいまー!ハンジ、頼まれていたもの買ってきたよ!
このリスト通りに…」
ミランダはハンジに頼まれメニューの材料の買出しに行っていて、
荷物をカフェのテーブルに置いていた。
「ありがとう!ミランダ、いつもありがとう!」
「いえいえ…忙しいときはお互い様…あれ?」
ミランダはメモのリストを見ながら忘れ物に気づいた。
「あー!ごめん!買い忘れ発見!1カ所だけ別の店だった!
近くだし、また行ってくるよ!ディナーまで時間あるから間に合うよ!」
「ミランダ、いいよー!急ぎでもないし」
「大丈夫!っていうか、買わないと忘れちゃうから!」
ミランダはハンジを笑顔で見つめると
近くのレジにいたエルヴィンは
「気をつけていってらっしゃい!あぁ、そういや、マフラーは?」
「あぁ、そうだね!冷えてきたから、ちょうど欲しかったんだ!
いってきます!」
エルヴィンからマフラーを受取るとそのままガラスのドアをあけると
そのまま急いで買い物のため改めて出かけていった。
しかし、その店までの距離は近いはずなのにいつまで経っても
ミランダは帰ってこなかった。
エルヴィンはカフェで接客しながら
「ミランダのヤツ、どうしたんだ…?
このままじゃアルミンのお迎えの時間が…」
そのときだった。
カフェの電話が鳴ると受話器を取ったのはモブリットだった。
「はい、カフェ『M&H』です…え…警察…?」
その電話に出ていたモルビットの顔はだんだん青ざめていった。
「モブリット、どうした…?」
「エルヴィンさん、警察から…ミランダさんが!」
「警察…?」
エルヴィンは驚きモブリットから受話器を受取ると
ミランダが交通事故に遭い病院に運ばれたということだった。
「モブリット、ハンジ、すまないが今から病院に行ってくる、
店とアルミンを頼む!」
慌ててエルヴィンがミランダが運ばれたという病院に行き
病室に入った瞬間、ベッドに寝ているミランダの顔には
すでに白い布が被されていた。
-
- 51 : 2013/12/04(水) 22:56:19 :
- 「ミランダ…?」
「スミスさですか?ミランダさんのご主人ですよね…?奥様は…」
そばにいた医者の声はエルヴィンに届かず
ただ被されていた布からミランダの顔を確認することしか出来なかった。
いつも寝室で見かける寝顔がそこに横たわっていた。
「ミランダなぜ…?」
その場に腰が抜けたようにしゃがんでしまうが、
震える手でベッドのふちを掴むとミランダに抱きついた。
「ミランダ!起きろ!さっきまで元気だったじゃないか!
俺とアルミンはどうなるんだ!?」
「スミスさん、落ち着いてください!」
エルヴィンは医者や警察関係者に押さえつけられても
泣きながらミランダに抱きついていた。
ミランダは青信号を渡っているとき、
突っ込んできたバイクを避けられずに
はねられてしまった。
打ち所が悪かったが、幸いにも顔はキレイなままに
天に召されてしまった。
エルヴィンは廊下の長いすに力なく座っていると、
ハンジとモブリットがアルミンを連れて病院にやってきた。
「エルヴィン、ミランダは…?」
ハンジがエルヴィンの憔悴しきったエルヴィンを見ると
二人も泣き崩れるしかなかった。
「パパー!」
アルミンはエルヴィンを見つけると、そのまま膝に抱きついた。
「ママは?」
「ママはね…パパとアルミンの心の中に引越ししたんだよ。」
「こころってどこー?」
「ここだよ…」
エルヴィンはアルミンの胸元を指差すと再び抱きしめた。
そしてしばらくカフェの営業は休んでいたが
再開する頃にミランダの実家からアルミンを引き取りたいと
言われていたが、それを断りエルヴィンは一人で育てると決意していた。
そしてアルミンはしばらく不思議なことを口にすることもあった。
「パパ、ママ、こころにいるね!」
「…え?」
「ママがママはだいじょうぶだよ!って言っているよ」
笑顔いっぱいでアルミンが自分の胸を指差して答えていた。
エルヴィンはアルミンが悲しまないようについた
愛情込めた嘘のつもりだったが、予想外のことを話し出した。
「パパのことはなんと言っている…?」
アルミンはしばらく黙って
「あいしてるって!」
エルヴィンはもう泣かないと決めていたのにその言葉で
アルミンを涙ながらに抱きしめるしかなかった。
しかし、時がが流れるにつれてそういうことも言わなくなっていき
エルヴィンはミランダへの気持ちを振り切るように仕事に打ち込むと
事業は拡大していき、飲食店も数店構えるくらいになっていた。
また3人の思い出が詰まったアパートから広めのマンションに
引っ越すことさえ出来ていた。
アルミンはハンジとモブリットの助けにより伸び伸びと育っていった。
そして数年の後、
カフェ『H&M』の上階が空き店舗になったときだった。
・・・そういえば…ミランダと『大人が遊べるクラブ』を
作りたいって話したことあったっけ…
この不動産を管理するドッド・ピクシスに相談したところ
クラブにするには問題ないとわかると、
改装して営業までにこぎつけた。
『大人が遊べるクラブ』がコンセプトのため
オールジャンルで精通するようなDJが欲しかったために
選ぶのに時間がかかっていたが、
リヴァイに出会うと落ち着いた大人のために
住まいも『安く提供できる』という条件も重なり
引き受けてもらっていた。
リヴァイはレコードコレクションが多くなり、
ちょうど物件を探している最中というタイミングがあっていた。
-
- 52 : 2013/12/04(水) 22:56:35 :
- 「ミランダ…クラブも営業できそうだ」
ミランダの『形見』になっていた
グリーンのヒスイのペンダントを手に取り
何気なく家のリビングでテレビを見ていたら、
とある国のプロスポーツ選手がインタビューを受けていた。
その指にはカレッジイングが映っていた。
「何だ…?この大きな指輪は…!これだ!!」
エルヴィンはひらめいたように楕円系型で
大きな石が輝く指輪のカレッジンリングを見ると
このヒスイを使ってオーダーメイドで注文することにした。
指輪なら形見を毎日つけていられるということで『即決』だった。
元々デザイン的に『ゴツイ』指輪であるが、
エルヴィンの細く長い指には似合っていた。
またドット・ピクシスはクラブを営業するに当たり、
エルヴィンがかつて若い頃に飲食店に勤めていたときのカッコウ、
スーツにカラーシャツの方が『お主には似合っている』と
アドバイスをもらうと早速実行してみた。
最初に食いついてきたのは、
近所のゲイバーのママさんたちだった。
ママたちが何気にお店でエルヴィンのことを話すとそれから
『渋いオーナーがいるクラブ』ということが
女性客の間に口コミで広まっていった。
クラブの名前、
「Flügel der Freiheit」(フリューゲル デア フライハイト・自由の翼)は
『大人の遊びにも自由を』というテーマででエルヴィンが名づけていた。
この数年、経営も軌道に乗っていること、そして
リヴァイの人気もあり毎日忙しく過ごしているが、
たまに早めに帰ると
エルヴィンは習慣のようにあのDVDを観る。
『ハッピーバースデー!お誕生日おめでとう!アルミン!』
『ありがと!ママ、だいすき!』
『アルミン、パパだってママが大好きだよ!』
『もう、パパったら…』
「父さん…また見てるのか…風邪引くぞ、全く…」
エルヴィンが帰ってきた物音で起きたアルミンは自分の部屋から
リビングに来ると、エルヴィンはリモコンを持ったままソファーで寝ていた。
アルミンはリモコンをエルヴィンの手から取り上げると
再生中のDVDを消そうとした。
・・・僕だって…母さん、ママを忘れてないよ。
だけどこのままじゃ前に進めないじゃないか、父さん…
4歳になったばかりのアルミンを
愛しむように見つめる母であるミランダの映像を見つめると
アルミンは涙を浮かべリモコンで停止ボタンを押すと毛布を
エルヴィンに被せそのまま自分の部屋に戻っていった。
-
- 54 : 2013/12/05(木) 22:03:43 :
- ⑩街コン開催
ある土曜日の昼間。
その街は『街コン』が開催されるということで
いつも以上に出会いを求める男女が繰り出していた。
カフェ『H&M』の入り口のイーゼルの広告用の看板には
『街コン参加カフェです!』と掲げられていた。
街コン参加者はリストバンドがされていて、
それをチェックすると、テーブル席に案内され
ビュッフェスタイルで食事をすることになっていた。
その日の客は必然的にほとんどの客が
街コン参加者だった。
リヴァイ、ユミル、エルド・ジン、グンタ・シュルツは
街コンの客の回転が速いために食器の片付けと
テーブル席を整えることの繰り返しだった。
「まさか、こんなに参加者が多いとは…」
「あぁ、そうだな、ハンジさんとモブリットさん、大丈夫か?」
エルドとグンタはずっと調理ばかりしている二人が
気になっていたが、材料は足りていたために
問題はなさそうだが、
予想以上の参加者の多さに驚くばかりだった。
そしてある女性グループが入店してきた。
リコ・プレツェンスカ率いる女性グループには
クリスタ・レンズ、アニ・レオンハート、そしてペトラ・ラルがいた。
この4人は同じ会社に勤めるが、リコが先輩であり、
最近失恋したばかりで、出会いを求めて
街コンに参加したいがために
後輩3人を引き連れてきた、ということだった。
-
- 55 : 2013/12/05(木) 22:04:51 :
- 「いらっしゃいませ!当店はビュッフェスタイルとなっています!
こちらの席へどうぞ!」
ユミルの声に導かれて
案内されたのは女性陣専用の席だった。
必ず真向かいには男性が座るようなそういう席に
座るよう指示されていて、みんなは慣れているように
自分たちの席に座っていた。
「さぁ、みんな、席が決まったら、食事から!」
何度か街コンに参加しているリコは
場慣れしているせいか、
後輩3人を仕切っていると、それぞれに自分の
プレートを持たせると、食事の量まで決めさせていた。
「ほら!他の店も回るんだから、たくさん取り過ぎないように!」
リヴァイは舌打ちしながら
・・・食いしん坊なのか、
それとも他の店でも男捜すのか…どっちなんだか…
ユミルは他の客が移動した後のテーブルを
片付けながらリコのグループを見ていた。
・・・あのコは可愛いけど、なぜ街コンに参加を…?
ユミルはリコのグループにいる恐らく参加者でも一番可愛いであろう
クリスタを見つめながら驚くばかりだった。
そしてその視線に気づいたクリスタが微笑むと会釈するしかなかった。
ただ『放っておけない雰囲気』を放つクリスタには幸せになってほしい、
そう感じるユミルだった。
リコの後輩たちの前に参加者の男性が座るが、リコの前には残念ながら
今のところ座る人はいなかった。
クリスタの前にはライナー・ブラウン、アニの前にはベルトルト・フーバー
そしてペトラの前にはオルオ・ボサドが座った。
ライナーとベルトルトはそれぞれの相手に一目ぼれしたのか、それとも
緊張しているのか話しかける様子は見られなかったが、
ペトラの前のオルオはいきなり話し出した。
-
- 56 : 2013/12/05(木) 22:06:15 :
- 「オレ、オルオって言うんだ、よろしく!ねぇ、名前何?」
・・・なんか図々しい雰囲気だな…
ペトラは目の前のオルオの印象が悪かったが礼儀として
キチンと名乗った。ペトラは小柄でショートヘアの栗色の女性、
クリーム色のカーディガンとレモンイエローの
Aラインのワンピースで清潔感のあるスタイルで参加していた。
会社の先輩のリコとの付き合いで街コンに参加したものの
ペトラは仕事が今は楽しいため強いてまで
彼氏が欲しいとは思ってもいなかった。
「ペトラっていうんだ!仕事は何してるの…?4人は同じ会社ー?」
「まぁ…」
ペトラは伏し目がちになりながら、曖昧な返事をしていた。
・・・うーん、積極的なのか図々しいのかわからない…
「ペトラ、かわいいな!そんなに俺に出会えて照れているのか?」
「はいっ?」
ペトラは唖然として思わず正面のオルオを見てしまった。
「ほら、ペトラ、オレが気になるんだろ?」
・・・帰りたい…
ペトラはすでに『帰りたい』という気持ちになっていた。
ライナーは目の前のクリスタを見つめると、
無言になるが、クリスタの笑顔に『瞬殺』されたようで
その心には
・・・結婚したい
と、すでに結婚願望が生まれていた。
ペトラは隣のクリスタに
「ここの食事美味しいね!街コン以外でも来たいと思わない?」
「うん、そうだね!ぜひ!」
クリスタが笑顔でペトラに返事するとその視線の先には
ユミルがいた。
・・・なんで私を見る?まぁ、私は常連が増えてくれたら歓迎だけどね…
ユミルも微笑み返していた。
「なぜ、目の前のオレを誘わないのさ?ペトラ?照れ隠しか?」
・・・うざい…
ペトラは顔を引きつらせるしかなかった。
その様子を見ていたリヴァイは舌打ちをして
滅多に自ら客に対して声を掛けないのに
テーブル席のお冷のグラスを手に持ち
「お客さん『押してダメなら、引いてみな』って言いますからね…」
リヴァイはオルオのグラスに水を注いだ。
「あんた、いいこというね!じゃ、オレはちょっと席を外して一息入れるわ!」
オルオは気に入っていたペトラを残すと食事の追加のために席を立った。
-
- 57 : 2013/12/05(木) 22:07:20 :
- ・・・この人、余計なことを…!
ペトラがそう思った瞬間、リヴァイはペトラの後ろに立って小声でささやいた。
「帰るなら、今だ」
そしてリヴァイはオルオを追いかけメニューについて色々と説明していた。
「…え」
・・・あの人…わざと『押してダメなら…』って言ってわざと席を立たせて
今度は時間稼ぎのためにあのオルオって人に話しかけているの…?
「もう次の店に行こうか?」
リコは自分の目の前に誰も来ないために
3人を他の店に行こうと促し始めていた。
その声を聞いたライナーはクリスタに
「…あの、次の店、ご一緒していいですか?」
「…はい!もちろん!」
クリスタは笑顔で答えると、ライナーの顔は紅潮し始めた。
ベルトルトはアニに対して
「あの…これを…」
自分の名刺を両手で渡すのが精一杯だった。
「ありがとう!次のお店も一緒に行きます?」
アニは緊張の面持ち名刺を受取り、
ベルトルトを誘うと
「はい!行きます!」
二人は緊張感が溶けたかのように
見つめあい微笑んでいた。
そしてペトラはリコと先に出入り口に立っていた。
-
- 58 : 2013/12/05(木) 22:07:56 :
- ユミルは帰る客人たちに
「ここの上でクラブもやってるんですよ!
ワンドリンク無料券です。よかったらどうぞ!」
皆に笑顔でチケットを渡しているとクリスタに対して
「いい方とめぐり合えたらいいですね…!」
笑顔でチケットを渡すとクリスタも
微笑み返していた。
そしてペトラには
「ちなみにさっき、お客様の前で
お冷を注いだ彼はリヴァイっていうんですけど、
DJもやってるので、ぜひ遊びに来てやってください!」
「…はい!ぜひ」
ペトラはリヴァイの背中を見て微笑みながら
・・・リヴァイさん…っていうんだ…
DJか…なんだか気になる人だな…
リコたちは共に次の店へ向った。
「ペトラー!待ってよー!」
オルオはペトラがすでに次の店に移動したと気づくと、
その後を追いかけていった。リヴァイは舌打ちをして
「せっかく、『助け舟』を出したのに…あとは自分でなんとかするんだな」
帰った客人たちの席を片付け始めた。
-
- 59 : 2013/12/05(木) 22:08:37 :
- ・・・ペトラっていうんだ…あの子は
「リヴァイ、あなた、ペトラって子、気に入ったでしょ?」
「何?」
ユミルも片付けながらイタズラっぽく言うと舌打ちした。
「だって、あなたが客に声を掛けるってほとんどしないじゃない?
普通じゃないことすると、すぐバレるよ!」
「バカいえ…」
リヴァイは冷たい声でユミルに返事をすると
「そうそう、あの子にあなたDJやってることも伝えたから、
きてくれるといいね!」
ユミルは笑顔でリヴァイに話しかけるとテーブル席を再びキレイにして
新たなグループを待ち構えていた。
・・・まぁ、ペトラは悪くない――
いつもの冷たい表情になるも、ペトラを思い出してかすかに
笑みを浮かべると持ち場に戻っていった。
そしてすぐにオーナーであるエルヴィン・スミスがいつものように
高級スーツに身を包みカラーシャツを第二ボタンまで外してカフェに入ってきた。
そうすると、女性客が一斉にエルヴィンの元に視線を送っていた。
-
- 60 : 2013/12/05(木) 22:09:26 :
- 「あの…オーナー、女性客がガッカリすると思うので、
今日は店内はウロウロしない方が…?」
「あぁ、そうだ…オーナー、『男前の部類』に入るからな。紛らわしい…」
ユミルとリヴァイにそういわれると、
「一応…オレ、ここ経営しているんだけど…」
エルヴィンは夕暮れ時であったが『H&M』を出ると
同じビル内の地下にある
ショットバー『ザカリアス』に向った。
「さすがに早いか…?」
ドアに手を掛けると、開店準備をしている
マスターのミケ・ザカリアスがいた。
「エルヴィン、いつも夜中にしか来ないのにどうした?
街コンで忙しいじゃないのか?」
「あぁ…オレ以外はな。『紛らわしいから来るな』と締め出し食らった」
ミケは鼻で笑いながら
「確かな…あんたは男前と自覚がない『男前』だ」
「まさか…オレはただの子持ちの男だ」
エルヴィンも鼻で笑うと、テーブル席に座って
街コンの時間が終了するのを待つしかなかった。
エルヴィンは整った顔度立ちをしていることに加え
スーツをいつもキレイに着こなせるように忙しいながらも
ジムで身体を鍛えることにより、スタイルを保っていた。
またミケの言うとおり『自覚』がないため
最初は近寄りがたい雰囲気でも話せば気さくな性格のため
エルヴィンは女性客(ゲイバーのママさんを含む)を
口コミで増やしていった。
-
- 61 : 2013/12/05(木) 22:09:53 :
- 街コンが終了する時間、ハンジとモブリットはヘトヘトになりんがら
「ハンジさん、大丈夫ですか…?」
「いやぁ…こんなに長時間、キッチンにいたのは久しぶりだね」
ハンジとモブリットはお互いに笑顔で見つめあいながら
無事に終えたことにホッと胸を撫で下ろした。
今回の街コンで多くのが『H&M』を利用したために
宣伝効果に経営陣の3人は期待していた。
-
- 62 : 2013/12/06(金) 22:52:24 :
- ⑪リヴァイの過去(1)
「来なかったか…」
リヴァイは街コンが終った夜、
ペトラ・ラルが来ないか期待していたものの、
営業が終了する深夜まで注意して女性客を見ていたが
結局、探すことは出来なかった。
その土曜日の
クラブ『Flügel der Freiheit』(自由の翼)、通称『FDF』は
街コンの影響もあり、リヴァイがメインDJにも関わらず
年齢層の幅が広かったために曲が偏らず
幅広いセレクトが出来たために
リヴァイの腕の見せ所でもあった。
-
- 63 : 2013/12/06(金) 22:53:24 :
- 「ここ面白いね!」
「また来よう!」
「またのお越しをお待ちしています!」
出入り口で客を見送るエルド・ジンとグンタ・シュルツは
昼間から働き通しだが、
新規の客から『リピートしたい』というような発言を聞くと
疲れも忘れ接客に勤しんでいた。
リヴァイが『FDF』に来てどのくらいの月日が流れただろうか。
『オールジャンルのDJを探しているクラブのオーナーがいる』と
紹介されたのがエルヴィン・スミスだった。
当時のリヴァイは他のクラブと掛け持ちをしたり、
『バトルDJ』のイベントにも参加することもあったが、
年齢的に『まわりがガキ』に見えてくると、そのイベントにも
参加することもなく、ただ今まで培った基本に忠実なDJになろうと
改めて誓ったときのエルヴィンとの出会いだった。
「リヴァイ、クラブ行こう!あれ、ディスコ?まぁいい!どっちでも!」
リヴァイがクラブで遊ぶようになった頃、
箱でDJブースがあるということには変りはないが、
その名称がディスコからクラブに変わりつつあった。
いつも誘ってくるのは男友達であったが、
それはナンパ目的であり、
リヴァイは暇を持て余すよりはと、
ただ付いていくだけだった。
しかし、あるクラブに入ったときのことだった。
そこのメインDJのイアン・ディートリッヒのブースの
周りには人だかりが出来ていた。
-
- 64 : 2013/12/06(金) 22:54:05 :
- ・・・なんだ…今までのところはブースに人が集まるなてなかったぞ?
2枚のレコードを使いスクラッチを繰り返しながらも
ミキシングのフェーダを巧みに使いこなす
指先に集まった皆はイアンに注目するだけだった。
・・・このDJ…すごい…
リヴァイは息を飲んで見つめるだけだった。
イアンは何度か『バトルDJ』に出場して
上位に入賞する実力者でもあった。
その技が繰り広げられると、人だかりから歓声が起きていた。
「さすが、イアンだ…!」
「伝説のDJになるぞ!」
皆が関心しながら見つめる中に唯一、女性が混ざっていた。
ローズはこのクラブの常連でもあり、イアンのファンでもあった。
その眼差しはイアンがターンテーブルで踊る指先を見つめながら
その頬を紅潮させ恍惚の眼差しであり人目であこがれていることが
すぐにわかるほどだった。
・・・なんだ…まるで、恋する女みてーじゃねーか
リヴァイは鼻で笑うと、ローズの傍に立つと同じ方向から
イアンの指先を見ていた。
華麗な指使いで、レコードを扱うが針が跳ぶことはなく
またスクラッチの音も不快なくバランスよくかき鳴らすと
ただただ感心してリヴァイは腕組みしながら見ていた。
・・・確かに…女なら、惚れるだろうな…
リヴァイの男友達はもちろんDJイアンに関心は示さず、
ナンパした女性客を連れてもうどこかへ消えてしまったが、
リヴァイはそのままこのクラブに残っていた。
そしてローズに話しかけた。
-
- 65 : 2013/12/06(金) 22:55:02 :
- 「あんた、ここのDJのファンなのか?」
「え?まぁ…私もDJになりたいからね」
「ほう…」
その当時は女性DJは珍しく、リヴァイが物珍しそうに見つめると
「『女だからムリ』とでも言いたい眼差しだね…」
「いや、男でもDJになりたいヤツはあまりいないんじゃねーのか?」
「イアンの周りに集まっているのは他のクラブのDJとか
目指しているヤツが見に来ているんだよ、あんたもそうかと思ったけど?」
「いや…オレは初めてこのクラブに来て、イアンの技に
男ながら見惚れてしまった、それだけだ」
ローズはリヴァイに微笑みながら
「じゃ、これを機会にあんたもDJ目指したら?今、ここに残っている
客はほとんど、イアンを目的だよ。他の客はほとんど帰った」
「…何?」
リヴァイが後ろを振り返ると、踊る客はいなく、テーブル席で数人の男性客が
女性客を口説いているだけの姿が目に入った。
「あんたも関心があるってことじゃない?」
「そうかもな…」
リヴァイは今まで何かに夢中になるということはなかったが、
DJイアンがいるクラブに来て初めて『DJになりたい』という気持ちが沸いてきた。
そしてローズとの出会いもある意味、運命的なものだった。
ローズはリヴァイよりも年下で
背が低くベースボールキャップのつばを横向きにさせ被り
ボーイッシュな雰囲気をしていた。クラブに来る同年代の女性よりも
薄化粧で長いまつげが印象的だった。
「そういや、あんた…名前は?」
「私はローズ、よろしく!
ここによく来るなら、また会うかも!私は常連だから」
笑顔で答えると
「オレはリヴァイだ…また会うかもな」
リヴァイはイアンを見つめながら、
DJとしての興味がわいてきていた。
-
- 66 : 2013/12/07(土) 22:18:25 :
- ⑫リヴァイの過去(2)
リヴァイは週に数回、自分のバイトが終わると時間が許す限り
イアン・ディートリッヒのいるクラブに通っていた。
踊るわけでもなく、ただそのDJプレイを見るだけだった。
・・・やっぱり、オレ…DJになりたいのか…?
リヴァイは缶ビールを一口飲むと、
イアンのプレイに釘付けになって見ていた。
「リヴァイ、今日も来ていたんだね!」
笑顔で声を掛けてきたのはすでに顔見知りになり
何度か話したことのあるローズだった。
「あぁ、ローズか…」
ローズはリヴァイの傍に立つと背伸びをしながら、
イアンの姿を見ようとしていた。
「やっぱり、こういうときはもう少し身長が欲しいわ…!」
その姿を見ていたリヴァイは
「女だったら、かかとの高いヒールでも履けばいいじゃん」
「えっ…でも、踊ったり、
こうしてイアンを眺めたりするのはスニーカーがいいよ」
笑顔で答えるローズの足元は履き慣らしたであろうスニーカーだった。
おしゃれしたい年頃のはずなのに、己の欲のためにそれさえ控える
ローズがリヴァイはかわいらしいと思っていた。
-
- 67 : 2013/12/07(土) 22:19:02 :
- 「なぁ…ローズ、おまえはDJになるために
今していることとかあるのか?」
「え?こうして『見学』すること以外?」
「あぁ、そうだな」
「うーん…レコード集めることくらいかな」
「レコード…?」
「やっぱり、レコードの音はいいと思うよ!CDとは違う」
「ほう…」
・・・俺はレコードを一枚も持ってない…
「なぁ、ローズ…今度、一緒にレコード選んでくれないか?」
「えっ?」
ローズは笑顔で
「リヴァイ、レコードプレイヤー持ってるの…?」
「いや、持ってない…」
「やっぱり…!でも、今時持ってる人は少ないからね」
この頃はすでにレコードからCDにほぼ移行していて
レコードに興味を持つのは一部の『音のこだわり』を持つ人くらいだった。
「でもさ、せっかくのリヴァイからの誘いだし、付き合うよ!
一緒にレコード探そうよ!リヴァイ好みのレコードをさ!」
「あぁ…そうだな」
リヴァイはローズに笑顔を向けられると
鼻で笑いながらも正面のイアンを見つめていた。
-
- 68 : 2013/12/07(土) 22:19:36 :
- そしてその翌日は日曜のために二人して
当時から少なくなっていたレコードを扱う
CDショップを巡ることにした。
その街でもカップルが待ち合わせする
有名なスポットでリヴァイは一人待っていると、舌打ちして
・・・周りはカップルばかりじゃねーか…なんで俺がこんなところで――
リヴァイがそう思ったと同時にローズが少し遅れて現われた。
「リヴァイ!ごめん!ちょっと寝坊しちゃった…!」
「あぁ…まぁ、いい。で、どこから行くんだ?」
リヴァイより少し遅れてきたローズはいつもの通り
ボーイッシュなファッションで『男っ気』がないスタイルだった。
しかし、明るい時間から会うのは初めててであり、
自然の光の中で
薄化粧でもそのかわいらしさはリヴァイは充分にわかっていた。
・・・こいつ…こんなにかわいかったんだな
リヴァイは鼻で笑うと、ローズの後ろを付いていった。
行き交う人々の波を避けながらあるCDショップに入った。
すでにレコードコーナーはショップの中でも奥側に追いやられていて
見ているお客は数人しかいなかった。
中には初老の男性がクラッシックレコードを熱心に探していたが
リヴァイをその姿を横目に
・・・昔からの、こだわりか…?またはマニアってヤツか?
「リヴァイ、この当たりがクラブとかでよく聴くレコードが多いよ」
「ほう…」
ローズは手馴れたように大きなレコードジャケットを一枚ずつ
めくるように探していた。
-
- 69 : 2013/12/07(土) 22:20:15 :
- 「あった、あった…!昨晩から考えていた
リヴァイに合いそうなヤツ!」
ローズが取り出したジャケットは『Lime』(ライム)だった――
すでにその時にはLimeは過去の栄光の如く、
少し前に流行ったグループであったが、しかし
ディスコ・ミュージックを築き上げた一員でもあるために
根強いファンは多い。
「Lime(ライム)ねぇ…」
ローズから手渡されリヴァイた手に取ると
ライムカラーのスーツを来た女性がサングラスをして
そして指を鳴らすようなしぐさをしたジャケットだった。
「リヴァイ、聴いたことあると思うよ!イアンもよく掛けているし」
「へー…」
すぐさまローズは店員に話しかけ、視聴ができることがわかると
二人してヘッドホンをしてある曲に耳を傾けることにした。
その1曲は『Unexpected Lovers』(思いがけない恋)というタイトルであり
略して『おも恋』と親しまれている。また
切ないシンセサイザーのイントロから入る名曲である。
「あぁ…このイントロ、聴いたことある」
「でしょ!それにこの曲は切ない感じが
リヴァイのしゃべり方と共通している気がする!」
リヴァイは舌打ちしながら
「俺のしゃべり方が切ないだと…?」
リヴァイはいつも淡々と冷たい話し方をするために
『根っから冷たい人』と勘違いされやすかったが、
実際に付き合ってみると、
面倒見がよく気遣いをするような性格のために
リヴァイから離れていく友人はそう多くはいなかった。
また『冷たいしゃべり方』と何度も言われたことはあったが
『切ないしゃべり方』と言われたのは初めてだった。
リヴァイがローズのジャケットを見つめる横顔は
嬉しそう幸せそうであり、
DJイアンを見つめる時の顔、そのままだった。
-
- 70 : 2013/12/07(土) 22:20:40 :
- 「そうだ、リヴァイはこの曲、最後まで聞いたことないでしょ?」
「あぁ、そうだな」
いつも途中から別の曲にカットインされるために
クラブでは最後まで聴けなかったが、
途中から切ないスパニッシュギターが奏で始めたとき――
シンセサイザーとは対照的のようなギターの音色が
リヴァイの琴線に触れるようだった。
「ほう…」
「ほらね!このギターの音色、『切ない』でしょ?」
リヴァイに笑顔を向けたローズの顔は『切ない』と言いながらも
嬉しそうで楽しげだった。
リヴァイはその笑顔にドキっとさせられるが
ジャケットを見つめながら
「あぁ…『切ない』な…」
自分の気持ちをごまかすしかなかった。
リヴァイにとってこの瞬間が
この曲のタイトルと同じように
『思いがけない恋』の始まりだとは
そのとき薄々感じていた。
-
- 71 : 2013/12/08(日) 22:34:15 :
- ⑬リヴァイの過去(3)
リヴァイはレコードプレイヤーは持っていないが、
このLime(ライム)のレコードを購入した。
レコードプレイヤーはというよりも、いつかDJプレイが出来るように
機材を一式揃えようと決めていた。
・・・金のかかる趣味にするべきか、それとも本格的に…
リヴァイは自分の部屋でまるで絵画のように
レコードジャケットを飾っていた。
そして、今日も自分のバイトが終った後、
イアン・ディートリッヒのいるクラブに向うことにした。
リヴァイは他にやりたいこともないためにバイト生活をしていた。
クラブの入り口ではローズが待っていた。
-
- 72 : 2013/12/08(日) 22:34:53 :
- 「リヴァイ!今日も来ると思っていたよ!」
「あぁ…習慣になっちまったな」
ローズに言うと二人はそのままクラブの中に入っていった。
そしていつもの如くイアンの前にいると、初めてと言っていいくらい
イアンが声を掛けてきた。
「二人ともいつも熱心に来ているな」
「はい…!」
ローズは元気よく挨拶すると、リヴァイも近寄ることにした。
「実はたまたま今日、バイトが二人辞めたんだ。
もし、二人がよかったら、ここで働かないか…?」
「ええ…!もちろん!」
ローズは即答するがリヴァイは他のバイトもあるために
『掛け持ち』なら、ということで条件を出すと
夜の短い時間だけのバイトとなった。
目的のイアンのプレイを『目で見て盗む』ことの時間が増えた為
リヴァイの生活は昼間は今までのバイトをすると、
夜からこのクラブでバイトをするのだが、閉店間際になると
イアンから、DJのやり方を教えてもらる生活をすることになった。
-
- 73 : 2013/12/08(日) 22:35:30 :
- 数ヵ月後。
リヴァイは2枚使いとフェーダーを使った初めて
イアンのプレイを見たときと同じようなプレイが
どうにか出来る様になっていたが、それは自分でも
やっとDJ機材を購入しては、自分の部屋で
練習するようになっていたからだった。
しかし、リヴァイよりもローズ方がイアンのそばで
見ている時間が長い影響か、上達が早かった。
そしてイアンはブース内の『整理整頓』を徹底するように言っていた。
それはレコードがどこにあるか、どう『音』のために自分が動けるか
ということを把握するようにと徹底するよう努めていた。
リヴァイは元々キレイ好きでもあったためにすぐこなせていたが、
ローズはそれだけが苦手だった。
そしてある夜の閉店1時間前。
ローズがイアンに呼ばれた。
「今、他のDJがブースにいる。
そいつの次に繋げろ。
残りの客も繋ぎとめられるか、
それとも『蛍の光』の閉店案内のように
客が帰っていくか…腕試しだ」
「…はい!」
『蛍の光』の別れのワルツを流さない代わりに
ヘタなDJがまわして客の帰りたい雰囲気を作り、
自分の腕次第で『閉店案内ミュージック』になる場合もある――
そう思うと、ローズに緊張が走った。
リヴァイは客が飲み残していったグラスを片付けながら
ローズの様子を見ていた。
-
- 74 : 2013/12/08(日) 22:36:04 :
- ・・・ローズならできるだろう…
リヴァイが様子を伺っていると、前のDJからの引継ぎで
ローズがブース内に入った。
最初は女性DJだからと注目されていて、
特にスクラッチプレイなどせずに繋ぎだけを重点にと、
ローズは勤めていた。そして次の曲のための
レコードを探していたら、緊張のあまりどこに置いていたか
忘れてしまって慌てていた。曲は普通はフルでは掛けないのだが
長くなりそうになった瞬間、見かねたイアンが今流れている曲に
合った繋ぎやすい曲を見つけてローズに渡していた。
それでどうにか繋がったが、セレクトに統一感がなくなってしまい
「なんか、雰囲気が変ってきたね…帰ろっか…」
リヴァイが帰る客を出入り口まで見送ると
・・・DJが変るとホントに『閉店案内ミュージック』になる場合があるんだ
ローズの様子をプレイの様子を見ていると、そう実感してしまった。
そして閉店時間にはほとんどの客が帰ってしまった――
-
- 75 : 2013/12/08(日) 22:37:10 :
- 「そんな…まさか…」
ローズはショックのあまり言葉を失ってしまった。
そしてイアンが近くにきては
「まぁ…最初はこんなもんだろう。閉店間際だったからまだしも
盛り上がっているときに今みたいなことになったら、
クラブの売り上げにも関わる。DJはいかにお客を座らせずに踊らせるか、
または座っている客をフロアまで呼び戻すか…
それが出来たら、面白いぞ!」
イアンはローズを責めることもなくDJが
まるで客をコントールするかのような説明をしていた。
「はい…」
イアンの目を見て話すローズは悔しさのあまり涙を浮かべていた。
「あと、整理整頓!レコードの位置を把握しろよ」
イアンがローズを厳しい眼差しで注意すると
後ろのラックからはレコードジャケットが途中で
飛び出していたり、
また無造作にラックの上に置かれているのもあった。
「それから、リヴァイ!明日は…おまえの番だ!」
イアンがリヴァイを見つめながら言うとほくそ笑んでいた。
「俺ですか…?わかりました」
・・・俺も…今みたいなことにならないように注意しないとな…
イアンは基本的なことを教えた後、
あとは二人のセンスに任せるとして
必要以上に口出しするようなことはなかった。
たまに教えるのはミキシングの機材の使い方くらいで、
二人が努力していることは
日々の上達を見ていると気づいていた。
-
- 76 : 2013/12/09(月) 22:38:26 :
- ⑭リヴァイの過去(4)
「今日は俺の番か…」
リヴァイは昨晩のローズのプレイが
『閉店案内ミュージック』になってしまったことを思い出すと
いつでも冷静でいるはずなのに朝から緊張していた。
「約1時間…この曲でいこう」
リヴァイは今では自分のDJの『師匠』となった
イアン・ディートリッヒのいるクラブへ向う前に
曲のリストを作って頭の中で
自分のプレイのシュミーションをしていた。
またリヴァイは今まで生きてきた中で、後にも先にも
丁寧に話す相手は今のところ尊敬するイアンだけである。
そしてリヴァイがイアンのいるクラブへ出勤すると、
一番最初に会ったのはローズだった。
「リヴァイ、今日の客は常連がいっぱいだよ!
私みたいなことにならないでね!」
「あぁ…わかっている」
ローズは昨晩のことで悔しいはずだが、
仲間であるリヴァイが自分と同じ思いをしないように
出来るだけ笑顔になり励ましていた。
そして閉店1時間前になっていた。
リヴァイに緊張が走ると、イアンから呼び出された。
「リヴァイ!この時間が来たぞ」
イアンはリヴァイ見てニヤリと笑い、
ブースに入る準備を促した。
閉店1時間前ではあるが、
リヴァイがプレイする前の
DJが盛り上げていたために
フロアではまだ多くの客が踊っていた。
-
- 77 : 2013/12/09(月) 22:39:11 :
- 「リヴァイ、俺の盛り上げを落とすなよ!」
『先輩DJ』はリヴァイに向い励ましとも貶しとも取れる
言葉を残すとそのままブースから去った。
リヴァイは深呼吸しながら、自分が作ったリストを
ポケットから取り出し見つめていた。
「今のこの曲なら…これか…」
リヴァイがラックからレコードを
取り出しミキシングで調整しながら
次の曲にカットインした。
初めてということもあり、ローズと同様にスクラッチプレイはせずに
『繋ぎ』だけに集中して曲をまわすことにしていた。
リヴァイがなんとか客の盛り上げをそのまま維持して
出番の中盤にかかったときだった。
「あれ?この曲、『おも恋』じゃない?」
「帰りたくても帰れなくなるー!」
『Unexpected Lovers』(思いがけない恋)の
切ないシンセサイザーのイントロが
フロアに広がると、客の間に異常な盛り上がりを見せていた。
-
- 78 : 2013/12/09(月) 22:40:16 :
- ・・・リヴァイ…閉店間際で盛り上げてどうするんだ?
その様子を見ていたイアンは鼻で笑い
タバコに火をつけていた。
そして盛り上がりはそのままに閉店直前になっても
客の熱は下がらぬまま、踊り続けるため
急きょイアンがブースに入り交換することになった。
そして、閉店時間をオーバーしつつも
イアンがスローナンバーで繋げると
お客の熱も徐々に冷めると、どうにか閉店にこぎつけていた。
「リヴァイ、まったく…!
閉店間際で『上がる』あの曲を持ってくるとは!
盛り上げたいのはわかるが、時間帯も考えないといけないな。
でも、最初にしては上出来だ。あとは練習あるのみだ」
イアンは半ば呆れ顔だったが、
リヴァイを褒めると肩をポンと叩いた。
「あと、おまえはちゃんと整理整頓ができている。
どこに何があるかわかると、
それがいい音につながる。それだけは忘れるな!」
「はい…ありがとうございます!」
リヴァイはどっと疲れたと同時に予想以上に盛り上がったために
安堵していた。またイアンから整理整頓のことを言われたが、
確かにブース内は使ったレコードをキチンと片付けていたために
まるでその日に初めてブースを使うように整われていた。
-
- 79 : 2013/12/09(月) 22:41:58 :
- 「リヴァイ、よかったね…!私よりよかったよ!だけど、悔しいなぁ」
ローズが話しかけると、
リヴァイはホッとした表情を見せた。
「あぁ…でも緊張で指先がガチガチだった…」
「リヴァイが緊張することあるんだ!」
ローズはいつも冷静なリヴァイから
予想外の言葉を聞くと思わず笑ってしまっていた。
その笑顔を見たリヴァイは
・・・まぁ、悔しそうな顔が笑顔か…よかったじゃん…
リヴァイは鼻で笑うとローズの頭を軽く触れた。
ローズはリヴァイとすれ違うと、
安堵感から肩を落とした背中を見送っていた。
二人はこれを機会に閉店間際や交換要員として
プレイできるようになったが練習も忘れず、時間が許す限り
お互いの部屋で行き来するぐらいの仲になっていた。
しかし、あくまでも『DJ仲間』ということを意識して、
恋愛に発展するようなことはないように努めていた。
二人がお互いの部屋で練習するようになって
どれくらいの月日が経っただろうか。
二人のの休みが重なり、
リヴァイの部屋で練習するある夜のことだった。
-
- 80 : 2013/12/09(月) 22:43:03 :
- 「ねぇ、リヴァイ、イアンさんから食事が誘われたんだ…」
突然、ローズがリヴァイのレコードコレクションを
チェックしながら話し出した。
ローズは憧れの師匠からの誘いでもあるため
イヤではなかった。
「え、俺は誘われてないぞ」
「違う!私と二人だけ…だって」
「あぁ…そうか」
リヴァイは機材の調整をしながらも、
背中が熱くなっていることに気づいていた。
・・・イアンさんがローズを誘うか…
リヴァイはローズと仲間として
一緒に時間を過ごすことが多かったが
ほとんどがクラブ内かお互いの部屋だけだった。
またイアンがローズをどう思っているのか、
クラブにいる時間が短いリヴァイには気づけずにいた――
-
- 81 : 2013/12/09(月) 22:45:26 :
- 「いいんじゃね?色々、話せることが増えて」
「そう…もし、私とイアンさんが付き合うことになったら、
この部屋には来れなくなるね!さすがに…」
「あぁ…そうだな…さすがに」
ローズは冗談で言ったつもりだったが
リヴァイの返事で胸が痛くなった。
またリヴァイはミキシングの
調整している手を思わず止めてしまったが、
ローズが離れていくかもしれないと思うと、
やはり胸が締め付けられる感覚がしていた。
「ローズ…もうこの部屋には来ない方がいいな…
俺もおまえの部屋には行けない…」
お互いに仲間以上の想いはあったものの、
この関係を崩したくなかったために
気持ちをごまかしながら、長い間過ごしていた。
二人は今後のイアンとの関係を
考えると寂しい決断をするしかなかった。
「そうだね…リヴァイ。じゃ…私、今日は帰るわ」
「そっか…じゃ、また、クラブでな」
「おやすみ…」
リヴァイはローズに背中を向けたまま
ドアまで見送らずにいた。
閉めたドアを背にしてローズは
「リヴァイのバカ…もう…」
うっすら涙を浮かべ帰路についた。
-
- 83 : 2013/12/10(火) 22:44:31 :
- ⑮リヴァイの過去(5)
リヴァイとローズがお互いの部屋に
行き来することは止めることにして
しばらく経ったある夜。
ローズはイアン・ディートリッヒに呼ばれ
おしゃれなレストランに呼ばれて食事をしていた。
いつもはボーイッシュなスタイルのローズも
そのおしゃれなレストランの名前を聞くといつものスタイルは
まずいと判断してカジュアルではあるが、
ワンピースにカーディガンを羽織って
足元はストラップサンダルのハイヒールを選んでいた。
「ローズもこういう格好すると、さらに可愛さが引き立つな…」
イアンはお酒の勢いもあり、今まで言えなかったような
ローズに対しての気持ちを話し出していた。
-
- 84 : 2013/12/10(火) 22:45:31 :
- 「もう…!イアンさん、何を…!」
ローズは今まであこがれてもいたが、
『DJの師匠』という気持ちが強かったために
そういうことを言われるとは思ってもいなかった。
しかし、イアンは自分に慕ってくるローズの姿が
最初は可愛いという気持ちだったが、
その直向な姿に惹かれるものがあった。
しかし、リヴァイの存在が気になり
どうしても告白には戸惑っていた。
「なぁ…ローズ、正直に答えて欲しい。
おまえと、リヴァイは…どういう関係だ?」
イアンは真っ直ぐローズを見つめながら質問を投げかけた。
「えっと…リヴァイとは『DJ仲間』ですよ!
それ以上も以下もありません」
「そうか…じゃ…俺たちが付き合っても、
あいつに遠慮することはなよな?」
「えっ…」
ローズはイアンからの
突然の告白に戸惑っていた。
イアンは何も一人の男性として申し分もない。
ただ…ローズのリヴァイへの気持ちを除けば――
-
- 85 : 2013/12/10(火) 22:46:26 :
- 「えっと…少し考えてもいいですか…?
突然なので、ビックリして…」
「もちろんだ、いい返事を待っている…」
「はい…」
ローズはイアンを見ると頬を赤らめ
そして返事を待ってもらうことにした。
リヴァイとは進展しない関係だったが、
二人で同じ方向、同じ目的を歩む中で
当たり前のように一緒に同じ時間を過ごし、
そしてずっとこまま続くだろうと思っていた。
まさかお互いの師匠である
イアンから告白されるとはローズは驚くだけだった。
ただ…断る理由がない、それがローズを困らせていた。
イアンと食事を終えたローズは
気がつけばリヴァイの部屋に向っていた。
日付が変りそうな遅い時間でもあったが、
窓から明かりが漏れていたために
ローズはリヴァイの部屋のドアをノックしていた。
-
- 86 : 2013/12/10(火) 22:47:14 :
- ・・・まったく、この時間に誰だ…まさか、ローズ?
リヴァイはシャワーから出たばかりで、
頭を乾かしながら慌ててドアを開けることにした。
「リヴァイ…」
そこにはいつものワンピースのカーディガンのいつもとは違う
女の子らしいローズが立っていた。
そして玄関に入ると
「どうしたんだ…こんな時間に」
リヴァイはただ驚いてローズを見ていた。
・・・ローズがワンピースとは…まさか、イアンさんと一緒だったとか…?
「リヴァイ…イアンさんから付き合おうって言われたんだ…」
「そうか…」
リヴァイは伏し目がちになったが、何も言うことは出来なかった。
尊敬する師匠のイアンが仲間であるローズと付き合う、
それはあえて冷静に受け止めることにした。
DJの中にはまたに『モテるためのツール』のような扱う輩もいて、
リヴァイは色んなDJをこれまで見てきたが、イアンは一切そういうことはなく、
真摯な気持ちで挑む姿は尊敬し見習うべきだとリヴァイは実感していた。
-
- 87 : 2013/12/10(火) 22:48:05 :
- 「リヴァイは…止めないの…?
私がイアンさんと付き合ってもいいの?」
「イアンさん…いい人だ、とにかく、おまえも知っている通り
人として何も申し分はない…」
「そう…」
「それに、俺のようにまだバイトばかりしてるよりも、
イアンさんはあのクラブの経営にも関わる。
将来を見据えてもいいんじゃ――」
リヴァイがそういいかけたとき、
ローズはリヴァイに抱きついてきた。
「わかった…もう言わないで…リヴァイ、今までありがとね…」
リヴァイがその瞳を見ると涙で潤んでいた。
「ローズ…!」
リヴァイはローズを初めて抱きしめた。
とても強く、愛しむように。
そして、気がつけばお互いの唇を重ね求め合うと
リヴァイはローズの涙で濡れた顔を見つめていた――
「リヴァイ…さよなら…」
リヴァイは握っていたローズの手のひらが離れると、
もう二度と触れることはないような気がしていた。
そして、自分の手の平を見ては
リヴァイは強く握り締めるしかなかった。
-
- 88 : 2013/12/10(火) 22:48:38 :
- 「…ローズ、ごめん…」
まだ若く生活も不安定なリヴァイには
イアンからローズを奪う勇気はなかった。
今までの思い出が走馬灯のように巡ると、
リヴァイはローズに選んでもらったレコードが目に付くと
その中に仕舞っていた写真と取り出した。
クラブのイベントで仲間に撮ってもらった
初めての二人の写真だった。
リヴァイは愛想なくグラスを片付けている姿だが、
その隣でVサインをしている満面の笑顔のローズだった。
・・・もうこのレコードも封印するか…
リヴァイはすでに部屋を覆い尽くすほどのレコードを集めていたが
その中でも一番目に付かないところにローズに選んでもらった
Lime(ライム)のレコードを片付けることにした。
-
- 89 : 2013/12/10(火) 22:49:14 :
- ・・・それにあのクラブにはいられないか…
この頃のリヴァイは他のクラブに呼ばれることもあり、
昼間のバイトをしながらも、
DJとして細々と活動の幅を広げていた。
そして、リヴァイがクラブを辞めようと決め
イアンに伝えようとした日。
すでにローズとイアンが付き合うことが
クラブ内には広まっていた。
リヴァイはしばらくして辞めることがイアンから承諾され、
『リヴァイ卒業』と称してイベントまで開いてくれることになった。
「イアンさん、今までお世話になりました。
これからは今までの教えられたことをDJとして活かしていきます」
「そうか…これから楽しみにしている」
イアンはリヴァイの肩を軽く叩きブースまでリヴァイを送ると
卒業のイベントは始まった。
すでにその頃には少なからず、リヴァイ目的の
男女のファンもいてフロアはお客でいっぱいになっていた。
-
- 90 : 2013/12/10(火) 22:49:50 :
- 「リヴァイのヤツ、さすがイアンさんの『弟子』だな!
あの難しいスクラッチをやってのけるとは」
「次はどこのクラブで回すんだ?」
そんな声がチラホラと聞こえてきた。
そしてリヴァイがラストに選んだ曲は
Limeの『Sentimentally Yours』だった。
リヴァイは初めてローズにLimeを選んでもらった以来、
お気に入りのグループとなり、ほぼ全曲把握したが
この曲だけは初めて自分のプレイで流すのは
最初で最後にすると決めていた。
「リヴァイ、この切ない曲を最後に選ぶなんて…!」
「悲しいよー!私たちを泣かすの!リヴァイ!」
女性客から思わずその声がかかるほど、
切ないイントロから始まるラブソングだった。
リヴァイがこの曲を始めて知ったとき
・・・Sentimentally yours?これ意味はなんだ?
センメンタルにいつも思ってる…ってことか?
でも…この歌詞は…
-
- 91 : 2013/12/10(火) 22:50:31 :
- タイトルのニュアンスがなんとなくわかっても、
ある歌詞を訳したときリヴァイはローズへの
気持ちと重なっていた。
そして、リヴァイが自分のプレイを終えて、
クラブから出て行く準備をしているときだった。
ローズが目の前に現われた。
「リヴァイ…今までお疲れさん…」
その姿は今までのボーイッシュではなく、
カーディガンのワンピースでハイヒールだった。
「あぁ…ローズ、なんだ、イメチェンか?」
リヴァイが伏し目がちで何を話したらいいかわからず、
いつもの服装と違うことに対して指摘することが精一杯だった。
またローズもリヴァイに視線を合わせることが出来なかった――
「これね…リヴァイが最後だから…おしゃれしようかと…」
-
- 92 : 2013/12/10(火) 22:51:15 :
- 舌打ちしては
・・・別に気を使うな…
でも…ボーッシュなスタイルより似合う。かわいいな
リヴァイは顔をあげ、手元に持っているレコードを差し出した。
「ローズ、このレコードおまえにやろうと思って」
ローズが手に取ると
「あぁ…Limeか…
私が初めて選んだのもLimeだったよね…」
「…じゃ、俺はもう行く」
「うん…さよなら…」
ローズはリヴァイから贈られた
レコードを大事そうに胸に抱えると
そのまま背中を見送るしかなかった。
再びフロアに向かい歩いていると、
ジャケットの中から歌詞カードが落ちたために
立ち止まり、拾い上げた。
『Sentimentally yours』のある歌詞の部分だけ
蛍光マーカーで記されていることに気づいた。
-
- 93 : 2013/12/10(火) 22:51:53 :
- 「えっ…何?このマーカーは…?」
――愛している…あなたが欲しい……これまで以上に、あなたを大切にする
「リヴァイ…!」
ローズが歌詞に視線を落としてすぐに振り向くと、
すでにリヴァイはいなかった。
そしてローズはトイレに駆け込むと、
自然に涙が溢れてきた。
「リヴァイ…私たち…遅かったね、
お互いに正直になることが…」
ローズはリヴァイを想うと
切なく、胸が苦しくて
そして流れる涙を止めることが出来なかった。
-
- 94 : 2013/12/10(火) 22:52:44 :
- リヴァイはローズを大切に思うこそ、
自ら身を引いた方が最善だという選択をした。
そしてローズとの別れ以来、
リヴァイは女性と本気で付き合うことはなかったが、
カーディガンとワンピースを着た女性を見かけると、
ローズの面影を追うことが多かった。
その後、何年もリヴァイは様々なクラブでDJとして渡り歩いていると
オールジャンルを把握するDJに成長にしていた。
その間、風の噂でイアンとローズが結婚したということも聞いていた。
その生活を繰り返す中、
DJとして自分が培った基本に戻ろうと考えている最中、
クラブ『Flügel der Freiheit』(自由の翼)のオーナーである
エルヴィン・スミスに出会ったということだった。
・・・ホントに来なかったか…
でも、カーディガンでワンピースが似合うヤツ、
ローズ以来、見たことなかったな…
リヴァイは閉店のために片づけをしていると、
『街コン』で見かけたペトラ・ラルを思い出すと
疲れた表情の中にも、かすかに笑っていた――
-
- 95 : 2013/12/11(水) 22:58:18 :
- ⑮思いがけない、それぞれ再会
『街コン』が開催された翌週の金曜日。
『FDF』では相変わらず多くの客で溢れていたが、
以前と変ったのは年齢層に少し幅が出てきていた。
『大人も楽しめるクラブ』として『街コン』の参加者から
口コミで広まっていった、ということだった。
リヴァイはブースにいながらその様子に勘付いていて
・・・あとは俺たち次第か…
客層が変ったことには嬉しいことに違いないが
この客層をキープするために
なお一層、気を引き締めなければ、そう実感しながら
その日の客を盛り上げていた。
リヴァイは客がそろそろ盛り上がりの頂点だと判断すると
ジャン・キリシュタインをブース内に呼び出した。
-
- 96 : 2013/12/11(水) 22:59:41 :
- 「今日の客は年齢層に幅がある…
今の流行も含め、好きなようにまわせ、ジャン…」
リヴァイはジャンにそう伝えると緊張した面持ちで
今までしていたウェイターの仕事を手早く終えた。
ジャンはDJのリヴァイにあこがれて
夜だけ『FDF』でバイトをしている大学生だ。
「リヴァイさん!わかりました…」
「もちろん、レコードの整理整頓も忘れるな」
「…はい!」
ジャンはリヴァイから引き継ぐとブースに立ち
深呼吸しながら、お客を見つめ自分のプレイに
集中することにした。
リヴァイがカウンターに座ると、
オーナーであるエルヴィン・スミスが隣に座った。
-
- 97 : 2013/12/11(水) 23:00:20 :
- 「リヴァイ、珍しいな、早くからジャンに譲るとは」
「あぁ…今日の客層は幅がある。
そんなときに回させるのもヤツのためになる」
「なるほどね…」
エルヴィンはいつものように
リヴァイの好きな銘柄のビールを
グラスに注いだときだった。
「…エルヴィン…『街コン』でカノジョ探したって…ホント?
私たちはどうなるのよ!」
二人がその声の先に視線を向けると、
近くのゲイバーのママのイッケイさんと
小(チー)ママのマッコイさんが
エルヴィンの前に寂しげに立ち尽くしていた。
二人は化粧崩れも気にせず涙ぐみ、
ハンカチで目元を押えていた。
-
- 98 : 2013/12/11(水) 23:01:05 :
「あれ?オーナーは『街コン』のとき、
仕事してたっけな…?俺は見てないが?」
リヴァイがイタズラっぽくエルヴィンを見ると
「おい、リヴァイ、何を言うんだ!
俺は参加してないぞ!」
エルヴィンは目を泳がしながらリヴァイを見ると
二人のママの間に立った。
「まさか、俺がママたちを置いて…
どこにも行くわけないだろ…?」
二人の両肩を抱きしめ甘い声でささやくと
イッケイさんとマッコイさんは
顔を赤らめ少女のような表情に変っていった。
「さすが、私たちのエルヴィン!一緒に飲みましょう!」
エルヴィンはイッケイさんとマッコイさんに
半ば強制的にテーブル席に連れられ
飲まされることになったが、
二人の間に挟まれながらもエルヴィンは楽しげだった。
・・・今日は早い時間からの静かな襲撃だったな…
だけど、あんなに楽しそうにしてるのは
…亡き妻を一時的でも忘れるためか…?
リヴァイはエルヴィンに注がれたビールを飲むと
3人の姿を半ば呆れて見ていた。
-
- 99 : 2013/12/11(水) 23:01:24 :
- 「相変わらず、ビール好きなんだな、リヴァイ」
リヴァイがその声に姿勢を向けるとかつての
DJの師匠、イアン・ディートリッヒが
今までエルヴィンが座っていたとなりに
グラスを片手に座っていた。
「イアンさん…!お久しぶりです」
リヴァイは懐かしい声とその顔に
目を見開いて驚いていた。
久しぶりに再会したイアンは現在、
『FDF』がある街から離れた地域に住んでいて
妻のローズとの間には二人の子供を儲け
ローズと小さな居酒屋を経営していた。
「リヴァイ、おまえは昔とちっとも変らないな!
俺はもう腹は出るし、すっかりオヤジだ」
笑って答えるイアンだった。
背はもちろん、変らないものの
年齢の影響か少しだけお腹が目立っていた。
リヴァイはかつて大切に想っていたローズの
近況を知りたかったが、
過去は過去として受け入れようと努めているために
気にしないようにしていた。
-
- 100 : 2013/12/11(水) 23:01:56 :
- 「ところで、イアンさん…どうして俺がここにいることを
知ったんですか…?」
「あぁ、実は俺の居酒屋の馴染み客が『街コン』に参加したんだよ」
「え…」
イアンが経営する居酒屋の馴染み客が『街コン』に参加したその夜、
その客がイアンの店で飲んでいたときのことだった。
「いやぁ…『街コン』って初めてだったけど、人が多くて大変だったわ」
少し白いものがチラつくあごひげを照れながら指先でこすり
イアンとローズに『街コン』のことを話し出すと、イアンが
その客の空いたグラスにビールを丁寧に注いだ。
「…へーそうなんだ!この街じゃ、開催されたことないけど、
もし開催されたら、ウチも参加したいな!ローズ?」
「そうね、でもウチみたいな小さな居酒屋でも出来るのかな?」
「まぁ…開催されたら考えよう!」
イアンとローズは夫婦仲良くカウンターに立ち
顔を見合わせながら答えていた。
その馴染み客であるミタビ・ヤルナッハはバツ1で
出会いを求めて離れた街で開催された
『街コン』に参加していたのだった――
-
- 101 : 2013/12/11(水) 23:02:20 :
- 「ところで、『街コン』で行ったカフェで美味いところがあって、
それにこの上はクラブだって。
『踊る方のクラブ』だよ。イアンも興味あるんじゃね?」
ミタビはかつてイアンが人気DJだったことを知っていて、
手持ちのタブレット端末を取り出すと、
カフェ『H&M』のブログを3人で見ていた。
「カフェ『H&M』か…パパ、知っている?」
「俺は知らない…その上のクラブはどうだ?」
イアンとローズは端末をミタビの後ろから覗くと
全く知らない様子だった。
二人がクラブ
「Flügel der Freiheit」(フリューゲル デア フライハイト・自由の翼)のリンクを
開いたときだった。
「イアン、このクラブは…どう?」
「さすがに知らないな…だけど、このDJどこかで…?」
イアンは画面に映るその面影をどうにか思い出そうとていたが、
DJとして何年も『箱』でプレイを離れていたために
その業界からは『疎く』なっていた。
そしてその面影をミタビが端末画面上で指先を使い
拡大してアップにしたときだった――
「リ、リヴァイ…」
画面にアップで映し出されたのは
ブースでプレイするリヴァイであり、
そして、声を真っ先にあげたのはローズだった。
-
- 102 : 2013/12/11(水) 23:02:42 :
- 「リヴァイのヤツ、まだ現役で頑張ってるんだな!」
「うん、そうだね…」
ローズは伏目がちになり、改めて自分の持ち場の
カウンターの中に戻っていった。
「なぁ、イアン、暇があればここに一緒に行かないか?
『大人も楽しめるクラブ』だってよ」
「そうだな…!」
ローズはリヴァイを思い出すと二人の会話が耳に入らなかったが
自分の心の奥底に仕舞い込んでいたリヴァイの顔を見ると
忘れていた想いが溢れそうで怖かった。
今は忙しく平凡な毎日でも、幸せのために
リヴァイを思い出すのは申し訳ない気持ちになっていた。
しかし、トイレに行く振りをして、自分のスマホで
『FDF』のサイトを見て
リヴァイのツイッターのアカウントを見つけると、
迷わずにフォロワーになっていた。
その翌週にイアンはミタビと共に『FDF』に来ていた、
ということだった。
-
- 103 : 2013/12/11(水) 23:03:08 :
- 「イアンさん…今でも、どこかのクラブで回したりしてるんですか?」
リヴァイはビールを一口飲みながら、質問していた。
「今は全然…『お宅DJ』になってしまった」
「お宅DJとは…?」
リヴァイはイアンに質問した。
「あぁ、家で自己満足で回しているようなもんか。
たまに俺がDJだった頃、
一緒に遊んだヤツがきたときに
遊びで回すくらいだ。
あと今じゃ機材やレコードが子供のおもちゃに
ならないように気をつけているくらいか…」
「イアンさんが…もったいない…」
「今、俺は『家庭人』だよ。家族があってこその俺だ。
DJやっていたのは過去の栄光…みたいなものだ」
リヴァイは自分の目標としてきた
師匠が変ってしまったことに寂しさを覚えた。
「俺はイアンさんを目標に今までやってきたのに…」
リヴァイがつぶやくとイアンは鋭い眼差しで言い放った。
-
- 104 : 2013/12/11(水) 23:03:33 :
- 「いっておくが…
今は表舞台には立っていないだけで、
腕は落ちているとは思っていない…」
イアンは過去の栄光と受け止めながらも、
DJとしてのプライドがその技術を
落とさないように努めていることもありリヴァイに
ガッカリされたような態度をされると、
納得がいかなかった――
「それじゃ…今ここで、回してもらえますか?」
リヴァイは師匠であるイアンに『挑発的』な態度を示した。
そしてイアンもその挑発にのり
「いいだろう…」
イアンは酔った勢いもあり、リヴァイの挑発に乗ることにした。
そしてジャンがいるブースにリヴァイが入ると
事情を聞いたジャンは二つ返事で譲ることにした。
・・・師匠の『師匠』のプレイはどんなプレイだろうか…
ジャンはリヴァイが尊敬する人の
プレイを目の当たりに出来ると思うと
胸の高鳴りが押えられなかった――
そしてイアンがブースに入ると、
目を見開いて驚いていた。
「リヴァイ、この雰囲気、おまえに教えたときと変らないじゃないか」
「はい、あなたに教えられたことは忠実に守っていますから…」
イアンは初めて入るはずのブースだが、
かつてリヴァイに教えていた頃と寸分変らない
ブースにただ驚くだけだった。
-
- 105 : 2013/12/11(水) 23:04:04 :
- 「この雰囲気なら…この曲だな…」
ブースに入る様子を見ていたミタビは
「イアンの伝説見たり…か」
グラスを片手にブースの傍へ寄るとそこには
かつての栄光そのままに輝くイアンが立っていた。
そしてその指先からレコードが
ターンテーブルに置かれ、ヘッドフォンを装着した
イアンは久しぶりの『箱』でのプレイとは思えない程の
レコードを2枚使い見事なスクラッチプレイを披露していた。
・・・やっぱり、イアンさん…根っからのDJだ
久しぶりにイアンのプレイを目の当たりにしたリヴァイは
見惚れてしまうほどだった。そして隣のジャンに
「ジャン、滅多に見られるものじゃない、
あの指先を目に焼き付けておけ…」
「…はい!」
そしてイアンがある曲のイントロをループさせたときだった。
「まずいぞ…今日のあの3人は早く盛り上がっている…」
「リヴァイさん、そうですね…」
ジャンが息を飲むと、イアンが二人に言った。
「え?この曲はここのクラブで
一番盛り上がるって聞いたから選んだんだが…」
したり顔のイアンが二人を見つめていた。
テーブル席からは
「この曲は…俺の曲だーー!」
という声という共にフロアに現われたのは
エルヴィンとゲイバーのママのイッケイさんと
小(チー)ママのマッコイさんだった。
もちろん、イアンがセレクトしたのは
アース・ウィンド&ファイヤーの『セプテンバー』だった。
リヴァイが酔いながら3人がフロアで踊る姿を見ていると
「イアンさん、どうしてこの曲が
ウチで盛り上がるってしているんですか…?」
イアンは目を細め3人を見据えて答えた。
-
- 106 : 2013/12/11(水) 23:04:27 :
- 「いやぁ…ローズがおまえのツイッターのフォローしててな。
フォロワーのツイートを読んで知ったらしい」
リヴァイは舌打ちしながら
「ローズが…」
イアンは涼しい顔で答えるために、
ローズはリヴァイは過去のDJ仲間としてフォローしている、
というようにイアンは理解しているのか?とリヴァイは勘ぐっていた。
当時のお互いの気持ちをイアンは知っているのか、
もちろん、リヴァイは聞くつもりもないが、
涼しげな横顔に対して握りこぶしを作っていた。
「リヴァイ、あの3人…面白いから、しばらく踊らせようか?」
イアンがイタズラっぽく笑うと、イッケイさんとマッコイさんに
『されるがまま』のエルヴィンの楽しげな姿が目に映った。
イッケイさんはエルヴィンのシャツのボタンを
第3ボタンまで器用に外し中に手を入れ
マッコイさんはグロスで輝いた唇でエルヴィンの頬にキスをしていると
その周りにはエルヴィン目的の女性客たちが
『女ヒョウ』の如く目を光らせていた――
-
- 107 : 2013/12/11(水) 23:05:03 :
- 「まずい…暴動が起きかねない…」
「そうですね、リヴァイさん…」
リヴァイとジャンはエルヴィンたちの様子を息を飲み見つめていた。
「イアンさん…あの『されるがままの男は』…ウチのオーナーです…」
「ええ!なんだって!?」
イアンが驚くとすぐさまループを自然の流れで変え、
次の曲からジャンにもう一度ブースを譲ることにした。
リヴァイとイアンがカウンター席に座ると、隣にミタビが座った。
「イアン!おまえすごいな!
まさか、こんなに盛り上げられる腕とは知らなかったぞ!」
興奮しながらイアンに話しかけると、
持っていたグラスを軽くぶつけ乾杯していた。
「確かに…そうですね、イアンさん、全然腕が落ちていない」
「あぁ…ウチでも『お宅DJ』としてやっているってこともあるが、
このブースが俺が教えたやり方そのままだったから、
初めての場所でも、問題なくプレイができた。
リヴァイ、おまえのおかげでもあるな」
「いや…そんな」
リヴァイは久しぶりに師匠から褒められると鼻で笑い微笑んだ。
「それから、おまえのオーナー…大丈夫か?」
イアンがエルヴィンに視線を送るとテーブル席で
いつも以上に踊りつかれイッケイさんたちに介抱されていた。
-
- 108 : 2013/12/11(水) 23:05:28 :
- 「大丈夫でしょう…まぁ、週末のここの『イベント』みたいなものだから」
「それならいいが…」
イアンは胸を撫で下ろし3人の様子を遠くから眺めていた。
そして二人はミタビに過去のDJだった頃の話など、
懐かしい話に花を咲かせ、グラスを傾けていたときだった――
「あの…リヴァイさんですよね…?
先週の『街コン』ではありがとうございました」
音と話し声がリヴァイの周辺で取り巻く中で
聴こえて来たその声の主はペトラ・ラルだった。
その姿は先週とは違うが
サーモンピンクのワンピースとカーディガンのアンサンブルの姿であった。
リヴァイはまさか、再会できるとは思ってもいなかったために
息を飲みながらペトラの姿を見ていた。
「あぁ…いや、別に大したことじゃ…」
リヴァイはペトラから目をそらしていると、すかさずイアンが
「リヴァイ!何照れているんだ?らしくない…!」
「えっ?」
ペトラは伏し目がちになるリヴァイを不思議そうに見ていた。
・・・この子…昔のローズの雰囲気に似ているな…
やっぱり、リヴァイはローズのことを――
-
- 109 : 2013/12/11(水) 23:05:47 :
- 「ペトラ!探したよ!人がいっぱいなんだから、離れないでよ!」
イアンがかつてのリヴァイを思い出していた瞬間、
そう話しながらペトラの手を掴まえたのはリコ・プレツェンスカだった。
前回参加した『街コン』に手ごたえを掴めなかったリコは
ペトラを誘って『FDF』に来たのは『出会いのなさ』に疲れ、
気分転換と称して遊びに来たのだった。
またペトラはリヴァイにお礼を言いたため、
二人の思惑が一致したためにその日に遊びに来た、ということだった。
「あ、あなたは…!」
そしてリコがミタビを見たときだった。
リコは『街コン』で好みの雰囲気の
ミタビを見かけたとき、
話しかけたい気持ちがあったが、
彼が他の女性と話していたこと、そして
後輩3人が変な男に捕まらないか気を配り過ぎて
肝心な自分の興味を惹かれる対象のミタビを
逃していた、ということだった。
ミタビは人の多さに圧倒され各店で軽く女性と話すと
そそくさと帰ってしまい、
結局、連絡先と交換するまでの出会いは至らなかった。
-
- 110 : 2013/12/11(水) 23:06:07 :
- 「あぁ…確か、
あなたは女性グループのリーダー的存在でしたよね?」
ミタビが冗談っぽく言うと、
リコは自分のことを覚えられていたことが
照れながら少し嬉しく感じていた。
「あぁ、まぁ…」
イアンはリヴァイとミタビの様子を見ながら、
「俺は…邪魔者みたいだから、席外すか…!」
「イアン、すまないな」
ミタビが軽くイアンに挨拶すると
彼は4人をカンターに残し、
フロアをウロウロしていると、
落ち着いた様子のエルヴィンを見つけテーブル席に座った。
「いいクラブですね…」
イアンがエルヴィンに挨拶すると
「…ありがとうございます」
両隣のイッケイさんとマッコイさんが
恍惚とした眼差しを注ぐ中でエルヴィンは
踊りつかれた様子はすでになく、冷静に答えていた。
エルヴィンは踊っている途中でブース内で
イアンがプレイしているのを見て回りの客の
盛り上がりを見ながらあるプランが閃いていた。
その話をちょうどイアンに提案したかったために
いいタイミングで彼がきたと思っていた――
-
- 111 : 2013/12/12(木) 22:48:06 :
- ⑯過去と今のせめぎ合い
その金曜日の夜はリヴァイ目的の女性客が
少なかったためにペトラ・ラルとリヴァイは
『FDF』のカウンターで話すことが出来ていた。
その隣ではペトラの会社の先輩のリコ・プレツェンスカが
『街コン』で見かけたが、話せずじまいだった
ミタビ・ヤルナッハと賑やかに話してた。
「リコさん、出会いがないって嘆いていたのに
まさか、思わぬ再会があってよかった!」
ペトラはリヴァイに向って笑顔を向けると
「あぁ…そうだな」
ただ無表情に返事するしかなかった。
・・・ローズの雰囲気に…似ている…か、なんで
こんなことが重なるのか…
リヴァイはかつて大切に想っていた
ローズの現在の夫でありDJの師匠でもある
イアン・ディートリッヒとのペトラとの再会が重なり、
珍しく混乱していた。
リヴァイは気持ちを切り替え『街コン』で
オルオ・ボザドに追いかけられたことを思い出し、
その後について聞いていた。
-
- 112 : 2013/12/12(木) 22:48:45 :
- 「あぁ、あの人ね…さすがにリコさんが怒っちゃって…
次のレストランで追い返しちゃった…」
「そうか…」
リヴァイは安堵で胸を撫で下ろしていたが、
女性とは話すことに慣れているはずなのに
ペトラと話そうとすると、緊張してしまっていた。
それはローズの面影があるからか、
それともペトラ自身が気になるのか、
目の前にすると、わらかないままでいた。
そのためにリヴァイはいつも以上に無愛想になってしまい、
ペトラが困った表情になった。
「お仕事中に話しかけてしまって、迷惑でしたか…?」
リヴァイにその顔を向けると
「いや…そんなことはない…
ペトラさんと話せるとは思っていなかったから」
・・・何言っているんだ、俺…
リヴァイはグラスのビールを一口飲んでカラカラの喉を
潤わせていた。
「リヴァイさんはDJなんですよね…?今は…?」
「あぁ、俺の出番が終って今は後輩が回している」
「そうなんですか…見たかったな…その姿」
ペトラが照れながら笑顔で言うと
「あぁ…今日はもう回す予定はなかったが…」
リヴァイはブースにいる
ジャン・キリシュタインの方向へ振り向き
視線を送っていた。
-
- 113 : 2013/12/12(木) 22:49:21 :
- 「今日は色々あって、あいつも緊張しただろう…
また代わってもいいかもな」
「え?いいんですか…?」
「あぁ…」
・・・リヴァイさんて、愛想はないけど、気を使う人なんだな
ペトラはそのギャップが微笑ましかった。
そして閉店間際の1時間だけ
リヴァイがプレイすることになった。
・・・俺が女のために…回すとはな…
リヴァイは舌打ちするも、一人の女性のために
プレイすることはローズ以外では
ほぼ初めてのために、自分自身の行動に驚きつつ
ブースに立っていた。そこからペトラを見ると
憧れの眼差しを注ぐかのように微笑むペトラがいた――
・・・あの笑顔…ローズともまた違う温かみがあるな
リヴァイと交換したジャンは
カウンターでペトラにワンピースと同じ色の
サーモンピンクのカクテルを出していた。
「リヴァイさんからのサービス…と、
言いたいのですが、これは俺からです。
これからもリヴァイさんのことよろしくお願いします!」
「はい…ありがとうございます!」
ペトラはジャンに微笑むと、再びリヴァイに姿勢を向けていた。
いつも厳しく、一度決めた方向性をめったに『方向変換』をしない
リヴァイが柔軟性を見せたのはペトラの影響だとジャンは感じていた。
・・・リヴァイさんには今までいろんな女性客が言い寄ってきたけど、
こういう態度を見せるのは初めてだ。いい関係になればいいが…
-
- 114 : 2013/12/12(木) 22:49:46 :
- ジャンが口角を上げると
ペトラは二人してブースでプレイするリヴァイを見つめていた。
その様子を離れた席で見ていた
『FDF』のオーナーである
エルヴィン・スミスはリヴァイのかつてのDJの師匠の
イアン・ディートリッヒは目の前にグラスを傾け、
リヴァイとかつて同じクラブにいたことなど昔話をしていた。
「ほう…リヴァイが女性客一人のためにブースに入っているのか?
珍しいこともあるもんだ…」
エルヴィンは意味深な笑みを浮かべていた。
目の前にいたイアンは振り向きリヴァイのいるブースを見ると
「へー!あいつが…
昔のリヴァイしか知りませんが、
俺もそういうことするって、
当時から見たことはなかったですね」
イアンも物珍しそうにリヴァイを見つめていた。
「まぁ…きっと…あのカウンターに座っているペトラさんという客…
あの子の影響かもしれませんね」
イアンは振り向き様にエルヴィンに話し出した。
「リヴァイはああいう子が好みだったとは…」
エルヴィンはリヴァイが『FDF』にきて
女性を意識することを見たことがなかったために
再び意味深な笑顔を浮かべいていた。
「あの子、俺のカミさんのローズの雰囲気に似ているんです。
それで、リヴァイは意識しているかもしれないですね…」
「ほう、あなたの奥様に?まさか、リヴァイと取り合ったとか?」
「いや…取り合うどころか、あいつは自ら身を引きました。
そのおかげで俺は今の幸せがある…もちろん、
今でもローズを渡す気なんて、ありませんが…」
イアンは酔っていることもあり、
正直にをエルヴィンに昔話をしていた。
「それじゃ、『先ほどの件』はどうしましょうか…?
あなたのお店にもリヴァイと伺い、話を詰めたいのですが」
「はい、カミさんにも話さないといけないし、ぜひ――」
その時。
Lime(ライム)の『Sentimentally yours』がリヴァイがセレクトして
クラブ内にはイントロが響いていた。
-
- 115 : 2013/12/12(木) 22:50:19 :
- 「リヴァイがこの曲を…」
イアンはリヴァイがかつて自分のいた
クラブで最後の掛けた曲だと覚えていたために
懐かしみながら、耳を傾けていた。
・・・リヴァイ、どうやら…ホントにペトラさんに惚れているな…
まぁ、ローズがおまえにとって過去になっていたら、俺は何も言わない
イアンは口を緩ませほぼ空になっていた氷の音しかしない
グラスを口元に運んでいた。
「リヴァイさんがこの曲をセレクトするとは…!」
その様子を見ていたジャンも驚いていた。
不思議そうな顔をしたペトラがジャンに顔を向けた
「どうしたんですか…?」
「いやぁ…この曲、俺が何度か掛けようとしたら、阻止されたんですよ。
理由はわからないままですが…だけど、歌詞がすごく切ないけど、
でも相手を思いやるよう情熱的なラブソングなんですよ!」
「へーっ!そうなんですか…!」
ペトラは微笑みながらリヴァイを見つめていた。
・・・リヴァイさん、やっぱり、ペトラさんに惚れているか…?
ジャンは思惑顔でリヴァイを見ていると
その視線にすぐ気づき舌打ちした。
また微笑みながら自分を見つめるペトラに対して
すぐ伏目がちになっていた。
-
- 116 : 2013/12/12(木) 22:50:38 :
- ・・・この曲…どれくらい振りに聴くか…まぁ、『封印解除』ってことか
リヴァイはいつも冷静な自分では
考えられないような行動に口角を緩めていた。
そしてその金曜の夜の『FDF』の営業終了となった。
リコとミタビはすっかり意気投合して、お互いの連絡先を交換していて
次回会う約束までつけていた。
そしてリヴァイがペトラを出入り口まで見送ると
「俺、この下のカフェにもいるんで、よかったらランチタイムにでも…」
「はい!この前の『街コン』では慌しかったので、
またランチしききます!
でも、会社から遠いので、休みの日になるかな?」
ペトラが微笑みリヴァイに返事をしていた。
「夜も時間があるとき、また…」
リヴァイは珍しく言葉に詰まりながら話しかけていた。
「今夜は楽しかったです!とにかく、また必ず来ますから!
今日はありがとうございました!」
ペトラはカクテルで頬を少しだけ赤く染めて
満面の笑みをリヴァイに向けるとそのままリコたちと帰っていった。
-
- 117 : 2013/12/12(木) 22:51:16 :
- ・・・連絡先…交換したらよかったか…
リヴァイは後悔したが、また来てくれるということに期待をしていた。
またペトラにリヴァイにとって積極的な行動をしていたのは
ローズのような二の舞にはなりたくない、
そういう気持ちが駆り出させていた。
そしてイアンがリヴァイの傍に立つと
「イアンさん、今日は久しぶりにお会いできてよかったです。
またいつか…」
リヴァイがそういいかけたとき
「『いつか』どころか、近いうちにな!
詳細はオーナーのエルヴィンさんに聞く事だな。
今日は面白かったよ!おやすみ!」
イアンはリヴァイの肩を叩くとそのまま帰っていった。
リヴァイが後ろを振り向くと、エルヴィンが立っていた
「オーナー、どういうこと…?」
エルヴィンは不敵な笑みを浮かべ
「あぁ、イアンさんにウチで定期的にイベントとして
プレイしてもらおうと検討してもらっている。
リヴァイ、おまえの師匠でもあるし、
いいコラボになると思わないか?」
「あぁ…そうだな」
リヴァイは伏目がちになりながら、
イアンに関わると今のローズ必然的に繋がると思うと
複雑な心境になっていた。しかし、過去と決別するには
敢えて過去に向き合うのもいいかもしれないと瞬時に決断していた。
「オーナー、イアンさんとなら面白いイベントになりそうだ」
「あぁ、それで明日、
イアンさんの居酒屋で営業前に話し合いに行くことになった。
もちろん、おまえも連れてな…!」
「えっ…」
リヴァイはまさかローズにも早速、再会できるとは予想外のために
その手は強く握りこぶしを作っていた。
「わかった…こういう話は早い方がいい」
エルヴィンはリヴァイの心境を考えると申し訳ない気持ちもあったが、
あえて『ビジネス』として冷静に話を進めようと決めていた――
ペトラは『FDF』が入ったテナントビルから出ると、リヴァイがまだいる
フロアからもれるミラーボールのライトを眺めていた。
・・・リヴァイさん、アドレスとか教えてとか言うかと思っていたのにな…
でもDJって『軽い』感じのイメージだったけど、全然そんな気はしない。
まぁ、いざ連絡したいときは、ツイッターのメッセージがあるからいいか…!
ペトラはすでにリヴァイのツイッターのフォロワーになっていたが、
そのことはリヴァイは全く気づいていなかった。
-
- 118 : 2013/12/13(金) 22:48:41 :
- ⑰再会
「ローズ、ただいまー!今日はごめんな、一人で店任せて!」
イアン・ディートリッヒはほろ酔いであり、
上機嫌で帰宅した時間は
すでに深夜を回っていた。
「パパ、おかえりなさい…子供たちはもう寝ているから、
静かにしてね!」
ローズは夫であるイアンがキッチンのテーブルに座ると、
冷蔵庫から冷たい水をグラスに注ぎ、出してその向かいに座った。
「で、パパ、どうだったの?」
ローズはイアンがかつて仲間以上に
想っていたリヴァイと再会したことを真っ先に聞きたい気持ちだったが
『どうだった?』という曖昧な質問をイアンに投げかけていた。
「いやぁ~!ミタビのヤツ、幸せを掴んだかもな!」
イアンは笑顔で綻びローズを見つめていた。
「え、どういうこと?」
イアンとローズが経営する居酒屋の
馴染み客であるミタビ・ヤルナッハが
『街コン』で見かけたリコ・プレツェンスカと再会して
意気投合して連絡先まで
交換していたことをローズに話していた――
「へー、ミタビさん、よかったね!こういうこともあるんだ!
離婚して以来、しょっちゅうウチに来ていたけど、
デートで忙しくなって来なくなったら、あなたも寂しくなるね!」
ローズがイタズラっぽく笑みを浮かべると
イアンはグラスの水を飲み
「それに…リヴァイにもいい出会いがあった…」
「え…」
ローズはイアンがいきなりリヴァイの話題を出してきたために
思わず驚きの声を上げてしまった。
イアンはリヴァイも『街コン』で出会った女性との再会があったと
上機嫌で話すが、その相手のペトラ・ラルがローズの雰囲気に
似ているとは伏せていた。
-
- 119 : 2013/12/13(金) 22:49:08 :
- 「まぁ…そのリヴァイがウチに明日来ることになった。
今、あいつがDJやってるクラブのオーナーと一緒にな。
定期的にクラブでリヴァイとコラボでDJやってくれないかと
頼まれた。今日久しぶりに『箱』で回して、やっぱり俺は
DJやりたいんだと思ってさ…その話し合いで
明日の営業時間の前にリヴァイとオーナーのエルヴィンさんが
ウチ来るんだ。俺、やってもいいよな?」
イアンの中ではすでに『FDF』でプレイすることを決まっていて
その最終許可をローズからもらおうとしていた。
「え…でも、ウチの営業時間もあるし、どうしたら…?」
「その話し合いをするんだ、
明日…ローズ、おまえにも同席して欲しい」
イアンの酔いは冷めていて、真剣な眼差しをローズに注いでいた。
「わかった…今日はもう遅いし、詳細は明日ね、おやすみ…」
「あぁ…おやすみ」
ローズは伏し目がちになりがら、席を立つと寝室のドアを開けると
ため息が出た。
・・・リヴァイが明日、ウチに来る…
ローズは胸の高鳴りよりも、自分の気持ちが今の幸せを
壊さないか怖かった。ローズはイアンと付き合い始めたときは
リヴァイのことが忘れらなかった。正直なところ、彼を忘れるために
イアンと付き合うことにキッカケのようなものだったが、
しかし、真摯な態度、自分を大切にしてくれるために
次第にイアンに惹かれていき、
リヴァイをどうにか心の奥底に秘めることが出来ていた――
-
- 120 : 2013/12/13(金) 22:49:30 :
- ・・・でも、リヴァイにも出会いがあるって…
ローズは焼きもちよりもリヴァイに大切な誰かがいるかも、と思うと
何となく安心感があった。それは、まったくリヴァイがまったくのフリーだと
惹かれてしまいそうだかが、大切な誰かがいるとわかると、
それが自分の気持ちを歯止めにさせてくれる気がしていたからだ。
・・・とにかく…明日は…リヴァイに会える
ローズは胸の高鳴りを抑え就寝することした。
イアンも寝室に入り、ローズを見つめると
・・・ローズ、おまえはリヴァイを過去にしているよな?
だから…俺は引き受けるんだ
イアンは妻であるローズを愛おしく思うと、
そのまま抱きつくように寝入った。
「もう…パパ、何を…!」
「おやすみ…ローズ」
ローズが目を覚ますと、イアンの幸せそうな寝顔を目の前にすると
・・・この幸せを…壊してはいけない…
ローズはリヴァイとの再会が
『過去への清算』のような気がしてならなかった。
一方、リヴァイはペトラへの気持ちもあれば、
忘れていたローズへの想いが蘇ってくるようで、怖かった。
一人アパートの部屋でローズからもらったLime(ライム)のレコードを
久しぶりに取り出しては見つめていた。
「ペトラさんへの気持ちは…確かにある…俺は一体、どうなりたい…?」
リヴァイは自分の今の気持ちがわからないままでいた。
舌打ちしながら、
「まぁ…何とかなるか…」
リヴァイは開き直り、
そのまま翌日にベッドに入るもなかなか寝付けづにいた。
翌日の土曜日。
リヴァイはカフェ『H&M』のランチの準備の掃除が終ると
その後の引継ぎをユミルとエルド・ジンに任せ、
カウンターに座り、
車で迎えに来るというエルヴィン・スミスを待っていた。
そしてその日もエルヴィンに会えると思っていた奥様連中が
来店してきた。
・・・残念だな…オーナーは今日はお出かけだ…
鼻で笑うと、エルヴィンで迎えに来たであろうクラクションの
合図をその耳が確認すると、ガラスのドアを開けカフェから
そのまま出てていった。
リヴァイが助手席に座ると、イアンとのコラボよりも
ローズとの再会で緊張してしまっていた。
-
- 121 : 2013/12/13(金) 22:49:54 :
- 「リヴァイ、ホントにイアンさんとのコラボ、話を進めていいんだな?」
「あぁ…問題ない…」
リヴァイは窓の外の風景を眺めながら、
ローズに再会できる時間が嬉しくても、
自分の気持ちがわからない状態が続いていたからだった――
そしてイアンとローズが経営する居酒屋の前に到着すると
ポップな雰囲気の外装で周辺では
花やハーブが植えられた植木鉢が多くあり、
女性が入りやすい雰囲気だった。
・・・ローズの好みも反映されれいるか…?
エルヴィンが先頭にドアを開けると営業前の準備をするイアンと
久しぶりに会うローズが待っていた。
今では二児の母となったローズはリヴァイと会っていた頃に比べると
少しふっくらとしていたが、面影はローズそのままだった。
「久しぶりだね…リヴァイ」
「あぁ…」
リヴァイは平静さを装い案内された席に座ることにした。
・・・ローズ、あまり変ってない…
リヴァイはいざローズを目の前にすると、
無視するつもりはないが伏し目がちになり、
何も話せないでいた。
そして4人はリヴァイとイアンのコラボのイベントを
定期的に行うことを決定してその実施時期などを
決めることになった――
2ヶ月に一度のある土曜日という具体的な
日にちも決まっていた。
「ねぇ、パパが不在だったら、メニューとか限定で
考えないといけないし、誰か手伝い頼んだりとかする?」
「うーん…いっそ、その日を定休日にするか?」
「え、じゃ、他の定休日とイベントの日を交換するのはどう?」
「定休日の交換がいいか…」
リヴァイは二人が仲睦まじく話し合っている姿を見ると
もう自分が入れる隙がない気がしていた。
-
- 122 : 2013/12/13(金) 22:50:18 :
- ・・・イアンさんが『パパ』って呼ばれるって…幸せそうだな…
「イアンさん、休みにしてもらってお宅の売り上げが落ちたら
申し訳ない…」
エルヴィンが申し訳なさそうにしているとすかさずイアンは
「エルヴィンさん、気にしないで下さい。俺が決めたことですし、
懐かしい友人にも声掛けますし、きっと定期的とはいえ
いいイベントにしたいですから!なぁ、リヴァイ」
「はい、俺もイアンさんとまた回せるの楽しみにしてますよ」
リヴァイはローズには視線を合わせず
イアンだけを見つめ話していた。
エルヴィンはリヴァイがローズに話しかけないが
近況を聞きたいかもしれないと察して話しかけた。
「奥さん、あなたもDJだと聞きましたが、今もご主人と二人で
ウチでやっているんですか…?」
「え、私は…今はやってないです。主人と結婚が決まって
レコードに触れるのも止めました」
それはリヴァイへの想いの決別のために自分の気持ちを
踏ん切りをつけるために止めていた。
そう聞いたリヴァイはすかさず
「あんなに練習していたのに…」
伏し目がちだったのが、思わずローズの顔を見てしまうと
そこには穏やかな顔をした彼女がリヴァイを見つめていた。
・・・ローズも…俺のことは過去ってことだろうな…
リヴァイはローズと懸命に練習していた過去を思い出しながら
それが継続されていないと思うと、
もう自分を含め過去になったんだと自分に言い聞かせていた。
・・・リヴァイ、私はあなたを忘れるために…止めたのよ…
-
- 123 : 2013/12/13(金) 22:50:35 :
- ローズは予想外の質問のために心が痛かったが、
止めた本当の理由を伏せて
結婚がキッカケで止めたということにしていた。
4人は他愛のない話をしていると、二人の子供がいるとわかり
エルヴィンが教育熱心なところや
一人息子のアルミンに過干渉なところを披露していると、
ローズとイアンは微笑ましく聞いていた。
「子供たちの話をしていたら、ウチの子達も帰ってくる来る頃かな?」
ローズとイアンの娘と息子がやってくるであろう時間になると
入り口から賑やかな声が響いてきた。
「噂をすれば…」
「パパ、ママただいまー!」
二人にそっくりな子供がたちが
イアンとローズに抱きついていると
リヴァイは目を細めてその様子を眺めていた。
・・・ローズに似ている娘か…もうおまえも母親か…
「そういえば、ウチのアルミンはちゃんと昼飯食べているか…」
エルヴィンが心配で思わず口にするとリヴァイはすかさず
「オーナー、アルミンはもう高校生だ、
自分でなんとかするだろう」
舌打ちしながら答えていた。
「エルヴィンさん、ホント息子さん想いなんですね!」
ローズは微笑み答えていた。
そして4人の打ち合わせが終わり、
リヴァイとエルヴィンが帰ろうと席を立った。
-
- 124 : 2013/12/13(金) 22:51:03 :
- 「イアンさん、これからもよろしくお願いします」
リヴァイが頭を下げると、
「こちらこそ、よろしく」
イアンが握手のため手を伸ばしてくるとその手に力が
入っている気がした。リヴァイはまるで『ローズは渡さない』と
言われているような気がしていた。
そして入り口に向おうとすると、客が入ってきた。
「いらっしゃいませ!営業は時間はもう少しあと…あれ?ミタビ?」
イアンが客だと声を掛けたのはミタビとそしてその隣にはリコがいた。
「おい…!さっそくデートか?」
イアンが半ば呆れるように口角を上げていると
「まぁ…ね、『初デート』をここにするのもいいだろ?」
「開店前だけど、すぐ用意する、いつもの指定席にどうぞ!」
ミタビが入店すると、
リヴァイとエルヴィンがいることに気づいた。
「あぁー!お二人とも!昨晩は楽しかったです!
また二人で遊びに行くと思いますが、よろしくお願いします」
「はい、ぜひ!こちらこそまたのお越しをお待ちしています」
エルヴィンが丁寧に挨拶すると、
リヴァイを見つけたリコが話し出した。
「リヴァイさん、昨晩はありがとうございました!
ペトラはあなたに会えたことに喜んでいて、次はランチしたいねって
早速話していましたよ!それに連絡先聞いたらよかったのに…!」
「えっ…そうですか…」
リヴァイはペトラが自分に会えたことに
喜んでいたことを聞いて面食らっていた。
「私から連絡先教えるのも何だし…
でも、ペトラはリヴァイさんのツイッターフォローしているし、
メッセージきたりしてね…!」
リコはイタズラっぽくいうと、そのまま案内された席に座り
ミタビと二人、楽しげに話していた。
・・・ペトラさんが俺のツイッターを…
「イアンさん、それじゃ、日が近くなったらまた打ち合わせしましょう、
よろしくお願いします、リヴァイ、夜の営業にあわせて急いで帰るぞ」
「あぁ…」
ローズはリヴァイの背中を見送ると、リヴァイが新しい恋をするなら
応援した気持ちもあったが…子供たちを見ていると
関わってはいけないと思いながらも、その想いを秘めていた。
エルヴィンはハンドルを握り
「いい夫婦だな…」
「そうだな、あいつは…いい妻であり、母になっている」
リヴァイは安心したように前を見据えていた。
「俺は別にローズさんのことを聞いてないが」
エルヴィンがぶっきらぼうにいうと
リヴァイは舌打ちして
「オーナーも…あの仲睦まじさを見て――」
何気なくエルヴィンの顔を見ると寂しそうな眼差しをしていた。
「いや…何でもない」
リヴァイは『――亡き妻のことでも思い出したか?』と言いかけたが
止めることにした。
・・・オーナーの亡き妻への愛の深さはには参るな…
リヴァイはローズと会ってみて
過去として受け入れつつあると感じていたが
ローズにはまだ秘めた想いがあると気づいていた。
そして、エルヴィンは仲睦まじい夫婦を見るたび、
いつも亡き妻であるミランダを思い出して胸が痛くなることがあった。
・・・ミランダ…俺は過去に生きているかもな…
エルヴィンは悲しげに鼻で笑いながら、
そのまま夜の営業のために二人は『FDF』のため帰路についた。
-
- 125 : 2013/12/14(土) 23:06:21 :
⑱幻の妻との再会
エルヴィン・スミスがリヴァイのDJの師匠である
イアン・ディートリッヒを招いてイベントをするため
話し合いのために彼が経営する居酒屋に行き
妻であるローズと仲睦まじい姿を見て以来、
エルヴィンは亡き妻のミランダを思い出してはため息をつくことが
しばらく続いていた。
平日のカフェ『H&M』のランチタイムの終りに近い時間。
リヴァイがランチに来ていた客を見送るために
ガラスのドアを開けると、入れ違いのようにエルヴィンが
他の店を見回りを終えて入ってきた。
いつもの通り、高級スーツにストライプのカラーシャツは第一ボタンまで外し、
ポリスのブラウングラデーションのサングラスを掛けていた。
普段なら、カフェの入り口でサングラスを外すはずだが、
しばらく掛けたままだった。舌打ちしたリヴァイは
「オーナー…カフェの中ではサンングラスを外したらどうだ?」
「あぁ…」
-
- 126 : 2013/12/14(土) 23:06:42 :
- エルヴィンが気のない返事をしながら
カウンターに座りサングラスを外すと
「どうしたの…?エルヴィン!そのクマは!!」
サングラスを外したその目の下のクマを見て驚いたのは
カウンターの中にいたハンジ・ゾエだった。
その様子を見ていたリヴァイは再び舌打ちして
・・・まだ落ち込んでいるのか…
イアンさんとローズの仲睦まじい姿を見てからか…
確かに仲良かったからな…
リヴァイもかつて仲間以上に思っていたローズが今では
DJ師匠の妻であり、母に姿をになっていた姿を思い出すと、
『過去は過去』として自分に言い聞かせていた影響か、
エルヴィンほど落ち込むようなことはなかった。
「エルヴィン…まぁ、元気出してよ!はい、アイスコーヒー…」
ハンジはエルヴィンと長い付き合いのため落ち込む理由は
たいたいが亡き妻のミランダのことだと理解していた。
-
- 127 : 2013/12/14(土) 23:07:04 :
- 「すまない、ハンジ…」
エルヴィンはハンジからアイスコーヒーを受取ると、
氷を鳴らしながら一口飲んだ。
そしてまたガラスのドアが開きリヴァイが入り口を見ると
そこに立っていたのはエルヴィンの息子であるアルミンと
同級生のエレン・イェーガーとミカサ・アッカーマンだった。
「リヴァイさん、こんにちは…父さん、まだ落ち込んでいるの?」
アルミンはリヴァイに耳打ちするように聞くと
「あぁ…おまえの親父はあの様子だ…」
リヴァイがエルヴィンの背中に視線を送ると、
大きな背中が丸まっていて、アルミンもため息をついた。
リヴァイが3人を空いているテーブル席に案内してても
エルヴィンは息子のアルミンが近くにいることさえ
まだ気づいていなかった。
3人は学校がその日は午前中で終ったために
午後から映画に行こうと決ていた。そして
上映時間まで時間があるためカフェ『H&M』でランチをして
アルミンは『ついで』に父であるエルヴィンの様子を伺いにきていた――
「父さん…仲がいい夫婦を見ると、あんな感じなんだけど、
周りに迷惑を掛けるのは止めて欲しいよ。
昨晩はザカリアスのおじさんに送ってきてもらっていたよ」
アルミンはショットバー『ザカリアス』の
マスターのミケ・ザカリアスに酔いつぶれた
エルヴィンが抱えられて家まで連れてきていたことを
リヴァイに説明していた。
-
- 128 : 2013/12/14(土) 23:07:29 :
- 「ほう…今回は確かに酷いな…特に目の前で
居酒屋を仲睦まじく経営している夫婦だったから、
『もしかして、自分もこうなっていたかも』とか想像しているのか…?」
リヴァイがエルヴィンを見据えていると
「そうだったのか…父さん」
アルミンはいつも父であるエルヴィンには反抗期でもあるため
厳しい態度でいるが、今回はリヴァイの話を聞くと
仕方ないかと感じていた。
「アルミン、ご飯とってこよう!」
カフェ『H&M』のランチタイムはビュッフェスタイルのため
お腹が空いていたエレンとミカサに促されアルミンは立ち上がり
食事が置かれたテーブルに向うことにした。
そして、再びガラスのドアが開き入ってきた客は
アルミンたちの担任であるディータ・ネスが入ってきた。
「ネス先生!こんにちは!来てくれたんですね!」
アルミンが笑顔で担任のネスを迎え入れていた。
体育教師であり上下ジャージでそして頭にはタオルを
バンダナのようにして巻いていた。
アルミンはエルヴィンのそばに寄ると耳打ちし
「父さん、ネス先生が来てくれたよ!」
「え、アルミン?あぁ…ネス先生、ありがとうございます!」
エルヴィンは面談やPTAなどでネスに会ったとき
カフェ『H&M』のことを話していた。
「スミスさん、やぁ!アルミン、やっと来れたよ!
まぁ…今日は私の大学の後輩が保健室の養護教論として
赴任してきたばかりでね…この街を紹介するにあたって、
真っ先にここに連れてきたまでですわ!」
-
- 129 : 2013/12/14(土) 23:07:52 :
- ネスが豪快に笑い左手を腰に当て、
右手をタオルに当てながら掻くと
タオルが上下に揺れていた。
「こいつが、俺の後輩の保健の先生だ!」
「初めまして…!」
ネスの後ろから現われたのは新任の
ミリアン・パーカーだった。
「ミランダ…?」
「ママ…いや、母さん?」
アルミンは同級生であるエレンとミカサの前で
母親を『ママ』と呼ぶのが恥ずかしいために
『母さん』と言い直したのだが、
そこにはエルヴィンの亡き妻、そしてアルミンの母である
ミランダにそっくりのミリアンが立っていた。
エルヴィンも思わず亡き妻の名前を出すほどそっくりで驚き
二人とも目を見開いて見つめると、ミリアンは引いていた。
「あの…私の顔に何か…?」
「いいえ、何も…」
エルヴィンは背格好や髪の色や顔立ちまで特にアルミンが
4歳の誕生日のビデオに写るミランダにそっくりで
ただただ二人は驚くだけだった。
-
- 130 : 2013/12/14(土) 23:08:12 :
- 「父さん…こんなことって…あるの?」
「あるんだな…」
二人は息を飲みミリアンを見つめていた。
リヴァイが舌打ちしては
・・・まったく…この似たもの親子が…
リヴァイが二人を通り越して、
ネスの前へ立ち席を案内しようとしたときだった。
「こちらの席へどう――」
「ネス先生、こちらへどうぞ…!」
エルヴィンが率先して接客し始めた。
その目は数分前までの落ち込んでいる様子はなく
目に輝きが戻っていた。
・・・オーナーの野郎…なんて、わかりやすい…
リヴァイは舌打ちしてアルミンを見ると
エルヴィンに先を越されたのが悔しかったのか
恨めしそうに父であるエルヴィンを睨んでいた。
「アルミン、ここは親父に譲ってやれ。
おまえは学校で会えるじゃないか。
特に仮病つかえば毎日でも…」
リヴァイは冗談で言ったつもりが
「あぁ…そうだね…」
頬を赤らめミリアンを見つめる姿に
・・・こいつ…ホントに仮病使って、保健室にこもりそうだな…
リヴァイが呆れながらも
アルミンを元に席に座らせて
エレンとミカサと共に食事をしながら
楽しそうしているネスとミリアンの様子を見ていた。
-
- 131 : 2013/12/14(土) 23:08:34 :
- 「アルミンのお母さんってあんなに美人だったんだ…?」
エレンがアルミンに問うと
「うん…!」
「アルミン、食事をするときは
ちゃんとスプーンやフォークを見た方がいいよ」
ミカサが冷静にアルミンに注意すると
余所見をしながら、食事をしていたために
フォークに乗せていたポテトサラダが皿に落ちてしまった。
「あっ…!」
「もう…アルミン!お母さんのミランダにそっくりな人がいるからって
行儀はちゃんとしなきゃ…」
ハンジ・ゾエは普段はキッチンにこもっているが、
『ミランダそっくりな客がいる』と聞いたためにグラスに水を注ぎに
テーブル席に出てきていた。
「確かに…そっくりだわ…」
「ハンジさんも母さんのこと、よく知っているから、やっぱりそう思うよね?」
「そうだね…あの頃の――」
ハンジが途中で言葉に詰まったのはちょうど、
アルミンが4歳の誕生日の時期でミランダが忙しくても
幸せ絶頂であろう姿とミリアンの姿が似ていたからだった。
-
- 132 : 2013/12/14(土) 23:09:01 :
- ・・・きっと、この先生も幸せな時期なのかもしれない…
ハンジが微笑みキッチンに戻ると、
夫であるモブリットが背伸びしてミリアンを見ようとしていた。
「モブリット!あなたも見てきなさい!そっくりで驚くから!」
「はい…!」
ハンジはモブリットに水の入った
ピッチャーを渡してお冷を客に注ぐよう促していた。
・・・どいつもこいつも…だけど、オーナーの亡き妻って
あんなにいい女だったとは…確かになかなか忘れられないか…
リヴァイは他のテーブルを拭きながら、
ネスと楽しげに談笑するミリアンに視線を注ぐ皆を冷静に見ていた。
エルヴィンはカウンター席に座りながら、落ち着かない様子で
ネスのところに行きたい様子だが、
こらえているのがリヴァイにはわかった。
そしてリヴァイがアルミンの席の近くに行くと
エルヴィンのことであることに気づいた。
「あれ…?アルミン、おまえの父さんのヒスイの指輪…どうしたんだ?」
リヴァイは妻の形見であるヒスイを加工しカレッジリングにして
エルヴィンが左手薬指にいつもはめていたのに
それがなくなっていることに気づいてアルミンに話していた。
「ホントだ…父さんがあの指輪を外すのを見たこと…あれ?」
「あ…オーナー…!」
リヴァイとアルミンは同時に気がついた。
カレッジリングは左手薬指から右手薬指に移動していた――
「父さん、まさか…先生に惚れた…?」
「まぁ…そっくりだから、気になるんだろうけど、
指輪を移動させて『独身アピール』か…?」
リヴァイは半ば呆れながら、エルヴィンを見ていた。
「僕はかまわないけど…だいぶ…年の差があるね」
「まぁ…オーナーは年齢は感じさせないからな…」
リヴァイは鼻で笑いながら、他の客が帰って後に残していった
食器を片付けていた。
ネスが立ち上がり、帰ろうとしたと同時にアルミンたちも映画の時間が
近づいたため、5人はほぼ同時に入り口集まっていた。
-
- 133 : 2013/12/14(土) 23:09:21 :
- そしてミリアンがエルヴィンに向い
「今日はありがとうございました!すごく美味しかったです。
次回は…『彼』と一緒にきたいと思います!」
照れながらも
深々と頭を下げネスと共にガラスのドアを開けて出て行った。
アルミンがエルヴィンの顔を見ると固まっていた。
何も声を掛けない方が判断して、アルミンは
「リヴァイさん、行って来ます!」
引きつった顔で挨拶して自分を先頭に
エレンとミカサは出て行った。
そしてアルミンにはネスとミリアンとの会話が聞こえてきた。
「いやぁ~ミリアン、今日はシスが社会科見学の引率で不在で
俺が案内役になって悪かったな!」
「いえ、気にしないでください!私も先輩とお話できてよかったです」
「もしかして、ミリアン先生の彼氏って…」
アルミンが恐る恐るミリアンに声を掛けてみた。
「そう、みんなの副担任の…シス先生よ!」
ミリアンは照れながら副担任の社会科教師の
ルーク・シスであると答えると、
その笑顔は母であるミランダそのものだった。
・・・父さん、残念だけど…
でもここまでそっくりな人がいるってただ驚きだよね
-
- 134 : 2013/12/14(土) 23:09:42 :
- アルミンはミリアンとネスに手を振ると
エレンとミカサと三人で映画館へ向った。
ちょうどラインチタイムが終了のため、
カフェの前に掲げられていた、ランチタイムを知らせる
イーゼルを下ろしたリヴァイが片付けていると、
エルヴィンの前に近づき様子を伺うことにした。
「あんなにそっくりな人は初めて見た…」
輝きが戻ったと思っていたその目は
再び伏目がちになっていた。
「オーナー…」
「だけど、俺はミランダを『一生愛する』って誓ったからなぁ…
いつまでも落ち込んでも仕方がない」
エルヴィンは右手の薬指にはめていたカレッジリングを
左手の薬指に戻していた。
「やっぱり…この方がしっくりくる」
エルヴィンは左手の薬指に再びはめた手を何度か握っては
感触を確かめていた。
「オーナー…今日、夜のクラブの営業が終ったら、
ザカリアスさんとこに行こう…」
「リヴァイが誘うとは珍しいな…わかった、そうしよう」
リヴァイは世話になっているエルヴィンの亡き妻に対する
一途な姿を見ると放っておけなかった。
・・・まぁ…イアンさんとローズに会わなければこんなことにも
なってなかっただろうしな…俺も全く関係ないとは言いがたい
リヴァイはローズと再会しても、思った以上に落ち込むことはなく
『過去』として捉えつつあることに気づいていた。
それは、ペトラ・ラルとの出会いのタイミングが重なったからであろうと
感じていた――
-
- 135 : 2013/12/15(日) 23:07:50 :
- ⑳エルヴィン、泣く
その平日の夜のクラブ『FDF』は
週末に比較的年齢層高い客が多く
落ち着いた雰囲気が漂っていた。
リヴァイはウェイターに徹して、
見習いのジャン・キリシュタインが客層をみながら
BGMのように曲を回すことで努め音も小さめにしていた。
また踊ることよりも、音好きな大人が耳を傾け
お酒を楽しむ客も多かった――
リヴァイはウエイターの仕事に勤しみながら
・・・ある意味…平日の方が『通好み』の客が多くて
セレクトが難しいかもな…
後輩のジャンがブースに入り、プレイする様子を
冷ややかながらも、心配そうな眼差しを注いでいた。
「ジャン君も、成長しとるな…君のおかげかな?リヴァイ君…?」
ウイスキーのロックが入ったグラスを握り
テーブル席で目を細めてリヴァイに話しかけきたのは
常連客であり、オーナーのエルヴィン・スミスとも
長い付き合いでもある不動産王のドット・ピクシスだった。
上下のスーツと白いシャツ、ネクタイはいつもループタイだった。
真ん中の石は孫娘に選んでもらうのがピクシスの楽しみである。
-
- 136 : 2013/12/15(日) 23:08:09 :
- 「ピクシスさん、ありがとうございます。
ジャンはジャンで努力していますから…」
リヴァイは自分のことを褒められているようで
冷静な表情をしながらも、心では喜んでいた。
「リヴァイ君、君もどうだ?たまにはテーブルに座ったらどうだ?」
ピクシスがリヴァイに話しかけ、その誘いを阻止したのは
いつも夜遊びに付き合い、また今夜の
ピクシスのループタイの石を選んだ孫娘のアンカだった。
「おじい様!リヴァイさんは今はお仕事中なんですよ!」
「はぁっ!わしはお主と一緒なら、何も出来ないわい…」
「まったく…私が一緒でなければ、何をなさるか心配なんです」
ピクシスは呆れた顔でアンカに注意されても
それでも孫娘と一緒にいられることが
どことなく楽しげだった。
そしてアンカはリヴァイに笑顔で
「リヴァイさん、いつも申し訳ありません。どうぞ、お気になさらずに…」
丁寧にお辞儀をして挨拶をした。
その仕草で育ちのよさがわかるようだった。
「いいえ…どうぞ、ごゆっくり」
リヴァイも頭を下げるとそのまま持ち場に戻っていった。
-
- 137 : 2013/12/15(日) 23:08:34 :
- ・・・お嬢様も…夜遊び好きのじーさんがいると大変だな
ピクシスはリヴァイを始めエルヴィンが経営する飲食店の従業員の
住まいの大家でもあり、
そしてこの界隈での夜遊びを若い頃から続けており、
エルヴィンにかつて流行など、
地域にあった遊びなどをアドバイスすることもあった。
「おじい様、そろそろお暇しましょうか?お時間もお時間ですから…」
アンカがピクシスに帰宅を促すも、
「いや…もう少し!」
「もう、おじい様!」
アンカは普段は優しいのだが、
祖父であるピクシスには容赦しない。
その様子を見ていたエルヴィンがそばに寄ってきた。
「ピクシスさん、いつもありがとうございます。
しかし、アンカさんもそうおっしゃってますし、
ピクシスさんが夜遊びできなくなっても、私どもも困りますから…!」
エルヴィンはピクシスと長い付き合いのために
やんわりと、帰ることを促すようなことを言っても
特に問題になることはなかった。
「エルヴィンさん、いつもすいません。おじい様、帰りますよ」
「ふむ…仕方ないのぉ…」
ピクシスが残念がりながら
重い腰を上げると、エルヴィンがそばに寄り耳打ちした。
「珍しいお酒が入りましたから、また今度…」
「ほう…また楽しみにしとる。しかし、
お主は相変わらず、わしの気持ちを繋げるのもうまいのう…」
-
- 138 : 2013/12/15(日) 23:08:54 :
- エルヴィンが出入り口まで見送ると、
ピクシスはアンカに付き添われそのまま帰路についた。
そして、その後はほとんどの客が帰っていて、
ほぼ閉店時間通りに営業を終了にこぎつけていた。
そしてリヴァイとエルヴィンは昼間の約束通り、
同じビルの地下にあるショットバー『ザカリアス』でグラスを傾けていた。
「今日の昼間はホント驚いたよ」
マスターであるミケ・ザカリアスはドアが開いた瞬間、
『今日もエルヴィンに泣きつかれるのか』と思うと
目を見開いてエルヴィンを見ていたが、
その後ろにリヴァイがいたために、
胸をホッと撫で下ろしてエルヴィンに
ウイスキーのロックを出していた。
「エルヴィン、今日の昼間、何かあったのか?」
ミケがエルヴィンに昼間の出来事を問うと、
亡き妻であるミランダにそっくりな女性に出会ったことを
寂しげに話していた。そして彼氏がいるとわかっていたために
残念そうな顔になってしまっていた――
リヴァイはジン系のロンググラスのカクテルを注文し、
鼻でジンの香りを確かめると一口飲んだ。
「へーっ…そんなにそっくりだったのか、奥さんに…」
ミケはカウンターの中で自分自身も薄く作ったウィスキーを
飲んでエルヴィンに答えていた。
「ミケさんも…奥さんのミランダさんと会ったことあるんだ?」
「あぁ…このバーをオープンしたてだったか――」
ミケは途中から言葉を濁したが、バー『ザカリアス』を開店させた頃に
ミランダが交通事故で亡くなったために
これ以上はエルヴィンに気を使い、何も言わなかったが、
途中で話すのを止めたミケを見てリヴァイは会った時期を察していた。
-
- 139 : 2013/12/15(日) 23:09:19 :
- 「まさか、こんなに早く逝くとは…」
エルヴィンは自分のスマホを取り出すと、
アルバムの写真から取り込んだ
ミランダの画像を見ていた。
アルミンが誕生した時期で幸せそうな姿が映っていた。
その写真を見たリヴァイは
「確かに…今日の先生にそっくりだな…」
エルヴィンのスマホを覗き、
また一口グラスに口をつけた。
「まぁ…エルヴィン、飲もう!」
ミケがエルヴィンのグラスに乾杯すると、
リヴァイも自分のグラスを軽くぶつけていた。
「ミランダ…キレイだったな…ホント」
・・・はじまった…
ミケは亡き妻のことを語りだしたら、
エルヴィンが止まらないことを何度も目の当たりにし
その日はリヴァイが同席しているだけ、安心ではあるが、
2日連続のため、少し疲れ気味だった――
「オーナー…ミランダさんを大事に思うのはわかるが…
アルミンはどうなるんだ?
あいつはオーナーのことを心配して、
このままじゃ結婚もしないかもしれないぞ」
リヴァイは半ば脅しのようにアルミンの気持ちを代弁した。
「アルミンか…ミランダに似てイケメンになるだろう…」
「なっ…!?」
リヴァイの質問に対して全く方向性の違うことを
エルヴィンが答えると、すでにほろ酔いになっていた。
「リヴァイ…エルヴィンが質問に答えられなくなったら…
もうあきらめた方がいい…」
ミケは呆れた状態でエルヴィンを見ていた。
エルヴィンは酔っ払って話していると、
方向性が見出せなくなることが多い。
・・・奥さん…これじゃ、死んでもしにきれねーじゃねーか…
リヴァイはグラスのカクテルを一気に飲み干した。
-
- 140 : 2013/12/15(日) 23:09:45 :
- 「ミランダは…ホント独身の頃からいい女で…いつも笑顔で結婚しても
ケンカもしたことなければ、カフェを営業した当初、経済的に
厳しい時期もあったのに…それでも耐えていて…」
エルヴィンはだんだん涙声になってきた。
「…それなのに…なぜ、先に…」
エルヴィンは流れる涙を左手で押さえ
右手はグラスは伸ばしていた。
「奥さんも…ここまで思われた、ある意味、幸せだろうよ」
「そうか!そう思うか!リヴァイ!…ミランダは幸せだったろうな…」
・・・奥さんに対する答えは即答できるのか…
リヴァイは舌打ちしながら、
新たに注文したロンググラスのカクテルを口にしていた。
「リヴァイ、俺はエルヴィンとも長い付き合いだが…
奥さんをいつまでも愛するのはわかるが、
このままでいいのかって時々疑問に感じる」
ミケは薄く作ったウイスキーを一口飲み遠くを見ていた。
「あぁ…確かに一途なのはいいが…このままでいいんだろうか…」
二人は涙を流しながら、
口元にグラスを寄せるエルヴィンを見ていた。
リヴァイはエルヴィンが亡き妻に対して一途なのは理解したが、
そっくりな女性に対しての昼間の行動に、ふと疑問を感じ始めた。
「オーナー…あの昼間の行動はなんだ?まさか、
そっくりな客に率先して接客までするとは思わなかったが…?」
「あぁ…俺も驚いたよ。
久しぶりに再会できたかと思ったから、嬉しかったかもな…」
「ほう…すべては亡き妻に通ずるってことか…」
「リヴァイ、いいこと言うじゃん…俺の思いはすべて…」
またエルヴィンは片手にグラスを持ち目頭を押えていた。
「ミケさん、オーナーは…ここではいつもこうなのか?」
「あぁ…そうだな。普段、経営者として張り詰めているだろうから、
ここでは亡き妻を思い出して、本音を出しているかもしれない…」
リヴァイはミケの言うとおり、経営者としてのプレッシャーから
解放させてくれるのが亡き妻への想いなら、
仕方ないのかと思い始めてきた。
リヴァイはグラスを手に持ちながら話し始めた。
-
- 141 : 2013/12/15(日) 23:12:10 :
- 「これは持論だが…生きていて、運命の人に巡り合うって
一人か二人いればいいと思う…が、その人が先に逝こうが
寄り添って生き続けられるか…ってのは別問題だろうな」
「えっ…どういう意味だ?」
エルヴィンはリヴァイに身体を向けた。
「運命の人と出会っても
一生を必ず添い遂げるとは限らない…
ってことじゃないか?」
リヴァイはかつて大切に想ってたローズが別れて以来、
もう誰とも本気で付き合わないだろうと思っていただけに
ペトラ・ラルとの出会いとも重ねていた。
-
- 142 : 2013/12/15(日) 23:12:25 :
- 「リヴァイ、厳しいな…」
「でも、オーナーはその運命の人との間にアルミンを授かって
夢であるカフェもオープンさせ、しかも展開させ
『意思』は引き継いでいるじゃないか…」
リヴァイは少し酔いも入り、いつもより饒舌になっていた。
「リヴァイ、おまえ…!」
エルヴィンは涙を止められず、黙り込んでしまった。
「リヴァイ…エルヴィンは自分の従業員を『家族』だと思っているからな。
いつもここでは妻以外の話は従業員のことをいろいろ心配しているぞ…」
ミケはリヴァイを見ながら、ニヤっと笑った。
「どういことだ…?」
「最近、何かおまえ、いい出会いがあったみたいじゃないか…?
それがうまくいくといいが、
見守るしかできないのが歯がゆいとか言っていたぞ」
ミケはそういうとグラスに入った薄いウイスキーを飲み干した。
-
- 143 : 2013/12/15(日) 23:12:41 :
- 「ほう…」
・・・まぁ…俺は俺でなんとかする…
エルヴィンは2日連続で飲んでいるためにすでに眠そうな顔をしていた。
「まぁ…オーナーは厳しい面もあり面倒見もいい…
だから、俺も付いていくんだろうな…」
「リヴァイ、おまえら従業員が羨ましいよ。俺はずっと一人だからな…」
ミケは少し寂しそうな表情で二人を見ると
「いや…オーナーにとっても『ザカリアス』は心のより所のはずだ…
だから、ミケさんも家族と思っているはずだ」
「だと…いいな…」
ミケは目を見開き見ては鼻で笑っていた――
エルヴィンは半分寝ている状態になり、
今回はリヴァイが自宅まで送ることになった。
リヴァイより背の高いエルヴィンの肩を抱き掛けるのは大変で
近所とはいえマンションの部屋のドア付近に来るころには
ヘトヘトになっていた。
-
- 144 : 2013/12/15(日) 23:12:58 :
- 「まったく…アルミンもこんな親父だと大変だろうな…」
そういいながらドアを開けるとアルミンが待っていた。
「アルミン!パパのお帰りだー…!」
そういいながら、アルミンに抱きつくと
「父さん、2日連続でこんなに酔って…!
今日はリヴァイさんに送ってもらって
何考えているんだ!」
アルミンは父であるエルヴィンをしかりつけていた。
「まぁ…アルミン、親父は親父なりに悩みもある。今日は勘弁してくれ」
「リヴァイさん…すいません、本当に…」
アルミンはリヴァイに申し訳なさそうな態度をしていた。
「リヴァイ、上がれ、遠慮せずに!」
「もう遅いから、俺は帰る」
「いや、上がれ、いや泊まっていけ」
-
- 145 : 2013/12/15(日) 23:13:12 :
- リヴァイは近所迷惑を考えると
舌打ちしてエルヴィンの言うとおり
部屋に入ることにした。
そして、エルヴィンはソファに滑り込むように横になると
そのまま寝入ってしまった。
「リヴァイさん、本当にごめんなさい、今お茶入れますから」
「いや…アルミン、おまえも明日学校があろうだろ。
俺はとりあえず帰るが…親父のことで何か悩みがあるなら何でも相談しろ」
「はい!」
アルミンは初めは眠そうな顔をしていたが、
最後は嬉しそうな笑顔に変っていた。
・・・やっぱり、父さんの店で働いている人たちは『家族』だな…
エルヴィンは普段からアルミンに対して従業員は家族と同じと
言い聞かせているために、改めてそのことを実感していた。
リヴァイはエルヴィンのマンションから出ると、
足早に自宅のアパートに向った。
-
- 146 : 2013/12/15(日) 23:13:28 :
- 「父さん、風邪引くよ!自分の部屋で寝てよ!」
アルミンがソファで横たわるエルヴィンを起こそうとすと
寝ぼけているようだった。
「ミランダ…愛している…」
寝言を言いながらも
涙を流しソファに置かれたクッションを抱きしめていた。
「父さん…母さん、ママは…もういないんだよ…わかってよ…」
アルミンはエルヴィンに毛布を被せると、
そのまま自分の部屋に戻ったが、
その目にはやはり涙を浮かべていた。
-
- 147 : 2013/12/16(月) 23:04:53 :
- (21)アルミンの想い
エルヴィン・スミスが真夜中の
リビングのソファーで寝ていることに気づいたのは
その肩が冷え始めたからだった。
「あぁ…また寝ていたか…リヴァイは…さすがに帰ったか」
エルヴィンは少し酔いが残り足がふらつくものの、
周りに誰もいないと確認すると、シャワーに入った。
ちょうどいい湯加減の温水をシャワーヘッドから浴びると
・・・俺は…何しているんだ…いつも…
冷静になりながらも、いつもその心には亡き妻であるミランダが
消えることはなかった――
エルヴィンは少し寝ると一人息子のアルミンのために
朝食を作っていた。多忙ということもあり、いつも簡単で
トーストとオレンジジュースやハンジ・ゾエから教えてもらった
ポテトサラダ、さらにはハンジからの差し入れが
朝食の食卓に並ぶことも多々あった。
また妻であるミランダを亡くしてから、
出来るだけ朝食は自分で作ろうと決め
長い間、実行しているということもある。
-
- 148 : 2013/12/16(月) 23:05:12 :
- 「父さん、おはよう…」
いつものアルミンなら、2日連続で人に付き添われて帰宅した
父に対して不機嫌な態度をするはずだが、
昨晩はリヴァイに
『親父には親父なりの悩みがある』と言われていた為に
特に咎めることなく、笑顔を父であるエルヴィンに向けていた。
「アルミン、おはよう…昨晩はすまなかったな」
「いいよ、気にしないで。父さんも大変なんだから」
「あぁ…」
エルヴィンはいつものアルミンなら無視するか、
不機嫌な態度を見せるはずなのに
思わぬ優しさを向けられると戸惑ってしまった。
「父さん、ごちそうさま!それじゃ、もう行ってくるよ!」
アルミンが自分が使った食器をキッチンに持っていくと
そのまま学校へ行く準備をして玄関ドアまで向った。
-
- 149 : 2013/12/16(月) 23:05:36 :
- 「アルミン、いってらっしゃい」
「父さん、行ってきます!あまり飲みすぎないでよ!」
ドアが閉まる瞬間、アルミンは
茶目っ気のある笑顔を残して
そのまま学校へ向っていった。
・・・アルミンも成長しているか…俺も変らないとな…ミランダ…
エルヴィンはアルミンを見送り食器類を洗うと簡単に
掃除をして今日の予定を確認していた。
ちなみにエルヴィンは家事もキチンとこなすが、
忙しいときは近所にハンジに頼むこともある。
「アルミン、おはよう!なんだ?今日も眠そうだな?」
「あぁ…エレン、ミカサ、おはよう!」
アルミンは校門付近で同じクラスのエレン・イェーガーと
ミカサ・アッカーマンと会うと眠たい目を指でこすっていた。
エレンは医者の息子であり、後継ぎで医者を目指しており、
そんなに勉強熱心にも見えないが、成績は上位だった。
表では『勉強してません』という素振りを見せつつ
裏では努力するタイプだ。
ミカサはエレンの父のグリシャ・イェーガー医師の
古い友人の娘であり、家庭の事情で幼い頃から
イェーガー家で暮らしているがエレンの両親からは
実の娘のように育てられている。
ミカサはエレンが医者になるなら『私は看護師』という具合に
いつも一緒にいられるようなことを考えていた。
またミカサは面倒見もよく、アルミンは同級生のはずだが
『弟』のように世話を焼くこともあった――
-
- 150 : 2013/12/16(月) 23:06:01 :
- 「アルミン、アルミン…?先生がきちゃうよ!」
授業中、居眠りするアルミンの後ろの席に座る
ミカサはボールペンで背中をつつきながら
小声で注意をしていた。
「あ…ごめん、ミカサありがとう」
アルミンは目線は合わせずとも顔を横に向けると
寝ぼけた顔で小声でミカサにお礼を言っていた。
しかし、この2日間、父であるエルヴィンのことが
心配でもあり寝られなかったために眠気に何度か
襲われてしまっていた。
そして次の授業でとうとう――
「アルミン、どうした?」
社会科の教師であるルーク・シスの歴史の授業でも
居眠りが止まなかった為に注意されてしまった。
アルミンがはっと気づいたとき
「先生、アルミンは風邪を引いて昨晩は
一晩中咳をして寝られなかったそうです」
すかさずシスに言い放ったのはミカサだった。
アルミンは一瞬、たじろぐが
「はい…先生…!」
咳をしながら、ミカサの咄嗟の嘘に乗った。
「そうか、アルミン、大丈夫か?まぁ…仕方ないな。
ミカサ、この授業のノートをあとでアルミンに見せてあげてもいいか?
アルミン、先生の授業だけでも保健室で寝てきなさい」
-
- 151 : 2013/12/16(月) 23:06:20 :
- 授業が始まったばかりではあったが、
シスはアルミンに保健室に行くよう促すと
ミカサに目で合図をすると、そのまま保健室に向った。
・・・ミカサ…ありがとう!
そして保健室に入ると
保健師であり、アルミンは亡き母のミランダにそっくりである
ミリアン・パーカーが待ち構えていた。
アルミンは咳が止まらず昨晩は寝られなかったことを
ミリアンに話すと、すぐにベッドに寝るよう促された。
「先生…すいません、それじゃ1時間だけですが…」
「うん、もし、ムリなようなら、家の人に迎えに来てもらう?」
「いや…ウチは父だけですから、
今は仕事中に来られても…」
「そうなの…それじゃ、ゆっくり休んでね、
気分悪くなったらすぐ呼ぶのよ」
ミリアンはアルミンに優しく声を掛けると
掛け布団をそのまま被せた。
・・・ホントに母さんにそっくりだ…
アルミンはまるで母に寝かしつけられるような感覚になると
安心感からか、すぐに寝入ってしまった。
アルミンは夢を見ていた――
-
- 152 : 2013/12/16(月) 23:06:40 :
- 『アルミン、誕生日おめでとう!』
『ママ、だいすき!』
アルミンは何度も見ている4歳の誕生日のビデオの風景を
再現したような内容だった。
しかし、アルミンが母であるミランダの顔を見ようとすると
ボヤけていた。
『あれ?ママ、おかお、どうしたの?』
『アルミン、何?』
『ママのおかお、みえない』
『もうアルミンったら…』
夢の中のミランダはアルミンが冗談を言っていると思い、
そのまま抱き上げる様子だった。
そしてミランダの両頬ををアルミンが小さな手で
ぱちぱちと叩いていると
『ママ…?どうして、おかおが、みえないのー!?』
アルミンは夢の中で
母の顔に触れながら泣いていた。
「アルミン…アルミン…!?」
アルミンは自分の名前が呼ばれその声が
だんだん大きくなっていると気づくと目が覚め
目の前にはミリアンが心配そうに腰をかがめ
アルミンを見つめていた――
-
- 153 : 2013/12/16(月) 23:06:56 :
- 「アルミン、うなされていたようね…大丈夫?」
「ミリアン先生…すいません」
「今日は熱はない?」
ミリアンがアルミンの額に手で触れると、
もちろん熱はないが母に触れられた感覚になると、
頬が赤くなった。
「熱はないけど、頬は赤いね…大丈夫?ホント?」
「はい、僕は大丈夫です!もう次の授業もあるので、
もう行きゃなきゃ」
「そう…だけど、気をつけるのよ」
「…はい!」
アルミンは心配そうなミリアンの顔を見ると
実際に母であるミランダに言われているような気がして
元気をもらえたような感覚がしていた。
そして教室に向うため廊下を歩きながら
目が覚めたアルミンは、
両指を絡め上向きに両腕を伸ばし屈伸していた。
・・・変な夢見たな…だけど、
ミリアン先生、ホントにママそっくりだ…
リヴァイさんの言うとおり、仮病使いたくなるな
アルミンはかすかに笑みを浮かべながら教室に戻っていった。
そしてミカサにお礼をして歴史の授業のノートを借りると
今度、カフェでハンジ・ゾエ特製のケーキをご馳走すると言うと、
『エレンも一緒で』と条件を出すと快諾していた。
そして太陽はすでに西の空に落ちて、
夕焼けの茜色も空から消えそうな時間になっていた。
アルミンは帰宅すると、
成長とともに一人で過ごす夜が多くなるが、
当たり前と感じるようになると寂しさはあまり感じなかった。
-
- 154 : 2013/12/16(月) 23:07:14 :
- 「たまには…見てみるか…」
アルミンは父であるエルヴィンが作っていた
夕食をレンジで温めている間、
『アルミン:4歳の誕生日』というタイトルのDVDを探して
プレイヤーにセットしていた。
そしてソファーに座りながら夕食を食べながら見ていると
「ただいま、アルミン、今日は早く帰ったぞ…」
「えっ?父さん…?」
アルミンが振り返ると、
父であるエルヴィンが珍しく夕食時に帰ってきていた。
「父さん、おかえり…!どうして、そんなに早く?」
「あぁ…今日はリヴァイが早く帰れとうるさくてな…」
・・・リヴァイさんが…!
アルミンは目を見開くも嬉しい表情で
エルヴィンを見ていた。
「アルミン、おまえがこのビデオを自分から見るのは珍しいな」
エルヴィンがアルミンのそばに座ると
ハンジからもらった、まかないの残りをテーブルに広げていた。
「うん…たまには…僕も見ようと思ってね」
「そうか…母さん、ママはいつまでもキレイだよな…」
「そうだよね、それに…
ママはいつまでも…僕らの心の中に生きているよ」
アルミンはエルヴィンに優しく微笑むと
ハンジ特製のご馳走を口に運んでいた。
-
- 155 : 2013/12/16(月) 23:07:34 :
- 「だけど…僕らはママを思いながらも
前に進まないといけないよね」
「…そうだよな…アルミン、俺たちはミランダを思いながらも…」
エルヴィンとアルミンはミランダを思いながらも前に進もうと決意するも
その口調は弱々しくまだ強い決心ではないとお互いに気づいていた。
・・・父さんの気持ちはわかるよ…僕もまだママが大好きだから
アルミンは前に進まないといけないと思いながらも、
そっくりなミリアンに接するたびに
自分の気持ちがさらに揺らぐだろうと感じていた。
-
- 156 : 2013/12/17(火) 23:04:52 :
- (22)ペトラ、カフェに来店する
リヴァイがDJの師匠であるイアン・ディートリッヒとコラボの
イベントをすると決まって以来、
噂を聞きつけた昔の仲間たちから
ツイッターのメッセージが届くようになっていた。
そして、そのイベントは翌月のため、
イアンとはメールや電話をしながら
打ち合わせをしているが、また近々会う予定もあり、
リヴァイは最近にない躍動する感覚がその心に溢れていた。
『リヴァイ、元気か?イアンさんとコラボってホントか?』
『懐かしいな!絶対行くから!』
『ローズとはどうなっている…?』
リヴァイはカフェに出勤する前に
いつもツイッターのチェックをしているが、
クラブに来る女の子たちから
遊びの誘いのメッセージが多い中、
懐かしい仲間たちからのメッセージを見て目を細めていた。
-
- 157 : 2013/12/17(火) 23:05:08 :
- 「みんな、懐かしいな…」
そして舌打ちしては
「…ローズは…さすがに来ないだろう、子供がいるし」
リヴァイはかつて仲間以上に想いを寄せていた
ローズには過去の思い出とだんだんと思えてきているが、
しかし、実際に目の前にすると、どう接したらいいかわからないために
そのために、正直なところ『来て欲しくない』という気持ちが強かった――
リヴァイはPCに向いながら、ペットボトルの紅茶を口にして
マウスでメッセージをスクロールさせていると、
あるメッセージに目が止まった。
数日前に届いていたのもであり、
開くことを忘れていたものだった。
それを何気に開くと
「何っ?」
リヴァイは思わずPCの前に顔を近づけ
前のめりになりそうな姿勢になった。
そのメッセージはペトラ・ラルから送信されていた――
『リヴァイさん、
先日はありがとうございました。
早速ですが、カフェのランチを○月×日に
同僚のクリスタと一緒に行きたいと思います。
お会いできたらいいですね!』
-
- 158 : 2013/12/17(火) 23:05:24 :
- シンプルなメッセージだったが、
リヴァイの口角は上がっていた。
「…この日付…今日じゃないか…!」
リヴァイはテーブルを座っていた椅子から立ち上がり
まだカフェへの出勤には早かったが、
急いで準備を始めていた。
夜のクラブで使うレコードを選ぶと、急いで着替えていた。
そしてふと、
・・・今までこんなに慌てて出勤することあったか…?
自分の意外な行動に鼻で笑ってしまっていた。
いつも同じようなキレイにアイロンがかけられた
白いコットンのシャツを着ているが、
たまには別のものをと思うと、
『ペトラが来ることで浮かれている自分』に舌打ちしては
『普通にしてよう』とシャツを眺めていた。
そしていつものように徒歩で
カフェ『H&M』に到着すると、
ハンジ・ゾエと夫のモブリットがちょうど
ドアのカギを開けるところだった。
-
- 159 : 2013/12/17(火) 23:05:51 :
- 「リヴァイ!おはよう!珍しい!こんなに早いとは…」
「まぁ…たまには…」
リヴァイはいつも二人の後に出勤して、ランチの準備が
整う頃に掃除を終了させ時間調整をすることがあり、
同時に出勤することはあまりなかった。
そしてランチの食材の準備をしながら、
モブリットがハンジがメニューについて話していた。
「ハンジさん、今、パンケーキが流行みたいですが、
ウチのメニューにも入れますか?」
「そうだね…パンケーキって甘くない『ホットケーキ』だから、
トッピングで甘くさせるようなものだから、
フルーツのコスト考えたらどうだろね?」
「確かに流行りはフルーツ山盛りの
ホイップクリームたっぷりですからね…」
「まぁ、材料あるし、今日、試しに作ってみよっか?」
「そうですね、フルーツのバランスは…」
・・・ほう…この二人は早い時間だと、
こんな真剣に料理のことで話しているのか?
リヴァイはハンジとモブリットの様子に関心しているが、
いつも二人はリヴァイを初め従業員が出勤する前に
メニューの新作について話し合うことがあるが、
その様子を見るのは初めてだった。
『料理は一流でも掃除が苦手な夫婦』という印象なだけに
どこかでバランスが取れているのかと改めて思っていた。
そして、カフェの半分近くを掃除したとき、
ユミルも出勤してきた。
-
- 160 : 2013/12/17(火) 23:06:20 :
- 「あれ、リヴァイ、おはよー!こんなに早いとは!」
「おはよう…もう半分は終った」
リヴァイはいつものようにバンダナで三角頭巾をして
大きなマスクをして、そしてエプロンをしているが
マスクを外しながら、ユミルを見ていた。
そしてリヴァイが掃除を終える頃には窓ガラスも
曇りもなく、透き通っていて、ユミルからは
『誰かがぶつかるかも』と冗談で言われていた。
そしてユミルもハンジとモブリットが作ったランチを
専用のテーブルに並べ、リヴァイがランチの告知の
看板をイーゼルに立ててる時間になっていた。
「今日もたくさんのお客さんが来てくれるといいね」
「あぁ…そうだな」
その日は平日であり、週末ののんびりランチとは違い
近くのオフィス街からの客が多い。
また回転も速いためビュッフェスタイルとはいえ
食器の片付けなどリヴァイとユミルは忙しくしていた。
そしてランチタイムの時間も中盤の時間が過ぎ
お客の回転が鈍くなり、落ち着き始めた頃だった。
入り口のドア付近で『ゴン』と音を立て、
誰かがガラスのドアにぶつかったようだった。
-
- 161 : 2013/12/17(火) 23:06:37 :
- ・・・ホントにぶつかるヤツがいるとは…
思わず鼻で笑ってしまったが、その客を見て驚いた。
ペトラだった――
「ペトラさん…大丈夫ですか?」
リヴァイは慌てて、ドアを開けるとペトラの様子を伺っていた。
「すいません!大丈夫です…キレイに磨かれているから、
ドアが解放されているかと思って…」
ペトラは頬を赤らめぶつけた額を手で押えていた。
リヴァイはペトラが来るということで張り切って掃除をしていたが、
まさか、ペトラがぶつかるとは思ってもいなかった。
ちなみにその日、
ガラスのドアにぶつかってしまったのはペトラだけだった。
またペトラがぶつかってしまったのは、
リヴァイをカフェの中で見かけたために
はやる気持ちを抑えきれず、ドアに気づけずにいた。
-
- 162 : 2013/12/17(火) 23:06:58 :
- 「もう、ペトラ!ドジなんだから!」
一緒に来ていたクリスタ・レンズは涙を流すくらい
大笑いしていた。
「普段、真面目で冷静なペトラがこんなことって…」
リヴァイはペトラとクリスタを席に案内すると
・・・ペトラさんは真面目な人か…
ペトラの額が気にしながら、その耳はペトラの情報を
聞き逃すことはなかった。
その日のペトラはカジュアルでジーンズに
淡いピンクのアンサンブルのカーディガンで
斜めがけバックを持っていた。
・・・今日は『休日スタイル』か?まぁ…悪くないな
そしてユミルが二人のそばに近づくとクリスタが声を掛けてきた。
「あの…この前は声を掛けて頂きありがとうございました!
なんだか、嬉しかったです…」
クリスタは頬を赤らめていると
「あぁ!いいのよ、別に!あの時の彼とはどうなりました…?」
ユミルはクリスタの前にお冷を置くと照れていた。
「実は今日はそのことで、お話を聞いて欲しくて…ペトラと来たんです」
クリスタとユミルが話している間、
ペトラはリヴァイの働く様子を視線で
追っていたが、気づかれると伏目がちになっていた。
そして食器を片付けながらリヴァイが近づいてきて
「ペトラさん、額にコブでも出来たらって心配だったけど、
赤くもなってないし、よかった…」
リヴァイはペトラの額を見ながら胸を撫で下ろすと、
持ち場に戻っていった。
・・・リヴァイさんに心配させちゃって、悪いな…
だけど忙しそう…さすがにランチタイムは
話せないかな…
-
- 163 : 2013/12/17(火) 23:07:16 :
- ペトラはリヴァイと話したい気持ちでいたが、
忙しそうなリヴァイに声を掛けづらかったが、
一生懸命に仕事をする姿は
DJとしてのリヴァイともまた違い、
ステキだと感じていた。
そして、ランチタイムが終ろうとして、リヴァイが告知の
イーゼルを片付けようとした頃、
ユミルがキッチンにいたハンジに
『街コンに来ていた二人が来ている』と話していると
嬉しくなり、ペトラとクリスタの前に出てきた。
「うわー!二人ともありがとね!
いい出会いはあったかな?」
ハンジは笑顔を二人に注いでいると
「はい…そのことで、ユミルさん?に話したいことがあって…」
クリスタが照れながらハンジに答えていた。
-
- 164 : 2013/12/17(火) 23:07:32 :
- 「え?ユミルに?」
ハンジがカフェの中の客の様子を見渡すと、
すでに客は二人だけになっていた。
「もし、二人さえよければ、残ってもいいよ!
今から私たちも昼食だけど、一緒にどう?」
「はい!お願いします!」
クリスタは笑顔で答えていた。
・・・よかった…リヴァイさんと話せるかな?
ペトラはクリスタの提案で長居ができると思うと、
思わず笑みを浮かべていた。
そしてユミルがクリスタのそばに座ると話し始めた。
「実は…前にここで出会った彼と何度かお茶してますが…
緊張しているみたいで、何も話さないんです」
クリスタはライナー・ブラウンと『街コン』で出会い
その後も何度か会っていた。
クリスタは初めてユミルを見かけたとき
『何度も話せるお姉さん』という感覚がして、
ぜひ相談したいと思っていて、ペトラがカフェ『M&H』に
行きたがっていると聞くと、一緒に行こうと決めていた。
-
- 165 : 2013/12/17(火) 23:07:50 :
- 「それで…もう進展もなければ、会わない方がいいのか、
でも、悪い感じの人ではないし、
真面目な人だとは思うんですけど、どうしたらいいかと…」
ペトラは照れながらもユミルに打ち明けていた。
「クリスタさん、あなたはどうしたいの?」
ユミルは淡々とクリスタに話していた。
「私はライナーさん、誠実そうな感じですから…
ホントはもっとお話をしたいんです…」
クリスタはうつむき頬を赤らめていた。
「その気持ちをそのまま伝えてみては?
あなたがあまりにも可愛いから、緊張してるだけかもね」
「そんなことないですよ!」
ユミルがイタズラっぽくクリスタに言うと、
顔を赤らめすかさず否定していた。
「ホント…あのとき出会いがないって嘆いていたリコ先輩が先に
彼氏見つけちゃうから、わかからないよね!」
-
- 166 : 2013/12/17(火) 23:08:07 :
- クリスタはペトラに身体を向けると、
会社の先輩であるリコ・プレツェンスカが
『街コン』で出会ったもお互いに話せはしなかったが、
『FDF』で再会したミタビ・ヤルナッハと
付き合い始めたことを話していた。
・・・ほう…あの二人、付き合いだしたか…まぁ、よかったじゃないか
リヴァイはクリスタの話を聞いて、鼻で笑っていた。
「クリスタさん、今度、ライナーさんとここのランチ来てみては?
土曜日もやっているし、休みが合えばいいけどね…」
「はい…!いいですか?」
クリスタは嬉しそうにユミルを見つめると、
早速ライナーにメールをしていた。
ユミルがハンジが出したまかないに手を伸ばすと、
クリスタがペトラに小声で話し出した。
「ペトラ、あなたは…リヴァイさんと話したいじゃないの?」
クリスタはペトラがリヴァイのことが気になっているとは
知らなかったが、カフェに到着するとペトラが目で
リヴァイのことを追っていることに気づくと、
『ペトラはリヴァイに興味があるかも』と勘付いていた。
-
- 167 : 2013/12/17(火) 23:08:28 :
- 「え…まぁ…」
ペトラはまだリヴァイのことがよくわからないが、
この日も気遣いや直向に仕事に勤しむ姿勢に対して
好感度は上がっていた。
リヴァイは片づけが終わり、ユミルのそばに座ると
彼女から茶目っ気な表情で話しかけられた。
「リヴァイ、まさか、あなたが一生懸命磨いた
ガラスのドアに頭をぶつけたのが、ペトラさんだったとは
あなたも驚きだったでしょうね…!」
「何っ…?」
リヴァイは予想外のことを言われると、舌打ちするしかなかった。
「リヴァイさんがあんなにキレイに磨いたんですか!
透明すぎてビックリしちゃいました」
ペトラがすかさずリヴァイに微笑みながら額を押えると
冗談で答えていた。
「あぁ…まぁ…清潔感も大事だから…」
リヴァイは伏し目がちになりながら、
まかないを口に運んでいた。
-
- 168 : 2013/12/17(火) 23:08:58 :
- 「二人とも、今日はいいタイミングだったかも!
女の子の意見が聞けるのはいいかもしれない!」
ハンジとモブリットがキッチンから出てくると、
試しに作っていたパンケーキをペトラとクリスタの
テーブルに置いた。3枚のパンケーキの上に
タップリのホイップクリームとラズベリーやイチゴなどの
ベリー系のフルーツを乗せたハンジの試作品が
二人の前には並べられていた。
「うわー!いいんですか?」
「ペトラ、今日来てよかったね!」
クリスタとペトラは初めて食べるパンケーキを目の前にすると
嬉しそうにフォークとナイフを伸ばしては
ハンジとモブリットに感想を伝え二人は熱心にメモを取っていた。
・・・やっぱり、甘いモン食っている姿は可愛いな…
リヴァイはペトラが美味しそうほお張る姿をチラっと見ては
再び伏目がちになっていた。
ペトラがパンケーキを半分近く食べたとき、リヴァイに話しかけ出した。
「リヴァイさんは、お休みの日は何されているですか?」
「えっ…?」
リヴァイはまた予想外の
質問をされたために驚いて顔をあげた。
「休みの日は…疲れもあって、寝てるか…普段、
立ちっぱなしの仕事だから、たまにスパに行く」
「リヴァイがスパ?」
リヴァイは正直に答えたが
隣にいたユミルが
予想外のことを言い出した為に驚いていた。
リヴァイはその様子に舌打ちしては
「俺がスパに行っちゃいけないのか…?」
不機嫌に答えると
「いや…だって、リヴァイ、潔癖なくらいキレイ好きなのに
そういうスパとか行くって予想外な感じがして…」
「あぁ…確かにちゃんと掃除が行き届いていて、
清潔なところが一ヶ所だけある。そこにしか行かねーな…」
リヴァイは伏し目がちにまたランチを口に運んでいた。
-
- 169 : 2013/12/17(火) 23:09:22 :
- 「どういうところなんでしょうね?リヴァイさん好みのスパって」
ペトラがリヴァイに笑みを浮かべ話すと
「二人で行っちゃえば?」
「そうだよ!そうだよ!!リヴァイ、次の日曜日いいじゃない?」
ユミルとハンジは二人に対してまるで
『スパ・デートをしなさい!』と言わんばかりに
やいのやいのと言い出した。
「何を言い出す…?」
リヴァイは二人を舌打ちしながら、半ば睨むように見つめると
「リヴァイさん、私は…ご一緒したいです」
ペトラは頬を赤らめ照れながら、リヴァイを見つめていた。
・・・まさか、こんなことが…
リヴァイは唖然としながら、ペトラを見ていた。
「…ペトラさんがいいなら、俺はかまわないが…」
リヴァイは返事をしながら、あることに気づいた。
たまに行くスパは個室で身体を休ませるために
二人で行くとしたら、
どうしたらいいのかわからなくなっていた。
-
- 170 : 2013/12/17(火) 23:09:44 :
- ・・・まぁ…行ってから考えようか…
リヴァイとペトラは連絡先を交換すると、
来る日曜日に『スパ・デート』をすることになった。
リヴァイがたまに行くスパは少し離れた地域にあり、
自然に囲まれた場所にあるために
電車で移動することになる。
天然温泉や足湯などが楽しめる温泉施設のあるスパだ。
ペトラはクリスタとカフェ『H&M』を出ると
「ペトラ!よかったね!リヴァイさんと『スパ・デート』だなんて!」
「うん…!」
・・・リヴァイさんと『スパ・デート』か…何着ようかな…!
ペトラのその顔は幸せそうに笑みを浮かべ、
二人は引き続き休日を楽しむことにした。
-
- 171 : 2013/12/18(水) 22:52:30 :
- (23)ペトラとデート
『リヴァイさん、こんばんは!明日は楽しみにしています。
お仕事が遅く終るなら、昼過ぎからの待ち合わせがいいと思いますが、
13時くらいに○○駅の近くでの待ち合わせはどうですか?』
リヴァイがジャン・キリシュタインに
DJブースを譲った土曜日の夜。
ロッカールームに置いてある
スマホに新着メールを知らせるランプを確認すると、
ペトラからのメッセージをすぐに確認していた――
・・・断りのメールじゃなくて、よかった…
リヴァイはホッとした気持ちで
ペトラに返事をすると、そのままホールのカウンター席に座ると
その前には数人の常連の女性客が待っていた。
「リヴァイ!明日休みだよねー?遊びに行かない?」
「そうだよー!たまにはいいーじゃん!」
リヴァイは舌打ちしては
「すまないが…俺は忙しい…」
リヴァイはお客だから無下に出来ないというのもあれば、
ペトラとのこともあるために、さりげなく断ると
ジャンのいるブースに入った。
-
- 172 : 2013/12/18(水) 22:52:50 :
- 一人の女性客はリヴァイの背中を見ながら
・・・ホントは彼女とかいるんじゃないの…?でも、どうにか落としたい…
リヴァイのことを何度か『FDF』で見かけ、
どうにか『お近づきになりたい』と思っていただけに
熱い視線を送っていた――
ブースに入ってきたリヴァイに気づいたジャンはリヴァイが
ある女性客から視線を送られていることに気づいていた。
「リヴァイさん、モテモテですね…」
リヴァイは舌打ちして
「…プレイに集中しろ…」
リヴァイはジャンに背中を向けてレコードをチェックしていた。
チェックは習慣化しているためどこにどのレコードがあるか把握してるが、
女性客から逃げるため半ばチェックしている振りをしていた。
その日の営業はいつも通り深夜で終了すると、
リヴァイはまた客を巻くようにして帰宅した。
この時ばかりは背中に感じる視線を振りきるには時間がかかっていた。
・・・まったく…勘弁して欲しい…
リヴァイがどうにか女性客を振りきった。
「あぁー!今日も見失った…!」
深夜の暗がりの中、
女性客は悔しさのあまり握りこぶしを作り
それを太ももに打ち付けていた――
-
- 173 : 2013/12/18(水) 22:53:08 :
- 翌日。
リヴァイが目を覚ますと、昼前になっていた。
「ヤバイ…遅れる…」
リヴァイは時計を見ると目を見開きすぐさま準備をすると、
出かける用意をしたが、ただいつもの格好にジャケットに
モスグリーンのショールをマフラーのように巻くような
シンプルな服装で出かけるようにしていた。
リヴァイはファッションに無頓着とまではいかないが、
いいものを長く着けたいということがあり、
シンプルなスタイルが多い。
そして待ち合わせの駅に到着すると、すでにペトラが待っていた。
リヴァイがペトラに駆け寄ると
「ペトラさん、すいません…待ちましたか?」
「いいえ!今来たところですから…!」
リヴァイは昼間、屋外でペトラと会うのは初めてのため
自然光に照らされ微笑むペトラを見ると
初めてかつて大切に思っていたローズと
待ち合わせしたときのことを思い出していた。
・・・あのときのローズに…やっぱり、雰囲気が似ているな…
ナチュラルメイクに長い睫か…
ペトラはAラインのフワっとした素材のスカートにセーターと
そしてスカートと同じくらいの丈の薄手のダウンコートを羽織っていた。
・・・ほう…今日も悪くないな…
リヴァイはペトラのファッションを見て口角が上がるも
涼しい顔をして改札口に向っていた。
そして日曜というともあり席に座ることが出来ず、
二人はつり革に掴み両並びで立っていた。
-
- 174 : 2013/12/18(水) 22:53:24 :
- 「リヴァイさんの常連のスパってどんなところか楽しみです!」
「あぁ…あっ!」
リヴァイは話しながら、思い出していた。
・・・いつもは予約して個室だったが…
今回はさすがにムリだろう…
まぁ…行けばなんとかなるか…
そのスパに到着すると、そこはやはり大賑わいだった。
「リヴァイさん、人がいっぱいで大変ですね…」
「あぁ…そうだな…」
二人は並んでそのスパに施設の屋外を歩いていた。
高台でもあり、森も近くにあるということで
普段感じることが出来ない自然の風が心地よい場所でもある。
「なんだか、気持ちのいい場所ですね!」
二人が歩いていると、
森全体が見渡せる柵が連なった歩道にたどり着くと
その柵の前でペトラが肘を置きながら、まぶしそうに
遠くを見つめていた。その横顔をリヴァイが見ると
・・・ローズの雰囲気に確かに似ていたけど…
ペトラさんはペトラさんだな…
リヴァイは自然の光の中にいるペトラを見つめたとき
ローズの面影を追っていたはずのペトラだったが、
その穏やかな笑顔を見ていると、
改めてペトラに惹かれているということに感じていた――
二人は少しだけ立ち話をしていると、高台ということもあり
だんだんと身体が冷えてきた。
-
- 175 : 2013/12/18(水) 22:53:42 :
- 「ペトラさん、足湯に行こう…」
「はい!」
ペトラはリヴァイの背中を追いかけると
・・・なんだか…落ち着いた癒しって感じのデートって
大人って感じだな…
ペトラは学生のときには付き合っている人はいたが、
社会人になってからは、忙しさと仕事の面白さもあり
彼氏を作ろうという気持ちにはなかなかなれなかった。
毎日忙しく、そして休みの日も気分転換に
出かけたり、学生時代の友達とカフェでおしゃべりしたり、
頻繁に会う友達はいなくても、お互いに気心知れた
仲のいい友達もいたために彼氏がいなくても寂しいという
気持ちになることはなかった――
そんなときにリヴァイに出会うが、
軽そうなイメージで、冷たいしゃべり方なのに
気遣いや人を思いやる人のため、興味を持ち始めていた。
「ペトラさん、ちょうどここが空いていた…」
リヴァイとペトラが腰掛けた足湯の場所は
ゆったりとして、ちょうどいい湯加減で
ホッとするような感じだった。
「リヴァイさん、気持ちがいいですね!
私も普段、デスクに座りっぱなしなので、
足の疲れが取れそうです」
ペトラは笑顔で言われると、
「あぁ…そうか…他にも――」
リヴァイは『――個室もいいところがある』言おうとしたが、
初めての『デート』で言っていいものか迷ってしまい、
言葉を濁してしまった。
-
- 176 : 2013/12/18(水) 22:53:59 :
- 「ここは他にも色々ある…」
「そうなんですか!例えばどんなところ…?」
ペトラは足をバシャバシャと水の音を立てながら
質問していた。
「まぁ…岩盤浴とか…個室は今日は行かないが…」
「えっ…」
ペトラは少し驚いたが、『今日は行かない個室』が少し気になった。
・・・いつか…一緒に行けるようなこと…あるのかな…
ペトラは想像すると、少し顔を赤らめた。
その顔の赤味に気づいたリヴァイは
「ペトラさん、顔が赤いが、大丈夫か?もう全身が温まった…?」
「え?そう?大丈夫ですよ!」
ペトラが両頬を両手で押さえ慌てると、
それはリヴァイといつか個室に行けたら、ということを
想像していたためだった。下半身は温まってきたが、
まだ足湯につかっていたい気分だった。
「もう出て、近くのカフェでお茶しよう」
ペトラが心配になったペトラにタオルを渡すと
出るようにリヴァイが促した。
そして近くのカフェに行きリヴァイは紅茶、
ペトラはホットカフェオレを頼んだ。
「ここいいところですね…!また来たくなります!」
ペトラとリヴァイが座った席は正面に森が広がり
そして遠くには高く聳え立つ山が見えるような
自然が溢れる風景を目の前にしていた。
-
- 177 : 2013/12/18(水) 22:54:14 :
- 「あぁ…俺もここが好きなのは清潔感もあれば、
普段はクラブで作られた音に囲まれているが、
自然の音にも耳を傾けたくなるからな…」
リヴァイは紅茶をすすりながら、横にいるペトラを
チラッと見ていた。
・・・…この後、どこに行こうか…
リヴァイはペトラと出かけることが
突然のことだったためにこの場所以外、
予定を特に考えていなかった――
「ペトラさん、このあと――」
リヴァイが話しかけようとしたその瞬間、
背中に鋭い視線を感じた。
そして耳を澄ましていると
「あれ、リヴァイじゃない?まさか…女の子と?」
「相手は誰よ!私たちがどんな誘ってもどれだけ断れ続けていたか」
・・・常連客か…
リヴァイは『FDF』の常連客が偶然にもがカフェ内にいるとわかると
ペトラを守らないと思っていた。
見つかったとき、ペトラに何か影響があっても困るからだった。
リヴァイはペトラと隙間を開けて座っていたが、
勘付くとペトラの姿を常連客から隠すように近寄った。
-
- 178 : 2013/12/18(水) 22:54:27 :
- 「リヴァイさん、どうしたの?」
ペトラは驚くと同時に顔を赤らめた。
「ごめん…常連客が近くにいて…見つかるとまずい…もう出よう」
リヴァイは常連客の視線を背中を感じながんら、
ペトラの手を引くとそのままカフェを出ることにした。
また人も多いこともあり、しばらく急ぎ足で歩いていると
いつもの如く、常連客をすぐ巻くとペトラの手を離した。
「ペトラさん、すまない、まさか…こんなことになるとは…」
「ううん、大丈夫…!」
ペトラはリヴァイに手を引かれ駆け出すと、
まるでドラマのように何かから
逃げ惑うことを経験したことが
初めてだったために顔を赤らめていた。
リヴァイは駅まで歩きながら、
今まで常連客に付回されるようなことがあり、
そのことで迷惑を掛けるようなことがあれば
申し訳ないと謝っていた。
-
- 179 : 2013/12/18(水) 22:54:46 :
- 「リヴァイさん、私は大丈夫!気にしませんよ!」
笑顔をリヴァイに向けると
「ありがとう…ペトラさん…」
リヴァイはペトラの笑顔にホッとしたと同時にお腹が
空腹を知らせ鳴り始めた――
「ペトラさん、お腹すかない?」
「あぁ、そうだね…もう夕食時だから!」
そして改札を通るとリヴァイが提案し出した。
「外食しながら、今みたいなことになるが申し訳ないから…
俺の部屋にきませんか…?」
ペトラはリヴァイの真剣な表情を見ると
『リヴァイは何もしないだろう』と根拠のない確信を持つと
「わかりました!ぜひリヴァイさんのお部屋で…」
ペトラは笑顔で答えていた。
リヴァイは改めてホッとして胸を撫で下ろすと、
二人はリヴァイの部屋に向った。
途中で材料を買おうとするが、アパートには
元々ストックがあると話していた。
そのままリヴァイは背中の視線を気にしながら、
帰宅すると、誰も付いてきている様子はなくそのまま帰宅できた。
-
- 180 : 2013/12/18(水) 22:55:01 :
- 「おじゃまします…」
「何にもないところだけど…」
「リヴァイさん…!いつもこんなにキレイに整えているの?」
「あぁ…まぁ…」
リヴァイは自分の部屋ではシンプルながら
ショールーム並みにキレイに整えていた。
ドアを開けてすぐ目の前に位置する
キッチンとピカピカでリビングは
テーブル以外必要以上のものはなく片付いている。
「リヴァイさん、今夜は何を作るの?」
「あ…鍋にでもするか…」
リヴァイはエプロンをしながらキッチンに立った。
・・・リヴァイさん、エプロンするんだ…!かわいいな
ペトラはデニム素材のエプロンをすると、
キッチンに立って、手早く材料を切ると、
クリームシチュー鍋の用意を始めた。
ペトラも手伝おうとするが、
席に座るように伝え、隣のレコードコレクションの
部屋でも見るようにと伝えていた。
-
- 181 : 2013/12/18(水) 22:55:17 :
- 「うわー…!リヴァイさん、こんなにいっぱいレコードがあるんですね!」
リヴァイのレコード部屋は6畳の部屋の天井まで届くような棚にいっぱいの
レコードが仕舞われ、その中にDJ機材があるが雑然はしていなく、
『FDF』のブースがそのままこの部屋に再現されているようだった。
そしてレコードが1枚だけ、絵画のように壁に飾られていた。
それはLime(ライム)のかつて大切に思っていたローズに選んでレコードだった。
一度は封印したものの、『初心を忘れないように』ということで、飾っていた――
「リヴァイさん、このレコードどうして飾っているんですか?」
「あぁ…初めて買ったレコードだから…ペトラさん、もう出来た」
「えっ…早い…!」
テーブルの真ん中には鍋と周りにはサラダ、そしてシメの
うどんなど、二人では食べきれないようなものが並べられていた。
-
- 182 : 2013/12/18(水) 22:55:35 :
- 「リヴァイさん、お料理…得意なんですね!」
「得意というか…一人暮らしが長いのとハンジさんの
料理も見よう見まねでしてたら、出来るようになった」
「へーっ!でも、ここまで短時間に作れるのはすごいですよ」
リヴァイは褒められるとかすかに笑みを浮かべていた
「いただきます!」
ペトラは笑顔でリヴァイの料理に手を伸ばすと
美味しさでさらに笑顔になっていた。
・・・こういう笑顔を見ながら料理も…さらに美味くするな…
リヴァイはペトラの笑顔に伏し目がちなりながらも、
喜んでいた。
「ペトラさん、お酒は…?」
「頂いていいですか…?」
「ビールしかないがいい?」
「もちろん!」
リヴァイが冷蔵庫からビールを取ると
ペトラのグラスに丁寧に注いだ。
「リヴァイさんってビールしか飲まないんですか?」
「あぁ…基本的にビールだな。飲みすぎても、そんなに酔わない」
「へーっ!ブースの中でもビールですか?」
「いや…ブースの中では紅茶とかお茶だな…
アルコールはブース外って決めている。
冴えた頭でプレイしたいから」
リヴァイはいつもの冷静な口調で淡々と話しえいた。
-
- 183 : 2013/12/18(水) 22:55:51 :
- ・・・仕事はキッチリてタイプなんだな…リヴァイさんは
温かい鍋とビールでペトラの頬は紅潮していて
リヴァイをドキっとさせていた。
・・・ペトラさん、悪くない…やっぱり――
ペトラは自分に合った味付けと美味しさもあり、
出されたものはすべて食べていた。
「リヴァイさん、ご馳走様!片付けは私がやりますよ!」
「いや…申し訳ない…俺が…」
「大丈夫!座っていて!」
「あぁ…」
リヴァイは自分のキッチンの片づけにもこだわりがあるため、
例えペトラとはいえ、キッチンには入って欲しくなかった――
そしてリビングでテレビを見ながら、チラっとペトラの背中を
見てると手際よく片付けている姿を見ると大丈夫かも、と安心していた。
「リヴァイさん!終ったよ!こんな感じでいいのかな?」
「あぁ、すまない…!」
リヴァイがキッチンを見ると、シンク周りもキレイに片付いていて
いつも通り自分が片付けるときと同じような状態だった。
-
- 184 : 2013/12/18(水) 22:56:14 :
- ・・・ほう…ペトラさんもキレイ好きかもな…
二人はリビングに座りテレビを見ているとリヴァイが話しかけた。
「ペトラさん、今日はすまない。また違うプランを考えるよ」
リヴァイがテレビを見据えながらペトラにいうと
「いいえ!楽しかったですよ。足湯も気持ちよかったし、
鍋も美味しかったですし、『癒しのデート』って感じがしました」
「癒しのデートね…!」
リヴァイはペトラを見ながらかすかに笑った。
「あのスパの個室って…どんなところなんですか?」
ペトラはドキドキしながら聞いていた。
その個室は予約をするとネットカフェの如く数時間過ごせたり、
または宿泊できるところでもあるが、
小さな露天風呂などがあり、自分のアパートの
お風呂では叶わないような全身を伸ばせて
湯船につかることができて、疲れているときは
一人でのんびり数時間過ごしていると話していた。
「へーっ…!のんびり出来そうでいいですね…」
「まぁ…月に一度とか、そのくらいしか行かないが…」
「…いつか…そこも行けたらいいですね…」
ペトラは少し酔いもあり、頬を赤らめリヴァイに言うと
「えっ?」
リヴァイは予想外のことを言われたために
戸惑いそれ以上は黙り込み、
グラスのビールに口をつけていた。
-
- 185 : 2013/12/18(水) 22:56:33 :
- ・・・私何言っているんだろ…リヴァイさんのこと…もっと知りたくなった…
ペトラは短時間ながらリヴァイと過ごしていて、
自分を守ろうという行動や『もてなす』様子を見ていると、
どういう人かますます気になっていった。
「ペトラさん…」
「はい?」
「明日は仕事だよね?」
「はい…」
「もう帰らなきゃ…」
「あぁ、そうですね…」
ペトラが時計を見ると、
時間が思ったよりも早く過ぎていることに気づいていた。
のんびり過ごしていたはずなのに、
こんなにも早く時間が過ぎているとは驚きであり
少し寂しい気持ちになっていた。
ペトラが帰る支度をすると、
リヴァイも途中まで最寄り駅まで送ることになり、
夜道を歩いていると、
「ペトラさん、次は…ペトラさんの行きたいところに行こう…」
「えっ…」
リヴァイが鋭くも優しい眼差しでペトラに眼差しを
注いで見つめていた。
「はい…!」
ペトラも嬉しそうに返事をするしかなかった。
駅の改札まで見送ると、ペトラは嬉しそうにリヴァイに
手を振ると、そのまま改札の多くの人の中に紛れ込んでいった。
・・・まさか…惹かれているとはいえ
俺が女まかせにどこかに行こうと誘うとは…
しかも、あんなに年下の子に…
リヴァイは自分の発言に驚きつつ、ローズ以来、自分の部屋に
女性を招き入れることはしたことがなかったために
ペトラを大切にしたいこと、
『後悔はしたくない』という想いも強かった。
ペトラはホームで電車を待っていると、リヴァイがが
カフェから出るときに握っていた手のひらを見つめていた。
-
- 186 : 2013/12/18(水) 22:56:50 :
- ・・・力強くて…かっこよかったな…
ペトラは頬を赤らめているが、それはお酒の影響でなく、
リヴァイに想いを寄せているからだとすぐに気づいていた。
・・・どこに行こうかな…
ペトラは次のデートを想像すると自然に顔が綻んでいた。
-
- 187 : 2013/12/19(木) 22:38:42 :
- 24)DJイアンとコラボイベント開催(上)
リヴァイと彼のDJの師匠でもある
イアン・ディートリッヒとのイベントを控えた数日前。
『FDF』のオーナーであるエルヴィン・スミスが
自身が経営する他の飲食店で
ポスターを貼り、またチラシを置く等して
リヴァイ自身もツイッターで宣伝するようになると、
懐かしい仲間から続々とメッセージが寄せられていた。
『リヴァイ、必ず行くから!』
『久しぶりに二人に会えるのが楽しみだ』
『おまえ、結婚はまだなのか…?』
「結婚か…余計なお世話だ」
リヴァイは舌打ちしながら、
毎朝の習慣であるツイッターのチェックをしていた。
-
- 188 : 2013/12/19(木) 22:39:23 :
- イアンが現役だった頃の客も多く、
当時のファンも『必ず行くから!』という
嬉しい返事が多かった。
イベントの内容としては二人でブースに入りタイミングを見て、
交代したり、スクラッチDJをしたりということだが、
ブースが狭いため、二人同時でバトルをするということは
不可能だった。
「…まぁ…交互でも面白いかもな…」
リヴァイとイアンは打ち合わせでと会うときは
あえてイアンの居酒屋ではなく、
お互いの中間距離にあるカフェで待ち合わせすることにしていた。
そのときはエルヴィンも共にするのだが、
リヴァイはまた仲睦まじい夫婦を見て落ち込まれるのは
『周りが迷惑』ということもあったが、
ペトラ・ラルとの新たな出会いもあり
そして自分自身もローズへの想いが
すでに思い出にしているのか、曖昧な部分もあり、
避けたいということもあった――
リヴァイとペトラが『スパ・デート』をして以来、お互いの忙しさもあり
次回の約束はしていない。
またリヴァイは自らメールをするようなまめな性格でもないため、
そしてペトラも多忙のために会う目的以外のメールをするこもなかった。
しかし、リヴァイはメールの着信音やランプが点灯していると
ペトラかと思い、心なしか急いでチェックするもペトラではないと
すぐに舌打ちすることが多くなっていた。
一方、イアンの方も久しぶりに箱でのプレイが出来るために
自分の居酒屋の仕事が終わると、毎晩のように練習していた。
-
- 189 : 2013/12/19(木) 22:39:40 :
- 「パパ…!こんなに遅くまで…体壊すよ…!もう…」
家のリビングの隅にDJの機材を置いてヘッドフォンをして
練習をしているためにローズの声はイアンには届いていない。
しかし、毎日のように楽しそうにしている夫を見るローズは嬉しかった。
ローズはイアンと結婚が決まって以来、レコードに触れていなかった。
しかし、イアンがDJとして現役から離れたとしても、
一緒にいる間、ずっとレコードとDJ機材に
囲まれてずっと生活してきたためにイヤでもリヴァイのことを
思い出すことが多かった。
自分の心の奥底にリヴァイへの気持ちを仕舞って、
レコードを見ても気にならないようになったのは、子供が生まれた頃だった。
子育てが大変で、思い出す暇もない状態だったからだ。
また今回のイベントにはローズは子供の面倒を看る為に
居酒屋を臨時休業にしても、行かないことにしていた。
もちろん『夫の勇士』を見たい、というのもあれば、久しぶりに
リヴァイのDJのプレイの姿を見てみたい、というのもある。
本当はリヴァイのDJの姿を見たとき、
秘めた想いが溢れそうで怖いというのもあるために、
行けないことに対してホッと胸を撫で下ろしている、ということもある。
-
- 190 : 2013/12/19(木) 22:39:56 :
- 「パパ…一生懸命だね…」
二人の娘が寝る前にリビングのソファで座るローズのそばに座り
眠たい目をこすって話しかけてきた。
「まだ寝てないの?早く寝なきゃ!」
「ママはパパのDJの姿見なくていいの?」
「え…」
「だって、練習するときいつも熱心に見てるんだもん!」
「ママが二人を残して夜から出かけれないでしょ」
「じゃ…その日はおじーちゃんとおばーちゃんのウチでお泊りしようかな…」
ローズは自分の実家に子供たちを預けることも考えたが、
そこまでしなくても、と自分の中で結論付けていた。
「それに、パパのカッコイイ写真とかムービーとか…撮って欲しい!」
目を輝かせて、母であるローズに嘆願してきた。
ローズは自分の子供たちが父親の活躍を見てみたい、というのなら
行くしかないかと考えを改めることにした。
そのことをイアンに話すと、泊り慣れているローズの実家なら、
ということで快諾してくれた。またアインもローズに久しぶりに
自分のDJの姿を見て欲しいというのもあった。
-
- 191 : 2013/12/19(木) 22:40:17 :
- ・・・ローズ…リヴァイじゃなくて、
俺を見てくれよな…一番最初に出会った頃のように
イアンはローズが来てくれるは嬉しかったが、
リヴァイのことがやはり気がかりだった。
イベントの前日。
リヴァイとエルヴィン、そしてイアンの3人は
お互いの店の中間地点にあるカフェで
時間を作り最後の打ち合わせをしていた。
「リヴァイ、時間の配分とか、こんな感じでいいか?」
イアンとリヴァイは二人が作ったプランを見ていると、
お互いに納得していた。
またエルヴィンも二人が当時、
一緒に映っている写真や映像があるなら、
プロジェクタースクリーンに映し出すことを提案して、
その写真をいくつかイアンに持参するよう願っていた。
「リヴァイ、懐かしい写真がまた出てきたから、
これも写してもらうよ!」
「ほう…」
リヴァイがイアンが当時DJをしていたクラブの懐かしい写真を
眺めていると、昔のローズも映っていた。
・・・ローズ…こうして見ると、
ペトラさんと雰囲気がやはり似ているか…
「しかし、リヴァイ、おまえ昔から全然変らないな!
俺はすっかりオヤジなのに!」
イアンは懐かしい写真を見ながら、苦笑いしていた。
「あぁ…俺はずっと好きなことばかりやってきたから――」
『――苦労が少ないからかも』といいかけたとき、
リヴァイのメールの着信音がなった。
何気なくスマホの画面を見るとペトラからだった。
ペトラは当初、リヴァイのイベントは仕事のため
行けないということだったが、イベントのため連日残業をして
どうにか行けることになった、という報告の内容だった。
そのメールの内容を知った途端、
リヴァイの口角は無意識に上がった。
-
- 192 : 2013/12/19(木) 22:40:38 :
- 「なんだ、リヴァイ!もしかして、ペトラさんからのメールか?」
「え?」
イアンがからかい半分で言うと、
図星のため面食らってしまった。
もし、イアンでなければ舌打ちしていたが、
尊敬するイアンの前ではそれは出来なかった。
「…ウチはローズが来てくれるし、
いいところ見せないといけないな!」
「ローズも来るんですか…?子供は…?」
「あぁ、子供たちは
あいつの実家に『お泊り』することになったからな」
「ほう…」
リヴァイはローズが来るとは思っていもいなかったために
ペトラと二人を同時に見かけた際、自分がどう感じるのか
まったく想像が出来なかった。
「イアンさん、それじゃ、明日はよろしくお願いします」
エルヴィンがイアンに挨拶して3人はカフェを出て
それぞれの仕事に戻ることになった。
夕方近い時間になっていたが、
イアンは懐かしい話やDJとしての積もる話をしていたため
自分の営業の時間に迫っているため慌てて帰っていった。
エルヴィンも『FDF』の営業もあるために
心なしか車のスピードが出ているようだった。
「オーナー…このイベントが『FDF』の定番になればいいがな…」
「あぁ…それもそうだな。二人の腕とあとは営業力か…」
リヴァイは暮れ始めた窓の外を眺めながら
エルヴィンに話しかけていた。
リヴァイはプロジェクターで映される写真を改めて
見ていると、やはりローズの写真を見ていた。
-
- 193 : 2013/12/19(木) 22:42:04 :
- ・・・俺はもう過去にしているはずだがな…
その写真はローズがDJブースに入ってそばでイアンは
笑顔で見守り、リヴァイは心配そうに見守る写真だった。
舌打ちしながら写真を仕舞うと
「こんな写真…いつ撮ったんだか…」
独り言を言いながら正面を見据えた。
・・・リヴァイも過去に惑わされるか…
エルヴィンは鼻で笑いハンドルを握っていた。
そしてとうとうイベント、当日になった。
通常の『FDF』の土曜日の夜はリヴァイ目的の
20代の女性客が多いが、かつての男女を問わない
イアンのファンも多く閉めたため男女の比率も
半々くらいで、また平均年齢も上がった。
-
- 195 : 2013/12/20(金) 22:45:59 :
- (25)DJイアンとコラボイベント開催(中)
その土曜日の夜。
クラブ『Flügel der Freiheit』(自由の翼)、
通称『FDF』の前には開店前から多くの客が並んでいた。
「イアンさんの『箱』でのプレイ、何年振りだろ?」
「10年振りとか?」
「リヴァイの師匠とコラボって楽しみー!」
列を作る客にはリヴァイとイアン・ディートリッヒの
コラボのを楽しみに懐かしい客もいれば
今まで見たことのないリヴァイが見られるかも、という
『FDF』でリヴァイを知った客が待ち構えていた。
いつも、入り口にはユミル、グンタ・シュルツそして
エルド・ジンがお客の誘導をしているが、
その日は初めてのDJイベントということもあり、
オーナーのエルヴィン・スミスも交え、
お客の流れを見守ることにしていた。
-
- 196 : 2013/12/20(金) 22:46:17 :
- ・・・さすがだな…イアンさんもそうだけど、
リヴァイのファンも多いな
エルヴィンは列を作るお客を見て安堵すると同時に
二人の人気の高さに驚きながらも、
笑みを浮かべていた。
フロアではジャン・キリシュタインが二人が同じクラブで
活躍していた頃の写真をプロジェクターで映し出すために
準備をしていた。そしてイアンとリヴァイはすでに
ブースに入っていて最終調整をしていた。
「イアンさん、たくさん入っているみたいですね…」
「あぁ、昔の仲間にも声かけたら、そこから繋がってな!」
リヴァイが話しかけられたイアンはとても嬉しそうな表情を見せた。
そしてブースの外から顔を覗かせたのはローズだった。
「もう…パパ、緊張してるんじゃないの?大丈夫?」
そういうローズも緊張したような面持ちでイアンを見つめていた。
「あぁ…久しぶりだけど、ローズがいれば大丈夫か!心強い!」
「もう、何言ってるんだか」
ローズは笑みを浮かべ返事するも
イアンにとっては安心感があるというのは本当だった。
・・・ローズ…まさか、本当に来るとは…
仲睦まじいのは自然な感じか…
リヴァイは二人のやりとりを横目に曲のリストを見つめていた。
客がフロアに入り落ち着くまで、
3人が同じクラブにいた頃に流行っていた曲を
しばらくBGMとして流して、そして客が落ち着いた頃に
二人が登場するという流れになっていた。
そのナンバーをリヴァイがプレイさせて、ブースから
出ようとしたときだった。
-
- 197 : 2013/12/20(金) 22:46:35 :
- 「懐かしい曲だね…」
ローズがリヴァイに聞こえるようにつぶやいた。
「あぁ…そうだな」
リヴァイは伏し目がちで返事していた。
・・・今日のローズはまた昔とは違う雰囲気か…
ローズはカジュアルなジャケットの下にTシャツ、
膝上のスカートにレギンスだった。
色はパステル系にバランスよくまとめていた。
「あれ?イアンさん…お腹…?」
イアンがかつてブースに立っていたときのファンション、
キャップに長袖のTシャツにシルバーのクロスのネックレスをして
ゆったりめのジーンズを履いていたのだが、
久しぶりに再会したときよりも、
お腹がへこんでいることにリヴァイは気づいた。
「あぁ、これ?ここでイベントするって決まって、毎日、腹筋していた」
イアンはお腹を触りながら笑いながら答えていた。
「ほう…昔とほとんど変らないですね」
「まぁ、全然変らないおまえには負けるよ、リヴァイ」
リヴァイは特に運動はしていないが、
食生活が野菜中心の影響か
スタイルは昔から変らない。
-
- 198 : 2013/12/20(金) 22:46:56 :
- 「イアンさん、もう客が入ってくる」
「そうだな…」
リヴァイとイアン、
そしてローズは一旦、ロッカールームで控えることにした。
そしてフロアに客が入り声が響き出した。
「あ…だんだん緊張してきた」
やはり、イアンは久しぶりということもあり、
だんだん顔が強張らせてきたために
自ら顔を両手で叩いていた。
「もう…パパ!大丈夫?…えっ」
イアンはリヴァイの前であるが、
緊張を和らげるためローズを軽く抱きしめた。
・・・…リヴァイの前で何を
ローズの目先にはリヴァイがいたが、
すぐに目線を落としてしまった。
・・・イアンさん、わざとじゃないかもしれないが…
なんだかな…
リヴァイはローズとは過去と思いながらも、
イアンとローズの仲のよさを目の当たりにすると、
伏目がちになった。
-
- 199 : 2013/12/20(金) 22:47:15 :
- 「イアンさん、そろそろ行きましょう」
リヴァイが先頭になり、ロッカールームからブースへ向った。
「パパ、がんばって!カッコイイところ、ビデオで撮るから!」
「よろしく!ローズ!」
イアンはローズに軽く手を振ると、リヴァイの後ろに付いていった。
・・・リヴァイも…頑張ってね…
ローズはリヴァイがそばにいて、また二人が一緒にいた頃に
よく聴いていた懐かしい曲を久しぶりに耳にすると
心の奥底に仕舞い込んだ想いが蘇りそうで怖かった。
二人を見送ると、胸を押さえ深呼吸をしていた。
・・・私には…イアンと子供たちがいる…それだけで、幸せなのに
ローズはビデオとスマホのカメラを用意をして、フロアに向った。
「おおー!DJイアン!久しぶりにブースで見てもカッコイイな!」
「伝説の技が見られるか…?」
ブースに現われたイアンを昔からのファンが歓声を上げ
憧れのような眼差しを一斉に向けた。
そしていつもリヴァイ目的で『FDF』に来る女性客は
「リヴァイだってカッコイイのに…?あれ、いつもと違う…?」
「そうだね、イベントだからかな?いつもよりおしゃれしてる…?」
リヴァイはいつもコットンの白いシャツと黒のスリムジーンズで
プレイしているが、この日は同じような白いシャツに
短めの黒いベストの着ているがボタンを外し、
少しラメが入ったような黒いネクタイをゆるめに結んでいた。
またヘアスタイルもワックスで空気感を含んだように
毛先を遊ばせていた。
-
- 200 : 2013/12/20(金) 22:47:34 :
- 「リヴァイ…あんなにカッコよかったけ…?」
いつものリヴァイ目的の女性客も目を丸くして頬を赤らめていた。
最初はイアンがプレイすると、
『箱』が久しぶりとは思えない存在感を示した。
レコードを2枚使いのビートジャグリングと
フェーダーを器用に操作していると
「イアン!やっぱ、すげー!全然昔と変らない!」
昔からのファンは興奮で声を上げるほどだった。
そしてDJとしてのテクニックを魅せると、
有名なナンバーのある部分をループさせ
スクラッチの技術が客の身体を自然に動かせ
フロアではイアンのプレイで客が踊り始めていた。
・・・イアンさん…昔とちっとも変らない…毎日やってないと、
ここまで出来ないはずだ…
リヴァイはそばで見ながら息を飲んでいた。
-
- 201 : 2013/12/20(金) 22:47:50 :
- ・・・パパ…『DJイアン』の顔になっている…!
ビデオカメラから覗くイアンの姿をローズが眺めていると、
懐かしい気持ちになると同時にそのカメラに入るリヴァイは
気にしないように努めていた。
そしてリヴァイが交代でブースに入ると、
イアンからの流れをガラっと変えないようにスクラッチをしながらも、
皆が踊れるダンスナンバーをセレクトしていた。
イアンがDJとしてのテクニックを披露する、そしてリヴァイは
『箱』でプレイする期間が長いこともあり、客層を見ては
流行のナンバーや二人がプレイしていたころのナンバーを
繋ぐテクニックを披露する、という『役割分担』をしていた。
「おい…イアンさんとリヴァイ…
昔、二人でこんなプレイを見せたことあったけ?」
-
- 202 : 2013/12/20(金) 22:48:06 :
- 「いや…俺はイアンさんところ常連だったけど、
あの当時はリヴァイは『見習い』みたいなもんだった…!」
当時のイアンとリヴァイを知る客たちはフロアでは
大きな音が広がっているはずなのに、
お互いに大きな声で『耳打ち』しながら話していた。
ブースにいる二人を見て驚きの眼差しを注ぐと
同時に改めて歓声を上げていた。
・・・リヴァイ…すごいね…頑張ってきたんだ…
ローズはカメラを回しながら、
自分が知っている『DJリヴァイ』ではなく
テクニックが上達していることがわかると
胸が熱くなった。そしてカメラ越しにリヴァイが
視線を上げると眉にしわを寄せる表情を見せた。
ローズもその視線の先に目を向けると
そこはプロジェクターになっていて、
昔の写真が写されていた。
ローズはカメラはブースに向けたまま
写真を見ていると懐かしい写真が紹介されていた。
-
- 203 : 2013/12/20(金) 22:48:21 :
- 「おお!あれ、俺じゃないかー!」
「懐かしい!」
「リヴァイ、全然かわらないー!」
客の様々な反応の声をローズを聞きながらローズも
懐かしんでいた。
・・・あの頃…楽しかったな…
ローズは結婚して子供にも恵まれ幸せであるが、
独身時代の一番の幸せの時期はやはり、
リヴァイと過ごしていたDJとして活動していた頃だった。
懐かしい気持ちで口が綻ぶも、リヴァイへの気持ちを
押えることに必死だった。
・・・リヴァイ…その顔は…?
カメラを通してリヴァイの顔を見ていると、
いつもは険しい眼差しが多いのに
たまにローズに対して優しい眼差しを向けることがあった。
その懐かしい表情を見せていたときだった。
-
- 204 : 2013/12/20(金) 22:48:38 :
- ・・・私に…まさか…でも、目線が――
「よかった…間に合った!」
この目線の先から声が隣から聞こえていた。
仕事を終えて急いでイベントにきたペトラ・ラルだった。
ペトラは間に合った嬉しさの影響か、
笑みを浮かべリヴァイを見つめていた。
・・・彼女が…ペトラさん…?
リヴァイがペトラに対して優しい眼差しを
注ぐことにことに気づいたローズは何とも言えない
複雑な気持ちになった。
・・・私は…リヴァイの新しい恋を応援するべき…だよね…
ローズはどうにか気持ちを切り替え、
ビデオを撮ることに集中することにした。
・・・ペトラさん…きたか…でも、隣にローズがってのが…
リヴァイはブースは明るくフロアが見えづらかったが
ペトラが現われるとすぐに気づいた。
ローズとペトラが二人で並ぶと最初は複雑な心境になるも、
次第に自分がペトラだけを見つめていることに気づいた。
-
- 205 : 2013/12/21(土) 22:48:41 :
- (26)DJイアンのイベント開催(下)
イアン・ディートリッヒとリヴァイのコラボのイベントは
盛り上がりの絶頂を迎えていた。
二人はアナログにこだわり、
昔からのシンプルなミキサーを使い、
サンプラーなどの最近使われるような機材は使わずに
これまで培ってきた技術を披露していた。
イアンがDJとしてテクニックを魅せ、リヴァイが曲を繋ぎ
盛り上げる、ということの繰り返しだったが、
最後はリヴァイがDJとしてのテクニックを披露することになった。
「リヴァイ…あんなにすごかったんだ…!」
今まで『FDF』では繋ぎを中心にプレイしてきたため
常連客はリヴァイのテクニックに驚くだけだった。
器用に2枚のレコードとフェーダーを使う技術を披露する姿を
カメラを通して見ていたローズは
・・・すごい…もう私の知っているDJリヴァイじゃない…
息を飲んで見つめるだけだった。
-
- 206 : 2013/12/21(土) 22:48:57 :
- ・・・リヴァイさん…真剣な眼差しがステキだな…
ローズの隣にいたペトラ・ラルはDJのこと技術のことは
よくわからなくても、直向な姿にさらに惹かれるものがあった。
リヴァイがテクニックを披露した後、アンコールが起きるほど盛り上がった。
そして最後に選んだのは『Sentimentally yours』だった――
この曲を途中でスクラッチしたりするものの、ほぼフルで掛けると
そのまま終了となり、BGMとして二人が同じクラブにいた頃の曲を
掛けるとイアンとリヴァイがロッカールームへ移動した。
そしてローズもそのまま向っていた。
「イアンさん、お疲れ様でした…腕が昔のままですね…」
疲れた表情を見せるイアンに対してリヴァイは驚きながらも、
冷えた缶ビールを差し出した。
「リヴァイ、ありがとう…今日のために練習した甲斐があったよ」
二人は缶ビールで乾杯していると、ローズが入ってきた。
-
- 207 : 2013/12/21(土) 22:49:14 :
- 「パパ、リヴァイ…お疲れ様でした!パパ、全然、腕が落ちてない…!」
ローズがイアンのそばに寄ると肩を抱き寄せた。
「あぁ…やっぱり、おまえが見守ってくれたからな!
それに、何も言わずに練習に集中させてくれたから…」
「そうね…」
ローズはリヴァイを見ると伏目がちになっていた。
・・・リヴァイにはペトラさんがいる…私のこの想いは――
そのとき、ジャン・キリシュタインがロッカールームに入ってきた。
「リヴァイさん、お連れ様です…」
「あぁ、ジャンお疲れ。なんだ、どうした…?」
「ペトラさんが来てますので…お連れしました!」
ジャンはペトラをロッカールームへ連れてリヴァイの
前に行くように促すと、『したり顔』で
そのまま自分の持ち場に戻っていった。
・・・ジャンのヤツ…
リヴァイは目の前にペトラとローズが視界に入ると、
自然にペトラだけを見ていることに気づいた。
-
- 208 : 2013/12/21(土) 22:49:30 :
- ・・・やっぱり…俺はもう…
「リヴァイさん、今日はお疲れ様!
あんなにカッコイイ姿、見られるとは思わなかった…!あっ…」
ペトラはリヴァイを目の前にすると、
興奮しながら話していると、
そばにローズとイアンがいると気づくと、顔を赤らめた。
「すいません、リヴァイさん…私なんだか、興奮しちゃって…」
「いや…それよりも仕事帰りに…?」
「はい…今日は休みのはずだったのに急に仕事になって…
もっとかわいいカッコウで来たかったのに」
ペトラが照れていると、そのカッコウは
グレーのパンツスーツだった。
・・・まぁ…これも悪くないか…
リヴァイはペトラを見つめると、
いつもの鋭い目線ではあるが口角が上がった。
-
- 209 : 2013/12/21(土) 22:49:45 :
- 「ペトラさん、フロアに戻ろう…イアンさん、先に行ってます」
リヴァイはイアンに挨拶すると、そのままペトラを連れて
再びロッカールームを出てフロアに行くことにした。
・・・リヴァイ…私はあなたにとってはもう『過去』なのね…
ローズは過去にリヴァイと二人で出せなかった答えは
出さなかったことが『正解』だったのか…と何となく感じていた。
「パパ…イアン…、今日は久しぶりにカッコイイ姿が見られて
よかったよ!子供たちにも早くビデオ見せなきゃね!」
ローズは笑顔でイアンを見つめながら言うと
「あぁ…ありがとな!また次回が楽しみだ!」
・・・ローズ…おまえはリヴァイのことまだ想っているのか…?まさかな…
イアンはローズの目を見ながら、
何か違和感を感じていたが、あえて気にしないようにしていた。
そしてフロアに戻ると、オーナーであるエルヴィン・スミスが待っていた。
「イアンさん、今日はありがとうございました!さすがリヴァイの師匠だ!」
エルヴィンも予想以上に盛り上がったために興奮して話していた。
「いや…リヴァイがまだ現役であり、引っ張っていってくれたから」
リヴァイはフロアで常連客に囲まれて話していた。
ペトラはカウンターに座り、その光景を眺めていた。
-
- 210 : 2013/12/21(土) 22:50:01 :
- 「次回のことなんですが…」
エルヴィンが次回のイベントのことを話し出すと、
イアンは快諾してまた話をすするためにカウンターで話し出した。
ローズが一人になると、ペトラに話しかけた――
「あの…ペトラさんって言うんですよね…?」
「はい…?」
ローズはペトラの隣に座り笑顔を向けた。
リヴァイとの関係について聞いてみたかったが、
聞いてもどうにもならないはずなのに、気になっていた。
「私、リヴァイの昔のDJ仲間なんです!
今はお互いのDJの師匠の妻やってるんですけどね…!」
ローズはペトラに茶目っ気たっぷりで話し出した。
「そうなんですか…!昔からリヴァイさんのことご存知なんですね!」
「まぁ…でも、再会したのは最近なんだけど、夫のイアンが
リヴァイとイベントすることになってそれで…」
「へーっ!イアンさんもすごい方ですよね!
こういうイベント初めてだけど、驚きました!」
ペトラは笑顔で答えていた。
-
- 211 : 2013/12/21(土) 22:50:18 :
- ・・・いい笑顔をする子だな…
リヴァイ…私の想いは再び心の奥底へ秘めなきゃね…
ローズはペトラの笑顔を見ていると、
『リヴァイと出せなかった答えを出すのはペトラかも』
そんな感覚になっていた。
・・・ローズのヤツ…ペトラさんと何話してやがる…?
リヴァイはペトラとローズが楽しそうに話しているのを
気になりながら、『ファン』に囲まれていた。
今回のイベントは大成功を収め、また次回の話も進んでいて
リヴァイはDJとしてさらに実績を作ったようだった。
そしてブースを片付けているときローズが
リヴァイに話しかけてきた。
「リヴァイ…すごいね、昔と全然違う。頑張ってきたんだね…」
「おまえも、続ければよかったのに…」
リヴァイは寂しげな眼差しをローズに注いだ。
・・・そんな目で見ないで――
「私はもう止めたの…もういいの…ペトラさんとお幸せに」
ローズは最後は伏し目がちになると、
そのままイアンの元へ行き片付けの手伝いをすることにした。
-
- 212 : 2013/12/21(土) 22:50:38 :
- ・・・ローズ…まさか、俺のために止めたとか…?
リヴァイは複雑な心境になるも、前を見据えながら
ペトラを想うと前に進むしかないと感じていた。
「ローズ…今日の成功はホントおまえのおかげだと思っている」
イアンは片づけをしながら、ローズに話しかけた。
「もう…どうしたの…?パパの実力あっての――」
「ホントにおまえと結婚できて、俺は幸せものだ」
「えっ…」
イアンの優しい眼差しを見たローズはまるで、
リヴァイのことは口にしないが、『忘れろ』とでも
言っているようにも見えた。
・・・この…今ある幸せを…失ってはいけない――
「私もパパと…イアンと結婚して幸せだよ!
ずっとラブラブでいてくれる…?」
「あぁ…もちろんだ!
今夜は子供たちもいないし、
久しぶりに…ラブラブできるな」
「もう、イアン、バカっ!」
ローズはイアンの冗談に顔を赤らめるが、
改めてイアンに愛されていることを実感していた。
・・・失って得られた『愛』か…
ローズはリヴァイとペトラが楽しげに話す姿を見ては
リヴァイへの想いが心の奥底に沈んでいくことを感じていた。
-
- 214 : 2013/12/22(日) 23:17:22 :
- (27)過去になる想い、未来に繋がる想い
リヴァイが初めてのDJのイベントを終え
また次回のイベントもお願いしますと、
イアン・ディートリッヒに挨拶すると、
隣にいたローズはリヴァイに笑顔を向けていた。
しかし、その輝く笑顔はリヴァイだけに向けたものではなく、
夫であるイアンと一緒にいる幸せが放つものだとリヴァイは気づいた。
それはイアンの手がローズの腰に回しているのだが、
それが自然であり、当たり前のように受け入れ
リヴァイの前でも堂々としてたからだった。
・・・ローズ…さっきまで俺の前で戸惑う様子を見せていたのに
何かが吹っ切れたのか…
再会した当初、イアンの前でよそよそしい態度のローズを見抜いていた
リヴァイだったが、『幸せオーラ』を放つローズを見ていると、
お互いが過ごしていた過去は思い出になったのかと思うと
一抹の寂しさを覚えた。
-
- 215 : 2013/12/22(日) 23:17:34 :
- ・・・まぁ…過去は過去だ…前に進むしかない…か…
イアンとローズを見送るリヴァイの後姿を見ていたペトラ・ラルも
リヴァイの寂しげな姿に気づいた。
・・・リヴァイさんって…まさか、ローズさんと過去に何かあった…?
もう少しリヴァイと話をしたいと思っていたローズは戸惑い始めた。
「ペトラさん、すまない…ずっと一人にさせてしまっていた…」
「大丈夫、気にしないで…!」
リヴァイはペトラの笑顔が曇った一瞬を見逃さなかった。
・・・まさか、ローズを見送るときに俺の姿見てたとか…?
二人はカウタターに座り客が少なくなったフロアを背に話し始めた。
ブースではジャン・キリシュタインがBGMのようにプレイをして
音は小さめにしていた。
-
- 216 : 2013/12/22(日) 23:17:47 :
- 「ペトラさん…俺のさっきの二人を見送った態度、気になりますか…?」
リヴァイはペトラの目を見ず、正面を見据えながら話し出した。
「えっ…?」
ペトラは突然のことで驚いていた。
「ローズは…DJ仲間の一人でした。
イアンさんが勤めるクラブでバイトしたりとか…」
「そうだったんですよね…!でも、実はさっきローズさんからも聞きました…!」
「そうか…」
「昔からの仲間がいるっていいですよね…!
あの頃から、イアンさんとローズさんは付き合っていたんですか?」
「えっ…まぁ…そうだな…」
確かにローズはリヴァイから離れる頃にはイアンと付き合っていた。
『そうだな』と返事をしながら、まったく嘘ではないとリヴァイは思っていた。
そしてペトラはローズとリヴァイと何かあったかもしれないが、
自分が立ち入ることではない、そして過去を気にするべきではないと
これ以上、話すことではないと判断していた。
-
- 217 : 2013/12/22(日) 23:18:02 :
- 「そうそう…リヴァイさん…ラストにかけていたあの曲、いい曲ですよね!」
明るい声でリヴァイに向けたその声を聞いたリヴァイは
ペトラの元へ振り向くと、
そこには晴れ晴れとしたような笑顔を向けていた。
「あぁ…俺も好きな曲だ…」
・・・なんだ急に…?いきなり笑顔で…?まぁ、いい顔してやがる…
「なんだか、すごく切ないけど、
相手をすごく思って『大好き』って思っている
雰囲気が伝わってくるのが…いいと思う…!」
ペトラはLime (ライム)のSentimentally Yoursを
切なくなるも、リヴァイを思うと心が温かくなる感じがしていた。
「リヴァイさん…あの…実は…私…」
ペトラがまた突然、リヴァイに頬を赤らめ視線を向けた。
・・・まさか、ここで俺に告白する気か…?
リヴァイは息を飲んだ。
「この前話していた
『私が行きたい場所…』…まだ、決めてないんです…」
「えっ…?」
告白すると予想してしまった自分に驚いたリヴァイだったが
その予想をしたということはリヴァイは改めて
ペトラに気持ちがあると実感していた。
-
- 218 : 2013/12/22(日) 23:18:17 :
- 「正確には決められなくて…行きたいところありすぎて…」
ペトラはリヴァイを見るとうつむき、照れている様子だった。
「ペトラさん、
俺は…ペトラさんが好きな場所ならどこでもいい…」
「ホントに?」
ペトラは嬉しそうな笑顔を向けるとリヴァイは視線をそらした。
・・・そんな笑顔をされたら…俺は…
「本当だ…」
リヴァイは視線をそらせながらも、
冷たい声ではあるが力強く答えいていた。
「じゃ…私が好きなところ、ご一緒しましょう…」
ペトラはそこにすべきか躊躇している場所が
一ヶ所だけあった。
リヴァイと話していると、
一緒に行きたい気持ちが強くなっていった。
その時。フロアにピアノのメローで優しい音色が広がった。
ブースでプレイしていたジャンが
リヴァイとペトラの様子を見ながらセレクトした1曲、
Stevie WonderのRibbon In The Skyだった――
「このピアノの音色と歌声…琴線に触れる感じがしますね…」
ペトラが胸に手を当てていると、うっすら涙を浮かべているようだった。
リヴァイがジャンのいるブースに視線を送ると『したり顔』をしていた。
・・・ジャンのヤツ…この名曲を知っているとは…
リヴァイは聴いた曲で心を打たれるペトラを見ていると
素直な子だと感じてますます興味を惹かれるばかりだった。
-
- 219 : 2013/12/22(日) 23:18:39 :
- 「今日の私は忙しいなぁ!なんだか、
リヴァイさんのDJプレイに興奮して、
今度は心にグッとくるなんて…!」
涙ぐみながら、笑みを浮かべるペトラの笑顔は
ミラーボールの光が時々ペトラの顔を照らす光よりも輝いていた。
「…そうか」
リヴァイは正面を見据えているが、
ペトラを抱きしめたい衝動に駆られるもグッと押えていた。
・・・まさか、こんな気持ちになるとは…
いつも冷静なリヴァイが女性に対してここまで気持ちが
揺さぶられることは最近にない出来事で戸惑っていた。
「ペトラさん…仕事帰りなのにこんな遅い時間まで
付き合わせてすまない…もう帰らないと…?」
「あぁ、そうですね…行きたい場所が決まったらメールします!」
リヴァイはペトラを大切に想うと、早めに帰したい気持ちもあれば
ずっと一緒にいたい気持ちが混同して珍しく戸惑っていた。
「今日は本当にありがとうございました…!楽しかったです」
「いや…こちらこそ」
クラブの出入り口でペトラを見送っていると、
オーナーのエルヴィン・スミスが
イベントが成功して上機嫌で二人の下に近寄ってきた。
「ペトラさん…だったよね?今日はありがとうございました!」
「いいえ…!また遊びにきます!」
「なんだ、リヴァイ、女の子をこんな遅くから一人で帰すのか?」
「あぁ…遅くなったのは仕方ない…」
「それじゃ、おまえの部屋に泊めたらどうだ?」
「なに…?」
リヴァイは舌打ちしながらエルヴィンを睨んでいた。
「もう…!何言ってるんですか!オーナーさんったら!」
ペトラは顔を赤らめ二人に笑顔を向けていた。
「じゃ…ペトラさん、今日はホントにありがとう…おやすみ」
「それじゃ…おやすみなさい…」
ペトラはリヴァイに笑顔を残しそのまま家路へと向った。
・・・もう…オーナーさん、ビックリしちゃった…そんなこと言うなんて
でも…私はもっと一緒にいたかったな…
ペトラは寂しさと嬉しさが混ざったような気持ちで笑みを浮かべていた。
-
- 220 : 2013/12/22(日) 23:18:50 :
- 「オーナー…ペトラさん、驚いていたじゃないか…!」
リヴァイは改めてエルヴィンを睨んでいた。
「いや、俺はおまえの気持ちを代弁したまでだ」
意味深の笑顔をリヴァイに向けると、リヴァイは舌打ちをして
そのままフロアに戻っていった。
・・・図星だが…次会える日を楽しみにしよう…
リヴァイは含み笑いをすると、再びカウンターに座り
好きな銘柄のビールにグラスを注ぎ、一口飲むと
その日の忙しさから解放され安堵していた。
-
- 221 : 2013/12/23(月) 22:40:17 :
- (28)『…結婚したい』
リヴァイは前日行われたイベントの疲れを癒すために
一人で常連のスパの個室で過ごしていた。
小さな露天風呂で一人で入り、湯の線から肩を出して
全身を伸ばし、両肘を風呂桶の淵に置きながらボーっと空を見上げていた。
誰にも話したことのないリヴァイの癒しの時間だったが
ふとしたきっかけで、親しい間柄では知られることになった。
ペトラ・ラルとも露天風呂に入らずとも、
足湯やカフェでお茶をしたこともあったが、
今回は一人でスパにやってきたのだった。
「いつか…ペトラさんとも来れたらいいがな…」
リヴァイは晴天の空に浮かぶ白い雲を眺めながら
かすかに笑みを浮かべていた。
そしてまた翌日から慌しい毎日が始まる
日々にリヴァイは身体を備えていた。
イベントが終った後、平日でも『FDF』は
客が心なしか増えてきているようなリヴァイが感じていた。
それをキープするのはやはり、DJ次第と感じると
リヴァイには緊張感が走った。
そしてDJの師匠であるイアン・ディートリッヒにも連絡すると、
彼が経営する居酒屋もファンに知られ客が増えていることを
リヴァイに報告していたのだった。
臨時休業にしてまでイベントを行って正解だったと
イアンは改めて感じていた。
そして週末、土曜日になると、カフェ『H&M』ではいつものように
のんびりランチの時間が始まっていた――
-
- 222 : 2013/12/23(月) 22:40:42 :
- 「リヴァイ…大丈夫?ちゃんと寝てる?なんだか、
さらに目つきが鋭くなっているような…?」
リヴァイを心配するのはカフェ『H&M』で共に勤しむユミルだ。
「あぁ…俺は大丈夫だ」
「見た目は若いけど…あなたは結構――」
「それはお互い様だ」
「それもそうね…」
ユミルは伏目がちに微笑んでいた。
二人は見た目は若いために
お互いに年齢のことは『タブー』にしていた。
そしていつものようにランチが始まる頃に
リヴァイが入り口のガラスのドアの前に
ランチを知らせる看板をイーゼルに立て、
しばらくすると、身奇麗にしたアルミンの同級生の
母親たちが入店してきた。もちろん、オーナーである
エルヴィン・スミスと話をする目的がメインである。
・・・今日もオーナー目的のメンバーか…また一人増えたか…?
エルヴィン目的の『奥様連中』は増減を繰り返しているが、
その日、リヴァイは新しい奥様が増えていることに気づいた。
それはシイナ・ドーク、エルヴィンの学生時代の旧友の
ナイル・ドークの妻である。
また一人娘がアルミンの同級生でもあるために
エルヴィンとはPTAなど学校での会合で会うこともあり、
他の母親からカフェ『H&M』に週末に行っては
『保護者会』と称してエルヴィンと会って話し合うことがある、と
聞いたためにこの日、初参加になっていた。
参加したということはエルヴィンに興味があったということだったが、
もちろん、夫のナイルには秘密にしていた。
-
- 223 : 2013/12/23(月) 22:41:01 :
- ・・・ほう…今までの『奥様』とは違い、お嬢様風だな…
リヴァイはシイナを席に誘導すると、身のこなしや雰囲気から
これまでの奥様たちとの雰囲気と違うことに感じていた。
大会社の息子であるナイルとは紹介で知り合ったのだが、
ほぼお見合いのようであった。良家のお嬢様育ちのシイナは
恋愛も経験がない状態でナイルと結婚目的で出会っていた。
エルヴィンと初めて出会ったとき、これまでにないときめきが
その胸に湧き上がってきたために、彼に会えるなら、ということで
この『保護者会』に本来の目的を隠して参加することにしていた。
もちろん、他の母親はエルヴィンとは目の保養のように
まるで、『会えるアイドル』の如く楽しく話す目的がメインである。
そして時間が奥様連中が席について和やかに話していると、
エルヴィンがいつものごとく高級スーツに身をつつみ
ガラスのドアを開けて入ってきた。
「リヴァイ、今日もお疲れさん…」
「あぁ…オーナー…今日も相変わらずお待ちかねだ。
『新メンバー』も連れてな…」
カウンターに座ったエルヴィンは近くにいたリヴァイに話掛けると
『新メンバー』について耳にすると、チラっと奥様連中に視線を送った。
「あぁ…彼女は…」
エルヴィンはため息をついた。
「あのお嬢様風の奥様のことか…?」
「あぁ…昔からの馴染みのナイル・ドークの妻だ…
娘がアルミンの同級生でもあるがな。
しかしナイルの奥さんもあの中にって
面倒なことにならなければいいが…」
エルヴィンはユミルに淹れてもらったアイスコーヒーを口にすると
ため息交じりで話し出した。
-
- 224 : 2013/12/23(月) 22:41:19 :
- 「ナイルは昔、俺がミランダやハンジを始め仲間たちとやっていた
飲食の屋台のメンバーだった…」
エルヴィンとナイルは屋台で出店する際、意見を交換するとき
いつもいいアイディアを出すエルヴィンに対してナイルは
なぜか抵抗することが多かった。筋が通る意見を通せばいいのだが、
感情論に訴えることが多く、いつも冷静で理論的なエルヴィンを
疲れさせることが何度もあった。
そのためにエルヴィンはナイルと話し合いそして出店するときは
粛々と事を進めることが最善だと判断していた。
またナイルがエルヴィンに抵抗するのは
『(世襲であるが)自分は次期社長』というプライドがあり、
それにも関わらず他の仲間たちは自分に振り向かず
エルヴィンに付いていこうとする態度が気に入らなかったという
『感情』があったからだった――
「じゃ…いってくるか…」
リヴァイがエルヴィンの背中を見送ると、
DJのイベント以来、連日多忙のため疲れの様子が伺えた。
・・・オーナーもお疲れ気味か…あれ?
リヴァイはシイナがエルヴィンに送る眼差しが
熱を帯びてまるで恋人を迎え入れる様子だ。
他の奥様連中ともまた違うことを見抜いていた。
-
- 225 : 2013/12/23(月) 22:41:39 :
- ・・・まぁ…ダンナだけでなく、妻もってことか…
どうやら『ドーク夫妻』に気に入られているようだな、オーナーは
リヴァイは苦笑いすると、ユミルと共に
ドリンクの補充やランチのフードの追加のために
カフェの中を忙しく動いていた。
「ユミルさん、こんにちは…!きちゃいました!」
ランチタイムが中盤に差し掛かったとき、
ガラスのドアの前に立っていたのは
クリスタ・レンズと『街コン』で出会ったライナー・ブラウンだった。
小柄のクリスタと大柄のライナーには身長差がとてつもなく、
まるで大人が幼い子供を連れているようにも見えた。
・・・すげー…デコボコ・コンビだな…
リヴァイはライナーとクリスタを
視線を上げ下げしながら見ると、カフェ内に誘導していた。
「クリスタさん、ユミルに話があるなら、カウンターがいいのでは…?」
リヴァイが淡々と言うとクリスタも同意して
二人してカウター席に座ることになった。
「クリスタさん、ライナーさん、今日は来てくれてありがとう!」
ユミルは二人に笑顔で挨拶するも、
ライナーの顔が引きつっている様子に気づいた。
-
- 226 : 2013/12/23(月) 22:41:59 :
- ・・・ライナーさん、緊張しているのかな…
クリスタはユミルに笑顔を向けているが、対照的に
ライナーはその大きな背中を丸めうつむきながら
誰が見ても緊張している様子が伺えた。
・・・今日の客は…オーナー目的のお嬢様風の奥様と
緊張した面持ちの鋼のような大男か…おもしれーな…
リヴァイはその日の意味ありげな客にそれぞれ視線を送ると
薄ら笑みを浮かべていた。
「ライナーさん、ここはビュッフェなの!一緒に取りに行こっ!」
クリスタはライナーに笑顔を向けランチのフードが並んだテーブルに
向うことを伝えると、一緒に立ちあがった。
クリスタが誘ってくれることに頬をが緩んでいるようだった。
二人がカウンターを離れたときリヴァイはユミルの傍に近づいた。
「ユミル…ライナーさん、すげー緊張しているみたいだな…」
「そうね…まぁ、二人の話を聞いてみるとするよ!」
ユミルはクリスタとライナーがプレートにフードを乗せる姿を
笑みを浮かべながら見つめていた。
そして二人は再びカウンターに座るとクリスタは
『何でも話せるお姉さん』のユミルと会えて楽しげだが
ライナーは黙々と自分が選んだランチに手をつけているだけだった。
・・・ライナーさん、ホントに困ったな…私には一言も話さない…
ユミルはライナーにも目配せしながらクリスタと話すも
ライナーは無反応だった。
ランチプレートがほぼ空になったときクリスタが一人だけ席を立ち
化粧室に向った。そして意を決したようにユミルがライナーに話し出した。
-
- 227 : 2013/12/23(月) 22:42:17 :
- 「ライナーさん、どうしたんですか――」
『何も話さないなんて…?』と、ライナーに話しかけようとした途端、
ハンジ・ゾエ、モブリット夫婦もキッチンから出てきた。
ハンジもこのカフェで『街コン』で出会った二人が来店している
と聞いて、嬉しい反面、『彼』が緊張の面持ちと聞くとさらに
気になって二人して出てきたのだった。
「…したいんです…」
ライナーはうつむき頬を赤らめユミルに話し出した。
「ライナーさん、何…?どうしたの?」
ライナーが恥ずかしそうにユミルに話し出すが、
声が小さく彼女の耳には届かない。
「ライナーさん、何…?もう少し大きな声で…?」
ライナーは赤い顔をユミルに向けると思い切って
クリスタへの気持ちを話し出した。
「…結婚したいんです…クリスタさんと…!」
「えええーーー!!」
ユミルは思わず声を上げ、自分の声に驚き口を押える程だった。
そしてハンジとモブリットもそのライナーの様子に驚きそして、
目を輝かして見つめていた。
・・・ウチで出会って、カップル誕生か…!
ハンジは初めての『街コン』の参加で一日中、キッチンにいて
ヘトヘトで疲れきってしまったが、ライナーの一言で
そのときの疲れは忘れてしまうほどだった。
-
- 228 : 2013/12/23(月) 22:42:35 :
- 「ライナーさんって言いましたよね…?それは本当ですか…?」
ライナーのことを目を見開き見つめるのはモブリットだった。
「実は…僕も妻のハンジさんには、
ほぼ一目ぼれだったんです…!
僕と仲間じゃないですか…!」
「そうなんですか…!」
「もう、モブリットったら!」
ハンジは照れながらモブリットを見るが、
満更嫌な感じではなかった。
モブリットはハンジが大好きなだけに
日常的に周りを気にせず惚気ることが多い。
「僕の話を聞いてもらえませんか…!モブリット…さん…!?」
ライナーはモブリットの顔を見ると、緊張感から解けたのは
綻んだ表情を向けていた。
「もし、よかったら、ライナーさん、モブリットと話をしたら?
ユミルはクリスタさんと話してさ?」
「ハンジさん、それがいいかもね!ライナーさん、
空いてる席に座ってモブリットさんとお話してもいいかも!」
ユミルとハンジは二人して視線を合わせ意見を整えると
モブリットも納得して空いている席にライナーを誘導した。
「いや~!驚きましたよ!このカフェで出会って…」
モブリットと嬉しそうにライナーと話す姿を見て
ハンジは笑みを浮かべていた。
もちろん、ハンジもモブリットに対する気持ちは
出会った当初から変っていない。
-
- 229 : 2013/12/23(月) 22:42:50 :
- 「クリスタさん、驚くだろうね…
モブリットとライナーさんが話してるから!」
「ホントに…!」
ユミルも二人が意気投合しているのか、
賑やかに話している様子を見て胸を撫で下ろしていた。
・・・このカフェは…出会いの場か…?
リヴァイは他のテーブル席を拭きながら整えていると
かすかに笑みを浮かべていた。
そして化粧室からクリスタが戻ると、楽しげにライナーが
モブリットと話している姿を見て驚いていた。
「あの…ユミルさん、何があったんですか…?」
「まぁ…何というか…」
ユミルはクリスタを目の前にすると、
ライナーの『結婚願望』を自分のことではないが、
照れて話せずにいた。
「『男同士』で話した方がいいかもしれないってね、
モブリットさんがライナーさんの気持ちがわかるみたいで…」
ユミルはクリスタを笑みを浮かべながら話していた。
-
- 230 : 2013/12/23(月) 22:43:17 :
- 「へーっ…そうなんですか…」
クリスタは二人の様子を見ながらうつむいていた。
「ところで、クリスタさん、あなたはライナーさんのことは…?」
「…迷っています…いい方なんですが…このまま一緒にいてもいいのか、
口数が少ないし、何を考えているのか、わからないから…」
ユミルはその口数が少ないのは『結婚願望』が影響してとは
言いづらかったが、モブリットと談笑している様子を伺うと
普通に話せているために、やはり結婚願望があるから
緊張してして話せないでいるのだろうと改めて思っていた。
「クリスタさん、もしかしてリラックスしたライナーさんは
ホントはおしゃべりかもね…」
ユミルは何か企んだような笑みを浮かべ
クリスタを見ながら、お冷を注いでいた。
「えー…ホントに何があったの…?」
クリスタは不安げな表情を浮かべるも
ユミルがそばにいるため本心から不安でもなかった。
ライナーはモブリットと話していると、緊張感がほぐれ
饒舌になっていた。元々おしゃべりな方でもあるが、
一目ぼれしたクリスタを目の前にすると、
会えば会うほど緊張してしまい、
口数がさらに減ってしまっていた。
エルヴィンは『奥様連中』と子供の教育問題について
話し合うも、自分が背を向けた方向で
皆が賑わっている様子を感じると
そこに参加したいと思っていた。
・・・俺…毎週、土曜日、何やってるんだ…
冷静になりながら、アイスコーヒーが入ったグラスを
口元に寄せるエルヴィンに対してナイルの妻のシイナは
熱視線を送っていた――
-
- 231 : 2013/12/24(火) 00:45:26 :
- (29)クリスタの気持ち
その土曜日のカフェ『H&M』では
普段はキッチンに詰めているモブリットが
クリスタ・レンズに一目ぼれをしたという
ライナー・ブラウンをテーブルに迎え
賑やかに話をしていた。
「あの二人…何話してるんだろうね…」
ユミルはライナー・ブラウンが背中を向け
その向かい側で話すハンジ・ゾエの夫の
モブリットが楽しげに話しそして賑やかな
二人の雰囲気を見ては
きっと前向きな話をしているんだろうと
想像していた。
「ライナーさん、あんなに賑やかに話していて
どうして私には話さないんだろう…」
クリスタはうつむきながら、氷が数個浮かんだ
オレンジジュースが入ったグラス見つめ
ストローで氷をくるくると回していた。
ユミルはライナーの本音を知っているだけに
どう声を掛けていいものかわからず、
笑みを浮かべ見守るしか出来なかった。
「後姿しか見えないけど、楽しげだし…
クリスタさんにまったく悪い印象ではないのでは…?」
カウンターで食器を洗いながらユミルは
クリスタをガッカリさせないように努めていた。
「私たち…どうなるのかな…」
「もう…そんなに不安にならないで!」
ユミルが励ましていると、徐々にクリスタも
本来の笑顔を取り戻しているようにも見えた。
-
- 232 : 2013/12/24(火) 00:45:42 :
「私、小柄だし…いつか子供を産むなら、
子供も背が低かったら…って考えたら、
『相手』は背が高くて、力持ちみたいな人がいいなぁって…
思っていたのにな…」
「えっ」
まさに目が点になった表情をしたユミルはクリスタを見ていた。
その口ぶりはまるで、
クリスタが振られる覚悟をしているようにも聞こえた。
「あなたちって…まったく…
クリスタさんはライナーさんのこと好きなの?」
ユミルはライナーの気持ちを知っているだけに
ストレートにクリスタに聞いてみた。
「あの…その…」
クリスタは頬を紅潮させ何も言わずにうつむくが
その表情からクリスタはライナーに気があると感じていた。
「まぁ…クリスタさん、大丈夫だよ!」
自信たっぷりの表情でうなずいていた。
そしてモブリットとライナーは話を終えると
またクリスタの隣にライナーは座った。
モブリットはキッチンに入り何やら
ハンジと話しているようだった。
-
- 233 : 2013/12/24(火) 00:46:01 :
- 「ライナーさん、何話していたんですか…?」
「えーっ…まぁ、色々と…」
ライナーはクリスタに笑顔を向けていた。
そして再びライナーは頬を赤らめ黙り込むが
キッチンにいるモブリットに視線を送っていた。
・・・何か…作戦でもあるの…?
ユミルはカウンターでお皿やグラスを拭きながら
キッチンとライナーに目配せをしながら気にしていた。
「ライナーさん、お待たせしました…!」
そこに出されたのは前回、クリスタがペトラ・ラルと
来たときにハンジの試作品として出された
パンケーキがもう一度出されていた。
正式にメニューとして採用したために一番最初に
ライナーとクリスタに食べてもらうことにしていた。
「わー!このパンケーキ!
この前、ペトラとまた食べたいね!って話してたんですよ!」
クリスタが目を輝かして
笑顔でパンケーキを見つめていた。
・・・やっぱり…この笑顔は女神だ…
ライナーはクリスタの輝く笑顔を見て
ホッと胸を撫で下ろしていた。
モブリットはライナーと話しながら、
自分とハンジとの馴れ初めを話しながら、
せっかくカフェで出会ったのだから、
何か美味しいものがキッカケで
気持ちがほぐれるかも知れない、という話をしていた。
そして前回、パンケーキを試作品で出したという話を
モブリットがしたとき、クリスタは甘いものが好きだと
ライナーは話していた。
またモブリットは営業中にカップルの彼女が美味しそうに
ケーキなど甘いものを食べている可愛げな姿を
彼氏が目を細めている姿を何度か見かけたことがあったために
もしかして、その笑顔をライナーが見たらリラクックスして
話せるかもしれないと思い、
ハンジに提案して急きょパンケーキを作ることを提案していた。
-
- 234 : 2013/12/24(火) 00:46:26 :
- 「今日もペトラも来たらよかったのに!」
・・・ペトラの話をしているのか…?
リヴァイはペトラの名前が出てきたために
ライナーとクリスタの方を見ながらも、
ランチのフードを追加しながら二人の会話に
耳に傾けていた。
クリスタはパンケーキをほお張りながら、
笑顔だけでなく、
ベルー系のフルーツを口に入れたときに
目を閉じて口をすぼめるような表情などを
浮かべていると、ライナーはますます
クリスタに惹かれていった。
「クリスタさん、美味しいね…。
…もう一度、一緒に来てよかった!
今日は誘ってくれてありがとう!」
「…はい!」
・・・女の子が…甘いもの食べてる姿…
幸せそうで、こんなに可愛いいものなんだな…
ライナーは笑顔が溢れるクリスタを見ていると、
そして今まで緊張のあまりに話せなかったことに
後悔していた。
「クリスタさん…ごめん…今まで」
「どうして、謝るの…?」
「実は…クリスタさん、あなたに…一目ぼれをしました」
ライナーはクリスタを真っ直ぐな眼差しで見つめ
自分の気持ちを伝いえていた。
-
- 235 : 2013/12/24(火) 00:46:53 :
- 「えっ!!」
クリスタは仰け反りかえるほど驚いた姿を見せていた。
そのために椅子から落ちそうになり、ライナーに支えられていた。
「クリスタさん、危ない…!」
クリスタはライナーの大きな手に支えられると
胸の鼓動が止められなかった。
そしてライナーは今まで緊張のあまり
話せなかったことを改めて謝っていた。
「もう…そうだんったんですか!私、どうしたらいいのか、
いつも戸惑ってました…!」
「ごめんなさい…ホント」
ライナーはクリスタの前で頭を下げてると軽く肩を触れられていた。
「そんなに謝らないで…!」
ライナーが頭を上げると、笑顔のクリスタがいた。
「もう…ライナーさん、私、振られるかと思っていました…」
その眼差しは笑顔ではあるが涙ぐみ、
潤んだ目元を人差し指で拭っていた。
「僕が振るわけじゃないですか…結婚したいんだから…!」
「えっ!」
クリスタが面食らった表情をするが、
ライナーは真剣な眼差し注いでいた。
・・・もう…ライナーさん、いきなり言うか…
二人の目の前で洗い物をしていたユミルは見つめあう二人を
見ていたら、自分が照れてしまうということで
二人の視界から外れる位置に移動して、ハンジとモブリットの傍に
移動していた。
「モブリットさん、いいアドバイスが出来たみたいだね…!」
「はい…!でも、これもハンジさんが作ったパンケーキのおかげです!」
・・・この人も惚気てるよ…!
-
- 236 : 2013/12/24(火) 00:47:23 :
- モブリットはハンジを見つめながら、安堵感に浸っていた。
ユミルはクリスタの取り越し苦労に終ってよかったと微笑んで
二人を見つめていた。
リヴァイは3人の傍に寄りながら、楽しげに微笑みながら
残りのパンケーキを食べるライナーとクリスタを見ながら、
ユミルに話しかけた。
「ほう…あの二人はまとまったか?」
「そうみたい…!しかも、あのパンケーキがまとめちゃったのかな?」
「あのパンケーキ?」
リヴァイは二人が食べている残り少ないパンケーキを見ていた。
そしてペトラが食べている姿を思い出していた。
・・・確かにペトラさんも食べているときの姿…悪くなかったな…
リヴァイがかすかに笑みを浮かべると、ユミルがすかさず
「リヴァイ、あなた…この前、ペトラさんが食べてるところ思い出した?」
「何?」
リヴァイがユミルを舌打ちしながら睨むと
茶目っ気溢れる笑顔で口角をあげていた。
・・・ユミルめ…俺と同じで勘が鋭いヤツだ…
「そんなことより、もうそろそろ…ランチタイムも終了だ」
リヴァイは鋭い眼差しをユミルに向けるとそのまま
出入り口のガラスドアの掲げられたランチタイム告知の
看板をイーゼルから片付けていた。
「恋するパンケーキ…か…!」
「いいねー!ユミル、メニューに書こう!」
ユミルが思わず口にするとハンジが返事した。
「ええっ…あまりにも『ベタ』過ぎるんじゃ…?」
「いや…出会いはどこに
転がっているかわからないから、
『ベタ』でもいいじゃない?」
ハンジはイタズラっぽく答えていた。
「そんなもの…かな?」
イーゼルを下げてきたリヴァイを見ると
一理あるかも、と感じていた。
「…なんだ?俺の顔に何か付いているか…?」
「別に…!」
ユミルがライナーとクリスタとプレートを下げると
二人は帰ることになった。
「モブリットさん、今日はありがとうございました。
アドバイスをもらわなかったら、こんなに仲良くなれたかどうか…」
ライナーはモブリットにお礼を言うが、
目線はクリスタに目線を落としていた。
「はい…!僕らはまたお二人が仲良く来ていただいたら、
喜ばしいことですから!またお友達も連れてきて頂いたら…」
「もう…モブリット!欲張らないの!」
ハンジはモブリットが冗談で
二人に対して他の友達を『H&M』に連れてくるよう
促していことを笑いながら注意していた。
-
- 237 : 2013/12/24(火) 00:47:50 :
「でも、こんないいカフェなんだから、
友達みんなに常連になってほしいですよ!」
今の二人の雰囲気はもう何を言われても
笑顔で交わし、怖いものなんてないというような
表情をしていた。
そしてクリスタはリヴァイと目が合うと
「リヴァイさん…ペトラとまた遊びに行かれるんですね!」
笑顔を交えて質問していた。
「えっ…?」
リヴァイはいきなりのことで目を見開いて面食らっていた。
「なんか、近いうち二人で遠出するとか言ってたから…」
「ほう…」
・・・ペトラさんは遠出を考えているのか…
リヴァイはペトラに口角を上げながら、出入り口まで誘導すると、
二人を見送ることにした。
「またのお越しをお待ちしています…!お幸せに…!」
「はい!」
二人は早速手を繋ぎ、土曜日の午後の街中へ消えていった。
・・・ペトラさん、どこに行くんだろ…またいつだろ…
リヴァイは二人のことよりも早速、ペトラのことが気になっていた。
そしてランチタイムが終る頃、オーナーであるエルヴィン・スミスを
目的にきていた『奥様連中』もいつもの如く後ろ髪を引かれるように
帰っていった。またナイル・ドークの妻であるシイナは
相変わらずエルヴィンに熱視線を送っていた。
・・・お嬢様風の奥さん…何かオーナーに期待しているのか…?
意味深な笑みを浮かべ、リヴァイは『奥様連中』を見送っていた。
「リヴァイ、なんだかすごく盛り上がっていたみたいだな…」
エルヴィンは疲れながらもホッとした表情を見せていた。
「あぁ…新たなカップルが誕生した」
リヴァイは口角を上げてエルヴィンに伝えると、
ディナー準備のためのテーブルセッテイングを始めていた。
「エルヴィン、新しいメニューの『恋するパンケーキ』も誕生したよ!」
ハンジはエルヴィンに今まであった経緯を話すと
あごに手を当てながら閃いたアイディアを話し始めた。
-
- 238 : 2013/12/24(火) 00:48:28 :
- 「ウチの看板メニューにしようか?他の店舗にも置いたりして…」
「そうだね!手作りのポップやサインボードも作って…」
「フルーツもバランスよく彩りも考えて…」
エルヴィンとハンジ、モブリットは早速『恋するパンケーキ』の
改良の話を開始していた。
・・・とにかく…あの二人、幸せになってくれたらいいな…
ユミルは自分を頼ってくるクリスタの幸せそうな笑顔を思い出すと
思わず笑みがこぼれ、リヴァイと二人でディナーの準備を
晴れ晴れとした気持ちで進めていた。
-
- 239 : 2013/12/24(火) 10:00:40 :
- (30)ペトラとデート・Part2
土曜日のクラブ『FDF』の夜。
相変わらず、たくさんの客で賑わっていて
ドアで客を誘導する
グンタ・シュルツもエルド・ジンも大忙しだった。
エルドは客の切れ目でチケットを確認しながら
グンタに話しかけていた。
「しかし、リヴァイさんの人気、落ちないな」
「そうだな…でも、男性客も増えているな?」
「らしいな…」
グンタはドア越しのフロアを少し不安げで見ていた。
二人ははリヴァイのDJとしてのファンが
増えているのも嬉しいが、男性客が増えるのは
ナンパも増えたりするので、トラブルにならないか
その目配せもしながら動くために気を使いながら
動いていた。しかし、二人はムリにナンパしている様子を
確認すると、何気なく間に入って女性客をやんわりと
助けることもあり常連の女性客には頼もしい存在である。
リヴァイは昼間、
クリスタから『ペトラが遠出を考えている』と聞いて以来
ペトラ・ラルからメールが来ないか、何度かメールをチェックするが
着信ランプが光ることはまだなかった。
ロッカールームでリヴァイはスマホを見ながら
・・・俺…何やってんだ…なんで女からのメール
待たなきゃいけないんだ…
舌打ちしたそのとき、メールが1通着信した。
ペトラからだった――
-
- 240 : 2013/12/24(火) 10:00:59 :
- 「やっと…か」
ほんの少し前、舌打ちをしていたはずなのに
リヴァイはペトラからの着信だとすぐに目を見開いた。
『リヴァイさん、こんばんは!
突然ですが、明日お時間ありますか?
前からご一緒したいところに明日行けたらいいなぁって
思います…明日は少し冷えるので、
厚着した方がいいかもしれないですね!』
「…ほう…どこに行くのか…厚着をするとは…」
リヴァイはメールを読みながら口角を上げると
ジャン・キリシュタインがプレイするブースに戻った。
「リヴァイさん、なんだか嬉しそうですね!ペトラさんとデートとか?」
ジャンに冗談で言われ舌打ちするも、
悪い気はしなかったために鼻で笑っていた。
その日に来ていたリヴァイ目的の女性客は
必要以上に追い掛け回すようなことはせず、
出会った客と帰ったりまたは踊りつかれ帰宅するなど
問題なく『FDF』から離れていったためにリヴァイは
安堵していた。
-
- 241 : 2013/12/24(火) 10:01:17 :
- 営業も問題なく終了し、いつもの如く遠回りをして
帰宅できていた。
リヴァイは遅い時間ながらも、『厚着をするように』と
ペトラからメールで言われていたために
クローゼットからブラウンのダッフルコートを出していた。
「これで…いいか」
翌日はまた昼間から出かける予定だが、
約束の時間にギリギリにならないように
早めに就寝していた。
翌朝。
リヴァイは目が覚めると、
いつもは休みの日曜日は一度目が覚めると
二度寝することもあり、目覚ましを止めると
再び寝ようと思った瞬間、ペトラとの約束があると
急に思い出したように突然起きると、支度を始めた。
そして、ダッフルコートを羽織って早歩きで
出かけると、待ち合わせの駅前に到着するころには
少し汗ばんでいた。
ペトラより早く到着したかと思っていたが、
すでにペトラは待っていた。輝く笑顔と共に――
-
- 242 : 2013/12/24(火) 10:01:31 :
- 「ペトラさん…すまない、また待たせてしまった」
「いいえ…!私が早く来ちゃっただけですから」
ペトラはファーフード付きのポンチョコートを羽織っているが
膝上のミニスカートのロングブーツだった。
・・・今日も悪くないカッコウだ…
「ペトラさん、今日はどこに…?」
リヴァイがたずねると、ペトラは笑みを浮かべ
「内緒です…なんだか、恥ずかしくて…」
「えっ?」
ペトラは頬を赤らめながら、改札へ向うと行き先の路線の
電車の切符を買うように指示していた。
・・・厚着して、一体どこに…?
その路線はほとんど使ったことがないが…?
リヴァイはペトラが前回に比べて
大きなバッグを持っていることに気づいた。
だが、一体どこに行くのかまったく想像が出来なかった。
-
- 243 : 2013/12/24(火) 10:01:46 :
- ・・・ホントに…内緒の行き先って…?
リヴァイは電車に乗ると楽しそうにしているペトラを見ていると
口角を上げるも、戸惑っていた。
リヴァイとペトラが乗った路線の先は海からは遠い場所ではあるが、
地形の関係上、海風の影響のある地域でもあるために
この季節は寒くなることで有名だ。
その地域の改札に出ると、リヴァイの頬には
冷たい風がかするように通り過ぎた。
「…寒っ」
思わず、声に出すほどの寒さだが、雪は降っていない。
空はどんよりと曇り空だった。
「思ったより寒い…でも、ここから少し歩くので、温まるかな?」
ペトラが笑みを浮かべリヴァイに言うと、
電車の中では暑かったため、
コートの前のボタンを開けていたリヴァイだが、
歩き出すと空気が冷たいためにボタン全部を
閉めていた。
リヴァイとペトラは他愛のない話をしながら、
ペトラの誘導されるまま二人で歩いていた。
「はい…到着しました…!」
そこはリヴァイが今まで来たことない植物園だった。
また『植物園』自体、足を踏み入れることもかつてなかった。
「実は…大昔…ここは遠足の定番の場所だったんです…
なんだか、子供っぽくて、恥ずかしいなぁ」
ペトラは照れながらリヴァイを見ていた。
-
- 244 : 2013/12/24(火) 10:02:03 :
- 「ほう…なかなか、よさそうなところじゃないか…」
そこには大きな木々が寒い季節にも関わらず
青々と聳え立ち、また手入れされた芝生の広場が
とてもキレイに広がっていた。
花壇には季節柄、花は咲いてないが、
花の季節になると、一面に咲かせるだろうと
想像させるような場所だ。
「ペトラさん、またどうして今回、ここに…?」
「この前、リヴァイさんが作られた音を聴いているから、
自然の音を聴きたくなる…みたいなこと言ってたから、
それで、ここを思い出したんです!」
前回、リヴァイが森の近くのスパにペトラを連れて行ったとき、
『自然の音にも耳を傾けたくなる』ということを話したが、
何気なく話したことなのにペトラが覚えていたことに
リヴァイは嬉しくなったが、表情は涼しい顔をしていた。
「そうか…確かにここも森の音が聞こえていいな…」
二人は植物園の歩道をゆっくりと歩きながら
木々の合間から広がる空を見上げていた。
-
- 245 : 2013/12/24(火) 10:02:18 :
- 「曇りだけど…晴れていたら、もっとよかったかなぁ…」
「いや…この日だけの天気もあるだろう…それを
楽しめばいい…」
リヴァイはペトラと一緒に過ごす時間が涼しい顔をしているのに
嬉しくて、どんな天気でも歓迎しているようだった。
・・・リヴァイさん、横顔は涼しいのに…穏やかな感じ…?
ペトラは横を歩くリヴァイが最初は眠そうだったのに
穏やかな表情になって、この植物園に連れてきて
よかったと感じていた。
そして広い芝生が見渡せるベンチに座ると、
二人の間にペトラは大きなバッグを置いた。
「これね…早速だけど、お口に合えばいいけど…」
ペトラはバッグから手作りのサンドイッチとマッシュポテトを
広げそして、温かい紅茶を持参した水筒から注いで
リヴァイに差し出していた。
「ペトラさん…こんなに…!」
リヴァイは広げられたペトラ手作りのサンドイッチと
ペトラを見ては驚くだけだった。
-
- 246 : 2013/12/24(火) 10:02:37 :
- 「サンドイッチは冷たいけど、紅茶が温かいから、
身体は冷えないかな」
「あぁ…そうだな…」
微笑むペトラをリヴァイは口角を上げるが、
涼しい顔をしていた。
・・・この俺に…ここまでしてくれるとは…
「ペトラさん、うまい…」
「よかった…!」
リヴァイはペトラの顔を見ると口角を上げていた。
そしてペトラもリヴァイの顔を見て喜んでいる様子だ。
「なんだか、暑くなってきたな…」
「でも、寒いから、コートのボタンは開けない方がいいかな…」
ペトラはイタズラっぽくリヴァイに言うが、
暑くなった理由は食事をして暑くなってきただけでなく、
ペトラへの想いから気持ちが高ぶったために
暑くなってきたことに気づいていた。
「ペトラさん、ご馳走様…美味しかった」
「ほんとに…?よかった…!それじゃ、紅茶のお代わりどうぞ…!」
「あぁ…」
・・・なんだ…このほのぼのとした時間は…
リヴァイは最近経験したことない
穏やかな時間に戸惑っていた。
そして食事が終ったことで
暑くなってきた影響で
眠気が襲ってきた。
-
- 247 : 2013/12/24(火) 10:02:52 :
- ・・・この心地よさ…ヤバイぞ…
リヴァイの隣でペトラが笑顔を向けて
話していることに気づいていたがだんだんと
話が耳に入ってこないことに気づいた。
・・・ホントにマズイ…
「リヴァイ…さん?」
ペトラはリヴァイが目を細めそして、
自分のところにもたれてくることに驚いたが、
・・・リヴァイさん、イベントが終ってもずっと働きづめって
言っていたから…疲れがたまっているんだね…
ペトラはもたれくるリヴァイを膝枕が出来るように抱き寄せた。
リバイはペトラの両腿に頬を付け寝息を立て始めた。
・・・すぐ寝ちゃうって…ホントに疲れていたんだ…
ペトラは正面に広がる芝生で家族がシートを広げ
楽しそうに食事をしている風景を見ると微笑み、そして
リヴァイの肩にそっと手を置きながら
横顔見るとさらに幸せな気分になっていた。
そしてしばらくすると、ペトラとリヴァイが座るベンチに向って
歩いてくるカップルがいた。散歩をしている様子だが、
二人の間に距離があるために友達同士にも見えるような
カップルだった。
-
- 248 : 2013/12/24(火) 10:03:15 :
- ・・・あれ…あの二人は…?
ペトラは微笑み二人を見ていた。それはクリスタの同僚の
アニ・レオンハートとベルトルト・フーバーだった。
・・・アニ、最近かわいくなってきていると思っていたら…
こういうことか…でも、距離を開けてあるいているって
どんな関係なだろう…
アニがペトラのそばに近くづくと、二人でいることに気づかれ
戸惑い伏し目がちになるも、ペトラがリヴァイと一緒にいて
しかも膝枕でリヴァイが寝ている様子を伺うと
驚いた眼差しを向けていた。
二人が目の前を通るとペトラは人差し指を唇に当てて
『しーっ』という合図をして静かに!とでも言っているようだった。
アニは微笑みながらペトラを見ると、
ベルトルトと共にそのまま通り過ぎていった。
二人は趣味が似ていて図書館に行ったり、美術館でゆっくりとした時間を
過ごしていたが、まさかこの植物園でペトラと会うとは思ってもいなかった。
そしてペトラたちと距離が離れたとき。
-
- 249 : 2013/12/24(火) 10:03:29 :
- 「ペトラと…まさかバッタリここで会うとは思わなかった」
「…アニさん、あの相手の人は『街コン』のときのカフェの?」
「そう…リヴァイさん。ペトラ、最近すごく楽しそうで、
いつもどこに行こうかなぁなんて、言ってて仕事中も上の空だった…」
「そうなんだ…」
二人は笑顔を交えペトラとリヴァイを横目に話していた。
アニとベルトルトはまだ付き合うような間柄ではないが、
まだどちらからも進展させるようなことをしていなかった。
お互いに恥ずかしがり屋の性格も似たもの同士のため
なかなか進展はしない関係ではあるが、
二人はこの『今の関係』が心地よく感じていた。
・・・アニも…まさか、ここを知っているとは…あとでメールしよう
ペトラは笑みを浮かべると
再びリヴァイに幸せそうな眼差しを注いでいた。
-
- 250 : 2013/12/24(火) 13:16:39 :
- 番外編
゚+。:.゚★みんなのクリスマス★゚+。:.゚
★アルミンとクラスメイトとハンジ夫婦のクリスマス★
25日のランチタイム。
アルミンは学校が早く終ると、
クラスメイトと共にカフェ『H&M』に来ていた。
夜はそれぞれの家族でクリスマスパーティーを
開くのだが、昼間は友達同士でパーティーをしよう!
ということで、仲良しのクラスメイトが集まり
一部の席を貸しきっていた。
「アルミン!みんな、メリークリスマス!
たくさん食べてね!」
「ありがとうございまーす!」
ハンジ・ゾエの明るい一言で
皆は一斉にプレートに手を伸ばし始めた。
他の客もいるためにこのアルミンのクラスメイトのみ
『特別メニュー』で、席にどんどん運ばれていく。
・・・今時のガキは…昼間からパーティーか?
リヴァイは舌打ちをしながら、鋭い眼差しを送ると、
その視線にアルミンは気づいた。
「リヴァイさん、すいません…なんだか余計な仕事増やしたみたいで…」
「いや…気にするな…」
そういうものの、目は鋭いままのためアルミンは焦っていた。
「アルミン、気にしないで!みんなで楽しまなきゃ…!」
そう声を掛けたのはユミルで優しい眼差しを送っていた。
「…はい!」
ユミルは男装の麗人のような姿で一部の女性客からも人気で
アルミンのクラスメイトの女子からも憧れの眼差しで見られていた。
-
- 251 : 2013/12/24(火) 13:17:47 :
- 「あの…ここのパンケーキって『恋』に効くって聞いたんですが、
本当ですか…?」
頬を赤らめながらユミルに話しかけてきたのは
クラスメイトの一人のハンナだった。
「ええ…!そうよ!だけど、ごめんね、
今回のみんなの『特別メニュー』には
パンケーキは入ってないのよね…」
ユミルは申し訳なさそうな表情で話していた。
すでにポスターや手作りの看板がイーゼルに掲げられるなどして
『恋するパンケーキ』の噂はアルミンたちが通う学校まで届いていた。
「そうですか…じゃ、仕方ないかな…」
「ハンナ、そんなに食べたかったら、一緒にまた来ようよ!」
「ええ!?いいの?」
パンケーキを食べたがっている
ハンナに照れながら話し掛けたのはフランツだ。
二人は誰もが認める公認のカップルでもある。
-
- 252 : 2013/12/24(火) 13:18:08 :
- 「…おい、おまら!もうすでに付き合っているのに
一緒に『恋するパンケーキ』を食べるってどういうつもりだよ!このバカ夫婦!」
二人に向って思わず怒りをぶつけたのはエレン・イェーガーだった。
「もう…何よ!エレン!『お似合い夫婦』だなんて…!」
「そうだよ!エレン、気が早いよ…!」
二人は赤らめた顔を腕や手で隠し、
照れた表情を皆に披露すると、
エレンは呆れてそれ以上なにも二人に言うことはなかった。
「エレン、私たちも食べに――」
「ハンジさんの料理ってやっぱりうまいな!アルミン!」
「あぁ…美味いよな…」
エレンに『恋するパンケーキ』を食べに来ようと誘ったのは
ミカサ・アッカーマンだったが、
それに気づかずエレンはアルミンに話しかけていた。
しかし、アルミンは気づいたため顔が引きつっていた。
・・・エレン、ちゃんとミカサの話を聞いてあげてよ…
アルミンはミカサがエレンに対して熱い視線を送るのを
横目で見ながら、背中から汗が流れる感覚がしていた。
-
- 253 : 2013/12/24(火) 13:18:23 :
- ・・・これが青春ってヤツか…
リヴァイは鼻で笑いながら皆の光景を見ていた。
「うわぁ~!ここパン美味しいです!アルミン!
『パン通』の私が言うから確かですよ!」
斜めに均等にスライスされた
バケットにバターや好みのジャムを塗って
興奮しながら一気に食べているのは
シャサ・ブラウスは誰もが認める食いしん坊である。
授業中も隠れて『パン』を食べるのは朝飯前である。
「そうだよ!モブリットさんが栄養のバランスを考えて
ハンジさんが焼いて…」
アルミンはサシャの声に返事をしたものの、
すでにアルミンの返事は耳に入っていなかった。
懸命にパンを食べるサシャの姿にアルミンは
フランスパンの如く硬い表情で見るしかなった。
-
- 254 : 2013/12/24(火) 13:18:38 :
- 「おい!サシャ!ちゃんと残せよ!みんなの分も!」
坊主頭のコニー・スプリンガーはサシャの食欲に驚くも
同じように食欲旺盛で他のメニューを食べていた。
コニーとフランツは野球部であり、そしてサシャとハンナは
マネージャーのため4人は仲良しである。
・・・みんな…楽しそうに食べて…この時間がいつまでも
続けばいいのにな…
アルミンはプレートに手を伸ばしながら、
楽しそうなみんなの姿を目を細めて見つめていた。
賑わいが中盤に差し掛かると、モブリットが
新たなメニューの追加のために大皿にデカ盛の
巨人のようなカレーを差し出した。
「このカレーをみんなで力を合わせて…!」
モブリットがテーブルに置いた瞬間、
みんなが一斉に手を付けると
巨人がだんだん小さくなり始めていた。
「いや~!さすが、食べ盛りの子たちだね~!
たーんとお食べ!」
そばで見ていたハンジは嬉しそうに眺めていた。
そしてデザートをみんなで食べていると、
アルミンの隣に座ったのは同じクラスでも
あまり話したことないが、今回なぜか付いてきた
ミーナだった。
-
- 255 : 2013/12/24(火) 13:18:54 :
- 「アルミン、今日は押しかけるみたいに
付いてきてごめんね、でも美味しいから付いてきてよかった!」
ミーナは黒髪を頭部の下方に結んだツインテールを揺らしながら
笑顔でアルミンに話しかけていた。
「ううん!でも、これを機会にみんなと仲良くなれたいいと思うよ」
「…そうだね…これからもよろしくね…」
「うん!」
アルミンは笑顔で返事をしていた。
「今回、参加したいって
思っていたのは私の母が『H&M』に
来たことあって、それで美味しいって聞いたからなんだ!」
ミーナの母のシイナであり、
そしてナイル・ドークの妻である。
ナイルとアルミンの父のエルヴィン・スミスは馴染みではあるが、
アルミンは詳しくは知らなかった。
またミーナは母のシイナのエルヴィンへの思惑も知らなかった。
-
- 256 : 2013/12/24(火) 13:19:12 :
- 「へー!ミーナのお母さんも来てくれているんだ!
親子で美味しいって言ってもらえると、ホント嬉しい」
実はミーナはアルミンに『片想い』していた。
二人にはまったく接点がなく、どうにか接点を探していると
母のシイナからカフェ『H&M』のことを聞いて
今回、思い切って参加することにしていた。
そしてアルミンから『みんなと仲良く…』と聞いて
嬉しい反面、個人的にどうしたらもっと仲良くなれるか
戸惑っていた。
そしてデザートも食べ終わり、みんなが立ち上がり、
帰宅の準備を始めていた。
「ハンジさん、モブリットさん!ご馳走様でした!
すごく美味しかったです」
「ハンナ、『恋するパンケーキ』食べにまた来ようね!」
「デカ盛を制覇したら、タダとかやって欲しいです…!」
「サシャ!それ、いいね…!」
その『デカ盛』提案をしたのは
まだ食べたりないサシャとコニーだ。
「いいねー!それ!!ハンジさんどうしましょう?」
モブリットは嬉しそうに
ハンジを横目に言うが、予算を考えると
即答できずに顔を引きつらせるだけだった。
その時、ジャン・キリシュタインが同じ大学の
友人を連れてカフェ『H&M』の
ガラスドアを開けていた。
『FDF』のクリスマスの繁忙期のバイトとして
リヴァイに紹介するためだった。
-
- 257 : 2013/12/24(火) 13:19:41 :
- 「リヴァイさん、忙しいところすいません、友達を…」
ジャンの目の前を帰路に急ぐミカサが
艶やかな黒髪をなびかせ通り過ぎた。
・・・最近の高校生は…こんなに色っぽく…
ジャンが頬を紅潮させミカサを見つめていた。
そのことに気づいたリヴァイを舌打ちして
ジャンを睨んでいた。
「おい…ジャン、早くバイトの友達を紹介しろ」
「あ、はい!すいません」
「初めまして、マルコ・ボットと申します」
マルコはジャンと大学でも仲良しの友達で
クリスマスでプライベートでも忙しい時期でもあるが、
バイトをしないかと声を掛けると、
ジャンのためならと、喜んで返事していた。
リヴァイに紹介すると、ジャンはすぐさま『FDF』に移動するが
帰る姿のミカサを目で追っていた。
「まったく…ここはいつから、『出会い』の場になったんだ」
リヴァイが独り言をいいながら舌打ちすると、
皆が帰ったあとのテーブルを片付け始めた。
「リヴァイも人のこと言えないけどね…!」
その独り言を聞いて笑いを堪えているのはユミルは
一緒に片づけを手伝い始めていた。
みんなの帰る姿を寂しそうに見つめるアルミンの肩に
手を置きハンジは笑顔で話しかけた。
-
- 258 : 2013/12/24(火) 13:19:59 :
- 「アルミン、今夜、
モブリットと3人で家でクリスマスパーティーしない?
お父さんのエルヴィンが
参加できるかわからないけど…!」
「うん!ハンジさん、ありがとう!」
アルミンはハンジの提案に笑顔で答えていた。
ハンジがアルミンが寂しそうな表情をしていたのは
皆がこれから家族とクリスマスを過ごすのに、
父であるエルヴィンが多忙のため
アルミンが夜は一人になるだろうと想像したためだった。
ハンジとモブリットはアルミンが生まれた頃から知っているため
二人は自分たちの子供のような感じで接していた。
・・・僕は…みんながいるから、寂しくないよ…!
アルミンはリヴァイとユミルを手伝いながら
『自分は一人ではない』ということを噛み締めていた。
-
- 259 : 2013/12/24(火) 13:20:15 :
- ★従業員たちのクリスマス★
クラブ『Flügel der Freiheit』(自由の翼)、
通称『FDF』のその年のクリスマスは特別だった。
リヴァイがDJとしてさらに
人気が急上昇し初めてのクリスマスであり
なおかつリヴァイ自身の誕生日だからだ。
そのためにフロアが慌しくなろうと安易に想像が出来たために
リヴァイはジャン・キリシュタインにクリスマスの繁忙に合わせ
誰かバイトが出来る友達がいないか探させていた。
今回、ジャンは大学の友達のマルコ・ボットを紹介していたが、
フロアでのウェイターの仕事をお願いすると、快諾していた。
「マルコ、今夜はどれだけの客がくるかわからないが、
よろしく頼む!それにここで働く人たちみんないい人だから、
すぐ馴染むと思うよ!」
マルコは最初、緊張したような面持ちだったが、
ジャンのその一言で胸を撫で下ろしているようだった。
営業が始まると、想像以上に女性客が多く、
マルコは驚いていた。
・・・クラブって、比率的に女性が多いのか…?
フロアで女性客の流れを見ていたら、ほとんどリヴァイがいる
ブース近くに集まるのをマルコは驚きながら見ていた。
-
- 260 : 2013/12/24(火) 13:20:30 :
- 「リヴァイさん、すごい人気者だからな!」
驚いて目を見開いていたマルコに話しかけたのは
エルド・ジンだった。従業員であり、ボティガードも兼ねていて
女性客からも信頼も厚かった。またグンタ・シュルツも同様だった。
「今日はよろしく頼む!」
「はい!」
マルコはエルドに元気よく挨拶すると、早速フロアに
ドリンクを運んだり、または片付けたり大忙しだった。
「マルコくんだったよね?今日はよろしくね!
喉かわいたら、遠慮なく水分補給するのよ。
忙しくなったらずっと動いてばかりで、
息をつく暇もなくなるから!」
優しく声マルコに声を掛けたのはユミルだ。
ユミルは夜の営業では女性従業員は一人だけのため
みんなに気配りするのも勤めだと感じて、
新人のマルコにも気を使っていた。
・・・なんだか、ここに勤める人たちってチームワークがあって
みんな『和気あいあい』としてて、いいなぁ…
マルコは短時間だが、従業員たちを見ていると
働きやすい環境だと感じていた。
-
- 261 : 2013/12/24(火) 13:22:18 :
- 「ユミル!お疲れさん。さっき、ハンジに作ってもらったんだ。
今日は食べられる時間があるかわからないし、
隙見て食べるといいよ」
「オーナー!ありがとうございます!」
ユミルに声を掛けたオーナーのエルヴィン・スミスは
クリスマスチキンを始め、片手でも食べやすいような
小さなサンドイッチなど、袋いっぱいの食べ物を
差し入れとして持参してきていた。
「マルコ、今日は忙しいと思うから、
君もつまみながら仕事をしなさい」
エルヴィンはその日のバイトのマルコに笑みを浮かべ
話しかけたその顔はクリスマスの影響で綻んでいた。
いつもの高級スーツはクリスマス仕様で、
ジャケットの襟にはサンタクロースのピンブローチが
輝いていた。
「はい!いただきます!」
マルコはオーナーの差し入れに嬉しくそして
驚きながらサンドイッチを手にしていると、
近くにジャンが近づいてきた。
-
- 262 : 2013/12/24(火) 13:22:30 :
- 「ジャン、オーナーさんからの差し入れだよ」
「おぉ!ハンジさんのお手製だったら、美味いぞ」
ジャンは嬉しそうにエルヴィンが持ってきた
差し入れが入ってきた袋を覗いていた。
「なぁ、ジャン。ここってホントに
いい人いっぱいだな…!驚いたよ」
「だろ?DJになりたかったら、他のクラブもあるけど、
もちろん、リヴァイさんの腕に付いて行きたいのもあれば、
ここの人たちに恵まれていたら、離れなれないよ」
「へーっ!そうなんだ」
ジャンの嬉しそうで楽しげな表情を見ていたら、
夜のバイトとの両立で大学では眠そうな顔を見せる
ジャンだが、その表情を見ていたら
バイトを続ける理由が納得できた。
「だがな…リヴァイさん、厳しい…特に掃除に整理整頓…!」
ジャンはリヴァイがいるブースを眺めていた。
誕生日ということもあり、派手なカッコウをするのかと
ジャンは思っていたが、いつものスタイルに
少しラメが入った黒が基調のネクタイをゆるめにしめているが
クリスマスツリーをかたどったネクタイピンをしていた。
-
- 263 : 2013/12/24(火) 13:22:44 :
- 「リヴァイさんって厳しいんだな…これだけ人気者になるには
厳しい面もなけらばいけないってことか?」
「まぁ…、そうかもしれないな!あ、つまんでいたら、手に油が…!
キレイに洗ってからブースに戻らないとまたリヴァイさんに
何と言われるか…」
ジャンは差し入れをほお張っていたと思ったら、
差し入れを食べて手に付いた油を見て慌てながら、
洗い場に駆け込んでいた。
マルコは元々観察眼に優れており、オーナーのエルヴィンを始め
皆を見ていると、働きやすい従業員同士の繋がりに驚くばかりだった。
・・・みんな、楽しそうに仕事をしているけど、目配せをキチンとして
お客の流れや動きを見ている…よく暗がりで出来るものだな…
マルコはウェイターの仕事をしながら、働く皆が一人ひとりの
役割を果たして皆で『FDF』を営業しているのだと感じていた。
「ねぇ、マルコくん、お酒は飲める方?」
帰るお客をマルコが出入り口に誘導していると、
入り口でチケットや料金をチェックしていたユミルが
話しかけてきた。
-
- 264 : 2013/12/24(火) 13:22:58 :
- 「はい、飲めますが…?」
「またオーナーから差し入れがあって、
低アルコールのカクテルだって!
さすがに普通のお酒はダメだって言っていたけど、
これなら今日はいいんだって!」
ユミルが差し出してきた。普段、お金を扱うユミルのため
仕事中はアルコール禁止にされているのだが、
クリスマスの日のため『低アルコール』は
エルヴィンにより解禁にされていた。
ユミルがマルコにカクテルが入った缶を手渡した。
「メリークリスマース!」
ユミルは笑顔でマルコが持っている缶を軽くぶつけ
乾杯していると、そこにはグンタとエルドもやってきた。
「おおー!ユミル、俺たちにもくれよ!」
ユミルは二人にも缶を配ると再び乾杯をしていた。
「ユミルさん、ジャンやリヴァイさんにも持っていきますね」
マルコが缶を手に取ろうとしたとき、ユミルが手渡したのは
高級茶葉の紅茶のペットボトルだった。
「あぁ、リヴァイはブースに入っているときはお酒飲まないのよ。
たぶん、ジャンと代わるときに飲むはずだから、今は二人には
これを持っていって!
クリスマスだからって、『高級茶葉』を選ぶのはオーナーらしいわ!」
-
- 265 : 2013/12/24(火) 13:23:15 :
- ユミルは手元のペットボトルを笑みを浮かべ見ながら
マルコに渡していた。
「…はい!」
マルコは鋭い眼差しのリヴァイがお茶好きと
利いて目を見開き驚いていた。
マルコがブースに向うと、
女性客がリヴァイセレクトのナンバーに酔いしれて
踊っている姿だった。
クリスマスだからハメを外しているのか、
それとも、リヴァイに踊らされているのか、
マルコはにわからないが踊っている客を見ながら、
リヴァイのDJとしての腕に驚かされていた――
・・・リヴァイさんってすごいんだな…
「ジャン、これオーナーさんからの差し入れの紅茶」
「ありがと、マルコ」
ジャンはマルコからペットボトルを受取ると
誇らしげな顔をしていた。
「ジャン、何だよ!今、おまえがプレイしていないのに
その得意げな顔は!」
「あぁ、この踊っている客を見ろよ!すげーだろ!」
リヴァイがプレイするナンバーに酔いしれる客を目配せしていた。
「確かにすごいな…」
「俺もこんな感じのプレイが出来るようになりたいよ」
ジャンは目を細めながら、客を見ると憧れの眼差しを
リヴァイに注いでいた。
-
- 266 : 2013/12/24(火) 13:23:31 :
- 「俺もいつか、ジャンがこんな感じでお客さんが酔いしれるときを
見てみたいよ!ジャンなら出来る」
「あぁ…!」
ジャンはマルコに励まされたり、後押しされることが多いが
今回もDJとしての後押しをしてくれた。
「それから、俺も…今日だけでなく、しばらくここでバイトしたいんだけど、
やっぱり、それは先にオーナーさんに話を通した方がいいよね?」
ジャンはマルコから『FDF』でしばらくバイトをしたいと聞かされると
驚いて目を見開いていた。
「マルコ、おまえもここが気に入ったか!やっぱり…!」
ジャンとマルコがフロアを見渡すと、
お客が踊る中、エルドやグンタが
ナンパしている客をやんわりとなだめたり
ユミルが女性客と楽しげに談笑していたり、
他の従業員たちも活き活きと勤めていた。
そしてオーナーのエルヴィンはゲイバーのママの
イッコイさんと小(チー)マッコイさんたちと楽しげに
踊っている姿を眺めていた。
・・・ここの従業員はなんだか、みんな家族って感じだな…
ジャンがエルヴィンが踊っている姿を見ると、
今日は話さない方がいいと察知して、
冷静なリヴァイにはマルコのバイト継続の件を話した。
そして次の日、エルヴィンに呼び出されたマルコは
物腰の柔らかい雰囲気から、『FDF』のウエイターだけでなく
カフェ『M&M』のディナーのウエイターとしても
働いて欲しいと頼まれると快諾していた。
晴れてマルコは『FDF』及び『H&M』の従業員となっていた。
・・・なんだか慌しく忙しいクリスマスだったけど、
この出会いは最高のプレゼントだろうな…ありがとう、ジャン!
マルコはジャンにいいバイトを紹介してもらったことで
改めてジャント友達とよかったと感じていた。
-
- 267 : 2013/12/24(火) 13:23:47 :
- ★リコとクリスタとアニのクリスマス★
リコ・プレツェンスカはクリスマスのその日。
仕事が終わると、そのままミタビ・ヤルナッハと
待ち合わせをして、すでに常連になった
リヴァイのDJの師匠でもあるイアン・ディートリッヒが
妻のローズが経営する居酒屋に向っていた。
「ミタビ!今日もリコさんとデートかぁ?
まぁ、クリスマスだからな!」
ドアを開けるとイアンは妻のローズと共に
賑やかな声で迎えてくれた。
イアンとローズはリヴァイとのイベント以来、
居酒屋の客も増え、忙しい日々ではあるが、
二人の仲の良さは増しているようだった。
「今日は付き合って初めてのクリスマスだし、
楽しい時間になるだろうね!」
ローズが笑みを浮かべ二人を見るとリコはとても
幸せに満ちた笑顔をしていた。
いつものカンター席に座ると、二人はメニューをあれこれ
考えていると、突然店内の電気が消えた。
「えっ?何…?」
リコが驚いていると、電気が付いた途端、
ミタビが彼女の手を取り、片膝を付いて
そして真っ直ぐリコの目を見つめていた。
-
- 268 : 2013/12/24(火) 13:24:03 :
- 「リコさん…結婚してください…!」
「えええーー!」
片膝を付いて真っ直ぐな眼差しで
見上げるミタビがプロポーズをすると、
ただリコは驚きの声をあがるだけだった。
「出会って間もないけど、もう僕にはあなたしかいないと…!」
「ミタビさん…こちらこそ、よろしくお願いします…」
リコはメガネの奥の瞳を潤わせながら
ミタビの両手を握りながら返事をしていた。
そしてジャケットの胸ポケットから、
指輪を出してプレゼントしていた。
「ミタビ!おめでとう!まさか、ここでプロポーズするとは驚いたよ!」
「そうね!相談されたときは驚いたけど、
やっぱり、こういう瞬間に立ち会えるのって幸せだね!イアン」
イアンはミタビから初めてのデートの場所で
プロポーズしたいと相談されたとき、
突然のことで驚いていたが、
常連のミタビに幸せになってほしいと一役買っていた。
妻のローズも一緒に手伝うことになったが、
幸せの手伝いが出来ることはさらに
自分も幸せになれる感じがしていていた。
そしてミタビとリコの照れるも満面の笑みを見つめると
ローズとイアンも手を握り合っていた。
-
- 269 : 2013/12/24(火) 13:24:19 :
- クリスタ・レンズは付き合いだして間もない
ライナー・ブラウンとのクリスマスディナーを
カフェ『M&M』のディナータイムで過ごしていた。
「クリスタさん、他のところも考えたけど、
やっぱり、ここしか思いつかなくて…!美味しいし…」
ライナーは初めて来店した『街コン』を含むとすでに
クリスタが4回目の来店のために恐縮していたが、
その申し訳なさそうな顔をクリスタは笑顔で見つめていた。
「いいのよ!私もここ大好きだし、
お店の方たちもいい方だから、
『H&M』でよかったと思うよ!」
クリスタのその明るい声を聞くとライナーは
胸を撫で下ろしていた。
ディナーのテーブル席には
フローテングキャンドルが灯されて
クリスアの頬はセピア色に染めていた。
もちろん、キャンドルはクリスマスらしく
真っ赤なポインセチアがかたどられている。
ハンジとモブリットはライナーから
予約の連絡をもらったとき、出会いのキッカケでもある
『H&M』でさらにクリスマスを過ごすことを知ったとき
手を取り合って喜び、そして最高のディナーを提供しようと
考えていた。特にデザートには力を入れようと誓っていた――
メインディッシュが終わり、そしてデザートの時間になると、
モブリットが二人のテーブル席にプレートを手に現われた。
-
- 270 : 2013/12/24(火) 13:24:36 :
- 「ライナーさん、クリスタさん!お待ちどうさまでした!」
二人の前に置かれたプレートには
粉雪のような粉砂糖がまぶされたガトーショコラに
ホイップクリーム添えられその周りには
ベリー系のフルーツがちりばめられていた。
「うわー!美味しそう!」
キャンドルでセピア色に染まったクリスタの笑顔が
デザートを見た瞬間、紅潮している様子をライナーは
見逃さなかった。
・・・よかった…!やっぱり、ここにきてよかった
ライナーはテーブルに軽く手を乗せていたが、
『ガッツポーズ』の如く拳を軽く握っていた。
そして、チョコレートの甘さで幸せそうな笑みを浮かべ
またベリー系では口をすぼめ、目を閉じるクリスタが
愛おしくてたまらなかった。
「ライナーさんも食べてよ!ホント美味しいから」
「うん…!」
クリスタは始めはしゃべらなかったライナーだったが
話し出すようになると、真面目だけでなく、
ユーモアのある人だとわかると安心していた。
ずっと一緒にいれたら、って思うようになっていたが、
その気持ちはまだライナーにはまだ伝えてなかった。
しかし伝えることをせずとも、ライナー自身、
クリスタを離したくない気持ちでいた。
-
- 271 : 2013/12/24(火) 13:24:47 :
- 「ハンジさん、あの二人ホントよかった…!」
「そうだね!モブリット。私もこの光景を見ていると
この仕事をしていて、幸せだと思うよ」
「…僕もですよ!ハンジさん」
ハンジとモブリットは笑みを浮かべライナーとクリスタが
デザートを食べる姿を目を細め見ていた。
二人は生きがいのある仕事をしていると
普段から実感しているが、自分たちが提供した料理を食べて
幸せそうな客の姿を見ているとさらに充実感で溢れていた――
-
- 272 : 2013/12/24(火) 13:25:04 :
- アニ・レオンハートは行きたい美術館があると
何かと趣味があうベルトルト・フーバーに話すと、
ぜひ一緒に行こうとお互いに決めていたが、
二人の都合のいい日を調整していると、クリスマスになっていた。
マイペースの二人は特に『クリスマスデート』として意識することなく、
お互いの仕事帰りに美術館で直接待ち合わせしていた。
「アニさん、お待たせ!ごめんね、ちょっと遅れてしまって…」
「あぁ、別に気にしないで!閉館まで時間あるから」
ベルトルトは定時に帰れる予定だったが、
急きょ定時前に忙しくなったためにアニを
待たせることになっていた。
二人は美術館に入ると丁寧に一枚一枚、絵画を見て
小声で感想を言いながら前に進むと、閉館間際になっていた。
そして、慌てて美術館から出ると、その前は公園になっていて
噴水には真ん中にはクリスマスらしく
LEDライトの電飾で色とりどりに飾られた
クリスマスツリーが巨人の如く聳え立っていた。
「そっか…今日はクリスマスだね…」
アニがつぶやくように言うと、
ベルトルトは静かにうなずくだけだった。
二人は大きく聳え立つ眺めながら歩いていると、
自然に二人は開いているベンチに座っていた。
いつものように距離を開けたままで。
-
- 273 : 2013/12/24(火) 13:25:19 :
- 「アニさん、大丈夫…?寒くない?噴水のそばだし」
「うん、大丈夫…あ…」
そのとき、アニは噴水のそばであるために
冷たい風が顔をかするとくしゃみが出てしまった。
「風邪引いちゃうよ!移動しよう」
「うん…でも、このキレイなツリーもう少し見ていたい」
「わかった…」
そのとき。アニは距離を開けて座っているベルトルトの肩に
もたれると、静かに抱き寄せられていた。
ベルトルトの顔は照れて真っ赤になっていたが、
いつもクールなアニも自分の行動に頬を赤く染めていた。
そして二人の座る距離も自然に狭くなっていった。
-
- 274 : 2013/12/24(火) 13:25:48 :
- 「アニさん、来年もこうして…美術館きて、ツリーが見られるといいね」
「そうだね…私たちマイペースだけど、こういうのんびりも…いいよね」
二人は見つめあうと微笑んでいた。
そしてベルトルトのお腹が減った音がなると、
続いてアニのお腹の音もなった。
お互いに気恥ずかしくて顔を赤らめると、
ベルトルトは抱き寄せていた肩の手を
アニの髪に移動して撫でていた。
「アニさん、ご飯食べに行こうか…」
「うん、だけど、今日どこも混んでるかもね…!」
「まぁ、仕方ないよ!クリスマスだし」
アニとベルトルトはベンチから立ち上がると、
公園から離れた街中へ食事のために移動することになった。
二人は寒い中、噴水前のベンチに座っていたため
指先がとても冷たくなっていた。
まるでお互いの体温で温めるように
手を繋ぐと、その指先を自然に絡ませていた。
-
- 275 : 2013/12/25(水) 00:44:13 :
- (31)あなたのそばへ…最高のクリスマス
・・・この温かさは…なんだ…でも、肩が冷えるが…?
リヴァイが寝ぼけながらゆっくり目を開けると
膝枕で自分が寝ていることに気がついた。
思わず飛び起きてしまうと、
そこにはペトラ・ラルが笑みを浮かべ
リヴァイ自身を見つめていた。
「ペトラさん、すまない…俺は…」
「気にしないで!お疲れなんですね」
「あぁ…」
リヴァイは連日の多忙で疲れが溜まっていたことと、
そして久しぶりに心からのんびりできる時間のため
眠気に襲われるとそのまま寝込んでしまった。
リヴァイはあくびをすると、目頭を指先で押えていた。
-
- 276 : 2013/12/25(水) 00:44:26 :
- ・・・この後、どこ行こうか…なんだか、この時間は悪くないな…
リヴァイはベンチの背もたれに手を伸ばし、
ペトラを横目に見ると鼻で笑っていた。
「ペトラさん、俺…ここ気に入った。また来よう」
「はい…!」
リヴァイはベンチに座りながら木々の合間から見える
空を見上げていた。曇り空でさらに冷え始めたようだが、
ペトラは自分が連れてきた
『植物園』がリヴァイが気に入ってくれて
気持ちは晴れ晴れとしていた。
「ペトラさん…冷えてきたし、風邪引いたら大変だ。
今からまた俺の部屋に来ないか?
ワンパターンで悪いが、温まれる場所が他に思いつかない…」
「もちろん!ぜひ、リヴァイさんのお部屋で…」
ペトラはリヴァイの部屋のまた行けるかと思うと、
胸の高鳴りが押えられなかった。
そして二人は寒い中、帰路に付く途中
何を食べるか考えていると、寒いために
『きのこのクリームシチュー』を作ることを決めた。
途中のスーパーで買い物していると、ペトラは
まさかリヴァイと買い物が出来ると思っていなかったため
ただ幸せな気持ちに浸っていた。
-
- 277 : 2013/12/25(水) 00:44:46 :
- ・・・リヴァイさん…こんなに真剣に食材を選んでる…!
またリヴァイが野菜などの食材を一つ一つ手にとり
丁寧に確認しながら、買い物カゴに入れる姿を
ペトラが見ていると、細かい様子に驚くも可愛らしく感じていた。
そしてリヴァイの部屋に到着すると
二人して小さなキッチンではあるが
『きのこのクリームシチュー』を作り始めた。
「リヴァイさん、包丁を扱うの上手…!しかも手早い!」
ペトラを驚かせたリヴァイの包丁さばきは
あっという間にまな板の上の
マッシュルームやきのこ類を均等に
スライスさせていた。
「あぁ…削ぐのは慣れだ」
そういうと、また他の野菜を斜めにあっという間に薄く切っていた。
「出来た…」
「リヴァイさん、やっぱり料理も早い!私は何もしてないよ!」
そして二人で初めて作ったシチューを皿に盛り付けると
ペトラがテーブルに並べていた。
「いただきます…!」
ペトラが熱々のシチューを口にすると、
美味しさで微笑んでいた。
-
- 278 : 2013/12/25(水) 00:44:59 :
- ・・・やっぱり、この笑顔…ずっと見ていたな…
リヴァイは自分が作ったシチューを味会うよりも
ペトラの笑顔の方が気になり口角を上げいていた。
そして食べながら、来るクリスマスの話題になっていた。
「リヴァイさん、クリスマスはやっぱり『FDF』は忙しいの…?」
「あぁ、そうだな…稼ぎ時であり、
俺の誕生日で客が増えちまう…」
「えっ?」
ペトラはまさかクリスマスがリヴァイの誕生日だとは
思っていなかったために驚いた眼差しを注いでいた。
・・・リヴァイさん目的のお客さんも多いんだよね…
ペトラはクリスマスが二人だけで過ごせないのは
自分自身も忙しいためムリだろうと思っていたが、
現実的に難しいと思うと、伏目がちになっていた。
「ペトラさん、仕事が終わったら『FDF』に来たらいい」
「いいの…?」
「ただ…忙しいから、まともに話せるかわからないが」
リヴァイはシチューを手を伸ばしながら、
忙しいながらもクリスマスにペトラに会いたい、
そう願いながら誘っていた。
-
- 279 : 2013/12/25(水) 00:45:14 :
- 「わかりました…その日遅い時間からに
なっちゃうかもしれないけど…!」
ペトラのその返事を聞いたリヴァイは鋭いながらも
柔らかい眼差しを注いだのは安堵したからだった。
その日もリヴァイは翌日が仕事のペトラを思うと
早めに帰していたが、
二人はずっと一緒にいたい気持ちを堪えていた。
そしてクリスマス当日。
『FDF』は相変わらず大入りで、
クリスマスのためというよりも
リヴァイの誕生日が優先しているようで
まるで『誕生祭』のように盛り上がっていた。
「リヴァイ!誕生日おめでとう!」
「ねー!帰りはどこか行こうよ」
「リヴァイは私と帰るの!」
ブースの前で踊っているリヴァイ目的の
女性客たちは踊りながらもリヴァイを誘っていた。
・・・まったく…ジャンと代わりたいのだが…
いつもなら、リヴァイはタイミングを見てジャンに
DJを代わるのだが、この日ばかりはリヴァイが
中心になってプレイしていた。
そして、25日が終りそうな時間になると、
残業を終えたペトラがフロアの出入り口に現われた。
「間に合ったけど…この時間でもこんなに盛り上がっているって
やっぱり、リヴァイさんの誕生日の影響かな…」
ペトラがフロアの入り口に立つと、
その日の客がほぼ女性で、しかもブース近くで
踊っている姿を見ると、驚くと同時にリヴァイと
話せないかもと感じると寂しさを覚えた。
・・・ペトラさん、きたか…
リヴァイは踊る女性客の合間の向こう側にペトラを見つけると
簡単にそばに行けないことが歯がゆかった。
その表情をそばで見ていたジャン・キリシュタインがリヴァイの目線を追うと
ペトラに気づいた。
・・・ペトラさん、来ているか…俺も何か協力できないか…
ジャンはペトラのことを気にかけながらもフロアを
盛り上げないといけないリヴァイを見ていると、
行動に出ることにした。
「リヴァイさん、ちょっと外します」
「おい…!」
リヴァイは突然ブースから離れるジャンに舌打ちするが、
プレイはもちろん続けていた。
そしてクリスマスのバイトに来ていたマルコ・ボットに話しかけた。
「おい…マルコ、あのブラウンのショートヘアの女性客いるだろ…?」
ジャンはマルコにペトラについて説明すると、
リヴァイと話せるまで絶対に帰すな、
ということを伝えていた。
-
- 280 : 2013/12/25(水) 00:45:30 :
- 「あぁ、わかった!ペトラ…さんをとにかく、
カウンターに座ってもらうよ」
「頼んだぞ!マルコ」
「了解!」
ジャンはマルコにペトラのことを頼むとまたブースに戻っていた。
・・・まったく…ジャンの野郎、この忙しいときに何してやがる…
リヴァイはペトラのことを気にしつつ、
盛り上げそして、フロアの女性客の視線を浴びていた。
ペトラはマルコに誘導されカウンターに座ると、
リヴァイに視線を送っていた。
・・・ホント大人気だな…私が入れる隙はあるのかな…
大人気のリヴァイを見ていると、ペトラは不安になってきていた。
その手には誕生日でもあり、クリスマスでもあるために
リヴァイのために選んでいたプレゼントが抱えられていた――
ペトラの目の前にはクリスマスカラーの赤く、
ストレベリーの味がするロンググラスのカクテルが出された。
コースターは緑でクリスマスカラーにまとめられていた。
-
- 281 : 2013/12/25(水) 00:45:44 :
- 「美味しい!『FDF』はカクテルも美味しいんですね!」
そのカクテルをペトラに出したのはオーナーのエルヴィン・スミスであり、
ペトラのことを気にしているリヴァイを考えると、
この日ばかりは手助けしてあげたいと思っていた。
「ありがとうございます…!でも、
今日はリヴァイ人気の頂点のようなもので、申し訳ない…」
「いいえ、気になさらないでください!」
エルヴィンに笑顔を向けるペトラに気づいた
ゲイバーのママのイッケイさんと小(チー)マッコイさんは
クリスマス仕様の着物とドレスを身にまとい近寄ってきた。
「何よ…あなた、可愛い顔して、エルヴィンに近寄る気?」
「そうよ!あなたはエルヴィンの渋さを知るには早すぎるわ」
イッケイさんとマッコイさんのつけ睫が
まるでバサバサと音を立てていそうな眼差しが
近づいてくると、ペトラは顔を引きつらせるだけだった。
-
- 282 : 2013/12/25(水) 00:46:07 :
- 「もう…ママたちは…」
エルヴィンは二人の間に入ると肩を組みながら
二人を抱き寄せた。
「まったく…何度言わせれば気が済むんだ…
俺はママたちだけだって…」
エルヴィンは甘い声を二人の耳元ささやき、
そして語尾に力を入れるとさらに甘い声が響き
二人のママの心を鷲づかみにしていた。
「もう…エルヴィン…私たちをどうにでもして~!」
イッケイさんとマッコイさんは甘い声に頬を赤く染め、
エルヴィンは両腕をつかまれ連れ去られると、
3人はフロアに吸い込まれるように消えていった。
「ビックリした…!オーナーさんもすごい人気だな…」
グラスを口に寄せるペトラはリヴァイを見つめるが
リヴァイの『誕生祭』で盛り上がるフロアは冷める様子はなかった。
ブースからは離れられないものの、ペトラを気にするリヴァイの
代わりにまたジャンが近寄り様子を伺うことにした。
-
- 283 : 2013/12/25(水) 00:46:22 :
- 「ペトラさん、すいません…今日はすごく混んでいて」
「いいえ、私は大丈夫ですよ」
ペトラが笑顔で答えるが、
その手にプレゼントが
抱えられていることにジャンは気づいた。
・・・どうにか、二人だけにさせないと…そうだ
ジャンがペトラがカクテルを飲み干すと、
ペトラを連れ出すため、二人で移動し始めた。
その光景を見ていたリヴァイは舌打ちをした。
・・・ジャンの野郎…ペトラさんをどこに連れていきやがる…
ジャンはペトラをイベントのときに連れて行った
従業員専用のロッカールームにしばらく居る様に願っていた。
「ペトラさん、殺風景なところで悪いけど…
あとでリヴァイさんも来ると思うのでしばらく待っててもらえますか?」
「…はい!」
ペトラはロッカールムにある椅子に腰掛けるとリヴァイを待つことにした。
ジャンを見送ると、思わずペトラは独り言が出た。
-
- 284 : 2013/12/25(水) 00:46:41 :
- 「なんだか…『FDF』の皆さんに気を使ってもらってるみたい…」
ペトラは頬を赤らめると、大事そうにリヴァイに渡す予定の
プレゼントを抱えていた。
そしてブースに戻ったジャンはリヴァイにすかさず耳打ちした。
「ペトラさんがロッカールームで待っています」
「何…?」
リヴァイは鋭い眼差しをジャンに注ぐも
口角は上がっていた。
「ジャン、しばらく頼む…」
リヴァイがブースから離れるとブーイングが起きると思いきや
長時間ブースに立っていたため、
リヴァイの目的の女性客はさすがに察していた。
もちろん、すぐ戻ってくるだろうと…。
そしてリヴァイがペトラの待つロッカールームのドアを開けると、
ペトラがまるで、やっと会えた!
と言わんばかりに輝く眼差しを注いでいた。
・・・ペトラさん、そんな眼差しで…
リヴァイはペトラに輝く眼差しで見られると、伏目がちになった。
-
- 285 : 2013/12/25(水) 00:46:58 :
- 「リヴァイさん、忙しいときに迷惑だった…?」
「いや、こちらこそ、申し訳ない、全然話せなくて」
「いいの、私は会えただけで…」
ペトラはリヴァイの前に立つと頬を赤らめていた。
「あ、それから…お誕生日おめでとう…
そして、メリークリスマス…!」
ペトラは耳まだ赤くして、リヴァイにプレゼントを差し出していた。
「俺の…ために…?ありがとう…」
リヴァイが小さなプレゼントの箱を開けると
ネクタイピンにもなるジャケットのピンブローチだった。
それは片翼がクロスしたようなシルバーのピンである。
「ほう…悪くないな、これ」
リヴァイは口角を上げ、気に入ったために
クリスマス用にクリスマスツリーの
ネクタイピンをしていたが、それを外してポケットに入れると
ペトラからもらったピンを
早速、ネクタイに装着していた。
-
- 286 : 2013/12/25(水) 00:47:33 :
- 「よかった…リヴァイさん、似合う…」
「あぁ…」
リヴァイがネクタイを結び直しながら
ペトラを見つめると沈黙が出来た。
そしてそのまま何も言わずに
リヴァイはペトラの手を引き寄せ抱きしめた――
「リヴァイ…さん?」
ペトラも自然にリヴァイの背中を抱きしめていた。
「俺は何も用意していないが…すまない」
リヴァイに抱きしめられるペトラは
潤んだ瞳で見つめていた。
「いいの…私は会えるだけで――」
リヴァイはペトラが話しかけた途中で
話を遮るように唇を重ねていた。
・・・リヴァイさん…!
そして、ペトラの潤んだ唇から離れると
「これからは…俺に何も遠慮することはない…
それに、俺も『ペトラ』と呼び捨てにしていいか…?」
鋭いながらも、優しい眼差しをペトラに向けると
ペトラはうなずくだけだった。
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- 287 : 2013/12/25(水) 00:47:54 :
- また『遠慮するな』と言ったのは、リヴァイは
過去にお互いに遠慮し過ぎて失ったローズのことがあり、
自分の大事な人にはこれから遠慮は無用だと感じていた。
そしてリヴァイは何かを思い出したように
自分のロッカーに行き自分の荷物を探っていた。
「今、あげられるのはこれくらいか…」
リヴァイが差し出したのは自分の部屋の合鍵だった。
「俺のアパートの部屋…道順、覚えているよな?待っていてくれ」
「うん…リヴァンさん…!」
ペトラはカギを抱きしめながら、リヴァイを見つめていた。
「そんなに大事そうに抱えなくてもいいだろう」
「だって…嬉しくて…」
ペトラが愛しむような眼差しをリヴァイに送ると
再び抱きしめた。
「遅くなるが、待っていてほしい、いいな?」
「…うん」
フロアにリヴァイの背中を送ると、
ペトラはそのままリヴァイの部屋に向うことにした。
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- 288 : 2013/12/25(水) 00:48:25 :
- そしてブースに戻ってきたリヴァイを見ると
ジャンはネクタイピンが変っていてさらに
口角が上がりっぱなしの未だかつてない
見たことないリヴァイがそこにいた。
・・・リヴァイさん、絶対いいことあったな…!
「リヴァイさん、いいネクタイピンですね!」
リヴァイは舌打ちするが、
ジャンに鋭い眼差しを送っていた。
「ジャン…手間取らせたな…」
「はい…!」
ジャンはそのリヴァイの声を聞くと、
ペトラをロッカーに連れて行ってよかったと改めて思った。
そして営業時間が少し過ぎた頃になると、
しぶしぶ女性客たちは帰っていった。
「もう…リヴァイともっと一緒にいたかったのに…」
「すまないが…また待っている、今日はありがとう」
リヴァイは皆にお礼を言うとブースの片付けに入った。
「リヴァイさん、今日はマルコもいるし、俺たちでやりますから…」
ジャンはきっとペトラが待っているだろうと察していた。
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- 289 : 2013/12/25(水) 00:48:45 :
- 「そうか…あとは頼む」
・・・ペトラ、待っていてくれ…
リヴァイはジャンからそう言われると、珍しく素直に聞き入れ
自分の荷物を手に取るとアパートに家路へとついた。
早く帰りたいのだが、まだ女性客が残っているため
この日は念には念を入れ客を遠回りをして帰宅していた。
・・・リヴァイも…幸せを手に入れたか…
エルヴィンは営業終了の片づけをしながら
足早に帰るリヴァイを見ると自分のことのように
笑みを浮かべ喜んでいた。
・・・やっぱり、俺はここしかないか…
エルヴィンが自分の仕事を終え
ショットバー『ザカリアス』のドアを開けると、
バーテンダーのミケ・ザカリアスがすでに
ウイスキーのロックを出せる準備をしていた。
「エルヴィン、今年も来ると思っていた」
他の客はすでに帰っていて、エルヴィンは
カウンターに誘導されていた。
「ミケ、今年『も』とはなんだ」
不機嫌な表情でグラスを持つと二人で乾杯していた。
「まぁ…毎年、無事にここまで過ごせていいじゃないか」
「確かにな…ミケ、これからもよろしくな」
「あぁ…」
エルヴィはその年あった出来事を振り返りグラスを傾けていた。
クラブ『Flügel der Freiheit』(自由の翼)を始め、
働く皆と共に過ごせた日々に思い馳せながら飲み干していた。
年明け、ミケと築いた友情に亀裂が入りかねない
火花を散らすようなことが起きるとは知らずに…。
第2章へ続く
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- 290 : 2013/12/25(水) 00:50:09 :
- ★あとがき★
現パロは初挑戦のために何を舞台にしたらいいか
アイディアが浮かばなかったのですが、
リヴァイは『手先が器用』というイメージからDJとして
描いてみました。
『進撃の巨人』で部下をかばい巨人に喰われる
イアン・ディートリッヒは見ていて
無念の感じがしてならなかったため
ぜひ私のSSではカッコよく復活して欲しいと
思いリヴァイの師匠になってもらいました。
またDJイアンとリヴァイがDJプレイをしている
モデルは「DJ Akakabe」という実在するDJです。
YoutubeでDJプレイの参考のため色んなDJをチェックしましたが、
DJ Akakabeはイアンに何となく似ているだけでなく、
プレイもカッコよくてぜひに!と思い参考にさせて頂きました。
ちなみにエルヴィンのスーツ姿の
モデルはドラマ相棒の『神戸猛』(ミッチー)です。
第2章はまた年明けから続けていきます。
命を落としたキャラたちにはまたまた活躍してもらいます!
リヴァイの誕生日のクリスマスまでに
第1章を仕上げることが出来てよかったです。
長文で読みづらい点や誤字脱字が相変わらず多く申し訳なかったです。
これからもよろしくお願い致します。
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