このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
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Ever Lasting Story
- 進撃の巨人 × ホラー
- 2262
- 40
-
- 1 : 2015/05/27(水) 00:18:01 :
- 第57回壁外調査が終わった
女型の巨人の捕獲に失敗
人類の希望とも言えるリヴァイ兵士長の負傷
それに伴った損害は、多大な犠牲を払い、大勢の兵士を切り捨てた割には合うとは言い難いものだった
そして、自らの選択により仲間を失った彼にも、辛い現実である
(あの時、俺が選択を間違わなければ···!)
悔やんでも悔やみきれない
出来ることなら時を戻したい
「くそっ!」
壁に拳を叩きつける
「エレン」
扉の外からリヴァイの声
気が高ぶっていて足音に気づかなかった
-
- 2 : 2015/05/27(水) 20:15:28 :
- 「随分と荒れてるじゃねぇか」
扉越しのその声はいくらか覇気がないように思える
「兵長…」
「入るぞ」
返事をする間も無く扉が開かれた
「…酷い有様だな」
無意味に開け放たれた引き出し
無造作に投げ出された衣類
普段のエレンからは考えられない状況
「すみません…すぐに片付けます」
「………」
生気のこもらない声で返事をし、ただ淡々と物を拾い淡々と元に戻す
機械で決められたような動き
「いや、片付けは後でいい。
お前は一度この部屋から出ろ」
「しかし…」
「これは命令だ。さっさと切り替えろ」
エレンはわかっていた
リヴァイ自身、まだ完全には吹っ切れていないということを
にも関わらずそれをおくびにも出さない
エレンへの気遣いでもあるだろう
しかし、エレンはこれが“人類最強”を背負う者なのだと悟った
これ以上気を遣わせたくないし、気遣いを無駄にもしたくない
「わかりました…」
素直に頷き、部屋を後にする
-
- 3 : 2015/05/27(水) 21:28:57 :
- 気晴らしといっても動けるのは、ここ旧調査兵団本部内だけ
初めて訪れた時の掃除でほぼ全ての部屋を見た
特に行くあてもなく、何も考えずに歩く
足取りはおぼつかず、目線も定まらない
今のエレンは精神的に相当病んでいる
後悔や自責の念から無意識に行動し、先ほどの部屋も気がつけばあんな状態だった
どれほど時間が経っただろうか
我に帰ったエレンの目の前には、これまで一度も見たことのない扉が立ちはだかっている
「ここどこだ?こんな扉みたことないぞ…」
後ろを振り返ってみるが、階段があるだけで現在地を示すものは何もない
早いうちに戻ろうかと考えたが、せっかく自由に出歩ける機会をもらったのだ
気晴らしにはちょうどいい
ギィィィィ…
扉は耳障りな音をたて、ゆっくりと開く
-
- 4 : 2015/05/28(木) 05:24:03 :
- 中は薄暗く、壁に一つだけ設えられた蝋燭でかろうじて図書室だと分かる
「埃とカビ臭いな…」
カビは見る先見る先に生えている
ジメジメしていて今にも床が抜けそうだ
潔癖のあの人が見たらどうなるだろうか
-
- 5 : 2015/05/28(木) 19:43:02 :
- 本棚には沢山の書物が、誰の手にも取られたことがないかのように並んでいる
埃をかぶり、呼吸をするだけでむせ返る
どの本も一様に状態は酷かった
表紙は破れ、文字が消え、とても読めたものではない
いつからあるのか、なんとも判断のつかないベタベタした物質が付着しているものもある
(早く出ないと病気にでもなっちまいそうだ)
踵を返し、足を踏み出そうとした瞬間
一冊の本に目が止まった
-
- 6 : 2015/05/28(木) 21:27:16 :
- 入ってきた時は気づかなかったのだろうか
そう高くない棚の上にひっそりと横たわる白い本
題名も著者の名前も書かれていない
長年の劣悪な環境によりインクが抜けてしまったのか
違う
その本は、この世界に存在するどの書物よりも新しく見えた
純白と呼ぶに相応しい白
表紙を見た限りでは傷みもシミもない
埃一つ寄せ付けない“それ”からはとてつもない力が感じられる気がした
一歩一歩近づき、その白さに逡巡しながらも手に取った
「軽いな…」
大きさはアルミンが持っていた外の世界について書かれてた本と同じくらい
ページを捲る
「なんだこの本…。何も書かれてない」
その次のページにも、最後のページにも文字一つない
「本じゃなくててちょうなのか?
それにしては大きいし分厚すぎる」
-
- 7 : 2015/05/28(木) 23:22:56 :
- そっと、一ページ目に触れる
その途端
「なんだよ…これ…!」
水が滲み出るように文字が浮かび上がってきた
あなたは主として認められました
この瞬間から、この本はあなたのものです
「主?認められたってどういうことだ?」
他のページにも触れてみるが、何も起こらない
「俺のものって言ってもこんなにでかい手帳いらねぇよ…」
そもそもエレンは監視を受けている身だ
外部からこんな得体の知れないものを持ち込めるはずもない
「そのままにしておくか」
棚の上に戻し、自分の帰るべき場所である地下室へと道を急いだ
-
- 8 : 2015/05/29(金) 05:32:03 :
- 最初は迷ってしまったのかと一抹の不安を覚えたが、階段を登った先にある扉を開ければよく知った廊下に出られた
その扉はうまい具合に棚の後ろに隠れていて誰も気付けなかったらしい
リヴァイが片付けてくれたのだろう
散乱していた衣類は元の場所に収まり、あれほどジメジメと埃臭かった部屋が今では驚くほど清潔感に溢れている
(お礼、言わないとな)
不器用だが誰より仲間思いな上官に感謝した
その直後
-
- 9 : 2015/05/29(金) 19:47:48 :
- 「なんで…だよ…」
つい先ほど放置してきたはずのあの白い本がエレンのベッドに
「い、いや…きっとリヴァイ兵長が気を遣って置いていってくれたんだ」
歩み寄り眺める
どこをどう見ても文字がない
こんな本が世界に二つとあるだろうか
恐る恐るページを捲る
「嘘…だろ?」
あなたは主として認められました
この瞬間からこの本はあなたのものです
見間違いなどあり得ない
最初のページに、くっきりと浮かび上がる文字
「なんで…!」
困惑、焦燥、恐怖
ありとあらゆる感情がエレンを取り巻く
「本が勝手に動くなんて…!」
とにかくリヴァイに報告しよう
そう判断し、本を手に取った
次の瞬間
「!?」
立体機動でも感じたことのない浮遊感
足が地から離れるような感覚
そして・・・・・
エレンは屋外にいた
3年間訓練を共にした愛馬に跨り、幼い頃からの憧れであった自由の翼をなびかせ、巨大な木に囲まれた一本道を
失ったはずの仲間とともに
-
- 10 : 2015/05/29(金) 23:33:39 :
- 後方には通常の巨人とはかけ離れたフォームで走る女型の巨人
「どうなってるんだ!?」
戸惑うエレンの耳に聞こえてきたのは、もう二度と聞けるはずのなかったあの人たちの声
「兵長!」
「指示をください!」
「このままじゃ追いつかれます!」
「ヤツを仕留める!その為にこの森に入った!そうなんでしょ!?兵長!」
未知の敵を恐れ、指示を仰ぐリヴァイ班の班員たち
(さっきのことは夢だったのか?)
そう疑いたくなる
だが違う
エレンは確かにこの先に続くやり取りを知っている
このまま進んだ結末も
-
- 11 : 2015/05/30(土) 08:16:44 :
- リヴァイが音響弾を撃った
つん裂くような音に耳を塞ぎつつも、目の前の光景を理解するだけで精一杯だ
「お前らの仕事はなんだ。
その時々の感情に身をまかせるだけか?
そうじゃなかったはずだ。
この班の使命はそこのクソガキに傷一つつけないよう尽くすことだ。
命の限り」
冷静な言葉に、班員の間にも落ち着きが戻る
だがその言葉はエレンを余計に混乱させた
(俺は確かにさっきの言葉を聞いた…。次に何が起こるかも手に取るようにわかる)
「俺たちはこのまま馬で駆ける。いいな」
「了解です!」
-
- 12 : 2015/05/30(土) 10:35:09 :
- 同じだ
勘違いのはずがない
思わず後方に迫る女型を顧みた
「エレン!前を向け!」
「歩調を乱すな!最高速度を保て!」
言葉のタイミング、緩急、強弱
何から何まで変わらない
まるで同じ時間を追体験しているようだ
現実味なんて全くない
しかし死に行く兵士たちの声は生々しく、深く突き刺さる
その感情さえもすでに知っている
状況など判断できるはずもない
エレンは確かにあの時と同じ時間の中にいる
だが、全てが同じになるわけがない
現に今のエレンには足止めの為に命を落とす仲間の心配や、ただ馬で駆けるというこの状況を理解する余裕などない
ひたすら困惑し、巨人化しようともしていない
ならばこの先はどうなるのだろうか
一つの歯車が狂えば、全体の歯車も全て狂う
これから見る未来は過去とは違うものになるだろう
-
- 13 : 2015/05/30(土) 19:24:04 :
- 放心状態で駆けるエレンに、ペトラの声が
「エレン…信じて」
その言葉を聞き、ずっと脳内を占領していた恐怖や困惑が霧が晴れるかのように引いていく
(この状況がどうだなんて関係ない。
とにかく俺はこの先を知っているんだ。
ならいつまでも迷ってる場合じゃない!)
エレンはペトラの瞳を真っ直ぐ捉え、
「俺は皆さんのことを信じています」
「エレン…」
安堵の表情を見せる仲間たち
しかし、それは束の間の喜び
「それでも、俺は…」
「……!」
「戦います!」
迷いはない
左手を口元に運び、噛み付く
凄まじい爆発音
衝撃波
何もないはずの虚空から肉体が精製される
肉塊はやがて四肢となり、次の瞬間には15メートル級の巨人が現れる
雄叫びをあげながら女型の巨人に殴りかかる
-
- 14 : 2015/05/30(土) 22:59:58 :
- 残された班員たちは、女型に向かうエレンを呆然と見ていた
そして唐突に我に帰る
「どうして…」
彼等からすれば信頼を得られなかったも同然だ
皆一様に悲哀や憤りの入り混じったような表情を浮かべている
誰かが動いた
「お前ら、立体機動にうつれ」
リヴァイだ
誰よりも早く状況を判断し、的確に指示を出す
「あの巨人は立体機動を熟知してやがる。
本体にはできるだけワイヤーを刺すな。
戦闘に巻き込まれない程度に援護しろ。
考え事はその後だ」
四人とも今やるべきことを理解した
「早まったことしやがって。
チッ…仕方ねぇな。
あのガキの落とし前は俺がつけてやるか」
颯爽と馬から飛び降り、立体機動にうつる
後に続くようにエルド、グンタ、ペトラも飛び立つ
-
- 15 : 2015/05/31(日) 05:47:01 :
- エレンと女型は激しい戦いを繰り広げている
いくら精鋭といえども、二体の間に入ることは自殺行為だ
立体機動で女型を撹乱しつつ、程度に距離をとる
僅かな隙を見つけ、視界を奪い、ダメージを与えていく
明らかに女型の劣勢だ
(勝てる…!リヴァイ兵長と兵長が選んだ巨人殺しの達人集団だ。これならもう負けない!)
勝機を見出しながらも、気は抜かない
相手は何人もの兵士を殺したのだ
さらに、もう二度と仲間を失いたくないという思いが、エレンにより研ぎ澄まされた拳を繰り出させる
-
- 16 : 2015/05/31(日) 17:21:31 :
- 女型はもう限界に近い
立体機動での攻撃により視界はなく、足の腱もやられてしまった
今では背を大木に預けている
「エレン!今のうちに中身を引き摺り出せ!」
オルオ
「生け捕りにできるな!?」
エルド
「最後まで気を抜くな!」
グンタ
「エレン!」
ペトラ
彼等の声が聞こえる
それだけで充分だった
たとえ責められようと、信頼を失おうと、彼等が生きているだけでいい
過ちを償えるならそれでいい
女型の肩を掴み、あの時女型がしていたように、口を裂けるほど大きく開く
うなじをかじり取ろうとした、その時
-
- 17 : 2015/05/31(日) 20:42:33 :
- 大気を揺るがすほどの叫び声
迂闊だった
女型の能力
全てをなげうつ覚悟の叫び
声が収まり、鋭く耳障りだった耳鳴りも鳴り止んで来た頃
もうすでに巨人の足音が聞こえてくる
とても数え切れない
「なんだ!?地震か!?」
「…いや違う!これは!」
「森の中に巨人が!」
「そっちだけじゃねぇ!あっちからもだ!」
樹木にアンカーを刺し停止していたリヴァイは女型を睨み言った
「てめぇ…なんかしやがったな」
女型は動かない
チッ…と小さく舌打ち
すぐさま立体機動を再開する
「エレン、女型の中身を早急に出せ。
お前らは巨人の討伐に集中しろ」
「了解しました!」
それぞれが方々へ散って行く
-
- 18 : 2015/06/01(月) 13:56:57 :
- 言いようのない不安にかられた
このままでは、また繰り返してしまう
(いや、落ち着け!目的は女型の中身を捕獲すること。なら俺がさっさとやっちまえばみんなで撤退できる!)
急いで女型を喰らおうとした
だが
(な…!?)
体が宙を舞っていた
焦って気付けなかったが、女型が腱を損傷してから随分経っている
回復した足でエレンの腹部に蹴りを入れる
エレンは状況判断力を欠き、防ぐことすらままならなかった
地面に叩きつけられる体
(くそっ!油断した!だが、勝機はまだある!)
すぐさま体勢を立て直し、臨戦態勢に入る
はずだった
(!?)
立てなかった女型の叫びを聞き寄ってきた巨人のうち、何体かはエレンをも標的とみなし群がってくる
(このっ…!)
次から次へと止めどなく増え続ける巨人
一体引き剥がせば三体が群がり、それらを片付ければ十体に囲まれ
イタチごっこ
もっとタチが悪い
エレンの体力は消耗する一方だ
女型は体の大半を食われ、濛々と蒸気を立ち昇らせている
必死に抵抗を続けるエレンの目に映ったのは
ビチャッ
紅い鮮血
-
- 19 : 2015/06/01(月) 20:55:57 :
- 襲い来る巨人の多さに、ガスは目に見えて減っていく
完全に使い果たし、落下するグンタ
「くっ…!」
女型の元へ押し寄せる巨人に踏み潰され、蹴り飛ばされ、千切れる体
「グンタぁ!!」
ペトラの悲痛な叫びが聞こえた
エレンは足掻くことをやめた
動けなかった
グンタがガス欠を起こしたということは、他の班員たちも…
「ガスがもうない!」
「巨人が多すぎる!防ぎきれねぇ!」
「命に代えてもエレンだけは守れ!」
死の淵に立たされながらも気高き兵士たちはエレン、人類の希望の為に戦い続けた
エレンの脳裏に蘇る彼等の最期
(もうこれ以上失ってたまるか!)
力を振り絞り、巨人を薙ぎはらう
しかし、間に合わないことは明白
巨人化にも限界がきている
このまま突っ込んだところで、結果は変わらない
それでも尚、雄叫びをあげながら奮迅する
「………………………」
静かな風切り音
うなじを削がれる感覚
黒髪の巨人は主を失い、肉塊へと化す
薄れ行く意識の中で、誰かに抱えられ空へと浮かんだことがわかった
(きっと…リヴァイ兵長だ…。
巨人たちを全部、駆逐して…俺を…)
散らばりかけた自我を掻き集め、仲間の無事を確認するため目を開ける
「…!」
エレンを抱えているのは確かにリヴァイだ
しかし、その表情は…………
後方を見た
誰もいなかった
グンタだけでなく、エルド、オルオ、ペトラも
また守れなかった
そう悟ったとき、堪えていた何かが切れたように意識が遠のいた
-
- 20 : 2015/06/01(月) 23:18:38 :
- 「……っ!?」
目が覚めた
そこは旧調査兵団本部の地下室
自分の部屋
手には白い本
抱える腕が震えている
大量に汗をかき、急激な目眩
「なん…だったんだ…」
夢を見たのか、理屈では説明できない何かを体験したのかはわからない
ことの元凶であろう本を眺めた
「?」
かすかな違和感
さっきまでとは何かが違う
ページを開くと相変わらずそこにある文字
もう一ページ捲る
「!?」
何もなかったはずの白紙のページに突如として描かれた物語
絵本のように挿絵がある
しかしそれは絵と言うにはあまりにもリアルで、まるで流れる時間の一コマを切り取ったような描写、人物の表情
描かれている絵も、内容も、先ほどエレンが迷い込んでしまったあの世界と瓜二つだ
「なんだよ、この本…!」
気味が悪くなり、ふらふらとした足取りで部屋を出た
わからない
わからないことだらけだ
さっきまでのことは何だったのか
あの本は何なのか
そして、どの世界が現実なのか
「頭がおかしくなっちまいそうだ…」
ひたすら足を動かし地上への階段を登る
-
- 21 : 2015/06/02(火) 20:25:36 :
- 息を切らせ、肩を弾ませながら食堂に向かう
コップを手に取り水を注いだ
うまく入れられずに、少し溢れた
飲む間も、何度か溢した
(綺麗に拭かないと…リヴァイ兵長に怒られちゃうな…)
そう思った矢先、食堂の扉が開いた
「リヴァイ兵長!」
「ここで何をしている」
機嫌が悪そうに問いかけるが、これが彼の平常運転
「い、いえ…水を飲もうと…!」
そこまで言って気がついた
「兵長!無理に動かないでください!」
「あ?」
リヴァイは足を怪我してしまっている
何ともない顔をしているが、相当な痛みがあるはずだ
「何か用があれば俺に…って俺は地下室か…」
一人悶々と思案する
その様子を見つめるリヴァイはある種の困惑した顔を浮かべている
「お前、さっきから何を言ってる」
「え?ですから、兵長は怪我を…」
「…エレン、お前はまだ寝ぼけてやがるのか?」
「はい?」
どういうことなのか
リヴァイは確かについさっきまで足を引き摺って歩いていた
今更怪我を誤魔化そうなどとするはずもない
「ですが…っ兵長は女型からミカサを庇って…!」
「ミカサ?…お前の馴染みのことか」
記憶をたどったのちの答え
「馴染みのことかって…二人で俺を助けてくれたじゃないですか!」
それを聞き、眉間の皺が深くなった
「それはいつの話だ。
俺がお前の馴染みに会ったのは審議所が最初で最後のはずだが」
「え!?」
もうわけがわからない
何を信じてどうすればいいのか
その答えを持つものはどこにもいない
この状況でエレンに考えられる可能性は一つ
(さっきまで感じていたものが現実で、兵長が怪我をした方が幻?)
頭を押さえ苦しそうに顔を歪めるエレンに
「エレン、お前には休息が必要だ。
地下室で休んでいろ」
一度整理したい
今は数多くの疑問に蓋をし、リヴァイの提案に従うことにした
-
- 22 : 2015/06/03(水) 00:03:57 :
- 部屋に戻り本を開く
先ほど見た通りの物語
巨人化したエレン、女型の巨人、落ちていくグンタ、抗い続ける班員たち
やはりおかしい
この本は常軌を逸している
「これは一体なんなんだよ…。
俺にどうしろって言うんだ?」
出口の見えない迷路に迷い込んでしまったような不安
怪我をしていたはずのリヴァイが、怪我をしたことさえ覚えていないこと、ミカサとの共闘がなかったことになっていること
何より一番不可解なことは、エレンだけにそれらとは違う記憶があること
そのせいでパニックに陥ってしまった
これは何を意味するのか
「もしかして…」
本を眺める
「過去に戻れる…のか?」
本は当然何も答えない
だが、時間を遡れる、過ちを取り消せる、彼等を取り戻せるという希望を見せられ、崩壊寸前だった精神が壊れた
「やってやる!運命なんて関係ない!
そんなもん、俺が何度だって変えてやる!」
今度は自らの意思で時を遡る
-
- 23 : 2015/06/03(水) 15:41:19 :
- また同じ風景、状況
いや、今回は少し違った
「エレン!前を向け!」
さっきより進んだ場面のようだ
(俺はここで間違えた…。もう同じ過ちは繰り返さない!)
こうして、エレンは運命に挑み続けた
-
- 24 : 2015/06/03(水) 15:41:31 :
-
- 25 : 2015/06/03(水) 15:47:50 :
- 「くそっ!なんでだ!どうして上手くいかない!?あの時とは違う選択をしてるのに…!
何が足りないんだよ!」
あれからもう何度も過去に帰った
それでも今、この現実に彼等の声が戻ることはない
本には沢山の物語が書き加えられていく
だが、どれだけ物語が増えても、白紙のページはなくならない
捲ってもめくっても、必ず存在する
本の大きさ、厚みも元のまま
明らかな矛盾
それも今のエレンにはどうでもいいことだった
再び本を手に取る
「何度だってやってやる…!
未来が変わるまで!」
また、愚行を繰り返す
報われない行為
エレンには、こうする以外に自分を取り戻す方法がなかった
次も同じことを繰り返すのだろうか
-
- 26 : 2015/06/03(水) 23:46:41 :
- 高く掲げられたエレンの手
振り下ろされる間も無く動きを止められた
「……………」
「リヴァイ兵長…!」
英雄はかつて見せたことのない沈痛な表情だった
強く、振りほどくことも許さない力とは対照的に
「もういい。もうやめろ」
鋭い光を放つ瞳はどこか悲しげで、寂しげで、今にも壊れてしまいそうで
なんとも形容し難い
「放してください…。俺は間違いを正さないといけないんです」
もう苦しい思いはたくさんだ
俺にはチャンスがある
運命なんてものに負けたくない
エレンの深層で渦巻く感情
たとえ目の前の上司を殺してでも成し遂げたい誓い
そう思ってしまうのは、いけないことなのだろうか
-
- 27 : 2015/06/04(木) 17:37:39 :
- 「エレン、お前は運命に抗っているわけじゃない。お前がしていることは…」
「やめてくださいよ!」
先はわかっている
でも、気づかないふり、忘れたふりをしていた
これ以上聞きたくない
心がそう叫んでいる
それを理解しているからこそ、リヴァイは甘やかさない
「お前のその行為は、ただの現実逃避だ」
そう告げた
そうだ
最初からそうだった
自分の選択で仲間が死に、仲間を信じることが怖くなり、心身ともに蝕まれていく自分を誤魔化すために
エレンは自分をも騙し続けてきた
-
- 28 : 2015/06/04(木) 23:25:44 :
- 忠告はすでに受けていた
あの時、リヴァイは結果がどうなれ悔いの残らない選択をしろと言った
そしてエレンは仲間を信じることを選んだ
甘えを捨てきれなかった
化け物扱いされることを恐れてしまった
結果、班は壊滅
それを今更、未練に身を任せ執拗に過去を追い続けている
都合がよすぎる
誰が見てもそう思う
(兵長も…当然…)
-
- 29 : 2015/06/05(金) 22:02:17 :
- 「…目の前に過去を変える機会があるならものにしたいと思うのは当然だ」
「…!」
「ひと昔前の俺なら、手を出していたかもしれん」
エレンは自分の耳を疑った
こんなにも狂い、壊れてしまった自分を理解できると言うのか?
常に前を見据え、誰よりも強靭な精神を持っていると思っていた英雄が
「エレン、お前は何度やり直した」
「数え切れません…」
自分でも何度やり直したかなど覚えていない
失敗する度に手を振りかざし、現実から目を背け、ただ何もわからない子供のように過ちを重ねていた
「運命がどうだのと言うつもりはない。
だが一つ言えることがあるとすれば…」
言葉を切る
「一度消えちまった命は二度と戻らない」
「!」
死者が蘇ることはない
それは至極当然で、それが自然の理で
なのにそれすらも見えないふりをしていた
あるしは、見えていなかったのかもしれない
「その本が普通じゃないことは知っている。
過去に戻れるなんざ、過ちをやり直せと言われているようにしか思えねぇだろうが…」
-
- 30 : 2015/06/08(月) 22:17:38 :
- この本はとても残酷だ
エレンに思いつく全ての策を試した
自分を信じて女型と戦った
リヴァイ班全員で協力して戦った
ミカサ達と一緒に戦った
どう足掻いても勝てないと判断したとき、逃げることを選んだ
それでも、待っている結果はいつも同じ
自分だけが生き残り、仲間は死んでいく
増援を増やせば増やすほど、比例して死者が増えた
最初から救いの道などなかった
エレンはこの真っ白な本の真っ白なページを埋めるための駒にすぎなかったのだ
ハッピーエンドは存在しない
バッドエンドすら迎えられない
永遠に続く負のループ
今になってやっと気付いた
どれだけ愚かな行為を繰り返していたか
命の重み
そして、変わり果てた自分の異常さに
-
- 31 : 2015/06/09(火) 21:54:26 :
- 「お前はあいつらが何のために戦ったのかわからないわけじゃねぇだろ」
「え?」
何のために戦っていたのか
そんなこと
「俺には…」
「……………」
リヴァイは何も言わない
答えを待っているのだろう
しかしエレンは過去を振り返り他人の心情を鑑みられる精神状態ではない
「………」
何も言えないまま時間が過ぎる
察したのか、これ以上は無意味だと判断したのかリヴァイが口を開いた
「俺にもあいつらが何を思っていたかなんてことはわからない。だが、少なくともお前にこんなことをさせるためじゃねぇはずだ」
-
- 32 : 2015/06/10(水) 21:37:27 :
- ああ、そうだ
ずっと自分の過去を塗り替えたいという思いに囚われ、一番大切なことを忘れていた
今の俺を見たらリヴァイ班のみんなは何て言うだろうか
「エレン、今お前がすべきことはなんだ」
(俺がすべきこと…それは)
「それは…人類のために心臓を捧げたみんなの死を功績にすることです!」
もうさっきまでのエレンはいない
瞳には光が宿り、強く未来を見据えている
「この本はもう二度と開きません」
そう断言するエレンを見て、リヴァイは何も言わずに部屋を出ていった
もう同じ間違いはしない!
こんな物がなくても、俺は俺の力で今生きてる仲間を守れるようになってやる!
-
- 33 : 2015/06/11(木) 20:40:45 :
-
- 34 : 2015/06/11(木) 20:42:11 :
- その日の夜、夢を見た
グルグルと気持ちの悪い浮遊感に襲われ、気がつくとそこは・・・・・?
-
- 35 : 2015/06/12(金) 21:43:43 :
- 「エレン!前を向け!」
「え!?」
そこは、巨大樹の森
あの日と全く同じ
後方には女型の巨人
「なんで!?」
本にはふれていない
もう過去に戻りたいとは思ってもいない
混乱した
何も考えられなかった
また、全員死んだ
そしてエレンは現実へと戻っていく
呆然と立ち尽くすことしかできない
一瞬の瞬きがとてつもなく長く感じられた
次に目を開けた時
「エレン!前を向け!」
もうわかった
俺はもう戻れない
俺は勘違いをしていた
現実を知った時、あの本の作者の目を手の上で踊らされているだけだと思っていた
でもそれは違った
あの本のページを紡ぎだすのは俺自身
あの本に、エンディングは?
「エレン…信じて」
「あ゛ぁぁぁああぁ゛ぁあ゛!」
全てが遅かった
END
-
- 36 : 2015/06/12(金) 21:46:16 :
- 自己満足の作品をここまで読んでくださった方、ありがとうございました!
3作目はバッドエンドに挑戦してみましたが、読みにくい部分や分かりにくい描写が多々あったと思います
ご意見、アドバイスなどあればよろしくお願いしますm(_ _)m
-
- 37 : 2015/08/04(火) 23:14:11 :
- ス、スゴイ!世にも奇妙な物語みたい。タモさんが出てきそう。
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- 38 : 2015/08/09(日) 18:20:02 :
- >>37
閲覧ありがとうございました!
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- 39 : 2015/08/09(日) 18:21:00 :
- ユーザー登録しました!
>>38はキングダムです
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- 40 : 2015/08/10(月) 10:38:25 :
- http://www.ssnote.net/archives/38187
Ever Lasting Story〜リヴァイside〜
こちらもよければ見てくださいm(_ _)m
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