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エレン「シガンシナを舞う蝶」【ほのぼの】
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- 1 : 2015/03/07(土) 23:56:45 :
- どーも、紅蓮です♪( ´▽`)
タイトル通り、ほのぼの書きます。
✳︎時間設定は巨人を倒して、平和になった世界。
✳︎やっぱり原作キャラに徹します。
心が和むエレミカの会話をお届けできるよう頑張ります!
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- 2 : 2015/03/08(日) 11:17:06 :
- 期待です!
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- 3 : 2015/03/08(日) 11:23:19 :
- >>2初期待コメありがとうございます‼︎頑張ります( *`ω´)
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- 4 : 2015/03/08(日) 12:14:47 :
- 期待です!
じゃあCCG襲撃してくる
ハンカチを取り返す為に!
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- 5 : 2015/03/08(日) 13:07:40 :
- >>4え∑(゚Д゚)頑張って下さいw
期待ありがとうございます‼︎
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- 6 : 2015/03/08(日) 13:14:09 :
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◆
「……可愛いな」
縁側には、大小様々な猫が丸まって日向ぼっこをしていた。
少しだけ伸びた黒髪をほんのちょっと束ねたミカサは、しゃがんでせわしなくエサをやっていた。
「何故かわからないけど、突然うちにやって来た。」
ニャアニャアとエサをねだる猫達を柔らかな手つきで撫でて、不思議そうな顔で彼女は佇んでいる。
日は少しずつ高くなってきていて、ぼんやりとした俺たちの影は、少しずつ色濃さを増していく。
________快晴。
雲一つ無い青空は、水晶のようにどこまでも凛と澄んでいて、暖かな春の陽気を感じさせた。
________もう春か
まだおはよう言ってなかったなぁ。
爽やかな風を体に受け、大きく息を吸い込み、精一杯笑って言った。
「おはよう、ミカサ」
ぎこちない笑顔になった……気がした。
「おはよう、エレン」
俺とは違い、飾らない無邪気な
笑顔で応えたミカサ。
_______どうやったらそんな笑顔ができんだよ?
普段無表情なのに。
新しい朝が、その幕を開ける。
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- 7 : 2015/03/08(日) 15:06:24 :
-
遅めの朝ごはん(と言うには遅すぎるが)を済ませ、再び縁側に出た時には昼を過ぎていた。
「まだいたのか?」
「今、この子達は昼御飯。」
よっぽど腹が減ってたんだな。
大きな虎猫は、1番毛並みが良い癖して、1番食べていた。
「あの猫、痩せているのに全然食べていない。」
___________確かに。
ミカサの言う通り、端っこに灰色のブスッとした顔の猫が1匹、尻尾を巻いて座っていた。
否、座っているのとは程遠く、半ば警戒したように半立ちで牙をむいていた。
「ちょっとそのミルク貸してくれ。」
「何するの………?」
言いながら俺は、そのガリガリな猫に近寄り、ミルクの入ったプレートを持っていった。
「ほらよ。しっかり食わねぇと、体壊すぞ?」
フーッと、低く唸って一向にアイツは近寄って来ない。むしろ、数歩後ろに下がって、さらに全身を総毛立た。
「エレンは生まれつきの悪人面。それでは、猫も怖がってしまう」
クスッと笑って今度はミカサが行った。
「ちょ……失礼だな! 」
顔が赤くなった。たぶん。プイとそっぽを向いてむくれる。
________ウニャーッ
しまいにその猫は小さく咆哮して、庭に植えてある木の影に隠れてしまった。
「ハハ、ミカサも逃げられてんじゃん」
「エレン、見て。」
「え?」
-
- 8 : 2015/03/08(日) 15:08:38 :
-
言われるままに、ミカサの指差した先を見据える。
____________と、
「なんだよ、蝶か。」
薄く透き通った碧色の蝶が、虚空を舞っていた。
先程までご飯に夢中だった猫達も、大きな虎猫を筆頭に、必死で手を伸ばして蝶を捕まえよう空を掻いていた。
ヒラヒラと舞う蝶を見て、俺はふと思い出したように、はたまた最初っから考えていたように言った。
「なぁミカサ、この蝶どっかで見たことないか?」
唐突に聞かれて、途方に暮れたように黒髪を揺らしながら、ミカサは首をかしげる。
「………ごめんなさい、覚えがない」
あれ?違ったかな?
確かにこの蝶、
訓練兵の時に見た気が………
「……………あ! 」
「ぅえ?」
「この蝶は………あの湖で」
ビンゴ。やっぱ合ってるじゃねぇか。
「覚えてるか?あの時のこと」
そう、あれは今日と同じ、寒い冬が溶けて訪れた、暖かい春の日の昼下がり……
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- 9 : 2015/03/08(日) 16:19:01 :
- 紅蓮さんの作品は、本当にほのぼのとさせてくれて大好きです。
期待です!
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- 10 : 2015/03/08(日) 16:52:27 :
- >>9ありがとうございます‼︎
そう言っていただけると嬉しいです♪
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- 11 : 2015/03/08(日) 18:42:24 :
- 期待
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- 12 : 2015/03/08(日) 18:46:04 :
- >>11期待ありがとうございます‼︎
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- 13 : 2015/03/09(月) 01:51:12 :
- エレミカにほのぼのはやっぱり合いますね!今後の物語に期待してます!
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- 14 : 2015/03/09(月) 06:44:48 :
- >>13アラン・ファブレガスさんありがとうございますo(^▽^)o
ご期待に添えるよう頑張ります‼︎
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- 15 : 2015/03/10(火) 20:24:04 :
-
◆
「………痛っ」
_________え?
小さく悲鳴を漏らした彼女は、端整な顔を歪めて脚を抑えていた。
「どうしたよミカサ?」
そんな大したことでもねぇだろ、
素っ気なく振り向く。
「脚が………」
「脚?」
________紅かった。
透き通るような彼女の白い綺麗な脚から、一筋の鮮血が滲み出て、俺の視界の一端を紅く濡らしていた。
「草の棘が、刺さったみたい」
_______草の棘?
あ、ホントだ。
待てよ、これはどっかで見たぞ。
そうだ、アルミンの豆知識か…………
『これはタラの木といってね、春を告げる植物の一つだよ。林の縁や、山道の道際に生えてるんだ。』
『枝分かれがほとんどなくて、トゲだらけだから気を付けてね。ちなみに食べられるよ。』
_______もう、春なんだなぁ……
「植物の癖に、私の脚を刺した。これは自然の謀反?」
「なんだよ、それ」
自然と頬が緩んで、口角が上がるのが分かる。
フッと鼻を鳴らして説明付けた。
「これはタラの木だ。といっても、まだ若芽があるからタラの芽だな。本当に棘だらけなんだなぁ」
感心したように、驚いたように目を見開いて、上から目線でミカサがモノを言う。
「さすがエレン。物知りで、いい子。」
「いい子は余計だろ。前にアルミンから聞いたんだ」
________ていうか、遠い……
もう軽く1時間は歩いてるぞ。まだ着かないのかよ?
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- 16 : 2015/03/10(火) 20:27:24 :
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_____エレンが行った、湖に行きたい。
訓練兵団もあと少しで終わり。
日増しに春めく今日この頃、昼休みに食堂へ行ったら、俺とライナーの会話を聞いていたミカサは、ガキみたく目を輝かせて言った。
______湖くらい、1人で行ってこいよ。
もう訓練兵を卒業するってのに、子供のように駄々をこねたミカサは、
「ダメ。エレンと行かなければ意味がない。」
とか何とか言い張って、結局俺も来ることになった。
ライナーとベルトルトと、初めての兵站行進で夜中、ずっと森を歩いて行った湖だ。あの時は何故か疲労を感じなかったのに、今日は酷く遠い気がする。
「あっちぃ……」
春先なのに、照り付ける太陽はジリジリと俺たちの肌を焼く。
一陣の風と共に空を見上げた。
ポツリと浮かぶぼやけた雲は、本当に綺麗だ。
ふわりと立体感があって、どこまでも透き通るような薄い青のグラデーションの背景によく映える。
「ミカサ、疲れてないか?」
息切れを隠して尋ねた。
「大丈夫。それよりもエレンの方が疲れていないか心配」
えぇ________
「エレンはいつも疲れているのを隠そうとして、人を案ずる。とても見栄っ張り。」
冗談半分、いたずらっぽくミカサは言った。不意にその横顔が、母さんと重なった気がした。
__________失礼な、言うじゃねぇか。
やはりむくれた。顔が熱くなり、プィと顔を背ける。
背けた視線は、太陽に照らされて美しく煌めく湖面を、林の木々の間に捉えた。
「おぃミカサ……やった、着いたぞ! 」
「え………! 」
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- 17 : 2015/03/11(水) 18:11:41 :
「綺麗……………」
本当に綺麗だ。
これだけ疲れたからこそ、着いた時の喜びと、湖を前にした感動は大きかった。
「よっ、と……」
この前来た時は、湖面には青白く輝く月が浮かんでいたが、それとは真逆の暖かく燃える太陽が浮かんでは消え、浮かんでは消えていた。
ほんのり吹き出した汗を拭い、涼しそうな木陰に疲れた腰を下ろす。
___________そこへ、
「……………! 」
目の前を碧い何かが横切った。
ヒラヒラと舞い、側の青々とした草の上でその羽を休める。
「珍しいな、青い蝶なんて……」
その何気ない一言を最後に、俺たちはしばらく静寂に包まれた。
静かな西風が吹き揺れた髪で、視界の中の蝶が見え隠れする。
____________眠いな……
まぶたは重く、意識は深い谷底に転がり落ちていくように薄れていった。
「……………………」
穏やかな静寂を破ったのは、ミカサの痛々しい声だった。
「あっ…………! 」
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- 18 : 2015/03/12(木) 14:20:52 :
-
「どうした⁉︎」
思いの外彼女の声が悲痛だったので、俺はすぐに反応した。震える指先で彼女が指した方向を見やる。
______________ヤバい
ついさっきまで、草にとまってせわしなく羽を広げたり閉じたりしていた蝶は、いつしか舞い上がり________
__________そして無様に、草葉の陰にあった蜘蛛の巣に囚われていた。
「………………っ! 」
声にならない言葉を叫び、それでも体はまるで金縛りにあったように動かず、
その蜘蛛の巣を食い入るように2人、見つめていた。
怖い、怖い怖い怖い。
けれど、締め付けられるような懐かしい感覚。絡まる糸になすすべもなく、ひたすら無意味に暴れる蝶。
まるで、いつか同じようになすすべもなく、喰われていった母さんのような。
巨人にひたすら怯えるだけの、か弱い俺たち人類のような。
怖い。そんな苦しさ。
___________苦しいのに
許さない、許せない、許したくない。
そんな許されない感情が、俺の心にカッと灯る。
以ての外の感情が________ここに在る。
必死にばたつく蝶に、端を発した振動を感じた"何か"が、暗闇から不気味に顎を鳴らしながらその姿を現した。
「ああああああああああぁぁぁっっ」
長く、永く、深く咆哮する。
赤く熱い、鼓動が高鳴る。弾かれたように立つ。気づけば一気に走り出し、蜘蛛の巣のある木へと手をかけていた。
「クッソ………っ」
滑る、滑る。なんだよ、これ、登れねぇじゃねぇかっ‼︎
__________ギリッ
歯ぎしりが虚しく辺りに響いた直後、背後から何を意味することもなく、
ミカサの穏やかな手が伸びた。
「エレン………」
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- 19 : 2015/03/12(木) 16:25:50 :
「……ダメ。手を出しては」
悟ったような力のない表情で、ミカサは俺を静かにたしなめた。
「何でだよ、蝶が………蝶が喰われちまうだろうが‼︎」
「ダメ。それが、自然というもの」
_________ハッ
今更気付いたように、俺は目を丸くした。残酷な現実をミカサは続ける。
「強い者が弱い者を屠る。それがこの残酷な世界の掟」
「それは、私達が何をしようとも変わらない。仕方のないこと。」
「くっ…………」
_________納得いかねぇ、そんなの。
クソッ、これが弱肉強食の世界か⁈
助けられないのか……助けられたかもしれないのに‼︎
たかだか蝶ごときに、それは世界中、いつなんどきでも起こり得ることなのに、俺はあの蝶を…………
壊れやすく脆い、か弱い命を必死に燃やすアイツを、助けたかった。
1枚の新聞紙が燃えてしまうのを見ているよりも、呆気ないじゃないかっ‼︎
「…………………」
2度目の静寂は、1度目よりも遥かに短く、1度目よりも遥かに唐突にその幕を閉じた。
先程とは正反対の、嬉々としたミカサの声だ。
「ぁ………エレン、見て。」
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- 20 : 2015/03/13(金) 23:47:29 :
「なんだってんだよ……一体、」
汗ばんだ手で、熱く溢れた涙が潤した目をこする。うつむき、苦痛で歪んだ顔を上げた。
「ぁ…………」
_________やればできるじゃねぇか
ぼやけた世界を映す俺の目に飛び込んできたのは、必死に暴れた末、何とか蜘蛛の巣から脱出しおおせた蝶が、ハラリと視界の中を舞う姿だった。
サァと風が吹く。
良かった。本当に良かったよ。
まるで、俺たち人類という名の蝶が、巨人という名の蜘蛛に囚われて_____
それでも必死に、毛一筋ほどの微弱な抵抗を諦めずに続けて、最後の最後に、勝利を掴んだかのような_________
そんな気さえした。
「ありがとな………」
「え?」
狐につままれた。
狐につままれてしまった。
そんな顔をしてミカサは不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「今のは、誰に言ったの?」
「えっと…………その、なんだ」
_______よっしゃ、元気でた。
今なら、今だけなら、最高の笑顔ができそうだ。それもどこまでも自然に。
ニカッと笑って曖昧な言葉を返す。
「まぁ何と無く、蝶に言ったんだ。」
「フフ……エレンは不思議な子」
遠くから、しかし手が届きそうな暖かいセカイから、昼休みの終わりを告げる鐘が聞こえてきた。
「やべっ、行くぞミカサ。あと少しで訓練始まっちまう! 」
「それは大変。急ごう」
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- 21 : 2015/03/14(土) 00:33:38 :
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大きく深く、息を吸い込む。
腰に力を。肺に酸素を。
呼吸を整える。地から足の先が離れた。途端に走り出す。走り、走る。いつ果てるともなく、跳ぶように軽快なリズムでとにかく走った。
気持ち良いっ!
「待って、エレン! 」
_________おっと、マジか。
今度はなんだよ、時間ないってのに。
止まることを知らぬほど勢いのついた体にブレーキをかける。自分の体のはずなのに、前につんのめってコケそうになった。
「今度はなんだ?」
「手を……」
「ぅえ?」
意味ありげに、手が伸びた。
「手を、繋いで欲しい。」
__________ハァ?何言ってんだ。
思ったことを何の工夫もなく、そのまま口にした。
「はぁ、何言ってんだ?」
「ダメ………?」
いや別にダメってことないけど。
なんだって時間がない今、言うんだよ?
呆れたように、ため息を吐く。申し訳なさそうに、アイツは俯いた。
「あ〜分かったよ。時間もねぇし、さっさと行くぞ」
「さすがエレン。物分かりが早い」
なんだそりゃ、褒めてんのかよ?
仕方なく、握りしめていた拳を解いて、片手を差し出した。
「どうした?早く握れよ」
「ぇ、エレンから握って欲しい。」
「はぁ?」
新たな注文が加わった。
さらに、ハァ?だ。
「…………ダメ?」
上目遣い。
いや、たぶん無意識だろうけどな。
ミカサのよく分からない頼み事をする癖は、小さい頃から変わっていない。そして、頼んだ時の表情だって、今も昔も変わらないままだった。
「お前も本当、変わらねぇよな。」
ホイ、と手を握る。引っ張りながら再び走り出した。
今度は何も言わず、アイツは満足して嬉しそうに、マフラーを撫でていた。
まぁ喜んでくれたんならいいけどな。
と、思ったら一言、二言付け加えた。
「あったかい………」
「そうかよ。」
「エレンも、変わらない。嘘をつくと耳が赤くなる」
痛っ………
痛いところ突きやがって。
「それにすぐ無茶して、怪我をする。」
熱っ。
早速、顔が赤くなった。
「いいだろ、別に。ほっとけよ! 」
「でも、どんなことにも全力でぶつかっていく、家族思いのいい子。」
_______恥ずかしいだろうが。今俺が前を走ってて、心底良かったと思うよ。
真っ赤に完熟したリンゴのような顔が見られなくて済むからな。
「口よりも足動かせ、飛ばすぞ‼︎」
今度こそ何も言わない。チラと後ろを見たらゆっくり頷いてくれた。
オーケー、行くぞ‼︎
午後の昼下がり、俺たちは全力で兵舎へと、林の中を駆け抜けていった。
もちろん遅刻して、教官から大目玉を食らったのは言うまでもない。
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- 22 : 2015/03/14(土) 02:49:45 :
- 期待しています!
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- 23 : 2015/03/14(土) 02:51:57 :
- >>22久しぶりにコメント来てめっちゃ嬉しいです。・゜・(ノД`)・゜・。
ありがとうございます‼︎
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- 24 : 2015/03/14(土) 15:28:49 :
-
◆
「こんなこともあったよな………」
「忘れかけていた。すごく昔のこと」
話しているうちに日は傾き、紅く燃えるような夕陽が、どこへ行くともなく空を漂う雲達を美しく照らしていた。
もう夕方かよ……時が経つのは早ぇな。
「あれから、 色々あったな。」
「調査兵団に入って。」
「壁外に出て、女型が現れた。」
「で、それがアニだった」
アニ、か……………
言葉が続かなくなって、困ったように空を見上げた。言おうとはしていなかったのに、そのコトバはごく自然に、俺の声帯を震わせて発せられた。
それはあたかも、木の葉に溜まった朝露が自然に落る様子を連想させる。
「綺麗だ…………」
「え?」
いきなり何を言っているの、おかしなエレン。首元のマフラーを手繰り寄せながら、ミカサはクスッと笑う。
__________ボロボロだ。
結局、そのマフラーもずっと変えることなく、肌身離さず持ってたんだよなぁ。
何度も修繕して、何度も洗濯して、まるで壊れやすいガラス細工を扱うように、大事に大事に、そのしなやかな首元を覆い隠してきた。
「そ、それで、壁の中には巨人がいて」
少し間をおいて、思い出したように続けた。出来事、出来事、あの日あの時1分1秒の景色が、鮮やかに蘇ってくる。
「ライナーとベルトルトに、エレンがまた攫われて」
「俺が座標を有して……………」
「…………巨人を駆逐した」
「それで、私と結ばれた。」
紅く焼けた夕陽に負けず劣らず、ミカサは紅く頬を染めた。
こんな歳にもなって何言ってんだよ、
あれからどんだけ経ったか、もう覚えてもねぇや。
「そして今、私達の家で団欒している」
「あぁ、そうだな」
__________なんなんだ。
どうしたらいいか分からず、救いを求めるように庭を見やる。
あれ。猫、もういないのか
「猫はさっき、エレンが思い出に浸っているうちに、何処かへ行ってしまった」
ふぃとこちらを向いて素っ気なくミカサは言った。
ホントだ。立つ鳥………じゃなくて立つ猫、跡を濁さずだな。
猫は過去にそこに在ったという形跡は微塵も残さず、本来属すべき所へと還っていったのか、影も形もなくなっていた。
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- 25 : 2015/03/16(月) 02:30:29 :
そう、思っていた。
そう、信じ込んでいた。
そう、騙されていた、だけで………
__________ガサッ
庭に植えてある木の陰から、素早い身のこなしで黒い"何か"が躍り出た。
「なんだよお前、まだいたのか」
細い手脚はゴボウのように、生まれたての小鹿のように痩せ細った灰色の猫。それでも眼光だけはキッと俺たちを捉えていた。
「あっ……………」
俺がパチリと瞬きをした、わずかな毛一筋ほどの時間でアイツは、食べ残されて地に寂しく戯れていた煮干の塊を、脱兎の如く奪い去る。
元いた木の影へと身を隠すと(もはや丸見えだったが)、安心したようにゴロゴロと喉を鳴らし、煮干を咀嚼し始めた。
「アイツ、腹が減ってたんだ」
「そう………なら、もっと持ってくる」
そう言うとミカサは、それを初めから予測していたように、床に置いてあった煮干を掴み、俺に投げて寄越した。
________は?
あぁ、なるほど。俺の方が近いから俺があげろと。分かったよ、
矢のように過ぎてはやって来る日ごとに重くなる腰を上げて、猫の側にそっと近づいた。
_______また逃げられたりしてな。
果たしてそれは、その通りだった。
そんな予感がする。
そんな予感が__________していた。
ヴニィィイと理解不能な一声と共に、サッと数歩下がられた。
おぃ怖がるなよ。
ひたすら怯えに怯え、地に立てたアイツの爪は、今や土を虚しく掻いていた。
ぁ______________
重なる。無性に重なる。巨人に対してひたすら怯え、吠えることしかできなかった、いつかの自分をそこに見た。
まざまざと。
-
- 26 : 2015/03/16(月) 02:52:12 :
-
始まりは復讐だった。
復讐だったと思う。
贖罪だったと思う。
憎悪だったと思う。
恨みだったと思う。
逆恨みだったと思う。
八つ当たりでもあったと思う。
だけどそれは、全部チガッて。
そんなのは所詮、ただの理屈で。
屁理屈であろうと、理屈は理屈でしかなくて。それ以上でもなく、それ以下でもなくて。
ただ俺は………
この美しく、残酷な世界で、
何かしたかっただけだ。
何かしでかしたかっただけなんだ。
何かしていなければ、巨人ではない"何か"大きな力に、殺されてしまいそうだった。死んでしまいそうだった。
_____________だから、
俺は限りない自由を求め、壁を越えた。
これこそ、崩しようのないほど完璧な論理《ロジック》と、整然とした理念《フィロソフィー》だ。
母さんを目の前で殺されて。
泣いて、喚いて、逃げて逃げて、醜く生にしがみついた。
それでも、果てることのない雨のように降り続ける悲しみを乗り越えて、俺たちは強く生きた。
……………だから、お前も。
「お前もしっかり食って、強く生きろよ。」
その声が、思いが届いたかどうかは定かではない。分からないし、分かるはずもなかった。
ただ一つ、その猫は俺が手にしていた煮干を一掴み、優しく咥えて尻尾を振った。
_________犬でもねぇのによ。
「エレン、今のは独り言………?」
今日のエレンはちょっとおかしい、彼女が遠慮がちに呟いたのが聞こえたが、俺は聞かなかったことにしておいて縁側に戻った。
「分からねぇよ…………」
心からの、言葉だった。
あぁ……なんだか眠くなってきたなぁ
まだ俺は、微かに弱まりを暗示していた血液のポンプのことに、気づいちゃいなかった。
-
- 27 : 2015/03/16(月) 23:01:22 :
◆
ハラリ、ヒラヒラ。
もし音というものに、あり得ないことだけど、文字という道具を有することが許されていたならば________こんな表現が見事に当てはまっていただろう。
蝶。
先程まで僅かな羽音と共に、俺の視界の中を行き来していたその蝶は、気付けば視界から消えて、俺の手の中に平たく収まっていた。
そして意味有りげに羽ばたいては、その触覚を丸め、脚を閉じる。
「お前…………」
「エレン、その蝶は……………」
察したように目を細め、噛み締めた唇を静かに解いてミカサは言った。
「あぁ、コイツ……」
「………もうすぐ、死ぬんだ。」
蝶は物を言わない。作りかけのプラモデルみたいな表情を浮かべながら、弱々しく羽ばたくだけだ。
それでも、その石のように変わらない歪な複眼から、必死に何かを訴えかけているその声は______________
理屈《リーズン》なんか知らねぇ。
根拠《エビデンス》もない。
___________けど、ハッキリと俺の耳に届いた。
ルリシジミ……だっけか?
そうだっけな。これも、アルミンから聞いたような気がする。
遠い昔のようで、つい一昨日のことでもあるかのように思える、過ぎ去った俺の過去。
何でこんな時に思い出すのは、
取るに足らない、いつかの日常…………
少しずつ、
それでも確かに瞼が重くなる。
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- 28 : 2015/03/16(月) 23:03:02 :
フッと意識に火を灯す。
気付けば、そこは真っ暗闇だった。
「…………えっ⁈」
びっくりした。
死んだかと思った。いや、もう死んでもおかしくない歳なんだけどな。
数分の間_____それは俺にとって永遠と言えるほど永い時間だったけど、俺は単に目を瞑っていただけで、瞳に夕陽を浴びせば、
そこはいつもの俺の家で。
何の変哲も無く俺の居場所で。
ミカサが隣で、何を考えているのか分かりそうにない眼で、暗くうごめく庭の隅をジッと見つめていた。
不意に手の中に思う所ある感触を感じ、焦って覗き込む。
_________苦い焦燥に駆られた。
その、蒼く煌めく鱗粉を手の中一杯に撒き散らして、ルリシジミは_______
_____________死んでいた。
何を意味するともなく、
ただ、死んでいた。
ただ、進で射た。
ただ、魂が消えていた。
ただ、生あるものではなくなっていた。
さながら取って付けた、壊れかけの模型を見ているような。
ピクリとも動かないその肢体の、
二度と光が戻ることはないその眼の、
生あった胡蝶にさようなら。
もう、あの時みたく焦りはしない。
何のことはない、ただ死んだだけだ。
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- 29 : 2015/03/16(月) 23:04:43 :
-
何度だって、見てきた。
親の死も、
同期の死も、
仲間の死も、
猫の死も、
虫の死も、
………生き物の死も。
血に塗れた屍の、光無き虚ろな瞳。
それを見るたび、俺は己の無力さを痛感し、地に伏しただ泣いた。
涙の尽きるほど、枯れるほど、
けどその都度俺は強くなり、いつしか無表情なミカサのようになっていた。何事にも動じない彼女のようになっていた。
そんな気がしていた。表向きは。
けど、そんなことは全然なくって……
「俺は…………弱いな。」
再び空虚な独り言を呟く。
何かを言いかけようと、僅かに反応したミカサも、結局口を噤んでまたマフラーを掴む。
_________死に沈む《シニシズム》。
何の価値もない、抜け殻となってしまった"蝶だったモノ"をそっと掌で包む。
死んだんだな……………
「……………………」
それに今や、俺も___________________
酷く、眠い。眠い。ひたすら眠かった。
心臓の鼓動が。脈が。
長年働いて錆び付いたモーターのように、それは回転力を、もとい鮮血を送り出す能力を失いつつあるのが分かる。
意識は、深い谷底へ転がり落ちていくように、急速にその灯りに靄をかけた。
目の前の景色が遠ざかる。
世界の発する音が遠ざかる。
蝶が遠ざかる。
ミカサが遠ざかる。
庭が遠ざかる。
家が、大地が、雲が、
空が、水が、星が、宇宙が遠ざかる。
手の届かないほど…………遠く。
モーターの音に耳を傾けた。
弱い。弱くなる。弱まる。
静かに、波打つ。
______________トクン、トクン
「………ン」
「………………レン」
___________誰だ?俺を呼ぶのは。
「エレン‼︎」
「………………は⁈」
-
- 30 : 2015/03/18(水) 01:39:02 :
ミカサの弱々しい、それでいてハッキリとした強さを持った声で、俺は冥界へのどこまでも未知な道から、現実へと引き戻された。
「エレン…………」
蝶を寝かせた手元に、何処か懐かしい温もりを感じる。
彼女の、白百合を彷彿とさせる白い手が、こんがりと日焼けした俺の手を、そっと包んでいた。
「…………ミカ、サ」
「暖かい?」
__________暖かい。
あの時とは逆だな。
口を開く代わりに、頷いて応えた。
「それは良かった。私も嬉しい」
「側にいてくれんのか?」
「最期までエレンの側に。これまでも、そしてこれからもずっと、永遠に」
最期。その言葉に言い知れない違和感を覚えながら、続ける。
「俺はもう………年寄りだぞ?シワも増えたし、老眼で目もほとんど見えない」
「髪の毛も白く薄くなって、身も心も、ボロボロだ。」
「…………それでも、いいのか?」
「構わない。エレンはエレン、私は私。それだけは変わることはない」
私はただ、ずっと変わらないエレンの側にいたいだけ。傍に身を寄せて、温もりを分かち合うだけで、いい。
そう、独白のようにミカサは呟いた。
「……ありがとな。」
太陽のように暖かな笑みを浮かべて、彼女は俺の頬に片手を添える。そして、気付いた。
__________________"最期"か。
そうなんだな。
本当に、そうなんだな。
彼女の手にあるべきはずの体温は、1秒1秒、時を重ねるごとに急速に失われていった。
こちらを向いたミカサが、諦めたように瞳を閉じる。
俺も瞼に蓋をし、ミカサの体に残った最後の命の温もりを、大切にそっと抱きしめた。
一筋の、涙が二人の頬を伝う。
沈みゆく夕陽に照らされて、淡い跡を残して乾いた。口元にもその潤いを与え、甘いような、しょっぱいような、何とも言えない味がした。
俺の体内を飛翔しては沈翔する鼓動は、もはや途切れかかっていた。体が少しずつ、石のように動かなくなる。
気持ち良いと思った。体が壊れんのなんて清々するぐらいだった。
もう、このまま死んじまっても_______
_______________良くねぇよ。
ダメだ、待ってくれ。
まだ、何も言えてないのに、
まだ、伝えたいことがあるのに。
俺は……………
-
- 31 : 2015/03/18(水) 01:40:46 :
「ミ、カサ………………」
喉の奥から絞り出した消え入りそうな声で、俺は必死にミカサを呼んだ。
「どう、したの…………エレン」
応えた。
音を俺に届けるはずの耳は、もはやその機能を果たさず、僅かに聞き取れた文字を紡ぎ合わせ、言葉にする。
そして、今最も伝えたかった内なる想いを、拝啓.臨終のお前に宛てた。
「ミカサ………好きだ、愛してる。」
閉じかかっていた瞼を大きく見開き、心底驚いた顔をしたミカサは言った。
「嬉しい…………私も、エレンが好き。とても好き。」
驚きの後は、喜びで顔をくしゃくしゃにしながら涙を拭って、頭を俺の肩に垂れてきた。
__________あぁ、もう十分だ。
俺にとっては、その一言が何よりも価値がある。その一言は、最高に誇れる俺の生きた証だ…………
-
- 32 : 2015/03/18(水) 01:53:50 :
-
ずっと独りで歩いてきた。
俺の歩いた軌跡には、無数の血痕と犠牲が点々としているはずだ。
けど、友達がいて。
家族がいて。
仲間がいて。
色んなものを失って、奪われて。護りたいものに、やっと気付いた。
そして今、最後の一つを失う。本当の終わりってヤツか…………………
喪失であり、
終演であり、
決別であり、
惜別であり、
決意であり、
決断であった。
けど、今この時は。この瞬間は。
側にいて、涙を与えてくれるお前がいてくれれば、他には何も要らない。
ありがとな。本当、感謝してる。
俺の瞼の裏には、これまで出会った全ての人達の顔が絶えず、見え隠れした。
ペトラさん、オルオさん、グンタさん。
エルドさん、ハンジさん、
エルヴィン団長、
リヴァイ兵長………………………
ライナー……ベルトルト…………
アニ、サシャ、コニー、ミーナ、ミリウス、トーマス、サムエル。
ハンナ、フランツ、マルコ、ジャン。
……………そしてアルミン。
母さん、父さん………………
……………ミカサ。
多大なる愛と感謝を込めて。
大地も水も、風も私も貴方と共に。
生きとし生けるもの全て、エレンと共にあれ。
最後の最後、ミカサが口ずさんだ名言が聞こえた。いや、迷言か。あるいは明言かもしれない。
本当、よくわからないヤツだな。
けど、ミカサ。お前らしいや……………
入り乱れた思考の中で、口元を緩ませながら、俺はふとこんなことを考えていた。
-
- 33 : 2015/03/18(水) 20:12:33 :
空が次第に闇に染まる夕暮れ、
残った夕陽で微かにできた日溜まりの中
俺たちは二人静かに、
肩を寄せ合い身を寄せ合って、
______________動かなくなった。
この長い永い因果な人生に、
終止符を打つ。
俺たちは儚い命を、宇宙へと散らした。
この二つは同じようなことのように聞こえて、全く違うことのようにも聞こえるのは俺だけだろうか?
息を引き取った"俺たちだったもの"を、何か異形なモノでも見るような目で、灰色の猫は木影から凝視していた。
それはもちろん、俺たちの知るところではない。
後は頼んだぞ、アルミン……………
この世界に、さよならだ。
-
- 34 : 2015/03/19(木) 02:13:43 :
-
◆
「…………腰痛いなぁ」
雲足早く刻々と暗さを増していく空の下、狭い路地を一人歩く男性?がいた。
その髪はまるで、夏に咲き誇るひまわりを思わせる見事な金髪。華奢な手脚と小柄な矮躯で、芋がいっぱいに入った袋を担いでいた。
「全く、サシャったらいっぱい持って来すぎだよ…………」
今日の午前、田舎で育てた芋をサシャが届けてくれたんだ。段ボール箱いっぱいにね。
『アルミン、これ田舎の畑で育てた芋です! 沢山取れたので、お裾分けに持ってきました。』
『えぇ⁈こんなにたくさん………嬉しいけど僕は少食だから、とてもじゃないけど食べ切れないよ』
『だったら他の人にでもあげちゃってください! エレンとか、家近いでしょう?』
___________確かに近いけどね。
そう言ってサシャは帰っていった。エレンとミカサ、いるかなぁ?留守だったら困るんだけど。もう歳だし。
重いなぁ………………
エレンの家への道すがら、独りで文句を並べながら足を運んだ。久しぶりだからか、心が弾む。
路地の突き当たりを、左に曲がる。
曲がったらもうそこは、エレンの家だ。門をくぐれば、玄関先と縁側が見える。
______________ぁ!
なんだ、外にいるじゃん。
縁側でエレンとミカサは、2人仲良く座っていた。春先とはいえ、夜は冷えるから風邪ひいちゃうよ?
そう声を掛けようと、門をくぐる。
未だ微動だにしない二人に、違和感を感じざるを得なかったが、とにかく縁側へと歩を進めた。
「エレン、ミカ…………………」
「……………サ?」
-
- 35 : 2015/03/19(木) 23:30:02 :
-
なんだかんだ言っても始まってしまえば我慢できるし、四の五の言っても終わってしまえば耐えられる。
しかし人間という生き物は、中途半端な中庸だけは我慢することも、勿論耐えることもできなくて____________
________________それなのに僕達の人生ときたら最初っから最後まで起結、永遠に続く果てることのない中だるみみたいなものだから、
あまりにも喜劇。
あまりにも狂言。
あまりにも荒唐無稽すぎて、
もうやっていけないんじゃないかって。
大して長くも生きていないけど、来し方行く末の人生の中継地点で、僕はそう思っていた。
エレンだって、ミカサだって
寸分の狂いもなく、また寸分の疑う余地もなく、そんな人生を送ってきたはずなのに。
「そっか………逝ったんだね。エレンとミカサは。2人仲良く」
後悔だらけの余生。反省だらけの人生を送っただろうに、僕が目にしたのは、
これで良かったんだ_________と言わんばかりの澄み切った微笑を浮かべて佇む、冷たくなった二人の姿だった。その顔には、二度と生気が戻ることはない。
「もうすぐ僕も行くよ………僕も逝くから、もう少しだけ待ってて」
人間の死なんて、何度だって見てきたはずなのに
歳だったんだから、今更何も悲しがることなんてないはずなのに
それでも目頭が熱くなって、涙は僕の想いを連れて、足元で小さな水溜りを作った。
「な、んで。どうして………エレン、ミカサ………僕を、」
僕を置いて、先に逝ったんだ…………
一人は、寂しい。
一人は、イヤだ……
-
- 36 : 2015/03/20(金) 22:44:26 :
-
降り注ぐ驟雨のごとき涙雨を。
可憐なる優美な宝玉さながらの涙眼を。
涙は絶えず溢れに溢れて、僕の穴という穴からは悲壮な液体がこぼれ出ていた。
「一人に、しないで…………」
巻き起こる一陣の風。その風に乗って、こんな声が聞こえた____________
『しねぇよ……………』
___________ような気がした。
「えっ⁈」
顔を上げても、やはりそこには変わらない微笑を浮かべる二人の安らかな表情があるだけだ。無論、その口が開かれることはない。
それでも、彼等の声は続けた。
『アルミン。俺が………いや、俺たちが死んでも、お前は一人じゃない』
『泣いてはいけない。アルミンは強くならなくてはダメ』
見えないものはそこにはない。
でも、聞こえた声は誰かの声だよね?
「それってつまりどういうこと……?」
『俺たちはいつでも、お前のここにいる。だから泣くな』
胸が熱くなる。ここ。そう、心。
エレンとミカサ、いや、それだけじゃない。僕の仲間たち、これまであった全ての人達は、僕の心の中にいる…………
『何より、俺たちの屍の前では泣かないでくれ』
『そこに、私達はいないから。』
「エレン、ミカサ……………」
僕は何を勘違いしていたんだ?僕を励ましてくれている二人は、僕がこの世で最も信頼している二人じゃないか‼︎
『アルミン、泣かないで。そんな貴方を見ているエレンと私は悲しい』
『すぐに来んじゃねーぞ、俺たちは先に逝っちまったけど………』
『お前は俺たちの分まで生きてくれ。』
これ以上の説得力が、どこにあるっていうんだ……………
『最後に、もう一度だけ。俺たちはいつでも、お前の………』
『………心の中にいる。そのこと忘れんなよ! 』
そうだ…………
エレンとミカサは、まだ心 にいるじゃないか!
スッと触れた僕の心。まだしっかりと、命を紡ぐ鼓動は鳴っていた。
「…………ありがとう。」
だから僕は、泣かない。
もう泣きません。
しっかり地に足をつけて、過去を振り返らずに前を向いて、生きていくよ。
二人の分まで。二人が、見れなかった先を見るために。
「……………さよなら。」
男性は静かに涙を拭って、顔にかかる金髪を払いのけ、全てが止まった空間を後にした。
-
- 37 : 2015/03/20(金) 22:53:49 :
- いいですね。
やっぱり紅蓮さんの文章は素晴らしいです。
-
- 38 : 2015/03/20(金) 22:55:43 :
- >>37まだまだですよw
でもそう言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます!
-
- 39 : 2015/03/21(土) 04:33:05 :
- 心の中にスッと入ってくるような文章だと思います。
素晴らしいです。
-
- 40 : 2015/03/21(土) 07:19:19 :
- エレンとミカサ…(ToT)
-
- 41 : 2015/03/21(土) 07:19:33 :
- 続き頑張ってください!
-
- 43 : 2015/03/22(日) 00:46:24 :
-
◆
冬の名残なのか、エレン達の元を後にして帰路に着いた僕の肌を、冷たい空気が無慈悲に刺した。
でも、寒くはない。むしろふかふかの布団にくるまったように暖かかった。
持ってきた芋をお供え物に置いてきたからか、足取りは行きよりも大分軽い。芋をお供えするなんて失礼かもしれないけど。
他愛ないことをあれこれ思考していると、詩を吟じる少女の声が、風に乗ってどこからか聞こえてきた。
生きるってなんだろうって
お父さんに聞いてみたの
それはね、やんちゃな子供に優しい妻と幸せに暮らすことなんだって
お母さんに弱くて、子供に甘い父
生きるってなんだろうって
お母さんに聞いてみたの
それはね、無邪気に笑っている子供達を育てることなんだって
子供の成長を見届けることなく、無惨に散った、お母さんは可哀相
生きるってなんだろうって
仲間たちに聞いてみたの
それはね、死んでないってことなんじゃねーのって素っ気なく言ってたよ
本当は食べられて、死んじゃうことに怯えてるだけだったり
生きるってなんだろうって
幼なじみに聞いてみたの
それはね、君と貴方と私と僕と、俺たち一緒にいることだなって
生きるってなんだろうって
自分自身に聞いてみたの
わからないなぁって思っていたんだけど最近わかってきた気がするんだ
素直でいられる時、かなって、時たま
いつか生きるってなんだろうって
君の所へ私が聞きに行くときが
あるかもしれない
その時にはキミ自身の答えを用意していて欲しいな、本当
生きる意味を
異なる人々、犬、猫、生物に
不思議なことだよね
私と貴方は別々なのに
生き方も考え方も違うのに
一緒にいたいと思える一瞬が
あるのですから
自分自身にもう一度だけ、生きるってなんだろうなって、聞いてみましょう
そしたらきっと、生きるってことをより深く、より身近に感じられるかもね
考えて考えて、
聞いて尋ねて質問したら
いつのまにか疑問は消えて
今在る道が見えてくる
その時には何も聞かないで
生きるべき現在 の人生を
必死にもがいて、生きて下さい
私はそんな日が来ることを
願っています、心から
________うんうん、そうだよね。
良いこと言うなぁ。そう誰にともなく相槌を打ちながら、僕はまた、未来への一歩を踏み出す。
一番星が輝き始めた空。
闇に浮かんだまんまるな月が、真っ直ぐ伸びる僕の路を照らしてくれた。
不意に天を仰いで見る。いつもは無表情な月に、今夜はとびきり暖かい表情の、エレンとミカサが映っていた。
ーNever endingー
-
- 44 : 2015/03/22(日) 01:03:08 :
- _______あとがき?
はい、というわけで今作品もこれで終幕ですね。
まず、この作品を読んで下さった並びに期待コメ、お気に入りを下さった方々、本当にありがとうございます。今回も皆さんのおかげで、無事執筆終了することができました。
エレンとミカサの臨終を描く、という何とも漠然としたイメージだけで始めたため、終始彼らがダラダラ喋ってるだけみたいになってしまいましたが、それもまた一興かと。
意見・感想、アドバイス等ございましたらコメント下さると嬉しいです。
もう一度、ありがとうございました! また機会があればお会いしましょう。
それでは。
-
- 45 : 2015/03/23(月) 09:16:57 :
- メッチャ泣けた
-
- 46 : 2015/03/23(月) 12:48:34 :
- >>45
コメントありがとうございます‼︎
そうですね、感動的にシメたいと思っていたので。読んで下さって嬉しいです♪
-
- 47 : 2015/03/31(火) 15:20:19 :
- 読みごたえがありました!世界ってなんなんだろ、とか、暇なときにふと思っちゃうときがありますね。
-
- 48 : 2015/03/31(火) 15:23:35 :
- >>47ありがとうございます!
そうですね、生きていれば誰でも1度は、それを考えちゃいますよねww
ホント、生きるってどういうことなのかなぁ?
-
- 49 : 2015/04/03(金) 11:05:24 :
- 紅蓮さんの作品はとても好きです。
心に響くものがあり、本当に素晴らしい文章だと思います。
感動しました。
お疲れ様です。
-
- 50 : 2015/04/03(金) 20:25:14 :
- >>49
そう言っていただけると、とても嬉しいです。頑張って作品を執筆した甲斐がありました。ありがとうございます!
-
- 51 : 2015/04/03(金) 21:21:57 :
- エレンとミカサの死で感動しました…生きるって本当に何だろう?
-
- 52 : 2015/04/03(金) 23:34:34 :
- >>51まぁ、アレです。
これは僕の願望なんですけどねw
原作で波乱の人生を歩んでいて、かつこれからも歩まざるを得ないだろう彼らには、願わくば最期ぐらいは穏やかに迎えて欲しいなぁって思うんですよ。
そう考えてたらこんな作品ができました、みたいなw作風からすると、そうはいかないんでしょうけどね………
生きるってなんだろう?は僕の人生を通して考えたい永遠の謎ですねーw
-
- 53 : 2015/04/04(土) 12:59:03 :
- 宣伝で知りました
泣けました。生きるとは何なのか。
-
- 54 : 2015/04/05(日) 01:12:22 :
- これぞ進撃って感じ!
ぼのっとしました
-
- 56 : 2015/04/16(木) 17:50:55 :
- 良かったです
-
- 57 : 2015/04/16(木) 21:09:56 :
- >>56ありがとうございます!
良かったと思って頂けたのなら嬉しいです。
-
- 59 : 2019/08/12(月) 17:57:58 :
- めっちゃ感動した作者さんの作品好きだわ
-
- 60 : 2019/09/29(日) 02:40:01 :
- ありがとうございます。
これだけの月日が経ってもご愛読下さる方がいるようで幸いです。
-
- 61 : 2020/10/06(火) 09:12:28 :
- 高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
http://www.ssnote.net/archives/80410
恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
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http://www.ssnote.net/archives/78041
害悪ユーザースルメ わたあめ
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害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
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害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
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害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
http://www.ssnote.net/archives/81774
害悪ユーザー筋力
http://www.ssnote.net/archives/84057
害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
http://www.ssnote.net/archives/85091
害悪ユーザー空山
http://www.ssnote.net/archives/81038
【キャロル様教団】
http://www.ssnote.net/archives/86972
何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
http://www.ssnote.net/archives/86986
http://www.ssnote.net/categories/%E9%80%B2%E6%92%83%E3%81%AE%E5%B7%A8%E4%BA%BA/populars?p=12
-
- 62 : 2023/07/04(火) 09:34:58 :
- http://www.ssnote.net/archives/90995
●トロのフリーアカウント(^ω^)●
http://www.ssnote.net/archives/90991
http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3655
http://www.ssnote.net/users/mikasaanti
2 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:56 このユーザーのレスのみ表示する
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16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
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36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな
22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。
46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね
52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑
89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ
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