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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

イレギュラーズ 【第二章】

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  1. 1 : : 2015/03/02(月) 21:47:37





    【助清アリス】(すけきよありす)は本が好きだった。




    幼少期から両親が不仲であり、毎日聞こえる喧嘩の叫び声に耐えかねたのかが理由かは、自分ですら分からない。



    ただ、読書をすれば周りの空間から解放された。その雰囲気が堪らなく好きだった。楽だった。



    小学校へ編入するときには、既に父親は側にはいなかった。



    別にいなくても良かったと思う節はあるし、興味もなかった。



    母親は一人娘である彼女を大事に育てたけれど、彼女は既に現実から遠ざかることが趣味となっていた。


    物語の中に入ることで、自分が自分ではなくなる気がした。


    現実に語り合う友達などいないものの、それで良かった。



    齢18歳になるまで、彼女は小説、ライトノベル、文庫本、ベストセラー作品などを全て読みつくしたといっても過言ではない。



    そんな彼女が切実に思うことは



    【機械に弱い自分】が、世に流通しているネット小説を読破できない、という悩みであった。









  2. 2 : : 2015/03/02(月) 21:48:11















    【イレギュラーズ】




    第二章









  3. 3 : : 2015/03/02(月) 21:50:36






    やけに悪臭がした。


    ドブネズミが徘徊するに相応しい悪臭だ。


    下水道という名が頭に浮かぶこの臭いは、まるで雑巾を絞った後に臭う汚れた水と吐物を意図的に混ぜ込んだように悪意を感じる。



    ともあれ、周りの景色が薄暗く感じる中、「ポツポツ」と水滴が落ちる音で、鎌足ヒロは眼を覚ました。



    「はっ……!」




    悪い夢でも見ていた気がした。


    まるで人類全てが自分を襲ってくるような悪い夢。


    漫画に出てくるような化物と戦う、異能力を有した自分の姿。


    そんな現実離れした世界から舞い戻され、彼はひと時の安堵を感じていた。


    「っ……痛てて……」



    目を覚ますと同時に、彼の全身に痛みが走る。


    いつもトレーニングをした後に襲われる筋肉痛とは違った。


    体の内部が燃えたぎるように熱く、まるで血液が炎を灯し体中を駆け巡っているような感覚だった。



    「……あれ……オレ……」



    その痛みと共に、寝ぼけ眼だった彼の目がシャッキリとしてくる。


    脳も回転してきているようだ。



    背中の感触から、自分が今いる場所がどこかのベッドの上であることは判る。



    そして、自分の体に灰色の毛布がかかっていることも。


  4. 4 : : 2015/03/02(月) 21:54:00




    「……」



    彼はその毛布を見つめながら、自分がどこの誰で、何者か、改めて考えた。



    自分は鎌足ヒロ、17歳。


    東京湾海上【港マリンシブヤ】に存在する私立堺原高等学校の2年生。


    同校の陸上部に所属しエースである彼は、全国大会でも結果を残す好青年スポーツマンだ。



    普通の高校生、という判別がし難いのは、2045年現在、世に流通するVPC(ヴァーチャルパーソナルコンピュータ)を【機械が苦手】という理由でつついたことがない、機械音痴でもあることも含まれる。




    「……」



    沈黙しながらも、彼はその目で回りを見渡す。



    すでにそこが薄暗い場所であり、太陽が届いていないという状況であることは判った。



    「……ここ……どこだ……」



    ヒロが不思議そうに呆けていると、暗がりから女性の声が響いた。



    「起きたか。ヒロ」



    彼に声をかけるのは、金色に光る髪が美しいロングヘアーの女性。



    身長は自分と同じ、いやそれ以上はあるかという背丈だ。



    上着である黒色スーツを肩に羽織っている彼女を見ると、その下に着ている白色カッターが破れ、節々に小さな傷跡が残っている状態であることが判る。



  5. 5 : : 2015/03/02(月) 21:56:18




    「貴方は……」



    ヒロは不思議そうに彼女に問う。


    彼女もその質問に慣れているのだろうか、ヒロの発言に動揺することなく、未だ視点が合わない彼の肩に手を置いた。



    「……ヒロ。思い出せ」



    彼女は、そう一言呟く。



    恐らく【隊員】として戦った兵士達は皆、目覚めた際に記憶が混同するのであろう。


    それはそうだ。


    自己の血液にウイルスを寄生させる【彼ら】は、常人の何十倍も、血液の流れに負荷がかかっている。



    血液とは常時体中内を巡っているものであり、その巡りが止まってしまえば命も尽きる。



    心臓から排水ポンプのように血液が流出し、人間の思考を司る脳まで酸素を運んでいるのだ。



    つまり、【故意に血液にウイルスを寄生させ負担をかける】彼らとしては、通常の思考ができなくなるのは至極当然の結果なのである。


  6. 6 : : 2015/03/02(月) 21:58:30




    「あ……」



    その内、鎌足ヒロの記憶が蘇ってくる。



    目の前にいる女性の名は、白鳥澤・アナ・グラシード。24歳。



    元軍人であり、特務機関DRASTの副隊長を務める。



    「大丈夫か。……まだ無理はしなくていい」



    彼女は続いて、ヒロに暖かい言葉をかける。


    薬指に光るものはないものの、まるで母親のような優しさに、ヒロは安心した。



    「…………!」



    しかし、その安心こそが、彼の冷静な思考を復活させた。


    現在、ほぼ全ての人類が、VPCP(ヴァーチャルパーソナルコンピュータフォン)によってウイルス感染をしていること


    機械が苦手だった自分はVPCPを利用せず、そのウイルスを間逃れていたこと


    自分が、特務機関【DRAST】(ドラスト)の隊員になったこと



    そして



    自分の一番大事な人である、幼馴染であり【感染者】になった高濱マナに襲われたこと



    彼は、アナの顔を見て声を聴き、全てを思い出した



    「……全部……夢じゃないんですね……」



  7. 7 : : 2015/03/02(月) 22:00:47




    彼がまず思うことは、絶望



    冷静な思考能力で改めて考える



    現在世界中で使用されている携帯電話機VPCPの利用者イコールが感染者であり、


    自分は、その感染者と戦う完全なる少数派



    簡単に言ってしまえば、80億人VS数百人という話だ



    絶望以外に何を感じ取れというのだろう



    「……そうだ。夢ではない」


    「……」



    彼女が言うことは最もであるが、彼はそれ以上に気がかりだったことを思い出す。



    「っ、そ、そうだアナさん! マナは……っぐうっ!」



    急に声を出したヒロは、体中の痛みに耐えかね苦しそうにする



    「……無理をするなヒロ」



    「あ……ぐ……!」



    「インストールシステムに慣れるまでは、血液の負担が大きすぎる」



    「……ういいっ……い、痛た……」



    「……むしろ君が他の隊員と同じように、インストールシステムの反動が出ていることに、安心しているよ」



    「は……はあ……!」



    不意に、ヒロはズキズキと痛む自分の右腕を見る。



  8. 8 : : 2015/03/02(月) 22:04:15




    薄暗い中であったものの、自分の腕に【2つの小さなかさぶた】があることに気が付く



    「……?」



    「……腕が痛むか? すまない。君が気を失ったため、私が代わりにアンインストールをさせてもらった」



    「アンインストール……ですか?」



    「横文字は苦手か? 簡単に言うと、君の体内に寄生させていたウイルスを、スマホからワクチンを注入して取り除いたということだ」



    「……………………よ、よく……分かんないです……」



    「……」



    「そ、それよりっ!」



    「……ん?」



    「マナは……マナは無事ですか!?」



    ヒロが一番に心配する点



    それはやはり、【感染者】となってしまった彼の幼馴染、高濱マナの存在だった


    高濱マナは、ヒロにとって大事な幼馴染であり、同級生であり、陸上部のマネージャーであり、


    恋人という表現こそできないものの、ヒロにとって絶賛片思い中の恋相手である。



    彼女も機械が苦手であり、これまでVPCPを持っていなかったものの、ヒロがDRAST隊員となったその日、彼女は感染者となったことが発覚している。



    VPCP等で感染する「デビルウイルス」と呼ばれるウイルスは、一旦人に感染してしまえば、現在その治療法はない。



    早く言えば、一度感染してしまうと二度と元に戻ることはないのだ。



    「……」



    アナは沈黙しながら、目線を反らさずに真っ直ぐとヒロを見つめる



  9. 9 : : 2015/03/02(月) 22:26:25



    「ヒロ……、やはり、覚えていないのか?」



    「えっ」



    アナは意外そうに聞き返す。


    ただ彼女が「やはり」と発言したということは【ヒロが戦闘行為について覚えていない可能性】も示唆するという意味も含まれた



    「……どういう……ことですか?」



    「……思い出せないのか?」



    「えっ……と……」



    「……」



    ヒロはない頭で思考を巡らせる



    確か自分は、感染者と戦うDRASTという組織の一員となり



    未だVPCPを利用しておらず、感染していないと思われる【高濱マナ】の救出に向かった



    しかし自分の心配も虚しく、高濱マナはすでに感染しており、更に電磁画面を具現化した緑色の触手を自在に操る【覚醒者】と変貌を遂げていた



    「あ……!」



    高濱マナの恐ろしい形相を思い出し、ヒロは身震いする


    ただしかし


    その後自分とマナがどうなったのか


    どうしても、思い出せなかった




    「……」



    アナはその姿を見て、自分の勘が正しかったことを確信する



    彼女が体験した【まるで時間を止められたような感覚】については、ヒロ自身も理解していないのだ、と改めて感じることができたからだ



    「……君は、君自身の力で高濱さんを救出した」



    「えっ!」



    ヒロは驚き、奇声を発す



  10. 10 : : 2015/03/02(月) 22:33:29




    「……先ほどの身震いから察して言うが、彼女は感染者の中での厄介な【覚醒者】になっていた」



    「……」



    「……が。君の起こした【何か】の能力で、彼女は無事保護されている」



    「えっ」



    「……」



    「ほ、本当ですか!?」



    「……ああ」



    「よ…………良かったあ…………!」




    ヒロは胸に詰まる想いを落ち着かせるかのように、再びベッドに横になる



    「……」



    しかしアナはその姿を見ても、彼と共に喜ぶ姿を見せることはできない



    「…………あ!」



    ヒロは何かを思い出すように、再びベッドから腰を起こす



    「じゃ、じゃあ今、マナはどこにいるんですか!?」



    「……」



    アナは少しヒロから目線を逸らし、少し間を置いて彼に質疑する



    「もう、歩けそうか?」



  11. 11 : : 2015/03/02(月) 22:39:08























  12. 12 : : 2015/03/02(月) 22:53:43





    彼らが休息していたのは、都内の東村山と呼ばれる地区の下水道に位置する避難用のシェルターだった



    過去、DRAST東京支部の一つとして利用されていたものらしいが、感染者に半年前に発見され逃亡を余儀なくし、以後同支部は利用されていない



    未だ感染者が徘徊する危険性もあったが、【とある能力者】のサーチングにより、感染者が存在していない状況であると判断されたため



    気絶していた鎌足ヒロと高濱マナを連れ、秀虎ハイロ率いるDRAST隊神奈川支部は、同シェルターまで避難してきたそうだ




    「……」



    コツ、コツと音を立て、ヒロとアナはシェルター内の廊下を進む



    廊下の外側は下水道になっているのだろう


    河の流れる音が絶えず鳴り響いている




    「……あの……アナさん……」


    「……ん?」



    振り返るアナは、少々苛ついているのか、疲れているのだろうか



    既に確認した体中の傷跡や、目の下のクマ等から察するに、明らかに疲弊が見られる



    「……あ、いえ……」


    「……」



    そんな彼女の姿を見て察し、ヒロは質問を辞めた



    自分はよく思い出せていないが、一緒にマナを救出に行った彼女が傷ついているということは



    かなり危険な行為をさせていたということに、罪悪感を感じられずにはいられなかった



  13. 13 : : 2015/03/02(月) 23:01:10



    「……ここだ」



    アナはそう言うと、ヒロが寝ていた部屋から100メートル程離れた、小さな穴の空いた壁の前に立つ



    さすがに見慣れたとまではいかないが、その穴にはスマートフォンを差し込む専用のものであるということはヒロでも分かった



    「……ここに……マナが……?」



    「…………ああ」



    ヒロは思い出していた


    アナはヒロが、高濱マナを救ったと言っていたものの


    【覚醒者】となり、狂気に染まったマナの顔が、未だに頭の中に鮮明に残っているのだ




    「……ヒロ、一つだけ忠告しておく」



    アナはスマートフォンを差し込む前に、振り返ってヒロに言う



    「……はい」



    「……我々が行っている行為は、当然な行為であることを理解しろ」



    「えっ」



    「そして、軍人の教えまでを君に教示するつもりはないが」



    アナはそう言って、スマートフォンを穴の中に差し



    「……感情を押し殺せ」



    閉鎖されていたドアを開けた



  14. 14 : : 2015/03/06(金) 01:04:05




    「あ……」



    ヒロの前に、薄暗い部屋の中で蝋燭の火が灯る場が映し出される



    正方形で直径約10メートル程の部屋であろうか



    異臭もする。鉄分を多く含むような生臭い匂いだ



    早く言ってしまえば【車に轢かれた猫の死体】のような血の生々しい臭いがした



    「う……!」



    ヒロは一瞬、その口と鼻を押さえる



    だが



    「!」



    すぐにその部屋の異常に気付いた




    「……起きたのですです? ……鎌足……ヒロ」



    振り返った幼い彼女はヒロに問う



    相変わらず話の語尾が特殊な彼女は、名を生茂田サヤ(おもださや)といった



    現在12歳。

    小学校高学年である彼女は身長が150センチ以下と低いものの、明らかに他の幼い小学生より落ち着いて見える




    「おま……え……!」



    ヒロは彼女の姿を見て驚愕する







    ヒロが見ていたのは、生茂田サヤの姿ではない



    彼女の後ろに、鉄製の鎖を両手につけられ、壁に磔(はりつけ)にされている幼馴染



    高濱マナの姿だった



  15. 15 : : 2015/03/06(金) 01:13:31




    「……」



    マナは黙ったままぐったりとして、顔を伏せている



    手錠をされている手首には、赤い線が見えた



    恐らく数時間___いや、数日間も彼女は磔(はりつけ)にされていたであろうことが容易に想像できた




    「……どうしたのですです? 鎌足ヒロ。」



    「あぁ!?」



    「……私を凄く、睨んでいるので」



    「……そりゃあ……睨むだろ……!」



    ヒロはそのまま、サヤの元へ勢いよくツカツカと歩いていく



    「ヒロ。私の言葉を忘れたか」



    アナはヒロを諭すも、激情型のヒロは止まることはない



    「っ……!」



    ヒロはそのまま、小学生で女性である生茂田サヤの首襟を掴んだ



    「おい! 今すぐその危なっかしいもんをマナから離せ!」



    ヒロは叫ぶ



    「……はな……すの、ですです、鎌足……ヒロ……!」



    「お前が……!」



    ヒロは一呼吸置き



    「お前がオレの大事な幼馴染に……拳銃突きつけてるから! 離す訳にいかねえだろ!!」



    サヤに思いの丈を叫んだ



  16. 16 : : 2015/03/06(金) 01:21:51



    「くる……しし……いの……です……」



    「ああ!? じゃあさっさとそんな危なっかしいもん離しやがれ!」



    「……!」



    「人の大事な幼馴染に何ってことしてんだ! 返答次第によっちゃおま____」




    ヒロが叫び続けようとした、そのすぐ様



    ガキッ、という音が室内で響き、ヒロは壁際まで吹き飛んだ




    「がっ!!」




    一瞬、自分自身に何が起こったのか分からなかった。分かるはずがなかった



    自分の目の前には、大事な幼馴染に拳銃を構える小学生がおり



    その行為をやめさせるため、意気揚々と、その小学生の首襟を掴んでいた



    しかし、その光景は一瞬にして



    ドレッドヘアーが似合う、高身長の男が自分の首を絞めている光景へと変わった




    「おいおい……何様だぁ、オメエはよ」



    「う……!」



    恐らく、この大柄な男にストレートパンチを食らったのであろう



    ヒロの口内には血液の味が広がり



    更に壁際に押さえつけられたことにより、呼吸ができぬ程締め付けられ、息苦しかった




  17. 17 : : 2015/03/06(金) 01:30:57




    「あ……う……!」



    息ができない



    先ほど、生茂田サヤはこのような状態だったのだろう




    「あ……!? なんか言ってみろよ……コラ……!」



    ドレッドヘアの大柄の男は、荒々しく彼に問うた



    「お前のせいでよお……! どれだけ隊員の危険を招いたと思ってんだ……? ああ!?」



    「……ユウスケ。やめろ」



    アナも、ユウスケと呼ばれた彼を静止する言葉を投げかける



    「……姉さん。ここは止まりませんぜ。こいつには教えてやるべきなんですよ」




    「ぐ……あ……!」



    「おめえが……おめえが感染者の高濱マナを救うとか言ったから! 今こんな目に遭ってんだろーが!!」



    「う……!」



    「よくもまあ、恩を仇で返すような真似ができたなオイ! ああ!?」



    アナは一息ため息をつくと、大柄の男に近づきその腕を掴む



    「……ユウスケ。落ち着け」



    「……」



    ユウスケと呼ばれたその男は、彼女の静止なら聞かざるを得ないという顔をし



    首を絞めていたヒロを、地面に落とす



    「がはっ! ……はあ……はあっ!」



  18. 18 : : 2015/03/09(月) 22:22:05




    「けっ」



    ドレッドヘアの男は舌打ち混じりの声を発す



    彼の名は【新羅ユウスケ】。19歳。



    神奈川県内有数の超不良校「烏丸高校」出身の暴走族の頭



    どのような経緯を辿り彼がDRAST隊員となったかは不明であるが、ヒロを躊躇なく殴り首を絞める姿は、現代に不良が絶滅していない証明にも繋がるだろう




    「ごほっ……! く……!」



    ヒロの呼吸も落ち着いてくる


    しかし彼の起こした行動、そして想いは間違いでなかったと示したかった



    「そんなこと……言ったって……!」



    「……大丈夫か」



    ユウスケと違い、アナは優しくヒロに手を差し伸べる



    「……」



    ヒロは口の血を拭うと、アナの手を取り立ち上がりながらユウスケ達を睨んだ



    「んだぁオイ。まだやられ足りねえってのかコラ」



    元不良である彼は巻き舌でヒロを威嚇した



    「……そ、そういう……訳じゃ……」



    「じゃあ何ガンつけてんだてめえ」



    「いや……その……」



    「……二人共やめろ。我々が争っても何も解決になる訳でもないことは分かっているだろう」



    「……」



    「ヒロ、君が憤怒する気持ちは分かる。だが彼女___高濱マナに拳銃を突きつけていたことは我々にとって【当然の行為】であったことは理解してほしい」



    アナは変わらず、冷静にヒロをなだめる



    「……」



    アナの後ろにいた生茂田サヤも、ヒロを見つめながら落ちていた拳銃を拾うと、ゆっくりと立ち上がり尻についた埃をはらった



    「……当然の行為って……どういうこと、ですか……」



  19. 19 : : 2015/03/09(月) 22:34:18



    「……彼女は感染者だった。それは覚えているな」



    「……はい」



    ヒロは辛そうに答える



    「そして……感染した者は、現在どのような方法を使っても治癒することはできない。そのことも、理解しているな?」



    「っ……」



    「君が、君自身の力を使って【感染者】である高濱マナを救ったことは紛れもない事実だ。しかし」



    ヒロを傷つけるつもり等毛頭ない


    が、アナは軍人の端くれなのだ


    ありのままの事実を打ち明けることに躊躇はない



    「感染した彼女を、そのままにしておく訳にはいかない」



    「っ……! そ、それって……!」



    「……最悪、我々の危険となる彼女を処分しなければならないのは、当然の行為なんだ」



    「そんな……!」



    ヒロの顔はだんだんと青ざめていく



    アナの発した「処分」という言葉イコール、高濱マナを殺害しなければならない、という意味だ



    感染した者を治癒できる望みがない今、確かに彼女の言うことは正論以外何者でもない



    特務機関DRASTからすると、自らの危険性を犯してまで高濱マナを匿う必要性は、どこにもないのだ




    「しかしだ」



    アナはそう言うと、怯えるヒロの前に1本の指を立てる



    「現段階で彼女、高濱マナからは【感染者】としての構成要件が全く見当たらない」



    「え……?」



    「君には難しい言葉は厳禁のようだな。……高濱マナは一度感染していたが、【何故か今は感染者ではなく普通の人間に戻っている】ということを言いたい」



    「マ……マジですか!?」



    ヒロの目に精気が戻ってくる


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nitta1234

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