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東京喰種:reーLost Ghoulー

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  1. 1 : : 2015/02/20(金) 01:35:43
    皆さんどうもこんにちは(*^^*)

    東京喰種re:の原作では描かれなかった空白を書きたい、と思い投稿しました。
    初めはトーカ編です。

    それではどうぞ!
  2. 2 : : 2015/02/20(金) 02:45:23






    ーLost in the unraveling worldー






















    カランカラン



    「いらっしゃいませ〜」





    軽快な鈴の音が店内に響く。四方さんが解体された"あんていく"からわざわざ持ってきたものだ。


    昼前だというのに客足はパッタリだった。今来た男性を除くと、re:には誰もいない。

    きっと、ここ最近のアオギリとかいう訳わかんねぇ組織のせいなのだろう。ヤツらのせいでここ20区でさえも物騒となり、出歩く人はかなり減った。





    「トーカ、コーヒーの在庫が少なくなってきた」




    相変わらず寡黙な四方さんはウェイターはやらず、裏方の仕事中心だった。



    「後で買いに行った方がいいですか?」



    「あぁ、頼む」




    素晴らしい天気だった。久しぶりに晴れて、窓を開ければ頬を撫でる爽やかなそよ風も心地いい。

    そんな晴空とは裏腹に私の心は、どこまでいっても晴れ間が見渡せないどんよりとした曇り空だった。


  3. 3 : : 2015/02/20(金) 02:46:33






    「はぁ…………」



    自然とため息がこぼれ出る。

    Sレート級のため息。"あんていく"襲撃からもうどのくらい経ったのかな……



    どれだけ待っても、カネキは一向に帰って来ず、悪い話ばかり聞く。


    『カネキチは、有馬って捜査官に駆逐されちゃったそうだよ』



    タダの情報なんて信用できないから、話半分に聞いときな。そうやってイトリさんは、私が悲しまないように言ってくれた。






    1人にしないって、
    ホントどういう意味だったんだよ………

    カネキの顔を思い浮かべる。ぼんやりと輪郭は思い出した。目。鼻、口。それぞれパーツを並べてみる。


    ────違う。

    こんなんじゃ、ない。



    また別のパターンで並び替えてみた。


    ───────やっぱり違う。




    どれだけアイツを思い浮かべようとしても、ぼんやりとした影法師のような男の子しかイメージできなかった。







    「………カ」



    「……………ーカ」




    遠くから、手の届かないほどとても遠くから、何やら声が聞こえてくる。

    それはゆっくりと、しかし確実に近づいてきた。





    「……トーカ」



    え?私の名前?







    「トーカ! 」




    四方さんが少しだけ声を強めたところで、私は現実に引き戻される。

    遠かった音が戻ってきて、霞んでいた自分の視界を鮮やかに彩った。




    「すみません、なんですか?」



    軽く顎を引き、呆れたように四方さんは口を開いた。




    「何言ってる、オーダー頼まれてるぞ」



    「あ、わかりました…………ぇ⁈」






    カウンターへ、走る。

    レジの横に置いてあるこじんまりとしたメモ帳を手に取り、急ぎ客のテーブルへ鉛のような足を運ぶ。




    「すみません……ご注文は?」






    決まりが悪そうに笑った……つもりだったが、顔が引きつって何とも滑稽な引き笑いになってしまったのだろう。

    その男性客は笑いを堪えようと、ティッシュで鼻をかむ振りをするという分かりやすい誤魔化しを披露してくれた。






    「レモンティー、それとフレッシュハムサンドを一つ。」



    「かしこまりました! 」






    こんなの、私らしくないよね。









  4. 4 : : 2015/02/20(金) 06:30:59
    期待です!
  5. 5 : : 2015/02/20(金) 08:20:21
    >>4初期待コメント感激ですo(^▽^)o
    ありがとうございます‼︎
  6. 6 : : 2015/02/20(金) 08:36:14
    期待ですッッ!
  7. 7 : : 2015/02/20(金) 17:31:51
    期待ですッッ!!
  8. 8 : : 2015/02/20(金) 17:43:18
    >>6,>>7ありがとうございます‼︎
    いつもお世話になりますm(_ _)m
  9. 9 : : 2015/02/20(金) 17:45:54













    「あっつ……………」




    日は既に高く昇り、肌を刺すような冷気で冷えたアスファルトを、次第に温めていた。

    否、別に暑いわけではない。私がこんな日に、オーバーコートを着てきたのが間違いだった。





    ____________重いな、コレ。

    コーヒー缶の入った袋は重く、そのことが余計に私の足取りを重くさせる。



    「脱ご…………」





    急に強くなった北風は、辺りに散っている木の葉を巻き上げ、火照った私の体から体温を奪っていった。

    諦めたように天を仰ぐと、さっきまで雲一つない快晴だった空には、遠く彼方から遊びに来た、嫌な色の雲が広がっていた。











    大通りを抜けて、横道に入る。
    端っこにはゴミが点在し、とても清潔だとは言えなかった。

    顔にかかる蒼色の髪を払いのけ、re:へと続く、裏路地へと更に入る。



    「………………ん?」



    こんな道には珍しく、人が2人、いた。
    一方は男性。もう一方は女性。

    それだけ認知して、
    私の行動は非情にも抑制された。
    文字通り、蛇に睨まれた蛙のように。




    ただ、何を告げるでもなく、何を語るでもない。白い服を身に纏い、生白い銀色に輝く箱を携えた、"白鳩"が立っていた。




  10. 10 : : 2015/02/20(金) 17:53:54
    期待!!
  11. 11 : : 2015/02/20(金) 17:57:36
    >>10期待コメ嬉しいです(≧∇≦)
    励みになります‼︎
  12. 12 : : 2015/02/20(金) 18:22:07
    期待
  13. 13 : : 2015/02/20(金) 18:27:09
    >>12感謝感激ですっ\(o^▽^o)/
    ありがとうございます‼︎
  14. 14 : : 2015/02/20(金) 19:53:59
    期待です!
  15. 15 : : 2015/02/20(金) 20:22:36
    面白そう
  16. 16 : : 2015/02/20(金) 21:50:08
    >>14,>>15ありがとうございます(*^o^*)
    期待に応えられるよう、頑張ります‼︎
  17. 17 : : 2015/02/20(金) 22:32:57






    ________ヤバい、白鳩か。



    その捜査官2人は、真っ直ぐに私の方へ歩いてきた…………が、彼等は私に一瞥をくれただけで、特にどうということもなく、素通りしていった。


    良かった、私が喰種だとはバレてない。ホッと胸をなで下ろすと、すれ違いざまに彼らの会話が聞こえた。




    「下口班はまだ、"トルソー"の尻尾を掴んでいないのか」



    銀白色の艶やかな髪の女性が半ば文句を言うように呟いた。

    それに答えたのは、白黒ツートンカラーでクセ毛の、優しげな男性だった。



    「はい、ちょっと立て込んでいるようでして………」




    次の瞬間、私は私の中の、あらゆる感覚という感覚が、まるで研ぎ澄まされた鋭利なナイフのように、したたかに、鋭くなったのを感じた。

    体が棒のように動かなりその場に立ち尽くす。もう一度、その男性の顔に視線を戻す。




    「そんなこと言ったら失礼じゃないですか、アキラさん」



    手で顎をさすり、下をうつむいて苦笑しながら、青年は続ける。


    「推定レート"A"の危険な喰種ですよ。慎重が過ぎることはないでしょう」





    …………あの、顎をさするクセ。

    あの、髪の色、喋り方。目、鼻、口、耳、顔の輪郭。朝、私が思い浮かべていた顔と、寸分の間違いもなく一致した。



    それに、ちょっとリゼが混じった、あの嗅ぎ慣れた匂い。


    _______________間違い、ない。





    (カ…………ネキ……?)












  18. 18 : : 2015/02/21(土) 08:46:56
    期待です!(っ`・ω・´)っフレーッ!フレーッ!
  19. 19 : : 2015/02/21(土) 11:24:11
    >>18ありがとうございます‼︎
    頑張りますっo(*`ω´ )o
  20. 20 : : 2015/02/21(土) 12:53:53





    ハッキリ言って、アイツがカネキだっつぅ根拠はない。理由もない。

    ひたすら自分の中の"何か"が、私に、アイツがカネキだと、訴えかけてくるのみだ。けど、私が納得するには、それだけで十分だった。

    ただ一つ、前と違うのは………




    「アハハ……………ビックリしちゃいますよね。」



    ________アイツが笑ってる。

    上司らしき女性との会話で談笑してる彼の顔は、前みたく、悲劇のヒーローみたいな面影は残っておらず、どことなく好感を覚えた。


    私が見たかった顔だ。私が欲しかったアイツだ。私が最も望んでいた、カネキの顔だった。

    瞼が熱くなり、私の繊細な涙腺を刺激した。潤んだ瞳が、乾いた風に吹かれてヒリヒリする。



    「それよりも、クインクス達の統制が先ですよ。」




    _____と、同時にやり場のない不安と後悔がフツフツと湧いてくる。

    そんな……アイツが、喰種捜査官?
    喰種と捜査官なんて、決して分かち合うことのできない、水と油。


    アイツが生きてた。ひょっとしたら、reに戻ってきて、また、やり直せるかもしれない。そんなチンケな希望は、アイツの"白鳩"という明らかに敵対的な立場の前に、あっけなく崩れ去った。



    (カネキ、なんで…………そんなんなっちゃったのよ……)






    様々な感情が入り乱れ、私の思考は停止する。遠ざかる彼等の背中を、何もできずに見つめていた。周りの景色は霞んで色を失っていた。




    ____________刹那。












  21. 21 : : 2015/02/21(土) 16:16:40






    「…………ッ」



    下腹部に重みが、衝撃が走る。

    体勢が崩れる、足がもつれる。


    靴底が地面から離れる。とかく、体が宙に浮いて、反射的に目を閉じた。近づてくる暗い地面を横目で見る。倒れるっ⁈

    気付いた時には既に、大きく尻餅をついていた。一瞬遅れて目がくらむ。




    「テメェッ………! 」


    キッとして振り向くと、そこにはまだ小学生だろうか、バツが悪そうに顔を赤らめ、涙が溢れそうな目頭を必死で抑える、幼い子供の顔があった。




    _____________バカ野郎、泣きてぇのはコッチなんだよ‼︎いきなりぶつかって来やがって。



    口には出さず心の中で大きく毒づき、スカートに付着した細かい埃を払い、ゆっくりと立った。

    勝手に走ってきて、私にぶつかった男の子は、何も言わずにそそくさと路地から退散していった。







    _______カランッ



    乾いた音がした。
    何か硬いものが、アスファルトの地面に落下したような音だった。

    果たして、それはその通りだった。




    先程の女性捜査官が、しなやかにこちらを振り向く。




    「そのマスク……貴様っラビットか⁈」



    その一言は、確かな憎悪と怒りをもってして、私の耳へ焼き付いた。

    振り向くと、ファスナーが開いたままだった私のショルダーバックから、私のペルソナ《仮面》、"ラビット"のマスクが地に堕ちていた。



    ____________ヤバい。




  22. 23 : : 2015/02/21(土) 16:33:06






    本日二度目のヤバい、を心から叫ぶ。




    「ぁっ…………………」




    声にならない短い悲鳴を上げて、後ろに三歩下がる。

    急いでマスクを取り上げ、フードを被る。深く。もっと深く、顔が見えないぐらいに。





    _______ガチャッ、ガチャン


    彼等がクインケを展開する音が、私の頭にこだます。それはまるで、私を気の遠くなるような地獄へと誘う、亡者の叫びのようにも聞こえた。



    ……さっきの自分を全力で後悔。

    コーヒー店で財布出した後、しっかりファスナー確認しとくんだった。




    今更、遅いか。

    諦めたようにマスクをつける。







    「よくも父をっ‼︎」




    女性の発した、父、という単語に何処か引っかかる感覚を覚えながら、身構える。


    真剣な眼差しを私に向ける、"元カネキ"
    現捜査官に、伝えられない、けど、どうしても伝えたい言葉を、無表情なウサギのマスクの内側で、トーカは聞こえよがしに叫んだ。




    「なんでそんな、訳わかんない組織に……目ぇ覚ませクソカネキッッ‼︎」






  23. 24 : : 2015/02/22(日) 12:41:32
    期待です!=^・ω・^=
  24. 25 : : 2015/02/22(日) 12:48:50
    >>24期待コメありがとうございます‼︎
    めっちゃ嬉しいです\(T ▽ T)/*•.
  25. 26 : : 2015/02/22(日) 13:28:51
    相変わらず『刹那』っ言葉好きですねw


    そして、期待ッッ!!
  26. 27 : : 2015/02/22(日) 13:38:45
    >>26バレちゃいましたかww

    そうですね、お気に入りの単語です(^.^)
    期待ありがとうございます‼︎
  27. 28 : : 2015/02/22(日) 14:02:25





    ________ザシュッ



    鈍く生々しい音と共に、私の肩から吹き出た、紅く熱い血液がパーカーを鮮やかに染めた。

    吐き捨てるように女性は言った。



    「クズは駆逐だ………」




    あの、アキラとかいう白鳩のクインケ。鞭のようなしなやかさと、ナイフのような硬さ、要するに尾赫と甲赫の2つの性質を持ち合わせている。

    羽赫の私にとっては非常に部が悪く、やりにくい。全くもってやりにくかった。


    彼女のクインケの尾赫の部分が、きめ細やかに空気を縫って、私の右肩をかすめた。



    「コンマ1。今だ、ハイセ! 」



    「はいっ‼︎」




    ハイセ、と呼ばれた元カネキは、見た目甲赫?のような鋭い針状のクインケを私に振るう。



    それを紙一重で避ける私。何度も、何度も彼のクインケの矛先は、私の服のあらゆる箇所を切り裂いた。


    「舐めんな! 」




    とばかりに、アイツの空いた腹に拳を突き出した……が、すんでのところで彼の左肘に防がれ、"ハイセ"は反撃に出た。



    「貴方に恨みはありませんが、ssレートを見逃すわけにはいきませんのでっ」




    __________バカか、アンタ。

    戦闘中に敵に向かって敬語とか。相変わらず甘いんだよ。そう罵倒しつつも、そんな言葉を掛けてくれたことに、嬉しがっている自分がいた。


    そんなこと、アイツは知る由もないってのに………






    _________ドカッッ

    無慈悲な蹴りが、私の腹に容赦なくめり込む。




    「ぐっ………カハッ」






  28. 29 : : 2015/02/24(火) 01:54:42
    凄い展開になってきた…!
    今後どうなるか楽しみ( ̄∀ ̄)
  29. 30 : : 2015/02/24(火) 08:26:59
    >>29コメントありがとうございます‼︎
    今テスト期間なので、更新は3月6日からになってしまいますが、それまで待っていただけると幸いですm(_ _)m
  30. 31 : : 2015/02/24(火) 17:01:47
    テスト頑張ってください!
    自分もテストですがw
  31. 32 : : 2015/02/24(火) 18:44:05
    >>31ありがとうございます‼︎お互いテスト頑張りましょう(o^^o)
  32. 33 : : 2015/03/02(月) 22:50:49
    期待です。
    頑張って。
  33. 34 : : 2015/03/02(月) 22:54:57
    >>33嬉しいです‼︎
    ありがとうございます*\(^o^)/*
  34. 35 : : 2015/03/03(火) 11:31:08






    アイツの蹴りは、確実に私の鳩尾を捉えていた。後方に数メートル吹っ飛び、思い切り背中を打った。



    「ガッ………………」




    一瞬息が止まる。呼吸も止まる。痛い。

    すぐさま起き上がり、態勢を立て直す。
    口の中は微かに甘い血の味がして、アスファルトの地面に滴り、淡い血痕を残した。




    口の中に溜まった血反吐をペッ、と吐き出し、蹴られた腹を触る。






    __________ピキッ



    イヤな音がした。

    ヒビ?骨にヒビが入った⁈



    肋骨の一部にヒビが入っている。クソッ
    肋骨に全神経を集中させ、まずは回復に専念する。




    な、んで…………アイツは人間だろ。

    もう喰種じゃねぇんだろ⁈
    あり得ない。ただの捜査官がひと蹴りで、喰種の肋骨にヒビを入れる⁈

    そんなことって、あんのかよ………





    独りで毒づきながら、顔を上げた。
    そして、悟った。



    __________終わったな。






    顔を上げて、真っ先に目に飛び込んできたのは、アイツがクインケの鋭く尖った先端を、寸分違わず私の頭にピタリと向けている光景だった。



    「摘ませていただきます。」




    アイツのクインケがキラリと光る。

    あ〜ぁ、終わった。
    つまんねぇ人生だった。


    こんな時に限って思い出すのは、カネキの無邪気な笑顔。まさかこれが、走馬灯ってヤツ?


    なぁ、アンタ………………



    1人にしないって、約束したのに。
    結局、最後の最後まで、私を1人にしたままだったね。

    アンタの目には、私はどう映ってるんだろう。






    アイツがクインケを振るう。空気が振動して、私の碧い髪を揺らした。


    もう、終わりだ…………
    考えるのやめて、楽になろう。


    目を閉じる。







    あの世に行ったら、


    お父さんやお母さんに、会えるかな……











  35. 36 : : 2015/03/03(火) 11:50:38





    ______________静寂。




    訪れたのは、時折吹く横風のピュウという音以外は、何も聞こえない、確かな静寂だった。


    生き物という生き物が、無生物という無生物が、この世界が、全て死んでいるんじゃないかって、


    そう、思えるほど、不気味なくらい静かだった。






    目を閉じてから、数分はたっただろうか

    しかし、何も起こらなかった。
    私は以前、私のままだったし、世界もまた、世界のままだった。




    もうすぐ死ぬってのに、何考えてんの?
    あと少ししたら、アイツのクインケが、私の頭を無残に貫くだろうに…………





    「…………………………」



    それでも、何も起こらなかった。
    どれだけ待っても、静寂のままだった。



    恐る恐る、ゆっくりと目を開けてみる。




    「…………ぃ⁈」





    小さく悲鳴をあげる。
    私の鼻先には、数ミリ単位でクインケの矛先が存在していた。


    驚いてまた、瞼を閉じる。
    やはり、何も起こらなかった。





    今度は恐れずに、キッと瞼を開いてみた

    先程と全く同じ位置に、アイツのクインケはピタリと座していた。



    その、向こう側には……………







    唇を噛み締め、紅く染まった左目から、一筋の煌めく涙を流す、彼の歪んだ顔があった。



    _______________え?






    そしてその唇から、消え入るような震え声で一言、こう、囁いた。









    「トー………………カ……ちゃん」












  36. 37 : : 2015/03/05(木) 13:05:35















    「……………ぇ、今、何て?」



    トーカちゃんだぁ?
    確かに、そう聞こえた。
    確かに、そう言った。



    声の主、佐々木琲世一等捜査官は、狙ったクインケをピクリとも動かさず、自分で発した言葉に自分で驚いて、石のように硬直していた。




    _________って、誰⁈


    なんだ僕は………今なんて言った⁈





    「トー…ト…………ゔっ⁈」




    ダメだ、やっぱり思い出せないっ。
    自分で言った言葉なのに!


    _______ズキッ





    「ゔっ………あぁぁぁあっ‼︎」



    痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

    痛い痛い痛い痛い痛い
    痛い痛い痛い

    痛い痛い………痛い‼︎




    頭に割れるような痛みが走り、苦しみに悶えた僕は、そこらにのたうち回った。



    「あぁぁぁああああああああっっ」




    一生、終わることはない咆哮を。
    一生分の痛みを。
    誰かのために悲しみを、
    彼らのために憐れみを。





    「ハイセッッ‼︎」



    甲高く叫んだアキラさんの声も、僕の耳にはその断片すら届かなかった。



    _______どうして?なんで?

    守るんじゃなかったの。なんで君は、こんな所にいるの?



    僕の中で、自分じゃない"何か"は、間髪を入れずに質問をしてきた。





    ______守る?

    誰を?



    決まってるだろ、トー………あれ?

    て、て、て………ヒナ…ぁぁぁぁあ





    「ぃあああああああぁぁぁぁっ」



    そうだ、守るんだ。けど、誰、それ?


    トー……なんだって?




    ヒナ…………ヒ…ヒ…………デぁッッ




    「僕がっ、僕が全部守るんだぁ‼︎守っ守っる………ぅ」






    猛り狂ったハイセの目の前で、トーカはただただ唖然とするばかりだった。

    しかし、彼の"守る"というフレーズに、弾かれたように我に返り、お返しだ、と言わんばかりの飛び蹴りを、ハイセにお見舞いする。



    「らァッ‼︎」


    ___________ドガッ






    「ぐ……プッ…」







    喰種もまた、喰種。彼女のひと蹴りでハイセは、アキラの真横まで吹っ飛んだ。




    「ハイセ…………」


    「アッ…ア、アキラ………さん」




    正気の沙汰じゃない。こちらを振り向いたハイセの顔には、もはや人としての理性は毛頭、残っていなかった。





    「佐々木。」


    「なぁ〜に?」






    ___________ドッッ



    「……ボッ⁈」





    僕が無意識に返事をするのと同時だった。アキラさん渾身の、自称"真戸パンチ"が土手っ腹に炸裂する。





  37. 38 : : 2015/03/05(木) 20:34:06
    期待です!
  38. 39 : : 2015/03/05(木) 20:54:14
    >>38緋色さん久しぶりです\(T ▽ T)/
    期待ありがとうございます‼︎
  39. 40 : : 2015/03/06(金) 21:12:54






    「うっ……………」


    腹を抑え、その場に崩れる。アキラさんのパンチのおかげか、少しだけ意識が戻ってきた。

    目を開く。





    「少し……自分の状況を整理してみろ。お前は誰だ?」


    「僕は………真戸班所属、喰種捜査官」





    思い出すように、間違えないように、丁寧に丁寧に言葉を探して、おぼつかない口調で並べた。



    「…さ、さき………ハイセ……」




    言ってから疑問が脳裏を駆け巡る。

    ________あれ。僕はこんな名前だっけ?



    「そうだ……お前は佐々木琲世だ。」




    ________そっか。

    僕は佐々木琲世だよね。




    安心したように虚ろな瞳で空を目し、グッタリとした体に鞭を打ちながら、アキラさんの腕から上体を起こす。


    ____________その時だった。












    雨だ。霧雨とまではいかないけど、至極小粒な結晶が、雨のように降り注ぎ、僕らと"ラビット"とを二分した。

    ________否、それはもちろん雨なんかではなかったのだけれど。


    羽赫特有の輝く小弾丸が、それまで見つめていた虚空の彼方からばら撒かれる。



    目の前のアスファルトは文字通りハチの巣になり、辺り一面に砂埃が舞う。





    ___________ズキッ


    再び疼きだした頭の痛みに、僕はまた意識を失いそうになる。地面がぐるん、と一回転した。



    「あっ……………」





    入り乱れる思考と、薄れていく意識の中でかろうじて見えたのは、

    白煙の中、鴉のようなマスクをして、銀色の髪をなびかせラビットを背負う、ガタイの良い男の姿だった。





    ___________四方さん?



    そう囁いたもう一人の"僕"には耳を貸さず、僕は静かに目を閉じた。









  40. 41 : : 2015/03/07(土) 00:39:07







    「………四方さん?」



    大きく強く、そして暖かな背中の上で、トーカはふと、目を覚ました。



    「………………」



    お得意のだんまり。お店どうしたんですか、そう聞こうと口を開きかけたら、


    「……closeにしてきた」




    なるほど。
    一応、店仕舞いにはしてきたんだ。


    アイツは泣いていた。
    んで、私の名前を口にした。そのあと狂っちゃってたけど。

    それにまぁだ一丁前に、「守る」だとか言ってたけど。



    「はぁ〜ぁ………」


    ため息をつく。SSレート級のため息。それにつられたように、四方さんも短く息を吐く。


    「……………研か?」




    どストライク。ご名答。

    答える気にならず、今度は私が黙秘権を行使した。代わりに、唇を噛み締めて小さく身震いする。

    それでも伝わったようだ。



    「そうか…………」


    小さく頷いて、目を細める。細めた目を空に向け、彼がおおよそ彼らしくない言葉を口にした。



    「あいつは……あいつなら大丈夫だ」


    「ぅえ?」



    「何が起こっても、研は必ず、自分の力で切り開き、前へと歩くだろう。」



    「…………」




    最後の一言は、ひときわ強く、力を込めて私に言い聞かせた。



    「俺は今でも、あいつは帰ってくると、そう、信じている。」



    「…………! 」




    だといいですけどね。喉元まで上がってきた反論は、口には出さず飲み込んだ。


    それでも、私にとってはそれだけで十分だった。




    フッと弱々しく笑ってまた、私は安心したように、否、実際安心して、心地よい彼の背中の上で眠りについた。





    「…………くたばれクソカネキ。」





    認めたくはないけど、こうなるとやっぱりアイツは、悲劇の主人公みたいだった。









  41. 42 : : 2015/03/07(土) 01:12:07
    期待!!面白いよ!!
  42. 43 : : 2015/03/07(土) 12:00:33
    >>42期待ありがとうございます‼︎
  43. 44 : : 2015/03/08(日) 00:42:10






    「あー………」



    カウンターに寄っ掛かる。
    足を組む。頬杖をつく。

    仕上げに仏頂面をする。




    あの日から、今まで以上に客足は遠のき(まぁ私たちの所為なんだけど)、今まで以上に暇になった。


    ホールに立っていても、1日中ポケーッとカウンターに突っ立って終わるってのが珍しくもなくなり、正直ダルいだけだった。





    「なんて面してる。」



    言われた。低く、よく通るイケボで四方さんは呟いた。



    「代われ、俺がやる。」


    「え……四方さんホールやるんですか?」



    とてもじゃないけど、その無表情と強面では余計に客が来ないだろ。

    いや、そうは言わないけどさ。


    そう思った私の心を読んだように四方さんは言った。


    「今のお前よりはマシな接客ができる。」




    失礼な。言うじゃん、四方さん。


    「それにお前、疲れた顔してるぞ。少し休んでこい」



    ちょっとだけ嬉しい心遣い。心の中で静かに感謝し、


    「それじゃ、お言葉に甘えて……」


    言ってStaff onlyのドアを開け、重い足を引きずりながら階段を上りかけた。



    __________と。







    カランカラ〜ン





    「僕の鼻赫子がそう囁いているよ! 」


    「スゲェなRC細胞」

    「鼻赫子って……」




    軽快な鈴の音と共に客が3人、入ってきた。振り返らずに、四方さんの接客を遠目に聞くことにした。


    「………………」



    ハイ、予想通り。四方さんはお客さんが来たってのに依然、頑として口を開かなかった。



    「もぉ………兄さん! 」



    休める、と思ったけどクルリ、と踵を返して急足でカウンターへと戻った。





    「ホラ、渋いお兄さんもいるし……」

    「無視されてね?」


    「それはホラ一見さんお断り的な……」




    「ちょっと、兄さん! お客来たら挨拶してって、」




    入ってきた白黒ツートンカラーのクセ毛の男性客と不意に、目が合った。



    __________あっ……







    「何度も………………」












    to:re












  44. 45 : : 2015/03/08(日) 01:09:23
    はい、というわけでトーカ編は終了です♪
    今後reでハイトーがどんな風に絡んでいくか期待ですね。

    それでは、次はヒナミ編です。どうぞ( ´ ▽ ` )
  45. 46 : : 2015/03/08(日) 01:10:11





    ーGood bye antiqueー





  46. 47 : : 2015/03/09(月) 19:53:07












    「お兄ちゃんが死んだわけないっ‼︎」




    悲鳴と、嗚咽交じりの金切り声で、小柄な体を震わせながら、ヒナミは叫んだ。


    "梟"討伐作戦が決行され、ヒナミ、トーカ、四方は、彼の自宅のテレビでその様子を中継で見ていた。


    ___________駆逐率99%。



    驚異的なその数値は、私達に残酷な現実として突きつけられた。

    その中には、




    鱗赫のSSレート、眼帯の喰種。通称、ムカデ。

    V14にて、有馬特等により、駆逐。





    テレビに映し出されるリストを、食い入るように見つめていたヒナミは、大きくしゃくりあげた。



    「ヒナミ…………アイツは、もう」





    露わになりそうな感情を必死で押さえ込み、自分が慰めなければ、となだめるようにトーカは言った。



    「入見さんだって………古間さんだって………」


    さらに、ヒナミは喘ぎながら続けた。


    「……………」



    何を考えているかはわからないその優しげな瞳で、それでも四方さんは口を閉ざしたままだった。



    「死んだわけないっ! 」




    捨て台詞?を言い放って彼女は走り出した。溢れ出した涙はキラキラと輝きながら、薄暗い部屋の宙を舞う。



    「ヒナミッ⁈」









  47. 48 : : 2015/03/14(土) 20:19:43







    ___________ヤバい。


    そんな気色が、四方さんの顔にも私の顔にも寸分違わず浮かんだが、時既に遅くヒナミはドアノブを回し、





    「お兄ちゃんっっ」




    扉の鈍い金属音と共に、一声叫んで出て行った。私も四方さんも、茫然と部屋に立ち尽くし、しばらく呼吸をすることさえ忘れていた。




    ___________コトッ


    机からテレビのリモコンが落ちる。と、同時に弾かれたように私は動いた。






    「…………ヒナミ‼︎」





    勢い良くドアを開ける。飛び出す。目の前には黒い影法師のような人が1人、存在していた。

    ぶつかる。





    「痛っ……………」





    ヒナミ____________ではなく。



    ズリ落ちたダテメをくぃと掛け直し、気持ちだるそうに白い息を吐く。

    そんなイケメンでもないくせに、曲がりくねったクセ毛を気にしながらアイツは言った。








    「よ、クソトーカ。何してんだ?」












  48. 49 : : 2015/03/20(金) 23:31:27






    「クッソ……ニシキ」






    なんでコイツは、
    なんでテメェは。

    そんな呑気な面してやがんだよっ⁈







    「貴未知らねー?最後に抱いとこうと思ったんだけどナァ」







    _________ギリ

    コイツは何も悪くない。そんなことは百も承知。だけど、けど………………何テメェは自分勝手気取ってやがんだ⁈

    入見さんが、古間さんが、店長が、
    カネキが、ヒナミが_______




    _________死んだかもしれないのにっっ‼︎







    「このクソニシキがっ‼︎」





    気付けばニシキを押し倒し、マウントポジションを取っていた。不意を突かれたアイツは抵抗虚しく、滅多やたらと痣が浮かぶ。

    まぁ、殴ってんのは私なんだけどねっっ。





    破壊の前に創造を。
    瓦解の前に葬送を。
    右に信仰、左に均衡。
    光に茶番、影に基盤。

    誰かのために悲しみを。
    彼等のために憎しみを。






    「今………何が起きてんのか、テメェ知ってんのかよ⁈」



    「はぁ……知るかクソトーカ! 」




    「店長がっ………入見さんがっ………古間さんがっ……………」






    ヒナミがいなくなった今、抑えている必要はなくなり、一気に目頭が熱くなる。
    焼けるように、燃えるように。







    「…ヒナミが……カネキがぁぁぁっ‼︎」



    「……………」





    感情ばかりが先を走る。涙は矢継ぎ早に溢れ出し、視界が淡く滲んで行った。そのままみっともなく泣き喚き、確固たる固有名詞の合間合間、続け様に拳を振るう。


    その間、アイツは悟ったような目をしてされるがままにしているだけ。
    ただ、それだけだった。






    「ニシキ、テメェ悔しくねぇのかよ⁈」







    最後の拳は、一際強く。鳩尾に真っ直ぐ放った___________が、


    その手は遮られる。






    「ヒナミは…………どっか行っちまったのか?」






    冷たい右手で私の拳を受け止める。

    紅く華輦な業火の如き血_____にまみれた顔を上げて、ペッと赤い液体を吐き出しながらアイツは言う。

    気味の悪いほど落ち着いた声だった。





    「ヒナミは………アンタが来る直前に四方さん家から出てったよ」





    顔をゆがめてそう返した。
    その事実を言葉にして初めて、ヒナミを止められなかったことに、全力の後悔と多大なる反省の念に苛まれる。

    __________と、








    「………俺が連れ戻す。」



    「ハァ?」











  49. 50 : : 2015/03/21(土) 21:25:22






    「ぁアンタ、何言って………」



    「いや、実はな………カネキが最後に頼んできたんだよ」




    これは言うつもりなかったんだけどな。そんな風に短く舌打ちをして、遠慮がちに回想に浸る。







    『何もできないのは………もう、嫌なんだ。』



    『悪いけど、俺は逃げるぜ。達者でな、カネキ』





    『西尾先輩。最後に一つ、頼んでもいいですか………?』




    『あぁ?なんだよ』






    長い夢から覚めたように、ニシキの回想はそこで途切れた。頭をくしゃくしゃと掻いて、続ける。




    「…………そう言って行っちまったんだ、カネキは」




    「俺に、『トーカちゃんとヒナミちゃんをよろしくお願いします』って言ってよ。」







    ずるいよ、アンタ…………

    最後の最後まで、こっちは守ってくれなんて、これっぽっちも頼んでないのに。



    私は何も言えなくなってシュンとした顔で俯き、雪のせいで白い砂糖を散らしたようなアスファルトを、ただただ見つめるしかなかった。






    「だから、俺はヒナミを探しに行く。カネキにゃあ借りがあるからな」



    「ニシキ………………」







    「絶対、連れ戻してくんぜ」






    貴未さんが、どうしてこんなクソニシキを好きになったのかは分からない。はっきり言って全然魅力なんかないし、典型的なダメ男にしか見えない。

    でも、今は。この時だけは、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけアイツが男前に見えた。



    馬のクソみたいな面して、やるときゃやるじゃん、ニシキ。







    「言ったな、絶対連れ戻して来いよ、クソニシキ! 」



    「ケッ……たりめーだ、クソトーカ‼︎」






    天空から舞い散る雪はいつの間にか、冷たい雨に変わっている。

    人の死体や血痕が点々とした路地を、ニシキは一人、驀然(ばくぜん)と駆け抜けていった。








  50. 51 : : 2015/03/23(月) 23:48:45













    ____________雨。

    無数に束ねられた糸のように細い竹が、空から地を突くような雨。






    『それはねヒナミちゃん、篠突く雨って言うんだよ。』





    茶髪の少女は、小柄な体躯に死に物狂いで鞭を打ち、血に塗れた屍だらけの地獄を、倦まず弛まず走っていた。



    「お兄ちゃん……お兄ちゃんっ‼︎」





    必死に、必至に叫んでも、応えてくれる声は一向に聞こえず、ただ死体の光を失った虚ろな目が、私を眺めているだけだった。

    篠突く雨は、顔に当たって開いた口に流れ込む。苦いような、酸っぱいような、アルコールの味がした。







    『それはね、驟雨って言うんだよ。』


    『おはよう、ヒナミちゃん』




    『髪……切ったんだね。とっても似合ってるよ』







    な、ん、で……………


    こんな時に思い出すのは、取るに足らないいつもの日常なの?






    『お兄ちゃん、思い出が走馬灯のように浮かぶってどういうこと?』



    『走馬灯っていうのはね、回り灯篭とも言うんだけど夏の夜に、縁先に吊るして楽しむ灯篭のことだよ。』


    『つまり次々と過去のことを思い起こすことの例えとして使われてるんだ』







    ___________そうなのかな。

    これが、走馬灯っていうのなの?
    ねぇ、そうなの?



    教えてよ、お兄ちゃん…………







    分かっていた。
    もう、それを教えてくれるお兄ちゃんは、私の横には居てくれない。


    とってもとっても、手の届かないほど遠いところに、行ってしまったんだ。





    「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん‼︎」






    降り注ぐ驟雨に負けず劣らず、流れに流れた私の涙は、ひたすら地を叩いた。

    叫びに身を任せながら曲がり角を曲がる。










    「よ〜ぅ、お嬢ちゃん?」











    _____________死神(ナキ)が立っていた。















  51. 52 : : 2015/03/25(水) 17:28:34




    土で汚れて黄ばんだ大根を思わせる白髪。白スーツの襟を片手で握った喰種は、もう片方の手で指を鳴らした。

    ___________パキッ






    「おいナキ、分かってんだろうな。」



    「へへ……殺さなきゃいいんだろ?」






    もう一人、お姉ちゃんみたいな葵い髪の青年が現れた。私は、私はこの人達を知っている。

    確か、アオギリの樹………?





    「よく聞けお嬢ちゃん、もし大人しく俺たちに付いてくるなら痛い目見ないゼェ?今はねぇ」



    「………………」






    どうしよう、どうしようどうしよう⁈


    あぁぁぁぁ怖い、この場から今すぐ逃げ出したい。逃げ出したい、けど逃げられない理由がここにはあった。





    「チッ………これだからガキは」






    いつのまにか退路が絶たれている。先程の青年と白スーツに、私はサンドイッチの具にされていた。






    「立つ?寝る?どっちぃ」




    「……………い、やだ」



    「あぁん?」






    背中が疼く。痒い。そうだ、この感覚は知っている。以前、白髪の捜査官に追い詰められた時。

    お兄ちゃんもまだその時は、私の傍らで笑ってたんだっけ…………






    「やだ……いやぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ」



    「うは⁈」






    ________ゾゾゾゾゾッッ


    おぞましいほどの奇妙な快感が全身を駆け巡り、不気味な破裂音と共にお母さんとお父さんの形見が姿を現わす。






    「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」


    「クッソ、なんだ⁈」




    「おぃ見ろアヤト……ヤベェぞこれ」







    ヒナミが、ヒナミのために、お兄ちゃんを探すのを邪魔するのは、誰であってもヒナミは許さない!





    「そこを通してっっ‼︎」







    お父さんの形見が荒んだ空気を切り裂き、白スーツへとその刃を向けた。






    「ッハァ! 」






    _________ガィン



    喧騒な金属音。ナキ、と呼ばれた喰種は自身の赫子で私の攻撃を防いだ。






    「おいおい嬢ちゃん、マジかよ………」



    「甲赫と鱗赫のハイブリッドか。報告通りだ、コイツを捕らえるぞ」










  52. 53 : : 2015/03/25(水) 17:46:27
    期待
  53. 54 : : 2015/03/25(水) 17:51:14
    >>53久しぶりのコメント嬉しいです‼︎
    期待ありがとうございます。
  54. 55 : : 2015/03/27(金) 01:57:00
    期待過ぎるわぁ~
  55. 56 : : 2015/03/27(金) 02:02:58
    >>55同じく期待ありがとうございます!頑張りますっ。
  56. 57 : : 2015/03/27(金) 02:03:25












    「おっ………お胸痛えぇぇぇぇぇっ」





    私の鱗赫(お父さんの形見)は深々とナキに突き刺さり、彼の着る白スーツには真っ赤な花が咲いた。もとい、鮮やかな動脈の血が滲む。






    __________いける。



    もしかしたら、ヒナミは強い?

    蒼色髪の青年が放つ羽赫の弾丸は、甲赫(お母さんの形見)で防げるし、近づいてきたときにはそれでなぎ払えば良い。

    ナキは、一本の鱗赫(お父さんの形見)でとにかく遠距離攻撃をして近づけさせない。万が一接近してきたときには、もう一本で対応できる。




    いける?

    熱い鉛がお腹の奥から込み上げてくるような感覚を覚えた。そうだ、ヒナミは強い………ヒナミは強い!






    「あのガキンチョ、やるじゃねぇの」




    「クッソ………流石に鱗赫+甲赫相手は相性悪すぎだろ」






    ナキは一向に狂気に満ちた笑みを絶やさないが、アヤトと呼ばれた青年には、明らかな苦悶の表情が浮かんでいた。






    「おぃアヤトゴルァ! おめぇ幹部のくせに、こんなガキ一人何とかできねーのかよぉ」




    「あぁ⁈甲赫のS(レート)に言われたくねぇんだよ‼︎ 」






    ヒナミの正面に立つアヤトは呼吸を整える。身構える。地を蹴る。走り出す。目尻に赤い毛細血管が浮かんだ。






    「オラァッッ」






    ____________来る。


    すぐさま、甲赫(お母さんの形見)でカバー………………






    …………した、その時。










    「おぃ、ヒナミ! ここにいたかっ………って、誰だテメェら⁈」











  57. 58 : : 2015/03/27(金) 15:09:10







    「西尾さん⁈」






    西尾さん、だった。私を探しに来たらしく息が上がっていて、額は脂汗で微かに光沢を放っていた。

    羽織っていた上着を脱ぎ捨た彼の目が、メガネの向こう側で凜と光る。





    「あぁん?誰だテメぇ〜」



    「テメェら、アオギリか。なるほどな、通りでクソみたいな面してると思ったぜ」






    腰の下の方から、碧く輝く二又の赫子を出した西尾さんは、ゆっくりとこちらに歩いてくる。



    ____________ダメッ

    ダメだ。このままじゃ、西尾さんを巻き込んじゃう。また、私の前で誰かが死んでしまう。

    お父さんの時みたいに。
    お母さんの時みたいに。
    お兄ちゃんの時みたいにっ。


    また、死なせてしまう_________






    「ほざけぇぇぇぇえっ‼︎」


    「ウラァァァァァァァァアアッ」



    「チッ……………」





    血走った赤い目を大きく見開く。闇の中で踊る彼らの刃は、甲高い悲鳴をあげた。












  58. 59 : : 2015/03/27(金) 22:43:46






    動けなかった。

    止められなかった。



    怖い、のだ。ただひたすら怖いんだ。
    他のどんな感情よりも優先して、唯一恐怖だけが私のちっぽけな心を駆け巡る。



    戦うことが怖いのではない。
    戦わせて、失うことが怖いんだ。

    彼女が、彼が、貴方が、君が、
    私のために戦って傷つき、果ては無残に命を散らしてしまうことが______




    足はすくんで、体の震えが止まらない。永遠に応答されることなく鳴り続ける、携帯のバイブレーションのような。






    「ぐぁぁあっ」



    「西尾さんっ⁈」








    西尾さんの、途切れ途切れに聞こえた敗北の悲鳴で、我に返る。

    気付いた時には彼は、首元を青年に掴まれ、脚をバタつかせながら白い泡を吹いていた。






    「ヒ………ナミ……ッ」




    「やめて……西尾さんを放して、放してください! 」







    風で揺らぐ白髪をかきあげ、ナキは意地悪く嘲笑して言った。







    「よぉし、いいかガキンチョ。お前がアオギリに入るならば、このクソ野郎は見逃してやる」



    「テメェがまだ刃向かう気なら、このクソ野郎はあんずの川を渡ることになるゼェ?」



    「三途の川、だろーがバカ野郎」






    呆れ顔で短くため息を切り、アヤトは西尾さんの首を掴むその腕に、更なる力を込めた。





    「るせぇ! さぁ………どっちにするぅ?選べぇ」



    「や、めろ、ヒ…………ナ……ミ」


    「テメェは黙ってろ」






    ____________ギリッ


    既に血の気が引いた彼の顔は、蒼く輝く月のようになっていた。どこかの鶏をシメたような悲鳴を短くあげて、西尾さんは白目をむく。






    「ヘッヘッヘッ、さぁぁあ早く選べぇ‼︎選ばないと、このおにーさんは殺しちゃうよ?」



    「チッ………おぃガキ。さっさとしろ」






    ゴクリ、と唾を飲み込んだ。

    ごめんなさい、お父さん。
    ごめんなさい、お母さん。
    ごめんなさい、芳村さん。
    ごめんなさい、四方さん。
    ごめんなさい、お姉ちゃん。

    ごめんね、お兄ちゃん…………………




    ヒナミの前で、ヒナミのせいで、
    誰かが死ぬのはもう

    見たくないの。




    だから________________










  59. 60 : : 2015/03/27(金) 22:46:10







    「………つまんねぇの。ガキンチョ、テメェが選んだ結果だよぉ?このクソ野郎は、殺し」



    「わっ……わかりましたっ」






    冷たい雨と、冷たい汗が頬を伝う。

    言ってしまった。もう、後戻りはできないんだよね………………






    「わかりました、とは?」



    「ヒナミ………アオギリに入ります。だから、西尾さんを放して下さい。」



    「バッ…………よせ、ヒ、ナ……」






    「決まり、だな」






    唇をいやらしく歪めて笑い、ナキは私の腕を強引に掴んで引っ張った。






    「…………フン」





    弱々しく鼻を鳴らした青年アヤトの顔には、微弱な後悔と懺悔の表情が浮かんでいた。

    掴んでいた西尾さんを道の端っこに荒々しく投げ、





    「……ヒナミだな。来い」






    吐き捨てるように、言って背を向ける。遠ざかるその背中が、無性に悲しげに見えたのは気のせいだろうか。

    地面から上体を起こした彼が、大きく喀血したのが目に入った。





    「西尾さんっ」






    駆け寄ろうとする私を、ナキは御構い無し、と言わんばかりに力任せに引っ張る。






    「おっと、逃げちゃあ困るぜ。ガキンチョはこっちだ」



    「西尾さぁぁぁん‼︎」


    「ヒ………ナ……………………」







    彼が必死に伸ばしたその手は、到底ヒナミには届かず、雪と雨と、風で冷やされた地面に虚しく堕ちた。





    これ、で…………


    本当に良かったのかな………………?







    さよなら、"あんていく"


    さよなら、みんな





    さよなら、お兄ちゃん………………








    あの時はまだ黒かった髪を、恥ずかしげにポリポリとかいたお兄ちゃんの笑顔が、フッと脳裏をかすめる。


    私は心の中で、次々と現れては消える彼らの影に、静かにさよならを言った。












  60. 61 : : 2015/03/27(金) 23:02:58
    語彙力すごいですね。思わず見入ります。
    期待です。
  61. 62 : : 2015/03/27(金) 23:09:48
    >>61ありがとうございます! とはいえ、最近本読んでないので、語彙の在庫が切れ気味で火の車なんですよねw

    期待嬉しいです、頑張ります!
  62. 63 : : 2015/03/28(土) 11:02:58














    「樹から伝言です。トルソーさん」





    古びたタクシーの車内には、鼻腔の奥をくすぐる、嗅ぎ慣れた人の血の匂いが立ち込めていた。

    これじゃあ、すぐにバレちゃうよ?忠告しとかなきゃ…………







    「車内がとても匂います」






    __________車内?

    車内っていうのは、何か違う気がする。自分の言葉に言い知れぬ違和感を感じて、更に付け加えた。






    「というか、貴方から…………」







    言いながら矢のように過ぎていく窓の外の景色に視線を移す。

    あれからどのくらい経ったのか、数えることさえ億劫だ。ヒナミの中の"何か"が死んでしまったようにも思えた。


    人の死を悲しむことができた"何か"だ。お父さんの死を悲しむことができた"何か"だ。お母さんの死を悲しむことができた"何か"だ。

    お兄ちゃんという存在の喪失を、悲しむことができた"何か"だ。


    そして、私を私たらしめる"何か"だ。






    "何か"の喪失によって、私の心にポっカリと空いた穴は、決して埋められることなく地獄へ通じる風穴へと変貌していた。

    あの日から、ただ漠然と過ぎ去ってはやって来る毎日を、茫漠とした無力感に身を沈め、消え逝く光を眺めるように過ごしてきた。





    知らず知らずのうちに、無意識の中で会話は続いており、トルソーは長いため息と共に感謝を述べた。








    「ご忠告ありがとう……………」









  63. 64 : : 2015/03/28(土) 11:05:36







    感謝の気持ちはおろか、苛立ちさえ感じられる彼の言葉で、ハッと我に返って自身の発言を無言で復唱してみる。

    復唱してみたところで、一つの単語が引っかかった。






    ___________Qs(クインクス)




    "箱"の能力を体内に組み込まれた人間。CCGも、アオギリとやってること大して変わらないんだね。







    「そろそろ降りますか?」




    「はい、お願いします」








    信号に差し掛かった。まだ青信号が点滅し始めたばかり。赤に変わった。変わってしまった。


    変わってしまった、

    変えられなかった。




    私も、お兄ちゃんも……………?





    不意に眠気に襲われて、再び信号に視線を戻す。まだ赤。

    僅かだが、目を閉じる時間はある。
    タクシーの座席に身を委ねる。
    再度、血の匂い。
    目を閉じる。
    車体が揺れて、透明な窓に頬が触れた。

    _____________冷たい。




    タクシーは走り出した。
    もうすぐ、降りなければならない。







    Qs(クインクス)、か



    まるで、お兄ちゃんみたいだね…………








    薄れていく意識の中で、ヒナミは限りなく黒に近くなった茶髪を揺らしながら、ふと、こんなことを考えていた。














    to:re






  64. 65 : : 2015/03/28(土) 12:17:47
    と、いうわけでヒナミ編は以上になります。最後に、ハイセの心の迷いを原作シーンを交えて描きたいと思います!

    最後までお付き合い頂ければ幸いです。
  65. 66 : : 2015/03/28(土) 12:20:56
    期待です。

    ヒナミ編面白かったです。
  66. 67 : : 2015/03/28(土) 12:26:07
    >>66ありがとうございます!
    いやぁ、ヒナミちゃんの苦しみを描くのは難しかったです。
  67. 68 : : 2015/03/28(土) 19:08:22






    ーLost Ghoulー




















    「サッサン………記憶が戻ったら、捜査官やめちまうのか?」







    ___________クラブ。

    ここ最近、Aレート〜の喰種"ナッツクラッカー"がよく出没するクラブだ。



    たくさんの人や人ではない"何か"が、騒々しくダンスを踊る中、遠慮がちに、シラズ君は口を開いた。

    ちょっぴり驚き、目を丸くして彼の顔を覗き込むと、厚化粧の向こう側で頬が淡く紅潮していた。





    僕の荒んで疲れた心に、ささやかな嬉しさが満ちていく。いたずら半分に、親しみを込めて聞き返す。







    「なに、寂しいの?」




    「バッ………そんなんじゃねぇよ! 」







    更に赤くなった顔を背け、恥ずかしげにカールしたもみ上げを引っ張って続ける。






    「サッサンがいなくなったら、瓜江のバカがチョーシこくだろ」





    「ハハ………確かに。」







    まぁ、彼は優秀だからね……………

    かつての総議長も、有馬さんのことをこんな目で見ていたのかなぁ?







    「やめないよ………(⚫︎)は」






    僕、という一語に殊更強くアクセントを置いたつもりだったんだけど、シラズ君は気づかなかった。






    「むっちゃんこ、飲んじゃったみたい。スゲぇ酒臭いの」






    才子ちゃんが可愛らしい走り方で戻ってきて、衝撃の一言。


    ホントだ、六月くん酔っちゃってるよ。

    整った顔を、完熟したリンゴのような朱色に染めた六月くんは、ろれつが回らないだろう舌を無理に動かす。








    「先生、今彼女にバイトに誘われましたぁ‼︎」





  68. 69 : : 2015/03/28(土) 19:41:57









    シラズ君の言うように、親がいるとかいないとかじゃなくて、何もわからない。前の僕がどんなだったか、なんてことも当然僕は覚えていない。



    でも、これだけは思うんだ。
    例えそれが同じ僕だったとしても、それは決して(ハイセ)ではないってこと。







    「へっへっへっ」


    「トール、デカしたぞ! 」



    「ゴウゴウヒィアウィゴウゥッ‼︎」







    それぞれ意味不明な奇声を発した3人は、未だ果てることのないダンスの輪へと戻っていった。

    前の僕と、前の繋がり。
    もちろん、全く興味がないわけじゃなくて、このまま僕は何も知らないでいていいんだろうか………?

    そう思うことは少なくない。




    いつの間にか僕は、深くあてのない闇の中で、自分でも分からない自身の存在価値を確かめたくて、誰かとの繋がりを求めていた。





    でも、それで良いんじゃないかって。
    君たちといればそう思える。

    だって、僕が生きる今は幸せだから。



    それだけで十分だから…………








    「いいボックス踏むねぇムッちゃん‼︎」



    「トオル戻ってこい! 」









    シラズ君。

    もし記憶が戻ったら……………





    (ハイセ)は死んじゃうんじゃないかな………



    覚えていたいな、君たちのこと。










    『"君が捨てようとしているものは、君の半分を占めているものなんだよ"って、店長が言ってたよ』



    『君は本当にそれでいいの?』







    『ねぇ………heiße(ハイセ)











    もう一人の僕(白髪の少年)の囁きは無視して、僕達はクラブの会場を後にした。















    to:re
  69. 70 : : 2015/03/28(土) 19:49:45



    はい、というわけで東京喰種:reーLost Ghoulー以上になります。

    予想よりも長くなったなぁw
    最後は原作シーンに地の文を交えただけになってしまいましたが、やっぱりシメにハイセを出したいなぁと思い、勢いで書いちゃいました。すみません。


    最後になりましたが、ここまで読んで下さった方々並びに、コメ&お気に入り登録して下さった皆様、本当にありがとうございました‼︎


    意見・感想、アドバイスなどありましたらコメントして下さると嬉しいです。

    それではまた、いつの日か……



  70. 71 : : 2015/04/04(土) 02:46:31
    とても面白かったです。
  71. 72 : : 2015/04/04(土) 12:11:25
    >>71嬉しいです、ありがとうございます!
  72. 73 : : 2015/04/11(土) 01:02:45
    最高
  73. 74 : : 2015/04/11(土) 02:35:48
    >>73読んで下さってありがとうございます!
    コメントめっちゃ嬉しいです( ´ ▽ ` )♪
  74. 75 : : 2015/04/20(月) 08:01:12
    すっごい面白かった
  75. 76 : : 2015/04/20(月) 08:09:08
    >>75あぁぁありがとうございますっ!
    楽しんでいただけたようで嬉しいです。
  76. 77 : : 2015/04/23(木) 14:06:16
    とっても面白かったです!
    次のssも、期待しています!
  77. 78 : : 2015/04/23(木) 20:37:54
    >>7コメントありがとうございます!
    楽しんで頂けて何よりです。

    次のssかぁ……
    多分来年の春になってしまうと思いますw
  78. 79 : : 2015/09/01(火) 00:30:16
    面白かったです
  79. 80 : : 2015/09/01(火) 08:02:26
    >>79ありがたいお言葉です!

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ittanmomen

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