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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

供給因子は愛せない

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  1. 1 : : 2015/01/29(木) 20:16:31


    ガタンゴトンと一定のリズムを刻みながら線路を走る電車の中にて。





    目の前に写る黒髪の少女は、裾が短く、振袖がついた可愛らしい和服を着ている。
    東洋人と思わしき二人は見つめ合って(正確には対峙して)いる。
    黒髪少女は濡れて光沢があるような、腰まで伸びた髪をパサリとかき上げながら、向かいに立つこれまた黒髪の少年に言った。




    「今日こそ答えてもらうぞ夜登(よると)(わらわ)と結婚するのだッッ!」




    それは唐突なプロポーズ。
    両手を腰に当て、さほどない胸を反らしながら声高らかに。




    車内はバラ色に染まる──────訳もなく。




    「ごめん。無理」



  2. 2 : : 2015/01/29(木) 20:27:36



    プロポーズを断られた少女は涙目で夜登にしがみつく。




    「なぜなのだ夜登!妾は夜登のことをこんなにも愛しているのにッッ!」




    「あのな、結婚っていうのはお互いが愛し合って初めて成せるものなんだ。いろは」




    「妾と夜登は相思相愛だから大丈夫。安心して結婚するのだ」




    上目遣いでこちらを見上げるいろは。
    しかし夜登は表情を変えずに冷静に。




    「お前は俺の相棒だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ」




    「うぅぅ……ひどいぞ夜登」




    およよ、と目元を袖で押さえながら座席に倒れ込むいろは。
    個室ツキ車両で本当によかった。
    もし他の乗客がいたら面倒なことになっていただろうから。
  3. 3 : : 2015/01/29(木) 20:34:27



    「はッッ、もしや夜登!」




    ぴこーん、と何かをひらめいた科学者のような顔をする。一体なんなのだと見つめていると、スススと夜登の横にすり寄り、腕を絡ませてくる。




    「一生の相棒と言うことか?それはつまり、妾は夜登の妻────────」




    「──────なわけねーだろ」




    いろはを引っ剥がしながら冷たく言葉を遮る夜登。裏切られたような表情をするいろはだが、釘を刺すように言った。




    「俺たちは遊びでここ───ニューヨークに来たわけじゃないんだぞ。わかってるのか」




    「もちろんッッ。ここから妾と夜登の愛を育む物語が始まるのだなッ」




    「なんもわかってねーな」




  4. 4 : : 2015/01/29(木) 20:50:54



    大きくため息を吐きながら、頬杖をついて車窓の外を眺める。
    次々と流れる世界トップの''魔術都市"の風景。
    ほとんどが魔術による魔力の供給によって動くその都市は、米帝国が世界に誇る象徴。
    今や世界は、魔力なくしては活動できない。
    再びいろはに向き直り、真剣な眼差しで見つめる。




    「ニューヨークでは《常夜の宴(ザ・ナイト)》が行われる。それに参加し、頂点に立つことこそ、俺たちの悲願であり、目的だ」




    統べる者(ザ・リード)を目指すのだな」




    「そうだ。そのために、そのためだけに俺は技を磨いた」




    拳を握りしめ、キッと表情を引き締める。
  5. 5 : : 2015/01/29(木) 21:06:10



    不意に温かさが夜登の手を包み込む。
    見ると、それはいろはの手の温もりだった。




    「妾は夜登の発動因子(ドライバー)。夜登の望むままに。どこまでもついてゆくぞ」




    「いろは………ああ。俺もお前の供給因子(プロフェクター)として、《常夜の宴》を戦い抜く」




    「………それはプロポーズとして受け取っていいのか?」




    「─────は?そんなわけねーだろ」




  6. 6 : : 2015/01/30(金) 14:14:17



    「あッッ、ほら見るのだ夜登!あれが米帝国最高峰の魔術学院だぞ」




    断られたことを華麗にスルーして外を指差すいろは。それに釣られて目線を向けると、まるで要塞のようにそびえ立ち、周囲を威圧するかのような建造物が建っていた。




    ───ヴァルデルヴァル王立魔術学院。




    十キロ以上離れていても目視できるほど巨大な建造物は、軍司令部もかくやという存在感。これこそが、米帝国が世界に誇る魔術師育成教育機関。








    魔術文明が発達した二十一世紀初頭。
    突如として誕生した魔術因子を持つ子ども達。
    彼らが成長し、魔術の概念を一変させた。




    ────多者式魔術(ドライブフェクト)




    生まれながらにして魔術回路を体内に宿す発動因子(ドライバー)
    生まれながらにして魔術を操作することが可能な供給因子(プロフェクター)のコンビネーションによって、本来では考えられないほど迅速かつ強力に魔術を扱えるというもの。




    しかしそれは、同時に世界を再び戦乱の時代へと導いてしまった。




    魔術を行使した第三次世界大戦が勃発。
    その時、最も強力な魔術を編み出していたアメリカが全世界に対しての完封勝ち。
    たった三日で戦争は終結した。
    主な戦場は太平洋のみだった。




    このように、戦乱の時代を勝ち抜くために優秀な魔術師を育成しようとするのは歴史の流れ。




    第三次世界大戦から十年が経過したのが、今の世界。








    「なあ、いろは。世界って美しいな」




    夜登が含みを持たせて呟いた。
  7. 7 : : 2015/01/30(金) 15:05:16



    「え、いろはって美しい?そんな、恥ずかしいぞ夜登♡」




    「病院行ってこい」




    まあいいや、とつぶやいて再び車窓の外に目を向ける。そこでふと思う。いろはは美しいというより可愛いに分類される。大和撫子といった容姿だ。髪を纏めるピンクのリボンも可愛らしい─────って、何考えてんだ。




    車内に響くアナウンス。
    目的の駅のホームにたどり着く。




    「よし。行くぞいろは」




    「うむ」




  8. 8 : : 2015/01/30(金) 15:18:25







    「大きいな………」




    「ああ。まるで城だな」




    それはまさに要塞だった。
    ヴァルデルヴァル王立魔術学院。
    レンガを積み上げて造られた約十メートルの壁。壁上固定胞も取り付けられており、これは脱走者を撃ち抜くものなんだろうと考える。




    「見るのだ夜登!あれが妾と夜登の愛の巣だ!」




    「お前は本当に……まあいい。この学院に入った瞬間、戦いが始まる。覚悟はできてるよな?」




    夜登の問いに大きく首を縦に振り、ふんわりと微笑みながらいろは。




    「もちろんだ。戦いの時はもちろん、布団の中でも人前でも夜登の熱くてすごいものを妾に注ぎ込んでくれ」




    「え、あ……え?ちょっと違う気がする……」



  9. 9 : : 2015/01/30(金) 15:31:21



    ニコニコと笑みを浮かべるいろは。




    「あ、そうだいろは。お願いだから学院内では俺にベタベタするなよ。勘違いされたらこまるからな。まぁ、さすがにお前でも謹んでくれるよな」




    「もちろんなのだ夜登。誰が夜登の妻なのか、女狐どもに見せつけて─────」




    「───はい、アウト」




    大きくため息を吐きながら、夜登は頭をかく。




    「さて、いろは。行くぞ」




    「うむ。ゆこう夜登!」




    二人は力強く歩きだした。





    ────かくして。




    日本出身の発動因子(ドライバー)供給因子(プロフェクター)の二人一組の戦闘員が学院の門をくぐった。




    その行く手に待つのは、光り輝く栄光か。それとも──────






  10. 10 : : 2015/01/30(金) 15:49:23






    学院の中心を貫くメインストリート。
    本校舎と食堂、僚を繋ぐ動脈は、昼休みともなると生徒たちでごった返している。
    この日の昼休みもまた、多くの生徒でごった返していた。




    「おーなーかーすーいーたーッッ!」




    「うるさいよエマ。迷惑」




    エマと呼ばれた少女(というか幼女)は、桜色のツインテールを揺らしながらだだをこねる。




    「もう!フィルのケチ!鬼!鬼畜女!」




    「少し待ったら食堂に着くでしょ?」




    フィルと呼ばれた少女は、藍色のボブカットをなびかせながらスタスタと歩く。
    その後をエマがちょこちょことついて行く。
    その華やかさに、学生たち──主に男子──が振り返る。




    にひー、とエマが笑うと、男子が声を上げて喜ぶ。「天使ッッ!」とか「女神ッッ!」などと。




    「まったく……エマ、やめなさい」




    「うー、フィルのケチ」
  11. 11 : : 2015/01/30(金) 16:04:26



    「もうすぐ《常夜の宴(ザ・ナイト)》が始まる。余計な考えを持っていると戦いで迷いが生まれるわ」




    この二人もまた、発動因子と供給因子。
    《常夜の宴》の参加資格を持つ、高位序列者だ。




    「参加資格を奪おうとする輩もいるの。少しは警戒して」




    「それって、あの人たち?」




    エマが指差した方向には、変わった雰囲気の二人連れが立っていた。




    黒髪の少年少女。少年は黒髪のあほ毛がと鋭い眼光が特徴的だ。冷めたような表情だが、瞳の奥には燃えるような激情を持っていそうだ。
    もう一人の少女は、制服ではなく裾の短い着物を着ている。その格好から、日本人だと確信した。背が低く、小さな顔。人形のような顔立ちは、どことなくエマに似ている。




    どちらも初めて見る顔だ。
    二人に見とれていると、少年が声を放った。




    供給因子(プロフェクター)、フィル・ラハリール嬢と発動因子(ドライバー)、エマミエール・ケイトルス嬢だな」




    少年は表情を変えずに続ける。


  12. 12 : : 2015/01/30(金) 16:28:10



    「第二学士生にして《統べる者》最有力候補《十番以内の魔術師(テンズ・ドライブフェクト)》なるものの一ペア」




    気のせいだろうか。少年の瞳に一瞬だけ幾何学的な文字が浮かんだ。




    「登録コードは『黒い風(サイレント・キラー)』。なるほど。黒い風ね。供給魔力が黒く、まるで風のような戦闘からその二つ名が贈られたのか」




    彼らは、自分たちのことを知っている。
    少年は首からぶら下げたペンダントに目を向ける。それは《常夜の宴》参加資格者が持つもの。




    「それで、何?」




    やはり少年は表情を変えず。





    「お前たちの参加資格を、俺たちに譲ってもらう」





  13. 13 : : 2015/01/30(金) 16:47:17





    昨日の昼過ぎ。
    夜登は浮かない表情で紙切れを見ていた。




    「全生徒二千人に対して、DP序列二千位……?」




    DP序列とは、発動因子(ドライバー)のD、供給因子(プロフェクター)のP、それぞれの頭文字を取ってつけられる。
    学業や対人戦などで優秀な成績を残し、学院側から命じられて初めて上がるものだ。
    《常夜の宴》は近い。参加は絶望的だ。




    「そう落ち込むな夜登。妾たちは今日初めて学院に来たのだ。仕方なかろう」




    「なんでこんな時期に来てしまったんだ本当に」




    「全くだ」




    後ろからかかった声の方を向くと、女性が立っていた。
    タイトスカートのうえからだらんと床を這う白衣。マッドサイエンティストを思わせる風格だ。




    「明日から君の担任だ。よろしく、月嶋君」




    「……ええ。よろしく、マーリス先生」




    「ほう、私のことがわかるのかい?」




  14. 14 : : 2015/01/30(金) 16:59:53




    「ええ。よく聞いてました」




    「ふん。あのスケコマシか。まあいい」




    ふんと鼻を鳴らして腕を組む。




    「《常夜の宴》は諦めろ。もう手遅れだ」




    いろはがキッと表情を難くするが、それを夜登が手で制する。




    「……早速だけど、一つ聞いてもいい?」




    「先生には敬語を使え───まあいい。なんだね?」




    「もし『百番以内の魔術師(ハンドレット・ドライブフェクト)』を倒したら、参加資格は得られるのか?」




    マーリスは一瞬だけ瞳を大きく開いた。が、すぐに冷たい表情に戻る。




    「……っはは、ははははは!」




    「………」




    「いやはや、まさかほとんど《常夜の宴》の参加者が決まっている中でこのようなことを口にするやつがいるなんてね」




    ひとしきり笑ったマーリスは再び夜登に向き直る。
  15. 15 : : 2015/01/30(金) 17:07:11


    「この世の理は弱肉強食。仮にもし、序列百位以内の者が序列百一位以上の者に魔術戦闘で負けるようなことがあれば───」




    「────執行部も序列選考を考える必要がある───ということ」




    言葉を紡ぐ夜登。
    マーリスはニヤリと微笑む。




    「君はなぜ《統べる者(ザ・リード)》になりたい?」




    「目的のため」





    「ふん。深くは聞かないでおこう。まあ精々頑張りたまえ」




    手を不利ながら校舎の奥に歩いて行くマーリスを見つめながら、いろはがつぶやいた。




    「やることは決まったな。夜登」




    「ああ。《百番以内の魔術師》から参加資格を奪う。それだけだ」



  16. 17 : : 2015/01/30(金) 18:11:50






    ────そして例の昼休み。




    『百番以内の魔術師』に新人が挑むということもあって、キャンバスは戦場と化し、戦いを見ようと生徒でごった返していた。




    「まさか、私たちを『十番以内の魔術師』と知って戦いを挑んでくるなんて」




    「にひひー、おにーちゃんたち、バカ?」




    満面の笑みでバカと言われたら、少し心にグサッとくる。




    「それで、あなたの序列は何位なの?」




    「二千位」




    そう言った瞬間、周囲からドッと笑いが起きる。しかし夜登は冷静に。




    「だが、俺は負けるだなんて思ってねぇ。むしろ、勝つ自信しかない」




    その言葉に、ピタリと笑いがやむ。




    「なぜなら俺たちは、《統べる者(ザ・リード)》になるからだ」




    観客が笑いを止めたのはおそらく、夜登の一切迷いのない瞳の見たから。




    「……いいわ。こちらも全力であなたを潰す。行くわよ、エマ」




    「りょーかい!」




    黒い光がフィルからエマへと伸び、漆黒の光がエマを包み込む。
    そして進行方向へ跳躍。なるほど。まさに『黒い風』。凄まじいスピードで接近してくる。





    発動因子(ドライバー)の運動能力は、人間の領域を軽々と超える。
    魔術回路が体内で働き、個体によってはビルの頂上まで跳躍したり、時速百二十キロの車の上を連続で飛び移ったりする事が可能だ。また、回復速度が異常にはやい。
    故に魔術戦闘は発動因子同士の戦いとなる。





    「いろはッッ!」




    「うむ。わかっておる!」




    ズシンと重い音が響く。
    その光景に、周囲は驚きを隠せない。
    『百番以内の魔術師』の中のさらに上位、『十番以内の魔術師』の渾身の蹴りを受け止めたのだ。







  17. 19 : : 2015/01/30(金) 21:21:31



    「………口先だけじゃない……のね。エマッッ」




    再びフィルがエマへと魔力を供給する。
    するとエマを中心に風が吹き荒れ、いろはの身体を吹き飛ばす。




    「いろはッッ、燕臣十八衝(えんしんじゅうはっしょう)!」




    夜登が短く叫ぶと、紅い光がまるで鎖のようにいろはに伸び、まるで炎のような爆発的な動きで空中を回転。エマを弾き飛ばす。




    「続けろいろはッッ」




    紅い光を纏ったまま突進。まるで弾丸のような速度で突っ込むいろは。しかし、『十番以内の魔術師』は伊達ではなかった。




    「なめないで……エマッッ」




    「うーッッ!」




    突風のような蹴りがいろはを捉えた。
    地面に擦過痕を描きながら吹き飛ぶいろはを夜登がキャッチ。




    「すまない夜登」




    「気にすんな。もうわかった」




    一瞬、夜登の眼に幾何学的な文字が浮かんだ。
  18. 20 : : 2015/01/30(金) 21:38:26



    狂吹六舞迅(きょうすいろくぶじん)!」




    今度は青い光がいろはを包み込む。
    次の瞬間、いろはがフィルとエマの視界から消えた。
    地面に伸びる影。太陽が隠れ、いろはが頭上に移動していたことに気づく。




    「エマ、上─────」




    叫ぼうと口を開いたが、目に入った光景を見て、驚愕した。
    それは魔術戦闘のセオリーをぶち壊す非常識な戦闘法。
    発動因子に向かって、供給因子である夜登が走り出す。そして上に意識を持っていかれたエマを夜登が投げ飛ばし、それをいろはが蹴り落とす。捨て身の攻撃方法だが、二対一という圧倒的有利な状況を作り出す戦法。




    (そんなバカな………)




    二人の陣形がエマを追い込む。
    自分も攻撃を行いながら魔力を供給しているのはもちろん、何よりも驚いているのは、供給因子である夜登が発動因子であるエマといろはの動きについて行っていけていることだ。
    人間の運動能力をはるかに超えた発動因子の動きに遅れを取らない。
    いや、動きそのものは普通の人間なのだが、まるでエマの攻撃、そしていろはの動きを予測して動いているかのようだ。それはまるで未来予知。




    (序列二千位……?)




    ありえない。単純な戦闘能力でいえば『十番以内の魔術師』たちに引けを取らない。



  19. 21 : : 2015/01/30(金) 21:46:52



    「エマ、回避ッッ」




    魔力を送り込み、エマの動きが向上する。二人一体の攻撃を回避しながら後退する。




    「フィル、あの人たちつよいの!」




    「そうね。じゃああれを使おう」




    「相変わらず夜登の動きには惚れ惚れするな。布団の中でも活発に動いてくれ!」




    「バカか」




    夜登は再びエマに向き直る。




    「あいつはまだ本気じゃない。それにエマの魔術回路は『天風(フェザー)』だ。風を操られたら厄介だぞ」




    「その前に決着をつけるのだな。任せるのだ!」




    「ああ。燕臣十八───────」




    夜登の声は、観客の叫びでかき消された。
  20. 22 : : 2015/01/31(土) 07:32:38




    向こう側から歩いてくる少年少女。
    少女の方はまだ少し幼く、少年は夜登と同じくらいだろうか。
    それにしても、なぜ皆彼らを避けるのだろう。
    人波が割れていく。




    「なんだ、あれ………」




    二人連れが近くまで来た瞬間、戦慄が走る。
    服が、真っ赤に染まっていた───血で。
    少年は歪んだ笑みを浮かべる。




    「精が出るなぁ学士生」




    見るからに日本人。風格も、顔立ちも。




    「お前、誰だ」




    「僕は陰晃蛭子(かげみつひるこ)。こっちは妹の真心(まなこ)




    真心はスカートの裾を掴んで軽く一礼する。
    いつの間にか周りの生徒たちがいなくなった。フィルとエマ、そして彼らと自分たちを残して。




    「おぬしらは一体何なのだ?供給因子が制服を着るのは校則なのだぞ?」




    確かに、蛭子は制服を着ていない。




    「蛭子………」




    「おやおや、これは序列七位のフィルさんとエマさん。元気だった?」




    どうやら二人は知り合いらしい。
  21. 23 : : 2015/01/31(土) 07:48:41



    「なぜあなたが学院にいるの」




    「僕の目的のためさ」




    不気味な笑みを浮かべて続ける蛭子。




    「僕の目的。それは殺戮。僕以外の魔術師たちの流す血を見て楽しむ。それだけだ」




    「燕臣十八衝!」




    「うむ!」




    コマンドを受けたいろはが蛭子に向かって突進する。フィルとエマは驚いていたが、蛭子は冷たい笑みを浮かべながら。




    「真心」




    「はい、にーさま」




    蛭子を守るようにして立ちはだかる真心。
    爆発的な蹴りを片手で受け止めると、お返しと言わんばかりの回し蹴り。腕で防御するが、あまりの威力に腕が跳ね上がる。
    そして二回転。腹部に蹴りが当たり、地面を転がるいろは。




    「大丈夫か?」




    「うむ。なんとかな……」




  22. 24 : : 2015/01/31(土) 08:01:18



    ホッと息を吐きながら、再び魔力を練る。




    「狂吹六舞迅!」




    今度は疾風の動き。
    超スピードで接近して真心に襲いかかるが、体をさらしながら回避。
    接近戦が得意ないろはであるが、真心も同じタイプの戦闘取るのだろう。目にも留まらぬ速さで拳を出し合う。一秒に繰り出す攻撃の量が尋常ではない。




    互いの拳がぶつかり合い、一旦、お互いの供給因子の下まで飛び退く。




    「にーさま、あいつ強い」




    「ふむ、真心にここまで言わせるとは。面白い。だが、タイムアップだ。また会おう」




    スッと瓶のようなモノを取り出し、地面に叩きつけると、煙が辺り一帯に巻き上がる。
    煙が晴れた時には、もう彼らはいなかった。
  23. 25 : : 2015/01/31(土) 13:09:09


    「逃げたぞ夜登!」




    「追跡は不可能だ」




    いろはをなだめ、フィルとエマに歩み寄る。




    「……あなた、名前は?」




    「俺は月嶋夜登。こっちがいろは」




    「妾は夜登の相棒!もとい、妻ッ」




    抱きつこうとするいろはだが、額を押さえて続ける。




    「陰晃兄妹のことを教えてくれ」




    「………いいわ。付いて来て」




  24. 26 : : 2015/01/31(土) 13:22:04



    昼休みも終わりかけだったが、昼食を摂っていないということもあり、バルコニーの食堂の机を各々好きな料理を皿に盛り囲んでいた。




    「何から話せばいいのか……」




    「フィルと陰晃との関わりについて教えてくれたら」




    向かいでおかずを取り合ういろはとエマを横目に、隣に座るフィルに視線を向ける。




    「蛭子───陰晃兄妹は、序列元三位。『十番以内の魔術師』だった」」




    「序列三位……!?それに元ってどういうことだ?」




    「彼らは、魔術戦闘中に供給因子に攻撃して、殺したの」
  25. 27 : : 2015/01/31(土) 15:28:07



    「殺した……だって?」




    「それも一度だけじゃない。確認されているだけで十七組。どれも『百番以内の魔術師』なの」




    「サイコ野郎かっての………なるほど。それで序列を剥奪されたのか───待て、序列を剥奪されたら退学になるはずじゃないのか」




    「そうなんだけど、わからない。なぜアイツがこの学院にいるのか」




    スプーンで上品にスープを掬うフィル。
    それを口に運ぶ。




    「蛭子の目的は殺戮だと言ってたけど、多分違う」




    「え………?」




    「そう言ってた時の声のトーン、視線、一瞬だけ心拍数が増加してた──多分」




    瞼の上から両目をゴシゴシと擦る夜登。




    「どんな人間でも、隠せるのは表情だけだな」




    「つまり、夜登は妾のアプローチにドキドキしてるが、表情に出してないだけで、内心まんざらでもないが素っ気ない態度を取っているのだなッ!このツンデレ!」




    「今の話をどう総合してそうなるんだ。バカか」


  26. 28 : : 2015/01/31(土) 15:32:57


    「夜登おにーちゃん、ツンデレ?」




    「いや、違うぞ?断じて違うぞ?」




    エマの屈託な微笑みを見ていると、なぜか言葉に詰まる。




    「夜登、今おにーちゃんって呼ばれて嬉しかったのだろう?」




    「は?何言ってんだよ。そんなわけない」




    「『おにーちゃん、いろはにいっぱいチュッチュして♡』なんてどうだ?」




    「強制支配魔術で爆発させるぞ……」

  27. 29 : : 2015/01/31(土) 15:40:28



    フィルは二人のやりとりを見て、クスリと笑った。




    「なんだよ」





    「二人は見ていておもしろいなって思って」




    「当然なのだ。妾と夜登は夫婦で一心同体。以心伝心。コンビネーションも『あうん』なのだ!『あはん♡』なのだ!」




    「だからいろはお前……誤解を招くようなことを言うな!というか、後者は欲望が混じってるだろ!」




    先ほどの戦いを忘れさせるほどの和やかな雰囲気。しかしそれも予鈴の鐘が打ち消す。




    「夜登おにーちゃん、いろはちゃん、また一緒にご飯食べようね!」




    「うむ。実に有意義な時間を過ごせたぞ」




    「じゃあまた。蛭子と真心には気をつけて」




    「ああ」





  28. 30 : : 2015/01/31(土) 16:13:38



    本日最後の講義が終わり、いろはと並んで寮に帰る途中、いろはから謎のオーラが溢れていた。




    「ど、どうしたんだよいろは………」




    「妾は気づいていたぞ。昼休みが終わってからというもの、講義、休憩時間中問わず女狐たちが夜登のことを色眼鏡で見ていたことを!」




    「なんだ、そんなことか」




    「そんなこと!?妾にとっては大問題なのだ異常事態なのだ!きっと昼休みに見せた夜登の動きに惚れた女狐どもが狙って……」




    「はぁ………お前って本当なんでそういうの……あーもう」




    大きくため息を吐き出しながらガックリと肩を落とす。




    「よいか夜登。同じクラスのリーサとかいう女はきっと夜登に少なからず好意を持っておる。フェリオとかいうヤツもだ。妾が認識している女狐どもは二十といったところだ。もちろん、夜登は妾の夫だが、もし他の女にうつつを抜かしていたりしたらただではおかないぞ。肝に銘じておけ我が夫よ。む、聞いているのか?」




    「本当なんで……」




    これさえなければ、と何千回思っただろうか。




    「これは学院の女狐どもに、誰が夜登の妻なのか見せつけねば……」




    「やめて、いや、マジで」




  29. 31 : : 2015/01/31(土) 16:59:24



    「あ、いたいた」




    不意に前方から掛かる声に首だけを向けると、マーリス先生の講義に参加していた男子学士生が片手を挙げながら走ってきた。




    「マーリス先生が呼んでたんだ」




    「あの人が……?」








  30. 32 : : 2015/01/31(土) 17:15:52




    「な、何なのだこれはッッ!?」




    「うわ、マジかよ」




    「驚いたかね?ここは大講堂」




    マーリス先生の指差す方向には、約二百人の学士生たちが、円陣状で奥行きが高くなっている椅子に腰掛けている。学士生全員が首もとにペンダントをかけていることから、『百番以内の魔術師』たちが集まっているのだと気づく。




    「なぜ俺たちをここに連れてきた?」




    「敬語を使いたまえ。まあいい。私は君たち期待してるんだよ」




    「期待?」




    「ああ。もう少しで《常夜の宴(ザ・ナイト)》が始まるという状況で、最後まで諦めずもがき続ける君たちにね」




    「それで、『百番以内の魔術師』の集会に連れてきた、と?」




    「その通りだ。まあ見ておきたまえ。これが《常夜の宴》出場予定者たちだ。しっかり分析しておけよ?」




    ────この先生、わかってやがる。




    魔術戦闘を行わないのに分析しておけというあたり、おそらく夜登といろはの事情を少なからず知っているのだろう。
  31. 33 : : 2015/01/31(土) 17:54:32



    マーリス先生の付き添い人として、教師用の椅子の隣に立つ。
    すると『百番以内の魔術師』たちから一斉に視線を浴び、冷や汗が流れる。
    中でも、最も中心に近い男───序列一位。学院最強の魔術師、『三人軍隊(トライデント・フォース)』の登録コード。




    ─────ゼカート・インベルム。




    キレの長い眼に、長身が特徴的な彼は、魔術ではほぼ不可能とされる発動因子の三人同時操作を可能とした歴代最強の学士生。
    正直言って、今の夜登といろはでは勝てないだろう。




    ほかにも、序列二位『龍撃の咆哮(ドラグニル・ロア)』のクレア。肩に乗っているのは
    魔術回路を人口的に作り出したモデル・ドラゴンに埋め込んだ最先端技術の発動因子を扱う彼女も強敵だろう。
    今は子猫ほどの大きさだが、戦闘時には体長が八メートルほどになるだとか。




    (化け物ばっかりじゃねーか)


  32. 34 : : 2015/01/31(土) 19:56:58



    「もうすぐ運営委員長がくるはずなのだが」




    一向に運営委員長は現れない。痺れを切らしたのか、大講堂内にざわめきが伝染する。




    「マーリス先生。そもそもこれって、何の集会なんだ?」




    「……陰晃兄妹のことについてだ。君も昼に一戦交えたと聞いた」




    「………強かった。魔術を供給していないのに、魔術を供給したいろはの攻撃をものともしなかった」




    「当然だろうな。なんせ、彼は序列元三位。三位だったが、実力はゼカート並だと言われていたよ」




    序列一位と同等。
    むやみに突っ込んで戦いを起こした自分がバカに思えてきた。




    「それにしても遅いな。運営委員長はサボっておるのか?」




    しばらくして、薄暗い講堂の奥から足音が聞こえてきる。
    運営委員長だ。しかし様子がおかしい。
    異変に気づいた時には、もう遅かった。




    「ご機嫌よう。『百番以内の魔術師(ハンドレット・ドライブフェクト)』の皆さん」




    血だらけになった運営委員長の背後から現れたのは、同じく血だらけの陰晃兄妹だった。

  33. 35 : : 2015/01/31(土) 20:38:40



    バタリ、と床に倒れ込む運営委員長。もう二度と動かない。
    講堂内に戦慄が走る。




    「久しいですねガントレット学院長」




    「蛭子君、真心君………」




    「おい蛭子ッ、てめぇ何のつもりだ!?」




    序列三十七位の少年が声を上げる。
    すると二人は、土足で卓上に飛び乗る。




    「この学院の崩壊。それが僕らの目的さ」




    ポケットに手を突っ込み、無造作に引き抜く。
    そこにあったのは、青白く光る球体のようなもの。それを見た瞬間、教師陣の顔が青ざめた。




    「それは……『アダムの林檎』」




    アダムの林檎。それは学院内全ての魔術器具および施設に魔力を供給する半永久的魔力供給装置。世界で三つしかないとされる最重要指定物だ。




    「なぜ、君がそれを……警備員はどうした!?」




    「ああ、あのゴミどもですか。邪魔だったので殺してやりました」




    「てめぇッッ!!」




    「落ち着けマーセル!」





  34. 36 : : 2015/01/31(土) 20:51:38



    「くく、僕は見たいんです。戦争をッッ!そして実感したいッ。僕は争いのために生きているのだとッッ!」




    「………その林檎を何に使うつもりだ」





    学院長の問いに、蛭子は不気味な笑みを浮かべる。




    「最高の発動因子の魔術回路にこの林檎を埋め込み、世界最強の発動因子を作り出す。そして、世界に再び戦争を巻き起こすッッ」





    ひとしきり笑った蛭子は、真心と共に机から飛び降りる。




    燕臣十八衝(えんしんじゅうはっしょう)!」




    「うむ!」




    突如として講堂内に飛び込んできた二つの影が、蛭子めがけて爆ぜるように動いた。




    「にーさまに、触れさせない」




    真心が立ちふさがるが、いろははスライディングで回避。そのまま蛭子めがけて蹴りを繰り出す。




    「!」




    咄嗟に腕で蹴りを防ぐ。
    そしてその光景に驚愕する。
    発動因子の蹴りを供給因子が受け止めた。
    それだけではない。蹴りによって剥がれおちた皮膚の下から覗く真っ黒な腕。
    義肢。それもただの義肢ではない。
    これは───────




    「────十年前の第三次世界大戦中、日本が生み出した強化魔術兵士ッッ?」





  35. 38 : : 2015/01/31(土) 21:09:08

    「おっと。これはこれは」




    一旦いろはから距離を取ると、後ろに大きく跳躍。それに続いて真心も後退する。




    「闇雲に手を出すんじゃない!林檎が破壊されたら学院は終わりだぞ!」




    マーリスの叫びが耳に入るが、どうにもこいつ許せない。あの強化魔術兵士だと知った途端にだ。




    「やだなぁ、マーリス先生。そんなことしません───────」




    胱鳴四十四閃(きょうめいしじゅうよんせん)ッッ」




    蛭子の言葉を遮るようにして魔力を供給する夜登。黄色い光がいろはを包み、まるで光線のように残像を残しながら動いた。





  36. 39 : : 2015/01/31(土) 21:25:49



    しかしそれを真心が止める。拳と拳、脚と腕が交じり合い、鈍い音が講堂内を支配する。
    夜登は短く舌打ちをする。
    蛭子は真心に魔力供給を行っていない。
    本気ではないのだ。




    「落ち着きたまえ。夜登君」




    「なぜ、俺の名前を知ってる」




    「それは一番君が理解しているはずだ。なぜなら君──────」




    再び言葉を遮るようにして叫ぶ。




    「うるさいうるさいッッ!俺は違うッッ!卑怯者なんかじゃない!胱鳴四十四閃ッ!!」




    何かを振り払うように魔力を供給する夜登。
    いろはが悲しい表情でこちらを見つめるが、すぐに視線を蛭子と真心に向ける。




    「血の気が多いな。はは。全く……真心」




    「はい、にーさま」




    ついに、蛭子が魔力供給を行った。
    紫の光が真心を包み、刹那、いろはの正面に躍り出る。




    「なッッ─────」




    「てい」




    いろはの腹部に強烈な痛みが走り、床に血の華が咲く。いつのまにか現れた剣によって腹部を貫かれたのだ。




    「か………ッハ」




    生々しい音と共に引き抜かれる剣。
    バタリといろはが倒れ込むのと同時に夜登が駆け出す。




    「いろはぁぁぁぁッッ!!」





    すぐさま回復魔術を練り、いろはに供給。
    傷の再生が始まる。





    「真心、やれ」





    「はい、にーさま」




  37. 40 : : 2015/01/31(土) 21:42:01


    掲げられた剣。それは蛍光灯の光を反射し、キラリと光った。




    「ッッ」




    振り下ろされる瞬間、魔力を纏った発動因子の少女が間に割り込み、二刀流の小太刀で斬撃を受け止めた。




    「しっかりしやがれ、です」




    ────次の瞬間、再び魔力を纏った少女が爆ぜるように動き、蛭子の懐に潜り込む。




    「せいやッッ」




    しかしそれを魔術で形成された腕で受け止める。
    そして三人目の発動因子の少女。その主の横から弓矢を飛ばす。
    それをステップで回避。大きく息を吐く。




    「まったく、せっかちなお嬢さんたちだ。しつけがなってないね、ゼカート。教えてあげようか?」




    夜登といろはを助けたのは、『三人軍隊』の異名を取る最高序列、ゼカート・インベルムだった。
  38. 41 : : 2015/02/01(日) 08:15:09



    「……ゼカート・インベルム………」




    こちらに見向きもしないゼカート。




    「ぅ………」




    「いろはッ?いろはッッ!」




    意識を取り戻したいろはを揺さぶる。
    やがてゆっくりと目を開ける。




    「ごめん………ごめん……」




    夜登の涙がいろはの頬に落ち、弾ける。
    いろはを抱き留めたまま嗚咽を漏らす夜登に、優しく言った。




    「妾は大丈夫だ、夜登。それよりもおぬしの方が心配だ」




    「ごめん……」




    「謝るでない。これも妾の力不足なのだから」




  39. 42 : : 2015/02/01(日) 08:49:55




    「夜登!」




    フィルとエマが駆け寄ってくる。
    しゃがみこんで様子をうかがうエマは、やはりまだ子供だなと思う。




    「俺は大丈夫だ。それよりも……」




    視線を蛭子に向けなおす。
    いまだに対峙している両者。




    「まったく、夜登。君は本当に面白い」




    「……お前、人間なのかッッ?」




    「ふぅん、そうだね、名乗ろう」




    バサリとフードを靡かせ、不気味な笑みを浮かべて言い放つ。





    「太平洋西部防衛隊強化魔術兵士、陰晃蛭子」





    「強化魔術兵士……っ、まさか実在したのか!?」




    「第三次世界大戦が生んだ人間兵器……ありえない!」




    驚きを隠せない一同に、なおも蛭子。




    「僕は、そこにいる月嶋・いろはペアとの戦いを所望する。彼らが僕に勝てたら、『アダムの林檎』は返そう」




    「な、にを………」




    「君が選ばれた理由をよーく考えるんだ。君は、大嫌いな力を最大限使わないと僕には勝てない。いくよ、真心」




    「はい、にーさま」





    窓際までゆっくり歩き、ガラスを叩き割って外に飛び降りる。




    「………クソッッ!」




  40. 43 : : 2015/02/01(日) 10:02:04



    「月嶋君!」




    マーリスが声を掛けてくるが、その声が頭に入らない。
    なんで俺が、俺がやらなきゃいけないんだ。
    俺が、俺が俺が俺がぁぁぁッッ!




    「…………おい、顔上げろや、です」





    ゆっくりと顔を持ち上げると、ゼカートの発動因子の一人。二刀流の小太刀を使う少女が。




    「………お前は」




    「俺の発動因子、(みこ)だ」




    「ゼカート………」
  41. 44 : : 2015/02/01(日) 10:08:20



    「なぜ、俺を助けた……?」




    「答える義理がない」




    とだけ言い残し、三人の発動因子を引き連れて講堂の出口に向かう。




    「君は蛭子を放っておくのかい?」




    マーリスが言うが、ゼカートはそれに答えず講堂から出ていってしまった。




    「夜登君、来たまえ」




    ガントレット学院長から呼び出し。いろはに肩を貸しながら歩く。




    「蛭子君と真心君を倒してくれ。さすれば、君に《常夜の宴》参加資格を与えよう」




    本来ならば喜ばしいことなのだが、どうにも気が乗らない。
  42. 45 : : 2015/02/01(日) 10:17:24



    「やれ。やりなさいヨルト・ツキシマ」




    後ろから掛かる声。
    DP序列二位、クレアだ。




    「あんたがやらなきゃ、学院が終わる。《常夜の宴》もできない。あんたが断る理由なんてひとつもないの」




    「断る……なんてしない。もちろん、やる」




    キュッと表情を引き締め、学院長に向き直る。




    「俺が必ず、ヤツらを倒すッッ」




    そう、それでいいといった表情で頷くガントレット。




    「ではこれより、陰晃兄妹の捜索を開始する!決して戦闘を行うな!見つけたら直ちに連絡せよ!!」







  43. 46 : : 2015/02/01(日) 10:28:30




    寮の中でいろはの回復に専念する夜登。
    すでに日が沈みかけ、燃えるような夕日が窓から差し込む。




    「いろは、ごめん」




    ベッドで横たわるいろはの手を握りながら、祈るようにしてつぶやき続ける夜登に、いろはは笑いかける。




    「これで、謝ったのは八十回目だな」




    「数えてたのかよ………」




    「うむ。夜登のことならなんでも知ってる」




    「そうか」




  44. 47 : : 2015/02/01(日) 10:33:31



    「じゃあ、俺が《常夜の宴》に参加する理由は?」




    不意に、そうこぼれた。




    「恩返しのためだろう?」




    「まあ、そうなんだが」




    少し視線を泳がせ、再びいろはに向き直る。




    「俺のことなんでも知ってるんだよな?じゃあ、俺が《常夜の宴》に参加するもう一つの理由、わかるか?」




    「むっ………」




    予測していなかったのだろう。少し考える素振りを見せるいろは。
    やがて大きく息を吐き出し、お手上げといった表情をする。




    「前言撤回だ。妾は夜登のこと、全部わかってないな」




  45. 48 : : 2015/02/01(日) 10:43:36


    「当然だろ。言ったことないんだから」




    「なら教えてくれ」




    「笑うなよ?絶対に笑うなよ?それに、他のやつに絶対言うな。これは俺とお前だけの秘密だ」




    それを聞いて、大きく首を縦に振るいろは。
    口が軽いからなぁ、と内心思いつつ、ゆっくりと口を開く。




    「────から」




    「む、聞こえなかったぞ」




    「だから、お前と一緒にいたいからだって」








  46. 49 : : 2015/02/01(日) 10:46:43



    いろははポカンと大きく口を開けて、そして笑う。




    「あはははは、夜登がっ、夜登があははははははは!!」




    「ほらそういうことする!だから嫌だったんだよッッ」




    するとむくりといろはが起き上がり、腕を絡ませてくる。




    「それはプロポーズ的解釈でいいのだな?」




    「…………あ、いや、違う違うぞッその、相棒的な解釈的をしろ!」




    「ふふ、そうかそうか」




    満足そうに微笑むいろは。
  47. 50 : : 2015/02/01(日) 10:54:59




    「……けど、供給因子は愛せない。仮にもし、まあ、万に一つないが、俺がお前と結婚しても、子供は生まれないんだぞ」




    「うむ。わかっておる。それでも妾は、夜登とずっと一緒にいたい」




    「…………ああ」




    夕日を浴びて、花のようにふんわり微笑むいろはは、今まで見てきたなかで一番美しかった。















    どれだけ身を寄せ合っていただろうか。
    もうすでに日が沈み、夜が訪れていた。




    「………決戦が、近い」




    「そうだな」




    傷を完治させたいろはが勢いよく立ち上がり、夜登の方を向く。




    「ゆこう、夜登。陰晃兄妹を倒し、そして《常夜の宴(ザ・ナイト)》に参加して、今度こそ結婚してもらうぞッッ!」




    「結婚はしない───だが、お前の覚悟は伝わった」




    夜登も立ち上がり、いろはと向き合う。




    「行くぞ、いろはッッ!」






  48. 51 : : 2015/02/01(日) 11:06:42



    学院の敷地内を走る夜登といろは。
    満天の星空の下、二人が目指すのは大講堂。




    「夜登、なぜ大講堂に?」




    「なんでだろうな。俺の勘」




    「むー、この世界で三番目くらいにアテにならないぞ」




    「ひどいぞお前」




    森を抜け、巨大なメインストリートを一気に駆け抜ける。
  49. 52 : : 2015/02/01(日) 11:48:47




    肩で息をしながら、大講堂の前にたどり着く。
    講堂の上には、学院のシンボルである龍の紋章が静かなる夜の静寂を見下ろす。




    「やあ、月がキレイだね。夜登。そしていろは」





    「口説いてんのか?あいにく、俺はノーマルなんでね」




    「悪いが、妾は夜登に一途なのだ」




    「はは、いいよ。君らは本当に面白い!!」






    学院長室から戦いを見つめるガントレットとマーリス。
    不意に、マーリスがつぶやく。




    「知っていますか、学院長」




    「何だね」




    「太平洋西部防衛隊強化魔術兵士は、実は陰晃蛭子だけではないんですよ」




  50. 53 : : 2015/02/01(日) 11:54:00




    「君たちなら、僕を見つけてくれると思った」




    夜風が頬を通り抜け、ひんやりとした空気が肌を撫でる。




    「見つけたくなかったんだけどな」




    月光は四人を照らし、これから始まるであろう激闘を見守らんとばかりに輝く。
    今夜は、満月だ。




    「さて、と」




    蛭子は服の裾をめくり上げ、ズボンを膝あたりまで上げる。皮膚が剥がれ落ち、真っ黒な義肢が露わになる。
    両腕両脚が、全て義肢。つまり、魔術で構成されている。




  51. 54 : : 2015/02/01(日) 11:56:39



    「……と、言うと?」




    「つまりですね、私が言いたいことは」




    そこでようやく結論にたどり着いたのか、ガントレットは信じられないといった表情でマーリスを見る。




    「じゃあ、まさか彼も─────」




  52. 55 : : 2015/02/01(日) 12:07:43




    「まったく、嫌になってくぜ。これを使わなきゃいけないなんてな」




    両眼を指で優しく押さえながら、ゆっくりと指を離す。




    「ここでお前をぶっ倒す」




    大きく息を吸い、吐いた。
    視界がグニャグニャと歪む。眼が高速で回転し、瞼を奥が焼けるように痛い。
    まばゆい光がスパークし、幾何学的文字が浮かび上がる。




    ────心が凪ぎ、精神が研ぎ澄まされる。




    視界が定まり、先ほどよりもクリアに写る。




    義眼が解放された。




    夜登の眼が真っ紅に染まる。




  53. 56 : : 2015/02/01(日) 12:16:22



    「まさか彼らも────強化魔術兵士だというのかッッ?」




    「その通りです学院長。陰晃蛭子の義肢に搭載された魔術回路は『超撃(アルティマ)』。最強の攻撃力を誇ります。義肢の推進力を生かした爆発的な攻撃」




    マーリスは蛭子から夜登に視線を移し、続ける。




    「対する月嶋夜登の義眼に搭載された魔術回路は『超視(ターミナル)』。未来予知にも似た回避運動は、まさに最強の防御力。物事を千分の一の速度で見ることができます」




    いつの間にか集まった教師陣に向かい、こう投げかけた。




    「あなたたちは、最強の矛と盾、矛盾が起こらなければどちらが勝つか予想できますか?」




  54. 57 : : 2015/02/01(日) 12:24:08



    「さあ始めよう!戦いをッッ!!」




    蛭子の叫びで鳥が一気に飛び立つ。
    それが、勝負の引き金になった。




    「『天赫心柱(あまこしんちゅう)の構え』ッッ」




    天に向かって伸び続ける人の精神は、留まるところを知らずどこまでも高みへと突き抜けることを意味する二人一体、攻防一体の構え。




    「こい……ッッ、月嶋夜登ぉぉぉ!!」




    狂吹六舞迅(きょうすいろくぶじん)ッ!」




    「うむ!」




    魔力を供給。青い光がいろはを包み、舞うようにして動いた。
  55. 58 : : 2015/02/01(日) 12:40:20


    「にーさまに、触れさせない」




    真心がやはり立ちはだかる。
    基本、いろはが対応するのだが───




    「悪ぃな、俺が相手だ」




    まるで予測していたかのように、夜登が真心の正面に躍り出る。




    燕臣十八衝(えんしんじゅうはっしょう)!いろは、蛭子を仕留めろ!」




    互いのエースが、裸の王様目掛けて勝負を仕掛ける構図。先に供給因子を倒した方が勝ちとなる。




    「にーさま!」




    「狼狽えるな真心!君は夜登を殺れ!」




    「はい、にーさま」




    真心がものすごい勢いで接近してくる。
    しかしそれを予測していた。
    大きく横に飛び退き、直撃を避けると、一気に間合いを詰めて拳を繰り出す。




  56. 59 : : 2015/02/01(日) 12:53:35



    「ッッ」




    真心はそれを難なくいなし攻撃を繰り出すが、攻撃が当たらない。まるで次に自分が出す攻撃がわかっているような───。




    「───ぶっ飛べ!」




    「しまッッ─────」




    強烈な回し蹴りが炸裂し、真心の身体が宙に浮く。
    体制を立て直そうと講堂の屋根に飛び移るが、それは悪手だった。
    夜登の狙いは真心を遠ざけ、蛭子に対して二対一の状況を作り出すこと。
    一瞬意図に気づくのが遅れ、痛恨の表情を浮かべる。




    「ははは、いいぞいろは!もっと楽しませろッ!」




    「ならばお望み通り!」




    魔術供給により爆発的に攻撃力が上がったいろはの攻撃を義肢を使って防ぎつつ、攻撃の隙を模索している。
  57. 60 : : 2015/02/01(日) 13:00:42



    「俺も混ぜてくれ」




    側面からの衝打。
    そして正面からの蹴りを腕、脚で受け止め弾き返す。




    胱鳴四十四閃(きょうめいしじゅうよんせん)ッッ」




    黄色い光が包み込み、短く「うむ!」と返事をし、閃光のような速度で突っ込むいろは。
    しかし蛭子の正面に真心。




    「にーさまに触れるなぁあぁぁ!!」





    絶叫しながら間に割り込み、いろはを迎え撃つ。そしてその手には、魔力供給時に現れる禍々しい剣が。
    水平に振られた剣を足です裏が受け止め、一度上に跳躍。くるりと回って距離を取る。



  58. 61 : : 2015/02/01(日) 13:17:13



    「僕が序列元三位『踊る深紅の血剣(ヴァイオレット・ブレイズ)』たる由縁、ご覧頂こう。真心」




    「はい、にーさま」




    魔力供給。
    直感的にまずいと感じた夜登は、いろはに肩を貸してもらい、森に向かって跳躍。
    後ろを見ると、数十もの剣が真心を中心に回っている。




    「いって」




    回っていた剣が一斉にこちらを向き、突き刺さんとばかりに飛んでくる。




    「いろは!」




    「わかっておる!」




  59. 62 : : 2015/02/01(日) 13:30:35



    ウサギのように次々と木々を飛び移って剣を回避する。それを猛追する剣は、いろはが飛び移った直後を木の枝を貫通する。
    一瞬でもタイミングが狂えば、二人仲良くくし刺しだ。
    夜登は強力なGに振り回されながらも、ゆっくりとこちらに向かってくる陰晃兄妹を見据えていた。
    やがて開けたところにたどり着き、ここが森の中心なのだと気づく。




    「マズいいろは、進路変更─────」




    直後、右肩を襲う強烈な痛み。
    鮮血が溢れ出し、血飛沫が舞い上がる。




    「夜登ッッ!」




    剣が二人の間を通過。
    右腕に痛みで力が入らない。するりといろはから滑り落ち、高さ約五メートルから落下。
    そうしている最中にも、剣は容赦なく飛んでくる。
    義眼の力で予測。空中で身体を捻りながら回避。しかしそのせいで受け身が取れず、背中から落下。
    肺の中にある空気が一気に絞り出され、大きく咽せる。




    「夜登!」




    「大丈夫だ。少し打っただけ……いろは!」




  60. 63 : : 2015/02/01(日) 13:49:36



    いまだに追撃してくる剣。いろはが夜登を抱きかかえ大きく跳躍。そのすぐ真下を剣が擦過する。




    「いや、お見事だよ」




    拍手をしながらゆっくりと歩いてくる。





    「だが、お仕舞いだ」




    ピンと人差し指を上に向ける。
    なにを思っての行動なのか、しかしどこか違和感を感じる。




    ─────真心いない。




    はっとして上を向くと、高く飛んだ真心と、数十の剣が月光を浴びて鈍く輝く。
    広範囲の攻撃。今から飛び退いても範囲外に逃れることはできない。





    「終わりだ」




    真心が手を下に振り抜くと、雨のように剣が降り注ぐ。ぞわりと首のあたりが殺気立つが、右手をいろはに向けて魔力を供給する。
  61. 64 : : 2015/02/01(日) 13:57:26



    義眼が高速演算を開始。脳裏が焼けるようにチリチリと痛む。




    刻薙一兜(こくていいちかぶと)!」




    紫の光がいろはの両の拳を包み込み、降り注ぐ剣に向かって跳躍。
    虚空で両の拳を合わせるようにして叩きつけると、大気が揺れ、剣が明後日の方向に飛び散る。




    「なるほど。空気を震撼させて軌道を逸らしたのか」




    「その通りっ!」




    蛭子が言い終えるのと夜登が懐に潜り込むのはほぼ同時だった。
  62. 65 : : 2015/02/01(日) 14:12:10



    供給因子同士の格闘戦にもつれ込み、互いの拳と脚が勝負を決める。
    どちらかと言うと蛭子が優勢に見えるが、手数の少ない夜登は義眼の力で超絶的な回避運動を繰り返している。
    そして蛭子の攻撃後、一瞬だけ隙が生まれた。
    もちろん夜登はそれを見逃さない。
    円運動を描きながら蛭子の頬を捉えた回し蹴り。後方に吹き飛ぶ。




    「やるッッ─────排出(イジェクト)!!」




    パキィンと空薬莢が月の光を反射しながら飛び出す。まるでジェット機のような速度で向かってくる蛭子。これが『超撃』の真骨頂。
    腕、脚ともに二十個装備されたジェット噴射の威力を誇る爆薬の推進力による打撃。
    『超視』で動きは確認できるが、身体がついていかない。
    インパクトの瞬間、夜登は血を吐き出しながら大きく吹き飛ぶ。




    「夜登ッッ!」




    「いかせない」




    夜登の救助に向かおうとするいろはに立ちはだかる真心。





  63. 66 : : 2015/02/01(日) 16:10:30



    木々をなぎ倒しながら転がる夜登。
    馬鹿げてる。威力がアホみたいだ。
    膝に手をつきなんとかして立ち上がるが、蹴りをもらった腹部が痛む。




    「デタラメだろ……」





    いろはと真心は凄まじい勢いで接近戦を続けている。時折散る火花は、いろはの超硬度のブーツと真心の剣が交わった時に起こる現象だろう。甲高い金属音が悲鳴を上げる。




    「まだ、生きてたのか」




    「ッッ─────」




    空薬莢が排出、推進力によって爆発的な速度で迫り来る右腕が見えた瞬間、勘だけで身体を仰け反らせる。頬を通り抜ける硝煙の匂い。
    すぐさま立ち上がって後退。




    「避けたか」




    今度は脚部の爆薬を排出。一足飛びに迫り来る。横に飛んで蹴りを回避。


  64. 67 : : 2015/02/01(日) 16:24:45



    しかし、排出によって空中での方向転換。
    気づいてはいたが、やはり身体が追いつかない。推進力によって爆発的な攻撃力を生む蹴りが、右肩を捉え、傷口が抉られる。
    直後、天地が螺旋のように見え、身体中に痛みが突き抜ける。




    「夜登ぉぉ!!」




    いろはが駆け寄ってくる。
    戦闘を中断させられた真心は不機嫌そうな顔をするも、蛭子の元に跳躍する。




    「くそッッ、狂吹六舞迅(きょうすいろくぶじん)ッッ」




    痛みをこらえ、いろはに魔力を流し込む。
    「うむ!」と応えたいろはははるか前方にいた。青い光がチカチカしながら眼に映る。
    ここでくたばってたらいけない。



  65. 68 : : 2015/02/01(日) 16:36:25



    痛む身体に鞭を打ち、なんとか立ち上がる。
    一人で陰晃兄妹を相手にしているいろはに加勢するべく走り出す。




    「君はそこで発動因子が死ぬのを見ていたまえ!」




    「そんなこと、できるわけねぇだろ!」




    大地を蹴って大きく跳躍。勢いをつけたまま蛭子に殴りかかる。腕を交差させて防御した蛭子は、左腕の空薬莢を排出し、アッパーカット。
    しかし、それは悪手だ。
    この至近距離での読み合いにおいて夜登に勝てる相手はいない。
    首だけを逸らしてアッパーを回避すると、身体をかがめてまらのハイキック。
    確実に顎を捉えた。




    「ッッち」




    「にーさま!」




    「妾を無視するなッッ」




    今度はお返しと言わんばかりにいろはが肩で体当たり。体制が崩れた真心に蹴りを入れる。
  66. 69 : : 2015/02/01(日) 16:53:22


    「この……和風女ッ」




    剣が出現し、次々といろはに向かって飛んでいくが、華麗なステップでどんどん距離を詰める。
    負けじと真心が剣をつかみ、弾丸のような速度で接近。再び脚と剣が交じり合い、甲高い金属音を鳴らす。




    「なぜ邪魔をするのだ!?」




    「こっちの、セリフッ」




    両者後ろにつんのめりながらも体制を立て直し、再び疾走。
    距離を詰めたところでまた火花が散る。




    「いろはッッ、胱鳴四十四閃(こうめいしじゅうよんせん)!」




    速度強化の魔力供給。
    いろはの身体が黄色く光り、残像を残しながら走る。




    「ハアアアアァァァ!!」




    渾身の蹴りと二刀の防御がぶつかり合い、果たして勝ったのはいろはだった。




  67. 70 : : 2015/02/01(日) 17:04:09



    「剣が……!?」




    一瞬だけ苦い表情をする真心だが、キッと表情をキツくしてパチンと指を鳴らす。
    すると踊るようにして剣が旋回し、いろはの追撃を防ぐ。




    「しつこいぞッッ」




    身体をさらしながら剣を避け、バックステップで後退するいろは。
    首だけ夜登の方に向けると、供給因子では有り得ないほどの凄まじい戦闘が行われていた。




    「余所見なんて、余裕ッッ?」




  68. 71 : : 2015/02/01(日) 17:13:48





    「はははは!これが戦い!争い!素晴らしい!」





    「この殺戮者がぁぁぁ!!」




    顔面を狙ったハイキックを顔だけ動かして回避すると、腹部を狙ったフックを繰り出す蛭子。まるで予測していたかのように回避した夜登は身体を反転。脇腹目掛けて中断蹴り。




    「ッッ!」




    それを右腕で防御すると、ジャイアントスイングの要領で空中に投げる。




    「血に染まれッッ」




    脚部の爆薬を排出して大きく跳躍すると、三回転ほどしてオーバーヘッド。
    防ぐ術もなくまともに喰らった夜登は地面に叩きつけられる─────しかし、あわやというところで駆けつけたいろはが抱き留め、距離を取る。
  69. 72 : : 2015/02/01(日) 17:21:37



    「大丈夫か夜登」




    「なんとか……」




    そのまま着地し、蛭子と真心と対峙する。




    「なぜ……なぜ戦争にこだわるッ!人が死ぬんだぞ!?」




    痛みを必死にこらえて叫ぶ夜登。
    しかし蛭子は冷酷な笑みを浮かべ、真心は相変わらずの無表情。




    「なぜ……だって?わからないのかい夜登。僕と君は戦うために身体を捧げた。違うかッッ?十年前の第三次世界大戦。僕は両手両足を失った。だが、僕は歩ける!手が動く!こんなに幸せなことはない!!」




    「……」




    「君もそうだろう!?生まれながらにして両眼が見えず、真っ暗な世界で常に何かに怯えながら生きてきた。そうだろうッ!」




    否定は───できない。
  70. 73 : : 2015/02/01(日) 17:27:33


    「誰かの助けが無いと生きていけない。無力だった僕らに力をくれたのは誰だ?生きる目的くれたのは誰だ?偉大なる先生達だろう!何もない僕らに、空っぽだった僕らに希望を与えてくれたのは先生達だ」




    両手を大きく振りながら熱弁する蛭子。




    「僕らは不幸だった。ゆえに選ばれた。人智を超えた力に!いいかい?僕ら強化魔術兵士は戦うことでしか存在を証明できないこと戦争こそが、僕らの寄りどころだ。違うかッッ!」




    言い終え、静寂が包み込む。




    「…………くッッッッッだらねぇぇッッ!!」




    それを破ったのは、夜登だった。
  71. 74 : : 2015/02/01(日) 17:34:58


    「俺もお前も空っぽなんだよ無力なんだよ!誰かの助けが必要なんだよ!お前、人智を超えた力に選ばれたって言ったが、自分がたった一人でできることなんてたかが知れてる!それを補うのが発動因子だろうが!」




    無表情の真心が、ピクリと反応した。




    「お前の隣には誰がいる!?妹がいるだろ!一番近くでいつも支えてくれてるのは、そいつだろ!何で気づかねぇんだ!!」




    「黙れ!!わかった風に言うな!!所詮君の言うことはきれいごとにすぎない!結局最後にモノを言うのは自身の力だ。この、僕のッッ!」




    ───────。




    「………悲しいな」




    少し間を開け、夜登はつぶやいた。




    「同じ境遇なのに、ちょっとの思考の違いでこうもずれちまうなんて」




    「………何が言いたい?」



  72. 75 : : 2015/02/01(日) 17:41:32



    「思考の違いだ。お前は戦いのためだけにその力を使う」




    「そうだ」




    「けど、俺は先生にもらったこの眼は、大事なことを眼に焼き付けるためにくれたものなんだって」




    「はん。それこそくだらない。妄想の産物だ」




    「ふん。なんとでも言え」




    再び戦場に戦慄が走る。




    「わかっているのかい?実力は圧倒的だ」




    負傷箇所多数。満身創痍。状況は最悪。




    「君たちは、僕らに勝てない」
  73. 76 : : 2015/02/01(日) 17:49:00



    ─────だが。




    「わかってねえのはお前だよ。ここまでは俺がいろはの足引っ張ってきた。それは俺が普通の人間の動きしかできなかったからだ」




    まさか、といった表情でこちらを見つめるいろは。それに頷きで応じる。




    「それで、どうするつもりなんだい?」




    「こう────するのさッッ」




    両手をいろはに向けて魔力を供給。
    白色の光が周囲を照らす。




    龍子共鳴百式双(りゅうこきょうめいひゃくしきそう)




  74. 77 : : 2015/02/01(日) 17:54:43




    一方的な感覚共有を意味するこの魔術は、供給因子が発動因子にシンクロすることにより、共鳴対象の発動因子の動きを供給因子が再現するという強力な魔術。
    しかしながら、当然ただの人間である供給因子が発動因子の動きについていけるはずがなく、発動因子が受けた五感の感覚、痛覚などを一方的に供給因子が受ける。
    まさに防御を顧みない攻撃特化の戦闘体制。




    「まさかシンクロを使ってくるなんて!やはり君たちは最高だ!」




    「夜登、大丈夫なのか?」




    「ああ。ここからが、本当の戦いだ!」
  75. 78 : : 2015/02/01(日) 18:55:32




    言うや否や、右手をいろはに向けて魔力を供給。




    燕臣十八衝(えんしんじゅうはっしょう)ッッ」




    紅い光が夜登といろはを包み込む。
    一方的感覚共有をしているので、いろはの身体に起こったあらゆる変化が夜登にも作用する。
    ───瞬間、爆ぜるように動いた夜登が蛭子に、いろはが真心に襲いかかる。




    「きて」




    無数の剣たちが舞うようにして空を飛び交い、行くてを阻む。




    「進路一○七、直進!」




    それを義眼の力で予測、実行。飛び交う剣の間を縫うようにして突き進む。




    「こい───ッ」




    剣の猛撃をくぐり抜けた夜登といろはが同時に蹴りを放つ。爆発的な二発の蹴り。蛭子が義肢を使って防ぐが、先ほどまで防いでいた威力が倍増されて襲いかかる。




    「グッ────ッ!」




    「にーさまぁぁ!!」




    吹き飛ばされた蛭子を見て、真心が血相を変えて飛び込んでくる。
    二刀の剣を握り、螺旋を描きながら突っ込んでくる。




  76. 79 : : 2015/02/01(日) 19:08:55


    数メートルあった距離を一足跳びで縮めると、夜登といろはの間に入り込んで回転斬り。
    それを跳躍で回避するが、真心の猛撃は終わらない。
    パチンと指を鳴らすと、何もない空間から数十の剣が現れる。ここまで約一秒。
    小さく「いって」とつぶやくと、直進する剣。
    いろはは蹴りで、夜登は義眼を使ってなんとか回避し、お互い背中合わせの状態になる。
    しかしそれが、ヤツらの狙い。
    景色の奥の蛭子が爆薬を排出。一瞬で数十メートルあった間合いを詰めると、右腕の爆薬を連続排出。空薬莢が三つ吐き出され、爆発的な推進力で流星のごとく拳が振るわれる。
    狙いはいろは。
    腕を交差させて防ぐが、三連続排出によって威力を増した拳を防ぎきれるはずもなく、夜登共々吹き飛ばされる。
    その際、いろはが腕に受けた痛みが一方的感覚共有によって夜登にも伝わり、焼けるような痛みが襲う。




    「あぐっ」




    「夜登、すまない!」




    「気にすんな。三連続排出はやばい」




  77. 80 : : 2015/02/01(日) 19:19:43


    再び迫る真心。十本の剣を引き連れて走り込んでくる。




    胱鳴四十四閃(きょうめいしじゅうよんせん)!」




    黄色い光が二人を包み、残像を残しながら動く。




    「にーさま!」




    蛭子が左脚の爆薬を排出。それを見たいろは進行方向に向かって飛び立つ。
    両者激突し、凄まじい衝撃が大気を揺らす。
    相殺。とっさに大きく後退。双方無事。




    刻薙一兜(こくていいちかぶと)!」




    紫の光が両の拳を包み込み、大気すら激震させる一撃が蛭子、真心を共に捉える。
  78. 81 : : 2015/02/01(日) 19:34:06



    「はは、ははは、ははははッッ!」




    まるでとち狂ったかのような笑い声。しかしそれは悪魔の囁きに聞こえる。




    「面白い。戦いはこうでなくちゃぁぁ!」




    魔力を供給。それによって真心の一度に操れる剣の数が一気に増加する。義眼を使って瞬時に計算。その数───八百。




    「貫いて」




    真心が手を横に薙ぐと、一斉に剣が咆哮。
    横殴りの暴風雨のように襲いかかる。
    いくら強化魔術兵士の義眼と言えど、この数の剣を回避する術はない。
    いや、一つだけ─────。




    刻薙一兜(こくていいちかぶと)ッッ───大地を抉れ!!」




    意図を汲み取ったのか、双方一斉に地面を叩く。すると地面が抉れ、巨大な岩石となって剣を防ぐ。
    硬いものに金属が刺さる音。
    しかし─────




    「がら空きだよ夜登ッッ!」




    土煙に紛れて接近してきた蛭子の存在に気づくのが一瞬遅れ、後悔。
    右腕の爆薬を排出。右ストレートが腹部に直撃して地面を転がる。




  79. 82 : : 2015/02/01(日) 19:43:05



    「夜登ッッ」




    すかさず吹き飛ぶ夜登を抱きかかえるいろは。
    心配そうに顔を覗き込んでくる。




    「安心しろ。今の俺の運動能力はお前並だぞ」




    スッと立ち上がり、目の前の死神たちに眼を向ける。





    「とは言っても、もうそろそろ限界だ」




    「それは向こうも同じはず」




    もうすぐ決着が着く。この場にいる誰もが感じ取っていた。




    「いくぞ。狂吹六舞迅(きょうすいろくぶじん)!」




    青い光が二人を包み込み、超スピードで接近。
    恐らくこれが、最後の格闘戦になるだろう。
  80. 83 : : 2015/02/01(日) 19:54:34



    「にーさまに、触れさせない!」




    無表情。しかし熱くたぎる激情が真心の瞳の奥で揺れている。
    二刀の剣で立ちふさがる。




    「邪魔と───言っておろうがッッ」




    三度火花が散り、発動因子同士の激突。
    義眼を持ってしても追いつくのがやっとの速度で拳、脚、剣を繰り出す二人。




    「余所見かい?」




    夜登は短く舌打ちをして横に跳躍。
    それに合わせて蛭子も同じ方向に跳ぶ。
    グッと軸足に力を込め、引き絞った右拳を炸裂させる。それをひらりと避け、右脚の爆薬を排出。爆速の蹴りが夜登の側頭部目掛けて繰り出されるが、前につんのめって回避。




    「───墜ちろッ!」




    その勢いのまま一回転。踵落としが脳天に直撃して────いや、インパクトしたが、硬い。それが義肢だと気づき、上に大きく跳躍。
  81. 84 : : 2015/02/01(日) 20:05:48


    「かかった」




    蛭子が細く微笑むのを見て、上に跳んだことをヒドく後悔した。
    いろはと一進一退の攻防を続けていた真心だが、即座に大きく跳躍。魔力を供給。
    ヤバい。背筋に冷や汗が伝う。




    「僕らの奥義を見せてあげよう。真心」




    「はい、にーさま」




    迸る閃光。不気味に笑う蛭子。そして消えた剣。




    自ら輪廻する紅き剣(レラーゾゼルサイカ)




    魔力供給が終わると、刀身約十メートルほどの巨大な紅き剣が出現。禍々しいそれは、多くの血を啜っているかのようにそそり立つ。
    恐怖が全身を支配する。




    ───だって、次は俺が啜られる。




    高速回転しながら突き進む紅剣を義眼で高速演算。横に大きく飛び退き、直撃は避ける──が、衝撃波によって吹き飛ぶ。
  82. 85 : : 2015/02/01(日) 20:11:49



    地面に痛々しい擦過痕を残しながら地に伏した夜登に、容赦無く紅剣が迫る。




    「夜登ッッッッッ!!」




    紅剣が方向転換したのといろはが走り出したのは同時だった。しかし、圧倒的に紅剣がはやい。
    このままでは─────




    ─────動けッ、動けッッ、動けぇぇぇッ!





    力を入れるが、身体が動かない。死ぬ。このままではくし刺し。身体が真っ二つになってお仕舞いだ。




    「いやだッッ、いやだッッ!妾を置いて死なないで………ッッ!」




    泣きながら叫ぶいろはの声も虚しく、最後まで夜登の身体は動かなかった。




    「───チェックメイトだ」




    「────ッッ」





    無慈悲にも、紅剣は輪廻して夜登の身体を容赦なく切断────────


  83. 86 : : 2015/02/01(日) 20:19:45




    ─────しなかった。




    何が起きたのかさっぱり理解できない。
    外した?ありえない。




    「真心、どういうことだッッ?」




    怒り、叫ぶ蛭子。
    どうやら真心がワザと外したらしい。
    一体何を思って───?




    「すいませんにーさま。わからない。わからないよ……。にーさま以外の男に、すごくぽかぽかした気分になって────」




    「真心ッッ」




    戦意喪失。真心が膝から崩れ落ちる。
    神様はどうやら、俺たちを選んだ。
    千載一遇。これが、最後のチャンス。




    胱鳴四十四閃(こうめいしじゅうよんせん)ッッ!」




    ────無駄には、しない。
  84. 87 : : 2015/02/01(日) 20:28:17



    黄色い光が二人を包む。
    瞬間、残像を残して高速移動。
    二つの光が蛭子に接近する。




    「ふざけるな───僕は、僕はぁぁ!!」




    狂ったように爆薬を連続排出。
    もちろん狙いは────いろは。
    いろはに攻撃を当てれば足止め、そして夜登に対しての攻撃となる。
    一方的感覚共有。なるほど、恐ろしい魔術だ。
    しかし、リスクを負いすぎた。




    「ッッ」




    しまった、といった表情を浮かべる夜登を見て、蛭子は細く微笑む。
    夜登はすでに手負い。一撃喰らわせたらお仕舞いだ。




    ────勝った。
  85. 88 : : 2015/02/01(日) 20:46:28



    しかしその慢心は、三秒と続かなかった。
    いろはが取るはずもない、斜め上からの予想外、奇想天外な行動によって。
    右腕の残りの爆薬すべてを排出した渾身の拳は、確かに捉えた──────




    「そんな………バカなッッ!?」




    ─────身代わり。
    いろはが決して取るはずのない、夜登を身代わりにした防御。
    いろはの代わり、夜登だけが強烈無双の拳を背中で受ける。
    ミシミシと背骨が何本か折れる。




    「全身全霊渾身全力ッッ」




    いろはが短く叫び。




    劫焔絶掌(きょうえんぜっしょう)───」




    激しい衝撃。背中に木の幹がぶち当たり、ヒドく喀血するが、いろはと蛭子を見据える。




    「そうか、僕は君たちに、負け、るのか──」




    声が出ない夜登の代わり、優しく、しかし強く言葉を紡ぐ。
    限界まで引き絞った右拳を、隕石のように叩きつける。それは夜の空に浮かぶ月が直撃したかのような衝撃。




    「───月華夜叉天空(げっかやしゃてんくう)───妾と夜登の勝ちだッッ!!」




    ───そして、勝者を祝福するかのように、まばゆい光が全てを包み込んだ。








  86. 89 : : 2015/02/01(日) 20:48:10



























  87. 90 : : 2015/02/01(日) 20:59:28



    空は澄み渡り、雲一つない日本晴れ──アメリカのニューヨークにいるのだが。




    講堂から顔だけ覗かせてメインストリートを見ると、ほぼ全学院生が夜登といろはを祝福せんとばかりに集まっていた。





    ────今日は、正式に学院長から《常夜の宴(ザ・ナイト)》の参加者の証、ペンダントを賜るんだとか。




    「なんでこんなに人がいるんだよ……」




    頭を引っ込め、壁にもたれかかるマーリス先生に声をかける。




    「そりゃあそうだろうさ。陰晃兄妹を倒し、学院の命である『アダムの林檎』を奪還したんだ。英雄じゃないか」





    「こんなに大掛かりじゃなくても……」




    「よいではないか夜登。それだけ妾たちは偉大な事を成し遂げたのだから」




    「そ、そうか………」




    二人のやりとりを見て、微笑むマーリス先生。
    背中をどかんと押して、強制的にメインストリートに押し込む。




    「まあ、よくやったよ」




  88. 91 : : 2015/02/01(日) 21:06:47


    太陽の光りが二人を照らした瞬間、盛大な拍手が二人を迎えた。
    歓喜の叫び、指笛、感謝の言葉などなど。
    祝福されるのは慣れてない。




    「夜登………」




    顔を真っ赤にして服の袖を掴むいろは。
    いくらいろはと言えども、これだけの数視線と祝福を浴びたら恥ずかしいんだろう。
    しかし、いろはは予想を裏切った。




    「まるで………結婚式みたいだなッ」




    「なッッ────」




    耳元まで真っ赤になるのがわかる。
    そうきたか。




    「まあ、そうかもな」




    「え?」




    「なんでもない!さあ、行こうぜいろは!」




    いろはの手を引き、学院長が待つメインストリートの奥まで一気に駆け抜ける。
  89. 92 : : 2015/02/01(日) 21:14:19



    「月嶋夜登、そしていろは。前へ」




    ガントレット学院長の声が響き渡ると、一気に静寂訪れる。




    「先日の件、ご苦労だった。これを我ら学院側は一級戦果として、貴公らのDP序列を百一番まで繰り上げる」




    なんと、今回の《常夜の宴》は百一組で行うらしい。前代未聞だ。




    「受け取りたまえ。『超視の向こう側(ターミナル・クライシス)』」




    それが、夜登といろはの登録コード。
    学院長直々にペンダントを首にかけてもらい、授与式はあっさりと終わる。




    しかし夜登は、数日前のことをふと思い出していた──────────
  90. 93 : : 2015/02/01(日) 21:20:07


    ────蛭子を撃破した後、いろはに肩を借りて真心の元に向かった。




    「なんで、剣の軌道を逸らした。あれが決まっていれば、俺たちは負けてた」




    夜登の問いに、真心は首を横に振った。





    「わからない───けどわかる」




    「どっちだよ………」




    「戦うしかなかった私のことを、ちゃんと人として見てくれたから、かもしれない」



    「あやふやだな………」




    「羨ましいと思ったからかも」




    「羨ましい……?」




    「うん。あなたたち、すごく楽しそうで、それを壊したくなくて」




    「………そうか」
  91. 94 : : 2015/02/01(日) 21:24:28



    「………ありがとう」




    「お礼を言うのか。お前、変わってるな」




    「よく、言われる」




    遠くで響く足音。
    学院側の教師たちだろう。もうすぐここにくる。





    「楽しかった。ありがとう。夜登。いろは」




    再びお礼を言うと、無表情だった真心がふわっと微笑む。それはまるで、月下に咲く一輪の花のようで────
  92. 95 : : 2015/02/01(日) 21:33:47



    ─────俺は、常に思っていた。




    なぜ発動因子と供給因子は生まれたのか。
    そして、生まれる意味はあったかのか。
    もし存在していなかった、戦争は起きていない。しかし、魔術がなければここまでの技術はなかった。




    わからない。ちっぽけな自分では、何をどう考えでも結論にはたどり着くまい。




    だが、これだけは言える。



    決して意味なく存在するものなどない。
    それは、いろはが証明してくれた。先生たちがくれたこの眼が教えてくれた。




    世界は美しい。
    視界が戻った俺は、春の桜に泣き、夏の新緑に泣き、秋の紅葉に泣き、冬の雪に泣いた。
    だってこんなにも美しい。
    生きている実感こそ、最も素晴らしいものだ。




    しかし陰晃蛭子は言った。
    「戦うのが生きる理由」だと。
    確かに間違ってはいない。
    なぜなら、戦うために強化魔術兵士になったのだから。
    もしかしたらあの兄妹は、いろはに出会わないかった月嶋夜登の姿なのかもしれない。




    だが、俺は信じたい。
    この眼は、大事なものを眼に焼き付けるために先生がくれたのだと。
    そして証明したい。




    世界は、戦う以外に手を取り進んでいく方法があるのだと。
  93. 96 : : 2015/02/01(日) 21:51:01



    「夜登、夜登!!」




    「え、ああ、ごめん」




    「全くもう。妾を無視するなんて言語道断だぞ」




    ─────願わくば。




    この少女───いろはと共に、死ぬまでそばにいられるように。
    供給因子は発動因子を愛せない。
    それでもいい。
    ただ、そばにいたい。もっと触れ合いたい。
    いろはを、いろはの温もりを感じていたい。




    「ん、どうしたのだ夜登」




    「いや、ちょっとな」




    「そうだ、夜登。少し屈んでくれないか?」




    「えっと、こうか?」




    膝を曲げ、いろはと同じ目線になった瞬間、感じたのは唇の柔らかい感触と、温もり。
    口先が触れ合うだけの口付け。
    一瞬にも永遠にも感じられるその時間が、苦しいほどに愛おしい。
    名残惜しげに唇を離すいろはの顔は真っ赤で、少し瞳が潤んでいた。




    「うむッ、これで夜登は正式に妾の夫だ。見たか女狐どもッッ」




    そうだ、そういえばここ、メインストリートだった。




    耳をつんざくほどの歓声。
    本当に結婚式みたいだ。




    「………コノヤロ」




    してやったりといった表情をするいろはの唇を、今度は夜登が強引に奪う。
    いろはは一瞬だけ戸惑いを見せたが、やがて夜登に身を委ね、首もとに腕を回し、ゆっくりと目を瞑った。





    ─────供給因子は愛せない。
    しかし願わくば、いろはと共に過ごす時間が永遠であるように。




    そして俺たちの悲願《統べる者(ザ・リード)》の高みへと登るべく。





    しかし今は感情に身を任せ。





    彼らの因子は、二人で一つ。




    ────そして。汝らが《統べる者》に至らんことを願って。














           END
  94. 97 : : 2015/02/01(日) 21:55:06


    あとがき。







    あぁぁぁあつっかれた。もうね、最後の二人のやりとりマジでいらなかった余計なこと書いた……ぁぁ、疲れた。




    まあとにかく、終わり。終わりです。
    この作品を見てくれた方、本当にありがとうございました。



    さて、ものすごく中途半端な終わり方ですが、希望があれば書こうかなと。




    最後に、この作品に対しての感想でもいただけたらなぁ~と思います。



    それでは(^.^)/~~~
  95. 98 : : 2015/02/01(日) 22:14:23
    ただ、ひたすらすごいと思います!
    完全オリジナルのssて
    ネタ考えるだけでも難しいのに……

    続編期待です(*^^*)
  96. 99 : : 2015/02/02(月) 21:19:34
    >>98
    どうもありがとうございます!
    続編は、他の作品が完結したら書いてみようかな……。
  97. 100 : : 2015/02/08(日) 20:22:09
    戦闘シーン多すぎw
  98. 101 : : 2015/03/30(月) 00:56:01
    機好少女は傷つかないにどことなく類似点を感じる
  99. 102 : : 2015/03/30(月) 19:02:21
    すごい!ラノベにしてもいいと思った!
  100. 103 : : 2015/04/27(月) 08:41:14
    機巧少女は傷つかないのパクリやん
  101. 104 : : 2015/04/27(月) 08:41:45
    パクリをオリジナルとか言って投稿するとか詐欺もいいとこやな
  102. 105 : : 2015/04/27(月) 08:42:04
    SS書くのやめちまえ
  103. 106 : : 2015/04/27(月) 08:42:45
    面白いのは機巧少女は傷つかないでありこのパクリSSが面白いわけではない

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jyudan

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