このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
戦刃「名前を呼んで」
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- 1 : 2015/01/28(水) 01:14:04 :
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私を貫いたのは無数の槍
何本あるのだろうと数える暇もない
全身には激しい痛みと、口内には鉄分を含む血の味
体全体から赤色の液体が溢れ出しており、この経験は幾つかの戦場で経験したことではあるが、現在進行中の痛みと感覚はどこの戦場での経験とも違った
体が酷く寒い
私の命の灯火は、ここで消えるのだろうと瞬時に判った
「あ……!」
体が串刺しになりながらも、私の視界はスローモーションのように流れる
私が自分の死を覚悟しながら床に倒れこむ直前に見たのは、貴方の顔
愛しい貴方の顔
いつも笑顔だった貴方の顔は今、困惑と恐怖の表情を浮かべている
そして
「え……江ノ島さんっ……!!」
私の偽りの名を呼ぶ
苗木くん
呼んで
たった、一言でいいから
最後に、一度でいいから
私の、本当の名を
呼んで
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- 2 : 2015/01/28(水) 01:15:29 :
◇
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- 3 : 2015/01/28(水) 01:19:34 :
出会いは運命的なものでもない
ただ貴方は
好きな人のために、強くなりたくて
【超高校級の軍人】である私に話しかけてきただけ
「戦刃さんって、格闘技も得意なおかな?」
「……」
いつも一人だった私に、初めて話しかけてきた同級生の男の子
それが苗木誠くんだった
「……なに…突然……」
「あ、いや、そのっ、ごめん!い、いきなり話しかけて……!」
情けない、ひ弱そう、意気地なし
それが第一印象だった
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- 4 : 2015/01/28(水) 01:32:02 :
「……てか……なおかな……って、何」
私はいつもの通り不機嫌な顔で、声を掛ける時に台詞を噛んだ同級生に尋ねる
これが私。戦刃むくろ
希望ヶ峰学園と呼ばれる学校の、どこにでもいる高校一年生
いや、どこにでもいる訳ではないのかもしれない
この希望ヶ峰学園は、【何かの才能にズバ抜けた生徒】が集められる学園だ
私も先程述べたように、一部の才を持っていると言っても過言ではない
【超高校級の軍人】
他国にて最強の傭兵と呼ばれたフェンリルに所属し、何百という戦場を駆け巡ってきた私は、そう呼ばれている
そんな物騒な私に話しかけてくる男性なんて、基本はいない
まあ、いたとしても先程のように、私に佇んで言葉を噛んだり、恐縮してしまう輩がほとんどだ
出会った瞬間の印象は【こいつも他の男と同じか】という印象でしかなかった
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- 5 : 2015/01/28(水) 01:45:28 :
「あ……ご、ごめん、緊張して噛んじゃってさ……はは」
そう言って彼は寝癖のような癖毛を右手で触る
身長は私と同じくらいだろうか。
体格も私より華奢に見える
同じクラスの同級生ではあるものの、彼は他の【才能者】に比べると特段目につかない生徒であったし、その印象は薄い
確か【偶然選ばれた超高校級の幸運】とかいう肩書きだったと記憶している
「……」
彼の気遣い笑いも気にせず私は黙り込む
どうせ他の男子と同じように、女性であるのに超高校級の軍人と呼ばれる私を物珍しく思い話しかけてきたのだろう
このような連中は基本的に無視をする
関わりあったところで私は何も得することはないし、拳銃の撃ち方を教えてだとか、面倒事に巻き込まれるのがオチだからである
「あっ、いや……ごめん、気を悪くさせたのなら謝るよ」
「……」
これもいつもの男性と同じパターン
私が無視をすれば、大概話しかけてきた男性は身を引く
それはそうだ。私はただの高校生ではない。戦場で何人もの人間を殺してきた傭兵なのだから
下手なことを言えば、自分の身が危険なことくらい理解できるはずだ
ただ
彼が他の男性と違ったのは
「……どうしても……戦刃さんにしか頼めないことがあるんだ」
「……は?」
私の名を呼び、頼みごとをしてきたことだった
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- 6 : 2015/01/28(水) 01:53:58 :
◇
-
- 7 : 2015/01/28(水) 02:06:44 :
彼の名は苗木誠というらしい
同じクラスとなって半年たち、名を知らないという私も私だが、彼はそのくらい他の人間に比べて存在感がなかった
超高校級の幸運、それが彼の肩書き
希望ヶ峰学園は【超高校級】と呼ばれる特別な人物しか入校することはできない
なんといっても学校のブランドだけで一流企業への入社も容易にできてしまうという学校なのだから、たまたま幸運で選ばれただけの彼に、私が存在感を感じるはずもないのだ
「……じゃあ、よろしくお願いします!戦刃さん!」
「……」
彼は意気揚々と私に向かって声を放つ
ジャージ姿がとてつもなく似合わない彼は、学校のクラブ活動でたまたま空いていたボクシングリングの、私の対角線上の赤コーナーで仁王立ちをしている
どうやら、私に格闘術を教えてもらいたいらしい
「……はぁ……」
ため息も出て当然だ
幾ばくの戦場を駆け巡ってきた私にとって、目の前には大人しい小動物のような男の子
その男性と呼ぶのも失礼な彼が、よろしくお願いしますと可愛らしい声を放っていても、私にやる気が出るはずもなかった
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- 8 : 2015/01/28(水) 11:33:14 :
- お、おおぉ……!
き、期待です!続きが凄い気になります!
如何にして今の関係から、名前を呼んでほしいとまで思われる関係になるのか楽しみです!
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- 9 : 2015/01/28(水) 20:35:32 :
- >>コメントありがとうございます!
未登録ユーザーなので途中文章は変更できませんが、最後まで見て頂けますと嬉しいです!
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- 10 : 2015/01/28(水) 20:38:06 :
「お……お手柔らかにお願いします!」
彼は再び「お願いします」を繰り返し一礼をする
変わらず彼は、雨を浴びた子犬のように震えている
私の噂をどこまで知っているのか知らないが、そこまで一人の女にビクつくことはないだろうに
「……」
私は彼への返答をすることなく、無防備な構えを取る
「じゃ、じゃあ……行くよっ!はああっ!」
勢い良く彼は赤コーナーを飛び出した
恐らく瞬発力という概念が存在しないのだろう
私のいる青コーナーまで走ってくるのは、数十秒もの感覚に感じた
「たあっ!」
彼の右手が私の服に触れようとしている
ああ、遅い
こんなのじゃ戦場では一瞬で翻され殺されてしまうだろう
初めに言っておくが、私は別にいじめっ子という訳でもないし、ましてや弱い者を痛振るのが好きという訳でもない
ただ、条件反射なのだ
自分が襲われると判ると、体が瞬時に反応してしまう
「か……はっ……!」
気が付くと彼は腹を抑えてリングに倒れこんでいた
…私はいつの間にか彼の攻撃を回避し、得意の左ボディーブローを3発も叩き込んでいたようだ
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- 11 : 2015/01/28(水) 20:39:21 :
「ご……が……!」
彼の口から赤い液体が噴き出す
戦場の兵に比べると大した出血量ではないのだけど、彼が私に格闘術を教わろうという気は無くなってくれたはずだ
さすがに同級生、それになんの秀でた才能を持たない彼には、私の体も自動的に手加減という形をとってくれたのだろう
「……まだ……やる?」
私は静かに、冷静に彼に問うた
町で姉をナンパしてきた男は数知れないが、この脅しで退散しない男はいない
いつもと同じく、この男もさっさと私の前から消え、私はまたいつもの孤独な生活に戻れるはずだった
「……も……もちろん……!まだまだ……っ!」
「……」
驚いた
確かに私は、他の男に比べ手加減をした部分もあったが
彼はその【私の中の常識】を覆し、口の血液を拭きながら立ち上がったのだ
「僕は……僕は強くなるんだ……!」
その真っ直ぐな瞳は、私を睨みつけていた
いえ、私ではない。私の体の先にある【とある目標】を凝視していると言った方が正しい
彼が強くなりたいと思った理由は、【ある女性を守りたい】からだそうだ
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- 12 : 2015/01/28(水) 20:40:23 :
つい先日、彼が街を歩いていた際、その女性が不良共に絡まれていた
正義感の強い彼は、その女性を救いたい気持ちで助けに入ったが
結局自分自身は不良にボコボコにされ、挙句の果てには彼女がその不良たちを言葉で説き伏せたらしい
「……もう、二度と……!」
「……」
「助けられるなんて……情けないことをしたくないっ!」
良い目だと、正直に思った
確かに、軍人や傭兵の中でも闘争心が強い連中は多い
彼らは守りたい家族のため、また守りたい恋人のために命を賭して戦場で戦っている
だから、そのような目を見ること等、私にとっては日常茶飯事だったことなのかもしれないが
彼の目は、特別だった
その目の奥に秘める、希たる望み
自分がどのように生きたらいいのか分からず、傭兵となってひたすら腐った目で戦場を走り回っていた私とは
違った
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- 13 : 2015/01/28(水) 20:40:38 :
◇
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- 14 : 2015/01/28(水) 20:41:55 :
「あいつつ……!」
「だ、大丈夫ですか…苗木くん…!」
「あ、いや…なんでもないんだ。ごめんね舞園さん」
あれから3日立った
彼は私に散々カウンターを受けながらも、諦めることなくずっと私に向かってきた。
まあ、ここ3日は全て1時間以内にはノックダウンしているので、諦めているのかそうではないのかすら判断はつけ辛いが
「うー……痛……」
相変わらず、彼は私にやられた傷を痛そうにする
それは同じ教室内にいる私には聞こえないように、静かに言葉を発して気を使っているのだろうが、軍人の中でも耳が良いと言われる私の前では無駄なことだ
それはさておき、今まで特段気にしたことはなかったが、知らず知らず傷が増えていく彼を見て、クラスの人間の多くが彼を心配する
大した才能も持っていないのに、人望だけは厚いらしい
【超高校生級のアイドル】と呼ばれる舞園さやかも、その内の一人
苗木誠とは中学校の同級生らしいが、それを含めても華やかで気品ある人気絶頂の彼女に話しかけてもらえることなど、他の男性からすると本来は羨ましい限りなのであろう
性格は暗い、ゴツイ、胸はない、これと言って可愛さと呼べるものを持たない私とは、正反対な女性だ
「……」
私は自分の意思に反して珍しく、人の行動を観察した
未だ苦痛に歪む苗木の顔を、舞園は心配そうに見ている
あり得ないとは思うが、舞園の想い人は苗木なのだろうか
いや、それは恐らく逆なのだろう
苗木の想い人が舞園なら、客観的に見ても合点はいく
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- 15 : 2015/01/28(水) 20:42:29 :
その時、ふと開いていた教室の窓から風が差し込む
強風とまではいかないものの、その風は女性の長い髪を靡かせるのは十分だった
ヒラヒラと舞うカーテンの中に、髪を掻き分けながら苗木を見つめる肌の白い女性が立っていた
彼女の名は【霧切響子】
超高校級の探偵という肩書を持つ
苗木の想い人が彼女であると聞いたのは、その一週間後だった
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- 16 : 2015/01/28(水) 20:44:12 :
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今日の特訓は柔道場だった
希望ヶ峰学園はその設備も超一流であり、基本的にはどの場所も常に利用はできる
ただやはり放課後となればクラブ活動の時間でもあり、基本的には利用者が多いため、本日は人の少ない柔道場を利用することとしたのだ
「きょ、今日もよろしくね!戦刃さん!」
今日で苗木誠が私に武術を教わりに来て2週間目
三日坊主という言葉は彼の頭の中になかったらしく、毎日放課後私に稽古をつけるよう懇願してくる
私も特に、彼の想いに感化されたりとか、ボランティアがしたかった訳じゃない
自分でも不思議な気持ちではあったが、何故か彼のお願いを断ることができなかったのだ
いや、恐らくそうではない
今までこのような経験が無かったから、どうすれば良いのか、断り方すら知らなかったというだけだ
フェンリルでも人間関係に不備があった訳ではないが、このように毎日同じ男と過ごすなんてことはなかった
だって1週間もすれば、目の前にいた男は自然と戦場で命を落としていたからだ
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- 17 : 2015/01/28(水) 20:46:16 :
「……苗木、お主がここ近日傷ついておるのは戦刃のせいか」
不意に、柔道着に身を包んだ大柄な女性が苗木に話しかけてくる
彼女の名は【大神さくら】
超高校級の格闘家、という肩書きである
本日は私たちが来る前から、柔道場で訓練をしていたようだ
クラスの中で、私が唯一武術で勝てないと思えるのが彼女であろう
その肉体は脂肪等なく全身が引き締まっており、身の丈は私の2倍といっても過言ではない
それに加えてずば抜けた格闘術の才を持っており、いくら私が超高校級の軍人であるとはいえ、武器がなければ彼女とは良い勝負すらできない自信はある
「いや…ち、違うんだ!僕から戦刃さんにお願いしてるんだよ!稽古をつけてくださいって」
「ぬう……」
大神は私を強く睨み付ける
この凄みからも、苗木が大神にも好かれているということが判る
誰しも、親しいクラスメイトを傷つけられて、黙っているほど人間ができている訳ではないのだろう
ただ、苗木自身に傷をつけているのは私自身であるし、少し後ろ目たさを感じた私は、大神から目を反らすことにした
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- 18 : 2015/01/28(水) 21:25:36 :
- 期待です!
残姉ちゃん最高!
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- 19 : 2015/01/28(水) 21:26:20 :
- すいません、11スレで姉という単語がありますが、妹への脳内変換をお願いします。
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- 20 : 2015/01/28(水) 21:29:57 :
- 期待です!
こういうの結構好きです!
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- 21 : 2015/01/29(木) 19:36:56 :
その時私は、ふと疑問に思うことがあった
苗木と大神は仲が良さそうだ。なら別に、私が彼に格闘術を教えなくても良いのじゃないか、と。
「……ねえ」
私は苗木に話しかける。
私からこの男に話しかけるのは、何時ぶりだろう
というくらい、私からは彼に話しかける数は少ない。
別に緊張して喋れない訳じゃないし、苗木が嫌いだから喋りたくない訳じゃない。
ただ単に、これまで妹くらいとしかまともに喋ったことがないから、どう接して話せば良いのか、よく分からないのだ
「……別に私じゃなくて、大神さんに格闘術を教わればいいんじゃない?」
と、私は言い放つ
全うな意見を言ったつもりだったが、苗木はきょとんとした目で私を見つめ返す
大神も「む」等と口にし、彼を見つめていた。
「んーっと…」
苗木は困ったように、自分の頬を掻く
まあ、既にもう2週間も特訓をしているのだし、私からの質問は野暮であって答えにくいことは判っている。
だが、ただ単に、何故私だったのか聞きたかったのだ
「……僕が、戦刃さんに教わりたかったから、かなあ」
「……は?」
「あいや、別に他意はないんだ……ほら、この間話した僕の守りたい人の話も、戦刃さんなら誰にも言わないって信じれるし」
「……」
「ぬう……苗木よ。私が格闘術を教えるのでは不安なのか」
「あ!いや!そ、そういう訳じゃないんだけどさ……うーん、なんて言えばいいんだろう」
彼は強靭な女性二人に言い寄られてあたふたしている。
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- 22 : 2015/01/29(木) 19:38:30 :
私に教わりたかった……?
何故
そこが分からない。
先日も述べたが、私は別に可愛い部類の女性でもないし、性格も明るくはない。
それに、訓練をするとなれば相手に厳しくし痛みを与えるに決まっている
それは私から溢れている軍人のオーラで判るはずだが
「あ……でもそうだね。僕、どうしても強くなりたいと決めたんだけど、大神さんだと僕に厳しくしてくれないと思っちゃってさ」
「…そんなことはないと思うが…」
「……」
「それに、これは嫌な意味にとってほしくはないんだけど……」
そう言って、彼は一呼吸置き
「僕が戦刃さんのことを、知りたかったから、かな」
いつもの通り真っ直ぐな瞳で、私に言う
「……何を言うの」
すでに彼からは、霧切響子というクラスメイトを守りたいという意思を聞いている
なのにこの男ときたら、霧切以外の他の女性である私のことを知りたいと
_____なんと軽々しい男だろう、と思っても当然ではあるが
彼の一言には、恋愛要素としての【知りたい】ではなく、私を人間として【知りたい】という想いが含まれているということには、鈍感な私でも分かった
だから先に彼が述べたように、その言葉には他意はないのだろう
だけど、それでも
今まで男性にそのようなことを言われた経験のない私は
ただ彼から目を反らし、頬を赤らめることしかできなかった
「ぬ……、苗木、主はもしかして戦刃のことを……?」
大神がまた余計なことを口にする
「いやっ!えっ?そ、そういう風に聞こえちゃうのかな!?ち、違うからね戦刃さん!」
「……」
-
- 23 : 2015/01/29(木) 19:39:56 :
そんなに強く否定しなくても
…まあ、元々期待なんぞしちゃいないし、別にこんな男とどうとなりたい訳でもない
恋愛経験もない私であるし、どこぞの男と何かをするよりも、マシンガンを戦場で打ち放っていた方が私には似合っている
しかし、何故だろうか
少し心がチクチクする
彼に、私が恋愛対象じゃないと指摘されたから?
それとも、ただ私に興味を持って訓練の教えを乞うたことが判ったから?
そこは今の私には判るはずもない
「そ、そこまで強く否定するのか、苗木よ」
「いや、別に…!そ、そういう否定じゃなくて…ただ…その…!」
…大神と苗木の絡みを見ていくと、なんとなくだが、彼が大神に教えを乞わなかった理由が分かった
【好きな人のために強くなりたい】
この相手のことを大神に知られてしまうと、ややこしいと苗木は判断したのだろう
ましてや大神は、【超高校級のスイマー】と呼ばれる朝比奈葵と仲が良いと聞いている
朝比奈も人は良いところがあるが、口が無重力のように軽い
苗木から大神へ。大神から朝比奈へ。朝比奈からクラス全員へ。
バトンタッチのように一瞬で噂が広まっていくことも恐れたのだろう
その点私なら、軍人として機密事項を守るという習性もあるし、訓練も厳しくする。
彼が私を訓練相手として指定した理由も、なんとなくだが分かってきた。
「ま、まあ、今日もよろしくね!戦刃さん!」
大神との会話は終わったのだろう、彼は再び私に指導をお願いしてくる
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- 24 : 2015/01/30(金) 18:46:35 :
ここ2週間で、今まで接したことのなかった彼の性格が、なんとなくではあるが分かってきた
悪く言えば八方美人、良く言えば人を想う優しい性格なのだろう
2週間ぶっ続けで痛めつけられても、彼はこのとおり笑顔全開で私と接する
その笑顔の裏には、好きな人の前でボコボコにされた経緯があり
とてつもなく、悔しい思いをしたのだろうと判っているが
彼はそれを表に出さない
「……」
それに私が慣れたとは言えない。好意を持ったとも言い難い
しかし、それでも
「……今日は2時間は気絶しないでよね」
私は少し微笑みながら、彼にそう言った
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- 25 : 2015/01/30(金) 18:46:46 :
◇
-
- 26 : 2015/01/30(金) 18:48:03 :
あれから2か月がたった
相変わらず、彼の全身の傷は癒えないものの
「あれ……なんだか苗木くん、少しマッチョになってません?」
「え……そ、そうかな」
少しずつは、肉体も成長しているようだ
「……」
舞園が彼に話しかけるのも日常茶飯事であるが、何故か、私自身もそんな苗木を見つめることが日課となっていた
「でも、なんだかカッコ良くなりましたよね!私、今の苗木くんの方が好きです!」
「あはは……」
苗木は舞園の褒め言葉を正直に聞くも、その視線は別の方向に向いている
「……」
苗木の視線の先にいるのは、昼休みに毎時間静かに本を読む霧切響子
これも、彼の毎日の日課だ
舞園に心配をされては、霧切の態度を気にしているらしい
まあ
霧切も苗木のその姿を見て、多少耳障りな顔をしているように見受けられるので
満更でもないのかもしれないが
-
- 27 : 2015/01/30(金) 18:49:54 :
「…なーに見てんのっ?残姉ぇーちゃん!」
突然、私の後ろから金髪でツインテールの【超高校級のギャル】が、双子の姉である私に話しかけてくる
彼女の名は江ノ島盾子。
…私の大事な妹であり、家族であり、私の全ての指示者
双子と言われるが私とは似ても似つかない美しさを持つ
どうして双子なのに、ここまで私と違うのだろう
容姿端麗であり性格も明るく、舞園とまではいかないものの、彼女も私とは正反対だ
私がそんな彼女とも似ても似つかなかったのだから、彼女は私を残念な御姉ちゃん、と呼ぶ
それでも、彼女は私にとってのたった一人の家族であり、大事な大事な、妹なのだ
「や…べ、別に」
彼女の前では、私は少し素直になる
いくら超高校級の軍人といえども、幼い頃から過ごしてきた家族であるし
クラスメイトならまだしも、彼女にまで虚勢を張る必要はないからだ
「……苗木のこと見てたね?」
私の心臓がドキン、と音を立てる
「え、いや…ちが…!」
-
- 28 : 2015/01/30(金) 18:53:53 :
「うっふふーん。知ってるのよ?毎日あいつの訓練に付き合ってやってるんでしょ?」
「……!」
「なーんかここ最近様子がおかしいと思ったからさぁ~」
「べ…別に…!」
「いやいやいや、判ってるよ残姉ちゃん。判ってる。男に話しかけられたのなんて今までなかったから、あんなひ弱そうな男だけど惹かれちゃってんでしょー?うぷぷぷ」
「ち、違うよ…そんな…私は…て、ていうか盾子ちゃん!大きな声で変なこと言わないで!」
「あっはは~ん。否定するとこがまた怪しいですなぁ~」
「い、いやだから……!」
「…それにさぁ」
「え…?」
「大きな声出してるの、姉ちゃんの方でしょ?」
「っ!」
その瞬間、私は嫌な予感がして後ろを振り向く
そこには
大きな声を出して慌てていた私を、不思議そうに見つめる苗木誠の姿
「………っ!!」
私の顔は一瞬にして熱があがり、頬に赤に染まっていたのだろう
それぐらい思考回路が働かず、ただただ恥ずかしくて仕方なかった私は
「あっ!い、戦刃さん!?」
その場から走って逃げるしかできなかった
……最悪だ
今日の訓練は、どのようにして彼の前に立てば良いのだ
-
- 29 : 2015/01/30(金) 19:53:39 :
- >>28
私の顔は一瞬にして熱があがり、頬に赤に染まっていたのだろう
↓
私の顔は一瞬にして熱があがり、頬は赤に染まっていたのだろう
脳内変換をお願いします
-
- 30 : 2015/02/02(月) 17:33:47 :
◇
-
- 31 : 2015/02/02(月) 17:34:39 :
「やああっ!」
ビュッ、と音を立て、彼が私の上着に手を伸ばす
「ふっ」
私は彼の攻撃を躱し、彼の腹に拳をぶつけようとする
「っ!」
彼は私の左拳を払いのけ、今度は私の足を掴むために屈む
そんな態勢になってしまえば、私の膝蹴りの恰好の餌食である
私は躊躇なく右足の膝を彼の顔面に持っていく
が、彼はこれもうまく躱し、更に私の反対側の足を狙ってくる
「よし……っ!」
恐らく瞬時に、私の足に触れることができると確信したのだろう
だが
甘い
「が……!」
私は彼の攻撃を避けると同時に、彼のがら空きだった首元に手刀を落とす
今頃彼の脳はグルングルンと回り、景色が歪んで見えているだろう
「……ふふ」
態勢を崩す彼を見ながら、私は少し微笑む
いつものように、彼はそのまま、床に倒れこむだろうと思っていた
-
- 32 : 2015/02/02(月) 17:43:51 :
が、それは2か月前までの彼であり
「まだまだあっ!」
「!」
打たれ強さが増した彼は、私の手刀に屈することなく、瞬時に体を持ってくる
「しまっ……!」
しまった、と私が声を発する前に
彼はその両手で、私の両手首を掴んでいた
「……ゆ……油断したね……!戦刃さん……!」
「ち……!」
手首というのは意外と脆いもので、掴まれてしまえば簡単には抵抗することができない
その技術を彼に教えたのは私だが、まさか2か月程度で私の両手を掴んでくるまでに成長するとは思っていなかった
「へへ……僕も少しは、成長してるのかな……」
彼は私の両手首を掴みながら、私に顔を近づける
「……まだ……甘いよ」
精一杯の、私の褒め言葉
今日の昼間の出来事もあったため、なんとなく恥ずかしくはあるが…
まあ、でも…【恥ずかしい】等と思っているのは、恐らく私だけだろう
彼は私の顔色を気にすることなく、自分の顔を私の目の前に持ってくる
「どうだい……戦刃さん……!」
ドヤ顔、とまではいかないものの、多少なりとも自信がついた彼の顔は
はっきり言って、その辺の軍人よりも男らしく見えた
「……!」
どうしてだろう
私の顔は熱くなり、彼の目を直視することができなかった
というか
鼓動がする
トクン、トクン、と
まるで心臓が今にも爆発しそうなくらい
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- 33 : 2015/02/02(月) 17:49:49 :
「はあああっ!!」
「いっ!?ほあ……!」
気が付くと私は、力任せに彼を空中で一回転させていた
いくら手首を取られ身動きが取れない状態であろうと、基本的な身体能力が違うのだ
「ぐあっ!」
苗木はそのまま、私の目の前の床に勢いよく叩きつけられる
「……あいててて……ひ、ひどいなあ……手首を取るまでが勝負だって言ってたのにぃ」
彼は打ち付けた頭を摩りながら言う
「……ご、ごめん……つい……」
私も、今の自分の境遇に気が付くまでコンマ数秒かかった
私から「手首を取れたら勝ち」と勝負を決めていたのに
彼を空中で大回転させてしまうなんて
「……」
やはり、今日の私は変だ
なんと言えばいいのか分からないが…おかしい
「……どうしたの?戦刃さん」
「え……?」
「いや、その……顔が赤いから……」
「!!」
私は慌てて顔を彼から反らす
先程よりも心臓がバクバクと動く
このような鼓動を感じるのは、生まれて初めてだった
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- 34 : 2015/02/02(月) 18:35:06 :
◇
-
- 35 : 2015/02/02(月) 18:36:00 :
それから1か月後
変わらず、彼は放課後、私の元を訪れる
「戦刃さん!」
「……苗木くん」
私もとうとう、彼の名を呼ぶようになった
さすがに呼び捨てという訳にもいかないし、呼び捨てをする程仲が良い訳でもない
ただ、3か月も接してくれば、自然と相手の名前を呼ぶ機会が増えるため
仕方なく、そう呼んでいるだけだ
……いや、仕方ないのではない、のかな
もう既に、私のこの心の内の気持ちがなんなのか、なんとなくは判っている
「今日はどこが開いてるかなあ?」
「……柔道場が、人が少ないみたい」
「あれ、そうなんだ。よく知ってるね戦刃さん」
「……大神さんに、聞いたから」
「え!わざわざ聞いてくれたの?」
「……」
「僕がお願いして稽古をつけてもらってるのに……なんか、ごめんね」
「いや……」
多分私は、恋をしているのだろう
この、苗木誠という男に
「……」
-
- 36 : 2015/02/02(月) 18:37:06 :
毎日ボコボコにされようと、めげずに向かってくる彼
何事にも一生懸命な彼
誰にでも優しい彼
控えめだけど、やるときはやるっていう気迫の彼
勉強も毎日頑張る彼
家族想いの彼
舞園さんに優しい言葉をかける彼
私と飽きもせず毎日訓練をする彼
……そして
霧切を見つめる、彼
「……」
叶わない想いだというのは、百も承知だ
なにせ彼が強くなりたい理由は、【霧切】のため
明確に彼女を好きだということを聞いた訳ではないが
3か月も彼を見つめていれば、誰でも判る
「……どうしたの?戦刃さん」
「えっ」
「いや、なんかボーっとしてる気がして」
「……なんでも、ないよ」
「??、そっか」
「……」
-
- 37 : 2015/02/02(月) 19:07:26 :
恋というものがなんなのか、最初は判らなかった
わざわざ盾子ちゃんに相談して、この気持ちを自身で理解した
……確かに、盾子ちゃんの言う通り、私は何かと残念なのだろう
初めて好きになった男の子が
「じゃあ、行こうか。戦刃さん」
「……」
別の人を好きだと、判っているのだから
そして……その人のために強くなりたいという彼の想いを、
私が、手助けをしている
「うん」
傍から見れば、到底理解されない感情なのかもしれない
ただでも、それでも
どんな理由であれ、好きな男性と共に過ごせる時間を、私は愛おしく感じる
このまま、何も起こらず
時が止まってしまえばいいのに
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- 38 : 2023/11/14(火) 04:03:40 :
- 残姉かわいいなぁ....
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