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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

ガラスの仮面【クリスタ・ヒストリア誕生日記念】

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  1. 1 : : 2015/01/15(木) 20:39:13
    1.15

    いいゴリラの日…ではなく
    いい子の日(多分)生まれのクリスタのお誕生日おめでとう作品です。
    お誕生日当日にスレッドを建てればセーフ、のはず…。


    タイトルは某超有名ロングセラー少女漫画から。内容とは、多分あんまり関係ない…はず…。はず。


    スレッド建てたくせに、ギャグ進行で行くべきかシリアスで行くべきか、未だ悩み中のなすたまへの応援メッセージはこちらまでお願いします(笑)

    なすたまの研究室
    http://www.ssnote.net/groups/749
    参加申請しなくてもコメント歓迎です!


    よろしくお願いします。

  2. 2 : : 2015/01/16(金) 01:44:32
    女は誰しも女優である。

    相手によって
    場面によって
    いくつもの仮面をかぶり続ける。


    ガラスのように
    もろくて壊れやすい仮面をかぶり続けながら
    見事に役になりきって演技をしている。


    どんなに素晴らしい演技をしていても
    ふとした拍子に気を弛めれば
    ガラスの仮面はひび割れて、仮面の下の素顔を覗かせる。


    けして素顔を見せないように
    ガラスの仮面をかぶり続けられる女優こそが、真に才能のある女優である。


    ヒストリア・レイスこそ、物心ついた頃から完璧なまでにガラスの仮面をかぶり続ける、真の女優なのだった。


  3. 3 : : 2015/01/17(土) 00:07:46
    ウォール・シーナ北部の小さな牧場で生まれ育ったヒストリアは、記憶の限り泣いたことがなかった。


    赤子の頃には、それは泣くことだってあったのだろうが、家業の牧場で手伝いをしているところから始まる一番古い記憶以降は、涙とは縁がなかった。


    祖父母と交わす会話が家業を教わるときだけでも、
    それがどんなによそよそしくても

    牧場の外からこちらを指差しては嘲笑し、石を投げる危険な生き物…同年代の子供たちに出くわしても、

    美しい母が本ばかり読んで、自分をまったく見ようとしなくても。



    それはヒストリアにとっては日常で、当たり前の毎日だったから。
  4. 4 : : 2015/01/17(土) 00:30:26
    時々

    牧場の片隅で、ヒストリアは自分がそれまで何をしていたのか分からなくなることがあった。


    こんなところでゆっくりと休んでいては、言いつけられた仕事が終わらないのに…。

    何をしていたのか思い出そうとしても、ぬるりつるりと滑っていく生まれたての子牛の胎盤のように、とらえどころのないまま、記憶は失われていた。


    「またうたた寝でもしていたんだろ」


    祖母がそんな風に言ったので、きっとそうなのだろうと思った。


    うたた寝をすると仕事が遅れてしまうので良くないことなのだろう。
    けれども、うたた寝をした後にはいつも、なんだかワクワクするような楽しさと嬉しさを感じるのだった。


    「言われた仕事を放り出すのは怠け者だ」


    祖父からはそう聞いたので、自分は怠け者なのだとヒストリアは思った。


    うたた寝を楽しみにする怠け者の、私。


    ヒストリアの最初の仮面は、それだったのかもしれない。


    「怠け者に食わせるメシなんかないよ。食べたかったらしっかり働きな」


    怠け者の仮面を被ったヒストリアは、生きるためにいっそう手伝いに精を出した。


    「怠け者の私は、もっと働かなくちゃ」


    小さな少女は、怠け者の仮面を被らされたことに気づかないまま、きりきりと良く働いた。


  5. 5 : : 2015/01/17(土) 01:25:27
    ヒストリアの母は、昼間は静かに本を読んでいた。

    夜になると着飾って、何処かから迎えに来た馬車に乗って出かけてしまう母。


    近くにいても遠くにいても、ヒストリアなど存在しないように振る舞う母。


    それでも、母に近づきたくて。
    母がずっと読んでいる本を読めたら、近づけるような気がして、ヒストリアは本を開くようになった。


    ヒストリアに関心を示さない母はもちろん、祖父母が教えてくれるのは家業の牧場の作業のことだけで、文字の読み書きを教えてくれる人などいなかった。

    にも関わらず、ヒストリアは次第に本を読むことができるようになった。


    あの奇妙なうたた寝の度に、文字を読むことも、言葉の意味もわかるようになっていった。


    「怠け者はたくさん働かないといけないけど、怠けると本を読めるようになるからいいこともある」


    そう思っていたヒストリアは、本を読めるようになったことで、物語の子供たちと自分がずいぶん違っていることに気づいた。


    物語の子供たちにはたいてい優しい母がいて、子供たちを褒めたり叱ったり優しく抱き締めたりしていた。

    物語の子供たちには友達がいて、皆で仲良くお喋りしたり、イタズラしたり、笑ったりしていた。


    そのどれもが、ヒストリアには経験のないものだった。


    ヒストリアは考えた。
    物語の子供たちと自分の違いは何かと。


    物語の子供たちは、子供らしい無邪気さと活気に満ち溢れていた。
    突拍子もないことをしては、親から呆れられたり、叱られたりしていた。


    「…私もこんな風に振る舞ってみたら…?」


    そしてヒストリアは、無邪気で活発な子供の仮面を被った。

  6. 6 : : 2015/01/17(土) 01:52:42

    好奇心旺盛な活発で無邪気な子供の仮面をつけたヒストリアは、はじめて自ら母に接触を試みた。


    子供らしく、実に突飛な行動で。


    「お母さん!!」


    そう叫ぶと、木陰で読書に勤しむ母の胸を目掛けて、ヒストリアは小さな体丸ごと全部でダイブした。


    いつも表情を変えない母が、頓狂な行動にどんな顔をするのかが見たかったのだ。


    母は、突然抱きついた我が子を、まるで降って湧いた厄災のように容赦なく顔面を押し上げてうっちゃり、自らの体の上から排除した。


    「ぶ…わっ!!」


    ヒストリアは、期待した展開と違ったために驚きはしたが、母が自分に対して反応したのは初めての事だったので、なんだか嬉しくなって鼻から血が垂れるのも構わずに笑顔で母を見つめた。

    母は、初めて自分の方を向いて立って見下ろしている。

    母が自分に関心を持ってくれている…!


    それが嬉しくて、期待を込めて見つめたヒストリアに、母はうっすらと涙を浮かべながら、心底蔑んだものをみる瞳で呟いた。


    「こいつを殺す勇気が…私にあれば…」


    そうして母は、再びヒストリアに背を向けて立ち去った。

    母がヒストリアに初めて発した言葉だった。



    そうしてヒストリアは理解した。


    自分は初めから…おそらくは生まれる前から…いらない子の仮面を被せられていたことを。


    自分が生きていること

    その事が、この牧場で働く人
    この土地に暮らす人
    そのすべての人間から疎まれる存在であることを。


  7. 7 : : 2015/01/18(日) 00:28:29

    だからといって、ヒストリアは泣かなかった。


    人間からは快く思われていなくても、世話をしている牧場の動物たちは自分を必要としていたから。


    本で読んだ物語の子供たちの友達と同じように…いや、それ以上に純粋な愛情を、動物たちはヒストリアに示してくれていたから。



    それに、もうひとつ―


    どこに書いていたのか
    とこで聞いたのか、思い出せないのだけれど…。


    『いつも他の人を思いやる優しい子になってね』


    『この世界は辛くて厳しいことばかりだから…
    皆から愛される人になって、助け合いながら生きていかなきゃいけないんだよ』


    その言葉が、胸の奥でひとつの灯火のように点っていた。


    母に疎まれていたと気づいてしまった寂しさも
    誰からも必要とされていないと知ってしまった孤独も

    悲しみに凍りつきそうになる心を、その灯火は優しく暖めてくれたのだった。



    だからヒストリアはずっと、泣いたことがなかった。




    冷たい夜の不穏な空気に包まれた男たちに囲まれたときにも。

    男たちの一人が、母の白く美しい喉に果物でも切るかのように簡単にナイフを入れて
    母の白い首筋から鮮やかな紅色の血液が迸るのを見たときにも。


    その赤い血の滴るナイフが、母と同じように自分にかざされたときにも。



    ヒストリアの瞳からは、涙の一滴も出なかった。
  8. 8 : : 2015/01/18(日) 01:26:21

    あまりにも易々と、皮膚を肉を切り裂いたナイフには魔法でもかかっているのだろうか。


    私の喉も、果汁の溢れるザクロのように
    あのナイフでさっくりと切り裂かれるのだろうか。


    そんなことを朧に考えながら、茫洋とナイフを見つめる。


    怠け者のいらない子は、黙ってそのナイフの露となるべきなのかもしれない。



    仮面がそう告げる。



    しかしその時、つい今しがた初めて会った父は言った。



    「君の名は…クリスタ・レンズだ」


    ヒストリアは、この日からクリスタという新たな仮面を手に入れた。



    ずっとずっと遠くの地で、慎ましやかに生きることを条件に。
    …ヒストリアを捨てることを条件に。
  9. 9 : : 2015/01/18(日) 10:04:43

    ヒストリアを捨てることに抵抗を感じなかった訳ではない。


    ヒストリアの祖父母はヒストリアを可愛がりこそしなかったが、働いてさえいれば食事も住まいも着るものも与えてくれていた。


    ヒストリアに一切の関心を持たなくても、母はそこにいるだけで安心できた。


    牧場の動物たちは、ヒストリアが世話をしに来るのをいつも嬉しそうに迎えてくれた。


    それらを全て断ち切って、クリスタ・レンズとして生きろという。


    なんとも横暴な指示だが、ヒストリア本人の意志など無関係にヒストリアの仮面は剥がされ、強制的にクリスタの仮面を押しつけられた。


    そのまま、祖父母にも牧場の動物たちにも会えないまま、ヒストリアであった一切を奪い取られて開拓地へと送られた。


    クリスタ・レンズの誕生であった。

  10. 10 : : 2015/01/18(日) 10:32:12
    クリスタ・レンズとなってからの生活は、慣れてしまえばヒストリアであった時の生活と大きな差はないようにも思えた。


    怠け者の仮面も
    いらない子の仮面も
    ヒストリアでなくなったと同時に外れたように思えた。


    『人を思いやる優しい子』

    『皆から愛される人になって、助け合いながら生きていかなきゃいけない』


    自分に残されたのは、その言葉だけ。


    開拓地でのクリスタは、皆から愛されるために努力した。

    皆が自分のことで精一杯な開拓地で、人を思いやる優しさを心がけた。


    どんな風に話せば、優しいと思ってもらえるのか。
    どんな風に見つめれば、思いやりのある子だと思ってもらえるのか。
    どんな風に振る舞えば、愛らしいと思ってもらえるのか。


    開拓地で知らない人に囲まれながら、クリスタは愛される人になるための生き方を研究した。


    努力の甲斐があって、交流のある開拓地の人々からは、『働き者で優しい子』『天使のような子』『姿も心も綺麗な子』だと言われるようになった。


    クリスタは、皆から愛されるクリスタになることに成功した。
    ひとまずは。
  11. 11 : : 2015/01/18(日) 12:23:38
    開拓地での一年が過ぎたとき、クリスタは同じ宿舎の女性から声をかけられた。


    訓練兵団に息子さんが入っているそうだ。


    息子と年頃が近そうに見えたからと話しかけたと言っていた。
    女性は、自分としては兵士なんて危ない職業には就いて欲しくないと思うが、息子は『いい成績をとれば憲兵団に入って内地に暮らしてお袋に楽をさせてあげられる』と自ら志願したという。


    女性のなんとも誇らしげな幸せそうな様子と、息子を案じる母の気持ちがクリスタにとっては新鮮な驚きだった。


    女性の話に混ざるように、また別の女性が話始める。

    いわく、巨人の襲来があって以降は兵士が不足していて、年頃の子供は訓練兵団に入団するのが当たり前になってきていると。


    王政から直接義務化された訳ではないが、身体に問題のない若者は男女を問わず、訓練兵を目指して壁内の人類のために貢献するのが当然という風潮があると、要約するとそんな話をとりとめもなく話していた。



    クリスタちゃんも、訓練兵団を志願するんでしょう?



    女性たちは、当たり前のように聞いてきた。
    訓練兵も、兵士が何をするのかも、クリスタにはよくわからなかった。
    しかし、女性たちの話から、自分に期待されているのは兵士として人類のために貢献することだとはわかった。


    だからクリスタは彼女たちが望むように答えた。


    「はい。私に兵士が勤まるかはわからないけれど…。人のためにできることなら、なんでもやろうと思います」


    女性たちは、クリスタは優しいからきっと医療班に配属されて危ない目には合わないわよ、とか、本当に優しい子ねぇ、とか話していた。



    ひとりだけ―


    「兵士になるのは大変だし、適正がないと帰されることもある。

    人類のためにという志は立派だけれど、どうしてもダメだと思ったら、ここに戻って来なさい。

    いい暮らしとは言えないけれど、あんたなら助け合いながらなんとかやっていけるだろうから。」


    そう言ってくれた老婆がいた。


    彼女の夫も息子も、ウォール・マリア奪還作戦に招集されて戻って来なかったという。


    「口べらしされたのさ」


    と彼女は吐き捨てた。


    「…私も連れていってくれたら良かったのにねぇ…」


    老婆はそう言いながら、肩を落とした。


    クリスタは、黙ってその背中をそっとさすった。





  12. 12 : : 2015/01/22(木) 02:36:50
    ―1年後―


    「オイ…貴様。貴様は何者だ!?」



    眼光の鋭い禿頭の長身の男が、まだ幼さの残る少年に噛みつくように誰何する。

    乱れることなく等間隔に整列させられた少年少女達は、支給されたばかりの真新しい兵服に身を包んでいた。
    兵服の背には重なった2つの剣のエンブレム…訓練兵団の印が刻まれている。

    問われた少年は右の手で拳を作り、拳の小指側を左胸にしっかりと当て、長身の男を見上げるように胸を張り、叫ぶように声を張り上げた。


    「ハッ!シガンシナ区出身!アルミン・アルレルトです!!」


    禿頭の男は間髪入れずに少年に畳み掛ける。


    「そうか!バカみてぇな名前だな!!親がつけたのか!?」


    詰問されている少年は、名前を貶されたことに怒りも悲しみも表さずに答えた。

    「祖父がつけてくれました!!」



    名前…。
    私の名前は…父がつけました。
    それまでの全てと引き換えに…。



    周囲の少年達と同じように真新しい兵服を着たクリスタは、教官の問いに心の中で答えていた。


    私の名は…クリスタ・レンズ。
    皆に愛される人になるために
    人類に貢献するために
    心臓を捧げに来ました。



    心の中で返答していたが、教官は恫喝することなくクリスタの前を通りすぎた。
  13. 13 : : 2015/01/22(木) 03:01:41

    通過儀礼の際に調理場から盗んだ芋を堂々と口にした新訓練兵の少女に、教官は死ぬ寸前までランニングしろと命じた。

    同時に、今日は食事抜きだとも。



    ダウパー村出身だという少女は、ランニングを命じられた時よりも食事抜きを命じられた時の方が、より一層悲愴な表情を浮かべていた。


    日が落ちるまで5時間以上も走り続けている少女は、一部の同期生から『芋女』とあだ名された。



    あんなに走らされて、食事抜きでは体がもたない…。

    そう考えたクリスタは、夕食時の食堂でシガンシナ区出身だというキツい目をした少年から巨人を観た話を聞くことに盛り上がる同期生達を横目に、自分のパンをそっと隠し持った。


    誰もが話に気をとられていたので、クリスタの奇異な行動は誰にも見られていないはずだった。


    兵服の中にパンを隠して、食堂を離れた。


    お水も用意しなくては。


    クリスタは、訓練兵に配給された物資の中に革製の水筒があったことを思い出し、水筒を取りに自室に戻った後でさりげなく部屋を抜け出した。
  14. 14 : : 2015/01/23(金) 00:39:56
    井戸で水を汲み、皮の水筒に入れる。


    そろそろ、命じられたランニングの限界が来ている頃だろう…。


    クリスタは、隠し持ったパンと皮の水筒を両手に持って訓練場に向かった。

    辺りはすっかり暗くなっていて、周囲の様子がよく見えない。
    だが、動いているものの気配はない。


    …あまりに過酷な長距離走で気を失って倒れているのかも…?


    そんな考えがクリスタの脳裏をよぎる―すると、少し先に、倒れ込んでいる人影が見えた。


    やっぱり!早く助け起こさないと…。

    近寄るクリスタ。



    だが、倒れこんだ人影は手助けを待たなかった。
    突然、夜行性の動物のようにキラリと瞳を光らせたかと思うと、驚異的な跳躍力でクリスタを目掛けて襲いかかってきた。


    「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


    襲いかかる未確認生物のあまりの迫力に叫び声をあげて尻餅をつくクリスタ。



    次の瞬間、人類としての自我を取り戻した未確認生物は口いっぱいに頬張った食料の名を叫んだ。



    「これは…パァン!!!」



    サシャとクリスタの出会いであった。
  15. 15 : : 2015/01/23(金) 23:38:55

    「神様ですか!?あなたが!?」


    パンを差し入れたクリスタに向かって、サシャはそう叫び、抱きついた。



    「神ぃぃぃぃぃ!!!!!!」


    雄叫びを上げながら。


    「し、静かにしないと…」

    クリスタは困惑しつつ、サシャの興奮をなだめようとした。

    あまり騒ぐと誰かに見つかってしまう。
    そう危惧したその時、


    「オイ!何やってんだ?」


    暗がりから声がした。

    サシャはクリスタに膝まずくような姿勢をとって…
    奪われる前に食べなければとばかりに、貪るようにパンを頬張りあっという間に平らげた。


    暗がりから表れたのは、長身で細身に切れ長の冷めた目付きにそばかすが特徴の大人びた同期の女子訓練兵だった。


    訓練兵同士なら、分かってくれるかも…。
    クリスタはそう思い、一先ずサシャの状況を説明しようと口を開く。


    「えっと…この子は今まで走りっぱなしで…」


    そんなクリスタの言葉を遮るように長身の同期生は言葉を被せた。



    「芋女じゃない。お前だ。 お前…何やってんだ?」


    長身の同期生は、立ったまま見下ろすようにクリスタに問いかけた。
    名前も知らない同期生の口調は、けして好意的とは言えなかった。
  16. 16 : : 2015/01/24(土) 00:25:46
    「私…?」

    まだほとんど話した事もない同期生からの思いがけない問いかけに驚くクリスタ。


    何やってるって…どういうこと?


    クリスタの返答を待たずに、そばかすの同期生は話続ける。


    「晩飯のパンを隠してる時からイラついてた…親に内緒でペットにエサやるみてぇな…」


    切れ長の冷めた瞳には蔑むような色さえ感じられた。


    「なぁ…お前…」


    何も言えずにいるクリスタを見下しながら、そばかすの同期生は問いかける。


    「『いいこと』しようとしてるだろ?」


    彼女の言葉に、クリスタは身構える。


    「それは芋女のためにやったのか?
    お前の得た達成感や高揚感はその労力に見合ったか?」


    そばかすの彼女に何もかも見透かされているような、人のためにと思ってやっていることの裏にある打算を見抜かれているような、そんな気がしてクリスタは動揺した。


    「え…」


    罰とは言え、無茶な命令を受けた同期を心配して…なんて表面的な理屈は彼女には通用しない気がした。

    皆から愛されるために被り続けている『天使のようなクリスタ』の仮面の下にあるものを見破られている…そんな気持ちで、落ち着かない…。


    「私は…私が…こうしたかったのは…
    役に立つ人間だと思われたいから…
    …なのかな…?」


    懸命に考えながら口から出た言葉は、なぜか疑問形で。


    「は!?知るかよ…」


    長身の同期生は、クリスタの疑問に答えをくれる訳もなく、呆れたように突き放した。


    「とにかく…芋女をベッドまで運ぶぞ」


    長身の同期は、そこでようやく膝を折って屈んだ。
    猛スピードでパンを食べ終えたサシャは、疲労の余り気を失うように眠っていた。


    「え!?」


    そばかすの彼女の言葉があまりに意外で、クリスタは聞き返した。
    小柄なクリスタには、たしかにサシャを一人でベッドまで運ぶことは難しいだろう。


    けれど…彼女は今、私の偽善を責めるような事を言ったばかりなのに…?


    「えっと…あなたはなんで…『いいこと』をするの?」


    クリスタの問いに対する彼女の答えは明確だった。


    「こいつに貸し作って恩に着せるためだ…こいつの馬鹿さには期待できる」

    そう言って、ニヤリとほくそ笑んだ。


    サシャを運ぶ途中で、そばかすの彼女の名前を聞いた。
    ユミル、と言った。
  17. 17 : : 2015/01/24(土) 01:11:35
    それ以来、なぜかユミルはいつもクリスタの側にいるようになった。

    クリスタが人に親切にしようとするのを直接止めることはなかったが、


    「また『いいこと』しようとしてるだろ」


    と、度々茶々を入れてきた。


    ユミルが近くにいるので、なんでも断らないクリスタを利用しようと近づく輩はほとんど居なかった。

    クリスタをうまく言いくるめて面倒な仕事や当番を押し付けようと近づくと、途中で矛盾をユミルに突かれて退散を余儀なくされるからだった。



    ユミルだとて、サシャに売った恩で水汲み当番や食堂の片付け当番を押し付けようとしていたにも関わらず。
    騙されても人の役に立つなら良いとクリスタは思っているにも関わらず。


    なぜかユミルは、クリスタが犠牲的精神を発揮しようとするときに限っていつも、痛いところを突いてくるのだった。


    「お前は『いいこと』して満足か?その満足は労力に見合ってるのか?」


    ユミルがクリスタの『いいこと』を称賛することは一度もなかった。


    そんなユミルを始めこそ苦手に思ったクリスタだったが、人から嫌われることも誤解されることも恐れないユミルの態度は、次第に居心地の良さを感じるものになっていった。


    時々、発泡飲料のイッキ飲みだとか無茶な要求をすることもあったが、 それは彼女なりの冗談だと次第にわかってきた。


    ユミルといるときには、少しだけ『天使のようなクリスタ』の仮面の存在を忘れていられた。


    ユミルの言葉も行動も、粗野で乱暴に感じられる事もあるが、その裏にある優しさをクリスタは感じるようになっていった。
  18. 18 : : 2015/01/24(土) 02:52:22

    ある日―

    クリスタとユミルの水汲み当番をサシャが手伝っていた時のこと。


    ユミルはサシャの命の恩人として水汲み当番を押し付けようとしていたが、クリスタが止めた。

    妥協点として、クリスタとユミルの水汲み当番の時にはサシャが手伝って3人でやることになっていたのだ。


    水汲みの度に顔を会わせて共同作業をするのだが、サシャはいつまでも、誰に対しても敬語で話していた。


    「なぁ…そろそろうぜぇんだが…」


    井戸の前で桶を操作するサシャに向かってユミルは言った。


    「はい?」


    作業中に急に言われても、意味がわからずに聞き返すサシャ。
    ユミルは足りなかった言葉を補う。


    「お前のその馬鹿丁寧なしゃべり方だ。なんで同期にまで敬語なんだよ?」


    言われたサシャは、ユミルから目をそらし、言い淀む。

    そんなサシャの様子に、ユミルは推測を言葉にした。


    「お前…故郷の言葉が恥ずかしいんだろ?」


    サシャは、ユミルから目をそらしたまま、いつもの笑顔を保とうとしてはいるが表情がうまく作れずにいる。



    「図星か?意外と気にするんだな、お前…。バカのくせに…。
    狩猟以外のことなんにも知らなくて世間や人が怖いんだな?
    兵士を目指したのだって対した理由じゃないはずだ…大方親にでも…」


    畳み掛けるユミルに、サシャの表情はどんどん曇り、何も言い返さずに口ごもる。
    その様子に、クリスタは耐えかねてユミルを止めようと声をあげた。


    「ちょっと…ユミル…」


    しかし、当のユミルはクリスタの言葉を頭突きで遮り、尚も話続ける。



    「サシャ…お前はずっと人の目を気にして、作った自分で生きてくつもりかよ。
    そんなのはくだらないね!

    いいじゃねぇか!お前はお前で!!
    お前の言葉で話せよ!」


    ユミルの言い分は正しいのだろう、とクリスタは思った。
    人の目を気にして、作った自分で生きていく…。
    それは自分もおんなじだ。



    もちろんユミルは、サシャのことを思って言っているのだろう。

    ストレートすぎる飾らない彼女の言葉は厳しく響くが、そこにはユミルなりの不器用な思いやりがあるのだ。


    だが、どんなに正論でも受けとる方にその準備が出来ていなければ、ただ責められているだけになる。


    クリスタはサシャを見た。


    サシャは敬語を止めようと努力して話始めたがやはりうまくいかず、


    「あ…ありがとう……………ございます……………」


    と敬語に戻ってしまうのだった。


    サシャが敬語になってしまうのを見たユミルは、サシャを睨んで聞き返した。



    「あ?」



    サシャはユミルの怒りを受けて、謝っている。


    クリスタは、すごみを利かせるユミルに向かって小柄な体を器用に跳躍させると、力一杯に頭突きのお返しをした。


    そして、サシャに向けて口を開く。



    「やめなよ!人に言われて話し方変えることないよ!!」



    そう、人に言われて無理に仮面を外すことはない。



    「サシャにはサシャの世界があるんだから。
    今だってありのままのサシャの言葉でしょ?
    私はそれが好きだよ!!」



    たしかにユミルの言う通り、仮面などつけていない方が自然で楽なのだろう。

    だが、それができる人ばかりではないのだ。
    仮面を被らない自分でないと生きていけない、他の方法など知らない、やってみたくても出来ない人もいるのだ。


    私のように…。

    自分を守るために好きな仮面を被っているのだから、仮面ごと受け入れてほしいのだ。


    サシャに言った言葉は、クリスタが誰かに言ってほしい言葉だったのかもしれない。


    クリスタの言葉はユミルに

    「物は言いようだな…」

    と返された。



    サシャはまだ表情のこわばりが残っていたけれど、クリスタとユミルのやり取りに笑っていた。
  19. 19 : : 2015/01/24(土) 23:14:00
    ユミルが何故クリスタに執着しているのか…。





    その理由が分かったのは、地獄のような吹雪の雪山訓練の時だった。


    クリスタは視界の利かないほどの猛吹雪の中、その小さな体で大きなそりを懸命に引いていた。

    そりには雪山訓練に耐えられず倒れた同期の少年が毛布にくるまれ、既に虫の息で横たわっていた。


    ユミルは特に手を貸すこともなく、クリスタの後ろを余裕綽々で歩いている。


    「なあ、もう諦めろって」


    ユミルはクリスタに話しかける。
    自分の実力や体調を省みず、無鉄砲な訓練に参加して倒れた者を助けている余裕はないと勧めているのだった。


    「ダズを置いて私達は生き残るか、3人とも死ぬか…。どっちにする?」


    ユミルの示す選択肢は薄情で残酷なようだが、この状況では妥当な判断であった。


    だが、クリスタは譲らない。


    「3つ目にする。ユミルの見立ては間違っていて、私はこのまま麓の施設にたどり着きダズも助かる…。
    もちろんユミルは先に行ってて助かる。
    これでいいでしょ?」


    そのままユミルに背を向けて、ダズの乗ったそりを引き歩き続ける。
    その歩みは遅々として進まない。


    しかし、ユミルはクリスタを追い抜くことなく同じ距離を保ってついてくる。


    「ねぇ。何してるの?早く行かないと危ないでしょ…。早く…先に行ってよ…」


    しびれを切らしたクリスタは、ユミルに一人で先に行くように促した。


    「…なぁ。なんで私に助けを求めないんだ?
    どう考えてもガキみたいな体のお前と私とじゃ…私がそいつを引いた方が早いと思うだろ?」


    ユミルの言葉に、クリスタは動きを止める。
    その通りだ。自分が一人でそりを引くよりユミルの方がよっぽど早く力強くダズを連れていけるだろう。


    何故、私はそんなことも思いつかなかったのだろう…。



    「お前さぁ、やっぱ…ダズを助ける気ねぇだろ?」



    自分自身も気づいていない本当の姿を指摘されたような気がして、クリスタは目を見開いた。
  20. 20 : : 2015/01/24(土) 23:59:13
    ユミルはクリスタの耳元に近づいて、更にクリスタの知らない本当の姿を暴き続ける。



    「さっきお前、危ないって言ったが…このままじゃ自分も死ぬって自覚があるんだよな。
    …お前、このまま死ぬつもりだったんだろ?なぁ?

    そんで私に女神クリスタ様の伝説を託そうとしたんだろ?
    イヤ、これは考えすぎか」



    ユミルの語る言葉に抗うこともできずに凍りつく。


    私は…ただ役に立ちたいと、そう思っていたんじゃ…ないの?



    答えられずにいるクリスタのことは構わずに、ユミルはクリスタの耳元にそっと毒を吹き掛けるように囁く。



    「ダメだろ…クリスタは良い子なんだから…この男が助かるためにどうするべきか…私に聞いたりする姿勢を一旦は見せとかないと…なあ。

    自分が文字通り死ぬほどいい人だと思われたいからって、人を巻き添えにして殺しちゃあ…そりゃあ悪い子だろ?」



    私が死にたがっていて、ダズを巻き沿いにしようとしている…?
    そんな…そんなつもりじゃ…。


    クリスタはユミルの胸元に手をかけた。


    「違う…私は…そんなこと…」


    しかし、それ以上は言葉にならなかった。



    そんなクリスタに、ユミルのかけた言葉は意外なものだった。


    「お前だろ?家から追い出された妾の子ってのは…」



    「…なんで…それを…」



    否定する余裕はなかった。



  21. 21 : : 2015/01/25(日) 00:54:22
    ユミルは内地の教会に忍び込んだ際に、クリスタの身の上を聞いたと話した。
    名を偽って生きるよう訓練兵に追いやられた少女の話を。


    「安心しろ。誰にも話してないし、この情報を売ったりもしない」


    ユミルの表情はいつになく真剣だった。


    「じゃあ…私を探すために訓練兵まで来たの?そうだとしたらなんで?」


    「さぁ?…似てたからかもな…」


    クリスタの問いに答えたユミルの言葉は、言うつもりではなかったのについ口をついてでた、といった様子だった。


    「私と…友達になりたかったの…?」


    自分と似ているというユミルの言葉に、クリスタはこれまでのユミルの行動の謎が全て解けたような気がした。

    そして同時に、彼女が見返りを求めずに友達になりたいと思ってくれていた喜びに顔がほころんだ。


    しかし、ユミルの返答は厳しい口調をだった。



    「は?違うね。
    まずな、お前と私は対等じゃないんだよ!

    偶然にも第2の人生を手に得る事ができてな、私は生まれ変わった!
    だが、元の名前を偽ったりしていない!

    ユミルとして生まれたことを否定したら負けなんだよ!!」


    吹雪の中で、ユミルは真剣に語り続ける。
    クリスタには何ひとつ言い返す事が出来ない。


    「私はこの名前のままでイカした人生を送ってやる。それが私の復讐なんだよ!
    生まれ持った運命なんてねぇんだと立証してやる!

    それに比べてお前はなんだ!?
    自殺して完全に屈服してまで…お前を邪魔者扱いした奴らを喜ばせたかったのか!?

    なんでその殺意が自分に向くんだよ!?
    その気合いがありゃ、自分の運命だって変えられるんじゃねぇのか!?」



    ユミルは本気で激昂していた。

    自分の運命すら変えてやろうという彼女には、仮面を被らなければ生きられない者の気持ちなど分からないし、歯がゆいのだろう。


    ユミルの言うように生きられるなら、どんなに良いか…けれど、私には…


    「…で、できないよ…。今だって…ここから3人とも助かる方法なんて無いでしょ!?」


    そうだ。いくらユミルでも、そりを引いてこの悪天候を乗り越えること等、できるはずが…


    「ある!」


    ユミルの答えは力強かったが、荒唐無稽で無謀にしか思えなかった。

    崖からダズを下に落とすのだと。
    そういって、クリスタの体を突き飛ばした。


    クリスタは突き飛ばされて山道を転がり落ちたが、すぐにユミルを止めようと体勢を立て直し駆け寄った。
    しかし、二人の姿は何処にもなかった。




    残されたクリスタが戸惑いながらもどうにか下山すると、ユミルは既に降りていて、ダズは治療を受けていた。



    「あの崖から…?ロープなんかなかったはず…あったとしてもあんな崖…」


    再会したユミルに、クリスタは疑問を口にした。


    「どうやってあそこからダズを降ろしたの?」


    問われたユミルの顔色が変わった。
    だが、クリスタの真剣な表情に返答するユミルの言葉は落ち着いていた。


    「いいぞ…お前になら教えてやっても…。
    ただし約束だ。
    私がその秘密を明かした時、お前は…

    元の名前を名乗って生きろ」


    ユミルはクリスタを見つめ、クリスタもユミルから目をそらさなかった。
  22. 22 : : 2015/01/25(日) 01:38:44
    ――――――
    ――――
    ―――


    訓練兵団の解散式の翌日、5年ぶりに超大型巨人が現れてシガンシナ区の開閉扉は再び破壊された。


    訓練兵団と駐屯兵団の決死の交戦の後、突如現れた謎の巨人の出現により、ガスの補給が途絶えて絶体絶命だった優秀な訓練兵達は無事に本部にたどり着く事ができた。

    謎の巨人の正体は、104期の同期生。
    死に急ぎとあだ名されるエレン・イェーガーであった。巨人化した彼がシガンシナ区の開閉扉を大岩で塞ぐことにより、人類は初めて巨人に奪われた領土を奪還したのだった。


    クリスタもユミルも、シガンシナ区の戦いを無事乗り越えることが出来た。
    そして、どの兵団に入団するかを決める期日になったとき。


    上位10位にのみ与えられる憲兵団への入団の権利を持つクリスタだったが、選んだのは調査兵団であった。


    説明会ではエルヴィン団長自ら勧誘演説に表れ、その演説は巨人と直接交戦する機会の多い調査兵団での厳しい現状を偽ることなく告げていた。


    調査兵団に入るという意味の過酷さに、クリスタは震えを抑えることが出来ず、涙が流れてきた。
    しかし、クリスタは敬礼を崩さず、入団希望者としてその場に残った。


    「…泣くくらいならよしとけってんだよ」


    クリスタの様子に隣で呆れながらも、ユミルもまた心臓を捧げる敬礼をして調査兵団に入団した。
  23. 23 : : 2015/01/25(日) 02:39:54
    調査兵団に入り、次の壁外調査に備えて長距離策敵陣形の展開についての学習と実践訓練や、立体機動訓練が本格化した。


    同期で調査兵団を志望したものは少なくなかったし、上位メンバーのほとんどが調査兵団に入団するという異例の事態だと噂されていた。


    相変わらずユミルは許される限りクリスタと行動を共にしていた。



    訓練続きのある日―

    訓練の合間の移動中に、兵団官舎の入り口近くでクリスタは呼び止められた。


    「クリスタちゃん…!?クリスタちゃんかい!?大きくなって…!」


    「背は大きくなれないままだけどな」


    横から遠慮なく茶々をいれるユミルを遮るように、クリスタは声の主に駆け寄った。

    懐かしいその女性は、開拓地でクリスタに息子が訓練兵だと誇らしげに話してくれた女性だった。


    「…!ご無沙汰してます!あの…どうしてここに…?



    クリスタの問いかけに、女性は変わらぬ微笑みで話した。


    「息子が調査兵団に入っててね。クリスタちゃんも調査兵団なの?気をつけるんだよ?」


    「息子さんが…」


    たしか、憲兵団を目指していたと聞いていたけれど…。


    クリスタの訝しげな表情に、女性は明るく笑った。


    「本当かどうか分からないんだけどね、憲兵団は断ったんだって、うちの息子。
    なんでも、調査兵団に入ったら狭いながらも住居を貸してくれると言われたから、って。
    私達家族が開拓地から出て街で暮らせるように、って」


    女性は明るく振る舞っていたが、話の途中で瞳が潤むのを止められない様子だった。


    「じゃあ、今はもう開拓地を出られたんですね」


    クリスタの問いかけに、女性は頷いた。


    「ええ、うちは子供が多いから、ほんとうに狭い家なのだけれど。良かったら今度遊びに来てちょうだいね。
    そうそう、クリスタちゃんは息子に会うことがあるかしら?」


    そう言えば、この女性の名前をちゃんと聞いた事がなかった…。
    クリスタは、モジモジと女性に向けて口を開く。


    「あの…失礼ですが…息子さんっって、何処の分隊ですか?」


    女性は気を悪くした様子もなく、やはりどこか誇らしげに答えた。


    「今は分隊には所属していないの。腕を買われてリヴァイ兵士長の直属の班に入ったんですって」


    リヴァイ班…
    巨人化能力者であるエレンの警護と、もしもエレンが暴走したときに彼のうなじを削ぐ為の巨人殺しのエキスパート。


    「息子はね…オルオと言うの。オルオ・ボザドよ。
    リヴァイ兵士長をとっても尊敬していて、最近話し方がちょっと変だけれど…少しだけ、素直じゃ無いけどね。
    優しくて、いいこよ」


    ニコニコと息子を語る女性は、開拓地での様子と変わらなかった。


    面会の取り次ぎの関係で本人が来てくれるのを待っているところだという女性は、クリスタをそっと抱きしめて言った。


    「うちの息子には、いつもこうして無事を祈るのよ。大丈夫、うちのはいつもこれで帰ってくるから。クリスタちゃんもきっと大丈夫よ…!!」


    女性の胸は、暖かかった。
  24. 24 : : 2015/01/26(月) 02:13:35
    女性の暖かみを感じながら、クリスタは本で読んだ母の温もりとはこうしたものかと考えていた。


    クリスタの…いや、ヒストリアの実の母は記憶の限り一度だってこんな風に優しく抱き締めてくれたことなどなかった。


    女性のような母に育てられていれば、自分の運命は全く違うものだったろう…。

    クリスタは、葬り去った以前の名前…ヒストリアに少しだけ哀れみを覚えた。

    普通は母から与えられるはずの愛情を与えられず、大人達の都合で消し去られた名前を。



    「…そろそろ次の技能訓練始まるぞ?」



    後ろで待機していたユミルの言葉に、クリスタは正気を取り戻した。

    クリスタを抱き締めた女性は、

    「元気でね…あんた…死んだりするんじゃないよ!?」

    とクリスタに告げた。




    女性に礼を言って、面会所を後にする。


    すれ違い様、調査兵団のジャケットを着て苦虫を潰したような表情の少しだけくせ毛の老けがおの先輩と、栗色の髮に快活な瞳をキラキラとさせた女性兵士が賑やかに連れだって歩いてきた。



    「もう!オルオったら、いくら業務が優先だからってこんなにお母さんを待たせるなんて!」



    「壁外調査に出る前の恒例行事をのおまじないをやりに来たんだろうが…ガキじゃねぇんだから、もういいってのにな…。
    ペトラ、何なら将来の母に会って行くか?」


    「何いってんのよ!?気持ち悪い!どうでもいいから、早く面会に行きなさい!!」


    「フッ。ペトラ、たまには素直になってみるもんだぞ?」


    「ごめん、本気で気持ち悪い…」



    そんなやり取りをする二人を見て、クリスタは理解した。
    この男の人が…オルオさん…。
    オルオ・ボザドさん。


    女性とは容姿はあまり似ていない気がしたが、家族のために調査兵団への入団を決めたというその姿は、女性が自慢する通りに頼もしい人だと思えた。
    クリスタも、そんな風に誰かの役に立ちたい、支えたいと強く思った。
  25. 25 : : 2015/01/26(月) 23:49:55
    ――――――――
    ――――――
    ―――


    初めての壁外調査は、上官に恵まれたのか配置に恵まれたのか、恙無く終了した。


    クリスタにとっては。


    調査兵団全体では、相次ぐ奇行種の襲来と、巨人を引き連れた謎の女型の巨人の存在とその捕獲作戦によって甚大な被害を受けていた。


    しかも、それだけの被害を出していながら肝心の女型の巨人の捕獲は失敗し、一時は巨人化能力者であるエレンが拐われたという。


    エレンの警護に当たっていたリヴァイ班の兵士は、現場を離れていたリヴァイ兵士長を除いて全滅し、リヴァイ兵士長とミカサとで、エレンだけをどうにか女型の巨人から奪い返してきたという。


    リヴァイ班が…全滅…。


    クリスタの脳裏には、優しい自慢の息子だと微笑んでいた女性の姿と、一度だけすれ違ったその息子さんの照れ隠しの表情がよみがえる。


    女性はどんなに深い悲しみに暮れることだろう…。


    おおらかな女性ががっくりと肩を落とし、丸くうずくまって嗚咽を堪える様が目に浮かんだ。


    彼には待っている人がいたのに…。
    どうせなら、待つ人もいない、実の母からもいらないと言われた自分が代わりに死ねば良かったのに…。



    クリスタは息子を亡くした女性を思うといたたまれなくなった。
    リヴァイ班全滅の知らせは、人知れずクリスタにも深いダメージを与えていた。
  26. 26 : : 2015/01/27(火) 01:07:55
    クリスタ達104期は、ウォール・ローゼ南区の兵団施設に集められていた。


    何故か新兵ばかりが集められ、兵服も立体機動も解除して私服での待機を命じられていた。


    特に何をしろというノルマもない。


    はじめのうちは、皆で女型の巨人に遭遇したライナーやジャンの話を聞いたり、この場にいない104期の有名人エレンの今後を憂えたりしていた。

    しかし、待機時間が長くなるにつれ、訓練兵に不満と不安がじりじりと押し寄せてくるのが見てとれた。


    コニーなどは、実家が近いので脱走して様子を見てこようかなど企んでいた時だった。




    始めに異変に気づいたのはサシャだった。

    「…ん…?」

    暇疲れの気だるげな表情が、一瞬のうちに一変して眉間にしわがよる。


    何を思ったか、突然テーブルに耳をつけ、注意深く音を聞き分ける。

    青い顔を上げて、サシャは告げた。


    「足音みたいな地鳴りが聞こえます!!」


    だらけきっていた104期の顔色が変わった。




  27. 27 : : 2015/01/30(金) 00:11:22
    「本当です!たしかに足音が!!」


    窓を背に立ち上がり、同期に自分の察知した異変を伝えるサシャ。

    サシャが背にした窓辺に立体機動装置で現れたのは、調査兵団の古参の美麗な兵士ナナバだった。


    「全員いるか?」


    「ナナバさん!?」


    初めての壁外調査ではナナバの率いる班に配属されていたクリスタは、緊迫した表情の上官の名を呼んだ。

    だが、ナナバはクリスタの呼び掛けに応じることなく、必要事項だけを淡々と伝達した。



    「500m南方より巨人が多数接近。こっちに向かって歩いてきてる」


    ナナバの語る思いがけない事態に空気が凍りつく。


    「君達に戦闘服を着せてる余裕はない」


    ナナバは聞いている相手の反応を待つ素振りも見せずに指示を続ける。


    「直ちに馬に乗り…付近の民家や集落を走り回って避難させなさい」


    指示を伝え終えても反応できずに驚愕の表情で自分を見つめる新兵達に、ナナバは有無を言わさず念を押した。


    「いいね?」


    固まった空気がたどたどしく動き出す。


    「南方…から?」


    コニーの表情は、かつて見たことがないほど青ざめている。


    「壁が…壊されたってことなのか?」


    ライナーはベルトルトと顔を見合わせる。
    ベルトルトは青白い顔色で言葉もなく、険しい表情でライナーを見つめる。



    動揺する新兵達に、ナナバは作戦開始を宣言した。


    「さぁ!動いて!!ぼけっとしてられるのも生きてる間だけだよ!!」


    ナナバの号令と共に、104期訓練兵出身の新兵達はそれぞれ私服のままで馬小屋へと飛び出した。



    クリスタは動揺しながらも、馬が怯えることのないようにできるだけ平静を装い、

    「急だけど出発だよ、よろしくね」

    と馬に声をかけなだめながら鞍をつけ、馬上へと身を翻した。
  28. 28 : : 2015/01/30(金) 02:09:09
    ―巨人の出現から7時間後―


    クリスタはユミルと共にナナバ率いる西班として、未だ装備らしい装備も持たぬまま馬を駆けさせていた。


    周辺の住民に巨人の出現を知らせ、避難を誘導する役割はほぼ終わり、壁に近い人の住まない地域に差し掛かると、ナナバは新たな指示を出した。


    「よし…このまま南下しよう」



    その指示に、長身のそばかすの女兵士は抗議した。



    「…私とクリスタは戦闘装備が無いんですよ?これより南には巨人がうじゃうじゃいるはず…私達は巨人のおやつになる可能性が高い」



    馬を走らせながら、スピードを落とすことなくユミルは上官に提案する。


    「私とクリスタを前線から一旦引かせてください」


    「ダメだ」


    ナナバは振り返ることなく即答した。


    「連絡要員は一人でも多く確保しておきたい。気持ちはわかるが…兵士を選んだ以上は覚悟してくれ。
    この初期対応に全てが懸かっている…」


    ユミルはそれでも納得していない表情で上官の後ろ姿を睨み付けた。

    そんなユミルにクリスタは声をかけた。


    「ユミル…私はここで最善を尽くしたい。だって、私は自分で調査兵団を選んだんだから。でも…」


    クリスタは一瞬言い淀み、ユミルの顔を窺うようにして話を続けた。


    「でも、あなたはそうじゃないでしょ?調査兵団を選んだのは…私が…」


    「私が!? はっ!?私のためにとでも言いたいのか!?」


    間髪入れずにユミルはクリスタに噛みつく。

    しかし、クリスタは怯むことなくユミルに問い続けた。


    「じゃあ何で今ここにいるの?理由がないなら今すぐ逃げてよ…」


    ユミルからの返答はなかった。
  29. 29 : : 2015/02/05(木) 23:16:59
    日が暮れて、辺り一面暗闇に包まれても壁に穿たれたはずの穴は見つからなかった。

    それどころか、穴に近づけば近づくほどに遭遇するはずの巨人の姿すら見かけなかった。


    松明を掲げても目視できるのは足元がやっとの暗闇のなかでの捜索は、巨人を相手にしていることを考えれば正気の沙汰とは言えない。


    右か、左か、はたまた上か…。
    巨人との遭遇の瞬間をいち早く察知して対応できなければ命はない。
    まして丸腰のままのユミルとクリスタでは…。


    誰もが緊張と疲労の限界に達していたその時、向かいから松明の明かりが見えた。


    コニーの村を回って同じく壁伝いに穴を探して走ってきた南班の一行だった。

    ライナーやベルトルトの姿も確認できたクリスタは、極度の疲労を感じながらも、同じく丸腰で緊急事態に対応していた仲間が無事であったことに安堵した。


    両班の班長たちが、互いに向かい合うように壁沿いにやってきたのに穴が見つからなかったと話しているのをクリスタは切れてしまった集中力によって朦朧とする意識のなかでおぼろげに聞いた。


    クリスタの様子を見たナナバと南班の班長ゲルガーは、月明かりに浮かび上がった古城で体を休める事にした。



    数時間後に地獄と化す、ウトガルド城跡で。
  30. 30 : : 2015/02/06(金) 00:08:29
    「新兵はしっかり休んでおけよ…」


    古城の小さな広間の真ん中で焚き火を囲む新兵たちに、ゲルガーは一人立ち上がって声をかけた。


    「日が沈んで結構経ってるから、もう動ける巨人はいないと思うが…。我々が交代で見張りをする。

    出発するのは日の出の4時間前からだ」


    ようやく腰を下ろすことができた仲間は、誰もが伏し目がちで無言であった。
    しかし、クリスタはあえて疑問を口にした。

    「あの…」

    大きな瞳で立ち上がった上官を見つめながら問いかける。


    「もし…本当に壁が壊されていないとするなら…巨人はどこから侵入してきているのでしょうか…?」


    クリスタの問いに、ゲルガーの返答は明確だった。


    「それを突き止めるのは明日の仕事だ。今は体を休める事に努めろ…」


    質問を受けた上官はそういって、見張りをするために塔の屋上へと続く階段を上がっていった。


    誰にも、今何が起きているのかなどわかりはしない。
    自分の寿命がいつ尽きるのかなどわかりはしないのと同じように。

    だが、クリスタは口に出さずにいられなかった。
    少しでも楽観視できる可能性があるならすがりたいと思った。


    「もしかしたら…当初想定した程の事にはなっていないんじゃないでしょうか…。
    なんというか…その…」


    上官たちの反応は、クリスタの希望的観測を支持する事実を述べていた。


    「ああ…確かに巨人が少ないようだ。壁が本当に壊されたにしちゃあな」

    「私達が巨人を見たのは、最初に発見した時だけだ…」


    だが、続くユミルの質問に対するコニーの返答にクリスタは背筋が凍りつく感覚を覚えた。


    「コニー…お前の村はどうだった」


    「壊滅した。巨人に…踏み潰された後だった」


    いつもの朗らかさの全くないコニーの表情が、事態の深刻さを物語っていた。


    その後、コニーの見た不思議な巨人がお母さんに似ている気がすると話すコニーをユミルが思いきり茶化し、緊張した空気が少しだけ解れ、新兵たちはつかの間の休息を取ることにした。


    ほんのつかの間。

    見張りの兵士から、
    「全員起きろ! 屋上に来てくれ! 全員 、すぐにだ!」
    と招集がかかるまでの一時…。


  31. 31 : : 2015/02/06(金) 21:50:24
    それから先の出来事は、まさに地獄絵図と呼ぶにふさわしかった。



    屋上に上がった一行の視界には、いつこんなに集まったのかと目を疑うほどの巨人の群れ。
    巨人たちは、塔の周囲を囲んでうろうろと歩き回っていた。


    立体機動を身に付けた上官たちは、見事な身のこなしで塔に近づく巨人を倒していく。


    しかし、時すでに遅く、塔の入り口は突破された形跡が発見された。


    「巨人が塔に入ってきてる!急いで中に入ってバリケードをつくって防いで!」


    リーネという古参の兵士が新兵たちに指示を出す。


    「屋内では立体機動装置が使い物にならない。防げなかったときは…最悪、この屋上まで逃げてきて!」



    屋内では立体機動が使えない。
    だから丸腰でも同じこと。


    だが、そんな言葉はなんの慰めにもならない。
    クリスタはこの廃墟で武器も持たぬまま戦わなくてはならない現実に戦慄した。


    そして、続くリーネの言葉に、今まさに人生最大の窮地に立たされていることを実感した。



    「でも…それも必ず助けてやれるってことじゃないからね?

    私達も生きているかわからないから…」


    クリスタはかつて命の危険に晒された時のことを思い出していた。
    実の母の命が目の前で奪われた日の事を…。


    ヒストリアという名を捨てたあの日には感じもしなかった恐怖が全身を襲っていた。


    怖い。



    調査兵団に入団を決めたときに、泣きながら震えながらも人類のために心臓を捧げる決意をしたにも関わらず、クリスタは命の尽きる時間が迫っていることに怯える自分を感じていた。


    クリスタだけでなく、その場にいる誰もが固い表情で沈黙した。
    古参の女性兵士は青ざめた顔色をしながらも、動揺する新兵たちを鼓舞した。


    「何体いるのか…ガスや刃が保つかどうか…先が見えない。
    でもやることはいつもと同じさ。

    生きているうちに最善を尽くせ!いいね!?」



    「了解!!」


    104期訓練兵達―ライナー、ベルトルト、コニー、ユミル、そしてクリスタは一斉に行動を開始した。



    『生きているうちに、最善を』



    その言葉に突き動かされるように、飛び出した。

  32. 32 : : 2015/02/06(金) 23:47:56
    塔に侵入した巨人は合計で2体。
    立て続けに襲ってきた。


    一体はライナーとベルトルトが接近戦で応戦している間にユミルが見つけた移動砲台を落とした下敷きになった。


    間髪いれずに続いて襲ってきた一体はライナーの右腕に食らいついた。
    ライナーは自分もろとも巨人を窓辺から落とそうとしたが、コニーの機転によりナイフで頬の筋肉を切り裂いてライナーから引き離した。

    そして、窓辺の巨人が体制を建て直す前にユミルとベルトルトがほぼ同時に窓辺から巨人を蹴り落とした。



    クリスタは、戦いのなかで役に立つことのできなかった自分に不甲斐なさを感じていた。


    自分のしたことと言えば、ユミルの見つけた砲台を移動するために松明を掲げながら砲台を押したこと位に思えた。


    いつも一番に危険な役割を買って出るライナーのような勇気は自分にはないし、ユミルのように冷静に状況を判断する力も、コニーやベルトルトのように反射的に行動できる瞬発力もない。


    こと戦闘において、自分の役に立てることなどないような気がした。
    やはり、自分が上位10名に入ったのは何かの間違いだ…。そんな思いを強くした。
  33. 33 : : 2015/02/07(土) 00:20:03

    コニーやユミルが急場しのぎのバリケードを作る傍らで、クリスタは巨人に噛まれたライナーの腕の怪我の処置をしていた。


    生々しく歯形のついた右腕は腫れ上がり、痛みのあまり動かせないようだった。

    噛まれた箇所からの出血を抑えるために、体幹側で腕をきつく縛り駆血する。

    そしてクリスタは、ゲルガーがこの塔で見つけた酒の入ったボトルを手にした。


    キツいアルコールの香りが鼻腔を刺激する。
    アルコール濃度の高い酒は消毒に使える。


    クリスタは、ボトルの蓋をはずすとライナーの右腕の噛み傷を洗い流すようにアルコールを振りかけた。


    「うッ!」


    傷にアルコールが沁みて呻き声をあげるライナーに、


    「ごめん!…ごめんね…」


    と謝りながらも、クリスタは処置の手を緩めることはなかった。

    戦いに役に立たない自分に出来ること。

    クリスタには、傷ついた仲間の手当て以外に自分が役に立てそうなことは思い付かなかった。


    「多分…骨折してるよね?」


    巨人の顎の力は強力だ。
    骨など容易く噛み砕くだろう。


    「あぁ…ついてねぇことにな…」


    まだ傷が疼くだろうに、ライナーの返答は落ち着いていた。


    強い人なんだな…。


    クリスタは、いつも危険な役を真っ先に請け負う筋肉質な体の同期に尊敬の念を抱いた。
    自分とは大違いだと。

    この人のために、今自分にできる限りの事を全力でしよう。
    そう思った。



    「あとは添え木と包帯が…」


    骨折部位の安静のための添え木は見つかったが、古い城には清潔な布など期待できそうもなかった。
    布そのものも、周囲には見当たらない。


    「…そうだ!」


    クリスタは急に立ち上がると、自らのスカートを切り裂いて、添え木を固定する包帯代わりの布を得た。

    そうでもしないと固定に十分な長さの布が得られないので仕方なくそうしたが、丸一日馬に揺られて埃も汗も吸ったスカートは、お世辞にも清潔とは言えなかった。


    クリスタは、怪我をしたライナーに十分な処置をしてあげられないことに申し訳なさを感じて、添え木を布で巻きつける手は休めずに、謝罪した。


    「こんな汚い布しかなくて…ごめん…」


    ライナーは目を会わせずに空をにらんだまま、


    「イヤ…助かる…」


    と言葉少なに答えた。
  34. 34 : : 2015/02/07(土) 23:17:30

    「とりあえず、使えそうなものは集めようぜ。まぁ…私らの命の大半は、上官がたの腕っぷしにかかってるんだがな…」



    そう言って、塔の外で巨人と戦う上官達の様子を見ようと窓辺から身を乗り出したユミルの目に入った光景は、想像以上にすさまじい戦闘の跡だった。


    「…さすが調査兵団。他の兵団とはワケが違うってことか…」


    既に骨化している巨人、もうもうと蒸気を上げて肉が溶け出している巨人、うなじを削がれたばかりでまだ表情の判別ができる巨人。

    累々たる巨人の屍が塔の周囲に溢れており、見下ろすユミルの口からは珍しく称賛の言葉が漏れた。



    しかし、次の瞬間…



    ドォン!



    何か大きくて重いものが落ちてきたかのような震動と轟音が轟いた。
    落下した地点はすぐそばだ。

    ユミルの位置からは、何処に何が落ちたのか、落とされたのかも確認できない。


    「あん!?なんだ、今の!?」


    尚も身を乗り出して確認しようとするユミルに、クリスタはしがみつくようにして窓辺から引き剥がした。


    「ユミル、危ない! 離れて!!」


    何故そうしたのかはわからない。
    所謂第六感というものかもしれない。
    とにかく、危険を察知してクリスタがユミルを室内に戻した瞬間、



    ドォン!!



    再び衝突音がした。
    今回は、塔の上部が破壊されたらしく、塔全体が激しく揺れた。


    「身を乗り出したままだったら、今の衝撃で落っこちていたかもな…さすが私のクリスタ!ありがとうな」


    ふざけた口調を残しながらも、ユミルは冷や汗を隠しきれていなかった。


    「上だな…確認に行くぞ!」


    負傷した腕の痛みも顧みず、ライナーの提案に全員が階段を駆け上がった。
  35. 35 : : 2015/02/08(日) 01:41:07
    屋上に駆け付けた新兵達を迎えたのは、先ほどまで勇猛果敢に巨人と対峙していたはずの二人の上官達の変わり果てた姿と、その二人を悼むようにうずくまる二つの人影だった。


    「ダメだ…二人とも…即死だ…」


    たった二人になってしまった戦闘装備を備えた上官たちは、突然降りかかった不幸に沈鬱な表情で俯いていた。


    「気をつけろ…壁の方角から岩が飛んできて…そいつにやられた」


    にわかには信じがたい話であったが、信じがたい話の連続でこの古城までやって来たのだから、否定もしきれない。


    「そんな…」


    クリスタの口から出せた言葉はそれだけだった。




    コニーが急に何かに気づいて大きな声を出した。

    「アイツだ…! 一体だけ壁の方に歩いていった…あの…獣の巨人の仕業に…」


    そして獣の巨人の姿を確認しようと屋上から外を見て、コニーは息を飲んだ。


    「巨人多数接近…!さっきの倍以上の数は…」


    迫り来る驚異を速やかに上官に伝達する。
    報告を受けたナナバはうつむき加減で自嘲気味な話し方ではあるが、その瞳に宿る戦意は失っていなかった。


    「巨人が作戦行動でも取ってるようなタイミングだね…」


    むしろ、ここから再び始まる戦闘に対して覚悟を決めたように見えた。


    「まるで…最初っから遊ばれてるような気分だ…」


    ナナバは舌打ち した。
  36. 36 : : 2015/02/09(月) 00:56:32

    ナナバとゲルガーは、残り少ない装備で塔を目掛けて襲ってくる巨人たちに応戦した。


    岩が飛んで来るという不測の事態で命を落とした二人の上官の立体機動装置は、岩が衝突する衝撃でガスと替え刃の収納された本体が外れてどこへ落ちたものか判別もつかない状態であった。


    クリスタ達新兵は、屋上からナナバとゲルガーの戦いを固唾を飲んで見守ることしかできなかった。


    初めは塔に迫る巨人を巧みなコンビネーションと討伐技術で次から次へと倒していた上官たちも、残り少ないガスと刃に疲労が重なり、瞬く間に圧倒的に不利な状況に立たされていた。


    そして…戦闘中に頭を打ったゲルガーの意識は朦朧として、体を保持できなくなって落下した。

    落下したゲルガーの足を巨人が捕らえる。

    ナナバは間一髪のところで、ゲルガーを捕らえた巨人のうなじを削いだ。

    ゲルガーは、空いた窓に倒れこんだ巨人の手から運良く逃れた。しかし、その高さは他の巨人にとっても届きやすく、再び巨人たちに捕まった。


    ナナバもまた、ゲルガーを助けた直後にガス切れとなり、動かなくなった立体機動のワイヤーに吊るされて、巨人達の鼻先で宙吊りになった。


    その様子も全て、屋上に居る丸腰の新兵達にはただ見ていることしかできなかった。


    巨人が捕まえた彼らを引き裂く瞬間には、耐えかねてクリスタは目を背けた。

  37. 37 : : 2015/02/10(火) 00:35:27

    クリスタは、目を背けた先にあった瓦礫の欠片を手に取り、上官達を無惨に引き裂く巨人の群れに向けて力を籠めて投げつけた。


    「よせ、クリスタ。…もう塔が崩れそうなんだ。落ちてしまうぞ」


    ユミルがクリスタの背を引き、塔の端から距離を取る。
    それでもクリスタは、あきらめきれずに下を覗きこむ。


    「でも…私達の身代わりに…ナナバさんが…!ゲルガーさんが…!」


    既にナナバもゲルガーも巨人の手にかかり、奪回するのは不可能な状態だった。


    塔の縁から離れたコニーは、坊主頭を両手で抱えた。


    「ああ…クソが…」


    誰も何も話さない。
    コニーは構わず独り言のように喋り続ける。


    「なぁ…このままここで…塔が崩されてただ食われるのを待つしかねぇのか…」



    立体機動装置はおろか、ろくな装備らしい装備もなく、ただ屋上に集まり見下ろすしかない新兵達は誰もコニーに反論できず、かといって肯定する気にも到底なれずに、ただ立ち尽くしていた。


    「…ねぇのか…もう何も…もう…」


    コニーの独り言の語尾は、すがる物を見つけられずに尻すぼみに小さく消えていくかのようであった…が、ついにはやり場のない憤りを大きな声と自らの拳に籠めて、塔の壁を叩きながら叫んだ。


    「何か!!やることはねぇのかよ!! クソッ! クソッ! クソッ!!!」


    クリスタもユミルもベルトルトもライナーも、誰も何も言えなかった。

    コニーはそれでもまだ、一人話を続ける。
    沈黙が怖いかのように。
    何か話していないと、このまま世界が終わってしまうかのように。


    「せめて…何かこう…、意味が欲しかったよな…。
    任務も中途半端なまんま…全滅なんて…」


    全滅…。
    誰もが口にはしなかったが、その現実はもう目の前に迫っていた。


    『意味が欲しい』

    コニーのその言葉に、クリスタはこれまでの己の生き方と己の顔に張り付いた仮面を思い出した。



    優しくて皆から愛されるクリスタ。
    私が生きた意味。
    そして、私が立派に心臓を捧げ…死ぬ、意味。

    意味が欲しい…。


    コニーの言葉にクリスタは自分の使命を果たしたいと願った。


    「私も…戦いたい。何か…武器があればいいのに…」


    何もできずに指をくわえて死を待つなんて真っ平だ。
    兵士として、意味ある死を迎えなければ…。


    「そしたら一緒に戦って死ねるのに…」


    誰からも愛されるクリスタの仮面をつけたままの、究極の終演。

    仮面の少女は、華々しく幕を下ろすことが出来ない悔しさに唇を噛んだ。
  38. 38 : : 2015/02/12(木) 02:22:37
    「クリスタ…お前まだそんなこと言ってんのかよ」


    クリスタが兵士として役目を果たして死にたいと言った言葉を聞いたユミルの口調には呆れたような咎めるような色が混ざっていた。


    「え…?」


    ユミルからの予測もしていなかった反応に、クリスタは背後にいるユミルを振り返る。

    ユミルの表情は、これまでにないほど険しかった。
    そしてユミルの発する言葉もまた、厳しく響いた。


    「彼らの死を利用するな。あの上官がたはお前の自殺の口実になるために死んだんじゃねぇよ」


    クリスタは驚いた。
    自殺の口実…?
    まさか、そんなこと…。

    反論すべく、口を開く。


    「そんな…そんなつもりは…」


    だが、ユミルはクリスタの弁明など聞く耳を持たずにクリスタの言葉を遮った。


    「お前はコニーや上官方とは違うだろ!
    本気で死にたくないって思ってない…いつも…どうやって死んだら褒めて貰えるのかばかり考えてただろ?」


    ユミルの言葉は辛辣で、けれどもクリスタの生き方を真正面から捉えていた。
    図星だった。


    皆から愛されるクリスタになりたい。
    皆から愛されて、役に立ついい子だと誉められたい。
    誰からも必要とされなかったヒストリアとは違う。

    けれど、このまま仮面をつけ続けて生きるのは辛くて。


    『本当の私ってどんな子だっけ』


    もう思い出すこともできないほどに仮面は体と心の一部になってしまっていて
    このまま、仮面をつけたまま人生ごと終わりにしたい。
    楽になりたい。

    皆に愛されるクリスタのまま、死んでしまいたい。


    そう思って訓練兵に志願したし、調査兵団にも入団した。


    ユミルは…ずっと、それをわかって一緒にいたの…?


    クリスタは愕然とした。
  39. 39 : : 2015/02/13(金) 01:13:25
    「クリスタ」


    ユミルはクリスタの肩を両手で力強く押さえた。

    クリスタは、背の高いユミルを見上げ、大きな瞳で見つめた。


    「こんな話、もう忘れたかもしんねぇけど…」


    ユミルはそう言って、苦悩するように眉間に皺を寄せてクリスタの視線から一瞬瞳を落として逸らせる。


    クリスタは、ユミルが言わんとする事に心当たりがあるように思えて息を飲んだ。


    ユミルは何かを決意したかのように、逸らした瞳をゆっくりと見開くと、強く射貫くような眼差しでクリスタを見つめて、一言ずつを噛み締めるように、言った。



    「多分…これが最後になるから…」



    「思い出してくれ」



    「雪山訓練の時にした…約束を…」




    雪山訓練の時にした、約束。

    瀕死のダズを切り立った崖から降ろしたというユミル。


    普通に考えれば、ロープも持たぬものが無傷で降りてくるなどあり得ないことだった。
    だが、それをユミルは成し遂げた。


    どうやって…?


    問いかけたクリスタに、ユミルは応えた。


    「いいぞ…お前になら…教えてやっても…」


    ユミルの言葉は吐息と共に白くなって空に消える。


    「ただし約束だ。私がその秘密を明かしたとき…」


    ユミルの言葉は魔法のようにどこか不思議な響きをはらんでいるようにクリスタには思えた。


    秘密を知る為の、魔法の契約。
    魔女のユミルがかけた魔法は…



    「お前は…元の名前を名乗って生きろ」



    クリスタからの…。
    クリスタという仮面からの、解放だった。
  40. 40 : : 2015/02/17(火) 01:55:23
    魔女ユミルがクリスタに魔法をかけたとき、東の空からは太陽が登り、山々の間から塔を照らした。


    巨人たちは塔の上には届かないが、塔を構成する煉瓦に手をかけ登ろうと試みては塔を破壊していた。


    登ってこられないとしても、塔そのものが破壊されるのは時間の問題であることは誰の目にも明らかだった。


    「最期に…陽を拝めるとはなぁ…」


    虚ろな瞳でコニーは呟いた。
    陽を眺めるように立ち上がったコニーの前に、太陽を背にした長身細身の女が話しかける。


    「コニー。ナイフを貸してくれ」


    これから果物でも剥くかというほど何気なくさらりとした申し出に、普段から回転の良くない頭が完全に思考停止した状況のコニーは無造作にナイフを手渡す。


    「ほらよ」


    差し出されたナイフを受けとると、ユミルは収まりの良い坊主頭を左手で包み込むように叩いた。


    「ありがとよ」


    ぺちっ、と小気味良い音がした



    手渡したナイフは、この塔の上で唯一の武器らしい武器だ。
    だが、こんな小さなナイフひとつでは巨人は一体だって倒されてはくれないだろう。
    虚ろながらコニーは疑問を感じて問いかける。


    「…何に使うんだよ、それ…」


    太陽を背負ったユミルの表情は陰になって良く見えない。


    「まぁ…そりゃ…」


    ユミルにしてはいつになく歯切れの悪い言い方だった。
    続く言葉は、笑えないジョークのように塔の上に虚しく響いた。


    「これで戦うんだよ」


    だが、ユミルがふざけているのではないことはクリスタにはわかっていた。


    ユミルの眼は笑っていなかった。 

  41. 41 : : 2015/02/17(火) 02:25:49
    「ユミル?何するつもりだ?」


    ユミルの様子がいつもと違うことに気づいたライナーが口を開く。


    ユミルは自嘲気味にライナーの問いに答えた。


    「さぁな…自分でもよくわからん」


    ユミルはそういって振り返る。そこには、先程のユミルと同じく陽の光を背にして立つクリスタの姿があった。


    クリスタは、いつもと違うユミルの様子に狼狽していた。
    ユミルが何をしようとしているのかは見当もつかないが、ユミルは確実にクリスタに魔法をかけた。


    仮面をはずす魔法。


    どうして?
    どうやって?


    警戒するクリスタにかけたユミルの言葉は、意外にも優しい響きだった。


    「クリスタ…お前の生き方に口出しする権利は私にない」



    皆の視線が集まるなか、ユミルは気にせずクリスタにだけ語りかける。


    「だからこれは、ただの…私の願望なんだがな」


    ユミルの顔を昇る朝日が照らす。


    「お前…胸はって生きろよ」


    対峙するクリスタは、対照的に昇る朝日の陰になる。


    「え…?」


    聞き返すクリスタへの返答はなく、ユミルは塔の端のクリスタをめがけて突然走り出した。


    「ユミル!? 待って!!」


    クリスタは走り来るユミルを制そうと両手を突きだした。


    ユミルはクリスタをすり抜けると、力強く地面を蹴って塔の外壁を越えて跳躍した。

    足下に巨人が待ち構えている世界への跳躍。


    伸ばしたクリスタの手は、ユミルには届かずに空を切った。
  42. 42 : : 2015/02/18(水) 23:59:31

    その後に起きた出来事は、この古城に来るまでに起きた何よりも信じられないものだった。


    100年の安寧を保った壁が破壊された事よりも
    目の前で母の血しぶきが舞った時よりも
    同期のエレンが巨人化能力者だと知らされた時よりも

    それら一切の出来事が霞むほどの衝撃的な光景を、クリスタは目にした。



    クリスタの制止をすり抜けて塔の上からジャンプしたユミルの体は、重力に従って落下した。

    行く手には、落ちてくるユミルを捕食するべく待ち構えている巨人達。



    クリスタに胸を張って生きろと言ったユミルは、ただ塔から身を投げて巨人の餌食となろうとした訳ではなかった。

    ユミルは、コニーから受け取ったナイフを右手で握りしめ、そのまま左手でナイフの柄を引いた。

    ユミルの右手からは血華が飛び散り、落下するユミルの後を追うように赤い液体が弧を描いた。


    そして、落下するユミルの体から閃光が迸り、続いて爆風が生じた。


    叩きつけるような熱風の中で、クリスタは大きな両目を見開いた。

    クリスタが見た信じられない光景。




    それは、落下してゆく小柄な巨人の姿だった。
  43. 43 : : 2015/02/19(木) 01:02:45

    小柄な巨人は、待ち構える巨人達を迎え撃つように両手を広げて落下した。

    巨人にしては小柄な体の機動力を活かし、落下速度を利用して塔にしがみついている巨人の頭部を鷲掴みにすると、口を大きく開いてうなじにかじりついた。

    皮膚を越え、肉まで歯を到達させると、ぶちぶちと音をたてて巨人のうなじを引きちぎった。


    小柄な巨人は、息をつく間もなく次の獲物へと身を踊らせる。
    塔の周囲には無数の巨人が集まっており、次々と小柄な巨人に襲いかかろうとしていた。


    塔の上から、ユミルを見ていたのはクリスタだけではなかった。


    「ウソだろ…ユミルまで…巨人に…」


    塔の縁から身を乗り出すように下を見ていたコニーが呟いた。


    「ユミル…」


    眼下では、巨人化したユミルが周囲の巨人を相手に激しい戦闘を繰り広げていた。
    戦いの中、よろけた巨人が塔にぶつかり、塔が不安定に揺れる。

    クリスタの心は、塔よりも激しく揺さぶられていた。



    ユミルの秘密って…ユミルが…
    ユミルが、巨人…!?



    目の前の現実をどう捉えてよいか分からず、静かに動揺するクリスタに向かって、ライナーが口を開いた。


    「…クリスタ、お前は知っていたのか?ユミルが…巨人だったって…」



    いつも一緒にいたユミル。

    皮肉屋で、計算高くて、ずけずけとものを言うユミル。
    クリスタが人助けをしようとする度に、呆れたような苦々しいような表情で時にからかい、時にじっと見つめていたユミル。

    クリスタに、自分のために生きろと言ったユミル。


    そのユミルが、巨人…?


    「知らなかった…いつも近くにいたのに…こんな…こんなことって…」


    小柄な巨人は、襲い来る巨人の手を掻い潜りながら爪で巨人の目を潰し、大きく口を開いては尖った歯での攻撃を続けている。


    その様子を見ながら、クリスタは未だ小柄な巨人とユミルが同じものだと認識することが出来ずにいた。



    「信じられないよ…3年間ずっと一緒にいたのに…。あれが…ユミルだっていうの!? 」


    そんな事実を、受け入れられるわけがなかった。


    「嘘だ…そんなの…」


    ユミルの思い詰めたような表情が頭をよぎる。

    『お前…胸張って生きろよ…』

    クリスタに向けて放った、巨人になる前の最後の言葉。



    「嫌だ…」


    拒絶の言葉しか出てこなかった。
  44. 44 : : 2015/05/01(金) 01:50:32
    巨人となったユミルは耳まで裂けた口を大きく開き、人間のものとは明らかに違う歯牙を露わにした。
    その姿を塔の上から見ていた104期生達は動揺しながらも状況を理解しようとしていた。

    初めに口を開いたのはライナーだった。


    「つまりあいつは…この世界の謎の一端を知っていたんだな…。
    まったく…気がつかなかったよ…」

    その口調には、ユミルが正体を隠し続けていた事への揶揄の色を含んでいるようにも聞こえた。
    ライナーの言葉を受けてベルトルトも続ける。

    「正体を明かし兵団に貢献することもできたはずだ。…エレンみたいに…。
    でも、そうしなかったのは…それができなかったから…なのか?」

    それができない理由とは何だというのか。
    ベルトルトの言わんとすることをコニーが受け継いで口にした。

    「待てよ!?エレンは自分が巨人になれるなんて知らなかったんだろ?でも…ユミルは何か…巨人の力を知ってた風だぞ」

    塔の下に降りてゆくユミルの背中に本能的に得体の知れない何かを感じたようにコニーは呟いた。

    「あいつは…どっちなんだ…」


    クリスタには、コニーの言っていることが理解できなかった。

    「どっちって?
    ユミルが人類の敵かもしれないっていうの?」

    ぶっきらぼうだけど、誤解されやすいけど、それでもいつも一緒にいてくれたユミル。
    クリスタの仮面を見破って、素顔のクリスタを見ようとしてくれたユミル。
    そのユミルが、人類の敵…?


    クリスタの思いをよそに、コニーは推論を述べ続ける。

    「考えてみりゃ、あいつはどんな状況でも我関せずって涼しい顔してたぜ。そりゃあ、こんな力隠し持ってたんだもんな。
    何考えてんのかわかったもんじゃねぇよ…」

    コニーを含め、塔の上の仲間がユミルに対して抱き始めた暗い疑念の空気を払拭できるだけの力を今のクリスタは持ち合わせていなかった。

    「一体、ユミルの目的は何なんだ…」

    ベルトルトの言葉に、クリスタの頭の中ではユミルが自分に向けて語った言葉の一つ一つが、ぐるぐると万華鏡のように渦を巻いているのを感じた。


    『約束だ。私がその秘密を明かした時…お前は…


    元の名前を名乗って生きろ!』


    塔の下では大勢の巨人に囲まれて圧倒的に不利な状況のユミルが牙をむいて戦っていた。
  45. 45 : : 2015/05/01(金) 02:29:11
    巨人になったユミルは機動力は他の巨人に勝っていたが、やはり多勢に無勢。
    攻撃を繰り返し、数体に致命傷を与えても次から次へと湧くように現れる巨人の群れに無傷ではいられず、噛みつかれ肉を引きちぎられ、劣勢に追い込まれていた。

    ユミルは態勢を立て直すべく、塔にしがみつき這い登るように一旦手をかけた。
    しかし、手をかけた部分の煉瓦がぼろぼろと崩れると、次の手を伸ばすことなく再び塔の下で待ち構える巨人の群れとの戦闘に身を投じた。

    「あ…あいつ!!手を放した…!?」

    「何だ!?…まさか…塔の損傷を気にしているのか!?」

    塔の上からユミルの様子をじっと見ていた104期の仲間達の言葉に、クリスタは確信した。
    共に過ごした日々は偽物などではない。
    巨人化能力を隠していたとしても、それでもユミルはユミルだと。
    敵とか味方とか、そんなことどうでもいい。


    「巨人の力を自分一人で逃げるために使うこともできたはず…。あの体の大きさじゃ、ここの巨人すべてを倒すなんてできないよ…なのに今、ここでユミルが戦っているのは…」


    そう、今ユミルが逃げずに一人で戦っているのは…


    「私達を…命懸けで守ろうとしてるから」


    入団した日の夜のことが思い出されるのはなぜだろう。

    『お前…いいことしようとしてるだろ?』


    そうたしなめるようにクリスタに言ったユミルなのに
    元の名前を名乗って生きろと
    自分のままでイカした人生を送ることが自分の人生の復讐なのだと
    あの日雪山でクリスタを叱咤したくせに
    何で今、自分を犠牲に『いいこと』しようとしているの?

    クリスタの中で、何かが沸騰するような感覚が弾けた。


    「死ぬな、ユミル!!」


    夢中で塔の縁に足をかけて身を乗り出す。


    「こんな所で死ぬな!!」


    渾身の力を込めて叫ぶ。


    「何いい人ぶってんだよ!!そんなにかっこよく死にたいのかバカ!!
    性根が腐り切ってるのに今更天国に行けるとでも思ってるのか!このアホが!!」


    突然の変貌ぶりに驚いたコニーがクリスタを下ろそうとしがみつくように抱える。
    だが、クリスタはかまわず続ける。

    天使のようだと皆から賞賛された仮面を引き剥がし
    生まれて初めて罵声を発した。


    「自分のために生きろよ!!こんな塔を守って死ぬくらいなら…

    もうこんなもん、ぶっ壊せ!!!」


    そうだよ。
    私に自分のために生きろというなら、見本を見せてよ。
    周りのことなんて二の次でしょ?
    どうせ壊れる塔なんだから、いっそこのまま壊してしまえばいい。

    ガラスでできた仮面と一緒に。
  46. 46 : : 2015/05/02(土) 01:23:24
    クリスタの声が届いたのか、巨人となったユミルは襲いかかる他の巨人たちを背負うように塔に向き直ると、急に手近な塔の窓に手をかけた。
    窓を構成する煉瓦を引きちぎるように掴み、群がる巨人達に投げつけては、瓦礫の隙間に空いた空間に再び手をかけて破壊する。


    木こりが大木をなぎ倒すように、ゆっくりと塔はバランスを崩してまっすぐ立ったまま斜めに傾いた。


    「お…おい!あいつ…!!本当に壊しやがった!?」


    ユミルの行動に動揺するコニーを横目に、クリスタは笑っていた。

    あは。
    そう、それでいい。
    こんな塔をちんたら守って惨めな最期を迎えるなんて、らしくない。
    自分のことだけ考えて、大胆に、強引に。
    そうして生きればいい。


    「いいぞ!ユミル!!!」


    倒れゆく塔の上で、クリスタはユミルの行動に興奮のあまりガッツポーズを決めた。
    その時。
    クリスタの目前が急に暗くなった。
    巨人のユミルが陽光を遮るように現れたのだった。


    「イキタカ ツカアレ」


    十分な構音機能を持ち合わせていない巨人の発音は言語として認識するには不十分なものだったが、その場にいた全員が瞬時に理解した。


    「生きたかったら 掴まれ」


    塔の上の104期生達には巨人の言葉は、訓練生時代を共にしたユミルのいつもの薮睨みの表情と声で再構成されていた。
  47. 47 : : 2015/05/02(土) 02:08:24
    傾いてゆく塔は自らの重さに耐えかねて、群がる巨人どもを下に巻き込みながら崩れ落ちた。
    ライナー、ベルトルト、コニー、クリスタを自分の毛髪にしがみつかせたユミル巨人は倒れゆく塔の上を器用に渡り、全員を無事に瓦礫だらけの地面に着地させた。


    だが、塔の下敷きになった程度でおとなしくお陀仏になってくれるほど襲来した巨人達の生命力は軟弱ではなかった。

    瓦礫の下からムクムクと這い出してきた巨人達は、今度こそ逃げ場のない平地での戦いを余儀なくされたユミルに容赦なく襲いかかった。

    ユミル巨人の髪をむんずと掴み、無造作に振り回す。
    小柄であるがゆえに抵抗できずにいるユミルが叩きつけられた衝撃は、回転による遠心力でただ打ち据えられた時の数倍の威力であった。
    ユミルに起き上がる隙も与えないまま、巨人達は小柄な巨人であるユミルの顎を裂き、両腕をもぎ取った。


    もはやユミルには抵抗するだけの力は残っておらず、生温い巨人化の筋肉層の内側で意識は朦朧としていた。


    巨人達から離れた岩陰に隠れていたクリスタは、窮地にあるユミルの様子を黙って見ていることに耐えかねて駆け出した。


    「待ってよ…ユミル…。まだ…話したいことあるから…」


    瓦礫に足を取られてうまく進めない。

    ユミルは巨人達に食いつかれ、皮膚は剥がされて眼球は露出している。


    「まだ!私の本当の名前!!教えてないでしょ!!」


    元の名前を名乗って生きろというなら、あなたが知ってくれなくちゃ。
    ユミル。
    待ってよ、ねぇ…。



    もつれる足でユミルの元へと急ぐクリスタの眼前に、岩陰から巨人が顔をのぞかせた。
  48. 48 : : 2015/05/02(土) 02:21:39
    クリスタめがけて巨人の手が伸びたその時。

    巨人の背後から高速で回転しながら現れた影によって、クリスタに手を伸ばした巨人のうなじは一部の狂いもなく削がれた。
    クリスタの脇に降り立ったその影はー


    「ミカサ!?」


    立体起動装置を身にまとった104期訓練兵の逸材の姿だった。
    調査兵団の援護部隊が駆けつけたことで、ユミルに襲いかかっていた巨人どもを一掃することができた。


    悪夢の一夜がようやく明けたのだった。
  49. 49 : : 2015/05/02(土) 02:37:54
    調査兵団の援軍による巨人の掃討作戦が終了し、ボロボロに噛みちぎられた小柄な巨人の内部から救出されたのは、手足も内臓も欠損した瀕死のユミルだった。


    クリスタは、瞳を閉じたままの戦友の名を優しく呼んだ。


    「ユミル…」


    常人であれば既に事切れている大怪我をした巨人化能力者は、クリスタの呼びかけに薄く目を開いた。


    伝えなければ。
    今、この人に。

    生まれてこのかたずっとかぶり続けてきたクリスタの仮面を見抜き、仮面の下の本当の自分を見ようとしてくれたこの人に。
    いい子じゃなくても、役に立たなくても、それでも良いのだと。
    自分のための人生を生きろと教えてくれたこの人にだけは、伝えたい。


    クリスタは…クリスタだった者は、見えない仮面を外してユミルに素顔をさらした。


    「私の名前…ヒストリアって言うの…」


    仮面の下に隠された本当の自分、ヒストリアの誕生であった。


    ヒストリアの告白に、ユミルは返答しなかった。
    ただ口の端を少しだけ上げたその表情は、穏やかに安らいで、満足げに見えた。
  50. 50 : : 2015/05/02(土) 03:32:47
    【エピローグ】

    ウトガルド城での一夜が霞むほどに、短い時間に色々なことが起こった。
    壁内に侵入していた巨人化能力者は他にもいたこと。
    それが同じく訓練を共にしてきた104期の仲間であったこと。

    彼らはなぜかエレンを拐かして壁外への逃亡を図り、エレン奪還のために調査兵団と憲兵団有志の混合兵団での作戦展開中にエルヴィン団長は自らの片腕を巨人に奪われた。
    エレンと共に拐われたはずのユミルは何故か彼らに味方して、一緒に壁外へと消えてしまった。

    そして、巨人にまつわる謎の鍵は壁外ではなく壁内の人間が握っていることがわかってきた。


    ヒストリアは残った104期生と共に新リヴァイ班に配属された。
    いい子のクリスタの仮面を脱ぎ捨てた自分に、仲間達がいささか戸惑っているのはヒストリアにもわかっていた。
    けれど、だからと言って取り繕おうとは思わなかった。


    もう、仮面は要らない。
    ヒストリアは無理に笑ったりしない。

    ユミルはユミルの意志で彼らに着いていった。
    彼女の人生なのだから、彼女がそう決めたのなら仕方ない。
    けれど、私はユミルが言ってくれたように生きよう。

    ヒストリアとして、胸を張って。


    そう決めたヒストリアの前で、リヴァイ兵士長は言った。


    「現在のフリッツ王家は本物の王家の代理みたいなもんで…本物の王家はレイス家だ」


    何を言われているのか理解できるまでにどのくらいの時間が流れただろう。
    同期の誰よりも賢いアルミンが、リヴァイ兵士長の言葉の意味を噛み砕いて質問する。


    「ヒストリアを女王に即位させると聞こえましたが…」


    リヴァイ兵士長は普段と変わらぬ冷淡さで応じる。


    「その通りだ。ヒストリア、感想を言え」


    感想?
    なんの?
    即位って…どういうこと?
    私は私。
    もう仮面は要らないと、そう生きていこうと決めたのに…。

    「私にはとても…務まりません…」

    返答したヒストリアに、リヴァイ兵士長はもともと凶悪な視線を更に冷徹に変えてヒストリアの胸ぐらをつかんで持ち上げた。


    「嫌か?じゃあ逃げろ。全力で逃げろ。俺たちも全力でお前を捕まえてあらゆる手段を使ってお前を従わせる」

    男性としては小柄なリヴァイ兵士長だが、人類最強と謳われる力は対巨人だけに発揮されるものではなく、持ち上げられたヒストリアは息ができなかった。
    呼吸のできないヒストリアの様子を見ても顔色一つ変えずに続ける。


    「どうもこれがお前の運命らしい。それが嫌なら戦え。俺を倒してみろ」


    パッと手を離され、ヒストリアは床に倒れこむとむせ込んで苦しげに喘いだ。


    「すべてお前次第だ、ヒストリア。従うか、戦うか…どっちでもいいから選べ…」


    運命。
    リヴァイ兵士長の言葉に、かつてのユミルの言葉が重なる。
    『運命をも覆すことだってできるはずだ』

    リヴァイ兵士長は、流されて、仮面をつけて一生懸命演じていたかつての私に戻れというの?


    「ただし…時間がねぇから今すぐ決めろ!!!」

    リヴァイ兵士長の恫喝が頭から浴びせられる。
    ヒストリアは反射的に応えていた。


    「やります!!」


    ヒストリアの叫びに、一瞬にして沈黙が訪れた。
    ヒストリアはリヴァイ兵士長と目を合わせることのないまま話し続けた。



    「私の…次の役は女王ですね…?やります。任せてください」


    また仮面をつけて生きていくの…?
    ヒストリアは自問する。
    これまでと同じこと。今度は女王の仮面をつけるだけ。

    本当に、それでいいの…?


    「よし…。頼んだぞ、ヒストリア」


    リヴァイ兵士長は作戦会議に戻った。
  51. 51 : : 2015/05/02(土) 03:59:10
    ヒストリアは作戦の話し合いに集中できずに、ただユミルとの約束のことを考えていた。

    『元の名前を名乗って生きろ』
    『生まれ持った運命なんてないんだと立証してやる』

    ユミル…私はどうすればいい?
    あなたの強さが、生き方が、今の私には必要なのに。

    せっかく仮面を取り払ったのに。
    今度は女王として新しい仮面をつけて生きるの?
    それしかないの?


    自問するヒストリアの胸の奥で、何かがチリチリと訴えていた。
    じっと耳をすます。
    次第に胸の奥のノイズは、懐かしい友の声になった。


    『お前さぁ、やっぱバカだろ?』

    懐かしい声は呆れた声色を帯びていた。

    バカとは何よ、せっかくただのヒストリアになれたっていうときに女王になれって言われたんだよ!?
    また仮面をつけて演じなきゃいけないんだよ!?
    そうじゃないと…リヴァイ兵士長は力づくでも私を従わせようとするだろうし…。
    どうしろっていうの!?


    『お前はお前だろ?』


    でも…女王になれって…


    『お前のまんま女王になりゃいいだけだろ?』


    ヒストリアの中のユミルは、いとも簡単に応えた。

    こんな…私が私のまま女王になっても、いいの?
    ヒストリアはなかった発想に、目から鱗が落ちた気がした。


    『お前がお前のまま女王になって不都合が出てきたら、そん時には女王なんてやーめた、って言ったっていいだろ』

    そっか…。そうなんだ。
    私は私なりの女王になれば良いんだ。
    女王になるのに仮面は要らない。


    私は私のやり方で女王になろう。

    そうしていつか
    ヒストリアとして胸を張って
    あなたに会いに行くね、ユミル。


    その時まで
    ガラスの仮面は封印したまま。

    ヒストリアとして生きていこう。


    真の王位継承者は、人知れず決意した。




    【完】
  52. 52 : : 2015/05/02(土) 04:10:54
    途中長らくおやすみいただきましてのヒストリアお誕生日記念、ようやく終了にこぎ着けました…。

    視点を替えた原作世界とおんなじストーリーで、登場人物の心理描写に特化した作品にお付き合いいただいてありがとうございました。

    執筆に時間がかかりすぎなのと、SSにしては台詞が少ないので読みづらい部分もあったと思います。


    ここまで見捨てず応援してくださった皆様に感謝です。ありがとうございました。

    コメント解禁しますので、気が向いたら感想などお願いします。
  53. 53 : : 2015/05/02(土) 08:25:48
    執筆お疲れ様でした。

    いやあ、読みごたえありました。


    そして、原作をここまで忠実にしかし、ヒストリア視点での物語におとしこんだなすたまさんに脱帽です。

    まるで、公式のノベルスを読んでいるような気分になりました。


    とにかく、お疲れ様でした(^-^)
  54. 54 : : 2015/05/02(土) 18:57:18
    >>53
    ありゃりゃぎさん、ご無沙汰している間も応援いただいて、お星さまも付けていただいてありがとうございます!

    原作部分が長すぎてちょっと間延びした感が否めないのと、切り良くウトガルド城まででお話を終わろうかとも思ったんですが…。

    「私の次の役は女王ですね。やります、やらせてください」の名台詞の辺りでまた女優になっちゃうよなーとか考えてたら、だらだらとエピローグに突入していました…。

    ヒス子、原作でもかなり活躍しているようなので、か弱いキャラを脱してそのままありゃりゃぎさんちのヒスゴリラに至る勢いで生き抜いてほしいです(笑)
  55. 55 : : 2020/10/27(火) 14:00:40
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
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    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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