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自宅警備員が呼び出されたのは異世界でした

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  1. 1 : : 2014/12/25(木) 05:53:15
    皆さん元気ですかぁぁぁぁあああああ!

    登録してから早6ヶ月...小説家になれる見込みも出てきました

    そこで6ヶ月を記念しましてキキ蟻隊長の全身全霊をかけた作品を書きたいと思います(多分)

    なお、このシリーズが完結しましたら引退する予定ですので...50%の確率で


    感想、アドバイス、あげ↑↑は

    http://www.ssnote.net/groups/863/archives/5
    ここまで(あげ↑↑は冗談ですよ)
  2. 3 : : 2014/12/26(金) 03:09:48
    僕の1番古い記憶は俺が公園から帰る途中の時の事。


    帰る途中、道の隅で座り込んでいる女の子がいた。


    女の子は泣いていて『私を見つけて』と言っていた。


    この時の俺はまだ小さくて『見〜つけた!』と笑って指を指した。


    一切疑問に思わなかったんだ...彼女の言葉『私を見つけて』に...


    いきなり話しかけられた彼女は驚いたのか顔を勢いよくあげて俺の顔を見た。


    でも、俺の記憶の中の彼女の顔は白いもやがかかっていた。


    この時、彼女はどんな顔立ちで目は何色
    口は小さいなど一切分からない。


    そう言えば、顔だけじゃない。


    髪色、彼女の服装、外観から見た年齢、声など何も覚えていない。


    この時、彼女はどんな表情を俺に見せてたのだろう。


    でも、俺には彼女は泣いてるように思えた。


    俺の想像の中では彼女は泣き顔を俺に見せながらノイズのかかった声でこう言ったんだ。






































    『勇者様、見つけてくれてありがとう。』と



    その後の少しの間の記憶がない。


    さっき彼女がいた場所を見るとオルゴールが落ちていた。


    そのオルゴールは俺の知らない音楽をずっと流していた。
  3. 5 : : 2015/01/04(日) 16:43:54
    神野 信斗《かみの まこと》が目を覚ました。


    一番最初に視界に入ったのは電源付けっ放しのパソコン


    画面には『Game over』の文字。



    「そうだった。昨日、限定クエストに没頭してたんだった。」



    多分、眠気に負けクエストの途中で寝てしまったんだろう。


    俺宛に届いた数々のダイレクトメッセージの数。


    どうせ、足を引っ張った俺に対する誹謗中傷の数々だろう。


    そう思い全てのダイレクトメッセージを削除した。


    そして、信斗は椅子から立ち上がりベットにダイブした。


    ベットで寝転がると疲れが少し和らぐ。


    信斗は枕元にあるオルゴールを取った。


    今時、オルゴールはないかもしれないが手放せないんだ。


    彼女に関する大切な物だから...


    オルゴールを眺めているとパソコンがまだ起動してる事に気が付いた。


    消すために立ち上がりパソコンに近付くと


    知らないゲームの登録画面になっていた。



    「このゲームなんだ?名前を入力してください?」



    信斗は試しに自分の名前を入れてみた。



    「でも、怪しいよな...」



    そして、信斗がデリートキーを押した...はずだった。


    デリートキーを一回押せば一文字消えるのがキーボードが正しく仕事をしてる証拠なのだが


    デリートキーを何度押しても消えない。



    「なんだ?キーボードが壊れたか?」



    信斗は何回もデリートキーを押すがやはり消えない。


    信斗が諦めて電源を落とそうとしていた時に右手が軽くなった。


    何か、持っていた物を手放して右手が軽くなったかのような...


    信斗が右手を視界に入れた瞬間に結構重たい物がキーボードに落ちる音がした。


    恐る恐るキーボードを見ると偉そうにキーボードに鎮座するオルゴール


    オルゴールの鎮座してる位置はエンターキー


    慌てて信斗が画面を見ると『Welcome』の文字。


    つまり、登録が完了したのだ。


    画面は次々切り替わっていく。


    ドラゴンなどのモンスターに人間が立ち向かっている王道のシーン



    「最悪だ...こんな、怪しさ満載のゲームに登録するなんて」



    信斗は力を椅子に座って脱力した。


    画面を眺め続けていると女キャラが出てきた。


    その女キャラは泣いていた。


    その女キャラの右手にはオルゴール


    左には剣を持っていた。


    そして、画面は真っ暗になり文字が映った。



    『Save the brave man world』と



    「勇者、世界を救え?王道的なゲームなのか?」



    キーボードの上に落ちたオルゴールを保護して壊れた場所がないか点検していた時


    よく、アニメなどで見る魔法陣的な幾何学模様がパソコンの画面に映った。


    その模様を見たのを最後に信斗の意識は途絶えた。
  4. 6 : : 2015/01/06(火) 06:17:07
    信斗が気が付くと目の前には信斗を覗き込む一人の無表情の女の子


    見た目年齢は13歳ぐらいだ。


    目は澄んで綺麗な青色


    髪は茶髪に所々金髪が混ざってる。


    小さな女の子が俺の顔を覗き込んでいた。


    俺は妹はいないしこんな小さな女の子を連れ去るような事をした覚えもない。



    「信斗様、お気付きになられましたか。身体に異常はございませんでしょうか?」



    女の子は自分より年上の男と目が合っているのに顔色一つ変えず淡々と尋ねてくる。



    「お前は誰だ?俺の部屋に何か用か?」



    俺の名前は母さん辺りが教えたんだろう。



    「私に名はありません。そして、ここは信斗の家ではございませんよ。」



    自称名無し少女がとんでもない事を言った。


    慌てて周りを見渡すとパソコンだけじゃなくベットにテレビなどもない藁が引き詰められた一室の部屋だった。



    「ここは何処だ?」



    「ここはグランブル。いわゆる、異世界です」



    「はぁぁぁぁあぁああああ!?」



    久しぶりに大きな声を出した瞬間だった。
  5. 7 : : 2015/01/06(火) 09:55:14
    自称名無し少女の説明によると


    ここはグランブルと言う街の家の一室でここは俺が暮らしてた世界とは違う世界と説明された。



    「信斗様、ご理解頂けましたか?」



    「もうちょっと考える時間をくれ。」



    「かしこまりました。」



    どうなってるんだ?俺が異世界に呼び出されたのは何故だ?


    それよりも目の前の少女は誰なんだ?


    何故、俺の名前を知っている。



    「お前はなんで俺の名前を知っているんだ?」



    俺が自称名無し少女に問いかけたら自称名無し少女は少し悲しそうな顔をしたような気がした。



    「覚えてらっしゃいませんでしたか...」



    「何処かで会ったことあったか?それだったらすまん。」



    「いえ、この“姿”で会うのは初めてなので仕方ないかと」



    んっ?この姿で?どういう意味だ?



    「私はオルゴールです。いつも、整備ありがとうございます。」



    この少女は何を言ってるんだ?自分をオルゴールなどと馬鹿げた事を言うなんて精神が病んでるとしか思えない。



    「正直な話、お前がオルゴールとは信じれない。真剣に聞くがお前は誰だ?」



    「いきなり、私はオルゴールだと言っても信じられないのは当然ですね。では、証拠というものを見せます。」



    そういうと自称名無し少女は立ち上がり身体から光を発し始めた。


    身体から光を発するなど人間ではない。逃げろと本能という警鐘が鳴る。


    しかし、逃げようにも身体を少しでも動かそうとすると激痛が全身を駆け巡る。


    信斗は目の前の信じがたい光景を見守る事しか出来ない。


    少しずつ光が収まってくるとそこにいたはずの少女はいなかった。その代わりにあったのは見慣れたオルゴールが落ちていた。


    そのオルゴールを持ち上げて観察してみるがどこもおかしい所は見当たらない。



    「本当にオルゴールだったのか?どうやって人間姿になってたんだ?」



    「私の機構回路に魔力を溜めると部分がありましてその魔力を使うことで人間の姿になることが出来ます。」



    疑問答えたのは手に持っていたオルゴールだった。心臓止まるかと思うほど驚いた。


    驚いて身体を少し動かしたせいで身体に激痛が走ってしまった...



    「魔力とかよく分からないんだが」



    「それだったら見ながら教えた方が早いのでステータスと唱えてください」



    見ながら?何を見るのか分からないが身の安全は保証してくれるのだろうか?



    「ステーキ(タス)



    「信斗様、ふざけるのは時と場合を弁えてお願いします。それと素晴らしいほど面白くありませんでしたよ。」



    オルゴールに怒られる日が来ようとは思ってもみなかった。


    にしても、自称名無し少女とかオルゴールと呼ぶわけにはいけないからな...



    「お前の名前はオルルだ!」



    「それは私の名前がオルルと言うことですか?」



    「そうだ!気に入ったか?」



    「いきなり、何を言うかと思ったら...早く、唱えてもらいたいものです...あと、ネーミングセンスが壊滅的ですね」



    今の言葉は大分ダメージがあるな...


    けど、ネジを巻いたわけでもないのに音楽が流れてるところを見ると満更でもなさそうだな。



    「何を笑っているのですか?早く、唱えてください」



    「分かったよ...ステータス」
  6. 8 : : 2015/01/07(水) 19:03:22
    名前:神野 信斗
    Lv1
    職業:従魔士,??

    種族:??

    能力値
    生命力:93/93
    魔力:34/34
    筋力:3
    体力:1
    知性:3
    敏捷:4
    運 :2

    所有能力(スキル)
    不明


    俺の頭の中に浮かんで来た俺のステータスであろう表示。


    能力値は分かるがこのステータスには色々と不明な所が多い。


    まず、職業が従魔士と???ってなんだよ。


    1人が職業って二つ出来るのだろうか?


    種族が???な時点で俺は何者なのだろう。



    何処から見ても人間だろ。人間と表示しろよ!



    「信斗様、いかがだったですか?」



    俺がステータスに気を取られている隙にオルルは少女の姿に戻っていた。



    「幾つか質問いいか?」



    「はい、何なりと」



    許可をもらったので質問を幾つかしよう。



    「俺の職業なんだけど。従魔士になってるけど従魔士ってどういう職業なんだ?」



    ???についてはスルーだ。


    ゲームでいうバグみたいなものだろう。気にする時間が勿体無い。


    この世界にバグが存在するのかは疑問だが身体の異常によるものだと推測している。


    「従魔士は名前の通り魔物を使い戦う職業です...従魔士は忌み嫌われる職業です」



    「嫌われているのか?」



    「従魔士は魔物と信頼関係を築き魔物との連携で戦う職業ですが従魔士のLv999になると魔物との信頼関係など必要ありません」



    「どういう意味だ?」



    「そこまで強くなった従魔士は魔物の意識まで従わせる事が出来るのです。つまり、絶対に裏切らない魔物の奴隷を魔物の強さによって個人差がありますが少なくても20体は従えられるでしょう。」



    なるほど...そんなに戦力があれば国一つを滅ぼす事も可能だろう。


    この職業はあまり口外しない方がいいな。



    「次の質問なんだが所有能力というのは全員が全員得られる物なのか?」



    「所有能力は選ばれた者のみが得られる物です。所有能力にも上級、中級、下級があるものもあります。」



    「所有能力は開花する時と言うのはあるのか?ピンチになったら所有能力に目覚めるとか」



    「絶対にないとは言い切れませんが可能性は0に等しいです。ところで信斗様の所有能力はなんだったのでしょうか?」



    1番聞かれたくない事を聞かれたな。


    自分に能力がないと言うのは才能がないと言ってる感じがして嫌なんだよな。


    言った方がいいのだろうか?


    オルル、この世界に詳しいしな...んっ?



    「そう言えば、なんでオルルはそこまでこの世界に詳しいんだ?」



    「それは私が元々この世界で作られたオルゴールだからです。」



    この世界で作られたオルゴール!?


    だったら、彼女もこの世界の住民なのか?


    信斗の脳裏に浮かぶのは情報がない少女。
  7. 9 : : 2015/01/09(金) 03:00:36


    「で、信斗様の所有能力はなんだったのでしょうか?」



    話題を変えたつもりだったが無理だったか。


    オルルの目が期待していると言ってるようだった。


    信斗は覚悟を決めて言うことにした。



    「実は俺は無能力なんだ。」



    白状したらオルルは驚いた顔をしていた。



    「えっ?そんなはずはないはずです。異世界から来た者には必ず強力な所有能力が付いてると言われているのですが...」



    「詳しく言うと所有能力の所が???って表記されてるんだよ。」



    「初めて聞く事例ですね...まだ、能力としては未完成なのかもしれませんね」



    能力としては未完成か...完成させるにはどうすればいいんだろう。



    「信斗様、これからどうするご予定ですか?」



    「これからか、まずは生きるための金をどうするかだな。」



    「それでは、酒場に行きませんか?」



    「俺はまだ未成年で金なしだぞ?」



    「酒場でギルド登録するんですよ」



    「酒場でギルド登録?ギルドでじゃなくてか?」



    「この街は小さい領地で成り立ってきますからギルドと酒場を一緒にしてるのです。」


    「そうなのか。ギルドで登録して依頼とかを受けて金を稼ぐのか?」


    「その通りです。では、信斗様、行きましょう。」



    オルルは立ち上がり手を差し伸べてきた。


    オルルの手は傷一つない色白の綺麗な手をしていた。


    その手を掴んで立ち上がった。


    その瞬間に頭に先ほどのステータスが浮かび上がって来た。


    名前:神野 信斗
    Lv1
    職業:従魔士,?王

    種族:?王

    能力値
    生命力:93/93
    魔力:34/34
    筋力:3
    体力:1
    知性:3
    敏捷:4
    運 :2

    所有能力(スキル)
    能力複写、?????



    どういうことだ?固定能力が一つ開花したのか?


    職業と種族に関してはまだ不明だけどな。



    「信斗様、どうかなされましたか?」



    信斗はオルルの声で我に返った。


    信斗は立ち上がるとオルルと共にギルドに向かった。


    所有能力の事はオルルには言えずに


    この時の2人は知る由もないだろう。


    いずれ、信斗がこの世界で名前を知らないほどの者になろうとは...


    それがいい意味で有名なのかも知る由がない。
  8. 10 : : 2015/01/09(金) 11:28:51
    酒場の扉の前まで来ると酒の鼻を突くような匂いが漂って来た。


    どうにも酒の匂いは好きになれない。



    「信斗様、入りましょう」



    オルルに促されるまま酒場の中に入った。


    酒場の中は想像したものより酷い有様だった。


    酒に酔い喧嘩を売る奴、酔いつぶれ地面で寝てる奴


    その光景を尻目にオルルは奥に進んで行く。


    信斗はオルルの後に付いて行った。


    いきなり、肩を掴まれた。


    振り返るとそこには高そうな鎧を来て女を2人も連れている


    俺がこの世で一番嫌いな人種のチャラ男がいた。


    髪は金髪だが所々色が落ちてるところを見たら地毛ではないだろう。


    いいカモを見つけたという顔をしていた。



    「なぁ、兄ちゃんは賭け事は好きか?」



    「悪いが俺は用事があるんだ...機会があったらまた誘ってくれ」



    オルルに視線を戻すとオルルは心配そうにこちらを見ていた。



    「一回ぐらいいいじゃねぇか〜」



    「俺には今手持ちがなくて賭け事なんて出来る状況じゃないんだよ」



    そう言ってもチャラ男は肩を掴む手を離そうとしなかった。


    それどころか逃がさないと言った風に掴む手の力を強めた。



    「賭けるのは金じゃないから安心しろ」



    「だったら何を賭けるんだ?」



    チャラ男は指を俺の方に指した。



    詳しく言うと俺の後ろにいたオルルを指した。



    「女だよ」
  9. 11 : : 2015/01/09(金) 12:13:39
    「今、なんて言った?」



    「聞こえなかったのか?賭けるのは女でいいと言ったんだよ。」



    聞き間違いじゃなかったらしい。


    腐ってやがるな...この世界も俺たちの世界も



    「遠慮しておく。オルルは大事な仲間だ。賭ける気はない。」



    「兄ちゃん、勝てばいい話だぜ?こんな機会滅多にないんだぞ!」



    チャラ男は断固として肩から手を離そうとはしない。



    チャラ男が肩を掴む手に力を込め俺が賭けに乗るのを待っている。


    正直、肩が痛い。



    「兄ちゃん、分かったぜ!」



    やっと、引いてくれたか。



    これでギルドの方に行ける。



    「二人賭けたらいいんだな!」



    チャラ男が後ろにいた2人の女の頭に手を乗せた。



    そのせいで2人が被っていた帽子がクシャクシャになってしまった。


    一人はショートカットで日焼けしており元気が良さそうな外見15歳ほどの女の子。


    もう一人が長く伸びた黒髪が印象的で前髪で目を隠している文学系女子と思われるこちらも外見15歳くらいの女の子。


    その性格が正反対そうな2人に共通するのはチャラ男を恐れている表情。



    「こいつら、今日買ったばかりの新品なんだぜ。それを勝てばタダでやるって言ってるんだぞ?最高にいい話じゃねぇか!」



    「お前は、彼女たちをなんだと思ってるんだ。」



    「こいつらか?こいつらは俺の力を主張する道具だ!」



    チャラ男に掴みかかろうとした時袖を引っ張られた。


    振り返ると今まで空気化していたオルルが袖を引っ張っていた。



    「貴方は従魔士です。従わせている魔物がいない状態なのに戦う気なのですか?」



    オルルは分かりにくく言っているが今の貴方では勝ち目はないと言っているのだろう。



    「オルル、俺はこいつが許せない。戦わせてくれ。」



    「別に戦いはいいのです。私が貴方の物だから賭けられても...でも、貴方が傷付くのは見たくありません。」



    「分かったよ。出来るだけ心配かけないようにするな」



    オルルの頭を撫でてチャラ男に向き合った。



    「表に出ろ。お前には俺に挑んだ事を後悔させてやる。」



    「後悔するのはどっちだろうな。」



    その言葉をスルーして外に向かった。
  10. 12 : : 2015/01/20(火) 22:53:33
    「俺だけが相手の職業を知ってるのは卑怯だから俺の職業も教えてやるよ。俺の職業は魔剣士だ。」



    どこか、自慢げに職業を告げるチャラ男を見る限り強い職業か希少な職業なんだろうな。



    「オルル、魔剣士ってなんだ?」



    「はい、魔剣士とは魔剣を扱える剣士の事です。魔剣とは剣によって違う呪いを持ってる非常に厄介な剣で魔剣士以外が扱うと魂が吸い取られるという噂があります。」



    「剣士か。予想外だな。」



    「おいおい、まさか怖気付いたか?」



    「まさか、始めようぜ」


    怖気付くどころか逆に勝ち目が出てきて嬉しいぐらいだな。


    魔法使い(あるか知らないけど)とか遠距離から攻撃してくるもしくは攻撃パターンが読めそうもない職業だったらお手上げだった。



    「じゃあ、始めるぜ!」



    チャラ男は何処から取り出したのか魔剣と呼ばれる禍々しい剣を振り回しながら近付いてきた。


    その時、俺は引きこもりになるきっかけになった恨むべき人物を頭に思い浮かべていた。


    その人物は信斗の父親


    信斗の一族はある流派を代々受け継いでいく習わしがあった。


    もちろん、信斗も受け継いだ。


    けど、その流派が問題なのだ。その流派は元々人殺しをするための流派だった。


    その情報を誰が何処から入手したのか学校に広まった。


    それから信斗は人殺し扱いをされ学校に居づらくなり学校をやめて部屋に引きこもった。


    まさか、そんな恨むべき父親に感謝をする時が来ようとは...



    「まぁ、今だけは感謝しといてやるよ。」



    「お前は1人で何をブツブツ話してやがんだ!!」



    考え事してるうちにチャラ男は眼前まで近付いていた。


    チャラ男は魔剣を振り下ろした。


    しかし、チャラ男は人を傷付けるのに少し躊躇したのか剣を振り下ろすスピードが落ちた。


    それが仇となった。スピードを落とした事に信斗に剣が到達するまでの時間が伸びただけではなく腕を掴む難易度も下がる。


    信斗はチャラ男の腕を掴んで剣を自分の眼前で止めた。


    その時、奴隷の子の悲鳴が聞こえたような気がした。


    そして、信斗は半回転してチャラ男の肘に一撃を加えて肘の骨を砕いた。



    「『半月』」


    『半月』は掴んでる腕の反対の腕で腕を引っ張り腕を強制的に伸ばさせ半回転した勢いをつけ肘で肘の骨を砕いくもしくは折る技


    相手は強制的に伸ばさせられている事により折れやすくなる。



    「あぁぁぁぁあああああ!腕がぁぁああ」



    チャラ男は剣を持つ手を折られた事により剣を落とし痛みに耐えられなくなりチャラ男は気絶した。


    その瞬間、信斗の勝利が決まった。


    そして、いつの間に集まったのだろうか野次馬達が信斗の勝利に歓喜した。


    少女達もまさか、魔剣持ちのチャラ男が一瞬でやられるとは思わなかったのだろう。


    今だ呆然としている。
  11. 13 : : 2015/01/21(水) 03:47:17
    「信斗様?今のスキルは一体なんなのですか?能力はなかったのではなかったのですか?」



    オルルが驚いた表情もせずに聞いてきた。


    少しぐらい表情を変えてもいいと思う。



    「今のはスキルとか言うファンタジーな代物じゃなくてただの体術だ」



    「体術?体術で魔剣士を倒したのですか?信斗様は本当に従魔士なんですか?」



    オルルの疑問に思うのも仕方ないだろうが今は話す気はない。


    キラキラした目で見ても教えられないものは教えられないんだ。
  12. 14 : : 2015/01/24(土) 02:28:11
    「あ...あの、すみません」



    恐る恐ると言った風にショートカットの女の子が俺を見上げるように話しかけてきた。


    さっきから視界の右端らへんに変な文字が浮かび上がってるのが不快過ぎる。



    >奴隷を手に入れた。


    本当に不快な気持ちにさせる言葉だな



    「ご主人様?何を考えられていらっしゃるのですか?」



    「すまん、無視してたわけじゃないんだ。」



    俺はこの子のご主人様...ご主人様?


    この子のご主人様はあのチャラ男じゃなかったか?



    「信斗様、彼女たちは賭け事にBETされた物です。BETされた物は勝った者の物となります」



    背後から小声で説明をしてくれるオルルはありがたいんだが...BETとか分からない単語を使わないでほしい。


    つまり、金の代わりに彼女たちを賭けたから賭けに勝った俺の物になったと言うことだろうな。


    さっきの表示もこれで納得出来る。


    なんで、こんなに俺は冷静に物事を判断してるんだろうな。


    パニックを起こすのが普通なんだろうけど...あの世界から解放されたと思うとなぜか清々しいんだよな。



    「ご主人様、申し遅れました!私、ベルカと申します。ポニーテールの子がリリーです。」



    ショートカットの子がベルカでポニーテールの子がリリーか。


    ちなみにリリーはベルカを盾にこちらを見ている。


    凄く居心地が悪い。



    「ご主人様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」



    「俺の名前は...んっ?」



    名前を言おうとした瞬間に背中を小突かれた。



    「オルル、何か用か?」



    「信斗様、名前は偽名になされた方が賢明だと思います。」



    「何故だ?」



    「この世界では稀に異世界から召喚される者たちがいます。その者たちは皆強力な所有能力を持っていると言うのは話しました。」



    「確かに聞いたな。それがどうかしたのか?」



    「強力な所有能力者は戦争に使うために奴隷兵器にされたりただのコレクション目当てに奴隷にしようとする輩が大勢います。強力な所有能力者は高く取引されるので奴隷商人などはどんな手を使ってでも手に入れたい商品なのです。」



    「それと偽名との関連性が分からないんだが。」



    「少し訂正します。偽名は言い過ぎました。この世界に合った名前にするために名前を少し変えた方がいいと思われます。」



    あぁ、《まこと》という名前はこの世界の人間ではいないかもしれないが異世界人だったら珍しい名前ではないのかもな


    《まこと》と名前の異世界人を扱った事の奴隷商人などは《まこと》という名前を聞いたら異世界人かもしれないと俺を襲う可能性があると言うわけか。



    本名名乗れないなんて厄介な世界に来たな。
  13. 15 : : 2015/01/24(土) 03:57:28
    と言っても偽名...偽名か。


    俺のネーミングセンスが問われる事態が訪れようとは...



    「すみません、お名前を聞かない方がよろしかったですか?」



    「そんな事はないぞ...俺の名前は」



    色々考えたが俺にはこの名前がいいだろう。



    「俺がクライムだ。」



    クライム、罪...俺にピッタリの名前だ。



    「それとベルカ、ご主人様はやめてくれ。」



    「不快に思われましたか!?申し訳ありません!どうか、殺すのだけはお許しください!」



    謝りだしたかと思うとベルカは服に手をかけた。何をする気だ?


    慌てているから頭に被っている帽子が落ちそうになっている。



    「不快になったわけじゃないし殺しもしない!」



    「本当ですか?」



    「あぁ、神に誓ってやる。」



    ちなみに俺はキリスト教徒でもないし仏教徒でもないから神など信じてない。


    だが、信じてくれたのかベルカは安心あいた面持ちで顔をして服から手を離した。


    ベルカは今日下着着けてないのか。ご馳走様でした。


    ちなみにベルカは結構巨乳だ。


    リリーは大きくもないが小さくもないちょうどいい大きさだ。


    オルルは幼い顔に合った大きさだ。



    「これからはどうお呼びすればよろしいでしょうか?」



    「クライムで頼む。」



    「主人を名前で呼ぶなんて主人に対する侮辱を表します。それは出来ません。」



    「俺がいいと言ってるんだ。クライムでいい。」



    「それは出来ません。」



    ムムッ、意外に頑固だな。


    ご主人様は流石に嫌なんだよな。距離を感じる。
  14. 16 : : 2015/01/26(月) 22:34:59
    「“クライム”様、ギルドに向かいましょう。」



    オルルが次の行動を促してくる。


    それより、俺の壊滅的なネーミングセンスで付けた名前を様付けされると恥ずかしいな。


    ここは名前の問題よりこれからの生活費の問題を片付けるべきか。


    と言うか、奴隷から解放してあげればいいんじゃないか?



    「オルル、奴隷を解放するにはどうすればいいんだ?」
  15. 17 : : 2015/01/28(水) 23:26:07
    オルルは立ち止まり少し思案した表情になった。


    考えてる顔は幼いが何処か大人びていて可愛らしい。



    「奴隷を解放する方法は奴隷解放という能力を持った奴隷商の元に行き解放する方法がございますが...」



    何故か、途中で言葉を切るオルル。



    「奴隷を解放するのには奴隷達の同意が不可欠です。ですから奴隷を解放する事は不可能かと思われます。」




    「どういう事だ?彼女達も自由になった方が嬉しいだろ。」




    「本当にそうでしょうか?奴隷は解放されても所持してる物はありません。元奴隷を雇う商会なんて少ないでしょう。」




    なるほど、確かにそれだったら同意する奴隷は少ないだろう。



    「それだけでも奴隷は生きにくいのに彼女達は亜人です。」



    ................亜人って何?
  16. 18 : : 2015/02/02(月) 20:07:20
    「亜人とは、人間の姿をしながらも人間とは異なる特徴を持った生物です。」



    人間に似てるが人間とは違う生き物?


    頭が混乱するような言い方だな。



    「人間と異なる所はたくさんありますが最大の特徴は帽子で隠している耳とスカートで隠した尻尾です。」



    オルルがリリーの帽子を叩き落とした。


    咄嗟の事でリリーも呆然として帽子を抑えることも出来なかったようだ。


    リリーの頭には帽子の代わりに猫耳が装着されていた。
  17. 19 : : 2015/02/28(土) 03:41:55
    「あぁ...いやぁぁああああ!見ないで下さい!!!」



    リリーは、一拍遅れて悲鳴を上げて地面に座り込んだ。


    手で耳を隠そうとして、凄くと取り乱している。



    「捨てないで...ちゃんと働く、ちゃんと手伝う。望むなら...よ、夜のご奉仕もするから...捨てないで」



    リリーが泣きながら懇願してくる。


    リリーが強く引っ張るせいでフード付きパーカーが伸びてきた。


    奥では、慌てた様子であたふたとするベルカがいた。
  18. 20 : : 2015/03/13(金) 06:41:28
    一拍置いて、ベルカも飛び付くように密着してきた。


    ベルカの凶器的な胸の弾力が俺を翻弄してイケナイ事をしている気分になった。



    「オルル、二人が取り乱してる理由を教えてくれ。」


    「二人が取り乱してる理由は亜人である事がクライム様にバレてしまったからです。」



    もっと、分かりやすく教える事は出来ないものかね。


    遠回しに言われても試されてるような気分になるだけなんだよな。



    「亜人とバレたら何か不都合でもあるのか?」


    「この世界では、つい最近まで亜人と人間の戦争が起こっていましたがある人物の戦争介入によって、人間側の勝利で戦争は終結しました。」


    「おい、待て。つい最近の事をなんでお前は知ってんだよ。お前は、最近までオルゴールとして俺といただろ。」


    「つい最近と言っても100年前のことです。貴方が産まれてもいない時のお話です。」



    それをつい最近と言えるオルルは何歳なんだろうな。


    見た目ロリなのにな...合法ロリか。
  19. 21 : : 2015/03/14(土) 04:05:30
    「そして、戦争に負けた亜人は奴隷として人間に捕まりました。大半の人は、戦争で死んだ親しい人の恨みを亜人に対して持っていました。」


    「それで、子供は亜人は迫害するものだと思い込み亜人の迫害は続いて来たと。」


    「そういう事になります。亜人だとバレたら酷い場合だと殺される場合もあります。」




    なるほど、人間の深層心理が如何に怖いかよく分かった。


    それだったら、二人の取り乱した意味も分かる。


    俺は、ベルカとリリーに向かい合って、出来るだけ威圧感を感じさせないように笑顔を浮かべた。




    「ベルカ、リリー、俺が怖いか?」


    「怖いよ...人間は、みんな怖いよ。」


    「正直に言いますと少し怖いです。」




    正直に告白してくれる2人。


    素直でいい子だ...なのに、なんで迫害されないといけないんだ。




    「だったら、少し...少しずつでいい。俺の事を信じてくれないか?」


    「す、少しずつ?」


    「無理して名前を呼ばなくてもいい。無理して敬語を使わないでいい。自然体で話せるまで距離を取ってくれてくれてもいい。」


    「二人から、俺に接してくれるように俺が努力する。我が儘も出来るだけ叶えてやる。」


    「お前をこの世界がどんなに否定しようが俺一人だけはお前ら二人を肯定してやる。」


    「で、ですが...私達は亜人です!!ご主人様まで迫害されないという確証はないのですよ!!」




    こんな時に自分の心配するわけではなく他人の心配をするんだな。


    この時、俺は素直に彼女達を守りたいと思った。




    「その時はその時だ。お前らとならどこまでも落ちてやるよ。」


    「すみません。私が仲間外れにされてる気がするのですが。」


    「もちろん、オルルも好きなだけ俺に甘えてくれ。」


    「最初からそのつもりです。」
  20. 22 : : 2015/03/15(日) 05:50:12
    「うぅ....ご主人様は、馬鹿です。見知らぬ私たちのような奴隷のために迫害されてもいいなんて馬鹿の考えです。」


    「そうだな。」


    「馬鹿でお人好しで....そして、いい人です。」


    「いい人か...そう思ってもらえるなら嬉しいよ。」


    「私、ベルカはご主人様...クライム様にこの身を捧げます。」




    身を捧げるほど信用してくれていいんだが道の往来でそれを言うと周りの目が痛いよな。


    というか、すっかり忘れてたけど酒場の前で亜人とバラしてるけど大丈夫なのか?
  21. 23 : : 2015/03/20(金) 05:54:46
    ファンタジー開始早々に奴隷をゲットしたおかげで問題が増えた。


    問題1は、元々、ギルドに来たのはお金を稼いで今夜の宿代と食事代を稼ぐためだ。


    しかし、二人分ならまだしも四人分を稼ぐことは出来るだろうか?


    問題2は、服装だ。


    彼女達は、ところどころ破れた服を着ていた。


    大事な部分が隠せているとはいえ、このままの姿は目に毒だ。


    この問題にもお金が必要となる。


    そして、問題3。


    これが一番の気がかりだ。


    このメンバーで依頼がこなせるかだ。


    リリーとベルカには失礼だが期待が出来ない。


    先程のチャラ男との戦いの時に悲鳴をあげるぐらいだ。


    戦いを間近で見た事がない証拠だ。


    そして、オルルは...見た目が幼女なだけ期待が出来ない。


    そして、俺だが...正直のところ分からない。


    四人分の一夜を過ごすための金額を稼ぐためには上位ランクの依頼をこなす必要があるだろう。


    そんな化け物に素手で勝てるかどうかだ。


    まず、不可能だろう。だからと言ってな...諦めるわけにはいかないんだよな。


    ここは、オルルの力にかけるという一か八かの賭けに出るか。
  22. 24 : : 2015/03/21(土) 05:27:14
    「ギルドへようこそ。今日は、どのような用でございましょうか?」



    ギルドの受付嬢が営業スマイルを浮かべ訪ねてきた。



    「ギルド登録と依頼を受けたいのですが。」



    「ギルド登録ですね?四人全員登録なさいますか?」



    「はい。」



    「では、全員の職業を教えてください。」



    「はい、私が歌士でクライム様が"魔導師”。」



    ダウト。置いてきぼりで話が進んでいって口が挟めないが俺は魔導師じゃない。



    忌み嫌われる職業とか言ってたから嘘ついたんだろうけど。



    「あっ、私も魔導師です。」



    「私は..神官...」



    へぇ、神官とかも職業にあるのか。



    てか、神官...奴隷になってちゃダメだろ。
  23. 25 : : 2015/03/24(火) 05:01:45
    「はい、では登録を開始致しますね。皆様、右手の甲を上にして出してください。」



    全員、言われるがままに右手の甲を上にして差し出した。



    「では、始めます。△□○○☆...出来ました。」



    詠唱らしき部分の発音が一切分からなかった。



    そして、差し出した右手には何の変化も見られなかった。



    「うん?何か変わったか?」



    その疑問は、他の3人も同じらしく右手を凝視している。



    「見た目は変わりませんが『ギルドカード』と言っていただきますと手のひらにギルドカードが出てきます。」



    「『ギルドカード』」



    有無を言わさずに言われた通りにやると本当に手のひらから変な赤色のカードが出てきた。



    手のひらからカードが出るってどこかグロテスク臭漂うよね。
  24. 26 : : 2015/03/27(金) 03:14:21
    「これで登録は完了しました。依頼を受注なさいますか?」



    「はい。」



    「皆様は、最低ランクのFの依頼のみを受注してください。たまに緊急の依頼が入った時のみランクF以上の依頼を受注する事は禁止です。」



    「では、依頼を全て見せてください。」



    オルルに急かされるまま、受付嬢のお姉さんは依頼書の束を目の前に積み上げてくれた。



    ◆レッドスライム討伐 F

    ・レッドスライム10匹の討伐

    ・報酬 銅貨2枚

    ・場所 モンカッカ村周辺


    ◆ゴブリン討伐 F

    ・ゴブリン5匹討伐

    ・報酬 銅貨3枚

    ・場所 リンドウ村周辺



    ペラペラと見ていくが報酬が高いのか低いのか分からない。



    横目でオルルを見るとオルルは首を横に振った。



    いい依頼はなかったか...



    だったら、今日は、ゴブリンでも討伐して戦い方を覚えるのと同時に金を稼いで野宿するのが得策だな。



    「じゃあ、ゴブリン討伐を受注する。」



    「はい、ゴブリン討伐ですね。お気を付けてください。」



    その言葉を最後まで聞かずにクライム達四人はギルドを後にした。




    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    クライム達がギルドを後にしてから10分後。



    「ゴブリン討伐を今すぐにランクFからランクCに格上げしろ!!!」



    息を切らせながらギルドに飛び込んできた男が突拍子もない台詞を吐いた。



    「どういう事ですか?ゴブリンだったら剣さえ持っていれば一般市民でも討伐出来るほどの弱さです。ランクCはおかしいのでは?」



    すぐに受付嬢のお姉さんがその男に応対した。



    「確かにゴブリン自体は弱い...それによって、あまり危険視されないがゴブリンには厄介な特徴がある。」



    「厄介な特徴?」



    「村などを襲う際に自分達だけの力では返り討ちにされる可能性が高いので他の種族を挑発し村まで引き連れて逃げ村を襲わせるという狩りの方法を使う。」



    「じゃあ、今回はリンドウ町をモンスターを引き連れて襲うと?」



    「もう、リンドウ町は壊滅した...ゴブリンの引き連れてきた________



    男は、少し間を置いて種族の名前を告げた。



    ________キングオーク。ランクCのモンスターだ。」



    その瞬間、ギルドにいた全員は息を飲んだ。
  25. 27 : : 2015/06/03(水) 04:33:19
    そんな事がギルドで起きてるとは露知らずにクライム達一行はリンドウ町に着いていた。



    周りを見渡すと燃えた民家や住民達の亡骸が散乱していた。





    「クライム様、嫌な予感がします。これは、ゴブリン達が出来る行いではありません。」






    少し、警戒を顕にしながら警告してくれるオルル。



    それはそうだ。来る道中に詳しくゴブリンの生態を聞いていたが一般人でも倒せるから本来は依頼出される方が稀なモンスターだと聞いていた。



    だが、この惨状を見たらゴブリンの仕業ではないのが明白だ。



    地面に転がされた死体の中には装備が充実した探検者の姿もあった。



    ゴブリンが倒せる相手ではないはずだ。



    先程からこの悲惨な惨状を目の前にして、ベルカとリリーは戦意を喪失している。
  26. 28 : : 2015/06/04(木) 01:01:13
    俺とオルルは二人をその場に留まっておくように言い、亡骸の山に近付いた。


    出来るだけ装備を充実させることが狙いと金目の物があれば悪いが頂こうという魂胆だ。


    気分は盗賊だ。


    オルルが民家を捜索し、俺が亡骸を担当した。流石にオルゴールとはいえ、今は女の子の姿だ。


    任せるわけにはいかない。


    一人二人と捜索していくが血で服が汚れるだけで収穫はない。


    だが、3人目捜索を手に付けようとした時に違和感があった。


    なぜ、俺は死体を近くで見ているのにこんなに冷静なんだ?


    いや、ここだけじゃない。異世界に飛ばされた時もだ。


    驚きはしたが少しも騒がなかった。それどころか、冷静に自分が今置かれている状況を分析していた。


    混乱や恐怖と言った、人間にとって大事な物が欠けたみたいに...
  27. 29 : : 2015/06/16(火) 01:56:08
    「クライム様、どうかなさいましたか!?」



    俺が考え事をしていたのをどう誤解したか、慌てたオルルが俺の顔を覗き込んでいた。


    その右手には、銀色に輝くガントレットみたいな装飾品が...けど、リールを巻くような部分があるから、ただのガントレットではないのだろう。




    「オルル、右手に持ってるのはなんだ?」


    「これですか?これは、武器にもなるガントレットです。ルーカーと言われる部分に魔力を通すと中で巻かれている『王獣蜘蛛』の糸を自由自在に操れるとか」


    「ルーカー?リールの事か?」


    「はい。そうです。ですが、非常に魔力調節が難しくて、使う人は滅多にいませんが」


    「ふーん」
  28. 30 : : 2015/06/17(水) 04:41:03
    興味ないような返事を返すが、俺の意識はガントレット型武器に注がれていた。


    何故か分からないが目線を外したくても外せない。




    「クライム様、何か聞こえます」




    そう報告を入れながら、耳を澄ますオルルを尻目に俺の意識はガントレットから離せない。


    カチッという音で我に返った俺の右手にはガントレットが装着されていた。


    外そうにも、どうやって装着したのか外す方法が分からない。


    ボタンや金具のようなものは見受けられないし、引き抜こうにもキツくて無理だ。
  29. 31 : : 2015/06/20(土) 07:09:10
    「クライム...戦闘態勢に入って!嫌な予感がする!」




    先程までオドオドしてたリリーからは想像が出来ないほどの大声で注意を促してきた。


    その言葉を聞いて、オルルの警戒心が一層強まった。




    「クライム様、神官の予感は馬鹿に出来ません。警戒を怠らないようにお願いします」



    「あぁ、警戒は怠らないが...このガントレットの外し方を教えてくれ」




    オルルに見えるように右腕を上げ、ガントレットを見せる。


    オルルが外そうと手を伸ばすがガントレットに辿り着く前に止まった。



    理由は地響きにも似た足音が聞こえて、2mは越すであろう木の陰から顔を覗かせたモンスターを目前したからだ。


    まだ、100mも先にいて、こちらにも気付いてない。


    それなのに圧倒的な迫力に押され、逃げ出しそうになる。


    あのモンスターには勝てない。





    「なっ...あれはキングオーク!?どうしてここに」



    「キングオーク?どんなモンスターなんだ?」



    「キングオーク。討伐ランクC以上のモンスターです。オークの王種で...硬い皮膚に守られた強靭な身体だけでいうとBランクに匹敵するほど」




    ランクで表せれても強さは分からないが見ただけで分かる。


    丸腰+無能力の俺が挑んだら、一瞬で肉塊に変わる。




    「オルル、撤退だ。ギルドに戻るぞ」



    「はい。それが最善策ですね」





    俺とオルルは、キングオークにバレないようにリリー達の元へ戻ろうとした時。




    「ガガギ?」




    目の前に俺の腰ほどの身長をした緑色の小人が現れた。


    それも一体二体ではない。かなり沢山の数だ。





    「ゴブリン!?クライム様...不味いです。囲まれました」





    すぐさま、戦闘態勢に入るが状況は悪化した。



    沢山の数のモンスターが集まればキングオークに気付かれる確率は上がる。





    「GALALAAAAAAAAAA」





    そして案の定、キングオークはこちらに気付き、雄叫びを上げながら向かって来た。
  30. 32 : : 2015/06/21(日) 16:12:37
    キングオークが一歩踏み出す度に、響き渡る音でゴブリン達も遠くから迫る危険に気付いたのだろう。


    徐々に混乱が広がり始める。そして、我先にと逃げようとして、周りにいたゴブリンを押し倒したり、倒れたゴブリンを踏み潰し絶命に追いやったりと人間みたいなゴブリンを見て思う。





    「...醜い」


    「クライム様!?我々も逃げるべきです!」


    「いいや、お前は逃げろ。誰かが一人が命懸けで時間を稼がないと全滅する。それだけは避けたい」





    あの速さだったら逃げてもすぐに追いつかれる。


    誰かが犠牲にならないと全滅は避け切れない。






    「だったら、私が犠牲になります」


    「駄目だ」


    「何故ですか!!」





    声を荒げるオルル。そんな彼女を死なせたくない。ただそれだけと言ったら彼女は引かないだろう。


    キングオークは少し進路を変え、ゴブリンの大群が逃げた方へと向かって行った。


    このまま、こちらに来なければいいがその可能性は低そうだ。






    「オルル、俺は死ぬ理由を探してたんだ。俺が引きこもりになった理由は化け物扱いされて学校に行けなくなった。ただそれだけなんだ」





    危険な状況なのに昔話を始めた事をオルルは怪訝な顔もせずに静かに聞いてくれている。






    「そして、だんだんと怖くなっていった。周りから化け物に見えているんじゃないか。周りの怯えている目のように見えた。そんな、怯えているような目に俺は怯えていた」


    「怖かったんだ。普通とズレている事が 。何回も死のうと思った。けど、出来なかったんだ。無駄なプライドのせいで」


    「力のある俺が怖がって死ぬのはちっぽけなプライドが許さなかった。そう思いながら今日まで生きてきた。そして、女の子のために死ねる。こんなかっこいい死ぬ理由はないだろ?」







    これは嘘じゃない。俺は死ぬ理由を探してた。


    けど、今は探してはいない。彼女らと生きていきたかった。


    まだ短い関係だけどそう思える相手が出来たんだ。


    そんな事を考えると乾いた音が響いた。そして、少し遅れて頬に痛みが走った。


    オルルに叩かれたと認識したのは、少し経ってからだった。
  31. 33 : : 2015/06/22(月) 23:43:49
    「貴方は...自分勝手です。女の子を助けるために死んだらかっこいいんですか?名誉なことなのですか?死んだらかっこ悪いに決まってます。女の子を守れずに死んでいくのにかっこいいわけがありません」


    「貴方は言いました。『我が儘も出来るだけ叶えてやる』と。だったら、私の我が儘も叶えてください。一緒に生きて帰ってください!」






    必死に無表情ながらも声を荒らげて訴えてくれるオルル。


    そんな姿を見ていて思う。こいつらと生きて行きたい。


    でも、逃げ切れな______






    『へっへっへ、そんなことはないぜ』






    どこからともなく聞こえる声。


    声を主を探して周りを見渡すが近くにいるオルルと少し遠くの木の陰に隠れるリリーとベルカ、ゴブリンを全員殺したのかこちらに向かってくるキングオーク以外に生き物はいない。







    『どこ見てんだよ。下にいるだろ。お前の右腕に』
  32. 34 : : 2015/06/23(火) 14:57:04
    言われるがまま右腕に視線を落とすが、そこにはガントレットしかない。


    極度の緊張からくる幻聴かと思ったら、その声は幻聴じゃないかというかのように声のボリュームを上げて話しかけてくる。






    『ガントレットで合ってるぜ。俺は、呪われたガントレットだからな。そこらへんの糞装備とは一味違うんだよ」


    「一味違うどころか、変わり過ぎて俺の舌には合わないようだ」


    『へっへっへ、そんなことはないぜ。俺は、この世界を変える力を持つ者しか装備出来ない呪われた装備だからな。お前の舌は好みの味付けになってると思うぜ』






    なかなか、ノリのいいガントレットだった。


    軽口をたたくガントレットをどう対処しようか頭を抱える。






    『おいおい、そんなに嫌がらなくていいだろ』


    「嫌がるに決まってんだろ。呪われた装備って事は装着した瞬間に俺は呪われたってことだろ」


    『あぁ、お前は呪われたな。呪いは、一定の血を俺に飲ませるという簡単なことだ。一定時間、血を与えない場合お前は血を求めて暴れ回ることになるがな』


    「最強部類の呪いじゃねぇか」


    『その代わり、最強部類の装備を手にしたんだ。素直に喜べ。にしてもお前は、呪いの装備に好かれる体質にあるな」


    「人外に好かれても嬉しくない」


    『それはそうだな』







    何がツボったのか、声の主は楽しそうに声を震わせる。



    この間も、一刻一刻と死神の足音は近付いていた。






    『久しぶりにこんなに笑ったぜ』


    「それはよかった。それと少し黙っててくれるか。俺は、キングオークを倒す方法を模索してるんだ」


    『それだったら、俺を使えよ。呪いの装備は、代価がある代わりに強力な武器のなる。お前に俺が使いこなせれば、あんなモンスター肉塊に変えることなんて容易いぜ』







    全員が助かる光が見えた瞬間だった。
  33. 35 : : 2015/07/06(月) 04:19:36
    『いいか?俺様に魔力を注げ。そして、想像しろ。俺をどう動かしたいか。アイツをどうやって倒すかを』






    親切に自分の使い方をレクチャーしてくれるガントレットに耳を傾けていると服の袖を引っ張られた。


    顔を上げると心配そうな表情を浮かべるオルルがいた。






    「クライム様、危機的状況だからといって気を確かに持ってください。現実逃避は後ほどお願いします」



    『あぁ。言い忘れてたが俺の声はお前にしか聞こえないから、変に俺と会話してると装備品と会話する頭のおかしい奴と思われるぞ』







    それを先に言えよと言いたい気持ちを押さえ込み、オルルに大丈夫だと一言だけを言ってガントレットに集中した。


    ガントレットに付いたルーカーという器具に魔力を流し込む。


    糸一本一本隅々まで余すところなく行き渡るように慎重に魔力を注ぐ。


    注ぐにつれて、身体の中から何かがなくなっていくような不思議な感覚を覚えながらも魔力を注ぐことに成功した。


    何回か魔力が漏れたりして無駄な魔力を消費したがまだ余力はある。



    試しに魔力を操って糸を出してみるが目視出来ないほど細くて見えなかった。


    こんなのであの怪物を倒せるのだろうか。
  34. 36 : : 2016/04/10(日) 21:23:31
    『余裕だ。よく見てろよ。あの目の前にいる自分が強者だと疑わないあの豚が、自分が弱者だと気がつく瞬間をよ』





    ガントレットが笑いで震わせる声に少しイラッとしたが、ガントレットの言う通りキングオークに目を向ける。


    オークは多くの人間を虐殺しつくしてきたのだろう。


    人間に恐怖の欠片も抱かない。


    だったら、抱かせてやるよ。





    『歪ませてやろうぜ』






    人間を馬鹿にしたその顔を恐怖に歪ませてやる。






    『あはは、いいねいいね。今までの所有者、いやご主人様より素質がある。力がある。気に入った!!』







    ガントレットの声が脳内に響く。


    先程まで機械のような無機質な声音が鮮明なものと変わり、声が少女のような声に変わる。






    『契約完了だ、ご主人様よ』

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著者情報
agi9717

少女愛好家連盟会長《キキ蟻隊長》

@agi9717

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自宅警備員が呼び出されたのは異世界でした シリーズ

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