このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
ミカサ「私は何も言えなかった」―保育士見習いの物語―
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- 1 : 2014/12/23(火) 22:30:18 :
- ミカサ「私は何も言えなかった」―保育士見習いの物語―
ぶっきらぼうで、言葉足らずな女子大生ミカサが、保育士を目指す現パロです
あまり現パロと104期を書かない私ですが、新たな挑戦をしてみます
ネタバレは基本単行本
よろしくお願いいたします
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- 2 : 2014/12/23(火) 22:31:55 :
- 「ミカサ、もう出なきゃ行けない時間よ!」
爽やかな朝とは正反対、けたたましい朝の風景
きんきんした声で私を急かすのは、お母さん
私はミカサ・アッカーマン、19才の短大二年生
黒くて長い前髪を、きっちりピンで留めているつもり…なのに
「ミカサ!髪の毛ぐしゃくしゃじゃないの!前髪が長いのに切らないし!もう、母さんも忙しいんだから、きちんとしてちょうだい!」
「お母さん、これでいいの。ちゃんと留まってて邪魔じゃないから」
「まったく、顔も化粧っけ無いし、いい年してるのに無頓着すぎよ?」
お母さんはそう言いながら、私の髪を解かしはじめた
「どうせぐしゃくしゃになる…今日は教育実習だから」
「実習だからこそ、でしょ?!実習先の先生方に失礼だし、子どもたちだって綺麗な実習生の方が…」
私はお母さんの言葉に、むかっ腹が立った
「どうせ私は綺麗じゃない、ほっといてほしい。行ってきます」
つん、と顔を背けて、その場を離れようとした
次の瞬間―
「ミカサ!お弁当忘れてるわよ!」
「あっ…………行ってきます」
私はばつが悪いのをひた隠す様に、殊更強くドアを閉めた
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- 3 : 2014/12/23(火) 22:45:14 :
- 私は短大で、保育士になるための勉強をしている
実は、私の一番の夢はピアニストだった
でも、その夢は限りなく遠くて、到底叶いそうにないと思ったのは高校生の時
私は志し半ばで諦めた
そして、今は高校からエスカレーター式の短大の、幼児教育学科にいる
何故ピアニスト志望だった私が幼児教育学科へ行ったのか、それは…
私は子どもが好きだったから……ではない
この学科へ編入するには、上位の成績が必要で、私はその条件を満たしていたから
保育士免許を持っていれば、将来の職業も安定すると思ったから
私はこうして、この学校で一番手に職がつく学科を選んだ
とはいえ、子どもが嫌いなわけではない
一人っ子だった私は、兄弟姉妹という関係に憧れていて、特に弟か妹がずっと欲しかった
その願いは聞き入れられる事はなかった
仕方がない、うちは母子家庭だったから
今朝のようなやり取りは日常茶飯事
私一人を養育して、こうして短大にまで上がらせてくれた母に感謝をしながらも、口うるさい母を煩わしく思う事が多々あった
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- 4 : 2014/12/23(火) 22:49:25 :
- 短期大学の保育士課程は、とても忙しい
授業はすべての時間が必須科目で埋まっており、休み時間はない
英文科、国文科、初等教育科、栄養科など、すべての学科の中でも、私が通う幼児教育学科は群を抜いた忙しさだった
忙しいのは授業だけではない
たくさんの実習をこなさなければならないのだ
年に数回、長ければ一月に渡って、幼稚園や保育所、障害者福祉施設、児童養護施設…様々な実習をこなす
それがとても大変
毎日遅くまで実習に従事し、夜にはその日の事をレポートにまとめなければならない
泊まりがけで実習する事もある
他の学科の子達の様に、着飾って遊ぶ暇はない
いつもジャージや動きやすい服に身を包み、化粧気の無い顔で、必死に実習に励む
そんな今も、私は実習先へと重い足取りを向けていた
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- 5 : 2014/12/23(火) 22:57:35 :
- 『幸福の園』と呼ばれる児童養護施設に、今日から三週間実習に入る
児童養護施設は、様々な事情で親と一緒に暮らせなくなった子ども達が衣食住を共にする場所だ
私も片親だけど、今もこうして親元で暮らすことができている
親と暮らせずに施設にいる子ども達は、どんな様子なのか
私は心がずしんと重くなった気がした
私は、あまり話す方ではない
ぶっきらぼうで、慣れるまでは怖がる子どもがいたり、顔が怖いとか…言われた事もあった
にこやかな笑顔というものが、どうも苦手だった
私は優しくないのかもしれない
顔って性格が表れると言うから
しかも、今日からは親と暮らせない、寂しい思いをしているだろう子ども達相手だ
私みたいなぶっきらぼうで、顔が怖いとか言われる実習生が受け入れられるのか
不安しかなかった
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- 6 : 2014/12/23(火) 23:10:49 :
- 「ミカサ、おはよう!」
児童養護施設へ行く道中、私は背後からの声に振り向いた
「クリスタ、おはよう」
「今日から大変だよね、実習」
「うん、そうだね…」
私に声をかけてきたのは、同じ学科のクラスメイトの、クリスタ・レンズ
大きな瞳に小柄な体つき
女の私から見ても美少女だと言えた
「親と暮らせない子達、ちゃんと接していけるかなあ…」
クリスタは不安そうに俯いた
「あなたは大丈夫。いつもどの実習先でも人気で、引く手あまただから」
「そ、そんな事ないよ!」
「そんな事あるよ」
そう、クリスタは一度笑えば天使の様に可愛らしくて、今まで行った実習先でも大人気だった
子どもたちには勿論の事、実習先の先生方にも気に入られ、すでに就職先まで決まっていた
うちに来てほしいという依頼が数件あったのだ
私?
私にそんな話あるわけない
クリスタを見ていると、保育士は彼女のような人がなるもので、私みたいなぶっきらぼうで感情を出すのが苦手な人間は向いていないな、と改めて思い知らされた
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- 7 : 2014/12/24(水) 07:30:14 :
- どんなに向いていないと思っても、実習は先延ばしにはできない
資格だけでも取らなきゃ勿体無い
折角お母さんが苦労して入れてくれた大学なのに…
私はその一心で、夢でもなんでもない職の資格のために、実習に向かうのだった
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- 8 : 2014/12/24(水) 07:44:55 :
- その施設は、親がいない子ども達の棲みかだとはいえ、暗い雰囲気でもなく、見た目はごく普通の保育所の様だった
年齢層は保育所よりは上ではあったが
子ども達は朝食中だった様で、皆机に向かって食事を摂っていた
会話らしい会話はない様だった
「皆、静かに食べているね」
クリスタが小さな声で耳打ちする
今まで行ったどの実習先も、食事の時間は楽しいものだった
辺りは会話で溢れていた
ここは、なんだか違う
静かで、何処と無くよそよそしい様な、そんな雰囲気だった
「そうだね。皆小学生くらいだから、落ち着いているのかも」
私はぼそっと呟くように言った
その時だった
「君たちが今日から来る実習生さんかな?」
一人の人が歩み寄ってきて、私たちに声をかけてきた
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- 9 : 2014/12/24(水) 09:03:49 :
- 「はい!クリスタ・レンズです。よろしくお願いいたします」
クリスタは直ぐ様ぺこりと頭を下げて、挨拶をした
頭を上げた後のスマイルも忘れない
可愛くて、羨ましい…私はそう思った
すると、クリスタが肘でつんつんと私をつついてくる
そうだ、大事な事を忘れていた
「ミカサ・アッカーマンです。よろしくお願いいします」
私は頭を下げた
クリスタみたいな笑顔ができるわけもなく、何の魅力もない素の表情で…
「レンズさん、アッカーマンさん、私はこの施設の職員の、モブリット・バーナーです。今日からよろしくお願いします」
優しそうな男の人だ
隣をちらりと伺うと、クリスタの目がハート型になっている様に見えた
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- 10 : 2014/12/24(水) 10:17:24 :
- 「今から子ども達は、小学校に行くんだ。その間にオリエンテーションをする予定だから…あっ」
モブリット先生が私たちに話をはじめた時、先生の足元に誰かがぶつかってきた
「せんせえ~」
可愛らしい声でそう言う、おかっぱの女の子
モブリット先生は、しゃがんで女の子と視線を合わせて言葉を発する
「どうした?ニファ。ちゃんとご飯は食べたかい?」
「うん、食べたよ!先生、このお姉ちゃん達は新しいママ?」
私はニファと呼ばれた女の子の何気ない言葉に、胸を締め付けられた気がした
「新しいママじゃないなあ。先生だよ、ニファ」
モブリット先生は、ニファの頭を優しく撫でてやりながらそう言った
「ニファちゃん、私はクリスタ。よろしくね!」
クリスタはその場でしゃがんで、笑顔で自己紹介した
「クリスタ先生、よろしくね!えっと…その黒いお姉ちゃんも、よろしくね!」
ニファはそう言いながら、私の手をぎゅっと握った
「あっ…私はミカサ、よろしくね」
私も笑顔を作ってみた
うまく出来たとはお世辞にも言えないのに、ニファは笑顔を返してくれたのだった
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- 11 : 2014/12/24(水) 15:49:41 :
- ニファはしばらく私たちの側にいたが、やがて学校へ行くために部屋に戻っていった
「あの子はニファ、小学一年生だよ。一年前からここにいるんだ」
「明るい子でしたね。とっても可愛らしいし!」
クリスタは明るい表情でそう言った
だけど、モブリット先生は首を振る
「ニファは、夜になると不安定になってね。生活してきた環境のせいなんだけどね」
「環境…」
私は小さな声で呟いた
そうだ、ここは何らかの理由で親と暮らせない子ども達が生活している所
明るいニファにだって、辛い過去があるはずなんだ
あんなに小さいのに…
あの小さな体で、どんな思いをしてきたんだろう
私は、唇をかんだ
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- 12 : 2014/12/24(水) 15:50:33 :
- 「アッカーマンさん、大丈夫かい?」
私の様子に、モブリット先生が心配そうに声をかけてくれた
私より少し背の高い先生が、私の顔を覗いている
……恥ずかしい
場違いにも程があるけど、そう感じた
「だ、大丈夫です」
私は耳朶の熱さを隠すように、首を振った
クリスタも私の顔を覗いていた
その表情は、心配というよりは興味津々という様に見えた
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- 13 : 2014/12/24(水) 15:51:20 :
- 子ども達が小学校に向かい、静かになった施設内の一室
そこで、職員の先生方と私たち実習生のオリエンテーションが行われていた
「クリスタ・レンズです!よろしくお願いいたします!」
クリスタはいつも通りのスマイルで、はきはきと自己紹介をした
私も今度は忘れず、すぐに立ち上がって口を開く
「ミカサ・アッカーマンです。よろしくお願いします」
クリスタの後だと、ぶっきらぼうが余計に強調されるけど、仕方ない
私は精一杯の大きな声で、挨拶をした
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- 14 : 2014/12/24(水) 16:52:26 :
- オリエンテーションでは、入所している子ども達の現状について主に説明を受けた
いろいろな事情で親と暮らせない子ども達
その事情は、多岐に渡る
ネグレクト(育児放棄)、虐待、両親の不和、貧困…
どれも一度は耳にした事があったが、身近ではなく絵空事だった
小学校に行っても、差別をされて苛められる事が多いらしい
近隣の一般家庭からも、理解がなかなか得られず、一方的に悪く言われる事もある
施設側は親代わりではあるが、一般家庭からの苦情に何も反論することは出来ないらしい
家庭で満足に愛情を受けられなかった子ども達は、学校でもそんな扱いを受けているのか
そう思うと、私は胸がちくちくと痛んだ
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- 15 : 2014/12/24(水) 17:03:49 :
- オリエンテーションが終わり、実地の為に施設内の詳しい説明を受ける事になった私達
クリスタはいつもにまして笑顔だった
それはそうだ
だって私たちの教育係を担当してくれるのは、モブリットさんだから
どうやらモブリットさんを気に入ったらしい
彼女は今、珍しく彼氏がいないから
……いや、そんな事はどうでもいい、うん
モブリットさんが、ある部屋の扉を開けた
「ここが子ども達の部屋だよ。四人部屋になっているんだ。しかし、ちらかってるな…」
八畳ほどの部屋に、二対の二段ベッドが設えてある
ベッドの横や枕元、はたまた床にまで、たくさんの本やらぬいぐるみやらが乱雑に置かれていた
教育係のモブリットさんは、床に放置されている物を拾いながら苦笑した
確かに汚い
私は汚い部屋が嫌い
物が散乱していると落ち着かない
だから、ベッドの布団をきちんと直す作業に取りかかった
クリスタも、床に散乱したゴミを拾いはじめた
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- 16 : 2014/12/24(水) 17:20:45 :
- 「すまないね、掃除させてしまって」
結局施設案内そっちのけで、子ども達の部屋を順に掃除していった私たち
モブリット先生はすまなそうに頭を下げた
「いいえ!これも実習のうちですから。子ども達の部屋も見られたし」
クリスタは笑顔でそう言った
けど、私は…
「汚い、部屋。あんな所では勉強なんかまともにできない」
ぼそっと、思った事を言った
「ミカサ?!」
クリスタの緊張気味の声に、ハッと我に返る
しまった、いつもの悪い癖が…
そう、私は歯に衣を着せるということをしない
だから、いつも実習先でも遠巻きにされてしまうのに
私はこめかみを指で押さえた
何でまたやってしまったんだろう…
頭が痛くなりそうだった
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- 17 : 2014/12/24(水) 17:40:39 :
- 「すみません…」
私は頭を下げた
思った事は事実…だけど今言う話ではなかった
私はただの実習生、出過ぎた真似は嫌われるだけ
顔を上げるのは怖かった、けどずっと頭を下げっぱなしではいられない
ので、思いきって顔を上げた
すると意外な事に、モブリット先生の表情は柔らかいままだった
「いや、謝る事ではないよ。君の言う通りだ。あの部屋ではまともな生活を送れない。指導員が少な過ぎて、子ども達の部屋にまで気を配れていないんだ」
モブリット先生はそう言うと、困ったように首を傾けた
「では、私たちの仕事は決まり…まずは掃除」
私の言葉に、クリスタが相づちを打つ
「うん、そうだね!頑張らなきゃ!」
クリスタは握りこぶしを作ってそう言った
「そうしてくれると助かるよ」
モブリット先生は笑顔になった
それを見たクリスタの目は…
綺麗なハートマークになっている様に見えた
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- 18 : 2014/12/24(水) 20:27:03 :
- 昼食はお母さんが作ってくれたお弁当
いつも、私が好きなおかずばかり入れてくれる
白いご飯の上に、バターで炒めたコーンを乗せたコーンご飯がお気に入り
「それ、美味しいの?いつも食べてるよね」
クリスタが私のお弁当を覗いて首をかしげた
私は頷く
「うん。私は小さい頃からいつも、お弁当はコーンご飯」
「そうなんだ、変わってるよね。ちょっと頂戴?」
クリスタはそう言うと、口を大きく開けた
もしや、食べさせてと言っているのか
私はしばし迷ったけど、結局口にコーンご飯をいれてあげた
すると、クリスタは両手を頬に当てて、みるみるうちに顔を綻ばせる
「お、お、おいしーい!何これ新発見!すっごくはまりそうだよ!」
「そう、それは良かった」
「ミカサ、ありがとう!今度私も作ってみよう!」
クリスタはそう言うと、笑顔になった
その眩しいまでの笑顔に、私は思わず見入ってしまった
クリスタは、顔もしぐさも可愛いけど、決してぶりっ子じゃない
彼女は女友達の前でも、男の前でも、子どもの前でも、態度は変えない
それが、クリスタの尊敬すべき点だった
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- 19 : 2014/12/24(水) 20:46:18 :
- 「ところで、モブリット先生素敵だよね!大人だしさ」
クリスタはそう言いながら、頬に手を当てた
私は首を傾げる
「そう…?気が弱そうだけど」
「そうかなあ?同い年にはない大人の魅力があると思うよ―。それに優しいでしょ、さっきだってさあ」
クリスタは口を尖らせた
「確かに優しいとは思う」
「だよね!ミカサの事かばってくれたしね」
クリスタは私の頭をよしよし、と撫でながらそう言った
「でも、なんとなく頼りない。ひ弱そうだし」
「ひ弱って!ミカサはボクサーとでも付き合う気なの?モブリット先生は普通だよー!」
そう言って頬を膨らませるクリスタは、素直に可愛いと思える
「すぐに頭を下げるし、威厳がない」
「威厳がないのは、そうかもだけどさぁ…」
「そうかもじゃなくて、そう」
私はきっぱりそう言った
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- 20 : 2014/12/25(木) 08:35:31 :
- 「もう、ミカサは男に厳しいなあ。だから彼氏が出来ないんだよー。美人なのに!」
「彼氏なんかいらない。それに、美人なんてあり得ない」
クリスタの言葉に私は首を振る
人生の中で美人だなんて言われたこと、自慢じゃないけど一度もない
「ミカサは美人だってば!」
「……ありがと、クリスタ」
「ほんとだよ?」
気の無い返事に、クリスタは私の顔を覗きこんだ
大きくて青い瞳が心配そうに揺れていた
その目が、上辺だけでなく心底私を案じてくれている事を示していた
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- 21 : 2014/12/25(木) 08:42:43 :
- 「クリスタは優しいし可愛いから、誰とでも付き合えると思う。そう、あのひ弱そうな先生とでも」
私の言葉に、クリスタは顔を真っ赤にした
「ミカサ、な、何言ってるの?!」
「クリスタ、目がハートになってた」
私がうっすら笑みを浮かべながらそう言うと、クリスタは
「なっ、なってないし!もう!」
更に顔を赤くして叫んだ
やっぱりクリスタは可愛い、そう思った
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- 22 : 2014/12/25(木) 12:14:14 :
- 「でもさ、ミカサだってちょっと気になるんじゃないの?さっき顔真っ赤にしてたじゃない」
「さっきって、いつ?」
私は首を傾げた
「ほら、ニファちゃんの話を聞いてた時だよー。ミカサ、辛そうな顔してたでしょ。それで、モブリット先生が心配してくれたじゃない」
「……ああ、そんな事あった気がする。けど顔真っ赤になんかしてない」
思い当たる節は確かにあったものの、そ知らぬ振りを決め込んだ
「してたよ!絶対にしてた!私ミカサの顔観察したもん、間違いないよ!」
「…覗き見しないで」
「だって、ミカサのあんな顔初めて見たんだもん。可愛かったよ!」
クリスタはそう言いながら、私の頬を優しく撫でた
「やめて、くすぐったい…」
「さっきの可愛い顔、もう一回見せてよー!」
「可愛くないし」
私は恥ずかしさを隠す様に顔を背けた
「可愛いよ!」
クリスタは、私に優しい眼差しを向けていた
まさに慈愛と言うにふさわしい眼差しだった
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- 23 : 2014/12/25(木) 15:44:20 :
- 私たち実習生は、三週間の間に一人の子どもの世話をする役割を担った
クリスタは、今朝あったニファちゃんの担当になり、喜んでいた
私は、小学校六年生のユミルという女の子を担当するらしい
彼女がいつもいるという施設内の小さな公園に、モブリット先生と向かっていた
「ユミルは少々口が悪くてね。心根は優しい子なんだけど…なかなか他の子達と折り合えないんだ」
モブリット先生がため息まじりにそう言った
なんだか私は難しそうな子が当たるらしい
クリスタは人懐こい可愛い子につくのに…
なんとなく、世の中の不条理を感じてしまった
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- 24 : 2014/12/25(木) 15:57:06 :
- 「どうして、そんなに難しそうな子に私をつけるんですか?」
私は実習生
もっとやり易い子につくのが当たり前だと思う
だから思いきって聞いてみた
すると、モブリット先生は立ち止まって、何かを考える様に目を伏せた
怒ったんだろうか…心配になったその時、モブリット先生が口を開いた
「君ははっきり物を言う子だ。でも、根は優しくて、感受性も豊かだ。君になら、ユミルも心を開くんじゃないかと思ったんだ」
その穏やかな口調から繰り出される内容に、私は面食らった
「私はそんなにいい人じゃない…です。どうして会ったばかりなのに、そんな事がわかるんですか?」
「どうしてと言われると…勘だとしか言えないな。でも、間違っていないと思うよ」
モブリット先生はそう言うと、私に微笑みかけた
私はそれ以上何も言えなかった
クリスタが近くにいなくて、心底良かったと思う
もしいたら……真っ赤になった顔をまた観察されるだろうから
危ない危ない
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- 25 : 2014/12/25(木) 18:04:12 :
- 彼女は廃れた公園のベンチに座っていた
壊れたブランコに、これまた壊れたシーソー
錆びた小さい滑り台
確かにベンチくらいしかまともな物はない
「ユミル、今日からここに実習に来てくれている、アッカーマン先生だよ」
私はモブリット先生の隣で、頭を下げた
ユミルは私と同じ黒髪の、鋭い目つきの女の子だった
頬にはそばかすがちらついている
彼女の鋭い視線は私に向けられている
確かに、気が強そう…私、大丈夫かな
刺さるような視線にさらされながら、私の不安は胸のなかで増殖していく様だった
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- 26 : 2014/12/25(木) 18:16:12 :
- 「あんた、名前は?」
ユミルは見た目の雰囲気とは異なる、落ち着いた声色で私にそう言った
「ユミル、先生にあんたは…」
「モブリット先生は黙れよ。私はこいつに聞いてる」
モブリット先生が口調を注意したが、ユミルはそれを一蹴した
なるほど、確かに難しそう
私は本当にこの子と三週間やっていけるのか
不安が胸に留まらず、ともすれば目から滴になって吹き出しそうな衝動に、かろうじて耐えた
「私はミカサ」
「ふぅん、ミカサか。アッアッ…マンとか、卑猥だろ?だから名前で呼んでやるよ」
アッアッ、に妙なイントネーションをつけて、ユミルはにやけた表情を見せた
「卑猥?私の名字はアッカーマン。何処にも卑猥な所はない」
私は彼女の言葉を聞いた瞬間、何故か不安が吹き飛んだ気がして、きっぱりそう言い放った
「ユミル…」
モブリット先生が何かを言おうとしたけど、私がそれを止めた
これくらいなんてことない
相手にされないより、どんな形でもいい…こうして話しかけてくれる事が、私にとっては貴重だったから
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- 27 : 2014/12/25(木) 18:31:02 :
- モブリット先生が去った後、私はユミルとベンチにいた
ユミルはベンチに座り、私は立っていた
「なあ、ミカサ。座れば?」
「遠慮しておく」
私は彼女の要求に首を振った
「なんだよ、私の先生のくせに、私の隣に座るのが嫌なのかよ?!」
ユミルは私を睨み付けた
私はまた、首を振る
「違う。ベンチが汚いから…座りたくないだけ」
ベンチを指差しながらそう言うと、ユミルはあんぐりと口を開けた
そして次の瞬間
「わはは!確かにきたねえよな!」
彼女は大声で笑い始めた
「ちなみに、部屋も汚かった。何とかしなきゃいけない、と思わない?」
「思わねえなあ。そんな事注意された事もねえし」
ユミルは首を傾げた
「ならば、今日から毎日注意する。ので、清潔にして」
私のその言葉にユミルは
「げー!プライバシーの侵害だぜ!掃除のばばあかよ!ミカサ!」
「違う、私は先生」
「えんがちょ!掃除なんかしねぇよ!」
ユミルはそう言うと、あっかんべーをして走り去ってしまった
「あっ、待って!」
私は慌てて後を追いかけたけど、ユミルを見つけることは出来なかった
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- 28 : 2014/12/25(木) 18:37:46 :
- 結局ユミルはその日の夕方、私たちが帰宅するまで見つからなかった
「すみません、モブリット先生」
私が頭を下げると、先生は首を振った
「いや、ユミルが初対面の人に笑うなんて今までなかった事なんだ。すごいよ、アッカーマンさん」
先生はそう言って、私のその肩をぽんと叩いた
実習先で誉められたためしがなかった私に、急に降って沸いた誉め言葉
私は少し、いやかなり嬉しくなった
「明日からも、よろしく頼むよ」
「……はい」
私は頷き、施設を後にした
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- 29 : 2014/12/25(木) 19:03:01 :
- 「ねえねえ、モブリット先生となに話してたの?」
帰りの電車の中で、クリスタは私にそう問いかけてきた
「ん?ユミルに逃げられたから、謝っただけ」
「ほんとに?何だかいい雰囲気だったよー?」
「ないない」
私は首を振った
「でもさ、私、ミカサが先生の事気になるなら、協力してもいいよ?」
「余計なお世話。私はそんなつもりぜんぜん無いし。クリスタに協力してあげるよ、その気があるなら」
私の言葉に、クリスタはうーんと唸った
「確かに素敵だけど、ミカサが好きなら、優先しちゃう!」
「だから、余計なお世話だって!」
クリスタは案外頑固なんだ…
一度言い出したら聞かない時がある
事、恋愛に関しては…
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- 30 : 2014/12/26(金) 10:38:01 :
- 自宅の扉を開ける…真っ暗な室内
もう毎日見慣れた光景
小さな頃から変わらない
お母さんは毎日夜遅くまで働いている
介護福祉施設の看護師で、夜勤もある
寂しいと思う事は何度もあった
でも、口には出さなかった
女手1つで子どもを育てる苦労は計り知れない
それを、幼心にわかっていたのかもしれない
あの施設の子ども達は…私以上に寂しい思いをしているんだろう
私には計り知れない程の寂しさを、胸に抱えて生きているのかもしれない
そう、あの気が強いユミルだって…
私は暗い室内で、目を伏せた
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- 31 : 2014/12/26(金) 13:21:20 :
- 翌朝
今日は自分でお弁当を作る、ので早起きをした
時刻は朝6時
お母さんはまだ寝ていた
昨日も遅かったし、今日は夜勤、ゆっくり寝かせてあげたかった
うっすら朝日がカーテンの隙間からさしてくる
カーテンと窓を開けると、爽やかな風が頬を撫でた
大きく伸びをすると、新鮮な空気を取り込んで、体がやっと眠りから覚めてきた
「おべんとおべんとうれしいなー」
私は小さな声で歌いながら、いつものコーンご飯を作る
手際よく朝食の支度も整える
味噌汁と卵焼き、トマトときゅうりとレタスのサラダ、それに小さく切ったバナナをちょこんと添える
私は料理が好き
きっといい嫁になると思う…けど
まず、料理を作って食べさせる様な相手がいない
「まあ、世の中そんなもの」
私は一人呟いて、朝食に舌鼓を打つのだった
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- 32 : 2014/12/26(金) 20:36:26 :
- 今日も子ども達の朝食中に施設に入った
ユミルの姿を探したが、どのテーブルにもいなかった
クリスタは、ニファや低学年の子ども達と談笑していた
昨日は何となく暗いなと思っていた雰囲気も、クリスタが入ればがらりと変わる
彼女はムードメーカーなんだろう
私も一応皆に挨拶をして、ユミルを探すべく部屋に行った
でも、部屋にはユミルの姿はなかった
ユミルのランドセルも無い
部屋は相変わらずひっくり返っていた
掃除をしたい所だけど、とりあえずユミルを見つけて挨拶くらいしておきたい
昨日はさようならも言えなかったから
思い当たる場所といえば1つしか知らない
私は部屋を出て、その場所へ向かった
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- 33 : 2014/12/26(金) 20:50:08 :
- 昨日ユミルと初めて会った公園
そこに行ってみると、ベンチに座る人影が見えた
彼女は目を閉じていた
「おはよう」
歩み寄って声をかけると、ユミルは目を開けた
「よお…アッアッ…マン」
「変な呼び方やめて」
「仕方ないだろ、お前の名字なんだから」
ユミルはふん、と鼻で息をした
「名字はアッカーマン。ユミル、髪の毛後ろが跳ねてる」
私はユミルの無造作にまとめられた、ごわついた髪を手ですいた
手ぐしではどうにもならない状態だった
「直らねえよ。ずっとそんなんだしな」
「…リンスはしてるの?」
「してねえよ、女々しい」
ユミルはそう言うと、手ぐしをする私の手から逃れる様に、身をよじった
「女々しいって、ユミルは女でしょ。女々しくていいと思う」
「いやだね。女になんか生まれなきゃ良かったよ。女ってやなやつ多いからな」
「やなやつ?」
私はユミルの言葉にひっかかって、問いかけた
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- 34 : 2014/12/27(土) 09:01:58 :
- 「ああ、やなやつさ。同じクラスの女子なんか、いつも一人を寄ってたかっていじめてるしな」
ユミルは肩を竦めた
「ユミルは、いじめられてない?」
「私?知らぬ存ぜぬだよ。あいつらとは関わるだけ無駄だしな。それにいじめられてるも何も、私は学校では話さないし」
「どうして話さないの?」
私はユミルに問いかけた
彼女は私の目をしばらくじっと見つめた
そして、顔を不快そうに歪めた
「嫌いだからさ。学校のやつも、ここのヤツも、先生も、皆」
私を指差してそう言うと、ランドセルを乱暴に担いで、立ち上がった
「ユミル、いってらっしゃい」
「…………へっ」
ユミルは私の言葉に振り向きもせず、走り去ってしまった
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- 35 : 2014/12/27(土) 09:27:24 :
- ユミルが去った後、私は先生に伺いをたてるべく施設内に戻った
1日のスケジュールはだいたい決まっているけど、急を要する事があるか、念のために聞きに行く必要がある
先生の姿を探してうろうろしていると、子ども達がいなくなった食堂で後片付けをしている職員がいた
その中に、モブリット先生がいた
ので、私はそれを手伝う事にした
「アッカーマンさん、おはようございます」
先生は私を見つけるなり、笑顔でそう言った
私から挨拶をすべきだった
でも仕事をしている人に声をかけるのが何となく憚られた
それに、やっぱり人に話しかけるのがあまり得意じゃないから…
「おはようございます」
私は小さな声でそう言って、また食器の片付けに勤しんだ
「今朝はユミルを探していたみたいだね。見つかったかい?」
「はい、昨日の公園に」
私は先生の言葉に頷いた
「何か話をしたかな?また聞かせて欲しい」
「はい、わかりました」
私は先程のユミルとの会話を思い出しながら、ため息をついた
嫌いだと指をさされてしまった事が、想像以上に私の心にダメージを与えているようだった
怖がられるのはいつもの事だけど、いきなり嫌われるというのは、さすがに初めてだったから
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- 36 : 2014/12/27(土) 17:09:00 :
- 何とも不安そうな私に気がついたのか、モブリット先生は顔を覗きながら言葉を発した
「何かあったかい?」
私の事を案じてくれている表情と声色に、意図せず顔が火照る
「いえ、大したことではないです」
私はなるべく場違いな同様を隠すように、淡々と話した
「何か気になる事があったら、遠慮せずになんでも言ってくれよ?」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
不安と緊張の連続のこの実習で、この人の存在が私の心のオアシスになりつつあった
勿論、顔にも態度にも出さないけど
でも、顔には出ているか……
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- 37 : 2014/12/28(日) 01:03:41 :
- モブリット先生に、ユミルの学習態度について教えてもらった
ユミルはやれば出来るはずなのに、真面目に勉強をしないらしい
授業中も上の空
小学校からしょっちゅう呼び出しを受けていたが、最近は諦められたのか、連絡が全く無くなったらしい
あの部屋では勉強が捗るはずは無い
ただその事を置いても、ユミルは何事にもやる気を見せないのだという
好きな事も何も無い
だからいつも、あの寂れた公園のベンチにいるのだという
「何とかならないかと試行錯誤はしているんだけどね…心に傷を負った子どもの精神的なケアは、なかなか難しいんだ…」
モブリット先生はそう言って、深く息をついた
「そう、ですか。でも、ユミルは頭のいい子だと思います。だから、ゆっくり向き合ってみます。嫌われているけど…」
「嫌われている?ユミルが何か君に言ったかい?」
先生が首をかしげるので、私は正直にありのままを話した
先程の朝の公園での会話を
「ユミルは、皆嫌いだと言ってました。私は指をさされましたし…」
「そうか。ユミルのそれは口癖だから気にしなくていいよ。私もいつも言われてるからね」
モブリット先生はそう言いながら、肩を竦めた
「ほぼ初対面なのに、嫌われたと思いました」
「はは、ユミルは素直になれない子だからね。多目に見てやってくれないかな」
モブリット先生の言葉に何となく、私とユミルは似た者同士かもしれない、と感じた
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- 38 : 2014/12/28(日) 11:22:53 :
- 子ども達が学校から帰ってくるまで、部屋の掃除はもちろん、学習のためのプリント作成を手伝ったり、配布された本や衣類などを仕分けしたり、様々な仕事をこなした
施設の職員は子ども達の親代わり
担当する子ども達のために様々な取り組みをしていた
ただ、一般家庭の様に一対一で向き合う時間はほとんど無いと言っていいらしい
多いときで、一人で10人を担当せざるを得ない事もあるのだという
「慢性的な職員不足さ。何処の施設も同じだと思うけどね」
モブリット先生はそう言って、はぁと息をついた
疲れている様に見えた
「先生、大丈夫…ですか?」
いつも心配してくれる代わりに、という訳ではないけど、何となくそう言ってみた
すると先生は、はっとしたような顔をした
「ああ、ごめん。君に愚痴ってどうするんだよな。大丈夫だから、気にしないで」
力無く笑う先生を、私はじっと見つめながら言葉を発する
「疲れているなら、言って欲しい、です。言われた事ならなんでも手伝うから」
「………ありがとう、助かるよ」
先生はそう言うと、破顔一笑したのだった
-
- 39 : 2014/12/28(日) 12:38:21 :
- 四時頃、もうすぐユミル達高学年の子ども達が帰ってくると聞いて、私は施設の玄関にいた
数人の子ども達が帰って来たが、ユミルは一向に姿を見せない
施設に戻らず、何処かで道草でもしているんだろうか
私は玄関を出て、施設の門の所へ行った
すると、ゆっくりした足取りでこちらに向かってくる人影が見えた
私は思いきって、その人影に手を振ってみた
人影はユミルだったから
ユミルは私に気がついたのか、一瞬立ち止まったが、すぐに顔を背けて歩きだした
徐々に彼女との距離が近付く
「ユミル、おかえりなさい」
私はユミルにそう言った
「…………」
ユミルは何の反応も示さず、玄関の方へ歩いていってしまった
私は慌ててユミルの後を追った
-
- 40 : 2014/12/28(日) 12:45:24 :
- 「ユミル、今日は学校、どうだった?」
「………」
返事はない
ユミルは下靴から上靴に履き替えると、まるで煩わしいものを振り払う様に、頭を振った
「今日は一緒に勉強しよう」
「………やだね」
やっと返事が返ってきた
つんけんどんで、否定的な返事…だけど
私だってよく考えればつんけんどんだ
愛想もよくない
ユミルと同じだ
たとえ否定的な返事でも、ユミルが無視せず反応してくれた事が嬉しかった
「私、ユミルと勉強したい」
「お前は勉強出来るんだろ?大学生なんだろうが」
ユミルはちらりと私を見ながら言った
「ううん、私は勉強はあまり好きじゃないし、出来るわけでもない。音楽は、好きだった。けど今はそれも好きじゃない」
私は小さな声で、そう言った
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- 41 : 2014/12/28(日) 12:56:29 :
- 「勉強はしねえ。じゃあな」
「待って」
立ち去ろうとするユミルの手を、私はぎゅっと握った
ユミルの体が一瞬、ブルッと震えた気がした
「な、何だよ!離せよ!」
「ユミルが勉強を一緒にしてくれると言うまで話さない」
私は握る手に力を込めた
ユミルは抵抗しようと腕を捩ったが、しばらくしたらそれを止めた
「…わかった、一緒に勉強してやるよ」
「ありがとう、ユミル」
私は嬉しくて、握った手を上下に振りながらそう言った
「ただし、保健体育な。先生いろいろ知ってるんだろ?教えてくれよ。男女の営みについて」
前言撤回、私はムッとした表情をユミルに向けた
「今日やるのは算数。ユミルのテストの点数が酷いから」
「やだね、保健体育。子どもはどうしたら出来るのか。教えてくれよ、ミカサ」
「算数をやった後なら考えない事は無い」
私の言葉に、ユミルはにやりと笑った
「絶対だぜ?」
「うん」
私はこくりと頷いた
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- 42 : 2014/12/28(日) 14:29:44 :
- ユミルの部屋で勉強しようと提案したけど、却下された
ので、青空教室よろしく、公園のベンチを机がわりに地面にシートをしいて座り込んで勉強する事にした
「さあ、保健体育な。先生って彼氏いんの?」
「いいえ算数。分数がよくわかってないでしょ?分母を合わせるのからやろう」
私はユミルの言葉を速攻で却下し、算数プリントを彼女に示した
「分数なんか生きてくのに必要ないからわからなくていいさ」
ユミルは口を尖らせた
「……分数はいろんな所で使う。たとえば音楽の拍子とか」
「音楽なんか興味ないし」
「ユミル、約束…」
私の静かな、だけど有無を言わさない雰囲気の声色を理解したのか
「わかったよ…しつこいな、ミカサ。ちゃんと終わったら保健体育だからな!」
ユミルはそう言って肩を竦めた
「うん、わかってる」
私は至極神妙に頷いた
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- 43 : 2014/12/28(日) 15:22:47 :
- ユミルは思っていたよりも随分真面目に勉強した
理解できるまでは苛立ちを隠しもせず、毒舌をはいたり物に当たったりしたけど、しばらくしたら収まった
「ユミル、出来るじゃない」
「へっ、これくらい出来て当たり前だろ!」
「……じゃあなぜ、テストの点数が悪いのか」
私はぼそっと口を開いた
「めんどくせえから、適当にしただけだよ」
ユミルはぺろりと舌を出した
「やれば出来るんだから、今度からはきっちりやって。わからなかったら教える」
「……はーい先生。男女の営みについて…」
手をあげてそう言うユミルに私は
「あなたにはまだ早い」
きっぱりそう言った
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- 44 : 2014/12/28(日) 16:43:21 :
- 「勉強したら保健体育するって約束だろ?!」
「考えない事は無いって言っただけ」
私はつん、と顔を背けた
「うわぁ、嘘つきやがった!」
「いいえ、嘘はつかない。保健体育の教科書…ああ、バスケットボールについて、これなら教える」
「そんなもん教えていらねっ!私が知りたいのは男女の営みについてだってば」
ユミルはそう言うと口を尖らせた
「………男女の営みの何が知りたいの」
「えっとな、いろいろ。どんな感じとかさ!教えてくれよ、ミカサ」
ユミルは珍しく興味津々と言った面持ちで、私に食い下がった
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- 45 : 2014/12/28(日) 16:49:21 :
- 「…………どんな感じって、私にはわからない」
私はしばし躊躇った後、小さな声でそう言った
「へっ?!なんでだよ。勿体ぶるなよな!」
「勿体ぶってない。本当にわからないだけ」
私の言葉に、ユミルは目を丸くした
「ミカサ、お前処女だったのか」
「………悪い?」
私はそう言って、ふんと鼻をならした
「そうなのか!アッアッマンは処女か!こりゃいいな!」
ユミルは今まで見た中で、一番楽しそうに笑っていた
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- 46 : 2014/12/28(日) 16:58:56 :
- 「何がいいのか」
私は肩を竦めた
「いや、大人の女って遊びまくってるイメージしかねえんだよな。お母…ばばあも男にうつつ抜かしやがってな。昼間っからアンアンうっさかったからな」
私は愕然とした
親がそういう事をしたからこそ、私や子ども達がいるのは理解できる
だけど、子どもに聞こえるところでやるべきじゃない…はず
「そうだったの。大変だったね」
「知識もあって無いようなもんだったからな。変な声聞かされて、ヘドが出たさ。挙げ句の果てに………」
ユミルはそこまで言うと、言葉を濁した
「どうしたの?ユミル」
私は、急に暗い表情になったユミルの顔を覗いた
唇が血の気が引いたように、うっすら紫に変色していた
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- 47 : 2014/12/28(日) 17:02:58 :
- 「………なんでもねえよ、部屋に戻る。じゃあな!」
「あっ、待って、ユミル!」
私の制止を振り切って、ユミルは走り去ってしまった
何かがユミルの身に起こったのだろう
それはユミルが顔色を変えるような出来事なはず
私は、それ以上ユミルの過去を詮索してはいけない気がして、頭を振った
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- 48 : 2014/12/28(日) 21:36:03 :
- 帰りの電車の中で、私は物思いに耽っていた
ユミルとはあれから会えずじまい
今日もさよならの挨拶が出来なかった
モブリット先生に帰りの挨拶をした時、ユミルとの会話の話をするべきか迷ったが、止めた
クリスタは、隣で私の肩を枕に眠っていた
疲れたんだろう
明るく人気者の彼女は、実習中もいろいろと気を使っている
眠れる時に寝させてあげたい
私も眠たいけど…私まで眠ってしまったら、電車を乗り過ごすかもしれないし、可愛いクリスタが盗撮でもされたら大変
私は変な責任感の元、物思いに耽りながら、見るともなしに窓の外の移り行く風景を眺めていた
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- 49 : 2014/12/28(日) 21:50:33 :
- 家に帰ると、今日は部屋が明るかった
「ミカサ、おかえり」
お母さんの声がキッチンの方から聞こえてきた
食欲をそそるカレーのいい匂い
私のお腹がきゅう、と音を立てた
「ただいま、お母さん」
「今日はどうだった?大変だろうね」
「うん、いろいろとね」
私はそう言って、自分の部屋に入った
狭いけど整頓された綺麗な部屋
居心地のいい棲みか
机にカバンを置いて、洗面所で手と顔を洗う
ちらりと鏡を見てみた
愛想の欠片もない、暗い女子がそこに写っていた
「疲れてて、ひどい顔」
私は鏡に向かって笑顔を作ってみた
「………こわっ」
自分の笑顔を自虐しておいて、母のいるキッチンに向かった
夕食の手伝いのために
-
- 50 : 2014/12/28(日) 22:31:14 :
- 「カレー美味しい」
お母さんが作ってくれた牛スジカレーは絶品
牛スジをあらかじめ白ネギの緑の部分を入れて煮込んであくを取る
その煮込んだ牛スジのだし汁をカレーに加える
ただの水で作るより数倍コクが出る
「ミカサは牛スジカレーが大好物だもんね」
「うん、大好き。嬉しい」
私はぱくぱくと、あっという間に一皿食べ終えた
「凄い食欲ね。その割りには太らないからいいけど、ミカサは」
お母さんは微笑みながら、カレーのおかわりを入れている私を見ていた
「お母さんはもっと食べて太らなきゃだめ。痩せすぎ」
お母さんはとても華奢だ
普段はパワフルだから気にならないけど、やっぱり体を酷使しているから太れないんじゃないかって、心配してしまう
「太っちゃったら、服が着られなくなるじゃない!」
「一着くらいなら買ってあげる。就職できたら、ね」
私はそう言うと、カレーのおかわりをぱくぱく口に運んだ
「就職、そのうち決まるわよ。やりたいことやればいいんだからね?ミカサ」
「うん、ありがとう、お母さん」
私はお母さんの優しい言葉に、心の中がじんと熱くなった気がした
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- 51 : 2014/12/28(日) 22:48:23 :
- お風呂上がりにホットココアを飲みながら、今日の出来事等をレポートに纏めていく
「ユミル、かあ」
愉しげに笑うユミルと、ふてくされた様なユミル、そして辛そうなユミル
いろんなユミルに総じて言えるのは、喜怒哀楽がはっきりしている事
表情一つ一つがみずみずしい感じ
「笑うと可愛いんだけどな」
本人に言えば蹴飛ばされそうな事を口走ってみた
明日からは、ユミルの過去の傷口にあまり触れないように、ゆっくりじっくり向き合っていこう
あんな顔は、もうさせたくないから
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- 52 : 2014/12/28(日) 23:02:13 :
- 次の日も、その次の日も、また次の日も、ユミルに朝の挨拶は欠かさず、そしてそれをスルーされるのが日常になった
そんな態度も、三日たてば慣れるもの
私は何事もなく実習に励んでいた
あれからもユミルは、保健体育に執着していたけど、私はそれを全て煙に巻いた
だって私は本当にある意味知らないし
だから仕方ない、うん
-
- 53 : 2014/12/28(日) 23:26:12 :
- 実習から一週間と数日が過ぎたある日の事
私は朝からいつも通り施設で実習に励んでいた
でも今日はなんだか頭がぼーっとして、体の節々が痛かった
昨日夕方に本棚を運ぶのを手伝ったから、筋肉痛なのかな、とか考えながら、ユミルに教えるための算数プリントを作っていた
「アッカーマンさん、ちょっと手伝ってもらってかまないかな」
「はい」
モブリット先生に着いていってみると、子ども達が本を読んだりするスペースだった
「可愛い壁紙でも貼ろうかなと思うんだ。殺風景だろ?この壁紙を貼るのを手伝ってもらいたいんだ」
「はい、わかりました」
私は先生が持つ壁紙の角を持った
すると、先生が首をかしげる
「ん?アッカーマンさん、ものすごく顔が赤い気がするんだけど」
「え、そうですか?」
いや、今日はまだ赤面してないはず
だから大丈夫…だと思いたい
「ほっぺたが赤いよ。どれどれ…」
モブリット先生の手のひらが、私の額に当てられた
「!?」
悲鳴が出なかっただけでも誉めてもらいたい
ドキッとしてしまった
「アッカーマンさん、熱があるじゃないか。しかも凄く高そうだ。保険証はあるかい?」
「熱……はい、持っています」
「なら、今から病院へ行こう。ここは隣に病院が併設されているからね…ちょっと座って待っていてくれ」
そう、この施設は大きな総合病院に併設されていたんだった
モブリット先生は慌てた様子で駆け出していった
「はあ、何だかおかしいなあと思ったら、熱だったんだ…」
張っていた気が抜けたのか、急に体に力が入らなくなった
ソファに座っていることができず、体を横たえて目をつぶった
-
- 54 : 2014/12/28(日) 23:53:18 :
- 疲れのせいもあったのかもしれないけど、風邪だと診断された
結局病院にまでモブリット先生に付き添ってもらった
勿論最初は遠慮したけど、熱を測ると39度を越えていたから、お言葉に甘えてしまった
「すまないね、朝の時点で気がついてあげられたら良かったのに…」
モブリット先生はそう言って頭をさげた
「いえ、朝はさほどしんどくなかったんです。すみません、忙しい時に熱なんか出してしまって…」
「いやいや、慣れない事ばかりで疲れもたまってくる頃だろうしね。明日はゆっくり家で休みなさい」
モブリット先生は私にやさしげで、それでいて心配そうな目を向けていた
「はい、あの…ユミルは」
「大丈夫、ちゃんと伝えておくよ。何も心配しなくていい」
モブリット先生の言葉に、私は素直に頷いた
-
- 55 : 2014/12/29(月) 15:50:57 :
- 今日は結局、実習を早退する事になった
家に帰って直ぐに熱を測ると、やっぱり39度だった
「はぁ……薬飲んで寝てよう。子どもたちにうつしてなきゃいいな」
ふらつきながらもくすりと水を飲んで、パジャマに着替えてベッドに潜り込む
「ユミル、今日は学校どうだったんだろ…モブリット先生、やっぱり優しかったな…」
独り言を口にしながら目を閉じると、体が睡眠を欲していたのだろうか
数瞬後には夢の世界に入っていた
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- 56 : 2014/12/29(月) 15:59:34 :
- 次の日、熱はかなりましになったけど、もう一日だけ休ませてもらう事になった
今日一日ゆっくりすれば、明日には元気になれると思う
私は少し楽になったので、ユミルと勉強するためのプリント作りに精を出した
「ユミル、元気かな」
やはり彼女の事が気になった
明日はちゃんと朝からユミルに挨拶しよう
私はそう心に誓った
そのためには、しっかり水分を摂って休まなきゃいけない
私はプリント作りを切り上げ、ベッドに横になるのだった
-
- 57 : 2014/12/29(月) 16:30:16 :
- 次の日、すっかり熱が下がっていたので、私は施設に向かっていた
「ミカサ、大丈夫?まだふらつくんじゃない?」
「もう大丈夫、休んだ分しっかりやらなきゃ」
私は心配そうに顔を覗いてくるクリスタに、頷いてみせた
「そういえば、モブリット先生と仲良く病院へ行ったらしいじゃない!うらやましいよ!」
「あんなの、迷惑かけただけだよ…先生にうつってないか心配したし」
私はそう言って首を振った
「ええっ?!風邪が移るような事をしたの?!」
私の言葉にクリスタが身を乗り出してきた
「な、何言って…!」
「だって、うつる心配って……ちゅうしたんだよね?!」
「す、す、するわけないでしょ。クリスタ声大きい……」
電車内の視線が自分達に注がれている事と、クリスタの変な妄想のおかげで、私の顔は…
きっと熱を出した時より赤くなっているはず
「あはは!冗談冗談!さすがに仕事中にそんな事するような人じゃなさそうだしね、先生」
「仕事中でもそうじゃなくても、私にはないから」
私は肩を竦めた
-
- 58 : 2014/12/29(月) 16:37:45 :
- 「あー、ミカサは可愛いなあ。えへへ」
クリスタがなぜかそう言って、私の頭を撫でる
「ちょっ、ちょっと、私は子どもじゃない…」
「だって、可愛いんだもん!クリスタお姉さんがミカサの恋を応援してあげるからね!」
「恋って…!私はそんなつもりはないから!」
私はぶんぶん首を振った
「ま、実習中は真面目にやろうね!終わったら…ふふふ」
「クリスタ!余計なことはしなくていい!」
「まあ任せて!いい方法考えよっと!」
クリスタが目をキラキラさせながら、ふんふんと鼻唄を歌い始めた
彼女の強引さには、誰も叶わないんだよね……
-
- 59 : 2014/12/30(火) 10:19:17 :
- 施設に着くなり、私はいつもの公園に急ぐ
ユミルの姿を探して
だけど、公園にはユミルはいなかった
「どこに行ったんだろう」
空っぽのベンチを見ながら、私は首を傾げた
学校へ行くには時間は早いけど、あまり人と行動を共にするのが嫌なユミルだ
もしかしたら早めに登校したのかもしれない
私はふぅと息をつくと、公園を後にした
-
- 60 : 2014/12/30(火) 10:34:19 :
- 施設の玄関では、子ども達が次々登校するために出ていく様子があった
だけどユミルの姿は無い
やっぱりもう登校したのかな
そう思っていると、後ろからぽんぽん、と肩を叩かれた
振り向くとそこには
「よう、ミカサ」
にやりと笑うユミルがいた
「おはよう、ユミル。ちょっと探した」
「公園行ったんだろ?お前が走っていくの、見てたからな」
「それなら、声かけてくれたら良かったのに」
私は不満げな表情を隠しもせず、そう言った
「………してたからな」
ユミルが聞き取れない程小さな声で、何かを言った
「ん?何?聞こえなかった」
「………勉強、してたんだよ。お前、熱だす前に私にプリント作ってくれてただろ、大量に…。モブリット先生からもらったんだ」
ユミルはそう言うと、私が作っておいたプリントの束を押し付けてきた
「あ、そうなんだ…やってくれたの」
私は目頭が熱くなった
「しゃあねえだろ。熱出してまで作ったやつ、やらなきゃお前が呪いそうだからな。ってか鬼畜過ぎるぜ、量が」
ユミルは鼻の頭をぽりっと書きながら、口を尖らせた
-
- 61 : 2014/12/30(火) 10:40:38 :
- 「別に、いっぺんに全部やらせるつもりはなかった。私も一緒にやろうと思っていたし」
「今日な、テストあんだよ。だから、朝早起きしてプリントやってた。それ、採点しとけよ?全部だぜ?じゃあな!」
ユミルはそう言うと、玄関を飛び出していった
「ユミル、いってらっしゃい!」
私は大声で叫ぶ
するとユミルは立ち止まった
そして振り返りはしないが、手をひらひらとさせて……
また走り始めた
「ユミル……」
私は何だかとても幸せな気持ちになれた
-
- 62 : 2014/12/30(火) 10:49:25 :
- その日の放課後、ユミルと一緒に公園にいた
ベンチの下にシートをしいて、二人で座って青空教室
「プリント、よく頑張ったね。殆ど出来ていた」
「へへっ、やればできるんだよ!」
ユミルは嬉しそうに顔を綻ばせた
「テストはできた?」
「わかんねえ。でも全部埋めたぜ」
「そう、努力が実るといいけど」
私はそう言いながら、昨日ユミルのために作ったプリントを、ベンチに広げた
「うわ、また作ってきたのかよ。ってかお前熱出してたんだろうが。休んでろよな!」
「うん、休んでた。だから少しだけしか作ってない。ユミル、やろう」
「……しゃあねえなあ」
ユミルは不服そうに頬を膨らませた
だけどその目の表情は、きらきらと輝いている様に見えた
-
- 63 : 2014/12/30(火) 10:59:39 :
- 「なあ、ミカサ、私さ……」
勉強の後、ベンチに二人で腰かけると、ユミルが小さな声で話始めた
「ん?何?」
「恐いんだよな、人間が」
ユミルは顔を歪ませた
唇が真っ青になっていた
「恐い?例えば誰が?」
私はただならぬユミルの様子に、心配になって顔を覗いた
「ミカサが………」
「そう」
「嘘だよ。例えば、おか…ばばあとか、ばばあの男とかな」
ユミルはぶるっと肩を震わせた
「大丈夫?」
私はユミルの肩にそっと手で触れた
するとユミルはビクッと体を震わせる
「私、邪魔にされていたんだ。ばばあにしたら、私はお荷物だろ。だから、いつも、殴られてた」
「………そう」
「前の学校の先生もな、私の体のアザを見て、何度も家に来てくれた、だけど、ばばあは先生にはいい顔しかしない。だから、私はずっと、家でばばあの顔色伺うしか、生きる術がなかった」
ユミルはそこまで言うと、頭を抱えた
私はユミルの背中を優しく撫でた
それくらいしか、できないから
-
- 64 : 2014/12/30(火) 11:09:16 :
- 「ばばあは昼間からやりまくってた。私はそんなの聞きたくもなかったけど、狭い家だからな、どうしたって聞こえてくる。そしたら…」
「…………」
「盗み聞きするなって、ばばあの男に暴力を振るわれた。ばばあはそれを止めなかった。二人はまるで汚いものを見るような目で、わたしを見ていた」
「ユミル、もういい、もう話さなくていい。無理はしてはいけない」
私は体を震わせるユミルに、そう言った
「この話、したのは二人目さ。一人目は、モブリット先生。あいつはこの話を聞いた時、何て言ったと思う?」
「………わからない」
「あいつはな、それでもばばあは私を産んだ、お母さんだからって、そう言った」
ユミルは涙を流していた
「そう……」
「あんな、私を邪険に扱うようなやつが、なんで私のお母さん、なんだよ。私は何でばばあの子どもなんだよ……」
「ユミル………」
私はユミルの涙をハンカチで拭きながら、全く言葉が出なかった
-
- 65 : 2014/12/30(火) 11:19:06 :
- 「モブリット先生、あいつだってただの偽善者さ。ばばあが私のお母さんだなんて、言われなくてもわかってんだよ……私が聞きたかったのは、そんな言葉じゃねえんだよ……」
「……ユミル」
「だから、人間は信用できない。私は誰も、信じない」
ユミルは涙を流しながら、私を見つめた
「ユミル、私はユミルを信じている。ユミルはがんばり屋。だからこうして私に話してくれた。ありがとう。そして、ごめん」
私は立ち上がると、ユミルに頭を下げた
「ミカサ?」
「ユミル、私はしばらく考えたい。あなたの言った話に、返す言葉が見つからないから。うわべじゃなくて、本当に言いたいことを、整理したい」
「……ああ」
ユミルは頷いた
「私はあまり話すのが苦手。だから、時間をちょうだい。でもひとつ言いたい事は……」
「うん?」
「ユミルが朝、手を振ってくれて、プリントをしてくれて、嬉しかった。これは本当。偽善者とか言わないで欲しい」
私はそう言うと、ユミルにもう一度頭を下げて、その場を後にした
-
- 66 : 2014/12/30(火) 15:15:50 :
- 「そうか、ユミルが君にその話をしたんだね」
私はモブリット先生に、先程のユミルの話をした
先生は私の話に真摯に耳を傾けてくれていた
「ユミルが辛い思いを抱えているのをわかっていても、私には何と言っていいのか、わからなかった、です」
「そうだよね」
「先生も、同じでしたか?」
私の問いに、先生はゆっくり頷いた
「ああ、私達がたとえ何を言っても、ユミルの心は満たされないだろうからね。いくらあの子に寄り添っても、私とあの子では育ってきた環境が違う。私が 何を言っても、あの子は素直には受け止めきれないだろう」
「私は、母子家庭です。だから、ユミルに少し境遇が似ている。けど、母は男を家にいれたりはしなかったし、ずっと私のために働いてくれていたから……」
「そうか、君もお母さまも、随分苦労しただろうね」
モブリット先生は憂いを秘めた眼差しを、私に向けた
「私は母子家庭だけど、なに不自由なく過ごせていた。母のおかげで。こんな私がユミルに掛けてあげられる言葉なんて、無いです。それに、ユミルがかわいそう、お母さんを恨んでも、仕方がないと思う」
「ユミルの母親は、確かにどうしようもない。やってはならない過ちを犯している。だけど、そんな人間にも辛い経験があって、楽な方へ逃げたいという気持ちがあって…例え暴力を振るっても、ユミルにご飯を与える事は怠らなかったし、ちゃんと生活させていた」
「……暴力なんて許せない。それに、ユミルみたいなまだ年端のいかない子の前で、あんな事……」
私はぎゅっと唇をかんだ
モブリット先生が、ユミルの母親をかばう気持ちがわからなかった
-
- 67 : 2014/12/30(火) 15:27:37 :
- 「私はね、ユミルには偽善者と何度も言われてきたけど……ユミルを産んだのは母親だ。それは変わることはない。今は理解し合えなくても、母親が過ちに気がついてさえくれれば……」
「………」
「いつか歩み寄れる日が来ると信じているんだ。せっかく母親が生きているのに、その存在を否定してほしくはなかった。ユミルのためにも、母親のためにも」
モブリット先生の言葉に、私は目から鱗が落ちた
そうだ、もしユミルの母に全く娘への愛情がなければ、ユミルはここまで大きくはなっていなかったかもしれない
今は、血迷っているだけかもしれない
「人間は、弱いです」
「ああ、そうだね。だから過ちだって犯す。ただ、もしそれがまだ取り返しのつく段階なら……なるべくは繋ぎ止めておいてやりたいんだ」
私の呟きにモブリット先生は頷いた後、そう言った
「先生はユミルに、しっかり向き合っているんですね」
「出来ているのかわからないな。正直自信なんか無い。実習生に言う言葉じゃないけど、日々試行錯誤なんだよ」
「ユミルは先生が担当で、良かったと思う」
私は力強く頷いた
-
- 68 : 2014/12/30(火) 15:39:12 :
- 「モブリット先生、ありがとうございました」
私は満足する話が出来たので、立ち上がって頭を下げた
「いや、ユミルの事、気にかけてくれてありがとう。ユミルが君と一緒にいて、いろいろ成長しているのが目に見えてわかるんだ。感謝しているよ、アッカーマンさん」
モブリットさんも立ち上がると、笑顔でそう言った
全てを優しく包み込むような笑顔に、私は釘付けになる
「あ……いえ、私は何も…。でも、実習を楽しいと感じたのは、今回が初めてです。あと少ししかないですけど、頑張ります」
私は頬の赤みを隠す様にもう一度頭を下げると、先生に背を向けた
これ以上は顔を見ていられなかったから
「病み上がりだから、無理せず今日は帰りなさい」
背後からかかる労りの言葉に、私は頷いた
でも、言葉を発する事は出来なかった
-
- 69 : 2014/12/30(火) 15:52:27 :
- 少し早めに帰宅の途につきながら、私は考えを整理する
モブリット先生は、ユミルの母親をかばっているわけではない
その罪については私と同様に、苦々しく思っている
ユミルが先生に言ってもらいたかった言葉はきっと、「ひどい母親だったね、」「大変だったね」、「辛かったね」、というような、同情的な言葉だったんだろう
でも先生は、あえてそれを口にしなかった
先生はその場かぎりの答えを言わなかった
もっともっと先を見据えて、冷静に言葉を選んだのだ
なによりも、ユミルのために
ユミルに、自分を産んだ母親を否定してほしくなかったから
先生はあえて、悪者になったんだ
私は、ユミルになんと言えばいいだろう
飾らず、ありのまま、思った事を伝えよう
私は一人、頷いた
-
- 70 : 2014/12/30(火) 21:16:22 :
- 次の日、真っ先に施設の公園に行くと、ユミルがベンチに座っていた
「よう、ミカサ」
彼女は私の姿を見るなりにやりと笑って、ひょいと手をあげた
何て事ないその行動が、私にとっては嬉しかった
「おはよう、ユミル」
私もひょいと手を上げて、彼女に応える
ベンチに座ると、ユミルが顔を覗いてきた
「昨日はなんか、ごめん」
「何?何で謝るの?」
私はきょとんとした
「いや、昨日な、誰も信じないとか言ったから」
「ああ、でも、気持ちはわかるし」
「私は、ミカサの事は信じてる」
小さな声だけど、はっきりと私の耳に届いたユミルの言葉
私は、手をユミルのそれに重ねて、きゅっと握った
「ありがとう、ユミル」
「本当は、モブリット先生の事も、信じてる」
「うん、そうしてあげて」
私は頷いた
-
- 71 : 2014/12/31(水) 00:37:06 :
- それから毎日、ユミルと過ごした
ユミルは算数のテストで初めて100点をとったり、目まぐるしく成長した
何事にも投げやりだった態度も、かなり改まってきた様に見える
私は何回か行った教育実習で初めて、自分が必要とされている事に気がついた
今までにはなかった感覚
ユミルは確かに私を必要としてくれて、私にとっても、ユミルと過ごす時間がとてもかけがえのない物になっていた
でも、彼女と過ごせる時間は後わずか
これほど実習が終わるのが寂しいと思う事は、今までなかった
私は、ユミルと一緒に出来ることを沢山やろうと心に決めていた
悔いが残らない様に
-
- 72 : 2014/12/31(水) 00:42:30 :
- 「なんだよミカサ。こんな所で勉強できないだろ?公園行こうぜ」
私は施設内のある部屋に、ユミルを連れてきた
その部屋には、古びたアップライトピアノが設えてあった
「ユミル、私の話を聞いてくれる?」
私はユミルを椅子に座らせて、自分はピアノの椅子に座った
「なんだよ改まっちゃって」
「ユミル、私は明日で実習が終わる」
「………ああ、知ってる」
ユミルの表情が、強ばった
「だから、ユミルに私の話を聞いてもらうのは今日しかないと思った。聞いてくれるよね?」
「ああ、いいぜ、ミカサ」
ユミルは緊張した面持ちで、私を見つめた
-
- 73 : 2014/12/31(水) 00:57:41 :
- 「私は母子家庭だった。お母さんは、女手一つで私を短大にまでいれてくれた。それに、私は実は、ピアニストになりたかった」
「ピアニスト?まじかよ」
「うん。本気だった。必死に練習した。毎朝毎晩、ずっと……でも、夢は叶わなかった。ピアニストになるには、才能が足りなさすぎた」
私の言葉に、ユミルは目を見開いた
「才能なんてよ、努力でカバーできないのかよ。諦めるなんてミカサらしくねえよ」
ユミルは不満そうにそう言った
「努力でどうにかなる世界ではなかった。だから私は潔くあきらめた。本当は、音大に行きたかったけど…ピアニストになれもしないくせに、お金が沢山かかる音大に行くなんて、無駄だと思ったから」
「ま、待てよ、別に音大に行ったからってピアニストになるだけじゃねえだろ?先生とか、いろいろ、なれるじゃんか」
「………そう、そうなんだ。でも私は、早くお母さんに楽をさせたかった。音大に行けば、またまた沢山お金がかかる。音大って、普通の大学の倍じゃきかないくらい、授業料が高いの」
私はそう言うと、ぽろんとピアノをつま弾いた
古いけど、調律はされているようで、可愛らしい音が鳴った
「でもよ、お前のお母さんは……それを知ったらいい気しねえよ。お金がかかるからって、やりたいことを諦めさせたとかよ…」
「うん、お母さんは気がついてる。好きなことをすればいいって、いつも言ってくれる」
私の言葉に、ユミルが嘆息した
「いいな、お前のお母さん、優しいな」
「ユミルのお母さんは、小さい頃はどうだった?男が出来る前。ずっと優しくなかったの?」
ユミルは首を振った
「いや、たまに、優しかったな。遊園地にいったりした。ご飯もな、ラーメンとかばっかだったけど…美味しかったしな」
「やっぱりユミルも、お母さんを心の底では好きなんだね」
「……母親だからな。どうしようもなくても、でもな、ミカサ、私は…」
ユミルはそこで、言葉を止めた
-
- 74 : 2014/12/31(水) 01:11:51 :
- 「私はやっぱり、あの家に生まれなきゃよかった。あの家じゃなくて、普通の、ミカサみたいな家に……」
「ユミル……」
私は泣き出したユミルの背中を優しく撫でた
「やっぱり、痛いのは嫌だしな……親の顔色伺って家に居場所がねえのも、嫌だよ……」
「うん、うん。ユミルは頑張ったよ。私偉いと思う。よく頑張った、ので、もう頑張らなくていい。わがままをぶつけてもいい」
「私は何も、頑張ってねえよ……うっうっ……うわぁん」
ユミルは私の胸に顔を埋めて、泣きじゃくった
私はユミルの背中や頭を、優しく撫でた
「頑張ったんだよ。辛かったのに、悲しかったのに、それに耐えてちゃんとこうして、生きてる。それが偉いの。ユミルは偉い子」
「うっうっ……」
「泣くのだって我慢しなくていいよ。まだ泣いていいの。私がいなくても、泣いたらいい。モブリット先生がいるから」
ユミルは更に大声をあげて泣いた
私はぎゅっと、ユミルの体を抱き締めた
-
- 75 : 2014/12/31(水) 01:20:14 :
- しばらくすると、ユミルは落ち着きを取り戻した
「なあミカサ、ピアノ弾いてみろよ。なまってんだろうけど、聴いてやるよ」
まだ目元を真っ赤にしながらも、ユミルはにやりといつもの笑みを浮かべてそう言った
「うん、そのつもり。聴いてね」
私はそう言うと、いきなりばーんとピアノを鳴らした
そのままの勢いで、荒れ狂う嵐のような時代の変革をもたらす曲を奏でる
目まぐるしく動く左手
右手は熱い意思を感じさせる様に強く、遠くにまで力を誇示するように
練習不足でも、淀みなどない
私の一番大好きな曲
ユミルにも力強く、世間の荒波に負けないで欲しい
そんな思いを込めて
鍵盤に指を躍らせる
-
- 76 : 2014/12/31(水) 01:26:25 :
- 「おい、ミカサ……すっげえ」
弾き終わってすぐに、拍手もなくそう言うユミル
「そうかな。なまってなかった?」
「かっこよかったぜ。なんていうか、切羽詰まった感じ」
「それ、違う!力強い感じなはず」
私は首を振った
「切羽詰まって急げって感じだろ」
「違う。この曲は革命のエチュード。だから革命って感じなの」
「じゃあ、やっぱり切羽詰まってんじゃねえか」
ユミルは肩を竦めた
「ちょっと解釈が違う」
「細かいことはいいさ。それよりお前、やっぱりピアノやれよ。なんかさ、ピアノ弾いてるお前……」
「ん?」
「すっげえかっこよかったし、なんかうまく言えねえけど、似合ってたよ。ピアノとお前」
ユミルはピアノと私を交互に指さしながらそう言った
-
- 77 : 2014/12/31(水) 01:31:46 :
- 「………うん、そうだね。頑張ってみようかな」
「おお、そうしろよ。お前はしつこい奴だし、きっとピアノの方が折れてくれるさ」
「なんか誉められた気がしない」
私は頬を膨らませた
「ミカサ、ありがとな。私はお前に会えて、良かったよ」
「………ユミル、私もユミルに会えて良かった。ありがとう」
私はそう言うと、ユミルをもう一度ぎゅっと抱き締めた
「お互い頑張るしかねえな。私は絶対大学まで行くぜ。頑張って勉強する」
「うん、約束」
私の胸の中で、ユミルは力強く将来の宣言をしたのだった
彼女が前を向いた、瞬間だった
そして私も、また前を向くことが出来たのだった
-
- 78 : 2014/12/31(水) 01:42:23 :
- 翌日夕方
「モブリット先生、3週間ありがとうございました!」
クリスタが元気にそう言って、頭を下げた
「先生、お世話になりました」
私もぺこりと頭を下げた
「3週間お疲れ様。大変だっただろうけど、本当によくやってくれたね。ありがとう。ニファとユミルには……」
「ちゃんと挨拶してきました!」
「私は昨日、じっくり話をしたので…今日は少しだけ」
私は小さな声でそう言った
やっぱりユミルと会えなくなるのは寂しかった
「また、いつでも遊びに来てくれよ」
モブリット先生の言葉に、クリスタが即座に反応する
「モブリット先生、遊びに行っていい日を聞きたいらしいので、ここに連絡を下さい!」
クリスタはそう言うと、紙切れを先生の手にねじ込んだ
「え?」
モブリット先生はきょとんとしている
「では、お世話になりました!失礼します!」
クリスタはそう言うと、私を半ば引きずるように、施設を後にしたのだった
-
- 79 : 2014/12/31(水) 01:47:02 :
- 「クリスタ、何の真似?」
「えっ、連絡先渡しただけだよ?」
クリスタはスキップをしながら鼻歌を歌った
「そう」
「うん、ミカサの連絡先だけどね」
「…………ええっ?!な、なんで!」
私は狼狽えた
「何でって、私はやるって言ったでしょ?連絡来たら教えてね」
「く、来るわけない!」
「さあどうかなあ?」
クリスタは愉しげに微笑んだ
-
- 80 : 2014/12/31(水) 01:51:23 :
- こうして私の3週間の実習は幕を下ろした
私はユミルとの約束通りピアノを再開した
一から勉強して、ピアノや音楽を教える教師になるために
ユミルは、私がいなくても頑張って勉強して、成績もぐんと伸びたらしい
何故実習が終わったのに、ユミルの状況がわかるかって?
それは………
秘密
―完―
-
- 81 : 2014/12/31(水) 09:36:11 :
- お疲れさまでした!人の優しさがわかる作品でした!これからも応援してますので頑張ってください!!
-
- 82 : 2014/12/31(水) 21:24:40 :
- >アランさん☆
読んでいただき、ありがとうございます!
人の優しさ、表現できていて良かったです♪
これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします(*´∀`)
-
- 83 : 2015/01/02(金) 00:01:26 :
- 執筆お疲れ様でした。
ロメ姉さんが書くミカサとユミルがとても愛おしく感じました。
次作にも期待しています。
-
- 84 : 2015/01/02(金) 17:35:11 :
- >とあちゃん☆
読んで下さってありがとうございます(*´∀`)
ユミル、まともに書くのははじめてだったので、どきどきでした♪
愛おしく感じて頂けて嬉しい!
また頑張ります(*´∀`)
-
- 85 : 2015/01/04(日) 18:37:54 :
- ミカサとユミルの友情(?)に感動しました。
ロメ姉さんの次回作にも期待しています
執筆、お疲れ様でした!
-
- 86 : 2015/01/13(火) 12:17:00 :
- ミカサとユミルの関係が読んでいて2人は一緒に頑張っていけるんだろうな!って気持ちになりました!!
実際、ユミルみたいな環境にいる子供も現実にいますからね…(泣)
ミカサみたいな家庭に生まれて来たかったと言うユミルのシーンが泣けました。
そして、最後の終わらせ方が好きです!
流石は師匠って思いました!!!
読むのが遅くなりましたが、素敵な作品を読ませて貰えて嬉しいです!
ありがとうございます!!これからも応援してます!!
-
- 87 : 2015/01/15(木) 17:21:03 :
- >ゆう姫☆
読んでくれてありがとう♪
ユミルはまともに書くのが初めてでしたが、楽しかったです(*´ω`*)
また頑張ります!
-
- 88 : 2015/01/15(木) 17:24:32 :
- >EreAni師匠☆
そうなんです、実際にこんな子どもたちがいるんですよね
もっと過酷な環境にいる子もいますし…
親のありがたみを私もわからないとなあって思いながら書きました!
終わらせ方!恋愛メインじゃなかったので今回は匂わせるだけにしましたw
読んでくれてありがとうございました(*´∀`)
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