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戦う心

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  1. 1 : : 2014/12/18(木) 13:41:50
    巨人も、元々は人間だった―――

    今日、新たに解ったことだ。まだ、確証は得られてないが、エレンやあの超大型や鎧や女型が人間が変化したものだったり、今回の行方不明のラガコ村の住人の数が現れた巨人の数と一致したことからもその仮説は正しいだろう。
  2. 2 : : 2014/12/19(金) 17:35:39
    「はぁ…。」

    軽くため息をつき、背もたれに寄りかかる。窓から外を眺めると、キラキラと光輝く満天の星が見えた。何となく眺めていると、ある4つの星がふと目に入った。それがそれぞれこの前死んでしまった部下――――ペトラ、オルオ、グンタ、エルドと重なる。

    「……ちっ。」

    軽く舌打ちをし、目を背ける。
  3. 3 : : 2014/12/19(金) 18:20:37
    コンコン、と軽快なノックが聞こえてきた。

    「…入れ。」

    「失礼します。」

    ドアを開けて入ってきたのはエレンだった。その手には少し焼き菓子が入った皿と、湯気がまだたっている紅茶のカップが2つ置いてあるトレーがあった。

    「あの、ちょっと寝る前に紅茶を飲もうと思って入れたんですけど…。1人で飲むの、寂しくって、えと、あの、兵長ならまだ起きてるかなーなんて思ったりして…。」

    しどろもどろになりながら、言い訳のような事をしゃべっている。

    「用件は手短に言え。」

    もう既にエレンの言いたいことは解っているが、一応尋ねる。

    「あ、はい。あの、一緒にお茶しませんか…?」

    エレンは俺の顔色をうかがいながら言う。俺は軽くため息をつきながら

    「何時だと思っているんだ。」

    とだけ告げる。その言葉を聞いたエレンは見るからにしゅんとした。

    「やっぱりそうですよね…。すみませんでした、お休みなさい。」

    軽く頭さ下げて部屋を出ていこうととするところに声をかける。

    「ちょっと待て。」

    エレンは不思議そうな顔をして振り向いた。

    「何時だと思っている、とは聞いたが飲まないとは一言も言っていない。今回だけ特別だ。」

    その言葉を聞いたエレンは顔を輝かせて

    「はい、ありがとうございます!!」

    と頭を下げた。
  4. 4 : : 2014/12/19(金) 23:21:36
    「……あの、どうでしょうか…?」

    ソファに座り、紅茶を一口飲むと、エレンが少しうつむきながら聞いてきた。それが紅茶のことだと気がつくのに少々時間を必要としたが、

    「悪くない…。」

    とだけ告げるとまたニコニコと笑い始めた。

    「今日は、よく笑うんだな。」

    「はい、兵長がいつも通り…いや、いつも以上に優しいのが嬉しくて…。」

    へへっと少し頭を掻きながらエレンはいい、

    「今日はみんな、ピリピリしてて…当たり前なんですけどね…。そもそも俺が原因じゃないですか、今回のって。だから、いや、被害妄想かも知れないんですけど、皆が俺にたいして変な目で見てくるっていうかその……。だから、いつもと同じ兵長が居てくれて、ホッとしました。」

    と続けた。
  5. 5 : : 2014/12/19(金) 23:28:05
    「……そうか。」

    そのまま一気に紅茶を飲み干し、俺はカップをトレーに戻し、焼き菓子を1個手に取った。

    「エレン、すまんがやらなきゃいけない仕事が残ってることを思い出した。」

    俺がそう告げると、エレンは

    「あ、はい!すみません、今すぐでてきいますね!!」

    と慌てて紅茶を飲むと、軽く周りを片付けた。
    そして、

    「すみませんでした、急に押し掛けて。兵長、お仕事がんばってください!!お休みなさい。」

    とだけ言うと慌てて出ていった。
  6. 6 : : 2014/12/20(土) 15:25:29
    エレンの足音が聞こえなくなると、軽い嫌悪感に襲われる。やらなけらばならない仕事など、残ってはいない。

    「いつもと同じ、か。」

    その言葉を喜んでいいのか、悲しんでいいのか。そんなことを考えながら、ベットに座り込む。また、窓から星空をみる。星を見ていると、今度はあの4人だけでなく、今まで死んでいった部下たちが順に思い出される。

    ―――必ず、巨人を絶滅させる

    死んでいったやつらに、毎回誓ってきたことだ。その信念に揺るぎなどなかった。いつも、いつも俺から仲間を奪ってきたあいつらを殺す。そんなの当たり前だ。奪われたから奪うんだ。
    でも、巨人は元は人間。その事実が俺の信念を大きく崩そうとしている。

    「どうすりゃいいんだよ…。」

    そのまま呆然としていると、睡魔が襲ってきた。そのまま重力に従い、横になると、瞼が重くなる。そして、そのまま一気に夢の世界へと俺は引きずり込まれた。
  7. 7 : : 2014/12/20(土) 19:16:04
    「兵長、掃除終わりました!!点検お願いします!!……兵長、大丈夫ですか?」

    急に正面から聞き覚えのある声が聞こえてきた。はっと気がつくと、目の前に見慣れた掃除姿のペトラがいた。

    「大丈夫ですか?兵長がボーッとしてるなんて珍しいですね。」

    クスリと笑うペトラは、いなくなる前となんら変わらず、優しそうな笑みを浮かべていた。はっと気がつき、自分の姿を確認する。いつもの掃除姿で片手にはたきを持っていた。なにがなんだかわからない。唯一理解できるのは、目の前に死んだはずのペトラがいるということだけだ。
  8. 8 : : 2014/12/20(土) 19:43:48
    「……何でもねぇ。」

    「そうですか?体調が悪いなら、いつでもいってくださいね。じゃあ、廊下のチェックお願いします。」

    「ああ。」

    周りを見渡しながら廊下に出る。ここはどうやらあの旧調査兵団本部らしい。懐かしい匂いがする。

    「……悪くない。」

    細かいところまできちんと掃除してある。脇にある小さな物置には、外に咲いている花が1輪飾ってある。その花をじっと見つめていると、視線に気がついたペトラがまた微笑む。

    「どうですか、兵長?ここ、少し寂しい気がしたので…邪魔ですかね?」

    「いや、そのままでいい。」

    「それは良かったです。……あ、そろそろ食事当番なのでいきますね。失礼します。」
  9. 9 : : 2014/12/21(日) 01:05:44
    ペトラの後ろ姿を見ていると、後ろからドタドタという足音が聞こえてきた。振り向くと、そこにはろうかを全力疾走するグンタがいた。

    「なんだ、騒々しい…。」

    足音の煩さに思わず顔をしかめると、グンタが慌てて止まり、そのまま叫んだ。

    「兵長、エレンがまた!!」

    「……またあいつか…。今度はなんだ。」

    「木に登って降りられなくなったみたいで…。」

    「は?」

    予想外の言葉に思わず言葉が漏れる。

    「来ればわかります!!来てください!!」

    そう言うと、グンタはまた廊下を反対側に走り出した。木から降りれない程度のことでこれほど慌てるなんて、いったい何があったのだろう。不本意だが、グンタのあとについていくことにした。
  10. 10 : : 2014/12/21(日) 01:18:37
    「おい、エレン!怪我はないよな!?」

    「は、はい!でも、ちょっとやばいです!!さっきからまた、猫が暴れて…!!イタッ!!ちょ、引っ掻くなって!!」

    「はぁ、全く、猫相手にあんなに手こずるなんてな…。」

    外に出るとそこには、木のてっぺん近くで猫を抱えるエレンと、エレンに声をかけるエルド、そして呆れるオルオがいた。

    「おーい、兵長呼んできたぞ!!」

    グンタが3人に呼び掛けると、3人は一斉にこっちに視線を向けた。

    「……これはどういう状況だ…。」

    もうなにがなんだかわからない状況だ。とりあえず誰にでもなく尋ねると、エルドが喋り始めた。

    「エレンが木の上に猫が座り込んでるのを見つけて、最初は低い枝に居たので登って取りに行ったんですが…だんだん上に上に猫が逃げていったので、捕まえたらもうてっぺんだった、というわけです。降りてこようにも、あの猫なかなか狂暴らしくて、両手で抱えてなきゃならなくてですね…。
    まあ、降りてこられないわけです。」

    エルドは肩をすくめる。
  11. 11 : : 2014/12/21(日) 11:20:39
    「エレン、降りることはほんとに不可能か?」

    とりあえず、木の上で猫相手に格闘を続けているエレンに呼び掛けてみる。

    「この猫がおとなしくしてくれれば降りられます!!」

    エレンは一生懸命猫を押さえながら答えた。

    「仕方がねぇ…。そこで待ってろ。」

    とりあえずあの猫をどうにかしなければ、どうしようもない。それにエレンが巨人化してしまったら大変だ。木に登り、あっという間にエレンのそばまできた。

    「貸せ。」

    「え、でも兵長、猫って汚いって…。」

    「うるせぇ。お前がこいつに傷つけられて巨人化したらどうするつもりだ。お前が死ぬことになるぞ。」

    「……そうでした。どうぞ。」

    エレンから猫を受けとると、片手で抱え込む。猫は確かに狂暴だが、少しなら大丈夫だろう。

    「後からちゃんと降りてこいよ。」

    そうエレンに告げて、木から飛び降りる。さすがに一気に飛び降りるのは危なすぎるので、途中の太い枝に捕まりながら確実に降りていく。地面につき、猫を下ろすと、その猫は一目散に逃げ出していった。

    「兵長、流石です!!」

    上から見ていたであろうエレンが興奮した声をだす。

    「騒ぐ暇があったらさっさと降りてこい。」

    「は、はい!」

    はぁ、と軽くため息をつくと、軽い違和感があることに気がついた。
  12. 12 : : 2014/12/21(日) 11:33:37
    そう、静かなのだ。

    「おい、エルドグンタオルオ――。」

    振り向いた瞬間、言葉を失う。そこにいたのは、女型の巨人だった。足元にはいつのまにやらあの、3人のしたいが転がっていた。周りも巨大樹の森になっている。女型がだんだん向こうへと逃げていく。

    「エレン、奴を仕留めるぞ!!」

    これもまたいつのまにかついていた立体機動装置を使い、木にアンカーをさす。

    「エレン?」

    返事がないのを不思議に思い、振り向くと、そこにはうなじを削がれて倒れているエレンの巨人体があった。

    「……は?」

    自分が手にもっているブレードをみると、エレンのものと思われる血がついていた。

    「……俺が……やった…のか?」

    その場で思わず固まる。なにも考えたくなかった。まう、何もかもがわからない。

    「俺は……。」

    俺にできることをとりあえず考える。

    「女型を…仕留める…。」

    考えが固まり、顔をあげる。しかし、そこに――――
    女型の足が、降ってきた。
  13. 13 : : 2014/12/21(日) 20:44:52


  14. 14 : : 2014/12/21(日) 22:41:15
    ふと目をあけるとそこはいつもの自分の部屋だった。窓を開けると、いつも通りの朝の景色が一望できる。

    「久しぶりだな…。」

    今日の夢を思い出していると、あることに気がついた。夢に、死んだ部下が出てきたことだ。いや、正しくは、死んだ部下との日常が夢に出てくることだ。調査兵団に入った当初はイザベルやファーラン等が時折夢に出てきたが、それ以外の兵士は、殺される瞬間こそ見てきたが、一緒に過ごした平和な日々が出てくることはなかったのだ。
  15. 15 : : 2014/12/21(日) 22:53:38
    まあ、当たり前、なのかもしれない。1ヶ月もそのメンバーだけで一緒に同じところに住むなんて、調査兵団に入ってから、初めてのことだ。それに――

    「あいつらには約束できてねぇな…。」

    そう、あの四人にはいつも死んでいく兵士と誓っていたこと、そう《巨人を全滅させる》ということを誓えてないのだ。気がついたら、失っていた。そうとしか言えない別れ方をした。部下が死んでいくことに慣れ始めていた。そんなときに、思い入れの強い仲間を失った。全て、巨人により。

    ――俺はやらなければならない。そう、誓ってきたのだから。

    ――でも、巨人は人間だったんだ。それも、ごく普通の。

    2つの思いはぐるぐると頭のなかを駆け巡る。どうすればいいのか、わからない。今まで巨人を殺してこれたのは、巨人への怒りと、自由への憧れが強かったからだ。
    巨人への怒りは、まだある。が、それを本当に巨人にぶつけていいのか。あいつらだって人を食べたくて食べているのだろうか。
    自由への憧れだってそうだ。人類を助けるために、人類を殺す。

    本当に、それでいいのだろうか。
  16. 16 : : 2014/12/21(日) 23:15:31
    朝食をとっていると、エレンがにこにことしながら近づいてきた。

    「兵長、おはようございます。」

    「ああ、おはよ―――。」

    顔を見たとたん、体が固まる。昨日の夢で殺めたエレンの巨人体が思い出される。

    「兵長?どうかしましたか?俺の顔になんかついてます?」

    エレンは不思議そうな顔をして身なりを確認している。

    「なんでもねぇ。早く食え。」

    動揺を誤魔化すようにして下を向き、パンを口にいれる。

    「それならいいんですけど…隣、失礼します。」

    エレンは隣に座り、朝食を食べ始めた。言葉も交わされることもなく、ただたんたんと咀嚼を繰り返すのみ。それだけの時間。しかし、それは確かに幸せだった。この時間が終わらなければ――。どこかに、そう思ってしまう自分がいる。面倒なことはなにも考えずに、ただいきる。意味のない生だと言われてもいい、この時間が。
    そう考える自分に嫌気がさし、考えたこともなかったかのように口を開く。

    「今日の午後、お前の同期が新しくここに来ることになった。」

    そう告げると、エレンは驚き、スープをこぼした。

    「きたねぇな…。」

    聞こえないように呟いたつもりだったが、意外にも聞こえていたらしい。

    「ごめんなさい、今すぐ片付けます!!」

    エレンはそういうと、台拭きをとりに走っていってしまった。その背中を見ながら、いつかエレンを殺さなければならない未来を思い浮かべる。


















    その時、俺はちゃんと動けるのだろうか。
    躊躇なくブレードをさせるのだろうか。























    なぁ、俺はどうすればいいのだろう。




  17. 17 : : 2014/12/21(日) 23:15:55
    終わり

    なんとなく兵長の誕生日が近いので書いてみました。
  18. 18 : : 2015/02/28(土) 17:48:27
    兵長の心情が上手く書かれていて、
    凄く引き込まれました!
  19. 19 : : 2015/02/28(土) 18:02:51
    おつ

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著者情報
UMENOHARUKASU

アップルパイ@元モッフル

@UMENOHARUKASU

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