このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
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[孵化]
- 進撃の巨人 × 東京喰種トーキョーグール
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- 19
-
- 1 : 2014/10/16(木) 22:01:09 :
-
ーーーー「鳥は」
「卵の中からぬけ出ようと戦う」
「卵は世界だ」
「生まれようと欲するものは」…
「一つの世界を破壊しなければならない」
ーーーー
ーーー
ーー
ー
エレン「俺がお前の翼になってやる」
あなたは言い放つ。
私のために。
全人類を敵にまわす。
私のために。
目の前の強敵に立ち向かう。
私のために。
あなたを化け物にした
私を守ってくれる。
綺麗と言ってくれた
私の翼を大きく広げて。
もし、これが物語なら
これは"悲劇"なんかじゃない。
これは きっと…
-
- 2 : 2014/10/16(木) 22:25:50 :
光一つない暗い夜道
歩くたび
肩に背負った猟銃が静かな世界に
カタッ、カタッ、と音を鳴らす
まるで自分はここにいると
誰かに訴えているように
雑草の生茂った雑木林を2人の憲兵が
一つのランプの光だけを頼りに歩いていた
「ったく、なんで俺たちがこんなこと…」
「仕方ねぇだろ?悪党共が脱走を計ったんだから」
「全員見つけるまでしばらくは、夜のお散歩ですか」
「そうなるな」
「はぁ…あと何人つかまえりゃいんだよ…」
「少なくとも10人以上」
「まぢかよ…早く捕まってくんねぇかな…ここ気味が悪いんだよ」
「同感だ。化けモンでも出てきそうだぜ」
ーーバサッ…
「!?」
「な、なんだ!?」
ーーバサッバサッ…
……カー……カー……
「…なんだ鳥かよ、驚かせやがっ…」
ーーーぎゃあぁぁぁあッ!!……
「ッ!!」
「お、おい…今の悲鳴、だよな?」
「行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
2人は雑木林の中へと進む
道なき道を
悲鳴の聞こえたところへ
ゆっくり、ゆっくりと
猟銃を構えながら恐る恐る近づく
頼りになるのは小さい灯りだけ
「…確かこの辺から…」
「なぁ、帰ろうぜ…」
「バカか、脱獄犯だったらどうすんだ」
「そんなん他の奴に任せれば……おい、あそこ…」
「……誰かいるな」
憲兵の視線の先には
少し小柄な影が立っていた
暗いせいで顔は見えない
「…お前がさっきの悲鳴を上げた奴か?」
「……」
影はなにも喋らない
「脱獄犯…か?」
「……」
「おい、どっちなんだ!答えろ!」
憲兵の一人が持っていたランプで
影の足下を照らす
そこには何かがあった
それはーーー
赤く染まった肉塊だった
「ヒィッ…」
「こいつ、脱獄犯の1人のじゃねぇか…」
「死んでるぞ…」
「くっ!」ギリッ
「お前がやったのか!」
憲兵は猟銃を影にむけて構える
「……」
しかし、やはり影は黙ったまま
そのときだった
少し強めの風が雲を流す
どうやら今日は満月だったらしい
雲に隠れていた月が姿を見せ
月明かりが闇を照らす
影だった人間の顔が
少しづつ
現れてくる
影はフードを深くかぶっていた
そして、
そのフードの下には…
赤い液体で濡れた
白い兎のお面が
「お前…一体…」
雲が再度月を隠す
再び闇の世界となった雑木林には
すでに
兎のお面はいなかったーーー
-
- 3 : 2014/10/17(金) 20:28:37 :
目を覚ますと、既に部屋には誰もいなかった。
エレン「あいつら…先に行きやがったな」
ガリガリと頭を掻いて体を起こす。
いつも起こしてくれるアルミンが
そのまま食堂に行ったってことは…
エレン「今日も訓練は休みか」
先日、近くの刑務所から10人を超える囚人が脱獄した。
未だ近くに潜伏している可能性から、その中での訓練は危険と判断され
現在、訓練は休みである。
…ギュルルル……
エレン「腹減った」
体が情けない音を鳴らしながらエネルギーを求めるので、
しぶしぶ彼は食堂へ向かう。
部屋を出るときに
ふと、
窓の外を見た。
エレン「一雨降りそうだな」
空は黒い黒雲に包まれ、少し気味が悪かった。
何かが起こる前触れのように。
-
- 4 : 2014/10/17(金) 21:29:33 :
-
食堂に入ると、金髪の少年が席をとっておいてくれた。
アルミン「あ、おはよう。遅かったね」
エレン「おう。てか、やっぱり今日も訓練休みか?」
アルミン「うん。そうみたい」
ズズッと残り少ない味の薄いスープを飲みほし、彼は言った。
エレンも自分の朝食をとりに向かう。
その進路を阻む1人の男。
ジャン「よう、死に急ぎ野郎。ずいぶん早い起床じゃねぇか」
エレン「なんだ…喧嘩うってんのか?」
ジャン「はっ、そんなんじゃねぇ」
エレン「だったらなんだよ」
ジャン「教官がお前を呼んでる。飯食ってからでいいから教官室に来いとのことだ」
エレン「教官が?」
ジャン「あぁ。それにお前だけじゃねぇ、他の連中も教官室に呼ばれてんだ」
エレン「他?」
ジャン「俺も含め皆お前待ちだからな。早くしろよ」
そう言い残し彼は行ってしまう。
アルミン「どうしたのエレン?」
エレン「いや、なんか教官に呼ばれてるらしい」
アルミン「そういえばミカサも呼ばれてたよ」
エレン「ミカサも?」
エレンは朝食を机へと運ぶ。
アルミン「急いだ方がいいかもね」
エレン「…そうだな」
エレンはパンを口に詰め込む。
そのまま味気のないスープで流し込んだ。
これが、
彼の人生最後となるパンとスープの味とも知らずに。
-
- 5 : 2014/10/18(土) 17:50:50 :
コンコン
キース「入れ」
エレン「失礼します」
ミカサ「…エレン」
アニ「……」
ライナー「よぉ」
ベルトルト「……」
ジャン「やっときたか…」
エレン(ライナーにベルトルト、それにアニまで…)
キース「他の者には説明したが、今から現在成績上位六名の貴様らには我々の補佐をしてもらう」
エレン「……?補佐、ですか?」
キース「そうだ、立体起動の訓練で使う森での探索補佐だ」
エレン「探索…あの、一体何の探索でしょうか?」
ジャン「脱獄犯だよ」
エレン「!?」
キース「うむ…まぁ、正確には…」
キース「脱獄犯の捜索及び確保の補佐だがな」
エレン「…何故我々が…」
キース「できるだけ少人数が良いと上から言われてな」
エレン「上?」
キース「今回の補佐を頼んできたのも上の者たちだ」
キース「そこで貴様ら六名に補佐を頼みたい。頼めるか?」
「「はっ!」」
キース「助かる。では、2つの小隊に分けよう」
キース「アッカーマンにフーバー、レオンハートは私についてこい」
ライナー「俺たちは…」
「お前らは俺についてきてもらう」
乱暴に開かれたドアから
声と共に1人の男が入ってきた
ジャン「誰だ?あんた」
「おい、そこの訓練兵。口に気をつけろ」
ジャン「なんだと!?」
キース「やめろ、キルシュタイン。彼はサネス、補佐を依頼してきた王直属の憲兵だ」
サネス「説明ご苦労、元調査兵団団長殿」
キース「……」
サネス「さぁ、早くしろ訓練兵ども。時間が無いんだ」
キース「…各自、立体起動の使用を許可する。準備をしてくるように」
「「…はっ、」」
-
- 6 : 2014/10/19(日) 13:44:39 :
-
彼はドコッと床に置いてある木箱を蹴り飛ばす
ジャン「なんだよあいつ!」
ライナー「落ち着けジャン、さっさと立体起動の点検するぞ」
ジャン「ちっ…くそっ!」
アニ「…ねぇ、どう思う?」
ベルトルト「なにが?」
アニ「あの憲兵さ、王直属のお偉いさんがこんな田舎の事件をわざわざ担当すると思うかい?」
ベルトルト「それは僕も思ったよ。それに人の探索のはずなのに立体起動まで…」
アニ「…なにかあるかもね。この事件」
エレン「……」
ミカサ「…どうしたのエレン?」
エレン「あ…いや、…なんで森かと思ってな」
ミカサ「森?」
エレン「あぁ、脱獄犯たちだ。逃げるなら地下街とかの方が良くねぇか?」
ミカサ「……確かに。未だこの付近に佇むメリットがわからない」
エレン「だよな…」
ライナー「おい、エレン!ミカサ!まだか?早く行くぞ」
エレン「おう、今行く」
ーーーー
ーーー
ーー
ー
サネス「遅い、遠足じゃねぇんだぞガキ共」
ライナー「…すみません」
ジャン「ちっ…」
サネス「おい、なんだその目は?」
ジャン「……」
サネス「聞こえねぇのか!返事くらいしろ!」
ジャン「くっ…」
キース「サネス、そんなことしてる場合ではないのだろう?」
サネス「…ふん、まぁいい。行くぞ」
ジャン「…くそっ」
ライナー「気持ちはわかるが…冷静になれ」
ライナー「相手は憲兵だ。あからさまな態度をとれば後々面倒だぞ」
ジャン「…あぁ、すまねぇ」
キース「何かあったら赤い煙弾を」
サネス「わかっている」
サネスはぶっきらぼうに答え
森に向かって歩きだす
それを追いかける様にして
後に続くエレンたち
キース「…では、私たちも行こう」
「「はっ!」」
こうして教官とサネスを合わせた8人は
森の中へと足を踏み入れた
そして、二度と
エレン-イェーガーは訓練所に戻ることはなかった
-
- 7 : 2014/10/19(日) 22:07:10 :
-
膝くらいまで生い茂っている雑草を踏み倒しながら
彼らは森の奥へ、奥へと進む
そんな彼らを
まるで迷宮にでも誘うかのように
森は薄く霧を吐きだしていた
サネス「チッ…霧で数歩前も見えやしねぇ」
エレン「サネスさん、そんなに急ぐと危ないです。ただでさえ霧が濃くなってきてるのに」
サネス「なんだ?訓練兵が俺に指図するのか?」
エレン「ですが…この辺は崖にもなっていますし……」
サネス「……それを先に言え」
崖と聞いて慄(おのの)いたのか
サネスは急に慎重に足を進める
エレン「あの、一つ聞いても…?」
サネス「なんだ?」
エレン「脱獄犯たちは一体どのような人物たちなのでしょうか?」
エレン「一体なんの罪を…」
サネス「悪いが言えない。機密事項なのでな」
ジャン「けっ、詳細も伝えないで手伝えってか」ボソ
ライナー「やめろ、ジャン」
サネス「…なにか、言ったか?」
ジャン「……」
サネス「…ふん、まぁいい。少しだけ教えてやる」
エレン「あ、ありがとうございます」
サネス「誰にも言うなよ」
人差し指を口にあて
緊迫した雰囲気で念押しする
エレン「……」ゴクッ
「人体実験だ」
エレン「……は?」
男の口からは信じられない言葉が放たれた
-
- 8 : 2014/10/19(日) 22:41:13 :
-
ライナー「………」
ジャン「人体、、実験!?」
エレン「…嘘だろ……」
サネス「嘘ではない。現に2人の姉弟が実験にされたことがわかっている」
ライナー「!……」
エレン「実験って…なんの…」
サネス「悪いがそれは言えない」
ライナー「そんな実験を一般人が行っていたのですか?」
サネス「ほう…お前、なかなか鋭いな」
サネス「実験を行っていたのはウォール教のやつらだ。裏はとれている」
ジャン「ウォール教って壁を神と崇めるキチガイ共じゃねぇか…」
ライナー「……ウォール教、か」
サネス「まぁ、奴らは否定しているがな」
サネス「脱獄犯の事は"そんな奴らは知らない"の一点張り。実験も知らないとほざくわけだ」
エレン「あの…その姉弟はどうなったんですか?」
サネス「現在行方不明中だ」
エレン「行方…不明…」
サネス「我々憲兵は2人の行方の捜索及び、保護に力をいれている」
ジャン「……ひでぇな…全く…」
ジャン「何のためかは知らねぇけど、関係ない人を巻き混むなんて…」
ジャン「なんだって、そんなこと……なんの大義があってそんなことが出来るんだ…」
サネス「…なるほど、お前は兵士には向いてないな」
ジャン「…それは、どういう?」
サネス「優しいんだよお前は」
サネス「会ったこともない奴のことを思い、感情移入する」
サネス「兵士には向いてない性格だ」
ジャン「いや、そのくらい誰だって思いますよ」
サネス「いや、思わないね。少なくともお前ほどはな」
サネス「大概の奴は建前だ」
サネス「本当に情けをかける奴も自分とは関係ないこととして割り切って考えている」
サネス「だが、お前は違う。本気で姉弟のことを思ってるな」
サネス「まるで自分のことのように」
ジャン「………」
サネス「俺は仕事上多くの人間を見てきた」
サネス「だから、少し見ればそいつがどんな奴かだいたい分かる」
サネス「お前は優し過ぎる。感情移入し過ぎだ」
サネス「優しくて…それでもって、ぬるいのさお前は」
サネス「先輩からのアドバイスとしては辞めちまえ、だ」
サネス「そんな性格だといつか壊れるぞお前」
ジャン「…余計なお世話、です」
サネス「くくくっ、そうか。まぁ俺の部下になるような事があれば可愛がってやるよ」
エレン「……」
男の言うことは少し分かる気がする
ジャンとは喧嘩ばかりだが
だからこそ、ジャンのことは知っているつもりだ
ジャンは優しい…というよりぬるい
内地、内地と言い巨人から逃げることしか考えてない
弱い奴だと思う
だけどマルコが前に言っていた
"確かにジャンは強い人ではないよ。だけど…"
"だからこそ、ジャンは弱い人の気持ちを理解できて、その人のことを思うことが出来るんだ"
"本当はジャンはとても優しい奴なんだよ"
マルコの言う通りなのかもな、と
そう思うエレンであった
-
- 9 : 2014/10/19(日) 23:26:18 :
-
森に入って一時間ほど経っただろうか?
霧は相変わらず濃く
そのくせ強風が雨混じりに
木々の間をくぐり抜けてゆく
ついさっき急に降りだした小雨は
既に小雨と言うには強くなっていた
キース「…まずいな」
このままでは脱獄犯確保どころか
発見。いや、手掛かりを見つけるのでさえ困難となるだろう
雨が地面を濡らし脱獄犯のいた痕跡を
消してしまう可能性が大きかった
もうそろそろ潮時か…
そう思われたとき
けたたましい銃声と共に
悲鳴と言っても過言ではない程の
切迫詰まった助けを求める声が
深い霧の奥から聞こえてきた
ーーー嫌だッ、来るなッ!
誰かッ!誰かッ!助けてくれッ!
あ、あぁ……
うわああぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!??
キース「!?」
ミカサ「どこっ!?」
キース「待て!隊を外れるな!」
ミカサ「しかし!早くしなければ!」
アニ「落ち着きな、この辺は崖だよ?霧の中闇雲に走れば死ぬね」
ミカサ「…っ!」
キース「フーバー、煙弾を」
ベルトルト「はっ!」
霧のかかった森から
黒雲の天へと
1つの赤い煙弾が空を上る
その煙弾を
白い兎のお面は見ていた
-
- 10 : 2014/10/20(月) 00:40:42 :
-
男は逃げていた
この世界にはいるはずもない化け物から
別世界からきた化け物から
ぬかるんだ地面を這う様にして
黒い死の翼から逃げていた
「嫌だッ、来るなッ!」
男の願いとは裏腹に
死の翼をもつ兎はその距離を詰める
「誰かッ!誰かッ!助けてくれッ!」
しかし男の声は森の奥へと消えていくだけ
黒い翼は男に狙いを定める
「あぁ…」
もう、駄目だと覚悟を決める
そんな男に兎は問う
「弟はどこだ?」
「!?」
「答えろ、クソ野郎」
「わかった!言う!言うから見逃してくれ!」
男は藁にすがる思いで命を乞う
……振りをして、自然に
ごく自然に内ポケットへと手を伸ばす
カチャ、と金属に指が当たると
それを勢いよく抜き出す
ピストルだ
「そんなもん!俺が知るわけねぇだろ!」
そう吐き捨てると男は引き金を引く
けたたましい銃声が鳴る
しかし兎は、まるで未来を見ていたかのように
いともあっさりと弾丸を避ける
「ッ!?」
「……」
兎は無言のまま
翼を
振り下ろした
「うわぁぁあああああああああああああ
あああああぁぁぁぁぁッッ!!!??」
ーーーズシャッ
ーーーグチュ、グチッ
返り血がお面に飛ぶ
「…チッ、クソが」
腕を一本もぎとって帰ろうかと考えていた
そのとき
空に赤い煙弾が上がる
「人っ!?」
しまった
雨のせいで匂いを感知出来なかった
とにかく早くここを離れなければ
そう思ったときだった
一人の少年が崖から落ちてきた
「……は?」
エレン「いってぇぇえッッ!!!」
「なんだ…こいつ?」
現状を把握できていない彼女の背後から
一つの弾丸が
彼女の脇腹を
貫いたーーーー
-
- 11 : 2014/10/21(火) 06:37:28 :
弾丸は彼女の脇腹を勢いよく飛び出した
「ッッ!」
振り返ると
先程、殺したと思っていた男の手にはピストルが
「チッ…しぶとい奴めッ…」
男は既に息絶えていた
おそらく最期の悪あがきといったところだろう
普段ならこんな傷すぐに治るが
この間、2人の憲兵のせいで獲物を食べ損ねてしまった
フードつきのコートに血がジワリと滲む
視界が歪む
男の死骸を食べんとするが
体の力が抜けてしまう
立っていられない
目の前には崖から落ちてきた人間がいる
終わった
こいつに捕まって私は殺されるだろう
つまらない人生だった
なんという悲劇の物語だっただろうか
せめて、最期に…弟に会いたかった
雨の降る中
彼女は意識を失い倒れた
兎のお面が外れる
そこには
黒髪の少しきつい目をした
容姿の整った少女がいた
-
- 12 : 2014/10/21(火) 21:37:41 :
-
ジャン「あの死に急ぎ野郎ッ!崖から落ちやがった!」
ライナー「全く…悲鳴が聞こえた途端、この霧の中を走りだすからだ」
ジャン「おい!なにのんびりしてんだ!この高さから落ちたら確実に死ぬぞ!」
ライナー「落ち着けジャン」
ジャン「バカか!?エレンが崖から落ちたんだぞ!落ち着いてられるか!」
ライナー「馬鹿はお前だ」
ジャン「んなこと今はどうでもいいんだよ!早くエレンを…」
ライナー「今俺たちは立体起動装置を付けているだろ」
ジャン「………あ、」
ジャン「そうだった、なんだよ。ばかみてぇに焦っちまったじゃねぇか」
ライナー「お前の焦りようは最高だったぞ?」
ジャン「ほんと、恥ずかしいぜ」
「「ハッハッハッハ!」」
サネス「おい、これあいつの立体起動じゃねぇか」
「「ハッハ……ハ……、は?」」
サネス「この高さから落ちたらやべぇな」
「「エッッレェェぇぇぇええンッ!!」」
ジャン「おい!どうすんだよ!?」
ライナー「知らん!何故あいつは立体起動を付けていないッ!」
ジャン「わかんねぇよクソッ!それより早くエレンを助けにいかねぇと!」
そういって彼は
立体起動装置のアンカーを放とうとする
そんなジャンをサネスが止める
サネス「やめろ」
ジャン「なんだ!?こんなときでも任務優先ってか、あっ?」
サネス「違う。この雨風の中飛べばどうなるかぐらい貴様にもわかるだろう?」
サネス「これ以上怪我人を出すつもりか?」
ジャン「……ッ!」
サネス「そこのお前、キース殿の元へ向かい現状を報告しろ」
ライナー「はっ!」
サネス「お前はここで待て」
ジャン「そんな!じゃあエレンは…」
サネス「俺が向かう。これは命令だ、従え」
ジャン「……ッ…はっ、」
サネス「…安心しろ。ちゃんと連れてくる」
そう言い残すとサネスは崖の下へと続く道をかけていった
一人残された彼は
この状況で何も出来ない自分が
嫌だった
-
- 13 : 2014/10/22(水) 19:04:01 :
少年は落ちていた
霧の中を落ちていた
エレン「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああッッ!!!?」
悲鳴が聞こえた
聞こえたとき"助けないと"と、思った
そして気がついたら
俺は走っていた
走っていて
そして
何故か地面がなくなったのだ
その瞬間
地球の摂理で重力が働く
体がものすごい勢いで風を切る
周りの音が聞こえなくなる
冷気が全身を襲う
目の前は真っ白な世界
濃い霧でなにも見えない
このまま永遠と落ち続けるのでは?
そう思ってしまうほど、
恐怖で頭が埋め尽くされる
しかしその恐怖をこの森は
簡単に裏切ってくれた
白い世界が一瞬にして緑色の世界に変わったのだ
驚いたのもつかの間、少年は緑色の中へ突っ込んだ
エレン「ぶへっ!」
腹に枝が当たった
その反動で少年はひっくり返る
そして今度は背中に直撃
今度はまた腹
その繰り返しで落下速度は、たいしたものじゃなくなる
そのまま少年は地面へと落ちた
エレン「いってぇぇえッッ!!!」
あちこちぶつけて痛かったが
死ななかったのは奇跡と言えるだろう
あそこに木がなかったら確実に死んでいた
エレン「し、死ぬかと思った…」
彼は自分が落ちてきた崖を見上げ、立とうとする
ーーーーズキッ
エレン「っっ!」
立とうとしたその瞬間、右脚に激痛が走る
腫れていた
色が紫色に変色している
エレン「これは…やべぇな」
そうつぶやいた、そのとき
やっと彼は、この場に自分以外の誰かがいることに気付く
エレン「なッ!」
銃口から煙の出ているピストルを握る男と
コートが赤く血で染まった少女
男の方はどう見ても息絶えていた
少女の方はうつ伏せでわからない
エレン「おい!大丈夫か!?」
彼は右脚を引きずりながら倒れている少女に近づく
意識こそはないが息が荒い
まだ、生きているーーー
そうわかるとすぐに
彼は自分の服を破り少女の脇腹を締め付け止血をする
これが
エレン-イェーガーと
霧島トーカの出会いだった
-
- 14 : 2014/10/22(水) 20:03:24 :
ーーーーピチャッ……
トーカ「んっ……」
顔に冷たいものを感じて彼女の意識は蘇る
目を開けると再び、顔に一滴の水滴が落ちた
ここはどこなのか?
首だけを動かし、状況を把握しようとする
どうやらここは洞窟らしい
さっきから、つららの様な鍾乳洞の天井から
湿気で溜まった水滴が落ちてくる
鬱陶しい。
外は既に夜を迎えていて、雨風がひどく強くなっていた
まるで嵐だ
雨と風の音に混じって
パチッ、パキッと枝の折れる音が聞こえる
そちらに視線を向けると
薪で火を焚いている一人の少年がこちらを見ていた
エレン「おう、起きたか」
-
- 15 : 2014/10/25(土) 13:04:11 :
-
トーカ「……」
体を起こそうとすると、脇腹に痛みを感じる。
そうだ。私は撃たれたんだった。
傷口に目を向けると、傷は布切れで止血してあった。
トーカ(こいつに助けられたのか…)
どうやらこの人間は、私のことを人だと勘違いしているわけだ。
なんと滑稽なことだろう。
私はお前ら人間を「喰う」化け物だというのに。
それにしてもしゃくだ。
人間に命を救われるなんて…。
胸くそ悪りぃ。
エレン「お前、そいつに撃たれたんだよな?」
彼の視線を追うと、そこには私を撃った男の死体が。
エレン「傷は平気か?」
トーカ「……」
エレン「あぁ、なんでこの男がいるのかわかんねぇよな」
トーカ「……」
エレン「悪いけど俺の任務がこいつの確保なんだ。つっても死んでるけど」
トーカ「……」
エレン「俺はエレンだ。エレン-イェーガー」
トーカ「…えれん?」
エレン「お前は?」
トーカ「……」
エレン「…おい、無視かよ」
馴れ馴れしい奴だと、彼女は思う。
まぁいい。
幸いまだ喰種だということは、ばれていない。
さすがに命を救われたのに、こいつを殺すのは気が引ける。
肉が喰えなかったのは仕方がない。
さっさとこんなとこ出て行ってしまおう。
エレン「なにしてんだ!お前腹に穴が空いてるんだぞ!動くな!」
彼女は彼の言うことを聞き流し、洞窟の外へと向かう。
エレン「ちょっと待てよ!」
彼は立とうとする。
が、バタッと顔から倒れてしまった。
その音に彼女は振り返る。
トーカ(…あいつ、右脚腫れてるじゃん……)
彼の脚はすでに立てるほどの力は残っていなかった。
しかも倒れたのは脚だけのせいではないようだ。
エレン「……ッ///」
この雨の中、腫れた脚を引きずって洞窟まで運んでくれたのだろう。
少年は明らかに苦しそうだった。
熱があるかもしれない。
トーカ「……あーっ、くそッ!」
彼女は頭をムシャクシャにして掻くと、彼の元へと踵を返した。
-
- 16 : 2014/10/25(土) 22:48:26 :
食堂には人が溢れかえっていた。
しかしそんな人の数にもかかわらず、そこは葬式のように静まりかえっていた。
その静寂を打ち破るドアの音。
食堂に四人の訓練兵が入ってきた。
その音に反応する一人の少年。
アルミン「四人とも!……エレン…は?」
ライナー「…」
アニ「…」
ベルトルト「…」
ジャン「まだ…見つかっていない…」
アルミン「そんな…」
ジャン「俺が…俺があの時あいつを止めとけば…」
アニ「やめなよ、あんたのせいじゃない」
アルミン「…ミカサは?」
ライナー「まだ、教官たちとエレンを探している。俺らは兵舎に戻るように言われた」
ベルトルト「ミカサは無理に教官たちについて行くって言ったんだ」
アニ「まぁ、現主席として同行が許されたってこと」
アルミン「そっか…」
ジャン「…大丈夫だ。あいつは死に急いじゃいるが、簡単に死ぬ奴じゃねぇよ」
アルミン「…うん、そうだね。ありがとうジャン」
「まだエレン見つかってないってよ」
「おい…もう何時間経つよ…」
「こりゃ死んだな」
「ちょっと!言っていいことの区別もつかないの!?」
「これで憲兵団への席が一つ空いたな」
「あんたら好い加減にしなさいよ!!」
ザワッ、ザワッ…
ベルトルト「……」
アニ「これが、同期だと思いたくないね」
ライナー「そうだな。悲しいぜ、例えーーー」
計画の時までの仲良しごっこだとしても。
一瞬。
誰も気がつかなかったが、
一瞬だけ。
ライナーの片目は緋く染まった。
-
- 17 : 2014/10/25(土) 23:23:45 :
少女は濡らした布を少年の額にのせる。
エレン「悪いな///」
トーカ「ほんと、なんで助けた奴に助けられてんのさ」
エレン「ははっ、お前って優しいんだな///」
トーカ「……うっさい。熱あんだから静かにしてろ」
なんだろう。
人間は嫌いなはずなのに。
こいつといると調子が狂う。
相変わらず外は雨風がひどい。
薪で火を焚いているとはいえ、時間が経つにつれ気温はどんどん下がっている。
寒さが二人の体温を奪う。
エレン「ごほっ、げほっ///」
トーカ(…苦しそうだな…)
エレン「…なぁ///」
トーカ「…なに?」
エレン「腹の傷、平気か?///」
トーカ(…自分だって苦しい癖に…生意気…)
何故こいつは私の心配ばかりするのだろう。
自分だって右脚を痛め、高熱まで出しているのに。
こんな傷、そこの男の死肉を喰えばすぐに治るのだ。
だけど、こいつの前では喰いたくないと思う。
自分が喰種だとばれたくないと思う。
こいつの前だけでは、人間でいたいと思ってしまう。
自分と、弟の体を機械でいじくりまわした、
大嫌いなはずの人間に。
トーカ「…霧島、トーカ」
エレン「えっ?///」
トーカ「私の名前だよっ!ちゃんと教えたからな!」
エレン「トーカか…いい名前だな!///」
トーカ「ッ!……」
なんで私は喰種なのだろう。
なんで人間に生まれることが出来なかったのだろう。
なんで人の肉を喰わなければ死んでしまうのだろう。
なんでこんなにも、
悲しいの…かな。
アヤト……父さん…。
会いたいよ。
トーカ「……」
エレン「……///」
スッ…
彼は起き上がり
そっと、彼女に寄り添う。
トーカ「…風邪をうつすつもり?」
エレン「ちょっと冷えてきただろ///少しだけこうさせてくれ///」
トーカ「……フン」
エレン「ありがとな///」
こうされてると、妙に落ち着く。
こいつの匂いが安心する。
まるで、父さんの匂いだ。
暖かい。
人って…こんなにも暖かいんだ。
このときからかも知れない。
私が人間に対する意識が変わったのは。
そして。
こいつのことが好きになっていったのは。
-
- 18 : 2014/10/29(水) 21:32:40 :
エレン(熱、だいぶ下がったな…)
彼は自分に体を預けて寝てしまった少女を起こさないように
冷えきった手を額に当てる。
洞窟は雨風の激しい叫びの中に
パチパチと火が薪を呑み込む音だけが静かに鳴り響く。
パキッと、火の中で少し太い枝が折れるのと同時に
彼女は口を開いた。
トーカ「…鳥、なの」
エレン「…えっ?」
トーカ「私は、籠の中の…と…り…」
エレン「それって、どういう…」
彼の問いを遮ったのは、
スー、スー、といった、かわいらしい寝息だった。
エレン「……寝言かよ」
半分呆れ、半分恥ずかしくなりながら
彼は彼女の顔を覗き込む。
そこには、さっきまでのきつい表情はなく
どこにでもいる女の子にしか見えない。
だから、今。
自分が考えていることが馬鹿らしくなる。
彼女が
「人殺し」ではないかという
考えが。
-
- 19 : 2014/10/31(金) 06:48:47 :
-
頭の中でいくつかの疑問がよぎる。
エレン(何故、こいつはあそこにいたんだ?)
こんな雨風の森の中。
しかも脱獄犯の死体と一緒に。
そして一番気になるのは
倒れていた彼女の傍らにあった
この…兎のお面だ。
先日、一人の脱獄犯を殺したとされている兎のお面を被った人物。
このお面はその事件を連想させないわけにはいかない。
エレン「お前が…殺したのか?」
当たり前だが、返事はない。
聞こえるのは雨風と焚き火の音。
そして小さい寝息だけ。
彼は人殺しかもしれない彼女を恐れているわけではない。
怒っているわけでも、軽蔑しているわけでもない。
何故なら彼もまた、人を殺した人間だからだ。
しかし彼はそのことを非に感じてはいない。
自分がしたことは正しかったと今でも胸を張って言える。
自分が殺した連中は死んで当然の奴ら。
あいつらは人じゃない。害虫だ。
だから彼は正義の名の下で殺した。
戦わないと生き残れないこの世界で。
つまり、何が言いたいかと言うと、
何故、兎のお面は脱獄犯を殺したのかということだ。
自分と同じ正義を掲げた執行なのか、
それとも…
エレン「…復讐……?」
彼は寝ている彼女の頭をそっと優しく撫でる。
サネスは言っていた。
今回脱獄したウォール教の奴らは人体実験をしていた、と。
その犠牲に一人の少女と少女の弟がいた、と。
もし、兎のお面が実験の被害者なら…
エレン「兎のお面はお前なんだろ、…トーカ」
静かな寝息だけが返事をする。
彼女は同じだ。
マリアが破られたあの日。
当たり前の日常を理不尽にも奪われた
籠の中の鳥である俺たちと
同じなのだ。
エレン「…母さん」
今日はなんかどっと疲れた。
少しだけ休もう。
彼はそう思い、深い眠りについた。
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