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Dolls~もう1度抱きしめたい~【エルヴィン誕生日SS】

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  1. 1 : : 2014/09/30(火) 22:30:12
    こんばんは。執筆をはじめさせていただきます。

    卿さんが立ち上げた【エルヴィン誕生日企画☆】http://www.ssnote.net/groups/839に参加させていただきました(^∀^)/

    よろしくお願いします。

    では、オリキャラの説明をさせていただきます。

    セレナ・ラングレー。19歳。調査兵団に所属する、看護兵でした。

    セレナは、前作、#Final 大好きだよ。の作中にて、エルヴィンに看取られ、死亡しました。

    今回は、それから少し経った後のお話です。

    オリキャラ、と聞いて、抵抗を感じる方も少なくないと思いますが、数珠繋ぎの中で、どうしても、エルヴィンの誕生日には、彼女を出演させたいと、前々から考えていました。

    ご了承いただける方は、お付き合いいただけたらと思います。

  2. 2 : : 2014/09/30(火) 22:39:38
    この想い

    言葉にすると

    汚れてしまうほどに

    胸に秘めた想い

    あなたが

    大好きです


    暗い地下街の中で 自ら身体を汚し

    美しい翼を背負った兵士に

    名前を欲した少女…


    セレナ・ラングレー。

    彼女は死んだ。大好きなひとの腕に抱かれて。

    大好きだよ、の言葉を遺して。


    そして、秋の深まる、きれいな青空が広がったある日

    彼女は再び、大好きなひとの前に現れた。


    もっと遠く。はるか手の届かない場所に、逝く前に。
  3. 3 : : 2014/10/01(水) 10:42:41
    「いや~、今日も良い天気だねぇっ!」

    第四分隊長、ハンジ・ゾエは、そう言い放つと、大きく伸びをした。

    「絶好の、実験日和だ!」

    そんな上官を見、呆れ顔の副官、モブリット・バーナーは、深い深いため息をついた。

    「相変わらず、お元気ですね…分隊長…」

    「そういうモブリットは、朝からテンション低いぞっ!」

    ハンジがモブリットの背中をバンと叩くと、モブリットは大きくよろけ、痛そうに顔を歪める。

    「分隊長が元気過ぎるんです!もう3日も徹夜なさってるじゃないですか。今夜こそは、ちゃんと休んでくださいよ!」

    「分かってるって。」

    本当に分かっているのか、いないのか。ハンジは手をヒラヒラさせ、副官の忠告を受け流す。

    モブリットは再び、ため息をついた。
  4. 4 : : 2014/10/01(水) 10:53:29
    その日は、エレン・イェーガーの巨人化実験が行われた。

    ハンジにモブリット、さらにはリヴァイ兵士長も立ち会い、万一に備え、複数の兵士も配備していた。

    実験は滞りなく進行していたのだが…

    「あの…分隊長…」

    実験の途中にも関わらず、モブリットはハンジに声をかける。

    「…なに?」

    「さっきから、周りを気にしてらっしゃるようですが…」

    普段の実験であれば、ハンジは実験に没頭し、周りを気にすることなど、皆無なのだが、それが今回はなぜか、時折周りをキョロキョロと見回している。

    「…ああ…ごめん…」

    言葉を濁すハンジ。

    「なんか気になってさ…周りの兵士たちが…」

    「周りの兵士?」

    モブリットも、周りを見る。

    「…別に…何もおかしくないですが?」

    ハンジは苛々と頭をかきむしると

    「なんか…何となく、数が多いというか…」

    「…はあ…」

    ポカンとする副官に、ハンジは顔の前で両手を合わせ

    「ごめんっ!こっからちゃんと集中するから…」

    「最初からそうしろ、クソメガネ…」

    リヴァイが言う。ハンジは彼を忌々しげに見つめ

    「だって、気になるんだもん!」

    と、頬をふくらます。リヴァイは大きくため息をつくと

    「…ったく…クソが…」

    そして、彼も兵士たちの方へ目を向けると、“なにか”に目が留まり、すっと目を細めた。
  5. 5 : : 2014/10/01(水) 11:04:17
    実験を終えると、ハンジはモブリットと共に、ハンジの自室へと戻り、報告書のまとめに取りかかっていた。

    途中、モブリットはコーヒーを淹れて来ると言って、部屋を出ていった。

    ハンジはふと伸びをし、息をつく。

    つかの間の休息だ。

    『…ぶ……ちょう……』


    「…えっ?」

    背後から、微かに声がする。この部屋には今自分以外、誰もいないはずなのに。

    『…分隊長…ハンジ分隊長…』

    おそるおそる、後ろを見る。

    『…お久しぶりです…ハンジ分隊長…』

    目を見開く。まさか。

    「えっ…と…」

    そこに立っていたのは…




  6. 6 : : 2014/10/01(水) 11:13:39
    「セ…セレナ!?」

    『…はい…』

    セレナはうつむき、そう返事をした。ハンジは、思わずイスから立ち上がると、彼女と向き合った。

    「…夢…じゃ…ないのか…」

    ハンジは自分の頬を思いきりつねる。

    「痛い!クッソ痛いぜ!夢じゃねぇっ!」

    そんなハンジの姿に、セレナはくすりと笑う。

    『…相変わらずですね、分隊長…』

    少し、エコーのかかった声を聞き、ハンジは改めてセレナをまじまじと見た。

    確かに、セレナの“姿”ではあるものの、人間のそれとは違い、体は透け、セレナの背後の景色が見えている。

    加えて、セレナの膝から下は完全に消えており、足は見えない。

    「えっ…なんで…どうして…」

    セレナ・ラングレーは死んだ。それは確かだった。

    死亡者名簿にも名前が載っているし、団長のエルヴィンの口からも聞かされていた。どうやら、彼女の最期を看取ったのは、エルヴィンだったらしい。

  7. 7 : : 2014/10/01(水) 11:38:36
    『あの…ごめんなさい、突然…』

    おずおずと、セレナが声をかけてくる。ハンジは慌てて我に返る。

    「あっと…ごめん、ぼうっとしてて…」

    頭に手をやろうとしたはずみで、机の上にあった卓上カレンダーが倒れる。

    「おっと…」

    それを直した時、ハンジはあることに気づく。

    (…あ、そうか。今日は…)

    改めて、ハンジはセレナを見た。

    「…セレナ、どうして君が今日、姿を現したのか、何となく分かったよ。詳しい事情は、分からないけど…」

    セレナは、目を潤ませ

    『私も…正直訳が分からなくて…気がついたら“この世”に戻ってきていたんです…私、もうすぐ、誰も手の届かない、もっともっと遠くへいかなければならないんです…でも…その前にあの人に…毎日、そう強く願っていたんです。そうしたら、ここに来ることができました…』

    セレナの言葉に、ハンジは目を細め、微笑む。

    「そっか…エルヴィンには、もう会ったの?」

    セレナの頬が、微かに染まる。

    『…いえ…』

    「早く会って、ラブラブチュッチュでもなんでもしてきなよ。人払いは私がするからさ!」

    セレナは顔を真っ赤にして

    『そっ…そんな…いえ私はただ…それに…その…私は所詮もう、“死んだ”人間ですので…』

    そこでセレナは言葉を切ると、ハンジの肩に手を伸ばす。

    「えっ…」

    ハンジの肩で止まるはずのセレナの手は、すり抜け、向こう側に突き抜けてしまう。

    セレナは手を戻した。ハンジは、残念そうに顔を歪め

    「…そっか…触れることが出来ないんだね…」

    『…はい…』
  8. 10 : : 2014/10/01(水) 21:35:01
    コンコン。

    とここで、扉がノックされる。

    「…どうぞ?」

    ハンジが応えると、扉の向こうから、声が聞こえる。

    「分隊長、コーヒーをお持ちしたのですが…両手がふさがっているので、開けてもらえませんか?」

    ハンジはニヤリと笑うと、小声でセレナにささやく。

    「モブリットがセレナの姿見たら、どんな顔するかな?」

    「分隊長~?」

    モブリットの催促する声に

    「はいは~い、今開けるよ~!」

    扉を開け、入室するモブリットに、ハンジはいたずらっぽく笑い

    「ジャジャ~ン!モブリット、見てごらんよ!」

    大げさに手を広げ、モブリットにセレナの姿をアピールするハンジ。

    「…は?」

    いっぽうモブリットは、手にしたコーヒーを机の上に置き、怪訝な表情を浮かべる。

    「…は、じゃなくてほら、この子、懐かしいでしょ!?」

    ハンジが示す方向を見るなり、モブリットはますます顔を歪ませ

    「…ですから…何の事です?」

    ハンジは、ポカンとして

    「何って…モブリット…彼女の事が見えないの?」

    そう上官に問いつめられ、モブリットは困った様子で

    「彼女って…何の事です?冗談はやめてください、分隊長!」

    そんな副官に戸惑うハンジに、セレナはささやく。

    『ハンジ分隊長…モブリットさんは、本当に私の事が見えていないんだと思います。私は…いわば、幽霊ですから、見える人と見えない人がいても、不思議ではないと…』

    セレナの説明に、ハンジはつまらなそうに口をとがらせ

    「つまり、ドンカンなんだね、モブリットは。」

    モブリットは、ますます訳が分からず

    「だから…何の話ですか!?」

    ハンジはモブリットに、セレナのことを説明した。
  9. 11 : : 2014/10/01(水) 21:44:51
    すると、モブリットの顔はみるみるうちに青ざめていき、ハンジがセレナが“いる”と示す場所を、何か恐ろしいものでも見るかのような目付きで、見つめはじめる。

    ハンジは、そんな彼に苦笑し

    「やだなぁモブリット。セレナだよ?ずっと一緒に戦ってきた仲間じゃないか。」

    「しかしですね分隊長…自分は、幽霊やもののけといった類いは…どうも…」

    『…ハンジ分隊長…彼の反応は、いたって普通ですよ。幽霊を見て、普通でいるほうが、おかしいです。』

    セレナの言葉に、ハンジは

    「あ~あ、そっか…って、私は!?」

    『ハンジ分隊長は…その…特別ですから…』

    「特別ってなに!?」

    ハンジとセレナの会話に、1人呆然とするモブリット。彼にセレナの言葉も聞こえておらず、ハンジが1人でしゃべっているように見える。

    「あの…分隊長…?」

    「ん?…ああ、セレナがね、モブリットの反応は、おかしくないってさ。」

    ハンジの“通訳”を聞き、モブリットは戸惑いながらも

    「はぁ…それは…よかったです…」

    と言う他なかった。
  10. 12 : : 2014/10/02(木) 21:39:31
    「よっし!じゃあ行くか!」

    『どこへです?』

    セレナの言葉に、ため息をつくハンジ。

    「どこへって…決まってるでしょ。エルヴィンのところだよ!」

    セレナは、うつむいた。

    『団長に…私の姿は…見えるでしょうか…』

    弱気なセレナに、ハンジはセレナの両肩を…つかもうとしてすり抜け、よろめく体を持ち直しながら

    「そんなのは…会ってみなきゃ分かんないでしょ!?セレナはエルヴィンに会いたいの、会いたくないの!?」

    ハンジに問いつめられ、セレナは少し間を置くと

    『…会いたい…会いたい…です…』

    「じゃあ、迷ってるヒマなんかないよ!時間が無いんでしょ!?」

    『…ええ…おそらく…』

    「あの…」

    おずおずと、モブリットがハンジに声をかける。

    「なに?」

    「よく分かりませんが…団長でしたら、リヴァイ兵士長と、次回の壁外調査について、話をされているかと…」

    その言葉に、ハンジはモブリットの背中をバンと叩くと

    「エルヴィンは、リヴァイと一緒なんだね!よし、善は急げだ!行くよ、セレナ、モブリットも!」

    『…はい…』

    「…はぁ…」

    勢い勇んで部屋を出ていくハンジに、モブリットはしきりに首をひねりながらも、後に続く。

    セレナも、不安の中に淡い期待を抱きながら、ハンジの後を追った。
  11. 17 : : 2014/10/03(金) 21:50:42
    廊下をしばらく歩いた。モブリットは、壁際を歩く上司の後ろを歩いた。

    彼には見えないが、ハンジの様子からして、セレナはハンジの隣に“いる”らしく、とてもハンジの隣を歩く気にはなれなかった。

    「おっ…!」

    ハンジが声を上げる。見ると、正面からエルヴィンとリヴァイが並んで歩いてくる。

    「エルヴィン!ちょうどよかった!見てよ!」

    ハンジは、興奮した様子で、セレナをアピールする。

    それに対し、エルヴィンは冷めた様子で目を細める。

    「…何がだ、ハンジ?」

    「…何がって…」

    立ち位置としては、エルヴィンはちょうどセレナの正面に立っているのだが、エルヴィンには、見えていないのか…。

    「エルヴィン!分からないの!?セレナだよ!」

    ハンジは思わず、エルヴィンの手をとり、セレナの頬の位置まで持っていった。

    「ほら…ここに、セレナの顔がある…セレナがその…幽霊としてだけど、君に会いに、来てくれたんだよ!」

    ハンジの必死の訴えにも、エルヴィンは表情を変えることはなく、セレナが“いる”場所に、目を向けようともしなかった。

    セレナは、震える手で、エルヴィンの手に触れようとし…

    「…ハンジ…」

    エルヴィンはセレナの顔に添えた手を離すと、

    「あいにくだが、俺は忙しい。君の冗談に付き合っている暇はないんだ…失礼する…」

    エルヴィンは、ハンジの立つ側の反対の壁にサッと身を寄せ、リヴァイが立ち止まっているままなのも構わず、足早に去っていってしまった。

    セレナは、エルヴィンの手に触れようとした手を握りしめ、うつむいた。

    「…ちょっと…弱ったな、エルヴィンには見えないなんて…」

    ハンジも、深いため息をつく。

    「おい、クソメガネ。」

    今まで口を閉ざしていたリヴァイが、静かに口を開く。

    「…ん?あ、そうだリヴァイ、君には見える!?」

    ハンジはリヴァイに詰め寄ると、リヴァイはうっとおしそうに顔を歪め

    「…近づくな、うっとおしい。俺には、お前の横に何かが“ある”ようにしか見えんが…」

    リヴァイは、セレナの方に目を向ける。セレナは思わず、軽く頭を下げる。

    「…あっ今、リヴァイに頭を下げたけど…分かる?」

    ハンジの問いに、リヴァイは眉を寄せ

    「いや。俺には、白くてぼやけた何かが“ある”ようにしか見えん。」

    「…そっか…」

    リヴァイは、ハンジの後ろに立つモブリットに声をかける。

    「おい、モブリット。お前はどうなんだ。何か見えるのか?」

    モブリットは、セレナの方をじっと見つめた後、

    「…いえ。やはり自分には、何も…」

    リヴァイは息をつくと

    「つまり、その幽霊として出やがったあの看護兵も、見える奴と見えない奴がいるってことか。」

    「…で、エルヴィンにも、見えていなかった、と…」
  12. 18 : : 2014/10/03(金) 22:01:37
    ハンジの言葉に、リヴァイはエルヴィンが去っていった方を見

    「…いや…」

    「えっ?」

    「あいつは…見えていたと思う…」

    リヴァイの言葉に、ハンジとモブリット、そしてセレナは、驚き目を見開いた。

    リヴァイは続ける。

    「思い出してみろ。さっき、モブリットはハンジの後ろにいて、その看護兵が本当に見えていないのなら、ハンジの隣には誰もいないはずだ。すれ違うのに、わざわざ壁際に体を寄せる必要はない。そうしたということは…」

    リヴァイは言葉を切り、セレナの方を見る。

    「はっきりと見えているかどうかは知らんが、“何か”がハンジの隣に“いる”ことを感じて、無意識に体が動いたんだろう…」

    そこで、しばしの沈黙が訪れる。その沈黙を破ったのは、ハンジだった。

    「だったら…なんで…」

    ハンジは続ける。

    「もし…見えてたんなら、どうして…どうしてエルヴィンは、セレナのことを…」

    言葉を切るハンジに、リヴァイの言葉が続く。

    「…さぁな。それは、俺たちが考える事でもねぇだろ。」

    彼の言葉をもっともだと感じたのか、ハンジはそれ以上、何も言わなかった。
  13. 19 : : 2014/10/03(金) 22:14:16
    リヴァイたちと別れた後、セレナは1人、団長室の前に立っていた。

    この扉の向こうには、エルヴィンがいる。

    自分が、まだ生きていた頃、何度もここに立っていた。

    書類の提出や、医療、看護班の近況報告と銘打って、何度もここに来ていた。

    あの人の声が、聞きたくて。

    あの人のぬくもりを、感じたくて。

    あの人と同じ空気を、吸っていたくて。

    あの時自分は、1人の“女”として、普通に恋をしていたんだと思う。

    10歳の誕生日を迎えたあの日。

    優しかった父に犯されて

    1人になって

    地下街で生きてゆくために、その身を売った。

    成長し、自分がさらされた運命の意味を知った時

    もう、自分は誰にも愛されず、愛すことなく、生きるのだと思った。

    あの人に出会い、名前を授かるまでは。


    …団長…。


    セレナは、幽霊となった今、扉など簡単にすり抜けられるのだが、それをためらい

    (…ま、いちおうね…)

    扉をノックする。当然、ノックの音はしないのだが。

    (…団長、失礼します…)

    セレナはゆっくりと扉をすり抜け、団長室へと入っていった。
  14. 20 : : 2014/10/03(金) 22:31:04
    そこに、エルヴィンはいた。机に向かい、書類の整理をしているようだった。

    セレナは、部屋のすみに立ち、その様子をしばらく見守った。

    エルヴィンはセレナに気づくことなく、書類整理を続けている。

    『…団長…』

    セレナは、静かにエルヴィンに語りかける。エルヴィンは何も変わることなく、書類と向き合っている。

    『団長…お元気そうで、なによりです…』

    カサ…パララ…

    『団長…私、あなたにもう1度会いたいと、ずっと願っていたんです。』

    パサッ…トントン…ペラ…

    『私…聞こえてましたよ…あの時、私が死ぬ前に、私の体を抱いて、“大好きだよ”って言ってくれた…嬉しかったです…私と…同じ気持ちだったんだって…』

    パサッ…カリカリ…バサッ…

    『私…あなたのことが…大好きでした…本当に…世界中の誰よりも…愛していたと…』

    ペラッ…ペラペラ…カサリ…

    『団長…私のこと、見えませんか、分かりませんか…』

    エルヴィンは、顔を上げることはなかった。書類を見つめ、時おり、書面に不備でもあったのか、眉を寄せ、顔をしかめる。

    『団長っ…お願いです…もう1度…』

    セレナは涙が溢れ、こみ上げてくる嗚咽を押さえようと、両手で口をふさぐ。

    エルヴィンは書類と向き合い続け、書類のこすれあう音だけが響く。

    セレナはなんとか涙を落ち着かせると、改めて、まっすぐにエルヴィンを見た。

    そして口を開きかけ…胸がいっぱいになり、涙をほろ、ほろと流すと、黙って頭を下げ、静かに扉をすり抜けていった。

    窓の外は、夕日が沈みかけ、夜の闇が迫っていた。

    薄暗い部屋の中で、エルヴィンはしばらく書類に視線を落としていたが、ふと、セレナがすり抜けていった扉に視線を移し、目を細めた。
  15. 23 : : 2014/10/04(土) 21:21:00
    「ああ、こんなところにいた…」

    廊下に佇むセレナを見つけ、ハンジは声をかける。

    「エルヴィンのところに行ってたんでしょ、どうだった?」

    ハンジの問いに、セレナは黙ってうつむく。その様子に、ハンジはすべてを悟った。

    『…もう、いいんです。あの人の元気な姿を見ることができただけでも、私、幸せです…』

    セレナは、自分の目の前に、右手をかざしてみる。

    その指先はすでに、消えかけていた。

    『私はこのまま…もうすぐ消えます…自分でも、どこへ旅立ってゆくのか、分からないけど…』

    ハンジは、静かに口を開く。

    「セレナ…君に1つ、提案があるんだけど…」

    『提案…ですか?』

    「うん…さっき、書庫にある本をかき集めて調べたんだけど…セレナ、憑依って知ってる?」

    ハンジの問いに、セレナは首をひねる。
  16. 24 : : 2014/10/04(土) 21:41:09
    『ひょうい…ですか?』

    「そう。ある1つの魂を、別の肉体に宿すことなんだけど…セレナが別の生きている“誰か”に憑依すれば、セレナも別の誰かの肉体ではあるけれど、面と向かってエルヴィンに想いを伝えられるだろ。」

    『確かに…でも、別の誰かって…』

    「そのことだけど…」

    ハンジは微笑み、自分の胸に手をあて

    「…私の体じゃ、だめかな?」

    『ハンジ分隊長の!?』

    「…うん…だめ?」

    ハンジは、まるで少女のように小首をかしげてみる。

    セレナは戸惑った。

    『…いえ…ハンジ分隊長…お気持ちは嬉しいですが…その…危険なのでは…』

    セレナの言葉に、ハンジは肩をすくめる。

    「そりゃ、安全とは言えないだろうね。私もこんなこと初めてだし。」

    『でしたら…』

    セレナの言葉を遮るように、ハンジは続ける。

    「これはね…セレナ、君のためだけど、それだけじゃないんだ。少なくとも、私の中では。」

    『…それは…』

    「今まで、数えきれないほどの兵士が、志半ばで死んでいった。それは、自分だけを責めたところで、どうしようもないことくらい、分かってる。だけど…」

    ハンジは、うなだれる。

    「せめて…今、目の前にいる、君の想いだけでも…って思うんだ。ほんとに、私の自己満足なんだけどね。」

    ハンジは、そこまで言い終えると、セレナに向かって、深々と頭を下げた。

    「…ねぇ、頼むよセレナ…」

    『やめてください、ハンジ分隊長…顔を上げてください…』

    セレナの言葉に、ハンジはゆっくりと顔を上げる。そんなハンジに、セレナは優しく微笑む。

    『…ありがとうございます…あなたの体、少しだけお借りしますね…』

    ハンジも微笑んだ。

    「…うん、分かったよ。」

    ハンジは軽く深呼吸をし、目をつぶった。

    セレナはゆっくりとハンジに歩み寄り、その体に憑依した。

    ハンジの瞳が、ゆっくりと開かれた。



  17. 25 : : 2014/10/05(日) 21:23:38
    暗闇に包まれた団長室に、エルヴィンは1人、椅子に座り、終わりかけた書類整理を前にし、ため息をついた。

    今日1日、少しでも息抜きできる時間がとれると思いきや、もうすでに、日は落ちてしまっている。

    兵団の長である立場でいる以上、仕方のない事なのだが、もう決して若くはない自分の体に、日々の疲れは確実に積み重なっているようだった。

    コンコン。

    扉がノックされる。エルヴィンは再び仕事に意識を戻し

    「…誰だ。」

    「…ハンジです…」

    エルヴィンは少し眉を寄せつつも

    「…入れ。」

    その声に、はたから見てもすぐに分かるくらい、遠慮がちに入室してきた姿は、間違いなく、ハンジ・ゾエだった。

    「…ハンジ…どうした、こんな時間に…」

    エルヴィンの問いに、ハンジは目を泳がせながら口ごもる。

    「いえ…その…」

    「また何か問題でも起こしたのか。まだモブリットからの報告は無いが…」

    エルヴィンの言葉に、ハンジは慌てて首を振った。

    「いえっ…団長、決して問題など、起こしていません!」

    その言葉に、エルヴィンは目尻をピクリと動かし、ふと、机上の蝋燭の柔らかい光に照らされる書類の1つを手にとった。

    「…この前提出した書類だが…」

    「…はい…」

    「もう少し、実験の詳細をきちんと記入してほしいと、伝えてはもらえないか…」

    ハンジは、首をひねる。

    「あの…誰に…ですか?」

    その問いに、エルヴィンは背を向け、答える。

    「決まっているだろう…ハンジに、だ。」
  18. 28 : : 2014/10/06(月) 21:25:12
    ハンジは、目を見開いた。

    「その…団長、ハンジ…は、ここに…」

    エルヴィンは背を向けたまま、続ける。

    「…そうだな。確かに、見た姿はハンジだ。だが、俺も詳しいことは分からんが、人格?というのかな、それは別人のはずだ…」

    エルヴィンは、ふぅと息を吐いた。

    「ハンジは俺のことを、団長、ではなく、エルヴィンと名前で呼んでいるからな。だいいち、ハンジは今まで、団長室にノックをして入った事は1度たりとも無い…」

    エルヴィンは続ける。背を向けたままで。

    「君が…誰かは知らないが、ハンジに人格が戻ったら、伝えてくれ。報告書は、もっと詳細に書いてくれ、とな…」

    そして最後に、ぽそりと言った。

    「俺からは…それだけだ…」

    ハンジの瞳を通し、セレナはエルヴィンの背に描かれた、自由の翼を見た。

    憲兵に犯されかけた時、自分を救ってくれた、その背中。

    その翼を、ただただ美しいと思っていた。自分もいつか、その美しい翼を背負うのだと、ずっとその背中を追い続けた。

    そして、いつからだろう…

    その大きな背中を…愛おしいと思ったのは…

    「団長っ!」

    ハンジの体に抱きすくめられても、エルヴィンは決して振り向こうとしなかった。

    セレナは、ハンジの声を借り、必死に訴えた。涙で顔が汚れようが、構わなかった。

    「私っ……セレナですっ…団長わたしっ……セレ…ナ…ですっ…」

    エルヴィンは、ゆっくりと目を閉じた。セレナは続ける。

    「わっ…私っ…ずっとっ…会いたっ…くて…ずっと…その元気なお姿だけでもって…でもっ…でもなんか…姿を見たら…さびしくなってしまって…っ…」

    もう、最後はむせび泣いて、うまく伝わらなかったかもしれなかった。

    セレナはただ、振り向いてほしかった。
  19. 29 : : 2014/10/08(水) 10:05:19
    暫し、1人のむせび泣く声だけが響いた。

    そして、エルヴィンは言った。

    「…知ってたさ…」

    「…えっ…」

    「君が…姿を現したこと…ハンジの隣に立っていたこと…」

    エルヴィンはゆっくりと振り向いた。そして、大きく吐く息と共に、その名を呼んだ。

    「…セレナ…」

    セレナは応えた。

    「…はい…」

    「あの日…君が死んで…ただの骨の欠片になって…そしたら…俺の中にも、感情というのが芽生えたよ…」

    エルヴィンは、まっすぐ前を向いたまま、続けた。

    「さびしい…と…」

    セレナは、ハンジの体のまま、辛そうに目を伏せた。

    「おかしいよな…今まで…俺は何人の兵を巨人に喰わせ…数えきれない人に、同じ感情を抱かせてきたくせに…俺は余計な事は考えず、その時が来たら、素直に地獄の釜の中に入るべきだな…きっと君とは…違うところに…」

    ここで、自ら重ねた罪に悶え苦しむ男の唇に、セレナはそっとそれを重ねた。

    そして言った。

    「あなたが地獄へゆくのなら…私も一緒です…」

    セレナは続ける。

    「私に…セレナ・ラングレーと名前をつけてくれたのは…私に…生きる場所を与えてくれたのは…そして…私が大好きになった人は、調査兵団の団長ではなく…エルヴィン・スミスなんですよ…」

    セレナはその男が流した涙を、そっと拭った。

    「大好きです…エルヴィン…」

    すると突然、ハンジの体が、淡い光に包まれる。

    セレナは悟った。“その時”が来たのだ、と。

    男は願った。“その時”がまだ、来ないでくれ、と。
  20. 33 : : 2014/10/14(火) 21:21:28
    「…では、どうかお元気で…」

    淡い光が、だんだんと強くなってゆく。

    エルヴィンは、その想いを自らの拳にそっと包みこみ、愛するひとに向かって、笑顔をみせた。

    エルヴィンには見えた。ハンジの体をぬけ、ゆっくりと空へと昇ってゆく、セレナの姿が。

    『…あ、そうだ…1つ、言い忘れてました…』

    セレナの言葉に、エルヴィンは優しく問いかける。

    「…なんだ?」

    セレナは笑った。精一杯の、笑顔で

    『お誕生日…おめでとうございます…』

    エルヴィンの瞳が、かすかに見開かれる。

    忘れていた。愛するひとが、もう決して迎えることのできない日を、自分が今日、迎えることができたことを。

    「…セレナ…!」

    エルヴィンは思わず、セレナに手を伸ばす。セレナがその手をそっと繋ぐと、その姿は、光の中に溶け込んでゆく。

    『ずっとずっと…愛しています…エルヴィン…』

    そしてそのまま、光の中へと、消えていった。

    最後にセレナと繋いだ手を、エルヴィンはそっと胸にあて、静かに言葉を紡いだ。

    それは、彼の愛するひとにのみ、届いた言葉だった。
  21. 34 : : 2014/10/14(火) 21:28:55
    ハンジは、閉じていた瞳をそっと開くと、何度もパチパチとまばたきをし、少しずつ意識を取り戻した。

    「…ん…ああ、ここは…どこだ?」

    「おはよう、ハンジ。」

    エルヴィンの声に、ハンジははっと我に返る。

    「エル…ヴィン…そうだ確か…セレナが…」

    自分を見つめるエルヴィンの表情に、ハンジは安心したように微笑むと

    「その様子じゃ、うまくいったようだね…」

    「…ああ。本当にありがとう、ハンジ…」

    エルヴィンの言葉に、ハンジはおどけてみせる。

    「うっわ。エルヴィンがそんなことを私に…明日は、大雨かな?」

    ハンジの言葉に、エルヴィンは窓のそばに立ち、夜空を見上げた。

    「…いや。見ろ。綺麗な星空だ。明日もきっと、良い天気になる。」

    エルヴィンの言葉に応えるように、遠い小さな星が1つ、きらりと瞬いた。
  22. 35 : : 2014/10/14(火) 21:34:50
    ※…以上で、終了とさせていただきます。

    今回、エルヴィン誕生日企画を催してくださった、卿さん

    今回の物語を読んでくださり、応援してくださった皆さま

    そして、セレナ・ラングレーをこれまで見守ってくださった、すべての皆さまに、感謝申し上げます。

    ありがとうございました。

    2014年 10月14日     数珠繋ぎ
  23. 36 : : 2014/10/15(水) 20:16:44
    執筆お疲れ様でした。
    セレナシリーズより、暫く、再び彼女に会えたことに嬉しさが溢れてくるようです。最初はエルヴィンが見えない振りをしていることに悲しみを覚えました。ですが、彼にも大きな背負うべき業があったのですね。
    あなたが地獄へ行くのなら、の所はセレナという女性に対し尊敬の念が拭えません。今回はハンジさんの優しさもあり、私的にはこれ以上ない感動作でした。
    エルヴィン・スミスとセレナ・ラングレーの愛に敬礼!(//∇//)ゞ
  24. 37 : : 2014/10/15(水) 21:16:03
    >>36
    読んでいただき、ありがとうございました。
    数珠繋ぎがセレナを介して伝えたかったのは、エルヴィンの“人としての感情、そして弱さ”でした。
    原作にて、第57回壁外調査では、巨人勢力をあぶり出すためとはいえ、多くの兵を、彼は切り捨てました。
    リヴァイ班も犠牲となり、数珠繋ぎとしては当初、“この人は、酷い人だ”という印象でした。確かその頃は、ネット上でもエルヴィンの評価は厳しかった記憶があります。
    そんな時、数珠繋ぎの中で“生まれた”のが、セレナ・ラングレーでした。
    本当に、おかしな話ですが、彼女を通し、エルヴィンの“人としての一面”を探り、それが、原作に着目する、1つの原動力となったのかもしれません。

    …すみません、長くなっちゃいましたね(^_^;)
    コメント、ありがとうございました。
  25. 38 : : 2014/10/15(水) 22:08:08

    執筆お疲れ様でした。
    彼女の控えめな優しい話し方と変わらない強い心にまた会えて、団長と同じくらい嬉しく思っております。
    どんな形であっても、彼女は美しいですね。本当に大好きです。
    私も先日誕生日を迎えたので…勝手に団長に便乗させて頂きます(笑)
    素敵な誕生日の贈り物ありがとうございました(。-_-。)
  26. 39 : : 2014/10/16(木) 08:09:04
    >>38 月子さん
    読んでいただき、ありがとうございました。
    そして、お誕生日、おめでとうございます。
    セレナのことを、大好きと言ってくださって、最初は自分の中の想像に過ぎなかった存在が、この様なかたちで繋がることができ、夢の様な気持ちでいっぱいです。
    月子さんの新たな1年が、幸せで溢れますように(^O^)願っております。
  27. 40 : : 2014/10/19(日) 14:15:41
    うっ・・・まじなきそう うまくいえないけど 最高のssです!
  28. 41 : : 2014/10/19(日) 21:32:28
    >>40 アルミン親衛隊さん
    読んでいただき、そして、最後までセレナを見守ってくださり、ありがとうございました。
    いつもいただくコメントは、とても励みになりました。
  29. 42 : : 2015/02/22(日) 23:34:01
    影ながら応援させていただいてました(何か言葉が変ですね)。
    とても感動しました。
  30. 43 : : 2015/02/23(月) 07:49:11
    >>42 ニナさん
    最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
    あなたがくださった言葉、全然変じゃないですよ(^^)
    実は私事ながら、今とても辛い出来事と向き合っているのですが
    朝あなたのコメントを見て、とても元気をもらう事ができました。
    本当にありがとうございます。

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