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最愛の殺人鬼

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  1. 1 : : 2013/11/07(木) 20:40:19
    【注意】
    ・このSSにはオリジナルキャラクターが登場します(重要)。
    ・深夜テンションで書いた推敲していないSSです。
    ・シリアス

    --------------------------
    初投稿になります。
    SSを書いたのは大体2年ぶりですので、誤字脱字や他の方と書き方が異なるなど諸々ありますが、ご了承くださいますようお願いします。
    作品の長さは少し長めだと思われます。

    それでは無事立っていたら始めます。
  2. 2 : : 2013/11/07(木) 20:43:10
    『この身は全てあなたに捧げている。だからあなたに殺されるなら本望だ』

    懐かしいあいつの声。思い出すのは最後の言葉だけ。

    『なあ。私はあなたの傍にいて楽しかったぞ』

    俺はあの時、あいつになんて声を掛けたのだろうか。もう、思い出せなくなってしまった。




    【最愛の殺人鬼】



    「なんか今日の兵長。いつもより元気がない、というか暗かったですよね」

    夕食後の食堂。リヴァイを抜いた班員全員とハンジがテーブルを囲んで談笑を楽しんでいた。あらかた世間話が済んだ後、エレンは朝からのリヴァイの様子について、言葉を漏らす。

    「確かに。きっとお疲れなんだろう。兵長はお忙しい方だからな」

    「私あとで紅茶でも持っていこうかな。ちょうどいい茶葉が送られてきたし、兵長も気に入ってくれそうだから」

    ぺトラの言葉に頷く班員たち。それを見て、一人紅茶を楽しんでいたハンジが顔を上げる。

    「ん?ああ、今日のリヴァイ?そうだね……今日はあいつにとっては忘れられない日だから、それで暗いんだよ」

    「忘れられない日?」

    エレンが聞き返すと、ハッとしたような顔になる他の班員たち。ハンジは少し物悲しそうな顔になると、普段からは想像もつかないほど沈んだ声を出す。

    「そうだね。エレン以外は話だけなら知ってるか。……でも真実は知らないよね?」

    「俺たちはこれまで彼女と同じ班に配属されたことはありませんでしたから。しかし概要は耳に挟んでおります」

    「ああ、でもぺトラやオルオは知ってるだろう?」

    「えっ?」

    グンタの言葉に驚いたように声を上げるぺトラ。

    「一体何の話なんですか?ぺトラさん」

    「おい黙れ。お前みてぇな新兵と違って俺たちは色々な物を抱えてんだ」

    興味津々といった様子でぺトラに説明を求めるエレンを制するオルオ。

    「ああ、確かに俺とぺトラはある程度兵長に近いところにいましたが……なぁ?」

    「うん……私もあんまり知らないかな」

    どこか気まずそうなぺトラ。

    「そっか。まあ、死んだ子って二人の同期だもんね。そりゃあんまりいい印象はないか」

    「死んだ子?」

    話に全くついていけないエレンは小出しにされる情報にいい加減にイラついてきているようだった。それを察したハンジは、「エレンはまだ若くていいねぇ」と笑ってからようやく話を始める。

    「ま、あれからちょうど半年経つんだし、みんな聞いてよ。調査兵団唯一の殺人事件。12人殺しの犯人……私たちの最愛の殺人鬼について」



  3. 3 : : 2013/11/07(木) 20:44:32
    《回想》


    「うっわぁ。誰その子?メッチャ美人じゃん!」

    「うるせぇ糞眼鏡。削ぐぞ」

    今から3年前になる。私はリヴァイと一緒に買い物に行ったんだ。別に一緒っていっても行動は別でさ、お互いの買い物が終わったら同じ場所で待ち合わせて帰るだけ。つまり行き帰りだけ一緒にいようって話。

    私もリヴァイもタオルなんかが足りなくてさ。行きつけの店に行って、全部買い物を済ませて待ち合わせ場所に辿りついたんだ。こういう時、大体私の方が早く終わるんだけど、この日はリヴァイの方が早くに待ち合わせ場所に立っていた。驚いたことにリヴァイの隣には女の子がいてさ。それがものすっごい美人な子だったから、テンション上がっちゃって。

    「こっわ。で、そんな綺麗な女の子連れてどうしたの?あ、まさか私お邪魔だった?」

    「お前が邪魔なのはいつもだろう。……こいつは俺が買った」

    周りの空気が凍りついたね。まぁ、あいつも男だし?私もこの歳だからそういうことを過剰に嫌がるわけでもない。その辺りは人売りが多いことで有名だったから、身売りの女の子も多くてね。とうとうリヴァイも私にそういうことを曝け出すようになったのかーって思っちゃって。逆に感慨深かったくらいだよ。はっはは。

    「いやぁ、じゃあ今夜はお楽しみ?もう三十路間近だってのにリヴァイったら若いねぇ」

    「ッチ……そんなんじゃねぇ。とにかくコイツは俺が預かる。お前も協力しろ」

    「えっ、まさかその子、一日じゃないの!?」

    「てめぇが何を考えてるのかはわからんが、俺はコイツを買い取った。そしてこれからコイツは調査兵団で面倒を見る。勿論エルヴィンに許可を取らねぇことにはしょうがないが、なんとかなるだろう」

    「ちょっと待ってよ!え、だってその子って兵士でもないのに?」

    珍しくリヴァイの言ってる事がさっぱりわからなかった。

    だってさ、兵士でもない若い女の子を調査兵団に連れて行くって言うんだよ?リヴァイって普段から堅物だし、そんな人が女の子を囲ってウフフって意味わからなくて。まぁ、ぶっちゃけワクワクしたんだけど。
  4. 4 : : 2013/11/07(木) 20:46:02
    それからさ、3人でエルヴィンのところに行った。驚いたことにエルヴィンはその子を兵団に置くことを許可したんだ。え?ああ、その子?全然喋らない子でさ、でも一応意思の疎通は出来るみたいだった。私の言葉には反応してくれなかったけどね。

    エルヴィンが出した条件は3つ。1つはその子の面倒をリヴァイが見ること。勿論これには生活の全てが入る。彼女の衣食住は全部自分でどうにかしろってことだね。
    2つ目は彼女に何かしらの仕事を与えること。これは、リヴァイが真っ先に掃除洗濯を教え込むってことで話は決まった。あの頃の調査兵団は人が少なくてね。掃除とかに手を回してる余裕なんてなかったんだ。だから彼女に兵舎の掃除なんかを任せることにした。
    3つ目は意外だけど、もっともなこと。全然喋らない人形みたいなその子をどうにかして人間らしくさせることだった。あくまでリヴァイがどうにかして、ね。


    「……おい糞眼鏡。話がある。どうせ暇だろう?」

    エルヴィンとの話が終わった後、リヴァイは早速彼女の部屋を探す為に空き部屋を調べにいった。私は話も終わったし、一人で巨人のレポートを纏めていた。んで、数時間かな。それくらいが経ってから、突然リヴァイが女の子と一緒に私の部屋を訪れた。

    「何?今ハンジさんは研究で忙しいんですけど?」

    「コイツのことだ。お前も協力しろ。仕事に支障が出ない程度で構わない」

    「えー!だってリヴァイが連れてきた子じゃん!」

    「……俺は男でコイツは女だ。で、お前は俺が知る限り女だ。意味わかるな?」

    「はぁ、ようするに女の子の勝手がわからない、と」

    ってわけでさ、無理やり私はその子の面倒を見ることになった。こう見えて私だって人の好みってものがある。出来れば暗い人とか怖い人とは一緒にいたくない。でもその子ったらすごく暗い。てか人形みたいだった。マジホラーだよ?ああいう美人な子が黙って立ってるだけっていうのは。

  5. 5 : : 2013/11/07(木) 20:46:54
    【現在】


    「はぁ、で、その人の名前って何なんですか?」

    「そういえば、俺たちも全然知りません。何度も見かけたのに」

    「確かに……」

     全員はハンジを囲んで熱心に話を聞いた。その中でやはりぺトラとオルオだけは重たい表情で話に聞き入っている。

    「まぁ待った待った。話はまだまだ続くよ」

     ハンジは紅茶を一口飲んで喉を湿らせ、話を続ける。
  6. 6 : : 2013/11/07(木) 20:48:41
    《回想》

    彼女が加わってから半年が経った。どうやら彼女はリヴァイに買われたことを気にしているみたいで、あいつに仕える気満々だったみたい。
    その最たるは寝る場所。リヴァイが彼女にあてがった部屋を何度も抜け出して、いつの間にかあいつの足元で寝てるから、仕方なくリヴァイの部屋を突貫工事で二倍にするしかなかった。たまに私の部屋にも泊まらせてたんだけどさ、結局リヴァイのところに戻っちゃうんだよね。
    ほら、イメージでいったら犬かな。あれってご主人の足元に常に待機してるでしょ?あんな感じ。

    「なあハンジ。少しは休んだらどうだ?」

    「え、ああ。もう少し頑張ってからね」

    「モブリットの言うことも聞いてやれ。いつか身体を壊すぞ」

    その頃になると、流石に彼女も喋るようになった。ってか、人形みたいだった頃とは随分と変わったよ。……リヴァイの影響を受けすぎたのか、ちょっと話し方とか考え方がおかしい子にはなっちゃったんだけどね。え、私?あはは、私はそんなにおかしくないって。

    「おい糞眼鏡。いいから休め」

    「ったく、リヴァイまでそう言う?」

    「当たり前だ。分隊長が倒れたら困る奴は大勢いる。俺にお前が率いてる奴らの面倒を見させる気か?」

    「いくらリヴァイとはいえ、分裂しない限りそれは無理だな。やはりハンジが頑張るしかない」

    みんなはこの頃の彼女はあまり知らないよね。リヴァイが仕込んだのは掃除とか洗濯のみで、戦いのことは全然教えなかった。たまーに訓練に連れて行って遠くで見させるだけだったから、昼間にあの子に会うのは結構困難だったと思う。
    でも目立つ子だったし、みんなの話題には少しくらいは上ってたかな?

  7. 7 : : 2013/11/07(木) 20:49:37
    【現在】

    「あ、はい。……実は俺も仲間に誘われて一度顔を見に行ったことがあります」

    「え、エルドが?お前彼女いただろう」

    「あの時はまだ彼女じゃなかったからな。それにすごい美人だって噂だったし。あ、でもあの時は兵長の彼女って話だったかな」

    「あー、それなら俺も聞いたことあるかもしれない」

    「グ、グンタさんも知ってるんですか?結構な噂になってたんですね」

    「なんだエレン。その俺が噂話をあまり知らないって感じの言い方は」

    「えっ?あ、いやそんなことは……」

    「……話を続けるよ」
  8. 8 : : 2013/11/07(木) 20:51:21
    《回想》

    そう、あの子は大人びていたからリヴァイの彼女に見えちゃっていてもおかしくはないよね。そうなってたら結構お似合いだったと思うよ。

    さて、時は1年半くらい前になる。このくらいになると、リヴァイは毎日あの子を訓練に連れて行った。あいつが担当している連中ってのもそんなにいなかったし、みんな口が堅い連中だったからその頃の話は上がってないと思うけど、あの時リヴァイは滅茶苦茶なことを言い出したんだ。

    「おいハンジ。コイツに立体機動装置を付けさせろ」

    「は?どしたのリヴァイ。まさかコスプレをさせようって魂胆じゃ……」

    「てめぇ殺されてぇのか。いいから、お前の身包み剥ぎ取ってコイツに着せる前に一式持って来い」

    わけがわからなかったけど、なんだか面白くなりそうだなって思った。私は表情の読めない彼女の手を引いて、新しい服が置いてある倉庫に連れて行って彼女に一式を着させた。元から結構冷めた感じの顔つきしてるだけあって、日の下に出たあの子は立派な一兵士に見えたね。
    ん?なんで私がいたか?ああ、そうだね。確かあの時私はリヴァイが署名しないといけない書類を持っていった帰りだったんだ。ま、暇だったし?ちょっとくらい様子見てくかって感じかな。

    「悪くねぇな」

    「案外このベルトは身体を締め付けないんだな。動きを束縛しないようによく出来てる」

    「……そりゃな。ほら、早く装備しろ。やり方は見ていたからわかるはずだ」

    私以外にはリヴァイがおかしく見えていたんじゃないかな。実際私にもリヴァイが何故こんなことをさせているのかわからなかったから。でもあの子は何も言わずに淡々と装備を身につけた。よく私やリヴァイのやっていることを見ていたからね。これくらいは出来るだろうって私も思っていたけど、実際目の前で完璧にやられるとやっぱり驚くよね。

    「ハンジ。今日からコイツも訓練に参加させる」

    「えぇえええ!何考えてんのリヴァイ!だって、この子一度も立体機動なんて使ったことないんだよ!?いきなりやったら流石に死ぬって!」

    「うるせぇ。既にエルヴィンの許可も取った」

    「平気だハンジ。私は簡単に死にはしない」

    彼女はそう言って遠くの木を見た。既に他の兵士たちは訓練中だったから、それを見ていたんだと思う。

    「俺が先導する。お前は俺に続け」

    「ちょ、リヴァイ!」

    私の制止も聞かずにリヴァイは立体機動に移った。最初から全く加減しない速さでどんどん私たちから距離を離していくあいつを見て、あの子は駆け出した。

    「アウトあうとぉおお!死ぬぜきみィいい!」

    次の瞬間、私は奇跡でも起こったかと思ったよ。立体機動の知識なんてない、全くのド素人が空を飛んでいた。ビックリする速さであの子は空を飛んでリヴァイの後を続いていた。
    それこそ、常人――私たち本職の兵士でもありえない速さでね。
  9. 9 : : 2013/11/07(木) 20:52:10
    【現在】

    「すごいですね。兵長も、その人も」

    「……噂で聞きました。彼女、普通の人よりずっと軽いって」

    「軽い?」

    「うん。女の子たちで盛り上がってたときの単なる噂だけどね。私と同じ身長なのに35kgしかないみたい。だから風に乗れるんだって」

    「あ?それって普通じゃないのか?」

    「オルオ……その発言は女を敵に回すぞ」

    「コホン。あー、確かにぺトラの言った通りだよ。全然食べない子だったから私たちも苦労していたんだ。でもまさかそこまで軽いなんて思ってなかったから、心底驚いたなぁ」
  10. 10 : : 2013/11/07(木) 20:53:45
    《回想》

    後でリヴァイに聞いたんだけどさ。元々あいつは彼女を兵士にする気だったみたいで、エルヴィンともそのつもりで話を進めていたらしい。私に言わなかったのは気まぐれだって言ってたけど、多分絶対反対するからだと思うな。
    言われてたら私は反対したよ。……その頃には彼女に愛着が湧いてたしね。だって、壁外から帰ってくる度に迎えてくれる人がいるって嬉しいことだったから。

    そういうわけで、後はエレン以外が知ってる通り。あの子は晴れて調査兵団に入団した。実際に一緒に訓練してみると、あの子の弱点も多く出てきた。確かに、彼女は立体機動に関してはリヴァイ並み――いや、もしかしたらリヴァイ以上の使い手だったかもしれない。けど、ご存知の通りとても軽くてね。身長がある程度低くても人並みの力があればどうとでもなるけど、彼女は軽すぎた。どんなに訓練を重ねても巨人に致命傷を与えるだけの斬撃を生み出すことは出来なかった。だから私たちは彼女を補佐に回したんだ。やっぱり少しでも長生きしてもらいたいのが人情ってもんじゃない?

    「なんだハンジ。私が兵士になるのがそんなに不安か?」

    「そりゃ不安だよ。少し前までただのお手伝いさんみたいだった子が立体機動なんてしてるんだもん」

    「私には巨人を絶滅させるなんて目標はないし、人類に心臓を捧げた兵士でもない。ただの自由な人間だ。自分の命くらい自分でなんとか出来る」

    「リヴァイはなんて?」

    「お前の好きなようにすればいい、だそうだ。逃げるのも勝手、死ぬのも勝手。そういうことだろう。私はな、ハンジ。リヴァイのように多くを背負わないことに決めているんだ。空を飛ぶのにあんなに背負っていては、私の翼が折れてしまうからな」

    とても長い髪を風に乗せながら、彼女は穏やかに微笑んだよ。……あの子、どんなに周りが言っても髪を切らなくてね。というか、リヴァイが好きにさせてたから、長い髪を括っただけだった。私はそれが彼女らしくて好きだったんだけど、他の兵士たちの間でだいぶ揉めたらしくて、あの子は孤立気味になってしまったみたい。

    そうだ、その話をしないといけなかったね。ほら、知ってのとおり彼女って超美人。まさに高嶺の花!って感じで男たちに人気があった。クールだし、誰にもなびかないところがまた良かったんだろうね。ほら、男ってそういう子が好きだろう?
    ……だけどさ、ぺトラも女の子だからわかると思うけど、男に人気がある人間を女も好きになるとは限らない。
    しかもあの子はただ美人なだけじゃなくて、あのリヴァイと寝泊りしている。それに私ら幹部に敬語なんて使わない。それが気に障ったんだろうね。調査兵団に正式に入団したというのに、あの子に仲間なんて出来なかった。だからあの子はいつも決まって一人だった。言い寄ってくる男はたくさんいたけどね。
  11. 11 : : 2013/11/07(木) 20:54:25
    【現在】

    「仲間がいないのは辛いですね……」

    「……」

     エレンの言葉にぺトラが俯く。何か思う事があったのだろう。

    「あのリヴァイすらそのことは結構気にしてたみたいでさ。別居に慣れさせる為に私のところに送り込んだりしたんだけど、彼女が拒否したんだよ。一人でも平気だって言ってね」

    「なんでそんなに兵長の傍に?だって奴隷が欲しくてその人を買ったわけじゃないんですよね?」

    「うん。実はさ、私もよくわからないんだ。リヴァイと一緒なんて常人じゃ絶対考えたくもないだろうのに、本音を隠すのが上手い子だったんだよ。……誰に似たのか知らないけどね」
  12. 12 : : 2013/11/07(木) 20:56:18
    《回想》

    とまぁ、そんな感じで時が過ぎた。あの子は何体もの巨人の討伐補佐をした。当時の補佐の成績は間違いなく兵団一だったよ。みんなもあの子が戦うところを一度くらいは見た事があるだろう?

    そんなある日、あの子が私の部屋を訪れた。

    「ハンジ。話がある」

    「何?」

    「……リヴァイは死なないよな」

    「は?」

    私は飲んでいた紅茶を盛大に紙束にぶちまけた。あの子は汚いって言って顔を顰めた後、話を続けた。

    「人類最強なんだろう?リヴァイは。なら、リヴァイは誰にも殺されないよな?」

    「んー、まぁ、あいつが油断しない限りは平気かなぁ」

    「真面目に答えろ。私は本気なんだ」

    正直言って、彼女が本気でそんな事を言うなんて珍しかった。結構冗談を楽しめる性格だと思っていたから、心底驚いたのと同時に、私はその質問の意味を考えた。

    「私たちは兵士だよ。だからいつ死ぬなんてわからない。これが私の答えかな」

    「……私にリヴァイは守れるのだろうか」

    ああ、きっとこの子はそのことで悩んでいるのだろうな、と私は察した。だから言ってやった。

    「リヴァイはきっと守られるつもりはないって言うだろうね。自分のことは自分でやる。あいつならそうするよ。だから気にすることはないんだ」

    今でも私はこの答えを後悔しているんだ。もしさ、あの時私が、「リヴァイは私たちで守る」なんて言えていれば彼女は私たちを信用して全てを打ち明けてくれたんじゃなかってさ。
    私はまだ20歳になったばかりの子を安心させることも出来なかったんだ。それからほんの少ししてあの事件は起こったんだよ。
  13. 13 : : 2013/11/07(木) 20:57:13
    大体半分まで上げたので少し休憩します。
  14. 14 : : 2013/11/07(木) 21:26:00
    おもしろいです!
  15. 15 : : 2013/11/07(木) 21:35:02
    >>14
    ありがとうございます!初めてなんでそう言っていただけると嬉しいです。
  16. 16 : : 2013/11/07(木) 21:38:12
    それではそろそろ再開します。
  17. 17 : : 2013/11/07(木) 21:39:40
    【現在】

    「あの事件は……なんで私たちの同期は殺されたんでしょうか?」

     その時今まで沈黙を守っていたぺトラが口を開く。その強い口調には悔しさややるせなさが滲んでいた。

    「おいぺトラっ、分隊長にも話す順番ってもんが――「いいよ、そろそろ話そうとしてたからね」

     カップに残った紅茶を飲み干し、ハンジは一同を見回した。

    「エレン以外は知ってると思うけど、一応概要から話した方がわかりやすいから、そこから話すね」
  18. 18 : : 2013/11/07(木) 21:41:46
    《回想》

    あれは壁外遠征の帰りだった。エルヴィンの計画通り死人は出ず、怪我人数名のみで帰路につけた。それくらい計画に念を入れた完璧な遠征だったんだよ。数体の巨人が突然眼前に現れて、私は中央に近い左翼側で、リヴァイが率いる班は中央で戦っていた。あの子は右翼の後方で巨人とは交戦しないはずだった。

    だけどね、予想外に巨人の数が多かったんだ。ほんの数体だったら生け捕りにする気だったのに……。

    隊列も滅茶苦茶な状態で、誰がどこにいるかもわからない状態だった。本来なら私の位置からリヴァイたちは見えない筈だったのに、リヴァイの姿がはっきり見えるくらいグチャグチャな戦い。とうとうあの子がこちらに近づくのが見えた。前からリヴァイの補佐をしたがっていたから、来るのは別に読めないことじゃなかったしね。……私は私の隊をどうにかするので精一杯で構っている暇がなかったのが本当。でさ、そんな時に起こったんだよ。

    大きな悲鳴が上がったのが聞こえて振り返った。また巨人に仲間が喰われた――そう思ったんだけど、それは違った。私が見たのはリヴァイの背中で数人を薙ぎ払っているあの子の姿だったんだ。そう、殺しちゃったんだよ。巨人ではなくて人間を。

    それが事故でなかったのは明白だった。……なんせ彼女は私やリヴァイが見ている中、更に数人を切っていたからね。完璧な殺人だよ。私は身体が震えたし、私以外のみんなもそうだったと思う。そんな状況だったから、数人が巨人に喰われたんだ。巨人からすれば突然餌が大人しくなったんだから、この機会に喰わないわけないよね?そういうこと。
  19. 19 : : 2013/11/07(木) 21:43:47
    【現在】

    「……巨人に喰われて死んだ同期は私の友人でした。あのタイミングで事件を起こさなければ、彼女は今も生きていたかもしれないのに……」

    「ぺトラ。あの子は人を殺すような人間じゃない。私が誓って言えるよ」

    「けど、実際その人は人を殺したんですよね?」

    エレンの言葉に少し戸惑ったような顔をし、エルドが口を開く。

    「兵長は何も知らなかったんですか?分隊長のお話では傍にいらしたと聞きましたが」

    「うん。残念ながらリヴァイは何も知らなかった。今も知ってるのかどうか……」

    「今、その人はどうしてるんですか?流石に調査兵団にいないのはわかりますが……」

    その問いに答えようとハンジは口を開きかけたが、言葉は出てこなかった。代わりに重々しい口調でグンタが答える。

    「すぐに裁かれてな。12人の死に関わった人間を生かしておけるわけがない。つまり、そういうことだ」

    エレンは知人であるはずのハンジにいけないことを聞いてしまったことを悔いた。殺人犯を生かしておくわけがない。それは処刑されたということに他ならない。

    「それがさ、あの子は確かに死刑判決を受けたけど、処刑はされてないんだ」
    「え!?」

    ハンジの突然の言葉に一同は揃って声を上げる。

    「いや、生きてはないよ。ただ……処刑はされてない」

    「病死……とかですか?」

    「ううん。違うよ」

    処刑されたのでなければ病死でもない。ならどうして死んだのだろうか。一同は皆首を捻る。

    「その答えはさ、私じゃなくて……ねぇリヴァイ。いるんでしょう?いい加減に出てくればいいじゃん」

    「はっ!?」

    ハンジは扉の向こうに声を掛ける。すると、軽い舌打ちと共に扉が開かれ、機嫌が悪そうなリヴァイが姿を現す。


    「てめぇ、いつから気づいていた?」

    「多分リヴァイが来たときからかな。勘だけどねー」

    「へ、兵長……!お、俺たちはその……」

    「黙れ。別に咎める気はねぇ」

    そのままテーブルに近づき、いつもの位置に座る。

    「で、俺に何を聞きたい?」

    大慌てで紅茶を淹れてきたぺトラが席につくと、リヴァイは不機嫌そうな顔をそのままに聞いた。

    「あの子がなんで死んだのか。かな」

    今までずっと悲しそうな顔を浮かべていたハンジはリヴァイとは逆に明るい表情に戻っていた。

    「ッチ……最後だけ残しやがったのか糞眼鏡。それだけなら俺が話すことはないじゃねぇか」

    「適任者でしょう。保護者だったんだから」

    ハンジ以外がされれば恐怖で失神するほど大きな舌打ちをし、リヴァイは重い口を開く。

    「ここまでくれば仕方ねぇ……」

  20. 20 : : 2013/11/07(木) 21:45:08
    《回想》

    あいつが死んだ理由か。お前らも聞いただろうが、あいつは殺人者だ。直接殺したのは4人だが、その他8人の死に大きく関わってしまった。誰がどう見てもあいつは庇えねぇ。だからあいつが捕らえられた時から誰もが死刑を覚悟していた。

    俺は兵士長だ。個人の感情で判決を変えるなんて真似はしない。だが調査兵団として、あいつが何故殺人を犯したのか、その理由を調べる必要があった。結局何もわからなかったがな。 誰があいつに話を聞こうにも、あいつは口を割ることはなくだんまりを決め込んだままだった。それは俺に対しても同じだった。

    ……結局、あいつは死刑に決まった。刑は憲兵団が行い、俺やエルヴィンは立ち会うことにしていた。本来なら俺たち調査兵団内でなんとかするものだったんだが、エルヴィンが憲兵団に委ねたんだ。

    死刑執行の前日。俺は一人であいつに会いに行った。地下牢に囚われたあいつと最後の会話をした。俺は再び事件の詳細を聞こうとしたが、あいつは黙ったままだった。仕方なく帰ろうとした時、あいつが口を開いた。

    「リヴァイ。私を殺してくれ」


    ……もうわかっただろう?あいつを殺したのは俺だ。あいつを買い取って、そして最後に殺したんだ。


  21. 21 : : 2013/11/07(木) 21:47:01
    【現在】

    「ねぇリヴァイ?」

    「何だ糞眼鏡」

    「何でさ、真実を話さなかったの?あの子たちに」

    「……あいつとの約束だからな」

    「“あいつ”ねぇー」

    話が終わった後、ハンジと廊下を歩く。元気を取り戻したのかいつも以上に絡んでくる糞みてぇな眼鏡の相手をしていると、あいつの笑った顔が過ぎった。

    「あの子の名前、リヴァイが付けたんでしょう?結構いい名前だよね」

    違う、と否定しようとしたが、言いかけて結局止める。

    「……いつかさ、ちゃんとした墓に埋葬しなおせればいいね。あんな犯罪者の墓じゃなくて、調査兵団の墓にさ」

    「……まあな」

    今のあいつの墓は処刑された他の犯罪者連中と同じ墓だ。そんなものはあいつには似合わない。

    「いい子だったよね」

    「ああ。俺が見込んだ人間だからな」

    「不器用なところはリヴァイそっくりだった」

    「……削ぐぞ」

    「そういうところは似なくてよかった」

    「……」
  22. 22 : : 2013/11/07(木) 21:48:12
    『この身は全てリヴァイに捧げている。だからリヴァイに殺されるなら本望だ』


    懐かしいあいつの声。思い出すのは最後の言葉だけ。


    『なあリヴァイ。私は傍にいられて楽しかったぞ』


    俺はあの時、あいつになんて声を掛けたのだろうか。もう、思い出せなくなってしまった。


    リア……。


  23. 23 : : 2013/11/07(木) 21:51:18
    【回想】

    「おいてめぇ!もっと早く歩け!憲兵団と約束した時間が近いんだ。遅れたらシーナでの取引が遅くなるだろうが!」

    「お前を貴族様に売るために憲兵団にいくら渡したと思ってんだ!」

    その日、俺はいつもの店に行く為に薄暗い路地を通った。多少汚ねぇが、これが一番の近道だ。いつもは自分が遅れるくせに、俺が遅れると途端に文句を言うハンジを黙らせる為に急ぐ必要があった。

    勿論、薄暗い路地というのは“そういう連中”が蔓延るには都合がいい。特にこの辺りは人売りが多く、治安が悪いことで有名だから尚更だった。

    「……うるせぇな」

    いつもならそこで何があったとしても気にしない。第一、人売りがここまで多いのも憲兵団が腐っているからだ。あいつらは金さえ払う奴なら悪人だろうがなんだろうが気にしない。今回の人売りは上玉でも引っ掛けたのだろう。シーナに行って貴族に女を売りつける。……確かに金になりそうだった。

    (上玉か……)

    横を通りすがるついでに女を一目見ようと顔を向けた。男二人に手を引かれて道を急ぐ女。思ったより若いその女の背中から、顔へ。

    (……っ!)

    目が合う。そして俺はその眼光に射抜かれるようにして立ち止まった。その目に宿る確かな意志を見た。

    (……悪くねぇな)

    女というよりはまだ幼い。おそらく少女だろうそいつの目には、生きるという強い意志が揺らめいていた。俺はそれに惹かれる。

    「おい、てめぇら。少し待て」

    「あん?なんだお前……俺たちは忙しいんだ。貧乏人なんて相手にしている時間はないんだがな」

    「……金ならあるぞ」

    懐から金の入った袋を取り出して見せる。元々買い物が目的だったためそれはほんの少しだったが、それでもこの辺りの人間が簡単に手に出来る金ではないことは確かだった。

    「なるほど。あんたなかなか金を持ってるみたいだ。が、コイツを買うなら並大抵の金じゃあ無理だぜ?なんせ貴族様に売りつける為の娘だからなぁ!」

    大笑いして女の背中を叩く男。その反動で女は倒れそうになるが、すんでのところで堪える。どうやら身体能力も悪くなさそうだった。益々気に入る。

    「いくらだ?」

    「は?」

    「いくらならコイツを買えるって聞いている」

    ――そして俺は、でかい家が二軒も建つほどの大金を払い、その女を買った。
  24. 24 : : 2013/11/07(木) 21:53:15
    「おい、いい加減に何か話せ。まさか喋れねぇってわけじゃないだろう」

    「……」

     翌日。俺は部屋をあてがったにも関わらず、何故かすぐ足元で転がって寝ている女をたたき起こしていた。昨日から一言も話さない女は今も黙ったまま。

    「なんでしょう」

     と思いきや、突然口を開く。

    「喋れるじゃねぇか。何故今まで何も言わなかった?」

    「何も言われていませんのでそれが最善だと考えました」

     まるで人形だ、と思う。そして、コイツが昨日まで売り物として扱われていたことを思い出した。

    「まさかお前、俺を主人だとか思ってねぇか?」

    「貴方ではないのですか?では昨日の……エルヴィン団長が私の主人ですか?」

    「……お前はもう自由だ。誰もお前を奴隷だなんて思ってねぇ」

     そう言うと、女はきょとんとした顔をする。

    「それは困ります。ずっと私を買う方を主人とし、一生尽くせと言われてきたのです。簡単に変えられると困ってしまいます」

    「俺はお前があそこから逃げたそうにしていたから気に入ったんだ。奴隷が欲しいわけじゃねぇ」

    「……」

     女は黙りこむ。こいつは貴族に売られる予定だった。こんな上玉を買う貴族なんて大抵が悪趣味な連中だ。そんな屑共が大金を叩いて女を買ってメイドにするだけで終わるわけがない。その運命から逃れられただけでもこいつにとっては十分すぎるほどの幸運に違いない。

    「名前はなんという?」

    「……」

    「なるほど。主人以外には話せねぇってわけか。まあいい。とにかくてめぇは今から俺の前で敬語を使うな。お前が敬語で話しているのを聞くと何故か虫唾が走る……」

    「リア。私の名前はリア・ブルーメ」

    リア・ブルーメ。整った顔立ちのわりにガキっぽい名前だと思ったが、それがそいつの名前だった。
  25. 25 : : 2013/11/07(木) 21:56:14
    なぜ、リアが人を殺したのか・・・
    気になります!
  26. 26 : : 2013/11/07(木) 21:57:56
    いつだったか忘れたが、俺とハンジの買い物にあいつも同行したことがあった。確かあいつが来て1年半が過ぎた頃だったと思う。

    「懐かしいな。ほら、あの路地裏で私とリヴァイは出会ったんだ」

    あいつが指差す先には、あれからあまりの治安の悪さを懸念した憲兵団によって浄化された例の路地裏があった。

    「へー、今は随分と小奇麗じゃん?」

    「まあな。もうああいう連中は他に移っただろう」

    「なあ二人共。せっかく三人で出かけたんだから、何か記念の物を買わないか?」

    「……記念?」

    別にその日がリアと出会った日だったわけではない。なんの記念日でもないはずの日を祝って何になるのだろう。

    「ああ、なんせこうして3人で出かけられる日がいつまで続くかなんて、誰も知らないのだから」

    リアは笑う。確かに、俺たちは兵士だ。いつくたばるかもわからねぇし、誰が欠けても立ち止まる暇はない。そして、先日リアも兵士の仲間入りをしたばかりだった。もうリアとてこの運命からは逃れることは出来ない。

    「いーんじゃない?せっかく今日は荷物も軽いんだし。ほら、リヴァイも行くよー」

    ハンジに服を掴まれ、俺は渋々二人の後を追った。辺りの店を適当に練り歩きながら、リアは珍しく楽しそうにしているように見える。

    「きょ、巨人人形だってよぉおおおおお」

    「ハ、ハンジ……それは魔よけだ。愛玩用じゃない」

    「ねえねえ買っていいよねぇ?ハンジさん買っちゃうぜぇええ?」

    「おいリヴァイ……これ高いぞ」

    「……ほっとけ。どうせこいつの金だ」

    ハンジが掴んでいる巨人人形の横に、何か光るものを見つけて手に取った。

    「……ロケットペンダントか。こりゃ結構な値打ち物だな」

    「なんだ、わかるのか。珍しい」

    俺の手元を覗き込んだリアが関心したように呟く。

    「まあ、色々やっていたからな」

    「そういえば昔はゴロツキだったんだよな。なるほど、そういうことか」

    どうせアクセサリーを盗んでいたとでも思っているのだろう。間違ってはいないが、若干の苛立ちを覚える。
  27. 27 : : 2013/11/07(木) 21:59:23
    「おい店主。これをくれ」

    「ほう……そちらのお嬢さんへのプレゼントですかね。そっちの女性……はないですものね。へへへ」

    「これマジ最高だよ!超よく出来てるじゃんクソ最高だよそこのおっさん!」

    ……クソ眼鏡が。

    「これ結構高価だが、いいのか?」

    「ああ。今日は金が余ったからな。ほら、お前のだ。首に掛けとけ」

    「写真……ないぞ?」

    「撮ればいいだろう」

    それから3人で写真を撮りにいった。俺としてはハンジとリアの二人で撮らせる気だったのだが、店主の野郎に無理やり押し込まれ、結局三人での撮影になってしまった。

    「……覚悟はしていたが、やはりまだ高いな」

    「まだ金持ちの娯楽ってくらいにしか浸透してないもん。これからが楽しみではある技術だけどね」

    「ハンジは巨人を撮ってみたいんだろう?」

    「もっちろん!だってぇ、巨人のあんなところとか、こーんなところをバシャバシャ残せるんだよ?最高じゃない?」

    「……いい加減その気味わりぃ人形をしまえ」

    加工させた写真を入れたロケットを大切そうに持ったリアは嬉しそうで、それでいて楽しそうだった。

    「二人のおかげでいい記念になった」

    「うんそうだねー。私もメチャクチャいい買い物したよー」

    「帰ったらエルヴィンに自慢してやろう。きっと泣いて悔しがるぞ」

    リアはそれからずっとそのロケットペンダントを身に着け続けた。
    ……そしてそのペンダントは今は俺の手にある。大きさが上手く合わず、あいつだけが見切れた写真の入ったペンダント。それがあいつのいない今をあの頃から予言していたように見えてどこか切なかった。

  28. 28 : : 2013/11/07(木) 22:01:11
    >>25

    気になりますか!
    もうそんなに残っていないのでラストスパート頑張ります。
    今日中には書き終わる予定です。
  29. 29 : : 2013/11/07(木) 22:02:06
    がんばってください!
  30. 30 : : 2013/11/07(木) 22:03:33
    「なあリヴァイ。私は男受けがいいのか?」

    「あ?」

    そして半年前、訓練が終わって部屋に戻る途中でリアは楽しそうに話しかけてきた。

    「何故俺に訊く」

    「リヴァイは男だからな」

    ……コイツのこの話し方。誰に似たのかは知らんが、随分と癖のある口調になってしまった。きっとハンジと長い間一緒にいたせいだろうと思っているが、時々うざったるく感じる。しかし、今更敬語で話せとも言えず、結局そのまま放っておくしかなかった。

    「告白でもされたのか」

    「まあな。今月に入ってもう5度目だ。調査兵団には驚くほど男がいるんだな」

    「……きちんと考えて答えろ」

    「もう全員断ってしまった。だが昨日の奴は嫌な奴だったな。リヴァイのことを酷く恨んでいたみたいだ」

    「何故俺の名前が出る?」

    そう言いつつも俺の耳に噂はきちんと通っていた。どうやらコイツは断る際、俺よりも強い人間でないと付き合えないと言うらしい。……それで最近兵団の男に微妙な目で見られているなんて、随分と迷惑な話だった。

    「いや、その男は強いと言っていた。だからリヴァイより強ければ付き合ってやると言ったんだ。そうしたら怒っていた」

    どこにでもプライドが高すぎる奴は存在するが、そういう奴に恋愛を絡めると碌なことにならないのは最早常識だ。

    「……面倒なことには巻き込まれるな」

    「ああ、私は空を飛ぶのは好きだ。巨人狩りは好きではないがな」

    「ようするに適当にやるということか」

    「そういうことだ。私は“自由”だからな。調査兵団と同じだ」

    あの時に言ったことを未だに強く覚えているのは嬉しくもあり、面倒でもあった。

    「せいぜい落ちねぇように気をつけろ」

    「ああ。私はどんな時でも必ずリヴァイの傍に帰るからな」

    あいつは3年間で覚えた眩いほどの笑顔を向けてそう宣言した。
  31. 31 : : 2013/11/07(木) 22:05:50
    だが、結局あいつは最悪の結末を迎えた。

    「リヴァイ。また訊きに来たのか?」

    あいつは地下牢の隅に座り、暗がりから俺を見つめて言った。俺は憲兵団から受け取った牢の鍵を使い中に入る。

    「……もう何度も訊いている。なぜ奴らを殺した」

    処刑の前日になってようやく口を開いたリア。その冷え切った身体に自分のジャケットを掛けてやり、俺は問いかける。

    「……」

    どんなに調査を繰り返しても殺人の動機が掴めない。既になされた判決を今更ひっくり返すことは叶わなくても、俺には事の真相を知る必要があった。

    「俺はお前の保護者だ。その俺に話せないこととは何だ?」

    「私が殺したのは男だったはずだ」

    「ああ、直接殺したのは全員男だった」

    「……巨人に喰われた奴らには謝っても足りない」

    うな垂れたままリアは俺のジャケットを掴んで震えた。

    「話す前に誓ってくれ。これは私とリヴァイだけの秘密だ。誰にも口外しないと約束してくれ」

    「……仕方ねぇ」
  32. 32 : : 2013/11/07(木) 22:08:47
    その時の俺はこの約束を守る気など毛頭なかった。どんなことが語られたとしても、絶対に報告する義務があると考えていたのだ。

    「少し前に、告白されたと言っただろう」

    「プライドが高い男か……」

    確かリアはそいつが俺に恨みを抱いていると言った。しかしそれが殺人の動機になるとは思えない。

    「私は聞いたんだ。あの男がリヴァイを殺す、その計画を立てていることを」


    ――ジョゼフというその男は、同じようにリアに告白し玉砕した男たちのリーダーだった。ジョゼフには俺も心当たりがあった。一度だけ俺の下で戦ったことがある。しかし訓練兵を3位で卒業したということを鼻に掛け周りを見下す癖があったため、何度か吊るし上げた記憶がある。リアによるとそれで奴に恨まれていたようだった。


    「私も本気とは思わなかった。だから相談もせず、あの日を迎えてしまった」

    あの時、俺はジョゼフと近い位置にいた。リアはそれを気に掛けていたようで、巨人との戦闘になった時に駆けつけたのもジョセフの悪意によって俺が怪我をしない為だった。
    しかし混戦状態の中、目の前に何体かの巨人が現れ、それを片付ける為に飛び出して行った時、リアはジョゼフたちが互いに目線を交わしているのを目撃したらしい。

    「……つまり俺はもう少しで殺されるところだったと、そう言いてぇのか?」

    「ああ。現に私が割って入ったとき、リヴァイは奴らに背を向けていた。そして奴らは真っ直ぐリヴァイに向かって飛び掛っていた。止めるには奴らを殺すしかなかったんだ」

    リアは震える。その姿は暗闇に怯える子供のようで、罪の意識に捕らわれた表情はどこか虚ろだった。
  33. 33 : : 2013/11/07(木) 22:11:47
    「私はリヴァイを守りたい。それだけだったんだ。それしか考えていなかったんだ」

    「……」

    それが真実なら、俺にも責任がある。俺がジョゼフに恨まれることがなければリアが殺人を犯すことなどなかったのだろう。

    「リヴァイ。絶対にこの事は話すな」

    「いや、これはきちんと話す必要がある。それに俺も裁きを受ける必要がある。部下を凶行に駆り立てたのは上官である俺の責任だ。俺自身が殺されそうだったからといった理由は関係ない」

    「駄目だっ!!」

    その時、俺はリアに抱きしめられていた。抱きしめるといってもリアは座ったままな為、腰の辺りにぶら下がる感じになっただけだったが、驚くには十分だった。

    「っ!?」

    「――駄目だ。そんなことをしてしまったら、私が死ぬ意味がない」

    「……」

    「私は死ぬのは怖くない。殺されるのが怖いだけだ。リヴァイが殺されるのが怖いだけだ……」

    「俺は死なない。巨人を絶滅させるまでな」

    「リヴァイが全てを明らかにしてしまえば、きっと奴らの家族や巨人に喰われた奴らの家族や友人はリヴァイを憎むだろう。何故ならリヴァイは兵士長で、英雄だからだ。……兵士長なら重い罰を受けない。事件は私だけでなく、奴らも悪いということで済まされてしまう。いや、兵士長を殺そうとした奴らの方がずっと悪いことになってしまう。……けれど、このまま真相を隠せば、私だけが悪いことになる。そうすればリヴァイを憎む者は生まれない」

    しかし、それでは――、

    「……お前は殺される。12人を殺した殺人鬼として、不名誉な最期を与えられることになる」

    「構わない」

     強い口調でそう言いきり、リアは俺を見上げた。

    「リヴァイ。どうせ私は処刑されるんだ。今更庇う必要なんてどこにある?死んでしまったら何も残らないんだぞ」

    「お前が死んで俺が罰を受けないのは不公平だ」

    「……ならリヴァイ。私を殺してくれるか?それがリヴァイに与えられた罰だ」

     腰に抱きついたままのリアが静かに呟く。

  34. 34 : : 2013/11/07(木) 22:14:58
    「――駄目だ」

    「私は憲兵団に殺されるなんて嫌だ。どうせ死ぬなら、せめてリヴァイに殺されたい。そう望むのはいけないことなのか?」

    「……」

    「よく聞けリヴァイ。私のこの身は全てリヴァイに捧げている。だからリヴァイに殺されるなら本望だ」

    リアは俺を抱きしめる腕に力を込める。

    「私を殺す権利なら調査兵団にもあるんだろう?リヴァイにも」

    「まあ、な」

    「なら殺してくれ。元々どこかで朽ちる運命だったんだ。それがこんなにも伸びて幸せな思いをたくさん出来たのも、全てあの日リヴァイと出会ったからなんだ。だから私を殺せるのはリヴァイだけなんだ」

    俺はリアを殺す事が出来ない。それをコイツは誰よりもよく知っていた。リアの処刑を調査兵団が引き受けない理由。それはエルヴィンが辞退したからではなく、俺が出来ないから辞退させたに他ならない。

    「リヴァイ。私を買ったのが他の誰でもなくリヴァイで良かった。私はとても幸福だった」

    「……本当にいいのか」

    リアは頷く代わりに俺が普段隠しているナイフを探りあて、そっと手渡してきた。その位置を知っているのもコイツが俺と寝起きしているからで、それが余計に虚しさを駆り立てる。

    「私は何も望まない。巨人の絶滅も、自分の敵討ちも何も望まない。ただリヴァイが生きていればそれで私の望みは叶えられるのだからな」

    「……お前は俺に何も背負わせないつもりなのか」

    ふふ、とリアにしては柔らかい声で笑うと、そっと俺を見上げた。

    「当たり前だ。家族に辛い思いをさせてどうする」

    「家族、か」

    「ああ」

    身寄りのないコイツにとって調査兵団は家だった。それは知っていた。だが俺がそうだとは今まで意識したことがなかった。

    「リヴァイだけじゃない。ハンジもエルヴィンもミケも……みんなそうだ」

    「お前はハンジと仲が良かったからな」

    「そうだな。あんな面白い人間は他にいない」
  35. 35 : : 2013/11/07(木) 22:17:11
    ナイフが牢の外の光を反射して煌く。そこに移るリアの顔を見つめながら、改めて訊いた。

    「いいのか」

    「ああ」

    短く返し、リアは目を閉じる。服を固く握ったままの手が少し震えているような気がして、また言葉を発してしまう。

    「……いいのか」

    「ああ」

    お互い全く同じ言葉を繰り返すだけ。ナイフに映るリアの横顔に一筋の涙が加わる。

    「早くしてくれリヴァイ。腕が疲れる」

    「……」

    「……なあリヴァイ。私は傍にいられて楽しかったぞ」

    リアはポロポロとみっともなく涙を流しながら呟くように言った。そして今まで自分の首に掛けていたペンダントを俺に手渡すと、固く目を閉じる。

    「だからもう、十分リヴァイを愛せたんだ」

    その言葉を聞き、俺はようやく腕を振り上げた。出来るだけ楽に死ねるように、しっかりと位置を定める。

    「愛していたよリヴァイ。つまらない言葉だが、これが私の全てだ」

    「ああ、――――」




    そしてリアは永遠に動くことはなくなった。


  36. 36 : : 2013/11/07(木) 22:18:51

    『この身は全てリヴァイに捧げている。だからリヴァイに殺されるなら本望だ』



    懐かしいあいつの声。思い出すのは最後の言葉だけ。



    『なあリヴァイ。私は傍にいられて楽しかったぞ』



    リア。ようやく思い出した。俺はあの時、お前の言葉に対してこう言ったんだ。



    『愛していたよリヴァイ。つまらない言葉だが、これが私の全てだ」





    「……ああ、そういう意味なら、きっと俺も愛していた。リア」



    そう、言ったんだ。



  37. 37 : : 2013/11/07(木) 22:26:58
    「リヴァイとリア、か」

    私は一人、窓辺で月を眺めながら呟く。片手にいつか買った巨人人形を握って。

    「ほんと、親子みたいな兄妹みたいな……そんな二人だったなぁ」

    ――なあリア。私はリアの最期は知らないけど、ちゃんとリヴァイに気持ちは伝えられた?

    「家族、ね」

    まだ私もリヴァイもリアと同じところへは行けそうにもないけど、いつか行ったらさ、

    「……今度は、本当の家族になれるといいね」




    《END.》
  38. 38 : : 2013/11/07(木) 22:30:43
    これで終了となります。長いssでしたが読んでいただきありがとうございました。

    普段はオリジナルの暗い話ばかり書いていたのでとても楽しくやらせていただきました。
    また機会があれば書かせていただけたらいいなと思います。
  39. 39 : : 2013/11/07(木) 22:31:12
    お疲れ様でした!リアが不器用すぎる・・・
    でも、最後はよかったです。

    感動をありがとう!
  40. 40 : : 2013/11/07(木) 22:38:04
    >>39
    おおお……そう言っていただけると深夜にツラツラ書いたかいがあります。ありがとうございます。

    リア不器用ですよね。自分でも書いていてこの子もっと上手く出来なかったのだろうかって何度も思いました^^;
  41. 41 : : 2013/11/08(金) 01:43:12
    オリキャラが出てこんな読み応えのある作品はなかなかない
    名作
  42. 42 : : 2013/11/08(金) 07:35:02
    素晴らしかった!
    次回作も期待しています!
  43. 43 : : 2013/11/08(金) 18:32:38
    面白かったです!
  44. 44 : : 2013/11/08(金) 18:32:56
    www
  45. 45 : : 2013/11/10(日) 23:34:04
    どうも作者のわたせんです。

    初めての進撃SSにも関わらず閲覧数がこんなに伸びて嬉しく思っています。皆さまありがとう!

    オリキャラ出したら批判覚悟しろという風潮が昔からあるように感じていましたので、こんなに温かいコメントがいただけるとは思えず、思わず画面の前で喜びの舞を披露してしまいました(ぇ

    次回作:
    【もし、リヴァイが死んだなら】http://www.ssnote.net/archives/2416#thread-bottom-navigation
    も宜しければ読んで下さいませ。今度はオリキャラではありません^^;

    本当にありがとうございましたー!
  46. 46 : : 2013/11/12(火) 11:50:57
    感動しました
    感動をありがとう
  47. 47 : : 2013/11/16(土) 00:11:52
    よかった!素敵でした
  48. 48 : : 2013/12/01(日) 18:15:55
    このSSの続編といいますか、別視点(リア視点)のSSを書き始めたのでどうぞご覧になっていって下さい。

    『最愛の殺人鬼Ⅱ』http://www.ssnote.net/archives/2283
  49. 49 : : 2013/12/04(水) 01:34:01
    ↑URLミスです。すみません(気づかなかった><)

    『最愛の殺人鬼Ⅱ』http://www.ssnote.net/archives/3855
  50. 50 : : 2013/12/23(月) 17:34:17
    わぁ!凄く面白かった…
    乙です!

    あ、でも説明っていうか
    その感情を心に表すとき…っていうか、なんかすみません。

    凄く、行が重なってたんでちょっと目が疲れたというか…
    すみません。こんなこといって。

    こんな私なんかに言われたくないかもしれないんですが
    少し、行をあけてほしいなぁ…と…

    こんなこといってすみません。
  51. 51 : : 2013/12/23(月) 17:34:51
    すみませんばっかいってますね、私。
  52. 52 : : 2013/12/24(火) 00:45:57
    >>50
    すみませんばかり言わないで下さいな^^;
    拙作を読んで下さってありがとうございます。面白かったとの感想を頂ける度にPCの前で小躍りしてしまっています^^
    行に関してですが、確かにこのままだと少し読みづらいということは私の方も理解しておりますので、出来る限り対応はしていきたいと思います。貴重なご意見ありがとうございました!
  53. 53 : : 2014/02/11(火) 16:51:06
    リアさん最高です^^
    続きも読ませていただきます!

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sun1722

渡瀬なつ

@sun1722

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