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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

ヒストリア「もう一度わたしに愛を」シリアス

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  1. 1 : : 2014/08/20(水) 00:01:06


    [閲覧注意]


    こんにちは(^ω^ )

    今回SSを執筆させていただきます!

    あずきといいます。


    ≪必読≫
    ・クリスタ【メンヘラ】注意
    (苦手な方はご遠慮下さい)
    ・非常に残酷な描写有り
    ・エレクリ
    ・ユミクリ or ユミヒス(かなり後になってからです)
    ・単行本14巻までの重大なネタバレ有り
    ・微エロ有り
    ・キャラ崩壊
    ・地の文ばっかり
    ・亀進行
    ・設定がおかしかったりするかもしれません
    ・一部のキャラが空気
    ・応援や指摘のコメント大歓迎ですが、執筆を終えたら、それらは全て非表示にしたいと思います。これは、あとから読みにくるみなさんにとってより読みやすい文章にしたいからです。



    これは、ヒストリアの想いと変化を描く物語です。

    ユミルとの別れ(ゴエンア)まで原作と同じ流れとなります。そこからはオリジナル設定です。

    新リヴァイ班の隠れ家にて、積もり積もった心への負担から、精神を病んでしまうヒストリア。

    果たして、本来の自分を見つけ出せるのか



    それでは


    「もう一度わたしに愛を」
  2. 2 : : 2014/08/20(水) 00:02:57


    ーー
    ーーー


    「くぅー…おねぇ…ちゃん…」

    「ふぇぇ…?…ぁ、ああごめんねヒストリア。日差しが気持ち良くて、つい眠っちゃってたみたい…って、あれ…?」

    「…ん?あ…私も寝ちゃってた…!」

    「あは、それにしても、今日はいい天気ね。」

    「うん…おねえちゃんも、すごく気持ち良さそうに寝てたよ?だから、みてたら、寝ちゃった…」

    「ふふ、ヒストリアも気持ち良さそうだったね」

    「そうかな?なんだかまた眠くなってきた…」

    「おやすみなさい、ヒストリア」

    「うん…おや…す…」

    「優しくて明るい女の子に育ってね」

    そう言って黒髪の女は、金髪の女の子を優しく、優しく撫でた。



    ーーー
    ーー

  3. 3 : : 2014/08/20(水) 00:04:03


    ーー
    ーーー

    「……?」

    やっと気を取り戻した少女はその透き通るようなブルーの瞳をゆっくりと開けて、ほとんど無意識に、今自分がどうなっているのかを確認する。


    「…あれ?ここは何処?」

    どうやら自分は広い草原に横たわっているみたいだ。

    まだ曖昧なままの思考を巡らせてみる。



    そうだ ここは壁外。

    私、というより私達は、壁外調査に来ていたんだった。


    それを踏まえると、この現状はどう考えてもおかしいと思う。


    「立体機動装置がない…?」

    「! 馬は…」

    壁外で唯一の命綱となる馬の姿は何処にも見当たらなかった。
  4. 4 : : 2014/08/20(水) 00:04:55
    「ん…」

    取り敢えず立ち上がってみた。

    脚が痛むわけでもなく、普通だった。

    疲れなんか感じない。

    でも逆に、何だかそれが怖い。

    今置かれている状況が全く理解できない。


    「っ……!」

    遠くに巨人の姿が見える。

    大体7メートル級くらいかな?

    私は兵士だけれど、とりわけ力があるわけでもない。熟練の調査兵ですら苦戦を強いられるであろう平地での戦闘を、ましてや立体起動装置を持たない私がするなんて、無理に決まってる。

    そもそも今の私には、殴るか蹴るかくらいの攻撃手段しか無いんだ。逃げなければ。

    反対側に森が見える。
    取り敢えずそこへ…

    ヒストリアは軽快な足どりで走り出した。
  5. 5 : : 2014/08/20(水) 00:06:18

    巨大樹の森。

    まさに巨人みたいな、とてもとても高い木々が鬱蒼と生え繁る森だ。

    重なる枝と葉のせいで、まだ太陽が日照る時間なのにこの森の中は何だか薄暗い。

    鳥の羽音や何かの動物の動く音が、時折聞こえてくる。

    少し怖いや…

    その時、そのどちらでも無いひときわ大きな物音が、左後方辺りで響いた。

    「!!」

    巨人の足音だと一発でわかった。

    相手は私に気づいているかな?


    それより…

    私は馬鹿だ。

    こんな窮屈な森に逃げ込んだら、巨人に気づくのも遅れるし、逃げる場所も限られる。

    いや、でも、馬が居ない今だったら…

    逃げることより見つからないことを考えた方がいいのだろうか?

    そんなことを考えているうちに、足音が遠ざかっていくことに気づいた。

    よかった。気づかれてはいないみたい。


    「きゃあああああああ!!!」

    「っ!?」

    巨人が遠ざかっていった方向から叫び声が聞こえた。

    私は走った。

    今の私に何かできるとも思えないけど走った。叫び声の方に。
  6. 6 : : 2014/08/20(水) 00:06:56


    乱立する木々を縫うように走り抜けて


    私は

    何がしたいんだろう

    今行ったって何もできない

    なのに

    身体は言うことを聞いてくれないみたい

  7. 7 : : 2014/08/20(水) 00:07:26

    そこにはやや小さめの巨人、と自分より少し背が高いだろうか、同い年にも見える少女がいた。平服だった。

    私と同じ金の髪の毛、青の瞳、でも私と違って目元はやや細めで落ち着いた雰囲気の女の人。

    私はこの人に見憶えがある。

    でも会った記憶はない。
  8. 8 : : 2014/08/20(水) 00:09:02


    「お母さん……」

    何故か私はそう呼び掛けた。
    あり得ないなんてことは承知だった。

    「ッ!?」


    その人は巨人に服を摘み上げられて、巨人は今にも噛みつかんとばかりに歯茎が見えるくらい口を大きく開いた。


    私は走り出した。
    そしてそのままの勢いでその女の人に飛び掛かった。

    「うあああっっ!」

    「っ!?」


    ドサリ、と二人で地面に崩れ落ちた。

    服は破れてしまったが、何とか助けられたようだ。

    「大丈夫ですかっ!?」

    「ッ…!!」

    その人は私を蹴り飛ばして巨人に立ち向かっていく。

    「痛ッ…!?」

    「なんで…どうして巨人の方に!逃げましょうよ!」

    「…うるさい」

    「え…?」

    「どうして…?……お母さん…」


    「貴方を…貴方が私の子供だなんて、思いたくも無いッ‼︎」


    また巨人に捕まっちゃう…

    ああ今度はしっかりと腕を掴まれて。

    「待って!」


    待ち侘びたような顔で口をあんぐりと開いて、女の人を寄せつける巨人。

    「…お前さえ」

    「お前さえ産まなけれーーー」

    瞬間、がぶりとかぶりつかれる。
    鮮血が飛び散る。

    そのまま無理やり引きちぎられる。
    首から下だけが残る。

    真っ赤に染まった地面にその亡骸は横たわった。

    何故か巨人はそれをそのままにして、去っていった。
  9. 9 : : 2014/08/20(水) 00:10:56

    「嘘………」

    惨劇を目の当たりにして思わず呻く。

    この人は誰なんだろう。



    …いや、認めなきゃ。

    この人は…私のお母さん。

    でも、何故だか分からないけど年は若い。

    「お母さん…!」

    震える足取りで真っ赤な母に近づいてゆく。

    頭はやはり無かった。
    今頃巨人の胃袋の中かな。

    そっと身体に触れる。

    まだ生暖かくて、まるで生きていたかのよう。


    「お母さん」

    ヒストリアはそっとその身体を抱き寄せた。

    「えへへ、大好きだよ」

    キスをすると胸に顔を埋めて照れ隠しした。

    お母さん、お母さんは私を愛してくれないの?

    私は……こんなに愛してるんだよ。


    端正だがやや幼さが残るその顔は生き血に塗れ、とても15歳の無垢な少女には見えない。

    死体の出血が止み出したころ、二人の背後には、先ほどと同じ巨人が立ちはだかっていた。
  10. 10 : : 2014/08/20(水) 00:12:01
    「あ…」

    私も、ここで死ぬんだ。

    この人は、私のことを待っていてくれたんだね。

    優しい巨人さん。

    ふふふ、私、そんなに美味しくないと思うけど、さあ、召し上がって?


    死体に抱きついていたためか、そのまま右足を掴まれて逆さまに吊るされる。


    「うわぁ…」

    所々どす黒く固まっている美しい金の髪が垂れ下がる。

    「うぅ…足、痛いよ…」

    “巨人さん”はそんなことは全く気にしない様子で、ヒストリアを凝視している。


    右腕。

    鋭い痛み。

    付け根から噛みちぎられる。

    「ああああッ!!」

    激痛に身体を捻じらせる。


    「痛い。痛いよ。
    …それにそんな肉付いてない所食べても、美味しくないと思うよ?」

    彼女の言葉が届いたのか、巨人は持ち方を変えてみる。


    今度は胴体を握って、足にでもいくのかな。


    「ちょっときつ…いっっ!」

    左足。

    もう右足と左腕しかないなあ。

    母親の屍に自分の血が滴り落ちている。

    なんだか視界も暗くなってきた。



    「くッ…」


    今度は腹の辺りか。

    生きている間に自分の腑を見ることができるとは。



    今度は

    頭を鷲掴み。

    そして“胴体”の方を食べられた。


    嘘…わたし、いま首しかないよ

    生きているって、いえるの?


    まるでボールみたいに投げ捨てられた少女の生首。



    ーーー
    ーー
  11. 11 : : 2014/08/20(水) 00:13:05

    ーー
    ーーー

    どうしてただ眺めていることしかできないんだろう。

    目の前に転がってくる少女の生首。


    思ったより小さめのそれは、持ち上げた本人のものそっくりそのままだった。





    わたし、わたしの前にいるのは…わたし?

    わたしは拾い上げられる



    目と目が 合う



    ニコリ、と不自然な笑みを浮かべていた



    ーーー
    ーー
  12. 12 : : 2014/08/20(水) 07:02:43


    ーー
    ーーー

    「…あ!?」


    見えたのは自身の不気味な笑顔じゃなく、木の天井だった。


    「…夢か」

    みんなはもう起きてる…?


    扉の前で誰かの声がする。

    「…おい、どうかしたか?」

    エレンか…

    「おい!返事しろよ!開けるぞ?」

    「あ…」

    ガチャリと扉を開けて入ってくるやや悪人面の少年。


    「なんだよ、急に叫ぶなんてびっくりしたじゃねぇか。」

    「え…ごめん…」

    「? まあいいや。そろそろ飯の時間だから、来いよ。」

    「うん…」

    パタン。もう帰っちゃった。


    「…私叫んだっけ?」


    よく見たらもう外は明るくなっていて、小鳥のさえずりが耳をくすぐる。

    頭を掻いてみると、寝癖に気づいた。

    「〜!」

    手鏡を取り出して、ハッとする。

    自分の顔が、こんなに疎ましいなんて。

    思わず手鏡を投げつける。

    パリン、と軽快な音を立てて弾け散るガラス。

    「あ…」

    何やってるんだろう。

    苛々して、意味もなく自分の足を殴りつけてみるが、何も変わらない。

    やがて自分で自分の顔面を、散々なまでに殴り始めた。
  13. 13 : : 2014/08/20(水) 07:04:13

    「おい!何やってるんだよ!」

    騒ぎを聞きつけて戻ってきたエレンに腕を掴まれ、やっと我に返るヒストリア。

    「っ!!」

    「馬鹿か、お前は…
    なんで自分で自分を殴って…泣いてんだよ。見ろ…痣が出来ちまった…」

    「うっ…ごめんなさい…」

    「なんで俺に謝んだよ」

    「なんでって言われても…」

    「ははは…冗談だ。早く飯食おうぜ」

    エレンはヒストリアの腕を引っ張って無理矢理立たせる。

    「ちょっ…私まだ起きたばっかり…」

    「何言ってんだ、サシャに全部食われちまうぞ!」

    「!」
  14. 14 : : 2014/08/20(水) 07:05:28


    エレンが小走りになるので、結局ヒストリアは走ってそのあとを追い掛けることになった。

    「随分急いで来たようだが」
    相変わらず不機嫌な面目のリヴァイ。

    「リヴァイ兵長…!ちょっとヒストリアが寝ぼけてて…」

    「見れば分かるな」

    「ちょ、ヒストリアどうしたの?その顔の傷…あと寝癖も」

    「エレンお前ヒストリアに何してんだよ!」

    アルミンとコニーだけじゃなくこの場にいる全員がヒストリアの変化に気づいただろう。

    「俺は何もしてねぇよ!」

    「うん、何もされてないよ」

    「え…昨日まで無かったよね?」

    「あー…まぁ、気にしない事だ」

    「エ、エレン、どうして…」

    「まあいいだろ、アルミン。それより飯だ飯。見ろサシャがもううずうずしてるぞ」

    「お腹空きました〜」

    「う、うん、じゃあ、いただきます」

    やや疑問の表情の者が数名いたが、この日も賑やか、とはいかないがこの危機的な日々の中で、細やかな楽しみとなりつつある食事が始まった。
  15. 15 : : 2014/08/20(水) 16:52:10


    訓練兵だった頃よりも、幾分かは彩りに富んだ食事を口に運ぶ。

    しかしいつもより食欲が無いみたいだ。
    隣に座るアルミンが心配そうな顔で覗き込んできた。

    「どうしたの?あぁ、起きたばっかりだから食欲が無いの?」

    そういう見方も出来るか…

    「うん…多分そう」

    曖昧な言葉を投げ捨てる。

    「なんか、すごくうなされてたけど、嫌な夢でも見てたの?」

    うっ… 思い出したくないよ

    「うん、ごめんなさい」

    「えっ、君が謝ること無いでしょ?。夢なんて見たくて見るものじゃないし。」

    「ん~…」


    「ヒストリア?お腹空いてないんですか?」

    もうサシャにあげちゃおうか…


    「うん……良かったら召し上がって?」

    「え?あ、どうも、ありがとうございます…?」


    おかしいな。サシャだったら飛び跳ねて喜んでくれると思ったのに…

    「なんか今日のヒストリアは…変です」

    「もともと変だから、気にしないで」

    「やっぱり変です」


    「その、体の具合でも悪いんだったら、ちゃんと食べた方がいいですよ?」


    「嘘だろ…!?あのサシャが貰った飯を返すなんて!」

    「コニー、食事中だから静かにね」


    他愛ないいつもの食卓だった。
  16. 16 : : 2014/08/20(水) 16:58:26

    食事を終えて私は寝室に戻るために廊下を歩いていた。

    リヴァイ兵長によると、今日はエルヴィン団長からの連絡を待つらしくて、要するに暇らしい。

    この状況の中で何もすることがないとなると、何だか間が抜ける感じがする。

    寝室に入ると今朝方の惨劇の残骸が目に入った。

    「あ…」

    エレンは気がつかなかったのだろうか?

    エレンは、優しいから、気づいていたけどそっとしてくれたのかな。

    取り敢えず、素手で片付けるのも何だから、箒とちりとりでも持ってこようか。

    ヒストリアは寝室を出て行った。
  17. 17 : : 2014/08/20(水) 18:59:24

    私はガラスの破片を掃除している。

    ときどきキラキラと光を放つ透明な欠片を見ていると、

    何だか楽しい気分になってくる。

    ヒストリアはおもむろに、少し大きめの欠片を拾い上げてその鋭い先端で手の甲を引っ掻いた。

    細く出来た傷から血が滲む。

    私って生きているんだな。

    もう一度引っ掻いてみる。同じところを。

    痛いのかな?

    不思議な感じだ。

    この紅い液体が自分のものであることに感動して身が竦んだ。


    「なあ…?」

    いつの間にいたの、と振り向く。

    「何して… 血が出てるじゃ…」「煩い!」


    「…ほっといてよ」

    「は…?! な、なんだよガラスで手を切っただけだろ?ばい菌が入るといけないからちゃんと手当てしてこいよ」

    違う…私が切ったんだ

    気に入らない


    「これは俺が片付けといてやるからさ、ほら、はやく行ってこいよ」

    「わかった…」

    エレン、エレンは優しくしてくれてるのに

    素直になれないや


    私は仏頂面で部屋を出て行った。


  18. 18 : : 2014/08/20(水) 19:03:10

    スタスタと軽い音を立てながら、ヒストリアは食堂に戻ってきた。

    そのまま流しで手を洗う



    どうしよう…

    「あの…」

    アルミンに向かって他人行儀に話し掛けた。

    「ん…?」

    「これ…」

    「え、どうしたの? 今絆創膏を持ってくるから」

    「うん…お願い」





    「これで良し、と」

    「ありがとう…」

    私、人にお礼を言うのがこんなに苦手だったっけ?

    こんな小さな声、ちゃんと届いただろうか?

    「どういたしまして」

    良かった。届いたみたい。
    ニコっと笑うアルミンはとっても愛らしくて、彼の性別を再確認する羽目になった。


    じぃーっ


    他に方法は無かったのか、自分と同じ綺麗な青色の瞳をじっと見つめる。

    「ど、どうしたの?」

    「なんでもないよ」

    もう一度、更に小声でありがとうと礼をしてから、アルミンの姿を視界の外にして歩き出す。

    彼は少し頬を染めて、きょとんとしたままそれを見送った。
  19. 19 : : 2014/08/20(水) 23:45:02


    「おう、掃除はしておいたからな。今日はどうせ何もすることもないんだし、体でも鍛えるか、それかゆっくり寝てろ」

    寝室には、カチャカチャとガラスが集められたちり取りを持ったエレンが居た。

    「どうもありがとね」ニコッ…

    下手くそな愛想笑い…


    「はは……無理して笑うことないぞ。おやすみ、ヒストリア」

    「…おやすみなさい」


    パタン…


    「エレンには何でも分かられちゃうか…」


    私…どうしちゃったんだろ。


    絶対みんな、不審に思ってるよ…



    色んな思いをそのまま込めてベッドにダイブする。

    「あ…あははは!」

    「なんで…涙が……」

    「あぁ私…弱いなぁ…」

    「強くならなきゃ…」

  20. 20 : : 2014/08/20(水) 23:45:56


    うぅ……

    今…今わたしのそばに

    貴女が居てくれたら

    それがどれだけ嬉しいことか

    嘘偽り無き純然たる本物の愛を

    唯一 私に注いでくれる貴女が

    ねぇ ユミル…


    貴女の名前を

    呼んでいいかな



    ーーー
    ーー
  21. 21 : : 2014/08/21(木) 14:20:33


    ーー
    ーーー


    「クリスタ!?おい、目を覚ませ!」

    「ぅあ…?」

    あれ…目の前にいるのは

    「ユミ…ル?」

    「ふっ、お前、眠ってる間も私の名前を呟いてたぞ。流石私のクリスタっ」

    「あれ…私…」

    「…お前、巨人に捕まって、でも何とか助けられたんだが落ちた時に頭を打ったみたいで…」

    なにそれ…そんなこと

    あったっけ?


    「まあいい!とりあえず、陣形に戻らねぇと!立てるか?」


    そう言って優しく手を差し伸べたのはまさしく、私が思い描く通りの、私の親友だった。


    「うん、まだ頭が回らないけど」

    差し伸べられた手を大袈裟に握り締めながら立ち上がると、自分の馬が擦り寄ってきた。

    「うふふ、いい子いい子」

    赤ん坊をさするような身振りで馬を撫でるヒストリア。

    「眼福だが、今はそんなことしてる場合じゃない。急ぐぞ!」

    「うん!」

    颯爽と馬に跨がって、二人は駆け出した。
  22. 22 : : 2014/08/21(木) 14:21:34


    陣形はバラバラだった。


    常に視界に入ってくる先輩方や同期の仲間の死体が、それを物語っていた。


    「なんてこった…おい…私たちは、どうやら運が良かったらしいぞ…」

    「……」



    前方に巨人が集まっている。

    そこで誰かが戦っている…


    「どうするんだ?まさかエルヴィン団長まで危うい状態なんじゃ無いだろうな」


    陣形は壊滅…
    煙弾を上げる者すら居なかった

    まさか本当に団長ですら…
  23. 23 : : 2014/08/21(木) 14:22:55


    「うっ、うわああぁ!」

    あの声はサシャだ。

    「! 芋女が…」

    目の前で大切な友達が今まさにその命を奪われようとしている…

    「あ、おいクリスタ!もう間に合わない!」

    「違うよ、私はヒストリア、ユミルどうしたの?」

    「おい待て!」

    「え?」


    ユミルは行ってしまった。巨人の方へ。

    「なんで、ユミル?」


    「クリスタ!無茶だ!」


    「ユミル、あなたは、何を見ているの!?私はいる!私はここにいるよ!」

    大声で叫んだ。だが、どうやらユミルには届いていないようだ。


    行ってしまった。彼女は…「クリスタ」の方に。


    「お人好し」な あの女の方に。


    あの女はまた
    自分の為の偽善から
    周りに迷惑を生むんだ


    憎たらしい。


    「貴女なんてさっさと巨人の臭い腹の中で息絶えてしまえば良かったのよ!!!」

  24. 24 : : 2014/08/21(木) 17:04:25


    ユミルが巨人に持ち上げられてる。

    真下にはあの女。

    ユミルに向けて何らかの想いをぶつけている。

    気色悪い演技で。


    ユミルが喰われる。







    ほんとにそれでいいの?



    私は駆け出す。


    この感覚に慣れた。


    私はユミルを助ける事が出来る。
  25. 25 : : 2014/08/21(木) 17:04:45


    立体機動装置。

    今の私には、こんなちんけな器械、何てことない。


    馬に跨がったままアンカーを発射し、的確に巨人の首に命中させる。


    そのままガスを吹かして浮上する。


    華麗なこなしで身体を捻じってうなじを狙う。



    斬ったッ



  26. 26 : : 2014/08/21(木) 17:05:34


    そこに巨人の姿は無かった。


    私が切ったものは?


    私が切ったのは…わたし?


    私が右脚でふんづけているのは
    私の腹なのか。


    目の前に見える金色のボールは
    私の頭なのか。


    その球体がおもむろにぐるりと、

    回って こっちを

    向いた


    目と目が 合った



    「ざまぁ見ろよ」って

    笑われた気がした




    ーーー
    ーー
  27. 27 : : 2014/08/21(木) 19:49:03

    ーー
    ーーー


    「うっ…」


    「ヒストリア?怖い夢でも見たの?」


    「うっ…お姉ちゃん…うっ、う、怖かったよっ!!」


    「ん、よしよし…ヒストリア、泣かないで?」


    「う、うん…わたし、泣かないよ…わたし、強いから…」


    「うんうん、ヒストリアは偉いね。強い子だね。」


    「お姉ちゃんんんっ!!」ぶわっ

    「あらあら…よしよし」


    「貴女はきっと、強い女の子になれるよ」

    そう言って黒髪の女は、金髪の女の子の絹のような頬に、優しくキスをした。




    ーーー
    ーー
  28. 28 : : 2014/08/21(木) 19:49:58


    ーー
    ーーー



    「あ………」



    光のない目にじっと見つめられて我に返る。


    ユミルが何かを喚いている。


    私はユミルの大切な友達を殺しちゃったんだね。


    ユミルが冷たくなった手を握り締めて、必死に涙を堪えているのが分かる。



    「ごめんなさい」


    「ふざけんな」


    「私を…これまでの私の努力を返せ!!」


    ユミルが手に噛み付くと同時に、辺り一面に眩いばかりの光が飛び散る。


    次の瞬間、私は巨人になったユミルに捕まっているのが分かった。


    「くっ…!」

    「私の…私のクリスタを!よくも!」


    ユミルは空いている巨人の手で私を殴った。

    何度も。

    視界が赤く染まった。

    「あぁ…」

    「ユミル…離して…私は…私は…」


    「お前は……屑だな。存在するだけで邪魔な、屑だ」


    「お前なんて生まれてこなけりゃ良かったんだよ」


    「お前の居場所なんて何処にも無いんだよ」


    「この役立たずが」


    「それとも、誰にも愛されなくて、世界から蔑まれる自分が可愛いか?」


    「みんなに心配してもらうのが楽しいのか?」


    「お前は生きてる意味、あんのか?」


    「お前が死んだって、誰も悲しまないぞ?」


    「お前は“悪い子”だ」


    「はやく死ね」



    その巨人は両手で少女の身体を握り締め、

    力一杯捻じってから引き千切った。


    「ごめんな」



    ーーー
    ーー

  29. 29 : : 2014/08/21(木) 20:23:17


    ーー
    ーーー


    「ぁ……あ…………」


    涙を流し過ぎた彼女の瞳は赤く腫れ上がり、頬の傷には新しいものも幾つか確認出来る。


    「どうしたんですか…?」

    「サシャ…」


    まだ認めたくないの?
    ユミルは私を必要としていないって。


    「私、ユミルに嫌われちゃった…
    そもそも私は誰にも好かれるわけないんだ」


    「ヒストリア?あなたは、みんなに好かれているじゃないですか?それにユミルに嫌われたって、どういうことですか?」


    「夢」

    「え?」

    「私がさっき見た夢で…
    ユミルは本気だった…私に…生きている価値が無いと言った…」

    「…夢なのに、嫌われただなんて可笑しいですよ。夢っていうのは、自分の中で始まり自分の中で終わる物語なんです。実際に現実でユミルに言われたことでもないのに、夢で言われたからってそれを信じるのは、変でしょう」


    「そう…かな?」

    「ヒストリア。何か思い悩んでいる事があったら、いつでも私に相談してくださいね!私は、いつも貴女に救われてるので」

    「え…うん…」

    「さて、私はそろそろ夕飯を作り始めないと」

    「あ…」

    サシャがドアノブに手を掛ける。

    「待って!私も…一緒に作りたい!」


    「え、ほんとですか?」

    「うん」

    「じゃ、行きますか、ヒストリア。」

    そう言って私たちは部屋を出た。


    「寝癖、可愛いですよ」

    「えっ?」

    「ふふっ!」
  30. 30 : : 2014/08/21(木) 23:59:37


    「そういえば、もう夕方なんだね」

    「まさかずっと眠ってたんですか?」

    「うん…自分でもびっくりした」

    「ヒストリアは、お子様ですねぇ〜」

    「うっ… 子供じゃ無いもん」

    「ふー、それより、今日の夕飯は何を作ります?…と言っても」

    「うん、普通に、スープくらいしか作れないよね…」

    「たまには、ジャガイモの煮物とか野菜の和え物でも作ってみましょうか」

    「うん、私に出来ることなら手伝うから、作ろうか」

    「私はヒストリアが元気になってくれただけで十分ですけど」

    「そんな大袈裟な…」

    「ふふっ。ではヒストリアはお芋の下ごしらえをお願いしますね」

    「うん」

  31. 31 : : 2014/08/21(木) 23:59:54


    んー…

    私って、不器用かな…



    何だか、私の中に渦巻く煩悩を、すっかり全部曝け出したような、清々しい気分だ。


    「ヒストリア…!? ちょっと血が」


    びっくりしたよ。

    ジャガイモを切っているつもりが、

    自分の手首を切っていただなんて。


    「一体何してるんですか…!?あぁ、私が悪いんだ…ごめんなさい!ヒストリア残りは私がするから、はやく手当てを…」


    「違うよ。

    悪いのは私。全部私。」


    「え?」

  32. 32 : : 2014/08/22(金) 00:00:13

    「私、この手で人を殺した事が無いんだよね。私すごく興味があるの。一人の人間をこの手で殺したい。その時どんな気持ちなんだろう。サシャ、あなたは興味ある?この包丁をあなたのお腹に突き立てたら、どんな感触を味わえるかな?そしたらそれをそのまま捻じって掻き混ぜてやるんだ。とっても気持ち良いんだろうなぁ」

    「ヒッ!?」

    サシャは驚きの余り足が竦んで動けない。

    「あなたのそのクリっとした可愛らしい焦げ茶色の瞳。食べちゃいたい。飴みたいに。コロコロって、舌の上で転がすの。その舌触りを思う存分堪能出来たら、一息に噛み切ってやる。前歯がいいかな、それとも奥歯でガリガリって潰すのもいい。どう?私の虫歯を探してくれる気には……」

    「ヒストリア…ヒストリアは…少し、嫌かなり、変です…」

    「ははっ!そうかもね!…

    …なんで私から遠ざかっていくの?ねえなんで?私こわい顔してる?」

    以前女神と呼ばれていたはずの少女はただただ無表情でサシャを見つめる。その手には包丁を握り締めて。


    「……」

    ニヤリ


    「ああああああッッ!」


    包丁を構えてサシャに向かって突進するヒストリア。


    「うわあああああ!!」

    「きゃああああっ!」

    サシャに間一髪横に跳ね避けられて、力を殺す術を失ったヒストリアはそのまま転んで床に突っ込んだ。

    手に持っていた包丁は、柄のところまで床に突き刺さった。
  33. 33 : : 2014/08/22(金) 00:01:47

    「クソ!」

    汚い言葉を吐き捨てて、乱暴に立ち上がるヒストリアと、倒れ込んだままのサシャ。


    「はぁ、はぁ…」

    ヒストリアは立ち上がろうとするサシャを再度蹴り倒して、馬乗りの体制になった。


    「や、やめてください、何でもしますからぁ!」


    「ほんと?なら私を満足させて。」


    額から鮮血が滴り、サシャの頬に落ちる。


    「それは、無理ですッ!」


    「ミカサッ!?」


    アルミンの叫び声が響いたと思うと、気がついたら私は宙を舞い、地面に平伏していた。






    「これはどういうつもり?」


    「ミカサ!手加減しないと…」


    「私だってこんなことはしたくない。ヒストリアは仲間思いの優しい女の子、違わない?今、私の目の前にいるのは一体誰?

    どうして床に包丁が刺さっているの?」


    沈黙が訪れる。


    余程の騒音だったのだろう。
    エレン、アルミン、ジャン、コニー、そしてリヴァイ兵長までが
    その場に集まってきていた。


    「…ヒストリア、落ち着いた?」


    「…」


    私は…

    取り返しの付かないことをした。
  34. 34 : : 2014/08/22(金) 19:19:38


    「本当にどうしたってんだ…アイツ…」

    ヒストリアは「食べたくない」とか言ってベッドに潜り込んでしまった。

    重い空気の中、やっと口を開いたのはジャンだった。


    「どうしたもこうしたも無いですよ… 私、本当に殺されるかと思いました。ヒストリアのあの目…あれは本気の目でした…」


    あのあと数人がかりでヒストリアを落ち着かせて、話を聞いたものの、言っていることは支離滅裂で、要約すると「頭の中が真っ白になって、自分の身体が自分のものじゃないみたいになって、気がついたらあんな事をしていた」という事らしい。



    「でもアイツあんなに力強えとは…」

    少しズレた意見を口にするコニー。


    「うん…それは置いといて、今日初めてヒストリアに会ったのは、エレンだよね?」

    アルミンが何か思いついたような様子で話を正す。

    「…あぁ、そうだが…」

    「朝、何か変わった様子は無かった…?と言うか有ったよね?」

    皆がエレンに注目する。


    「…あぁ、アイツは確かにおかしかった」


    「朝食が出来上がって、オレがヒストリアを起こしに行った時の事だ…」


    ーーー
    ーー
  35. 35 : : 2014/08/22(金) 19:19:52

    ーー
    ーーー

    オレはただ普通に廊下を歩いていた。

    ヒストリアが寝ているーまぁオレたちもそこで寝る訳だがーその寝室から、ヒストリアの声が洩れていたんだ。

    寝言か、とか思いながら聞き耳をたてた。単に興味があっただけだ。

    始めの方は…まあ誰にでもあるような、母親に呼び掛けるような寝言だった。

    「お母さん…!」

    「えへへっ…」

    「大好きだよ」


    なんか起こすのも悪いなとか思ってた時だ。


    「ああああッ!!」

    「クッ…!」

    「やめ……」

    突然叫び出した。痛みに喚くように。



    「…あ!?」

    「夢……」


    暫くすると、どうやら目が覚めた様子で、オレは飯の時間だという旨を報告しに部屋に入った。

    ヒストリアは本当にたった今起きたようだ。寝癖がついていて、猫みたいな仕草で目を擦っているところだった。


    ーーー
    ーー



    オレはその後の出来事も思い出して皆に伝えた。

  36. 36 : : 2014/08/22(金) 19:20:44


    「あの音は鏡だったのか…」

    コニーが今朝の出来事を思い出した様子で返答する。


    「鏡を割るってのはよくねぇ事だな、それも、かなり」

    さっきから一言も喋らず黙って聞いていたリヴァイ兵長が口を開く。

    「自分が嫌にでもなったか」





    本当の彼女は生まれてから今まで一度足りとも自分を肯定した事など無かった。


    しかし、この場にいる者は誰一人として、そんなこと思いもしなかっただろう。


    彼らにとって「クリスタ・レンズ」と「ヒストリア・レイス」は、当然のように同一人物としての認識だった。


    そして彼らにとって「クリスタ・レンズ」は、誰にでも愛想良く振る舞う育ちの良い元気な女の子、という認識なのだから。




    今日の夕食は味気なかった。
  37. 37 : : 2014/08/22(金) 19:59:37
    期待です
  38. 38 : : 2014/08/22(金) 20:00:58
    >>37
    おおΣ( ̄。 ̄ノ)ノ
    初コメ嬉しいです
    ありがとうございます( ^ω^ )
  39. 39 : : 2014/08/22(金) 20:01:25

    あの後、
    少し外で風を浴びていたが寒かったのでやめた。








    「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……」

    「っ…!?」

    毛布にすっぽり包まれた細い身体から発せられる哀憐漂う嘆きの言葉。


    呼吸も忘れてひたすらに謝り続けるヒストリア。


    「うっ、ゲホッ…ケホッ……」



    サシャが、何をしたって言うの…

    彼女はただ私を気遣ってくれて

    必死に私を励まそうとしてくれて

    いつも周りに笑顔のタネを蒔いてくれて

    どんな時も私達に、元気を与えてくれて


    そんなサシャに 私は 何を…



     『本当に最低な女』


    「…」



    「…」


  40. 40 : : 2014/08/22(金) 20:01:55


    とうとう聴こえてはいけないものまで聴こえるようになっちゃったみたい


    頭の中では
    ひたすら自己を傷付けるのをやめられない。


    「どうせ私なんか生きてる価値無いんだ」

    「私なんか誰にも必要とされてない」

    「生きてても周りに迷惑を掛けるだけだ」

    「私が居なくなったらみんな喜ぶ」

    「どうせ私なんか生きてる価値無いんだ」

    「どうせ私なんか生きてる価値無いんだ」

    「私は生きてる価値が無い」

    「私は生きてる価値が無い」

    「私は生きてる価値が無い」

    「どうせ私なんか生きてる価値無いんだ」

    「どうせ私なんか生きてる価値無いんだ」

    「どうせ私なんか生きてる価値無いんだ」

    「どうせ私なんか生きてる価値無いんだ」


    「はぁ…はぁ…」


    「そうやって嘆いてるだけで何もしないくせに」

    「皆に注目してもらいたいだけ」

    「そして心配してもらって、慰めてもらって、可愛がってもらいたいだけ」

    「でもされたらそれを拒むんでしょう」

    「一体何なの?何がしたいの?」


    「ああ本当に嫌になる」



    憎悪の堂々巡りだ。

  41. 41 : : 2014/08/22(金) 20:02:49
    期待です!
  42. 42 : : 2014/08/22(金) 20:03:52
    >>41
    期待コメありがとうございますm(_ _)m
    本当に励みになりますm(_ _)m
  43. 43 : : 2014/08/22(金) 20:08:40
    >>42いえいえ。

      小説みたいでいいですね!
  44. 44 : : 2014/08/22(金) 21:35:27
    みなさんお待ちかねのお風呂シーン入れます\(//∇//)\
  45. 45 : : 2014/08/22(金) 21:40:28

    「ふぅ…」

    肩にタオルを掛けたジャンが部屋に入ってきた。


    「よ、よぉ… 風呂沸いてるぞ。お前もサッパリして来たらいいんじゃないか?」

    「…そうする」


    本当は何もしたくない気分だけれど、確かにお風呂は魅力的かもしれない…


    着替えはこれっと…

    タオルも持って…


    私は部屋を出る。



    さっきまで毛布に入り、しかも汗をかいていたせいか廊下は少し肌寒い。


    食堂の前を通る時、一瞬静まり返ったような気がした。

    はぁ…やっぱり迷惑掛けちゃう







    服を脱ぐと手首にどす黒くなった傷痕が見えた。




    思い出させないで…


    なるべくそれを見ないようにしながら、残りの衣服も脱ぎ、その裸体を露わにした。

    浴室はまだ蒸し蒸しとした空気に満ちている。

    その小さな密室にばしゃあと、お湯の音が鳴り響く。

    嫌な事もこうやって綺麗さっぱり流せたらいいのに。

    白く透き通る肌には石鹸の泡がまとわりついていて、少しいかがわしい雰囲気を醸し出している。

    全身を満遍なく洗うと、あることに気付いた…

    …私、結構胸大きくなったな…

    そんなことを自分で思い、一人で赤面する。

    ユ、ユミルに揉まれまくったからだ…

    ユミル……

    貴女とのあの日々を取り戻せるのなら

    私は何だって……



    身体を流して、次は髪を洗う。

    鏡には、わだかまりの抜けぬ痣だらけの表情。

    「…この傷ちゃんと消えるよね」

    自分でしたことを呪いながら、石鹸を洗い流して、湯船に浸かった。


    「ふぅーっ!
    気持ちいい…!」

    思わず目を閉じて恍惚な表情になる。

    手や手首が少し滲みるがそんなの気にならない。

    細い手足を精一杯に伸ばして背伸びする。


    「んー…」


    今日はいつもよりちょっと長く入ろうかな。
  46. 46 : : 2014/08/22(金) 22:42:05




    お風呂から上がって、今は寝室に居る。

    結構長く浸かってたみたいで、みんなが戻ってきていた。


    「おっ…ヒストリア…なんか機嫌良さそうだな」

    「えへへ…分かる?」

    えへへ、だって。
    どの口が言う。

    「そう見えるよな、アルミン」

    「うん、お風呂気持ちよかったんだね」

    でも皆は怒らない。
    それどころかいやに優しくしてくれる。


    明日謝ろう…




    いや…そんなのって無いよね…

    今…今謝らないと!



    「ね、ねぇ!みんな!」

    一同一斉にヒストリアに目を向ける。

    「今日は…ごめんなさい!! 私、私どうかしてた…本当に…ごめんなさい……」

    何故か涙と悲しみが溢れ出す。


    「ヒストリア…正直私は、怖かった。あなたが。でも…あなたはきっと一時魔が差しただけで…きっと元に戻ってくれると信じています。私たちは、誰もあなたに怒ってなんていません。ですから…あんなに自分を責めないで下さい!」

    「私…聞いていましたよ。あなたの声。私がいるのにあなたは全く気づかないで、ひたすら自分を責めていましたね。私、それを聞いたら何だか…涙が出てきて…。私の方こそごめんなさい…私はあなたを一度本気で疑ってしまいました…お願いですから私を許してください…そしてこれからも、ずっと友達で居ましょう?」


    私は泣いた。

    それは承諾の意思表示であると同時に、今まで溜め込んだ悲しみの綻びだった。



    「クソッ…俺まで泣けてきたぜ…」

    「ジャン…僕もだよ…」


    みんなありがとう。

    もうちょっとだけ、
    生きる意味が出来たよ。
  47. 47 : : 2014/08/23(土) 06:52:26


    「皆おやすみなさいっ」

    今日はぐっすり眠れそう。



    ーーー
    ーー




    ーー
    ーーー


    「おはよう、ヒストリア」

    「? だれ?」

    「ちょっとごめんね…」

    黒髪の女はヒストリアのおでこと自分のおでこをくっつけた。




    「え…? あ、あれ?お姉ちゃん?」

    「思い出してくれた?」

    「うん…?おはよう!お姉ちゃん!…ねー…どうしていつも忘れさせるの??」

    「うーん…ちょっと、私のことはどうしても秘密にしなきゃいけないからよ」

    「なら、わたし、お姉ちゃんのこと絶対誰にも話さないから、忘れさせるのやめてよっ」

    「ごめんねヒストリア、それはできないの…ごめんね」

    「えぇ……うん分かった!ねっ、今日はどんな本を読んでくれるの?」

    「ヒストリアは物分かりがいいね。今日はね、一度は別れを告げられてしまった想い人が、窮地に陥った自分を助けに帰ってくるお話だよ」

    「?」きょとん

    「ちょ、ちょっと難しいかな。それじゃ、読もうねーー



    ーーー
    ーー

  48. 48 : : 2014/08/23(土) 16:06:10
    期待
  49. 49 : : 2014/08/23(土) 21:00:46
    >>48
    ありがとうございます(=゚ω゚)ノ
  50. 50 : : 2014/08/24(日) 15:24:36
    すみません、ちょっとここからは投稿のペースが遅れると思います(リアルが忙しくなる&設定で悩み中なので)

    最初は40くらいで完結かなと目論んでいたんですが、結構長くなるかもです。

    どうか温かく見守ってやってくださいm(_ _)m
  51. 51 : : 2014/08/26(火) 19:14:18


    ーー
    ーーー


    「起きろ」

    「うっ…!?」

    黒服の男に羽交い締めにされて私は目覚めた。



    部屋には何人もの男が入り込んでいた。


    何…この人たちは…?

    まだ寝ぼけてる…

    どうせまたあんな感じの夢だろうけど…

    今度はどんな風に死んじゃうのかな…

    手っ取り早く殺しちゃってくれないかな

    死ねば悪夢から覚められるんだから…


    物音にほとんど皆が目を覚ました。


    「なっ!?」

    「動くな。この女の顔の穴を1つ増やして欲しく無かったらな」

    1つじゃ済まないだろう。

    黒服の男は総勢で私に銃を向けている。

    見たこと無い拳銃だ。

    シルバーに光り輝く金属質な銃身に、何か円柱状のものが嵌まっている。

    四方どこを見ても銃口が見えるのは余り気持ちが良いものじゃない。


    早く引き金を引いてよ。
  52. 52 : : 2014/08/26(火) 19:14:45

    「クッ…」


    見るとエレンも捕まっていた。

    でも、私より大掛かりに。
    口には猿轡を噛ませられ、
    腕や足は縛り付けられている。


    この人たちは巨人化を知ってる…?


    「ふふ、私だって巨人になれるよ」

    「なッ!?」


    夢なんだ、なんだって出来るはず。

    私は舌を噛んだ。





    口からちょっと血が滴り落ちただけだった。


    「プッ、ハハハ、嘘ついても無駄だぞ?」



    「まぁ…どっちみちお前もこうするんだがな」

    「んッ!!」

    私も猿轡を噛ませられ、腕は背中に回して縛り上げられた。脚も動かせないように縛られた。

    抵抗する暇も無かった。

    手際の良さに驚く。


    「余計な真似はするなよ」

    私に向ける拳銃を意識させながら男は言った。

    「あっちの女の命も奪うことになるからな。」

    監視の当番だったミカサのことだろうか。

    ミカサですら対抗出来なかったんだ…

    「っ…!!」

    パン!!!!


    乾いた銃声が鳴り響く。


    その直後足から流血したアルミンとリヴァイ兵長が目に入った。

    「動くなと言っただろう」


    「あっ…!」

    「くッ…!!」




    私とエレンは拉致された。
  53. 53 : : 2014/08/26(火) 19:21:23
    気がついたら閲覧300こえてて嬉しいです(;゜0゜)ありがとうございます。
  54. 54 : : 2014/08/26(火) 21:03:55


    狭い馬車の中でエレンと2人きり…

    ちょっと緊張しちゃうな…


    唐突な出来事に混乱して全く場違いな事を考えてしまった。

    すぐ目の前にいるエレンは、憤りを隠せない表情で目線を下にしている。

    そりゃ怒るよね、今までの苦労が台無しだから。

    これも私のせいか。簡単に人質に取られちゃうんだもの。

    あんな変態野郎一息に殴って気絶させられれば良かったのに。

    あの人たちは私を殺せないんだ。銃なんて無意味でしか無かったはず。
    咄嗟の緊急事態に焦って気がつかなった。アルミンなら気づいただろうか。


    彼女は、手を後ろ手に縛り上げられ、足は足首と膝の2箇所で固定され、いわゆる三角座りの格好でじっとしている。

    それも馬車の中は狭く、脚なんて伸ばしたらそれだけで占領されてしまうからだった。

    でも同じ体勢でじっとするというのはとても辛かった。


    「うぅ…」

    エレンと話すことももちろん出来ない。

    ああどうして私はこんなに運が無いの。

    それともこれは、生まれた時に決められた運命なの?


    エレンと目が合う…

    ヒストリアはその年頃の女の子らしく軽く顔を赤らめてみせた。

    それに対してエレンもすかさず目を逸らす。

    ふふっ…

    初々しい雰囲気に少しきゅんとする。

    そんな余裕なんて無いはずなのに。

    一瞬そう思ったが、私はエレンと遊ぶのもいいなと思った。

    だって、このままじっと馬車に揺られていたら、きっとどうにかなってしまうから。

  55. 55 : : 2014/08/27(水) 03:06:29



    最悪だ。

    リヴァイ兵長や皆はオレ達を守るために手を尽くしてくれていたのに。

    たった数分の出来事で全てが水の泡になってしまった。


    ヒストリアはどんな気持ちだろう。

    ちらっと彼女の方を見ると、何やら呻き声をあげながら下を向いている。

    思えばここ最近、こいつはどうにかなってた。

    一昨日まではまだ良かったんだ。時々ぼーっとしたり、暗い顔で何か思い悩んでいることがあったくらいだ。

    でも昨日は本当におかしかった。
    朝起きて普通に話したと思ったらいきなり自分で自分の顔を殴り出したり、ガラスの破片で自分を傷付けたり、終いには包丁で他人を殺そうとした。

    なんでああなるまで放っておいたんだ。
    皆だって気付いていただろう。ヒストリアがおかしいことに。

    どうしてオレ達は…ヒストリアを助けてやれなかったんだろう。

    あぁ、不甲斐ねえよ。


    ……過ぎたことで悩んだって仕方ないか…


    真っ直ぐ前に在る、綺麗な水色の瞳を見つめてみる。

    前は強くて、でもその中にも優しさがあったその瞳は、今ではとても弱々しく、空虚さが滲み出ていた。


    ふとその視線が自分の方に向く。

    そんな縋るような目をしないでくれよ。

    とても、見ていられねぇよ。


    「ん…?」

    ヒストリアが足の先でちょっかいを出してくる。

    …ったく。可愛い奴だな…


    エレンがそれに応じると、ヒストリアは少し笑ってくれた。エレンも少し笑った。

    緊縛された2人は細やかなコミュニケーションを楽しんだ。この先自分達に何が待ち受けているのか、そんなことは考えずに。



    はは…

    オレも少し気が楽になったような気がする。







    「フフ、お楽しみでしたかな?お二人さんよ」

    かなり長い時間が流れた頃、馬車が止まり、扉が開けられた。

    入ってきたのはリーダー格の男で、口元には無精髭が目立つ。


    エレンと私はそのまま目隠しをされ、見知らぬ建物に移動させられた。もちろん、自力では出来ないので奴らに担ぎ上げられて運ばれることになった。

  56. 56 : : 2014/08/28(木) 04:19:59



    「さて、今日はこの辺にしときますか」

    一人の男が言う。
    もう日が落ち始める時間なのだろうか。


    「ま…ここからが辛いだろうがね。精々頑張れよ」

    男たちは建物から出て行く。がちゃりと扉が閉められた。


    私たちは無機質な感じのする、窓の無い小さな建物に監禁された。

    頭まである特殊な背もたれの椅子に、やり過ぎなくらい縛り付けられている。

    腕はその背もたれに回され、足は椅子の脚に固定された。さらに、猿轡も背もたれに括り付けられ、首すら動かせない。そしてさらに、胸から腰にかけても何回も縄できつく締め付けられている。

    身じろぎ1つ出来ない。

    目隠しを取られたのはそれが終わってからだった。

    「くぅ…」

    また、エレンと向かい合っている。


    エレン…?
    そんなに胸元を見られちゃ…






    寒い…

    冷たい石の床につけた裸足は感覚が無くなってきている。

    それどころか、布で覆われた背中や太ももでさえも、冷た過ぎる金属製の椅子によって容赦なく熱を奪われる。


    あぁ、寒いよ

    暖炉も無ければ皆の温もりも無い。

    あるのは大きなロウソクと大きな不安だけ。


    …このまま一晩放って置かれるんだ


    すると突然、閉まったはずの扉がまた開かれて、男が戻ってきた。

    「すまないお嬢ちゃん、言い忘れてたが、その猿ぐつわを括ってる部分だが…引っ張られるとそれに連動して首元に針が刺さるようになってる。痛いからくれぐれも、眠ったりして頭を下げないようにな」


    今度こそ男は消えてしまった。


    は…?

    ふざけないでよ…

    さっきエレンが凝視していたのはどうやらその装置だったみたいだ。

    そうこれは睡眠という生理現象を制限するというれっきとした拷問だった。


    ロウソクの明かりで薄っすらと見えるエレンの表情は、恐怖に震えていた。


    「クッ…」

    エレン…

    私もきっと同じかな。



  57. 57 : : 2014/08/28(木) 04:30:07

    あれからどれくらい経っただろう。



    ロウソクの蝋は半分くらいにまで減っていた。



    2人はときどき唸ったりするくらいで、ずっとじっとしていた。

    それは、体を酷使するのよりもある意味ずっと疲労が溜まるものだった。

    すでに疲労困憊した2人。


    寝たい…

    …そういえば、あの人は、頭を下げたら首に傷が付くと言っていたっけ。

    もしかしたら、それを利用してエレンが巨人になれるのでは?


    「エエン、うびいありをあえあら…」



    だめだ、もはや可笑しくなってきた。

    しかし、エレンは黙って首を少し横に振った。


    首を振った…?


    そういえばその首元の装置がどういうものだか、確認したくてエレンの首元を見たけれど、

    そのようなものは何も無いように思えた。

    それに、エレンは首を結構動かして見せている。

    もしかして、装置が付いてるのは私のだけ?

    私は恐る恐る首を動かす。

    首元にチクリと痛みが走った。

    「!」

    やっぱり…


    そんなのずるい


    「うういょ…」

    「…」

    申し訳なさそうな顔のエレン。

    首筋にツーっと流れる血。


    どうにかじっとしたまま眠れないかな。

    ユミルいわく、私は結構寝相が悪いらしいけど

    でもこんな時はきっと、静かに寝られるはず。


    私の意識は気付かぬうちに闇に吸い込まれていった。


  58. 58 : : 2014/08/28(木) 19:09:02

    小さな吐息を立てながら、すやすやと眠る少女。
    その時、彼女の首の力が抜けて、俯きそうになる。


    「ん!!」


    ん?…


    エレンの声で目が覚めた。

    あれ…眠ってたんだ…


    首の痛みは無い…


    エレンはどうしたんだろう?

    その後特に何も様子を変えないエレンを見て不思議に思う。



    ロウソクの蝋はもうほとんど残っていない。



    また、眠くなってきたな。







    オレはヒストリアをじっと観察することに勤しんでいる。

    さっきはオレの不手際でヒストリアを傷付けてしまった。

    また、血を流させる訳にはいかない。


    だが、幸いヒストリアの寝姿はおとなしい。

    これなら、しっかり休めるだろう。


    それにしても…

    あいつらは一体なんなんだ。

    中央憲兵の奴らなのか?

    だとしたら目的は?

    大方、オレの巨人の力、そしてヒストリアの生れだろうか?


    運命は、変えられないのか…





    エレンもヒストリアも、自信の「力」について完全に把握している訳ではない。

    自身の知り得ない事を周りが知っているのは、良くある事だ。
  59. 59 : : 2014/08/29(金) 19:56:24


    2人の少年と少女を照らす、微かで確かな明かり。

    ゆっくり、ゆっくりと小さくなって、静かに、消える。


    「あ…」

    大切さを知るのはいつも後になってから。

    その明かりが消えた部屋は、闇に覆い尽くされ、光というものの存在を絶ち切る。

    一切の光の侵入を許さないこの建物は、きっとそういう目的で造られたに違いない。

    ふつう、人の目は周りの光源の強さに合わせて、瞳孔を変化させ、その環境に適応する。

    しかし、全く光の無いこの部屋ではどんなに目を見開いたって、何も見えやしない。


    ヒストリアの様子を伺うことが出来なくなり、エレンは困惑する。

    無意識にうつむいてしまったら、装置にかなりの力が掛かってしまうだろう。

    ヒストリアが傷付くのは見たくない。


    ……いや、見えないだろうけど…



    ーーー
    ーー
  60. 60 : : 2014/08/29(金) 19:56:51



    ーー
    ーーー


    わたしは真っ暗な世界に放り出された。


    見えるのは闇だけ。


    瞬きしてみたり、瞳を閉じてみたり、手で目を覆い隠してみたり…

    何をしても、同んなじだ。


    今わたしは何処を向いているの?


    前を向いているの?


    そもそも前って、何処なの?


    わたしが向いている方が前だとしたら


    その背中側が後ろだ。

    じゃあ、後ろを向く。


    あれ?こっちが前?


    わたしが叫ぶとその声は闇に吸い込まれる。

    こだました声が聞こえなくなると、再び静寂に包まれる。

    風の音や地面の振動、木の呼吸、何もかもが無となって彼女に押し寄せる。

    自身の鼓動と吐く息の音がやけに大きく聞こえ、それはさらに高みを増して行く。


    何も予測出来ない恐怖と現実を理解出来ない不安。


     此処 に来る前、何をしていたっけ。

     此処 に、どうやって来たんだっけ。

     此処 は、何処だっけ。

     今  って、  いつだっけ。

      私   っ  て、   何 だ っ け。



    ーーー
    ーー

  61. 61 : : 2014/08/29(金) 19:57:44


    ーー
    ーーー


    「うあっ!?」

    首に鋭い痛みを感じ、目を覚ます。

    しかし其処は夢と特に違わない場所だった。

    いやそもそも夢だったの?


    「ぁ……」

    エレンの声。そうだ、ここにはエレンがいる。

    誰かが側にいる。それだけで安心する。

    あの世界とは真っ平違うこの世界。

    エレン…… エレン♪……………

    首筋に何かが流れる。

    その近くにはまだ鈍い痛みが残っている。


    「ぁりいな…」

    ん…?悪いって?

    なにが…?

    エレンは何も悪いことしてないよ


    「んん…」

    エレンは何も……



    エレン…?

    どうしてこんなに真っ暗なの?

    近くに確かに"いる"のは本当にエレンかな?

    私はまた目隠しでもされているの?

    どうやってエレンを確かめたらいいのかな?

    そもそも目隠しをされていたって、光は感じる事ができるよね?

    もし…もし其処に居るのがエレンじゃない何かだったら…

    怖い、こわい


    「こあいよぅ……」


    「……」


    こわい



    ーーー


    ーー



  62. 62 : : 2014/09/02(火) 23:30:52



    「………」


    何だかあの後の記憶は既に無くて、代わりにあるのは強い無力感や虚脱感に喪失感。



    わたしはきっと、うつろな目をしているんだね。


    エレンだってそうだ。


    見えないけど、私には、分かる。




    あれからどれだけ時間が過ぎたんだろう。

    知る術も無いし、自分の感覚すら当てにならない。


    今頃…朝かな?


    あれから一睡も出来なかった。

    何もせず、暇を潰さずにずっと、目を閉ざしていたんだ。

    閉じたって開けたって同じだけど、少しでもその現実から目を背けたかったんだ。

    でもきっと、それほど時間は進んでない。

    異常なほど長く感じて、
    でもそれは本当に"長い"のかも知れないし。



    その時、何も無い空間からやや重い音と共に一筋の光が差し込んだ。


    しかしその光はきっと、とても微かなものなんだろう。

    でも暗闇にとことん慣れた私にとっては、その光はただただ貴重なもので…



    「ごきげんよう、何かして欲しいことあるか?」


    は…?

    して欲しいこと…

    もちろん…



    「ここから出せ!!」

    私でもびっくりするほどの声量と滑舌で怒鳴り立てられた男は、少し怯んだ。


    「は…もうちょっと上手く言えんのかね。無理か。そして、その要求は認められんな。そうだな、この2つならしてやってもいいぞ。

    1つ、栄養の摂取…
    2つ、便所、この2つだ。」




    なら最初からそう言えばいいのに。

    はは…確かにそれで…生きていくことは出来るかもね。

    でもそれじゃあ、ただの家畜…そうエレンの言う家畜だ。

    いや、トイレが許される分、まだ人間らしさは残ってるかな…


    「お前らの年だと…拒絶したい年頃か?意地を張ったってあとで嫌になるだけだがな。素直にされるままにされろ」
  63. 63 : : 2014/09/02(火) 23:31:59


    相変わらず暗くて見えないが、どうやら奴らは一人じゃ無い。

    目隠しをされて、何処かへ連れて行かれる。

    この建物には他にも部屋があるらしい。

    こんなに暗いのに、よく歩けるな…


    「注射は苦手か?」


    注射…?


    注射なんて、話でしか聞いたことが無い。


    間を置かず左腕に痛みが走る。

    「うっ…」


    「おっと、こいつは下手なんだ。悪いな」

    「うるせえよ」

    軽く笑いながら男たちは言う。


    でも…

    対したこと無いこんなの。

    一瞬じゃない。


    「これで食事は終わりだ」


    これで栄養が取れるの?


    美味しくない食事を無理に食べさせられるよりよっぽどマシ。


    「次は…トイレだな……まあ心配するな。よし、任せたぞ」

    「分かりましたよ、ボス」


    少し低めの女の声


    女の人も居たの…


    どうやら私はその人にトイレに連れて行かれるらしい。

    見知らぬ男に手取り足取りされる目には会わなくて済みそう。
  64. 64 : : 2014/09/05(金) 00:40:27





    オレはまだ、何かされたわけじゃない。

    これは始まりに過ぎない。

    ところが、オレの心は、もうズタズタだった。


    自由を奪われ、光を失う。
    言葉で表すのは簡単かもしれない。
    でもそれが、二人の苦難となって、無慈悲なまでに襲いかかる。


    男のオレがこんなんで、どうするってんだ…

    ヒストリアに、弱ったところを見られる訳にはいかない。

    オレだけでも
    強く在らなければ

    2人でこの苦難を乗り越えるために









    「それでは、また気が向いたら来る」


    男はそれだけ言い残してギシリと扉を閉めた。


    再び闇と静けさに包まれた部屋には、数分前と同じ光景が見て取れる。


    結局、ついの先程まで目隠しが外されることは無くて、今が朝なのか、夜なのか、そういったことは何も分からず仕舞いだった。



    眠くなってきた…

    首に針が突き刺さろうがちょん切れようが、今となってはどうでもいい。

    今はもう寝ることだけ。

    それだけ努めればいいよ。

    寝てる間は、何も心配することないから。



    ーーー
    ーー
    ー 
  65. 65 : : 2014/09/05(金) 05:54:30


    ーー
    ーーー


    「………」


    今日も、明けぬ夜が訪れた。


    わたしは、夜が大嫌い。


    牧場の隅にある、申し訳程度の小さな建物。


    辺りがオレンジ色に染まる頃、わたしは誰に言われるでもなく、そこに閉じ籠る。


    たぶん、産まれてきたその時からそうしていた。だから、今もなんの疑問も抱かないで閉じ籠る。


    でも、薄暗い部屋にただ一人で閉じ込められることも、好きじゃない。

    別に錠は掛けられていない。
    閉じ込めたのは私自身だけど…

    だけど…わたしはここから出ようとしない。


    どうして


    わたしは…怖がりなのかもしれない。


    だって、今わたしは毛布をかぶって

    ただ目を瞑って

    早く夢の中に迷い込もうとしてる。


    それなのに、わたしは「まだ寝られない」って、耳元で囁くの。


    まだ寝る時間じゃない。


    頭では分かっていても、ここから出ようなんて、そんなの出来っこないよ。


    “光”は小さな窓から射す月明かりだけ。


    やっぱり 怖い


    また今日も、眠れぬ夜に縛られる。





  66. 66 : : 2014/09/05(金) 05:56:06



    「ん………」


    小さな窓から射し込む太陽の瑞々しい光で、わたしは目を覚ました。



    また今日が始まる。



    「ふあぁ……」


    大げさに伸びをして、ボロボロのベッドから降り、靴を履く。

    ひんやりとした感触。


    寝癖がついたままのヒストリア。


    しかし彼女は、それを「直す」なんて発想を持ち合わせてはいなかった。


    だから、彼女は起きたままのそのままの格好で食事に向かった。









    祖父と祖母が何か話しながら食事をしている。

    その遥か遠くにポツンと用意されているのはきっと私の分の朝食。



    私が部屋に入ると、少し会話が途切れたが、それが気のせいに思えるほど自然に、すぐに会話は続けられた。



    「…いただきます」

    小声で呟いて、食べ始める。

    毎日2食、きちんとした食事が与えられる。

    幸せだよね。

    わたしは、幸せなんだ。


    その味を噛み締めたい気持ちを抑えて、少し急ぎながら食事を終える。


    「ごちそうさまでした…」


    その声に耳を傾ける者は居なかったものの、ヒストリアは席を立って、食卓を後にした。
  67. 67 : : 2014/09/05(金) 22:26:48





    かつて一度だけ、言われた事がある。


    「貴方は、暇があれば仕事をしなさい。働かない人間は要りません」


    だからわたしは働く。

    毎日同じことをしている。
    牧場の仕事だ。


    この牧場には、働いている人がわたしの他にも居る。

    居るはず。

    でも、その人たちがしっかり働いている姿を、わたしは知らない。

    わたしの記憶にある限りでは、わたしが「労働力」として使えるようになった頃から、わたしに全ての仕事を押し付けて何処かへ行ってしまった。


    きっと世の中はこういうものなんだ。


    ヒストリアはこれがおかしい事に気づけない。




    厩舎に行くと、馬たちが迎えてくれた。

    自然と気分が良くなる。


    動物、特に馬は、わたしの一番の友達だった。

    こんなわたしを快く受け入れてくれて、一緒に感情を共有し合えて…



    時々、自分が“人”なのか不安になる。

    わたしは、人が怖い。

    人は、誰一人として、わたしを受け入れてくれない。

    でも、動物は、わたしを受け入れてくれる。

    だからわたしは、動物の方が、好き。



    馬たちを牧場の平地に放すと、皆嬉しそうにしていた。


    今日も、みんな元気そうだね…


  68. 68 : : 2014/09/05(金) 22:34:47


    馬の体調を確認したヒストリアは、続けてブラッシングを始める。


    「えへへ、待ってね、順番だから」

    一頭一頭丁寧に、懸命にブラッシングをする。


    その姿は馬ですら、好感を感じるものだった。


    幾つかの馬も寄り添ってきて、ヒストリアは微笑む。


    わたしにとっての一番の幸せな時。


    貴方達が居るから、わたしは生きてゆける。


    ありがとう。







    ブラッシングを終えて、一息つく。


    近くの一頭が地面を掻いて、何かもの言いたげな表情を見せる。


    そうだよね。お腹すいたよね…!


    次はエサやり。


    彼らは子供でも、一日に10キロ近い量の干し草と、20リットルの水が必要だ。


    それらをこの牧場に居る馬の数だけ、すなわち6頭分を、その小さな身体で用意する。


    相当な重労働。


    でも彼女にとっては、全く苦にならない。

    いや、全く苦にならないと言ったら、嘘になってしまうかもしれない。けれど…

    自分がご飯を与えられる必要があるように、馬だってご飯を貰ったら嬉しいことは分かっていた。

    だからこそ、彼女はせっせと手押し車を押して、餌を用意する。
  69. 69 : : 2014/09/05(金) 22:37:43


    「ふぅぅ……」


    1時間ほどかけて、餌やりを終えて座り込む。


    「ごめんね…時間掛かっちゃった…」


    馬たちはまるでヒストリアに「そんなことないよ」とでも投げかけるように尾をパタパタさせてから、思い思いに食事に有り付く。


    「おいしい…?」


    それにヒンと鳴いて応える馬。


    「良かった…」


    ニコッと、どこか哀しみが見え隠れする笑みを、ヒストリアは浮かべる。


    馬たちは、きっと知っている。


    彼女が孤独なことを。


    だからこそ、彼らは精一杯、彼女を受け入れる。

    精一杯、彼女に感謝する。


    馬と人間。

    種は違えど、ヒストリアと馬とは、間違いなく、人間とのそれよりも、遥かに慈愛に満ちたものだった。






  70. 70 : : 2014/09/05(金) 22:44:01


    これを書いていて思い出したSSがあるので、やっていいことかわかりませんが、紹介させてください(´・Д・)」

    『?「親愛なる友、ヒストリアへ」クリスタ「……え?」』

    http://ss2ch.blog.fc2.com/blog-entry-814.html


    他人の、しかも他サイト様ので申し訳ないですが、余りにも素晴らしかったので紹介しますm(_ _)m

    ぜひ、読んでみてください。
    当SSでも、少しリスペクトしたところがあります笑(´-`).。oO(盗用と言われればそれまで…!)

  71. 71 : : 2014/09/05(金) 22:47:10
    あと、馬のことはできるだけ調べて書いているのですが、もし現実味の無いことがあったらそれは私の知識不足ですのでご指摘お願いしますm(_ _)m
  72. 72 : : 2014/09/14(日) 17:38:32


    厩舎の掃除を終えたヒストリアは、大きな干し草の塊にもたれ掛かって、眠たそうな眼で本を読んでいる。


    お母さんもいつもこうして本を読んでいたっけ。


    でも…お母さんは居なくなってしまった。


    私が、してはいけないことをしてしまったせいで。


    そんなことを考えてるうちに、何処を読んでいたのか分からなくなるヒストリア。


    「あれ…?」




    いつの間にか目の前に女の人が立っていた。


    「だれ…ですか?」


    「こんにちは、ちょっといいかな?」


    そのままその女性は、ヒストリアに顔を近付ける。


    ヒストリアはその意味を理解したつもりになって、少し緊張して頬を赤らめてみせる。


    しかし…それは、彼女が想い描く、愛情のしるしなんてものではなかった。


    「え……?」


    新鮮な感覚…でもどこか憶えのあるような…変な感覚……

    何かモヤモヤしたモノがそうでなくなり、目の前の女の人のことを突然に理解する。


    「あ…おねえちゃん…!」


    「こんにちは、ヒストリア」

    優しげな笑顔を溢す女性。

    「こんにちは!」

    ヒストリアもそれに応えてニコッと笑う。


    「ふふ、暫く振りにヒストリアの笑顔が見れて幸せだよ。ヒストリア、ちょっとこっちに来てくれない?」


    黒髪の女はそう言うと、干し草の反対側に移動して手招きする。


    「え…?うん、分かった!」

    ヒストリアも立ち上がってそこへ移動する。

    「いい天気だね! 今日も馬の世話をしたの?」

    「うん、お馬さんは私にとって大切な存在だから」

    「ヒストリアは、優しいんだね」


    優しい…? 優しいって、なんだろう。

    「え… そんなことないよ!」


    「そんなことあるって。
    でも、1人でやるのは大変だよね… 私も、出来ることなら手伝ってあげたいんだけど、無理なんだ… ごめんね…」

    「ううん、大丈夫だよ! 1人で、大丈夫だから」

  73. 73 : : 2014/09/14(日) 17:38:52


    「…… さーて、何をしよう?…あ、ヒストリア、本を読んでたの?」


    「うん、おねぇちゃんから貰った本だよ」

    「ああ、ちゃんと読んでくれてたのね。ありがとう」


    「うん!」


    「!すごいよヒストリア。もうこんなに読めるようになるなんて」


    「だって、おねぇちゃんが教えてくれるから」


    ん…少し肌寒くなってきたような…


    「…あ、だめだよ鼻水垂らしてちゃ。ヒストリアはもうちょっと、女の子らしくしないと」


    そう言って小さなバッグから白いハンカチを取り出す黒髪の女。


    「はい、かんで」


    「ふんんんんん!」


    「おう」


    「…はい。よくできました」


    「えへへ……ねぇ?」


    「ん?」


    「女の子らしくって何?」


    「そーだね、女の子らしくっていうのは… この子みたいな女の子のことかな」


    彼女が指差すのは絵本の女の子。


    「ヒストリアもこの子が好きでしょ? いつも他の人を思いやってる優しい子だからね」


    「ヒストリアもこの子みたいになってね。この世界は辛くて厳しいことばかりだから、みんなから愛される人になって助け合いながら生きていかなきゃいけないんだよ」



    ーじゃあ私、おねえちゃんみたいになりたい

  74. 74 : : 2014/09/18(木) 17:40:24






    「ねえおねえちゃん、どうしてわたしのお母さんは、わたしを構ってくれないの?」


    「お母さんはね…怖がりなんだよ」


    「怖がり?わたしが怖いの?」


    「ううん、違う。そうね、この世界そのものが怖いの」


    「ふーん…」


    「ヒストリアも、お母さんも、だあれも悪くないんだよ」


    「だから心配しないで」


    「うん…」




    「おねえちゃん、ぎゅーってして?」



    「いいよ、ヒストリア」




    「おねえちゃん、お母さんみたい」


    「私を、お母さんだと思っていいよ」


    「大好き…」



    「ありがとう…ヒストリア…」




    ーーー
    ーー


  75. 75 : : 2014/09/18(木) 17:50:15


    「大好き…」




    ーー
    ーーー



    「ん……?」


    ヒストリア…?


    寝言か?


    にしても…

    何か夢を見てた気がする…


    ヒストリア…?

    ヒストリアか…?


    …だめだ
    思い出そうとすると忘れちまう。

    またいつものヤツか…









    「んぁ?」


    あれ?

    あの女の人…誰?

    エレン…?


    だめだ…頭が…



    ……



    何だったっけ






  76. 76 : : 2014/09/18(木) 17:57:38


    ーー
    ーーー




    なんか、自分がどんどん“死”に向かっているような、そんな事を考える。



    夢で見た小さい頃の私

    あの日々は嫌いじゃなかった。
    私を受け入れてくれたお馬さんたち。
    みんなの顔を、今も覚えてる。


    むしろ嫌いだったのは、誰にも愛されない自分だった。生まれ変わったら、みんなに愛される人間になりたい。

    そう…
    だから、なったのに。

    理想の自分が出来ても、自分の想いは消えなかった。誰にも言えない秘密が自分を苦しめた。

    やっぱり、運命なんて変えられるわけないんだ。



    ーーー



    あの頃も、真っ暗闇の中怯えてたっけ。

    闇には慣れている。
    そう思っていたのに…


    駄目だ…つらい…耐えられない。


    でも…

    でも、側にエレンが居るから、まだマシか…


    1人だったら…きっともうとっくにお母さんのところに行っていたに違いない。




    ーーー
    ーー

  77. 77 : : 2014/09/18(木) 17:59:21

    「……」スヤスヤ


    私が膝枕してあげたら、すぐ眠っちゃった。


    可愛いな…

    もし子供が居たら、きっとこんな感じなんだろうな…


    この子には、辛い思いをさせたくない。


    愛を知らない子には、なってほしくない。


    本当はダメだけど、少しくらいなら…残したっていいよね。




    私が、存分に愛してあげる。




    ーー
    ーーー


    変な夢を見た。


    あれは…どう考えてもヒストリアだよな…

    でもなんか違うような…


    「!」


    奴らが部屋に入ってくる。


    「よぉ、大丈夫かい?…おい、そいつは寝てるのか?」


    誰かが質問に答える前に、男がヒストリアを叩き起こした。


    「っ!!?」


    脇腹を殴られて声にならない悲鳴を上げるヒストリア。

    しかもその勢いで身体を丸めてしまったせいで、例の装置が薄情なまでに彼女を傷つける。


    「うぅ!?」



    なんて奴らだ…


    殴りてぇ…


    「…おい、これはやっぱり駄目だな…こんなんで上手くいく訳がないと思ってたぜ」

    「はぁ…めんどくさいですね」

    「まったくだな」

  78. 78 : : 2014/09/18(木) 18:03:15




    唐突に現実に引き戻されたと思ったら、この仕打ちだ。

    ズキズキ痛むし、血もいっぱい出てる。

    もうなんなの



    そしてその後、“装置”があまり効果を成していないからって、見張りがつくことになった。

    私が眠ったら殴って起こすっていう簡単なものだった。

    それだけなら別にいいや…

    問題は、寝すぎて眠れなくなってしまったこと。


    この暗闇にずっと支配されるなんて、堪ったもんじゃない。


    エレン…助けて…




  79. 79 : : 2014/09/18(木) 18:26:55







    「前から思ってたんだが、何でお前まで寝ないんだ?」

    そう俺に向けていうのは、監視の男だ。


    「大方『俺だけ楽をする訳にはいかない』とか、そんな理由だろう?」

    「ご苦労なこった。お前、そいつに惚れてんのか?」

    「だったら…ほら、何か思うことがあるんじゃねぇのか?こんな、無防備な姿にされちまってよお」


    一人でいつまで喋ってるつもりだ…


    監視がついたことで、「暗い密室に閉じ込める」という拷問はもはや出来ていない。ロウソクも常につけられてるしな。

    こいつらは、自分たちも暇だからか、無駄に喋る。

    うざったいが、何も音がしないのよりはいい。

    問題は、このおっさんが変態だということだ。

    ヒストリアは…やっぱり嫌そうに目を逸らしてる。

    一体この、永遠に終わらない一方通行の会話に何の意味があるのか。



    「ま、そんな事を考えるなら今のうちだがな」



    は……





  80. 80 : : 2014/09/23(火) 19:19:01



    ……



    誰かが入ってくる。

    監視の交代?


    「おい、様子はどうだ?」

    「何にも面白くねえな。暇で暇でよ……」

    「お前の様子を聞いてんじゃねぇよ、こいつらはちゃんと大人しくしてるかって聞いてんだ」

    「ああ、それに関しては問題ねえよ。だがな、俺が思うにこれじゃあ当初の作戦通りにはなってないんじゃねぇか?」

    「そうだ。だから取り敢えず本部に来てくれ」

    「分かった」







    行っちゃった




    ……








    ガチャ



    「ヒストリア、それにエレン。そろそろ疲れただろう。移動する。大人しくしてろよ」


    言われなくてもそうするよ…

  81. 81 : : 2014/09/26(金) 00:04:22


    -ウォール・マリア シガンシナ区壁上


    はぁ……

    頭が変になりそうだ…


    「ユミル…何で俺達の所に来た?」


    「さぁな……何でだろうな……」


    「…いいのか?」


    「あ?」


    「こっちに来たらお前は間違いなく助からないんだぞ」

    「…逃げるなら今だ」


    「いいんだよ…もう…私は疲れた…」


    「…」



    ……


    いいのか?






    「あ゛ぁぁぁぁぁぁああ!!!!」




  82. 82 : : 2014/09/28(日) 02:40:07


    「いい声出してくれるじゃねぇか」


    「うっ…うっ……」


    真新しい拷問台を取り囲む男たち。


    身体中至る所に再び包丁が当てられる。

    青ざめるヒストリア。


    「いや……(ユミル……)」


    ゆっくりと、その刃が “摺り付けられる” 。

    二度目の地獄。



    強烈な不快感。

    刄のひんやりとした感触。

    そして切り裂かれる皮膚。

    表皮をやすやすと破って真皮まで侵入してくる。

    痛覚が叫び出す。

    流れ出す血。

    どっと滲み出る脂汗。

    全身で震えて呼吸もできない。


    「うぅ…ヒッグ…やめ…助け……」

    涙。

    その訴えを

    彼らは聞き入れてくれない。


    身をよじらせて抵抗しても
    手枷やロープによって吸収されるだけ。


    「うっ…うぅ…うぁ……ぁ…………」


    生き血に塗れた拷問台と静かになった少女を尻目に、一人の男がエレンを見る。




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